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特許7431426L-乳酸資化性を有する生物、およびそれを利用した資源循環方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】L-乳酸資化性を有する生物、およびそれを利用した資源循環方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20240207BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240207BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240207BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240207BHJP
   C12N 1/13 20060101ALI20240207BHJP
   C12P 7/56 20060101ALI20240207BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240207BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
C12N5/10
C12N1/13
C12P7/56
C12N1/00 R
C12N1/00 S
C12N15/53 ZNA
【請求項の数】 79
(21)【出願番号】P 2023530020
(86)(22)【出願日】2022-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2022044962
(87)【国際公開番号】W WO2023106300
(87)【国際公開日】2023-06-15
【審査請求日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2021198872
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、ムーンショット型農林水産研究開発事業委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】蓮沼 誠久
(72)【発明者】
【氏名】加藤 悠一
(72)【発明者】
【氏名】稲辺 宏輔
(72)【発明者】
【氏名】近藤 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 達也
(72)【発明者】
【氏名】原口 裕次
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/032697(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/066113(WO,A1)
【文献】特開2011-200161(JP,A)
【文献】特開昭63-173596(JP,A)
【文献】J. Biosci. Bioeng.,2017年,vol.124, no.1, p.54-61
【文献】Microbiology,2001年,vol.147,p.1069-1077
【文献】第64回宇宙科学技術連合講演会講演集,2020年,vol.64th, 3G15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
前記生物または培養細胞は、ラン藻類を含む、請求項1に記載の生物または培養細胞。
【請求項3】
前記改変は、NAD非依存型L-乳酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.1.2.3)をコードする遺伝子の導入を含む、請求項1に記載の生物または培養細胞。
【請求項4】
前記改変は、大腸菌由来lldD遺伝子の導入を含む、請求項1に記載の生物または培養細胞。
【請求項5】
前記改変は、乳酸パーミアーゼをコードする遺伝子の導入を含む、請求項1に記載の生物または培養細胞。
【請求項6】
前記改変は、大腸菌由来lldP遺伝子の導入を含む、請求項1に記載の生物または培養細胞。
【請求項7】
前記改変は、L-乳酸またはD-乳酸の合成を行う遺伝子の減弱化または欠失を含む、請求項1に記載の生物または培養細胞。
【請求項8】
前記改変は、D-乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子がldhA遺伝子を含む、請求項1に記載の生物または培養細胞。
【請求項9】
前記改変は、ldhA遺伝子の欠失を含む、請求項1に記載の生物または培養細胞。
【請求項10】
前記生物または培養細胞は、ピルビン酸代謝系、及び/またはTCA回路を有する、請求項1に記載の生物または培養細胞。
【請求項11】
前記生物または培養細胞は、コハク酸、2-オキソグルタル酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、及び/または酢酸の合成経路を有する、請求項1に記載の生物または培養細胞。
【請求項12】
前記生物または培養細胞は、アミノ酸の合成酵素及び/またはアミノ酸合成系、及び/またはD-乳酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、ギ酸、酢酸、エタノール、2,3-ブタンンジオール、ブタノール、アセトン、イソ酪酸、イソブタノール、イソブチレン、酪酸、1-ブタノール、プロパン、カプロン酸、ペンタン、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、イタコン酸、γ-アミノ酪酸、γ-ブチロラクタム、オルニチン、プトレシン、6-アミノカプロン酸、ε-カプロラクタム、エチレン、γ-ブチロラクトン、1,4-ブタンジオール、レブリン酸、アジピン酸、カダベリン、5-アミノ吉草酸、δ-バレロラクタム、1-プロパノール、またはブタンの合成酵素及び/またはそれらの合成系を有する、請求項1に記載の生物または培養細胞。
【請求項13】
前記アミノ酸は、グルタミン、グルタミン酸、アラニン、バリン、及びロイシンを含む、請求項12に記載の生物または培養細胞。
【請求項14】
少なくとも2種の細胞である細胞Xおよび細胞Yを循環型で培養する方法であって、
(a)該細胞Xの排出成分を該細胞Yに提供する工程であって、該細胞Yは該成分の資化能を有する、工程と、
(b)該細胞Yに由来する成分を該細胞Xに提供する工程と、
(c)該細胞Xおよび該細胞Yを培養する工程と、
(d)必要に応じて、工程(a)~(c)を繰り返す工程と
を含み、
該細胞Xの排出成分の少なくとも1つが該細胞Yの資化可能な成分であり、
該細胞Yに由来する成分の少なくとも1つが該細胞Xの栄養成分であり
該細胞Yは、改変がされており、改変は、L-乳酸資化を行う遺伝子の導入を含み、かつ改変は、L-乳酸の膜透過性を付与または強化する遺伝子の導入を含み、およびD-乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の減弱化または欠失を含み、細胞は、ラン藻類、大腸菌、コリネ菌、糸状菌、および乳酸菌の少なくとも1つを含む、方法。
【請求項15】
所望の生成物を生産する方法であって、
請求項14に記載される方法を実施する工程を含み、ここで
前記細胞XまたはYの少なくとも1つが、該所望の生成物を生産するものである、方法。
【請求項16】
前記細胞XおよびYは、動物細胞およびラン藻細胞を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞Xの排出成分と前記細胞Yに由来する成分は、それぞれL-乳酸およびグルタミンまたはグルタミン酸を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記培養する工程は、前記細胞Xおよび前記細胞Yを異所で培養することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記栄養源は、グルコース、グルタミン酸、グルタミン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、ピルビン酸、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、葉酸、コリン、デンプン、グリコーゲン、およびセルロースを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記排出される成分は、L-乳酸、二酸化炭素、アンモニア、尿素、またはリン酸を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記排出される成分は、L-乳酸、アンモニア、または尿素であり、前記動物細胞に毒性を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記生物は、ピルビン酸代謝系、及び/またはTCA回路を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記生物は、コハク酸、2-オキソグルタル酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、及び/または酢酸の合成経路を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記栄養源は、グルコース、グルタミン酸、グルタミン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、ピルビン酸、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、葉酸、コリン、デンプン、グリコーゲン、およびセルロースを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記排出される成分は、L-乳酸、二酸化炭素、アンモニア、尿素、またはリン酸を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記排出される成分は、L-乳酸、アンモニア、または尿素であり、前記動物細胞に毒性を有する、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記生物は、ピルビン酸代謝系、及び/またはTCA回路を有する、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記生物は、コハク酸、2-オキソグルタル酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、及び/または酢酸の合成経路を有する、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
前記生物または培養細胞は、ラン藻類を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記改変は、NAD非依存型L-乳酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.1.2.3)をコードする遺伝子の導入を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記改変は、大腸菌由来lldD遺伝子の導入を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記改変は、乳酸パーミアーゼをコードする遺伝子の導入を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記改変は、大腸菌由来lldP遺伝子の導入を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
前記改変は、L-乳酸またはD-乳酸の合成を行う遺伝子の減弱化または欠失を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項38】
前記改変は、D-乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の減弱化または欠失を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項39】
前記改変は、ldhA遺伝子の減弱化または欠失を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項40】
前記生物または培養細胞は、ピルビン酸代謝系、及び/またはTCA回路を有する、請求項31に記載の方法。
【請求項41】
前記生物または培養細胞は、コハク酸、2-オキソグルタル酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、及び/または酢酸の合成経路を有する、請求項31に記載の方法。
【請求項42】
前記生物または培養細胞は、アミノ酸の合成酵素及び/またはアミノ酸合成系、及び/またはD-乳酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、ギ酸、酢酸、エタノール、2,3-ブタンンジオール、ブタノール、アセトン、イソ酪酸、イソブタノール、イソブチレン、酪酸、1-ブタノール、プロパン、カプロン酸、ペンタン、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、イタコン酸、γ-アミノ酪酸、γ-ブチロラクタム、オルニチン、プトレシン、6-アミノカプロン酸、ε-カプロラクタム、エチレン、γ-ブチロラクトン、1,4-ブタンジオール、レブリン酸、アジピン酸、カダベリン、5-アミノ吉草酸、δ-バレロラクタム、1-プロパノール、またはブタンの合成酵素及び/またはそれらの合成系を有する、請求項31に記載の方法。
【請求項43】
前記アミノ酸は、グルタミン、グルタミン酸、アラニン、バリン、及びロイシンを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記所望の生成物は、D-乳酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、ギ酸、酢酸、エタノール、2,3-ブタンンジオール、ブタノール、アセトン、イソ酪酸、イソブタノール、イソブチレン、酪酸、1-ブタノール、プロパン、カプロン酸、ペンタン、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、イタコン酸、γ-アミノ酪酸、γ-ブチロラクタム、オルニチン、プトレシン、6-アミノカプロン酸、ε-カプロラクタム、エチレン、γ-ブチロラクトン、1,4-ブタンジオール、レブリン酸、アジピン酸、カダベリン、5-アミノ吉草酸、δ-バレロラクタム、1-プロパノール、およびブタンを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項46】
前記生物または培養細胞は、ラン藻類を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記改変は、NAD非依存型L-乳酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.1.2.3)をコードする遺伝子の導入を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記改変は、大腸菌由来lldD遺伝子の導入を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項49】
前記改変は、乳酸パーミアーゼをコードする遺伝子の導入を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項50】
前記改変は、大腸菌由来lldP遺伝子の導入を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項51】
