(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】ハイブリッドアルゴリズムに基づくカスケード水力発電所の最適化スケジューリングモデルの解を求める方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/04 20230101AFI20240206BHJP
【FI】
G06Q10/04
(21)【出願番号】P 2023065756
(22)【出願日】2023-04-13
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】202210630824.1
(32)【優先日】2022-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523054492
【氏名又は名称】中国長江電力股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】劉 亜新
(72)【発明者】
【氏名】徐 楊
(72)【発明者】
【氏名】湯 正陽
(72)【発明者】
【氏名】曹 輝
(72)【発明者】
【氏名】馬 皓宇
(72)【発明者】
【氏名】盧 佳
(72)【発明者】
【氏名】汪 濤
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112633578(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112465323(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110610403(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108985660(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108022021(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0137959(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 1/00-11/08;15/00-15/22
G06Q 10/00-10/30;30/00-30/08;50/00-50/20;50/26-99/00
G16Z 99/00
H02J 3/00- 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッドアルゴリズムに基づくカスケード水力発電所の最適化スケジューリングモデルの解を求める方法であって、
スケジューリング目標と制約条件を含むカスケード水力発電所の最適化スケジューリングモデルを確立するステップS1と、
非線形計画を採用して、水位、流量、貯水容量に関する制約条件を満たすカスケード水力発電所の初期スケジューリング過程を得るステップS2と、
初期スケジューリング過程をベースとして、プログレッシブ最適化アルゴリズムを採用し、多段階最適化問題をいくつかの2段階最適化のサブ問題に変換し、2段階最適化のサブ問題において、各発電所の状態変数に対してその値範囲内から乱数を抽出して組合せ集合を構成し、元の状態変数値を目標関数値の最適な組み合わせに置き換え、次の2段階最適化のサブ問題の解法を続行し、順にすべてのサブ問題をトラバースし、1回の反復を完了し、反復終了条件を満たすまで反復計算を繰り返し、最終的なカスケード水力発電所の最適化スケジューリング過程を得るステップS3とを含む、ことを特徴とするハイブリッドアルゴリズムに基づくカスケード水力発電所の最適化スケジューリングモデルの解を求める方法。
【請求項2】
前記ステップS1において、スケジューリング目標は、カスケード発電量が最大であることであり、制約条件は、水力発電所の最適化スケジューリング分野の水位範囲制約、流量範囲制約、出力パワー範囲制約のほか、水位変動幅制約、流量変動幅制約、カスケード発電所の予約貯水容量制約及び水未利用防止制約をさらに含む、ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッドアルゴリズムに基づくカスケード水力発電所の最適化スケジューリングモデルの解を求める方法。
【請求項3】
