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特許7431454ナノポアデバイスおよびそれを用いた生合成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】ナノポアデバイスおよびそれを用いた生合成方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20240207BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240207BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240207BHJP
   C07H 21/00 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
C12N15/10 Z
C12N15/11 Z
C12M1/00 A
C07H21/00
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021557094
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 US2020025530
(87)【国際公開番号】W WO2020205658
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】62/826,897
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520106770
【氏名又は名称】パロゲン,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】PALOGEN,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】カリミラッド,ビタ
(72)【発明者】
【氏名】ハン,キョン ジュン
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/068088(WO,A1)
【文献】Nucleic Acids Res.,2005年,Vol. 33, No. 4, e125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のナノポアチャネルと、複数の電極と、前記複数の電極と電気的に接触する、前記複数のナノポアチャネル内の電解質溶液とを含むナノ流体デバイスを用いて、オリゴヌクレオチドを合成する方法であって、
a.前記複数のナノポアチャネルのうちの円筒形のナノポアチャネルの内壁にプライマーをカップリングするステップであって、前記プライマーが保護基を有する、ステップと、
b.複数の電極のうち、前記ナノポアチャネルに対応する電極に電圧を印加して、当該電極で電解質溶液から酸を生成するステップであって、当該電極が、空間によって分離された長手方向平面に沿って分割された前記ナノポアチャネルの2つの部分を形成するアノードおよびカソードを含む、ステップと、
c.前記酸が、前記プライマーから前記保護基を除去するステップと、
d.前記保護基が除去されたプライマーにヌクレオチドをカップリングして、中間生成物を形成するステップと、
e.オリゴヌクレオチドが合成されるまで、前記中間生成物に対してステップb.からd.を繰り返すステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記ナノポアチャネルの内壁にプライマーをカップリングすることが、前記ナノポアチャネルの内壁にドレスポリマーをカップリングして、前記ドレスポリマーに前記プライマーをカップリングすることを含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、
前記ドレスポリマーが、ポリエチレングリコール(PEG 5000)モノメチルエステル、ポリ(オルソエステル)、脂肪族ポリエステル、耐熱性ポリマー、脂肪族ホモポリマー、ポリカプロラクトン、共溶媒を有するポリマー、b極性ポリマー、親水性ポリマーおよび疎水性ポリマーからなる群のなかから選択されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、
前記保護基が、ジメトキシトリチル(「DMT」)を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、
前記電解質溶液が、ヒドロキノン、ベンゾキノンおよびアセトニトリルを含み、
前記電極に電圧を印加することにより、酸化により前記アノードで酸が生成され、
前記電極に電圧を印加することにより、ベンゾキノンの還元により前記カソードでヒドロキノンが生成され、
生成された酸が、前記ナノポアチャネルを通って前記アノードから前記カソードに移動し、
前記電極に電圧を印加することにより、前記ナノポアチャネルを通る生成された酸の流量が増加することを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、
前記ヌクレオチドが、ホスホルアミダイトモノマーを含み、
前記保護基が除去されたプライマーにホスホルアミダイトモノマーをカップリングすることが、ホスホルアミダイトモノマーをアゾールで活性化することを含み、
前記アゾールが、テトラゾール、2-エチルチオテトラゾール、2-ベンジルチオテトラゾール、および4,5-ジシアノイミダゾールからなる群のなかから選択されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、
ステップeの前に前記中間生成物を安定化させるステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、
前記中間生成物を安定化させることが、亜リン酸トリエステルをリン酸トリエステルに酸化することを含み、当該方法がさらに、ヨウ素およびピリジンの溶液を用いて、亜リン酸トリエステルをリン酸トリエステルに酸化するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法において、
未反応の5’-OHをキャッピングするステップをさらに含み、未反応の5’-OHをキャッピングすることが、テトラヒドロフラン中で未反応の5’-OHを無水酢酸およびN-メチルイミダゾールと反応させることを含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、
前記中間生成物に対してステップb.からd.を繰り返すことが、前記中間生成物に異なるヌクレオチドをカップリングすることを含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法において、
ステップa.からe.を使用して、前記ナノ流体デバイスの第2のナノポアチャネルで第2のオリゴヌクレオチドを合成するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、
前記第2のオリゴヌクレオチドが、前記オリゴヌクレオチドとは異なることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法において、
一次生成物が電解質溶液と相互作用して二次生成物を生成するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法において、
前記複数の電極および前記複数のナノポアチャネルが、流体システムまたはMEMSシステムに含まれることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法において、
前記ナノポアチャネルのサイズおよび前記酸の生成効率によって、オリゴヌクレオチドを合成する方法の効率が高められることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法において、
前記複数のナノポアチャネルのすべてのナノポアチャネルで同一のオリゴヌクレオチドを合成するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法において、
一定量の電流を有するパルスとして、電圧が前記複数の電極のすべての電極に印加されることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、
一定量の電流を有する複数のパルスとして、電圧が前記複数の電極のすべての電極に印加されることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項1に記載の方法において、
電圧が段階的に前記電極に印加されることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項1に記載の方法において、
