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特許7431387セラミック複合基板、及びセラミック複合基板の製造方法
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  • 特許-セラミック複合基板、及びセラミック複合基板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】セラミック複合基板、及びセラミック複合基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/38 20060101AFI20240206BHJP
   H05K 1/02 20060101ALI20240206BHJP
   H05K 3/06 20060101ALI20240206BHJP
   H05K 3/24 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
H05K3/38 D
H05K1/02 J
H05K3/06 A
H05K3/24 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023556514
(86)(22)【出願日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2023006811
【審査請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2022041686
(32)【優先日】2022-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】津川 優太
(72)【発明者】
【氏名】矢野 清治
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳一
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-74565(JP,A)
【文献】国際公開第2017/006661(WO,A1)
【文献】特開2003-110205(JP,A)
【文献】特開2004-314161(JP,A)
【文献】特開2006-286754(JP,A)
【文献】特開2010-50415(JP,A)
【文献】特開2018-145047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/02
H01L 23/12―23/15
H05K 1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック板と、
前記セラミック板の主面に設けられた第1回路部と、
所定方向に沿って前記第1回路部との間に間隔を空けた状態で、前記主面に設けられた第2回路部と、を備え、
前記第1回路部は、前記主面に設けられた接合体と、前記接合体を介して前記主面に接合された金属体と、前記金属体の表面及び前記接合体のうちの前記金属体からはみ出す部分を覆うように形成された金属被膜と、を有し、
前記接合体は、前記金属体に接合され、銀の含有量が50質量%以上である銀接合層と、前記主面に接合され、銀の含有量が前記銀接合層よりも少ない第2接合層と、を含み、
前記接合体の前記はみ出す部分における前記銀接合層の厚さと前記第2接合層の厚さとの合計は、1μm~10μmであり、
前記金属被膜は、前記銀接合層のうちの前記第2回路部に対向する側面を覆うように形成された側方部分を含み、
前記側方部分の前記第2回路部に近い端部と、前記銀接合層の前記第2回路部に近い端部との間の前記所定方向における距離Lは、前記金属被膜の厚さHよりも大きく、
前記距離Lは2μmよりも大きく、且つ、20μm以下であり、
前記第1回路部と前記第2回路部との間の前記所定方向における距離は、0.3mm~1.5mmである、セラミック複合基板。
【請求項2】
前記厚さHは2μm以上である、請求項1に記載のセラミック複合基板。
【請求項3】
前記セラミック板は、窒化ケイ素又は窒化アルミニウムを含有し、
前記金属被膜は、ニッケル又は金を含有する、請求項1又は2に記載のセラミック複合基板。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のセラミック複合基板を製造する方法であって、
前記接合体及び前記金属体を形成するようにエッチングを行う工程と、
前記金属被膜を形成する工程と、を含む、セラミック複合基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミック複合基板、及びセラミック複合基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、セラミックス基板と、このセラミックス基板の第1の面及び第2の面にそれぞれ接合層を介して接合された第1の金属板及び第2の金属板とを備えるセラミックス金属回路基板が開示されている。この回路基板では、第1の金属板の、セラミックス基板との接合面の反対側の面に金属被膜が設けられ、第2の金属板の、セラミックス基板との接合面の反対側の面の一部には半導体素子又は金属端子を実装するために金属被膜が設けられていない箇所が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6797797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、回路部間の絶縁性を向上させることが可能なセラミック複合基板、及びセラミック複合基板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係るセラミック複合基板は、セラミック板と、セラミック板の主面に設けられた第1回路部と、所定方向に沿って第1回路部との間に間隔を空けた状態で、主面に設けられた第2回路部と、を備える。第1回路部は、主面に設けられた接合体と、接合体を介して主面に接合された金属体と、金属体の表面及び接合体のうちの金属体からはみ出す部分を覆うように形成された金属被膜と、を有する。接合体は、金属体に接合され、銀の含有量が50質量%以上である銀接合層を含む。金属被膜は、銀接合層のうちの第2回路部に対向する側面を覆うように形成された側方部分を含む。上記側方部分の第2回路部に近い端部と、銀接合層の第2回路部に近い端部との間の所定方向における距離Lは、金属被膜の厚さHよりも大きい。