前記改変は、L-乳酸またはD-乳酸の合成を行う遺伝子の減弱化または欠失を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項52】
前記改変は、D-乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の減弱化または欠失を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項53】
前記改変は、ldhA遺伝子の減弱化または欠失を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項54】
前記生物または培養細胞は、ピルビン酸代謝系、及び/またはTCA回路を有する、請求項45に記載の方法。
【請求項55】
前記生物または培養細胞は、コハク酸、2-オキソグルタル酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、及び/または酢酸の合成経路を有する、請求項45に記載の方法。
【請求項56】
前記生物または培養細胞は、アミノ酸の合成酵素及び/またはアミノ酸合成系、及び/またはD-乳酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、ギ酸、酢酸、エタノール、2,3-ブタンンジオール、ブタノール、アセトン、イソ酪酸、イソブタノール、イソブチレン、酪酸、1-ブタノール、プロパン、カプロン酸、ペンタン、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、イタコン酸、γ-アミノ酪酸、γ-ブチロラクタム、オルニチン、プトレシン、6-アミノカプロン酸、ε-カプロラクタム、エチレン、γ-ブチロラクトン、1,4-ブタンジオール、レブリン酸、アジピン酸、カダベリン、5-アミノ吉草酸、δ-バレロラクタム、1-プロパノール、またはブタンの合成酵素及び/またはそれらの合成系を有する、請求項45に記載の方法。
【請求項57】
前記アミノ酸は、グルタミン、グルタミン酸、アラニン、バリン、及びロイシンを含む、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記所望の生成物は、D-乳酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、ギ酸、酢酸、エタノール、2,3-ブタンンジオール、ブタノール、アセトン、イソ酪酸、イソブタノール、イソブチレン、酪酸、1-ブタノール、プロパン、カプロン酸、ペンタン、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、イタコン酸、γ-アミノ酪酸、γ-ブチロラクタム、オルニチン、プトレシン、6-アミノカプロン酸、ε-カプロラクタム、エチレン、γ-ブチロラクトン、1,4-ブタンジオール、レブリン酸、アジピン酸、カダベリン、5-アミノ吉草酸、δ-バレロラクタム、1-プロパノール、およびブタンを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項60】
資化により栄養源が産出されることをさらに特徴とする、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記栄養源は、グルコース、グルタミン酸、グルタミン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、ピルビン酸、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、葉酸、コリン、デンプン、グリコーゲン、およびセルロースを含む、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記排出される成分は、L-乳酸、二酸化炭素、アンモニア、尿素、またはリン酸を含む、請求項59に記載の方法。
【請求項63】
前記排出される成分は、L-乳酸、アンモニア、または尿素であり、前記動物細胞に毒性を有する、請求項59に記載の方法。
【請求項64】
前記生物は、ピルビン酸代謝系、及び/またはTCA回路を有する、請求項59に記載の方法。
【請求項65】
前記生物は、コハク酸、2-オキソグルタル酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、及び/または酢酸の合成経路を有する、請求項59に記載の方法。
【請求項67】
前記栄養源は、グルコース、グルタミン酸、グルタミン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、ピルビン酸、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、葉酸、コリン、デンプン、グリコーゲン、およびセルロースを含む、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記排出される成分は、L-乳酸、二酸化炭素、アンモニア、尿素、またはリン酸を含む、請求項66に記載の方法。
【請求項69】
前記排出される成分は、L-乳酸、アンモニア、または尿素であり、前記動物細胞に毒性を有する、請求項66に記載の方法。
【請求項70】
前記生物は、ピルビン酸代謝系、及び/またはTCA回路を有する、請求項66に記載の方法。
【請求項71】
前記生物は、コハク酸、2-オキソグルタル酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、及び/または酢酸の合成経路を有する、請求項66に記載の方法。
【請求項72】
請求項1に記載の改変された生物または培養細胞を育種するためキットであって、L-乳酸の膜透過性を付与または強化する遺伝子を含む、キット。
【請求項73】
改変株を評価する方法であって、
請求項1に記載の生物または培養細胞を準備する工程と、
該生物または培養細胞において、該改変の存在を確認する工程と
を含む、方法。
【請求項74】
前記改変の存在を確認する工程は、前記生物または培養細胞に、光合成で用いる二酸化炭素を一定濃度で供給することを含む、請求項73に記載の方法。
【請求項78】
細胞外に放出された物質を回収する工程をさらに包含する、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
ピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸、またはピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸の誘導体の加工品を生産する方法であって、
改変された生物にL-乳酸を与える工程であって、該改変は、該生物におけるL-乳酸資化能の付与または強化を含む、工程と
該生物をL-乳酸が資化される条件下で培養する工程と、
必要に応じて、所望のピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸、またはピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸の誘導体を回収する工程と
該ピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸、またはピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸の誘導体を加工する工程と
を含み、改変は、L-乳酸資化を行う遺伝子の導入を含み、かつ改変は、L-乳酸の膜透過性を付与または強化する遺伝子の導入を含み、該改変は、D-乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の減弱化または欠失を含み、物は、ラン藻類、大腸菌、コリネ菌、糸状菌、および乳酸菌の少なくとも1つを含み、ただしヒトを除く、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞を用いた資源循環方法に関する。より特定すると、本開示は、L-乳酸資化性を有する生物に関する。より詳しくは、本開示は、L-乳酸資化性を有する生物を利用した資源循環方法や、それによって動物細胞を培養して培養肉を生産し、または所望の生成物を得る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
穀物や家畜などの動植物の個体の一部を食料とする現行の食料生産では、多くの無駄が生じる。近年、可食部の細胞を培養することによって作られる培養肉が世界的に注目され、盛んに開発が行われている。一方で、細胞培養に用いる培地の成分がそもそも穀物や家畜由来であること、また非常に高価であることが問題となる。さらに将来的な培養肉の普及に伴って生じる大量の培養廃液に対する対策も必要となる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
そこで本開示は、細胞の能力を活用し、光合成を駆動源にした循環型の細胞培養と細胞の立体組織化による可食部のみの生産技術を確立する方法を提供する。
【0004】
したがって、本開示は以下を提供する。
(項目1)
改変された生物または培養細胞であって、該改変は、該生物または培養細胞におけるL-乳酸資化能の付与または強化を含む、生物または培養細胞。
(項目2)
前記生物または培養細胞は、ラン藻類、微細藻類、酵母、大腸菌、枯草菌、コリネ菌、放線菌、糸状菌、枯草菌、および乳酸菌を含む、上記項目に記載の生物または培養細胞。(項目3)
前記改変は、L-乳酸資化を行う遺伝子の導入を含む、上記項目のいずれか一項に記載の生物または培養細胞。
(項目4A)
前記改変は、NAD非依存型L-乳酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.1.2.3)をコードする遺伝子の導入を含む、上記項目のいずれか一項に記載の生物または培養細胞。
(項目4)
前記改変は、大腸菌由来lldD遺伝子の導入を含む、上記項目のいずれか一項に記載の生物または培養細胞。
(項目5)
前記改変は、L-乳酸の膜透過性を付与または強化する遺伝子の導入を含む、上記項目のいずれか一項に記載の生物または培養細胞。
(項目6A)
前記改変は、乳酸パーミアーゼをコードする遺伝子の導入を含む、上記項目のいずれか一項に記載の生物または培養細胞。
(項目6)
前記改変は、大腸菌由来lldP遺伝子の導入を含む、上記項目のいずれか一項に記載の生物または培養細胞。
(項目7)
前記改変は、L-乳酸またはD-乳酸の合成を行う遺伝子の減弱化または欠失を含む、上記項目のいずれか一項に記載の生物または培養細胞。
(項目8A)
前記改変は、D-乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の減弱化または欠失を含む、上記項目のいずれか一項に記載の生物または培養細胞。
(項目8)
前記改変は、ldhA遺伝子の減弱化または欠失を含む、上記項目のいずれか一項に記載の生物または培養細胞。
(項目9)
前記生物または培養細胞は、ピルビン酸代謝系、及び/またはTCA回路を有する、上記項目のいずれか一項に記載の生物または培養細胞。
(項目9A)
前記生物または培養細胞は、コハク酸、2-オキソグルタル酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、及び/または酢酸の合成経路を有する、上記項目のいずれか一項に記載の生物または培養細胞。
(項目10)
前記生物または培養細胞は、アミノ酸の合成酵素及び/またはアミノ酸合成系、及び/またはD-乳酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、ギ酸、酢酸、エタノール、2,3-ブタンンジオール、ブタノール、アセトン、イソ酪酸、イソブタノール、イソブチレン、酪酸、1-ブタノール、プロパン、カプロン酸、ペンタン、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、イタコン酸、γ-アミノ酪酸、γ-ブチロラクタム、オルニチン、プトレシン、6-アミノカプロン酸、ε-カプロラクタム、エチレン、γ-ブチロラクトン、1,4-ブタンジオール、レブリン酸、アジピン酸、カダベリン、5-アミノ吉草酸、δ-バレロラクタム、1-プロパノール、またはブタンの合成酵素及び/またはそれらの合成系を有する、上記項目のいずれか一項に記載の生物または培養細胞。
(項目11)
前記アミノ酸は、グルタミン、グルタミン酸、アラニン、バリン、及びロイシンを含む、上記項目のいずれか一項に記載の生物または培養細胞。
(項目X1)
少なくとも2種の細胞である細胞Xおよび細胞Yを循環型で培養する方法であって、
(a)該細胞Xの排出成分を該細胞Yに提供する工程と、
(b)該細胞Yに由来する成分を該細胞Xに提供する工程と、
(c)該細胞Xおよび該細胞Yを培養する工程と、
(d)必要に応じて、工程(a)~(c)を繰り返す工程と
を含み、
該細胞Xの排出成分の少なくとも1つが該細胞Yの資化可能な成分であり、
該細胞Yに由来する成分の少なくとも1つが該細胞Xの栄養成分である、方法。
(項目X1A)
前記細胞Xの排出成分がL-乳酸を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X2)
所望の生成物を生産する方法であって、
上記項目に記載される方法を実施する工程を含み、ここで
前記細胞XまたはYの少なくとも1つが、該所望の生成物を生産するものである、方法。
(項目X3)
前記細胞XおよびYは、動物細胞およびラン藻細胞を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X4)
前記細胞Xの排出成分と前記細胞Yに由来する成分は、それぞれL-乳酸およびグルタミンまたはグルタミン酸を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目X5)
前記培養する工程は、前記細胞Xおよび前記細胞Yを異所で培養することを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A1)
動物細胞培養から排出される成分を生物によってリサイクルして動物細胞を培養する方法であって、
(a)該排出される成分を生物に消費させる工程であって、該生物は該成分の資化能を有する、工程と、
(b)該生物の培養液から該動物細胞の栄養源を回収する工程と、
(c)該栄養源を用いて該動物細胞を培養する工程と、
(d)必要に応じて、工程(a)~(c)を繰り返す工程と
を含む、方法。
(項目A2)
前記栄養源は、グルコース、グルタミン酸、グルタミン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、ピルビン酸、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、葉酸、コリン、デンプン、グリコーゲン、およびセルロースを含む、上記項目に記載の方法。
(項目A3)
前記生物は、前記排出される成分を資化して前記栄養源を生産する能力を有するか、または該生物において該成分の資化能を付与または強化する改変がされている、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A4)
前記排出される成分は、L-乳酸、二酸化炭素、アンモニア、尿素、またはリン酸を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A5)
前記排出される成分は、L-乳酸、アンモニア、または尿素であり、前記動物細胞に毒性を有する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A6)
前記生物は、ピルビン酸代謝系、及び/またはTCA回路を有する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A7)
