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  • 特許-炭素量子ドットの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】炭素量子ドットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B82B 3/00 20060101AFI20240206BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240206BHJP
   B82Y 5/00 20110101ALI20240206BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20240206BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20240206BHJP
   C09K 11/65 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
B82B3/00
B82Y40/00
B82Y5/00
B82Y20/00
C09K11/08 A
C09K11/65
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023509004
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2022010758
(87)【国際公開番号】W WO2022202384
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2021050399
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕佳
(72)【発明者】
【氏名】石津 真樹
(72)【発明者】
【氏名】坂部 宏
(72)【発明者】
【氏名】葛尾 巧
【審査官】菅原 拓路
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110003899(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111186831(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111117611(CN,A)
【文献】X. Jiang et al.,Facile Preparation of Boron and Nitrogen Codoped Green Emission Carbon Quantum Dots for Detection of Permanganate and Captopril,Analytical Chemistry,米国,ACS Publications,2019年08月09日,91,11455-11460
【文献】J. Liu et al.,Facile Synthesis of N, B-Doped Carbon Dots and Their Application for Multisensor and Cellular Imaging,Industrial & Engineering Chemistry Research,米国,ACS Publications,2017年03月24日,56,3905-3912
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B82
C09K 11/08
11/65
ACS PUBLICATIONS
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃、1気圧において固体である炭素量子ドットの製造方法であり、
反応性基を有し、かつホウ素原子を含まない、一種以上の化合物からなる有機化合物、およびホウ素化合物を混合して、混合物を調製する工程と、
前記混合物を実質的に無溶媒で100℃以上300℃以下に加熱し、炭素量子ドットを調製する工程と、
を有し、
前記有機化合物中の窒素原子の量が前記有機化合物の総量に対して20質量%以上であり、
前記有機化合物および前記ホウ素化合物の総量に対する、前記ホウ素化合物の量が20質量%以上である、
炭素量子ドットの製造方法。
【請求項2】
前記炭素量子ドットの極大発光波長が440nm以上700nm以下であり、発光量子収率が30%以上である、
請求項1に記載の炭素量子ドットの製造方法。
【請求項3】
前記有機化合物が、分子中に窒素原子を含む含窒素有機化合物と、分子中に窒素原子を含まない窒素非含有有機化合物と、を含む、
請求項1に記載の炭素量子ドットの製造方法。
【請求項4】
前記含窒素有機化合物が、アミン化合物である、
請求項3に記載の炭素量子ドットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、25℃、1気圧で固体状の炭素量子ドットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素量子ドットは粒子径が数nmから数10nm程度の安定な炭素系微粒子であり、良好な蛍光特性を示すことから、太陽電池、ディスプレイ、セキュリティインク等のフォトニクス材料としての使用が期待されている。また、低毒性で生体親和性も高いため、バイオセンサーやイメージング等の医療分野への応用も期待されている。
【0003】
様々な分野に炭素量子ドットを適用するため、炭素量子ドットにはさらなる機能向上が求められており、例えばホウ素原子をドープした炭素量子ドット等も開発されている。特許文献1にはフタル酸水素カリウム、アジ化ナトリウム、およびホウ酸をホルムアルデヒド中で加熱し、高量子収率の白色発光体(極大発光波長は410nm~440nm)を得る方法が記載されている。また特許文献2には、窒素原子およびホウ素原子を含む前駆体を水に溶解させて、水熱合成後に濾過、乾燥して炭素量子ドット(極大発光波長は420nm程度)を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】中国特許出願公開第108795423号明細書