【0006】
距離Lは2μmよりも大きくてもよい。厚さHは2μm以上であってもよい。
【0007】
セラミック板は、窒化ケイ素又は窒化アルミニウムを含有してもよい。金属被膜は、ニッケル又は金を含有してもよい。
【0008】
本開示の一側面に係るセラミック複合基板の製造方法は、セラミック板の主面に接合体を介して金属体が接合された状態の中間体であって、接合体が、金属体に接合され、銀の含有量が50質量%以上である銀接合層を含む、中間体において、所定方向に沿って互いに間隔を空けた状態の第1回路部及び第2回路部を形成するように、金属体の一部及び接合体の一部のエッチングを行う工程と、エッチングを行う工程の後に、第1回路部を構成する金属体の一部の表面を覆い、且つ、第1回路部を構成する銀接合層の一部のうちの第2回路部に対向する側面を覆う側方部分が形成されるように金属被膜を形成する工程と、を含む。金属被膜に含まれる側方部分の第2回路部に近い端部と、第1回路部を構成する銀接合層の一部の第2回路部に近い端部との間の所定方向における距離Lが、金属被膜の厚さHよりも大きい。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、回路部間の絶縁性を向上させることが可能なセラミック複合基板、及びセラミック複合基板の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、セラミック複合基板の一例を模式的に示す平面図である。
図2図2は、図1に示されるII-II線に沿った端面図である。
図3図3(a)及び図3(b)は、観察断面のSEM像の一例である。
図4図4(a)、図4(b)、図4(c)、及び図4(d)は、製造工程の一例を説明するための模式図である。
図5図5(a)、図5(b)、及び図5(c)は、製造工程の一例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して一実施形態について説明する。以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。一部の図面には、X軸、Y軸、及びZ軸で規定される直交座標系が示されている。
【0012】
[セラミック複合基板]
図1には、一実施形態に係るセラミック複合基板の一例が模式的に示されている。図1に示されるセラミック複合基板10は、例えば、パワーモジュール等の部品として用いられる基板(回路基板)である。セラミック複合基板10は、セラミック板20と、金属回路板30と、を備える。
【0013】
セラミック板20は、平板状に形成されている。セラミック板20は、互いに逆向きの一対の主面を有する。以下では、一対の主面のうちの一方を「表面20A」と称し、他方を「裏面20B」と称する。表面20Aの外縁の形状は、四角形であってもよい。本開示では、表面20Aの外縁のうち、互いに平行な1組の辺が延びる方向を「X軸方向」とし、互いに平行な他の1組の辺が延びる方向を「Y軸方向」とする。セラミック板20の厚さ方向(表面20Aに直交する方向)を「Z軸方向」とする。説明の便宜上、Z軸方向において、裏面20Bから表面20Aに向かう方向を「上」とし、表面20Aから裏面20Bに向かう方向を「下」とする。
【0014】
セラミック板20を形成する材質(セラミック)は、特に限定されない。セラミック板20は、例えば、窒化ケイ素板、又は窒化アルミニウム板である。セラミック板20の厚さは、0.1mm~1mmであってもよく、0.1mm~0.6mmであってもよく、0.2mm~0.4mmであってもよい。
【0015】
金属回路板30は、セラミック複合基板10に含まれる回路を構成する部分である。金属回路板30には、チップ(電子部品)が搭載されていてもよい。金属回路板30は、セラミック板20の表面20Aに設けられている。金属回路板30は、例えば、回路部30aと、回路部30bと、回路部30cと、を有する。回路部30a、回路部30b、及び回路部30cは、互いに離れた状態で表面20Aに配置されている。例えば、回路部30aが第1回路部を構成する場合、回路部30bが第2回路部を構成する。3つ以上の回路部が設けられる場合、互いに隣り合う複数組の回路部のうち、回路部同士の間の距離が最も小さい1組の回路部が、第1回路部及び第2回路部として選択されてもよい。
【0016】
回路部30a、回路部30b、及び回路部30cは、表面20Aの外縁よりも内側に配置されている。図1に示される例では、X軸方向(所定方向)において回路部30a及び回路部30bが並んでいる。この場合、回路部30bは、X軸方向に沿って回路部30aとの間に間隔を空けた状態で表面20Aに設けられている。Y軸方向において、回路部30a及び回路部30cが並んでおり、回路部30b及び回路部30cが並んでいる。回路部30a、回路部30b、及び回路部30cは、互いに同様に構成されてもよい。以下、回路部30aを用いて、1つの回路部の一例を説明する。図2には、図1におけるII-II線に沿った、X-Z平面でのセラミック複合基板10の断面が模式的に示されている。図2に示されるように、回路部30aは、金属体40と、接合体50と、金属被膜60と、を有する。
【0017】