前記電極に印加される電圧を変化させて、前記電極で電解質溶液から生成される酸の量を変化させるステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、3次元(「3D」)のナノ流体アレイデバイスおよびシステムを使用してバイオポリマー分子を合成するためのナノ流体システム、デバイスおよびプロセスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
2次元(「2D」)マイクロアレイは、高スループットの並列マルチプレックス法で生物学的物質を検査/スクリーニングするために使用することができる。そのような2Dマイクロアレイは、2Dマイクロアレイの固体基板に連結された比較的短い(例えば、数十から数百の塩基対)DNAの断片(「テスト」または「プローブ」)を含むことができる。各テスト/プローブは、遺伝子のごく一部であり得る。また、DNA断片以外の生物学的分子も同様に、標的RNAまたはcDNAとのハイブリダイゼーションのためのテスト/プローブとして利用することができる。テスト/プローブに対応する標的の同定および定量化は、蛍光(例えば、蛍光色素分子で標識される標的核酸)または発光(例えば、化学発光物質で標識される標的核酸)の測定によって達成することができる。
【0003】
3Dナノ流体アレイセンサは、ナノスケールでの多重化、制御、感度および特定を使用して、ヒトの発達の様々な段階で多数の多様なゲノム問題を特定することができる。また、3Dナノ流体アレイセンサは、ポータブルアプリケーションに加えて、臨床、科学および産業アプリケーションのフォームファクタも最小化する。さらに、フォームファクタを小さくすることで、 Lab-on-a-Chipアプリケーションが可能になり、(例えば、微小電気機械システム「MEMS」フレームワークにおける)臨床センサの中心的なコンポーネントとして機能することができる。これらのアレイおよびそれを用いた技術は、(例えば、様々な癌に対応する)特定の標的を利用した、(例えば、配列決定されたヒトゲノムからの情報を使用する)迅速かつ効果的なゲノム問題発見戦略を促進する。
【0004】
ナノポアデバイスとも呼ばれる現在のナノ流体デバイスは、ナノメートル範囲のポアのアレイを含み、各ポアが、イオン電流および/またはトンネル電流の変化によって、ホールを通る荷電粒子(例えば、イオン、分子など)の流れを受け入れて、方向付けることができる細いチャネルホール(例えば、約1nm~約1000nmの直径を有するチャネルホール)を有する。核酸(例えば、DNAのアデニン、シトシン、グアニン、チミン、RNAのウラシル)のリン酸骨格には負に荷電した酸素分子が含まれているため、核酸は正に荷電したアノードに向かって流れることになる。同様に、アノードで生成された水素(「酸」)イオンは、負に荷電したカソードに向かって流れる。
【0005】
図1は、最先端の固体ベースの2Dナノポアシーケンシングデバイス100を概略的に示している。このデバイス100は「2次元」と呼ばれているが、このデバイス100はZ軸に沿ってある程度の厚さを有している。現在の最先端のナノポア技術の欠点(例えば、感度、高い移動速度、電気的アドレス指定、バイオメモリの制限および製造コスト)を解決するために、生体分子シーケンシングの並列処理を可能にするマルチチャネルナノポアアレイを使用して、無標識および無増幅の高速シーケンシングを実現することができる。
【0006】
様々な生物学的技術は、合成されたDNA分子を(例えば、テスト/プローブとして)必要とする。現在の合成デバイスは、様々な異なる生体分子を数時間で合成することができる。半導体製造技術の進歩に伴い、固体ナノポアは、機械的、化学的および熱的特性に優れ、半導体技術との適合性があり、様々なナノデバイスへの統合が可能であることに部分的に起因して、生物学的ナノポアの安価で優れた代替品となっている。しかしながら、現在の生合成システムは、上述したマイクロアレイレベルまでしか小型化されておらず、ナノポア技術は含まれていない。そのため、速度と柔軟性(例えば、同時に合成できる異なる分子の数)が高く、コストとフォームファクタを削減することができる生体分子合成システムおよび方法が必要とされている。また、マルチチャネルナノ流体アレイをより効率的かつ効果的に使用することで、プラグアンドプレイ機能と拡張性を備えた低コストで高スループットの生体分子合成を実現する生体分子合成システムおよび方法が必要とされている。さらに、現在利用可能な生合成構成の欠点に対処するナノ流体ベースの生合成システムおよび方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
実施形態は、ナノポアベースの生合成システムおよび方法を対象とする。特に、実施形態は、生体分子を合成するためのナノ流体アレイ(2Dまたは3D)と、これを利用して生体分子を合成する方法とを対象とする。
【0008】
一実施形態では、複数のナノポアチャネルと、複数の電極と、複数の電極と電気的に接触する複数のナノポアチャネル内の電解質溶液とを含むナノ流体デバイスを用いて、オリゴヌクレオチドを合成する方法が、複数のナノポアチャネルのうちのナノポアチャネルの内壁にプライマーをカップリングするステップを備え、プライマーが保護基を有する。本方法は、b.複数の電極のうち、ナノポアチャネルに対応する電極に電圧を印加して、当該電極で電解質溶液から酸を生成するステップも含む。電極は、ナノポアチャネルの両側に配置されたアノードおよびカソードを含む。本方法は、c.酸がプライマーから保護基を除去するステップをさらに含む。さらに、本方法は、d.保護基が除去されたプライマーにヌクレオチドをカップリングして中間生成物を形成するステップを含む。さらに、本方法は、e.オリゴヌクレオチドが合成されるまで、中間生成物に対してステップb.からd.を繰り返すステップを含む。
【0009】
1または複数の実施形態では、プライマーをナノポアチャネルの内壁にカップリングすることが、ドレスポリマーをナノポアチャネルの内壁にカップリングし、プライマーをドレスポリマーにカップリングすることを含む。ドレスポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG 5000)モノメチルエステル、ポリ(オルソエステル)、脂肪族ポリエステル、耐熱性ポリマー、脂肪族ホモポリマー、ポリカプロラクトン、共溶媒を有するポリマー、b極性ポリマー、親水性ポリマーおよび疎水性ポリマーからなる群のなかから選択することができる。保護基は、ジメトキシトリチル(「DMT」)を含むことができる。
【0010】
1または複数の実施形態では、電解質溶液が、ヒドロキノン、ベンゾキノンおよびアセトニトリルを含む。電極に電圧を印加することで、ベンゾキノンの還元により、カソードでヒドロキノンを生成することができる。生成された酸は、ナノポアチャネルを介して、アノードからカソードに移動し得る。電極に電圧を印加することにより、ナノポアチャネルを通る生成された酸の流量が増加し得る。
【0011】
1または複数の実施形態では、ヌクレオチドが、ホスホルアミダイトモノマーを含む。保護基を除去されたプライマーにホスホルアミダイトモノマーをカップリングすることは、ホスホルアミダイトモノマーをアゾールで活性化することを含むことができる。アゾールは、テトラゾール、2-エチルチオテトラゾール、2-ベンジルチオテトラゾール、および4,5-ジシアノイミダゾールからなる群のなかから選択することができる。
【0012】
1または複数の実施形態では、本方法が、ステップeの前に中間生成物を安定化させるステップも含む。中間生成物を安定化させることは、亜リン酸トリエステルをリン酸トリエステルに酸化することを含むことができる。本方法は、ヨウ素およびピリジンの溶液を用いて、亜リン酸トリエステルをリン酸トリエステルに酸化するステップも含むことができる。
【0013】
1または複数の実施形態では、本方法が、未反応の5’-OHをキャッピングするステップも含む。未反応の5’-OHをキャッピングすることは、テトラヒドロフラン中で未反応の5’-OHを無水酢酸およびN-メチルイミダゾールと反応させることを含むことができる。中間生成物に対してステップb.からd.を繰り返すことは、異なるヌクレオチドを中間生成物にカップリングすることを含むことができる。
【0014】
1または複数の実施形態では、本方法が、ステップa.からe.を使用して、ナノ流体デバイスの第2のナノポアチャネルにおいて第2のオリゴヌクレオチドを合成するステップも含む。第2のオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドとは異なるものであってもよい。また、本方法は、一次生成物が電解質溶液と相互作用して二次生成物を生成するステップも含むことができる。複数の電極および複数のナノポアチャネルは、流体システムまたはMEMSシステムに含まれるものであってもよい。ナノポアチャネルのサイズおよび酸の生成効率は、オリゴヌクレオチドを合成する方法の効率を高めることができる。
