(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20240207BHJP
C07D 251/18 20060101ALI20240207BHJP
C07D 251/54 20060101ALI20240207BHJP
C08K 5/3435 20060101ALI20240207BHJP
C08K 5/3492 20060101ALI20240207BHJP
C08K 5/5317 20060101ALI20240207BHJP
C08K 5/5357 20060101ALI20240207BHJP
C09K 21/12 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
C08L23/10
C07D251/18 A
C07D251/54
C08K5/3435
C08K5/3492
C08K5/5317
C08K5/5357
C09K21/12
(21)【出願番号】P 2020003873
(22)【出願日】2020-01-14
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000157717
【氏名又は名称】丸菱油化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】石川 章
(72)【発明者】
【氏名】上田 承平
(72)【発明者】
【氏名】小林 淳一
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-532239(JP,A)
【文献】特開2018-150418(JP,A)
【文献】特開2017-066299(JP,A)
【文献】特表2015-510023(JP,A)
【文献】特開2000-109705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/10
C07D 251/18
C07D 251/54
C08K 5/3435
C08K 5/3492
C08K 5/5317
C08K 5/5357
C09K 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分:
(1)ポリプロピレン系樹脂:64.5~96.5重量%、
(2)
ブチルホスホン酸メラミン及びブチルホスホン酸ベンゾグアナミンの少なくとも1種のホスホン酸アミン塩:3.0~30.0重量%、
(3)NOR系ヒンダードアミン化合物:0.25~2.5重量%、
(4)下記一般式
【化9】
(式中、nは、1又は2の整数を示す。)
で示されるホスホン酸エステル化合物:0~3.0重量%
を含む難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
さらに酸化防止剤及び熱安定剤の少なくとも1種を0.01~0.1重量%含む、請求項1に記載の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
ハロゲン化合物及びアンチモン化合物の合計含有量が10重量%以下である、請求項1又は2に記載の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂の代表例としてポリプロピレン系樹脂が挙げられるが、ポリプロピレン系樹脂は軽く、強度が高いことに加え、耐水性、耐薬品性、電気絶縁性等が良好であり、そのうえ成形加工も容易である。このため、例えば建築材料、電気器機用材料、車輌部品、自動車内装材料、電線被覆材等のほか、種々の工業用品、家庭用品等に広範囲に使用されている。しかし、ポリプロピレン系樹脂は、非常に燃えやすいという欠点を有している。このため、ポリオレフィンを難燃化するための方法が種々提案されている。
【0003】
一般的な合成樹脂の難燃化の方法としては、難燃剤を樹脂に配合する方法が採用されている。従来の難燃化するための方法のうち、最も使用されている例として、ハロゲン系有機化合物、アンチモン系化合物等を添加する方法が挙げられる。前記ハロゲン系有機化合物としては、例えばテトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモビスフェノールAのビスジブロモプロピルエーテル、テトラブロモビスフェノールSのビスジブロモプロピルエーテル、トリス2,3-ジブロモプロピルイソシアヌレート、ビスペンタブロモフェニルエタン、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモビフェニルエーテル等が知られている。前記アンチモン系化合物としては、酸化アンチモン等が例示される。
【0004】