金属体40は、導電性を有する。金属体40は、例えば、銅板である。金属体40は、銅に代えて、銅合金、アルミニウム、及び、アルミニウム合金のうちの1つから構成されてもよい。金属体40は、上面42と、側面44と、を含む。上面42は、表面20Aと平行(略平行)であってもよい。側面44は、上面42の外縁から、表面20Aに向かって延びている。側面44は、表面20Aに直交する方向(Z軸方向)に対して、傾斜していてもよい。側面44は、表面20Aに近づくにつれて、上面42の端部から離れるように傾斜していてもよい。この場合、金属体40のX-Y平面に沿った断面の面積は、表面20Aに近づくにつれて大きくなる。金属体40の厚さ(金属体40の下面と上面42との間のZ軸方向における距離)は、0.1mm~2mmであってもよく、0.15mm~1.5mmであってもよく、0.2mm~1mmであってもよい。金属体40(金属体40の少なくとも一部)が一方向に延びるように形成されている場合、金属体40の延在方向における長さは、5mm~100mmであってよく、金属体40の幅は、1mm~70mmであってよい。
【0018】
接合体50は、表面20Aに設けられており、金属体40をセラミック板20(表面20A)に接合する。すなわち、金属体40は、接合体50を介して表面20Aに接合されている。接合体50は、金属体40と表面20Aとの間に設けられており、接合体50の上面の少なくとも一部は、金属体40に接触しており(接合されており)、接合体50の下面の少なくとも一部は、表面20Aに接触している(接合されている)。
【0019】
接合体50の外縁近傍の領域は、金属体40の外縁からはみ出している。接合体50の外縁近傍の領域は、例えば、その全周において、金属体40と表面20Aとの間から外にはみ出している。本開示では、1つの回路部に着目した場合に、その回路部の中心を基準にして、「内」及び「外」の用語を使用する。Z軸方向から表面20Aを見て、接合体50の外縁は、金属体40の外縁を囲っていてもよい。以下、接合体50のうち、金属体40と表面20Aとの間から外にはみ出している部分を「延出部」と称する。
【0020】
接合体50は、Ag-Cu-Sn系ろう材で構成されてもよい。Ag-Cu-Sn系ろう材は、銀と、銅と、スズと、活性金属とを含有する。接合体50における銀の含有量は、50質量%以上であってもよい。接合体50における銀の含有量は、60質量%以上、70質量%以上、又は、80質量%以上であってもよい。接合体50における銀の含有量は、98質量%以下であってもよい。接合体50における銅の含有量は、銀100質量部に対して5質量部~20質量部であってよい。接合体50におけるスズの含有量は、銀及び銅の合計100質量部に対して、0.5質量部~15質量部であってもよく、0.5質量部~5質量部であってもよく、1質量部~5質量部であってもよい。
【0021】
上記活性金属は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、及びニオブからなる群から選択される少なくとも一種を含む。接合体50における活性金属の含有量は、銀及び銅の合計100質量部に対して、0.5質量部~10質量部であってもよく、0.5質量部~5質量部であってもよく、2質量部~5質量部であってもよい。活性金属は、水素化物として含まれていてよく、例えば水素化チタン(TiH)を含んでいてよい。接合体50におけるTiHの含有量は、銀及び銅の合計100質量部に対して0.5質量部~10質量部であってもよく、1質量部~5質量部であってもよく、2質量部~5質量部であってもよい。活性金属が複数の金属を含む場合、活性金属の上記含有量は、複数の金属の合計の含有量である。
【0022】
接合体50は、第1接合層52と、第2接合層54とを含む。第1接合層52は、銀の含有量が50質量%以上である層である。接合体50を形成する段階(金属体40を接合するための加熱時)において、接合体を構成する材料のうちの銀成分が金属体40に含まれる金属成分(例えば、銅)と反応することで、上方に銀を主成分とする層が形成される。本開示では、銀を主成分とするとは、銀の含有量が50質量%以上であることを意味する。第1接合層52(銀接合層)は、金属体40に接合されている。
【0023】
第2接合層54は、銀の含有量が第1接合層52よりも少ない層である。第2接合層54は、接合体50のうちの第1接合層52以外の部分である。第2接合層54での銀の含有量は、50質量%よりも少ない。第2接合層54は、セラミック板20の表面20Aに接合されている。以上のように、第1接合層52が金属体40に接合され、第2接合層54が表面20Aに接合されることで、金属体40が、第1接合層52及び第2接合層54を含む接合体50を介して表面20Aに接合される。セラミック板20が窒化物を含み、接合体50を構成する活性金属にチタンが含まれる場合、第2接合層54は、窒素とチタンとを含んでもよい。第2接合層54において、窒素とチタンとの合計の含有量が、他の各成分の含有量(成分ごとの含有量)よりも多くてもよい。第2接合層54における銀の含有量は、30質量%以下であってもよい。第2接合層54の厚みは、500nm以下であってもよく、100nm~500nmであってもよい。
【0024】
第1接合層52は、第2接合層54の上に重なっている。第1接合層52において一部が不連続に形成されていてもよく、第2接合層54において一部が不連続に形成されていてもよい。第1接合層52が第2接合層54の上に重なっているとは、Z軸方向から見たときの接合体50の大部分(例えば、70%以上の部分)において、第1接合層52が第2接合層54を覆っていることを意味する。ここで、回路部30a及び回路部30bが並ぶ方向、及び表面20Aに直交する方向を含む平面(図2におけるX-Z平面)でのセラミック複合基板10の断面を「観察断面」と定義する。観察断面において、第2接合層54の全てを第1接合層52が覆っていてもよく、第2接合層54の一部を第1接合層52が覆っていなくてもよい。Y軸方向における位置が互いに異なるように任意に選択される5箇所の観察断面それぞれにおいて、第2接合層54が第1接合層52を覆っている割合が、50%よりも大きくてもよく、60%以上であってもよい。