【0015】
1または複数の実施形態では、本方法が、複数のナノポアチャネルのすべてのナノポアチャネルにおいて同一のオリゴヌクレオチドを合成するステップも含む。電圧は、一定量の電流を有するパルスとして、複数の電極のすべての電極に印加されるようにしてもよい。また、電圧は、一定量の電流を有する複数のパルスとして、複数の電極のすべての電極に印加されるようにしてもよい。また、電圧を段階的に電極に印加することもできる。また、本方法は、電極に印加する電圧を変化させて、電極で電解質溶液から生成される酸の量を変化させるステップも含むことができる。
【0016】
別の実施形態では、複数のナノポアチャネルと、複数の電極と、複数のナノポアチャネル内にあり、複数の電極と電気的に接触する電解質溶液とを含むナノ流体アレイを用いて、複数の異なるオリゴヌクレオチドを合成する方法が、a.複数のナノポアチャネルのうち第1および第2のナノポアチャネルのそれぞれの内壁に第1および第2のプライマーをカップリングするステップを含み、第1および第2のプライマーがそれぞれ保護基を有する。本方法は、b.複数の電極のうち、第1のナノポアチャネルに対応する第1の電極に電圧を印加して、第1の電極で電解質溶液から酸を生成する一方、複数の電極のうち、第2のナノポアチャネルに対応する第2の電極には電圧を印加しないステップをさらに含み、第1の電極が、第1のナノポアチャネルの両側に配置された第1のアノードおよび第1のカソードを備える。この方法は、c.酸が第1のプライマーから保護基を除去するステップをさらに含む。さらに、この方法は、d.保護基が除去された第1のプライマーに第1のヌクレオチドをカップリングして、第1の中間生成物を形成するステップを含む。さらに、この方法は、e.複数の異なるオリゴヌクレオチドが合成されるまで、第1の中間生成物および/または第2のプライマーに対してステップb.からd.を繰り返すステップを含む。
【0017】
さらに別の実施形態では、オリゴヌクレオチドを合成するためのナノポアデバイスが、複数のナノポアチャネルを規定する複数の独立してアドレス指定可能な電極を含む。複数の独立してアドレス指定可能な電極は、複数のナノポアチャネルのうちの各ナノポアチャネルが独立してアドレス指定可能となるように、アレイを形成している。本デバイスは、複数のナノポアチャネルに流体を出し入れするためのポンプも含む。本デバイスは、複数の独立してアドレス指定可能な電極と、ポンプとに動作可能に結合されたプロセッサをさらに含む。プロセッサは、複数の独立してアドレス指定可能な電極およびポンプに指示を与えて、a.複数のナノポアチャネルのうちのナノポアチャネル内に、保護基を有するプライマーを送り込んで、プライマーをナノポアチャネルの内壁にカップリングするステップを含む方法を実行するようにプログラムされている。また、この方法は、b.複数の独立してアドレス指定可能な電極のうちの電極に電圧を印加して、その電極で電解質溶液から酸を生成するステップも含む。この方法は、c.酸がプライマーから保護基を除去するステップをさらに含む。さらに、この方法は、d.ヌクレオチドをナノポアチャネルに送り込み、保護基が除去されたプライマーにヌクレオチドをカップリングして、中間生成物を形成するステップを含む。さらに、この方法は、e.オリゴヌクレオチドが合成されるまで、中間生成物に対してステップb.からd.を繰り返すことを含む。
【0018】
1または複数の実施形態では、電極が、ナノポアチャネルの両側に配置されたアノードおよびカソードを含む。アノードおよびカソードは、ナノポアチャネルの長手方向軸の両端に配置されるようにしてもよい。アノードおよびカソードは、ナノポアチャネルの長手方向軸に沿って、ナノポアチャネルの両側に配置されるようにしてもよい。複数のナノポアチャネルを規定する複数の独立してアドレス指定可能な電極は、流体システムまたはMEMSシステムに含まれるものであってもよい。ナノポアデバイスは、3Dナノポアデバイスであってもよい。プロセッサは、複数の独立してアドレス指定可能な電極、およびポンプに指示を与えて、DNA、RNA、ポリペプチドまたはアプタマーを合成する方法を実行するようにプログラムされれるものであってもよい。複数のナノポアチャネルのうちの各ナノポアチャネルは、複数の独立してアドレス指定可能な電極のうちのそれぞれの電極によって独立してアドレス指定可能であってもよい。
【0019】
一実施形態では、複数のマイクロチャネルと、複数の電極と、複数のマイクロチャネル内にあり、複数の電極と電気的に接触する電解質溶液とを含むマイクロ流体デバイスを用いて、オリゴヌクレオチドを合成する方法が、a.複数のマイクロチャネルのうちのマイクロチャネルの内壁にプライマーを結合させるステップを含み、プライマーが保護基を有する。また、この方法は、b.複数の電極のうち、マイクロチャネルに対応する電極に電圧を印加して、電極において電解質溶液から酸を生成するステップを含む。電極は、マイクロチャネルの両側に配置されたアノードおよびカソードを含む。この方法は、c.酸がプライマーから保護基を除去するステップをさらに含む。さらに、この方法は、d.保護基が除去されたプライマーにヌクレオチドをカップリングして、中間生成物を形成するステップを含む。さらに、この方法は、e.オリゴヌクレオチドが合成されるまで、中間生成物に対してステップb.からd.を繰り返すことを含む。
【0020】
一実施形態では、複数のチャネルと、複数の電極と、複数のチャネル内にあり、複数の電極と電気的に接触する電解質溶液とを含むMEMSベースのアレイデバイスを用いて、オリゴヌクレオチドを合成する方法が、a.複数のチャネルのうちのチャネルの内壁にプライマーを結合することを含み、プライマーが保護基を有する。この方法は、b.複数の電極のうち、チャネルに対応する電極に電圧を印加して、電極で電解質溶液から酸を生成するステップも含む。電極は、チャネルの両側に配置されたアノードおよびカソードを含む。この方法は、c.酸がプライマーから保護基を除去するステップをさらに含む。さらに、この方法は、d.保護基が除去されたプライマーにヌクレオチドをカップリングして中間生成物を形成するステップを含む。さらに、本方法は、e.オリゴヌクレオチドが合成されるまで、中間生成物に対してステップb.からd.を繰り返すことを含む。
【0021】
実施形態は、ナノポアアレイに限定されるものではなく、マイクロアレイ(ポアサイズが1000nmより大きい)やMEMSベースのアレイなど、より大きなポアサイズのアレイ構造も含む。
【0022】
本発明の上記および他の実施形態を、以下の詳細な説明に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
以下に説明する図面は、説明のみを目的としている。図面は、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。この特許または出願ファイルには、カラーで実行される少なくとも1の図面が含まれる。カラー図面を含む本特許または特許出願公報のコピーは、請求と、必要な手数料の支払いにより、米国特許商標庁から提供されるであろう。
【0024】
実施形態の上記態様および他の態様を、添付の図面を参照してさらに詳細に説明する。それら図面では、様々な図面中の同じ構成要素が共通の符号で引用されている。
【0025】
図1図1は、先行技術の固体2Dナノポアデバイスを概略的に示している。
図2図2は、ゲート電極システムが埋め込まれたナノ流体デバイスの3D模式図を概略的に示している。
図3図3は、いくつかの実施形態に係る生体分子合成システムおよび方法のための偶数および奇数の電極(カソードおよびアノード)を概略的に示している。
図4図4は、いくつかの実施形態に係る生体分子合成システムおよび方法のためのセグメント化された電極(カソードおよびアノード)を概略的に示している。
図5図5は、いくつかの実施形態に係る生体分子合成システムおよび方法で使用するためのプライマーを概略的に示している。
図6図6は、いくつかの実施形態に係るヒドロキシキノンとベンゾキノンとの間の遷移を概略的に示している。
図7図7は、いくつかの実施形態に係る固相ホスホルアミダイトオリゴヌクレオチド合成を概略的に示している。
図8図8は、いくつかの実施形態に係る固相ホスホルアミダイトオリゴヌクレオチド合成を概略的に示している。
図9図9は、いくつかの実施形態に係る3Dナノポアアレイ生合成システムを概略的に示している。
図10図10は、いくつかの実施形態に係る3Dナノポアアレイ生合成システムを概略的に示している。
図11図11は、いくつかの実施形態に係る3Dナノポアアレイ生合成システムおよび方法における脱トリチル化を概略的に示している。
図12図12は、いくつかの実施形態に係る3Dナノポアアレイ生合成方法における様々なステップを概略的に示している。