前記ステップS2において、非線形計画を採用してカスケード水力発電所の初期スケジューリング過程を解く時、水位範囲制約を水位-貯水容量の関係曲線に基づいて貯水容量範囲制約に変換する必要があり、水位変動幅制約が存在すれば、貯水容量-水位関数の関係式に基づいて水位を計算し、ここで貯水容量-水位関数の関係式は、多項式関数であり、発電所の出力パワーは、発電所の流量水消費率で計算される、ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッドアルゴリズムに基づくカスケード水力発電所の最適化スケジューリングモデルの解を求める方法。
【請求項4】
【請求項5】
【請求項6】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダム群スケジューリングの技術分野に属し、より具体的には、ハイブリッドアルゴリズムに基づくカスケード水力発電所の最適化スケジューリングモデルの解を求める方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カスケード水力発電所の連携最適化スケジューリングとは、洪水防止、利益向上などの角度から、複数の水力発電所を1つの全体として統一的にスケジューリングし、総利益の最適化の目的を達成することである。カスケード水力発電所の連携最適化スケジューリング問題は、一連の制約条件を満たす場合に目標関数を最適化する解を探すように要約することができ、制約条件は、一般的には、水位範囲制約、流量範囲制約、出力パワー範囲制約であり、すべての制約条件からなる実行可能領域の空間が広く、実行可能解を検索しやすいが、実際の応用では、直面する状況が往々にしてより複雑であり、制約が多いことを考慮し、通常の制約のほか、特殊な制約が存在する可能性があり、例えば、異なる発電所は、異なる時間帯で異なる水位変動幅制御の要求があり、増水期に洪水防止のための予約貯水容量の要求、水未利用防止要求などがあり、また、制約が複雑であるため、実行可能解を見つけるのが容易ではなく、何度も繰り返して実現する必要があり、不適切な解を求める方法を採用すれば、最終的に実行可能解を得ることができなくなることもある。
【0003】
従来のカスケード水力発電所の連携最適化スケジューリングモデルの解を求める方法として、動的計画及びその改善アルゴリズムは、最も広く応用されており、プログレッシブ最適化アルゴリズムは、そのうちの1つである。プログレッシブ最適化アルゴリズムは、まず初期スケジューリング過程を与え、そして初期スケジューリング過程を基礎としてさらに最適化する必要がある。例えば中国特許公開番号がCN109190819Aの発明特許には、カスケード動的水流遅延を考慮した短期最適化スケジューリングモデルが開示されており、それに開示された技術案は、以下のとおりである。本発明は、電力ネットワークの技術分野に関し、カスケード動的水流遅延を考慮した短期最適化スケジューリングモデルを開示しており、それは、オリジナルモデルを構築することと、多段の実数遅延の混合整数線形計画モデルを構築することと、セグメント線形化方法を利用して水位-貯水容量の二次元非線形関係を線形化することと、セグメント線形方法を利用して放水位-放水量の二次元非線形関係を線形化することと、三次元線形補間法を利用して発電所の動力特性曲線の三次元非線形関係を線形化することと、カスケード動的水流遅延を考慮したオリジナル短期最適化スケジューリングモデルを混合整数線形計画モデルに変換することと、混合整数線形計画モデルを利用し、カスケード水力発電所群に対して最適化スケジューリングを行うこととを含む。該技術案は、制約が複雑な場合、単一ダムの動的計画又はスケジューリング図に依存して決定された初期スケジューリング過程に、多くの制約に違反する場合が存在する可能性があり、さらにプログレッシブ最適化アルゴリズムで最適解を見つける難易度が高くなる可能性がある。従来のプログレッシブ最適化アルゴリズムは、2段階最適化のサブ問題において最適解を探す時、現在の2段階の目標関数値しか考慮しない。流量変動幅制約は、現在の2段階に影響を与えるだけではなく、さらにこの2段階の前の段階と後の段階に関連するため、このような方法は、流量変動幅制約がある場合に適用されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術に存在する欠点について、本発明は、複雑な制約条件下で初期実行可能解を取得しにくいというカスケード水力発電所の最適化スケジューリング問題を解決するために、ハイブリッドアルゴリズムに基づくカスケード水力発電所の最適化スケジューリングモデルの解を求める方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を実現するために、本発明は、以下の技術案を提供する。