【0025】
第1接合層52及び第2接合層54を構成する各種成分の含有量は、走査型電子顕微鏡及びEDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)検出器を用いて、金属体とセラミック板との接合界面近傍の濃度を測定することで算出される。一例では、X-Z平面に沿ったセラミック複合基板10の断面(上記接合界面近傍での断面)に関するHAADF像を取得し、EDS検出器を用いた半定量分析により、第1接合層52及び第2接合層54の各種成分の含有量が測定される。測定方法又は検出器に由来して、検出成分中に炭素成分が含まれる場合、炭素成分以外の他の成分の合計を100質量%として、炭素成分を除いたうえで銀等の含有量(質量%)が算出される。各種成分の含有量は、Y軸方向における位置が互いに異なるように任意に選択される5箇所の観察断面において測定される値の算術平均である。また、1つの観察断面では、X軸方向の任意の位置においてZ軸方向に沿うように設定された1つのライン上で、含有量が測定される。
【0026】
回路部30aの接合体50は、金属体40と表面20Aとの間から回路部30bに向かってはみ出す延出部(以下、「延出部58」という。)を含む。延出部58において、第1接合層52及び第2接合層54の両方が、回路部30bに向かってはみ出していてもよい。Y軸方向における位置(断面の位置)によっては、第1接合層52がはみ出さずに、第2接合層54だけがはみ出していてもよい。接合体50は、第2接合層54のはみ出し量が、第1接合層52のはみ出し量よりも大きくなるように形成されてもよい。はみ出し量は、金属体40の回路部30bに最も近い端部と、各接合層の回路部30bに最も近い端部との間のX軸方向における距離で定義される。第1接合層52がはみ出さない断面において、第1接合層52のはみ出し量はゼロである。Y軸方向における位置が互いに異なるように任意に選択される10箇所の観察断面を観察したときに、第1接合層52がはみ出す断面の割合が60%以上であってもよい。
【0027】
上記観察断面は、当該断面に直交する方向(図2におけるY軸方向)において、回路部30a及び回路部30bの両方を含む位置に設定される。観察断面における回路部30aと回路部30bとの間の距離は、回路部に含まれる金属体同士の間での絶縁性(電気絶縁性)を考慮して設定されている。回路部30aと回路部30bとの間の距離(X軸方向における最短距離)は、例えば、0.3mm~1.5mmである。観察断面において、延出部58のX軸方向における長さ(第2接合層54の上記はみ出し量)は、10μm~100μmであってもよく、延出部58の厚さ(第1接合層52の厚さと第2接合層54の厚さとの合計)は、1μm~10μmであってもよい。
【0028】
観察断面において、第1接合層52と回路部30bとの間のX軸方向における距離を「D1」とし、第2接合層54と回路部30bとの間のX軸方向における距離を「D2」とすると、距離D2は、距離D1よりも小さくてもよい。距離D1は、観察断面において、第1接合層52の回路部30bに最も近い端部と、回路部30bの回路部30aに最も近い端部との間のX軸方向における最短距離である。距離D2は、観察断面において、第2接合層54の回路部30bに最も近い端部と、回路部30bの回路部30aに最も近い端部との間のX軸方向における最短距離である。距離D1と距離D2との差分(D1-D2)は、2μmよりも大きくてもよい。距離D1と距離D2との差分は、3μm以上、4μm以上、又は、5μm以上であってもよい。距離D1と距離D2との差分は、25μm以下であってもよい。
【0029】
距離D1及び距離D2それぞれの値は、Y軸方向における位置が互いに異なるように任意に選択される5箇所の観察断面(5視野)で測定される距離の算出平均値である。5箇所それぞれは、例えば、Y軸方向において回路部30aを均等に5分割したときの各領域において選択される。距離D1及び距離D2は、同じ5箇所の観察断面で測定されてもよい。上述の延出部58のX軸方向における長さ、及び、延出部58の厚さについても、5箇所の観察断面で測定される測定値の算術平均値である。
【0030】
金属被膜60は、金属体40を覆う被膜である。金属被膜60は、例えば、金属回路板30(セラミック複合基板10)の熱膨張率を調節して、耐熱サイクルを向上させる目的、又は、金属体40の錆びの発生(酸化)を抑制する目的で形成される。金属被膜60は、メッキ法、又は、スパッタ法によって形成されてもよい。金属被膜60は、例えば、無電解メッキによって形成された金属メッキである。
【0031】
金属被膜60は、Z軸方向から表面20Aを見て、金属体40の上面42及び側面44を覆っている。金属被膜60は、金属体40の上面42及び側面44に加えて、接合体50の延出部を覆っている。金属被膜60が接合体50の延出部58を覆っている状態では、Z軸方向から表面20Aを見て、金属被膜60が、少なくとも延出部58の上面を覆っている。金属被膜60は、銀を除く金属によって構成されていてもよい。金属被膜60を構成する金属は、金属体40を構成する金属と異なっていてもよい。金属被膜60を構成する材料は、例えば、ニッケル、金、ニッケル合金、又は、金合金である。ニッケル合金(ニッケルを主成分とする合金)は、例えば、ニッケル-リン合金、又は、ニッケル-ホウ素合金である。
【0032】
上述した例では、距離D2が距離D1よりも小さく、延出部58において、第1接合層52に比べて、第2接合層54がより外にはみ出している。そのため、第2接合層54のうちの上面が露出する部分において、第2接合層54上に金属被膜60が形成される。これにより、金属被膜60には、第1接合層52のうちの回路部30bに対向する側面(側方)を覆うように形成された部分(以下、「側方部分62」という。)が含まれる。第1接合層52のうちの回路部30bに対向する側面(側方)は、金属被膜60がないと仮定したときに、X軸方向に沿って回路部30bから回路部30aを見た場合に露出する部分である。