ところが、近年においては、世界的な環境への意識の高まりから、燃焼時に有害ガス(臭化水素等)が発生しやすいハロゲン系有機化合物の使用の自粛が強く求められている。アンチモン系化合物においても、特にコスト及び性能に優れる酸化アンチモン(三酸化二アンチモン)は、労働安全衛生法の特定化学物質に指定される等の規制が進んでおり、使用し難くなっている。
【0005】
このような現状を鑑みて、ハロゲン系難燃剤を使用せずに合成樹脂に難燃性を付与させるいくつかの方法が提案されている。そのうちの1つは、水酸化アルミニウム、マグネシウム等の金属水酸化物を添加する方法である。しかし、金属水酸化物の難燃化機構は、加熱により生じる水で得られるものであり、難燃効果は低く、所望の難燃効果を得るためには多量の添加が必要となる。金属水酸化物の多量添加により、樹脂本来の諸物性、加工性等は著しく損なわれてしまうおそれがある。また、金属水酸化物の脱水反応は200℃以上で徐々に起こるため、合成樹脂への混練中に水が発生する等の問題があり、使用される用途は限定的である。
【0006】
ハロゲン系難燃剤を用いない別の方法としては、ポリリン酸アンモニウムに代表されるリン酸塩類の使用も多数提案されている。しかし、この種のリン酸塩類を多量に添加した場合は、難燃性は十分に確保できるものの、耐湿性が劣っているために吸水による加水分解反応が生じる。このため、例えば高温高湿環境下では、成形物の外観、樹脂物性が著しく低下してしまう。また、この難燃剤組成物からなる樹脂成形物表面にリン酸塩がブリードアウトし、多数のブルーミング現象を引き起こす場合もある。
【0007】
上記のような欠点を改善するために、特に耐湿性を改良したメラミン樹脂架橋型、フェノール樹脂架橋型、エポキシ架橋型、あるいはシランカップリング剤及びシリコンオイル等によって表面処理された被覆ポリリン酸アンモニウムも提案されている。(特許文献1~4) ところが、この手法では、樹脂相溶性又は分散性が悪く、機械的強度が低下する等の欠点がある。また、樹脂混練時にその熱又は応力により被覆が剥がれてしまうことがある。
【0008】
一般的にポリリン酸アンモニウムを含む樹脂組成物は、混練時に200℃を超えたあたりでアンモニアガスの加熱離脱による熱分解を起こすので、熱分解物が混練中にもブリードアウトしてしまい、ストランドの水濡れを引き起こす。このことが、難燃性樹脂組成物の物性及び生産性を極端に悪くしてしまう原因となる。
【0009】
また、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート等の有機リン酸エステル類を難燃剤として用いることが知られている。しかし、これらは、難燃性能が十分でなく、またポリオレフィン等の非極性樹脂に用いた場合、ブリードアウト傾向が強く、樹脂表面の外観を著しく損ねるため、大量添加できない。また、有機リン酸エステル類は、空気中の水分で徐々に加水分解反応を引き起こし、リン酸が生成する可能性がある。合成樹脂中にリン酸を生成した場合には、合成樹脂の分子量を低下させたり、電気・電子部品に使用した場合は、短絡を起こすことがある。これらの有機リン酸エステル類は、耐熱性が低く、熱分解しやすいことに加え、揮発性を持っているものが多く、難燃性樹脂の造粒及び成型時に分解・揮発することにより、加工性を極端に悪化させる可能性がある。
【0010】
一方、有機ホスホン酸系化合物を使用した難燃性樹脂の検討も行われており、メラミン等の有機窒素化合物及びケイ素化合物等の複合材料により、樹脂に難燃性を付与できる報告もある(特許文献5)。しかし、V-0を達成するためには30%以上の配合が必要となり、樹脂物性に与える影響が大きく、また経済性に乏しいため、実用的ではない。
【0011】
また、ラジカルトラップ型のノンハロ・ノンリン系難燃剤として、ヒンダードアミン型窒素化合物(NOR-HALS)も提案されており、一部のホスホン酸エステル等との組み合わせにより、ラジカルトラップ能力が増強することが確認されている(非特許文献6)。ところが、NOR-HALSを用いた場合、シート、フィルム、繊維等のような薄物については非常に高い効果を示すが、成型物に対しては効果が低く、用途は限定的となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平8-183876号公報
【文献】特公平6-18944号公報
【文献】特開平8-134455公報
【文献】特開2007-231183号公報