【0006】
ハイブリッドアルゴリズムに基づくカスケード水力発電所の最適化スケジューリングモデルの解を求める方法であって、
スケジューリング目標と制約条件を含むカスケード水力発電所の最適化スケジューリングモデルを確立するステップS1と、
非線形計画を採用して、水位、流量、貯水容量に関する制約条件を満たすカスケード水力発電所の初期スケジューリング過程を得るステップS2と、
初期スケジューリング過程をベースとして、プログレッシブ最適化アルゴリズムを採用し、多段階最適化問題をいくつかの2段階最適化のサブ問題に変換し、2段階最適化のサブ問題において、各発電所の状態変数に対してその値範囲内から乱数を抽出して組合せ集合を構成し、元の状態変数値を目標関数値の最適な組み合わせに置き換え、次の2段階最適化のサブ問題の解法を続行し、順にすべてのサブ問題をトラバースし、1回の反復を完了し、反復終了条件を満たすまで反復計算を繰り返し、最終的なカスケード水力発電所の最適化スケジューリング過程を得るステップS3とを含む。
【0007】
好ましくは、前記ステップS1において、スケジューリング目標は、カスケード発電量が最大であることであり、制約条件は、水力発電所の最適化スケジューリング分野の水位範囲制約、流量範囲制約、出力パワー範囲制約のほか、水位変動幅制約、流量変動幅制約、カスケード発電所の予約貯水容量制約及び水未利用防止制約をさらに含む。
【0008】
好ましくは、前記ステップS2において、非線形計画を採用してカスケード水力発電所の初期スケジューリング過程を解く時、水位範囲制約を水位-貯水容量の関係曲線に基づいて貯水容量範囲制約に変換する必要があり、水位変動幅制約が存在すれば、貯水容量-水位関数の関係式に基づいて水位を計算し、ここで貯水容量-水位関数の関係式は、多項式関数であり、発電所の出力パワーは、発電所の流量水消費率で計算される。
【0009】
【0010】
【0011】
【発明の効果】
【0012】
本発明が達成する有益な効果は、以下のとおりである。
【0013】
(1)制約範囲が狭い又は上下流発電所の制約が一致しないため、初期実行可能解が取得しにくい問題に対して、本発明は、非線形計画により、すべての水位制約と流量制約を満たす初期解を迅速に生成し、そしてプログレッシブ最適化アルゴリズムにより最適化し、できるだけ制約破壊を低減しながらより効率的にグローバル最適解に近づく。
【0014】
(2)本発明は、従来のプログレッシブ最適化アルゴリズムを改良し、且つ非線形計画と組み合わせ、複雑な制約(水位変動幅制約、流量変動幅制約、カスケード発電所の予約貯水容量制約、水未利用防止制約)条件下での最適化スケジューリングモデルの解を求める方法を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明によるハイブリッドアルゴリズムに基づくカスケード水力発電所の最適化スケジューリングモデルの解を求める方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の方法による実施例1におけるA発電所の計算結果と、単一ダムの動的計画-プログレッシブ最適化ハイブリッドアルゴリズムによる実施例1におけるA発電所の計算結果との比較図である。
【
図3】本発明の方法による実施例1におけるB発電所の計算結果と、単一ダムの動的計画-プログレッシブ最適化ハイブリッドアルゴリズムによる実施例1におけるB発電所の計算結果との比較図である。
【
図4】本発明の方法による実施例1におけるC発電所の計算結果と、単一ダムの動的計画-プログレッシブ最適化ハイブリッドアルゴリズムによる実施例1におけるC発電所の計算結果との比較図である。
【
図5】本発明の方法による実施例1におけるD発電所の計算結果と、単一ダムの動的計画-プログレッシブ最適化ハイブリッドアルゴリズムによる実施例1におけるD発電所の計算結果との比較図である。
【
図6】本発明の方法による実施例1におけるE発電所の計算結果と、単一ダムの動的計画-プログレッシブ最適化ハイブリッドアルゴリズムによる実施例1におけるE発電所の計算結果との比較図である。
【
図7】本発明の方法による実施例1におけるF発電所の計算結果と、単一ダムの動的計画-プログレッシブ最適化ハイブリッドアルゴリズムによる実施例1におけるF発電所の計算結果との比較図である。
【
図8】本発明の方法による実施例2におけるA発電所の計算結果図である。