【0033】
金属被膜60の側方部分62は、第2接合層54のうちの第1接合層52よりもはみ出す部分に重なっている。X軸方向に沿って、回路部30bから回路部30aに向かう方向に回路部30aを見たときに、側方部分62は、第1接合層52の回路部30bを向く側面の少なくとも一部に重なっている。観察断面の位置に応じて、側方部分62は、第1接合層52の側面に接触していてもよく、側方部分62と第1接合層52の側面との間に金属体40の一部が存在していてもよい。
【0034】
観察断面において、側方部分62の回路部30bに近い端部と、第1接合層52の回路部30bに近い端部との間のX軸方向における距離(最短距離)を「L」とし、金属被膜60の厚さを「H」としたときに、距離Lは、厚さHよりも大きい。距離Lは、厚さHの1.2倍以上、厚さHの1.4倍以上、又は、厚さHの1.6倍以上であってもよい。距離Lは、厚さHの5倍以下であってもよい。
【0035】
距離Lの値及び厚さHの値それぞれは、上述の距離D1,D2と同様に測定される。すなわち、距離L及び厚さHそれぞれの値は、Y軸方向における位置が互いに異なるように任意に選択される5箇所の観察断面(5視野)で測定される測定値の算出平均値である。距離L及び厚さHは、同じ5箇所の観察断面で測定されてもよい。1つの観察断面における厚さHの測定値は、金属体40の側面44を覆う領域において、金属体40の厚み方向での中央付近(中央及びその近傍)の位置で測定される。
【0036】
距離L(平均値)は、2μmよりも大きくてもよい。距離Lは、3μm以上、5μm以上、又は、7μm以上であってもよい。距離Lは、20μm以下であってもよい。厚さH(平均値)は、2μm以上であってもよい。厚さHは、3μm以上、4μm以上、又は、5μm以上であってもよい。厚さHは、10μm以下であってもよい。
【0037】
回路部30bは、回路部30aと同様に、金属体40と、接合体50と、金属被膜60と、を含む。回路部30bの金属体40、接合体50、及び金属被膜60は、回路部30aの金属体40、接合体50、及び金属被膜60と同様に形成されていてもよい。回路部30bの接合体50における第2接合層54と回路部30aとの間のX軸方向における距離は、回路部30bの接合体50における第1接合層52と回路部30aとの間のX軸方向における距離よりも小さくてもよい。裏面20Bにおいても、金属回路板30と同様に構成された金属回路板が形成されてもよい。
【0038】
図3(a)及び図3(b)それぞれには、任意に選択された観察断面において得られたSEM像(倍率:1000倍)が示されている。図3(a)に示されるSEM像においては、延出部58の側面(側方)が金属被膜60の側方部分62に接触した状態で覆われている。この場合、上記距離Lは、側方部分62のX軸方向(画像上の横方向)における長さに相当する。また、第1接合層52は、不連続に形成されている。
【0039】
図3(b)に示されるSEM像においては、第1接合層52が、金属体40とセラミック板20との間からはみ出しておらず、第2接合層54が、金属体40とセラミック板20との間からはみ出している。X軸方向において、側方部分62と第1接合層52との間には金属体40の一部が存在している。この場合、上記距離Lは、側方部分62のX軸方向における長さよりも大きい。
【0040】
[セラミック複合基板の製造方法]
続いて、セラミック複合基板の製造方法の一例を説明する。セラミック複合基板の製造方法は、セラミック板の作製工程と、金属回路板の形成工程とを含む。セラミック板20を作製する工程では、まず、セラミックスの粉末、焼結助剤、バインダ樹脂、及び溶媒を含むスラリーを成形してグリーンシートを得る工程を行う。上記スラリーは、可塑剤、及び分散剤等を含んでもよい。
【0041】
セラミックスの粉末は、例えば、窒化ケイ素粉末、又は窒化アルミニウム粉末である。焼結助剤としては、希土類元素の、酸化物、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物等)、硝酸塩、及び硫酸塩、並びに、アルカリ土類金属の、酸化物、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物)、硝酸塩、及び硫酸塩等が挙げられる。これらは一種のみ用いてもよいし二種以上を併用してもよい。バインダ樹脂の例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、及び(メタ)アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0042】
可塑剤の例としては、精製グリセリン、グリセリントリオレート、ジエチレングリコール、ジ-n-ブチルフタレート等のフタル酸系可塑剤、及び、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル等の二塩基酸系可塑剤等が挙げられる。分散剤の例としては、ポリ(メタ)アクリル酸塩、及び(メタ)アクリル酸-マレイン酸塩コポリマーが挙げられる。溶媒としては、エタノール及びトルエン等の有機溶媒が挙げられる。スラリーの成形方法の例としては、ドクターブレード法及び押出成形法が挙げられる。
【0043】
次に、成形して得られたグリーンシートを脱脂して焼成する工程を行う。脱脂は、例えば、400℃~800℃で、0.5時間~20時間加熱して行ってよい。これによって、無機化合物の酸化及び劣化を抑制しつつ、有機物(炭素)の残留量を低減することができる。焼成は、窒素、アルゴン、アンモニア又は水素等の非酸化性ガス雰囲気下、1700℃~1900℃に加熱して行う。これによって、セラミック板20を得ることができる。
【0044】
上述の脱脂及び焼成は、グリーンシートを複数積層した状態で行ってもよい。積層して脱脂及び焼成を行う場合、焼成後の基材の分離を円滑にするため、グリーンシート間に離型剤による離型層を設けてよい。離型剤としては、例えば、窒化ホウ素(BN)を用いることができる。積層するグリーンシートの枚数は、例えば5枚~100枚であってよく、10枚~70枚であってもよい。
