(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】摩耗検出センサおよびこれを備えたローラーカッター
(51)【国際特許分類】
G01B 7/00 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
G01B7/00 W
(21)【出願番号】P 2023080432
(22)【出願日】2023-05-15
【審査請求日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2022130704
(32)【優先日】2022-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000137340
【氏名又は名称】株式会社マコメ研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】522329984
【氏名又は名称】永原 忠之
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 栄作
(72)【発明者】
【氏名】永原 忠之
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-311717(JP,A)
【文献】特開2000-329510(JP,A)
【文献】特表2008-504136(JP,A)
【文献】特開2006-242710(JP,A)
【文献】特開平07-029466(JP,A)
【文献】実開昭60-179803(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気抵抗の変化に基づいて強磁性体であるカッターの刃先の摩耗を検出する摩耗検出センサであって、
前記カッターの回転軸に略平行で前記カッターの刃先に近接対向して検出面となる外底面を有する有底円筒状の非磁性金属ケースと該非磁性金属ケースの開口を覆う蓋板とからなる防水構造の筐体と、
該筐体の内部に収容されて前記検出面と略平行な開放面で磁路を開放する強磁性体コアと、
該強磁性体コアに巻回されて前記強磁性体コアと一体化したコイルと、
前記カッターの刃先と前記検出面との間の距離の変化に基づく前記磁気抵抗の変化に対応した前記コイルのインダクタンス変化を発振周波数変化に変換する発振回路と該発振回路の発振周期を計数して計測値を求める計数回路と該計数回路から得た計数値をシリアル信号に変換して伝送するインターフェイス回路とを有して前記筐体と絶縁した状態で前記筐体の内部に収容されるセンサ基板と、
前記筐体の内部に収容されて前記強磁性体コアの側面と底面とを覆い比透磁率が前記強磁性体コアの比透磁率および前記筐体の比透磁率よりも大きい強磁性金属製の磁気シールドカバーとを備え
、
前記センサ基板と導通する静電シールド板が、前記筐体の非磁性金属ケースの内底面と前記強磁性体コアの開放面との間に配置され、
前記静電シールド板が、絶縁体層と、該絶縁体層に積層されて前記強磁性体コアの開放面と対向する非磁性金属からなる電極層とを有し、
前記静電シールド板の電極層が、前記センサ基板の接地電極と導通する環状接地電極と、該環状接地電極と一端のみが導通する線状電極とから形成され、
前記静電シールド板の環状接地電極の内径が、前記強磁性体コアの外径よりも大きいことを特徴とする摩耗検出センサ。
【請求項2】
前記静電シールド板の環状接地電極の内径が、前記磁気シールドカバーの外径よりも大きいことを特徴とする請求項
1に記載の摩耗検出センサ。
【請求項3】
前記静電シールド板の環状接地電極が、前記磁気シールドカバーと導通していることを特徴とする請求項
1または請求項
2に記載の摩耗検出センサ。
【請求項4】
前記センサ基板と前記磁気シールドカバーとを導通する金属製の支柱が、前記センサ基板と前記磁気シールドカバーとの間に設けられていることを特徴とする請求項
1または請求項
2に記載の摩耗検出センサ。
【請求項5】
請求項
1に記載の摩耗検出センサを備えたカッター支持枠と、
該カッター支持枠に回転自在に支持された前記カッターとを備えていることを特徴とするローラーカッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩耗検出センサおよびこれを備えたローラーカッターに関するものであって、特に、磁気抵抗の変化に基づいてカッターの摩耗を検出する摩耗検出センサおよびこれを備えたローラーカッターに関する。
【背景技術】
【0002】
坑道掘削機械の前面で回転して地盤を掘削するカッターヘッドには、複数のローラーカッターが設けられており、各ローラーカッターは回転可能なカッターを有している。
このカッターは、地盤の切削に伴い経時的に摩耗や損傷を受けるため、ある程度カッターが損耗した場合は、これを交換する必要がある。
カッターの交換には煩雑で大掛かりな工事を伴い、その間は掘削工事が中断されるため、工期やコストの観点からカッターの交換頻度はなるべく少ないほうが良い。
逆に交換頻度が少なすぎると、カッターが許容範囲を超えて損耗されることによって掘進速度や掘削効率が著しく低下し、しかもカッターばかりかカッターヘッドの面板等も異常摩耗して、修復が困難になったり、その後の掘進工事に支障を来すことになったりして、結果的に工事の遅延や大幅なコスト上昇を招く。
【0003】
したがって、カッターの摩耗状況は地上から常時把握し、その交換時期を的確に決定する必要がある。
カッターの摩耗状況を把握するために従来は特許文献1及び特許文献2に記載の技術があった。
【0004】
特許文献1には、カッター外周の刃先に近接して配置した高周波渦電流センサを用いて、コイルから高周波磁界を与えてカッターの刃先に渦電流を発生させる動作原理によりカッターの摩耗を検出する技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、磁気センサと磁石とで構成され、磁石とカッター刃先との距離がカッターの摩耗度合いに応じて変化することを磁界の変化として磁気センサで検出する方式の摩耗検出センサの技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-311717号公報
【文献】特開2003-307095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された技術はコイルから高周波磁界を与えてカッターの刃先に渦電流を発生させる動作原理に基づくものであるため、コイルの検出面を保護する目的で金属製のカバーを使用することはできない。
さらに、コイルの検出面がゴムまたは樹脂板で覆われる構造になっており、地盤あるいは岩盤を掘削した掘削土(ズリ)によって検出面が摩耗または破損し易く、センサとしての耐久性が劣るという問題がある。
【0008】
特許文献2に開示された技術は磁気センサと磁石とで構成された摩耗検出センサを備えているが、摩耗検出センサに磁石を使用するため、切削ズリに混じった砂鉄やカッターから削り落ちた鉄粉などが摩耗検出センサの検出面に付着堆積して検出精度が低下するという問題がある。
さらに、砂鉄や鉄粉の堆積は経時的に増加するため、カッターの摩耗量が実際より少ない方向に誤差が増加してカッターの交換時期を誤り、危険性が増大するという問題がある。
【0009】
また、回転するカッターヘッドに取り付けられたカッターは、地盤の掘削に伴い自身も回転する。
切削ズリの挟み込みや回転軸の破損などによってカッターが固着すると、カッターが著しく損耗してカッターとしての機能を果たせなくなる。
したがって、カッターの固着を早期に発見してカッターを速やかに交換することは重要であるが、特許文献1及び特許文献2では、カッターの回転を検出するセンサが別途必要となる。
回転を検出する方法は、カッター側に磁石を埋め込み磁気近接スイッチで検出するのが一般的である。
このようにカッターの健全性をモニターするためには摩耗検出センサの他に回転検出センサを設置する必要があるが、摩耗検出センサの他に回転検出センサを設置すると、コストが増大するといった問題や、センサの設置スペース確保の問題がある。
また全てのカッターに回転検出用の磁石を埋め込まない場合には、通常のカッターと回転検出用に磁石を埋め込んだカッターの2種類のカッターを用意する必要があり、在庫や予備品の管理が煩雑となるという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、磁石を使用せず、かつ、耐久性がある構造にでき、経時的な精度低下を来さないと共に、カッターの回転状態や交換時期を的確に判断できる摩耗検出センサを提供することである。