【文献】特表2008-628723号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】「難燃剤+難燃化技術の最新技術」(CMC出版、2015、p.113-114)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このように、従来技術では、難燃成分としてハロゲン化合物及びアンチモン化合物を用いずに難燃性を実現するために別の難燃成分を使用すると大量添加が必要となる結果、樹脂本来の性能を損ねたり、あるいはブリードアウトの問題が生じることが避けられないのが実情である。
【0015】
従って、本発明の主な目的は、ハロゲン化合物及びアンチモン化合物に頼ることなく優れた難燃性及び耐ブリード性を発揮しつつ、ポリプロピレン系樹脂本来の物性が効果的に維持されたポリプロピレン系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、ポリプロピレン系樹脂に特定の成分を特定割合で適用することによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、下記の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物に係る。
1. 下記成分:
(1)ポリプロピレン系樹脂:64.5~96.5重量%、
(2)下記一般式
【化1】
(式中、Rは、置換基を有していても良い炭素数4~8のアルキル基、置換基を有していても良いフェニル基、又は置換基を有していても良いベンジル基を示す。R
2は、置換基を有していても良いアミノ基又は置換基を有していても良いフェニル基を示す。x及びyは、0.5≦x/y≦2.5を満たす。)
で表されるホスホン酸アミン塩:3.0~30.0重量%、
(3)NOR系ヒンダードアミン化合物:0.25~2.5重量%、
(4)下記一般式
【化2】
(式中、nは、1又は2の整数を示す。)
で示されるホスホン酸エステル化合物:0~3.0重量%
を含む難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物。
2. さらに酸化防止剤及び熱安定剤の少なくとも1種を0.01~0.1重量%含む、前記項1に記載の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物。
3. ハロゲン化合物及びアンチモン化合物の合計含有量が10重量%以下である、前記項1又は2に記載の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物。
4. ホスホン酸アミン塩がブチルホスホン酸メラミン及びブチルホスホン酸ベンゾグアナミンの少なくとも1種である、前記項1~3のいずれかに記載の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物。
5. 前記項1~4のいずれかに記載の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ハロゲン化合物及びアンチモン化合物に頼ることなく、優れた難燃性及び耐ブリード性を発揮しつつ、ポリプロピレン系樹脂本来の物性が効果的に維持されたポリプロピレン系樹脂組成物を提供することができる。
【0019】
このような特徴を有するポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体は、難燃性及び耐ブリード性が要求される物品、例えば自動車内装材、家電製品のハウジング、電線被覆材等をはじめ、種々の工業用品、日用品等に幅広く利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物
本発明の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物(本発明組成物)は、下記成分:
(1)ポリプロピレン系樹脂:64.5~96.5重量%、
(2)下記一般式
【化3】
(式中、Rは、置換基を有していても良い炭素数4~8のアルキル基、置換基を有していても良いフェニル基、又は置換基を有していても良いベンジル基を示す。R
2は、置換基を有していても良いアミノ基又は置換基を有していても良いフェニル基を示す。x及びyは、0.5≦x/y≦2.5を満たす。)
で表されるホスホン酸アミン塩:3.0~30.0重量%、
(3)NOR系ヒンダードアミン化合物:0.25~2.5重量%、
(4)下記一般式
【化4】
(式中、nは、1又は2の整数を示す。)
で示されるホスホン酸エステル化合物:0~3.0重量%
を含むことを特徴とする。以下においては、本発明組成物を構成する各成分について説明する。
【0021】
ポリプロピレン系樹脂
ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂は、[-CH(CH3)CH2-]を単量体として含むものであれば良く、ホモポリマー又はコポリマーのいずれであっても良い。また、ポリプロピレン樹脂を含むポリマーアロイであっても良い。これらのポリプロピレン系樹脂は、公知又は市販のものを使用することもできる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0022】
また、ポリプロピレン系樹脂がホモポリマーである場合は、アイソタクチック、アタクチック又はシンジオタクチックのいずれでも良い。
【0023】
ポリプロピレン系樹脂がコポリマーである場合、他の単量体としては、本発明の効果を妨げない限りは限定されず、例えばエチレン、ブテン、ヘキセン、オクテン等の少なくとも1種を挙げることができる。他の単量体の含有割合は、用いる単量体の種類等にもよるが、通常は40モル%以下(特に30モル%以下)であることが好ましい。 従って、たとえば1~25モル%と設定することもできる。
【0024】
さらに、ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレン樹脂を含むポリマーアロイであっても良い。例えば、ポリアミド、ポリ乳酸、ポリエステル、ポリアクリレート、エチレンプロピレンゴム、ポリスチレン等の少なくとも1種を挙げることができる。ポリマーアロイの場合のポリプロピレンの含有量は、例えば60~90重量%と設定することができるが、これに限定されない。
【0025】
ポリプロピレン系樹脂の重量平均分子量は、例えば10万~150万程度の範囲内で良いが、これに限定されない。
【0026】
ポリプロピレン系樹脂のMFR(JIS K7210,測定温度230℃)は、限定的ではないが、通常0.5~100g/10min程度の範囲内とし、特に5~30g/10minとすることが好ましい。
【0027】
本発明組成物中におけるポリプロピレン系樹脂の含有量は、特に限定されないが、通常は64.5~96.5重量%の範囲内で適宜設定することができる。従って、例えば75~95重量%の範囲内とすることもできる。
【0028】
本発明組成物では、本発明の効果を妨げない範囲内において、ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂成分(例えばポリアミド、ポリ乳酸、ポリエステル、ポリアクリレート、エチレンプロピレンゴム、ポリスチレン等)が含まれていても良い。この場合の前記樹脂成分の含有量は、ポリプロピレン系樹脂の含有量が上記の範囲内となるように設定すれば良い。
【0029】
ホスホン酸アミン塩
ホスホン酸アミン塩は、下記一般式
【化5】
(式中、Rは、置換基を有していても良い炭素数4~8(特に炭素数4~6)のアルキル基、置換基を有していても良いフェニル基、又は置換基を有していても良いベンジル基を示す。R
2は、置換基を有していても良いアミノ基又は置換基を有していても良いフェニル基を示す。x及びyは、0.5≦x/y≦2.5を満たす。) で表される化合物を用いる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0030】
上記Rとしては、特にベンジル基又は炭素数4~8(好ましくは炭素数4~6)のアルキル基(すなわち、ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基)であることが好ましい。特に、アルキル基においては、炭素数が3以下の場合は親水性が高いため、ポリプロピレン系樹脂に混練した場合、高温高湿下で樹脂表面に液状物質(濃厚な水溶液)としてブリードアウトが発生するため、外観を低下させ、ひいては難燃性を低下させることがある。炭素数が9以上である場合は、所望の難燃性を得るために多量の添加が必要となり、樹脂本来の特性を低下さたり、経済的に不利になることがある。
【0031】
上記R2としては、特にアミノ基又はフェニル基が好ましい。その中でも、アミノ基がより好ましい。すなわち、yの方の化合物はメラミンとなることが好ましい。
【0032】
前記の各置換基としては、特に限定されず、例えばアミノ基、アミド基、ニトロ基等の窒素系置換基、スルホン酸基等の硫黄系置換基、カルボキシル基、アルコキシ基等の炭素系置換基等が挙げられる。各置換基は、互いに同一であっても良いし、互いに異なっていても良い。
【0033】
上記x及びyは、0.5≦x/y≦2.5を満たし、特に1.0≦x/y≦2.0を満たすことが好ましい。x/yが0.5未満の場合は遊離のメラミン量が多くなり、混練時の耐熱性が低くなるので好ましくない。また、x/yが2.5を超える場合は結晶塩のpHが低くなり、混練機等の腐食の問題が発生するので好ましくない。
【0034】