前記生物は、コハク酸、2-オキソグルタル酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、及び/または酢酸の合成経路を有する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目B1)
動物細胞培養から排出される成分を生物においてリサイクルして動物細胞を培養し、培養肉を生産する方法であって、
(a)該排出される成分を生物に消費させる工程であって、該生物は該成分の資化能を有する、工程と、
(b)該生物から該動物細胞の栄養源を回収する工程と、
(c)該栄養源を用いて該動物細胞を培養する工程と、
(d)必要に応じて、工程(a)~(c)を繰り返す工程と、
(e)該培養された動物細胞を、立体組織化して培養肉として成型する工程と
を含む、方法。
(項目B2)
前記栄養源は、グルコース、グルタミン酸、グルタミン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、ピルビン酸、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、葉酸、コリン、デンプン、グリコーゲン、およびセルロースを含む、上記項目に記載の方法。
(項目B3)
前記生物は、前記排出される成分を資化して前記栄養源を生産する能力を有するか、または該生物において該成分の資化能を付与または強化する改変がされている、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目B4)
前記排出される成分は、L-乳酸、二酸化炭素、アンモニア、尿素、またはリン酸を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目B5)
前記排出される成分は、L-乳酸、アンモニア、または尿素であり、前記動物細胞に毒性を有する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目B6)
前記生物は、ピルビン酸代謝系、及び/またはTCA回路を有する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目B7)
前記生物は、コハク酸、2-オキソグルタル酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、及び/または酢酸の合成経路を有する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C1)
動物細胞培養から排出されるL-乳酸を用いて生物または培養細胞にアミノ酸及び/または所望の生成物を生産させる方法であって、
該生物または培養細胞に該L-乳酸を与える工程であって、該生物または培養細胞は、L-乳酸資化能を有するか、または該生物または培養細胞においてL-乳酸資化能を付与または強化する改変がされている、工程と、
該生物または培養細胞をL-乳酸が資化される条件下で培養する工程と、
必要に応じて、前記アミノ酸を回収する工程と
を含む、方法。
(項目C2)
前記生物または培養細胞は、ラン藻類、微細藻類、酵母、大腸菌、枯草菌、コリネ菌、放線菌、糸状菌、枯草菌、および乳酸菌を含む、上記項目に記載の方法。
(項目C3)
前記改変は、L-乳酸資化を行う遺伝子の導入を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C4A)
前記改変は、NAD非依存型L-乳酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.1.2.3)をコードする遺伝子の導入を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C4)
前記改変は、大腸菌由来lldD遺伝子の導入を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C5)
前記改変は、L-乳酸の膜透過性を付与または強化する遺伝子の導入を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C6A)
前記改変は、乳酸パーミアーゼをコードする遺伝子の導入を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C6)
前記改変は、大腸菌由来lldP遺伝子の導入を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C7)
前記改変は、L-乳酸またはD-乳酸の合成を行う遺伝子の減弱化または欠失を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C8A)
前記改変は、D-乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の減弱化または欠失を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C8)
前記改変は、ldhA遺伝子の減弱化または欠失を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C9)
前記生物または培養細胞は、ピルビン酸代謝系、及び/またはTCA回路を有する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C9A)
前記生物または培養細胞は、コハク酸、2-オキソグルタル酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、及び/または酢酸の合成経路を有する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C10)
前記生物または培養細胞は、アミノ酸の合成酵素及び/またはアミノ酸合成系、及び/またはD-乳酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、ギ酸、酢酸、エタノール、2,3-ブタンンジオール、ブタノール、アセトン、イソ酪酸、イソブタノール、イソブチレン、酪酸、1-ブタノール、プロパン、カプロン酸、ペンタン、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、イタコン酸、γ-アミノ酪酸、γ-ブチロラクタム、オルニチン、プトレシン、6-アミノカプロン酸、ε-カプロラクタム、エチレン、γ-ブチロラクトン、1,4-ブタンジオール、レブリン酸、アジピン酸、カダベリン、5-アミノ吉草酸、δ-バレロラクタム、1-プロパノール、またはブタンの合成酵素及び/またはそれらの合成系を有する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C10A)
前記アミノ酸は、グルタミン、グルタミン酸、アラニン、バリン、及びロイシンを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目C11)
前記所望の生成物は、D-乳酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、ギ酸、酢酸、エタノール、2,3-ブタンンジオール、ブタノール、アセトン、イソ酪酸、イソブタノール、イソブチレン、酪酸、1-ブタノール、プロパン、カプロン酸、ペンタン、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、イタコン酸、γ-アミノ酪酸、γ-ブチロラクタム、オルニチン、プトレシン、6-アミノカプロン酸、ε-カプロラクタム、エチレン、γ-ブチロラクトン、1,4-ブタンジオール、レブリン酸、アジピン酸、カダベリン、5-アミノ吉草酸、δ-バレロラクタム、1-プロパノール、およびブタンを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目D1)
動物細胞培養から排出されるL-乳酸を用いて生物または培養細胞が生産したアミノ酸及び/または所望の生成物の加工品を生産する方法であって、
該生物または培養細胞に該L-乳酸を与える工程であって、該生物または培養細胞は、L-乳酸資化能を有するか、または該生物または培養細胞においてL-乳酸資化能を付与または強化する改変がされている、工程と、
該生物または培養細胞をL-乳酸が資化される条件下で培養する工程と、
該アミノ酸及び/または所望の生成物を回収する工程と、
該アミノ酸及び/または所望の生成物を加工する工程と
を含む、方法。
(項目D2)
前記生物または培養細胞は、ラン藻類、微細藻類、酵母、大腸菌、枯草菌、コリネ菌、放線菌、糸状菌、枯草菌、および乳酸菌を含む、上記項目に記載の方法。
(項目D3)
前記改変は、L-乳酸資化を行う遺伝子の導入を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目D4A)
前記改変は、NAD非依存型L-乳酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.1.2.3)をコードする遺伝子の導入を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目D4)
前記改変は、大腸菌由来lldD遺伝子の導入を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目D5)
前記改変は、L-乳酸の膜透過性を付与または強化する遺伝子の導入を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目D6A)
前記改変は、乳酸パーミアーゼをコードする遺伝子の導入を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目D6)
前記改変は、大腸菌由来lldP遺伝子の導入を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目D7)
前記改変は、L-乳酸またはD-乳酸の合成を行う遺伝子の減弱化または欠失を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目D8A)
前記改変は、D-乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の減弱化または欠失を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目D8)
前記改変は、ldhA遺伝子の減弱化または欠失を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目D9)
前記生物または培養細胞は、ピルビン酸代謝系、及び/またはTCA回路を有する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目D9A)
前記生物または培養細胞は、コハク酸、2-オキソグルタル酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、及び/または酢酸の合成経路を有する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目D10)
前記生物または培養細胞は、アミノ酸の合成酵素及び/またはアミノ酸合成系、及び/またはD-乳酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、ギ酸、酢酸、エタノール、2,3-ブタンンジオール、ブタノール、アセトン、イソ酪酸、イソブタノール、イソブチレン、酪酸、1-ブタノール、プロパン、カプロン酸、ペンタン、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、イタコン酸、γ-アミノ酪酸、γ-ブチロラクタム、オルニチン、プトレシン、6-アミノカプロン酸、ε-カプロラクタム、エチレン、γ-ブチロラクトン、1,4-ブタンジオール、レブリン酸、アジピン酸、カダベリン、5-アミノ吉草酸、δ-バレロラクタム、1-プロパノール、またはブタンの合成酵素及び/またはそれらの合成系を有する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目D10A)
前記アミノ酸は、グルタミン、グルタミン酸、アラニン、バリン、及びロイシンを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目D11)
前記所望の生成物は、D-乳酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、ギ酸、酢酸、エタノール、2,3-ブタンンジオール、ブタノール、アセトン、イソ酪酸、イソブタノール、イソブチレン、酪酸、1-ブタノール、プロパン、カプロン酸、ペンタン、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、イタコン酸、γ-アミノ酪酸、γ-ブチロラクタム、オルニチン、プトレシン、6-アミノカプロン酸、ε-カプロラクタム、エチレン、γ-ブチロラクトン、1,4-ブタンジオール、レブリン酸、アジピン酸、カダベリン、5-アミノ吉草酸、δ-バレロラクタム、1-プロパノール、およびブタンを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目E1)
動物細胞培養から排出される成分を用いて、生物または培養細胞を育種する方法であって、
(A)動物細胞から排出される成分を生物または培養細胞の候補に与える工程と
(B)該排出される成分を該生物または培養細胞が消費するかまたは該消費が強化されるかどうかを決定する工程と、
(C)該生物または培養細胞のうち、消費を付与または強化されたものを選択する工程とを包含し、選択された該生物または培養細胞は該成分の資化能を有するか、または該生物または培養細胞において該成分の資化能を付与または強化する改変がされていると判定されることを特徴とする、方法。
(項目E2)
資化により栄養源が産出されることをさらに特徴とする、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目E3)
前記栄養源は、グルコース、グルタミン酸、グルタミン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、ピルビン酸、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、葉酸、コリン、デンプン、グリコーゲン、およびセルロースを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目E4)
前記排出される成分は、L-乳酸、二酸化炭素、アンモニア、尿素、またはリン酸を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目E5)
前記排出される成分は、L-乳酸、アンモニア、または尿素であり、前記動物細胞に毒性を有する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目E6)
前記生物は、ピルビン酸代謝系、及び/またはTCA回路を有する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目E6A)
前記生物は、コハク酸、2-オキソグルタル酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、及び/または酢酸の合成経路を有する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目F1)
動物細胞培養から排出される成分を用いて、生物または培養細胞を維持する方法であって、
(a)該排出される成分を該生物または培養細胞に消費させる工程であって、該生物または培養細胞は該成分の資化能を有するか、または該生物または培養細胞において該成分の資化能を付与または強化する改変がされている、工程と、
(b)必要に応じて、該生物または培養細胞から該動物細胞の栄養源を回収する工程と、(c)必要に応じて、該栄養源を用いて該動物細胞を培養する工程と、