そして、更なる本発明の目的は、強磁性体コアの側面から漏れ出る漏れ磁束が筐体の外部に漏れ出ることを防ぎ、強磁性体コアの側面から検出面へ漏れ出る漏れ磁束によるコイルのインダクタンス変化を抑制してカッターの刃先の摩耗検出精度が向上する摩耗検出センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、磁気抵抗の変化に基づいて強磁性体であるカッターの刃先の摩耗を検出する摩耗検出センサであって、前記カッターの回転軸に略平行で前記カッターの刃先に近接対向して検出面となる外底面を有する有底円筒状の非磁性金属ケースと該非磁性金属ケースの開口を覆う蓋板とからなる防水構造の筐体と、該筐体の内部に収容されて前記検出面と略平行な開放面で磁路を開放する強磁性体コアと、該強磁性体コアに巻回されて前記強磁性体コアと一体化したコイルと、前記カッターの刃先と前記検出面との間の距離の変化に基づく前記磁気抵抗の変化に対応した前記コイルのインダクタンス変化を発振周波数変化に変換する発振回路と該発振回路の発振周期を計数して計測値を求める計数回路と該計数回路から得た計数値をシリアル信号に変換して伝送するインターフェイス回路とを有して前記筐体と絶縁した状態で前記筐体の内部に収容されるセンサ基板と、前記筐体の内部に収容されて前記強磁性体コアの側面と底面とを覆い比透磁率が前記強磁性体コアの比透磁率および前記筐体の比透磁率よりも大きい強磁性金属製の磁気シールドカバーとを備え、前記センサ基板と導通する静電シールド板が、前記筐体の非磁性金属ケースの内底面と前記強磁性体コアの開放面との間に配置され、前記静電シールド板が、絶縁体層と、該絶縁体層に積層されて前記強磁性体コアの開放面と対向する非磁性金属からなる電極層とを有し、前記静電シールド板の電極層が、前記センサ基板の接地電極と導通する環状接地電極と、該環状接地電極と一端のみが導通する線状電極とから形成され、前記静電シールド板の環状接地電極の内径が、前記強磁性体コアの外径よりも大きいことにより、前述した課題を解決するものである。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載された摩耗検出センサの構成に加えて、前記静電シールド板の環状接地電極の内径が、前記磁気シールドカバーの外径よりも大きいことにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載された摩耗検出センサの構成に加えて、前記静電シールド板の環状接地電極が、前記磁気シールドカバーと導通していることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1または請求項2に記載された摩耗検出センサの構成に加えて、前記センサ基板と前記磁気シールドカバーとを導通する金属製の支柱が、前記センサ基板と前記磁気シールドカバーとの間に設けられていることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項1に記載の摩耗検出センサを備えたカッター支持枠と、該カッター支持枠に回転自在に支持された前記カッターとを備えていることにより、前述した課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明の摩耗検出センサによれば、検出面で磁路が開放される強磁性体コアと一体のコイルと、このコイルのインダクタンス変化を発振周波数変化に変換する発振回路と、この発振回路の発振周期を計数して計測値を求める計数回路と、が非磁性金属ケース内に一体で収められていることにより、磁石を使用せず、かつ切削ズリによる摩耗と衝撃から保護されて耐久性がある構造にでき、経時的な精度低下を来さないと共に、カッターの回転状態や交換時期を的確に判断できる。
また、摩耗検出センサにカッターに特別な細工を施すこと無くカッターの回転を検出できる機能を備えることもできる。
【0018】
強磁性体コアは、コイルから発生する磁束が検出面前面に集中するように自身の磁路が形成されている。
検出面から前方に形成される空間の磁路は非磁性金属ケースを貫き検出対象であるカッターの刃先を通って再び検出面に一巡して閉じた磁路が形成される。
このとき、検出面が非磁性金属で覆われているが、非磁性金属は空気に準じて磁気抵抗が大きいため、磁路を乱さない。
また、請求項1に係る発明の摩耗検出センサは、検出面で磁路が開放される強磁性体コアと一体となったコイルを有しているため、周囲の金属の影響を受けずにカッターの刃先を効率よく検出できる。したがって、カッターの回転状態や交換時期を的確に判断できる。
【0019】
このように請求項1に係る発明の摩耗検出センサは、カッターの刃先が摩耗すると磁路の磁気抵抗が変化し、この磁気抵抗の変化に対応してコイルのインダクタンスが変化する物理現象の効果を用いるため、渦電流による効果の影響が無く、また、コイルの検出面が非磁性金属で覆われるため、切削ズリによる摩耗と衝撃から保護されて耐久性が高いという特徴を持つ。
また、コイルから発生する磁界は微弱であり、かつ磁石を用いていないため、検出面に砂鉄や鉄粉が吸着または堆積することが無く、検出精度が高く経時的な特性変化が無い。
したがって、請求項1に係る発明の摩耗検出センサによれば、カッターの回転状態や交換時期を的確に判断できる。
【0020】
このように、請求項1に係る発明の摩耗検出センサによれば、カッターの摩耗状況を正確に把握してカッターの交換時期を的確に判断することができる。
またカッターの摩耗状況とカッターの回転状況を一つのセンサで検出できるようになり、従来別途必要であった回転検出センサが不要となったことから、センサ設置に係る配線、保護養生、取り付け費用、取り付け部の加工費用などの工数、費用、管理が半減する。
更にカッターの回転を検出するためにカッターに特別な細工をする必要が無いため、特別なカッターを用意する必要がなくなり、在庫や予備品の管理が軽減して、使い回しのローテーションも可能なことから全体的に大幅なコスト削減ができる。
【0021】
さらに、請求項1に係る発明の摩耗検出センサによれば、筐体の内部に収容されて強磁性体コアの側面と底面とを覆う強磁性金属製の磁気シールドカバーを備えていることにより、強磁性体コアの側面から漏れ出る漏れ磁束による渦電流が磁気シールドカバー内を流れ、強磁性体コアの側面から漏れ出る漏れ磁束が磁気シールドカバー内に発生する渦電流によって反射されるだけでなく磁気シールドカバーの比透磁率が強磁性体コアの比透磁率および筐体の比透磁率よりも大きいことにより、強磁性体コアの側面から漏れ出る漏れ磁束が磁気シールドカバーの側壁を貫きにくくなるため、強磁性体コアの側面から漏れ出る漏れ磁束が筐体の外部に漏れ出ることを防ぎ、強磁性体コアの側面から開放面へ漏れ出る漏れ磁束によるコイルのインダクタンス変化を抑制してカッターの刃先の摩耗検出精度を向上させることができる。
【0022】
また、請求項1に係る発明の摩耗検出センサによれば、静電シールド板の電極層が、センサ基板の接地電極と導通する環状接地電極と、この環状接地電極と一端のみが導通する線状電極とから形成されていることにより、環状接地電極の内側に金属の閉ループが形成されず環状接地電極の内側で渦電流が発生しないだけでなく静電シールドの環状接地電極の内径が、強磁性体コアの外径よりも大きいことにより、強磁性体コアから発生する磁束の大半が静電シールド板の環状接地電極の内側で鎖交するため、静電シールド板全体に渦電流が流れなくすることができる。
【0023】
請求項2に係る発明の摩耗検出センサによれば、請求項1に係る発明の摩耗検出センサが奏する効果に加えて、静電シールド板の環状接地電極の内径が、磁気シールドカバーの外径よりも大きいことにより、強磁性体コアから発生する磁束がすべて静電シールド板の環状接地電極の内側で確実に鎖交するため、静電シールド板の環状接地電極に渦電流が確実に流れなくなり、コイルのインダクタンス変化に重畳しうるノイズをより確実に低減することができる。
【0024】
請求項3に係る発明の摩耗検出センサによれば、請求項1または請求項2に係る発明の摩耗検出センサが奏する効果に加えて、静電シールド板の環状接地電極が、磁気シールドカバーと導通していることにより、静電シールド板の環状接地電極と磁気シールドカバーとセンサ基板の接地電極とが等電位になるため、コイル全体が静電シールドされて、センサ基板に重畳されるノイズをより一層低減することができる。
【0025】
請求項4に係る発明の摩耗検出センサによれば、請求項1または請求項2に係る発明の摩耗検出センサが奏する効果に加えて、センサ基板と磁気シールドカバーとを導通する金属製の支柱が、センサ基板と磁気シールドカバーとの間に設けられていることにより、支柱がセンサ基板の固定だけでなくセンサ基板と磁気シールドカバーとの導通をさせるため、センサ基板の固定およびセンサ基板と磁気シールドカバーとの導通を簡単な構造で両立させることができる。
【0026】