上記のホスホン酸のアミン塩は、通常は水に溶けやすいホスホン酸をアミン系化合物で中和することにより生成する粉末状の塩であり、水に溶けにくい性質を有する。すなわち、本発明では、水に溶けやすいホスホン酸を水に溶けにくい性質に変えて用いることが特徴の一つである。かりにホスホン酸のままでポリプロピレン系樹脂(特にポリプロピレン系樹脂の溶融物)に混練すると、混ざりにくく、樹脂からブリードしやすくなる。また、ホスホン酸自体は強酸性であるために混錬機の腐食等が懸念される。これに対し、上記アミン塩は、フリーのホスホン酸に比較して極性が低く、ポリプロピレン系樹脂(特にポリプロピレン系樹脂の溶融物)に混ざりやすくなり、ブリードも起こりにくくなる。その結果、上記のホスホン酸のアミン塩によって、高い難燃性も付与することができる。
【0035】
上記のホスホン酸のアミン塩は、ホスホン酸化合物とアミン化合物とを所定の割合で反応させることにより得られるものであれば特に限定されない。
【0036】
ホスホン酸化合物は、限定的でなく、公知又は市販のものを使用することもできる。また、公知の製法に従って合成される化合物も用いることができる。例えば、国際公開WO2016/152747に記載された製造方法により得られるアルキルホスホン酸(ブチルホスホン酸等)を好適に用いることができる。
【0037】
アミン化合物は、下記式を満たすものであれば、特に限定されない。
【化6】
上記R
2は、置換基を有していても良いアミノ基又は置換基を有していても良いフェニル基を示す。置換基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。アミン化合物の具体例としては、例えばメラミン、ベンゾグアナミン等を挙げることができる。これらは、公知又は市販のものを使用することもできる。
【0038】
ホスホン酸化合物とアミン化合物との反応は、例えばホスホン酸化合物とアミン化合物とを水系溶媒中で中和反応させる工程(中和反応工程)及び前記反応系から結晶を析出させる工程(結晶析出工程)を含む方法によって実施することができる。
【0039】
中和反応工程においては、ホスホン酸化合物とアミン化合物とを水系溶媒中で中和反応させる。
【0040】
水系溶媒としては、水のほか、メタノール、エタノール。イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール類のほか、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)等の非プロトン性極性溶媒等を好適に用いることができる。これらは、1種又は2種混合で用いることができる。
【0041】
中和反応の反応温度は、特に限定されないが、ホスホン酸化合物とアミン化合物とをより確実に水に溶解させるという見地より80~100℃程度の加熱下とすることが好ましい。また、反応時間は、限定的ではないが、通常は15~30分程度とすれば良い。
【0042】
この工程における中和モル比は、特に制限されないが、通常は上記x/yと同様にすれは良い。すなわち、ホスホン酸化合物:アミン化合物=0.5:1.0~2.5:1.0程度することが望ましく、特にホスホン酸化合物:アミン化合物=1.0:1.0~2.0:1.0とすることがより望ましい。
【0043】
結晶析出工程では前記反応系から結晶を析出させる。結晶を析出させる方法は、特に制限されず、例えば反応系が加熱下にある場合は、反応系を冷却する工程を採用することができる。これによって、上記のホスホン酸のアミン塩が反応液中で析出する。冷却する場合は、通常は反応系(反応液)を常温以下(例えば5~30℃程度)まで冷却すれば良い。このようにして得られた結晶は、必要に応じて固液分離(ろ過、遠心分離等)、乾燥処理、粉砕処理、分級処理等を経て粉末の形態で得ることができる。
【0044】
ホスホン酸のアミン塩の含有量は、本発明組成物中3.0~30.0重量%とし、特に5.0~20.0重量%とすることが好ましい。上記含有量が3.0重量%未満の場合は、所望の難燃性が得られなくなる。他方、上記含有量が30.0重量%を超える場合は経済性を損なうほか、また樹脂物性の低下が著しくなる。
【0045】
NOR系ヒンダードアミン化合物
NOR系ヒンダードアミン化合物は、分子中に-N-O-R(Rは炭化水素基を示す。)構造をもつヒンダードアミン化合物(HALS)であり、一般的には光安定剤として知られている化合物であり、公知又は市販のものを使用することができる。
【0046】
市販品としては、例えばBASF社製「Flamestab NOR-116FF」、BASF社製「Tinvin NOR-371FF」、BASF社製「Tinvin 123」、BASF社製「Tinvin 152」、株式会社ADEKA製「アデカスタブLA-81」等が挙げられる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0047】