(d)該動物細胞から排出される成分を該生物または培養細胞に与える工程と
を含む、方法。
(項目F2)
前記栄養源は、グルコース、グルタミン酸、グルタミン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、ピルビン酸、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、葉酸、コリン、デンプン、グリコーゲン、およびセルロースを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目F3)
前記排出される成分は、L-乳酸、二酸化炭素、アンモニア、尿素、またはリン酸を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目F4)
前記排出される成分は、L-乳酸、アンモニア、または尿素であり、前記動物細胞に毒性を有する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目F5)
前記生物は、ピルビン酸代謝系、及び/またはTCA回路を有する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目F5A)
前記生物は、コハク酸、2-オキソグルタル酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、及び/または酢酸の合成経路を有する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目G1)
上記項目のいずれか一項に記載の改変された生物または培養細胞を育種するために使用される遺伝子または該遺伝子を含むキット。
(項目H1)
改変株を評価する方法であって、
上記項目のいずれか一項に記載の生物または培養細胞を準備する工程と、
該生物または培養細胞において、該改変の存在を確認する工程と
を含む、方法。
(項目H2)
前記改変の存在を確認する工程は、前記生物または培養細胞に、光合成で用いる二酸化炭素を一定濃度で供給することを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目I1)
動物細胞培養から排出されるL-乳酸を用いて生物または培養細胞にプラスチック原料を生産させる方法であって、
該生物または培養細胞に該L-乳酸を与える工程であって、該生物または培養細胞は、L-乳酸資化能を有するか、または該生物または培養細胞においてL-乳酸資化能を付与または強化する改変がされている、工程と、
該生物または培養細胞をL-乳酸が資化される条件下で培養する工程と、
該生物または培養細胞から、プラスチックの原料となる成分を回収する工程と、
を含み、該生物または培養細胞は、該プラスチックの原料となる成分を合成することができるか、または該生物または培養細胞において該プラスチックの原料となる成分の合成に必要な遺伝子が導入されている、方法。
(項目J1)
乳酸の誘導体、またはそれらの派生物を生産する方法であって、
改変された生物にL-乳酸を与える工程であって、該改変は、該生物におけるL-乳酸資化能の付与または強化を含む、工程と、
該改変生物をL-乳酸が資化される条件下で培養する工程と、
必要に応じて、所望の乳酸の誘導体、またはそれらの派生物を回収する工程と
を含む、方法。
(項目J2)
ピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸、またはピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸の誘導体を生産する方法であって、
改変された生物にL-乳酸を与える工程であって、該改変は、該生物におけるL-乳酸資化能の付与または強化を含む、工程と、
該改変生物をL-乳酸が資化される条件下で培養する工程と、
必要に応じて、所望のピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸、またはピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸の誘導体を回収する工程と
を含む、方法。
(項目J3)
細胞外に放出された物質を回収する工程をさらに包含する、上記項目に記載の方法。
(項目J4)
ピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸、またはピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸の誘導体の加工品を生産する方法であって、
改変された生物にL-乳酸を与える工程であって、該改変は、該生物におけるL-乳酸資化能の付与または強化を含む、工程と
該改変生物をL-乳酸が資化される条件下で培養する工程と、
必要に応じて、所望のピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸、またはピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸の誘導体を回収する工程と
該ピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸、またはピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸の誘導体を加工する工程と
を含む、方法。
【0005】
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。なお、本開示のさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【0006】
なお、上記した以外の本開示の特徴及び顕著な作用・効果は、以下の発明の実施形態の項及び図面を参照することで、当業者にとって明確となる。
【発明の効果】
【0007】
本開示により、L-乳酸資化性を有する改変生物を提供できる。また本開示の方法により、藻類に由来する成分を栄養源として動物細胞を培養し、その培養廃液を再利用するシステムを提供することができ、既存の穀物を飼料とした家畜飼育による食料生産システムに比べて大幅に環境負荷が少ない食肉生産システムを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の一実施形態におけるラン藻への乳酸オペロン遺伝子の導入モデルを示す模式図である。
図2図2は、Escherichia coliにおけるLldDのアミノ酸配列である(配列番号1)。
図3図3は、Escherichia coliにおけるLldPのアミノ酸配列である(配列番号2)。
図4図4は、Synechococcus elongatusを宿主としてコドン最適化したlldDの塩基配列である(配列番号3)。
図5図5は、Synechococcus elongatusを宿主としてコドン最適化したlldPの塩基配列である(配列番号4)。
図6図6は、プラスミド名:pUC118-LDH KO-GenR(プラスミド番号:KCP0102)を示す模式図である。
図7図7は、プラスミド名:pUC118-LDH KO-trc-lldD-GenR(プラスミド番号:KCP0100)を示す模式図である。
図8図8は、プラスミド名:pUC118-LDH KO-trc-lldD-lldP-GenR(プラスミド番号:KCP0101)を示す模式図である。
図9図9は、本開示の一実施形態に係るllD/lldP導入株の細胞増殖試験結果を示す図である。それぞれの試験株の細胞増殖を示すグラフ(図9上)と、各地点での培養写真(図9下)を示した。
図10図10は、本開示の一実施形態に係るllD/lldP導入株の硝酸およびリン酸の消費を示すグラフである。硝酸の消費を図10上に、リン酸の消費を図10下に、それぞれ示した。
図11図11は、本開示の一実施形態に係るllD/lldP導入株の乳酸の消費を示すグラフである。
図12図12は、本開示の一実施形態に係るllD/lldP導入株の細胞内・細胞外の代謝物量の解析結果を示す模式図である。
図13図13は、本開示の一実施形態に係るllD/lldP導入株におけるTCA回路の代謝物量の解析結果を示す模式図である。
図14図14は、llD/lldP導入株における各種アミノ酸量の解析結果を示す模式図である。
図15図15は、本開示の一実施形態に係る藻類を栄養源とした細胞培養と組織化によるムリ・ムダのない食料生産を示す模式図である。
図16図16は、本開示の一実施形態に係る循環型細胞培養を示す模式図である。
図17図17は、本開示の一実施形態に係る培養肉の作製プロセスを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0010】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0011】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
【0012】
本明細書において「資化能」または「資化性」とは、生物において物質を細胞内に取り込み、代謝または消費する能力をいい、相互互換的に使用することができる。
【0013】
本明細書において、資化能を「付与または強化」とは、生物がその資化能を本来備えていない場合に、その生物を遺伝的に改変するなどして、その資化能を備えること、また生物がその資化能を本来備えている場合に、その生物を遺伝的に改変するなどして、その資化能が向上することをいう。
【0014】
本明細書において、「L-乳酸資化能」または「L-乳酸資化性」とは、L-乳酸を細胞内に取り込み、代謝または消費できることをいい、相互互換的に使用することができる。
【0015】
本明細書において「乳酸の誘導体、またはそれらの派生物」とは、生物や細胞内において乳酸が変換されて生成した化合物や、その化合物が修飾、加工などして生成されたものをいう。
【0016】
本明細書において、「改変」とは、細胞内のDNAに塩基配列を挿入すること、または細胞内のDNAの塩基配列を一部欠失すること、またはそれらの組み合わせをいう。
【0017】
本明細書において、「改変された生物」または「改変生物」とは、基準生物に対して、生物におけるDNAの塩基配列が改変した生物をいう。基準生物としては、天然に存在する生物、改変前は未知であった生物、改変前は存在していなかった生物などを挙げることができるがそれらに限定されない。
【0018】
本明細書において、「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいい、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「DNA」を指すことがある。こうしたタンパク質をコードする遺伝子は、対象となる生物において内因性であってもよいし、外因性であってもよい。また、公知のこれらの遺伝子を適宜利用できる。遺伝子としては、由来を問わないで利用できる。すなわち、遺伝子は、対象となる生物以外の他の種の生物、他の属の生物に由来するものであってもよいし、動物、植物、真菌(カビ等)、細菌などの生物に由来するものであってもよい。こうした遺伝子に関する情報は、当業者であれば、NCBI(National Center for Biotechnology Information;http://www.ncbi.nlm.nih.gov)等のHPにアクセスすることにより適宜入手できる。これらの遺伝子は、各活性を有する限りにおいて、データベース等において開示される配列情報と一定の関係を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。こうした一態様としては、開示されたアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、本発明で増強しようとする活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。開示されるアミノ酸配列に対するアミノ酸の変異は、すなわち、欠失、置換、挿入若しくは付加は、いずれか1種類であってもよいし、2種類以上が組み合わされていてもよい。また、これらの変異の総数は、特に限定されないが、好ましくは、1個以上10個以下程度である。より好ましくは、1個以上5個以下である。アミノ酸置換の例としては、保存的置換が好ましく、具体的には以下のグループ内での置換が挙げられる。(グリシン、アラニン)(バリン、イソロイシン、ロイシン)(アスパラギン酸、グルタミン酸)(アスパラギン、グルタミン)(セリン、トレオニン)(リジン、アルギニン)(フェニルアラニン、チロシン)。
【0019】
本明細書において、遺伝子の「導入」とは、外来性もしくは内在性の遺伝子、好ましくは機能遺伝子を適宜の導入技術により、その遺伝子を、例えば染色体ゲノム等に導入することをいう。遺伝子の導入には、ファージ、プラスミドなどのベクターを用いて遺伝子を導入することができ、また、自然形質転換法、接合法、プロトプラスト-PEG法やエレクトロポレーション法なども用いることができる。また、当該分野で公知の標的遺伝子組換え法を利用すれば、内在性の機能遺伝子と置換させることによって外来性の機能遺伝子を導入することもできる。なお、外来性の機能遺伝子は、その生物の染色体ゲノムに元来存在しない遺伝子であり、他の生物種由来の遺伝子やPCR等で作製した合成遺伝子等でありうる。遺伝子の導入には、既存のゲノムに対してゲノム編集を行うことで所望の遺伝子に変換することも包含される。
【0020】
本明細書において、「膜透過性」とは、化合物が細胞膜を透過する能力をいい、化合物が細胞膜内に部分的に埋め込まれることや、化合物が細胞膜を完全に通過して細胞内空間に到達することも含む。好ましくは、本開示との関係では、外来物質(例えば、L-乳酸など)が外部から内部に、資化可能な形態で移入されるように透過することが有利である。
【0021】
本明細書において、L-乳酸またはD-乳酸の「合成を行う遺伝子」とは、生体内または細胞内でのL-乳酸合成またはD-乳酸合成の促進に関わる酵素等をコードする遺伝子、L-乳酸合成またはD-乳酸合成の促進に関わる酵素等の発現を促進する遺伝子をいう。例えば、ピルビン酸が基質のとき、D-乳酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.1.1.28)がこの合成を行う遺伝子(産物)に該当する。
【0022】
本明細書において遺伝子の「減弱化」とは、遺伝子発現(転写レベルでもよく、翻訳レベルでもよい)、または遺伝子産物の機能を天然の状態または改変前よりも低下させることをいい、遺伝子の「欠失」とは、遺伝子発現(転写レベルでもよく、翻訳レベルでもよい)、または遺伝子産物の機能を消失させることをいう。本明細書において、「遺伝子」の「減弱化」および「欠失」は遺伝子がコードされる核酸およびその産物などの「減弱化」および「欠失」として記載され得る。
【0023】
本明細書において、「循環型」および「リサイクルして」とは、ある系において、ある物質または物質から構成される有機体、好ましくはある系に存在するすべての物質または物質から構成される有機体が、系の内部で、外部から供給を受けないで再利用され、対象となる物質または物質から構成される有機体が再生産されることをいう。例えば、第一の生物または培養細胞が排出する成分等を、第二の生物または培養細胞が栄養源として利用し、第二の生物または培養細胞が排出する成分等を、第一の生物または培養細胞が栄養源として利用することが循環型またはリサイクルに該当する。
【0024】
本明細書において、「排出成分」および「排出される成分」とは、細胞の培養工程において、当該細胞内部から外部に出される成分を言い、排出は、分泌の他、老廃物の単なる排除、蒸発、拡散等の任意の形態があり得、この成分には、当該細胞にとって毒性のある成分(例えば、ある動物細胞にとってのL-乳酸等)も含まれる。
【0025】
本明細書において、「栄養成分」および「栄養源」とは、交換可能に使用され、生物や培養細胞が成長または増殖する際に消費または代謝する成分をいい、例えば、糖やアミノ酸等、あるいはそれらの複合体が含まれる。
【0026】