【文献】中国特許出願公開第105602557号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1または特許文献2のように、ソルボサーマル法または水熱合成法で固体状の炭素量子ドットを調製する場合、溶媒の存在下で炭素量子ドットを調製した後、濾過工程や乾燥工程等を行う必要があった。このような方法は、製造プロセスが煩雑な上、投入エネルギーおよび時間がかかる、という課題があった。また、溶媒を除去する際に、炭素量子ドットが凝集しやすく、消光が生じやすい、という課題もあった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものである。本発明は、簡便なプロセスで、発光量子収率が高い、固体状の炭素量子ドットを製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の炭素量子ドットの製造方法を提供する。
25℃、1気圧において固体である炭素量子ドットの製造方法であり、反応性基を有し、かつホウ素原子を含まない有機化合物、およびホウ素化合物を混合して、混合物を調製する工程と、前記混合物を実質的に無溶媒で100℃以上300℃以下に加熱し、炭素量子ドットを調製する工程と、を有し、前記有機化合物中の窒素原子の量が20質量%以上であり、前記有機化合物および前記ホウ素化合物の総量に対する、前記ホウ素化合物の量が20質量%以上である、炭素量子ドットの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の炭素量子ドットの製造方法によれば、炭素量子ドットの調製後、濾過工程や乾燥工程を行う必要がない。したがって、簡便なプロセスで、発光量子収率が高い炭素量子ドットが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1~10、および比較例9~14の炭素量子ドットの製造方法に使用した有機化合物中の窒素原子の量ならびに有機化合物およびホウ素化合物の総量に対するホウ素化合物の量と、発光量子収率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「~」で示す数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を含む数値範囲を意味する。
【0011】
本発明の炭素量子ドットの製造方法は、25℃、1気圧で固体状の炭素量子ドットを製造するための方法である。前述のように、炭素量子ドットを溶媒中で調製する方法は、従来知られている。しかしながら、溶媒中で炭素量子ドットを調製すると、製造プロセスが煩雑な上、投入エネルギーおよび時間がかかる、という課題があった。さらに溶媒から炭素量子ドットを取り出す際に、炭素量子ドットが凝集しやすく、消光が生じることがあった。また、たとえ溶媒から取り出さなかったとしても、炭素量子ドットの発光量子収率が低い傾向があった。
【0012】
これに対し、本発明の炭素量子ドットの製造方法では、反応性基を有し、かつホウ素原子を含まない有機化合物と、ホウ素化合物とを混合して、混合物を調製する(以下、「混合物調製工程」とも称する)。このとき、上記有機化合物中の窒素原子の量を20質量%以上とし、有機化合物およびホウ素化合物中の総量に対する、ホウ素化合物の量を20質量%以上とする。そして、上記混合物を実質的に無溶媒で加熱し、炭素量子ドットを調製する(以下、「炭素量子ドット調製工程」とも称する)。
【0013】
上記ように、窒素原子を一定量以上含む有機化合物と、一定量以上のホウ素化合物とを混合して、溶媒を実質的に含まない状態で反応させると、非常に発光量子収率が高い炭素量子ドットを、簡便なプロセスで得ることができる。発光量子収率が高くなる理由は、定かではないが、以下のように考えられる。
【0014】
炭素量子ドットの主な原料である有機化合物が一定量以上窒素原子を含むと、得られる炭素量子ドットの骨格内に窒素が取り込まれる。炭素原子のみからなる炭素量子ドットと比較して、窒素原子を一部に含む炭素量子ドットは、外部からエネルギーを受け取りやすい、と考えられる。さらに、炭素量子ドットの調製時に、有機化合物と共にホウ素化合物が存在すると、炭素量子ドットの表面に、ホウ素原子またはホウ素原子を含む官能基が均一に配置される。そして、空のp軌道を有するホウ素と、電子対を有する窒素とが相互作用することで、炭素量子ドットの主骨格における電子受容と電子供与が促進されやすくなり、発光量子収率が高まると考えられる。また、当該方法では、有機化合物に対して、比較的多くのホウ素化合物を含む。そのため、調製された炭素量子ドットが、余剰のホウ素化合物の結晶内に取り込まれ、炭素量子ドットの凝集が抑制されることも、発光量子収率が高まる一因として考えられる。
【0015】
また、溶媒中で炭素量子ドットを調製すると、溶媒を除去する際に炭素量子ドットが凝集しやすく、消光等が生じることがある。これに対し、上述の方法では、溶媒を除去する工程を行う必要がないことから、炭素量子ドットが凝集し難く、上記の消光も生じ難い。さらに、炭素量子ドットを実質的に無溶媒で加熱して調製すると、炭素量子ドットを生成するための縮合反応の反応場が、上記有機化合物とホウ素化合物との固体状態での接触点に限られ、生成する炭素量子ドットの種類や粒子サイズが限定されたものとなることからも、発光量子収率が高くなると考えられる。
【0016】
なお、炭素量子ドットを実質的に無溶媒で加熱して調製すると、製造プロセスが簡易になるだけでなく、炭素量子ドットを調製するために必要な加熱時間を短くでき、さらには投入エネルギー量も低減できる、という利点もある。さらに、このときの温度を100℃以上300℃以下とすると、得られる炭素量子ドットが水素元素を含みやすくなり、当該炭素量子ドットが水や極性溶媒に溶解しやすくなる。以下、本発明の方法の各工程について、説明する。
【0017】
・混合物調製工程
混合物調製工程では、反応性基を有し、かつホウ素原子を含まない有機化合物と、ホウ素化合物とを混合して、混合物を調製する。本明細書において、「反応性基」とは、有機化合物中の炭素原子に結合しており、後述の加熱工程において、有機化合物どうしの重縮合反応等を生じさせるための基であり、炭素量子ドットの主骨格の形成に寄与する基である。反応性基の具体例には、カルボキシ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、スルホ基、およびアミノ基等が含まれる。これらの官能基は、得られる炭素量子ドットの表面に残存することもある。また、本明細書では、ホウ素原子を含む化合物をホウ素化合物と称し、たとえその分子中に反応性基を有していたとしても、ホウ素原子を含む場合には、ホウ素化合物とする。
【0018】