請求項5に係る発明のローラーカッターによれば、請求項1に記載の摩耗検出センサを備えたカッター支持枠と、このカッター支持枠に回転自在に支持されたカッターとを備えていることにより、強磁性体コアの側面から漏れ出る漏れ磁束による渦電流が磁気シールドカバー内を流れ、強磁性体コアの側面から漏れ出る漏れ磁束が磁気シールドカバー内に発生する渦電流によって反射されるだけでなく強磁性体コアの側面から漏れ出る漏れ磁束が磁気シールドカバーの側壁を貫きにくくなるため、強磁性体コアの側面から漏れ出る漏れ磁束が磁気シールドカバーの外部に漏れ出ることを防ぎ、強磁性体コアの側面から検出面へ漏れ出る漏れ磁束によるコイルのインダクタンス変化を抑制してカッターの刃先の摩耗検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図2D】ローラーカッターディスクの斜視図である。
【
図3C】摩耗検出センサの強磁性体コアの斜視図である。
【
図7】強磁性体コアと被検出対象との間が空間である場合の想定図である。
【
図8】強磁性体コアと被検出対象との間に非磁性金属が存在する場合の想定図である。
【
図9】強磁性体コアと被検出対象との間が空間であり、発振周波数が約10kHzの場合の特性図である。
【
図10】強磁性体コアと被検出対象との間が空間であり、発振周波数が約300Hzの場合の特性図である。
【
図11】強磁性体コアと被検出対象との間に非磁性金属が存在し、発振周波数が約300Hzの場合の特性図である。
【
図13】被検出対象を非磁性金属とした場合の周波数変化の影響を示した特性図である。
【
図14】第1実施形態の摩耗検出センサの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る摩耗検出センサ及び摩耗検出センサを備えたローラーカッターを説明する。
但し、以下に示す実施形態は本発明の技術思想を具体化するための摩耗検出センサ及び摩耗検出センサを備えたローラーカッターを例示するものであって、本発明をこれらに特定するものではなく、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも等しく適用し得るものである。
【0029】
[第1参考形態]
本発明をよりよく理解する第1参考形態に係る摩耗検出センサ及び摩耗検出センサを備えたローラーカッター20について、
図1~
図13を参照して説明する。
【0030】
図1は、カッターヘッド10の正面図である。カッターヘッド10は掘進機の前面にあって回転しながら地盤あるいは岩盤を掘削する。カッターヘッド10は、カッターヘッド10の円周方向(回転方向)に対して直交する方向に回転可能な状態に支持される。カッターヘッド10の掘削面側には、複数のローラーカッター20及び複数の非回転のカッタービット11が取り付けられている。カッターヘッド10は、坑道掘削機械の前面で回転して地盤を掘削する。カッタービット11は固定式であるのに対して、各ローラーカッター20は回転可能なカッター(以下「ローラーカッターディスク21」ということがある。)を有している。
【0031】
カッターヘッド10は、特に限定されるものではないが、1~2分で1回転する程度の速度で回転している。これに対して、ローラーカッターディスク21もカッターヘッド10の回転に対応して地盤あるいは岩盤を掘削しながら回転している。ローラーカッターディスク21はカッターヘッド10の掘削面側の外径側にも内径側にも複数分布して設けられているので、ローラーカッターディスク21の回転速度は、外径側の方が内径側よりも速い速度で回転する。
【0032】
このローラーカッターディスク21は、地盤の切削に伴い経時的に摩耗や損傷を受けるため、ある程度ローラーカッターディスク21が損耗した場合は、これを交換する必要がある。ローラーカッターディスク21は、特に限定されるものではないが例えば60kg程度の重量がある。また、ローラーカッターディスク21はカッターヘッド10の掘削面側に設けられているため、ローラーカッターディスク21の交換のためには、カッターヘッド10に設けられた作業孔(図示省略)から掘削面側へ回り込んでの作業が必要となる。なお、掘削時には作業孔を利用してカッターヘッド10の掘削面側で削られた土砂を外部へ取り出すこともできる。
【0033】
このため、ローラーカッターディスク21の交換には煩雑で大掛かりな工事を伴い、その間は掘削工事が中断される。本参考形態では、ローラーカッターディスク21の摩耗を地上から常時把握することにより、工期やコストとの関係も考慮し、適切な時期にローラーカッターディスク21の交換を行うことにより、ローラーカッターディスク21が許容範囲を超えて損耗されることによって、掘進速度や掘削効率が著しく低下すること、カッターヘッド10の面板等の異常摩耗すること等を防止し、工事の遅延やコストの上昇を防ぐことができる。
【0034】
図2Aは、ローラーカッター20の平面図であり、
図2Bは、
図2Aのローラーカッター20の側面図であり、
図2Cは、
図2Aのローラーカッター20の正面図であり、
図2Dは、ローラーカッターディスク21の斜視図である。
【0035】
ローラーカッター20は、カッター支持枠22にローラーカッターディスク21が回転可能に取り付けられて構成されている。ローラーカッターディスク21は、カッターヘッド10の掘削面側にローラーカッターディスク21の刃先が突出するよう複数配置される。カッター支持枠22のローラーカッターディスク21の回転軸と平行な側面には、摩耗検出センサのセンサ本体部30が設けられている。特に限定されるものではないが、摩耗検出センサのセンサ本体部30は、例えば摩耗度合いをモニターしたい代表的なローラーカッターディスク21に対して複数箇所取り付けられる。センサ本体部30は、カッター支持枠22の側面に穴を開け、センサ本体部30の検出面31がローラーカッターディスク21の刃先に対向するようにカッター支持枠22の外側から固定される。センサ本体部30は、ローラーカッターディスク21の回転軸に平行な検出面31を有しており、この検出面31は、ローラーカッターディスク21の外周の刃先に近接して配置され、ローラーカッターディスク21の摩耗を検出する。
【0036】
ローラーカッターディスク21外周の刃先とセンサ本体部30の検出面31との距離は、特に限定されるものではないが、例えば1mm~50mm程度で適宜設定できる。例えばローラーカッターディスク21の摩耗が20mm程度になった時が交換の目安であることを考慮して、ローラーカッターディスク21外周の刃先とセンサ本体部30の検出面31との距離は使用前のローラーカッターディスク21の刃先との距離は例えば1mm~30mm程度の間で設定することができる。このため、摩耗検出センサとしての検出距離の範囲は、例えば0~50mmに設定される。
【0037】
ローラーカッターディスク21は、回転支持部27を介して、カッター支持枠22に回転可能に支持されている。また、ローラーカッターディスク21は円盤状のシャンク26を有し、円盤状のシャンク26には、ローラーカッターディスク21の外周の刃先部分にチップ25が埋め込まれている。なお、チップ25は必ずしも必須の構成ではなく、本参考形態では、チップ25を有していないローラーカッターディスク21を使用することもできる。
【0038】
図2Dのようにチップ25を備えているローラーカッターディスク21の場合には、地盤を掘削する主体は超硬材質のチップ25であるが、それを支えるシャンク26は通常、鉄でできている。チップ25は超硬質であるため、ローラーカッターディスク21外周の刃先の他の部分よりも、摩耗しにくい。このため、チップ25を備えているローラーカッターディスク21が摩耗していくと、チップ25は摩耗が少なくそのまま残り凸状となり、他の刃先部分(シャンク26の部分)が摩耗して凹状となるため、チップ25の間隔毎に凹凸形状となる。掘削工程が進むと、例えるならばシャンク26が歯槽膿漏のように摩耗して、チップ25の保持力が弱まり、そのまま摩耗が進んでいくと、凹凸がさらに大きくなり、さらには、チップ25が抜け落ちるに至る場合がある。この場合、例えば、チップ25の先端部では後述の摩耗値wが小さく、シャンク26では摩耗値wが大きくなるので、摩耗値wの最大値と最小値から振幅の幅を計算して、この値が設定した部分破壊しきい値を上回った場合にシャンク26が異常摩耗を来したと判断できる。
【0039】
図3Aは、摩耗検出センサの外観斜視図であり、
図3Bは、摩耗検出センサの断面図であり、
図3Cは、摩耗検出センサの強磁性体コア37の斜視図である。摩耗検出センサとしてのセンサ本体部30は、有底円筒状の金属ケース33と、金属ケース33の開口面側、すなわち検出面31側を覆う円盤状の非磁性金属32と、からなる筐体に収容されている。非磁性金属32の外側面が検出面31となる。金属ケース33の底面側は例えば方形のフランジ部となっている。フランジ部には例えば角部に取付穴が設けられており、このフランジ部はセンサ本体部30を、その検出面31がローラーカッターディスク21外周の刃先に近接して配置されるように、カッター支持枠22に取り付けるために利用される。
【0040】