本明細書において、「由来(する)成分」とは、生物や培養細胞そのものや、それらの一部、またはそれらが生産等する成分をいう。
【0027】
本明細書において、「生成物」とは、生物または培養細胞が生産、生成、産生などする物質をいい、例えば、アミノ酸、タンパク質、糖類などが含まれる。
【0028】
本明細書において、「異所」で培養とは、空間的、または物理的に離れた場所で培養されることをいう。
【0029】
本明細書において、「立体組織化」とは、増幅した細胞を球状、糸状あるいは層状に組織化すること、および、さらにそれらを集積することで三次元的に一定の大きさを持たせるようにすることをいう。
【0030】
本明細書において、「ピルビン酸代謝系」とは、生物や細胞内において、ピルビン酸を別の化合物に変換する系を意味する。代謝には、ピルビン酸が生物や細胞に取り込まれることや、取り込まれたピルビン酸を材料として、各種化合物を生成することも含まれる。ピルビン酸(焦性ブドウ酸)は解糖系で、ホスホエノールピルビン酸から生成し、アセチルCoAとなった後、TCA回路に組み入れられるのが主要経路であるが、他にもいろいろな化合物の代謝生成原料となっている。ピルビン酸またはその代謝物には、ピルビン酸代謝系に関与する物質の他、その系における特定の物質が変化および/または修飾されてできる任意の糖、有機酸、アミノ酸などの物質、並びにその二次代謝物および誘導体も含まれる。したがって、ピルビン酸の代謝物としては、例えば、グルタミン、グルタミン酸、アラニン、バリン、及びロイシンなどのアミノ酸や、D-乳酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、ギ酸、酢酸、エタノール、2,3-ブタンンジオール、ブタノール、アセトン、イソ酪酸、イソブタノール、イソブチレン、酪酸、1-ブタノール、プロパン、カプロン酸、ペンタン、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、イタコン酸、γ-アミノ酪酸、γ-ブチロラクタム、オルニチン、プトレシン、6-アミノカプロン酸、ε-カプロラクタム、エチレン、γ-ブチロラクトン、1,4-ブタンジオール、レブリン酸、アジピン酸、カダベリン、5-アミノ吉草酸、δ-バレロラクタム、1-プロパノール、またはブタンなどが含まれる。
【0031】
本明細書において「TCA回路」とは、好気的代謝に関する生化学反応回路であり、好気呼吸を行う生物全般に見られる。解糖や脂肪酸のβ酸化によって生成するアセチルCoAがこの回路に組み込まれ、酸化されることによって、ATPや電子伝達系で用いられるNADHなどが生じ、エネルギー生産を可能にしている。また、アミノ酸などの生合成の前駆体も供給する。TCA回路は、TCAサイクル、トリカルボン酸回路、クエン酸回路、クレブス回路、などと呼ばれる場合もある。
【0032】
本明細書において「コハク酸、2-オキソグルタル酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、及び/または酢酸の合成経路」とは、生物や細胞内において、コハク酸、2-オキソグルタル酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、及び/または酢酸が別の化合物から合成される経路をいう。
【0033】
アミノ酸の代謝経路は例えば、以下のようなものがあり得る。芳香族アミノ酸はシキミ酸経路を介して合成される。シキミ酸経路では、ホスホエノールピルビン酸(PEP)とエリスロース-4-リン酸(E4P)を縮合して3-デオキシ-D-アラビノ-へプツロソン-7-リン(DAHP)を合成する反応から始まって、コリスミ酸が合成される。そして、コリスミ酸を基質とし、芳香族アミノ酸のフェニルアラニン、チロシンとトリプトファンが合成される。シキミ酸経路を制御すると全ての芳香族アミノ酸、およびこの経路に係わる二次代謝産物も制御される。芳香族アミノ酸合成経路の酵素群は、エリトロース4-リン酸(E4P)からの芳香族アミノ酸の生合成を触媒する。芳香族アミノ酸合成経路には、ペントースリン酸経路で生合成されたエリトロース4-リン酸(E4P)からコリスミ酸を経てチロシン(Tyr)やフェニルアラニン(Phe)、トリプトファン(Trp)等の芳香族アミノ酸を生合成する酵素群が含まれる。また、ピルビン酸カルボキシラーゼ(例えば、PYC1、PYC2など)は、解糖系で生合成されたピルビン酸からオキサロ酢酸(OAA)を生合成する酵素である。ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDA1)は、解糖系で生合成されたピルビン酸からアセチルCoAを合成する複合酵素である。一般に、芳香族アミノ酸合成経路遺伝子には、ARO1、ARO2、ARO3、ARO4、ARO7,ARO8,ARO9、TYR1、PHA2、TRP2、TRP3、TRP4、TRP1、TRP3、TRP5などが存在しているが、ARO1、ARO7、ARO8、ARO9、PHA2、TRP5を増強対象とすることが好ましい。
【0034】
コハク酸、2-オキソグルタル酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、及び/または酢酸の合成や代謝に関する経路、またそれらを触媒する酵素などについては、例えば、Nature Catalysis 2, 18-33 (2019)に例示される。
【0035】
またアミノ酸の合成や代謝に関する経路、またそれらを触媒する酵素などについては、例えば、Eukaryot Cell. 2006 Feb; 5(2): 272-276.、Current Opinion in Microbiology 32, 151-158 (2016)、Annual Review of Plant Biology 67, 153-78 (2016)、Pest Management Science 76(12), 3896-3904 (2020)などに例示される。
【0036】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。したがって、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができる。
【0037】
(改変生物)
本開示の一局面において、改変された生物または培養細胞であって、該改変は、該生物または培養細胞におけるL-乳酸資化能の付与または強化を含む、生物または培養細胞が提供される。L-乳酸は動物細胞培養廃液の主要成分の一つであり、本開示の一実施形態において、このような改変された生物または培養細胞を提供することにより、その改変された生物または培養細胞がL-乳酸を資化することで生育し、さらに、その改変された生物または培養細胞に由来する成分を動物培養細胞の栄養源とすることができる。
【0038】
微細藻類・ラン藻などの生物と動物培養細胞を利用した循環型食糧生産システムの構築において、動物培養細胞が排出する主要な成分であるL-乳酸を微細藻類・ラン藻などの生物が資化する必要がある。しかし、多くの微細藻類・ラン藻ではL-乳酸の変換酵素をコードする遺伝子が見つかっておらず、微細藻類・ラン藻によるL-乳酸資化はこれまでに報告がない。実際、いくつかの微細藻類・ラン藻(Chlamydomonas sp. KOR1, Pavlova sp. OPMS 30543, Arthrospira platensis NIES-39, Anabaena sp. PCC 7120, Synechococcus sp. PCC 7002)については予備的な実験を行い、L-乳酸を消費しないことが確認されている。微細藻類およびラン藻においてNAD非依存型L-乳酸デヒドロゲナーゼ(NAD-independent L-lactate dehydrogenase, L-iLDH)及び乳酸-2-モノオキシゲナーゼ(lactate 2-monooxygenase, LMO)の存在の有無を確認した一覧が以下のとおりである。表中、黒丸で示した種がL-iLDHまたはLMOを有する種であり、一例として本開示の実施例においても使用することができる。


【0039】
ラン藻には様々なラン藻を用いることができる。ラン藻(シアノバクテリア)とは、典型的には単細胞原核生物であって酸素発生型光合成を行うものであり、クロオコッカス目、ネンジュモ目、ユレモ目、プレウロカプサ目、スティゴネマ目等に分類することができる。クロオコッカス目には、アファノカプサ属、アファノテーケ属、カマエシフォン属、クロオコッカス属、クロコスフェラ属、シアノバクテリア属、シアノビウム属、シアノテーケ属、ダクティロコッコプシス属、グロエオバクター属、グロエオカプサ属、グロエオテーケ属、エウハロテーケ属、ハロテーケ属、ヨハネスバプティスチア属、メリスモペディア属、ミクロシスティス属、ラブドデルマ属、シネココッカス属、シネコシスティス属、テルモシネココッカス属等が含まれる。ネンジュモ目には、コレオデスミウム属、フレミエラ属、ミクロケーテ属、レキシア属、スピリレスティス属、トリポスリックス属、アナベナ属、アナベノプシス属、アファニゾメノン属、アウロシラ属、シアノスピラ属、シリンドロスペルモプシス属、シリンドロスペルムム属、ノデュラリア属、ネンジュモ属、リケリア属、カロスリックス属、グロエオトリキア属、スキトネマ属等が含まれる。ユレモ目には、アルスロスピラ属、ゲイトレリネマ属、ハロミクロネマ属、ハロスピルリナ属、カタグニメネ属、レプトリンビャ属、リムノスリックス属、リンビャ属、ミクロコレウス属、ユレモ属、フォルミディウム属、プランクトトリコイデス属、プランクトスリックス属、プレクトネマ属、リムノスリックス属、シュードアナベナ属、スキゾスリックス属、スピルリナ属、シンプロカ属、トリコデスミウム属、チコネマ属等が含まれる。プレウロカプサ目には、クロオコッキディオプシス属、デルモカルパ属、デルモカルペラ属、ミクソサルキナ属、プレウロカプサ属、スタニエリア属、およびキセノコッカス属等が含まれる。スティゴネマ目には、カプソシラ属、クロログロエオプシス属、フィッシェレラ属、ハパロシフォン属、マスチゴクラドプシス属、マスチゴクラドゥス属、ノストクホプシス属、スティゴネマ属、シンフィオネマ属、シンフィオネモプシス属、ウメザキア属、ウェスティエロプシス属等が含まれる。
【0040】
このほか「微細藻類」とは、典型的には単細胞真核生物であって酸素発生型光合成を行うものであるが、本開示ではこれに加えて、単細胞真核生物のうちの二次共生藻であって光合成を行わないものも含むものとする。適用対象とする微細藻類としては、例えば、ユーグレナ類の藻類(ユーグレナ藻等)、クラミドモナス属の藻類、クロレラ属の藻類、ボツリオコッカス属の藻類、スイゼンジノリ属のラン藻類(スイゼンジノリ等)、又はユレモ属のラン藻類(スピルリナ等)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
そこで本開示の一実施形態において、ラン藻などの生物にL-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子及び/または乳酸パーミアーゼ遺伝子を導入し、L-乳酸資化性を付与することができる。
【0042】
一実施形態において、改変される生物または培養細胞としては、L-乳酸資化性を付与または強化するような改変を行うことができる生物種であれば特に限られない。例えば、改変される生物または培養細胞としては、ラン藻類、微細藻類、酵母、大腸菌、枯草菌、コリネ菌、放線菌、糸状菌、枯草菌、乳酸菌、または動植物の培養細胞を挙げることができる。本開示の一実施形態において、改変される生物または培養細胞として、後述の資源循環型食糧生産システムに利用し得るものを挙げることができ、この場合、改変される生物または培養細胞は、光合成によって二酸化炭素を固定し、栄養源としてグルコースを動物細胞に供給し得るものが好ましい。
【0043】
本開示の一実施形態において、上記のような生物や培養細胞に対して行う改変は、L-乳酸資化能の付与または強化を行うものであれば特に限られず、遺伝子の改変、導入、及び/または欠損等を含む。例えば、一実施形態において、上記のような生物や培養細胞に対してL-乳酸の資化性や膜透過性を付与または強化する遺伝子を導入することもできる。また他の実施形態において、L-乳酸またはD-乳酸の合成を行う遺伝子を減弱化または欠失させることもできる。
【0044】
L-乳酸資化を行う遺伝子としては、例えば、大腸菌のlldDなどのNAD非依存型L-乳酸デヒドロゲナーゼ(EC番号1.1.2.3)をコードする遺伝子、Mycolicibacterium smegmatisなどの乳酸-2-モノオキシゲナーゼ(EC 1.13.12.4)をコードする遺伝子、およびAerococcus viridansなどの乳酸オキシダーゼ(EC番号1.1.3.2)をコードする遺伝子などを挙げることができる。大腸菌のlldD以外にも、NAD非依存型L-乳酸デヒドロゲナーゼ(EC番号1.1.2.3)がL-乳酸の利用に寄与することは報告されているため(例えば、Corynebacterium glutamicum (lldD遺伝子)(Appl Environ Microbiol. 2005 Oct; 71(10): 5920-5928.)、Pseudomonas aeruginosa (lldA遺伝子およびlldD遺伝子)(Environ Microbiol Rep. 2018 Oct;10(5):569-575)、Pseudomonas stutzeri (lldABC遺伝子)(J Bacteriol. 2015 Jul;197(13):2239-2247.)、Clostridium acetobutylicum(Archives of Microbiology volume 164, pages 36-42 (1995))など)、本開示において大腸菌のlldDの導入によってラン藻にL-乳酸資化能を付与できたことから、大腸菌由来に限らず、同種の酵素を用いても同様にL-乳酸資化能を付与することができる。また大腸菌由来を含む様々な外来遺伝子がラン藻において機能することは多数の文献によって報告されている。例えば、外来遺伝子の導入によってラン藻が本来生産しない化合物の生産に成功した例として、ACS Synth Biol. 2019 Dec 20;8(12):2701-2709では、ラン藻Synechococcus sp. PCC 7002において、Brevundimonas sp.由来β-carotene ketolase遺伝子とβ-carotene hydroxylase遺伝子を導入することでアスタキサンチンの生産に成功し、Front Bioeng Biotechnol. 2014 Jun 19;2:21では、ラン藻Synechococcus sp. PCC 7002において、Mentha spicata由来L-limonene synthase遺伝子とAbies grandis由来(E)-α-bisabolene synthase遺伝子を導入することで、それぞれリモネンとビサボレンの生産に成功し、Front Bioeng Biotechnol. 2015 Apr 24;3:48では、ラン藻Synechococcus sp. PCC 7002において、Umbellularia californicay由来のlauroyl-acyl carrier protein thioesterase遺伝子を導入することでラウリン酸の生産に成功し、Biosci Biotechnol Biochem. 2013;77(5):966-70では、ラン藻Synechocystis sp. PCC 6803において、Lactococcus lactis, Lactobacillus plantarum, Lactobacillus rhamnosus由来のL-lactate dehydrogenaseを導入することでL-乳酸の生産に成功している。またMetab Eng. 2020 Jan;57:129-139.では、ラン藻Synechocystis sp. PCC 6803において、大腸菌由来aroGfbrとtyrAfbr遺伝子を導入することで芳香族アミノ酸の生産を強化し、さらにTrichosporon cutaneum由来tyrosine/phenylalanine ammonia lyase遺伝子と大腸菌由来4- hydroxyphenlacetate 3-hydroxylase complex遺伝子を導入することで、PCC 6803が本来生産しない芳香族化合物の生産に成功している。またMicrob Cell Fact. 2017 Feb 23;16(1):34ではラン藻Synechocystis sp. PCC 6803において、Pseudomonas syringae由来ethylene-forming enzyme遺伝子を導入することでエチレンの生産に成功している。したがって、本開示において、ラン藻へのL-乳酸資化能の付与についても、大腸菌以外の外来遺伝子も利用可能であると考えられる。