図13図13は、いくつかの実施形態に係る3Dナノポアアレイ生合成方法における様々なステップを概略的に示している。
図14図14は、いくつかの実施形態に係る3Dナノポアアレイ生合成方法における様々なステップを概略的に示している。
【0026】
様々な実施形態の上記および他の利点および目的を獲得する方法をより良好に理解するために、実施形態のより詳細な説明が、添付の図面を参照して提供される。図面は一定の縮尺で描かれておらず、同様の構造または機能の構成要素は全体を通して同様の符号によって表されていることに留意されたい。これらの図面は、特定の例示された実施形態のみを示しており、したがって、実施形態の範囲を限定するものと見なされるべきではないことを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0027】
現在の生合成技術の上述した欠点(例えば、速度、柔軟性、コスト、フォームファクタ、プラグアンドプレイ機能、拡張性)に対処するために、生体分子の並列合成を可能にするマルチチャネルナノポアアレイを使用して、制御および柔軟性が改善された生体分子の迅速な合成を実現することができる。マルチチャネルナノポアアレイは、使用されるセンサであってもよい。マルチチャネルナノポアアレイ内の個々のナノポアチャネルを電気的にアドレス指定することで、生合成制御の改善と、マルチチャネルナノポアアレイのより効率的かつ効果的な使用を促進して、生体分子の低コストで高スループットの合成を実現することができる。
【0028】
以下に、様々な実施形態に係るナノポアアレイに埋め込まれたナノ電極を有する個別に電気的にアドレス指定可能なナノポアチャネルを使用するマルチチャネルナノポアアレイを使用して生体分子を効率的かつ効果的に合成する方法を述べる。電気的アドレス指定技術によるそのような生合成は、固体ナノポアアレイ、生物学的アレイおよびハイブリッドナノポアアレイで使用することができる。また、電気的アドレス指定技術によるそのような生合成は、本明細書に記載の3Dマルチチャネルナノポアアレイを含む、様々なマルチチャネルナノポアアレイとともに使用することができる。
【0029】
例示的なナノポアデバイス
上述したように、現在の最先端のナノポアデバイスは、少なくとも、感度、電気的アドレス指定および製造コストの点で制限されている。本明細書に記載のナノポアデバイスの実施形態は、特に、現在のナノポアデバイスのそれらの制限に対処する。
【0030】
図2A図2Dは、一実施形態に係る3Dアレイアーキテクチャを有する固体ナノポア技術を組み込んだナノポアデバイス200の様々な図面を概略的に示している。図2Aに示すように、デバイス200は、Z軸204に沿って積層された複数の2Dアレイまたは層202A~202Dを含む。2Dアレイ202A~202Dは「2次元」と呼ばれているが、2Dアレイ202A~202Dのそれぞれは、Z軸に沿ってある程度の厚みを有している。図2Bは、図2Aに示す上部の2Dアレイ202Aの上面図を示している。図2Cおよび図2Dは、図2Aに示すナノポアデバイス200の正面図および右側面図を概略的に示している。
【0031】
最上部の2Dアレイ202Aは、第1および第2の選択(電極)層206、208を含み、第1および第2の選択層206、208は、それらに形成されたナノポア210(チャネル)を通る荷電粒子(例えば、バイオポリマー)の動きを方向付けるように構成されている。第1の選択層206は、2Dアレイ202Aの複数の横列(R1~R3)のなかから選択するように構成されている。第2の選択層208は、2Dアレイ202Aの複数の縦列(C1~C3)のなかから選択するように構成されている。一実施形態では、第1および第2の選択層206、208は、選択された横列および縦列に隣接する電荷、および/または選択されていない横列および縦列に隣接する電荷を変更することによって、横列および縦列のなかからそれぞれ選択するように構成されている。他の2Dアレイ202B~202Dは、様々な目的(例えば、電流/電圧印加、速度制御、電流検知など)に使用することができるナノ電極を含む。それらナノ電極は、導電性の高い金属、例えば、Ta、Al、Au-Cr、TiN、TaN、Pt、Cr、グラフェン、Al-Cu、ポリシリコンなどで作ることができる。ナノ電極は、約1~2nmから約1000nmの厚さを有することができる。また、ナノ電極は、ハイブリッドナノポア内の生物学的層に形成されるものであってもよい。
【0032】
図2A図2Dに示す実施形態では、アレイ202A~202Dの各々が、クロスパターンで配置された第1および第2の層206、208を有する2次元アレイである。他の実施形態(図示省略)では、アレイ202A~202Dの少なくとも一部(例えば、202B~202D)が、1本の軸に沿って選択的にアドレス指定可能な単層のみを有する1次元アレイであってもよい。2つのそのような単層アレイは、互いに直交するそれぞれの軸に沿って選択的にアドレス指定可能であってもよい。図2A図2Dに示す実施形態は、4つのアレイ202A~202Dを有するが、他の実施形態(図示省略)は、より少ないまたは多い層を有するようにしてもよい。
【0033】
ハイブリッドナノポアは、ナノポアの安定性を高めるために、半合成膜ポーリンを形成するための固体成分を有する安定した生物学的/生化学的成分を含む。例えば、生物学的成分は、αHL分子であってもよい。αHL分子は、SiNベースの3Dナノポアに挿入することができる。(例えば、最上部の2Dアレイ202Aの)電極にバイアスを印加することにより、αHL分子を誘導して、αHL分子をSiNベースの3Dナノポアと確実に整列させる構造をとることができる。
【0034】
ナノポアデバイス200は、3D垂直チャネルスタックアレイ構造を有し、マイクロアレイ生合成デバイスや、さらには平面構造を有する従来のナノポアデバイスに比べて、電圧印加および生合成反応のための表面積が遥かに大きくなっている。様々な荷電粒子(例えば、生理活性分子)がデバイス内の各2Dアレイ202A~202Dを通過するときに、その荷電粒子は、ナノポアデバイス200のナノポアチャネルの内面に連結された他の分子(例えば、他の生理活性分子)と反応することができる。ナノポアデバイス200の個々のナノポアチャネルを電気的にアドレス指定することで、個々のナノポアチャネルへの電圧の印加が容易になり、個々のナノポアチャネルにおける電気化学反応の正確な制御が可能になる。このため、デバイス200の3Dアレイ構造および個々の電気的アドレス指定により、生合成反応のための表面積の増加と、電気化学反応のより正確な制御が容易になる。さらに、高度に集積化されたスモールフォームファクタの3D構造は、製造コストとフォームファクタを最小限に抑えながら、高密度のナノポアアレイを提供する。
【0035】
使用時には、ナノポアデバイス200は、上部および下部チャンバ(図示省略)が中間チャンバ(図示省略)およびナノポアチャネル210によって流体的に結合されるように、上部および下部チャンバを分離するそれらの間の中間チャンバに配置されている。上部および下部チャンバは、生体分子の合成に使用される生体活性分子(例えば、ヌクレオシドホスホルアミダイトモノマー)を含む電解質溶液(例えば、アセトニトリル中のヒドロキノンおよびベンゾキノン)および電極(例えば、金属、ポリマー、ポリシリコンなど)を含む。異なる生体分子の合成には、異なる電極および電解質溶液を用いることができる。
【0036】
ナノポアデバイス200の最上部2Dアレイ202Aに隣接する上部チャンバ(図示省略)およびナノポアデバイス200の底部2Dアレイ202Dに隣接する下部チャンバ(図示省略)に配置された電極に電圧/電位/バイアスを印加することによって、電気泳動による荷電粒子(例えば、H+)の移動を生じさせることができる。いくつかの実施形態では、ナノポアデバイス200は、中間チャンバ内のナノポアデバイス200のナノポアチャネル210によって上部チャンバおよび下部チャンバ(図示省略)が流体的に、よって電気的に結合されるように、上部チャンバおよび下部チャンバ(図示省略)の間の中間チャンバ(図示省略)に配置されている。上部チャンバおよび下部チャンバは、上部チャンバおよび下部チャンバ内のアノードおよびカソードを電気的に結合するための電解質溶液を含むことができる。
【0037】
例示的なナノポアデバイスの電気的アドレス指定スキーム
図2A図2Dは、斜視図、上面図および断面図で、一実施形態に係るナノポア210および電極(例えば、ナノ電極)スキームを示している。この実施形態では、ナノポア210が、ナノ電極によって囲まれており、それによりナノポア210のチャネルを、ナノ電極の電気的バイアス場条件下で制御することができる。
【0038】