なお、本工程で調製する混合物は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、上記有機化合物およびホウ素化合物以外の化合物を含んでいてもよい。例えば、反応性基を有さない有機系の化合物や無機系の化合物、層状粘土鉱物等をさらに有していてもよい。ただし、上記有機化合物およびホウ素化合物の総量は、混合物の総量に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%がさらに好ましい。上記有機化合物およびホウ素化合物の総量が50質量%以上であると、効率よく炭素量子ドットを調製可能である。
【0019】
混合物が含む上記有機化合物は、反応性基を有し、炭化(縮合反応)によって炭素量子ドットを生成可能であり、かつその総量に対して、窒素原子の量が20質量%以上である化合物であればよい。窒素原子の量は、20質量%以上75質量%以下が好ましく、25質量%以上70質量%以下がより好ましい。上記有機化合物中の窒素原子の量が20質量%以上であると、得られる炭素量子ドットの主骨格に窒素原子が含まれやすくなり、上述のように発光量子収率が高まる。
【0020】
当該有機化合物は、1種の化合物のみを含んでいてもよく、2種以上の化合物を含んでいてもよい。具体的には、窒素原子を含み、かつ反応性基を有する化合物(以下、「含窒素有機化合物」とも称する)のみを含んでいてもよく、窒素原子を含まず、かつ反応性基を有する化合物(以下、「窒素非含有有機化合物」とも称する)と、含窒素有機化合物との混合物であってもよい。
【0021】
含窒素有機化合物の例には、アミン化合物、含窒素糖類、イミダゾール類、トリアジン類、トリアゾール類、トリアゼン類、グアニジン類、オキシム類等が含まれる。上記有機化合物は、これらを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。さらに、これらの化合物は、常温で固体状であってもよく、液体状であってもよい。
【0022】
アミン化合物の例には、1,2-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、1,4-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、尿素、チオ尿素、チオシアン酸アンモニウム、エタノールアミン、1-アミノ-2-プロパノール、メラミン、シアヌル酸、バルビツール酸、葉酸、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド、グアニジン、アミノグアニジン、ホルムアミド、グルタミン酸、アスパラギン酸、システイン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、グルタチオン、RNA、DNA、システアミン、メチオニン、ホモシステイン、タウリン、チアミン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、4,5-ジフルオロ-1,2-フェニレンジアミン、スルファニル酸、o-ホスホセリン、アデノシン5’-三リン酸、グアニジンリン酸塩、グアニル尿素リン酸塩、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等が含まれる。
【0023】
含窒素糖類の例には、グルコサミン、キチン、キトサン等が含まれる。イミダゾールの例には、1-(トリメチルシリル)イミダゾール等が含まれる。トリアジン類の例には、1,2,4-トリアジンが含まれ、トリアゾール類の例には、1,3,5-トリアジン、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾールが含まれる。トリアゼン類の例には、1,3-ジフェニルトリアゼン、1-メチル-3-p―トリルトリアゼンが含まれ、グアニジン類の例には、グアニジン、アルギニンが含まれ、オキシム類の例には、ベンズアミドオキシム、p-ベンゾキノンジオキシムが含まれる。
【0024】
含窒素有機化合物は、上記の中でもアミン化合物が入手容易性や、後述の加熱工程における反応性等の観点で、好ましい。
【0025】
一方、窒素非含有有機化合物の例には、カルボン酸、アルコール、フェノール類、および糖類等が含まれる。有機化合物は、これらを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。さらに、これらの化合物は、常温で固体状であってもよく、液体状であってもよい。
【0026】
カルボン酸は、分子中にカルボキシ基を1つ以上有する化合物(ただし、含窒素有機化合物、フェノール類、または糖類に相当するものは除く)であればよい。カルボン酸の例には、ギ酸、酢酸、3-メルカプトプロピオン酸、α-リポ酸等のモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ポリアクリル酸、(エチレンジチオ)二酢酸、チオリンゴ酸、テトラフルオロテレフタル酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸等の2価以上の多価カルボン酸;クエン酸、グリコール酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、5-スルホサリチル酸等のヒドロキシ酸;が含まれる。
【0027】
アルコールは、ヒドロキシ基を1つ有し、かつ炭素数が6以上の1価アルコール、またはヒドロキシ基を2つ以上有する多価アルコール(ただし、含窒素有機化合物、カルボン酸、フェノール類、または糖類に相当するものは除く)が好ましい。炭素数が6以上の1価アルコールの例には、ヘキサノールやオクタノール等の高級アルコールが含まれる。一方、多価アルコールの例には、エチレングリコール、グリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、アスコルビン酸、ポリエチレングリコール、ソルビトール等が含まれる。
【0028】
フェノール類は、ベンゼン環にヒドロキシ基が結合した構造を有する化合物(ただし、含窒素有機化合物は除く)であればよい。フェノール類の例には、フェノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、フロログルシノール、ピロガロール、1,2,4-トリヒドロキシベンゼン、没食子酸、タンニン、リグニン、カテキン、アントシアニン、ルチン、クロロゲン酸、リグナン、クルクミン等が含まれる。
【0029】