【0045】
L-乳酸の膜透過性を付与または強化する遺伝子としては、大腸菌のlldPなどの乳酸パーミアーゼをコードする遺伝子、およびモノカルボン酸トランスポーターをコードする遺伝子などを挙げることができる。
【0046】
L-乳酸またはD-乳酸の合成を行う遺伝子としては、NAD依存型L-乳酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.1.1.27)をコードする遺伝子、ラクトアルデヒドデヒドロゲナーゼ(EC 1.2.1.22)をコードする遺伝子、マロラクティック酵素(EC 4.1.1.101)をコードする遺伝子、およびラン藻のldhAなどのD-乳酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.1.1.28)をコードする遺伝子などを挙げることができる。
【0047】
一実施形態において、改変される生物または培養細胞は、L-乳酸資化性を付与または強化されることにより、動物培養細胞が排出した成分を利用して、当該動物培養細胞の栄養源を提供することができる。したがって、本開示の一実施形態において、本開示の生物または培養細胞は、ピルビン酸代謝系、及び/またはTCA回路などを有することができる。また本開示の一実施形態において、本開示の生物または培養細胞は、コハク酸、2-オキソグルタル酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、及び/または酢酸の合成経路などを有することができる。
【0048】
本開示の一実施形態において、改変される生物または培養細胞は、動物培養細胞が排出した成分を利用して、有用なアミノ酸合成を行うこともでき、そのため、アミノ酸の供給源ともなり得る。したがって、本開示の一実施形態において、本開示の生物または培養細胞は、例えば、グルタミン、グルタミン酸、アラニン、バリン、ロイシンなどのアミノ酸の合成酵素及び/またはアミノ酸合成系、及び/またはD-乳酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、ギ酸、酢酸、エタノール、2,3-ブタンンジオール、ブタノール、アセトン、イソ酪酸、イソブタノール、イソブチレン、酪酸、1-ブタノール、プロパン、カプロン酸、ペンタン、クエン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、イタコン酸、γ-アミノ酪酸、γ-ブチロラクタム、オルニチン、プトレシン、6-アミノカプロン酸、ε-カプロラクタム、エチレン、γ-ブチロラクトン、1,4-ブタンジオール、レブリン酸、アジピン酸、カダベリン、5-アミノ吉草酸、δ-バレロラクタム、1-プロパノール、またはブタンなどの合成酵素及び/または合成系を有することができる。これらの合成酵素や合成系については、例えばNature Catalysis 2, 18-33 (2019)に例示される。
【0049】
(資源循環型食糧生産システム)
現在の食料生産システムでは、稲を栽培してコメを収穫したり、家畜を飼育して肉を採取するなど動植物の個体を育成後にその一部を食料としている。そのため、個体の可食部以外を廃棄することになり無駄が多い。また植物栽培においては、大量の農薬・肥料の使用のため多くの資源とエネルギーを消費するとともに、土壌を汚染し、家畜飼育においては、排出されるメタンガスなどの温室効果ガスの蓄積が環境負荷となっている。
【0050】
近年これらの課題を解決するため培養肉を中心に細胞から食料を作製する試み(細胞農
業)が世界で開始されている。しかしながら動物細胞の培養に必要となる培地に含まれる
栄養素は元来、穀物などの植物由来である。また生じる培養廃液に対する方策も不十分である。今後、細胞農業の普及に伴い、細胞培養の栄養源として大量の培地を使用し、そして大量の培養廃液も生じるものと予測され、新たな環境負荷となることが危慎される。そこで、本開示の一実施形態において、細胞農業のプロセスにおいて無駄のない生産システムを提供する。
【0051】
したがって、本開示の一局面において、少なくとも2種の細胞である細胞Xおよび細胞Yを循環型で培養する方法であって、(a)該細胞Xの排出成分を該細胞Yに提供する工程と、(b)該細胞Yに由来する成分を該細胞Xに提供する工程と、(c)該細胞Xおよび該細胞Yを培養する工程と、(d)必要に応じて、工程(a)~(c)を繰り返す工程とを含み、該細胞Xの排出成分の少なくとも1つが該細胞Yの資化可能な成分であり、該細胞Yに由来する成分の少なくとも1つが該細胞Xの栄養成分である、方法が提供される。本開示の一実施形態において、このような方法により、動植物の可食部組織の細胞のみを増幅し、栄養源の供給と培養廃液の問題を同時に低減する、無駄がなく環境に配慮した健康的な循環型の培養食料生産システムを提供することができる。
【0052】
一実施形態において、上記のような方法において、細胞XまたはYの少なくとも1つとして、所望の生成物を生産するものを用いることで、所望の生成物を生産する方法を提供することもできる。
【0053】
本開示の一実施形態において、細胞Xとしては、動物細胞を挙げることができ、例えば、培養により食用肉生産に供することができる細胞が好ましい。また一実施形態において、細胞Yに由来する成分も直接または触媒処理などを行って間接的に細胞Xの栄養源として利用されることができる。例えば細胞Yとしては、ラン藻類、微細藻類、酵母、大腸菌、枯草菌、コリネ菌、放線菌、糸状菌、枯草菌、および乳酸菌を含むことができる。細胞XとYは相互補完するものであれば、同じ種類の細胞であってもよい。
【0054】
また一実施形態において、細胞Xの排出成分は、細胞Yの資化可能なものであれば特に限られないが、例えば、L-乳酸、二酸化炭素、アンモニア、尿素、またはリン酸を含むことができる。また一実施形態において、細胞Yに由来する成分は、細胞Xの栄養成分となり得るものであれば特に限られないが、例えば、グルコース、グルタミン酸、グルタミン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、ピルビン酸、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、葉酸、コリン、デンプン、グリコーゲン、およびセルロースを含むことができる。本開示の一実施形態において、細胞Xの排出成分および細胞Yに由来する成分は、他方の細胞にとっての必須の栄養成分である必要はなく、資化し得るものであればよい。例えば、動物細胞が排出するL-乳酸はラン藻にとっては必須の栄養成分ではないが、改変されたラン藻が資化し得る。同じく動物細胞が排出するアンモニアについては、ラン藻が資化し得る化合物であり、それ以外に窒素源となる化合物が存在しない、あるいは窒素固定能を有するラン藻を用いない場合などには、ラン藻にとって必須となる。
【0055】
一実施形態において、細胞XおよびYは、培養して一方の細胞の排出成分またはその細胞に由来する成分を他方の細胞の栄養源とすることで、循環型の培養方法とすることができる。この場合、細胞XおよびYは同所で培養されてもよいし、異所で培養することもできる。
【0056】
また本開示の他の局面において、動物細胞培養から排出される成分を生物によってリサイクルして動物細胞を培養する方法であって、(a)該排出される成分を生物に消費させる工程であって、該生物は該成分の資化能を有する、工程と、(b)該生物の培養液から該動物細胞の栄養源を回収する工程と、(c)該栄養源を用いて該動物細胞を培養する工程と、(d)必要に応じて、工程(a)~(c)を繰り返す工程とを含む、方法が提供される。
【0057】
本開示の一実施形態において、光合成により無機物から有機物を合成可能な藻類の培養を行い、炭素・窒素等の物質循環が行われる高効率・低環境負荷の循環型細胞培養システムを提供することができる。また動物細胞の増幅によって可食部組織のみを生産する立体組織化システムを提供することができる。このような循環型システムにおいては、細胞培養工学、触媒化学、遺伝子工学を利用し、藻類由来栄養素による動物細胞の増幅と培養廃液リサイクルを実現することが可能となる。また本開示の一実施形態において、本開示の方法により、従来の培養食料生産技術の無駄を低減することができる。細胞からの立体組織化システムには再生医療分野における組織工学を応用展開することもでき、両システムを統合することで細胞を食材としたバイオエコノミカルな培養食料生産システムの実現が可能となる。
【0058】
本開示の一実施形態において、動物細胞の栄養源としては、動物細胞が排出する成分を生物が資化して排出する成分、または当該生物そのものを構成する成分も直接または触媒処理などを行って間接的に栄養源として用いることができる。例えば、動物細胞の栄養源としては、グルコース、グルタミン酸、グルタミン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、ピルビン酸、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、葉酸、およびコリンなどを挙げることができる。また他の実施形態において、微細藻類・ラン藻の細胞内に蓄積される炭水化物(デンプン・グリコーゲン)や細胞壁のセルロースを加水分解し、それによって得られるグルコースを動物細胞の栄養源として用いることもできる。
【0059】
本開示の一実施形態において、動物細胞培養から排出される成分は、生物が資化して消費し、動物細胞に供給する栄養源の生産に利用し得るものであればよく、例えば、L-乳酸、二酸化炭素、アンモニア、尿素、およびリン酸などを挙げることができる。一実施形態において、動物細胞培養から排出される成分は、動物細胞にとって毒性を示すものであってもよく、例えばL-乳酸、アンモニア、または尿素などを挙げることができる。
【0060】
本開示の一実施形態において、光エネルギーを駆動源とした藻類の培養、藻類分解による動植物細胞への栄養素供給、食材となる動植物細胞の培養、培養廃液のリサイクルを可能とするシステムを提供することができる。さらに増幅した細胞を食するに足る立体組織とするための立体組織化システムを提供することで、細胞を食材とした循環型の培養食料生産システムを提供することができる。
【0061】
一実施形態において、本開示の方法においては、動物が植物を食べるという個体レベルでの行為を細胞レベルで実現する必要がある。そこで、一実施形態において、本開示の方法は、物理学的(超音波)、化学的(固体酸)、または生物学的(分解酵素遺伝子導入)手法を用いることで藻類が合成した有機物を動植物細胞が利用可能な各栄養素にまで分解させることができる。これにより得られた栄養素を培地成分として用いることが可能となる。
【0062】
一実施形態において、本開示の方法においては、細胞機能を最大限に生かした高効率な細胞増幅プロセスを構築するために、細胞培養に通常用いるウシ血清、増殖因子、及び/またはホルモンを外部から添加することなく細胞を増幅させる必要がある。そこで、一実施形態において、本開示の方法は、本来生体において増殖因子やホルモンを分泌する能力を有する細胞や該当する遺伝子を導入した細胞など複数の細胞を培養し、その培養上清を用いて食材となる目的細胞の培養僧幅を行うことができる。
【0063】
一実施形態において、本開示の方法においては、細胞培養で生じる大量の培養廃液は環境負荷につながるため、培養廃液に含まれる物質の効率的なリサイクルが必要である。そこで、一実施形態において、本開示の方法は、培養廃液の網羅的成分解析ならびにそれらの物質を利用可能な藻類の選定を行い、培養廃液を直接あるいは種々の手法で分離選別した有用な成分を藻類の栄養源として利用する廃液リサイクルを行うこともできる。一実施形態において、一部の廃液由来成分は動植物の細胞培養で利用することもできる。
【0064】
一実施形態において、本開示の方法においては、上記のようなプロセスを連結し、安定的に運用するとともに効率化を図る必要がある。そこで、一実施形態において、本開示の方法は、各培養プロセスにおいて重要となるパラメーターを選定し、そのモニタリング技術と制御を組み込んだ安定・効率的なシステムを提供することもできる。
【0065】
一実施形態において、本開示の方法においては、細胞単体から栄養学的にも食感的にも現行の食料と同等の組織化を実現する必要である。そこで、一実施形態において、本開示の方法は、動物細胞に関しては、自己組織化能力を最大限活かすとともに再生医療研究において発展してきた組織工学を駆使することで細胞から立体的な組織を構築し、例えば培養さしみや培養ささみなどを形成する生産システムを提供することができる。一実施形態において、植物細胞に関しては、元来細胞単体(カルス細胞)からの自己組織形成能を有することから、藻類や動物細胞に由来する栄養素を用いたカルス培養の制御技術を確立することで、培養コメ、培養根菜、培養果肉を形成する生産システムを提供することもできる。
【0066】
一実施形態において、本開示の方法においては、健康的で美味しい食料を安定・安全に、そしてムリ・ムダ無く生産する必要がある。そこで、一実施形態において、本開示の方法は、一連のシステムを無菌的に統合するとともに生産プロセスのモニタリング・制御を行い、品質・効率を最適化することにより、バイオエコノミカルな培養食料生産システムを提供することができる。
【0067】
一実施形態において、本開示の方法においては、グルコース、グルタミン酸、グルタミン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、ピルビン酸、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、葉酸、コリン、デンプン、グリコーゲン、またはセルロースなどを生成するような生物または培養細胞を用いることができる。このような生物または培養細胞においては、これらの化合物、またはそれらの合成や代謝などのための酵素を有するか、またはそのような合成や代謝などを行うことができるような改変がされていてもよい。アミノ酸の合成や代謝に関する経路、またそれらを触媒する酵素などについては、例えば、Eukaryot Cell. 2006 Feb; 5(2): 272-276.、Current Opinion in Microbiology 32, 151-158 (2016)、Annual Review of Plant Biology 67, 153-78 (2016)、Pest Management Science 76(12), 3896-3904 (2020)などに例示されており、一実施形態において、生物または培養細胞は、これらの合成や代謝などができるような改変がなされていてもよい。
【0068】
またラン藻でのL-乳酸からのグルタミン酸の合成は、L-乳酸をNAD非依存型L-乳酸デヒドロゲナーゼによってピルビン酸に変換し、ピルビン酸からグルタミン酸に変換する。このような経路は例えば、PLoS One 9(7), e103380 (2014)などに例示されており、一実施形態において、生物または培養細胞は、これらの合成や代謝などができるような改変がなされていてもよい。
【0069】