金属ケース33の材質は特に限定するものではないが、磁気シールドの観点からは、磁性金属、例えば鉄、鋼材とすることが望ましい。また、非磁性金属32の材質としては、特に限定されるものではないが、例えばSUS304等の非磁性ステンレス鋼、さらに硬度の高いオーステナイト系非磁性鋼等を用いることができる。オーステナイト系非磁性鋼としては、特に限定されるものではないが、非磁性体の鋼材であって、焼き入れにより硬度が高く、耐摩耗に優れているオーステナイト系非磁性特殊鋼、例えばHPM75等を採用することができる。金属ケース33の材質を非磁性金属32の材質と同一とすることもできる。
【0041】
金属ケース33と非磁性金属32とにより構成された筐体の中には、強磁性体コア37、強磁性体コア37に巻回されたコイル38、センサ基板36が設けられている。金属ケース33は防水構造であり、インターフェイス回路54の信号線2本と電源線2本は4芯のキャブタイヤコードにまとめられ防水ケーブルグランドを通して金属ケース33から引き出される。また金属ケース33の材質を非磁性金属32と同じにすれば一体の切削加工が可能になり構造が簡単で防水構造が容易になる。
【0042】
強磁性体コア37は、円柱状の中央部37a、中央部37aに対して同心かつ円環状の外周部37b、及び、円柱状の中央部37aと外周部37bとを底面側で接続する円盤状の底部37cから構成されている。強磁性体コア37の材質は、強磁性体であれば特に限定されるものではないが、例えばフェライトとすることができる。強磁性体コア37の製造方法は特に限定されるものではなく、鋳造でも、鍛造でも、積層鋼板による製造でもよい。また、強磁性体コア37の寸法は特に限定されるものではないが、例えば外径60mm、高さ20mm程度とすることができる。摩耗検出センサの検出距離を長くするためには、強磁性体コア37のサイズは大きい方が望ましいが、一方で、配置スペースの観点からは強磁性体コア37のサイズを小さく抑えることが求められる。
【0043】
強磁性体コア37の中央部37aと外周部37bと底部37cとの囲まれた円筒上の空間には、コイル38が、中央部37aを中心として集中巻されることにより、コイル38は、強磁性体コア37と一体となっている。
【0044】
強磁性体コア37は、底部37cとは反対側の開放面には、
図3Bに示された磁束Bによる磁路が形成される。磁束Bは、中央部37aと、ローラーカッターディスク21外周の刃先の先端と、ローラーカッターディスク21外周の刃先の側面と、外周部37bと、底部37cとを結ぶ磁路に沿って、コイル38への通電によって発生される。磁束Bは、コイル38が巻回された強磁性体コア37の構造により、検出面31の前方に磁束Bが集中する。検出面31から出た磁束Bは空中の磁路を通りローラーカッターディスク21の刃先を貫いた後、再度空中の磁路を通って検出面31に戻る。
【0045】
これにより、強磁性体コア37はコイル38から発生する磁束Bが検出面31前面に集中するように自身の磁路が形成されている。検出面31から前方に形成される空間の磁路は非磁性金属32のカバーを貫き検出対象であるローラーカッターディスク21の刃先を通って再び検出面31に一巡して閉じた磁路が形成される。このとき、検出面31が非磁性金属32で覆われているが、非磁性金属32は空気に準じて磁気抵抗が大きいので磁路を乱さない。また、強磁性体コア37が磁性体からなる金属ケース33に収容されている場合には、磁束Bが検出面31以外の周囲に作用することがない。また、本参考形態の摩耗検出センサは、検出面31で磁路が開放されている強磁性体コア37と一体となったコイル38を有しているため周囲の金属の影響を受けずにローラーカッターディスク21の刃先を効率よく検出できる。このため、ローラーカッターディスク21の回転状態や交換時期を的確に判断できる。
【0046】
ローラーカッターディスク21の刃先が摩耗すると磁路の磁気抵抗が変化し、磁束Bが減少する。本参考形態の摩耗検出センサは、この磁気抵抗の変化に対応してコイル38のインダクタンスが変化するという物理現象の効果を用いるため、渦電流による影響が無く、コイル38の検出面側を非磁性金属で覆うことができ、切削ズリによる摩耗と衝撃から保護されて耐久性が高いと言う特徴を持つ。また、コイル38から発生する磁界は微弱であり、かつ磁石を用いていないので、検出面31に砂鉄や鉄粉が吸着または堆積することが無く、検出精度が高く経時的な特性変化が無い。したがって本参考形態の摩耗検出センサによれば、磁石を使用せず、かつ、耐久性がある構造にでき、経時的な精度低下を来さないと共に、ローラーカッターディスク21の回転状態や交換時期を的確に判断できる。また、摩耗検出センサにローラーカッターディスク21に特別な細工を施すこと無くローラーカッターディスク21の回転を検出できる機能を備えることもできる。
【0047】
また、本参考形態の摩耗検出センサは、検出面31で磁路が開放されている強磁性体コア37と一体となったコイル38と、コイル38のインダクタンス変化を発振周波数変化に変換する発振回路50と、発振回路50の発振周期を計数して計測値を求める計数回路53と、を少なくとも有するセンサ本体部30は、金属ケース33内に一体で収められコイル38の検出面側は非磁性金属で覆っているため、切削ズリによる摩耗と衝撃から保護されて耐久性が高い。
【0048】
このように、本参考形態の摩耗検出センサによれば、ローラーカッターディスク21の摩耗状況を正確に把握してローラーカッターディスク21の交換時期を的確に判断することができる。またローラーカッターディスク21の摩耗状況とローラーカッターディスク21の回転状況を一つのセンサで検出できるようになり、従来別途必要であった回転検出センサが不要となったことから、センサ設置に係る配線、保護養生、取り付け費用、取り付け部の加工費用などの工数、費用、管理が半減する。更にローラーカッターディスク21の回転を検出するためにローラーカッターディスク21に特別な細工をする必要が無いため、特別なローラーカッターディスク21を用意する必要がなくなり、在庫や予備品の管理が軽減して、使い回しのローテーションも可能なことから全体的に大幅なコスト削減ができるという効果がある。
【0049】
図4は、コントローラ部40の斜視図である。コントローラ部40は、センサ本体部30から信号ケーブル35により伝送された信号を受信し、信号処理する。コントローラ部40の外側には、LCD表示器41、キースイッチ42、USBインターフェイス43、及び、端子44が設けられている。
【0050】
LCD(Liquid Crystal Display)表示器41は、信号値等の検出情報、設定メニュー等の設定値情報、及び報知情報等の各種情報の表示を行い、キースイッチ42により数値入力や設定メニューの操作等の表示を行う。
【0051】
キースイッチ42は複数設けられており、摩耗検出センサの各種設定、例えば測定モードの設定、測定パラメータの設定、検出情報の表示、検出情報の出力等の設定に使用される。
【0052】
USBインターフェイス43は、上位コンピュータと通信して、コントローラ部40から上位コンピュータへのデータの読み出しや、上位コンピュータによるコントローラ部40の機能の設定等を行う。また、USBメモリへのデータ保存等にも使用することができる。
【0053】
端子44は、複数設けられており、例えば、センサ本体部30からの信号ケーブル35用、DAC(Digital-to-Analog Converter)出力用、デジタル出力用、制御入力用、電源用等のコントローラ部40の入出力用にそれぞれ使用される。特に限定されるものではないが、
図4の例では、端子44は14個設けられている。
【0054】
センサ本体部30から引き出された信号ケーブル35は、カッターヘッド10の回転軸部分に装備された図示しないスリップリングに接続され、掘進機本体の固定側スリップリングに中継される。固定側スリップリングから取り出したセンサ本体部30の信号は、掘進機後方の掘進機制御装置内や操作室内に配置されたコントローラ部40の、センサ本体部30からの信号ケーブル35用の端子44に接続される。そして、コントローラ部40は後述の信号処理1から信号処理4の信号処理演算を行い、その処理結果を端子44から出力する。コントローラ部40は、センサ本体部30と信号ケーブル35により接続されているため、センサ本体部30と離れた場所で信号処理を行うことができる。
【0055】
図5は、センサ本体部30の回路ブロック図である。センサ本体部30には、センサ基板36上に、マイクロコンピュータ55及びインターフェイス回路54が設けられている。マイクロコンピュータ55は、LC発振回路50及び計数回路53を含んでいる。すなわち、LC発振回路50及び計数回路53は、マイクロコンピュータ55の機能によって構成されている。例えば、LC発振回路50は、後述のとおりマイクロコンピュータ55のアナログ構成によって実現することができる。なお、LC発振回路50がマイクロコンピュータ55だけから実現できない場合には、その一部又は全部をマイクロコンピュータ55とは別の回路としてセンサ基板36上に設けることも可能である。また、強磁性体コア37に巻回されたコイル38と、コンデンサ52とからなる並列回路が、LC発振回路50に電気的に接続されている。なお、本参考形態では発振回路として、LC発振回路50を例示しているが、コイル38のインダクタンスの変化を検出できる限りにおいて、発振回路の種類はLC発振回路50に限定されるものではない。