NOR系ヒンダードアミン化合物の含有量は、本発明組成物中0.25~2.5重量%とし、特に0.50~1.50重量%とすることが好ましい。上記含有量が0.25重量%未満の場合は、所望の難燃性が得られなくなる。上記含有量が2.5重量%を超える場合は、所望の難燃性が得られるものの、コスト面で不利となる。
【0048】
ホスホン酸エステル化合物
ホスホン酸エステル化合物は、下記一般式
【化7】
(式中、nは、1又は2の整数を示す。)
で示されるホスホン酸エステル化合物を用いる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。本発明組成物においては、ホスホン酸エステル化合物は必須ではないが、これを用いることにより、所望の難燃性等を維持しつつ、NOR系ヒンダードアミン化合物の使用量を減らすことができる結果、NOR系ヒンダードアミン化合物の添加により生じ得る褐色化をより確実に抑制できる。また同時に、比較的高価なNOR系ヒンダードアミン化合物の使用量を減らすことができるので、それだけ経済的なメリットも得られる。
【0049】
上記ホスホン酸エステルは、難燃成分として公知であり、市販のものを使用することもできる。市販品としては、例えば丸菱油化工業株式会社製「ノンネン73」、「ノンネン75」等を挙げることができる。
【0050】
ホスホン酸エステル化合物の含有量は、本発明組成物中0~3.0重量%程度とすることができるが、上記のような経済点な観点からは0.5~2.0重量%とすることが好ましい。
【0051】
その他の成分
本発明組成物では、本発明の効果を妨げない範囲内において、他の成分(但し、本発明組成物の上記(1)~(4)の成分を除く。)が含まれていても良い。例えば、公知又は市販の樹脂組成物に配合されている添加剤を用いることができる。
【0052】
より具体的には、例えば、1)フェノール系化合物、ホスフィン系化合物、チオエーテル系化合物等の酸化防止剤、2)ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチレート系化合物、ヒンダードアミン系化合物等の紫外線吸収剤又は耐光剤、3)カチオン系化合物、アニオン系化合物、ノニオン系化合物、両性化合物、金属酸化物、π系導電性高分子化合物、カーボン等の帯電防止剤及び導電剤、4)脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩等の滑剤、5)ベンジリデンソルビトール系化合物等の核剤、6)タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マイカ、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属水酸化物(難燃性を阻害しにくいフィラーである水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等)、低融点ガラス等の充填剤、7)その他にも、難燃剤、熱安定剤(特にリン系熱安定剤)、金属不活性化剤、着色剤、ブルーミング防止剤、表面改質剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、粘着剤、ガス吸着剤、消臭剤、香料、物性改質剤(エラストマー等)等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。これらの各種の添加剤を配合する場合の添加剤の本発明組成物中における含有量は、例えば0.1~20重量%程度とすることができるが、これに限定されない。
【0053】
また、本発明組成物では、ハロゲン化合物及びアンチモン化合物は含まれないことが最も好ましいが、本発明の効果を妨げない範囲内で含有されることは許容される。例えば、ハロゲン化合物及びアンチモン化合物の合計含有量が10重量%以下とすることが好ましく、特に0~0.1重量%とすることがより好ましい。
【0054】
2.本発明組成物の製造方法
本発明組成物は、前記「1.難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物」で説明した各成分が均一に混合できる限りは、その製法は特に限定されない。例えば、所定の割合で各成分をドライブレンドで均一に混合することによって本発明組成物を得ることができる。この場合、本発明組成物は、粉末状の組成物として得ることができる。
【0055】
特に、後記のような本発明成形体を各成分から直接的に製造することもできる。この場合は、例えば1)ポリプロピレン系樹脂の溶融物を調製する工程、2)前記溶融物に少なくとも前記ホスホン酸アミン塩、前記NOR系ヒンダードアミン化合物及び前記ホスホン酸エステルを添加することにより溶融混合物を得る工程を含む方法を好適に採用することができる。これにより、前記溶融混合物を用いて所望の形状に成形してなる成形体を効率的に得ることができる。