第1および第2選択層206、208は、ナノポアアレイデバイス200の縦列電極および横列電極としてそれぞれ機能するクロスパターン化されたナノギャップ電極を含む。これらの電極は、ナノポアアレイデバイス200のナノポア210チャネルを独立してアドレス指定するために使用することができる。第1および第2の選択層206、208(図2Bのx-y平面図を参照)のクロスパターン化されたナノギャップ電極は、金属リソグラフィ技術を用いてパターン化され、他の層(202B~202D)の残りの電極も、クロスパターン化されて堆積されるか、平面金属またはポリゲート電極で堆積される。すべてのナノポア210チャネルは、金属またはポリシリコン電極に完全に囲まれており、よって(202A~202D層の)複数の積み重ねられた電極に印加された電気的バイアスの完全な影響下にある。層202A~202Dの様々なナノギャップ電極に電圧/電位/バイアスを印加することで、様々なナノポア210チャネルにわたって電圧/電位/バイアスを印加することができる。例えば、選択された特定のナノポア210チャネルで層202Aおよび層202Dに電圧/電位/バイアスを印加することにより、それらのナノポア210チャネルでの電気化学反応および選択されたナノポア210チャネルを通る(例えば、電極の平面に直交する上部チャンバから下部チャンバへの)荷電粒子(例えば、H+)のイオン移動を選択的に引き起こすことができる。
【0039】
例示的なナノポア生合成デバイスおよび方法
例示的なナノポア生合成デバイス
本明細書に記載のナノポア生合成デバイスおよび方法は、3Dナノ流体アレイを含む。いくつかの実施形態では、ナノポア生合成デバイスおよび方法が、ホスホルアミダイトオリゴヌクレオチド戦略および様々なナノ電極構成および電気制御スキームを利用して、生体分子合成のための様々な電気化学反応および荷電粒子の移動を制御することができる。ナノチャネルアレイを使用することで、システムサイズおよび対応するサンプルおよび試薬のサイズ、およびシステムフットプリントを削減することができる。さらに、ナノ電極を使用してナノチャネルを独立して選択的にアドレス指定することで、生合成反応の制御を改善することができる。
【0040】
図3および図4は、様々な実施形態に係るナノ電極構成を示している。図3は、一実施形態に係る、一対のカソード(-)314、316の間に配置されたアノード(+)312を有するナノ電極310を示している。ナノ電極310は、ナノチャネル518の一部を規定する。アノード312で(例えば、電気化学的に)形成された荷電粒子(例えば、H+)は、ナノチャネル318を介してカソード314、316へのイオン移動によって駆動される。この動作では、2つの電極間の電気的バイアスが、5nm~100nmの範囲の電極間およびゲート誘電体の厚さに応じて、0.1ボルト~10Vの範囲となる。
【0041】
図4は、空間420によって分離された長手方向平面に沿って分割された円筒の2つの部分を形成するアノード(+)412およびカソード(-)414を有するナノ電極410を示している。アノード412およびカソード414は、ナノチャネル418の一部を形成している。アノード412で(例えば、電気化学的に)形成された荷電粒子(例えば、H+)は、ナノチャネル418を横切ってカソード414へのイオン移動によって駆動される。この動作モードでは、2つの電極間の電気的バイアスが、5nm~100nmの範囲の誘電体の厚さおよび電極ギャップのサイズに応じて、0.1ボルト~10Vの範囲となる。
【0042】
上述したナノ電極310、410の極性は、アノードがカソードになり、1または複数のカソードが1または複数のアノードになるように切り替えることができる。ナノ電極310、410は、ナノチャネル/ナノポア418の一部を規定する完全なリング310および中途で途切れたリング410であり、それによって、ナノチャネル/ナノポア418に沿って3次元的に場を印加することができる。ナノ電極310、410の極性を切り替えることで、ナノ電極310、410の様々な領域での荷電粒子の形成と、ナノチャネル318、418全体での荷電粒子の移動および分布の改善を促進することができ、それにより、生体分子合成のスループットを高めることができる。
【0043】
生体分子の合成は、ナノポアチャネルの内壁に結合したプライマーから開始することができる。いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドプライマー500が、図5に示すように、3’末端に結合部510を含み、その5’末端に、生化学反応から5’末端を保護/ブロックするための保護基514を有する「バーコード鎖」512を含むことができる。結合部510は、ナノポアチャネルの表面に結合するように構成されている。「バーコード鎖」は、小さなオリゴヌクレオチドフラグメントであってもよい。
【0044】
いくつかの実施形態に係るナノポアアレイ生合成システムは、ともにコンピュータ制御されるポンプおよび流体ディスペンサを含むナノ流体システムを含む。ナノ流体システムは、流体が入口から出口に送り込まれるときに、ナノポアアレイ生合成システム全体が流体およびその中に含まれる反応物に曝されるように、ナノポアアレイ生合成システムの両端部に位置する流体入口および流体出口を含むことができる。ナノ流体システムおよびナノポアアレイ生合成システムを介してポンプで送り込むことができる様々な流体には、初期電解質溶液(無水アセトニトリル中のテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェートを含むヒドロキノンおよびベンゾキノン)、ヌクレオシドホスホルアミダイトモノマー溶液(ETT活性化剤溶液を含む)、酸化溶液(THF/水/ピリジン/ヨウ素)、合成鎖の変異の原因となる不要な結合を防ぐために各ヌクレオチドを添加した後のキャッピングプロセスのためのTHF/無水酢酸およびTHF/ピリジン/N-メチルイミダゾール、および洗浄/溶解溶液(アセトニトリル)が含まれる。これらの溶液は、ホスホルアミダイトオリゴヌクレオチド合成反応の反応ステップおよび段階に対応する様々な試薬充填および洗浄ステップ中に、ナノ流体システムおよびナノポアアレイ生合成システムに送り込まれる。ポンプおよび流体ディスペンサを制御するプロセッサは、反応ステップの完了を可能にするために、試薬充填ステップと洗浄ステップの間に十分な時間を確保するようにプログラムされている。
【0045】
ナノポアアレイ生合成システムのナノチャネルの内面は、マスキング要素としてポリマーでドレッシング/コーティング/被覆することができる。プライマーの結合部は、このドレスポリマーに連結することができる。オリゴヌクレオチドの合成が完了した後、ドレスポリマーを溶解してナノチャネルから除去することにより、ナノポアアレイを再利用可能にすることができる。例示的なドレスポリマーには、ポリエチレングリコール(PEG 5000)モノメチルエステル、ポリエステル、脂肪族ポリエステル、耐熱性ポリマー、脂肪族ホモポリマー、ポリカプロラクトン、共溶媒を有するポリマー、極性ポリマー、親水性ポリマーおよび疎水性ポリマーが含まれるが、これらに限定されるものではない。このドレスポリマーは、耐熱性があり、温度を上げることで剥離することができる。代替的には、このドレスポリマーは、ナノチャネル内のpHを上げることで不安定となり、除去することができる。代替的には、ドレスポリマーはフォトレジストであり、UV光で処理することにより除去することができる。ドレスポリマーは、ナノチャネルの内面を保護するための任意のタイプのマスキングポリマーであって、剥離または脱マスキングに対応する処理を用いて除去することができる。
【0046】
移送中および使用前に、ナノポアチャネルは、劣化を最小限にするためにアノードから電気的に絶縁される。ナノポアチャネルの内面は、生合成のための固体基板として機能する。オリゴヌクレオチド合成のためには、ナノポアチャネルの内面のかなりの部分が電極から形成される(図3および図4を参照)。この電極は、金属、ポリマー、またはポリシリコン電極から形成され、(3-グリシドキシプロピル)-トリメトキシシランおよびポリエチレングリコールリンカーで誘導体化される。
【0047】
次に、dAの蓄積を促進する下層のジメトキシトリチル(DMT)層をナノポアチャネルの内面上に追加し、これによりナノポアチャネルの内面に、後述する第1の脱ブロックステップ中にDMTを集める特性を与える。代替的には、無水アセトニトリル電解液中のテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロリン酸を含む上述したヒドロキノンおよびベンゾキノンの代わりに、ジクロロメタン中の酢酸を利用することもできる。
【0048】
ホスホルアミダイトオリゴヌクレオチド合成の触媒は、酸(H+)であり、これはナノポアアレイ生合成システムにおいて電気化学的に供給することができる。H+イオンは、図6の化学式600に示すように、ヒドロキシキノンをベンゾキノンに酸化することによって生成することができる。また、H+イオンは、後述するように、成長中のオリゴヌクレオチドの5’末端を脱ブロック/脱保護する。
【0049】