窒素非含有有機化合物である糖類の例には、グルコース、スクロース、セルロース等が含まれる。
【0030】
上記窒素非含有有機化合物は、含窒素有機化合物と縮合反応が効率的に進行する反応性基を有することが好ましく、カルボン酸、アルコール、またはフェノール類が好ましい。有機化合物中の窒素非含有有機化合物の量は、有機化合物中の窒素原子の量が20質量%以上になるように適宜選択される。
【0031】
また、上記有機化合物(含窒素有機化合物および窒素非含有有機化合物)の総量は、有機化合物およびホウ素化合物の総量に対して80質量%以下であればよく、20質量%以上80質量%以下が好ましい。有機化合物およびホウ素化合物の総量に対する有機化合物の量が80質量%以下であると、発光量子収率が十分に高まる。
【0032】
上記ホウ素化合物は、ホウ素原子を含む化合物であればよく、例えばホウ素単体であってもよく、ホウ素を含む化合物であってもよい。本工程で調製する混合物は、ホウ素化合物を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0033】
ホウ素化合物の具体例には、ホウ素、ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム、酸化ホウ素、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリオクタデシル、ホウ酸トリフェニル、2-エトキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン、ホウ酸トリエタノールアミン、2,4,6-トリメトキシボロキシン、トリス(トリメチルシリル)ボラート、ホウ酸トリス(2-シアノエチル)、3-アミノフェニルボロン酸、2-アントラセンボロン酸、9-アントラセンボロン酸、フェニルボロン酸、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸、4,4’-ビフェニルジボロン酸、2-ブロモフェニルボロン酸、4-ブロモ-1-ナフタレンボロン酸、3-ブロモ-2-フルオロフェニルボロン酸、4-カルボキシフェニルボロン酸、3-シアノフェニルボロン酸、4-シアノ-3-フルオロフェニルボロン酸、3,5-ジフルオロフェニルボロン酸、4-(ジフェニルアミノ)フェニルボロン酸、3-フルオロフェニルボロン酸、3-ヒドロキシフェニルボロン酸、4-メルカプトフェニルボロン酸、1-ナフタレンボロン酸、9-フェナントレンボロン酸、1,4-フェニレンジボロン酸、1-ピレンボロン酸、2-アミノピリミジン-5-ボロン酸、2-ブロモピリジン-3-ボロン酸、2-フルオロピリジン-3-ボロン酸、4-ピリジルボロン酸、キノリン-8-ボロン酸、4-アミノフェニルボロン酸ピナコール、3-ヒドロキシフェニルボロン酸ピナコール、4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ピリジン、ジボロン酸、水素化ホウ素ナトリウム、テトラフルオロホウ酸ナトリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート、三フッ化ホウ素、三臭化ホウ素等が含まれる。
【0034】
なお、ホウ素化合物中のホウ素原子の量は、ホウ素化合物の総量に対して3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。ホウ素化合物中のホウ素原子の量が当該範囲であると、炭素量子ドットの表面にホウ素原子を配置させたりすることが可能となり、発光量子収率が高まりやすくなる。
【0035】
上記ホウ素化合物の総量は、有機化合物およびホウ素化合物の総量に対して20質量%以上であればよいが、21質量%以上75質量%以下が好ましい。有機化合物およびホウ素化合物の総量に対するホウ素化合物の量が20質量%以上であると、上述のように、発光量子収率が十分に高まりやすい。
【0036】
また、混合物は、リン原子、硫黄原子、ケイ素原子、フッ素原子等を含む、上記反応性基を有さない化合物(以下、「その他の化合物」とも称する)を、さらに含有してもよい。混合物がその他の化合物を含むと、窒素およびホウ素以外のヘテロ原子を含む炭素量子ドットを得ることができる。混合物は、その他の化合物を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0037】
リン原子を含む化合物の例には、リン単体、リン酸、酸化リン、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、フィチン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、o-ホスホリルエタノールアミン、塩化リン、臭化リン、ホスホノ酢酸トリエチル、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド、リン酸メチル、亜リン酸トリエチル、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、N,N,N’,N’-エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)等が含まれる。
【0038】
また、硫黄原子を含む化合物の例には、硫黄、チオ硫酸ナトリウム、硫化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、水硫化ナトリウム等が含まれる。
【0039】
ケイ素原子を含む化合物の例には、テトラクロロシラン、テトラエトキシシラン等が含まれる。
【0040】
フッ素原子を含む化合物の例には、2,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロ-1,5-ペンタンジオールジグリシジルエーテル、フッ化ナトリウム等が含まれる。
【0041】
混合物中のその他の化合物の量は、所望のヘテロ原子の量に合わせて適宜選択されるが、通常混合物の総量に対して0質量%~20質量%が好ましく、3質量%~10質量%がより好ましい。その他の化合物の量が3質量%以上であると、その他の化合物の添加効果が得られやすくなる。一方で、その他の化合物の量が10質量%以下であると、相対的に有機化合物やホウ素化合物の量が十分に多くなり、効率よく炭素量子ドットを調製できる。
【0042】
本工程で調製する混合物は、層状粘土鉱物をさらに含んでいてもよい。層状粘土鉱物の例には、スメクタイト、層状複水酸化物、カオリナイト、および雲母等が含まれる。これらの中でもスメクタイトまたは層状複水酸化物が、炭素量子ドットを形成するのに適した平均層間隔を有する点で好ましい。