【0045】
セラミック板20の作製後、金属回路板の形成工程が行われる。金属回路板30を形成する工程では、最初に、セラミック板20と、一対の金属板とを用いて中間体18を得る工程が行われる。具体的には、まず、セラミック板20の表面20A及び裏面20Bそれぞれに接合材(例えば、ろう材)を塗布し、表面20A及び裏面20Bに一対の金属体40Mを貼り合わせる。一対の金属体40Mは、セラミック板20と同様の平板形状であってもよい。金属体40Mは、上述した金属体40の母材である。
【0046】
接合材は、セラミック板20の表面20A及び裏面20Bそれぞれに、ロールコーター法、スクリーン印刷法、又は転写法等の方法によって塗布される。接合材がろう材である場合、ろう材は、例えば、銀粉末、銅粉末、スズ粉末及び活性金属又はその化合物(水素化物)の粉末、有機溶媒、及びバインダ等を含有する。銀粉末と銅粉末の合計100質量部に対するスズ粉末の含有量は0.5質量部~5.0質量部であってよい。銀粉末と銅粉末の合計100質量部に対する金属水素化物の粉末の含有量は1質量部~8質量部であってよい。ろう材の粘度は、例えば5Pa・s~20Pa・sであってよい。ろう材における有機溶媒の含有量は、例えば、5質量%~25質量%であってもよく、バインダの含有量は、例えば、2質量%~15質量%であってよい。
【0047】
接合材が塗布されたセラミック板20の表面20A及び裏面20Bに、一対の金属体40Mを重ね合わせることで積層体が得られる。そして、この積層体を加熱炉で焼成する焼成工程が行われる。焼成時の炉内温度(焼成温度)は、例えば、750℃以上である。焼成温度は、750℃~950℃であってよく、780℃~900℃であってもよい。上記焼成温度で保持する時間(焼成時間)は、10分間~180分間であってもよく、15分間~90分間であってもよい。焼成時の加熱炉内の雰囲気は窒素等の不活性ガス下であってよく、大気圧未満の減圧下(1.0×10-3Pa以下)であってもよく、真空下であってもよい。
【0048】
以上の工程によって、セラミック板20の表面20A及び裏面20Bに、それぞれ接合体50Mを介して金属体40Mが接合された状態の中間体18を得ることができる。図4(a)には、中間体18の断面が模式的に示されている。上記積層体の焼成により、接合材(接合体50M)は、第1接合層52Mと第2接合層54Mとに分離される。第1接合層52M(銀接合層)は上述した第1接合層52の母材であり、第2接合層54Mは上述した第2接合層54の母材である。図4(a)以降の図では、セラミック板20の裏面20Bに形成される金属回路板(金属板及び接合体)が省略されている。
【0049】
次に、回路部30a等の各回路部を形成する予定の領域をマスキングする工程が行われる。例えば、図4(b)に示されるように、回路部30a等の各回路部を形成する予定の領域にエッチングレジスト70が印刷される。エッチングレジスト70が形成されていない領域に位置する金属体40Mの一部は、露出している。
【0050】
次に、金属体40Mのうちエッチングレジスト70で覆われていない領域をエッチングする工程が行われる。例えば、エッチング液として、塩化第2銅、塩酸、及び過酸化水素を含有する混合溶液が用いられて、金属体40Mに対するエッチングが行われる。これにより、図4(c)に示されるように、金属体40Mのうちのエッチングレジスト70で覆われていない領域が除去され、接合体50Mの第1接合層52Mの一部が露出する。除去後に分離された金属体40Mにおいて、エッチングレジスト70に覆われていない傾斜面が形成されてもよい。
【0051】
次に、接合体50Mの第1接合層52Mをエッチング(薬液処理)する工程が行われる。例えば、エッチング液として、チオ硫酸ナトリウムを含有する薬液が用いられて、第1接合層52Mに対するエッチングが行われる。これにより、図4(d)に示されるように、第1接合層52Mのうちの露出する部分の少なくとも一部が除去され、接合体50Mの第2接合層54Mの一部が露出する。第1接合層52Mの露出部分の除去後において、第1接合層52Mの端部及びその近傍が、金属体40Mとセラミック板20との間から外にはみ出していてもよい。
【0052】
次に、接合体50Mの第2接合層54Mをエッチング(薬液処理)する工程が行われる。例えば、エッチング液として、過酸化水素及びフッ化アンモニウムを含有する混合溶液が用いられて、第2接合層54Mに対するエッチングが行われる。これにより、図5(a)に示されるように、第2接合層54Mのうちの露出する部分の少なくとも一部が除去され、セラミック板20の表面20Aの一部が露出する。第2接合層54Mの露出部分の除去後において、第2接合層54Mの端部及びその近傍が、金属体40Mとセラミック板20との間から外にはみ出していてもよい。第1接合層52Mのはみ出し量と、第2接合層54Mのはみ出し量とが、略一致していてもよい。
【0053】
次に、金属体40Mをエッチングする工程が再度行われる。金属体40Mに対する2回目のエッチングでは、1回目のエッチングと同じ混合溶液が用いられてもよく、2回目での金属体40Mに対するエッチングの時間が1回目よりも短くてもよい。これにより、図5(b)に示されるように、金属体40Mの側方に位置する部分が更に除去され、回路部30a等の回路部を構成する金属体40が形成される。また、第1接合層52M及び第2接合層54M(第2接合層54)のはみ出し量が増加する。
【0054】
次に、第1接合層52Mをエッチングする工程が再度行われる。第1接合層52Mに対する2回目のエッチングでは、1回目のエッチングと同じ薬液が用いられてもよい。これにより、回路部30a等の回路部を構成する第1接合層52が形成される。図5(c)に示されるように、第1接合層52の端部の少なくとも一部が、金属体40とセラミック板20との間からはみ出した状態が維持されるように、第1接合層52Mに対する2回目のエッチングが行われてもよい。第2接合層54Mに対しては2回目のエッチングが行われないので、第2接合層54Mに対する上記エッチングによって、回路部30a等の回路部を構成する第2接合層54が形成されている。