例示的なナノポア生合成方法
図7および図8は、いくつかの実施形態に係る固相ホスホルアミダイトオリゴヌクレオチド合成の方法700を示している。この方法700は、上述したように、また図9に示すように、ナノポアチャネルの内面810上のドレスポリマー812に結合/連結されたオリゴヌクレオチドプライマー814から始まる。オリゴヌクレオチドプライマー814は、保護基816で保護/ブロックされている。
【0050】
710では、いくつかの実施形態ではDMTである保護基816が、図8に示すように、H+818によってプライマー1014の5’から除去される。H+は、上述したようにナノポアチャネルに対応する電極(例えば、アノード/カソード)に印加される電圧/電位/バイアスによって引き起こされる、上述した初期電解質溶液(例えば、無水アセトニトリル中のテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェートを有するヒドロキシキノンおよびベンゾキノン)からのヒドロキシキノンのベンゾキノンへの酸化によって生成される。DMT保護基816の除去は、脱トリチル化と呼ばれる。脱トリチル化により、図8に示すように、アノードに隣接するプライマー1014の5’に、反応性の高い遊離の5’-OH基が生じる。
【0051】
712では、ヌクレオシドホスホルアミダイトモノマー溶液(ETT Activator溶液、0.25Mを含む)を、ナノポアアレイ生合成システムに送り込んで、初期電解質を置き換える。いくつかの実施形態では、ヌクレオシドホスホルアミダイトモノマー溶液を加える前に、システムを洗浄するようにしてもよい。プロセッサは、標的オリゴヌクレオチドの次のヌクレオチドに対応するヌクレオシドホスホルアミダイトモノマー820を追加するようにポンプに指示する。ヌクレオシドホスホルアミダイトモノマー820は、触媒によって活性化される。触媒は、例えば、テトラゾール、2-エチルチオテトラゾール、2-ベンジルチオテトラゾール、および4,5-ジシアノイミダゾールなどのアゾールである。触媒作用を受けた/活性化されたヌクレオシドホスホルアミダイトモノマー820は、脱保護されたプライマー814の脱トリチル化された5’末端と反応し、ホスホルアミダイトモノマー820として成長中のオリゴヌクレオチドに添加される。カップリング反応中、ヌクレオシドは、接近する触媒作用を受けた/活性化されたヌクレオシドホスホルアミダイトモノマーのリンと反応し、そのジイソプロピルアミノ基を引き抜く。
【0052】
714では、酸化溶液(ピリジン中のヨウ素、水、およびテトラヒドロフラン)をナノポアアレイ生合成システムに送り込んで、ヌクレオシドホスホルアミダイトモノマー溶液を置換する。いくつかの実施形態では、酸化溶液を加える前にシステムを洗浄するようにしてもよい。酸化により、カップリング反応中に形成される不安定な亜リン酸トリエステルが安定なリン酸トリエステルに変化し、これにより、本方法は、次のサイクルのステップ910(第2のヌクレオシドの脱トリチル化)に戻り、オリゴヌクレオチドに別のヌクレオシドを追加することができる。
【0053】
716では、サイクルのステップ710に戻る前に、ナノポアチャネル壁に付着した未反応のヌクレオシドを「キャッピング」する。キャッピング溶液(テトラヒドロフラン中の無水酢酸およびN-メチルイミダゾール)をナノポアアレイ生合成システムに送り込んで、酸化溶液を置き換える。いくつかの実施形態では、キャッピング溶液を加える前にシステムを洗浄するようにしてもよい。キャッピング溶液は、ナノポアチャネル壁に付着した未反応のヌクレオシドの5’-OHをアセチル化する。これにより、未反応のヌクレオシドがさらに反応するのを防ぐことができる。さもなければ、様々な欠失を持つ意図しないオリゴヌクレオチドが形成されることとなる。また、未反応のヌクレオシドをキャッピングすることで、生合成法の後続のサイクルの効率も向上する。キャッピングの後、本方法は、ステップ710(最後に加えられたヌクレオシドの脱トリチル化)に戻って、オリゴヌクレオチドが完成するまで、成長中のオリゴヌクレオチドに別のヌクレオシドを添加することができる。
【0054】
本明細書に記載のナノポアアレイ生合成システムおよび方法は、ナノチャネルのフォーラム部分でアノードおよびカソード(図3および図4を参照)を含むナノ電極を介して独立しているナノポアチャネル内でのオリゴヌクレオチド合成を含む。アノードでは、電気化学的にプロトン(H+)が生成され、それがイオン移動によってカソードに移動する。生成されたそれらプロトン(H+)は、腐食性のある不安定なジメトキシトリチル基を切断し、ヌクレオシドホスホルアミダイトモノマーのカップリングを可能にする。また、プロトン(H+)は、様々な実施形態において、様々な他の保護基を脱保護/脱ブロックすることもできる。
【0055】
固相ホスホルアミダイトオリゴヌクレオチド合成法700のサイクル数は、標的オリゴヌクレオチドの望ましい長さに依存する。オリゴヌクレオチド結合による、現在の固相ホスホルアミダイトオリゴヌクレオチド合成法の上限は、約200ラウンドであり、これにより長さが約200ヌクレオチドのオリゴヌクレオチドが得られる。より典型的な固相ホスホルアミダイトオリゴヌクレオチド合成法は、5~100サイクルを含む。いくつかの実施形態に係る固相ホスホルアミダイトオリゴヌクレオチド合成法は、10~25サイクルを含む。
【0056】
同様のデバイスおよび方法を固相ポリペプチド合成に用いることができる。ポリペプチドの融合により、現在の固相ポリペプチド合成法の上限は、約75~100サイクルであり、これにより長さが約75~100アミノ酸のポリペプチドが得られる。より典型的な固相ポリペプチド合成法は、5~50サイクルを伴う。いくつかの実施形態に係る固相ポリペプチド合成法は、5~25サイクルを含み、これにより、長さが5~25アミノ酸のポリペプチドが得られるであろう。
【0057】
固相ホスホルアミダイトオリゴヌクレオチド合成生成物の製品の品質を決定するために、未精製オリゴヌクレオチドは、様々な実施形態に従って、HPLC、PAGE、またはゲルキャピラリー電気泳動(「CE」)を用いて特徴付けることができる。HPLC、PAGEなどを用いてDMTの量を決定することにより、分析、精製および/または蛍光染色に必要な時間を制限しながら、製品の品質を決定することができる。いくつかの実施形態では、各ナノポアチャネルの電荷を測定するセンサとして、3Dナノポアアレイを使用することもできる。
【0058】
電気化学的メカニズム
独立してアドレス指定可能な複数のナノ電極により、プロセッサは、3Dナノポアアレイ生合成システムの複数のナノポアチャネルの各々に印加される電圧を独立に制御することができる。対応するナノ電極によって独立してアドレス指定されるナノポアチャネルの各々に、異なる電圧を印加することができる(または、ゼロ電圧の場合には印加しないことができる)。
【0059】
いくつかの実施形態では、すべてのナノポアチャネルに同じ電圧を印加することにより、すべてのナノポアチャネルを利用して同じオリゴヌクレオチドを合成することができる。他の実施形態では、異なるナノポアチャネルに異なる電圧を印加することにより、異なるナノポアチャネルを利用して異なるオリゴヌクレオチドを合成することができる。さらに、一部のナノポアチャネルに電圧を印加しないことにより、生合成中にそれらのナノポアチャネルを活性化状態にすることができる。このように、生合成をナノポアチャネルレベルで柔軟に制御することで、オリゴヌクレオチドおよび/または異なるオリゴヌクレオチドの混合物を最小限の時間で効率的に合成することができる。
【0060】
1つのナノポアチャネルで生成されたプロトン(H+)は、隣接する他のナノポアチャネルでの生合成に最小限の影響しか与えない。これは、プロトン(H+)の拡散プロファイルが異方的であり、生成されたプロトン(H+)の大部分が3Dナノポアアレイの外面に沿ってではなく、ナノポアチャネル内に拡散するためである。この異方性拡散は、電極間に印加される電圧によるイオン移動によって引き起こされると考えられる。このため、1つのナノポアチャネルで発生したプロトン(H+)は、そのナノポアチャネルに集中し、他のナノポアチャネルから実質的に分離される。
【0061】
ナノポアチャネル間の3Dナノポアアレイの外面の一部は、意図しない脱トリチル化を防止する障壁を生成するために、ナノポアチャネルを形成する前に、脱保護され、合成により化学的に不活性化される。それら障壁は、利用可能な保護基(例えば、DMT)と反応する前に生成されたプロトン(H+)が拡散しなければならない距離を長くする。それら障壁は、ナノポアチャネル内の生合成反応をさらに相互に隔離する。
【0062】