【0043】
スメクタイトは、水等によって膨潤する粘土鉱物であり、その例には、サポナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、バイデライト、ノントロナイト、ソーコナイト、スティーブンサイト等が含まれる。
【0044】
一方、層状複水酸化物は、2価の金属酸化物に3価の金属イオンが固溶した複水酸化物であり、その例には、ハイドロタルサイト、ハイドロカルマイト、ハイドロマグネサイト、パイロオーライト等が含まれる。
【0045】
なお、層状粘土鉱物の平均層間隔を調整するため、層状粘土鉱物を溶媒によって膨潤させてもよい。溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、トルエン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。ただし、後述の加熱工程では、実質的に無溶媒で加熱を行う。そのため溶媒の量は少ないことが好ましく、さらに溶媒の沸点は、加熱工程において有機化合物等を炭化させる温度(以下、「加熱温度」とも称する)より低いことが好ましい。換言すれば、後述の加熱工程において、混合物の温度が加熱温度に到達するまでに、略全ての溶媒が揮発するよう、溶媒の量や種類を調整することが好ましい。
【0046】
なお、混合物中の層状粘土鉱物の量は、混合物の総量に対して0質量%~20質量%が好ましく、0質量%~10質量%がより好ましく、層状粘土鉱物を実質的に含まないことがさらに好ましい。なお、実質的に含まないとは、混合物の総量に対して5質量%以下であることをいう。なお、層状粘土鉱物の量は、混合物の総量に対して、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましく、一切含まないことが特に好ましい。層状粘土鉱物の量が20質量%以下であると、相対的に有機化合物やホウ素化合物の量が十分に多くなり、効率よく炭素量子ドットを調製できる。
【0047】
混合物の混合方法は、有機化合物と、ホウ素化合物と、必要に応じてその他の化合物や層状粘土鉱物とを均一に混合可能であれば、特に制限されない。例えば、乳鉢ですりつぶしながら混合したり、ボールミル等によって粉砕しながら混合したりしてもよい。さらに、有機化合物またはホウ素化合物、もしくはその他の化合物が液体である場合、固体の成分を液体の成分に溶解、混和あるいは分散させて混合してもよい。また、少量の溶媒に各材料を溶解、混和あるいは分散させて混合したりしてもよい。この場合、後述の加熱工程で、実質的に無溶媒で加熱を行えるように、溶媒の量や種類を調整する。具体的には、混合物の温度が加熱温度に到達するまでに、略全ての溶媒が揮発するよう、溶媒の量や種類を調整することが好ましい。なお、本明細書における溶媒とは、1気圧25℃において液体であり、かつ上記有機化合物およびホウ素化合物に相当しない化合物をいう。
【0048】
・加熱工程
加熱工程では、上述の混合物調製工程で調整した混合物を、実質的に無溶媒で加熱する。本明細書における「実質的に無溶媒」とは、混合物中の溶媒の量が、有機化合物等を炭化させる温度(加熱温度)に到達した時点で、混合物の総量に対して5質量%以下であることをいう。加熱温度における混合物中の溶媒の量は、2質量%以下がより好ましく、0質量%がさらに好ましい。したがって、上述のように、加熱温度までに十分に揮発可能であれば、加熱開始時に混合物が溶媒を含んでいてもよい。なお、炭素量子ドットの原料となる化合物、すなわち有機化合物やホウ素化合物等は、当該加熱温度において液体状であってもよい。
【0049】
混合物の加熱方法は、有機化合物等を炭化させて炭素量子ドットを生成可能な方法であればよく、その例には、ヒータによる加熱や、電磁波の照射等が含まれる。
【0050】
混合物をヒータ等によって加熱する場合、加熱温度は70℃以上700℃以下が好ましく、100℃以上500℃以下がより好ましく、100℃以上300℃以下がより好ましく、120℃以上300℃以下がより好ましく、120℃以上200℃以下がさらに好ましい。加熱温度が好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下であると、得られる炭素量子ドットの水素含有量が高い状態が維持される。また、加熱温度での保持時間は0.01時間以上45時間以下が好ましく、0.1時間以上30時間以下がより好ましく、0.5時間以上10時間以下がさらに好ましい。加熱時間によって、得られる炭素量子ドットの粒子径、ひいては発光波長を調整できる。またこのとき、窒素等の不活性ガスを流通させながら非酸化性雰囲気で加熱を行ってもよい。
【0051】
電磁波(例えばマイクロ波)を照射する場合、ワット数は1W以上1500W以下が好ましく、1W以上1000W以下がより好ましい。また、電磁波(例えばマイクロ波)による加熱時間は0.01時間以上10時間以下が好ましく、0.01時間以上5時間以下がより好ましく、0.01時間以上1時間以下がさらに好ましい。電磁波の照射時間によって、得られる炭素量子ドットの粒子径、ひいては発光波長を調整できる。
【0052】
上記電磁波の照射は、例えば半導体式電磁波照射装置等によって行うことができる。電磁波の照射は、上記混合物の温度を確認しながら行うことが好ましい。加熱温度が70℃以上700℃以下となるように調整しながら、電磁波を照射することが好ましく、100℃以上300℃以下がより好ましく、120℃以上300℃以下がより好ましく、120℃以上200℃以下がさらに好ましい。加熱温度が好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下であると、得られる炭素量子ドットの水素含有量が高い状態が維持される。
【0053】
当該加熱工程により、炭素量子ドットが得られる。なお、炭素量子ドットの周囲には、未反応のホウ素化合物等が残存することもある。したがって、炭素量子ドットのみを取り出すために、例えば得られた成分を有機溶媒等で洗浄して、未反応物や副生物を除去して精製してもよい。
【0054】
なお、得られる炭素量子ドットは、1気圧、25℃において、固体である。当該炭素量子ドットを原子間力顕微鏡(AFM)により観察して測定される平均粒子径は、1nm以上100nm以下が好ましく、1nm以上80nm以下がより好ましい。炭素量子ドットの平均粒子径が当該範囲であると、量子ドットとしての性質が十分に得られやすい。なお、上記炭素量子ドットの平均粒子径は、3個以上の炭素量子ドットについて測定し、これらの平均値を測定することが好ましい。