【0056】
本参考形態ではコイル38のインダクタンスの変化を検出するために、キャパシタンスCが既知のコンデンサ52と、測定対象のコイル38とを含むLC発振回路50の発振周波数fから、測定対象のインダクタンスLを演算している。このようなLC発振回路50としては特に限定されるものではないが例えばフランクリンLC発振回路を用いることができる。フランクリンLC発振回路は測定範囲のインダクタンスで、500Hz以下の周波数でも安定して発信し、マイクロコンピュータのアナログ構成によって実施することができる。例えば計数回路53を構成しているマイクロコンピュータによって、LC発振回路50を実現することができる。
【0057】
LC発振回路50を用いると、コイル38のインダクタンス変化を直接的に周波数に変換することができる。周波数はデジタル化することが簡単なため、他の検出方式、例えば、コイル38に流れる電流の大きさや位相などのアナログ値をAD変換して処理する方式と比較すると回路構成が簡単でコストも掛からない。
【0058】
LC発振回路50の発振周波数fはコイル38のインダクタンスLとコンデンサ52のキャパシタンスCとで次式により決まる。
【0059】
(1)式からインダクタンスLの値に注目するとインダクタンスが大きくなると発振周波数fが低くなり、逆にインダクタンスが小さくなると発振周波数fが高くなる。LC発振回路50からのコイル38に交流電圧が印加されると、コイル38に交流電流が流れ、コイル38の検出面31から交流磁束が発生する。
【0060】
LC発振回路50の発振周波数fは計数回路53において計数され、計数回路53では、発振周波数fの逆数である発振周期Tが演算される。コントローラ部40における信号処理の過程においては、周波数の逆数が使用されるため、計数回路53にて予め発振周期Tが演算されていると都合がよい。計数回路53において、LC発振回路50の発振周期Tは、ゲート信号として水晶発振器等の基準クロックをカウントすることで演算することができる。
【0061】
インターフェイス回路54は計数回路53から得た計数値をシリアル信号に変換して、ノイズ耐性を強化した上で、コントローラ部40に伝送する。摩耗検出センサは回転するカッターヘッド10上に配置されるため、信号ケーブル35からの配線は、スリップリングを経由して、他の制御信号及び/又は電力線と共に坑道内の後方に送られる。このため、信号ケーブル35の長さは数十メートルから数百メートルになる場合がある。この間の信号ケーブル35における信号劣化を防ぐため、ノイズ耐性を強化した伝送方式として、特に限定されるものではないが、例えばRS-485規格を採用することができる。RS-485規格は、ノイズ耐性の強化を低コストで実現するには好適である。このように、センサ本体部30から出力される信号はノイズ耐性の強化されたデジタルデータであり、インターフェイス回路54によってノイズ耐性を強化しているため、スリップリングや長距離の伝送路を経由しても信号が劣化しない特徴を持つ。
【0062】
図6は、コントローラ部40の回路ブロック図である。コントローラ部40は、前述のLCD表示器41、前述のキースイッチ42、前述のUSBインターフェイス43、インターフェイス回路61、マイクロコンピュータ62、DAC出力回路64、スイッチ出力回路63、及び端子44等を含んでいる。
【0063】
インターフェイス回路61は、センサ本体部30のインターフェイス回路54との間で、例えばRS-485規格の通信を行い、例えばインターフェイス回路54の計数値のシリアル信号を、信号ケーブル35及び端子44を介して受信する。マイクロコンピュータ62は、プログラムで信号処理をすると共に、コントローラ部40の各部を制御する。計数値としての発振周期Tを用いて、後述の信号処理1~信号処理4等の信号処理演算を行う。
【0064】
DAC出力回路64は、マイクロコンピュータ62で信号処理されたデジタル信号をアナログ信号に変換して1つの端子44から出力する。オシロスコープで信号波形を観測したり、データーロガー等を接続して長時間の信号変化を記録したりする。スイッチ出力回路63は、キースイッチ42で設定された各種出力信号、例えば信号処理の判定結果等を複数の各端子44から出力する。
【0065】
LC発振回路50、計数回路53、及びインターフェイス回路54は、ほとんどをマイクロコンピュータ55に内蔵された機能回路上に展開できるため、プログラムにて変更、修正可能な状態でマイクロコンピュータ55を中心した小型なセンサ基板36に実装している。強磁性体コア37と一体となったコイル38と、小型なセンサ基板36は金属ケース33に一体で収められ、強磁性体コア37と一体となったコイル38の検出面側は非磁性金属32で覆われる。金属ケース33の材質は特に限定するものではないが、磁気シールドの観点からは、磁性金属、例えば鉄、鋼材とすることが望ましい。
【0066】
本参考形態の摩耗検出センサによれば、コントローラ部40が摩耗値を演算するだけでなく、ローラーカッターディスク21の回転状態とローラーカッターディスク21の異常摩耗を検出できる信号処理機能を有する。ローラーカッターディスク21の刃先は強磁性体であるため磁気抵抗が小さい。ローラーカッターディスク21の刃先の摩耗が少なく検出面31との距離が近い場合はより多くの磁束Bが磁気抵抗の小さい刃先を通るため空間磁路における磁気抵抗の合計が小さくなる。一巡する磁路の磁気抵抗が小さくなると、コイル38のインダクタンスが大きくなり、LC発振回路50の発振周波数fが減少する。逆に刃先の摩耗が多いと検出面31との距離が遠くなり、磁気抵抗が大きくなって、コイル38のインダクタンスが小さくなり、LC発振回路50の発振周波数fが増加する。計数回路53は、LC発振回路50の発振周期Tを計測して計数値を得る。このようにして本参考形態の摩耗検出センサによれば、ローラーカッターディスク21の刃先の摩耗度合いを発振周波数fの変化として捉えことができるので、ローラーカッターディスク21の回転状態や交換時期を的確に判断できる。
【0067】
図7は、強磁性体コア37と被検出対象70との間が空間である場合の想定図であり、
図8は、強磁性体コア37と被検出対象70との間に非磁性金属75が存在する場合の想定図である。ローラーカッターディスク21の刃先の材質は鉄を基本成分とする強磁性体であり、コイル38から発生する交流磁束Bが作用すると主に次の(a)及び(b)の二つの物理現象の効果が現れる。
【0068】
(a)第1の物理現象は渦電流の効果である。金属(導電体)に時間的に変化する磁束Bが貫くと金属の表面に渦電流が流れる。渦電流の大きさは磁束Bの変化が早いほど大きくなり、渦電流の流れる向きは磁束Bの変化を妨げる方向に作用する。また電気抵抗率が小さいほど渦電流が流れやすい。このため、渦電流が発生すると磁束Bが通りにくくなり、コイル38のインダクタンスを減少させ、LC発振回路50の発振周波数fは(1)式に従い増加する。渦電流の効果は発振周波数fを高くするほど大きくなる。
【0069】
(b)第2の物理現象は磁気抵抗の効果である。磁気抵抗は電気抵抗に対比する概念であり、磁束Bの通り道(磁路)における磁束Bの通りにくさを表す。磁気抵抗は空気中(厳密には、真空中)が最も大きく、強磁性体の中では小さい。また、非磁性金属は空気中に準じて磁気抵抗が大きい。磁路の途中に強磁性体があると磁束Bが通りやすくなり、コイル38のインダクタンスを増加させ、LC発振回路50の発振周波数fは(1)式に従い減少する。磁気抵抗の効果は静磁界(直流)からある程度の発振周波数f(数十kHz以下)まで大きく変化しない。
【0070】
(a)の物理現象は、対象が非磁性体または強磁性体のどちらでも効果が現れる。一方、(b)の現物理象は対象が強磁性体の場合のみに適用できる。対象が強磁性体の場合は(a)の物理現象及び(b)の物理現象が同時に作用するので、対象の材質や発振周波数fの条件によりどちらかの現象が優勢になったり二つの現象が拮抗したりする。
【0071】
コイル38の検出面31は切削ズリによる摩耗と衝撃から保護するため、強靱な材質でカバーする必要があり、金属材料を用いるのが好ましい。コイル38の検出面31を金属で覆うと前記(a)の物理現象である渦電流が流れ、被検出対象70であるローラーカッターディスク21の刃先より先にカバー自身に反応してしまうと言う不都合がある。従ってコイル38の検出面側を金属製のカバーで覆った場合、渦電流の効果を用いてローラーカッターディスク21の刃先を検出することは不可能である。一方ローラーカッターディスク21の刃先は強磁性体であるため前記(b)の物理現象である磁気抵抗の効果を用いて検出することに可能性がある。
【0072】
これを可能ならしめるため次のように条件を整える。
条件1:コイル38の検出面側を覆うカバーの材質は非磁性金属である。