例えば、図9は、いくつかの実施形態に係る3Dナノポアアレイ生合成システム900を示している。このシステム900は、システム1100の外面912によって分離された複数のナノポアチャネル910を含む。図9に示すように、このシステムは、複数の異なるオリゴヌクレオチドを同時に生成している。例えば、複数の異なるオリゴヌクレオチドの様々なものに付加される最後のヌクレオチドには、アデニンA、チミンTおよびシトシンCが含まれる。
【0063】
図10は、いくつかの実施形態に係る3Dナノポアアレイ生合成システム1000を概略的に示している。3Dナノポアアレイ生合成システム1000は、システム1000の外面1012によって分離された複数のナノポア/ナノチャネル1010、1010’を規定する。ナノポア/ナノチャネル1010、1010’は、3Dナノポアアレイ1000を通って延びている。また、3Dナノポアアレイ生合成システム1000は、アノード1014およびカソード1016を含む。
【0064】
図10に示すように、ナノポア/ナノチャネル1010’の一部は、選択されたナノポア/ナノチャネル1010’をアドレス指定するナノ電極に電位を印加することによって選択される。他のナノポア/ナノチャネル1010は、それらのナノポア/ナノチャネル1010をアドレス指定するナノ電極に電位が印加されていないため、選択されない。ヌクレオシドホスホルアミダイトモノマー1018は、選択されたナノポア/ナノチャネル1010’に入り、そこで、図8に示すように、選択されたナノポア/ナノチャネル1010’の内面1022に結合されたオリゴヌクレオチドプライマー1020と相互作用する。
【0065】
図11は、いくつかの実施形態に係る3Dナノポアアレイ生合成システム1000および方法における脱トリチル化を概略的に示している。3Dナノポアアレイ生合成システム1000(図10を参照)に電場を印加することにより、水素原子1024がナノポア/ナノチャネル内の電解質溶液中で放出/生成される。水素原子1024は、図7および図8に示すように、また上述したように、システム1000で合成される生体分子/バイオポリマーの成長端でヌクレオシドホスホルアミダイトモノマー1018からキャッピング(例えば、DMT)1026を除去する。図11のヌクレオシドホスホルアミダイトモノマー1018-1は、オリゴヌクレオチドプライマー1020に付着される成長中の生体分子/バイオポリマーの第1のモノマーである。
【0066】
図12図14は、いくつかの実施形態に係る3Dナノポアアレイ生合成方法における様々なステップを概略的に示している。図11に続く図12では、第2のヌクレオシドホスホルアミダイトモノマー1018-2が、キャッピングのない第1のヌクレオシドホスホルアミダイトモノマー1018-1に接近する。図12に続く図13では、図7および図8に示すように、また上述したように、第2のヌクレオシドホスホルアミダイトモノマー1018-2が第1のヌクレオシドホスホルアミダイトモノマー1018-1にカップリングされている。図7に示す脱キャッピングステップおよびカップリングステップを繰り返すことによって、第3のヌクレオシドホスホルアミダイトモノマー1018-3を成長中の生体分子/バイオポリマーに加えることができる(図13に続く図14を参照)。脱キャッピングステップおよびカップリングステップを繰り返し、各カップリングステップ中に、選択されたナノポア/ナノチャネル中に存在するヌクレオシドホスホルアミダイトモノマー1018を制御することにより、この方法は、正確かつ迅速に生体分子/バイオポリマーを合成することができる。
【0067】
3Dナノポアアレイ(ナノポアチャネルを含む)の製造中に、プロトンフォーレージャ(proton foragers)を使用して、3Dナノポアアレイの領域における意図しないプロトン(H+)の存在を最小限に抑えることができる。プロトンフォーレージャは、プロトン(H+)を捕獲するためのシンクとして機能するように、3Dナノポアアレイの基板の中央にグラウンド端子を配置することによって、電気化学的に生成することができる。他の実施形態では、3Dナノポアアレイの製造中に、他の弱いプロトンフォーレージャを利用することができる。意図しないプロトン(H+)の存在を最小限に抑えることで、固相ホスホルアミダイトオリゴヌクレオチド合成反応の効率が向上する。
【0068】
この3Dナノポアアレイ生合成システムで使用するASICは、特定のナノポアチャネルにおける生合成反応を制御するために、動作可能に結合された電源に対して、特定のナノ電極に電圧/電位/バイアスを供給するように指示して、特定のナノポアチャネルを独立してアドレス指定するようにプログラムすることができる。3Dナノポアアレイ生合成システムは、マイクロ流体チャンバ(例えば、上部チャンバ、中間チャンバ、下部チャンバを有するマイクロ流体チャンバ)内に配置することができる。また、ASICは、1または複数のポンプと動作可能に結合され、マイクロ流体チャンバに様々な反応溶液を充填する指示(上記を参照)や、新しい反応溶液を追加する前にマイクロ流体チャンバを洗浄する指示を提供する。上述したように、3Dナノポアアレイ生合成システムは、アノードでのプロトン(H+)の発生を利用して、様々な生体ポリマーの成長末端を脱保護することにより、安全な様々な生体分子(例えば、オリゴヌクレオチド、オリゴペプチドなど)を合成することができる。ASIC/プロセッサは、すべての電圧、タイミング、アノード/カソードの割り当てを制御し、様々なナノ電極の推定電流を検知/検出するようにプログラムすることができる。
【0069】
3Dナノポアアレイ生合成システムでは、合成メカニズムをナノポアチャネルレベルでアドレス指定可能である。各ナノポアチャネルは、それに動作可能に結合された電極を有する独立した反応チャンバである。ナノポアチャネルに正および負の電圧/電位/バイアスを独立して印加することにより、そのナノポアチャネルにおける合成メカニズムを独立して開始して、酸に不安定な保護基を除去して合成を行うことにより、目的の生体分子を合成することができる。
【0070】
3Dナノポアアレイ生合成システムおよび方法は、オリゴヌクレオチドを含む多種多様な生体分子を生成するために使用することができ、それらを様々な段階で多数の多様なゲノム問題を検出して対処するために使用できる。本明細書に記載の3Dナノポアアレイ生合成システムおよび方法を用いて生成されたオリゴヌクレオチド(例えば、様々な癌に対応するオリゴヌクレオチドプローブ)によって、単純かつ迅速な診断戦略が促進される。
【0071】
本明細書に記載の独立してアドレス指定可能なナノ電極およびナノポアチャネルを含む3Dナノポアアレイ生合成システムおよび方法は、生合成システムの表面対体積比を向上させ、臨床、科学および産業アプリケーション、並びに、ポータブルアプリケーションのフォームファクタを最小化する。さらに、小さなフォームファクタは、Lab-on-a-Chipアプリケーションを促進することができ、臨床内のセンタおよびMEMSフレームワークとして機能することができる。
【0072】
現在の生合成アレイは、数時間のうちに生体分子を合成することができる。本明細書に記載のナノポアアレイ生合成システムの3D構造は、並列ナノポアチャネルアレイシステムを提供し、マイクロアレイをナノポアアレイにさらに小型化して、サイズをさらに縮小し、より集約化することができる。システムサイズを小さくすることにより、必要なサンプルおよび試薬の量の要件も減少し、システムの運転コストを削減し、その結果、より効率的で手頃なポータブル生体分子合成プラットフォームを実現することができる。
【0073】
追加の態様
請求項に記載の発明に加えて、非限定的な例として、本発明の更なる実施形態または態様を本明細書に記載する。
【0074】
[態様1]
複数のナノポアチャネルと、複数の電極と、複数のナノポアチャネル内で複数の電極と電気的に接触する電解質溶液とを含むナノ流体アレイを用いて、複数の異なるオリゴヌクレオチドを合成する方法であって、
a.複数のナノポアチャネルのうち、第1および第2のナノポアチャネルのそれぞれの内壁に第1および第2のプライマーをカップリングするステップであって、第1および第2のプライマーの各々が保護基を有する、ステップと、
b.複数の電極のうち、第1のナノポアチャネルに対応する第1の電極に電圧を印加して、第1の電極で電解質溶液から酸を生成する一方、複数の電極のうち、第2のナノポアチャネルに対応する第2の電極には電圧を印加しないステップであって、第1の電極が、第1のナノポアチャネルの両側に配置された第1のアノードおよび第1のカソードを備える、ステップと、
c.酸が、第1のプライマーから保護基を除去するステップと、
d.保護基が除去された第1のプライマーに第1のヌクレオチドをカップリングして、第1の中間生成物を形成するステップとを備え、
e.複数の異なるオリゴヌクレオチドが合成されるまで、第1の中間生成物および/または第2のプライマーに対してステップb.からd.を繰り返すことを特徴とする方法。
【0075】
[態様2]
オリゴヌクレオチドを合成するためのナノポアデバイスであって、