【0055】
さらに、当該炭素量子ドットは、波長250nm以上1000nm以下の光を照射したときに、可視光または近赤外光を発することが好ましく、このときの極大発光波長は440nm以上700nm以下が好ましく、450nm以上680nm以下がより好ましく、460nm以上680nm以下が特に好ましい。極大発光波長が当該範囲であると、本発明の炭素量子ドットを種々の用途に使用できる。
【0056】
また、当該炭素量子ドットの発光量子収率は、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。発光量子収率が当該範囲であると、炭素量子ドットを種々の用途に使用できる。
【0057】
また、当該炭素量子ドットは、水素元素の含有量が好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは2.1質量%以上であることで、水をはじめとした極性溶媒に溶解させることができる。水素元素の含有量が所定量以上であることで極性溶媒に可溶となる理由は定かではないが、当該炭素量子ドットに含まれる水素元素がヒドロキシ基又はカルボキシ基の形態をとっており、それによって当該炭素量子ドットが可溶性を有しているものと考えられる。上記水素元素の量は、元素分析装置PE2400シリーズII(パーキンエルマージャパン社製)のCHNモードで実施する有機元素分析によって、特定される。
【0058】
・用途
上述の製造方法で得られる炭素量子ドットは、発光特性が良好である。したがって、当該炭素量子ドットは各種用途に利用可能である。炭素量子ドットの用途は、特に制限されず、炭素量子ドットの性能に合わせて、例えば太陽電池、ディスプレイ、セキュリティインク、量子ドットレーザ、バイオマーカー、照明材料、熱電材料、光触媒、特定物質の分離剤等に使用できる。
【0059】
なお、上述の炭素量子ドットは、25℃、1気圧において固体であるが、これを溶媒等に分散させた溶液の状態で、各種用途に使用してもよい。
【実施例
【0060】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
[実施例1]
(1)炭素量子ドットの調製
有機化合物(クエン酸0.03gおよびジシアンジアミド0.02g)と、ホウ素化合物(ホウ酸)0.144gと、を乳鉢ですりつぶしながら混合して混合物を調製した。当該粉体状の混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、170℃で1.5時間加熱し、固体の炭素量子ドットを合成した。なお、有機化合物中の窒素原子の量、および有機化合物およびホウ素化合物の総量に対するホウ素化合物の量は表1に示す。
【0062】
(2)固体発光特性の評価
得られた炭素量子ドットをKBrプレートに挟み、プレスして測定用サンプルを作製した。積分球ユニットILF-835付属の分光蛍光光度計FP-8500(日本分光社製)を用いて、当該測定用サンプルの固体状態での発光波長(蛍光波長)、発光量子収率を評価した。励起光は、組成物の発光量子収率が最大となる波長の光を照射した。結果を表1に示す。
【0063】
(3)水素元素の量および水溶性の評価
得られた炭素量子ドットの元素分析を有機元素分析により行い、水素元素の量を特定した。また、得られた炭素量子ドットの濃度が0.1質量%になるように、炭素量子ドットおよび水を混合した。そして、目視により、水溶液が透明になるかを確認した。沈殿物がない場合を水に可溶、沈殿物が確認された場合を水に不溶と判断した。結果を表1に示す。
【0064】
[実施例2]
有機化合物(フロログルシノール二水和物0.03gおよびジシアンジアミド0.02g)と、ホウ素化合物(ホウ酸)0.096gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を、実施例1と同様に加熱し、固体の炭素量子ドットを調製した。得られた炭素量子ドットについて、実施例1と同様に、固体発光特性を評価した。また、水素元素の量も特定した。結果を表1に示す。
【0065】
[実施例3]
有機化合物(フロログルシノール二水和物0.03gおよびメラミン0.06g)と、ホウ素化合物(フェニルボロン酸)0.144gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を実施例1と同様に加熱し、固体の炭素量子ドットを調製した。得られた炭素量子ドットについて、実施例1と同様に、固体発光特性を評価した。また、水素元素の量の特定、および水溶性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0066】
[実施例4]
有機化合物(フロログルシノール二水和物0.03gおよびメラミン0.06g)と、ホウ素化合物(フェニルボロン酸)0.048gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を実施例1と同様に加熱し、固体の炭素量子ドットを調製した。得られた炭素量子ドットについて、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。また、水素元素の量も特定した。結果を表1に示す。
【0067】
[実施例5]
有機化合物(フロログルシノール二水和物0.03gおよびメラミン0.06g)と、ホウ素化合物(フェニルボロン酸)0.024gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を実施例1と同様に加熱し、固体の炭素量子ドットを調製した。得られた炭素量子ドットについて、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。また、水素元素の量も特定した。結果を表1に示す。
【0068】
[実施例6]
有機化合物A(ジシアンジアミド)0.02gと、ホウ素化合物(ホウ酸)0.144gと、を乳鉢ですりつぶしながら混合した。これらを内容積15mlのねじ口試験管に入れ、さらに有機化合物B(エチレングリコール)0.03gを加えて、ガラス棒でかき混ぜてペースト状の混合物を調製した。当該混合物を実施例1と同様に加熱し、固体の炭素量子ドットを調製した。得られた炭素量子ドットについて、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。また、水素元素の量も特定した。結果を表1に示す。