【0055】
ここで、エッチング後、且つ金属被膜60が形成される前において、金属体40及び接合体50によって構成される部分も「回路部」と称する。回路部30aに対応する金属体40及び接合体50によって構成される部分を「回路部32a」とし、回路部30bに対応する金属体40及び接合体50によって構成される部分を「回路部32b」とする。以上のエッチング工程では、X軸方向に沿って互いに間隔を空けた状態の回路部32a及び回路部32bが形成されるように、金属体40Mの一部及び接合体50Mの一部のエッチングが行われる。以上のエッチング工程のように、回路部32aを構成する第2接合層54Mの一部(第2接合層54)と回路部32bとの間のX軸方向における距離D4が、回路部32aを構成する第1接合層52Mの一部(第1接合層52)と回路部32bとの間のX軸方向における距離D3よりも小さくなるように、金属体40Mの一部及び接合体50Mの一部が除去されてもよい。
【0056】
距離D3は、回路部32a(第1回路部)の第1接合層52における回路部32b(第2回路部)に最も近い端部と、回路部32bの回路部32aに最も近い端部との間のX軸方向における距離で定義される。距離D4は、回路部32aの第2接合層54における回路部32bに最も近い端部と、回路部32bの回路部32aに最も近い端部との間のX軸方向における距離で定義される。なお、金属体40M及び接合体50Mに対するエッチング工程は、どのように行われてもよい。金属体40M及び接合体50Mに対するエッチング工程が行われた後に、エッチングレジスト70の除去が行われる。エッチングレジスト70の除去は、公知のいずれかの方法によって行われてもよい。
【0057】
次に、金属体40(金属体40Mの一部)の表面を覆うように金属被膜60を形成する工程が行われる。例えば、無電解メッキによって、ニッケル等の金属のメッキ被膜が金属体40の上面42及び側面44を覆うように形成される。金属被膜60を形成する工程では、接合体50のうちの金属体40及びセラミック板20との間から外にはみ出す延出部も覆うように金属被膜60が形成される。無電解メッキが行われる場合、延出部において、第2接合層54が第1接合層52に比べて、より外にはみ出しているので、第2接合層54の上に金属成分が析出される。これにより、第1接合層52の側方を覆う上記側方部分62が形成される。露出する表面20Aには、無電解メッキにおいて金属成分が析出されない。以上の工程により、図1及び図2に示されるセラミック複合基板10が製造される。
【0058】
[実施形態の効果]
本開示の一側面に係るセラミック複合基板10は、セラミック板20と、セラミック板20の表面20Aに設けられた回路部30aと、X軸方向に沿って回路部30aとの間に間隔を空けた状態で、表面20Aに設けられた回路部30bと、を備える。回路部30aは、表面20Aに設けられた接合体50と、接合体50を介して表面20Aに接合された金属体40と、金属体40の表面20A及び接合体50のうちの金属体40からはみ出す部分を覆うように形成された金属被膜60と、を有する。接合体50は、金属体40に接合され、銀の含有量が50質量%以上である第1接合層52を含む。金属被膜60は、第1接合層52のうちの回路部30bに対向する側面を覆うように形成された側方部分62を含む。上記側方部分62の回路部30bに近い端部と、第1接合層52の回路部30bに近い端部との間のX軸方向における距離Lは、金属被膜の厚さHよりも大きい。
【0059】
高温又は高湿度の環境下において、互いに離れた状態で並ぶ一対の回路部に電圧が印加されると、金属体を接合するための接合体に含まれる銀成分に由来して、絶縁性が低下する懸念がある。絶縁性が低下する要因としては、一対の回路部の間において、銀成分が析出されて、一対の回路部の間の抵抗値が低下してしまうことが考えられる。これに対して、セラミック複合基板10では、上記距離Lが金属被膜60の厚さHよりも大きいので、回路部30aの第1接合層52と回路部30bとの間に、銀成分の析出を抑制できる程度に十分な量の金属被膜が形成されている。従って、回路部30a及び回路部30bの間の絶縁性を向上させることが可能となる。
【0060】
距離Lは2μmよりも大きくてもよい。厚さHは2μm以上であってもよい。この場合、回路部30aの第1接合層52と回路部30bとの間に形成される側方部分62のX軸方向における長さが、2μmよりも大きい。そのため、第1接合層52からの銀成分の析出を一層抑制できる量の金属皮膜が、回路部30aの第1接合層52の側方に形成されている。従って、回路部30a及び回路部30bの間の絶縁性を更に向上させることが可能となる。
【0061】
セラミック板20は、窒化ケイ素又は窒化アルミニウムを含有してもよい。金属被膜60は、ニッケル又は金を含有してもよい。ニッケル又は金を含有する金属被膜60が第1接合層52の側方に存在することにより、銀成分の析出が抑制され得る。従って、上記構成により、回路部30a及び回路部30bの間の絶縁性の維持に有用である。
【0062】