【0056】
3.本発明組成物の成形体
本発明は、本発明組成物を成形してなる成形体も包含する。成形方法は、特に限定されず、例えばプレス成形、射出成形、押出成形、真空成形、ブロー成形等の各種の方法を採用することができる。
【0057】
成形体は、各種の用途に用いることができる。公知のポリプロピレン系樹脂製の製品と同様の用途に好適に用いることができる。例えば、電子機器、家電製品、OA機器、日用品、医療機器、建材、自動車部品、包装材料又は容器等のさまざまな用途に幅広く用いることができる。この中でも難燃性が要求される用途(例えば家電製品、OA機器の内装材又は外装材、工事用シート等)に本発明成形体を好適に用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例及び比較例を挙げてより詳細に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
A.使用原料について
(1)ポリプロピレン系樹脂
(1-1)株式会社プライムポリマー製「プライムポリプロJ106G」、MFR:15.0g/10min、homo-PP (表中では「J106G」と表記する。)
(1-2)株式会社プライムポリマー製「プライムポリプロJ226T」、MFR:20.0g/10min、rad-PP(表中では「J226T」と表記する。)
(1-3)株式会社プライムポリマー製「プライムポリプロJ707G」、MFR:30.0g/10min、block-PP(表中では「J707G」と表記する。)
【0060】
(2)ホスホン酸のアミン塩
(2-1)ブチルホスホン酸メラミン
国際公開WO2016/152747の実施例1~2に記載の方法に従ってブチルホスホン酸を調製した。次いで、コンデンサー、撹拌機、温度計、側管付き滴下漏斗及び窒素導入管を付帯した300ml丸底フラスコに、前記ブチルホスホン酸(12.61g)、メラミン(12.61g)及び水(200.0g)を加え、95℃まで加熱攪拌した。90℃付近で均一溶解後、攪拌しつつ1時間かけて10℃まで冷却し、白色スラリーを得た。得られたスラリーを減圧濾過し、乾燥することにより白色粉末状のブチルホスホン酸メラミンを得た。収率は85.5%であった。得られた粉末はフェザーミルで粉砕し、樹脂への練り込みに供する試料とした。
(2-2)オクチルホスホン酸メラミン
コンデンサー、撹拌機、温度計、側管付き滴下漏斗及び窒素導入管を付帯した300ml丸底フラスコに、n-オクチルホスホン酸(東京化成工業株式会社製:29.13g)、メラミン(12.61g)及び水(200.0g)を加え、95℃まで加熱攪拌した。90℃付近で均一溶解後、攪拌しつつ1時間かけて10℃まで冷却し、白色スラリーを得た。得られたスラリーを減圧濾過し、乾燥することにより白色粉末状のオクチルホスホン酸メラミンを得た。収率は82.4%であった。得られた粉末はフェザーミルで粉砕し、樹脂への練り込みに供する試料とした。
(2-3)ベンジルホスホン酸メラミン
コンデンサー、撹拌機、温度計、側管付き滴下漏斗及び窒素導入管を付帯した300ml丸底フラスコに、トリメチルホスフェート(49.64g)を入れ、攪拌しつつ加熱し、緩やかに還流させた。滴下ロートよりベンジルブロマイド(66.70g)を1時間かけて滴下し、そのまま還流を5時間続け、ジメチルベンジルホスフェートを得た。次いで、コンデンサーを取り外し、濃硫酸(1.05g)を加えて150℃まで加熱し、滴下ロートより水(100g)を10時間かけて滴下した。その間、フラスコ内温は150℃を維持させた。フラスコを室温まで冷却し、微褐色結晶状のベンジルホスホン酸(64.2g)を得た。次いで、コンデンサー、撹拌機、温度計、側管付き滴下漏斗及び窒素導入管を付帯した300ml丸底フラスコに、前記ベンジルホスホン酸(10.00g)、メラミン(4.89g)及び水(100.0g)を加え、95℃まで加熱攪拌した。90℃付近で均一溶解後、攪拌しつつ1時間かけて10℃まで冷却し、白色スラリーを得た。得られたスラリーを減圧濾過し、乾燥することにより白色粉末状のベンジルホスホン酸メラミンを得た。収率は68.0%であった。得られた粉末はフェザーミルで粉砕し、樹脂への練り込みに供する試料とした。
(2-4)メチルホスホン酸メラミン
コンデンサー、撹拌機、温度計、側管付き滴下漏斗及び窒素導入管を付帯した300ml丸底フラスコに、メチルホスホン酸(東京化成工業株式会社製:9.60g)、メラミン(12.61g)及び水(200.0g)を加え、95℃まで加熱攪拌した。90℃付近で均一溶解後、攪拌しつつ1時間かけて10℃まで冷却し、白色スラリーを得た。得られたスラリーを減圧濾過し、乾燥することにより白色粉末状のメチルホスホン酸メラミンを得た。収率は39.5%であった。得られた粉末はフェザーミルで粉砕し、樹脂への練り込みに供する試料とした。