【0069】
[実施例7]
有機化合物(クエン酸0.09gおよびメラミン0.06g)と、ホウ素化合物(フェニルボロン酸)0.048gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を実施例1と同様に加熱し、固体の炭素量子ドットを調製した。得られた炭素量子ドットについて、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。また、水素元素の量も特定した。結果を表1に示す。
【0070】
[実施例8]
有機化合物(クエン酸0.03g、ジシアンジアミド0.02g、およびスルファニル酸0.02g)と、ホウ素化合物(ホウ酸)0.144gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を実施例1と同様に加熱し、固体の炭素量子ドットを調製した。得られた炭素量子ドットについて、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。また、水素元素の量も特定した。結果を表1に示す。
【0071】
[実施例9]
有機化合物(クエン酸0.04gおよびジシアンジアミド0.02g)と、ホウ素化合物(ホウ酸)0.036gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を実施例1と同様に加熱し、固体の炭素量子ドットを調製した。得られた炭素量子ドットについて、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。また、水素元素の量も特定した。結果を表1に示す。
【0072】
[実施例10]
有機化合物(クエン酸0.03gおよび尿素0.03g)と、ホウ素化合物(ホウ酸)0.144gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を実施例1と同様に加熱し、固体の炭素量子ドットを調製した。得られた炭素量子ドットについて、実施例1と同様に固体発光特性を評価した。また、水素元素の量も特定した。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例1]
(1)炭素量子ドットを含む溶液の調製
有機化合物(クエン酸0.011gおよびジシアンジアミド0.0073g)と、ホウ素化合物(ホウ酸)0.053gとを、溶媒(イオン交換水)20mlに溶解させて、約0.05mol/lの濃度の水溶液を調製した。当該水溶液を容積100mlのポリテトラフルオロエチレン製の密閉容器に入れ、ホットスターラー式反応分解装置RDV-TMS-100(三愛科学社製)を用いて200℃で8時間定容加熱し、炭素量子ドットを含む水溶液を作製した。
【0074】
(2)溶液発光特性の評価
上記水溶液を石英ガラス製の分光測定用セルに入れ、積分球ユニットILF-835付属の分光蛍光光度計FP-8500(日本分光社製)を用いて、当該測定用サンプルの水溶液状態での発光波長(蛍光波長)、発光量子収率を評価した。励起光は、組成物の発光量子収率が最大となる波長の光を照射した。結果を表1に示す。
【0075】
[比較例2]
比較例1に記載の原料と方法で炭素量子ドットを含む水溶液を調製した。当該水溶液を蒸発乾固し、固体の炭素量子ドットを得た。実施例1と同様に、得られた炭素量子ドットについて、固体発光特性を評価した。結果を表1に示す。
【0076】
[比較例3]
有機化合物(フロログルシノール二水和物0.03gおよびメラミン0.06g)と、ホウ素化合物(フェニルボロン酸)0.024gとを、溶媒(イオン交換水)20mlに溶解させて、約0.05mol/lの濃度の水溶液を調製した。当該水溶液を比較例1と同様の方法で加熱し、炭素量子ドットを含む水溶液を調製した。比較例1と同様に、作製した水溶液の発光特性を評価した。結果を表1に示す。
【0077】
[比較例4]
比較例3に記載の原料と方法で炭素量子ドットを含む水溶液を調製した。当該水溶液を蒸発乾固し、固体の炭素量子ドットを得た。実施例1と同様に、得られた炭素量子ドットの固体発光特性を評価した。結果を表1に示す。
【0078】
[比較例5]
有機化合物(クエン酸0.044gおよびジシアンジアミド0.029g)と、ホウ素化合物(ホウ酸)0.21gとを、溶媒(エタノール)10mlに溶解させて、約0.4mol/lの濃度のエタノール溶液を調製した。当該エタノール溶液を比較例1と同様の反応分解装置を用いて200℃で9時間定容加熱し、炭素量子ドットを含むエタノール溶液を調製した。比較例1と同様に、作製したエタノール溶液の発光特性を評価した。結果を表1に示す。
【0079】
[比較例6]
比較例5に記載の原料と方法で炭素量子ドットを含むエタノール溶液を調製した。当該エタノール溶液を蒸発乾固し、固体の炭素量子ドットを得た。実施例1と同様に、得られた炭素量子ドットの固体発光特性を評価した。結果を表1に示す。
【0080】
[比較例7]
有機化合物(フロログルシノール二水和物0.132gおよびメラミン0.264g)と、ホウ素化合物(フェニルボロン酸)0.105gとを、溶媒(エタノール)10mlに溶解させて、約0.4mol/lの濃度のエタノール溶液を調製した。当該エタノール溶液を比較例5に記載の方法で加熱し、炭素量子ドットを含むエタノール溶液を作製した。比較例1と同様に、作製したエタノール溶液の発光特性を評価した。結果を表1に示す。
【0081】
[比較例8]
比較例7に記載の原料と方法で炭素量子ドットを含むエタノール溶液を調製した。当該エタノール溶液を蒸発乾固し、固体の炭素量子ドットを得た。実施例1と同様に、得られた固体の発光特性を評価した。結果を表1に示す。
【0082】
[比較例9]
有機化合物(クエン酸0.15gおよびジシアンジアミド0.10g)と、ホウ素化合物(ホウ酸)0.048gとを混合して、混合物を調製した。当該混合物を、実施例1に記載の方法で加熱し、固体の炭素量子ドットを合成した。実施例1と同様に、得られた炭素量子ドットの固体発光特性を評価した。結果を表2に示す。
【0083】
[比較例10]
有機化合物(クエン酸0.15gおよびジシアンジアミド0.10g)と、ホウ素化合物(四ホウ酸ナトリウム)0.039gとを混合して、混合物を調製した。当該混合物を、実施例1に記載の方法で加熱し、固体の炭素量子ドットを合成した。実施例1と同様に、得られた炭素量子ドットの固体発光特性を評価した。結果を表2に示す。
【0084】