条件2:発振回路の発振周波数fは十分低くする。
【0073】
上記条件1は、コイル38の検出面側から磁束Bを通過させるため必要である。非磁性金属は空気中に準じて磁気抵抗が大きいためコイル38から発生する磁束Bを乱さない。
【0074】
上記条件2は、渦電流の効果を最小限にするために必要である。コイル38から発生する磁束Bは非磁性金属のカバーを貫くため渦電流が発生する。渦電流が発生すると非磁性金属75のカバーを貫く磁束Bが妨げられる。渦電流は発振周波数fが低いほど小さくなるため極力低い発振周波数fで発振させる必要がある。
【0075】
上記条件2を満たす発振周波数fを探るために、
図9~13の実験を行った。強磁性体コア37と被検出対象70との距離dを変化させて発振周期Tの変化をプロットしたグラフを
図9~11に示す。
【0076】
図9は、強磁性体コア37と被検出対象70との間が空間であり、発振周波数fが約10kHzの場合の特性図である。
図9の実線のグラフは、被検出対象70が非磁性ステンレス(以下「SUS」ということがある。実験では具体的にはSUS304を使用した。)の場合であり、破線のグラフは、被検出対象70が鉄の場合である。被検出対象70が鉄の場合には、距離dが小さくなるほど、周期Tが上昇し、発振回路のインダクタンスLが上昇していることが分かる。一方、被検出対象70がSUSの場合には、距離dが小さくなるほど周期Tが減少している。これは、コイル38から発生する磁束Bが被検出対象70であるSUSを貫くため、渦電流が発生しており、これに伴い、SUSを貫く磁束Bが妨げられてインダクタンスが低下しているためである。すなわち、発振周波数fが約10kHzの場合には、SUSによる渦電流の影響を大きく受けることが分かる。
【0077】
図10は、強磁性体コア37と被検出対象70との間が空間であり、発振周波数fが約300Hzの場合の特性図である。
図10の実線のグラフは、被検出対象70がSUSの場合であり、破線のグラフは、被検出対象70が鉄の場合である。被検出対象70が鉄の場合には、距離dが小さくなるほど、周期Tが上昇し、発振回路のインダクタンスLが上昇していることが分かる。一方、被検出対象70がSUSの場合には、距離dに関わらず、周期Tが略一定であり、SUSによる渦電流の影響をほぼ受けていない。すなわち、発振周波数fが約300Hzの場合には、SUSによる渦電流の影響をほぼ受けないことが分かる。
【0078】
図11は、強磁性体コア37と被検出対象70との間に非磁性金属75が存在し、発振周波数fが約300Hzの場合の特性図である。
図11の実線のグラフは、強磁性体コア37と被検出対象70である鉄との間にSUSが存在する状態で、鉄を移動させた場合である。ここでSUSの厚みtは、10mmとした。坑道掘削工事の工期は例えば1年等の長期間に及ぶので、非磁性金属75には工期の間の使用に耐えるだけの強度が求められる。一方で、非磁性金属75が薄い方が強磁性体コア37から検出面31までの距離も短くなり、検出には有利である。この両面を考慮して、SUSの厚みtは10mmに設定した。
【0079】
図11の破線のグラフは、強磁性体コア37と被検出対象70である鉄との間が空間である場合である。各距離dにおいて、直線のグラフは、破線のグラフを僅かに下回っており、周期Tの大きさの差は、距離dが小さくなるにしたがって徐々に広がっている。両グラフの差が僅かであることから、発振周波数fが約300Hzの場合には、SUSによる渦電流の影響が小さいことが分かる。
【0080】
そこで、発振周波数fが約300Hzの場合のSUSによる渦電流の影響を検討するために、
図12では、
図11の縦軸を対数目盛にした。
図12の実線のグラフは、強磁性体コア37と被検出対象70である鉄との間にSUSが存在する状態で、鉄を移動させた場合である。
図12の破線のグラフは、強磁性体コア37と被検出対象70である鉄との間が空間である場合である。
図12は、
図11の対数グラフによる特性図であり、縦軸の値は、距離dが40mm付近の値との差分で表し、実線のグラフ(SUSのグラフ)を基準として、対数を取ったものである。
図13の実線のグラフは、距離dに対して周期(差分)Tdが直線的に変化している。また、実線のグラフの傾きと、破線のグラフの傾きは、ほぼ同じとなる。以上のことから、発振周波数fが約300Hzの場合には、強磁性体コア37の検出面31側にSUS等の非磁性金属32を挟み込んだ場合でも、被検出対象70を十分な感度で検出できることを確認できた。
【0081】
上述の条件2の発振回路の発振周波数fは十分低くするという条件の境界条件を求めるために、発振周波数fを変化させた場合の非磁性金属32による渦電流の影響を検討した。
図13は、被検出対象70を非磁性金属とした場合の周波数変化の影響を示した特性図であり、被検出対象70をSUSとし、距離dが30mm地点を基準としたときの周波数帯別の変動周波数Δf[Hz]を示したグラフである。変動周波数Δfが大きくなると、SUSの渦電流の影響によりインダクタンスが減少していることを示すので、変動周波数Δfが増大しない特性が望ましい。この条件として、上述の条件2の周波数条件は、変動周波数Δfが1Hz以下となる発振周波数500Hz以下(0.2%以下)が好適である。また、非磁性金属は電気抵抗率が大きいほど渦電流を抑制できる。
【0082】
上述の条件2の周波数条件は、発振周波数500Hz以下が好適であり、原理的には下限は限りなく0まで近づけることができるが、実際上は発振周波数fが低すぎると、発振回路の発振が不安定となるおそれがある。また、発振周波数fが低すぎた場合、インダクタンスLを検出するための時間が長くなってしまう。このため、本参考形態では、特に限定されるものではないが、実際上、発振周波数fの下限を1Hzと設定した。
【0083】
このような非磁性金属32として、例えばSUS304等の非磁性ステンレスは、鉄より8倍ほど電気抵抗率が大きく、強度、加工性、入手性、コストなどのメリットと合わせて好適である。本参考形態の摩耗検出センサによれば、発振回路の発振周波数fを十分低く、具体的には500Hz以下に設定しており、また、非磁性金属32として電気抵抗率が大きいものを採用することにより、コイル38の検出面側を覆う非磁性金属32に発生する渦電流の効果を最小限にして磁路を妨げないようにすることができる。また、非磁性金属32としては、さらに硬度の高いオーステナイト系非磁性鋼、例えばHPM75等を用いることにより、上述の条件1及び条件2を満たした上で、さらに強度を高めることが可能である。このため、本参考形態の摩耗検出センサによれば、非磁性金属32の材料としてオーステナイト系非磁性鋼を使用することにより、検出面31の硬度を高めることができ、しかも、非磁性鋼であるため、コイル38の検出面側から前方に形成される空間の磁路を乱さないため、ローラーカッターディスク21の回転状態や交換時期を的確に判断できる。
【0084】
コントローラ部40は、次の信号処理1~信号処理4を行う。
【0085】
[信号処理1:摩耗値演算]
図11で示すように発振周期Tは被検出対象70の距離dに対して指数関数的なカーブを描く。発振周期Tに対して対数計算を行うと計算結果が直線的になり(
図12参照)、この算出値に対して更にスケーリング係数のかけ算とオフセット値の加算を行うと実際の摩耗値(ローラーカッターディスク21の刃先との距離)と対応させることができる。数式で示すと次の式(2)のような演算を行う。摩耗値(w)、発振周期(Tmes)、発振周期オフセット(Tofs)、スケーリング係数(Wsca)、オフセット値(Wofs)とすると。
【0086】
対数演算の分解能を上げるため発振周期オフセット(Tofs)を導入した。計測した発振周期(Tmes)と発振周期オフセット(Tofs)との差分に対して対数演算を行う。発振周期オフセット(Tofs)は、被検出対象70が想定する最大距離まで遠ざかった位置または被検出対象70が存在しないときの発振周期を設定する。対数の底は10(常用対数)あるいはe(自然対数)等の任意であるが、プログラムによる数値演算を考慮すると対数の底は2が好適である。スケーリング係数(Wsca)とオフセット値(Wofs)はローラーカッターディスク21の刃先の材質や形状に合わせて設定する。オフセット値(Wofs)は、
図12のように右肩下がりのグラフを、右肩上がりのグラフに変換するためのオフセット値である。本参考形態の摩耗検出センサによれば、コントローラ部40は、計測値を対数演算して、ローラーカッターディスク21外周の刃先と検出面31との距離に対して直線的に対応する摩耗値wを得ることができるため、例えば摩耗値wをしきい値と比較しやすいので、ローラーカッターディスク21の回転状態や交換時期を的確に判断できる。
【0087】
[信号処理2:摩耗検出]
摩耗値wはローラーカッターディスク21の回転と共に変動するため平均処理をする。平均化した摩耗値wが設定した摩耗しきい値を超えた場合は、スイッチ出力回路63の特定の出力をONにして、端子44から外部に報知する。したがって、本参考形態の摩耗検出センサによれば、摩耗値wの平均値を摩耗しきい値と比較することにより、ローラーカッターディスク21が摩耗していることを報知する摩耗報知信号を出力することができる。