本開示の一側面に係るセラミック複合基板10の製造方法は、セラミック板20の表面20Aに接合体50Mを介して金属体40Mが接合された状態の中間体18であって、接合体50Mが、金属体40Mに接合され、銀の含有量が50質量%以上である第1接合層52Mを含む、中間体18において、X軸方向に沿って互いに間隔を空けた状態の回路部32a及び回路部32bを形成するように、金属体40Mの一部及び接合体50Mの一部のエッチングを行う工程と、エッチングを行う工程の後に、回路部32aを構成する金属体40Mの一部(金属体40)の表面を覆い、且つ、回路部32aを構成する第1接合層52Mの一部(第1接合層52)のうちの回路部32bに対向する側面を覆う側方部分62が形成されるように金属被膜60を形成する工程と、を含む。金属被膜60に含まれる側方部分62の回路部32bに近い端部と、回路部32aを構成する第1接合層52Mの一部(第1接合層52)の回路部32bに近い端部との間のX軸方向における距離Lが、金属被膜60の厚さHよりも大きい。この製造方法では、上記距離Lが金属被膜60の厚さHよりも大きいので、回路部32aの第1接合層52と回路部32bとの間に、銀成分の析出を抑制できる程度に十分な量の金属被膜を形成されている。従って、回路部32a及び回路部32bの間の絶縁性を向上させることが可能となる。
【実施例
【0063】
続いて、実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例)
Ag-Cu-Ti-Sn系ろう材を準備した。準備したろう材での配合比は、Ag85質量%、Cu9質量%、Ti3質量%、Sn3質量%であった。市販の窒化ケイ素基板(厚み:0.32mm)の両方の主面に、上記ろう材をスクリーン印刷法で塗布した。窒化ケイ素板の両方の主面上にそれぞれ銅板(厚さ:0.3mm)を重ねて積層体を得た。電気炉を用いて、真空雰囲気中、積層体を800℃の炉内温度で40分間加熱して、ろう材粉末を融解させて、セラミック板と銅板とを接合した(焼成工程)。そして、平均10℃/分の降温速度で炉内温度を600℃まで冷却した。その後、加熱を停止し、窒素雰囲気中で室温まで自然冷却した。このようにして、セラミック板と一対の金属板とが上記ろう材から得られる接合体を介して接合された中間体を作製した。
【0065】
次に、作製した中間体における銅板の両方の主面の所定領域にエッチングレジストを印刷し、露光装置を用いて銅板の主面に所定形状を有するレジストパターンを形成した。そして、塩化第2銅、塩酸、及び過酸化水素を含有する混合溶液を用いて銅板のエッチングを行った。その後、チオ硫酸ナトリウムを含有する薬液を用いて、接合体の銀を主成分とする第1接合層のエッチングを行った。さらに、過酸化水素及びフッ化アンモニウムを含有する混合溶液を用いて、第2接合層のエッチングを行った。銅板及び接合体に対するエッチングでは、第1接合層に比べて、第2接合層の方がより外にはみ出すように、各種工程の実行回数、及び各エッチングでの条件を調整した。次に、無電解メッキにより、ニッケル(Ni)のメッキ被膜を、上記距離Lが上記厚さHよりも大きくなり、金属体の表面及び接合体のうちの金属体からはみ出す部分を覆うように形成した。以上の工程の少なくとも一部を繰り返して、実施例に係るセラミック複合基板10として、5個の個体を準備した。
【0066】
(比較例)
ニッケルのメッキ被膜を形成しなかったこと以外は、上記実施例と同様にして、セラミック複合基板を作製した。比較例に係るセラミック複合基板として、5個の個体を準備した。なお、実施例及び比較例に係る複合基板として、第1回路部を含む第1電極と、第2回路部を含む第2電極とが形成されたくし型電極付きのセラミック複合基板を準備した。
【0067】
第1回路部と、その第1回路部に隣り合う第2回路部との間の絶縁性を評価した。実施例及び比較例の双方において、第1回路部と第2回路部との間の距離は、0.5mmであった。高温高湿槽において、85℃及び93%RHの雰囲気下で、第1回路部を含む第1電極と第2回路部を含む第2電極との間にDC(直流)1kVの電圧を印加し続けて、第1電極と第2電極との間の絶縁抵抗値が1×10Ω以下となる時間を測定した。測定時間の上限は、500時間とした。5個の個体を評価した結果を表1に示す。なお、厚さHが4μmであり、距離Lが8μmであり、距離D1と距離D2との差分が8μmであった。また、第1接合層52における銀の含有量は、90質量%であった。
【0068】
【表1】
【0069】
表1において、「A」、「B」、及び「C」の意味は、下記のとおりである。A判定、B判定、及びC判定の順に、絶縁性が維持されていることを表す。
A:電圧の印加開始時刻から500時間超えた後も、絶縁抵抗値が1×10Ωよりも大きい値に維持された。
B:電圧の印加開始時刻から100時間~500時間の間に、絶縁抵抗値が1×10Ω以下に低下した。
C:電圧の印加開始時刻から100時間未満で、絶縁抵抗値が1×10Ω以下に低下した。
【0070】
表1に示されるように、実施例の5個の評価用の複合基板では、全ての複合基板に関して絶縁性の評価がA判定であった。比較例の5個の評価用の複合基板では、1個の複合基板での絶縁性の評価がB判定であり、4個の複合基板での絶縁性の評価がC判定であった。以上の評価結果から、距離Lが厚さHよりも大きくなるように金属被膜を形成することで、絶縁性が向上することがわかる。
【符号の説明】
【0071】
10…セラミック複合基板、20…セラミック板、30…金属回路板、30a,30b,30c…回路部、40…金属体、50…接合体、52…第1接合層、54…第2接合層、60…金属被膜、62…側方部分、18…中間体、32a,32b…回路部、40M…金属体、50M…接合体、52M…第1接合層、54M…第2接合層。

【要約】
本開示の一側面に係るセラミック複合基板は、セラミック板と、セラミック板の主面に設けられた第1回路部と、所定方向に沿って第1回路部との間に間隔を空けた状態で、主面に設けられた第2回路部と、を備える。第1回路部は、主面に設けられた接合体と、接合体を介して主面に接合された金属体と、金属体の表面及び接合体のうちの金属体からはみ出す部分を覆うように形成された金属被膜と、を有する。接合体は、金属体に接合され、銀の含有量が50質量%以上である銀接合層を含む。金属被膜は、銀接合層のうちの第2回路部に対向する側面を覆うように形成された側方部分を含む。上記側方部分の第2回路部に近い端部と、銀接合層の第2回路部に近い端部との間の所定方向における距離Lは、金属被膜の厚さHよりも大きい。
図1
図2
図3
図4
図5