【
図9】本発明の方法による実施例2におけるB発電所の計算結果図である。
【
図10】本発明の方法による実施例2におけるC発電所の計算結果図である。
【
図11】本発明の方法による実施例2におけるD発電所の計算結果図である。
【
図12】本発明の方法による実施例2におけるE発電所の計算結果図である。
【
図13】本発明の方法による実施例2におけるF発電所の計算結果図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面及び具体的な実施例を結び付けながら本発明の技術案について説明する。
【0017】
図1に示すように、本発明のハイブリッドアルゴリズムに基づくカスケード水力発電所の最適化スケジューリングモデルの解を求める方法は、以下のステップを含む。
【0018】
S1において、スケジューリング目標と制約条件を含むカスケード水力発電所の最適化スケジューリングモデルを確立する。制約条件は、水力発電所の最適化スケジューリング分野における一般的な水位範囲制約、流量範囲制約、出力パワー範囲制約のほか、水位変動幅制約、流量変動幅制約、カスケード発電所の予約貯水容量制約、水未利用防止制約をさらに含んでもよい。
【0019】
S2において、非線形計画を採用して、水位、流量、貯水容量に関する制約条件を満たすカスケード水力発電所の初期スケジューリング過程を得る。
【0020】
さらに、非線形計画を採用してカスケード水力発電所の初期スケジューリング過程を解く時、水位範囲制約を水位-貯水容量の関係曲線に基づいて貯水容量範囲制約に変換する必要があり、水位変動幅制約が存在すれば、貯水容量-水位関数の関係式に基づいて水位を計算し、ここで貯水容量-水位関数の関係式は、多項式関数であり、発電所の出力パワーは、発電所の流量水消費率で計算される。
【0021】
【0022】
【0023】
非線形計画により求められた初期解は、必ずしも実行可能解ではないが、すべての水位、流量制約要求を満たすに違いない。
【0024】
S3において、初期スケジューリング過程をベースとして、プログレッシブ最適化アルゴリズムを採用し、多段階最適化問題をいくつかの2段階最適化のサブ問題に変換し、2段階最適化のサブ問題において、各発電所の状態変数に対してその値範囲内から乱数を抽出して組合せ集合を構成し、元の状態変数値を目標関数値の最適な組み合わせに置き換え、次の2段階最適化のサブ問題の解法を続行し、順にすべてのサブ問題をトラバースし、1回の反復を完了し、反復終了条件を満たすまで反復計算を繰り返し、最終的なカスケード水力発電所の最適化スケジューリング過程を得る。
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
表1 本発明の方法と単一ダムの動的計画-プログレッシブ最適化ハイブリッドアルゴリズムとの比較
【0029】
以下、A、B、C、D、E、Fの6つの水力発電所のある年の増水期の8月21日~9月20日のスケジューリングを実施例2とし、本発明による方法の、カスケード発電所の予約貯水容量制約がある条件下での応用を述べる。該実施例において、通常の水位範囲制約、流量範囲制約、出力パワー範囲制約のほか、さらに水位変動幅制約があり、即ちA発電所の日増加量が3m/dを超えず、日減少量が2m/dを超えず、B発電所の日増加量と日減少量が2m/dを超えず、C発電所の日増加量と日減少量が3m/dを超えず、D発電所の日増加量と日減少量が2m/dを超えず、E発電所の日増加量が3m/dを超えず、日減少量が2m/dを超えないと要求するとともに、8月31日にA、B、C、Dの4つの発電所が96.3億m3の洪水防止のための貯水容量を予約すると要求する。表2及び表3は、それぞれ本発明を採用して得られたスケジューリングプラン結果、及び8月31日のA、B、C、Dの2つの発電所の96.3億m3の洪水防止のための予約貯水容量の配分結果であり、A発電所は、11.27億m3を予約し、B発電所は、58.77億m3を予約し、C発電所は、21.57億m3を予約し、D発電所は、4.69億m3を予約し、
図8-13は、具体的なスケジューリング過程であり、各発電所は、いずれも対応するスケジューリング制約に違反していなかった。
【0030】
【0031】
表3 8月31日のカスケード発電所の予約貯水容量の配分
【0032】
上記実施例は、本発明を限定するのではなく、本発明を解釈説明するためのものであり、本発明の請求項の保護範囲内で、本発明に対する同等変換は、本発明の保護範囲に入る。