【0088】
[信号処理3:ローラーカッターディスク21の固着検出]
回転するカッターヘッド10に取り付けられたローラーカッターディスク21は地盤の掘削に伴い自身も回転する。切削ズリの挟み込みや回転軸の破損などによって、ローラーカッターディスク21が固着するとローラーカッターディスク21が著しく損耗して機能を果たせなくなる。この状態は早期に発見してローラーカッターディスク21を速やかに交換することが重要である。ローラーカッターディスク21の磁気的性質は均一では無く、また回転軸のブレなどがあるため正常に稼働中はローラーカッターディスク21の回転に伴い摩耗値wが一定周期かつ一定振幅で変動する。
【0089】
もしもローラーカッターディスク21が固着した場合は、摩耗値wの振幅の変動幅が著しく小さくなる。そこで、摩耗値wの最大値と最小値から振幅の幅を計算して、この値が設定したカッター固着しきい値を下回った場合に、ローラーカッターディスク21が固着したと判断し、判断結果はスイッチ出力回路63の特定の出力をONにして、端子44から外部に報知する。したがって、本参考形態の摩耗検出センサによれば、摩耗値wを用いて摩耗値wの最大値と最小値の差を求め、摩耗値wの最大値と最小値の差と、カッター固着しきい値とを比較することにより、ローラーカッターディスク21が固着したことを報知するカッター固着報知信号を出力することができる。
【0090】
[信号処理4:ローラーカッターディスク21の異常摩耗検出]
信号処理4では、ローラーカッターディスク21の刃先が部分的に破損した状態を検出する。ローラーカッターディスク21は地盤の掘削に伴い回転するため欠損した部分がある場合は、摩耗値wが大きく変動する現象が周期的に観測できる。摩耗値wの最大値と最小値から振幅の幅を計算して、この値が部分破壊しきい値を上回った場合にローラーカッターディスク21が部分的に破損したと判断し、判断結果はスイッチ出力回路63の特定の出力をONにして、端子44から外部に報知する。
【0091】
また、ローラーカッターディスク21として
図2Dに示したチップインサートタイプカッターを用いる場合には、上述のとおり、掘削工程が進むと、例えるならばシャンク26が歯槽膿漏のように摩耗して、チップ25の保持力が弱まり、そのまま摩耗が進んでいくと、凹凸がさらに大きくなり、さらには、チップ25が抜け落ちるに至る場合がある。この場合、例えば、チップ25の先端部では後述の摩耗値wが小さく、シャンク26では摩耗値wが大きくなるので、摩耗値wの最大値と最小値から振幅の幅を計算して、この値が設定した部分破壊しきい値を上回った場合にシャンク26が異常摩耗を来したと判断できる。したがって、本参考形態の摩耗検出センサによれば、摩耗値wを用いて摩耗値wの最大値と最小値の差を求め、摩耗値wの最大値と最小値の差と、部分破壊しきい値とを比較することにより、ローラーカッターディスク21が部分的に破損した等のローラーカッターディスク21が異常摩耗したことを報知するカッター部分破壊報知信号を出力することができる。
【0092】
[第2参考形態]
本発明をよりよく理解する第2参考形態に係る摩耗検出センサ及び摩耗検出センサを備えたローラーカッター20について説明する。第1参考形態では、発振回路として、例えばフランクリンLC発振回路等のLC発振回路50を用いることを説明したが、本参考形態では、別の発振回路を用いる例を説明する。
【0093】
本参考形態ではインダクタンスLを用いた発振周波数fから、インダクタンスLを計算するため、発振回路にインダクタンスLが含まれていれば、いかなる発振回路であってもかまわない。
図5では、LC並列発振回路を例示したが、本参考形態では、LC直列発振回路等の発振回路からインダクタンスLを求めることができる。また、別の発振回路としては、抵抗Rを含めたRLC直列発振回路またはないしRLC並列発振回路を用いることもできる。さらには、コンデンサ52を含まない発振回路として、例えばインダクタンスL発振回路等を用いて、インダクタンスLを求めることができる。また、例えば、コイルとインバーターIC等で構成した矩形波発振回路を用いて、インダクタンスLを求めることもできる。
【0094】
[第1実施形態]
次に、
図14乃至
図17Bに基づいて、本発明の第1実施形態に係る摩耗検出センサ及びこの摩耗検出センサを備えたローラーカッター20について説明する。
図14は第1実施形態の摩耗検出センサの断面図であり、
図15は
図14の部分拡大図であり、
図16は
図14に示す静電シールド板の平面図であり、
図17Aおよび
図17Bは
図14に示す静電シールド板の変形例の平面図である。
【0095】
第1実施形態に係るローラーカッター20は、第1参考形態に示す摩耗検出センサのセンサ本体部30(摩耗検出センサ)の構造を変化したのみであり、ローラーカッターディスク21およびカッター支持枠22、摩耗検出センサのコントローラ部40は第1参考形態および第2参考形態と同様である。
【0096】
本実施形態におけるセンサ本体部130も、第1参考形態および第2参考形態に示す摩耗検出センサと同様に、磁気抵抗の変化に基づいて強磁性体であるローラーカッターディスク21の刃先の摩耗を検出する。
そして、このセンサ本体部130は、
図14に示すように、防水構造の筐体131と、この筐体131の内部に収容される強磁性体コア132と、この強磁性体コア132に巻回されて強磁性体コア132と一体化したコイル133と、筐体131の内部に収容されて筐体131と絶縁されたセンサ基板134と、筐体131の内部に収容される強磁性金属製の磁気シールドカバー135と、センサ基板134と磁気シールドカバー135とを導通する金属製の支柱136と、強磁性体コア132の底面132aと磁気シールドカバー135とを離間させるスペーサー137と、筐体131の内部で磁気シールドカバー135を位置決めするカバー押さえ138と、筐体131の内部に収容されて筐体131と強磁性体コア132との間に配置される静電シールド板139とを備えている。
また、筐体131の内部の隙間には、
図14に示すように、ウレタン樹脂Uが充填されている。
【0097】
筐体131は、
図14に示すように、有底円筒状の非磁性金属ケース131aと、この非磁性金属ケース131aの開口を覆う蓋板131bとからなる。
非磁性金属ケース131aは、ローラーカッターディスク21の回転軸に略平行でローラーカッターディスク21の刃先に近接対向して検出面となる外底面131a1を有している。
なお、本実施形態において、非磁性金属ケース131aは、ローラーカッターディスク21側が蓋板131b側に比べて大径となっているが、蓋板131b側がローラーカッターディスク21側に比べて大径になっていてもよい。
【0098】
強磁性体コア132は、中央部分に貫通孔132bが設けられていることを除き、第1参考形態および第2参考形態の強磁性体コア37と同材質および同形状である。
したがって、強磁性体コア132は、筐体131の外底面131a1と略平行な開放面132cで磁束Bによる磁路が開放される。
【0099】
コイル133は、
図14に示すように、両端がセンサ基板134に接続されて導通している。
【0100】
センサ基板134は、
図14に示すように、筐体131の非磁性金属ケース131aと離間していると共に電気的に絶縁されている。
そして、このセンサ基板134は、第1参考形態および第2参考形態のセンサ基板36と同様に、ローラーカッターディスク21の刃先と筐体131の外底面131a1との間の距離の変化に基づく磁気抵抗の変化に対応したコイル133のインダクタンス変化を発振周波数変化に変換する発振回路と、この発振回路の発振周期を計数して計測値を求める計数回路と、この計数回路から得た計数値をシリアル信号に変換して伝送するインターフェイス回路とを設けている。
さらに、センサ基板134からは、不図示のコントローラ部(第1実施形態および第2実施形態のコントローラ部40と同様)に接続されて導通する信号ケーブル134aが延びている。
【0101】
磁気シールドカバー135は、有底円筒状であり、
図14に示すように、強磁性体コア132の底面132aと側面132dとを覆っている。
この磁気シールドカバー135は例えばパーマロイ製であり、比透磁率が例えば100,000である。
したがって、本実施形態における磁気シールドカバー135の比透磁率は、筐体131の比透磁率および強磁性体コア132の比透磁率(例えば、3000程度)よりも大きくなっている。
よって、本実施形態において、強磁性体コア132の開放面132cから発生する主磁束の総和はほぼゼロになり、磁気シールドカバー135の側面には主磁束に起因する渦電流はほぼ流れない一方、強磁性体コア132の側面から漏れ出る漏れ磁束による渦電流は磁気シールドカバー135の中を流れる。