本開示の一実施形態において、培養肉の生産は以下の工程を含むことができる。家畜筋肉組織から筋細胞を採取し、筋細胞を生体外で大量に増幅し、増幅した細胞を組織工学的手法で立体組織化し、その後組織培養により作製立体組織を成熟化する。増幅した細胞の立体組織化の手法としては、細胞の足場となる材料を用い、その足場に細胞を播種する方法(EMBO reports 2019;20:e47395、NPJ Sci Food 2021;5:6、ACS Appl Mater Interfaces 2021;13:32193-32204)や、足場材料を用いることなくスフェロイド技術(Biofabrication 2021;13. doi: 10.1088/1758-5090/ac23e3)および細胞シート技術(Circ Res 2002;90:e40-48)を用いた方法を用いることができる。
【0070】
また本開示の他の局面において、動物細胞培養から排出される成分を生物においてリサイクルして動物細胞を培養し、培養肉を生産する方法であって、(a)該排出される成分を生物に消費させる工程であって、該生物は該成分の資化能を有する、工程と、(b)該生物から該動物細胞の栄養源を回収する工程と、(c)該栄養源を用いて該動物細胞を培養する工程と、(d)必要に応じて、工程(a)~(c)を繰り返す工程と、(e)該培養された動物細胞を、立体組織化して培養肉として成型する工程とを含む、方法が提供される。一実施形態において、培養肉を生産する方法においても、本明細書の他の箇所で説明した実施形態を適宜選択して用いることができる。
【0071】
また本開示の他の局面において、動物細胞培養から排出されるL-乳酸を用いて生物または培養細胞にアミノ酸及び/または所望の生成物を生産させる方法であって、該生物または培養細胞に該L-乳酸を与える工程であって、該生物または培養細胞は、L-乳酸資化能を有するか、または該生物または培養細胞においてL-乳酸資化能を付与または強化する改変がされている、工程と、該生物または培養細胞をL-乳酸が資化される条件下で培養する工程と、必要に応じて、前記アミノ酸を回収する工程とを含む、方法が提供される。一実施形態において、生物または培養細胞にアミノ酸及び/または所望の生成物を生産させる方法においても、本明細書の他の箇所で説明した実施形態を適宜選択して用いることができる。
【0072】
また本開示の他の局面において、動物細胞培養から排出されるL-乳酸を用いて生物または培養細胞が生産したアミノ酸及び/または所望の生成物の加工品を生産する方法であって、該生物または培養細胞に該L-乳酸を与える工程であって、該生物または培養細胞は、L-乳酸資化能を有するか、または該生物または培養細胞においてL-乳酸資化能を付与または強化する改変がされている、工程と、該生物または培養細胞をL-乳酸が資化される条件下で培養する工程と、該アミノ酸及び/または所望の生成物を回収する工程と、該アミノ酸及び/または所望の生成物を加工する工程とを含む、方法が提供される。一実施形態において、加工品を生産する方法においても、本明細書の他の箇所で説明した実施形態を適宜選択して用いることができる。
【0073】
また本開示の他の局面において、動物細胞培養から排出される成分を用いて、生物または培養細胞を育種する方法であって、(A)動物細胞から排出される成分を生物または培養細胞の候補に与える工程と、(B)該排出される成分を該生物または培養細胞が消費するかまたは該消費が強化されるかどうかを決定する工程と、(C)該生物または培養細胞のうち、消費を付与または強化されたものを選択する工程とを包含し、選択された該生物または培養細胞は該成分の資化能を有するか、または該生物または培養細胞において該成分の資化能を付与または強化する改変がされていると判定されることを特徴とする、方法が提供される。一実施形態において、生物または培養細胞を育種する方法においても、本明細書の他の箇所で説明した実施形態を適宜選択して用いることができる。
【0074】
また本開示の他の局面において、動物細胞培養から排出される成分を用いて、生物または培養細胞を維持する方法であって、(a)該排出される成分を該生物または培養細胞に消費させる工程であって、該生物または培養細胞は該成分の資化能を有するか、または該生物または培養細胞において該成分の資化能を付与または強化する改変がされている、工程と、(b)必要に応じて、該生物または培養細胞から該動物細胞の栄養源を回収する工程と、(c)必要に応じて、該栄養源を用いて該動物細胞を培養する工程と、(d)該動物細胞から排出される成分を該生物または培養細胞に与える工程とを含む、方法が提供される。一実施形態において、生物または培養細胞を維持する方法においても、本明細書の他の箇所で説明した実施形態を適宜選択して用いることができる。
【0075】
また本開示の他の局面において、本明細書の他の箇所で説明した改変された生物または培養細胞を育種するために使用される遺伝子または該遺伝子を含むキットが提供される。一実施形態において、このようなキットにおいても、本明細書の他の箇所で説明した実施形態を適宜選択して用いることができる。
【0076】
また本開示の他の局面において、改変株を評価する方法であって、本明細書の他の箇所で説明した生物または培養細胞を準備する工程と、該生物または培養細胞において、該改変の存在を確認する工程とを含む、方法が提供される。一実施形態において、改変株を評価する方法においても、本明細書の他の箇所で説明した実施形態を適宜選択して用いることができる。
【0077】
また本開示の他の局面において、動物細胞培養から排出されるL-乳酸を用いて生物または培養細胞にプラスチック原料を生産させる方法であって、該生物または培養細胞に該L-乳酸を与える工程であって、該生物または培養細胞は、L-乳酸資化能を有するか、または該生物または培養細胞においてL-乳酸資化能を付与または強化する改変がされている、工程と、該生物または培養細胞をL-乳酸が資化される条件下で培養する工程と、該生物または培養細胞から、プラスチックの原料となる成分を回収する工程と、を含み、該生物または培養細胞は、該プラスチックの原料となる成分を合成することができるか、または該生物または培養細胞において該プラスチックの原料となる成分の合成に必要な遺伝子が導入されている、方法が提供される。一実施形態において、生物または培養細胞にプラスチック原料を生産させる方法においても、本明細書の他の箇所で説明した実施形態を適宜選択して用いることができる。
【0078】
また本開示の他の局面において、乳酸の誘導体、またはそれらの派生物を生産する方法であって、改変された生物にL-乳酸を与える工程であって、該改変は、該生物におけるL-乳酸資化能の付与または強化を含む、工程と、該改変生物をL-乳酸が資化される条件下で培養する工程と、必要に応じて、所望の乳酸の誘導体、またはそれらの派生物を回収する工程とを含む、方法が提供される。一実施形態において、乳酸の誘導体、またはそれらの派生物を生産する方法においても、本明細書の他の箇所で説明した実施形態を適宜選択して用いることができる。
【0079】
また本開示の他の局面において、ピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸、またはピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸の誘導体を生産する方法であって、改変された生物にL-乳酸を与える工程であって、該改変は、該生物におけるL-乳酸資化能の付与または強化を含む、工程と、該改変生物をL-乳酸が資化される条件下で培養する工程と、必要に応じて、所望のピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸、またはピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸の誘導体を回収する工程とを含む、方法が提供される。一実施形態において、これらの誘導体、またはそれらの派生物を生産する方法においても、本明細書の他の箇所で説明した実施形態を適宜選択して用いることができる。
【0080】
また本開示の他の局面において、ピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸、またはピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸の誘導体の加工品を生産する方法であって、改変された生物にL-乳酸を与える工程であって、該改変は、該生物におけるL-乳酸資化能の付与または強化を含む、工程と、該改変生物をL-乳酸が資化される条件下で培養する工程と、必要に応じて、所望のピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸、またはピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸の誘導体を回収する工程と、該ピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸、またはピルビン酸、アセチルCoA、ホスホエノールピルビン酸、コハク酸、2-オキソグルタル酸、ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、もしくは酢酸の誘導体を加工する工程とを含む、方法が提供される。一実施形態において、これらの加工品を生産する方法においても、本明細書の他の箇所で説明した実施形態を適宜選択して用いることができる。
【0081】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J. et al.(1989). Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001); Ausubel, F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Ausubel, F.M.(1989). Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods
from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience; Innis, M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press; Ausubel, F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Ausubel, F.M. (1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates; Innis, M.A. et al.(1995).PCR Strategies, Academic Press; Ausubel, F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Wiley, and annual updates; Sninsky, J.J. et al.(1999).
PCR Applications: Protocols for Functional Genomics, Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0082】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えばGeneArt、GenScript、Integrated DNA Technologies(IDT)などの遺伝子合成やフラグメント合成サービスを用いることもでき、その他、例えば、Gait, M.J.(1985). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Gait, M.J.(1990). Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; Eckstein, F.(1991). Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach, IRL Press; Adams, R.L. et al.(1992). The Biochemistry of the Nucleic Acids, Chapman & Hall; Shabarova, Z. et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids, Weinheim; Blackburn, G.M. et al.(1996). Nucleic Acids in Chemistry and Biology, Oxford University Press; Hermanson, G.T.(I996). Bioconjugate Techniques, Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0083】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0084】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例
【0085】
多くの微細藻類・ラン藻では、NAD非依存型L-乳酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.1.2.3)や乳酸-2-モノオキシゲナーゼ(EC 1.13.12.4)をコードする遺伝子が確認されておらず、そのためL-乳酸を資化できない。海洋性ラン藻Synechococcus sp. PCC 7002は、光合成によって大気中のCOを固定する優れた炭酸固定能を有しており、光独立栄養・海水塩濃度条件において高い増殖性を示す株である。動物細胞の培地と同等の塩濃度でも生育可能であるため、培養廃液を利用する上で塩濃度の調整を必要とせず、動物細胞由来のL-乳酸の利用において有望となる。しかし、PCC 7002ではL-乳酸資化に寄与する遺伝子が確認されておらず、L-乳酸資化性を有していないと思われた。実際に、L-乳酸を含む培地でPCC 7002を培養してもL-乳酸は消費されなかった。
【0086】
大腸菌がL-乳酸を単一炭素源として生育できることに着目した。大腸菌の乳酸オペロンを構成するNAD非依存型L-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(lldD)および乳酸パーミアーゼ遺伝子(lldP)をラン藻PCC 7002において発現させることで、ラン藻細胞内においてL-乳酸をラン藻が代謝可能なピルビン酸に変換することを試みた(図1)。同時に、L-乳酸に由来するピルビン酸がD-乳酸の合成に利用されるのを防ぐため、PCC 7002が有するD-乳酸合成に寄与するD-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(ldhA)部位にlldD/lldP遺伝子を導入することでldhAを破壊した。lldD/lldP遺伝子の発現には、PCC 7002で機能することがわかっているtrcプロモーターを利用した。
【0087】
(実施例1:lldD/lldP導入用ベクターの構築)
ラン藻Synechococcus sp. PCC 7002のldhA遺伝子部位に大腸菌由来lldD/lldP遺伝子を導入するためのベクターを構築した。
【0088】
大腸菌Escherichia coliのLldD(NAD非依存型L-乳酸デヒドロゲナーゼ、EC 1.1.2.3)およびLldP(乳酸パーミアーゼ)の情報をNCBIから取得した(図2、3、配列番号1、2)。これらのアミノ酸配列をもとに、ラン藻Synechococcus elongatusを宿主としてコドン最適化した塩基配列を人工合成した(GenScriptに委託)(図4、5、配列番号3、4)。ラン藻Synechococcus sp. PCC 7002においてldhA遺伝子(SYNPCC7002_G0164)を欠損するためのベクター(プラスミド名:pUC118-LDH KO-GenR、プラスミド番号:KCP0102)(図6)に対して、そのゲンタマイシン耐性カセットの下流にtrcプロモーターとコドン最適化したlldD遺伝子を導入した(プラスミド名:pUC118-LDH KO-trc-lldD-GenR、プラスミド番号:KCP0100)(図7)。さらにpUC118-LDH KO-trc-lldD-GenRに対して、そのlldD遺伝子の下流にリボソーム結合部位とコドン最適化したlldP遺伝子を導入した(プラスミド名:pUC118-LDH KO-trc-lldD-lldP-GenR、プラスミド番号:KCP0101)(図8)。