(2-5)ブチルホスホン酸ベンゾグアナミン
国際公開WO2016/152747の実施例1~2に記載の方法に従ってブチルホスホン酸を調製した。次いで、コンデンサー、撹拌機、温度計、側管付き滴下漏斗及び窒素導入管を付帯した300ml丸底フラスコに、前記ブチルホスホン酸(12.61g)、ベンゾグアナミン(17.09g)及び水(200.0g)を加え、95℃まで加熱攪拌した。90℃付近で1時間攪拌後、攪拌しつつ1時間かけて10℃まで冷却し、白色スラリーを得た。得られたスラリーを減圧濾過し、乾燥することにより白色粉末状のブチルホスホン酸ベンゾグアナミンを得た。収率は89.9%であった。得られた粉末はフェザーミルで粉砕し、樹脂への練り込みに供する試料とした。
【0061】
(3)NOR系ヒンダードアミン化合物
(3-1)BASF社製「Flamestab NOR-116FF」(表中では「NOR-116FF」と表記する。)
(3-2)BASF社製「Tinvin NOR-371FF」(表中では「NOR-371FF」と表記する。)
【0062】
(4)ホスホン酸エステル化合物
(4-1)丸菱油化工業株式会社製「ノンネン73」(融点:約100℃)、ホスホン酸エステル系化合物(表中では「ノンネン73」と表記する。)
【0063】
B.実施例・比較例について
実施例1~12及び比較例1~5
前記Aの各成分を表1~表3に示す組成(単位は「重量%」)となるように秤量したうえで、混練機(東洋精機株式会社製「ラボプラストミルC4150」)を用い、さきにポリプロピレン系樹脂樹脂を200℃にて溶融混練した。溶融した樹脂成分にヒンダードフェノール系酸化防止剤(製品名「イルガノックス1010」BASFジャパン社製)0.05重量%及びリン系加工熱安定剤(製品名「イルガフォス168」)0.05重量%を両者の混合物の形態で加え、さらにホスホン酸アミンの塩、NOR系ヒンダードアミン化合物及びホスホン酸エステル化合物の混合物をゆっくり投入していき、投入終了後にさらに同温度で5分間混練することにより混合物を調製した。混練終了後、得られた混合物をプレス成型(210℃×3分、100kgf)することにより、後記の試験例1の各試験用の試験片を作製した。なお、上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、表中では「イルガノックス1010」と表記し、リン系加工熱安定剤は「イルガフォス168」と表記する。
【0064】
試験例1
各実施例及び比較例で得られた試験片について、以下の評価を実施した。それらの結果も併せて表1~表3に示す。
【0065】
(1) 燃焼性
難燃性の評価は、UL94V試験法に準拠して、3.0mm及び1.5mm厚UL試験片を作製して燃焼試験を行った。UL94V燃焼試験の結果は、「V-0」、「V-1」、「V-2」、「不可」の4段階で評価を行った。
【0066】
(2)ブリード試験
厚さ3mmの平板試験片を作製後に80℃で7日間加熱し、その後試験片について温度23℃及び湿度50%Rhの条件で48時間のエージング処理を施した後、試験片表面を目視観察及び黒色布によるふき取り観察を目視で行った。ブリード試験の結果は、染み出しがみられず、ふき取り後の黒色布に白粉が全くつかない場合を「○」とし、目視で染み出しがみられないが、ふき取り後の黒色布に白粉がみられる場合を「△」とし、染み出しがみられ、ふき取り後の黒色布に白粉がみられる場合を「×」とした。
【0067】
(3)耐湿熱性試験
厚さ3mmの平板試験片をa)温度60℃及び湿度90%Rh及びb)温度85℃及び湿度85%Rhの高温高湿条件で14日間処理した後、試験片を温度23℃及び湿度50%Rhの条件で24時間エージング処理を施した後、試験片表面の難燃剤等の染み出しを黒色布による拭き取りにて目視でチェックした。耐湿試験の結果は、黒色布に転写物がみられない場合を「○」とし、若干の液状転写物がみられる場合を「△」とし、著しい液状転写物がみられる場合を「×」とした。なお、各実施例及び比較例において、上記a)及びb)の結果はいずれも同じであったため、各表の「耐湿熱性試験」の項目においては両者をまとめて表記する。
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
表1~表3の結果からも明らかなように、本発明組成物は、ハロゲン化合物及びアンチモン化合物を含有していなくても、比較的少量の難燃成分の添加で比較例よりも優れた難燃性及び耐ブリード性を発揮できることがわかる。