すなわち、本実施形態では、強磁性体コア132の側面から漏れ出る漏れ磁束は磁気シールドカバー135の内部を流れる渦電流によって反射されて磁気シールドカバー135の側方から漏洩しにくくなっている。
【0102】
支柱136は、センサ基板134と磁気シールドカバー135との間に設けられた円筒状の部材である。
この支柱136の内面には、止めねじSと螺合する雌ネジが形成されている。
したがって、センサ基板134の貫通孔および磁気シールドカバー135の貫通孔に止めねじSを挿入して支柱136に螺合させることで、センサ基板134と磁気シールドカバー135とを一体化させることができる。
止めねじSによりセンサ基板134と磁気シールドカバー135とを一体化させた際、支柱136が止めねじSによりセンサ基板134の裏面134bおよび磁気シールドカバー135の外底面135aと当接し、センサ基板134と磁気シールドカバー135とが等電位となる。
【0103】
静電シールド板139は、地盤切削時の振動による位置ずれを防ぐために筐体131の非磁性金属ケース131aの内底面131a2に固定(例えば、接着)されて、
図14および
図15に示すように、筐体131の非磁性金属ケース131aの内底面131a2と強磁性体コア132の開放面132cとの間に配置されている。
そして、この静電シールド板139は、
図16に示すように、樹脂製の絶縁体層139aと、この絶縁体層139aに積層されて強磁性体コア132の開放面132cと対向する非磁性金属からなる電極層139bとを有している。
このように非磁性金属からなる電極層139bが強磁性体コア132の開放面132cと対向していることで、静電容量を介したノイズが抑制される。
【0104】
静電シールド板139の電極層139bは、
図16に示すように、円環状の環状接地電極139b1と、この環状接地電極139b1と一端のみが導通する線状電極139b2とから形成されている。
【0105】
環状接地電極139b1の内径φEiは、
図15に示すように、強磁性体コア132の外径φCoおよび磁気シールドカバー135の外径φSoよりも大きくなっている。
また、環状接地電極139b1は、はんだMにより磁気シールドカバー135と一体化されて導通している。
したがって、環状接地電極139b1は、磁気シールドカバー135および支柱136を介してセンサ基板134の接地電極と導通している。
よって、環状接地電極139b1と磁気シールドカバー135とセンサ基板134の接地電極とが等電位になるため、コイル133全体が静電シールドされて、センサ基板134に重畳されるノイズをより一層低減することができる。
【0106】
線状電極139b2は、
図16に示すように、環状接地電極139b1から等間隔に多数互い違いに突出して全体として櫛歯状になっている。
なお、線状電極139b2は、
図17Aに示すように環状接地電極139b1の中心に向かって放射状に形成されてもよいし、
図17Bに示すように渦巻き状に形成されてもよい。
【0107】
したがって、静電シールド板139において、環状接地電極139b1の内側に金属の閉ループが形成されないため、渦電流が発生しなくなっている。
【0108】
以上説明した本実施形態の摩耗検出センサ100によれば、筐体131の内部に収容されると共に強磁性体コア132の側面132dと底面132aとを覆う強磁性金属製の磁気シールドカバー135を備え、磁気シールドカバー135の比透磁率が強磁性体コア132の比透磁率および筐体の比透磁率よりも大きいことにより、強磁性体コア132の側面132dから漏れ出る漏れ磁束が磁気シールドカバー135の側壁を貫きにくくなるため、強磁性体コア132の側面132dから漏れ出る漏れ磁束が磁気シールドカバー135の外部に漏れ出ることを防ぎ、強磁性体コア132の側面132dから開放面へ漏れ出る漏れ磁束によるコイル133のインダクタンス変化を抑制してローラーカッターディスク21の刃先の摩耗検出精度を向上させることができる。
なお、筐体131が有底円筒状の非磁性金属ケース131aを有していることにより、強磁性体コア132の側面から漏れ出る漏洩磁束の磁路における磁気抵抗が大きくなるため、漏洩磁束が非磁性金属ケース131aを通過しにくくすることもできる。
【0109】
さらに、静電シールド板139の電極層139bが、センサ基板134の接地電極と導通する環状接地電極139b1と、この環状接地電極139b1と一端のみが導通する線状電極139b2とから形成されていることにより、環状接地電極139b1の内側に金属の閉ループが形成されず環状接地電極139b1の内側で渦電流が発生しないだけでなく静電シールド板139の環状接地電極139b1の内径φEiが、強磁性体コア132の外径φCoよりも大きいことにより、強磁性体コア132から発生する磁束の大半が静電シールド板139の環状接地電極139b1の内側で鎖交するため、静電シールド板139全体に渦電流が流れなくなり、コイル133のインダクタンス変化に重畳しうるノイズを低減することができる。
【0110】
また、静電シールド板139の環状接地電極139b1の内径φEiが、磁気シールドカバー135の外径φSoよりも大きいことにより、強磁性体コア132から発生する磁束がすべて静電シールド板139の環状接地電極139b1の内側で確実に鎖交するため、静電シールド板139の環状接地電極139b1に渦電流が確実に流れなくなり、コイル133のインダクタンス変化に重畳しうるノイズをより確実に低減することができる。
【0111】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、これらの実施形態における本発明の技術思想を具体化するための摩耗検出センサ及び摩耗検出センサを例示するものであって、本発明をこれらに特定するものではなく、その他の実施形態のものにも等しく適用し得るものであり、また、これらの実施形態の一部を省略、追加、変更することや、各実施形態の態様を組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0112】
10・・・カッターヘッド
11・・・カッタービット
20・・・ローラーカッター
21・・・ローラーカッターディスク
22・・・カッター支持枠
25・・・チップ
26・・・シャンク
27・・・回転支持部
30・・・センサ本体部
31・・・検出面
32・・・非磁性金属
33・・・金属ケース
35・・・信号ケーブル
36・・・センサ基板
37・・・強磁性体コア
37a・・・中央部
37b・・・外周部
37c・・・底部
38・・・コイル
40・・・コントローラ部
41・・・LCD表示器
42・・・キースイッチ
43・・・USBインターフェイス
44・・・端子
50・・・LC発振回路(発振回路)
52・・・コンデンサ
53・・・計数回路
54・・・インターフェイス回路(センサ本体部側)
55・・・マイクロコンピュータ
61・・・インターフェイス回路(コントローラ部側)
62・・・マイクロコンピュータ
63・・・スイッチ出力回路
64・・・DAC出力回路
70・・・被検出対象
75・・・非磁性金属
130 ・・・ センサ本体部(摩耗検出センサ)
131 ・・・ 筐体
131a ・・・ 非磁性金属ケース
131a1・・・ 外底面(検出面)
131a2・・・ 内底面
131b ・・・ 蓋板
132 ・・・ 強磁性体コア
132a ・・・ 底面
132b ・・・ 貫通孔
132c ・・・ 開放面
132d ・・・ 側面
133 ・・・ コイル
134 ・・・ センサ基板
134a ・・・ 信号ケーブル
134b ・・・ 裏面
135 ・・・ 磁気シールドカバー
135a ・・・ 外底面
136 ・・・ 支柱
137 ・・・ スペーサー
138 ・・・ カバー押さえ
139 ・・・ 静電シールド板
139a ・・・ 絶縁体層
139b ・・・ 電極層
139b1・・・ 環状接地電極
139b2・・・ 線状電極
B ・・・ 磁束
S ・・・ 止めねじ
M ・・・ はんだ
φCo ・・・ 強磁性体コアの外径
φSo ・・・ 磁気シールドカバーの外径
φEi ・・・ 円形接地電極の内径
【要約】
【課題】磁石を使用せず、かつ、耐久性がある構造にでき、経時的な精度低下を来さないと共に、カッターの回転状態や交換時期を的確に判断できる摩耗検出センサを提供すること。
【解決手段】磁気抵抗の変化に基づいて強磁性体であるカッターの刃先の摩耗を検出する摩耗検出センサであって、カッターの回転軸に略平行でありカッターの刃先に近接対向して検出面となる外底面を有する有底円筒状の非磁性金属ケースとこの非磁性金属ケースの開口を覆う蓋板とからなる防水構造の筐体と、この筐体の内部に収容されて検出面と略平行な開放面で磁路が開放される強磁性体コアと、この強磁性体コアに巻回されて強磁性体コアと一体のコイルと、筐体の内部に収容されると共に強磁性体コアの側面と底面とを覆い比透磁率が強磁性体コアの比透磁率および筐体の比透磁率よりも大きい強磁性金属製の磁気シールドカバーとを備えている。
【選択図】
図14