【0089】
(実施例2:ラン藻の形質転換)
実施例1で構築したプラスミドを用いてラン藻Synechococcus sp. PCC 7002の形質転換を行い、ldhA遺伝子部位にlldD/lldP遺伝子を導入した。
【0090】
ラン藻Synechococcus sp. PCC 7002をMA2培地、50 μmol photons/m2/s(昼白色蛍光灯)、室温、100 rpmの条件でOD750=1程度となるまで培養した。培養液100 μLを1.5 mLマイクロチューブに移し、実施例1で構築したプラスミドを1 μg添加した。遮光して室温で24時間ゆっくり撹拌した。MA2寒天プレートにフィルターを敷き、その上に細
胞懸濁液全量を播種した。50 μmol photons/m2/s(昼白色蛍光灯)、30°Cの条件で2日間静置培養した。フィルターを40 μg/mLゲンタマイシン入りMA2寒天プレートに移動した。50 μmol photons/m2/s(昼白色蛍光灯)、30°Cの条件でコロニーが形成されるまで静置培養した。コロニーの細胞を40 μg/mLゲンタマイシン入りMA2培地、50 μmol photons/m2/s(昼白色蛍光灯)、室温、100 rpmで培養した。培養した細胞のゲノムDNAを鋳型としてPCRを実施し、ldhA遺伝子部位にlldD/lldP遺伝子が導入されていることを確認した。使用したプラスミドと株はそれぞれ以下の表1、2のとおりである。
【表1】

【表2】
【0091】
(実施例3:lldD/lldP導入株のL-乳酸資化性評価と代謝解析)
実施例2で作出したlldD/lldP導入株の培養を行い、L-乳酸資化性などを評価した。
【0092】
実施例2で作出したlldD/lldP導入株を、二段式フラスコを用いて、40μg/mLゲンタマイシン入りMA2培地、100 μmol photons/m2/s(昼白色蛍光灯)、2% CO、30℃、100rpmの条件で3日間培養した(前培養)。前培養液からOD750=0.1となるように細胞を継代し、二段式フラスコを用いて、40μg/mLゲンタマイシン入りMA2培地(+20 mM L-乳酸)、100 μmol photons/m2/s(昼白色蛍光灯)、2% CO、30℃、100rpmの条件で14日間培養した(本培養)。本培養期間中、細胞の生育を波長750nmにおける光学密度(OD750)によって評価するとともに、以下の方法によって培養液上清中の硝酸、リン酸、乳酸の濃度を測定した。本培養7日目において下記の方法によってメタボローム解析を実施した。
【0093】
MA2培地に含まれる窒素源は硝酸ナトリウムのみである。硝酸は波長220nmの光をよく吸収するため、培養液上清中の硝酸濃度の測定では波長220nmにおける光学密度(OD220)を指標とした。培養液から細胞を遠心操作(8,000×g,5min)によって除去し、上清のOD220を測定した。
【0094】
培養液上清中のリン酸濃度の測定には、培養液から細胞を遠心操作(8,000×g,5min)によって除去し、PiBlueTM Phosphate Assay Kit POPB-500(BioAssay Systems社製)を用いて製品プロトコルに従って実施した。
【0095】
培養液上清中の乳酸濃度の測定には、培養液から細胞および細胞片を遠心操作(8,000×g,5min)およびフィルター濾過によって除去し、濾液をHPLC装置(島津製作所製)によって分析した(カラム:バイオ・ラッド社製Aminex HPX-87H column、移動相:5mM硫酸、温度:50°C、流速:0.6mL/min、分析時間:25min)。同様の分析を濃度既知のL-乳酸標準品についても実施することで検量線を作成し、それをもとに培養液上清中の乳酸濃度を算出した。(この測定方法ではL体・D体は区別されていない、以下のメタボローム解析についても同様)
【0096】
細胞外代謝物量の測定には、培養液から細胞を遠心操作(8,000×g,5min)によって除去し、上清500μLに対してクロロホルム500μLを添加して混合した。遠心分離(14,000×g,5min,4℃)後、上相400μLを遠心操作(14,000×g,90min,4℃)によってAmicon Ultra-0.5 Centrifugal Filter Unit UFC5003BK(メルクミリポア社製)に通すことで限外濾過した。濾液248μLに対して2μLの100 mM PIPES/100 mM methionine sulfone混合液を添加した(内部標準として使用)。これをアジレント・テクノロジー社製G7100 CE/G6224AA LC/MSD time-of-flight systemsを用いたキャピラリー電気泳動-質量分析(capillary electrophoresis-mass spectrometry, CE-MS)によって分析した。
【0097】
細胞内代謝物量の測定には、細胞を培養液からフィルターによって回収し、直ちに-30℃に予冷したメタノール抽出液(36μM PIPES、36μM methionine sulfone)に懸濁して-30℃で保管した。細胞懸濁液500μLに対して500μLのクロロホルムと200μLの超純水を添加して混合した。遠心分離(14,000×g,5min, 4℃)後、上相400μLを遠心操作(14,000×g,90min,4℃)によってAmicon Ultra-0.5 Centrifugal Filter Unit UFC5003BK(メルクミリポア社製)に通すことで限外濾過した。濾液300μLを遠心エバポレーターによって乾燥し、その後20μLの超純水に再懸濁した。これを細胞外代謝物と同様にCE-MSによって分析した。
【0098】
(結果)
野生株PCC 7002と比較して、特に培養初期においてOD750を指標とした細胞増殖がllD/lldP導入株において向上していた(図9)。これはllD/lldP導入株がCOだけではなく、L-乳酸を資化して炭素源として利用しているためと考えられた。生育の向上に関連して、llD/lldP導入株では硝酸およびリン酸の消費が促進していた(図10)。
【0099】
培養液上清中の乳酸濃度を測定したところ、PCC 7002およびldhA欠損株では培地中の乳酸濃度がほとんど変化していなかったのに対して、lldD導入株では乳酸濃度の減少が確認された(図11)。lldD(NAD非依存型L-乳酸デヒドロゲナーゼ、EC 1.1.2.3)遺伝子の導入によってL-乳酸資化性をラン藻に付与できていることが考えられた。lldD/lldP導入株では乳酸濃度の減少が早くなっており、培養9日目において20mMの乳酸を完全に消費した。lldP(乳酸パーミアーゼ)遺伝子がラン藻においても機能すること、L-乳酸の消費を促進に有効であることを見出した。
【0100】
培養7日目において、lldD/lldP導入株の細胞内・細胞外の代謝物量を解析した(図12)。ピルビン酸に関連する細胞内代謝物量の変化として、L-乳酸資化細胞(lldD/lldP導入株+20mM L-乳酸)ではアセチルCoAと非メバロン酸経路(MEP経路)の入り口代謝物である1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸(DXP)の増加を見出した。このことからL-乳酸由来の代謝フラックスがTCA回路とMEP経路へと分配されていることが示唆された。細胞外のピルビン酸量もL-乳酸資化細胞で増加しており、LldDによって生成したピルビン酸が細胞外に出ていることが示唆された。
【0101】
TCA回路の代謝物についても解析を行なった(図13)。TCA回路では、2-オキソグルタル酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸がL-乳酸資化細胞(lldD/lldP導入株+20mM L-乳酸)において増加していた。アセチルCoAの増加と同じく、L-乳酸に由来する代謝フラックスがTCA回路へと分配されていることを示唆している。またTCA回路に関連して、グルタミンとグルタミン酸についてもL-乳酸資化細胞において増加が見られた。本技術がこれらのアミノ酸の生産において有用であることを示唆している。グルタミンとグルタミン酸の前駆体である2-オキソグルタル酸が細胞内に多く蓄積していることから、遺伝子工学的手法によってグルタミン合成酵素(GS)やグルタミン酸合成酵素(GOGAT)の活性を強化することで、グルタミン・グルタミン酸生産の向上が期待できる。
【0102】
グルタミン・グルタミン酸以外のアミノ酸では、ピルビン酸に由来するアラニン、バリン、ロイシンの細胞内量が増加していた(図14)。これらのアミノ酸についても本技術を利用して生産することが期待できる。
【0103】
(実施例4:無駄のないあらたな食糧生産の一例)
本実施例では、図15を用いて無駄のない新たな食糧生産に向けた本開示の技術の応用例を示す。
本実施例では、可食部組織のみを作製する。
本実施例では、本開示の例である藻類、増殖因子分泌細胞、および筋肉細胞を一例として利用して、系(リサイクル系)を構成する。
【0104】
まずは、藻類に由来する成分(有機物)が増殖因子分泌細胞において栄養源として利用される。この増殖因子分泌細胞から排出される増殖因子はこの系に含まれる当該増殖因子を利用可能な筋肉細胞に作用して、筋肉細胞が増殖する。筋肉細胞の培養廃液を用いて、その廃液に含まれる成分(例えば、L-乳酸など)が再度藻類において利用され、適宜二酸化炭素、窒素、ミネラルなどが取り込まれ、サーキュラーセルカルチャー(CCC)が完成する(図15)。
【0105】
このようにして生産された筋肉細胞を収集し、適宜成型すると食料として利用することができる。
【0106】
(実施例5:CCCの実証の別の例)
本実施例では、実施例4と同様に、図16に示すような別の系を用いて、サーキュラーセルカルチャー(CCC)概念実証を行う。
【0107】
ここでは、CCCにより、藻類分解率50%、鶏胚由来筋細胞の増殖(倍化時間<96h、1.2倍/日)、培養廃液リサイクル率30%を目標として実証例を実施する。
本例では、栄養素供給、細胞増殖、廃液リサイクルを経由する系を準備する。ここで、本開示の藻類(例えば、ラン藻類)と、鶏筋細胞と、増殖因子分泌細胞を用いた系を想定する(図16)。
【0108】
藻類細胞は、二酸化炭素、窒素、ミネラルを取り込み、グルコース、アミノ酸、ビタミンなどの栄養源を供給する。ここでは、栄養源供給のため、超音波処理、触媒化学、遺伝子工学的な技術を組み合わせて、鶏筋細胞にとって必要な栄養源を藻類から抽出することができる。鶏筋細胞は適宜の条件で細胞増殖を行うことができる。この細胞増殖に伴い排出されるアンモニア、L-乳酸、および残存タンパク質は、廃液リサイクルを行い、一部はラン藻類の増殖に利用することができる。これにより、エネルギー効率、生産効率、生産コストを鑑みた大量生産の実現可能性を示すことができる。
【0109】
(実施例6:培養肉の製造例)
培養肉の一例を本実施例において示す。
本実施例では、図17に示すように、培養食糧生産増加に伴う大量の培養液および廃液をリサイクルして利用する。
【0110】
(材料)
本実施例では、実施例4および5における系に準じるが、筋細胞としてはウシの筋肉細胞を用いる。増殖因子としては、市販のものを利用してもよく、実施例4および5に記載されるように細胞に生産させてもよい。廃液の処理だけでも十分な環境負荷低減効果が期待されるからである。
【0111】
培養液の構成:
基本栄養素(糖、アミノ酸、ビタミン)
穀物由来では、環境負荷の増大および環境変化によるリスクがあるため、これをラン藻由来の栄養源にて代替する。
【0112】
細胞増殖因子:
家畜(ウシなど)血清由来のものが利用されていてもよく、増殖因子生産細胞を併用してもよい。
【0113】
ここで、培養廃液には、アンモニア、L―乳酸、リン酸などが含まれ、従来は下水として環境負荷がかかってきたが、本開示ではこれが解消される。
【0114】
(実施例7:プラスチックの製造例)
本実施例では、プラスチック(PLAなど)の一例を実証する。
例えば、多糖類からの高性能バイオマスプラスチックを本開示の細胞系を用いて生産することが可能である。多糖類としては、例えば、天然多糖類、デンプン、セルロース、グルコマンナン、ミドリムシがつくるパラミロン、非天然多糖類などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0115】
多糖類からグルコース(単糖)が形成されると、グルコースから乳酸菌等により乳酸が合成され、その後適切な合成反応によりポリ乳酸が形成される。あるいはグルコースから微生物産生ポリエステルを生産することができる。
多糖類からは、化学修飾等の修飾により、多糖類プラスチックを生産することができる。
【0116】
(実施例8:動物細胞とラン藻細胞の種類の選択)
本実施例では、種々の細胞を用いて循環型細胞培養を行う例を説明する。
本実施例では、実施例4および5における系に準じるが、生物として以下のもののいずれかまたは複数を利用する。生物は非改変生物であってもよい。Crocosphaera watsoniiについては、デンプン蓄積能や大気中窒素の固定能が報告されているためCCCにおける利用に有用である。
【0117】
[NAD非依存型L-乳酸デヒドロゲナーゼを有する可能性がある非改変の生物]
・(ラン藻)Crocosphaera watsonii、Trichodesmium erythraeum、Rivularia sp.
・(微細藻類)Aureococcus anophagefferens
【0118】
[NAD非依存型L-乳酸デヒドロゲナーゼやL-乳酸パーミアーゼを導入して利用する生物]
・(ラン藻)Anabaena sp.、Synechocystis sp.、Synechococcus elongatusなど
・(微細藻類)Chlorococcum littorale、Chlorella sorokiniana、Chlorella vulgaris、Chlamydomonas sp.、Cyanidioschyzon merolaeなど
【0119】
これらの細胞を用いて、実施例4や5と同様の系において循環型細胞培養を行う。
【0120】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本願は、日本国特許庁に2021年12月7日に出願された特願2021-198872に対して優先権主張をするものであり、その内容はその全体があたかも本願の内容を構成するのと同様に参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本開示によれば、実現が期待される細胞培養による食肉生産において、動物培養細胞が排出する主要な成分であるL-乳酸を微細藻類・ラン藻が消費し、その微細藻類・ラン藻に由来する成分を動物培養細胞の栄養源として利用することで、無駄と環境負荷を最小限にする循環型のシステムを構築することができる。これにより、高効率・低環境負荷の循環型細胞培養システムを開発することができるため、細胞農業、培養食料生産、循環型システムなどの産業分野において応用が期待される。
【配列表フリーテキスト】
【0122】
配列番号1:Escherichia coliにおけるLldDのアミノ酸配列
配列番号2:Escherichia coliにおけるLldPのアミノ酸配列
配列番号3:Synechococcus elongatusを宿主としてコドン最適化したlldDの塩基配列
配列番号4:Synechococcus elongatusを宿主としてコドン最適化したlldPの塩基配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図16
図17
【配列表】
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