[比較例11]
有機化合物(L-システイン塩酸塩一水和物)0.15gと、ホウ素化合物(ホウ酸)0.055gとを混合して、混合物を調製した。当該混合物を、実施例1に記載の方法で加熱し、固体の炭素量子ドットを合成した。実施例1と同様に、得られた炭素量子ドットの固体発光特性を評価した。結果を表2に示す。
【0085】
[比較例12]
有機化合物(クエン酸0.03gおよびチオ尿素0.02g)と、ホウ素化合物(ホウ酸)0.144gとを混合して、混合物を調製した。当該混合物を、実施例1に記載の方法で加熱し、固体の炭素量子ドットを合成した。実施例1と同様に、得られた炭素量子ドットの固体発光特性を評価した。結果を表2に示す。
【0086】
[比較例13]
有機化合物(フロログルシノール二水和物0.09gおよびジシアンジアミド0.02g)と、ホウ素化合物(ホウ酸)0.096gとを混合して、混合物を調製した。当該混合物を、170℃で3時間加熱した以外は、実施例1に記載の方法で加熱し、固体の炭素量子ドットを調製した。実施例1と同様に、得られた炭素量子ドットの固体発光特性を評価した。結果を表2に示す。
【0087】
[比較例14]
有機化合物(フロログルシノール二水和物0.03gおよびm-フェニレンジアミン0.06g)と、ホウ素化合物(フェニルボロン酸)0.048gとを混合して、混合物を調製した。当該混合物を、実施例1に記載の方法で加熱し、固体の炭素量子ドットを合成した。実施例1と同様に、得られた炭素量子ドットの固体発光特性を評価した。結果を表2に示す。
【0088】
[比較例15]
有機化合物(クエン酸0.03gおよびジシアンジアミド0.02g)と、ホウ素化合物(ホウ酸)0.144gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を、内容積25mlの石英試験管に入れ、大気下、500℃で1.5時間加熱し、固体の炭素量子ドットを合成した。実施例1と同様に、得られた炭素量子ドットの固体発光特性を評価した。また、水素元素の量を特定し、水溶性も評価した。結果を表2に示す。
【0089】
[比較例16]
有機化合物(フロログルシノール二水和物0.03gおよびメラミン0.06g)と、ホウ素化合物(フェニルボロン酸)0.144gとを、実施例1と同様の方法で混合して混合物を調製した。当該混合物を、内容積25mlの石英試験管に入れ、大気下、500℃で1.5時間加熱し、固体の炭素量子ドットを合成した。実施例1と同様に、得られた炭素量子ドットの固体発光特性を評価した。また、水素元素の量を特定し、水溶性も評価した。結果を表2に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
実施例1~10の製造方法では、溶媒を用いることなく、混合物の調製工程および加熱工程からなる簡便なプロセスで固体の炭素量子ドットを得ることができた。一方で比較例2、4、6、および8の製造方法では、ソルボサーマル法による合成と乾燥工程と、を含む多段階のプロセスを経て固体の炭素量子ドットが得られた。より具体的には、実施例1~10の製造方法では、主に混合物の調製工程と、100℃以上300℃以下の1.5時間の加熱工程により操作が完結したが、比較例2、4、6、8の製造方法では、8時間以上の加熱工程と、それに続く溶媒除去工程とが必要であった。したがって、実施例1~10の製造方法は時間的効率に優れるといえる。加えて、実施例1~10の加熱工程は、比較例1~8の加熱工程と比較して時間が短く、溶媒が不要であるため加熱対象の熱容量も小さくできた。したがって、炭素量子ドット調製時の投入エネルギーを小さくできた。
【0093】
さらに、比較例1および比較例2、比較例5および比較例6、ならびに比較例7および比較例8をそれぞれ比較すると、炭素量子ドットを含む溶液の乾燥工程を経ることで発光量子収率の減少が見られた。この原因として、乾燥に伴い炭素量子ドットが凝集し、消光したためと考えられる。一方、実施例1~10の製造方法では乾燥工程がないため、炭素量子ドットの凝集による消光が発生しにくく、固体状態で高い発光量子収率が得られた。
【0094】
また、実施例1~10、および比較例9~14における、有機化合物中の窒素原子の量ならびに有機化合物およびホウ素化合物の総量に対するホウ素化合物の量と、発光量子収率との関係を示すグラフを図1に示す。当該グラフでは、有機化合物中の窒素原子の量を横軸に表し、有機化合物およびホウ素化合物の総量に対するホウ素化合物の量を縦軸に表す。また、発光量子収率が30%以上であるものを●、発光量子収率が30%未満であるものを×と表す。当該図1および表2に示されるように、有機化合物とホウ素化合物とを含む混合物を、実質的に無溶媒の状態で加熱したとしても、有機化合物およびホウ素化合物の総量に対してホウ素化合物の量が20質量%未満である場合(比較例9および10)には、発光量子収率が十分に高まらなかった。さらに、有機化合物とホウ素化合物とを含む混合物を、実質的に無溶媒の状態で加熱したとしても、有機化合物中の窒素原子の量が20質量%未満である場合(比較例11~14)には、発光量子収率が高まらなかった。つまり、有機化合物中の窒素原子の量を20質量%以上とし、かつ有機化合物およびホウ素化合物の総量に対する、ホウ素化合物の量を20質量%以上とすることではじめて、発光量子収率が30%以上の炭素量子ドットが得られたことが明らかである。
【0095】
さらに、表1に示すように、実施例1や実施例3のように、100℃以上300℃以下で加熱工程を行うと、得られた炭素量子ドット中の水素元素の量が、2.0質量%以上となり、水に溶解させることが可能であった。なお、実施例1および実施例3で調製した水溶液に対して、波長365nmの光を照射したところ、蛍光を発することが確認された。これに対し、比較例15および16のように、500℃で加熱工程を行うと、得られた炭素量子ドット中の水素元素の量が、2.0質量%未満となり、水に溶解させることができなかった。また、当該炭素量子ドットを添加した水溶液に対して、波長365nmの光を照射したところ、蛍光が確認されなかった。
【0096】
本出願は、2021年3月24日出願の特願2021-050399号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の炭素量子ドットの製造方法によれば、簡便なプロセスで、発光量子収率が高い、25℃、1気圧において固体である炭素量子ドットを調製できる。当該方法で製造される炭素量子ドットは、各種照明材料や熱電材料等、種々の製品に適用可能である。
図1