複数のナノポアチャネルを規定する複数の独立してアドレス指定可能な電極であって、複数のナノポアチャネルのうちの各ナノポアチャネルが独立してアドレス指定可能となるように、アレイを形成する複数の独立してアドレス指定可能な電極と、
複数のナノポアチャネルに対して流体を出し入れするポンプと、
複数の独立してアドレス指定可能な電極およびポンプに動作可能に結合されたプロセッサとを備え、
プロセッサが、複数の独立してアドレス指定可能な電極およびポンプに指示を与えて、
a.複数のナノポアチャネルのうちのナノポアチャネル内に、保護基を有するプライマーをポンプで送り込んで、プライマーをナノポアチャネルの内壁にカップリングするステップと、
b.複数の独立してアドレス指定可能な電極のうちの電極に電圧を印加して、その電極で電解質溶液から酸を生成するステップと、
c.酸が、プライマーから保護基を除去するステップと、
d.ヌクレオチドをナノポアチャネル内にポンプで送り込み、保護基が除去されたプライマーにヌクレオチドをカップリングして、中間生成物を形成するステップと、
e.オリゴヌクレオチドが合成されるまで、中間生成物に対してステップb.からd.を繰り返すステップと
を含む方法を実行するようにプログラムされていることを特徴とするナノポアデバイス。
【0076】
[態様3]
態様2に記載のデバイスにおいて、
電極が、ナノポアチャネルの両側に配置されたアノードおよびカソードを含むことを特徴とするデバイス。
【0077】
[態様4]
態様3に記載のデバイスにおいて、
アノードおよびカソードが、ナノポアチャネルの長手方向軸の両端部に配置されていることを特徴とするデバイス。
【0078】
[態様5]
態様3に記載のデバイスにおいて、
アノードおよびカソードが、ナノポアチャネルの長手方向軸に沿ってナノポアチャネルの両側に配置されていることを特徴とするデバイス。
【0079】
[態様6]
態様3に記載のデバイスにおいて、
複数のナノポアチャネルを規定する複数の独立してアドレス指定可能な電極が、流体デバイスまたはMEMSデバイスに含まれることを特徴とするデバイス。
【0080】
[態様7]
態様3に記載のデバイスにおいて、
ナノポアデバイスが3Dナノポアデバイスであることを特徴とするデバイス。
【0081】
[態様8]
態様3に記載のデバイスにおいて、
プロセッサが、複数の独立してアドレス指定可能な電極、およびポンプに指示を与えて、DNA、RNA、ポリペプチドまたはアプタマーを合成する方法を実行するようにプログラムされていることを特徴とするデバイス。
【0082】
[態様9]
態様3に記載のデバイスにおいて、
複数のナノポアチャネルのうちの各ナノポアチャネルが、複数の独立してアドレス可能な電極のうちのそれぞれの電極によって独立してアドレス指定可能であることを特徴とするデバイス。
【0083】
[態様10]
複数のマイクロチャネルと、複数の電極と、複数のマイクロチャネル内で複数の電極と電気的に接触する電解質溶液とを含むマイクロ流体デバイスを使用して、オリゴヌクレオチドを合成する方法であって、
a.複数のマイクロチャネルのうちのマイクロチャネルの内壁にプライマーをカップリングするステップであって、プライマーが保護基を有する、ステップと、
b.複数の電極のうち、マイクロチャネルに対応する電極に電圧を印加して、電極で電解質溶液から酸を生成するステップであって、電極が、マイクロチャネルの両側に配置されたアノードおよびカソードを含む、ステップと、
c.酸が、プライマーから保護基を除去するステップと、
d.保護基が除去されたプライマーにヌクレオチドをカップリングして、中間生成物を形成するステップとを備え、
e.オリゴヌクレオチドが合成されるまで、中間生成物に対してステップb.からd.を繰り返すことを特徴とする方法。
【0084】
[態様11]
複数のチャネルと、複数の電極と、複数のチャネル内で複数の電極と電気的に接触する電解質溶液とを含むMEMSベースのアレイデバイスを使用して、オリゴヌクレオチドを合成する方法であって、
a.複数のチャネルのうちのチャネルの内壁にプライマーをカップリングするステップであって、プライマーが保護基を有する、ステップと、
b.複数の電極のうち、チャネルに対応する電極に電圧を印加して、電極で電解質溶液から酸を生成するステップであって、電極が、チャネルの両側に配置されたアノードおよびカソードを含む、ステップと、
c.酸が、プライマーから保護基を除去するステップと、
d.保護基が除去されたプライマーにヌクレオチドをカップリングして、中間生成物を形成するステップとを備え、
e.オリゴヌクレオチドが合成されるまで、中間生成物に対してステップb.からd.を繰り返すことを特徴とする方法。
【0085】
特定のナノ電極アドレス指定構成および電気制御スキームが本明細書に開示されているが、他のナノ電極アドレス指定構成および電気制御スキームを、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、開示された実施形態とともに使用することも可能である。本明細書に記載のシステムおよび方法は、オリゴヌクレオチド(例えば、DNAおよびRNA)、オリゴペプチドおよびオリゴ糖などの生体高分子の合成を含むが、システムおよび方法は、他の鎖状ポリマーの生成および/またはクリックケミストリーのために使用することもできる。本明細書に記載のシステムおよび方法は、3Dナノポアアレイを利用するが、システムおよび方法の原理は、他のタイプの生合成システムにも適用可能である。実施形態は、ナノポアアレイに限定されるものではなく、マイクロアレイ(1000nmより大きいポアサイズ)やMEMSベースのアレイなど、より大きなポアサイズのアレイ構造も含む。
【0086】
以下の特許請求の範囲のすべての手段またはステッププラスファンクション要素の対応する構造、材料、行為および等価物は、具体的に主張されるように、他の特許請求の範囲の要素と組み合わせて機能を実行するための任意の構造、材料、行為および等価物を含むことを意図している。本発明は、上記の実施形態と関連して説明されているが、前記の説明および請求項は、本発明の範囲を限定するものではないことが理解されよう。本発明の範囲内の他の態様、利点および修正は、本発明が属する技術分野における当業者には明らかであろう。
【0087】
本発明の様々な例示的な実施形態が本明細書で説明される。非限定的な意味でこれらの例を参照する。それらは、本発明のより広く適用可能な態様を例示するために提供される。本発明の真の意図および範囲から逸脱することなく、説明された本発明に様々な変更を加えることができ、均等物を代用することができる。さらに、特定の状況、材料、物質の組成、プロセス、プロセス行為またはステップを本発明の目的、意図または範囲に適合させるために、多くの修正を行うことができる。さらに、当業者によって理解されるように、本明細書で説明および図示される個々のバリエーションはそれぞれ、本発明の範囲または意図を逸脱することなく、他のいくつかの実施形態の特徴から容易に分離または組み合わせることができる個別の構成要素および特徴を有する。このような変更はすべて、この開示に関連する請求項の範囲内であることが意図されている。
【0088】
主題の診断または介入処置を実行するための上記デバイスのいずれも、そのような介入を実行する際に使用するためにパッケージ化された組み合わせで提供されてもよい。これらの供給「キット」は、使用説明書をさらに含み、そのような目的で一般的に使用される無菌トレイまたは容器に包装されてもよい。
【0089】
本発明は、主題のデバイスを使用して実行され得る方法を含む。この方法は、そのような適切なデバイスを提供する行為を含み得る。この提供は、エンドユーザが実行してもよい。言い換えると、「提供する」行為は、エンドユーザが主題の方法で必要なデバイスを提供するために取得、アクセス、アプローチ、配置、セットアップ、起動、電源投入、またはその他の方法で動作させることのみを必要とする。本明細書に列挙された方法は、論理的に可能である列挙されたイベントを任意の順序で実行してもよいし、列挙されたイベントの順序で実行してもよい。
【0090】
本発明の例示的な態様が、材料の選択や製造に関する詳細とともに、上記で説明されている。本発明の他の詳細は、上記で参照された特許および刊行物に関連して理解され、かつ当業者によって一般に知られているか評価される。同じことが、一般的または論理的に用いられる追加の動作に関して、本発明の方法ベースの態様に関しても事実であり得る。
【0091】
さらに、本発明について、様々な特徴を任意に組み込んだいくつかの例を参照して説明したが、本発明は、本発明の各バリエーションに関して企図されるように説明または図示されたものに限定されるものではない。開示の真の意図および範囲から逸脱することなく、記載された本発明に様々な変更を加えることができ、均等物(本明細書に記載されているか、ある程度簡潔にするために含まれていない)に置き換えることができる。さらに、値の範囲が提供される場合、その範囲の上限と下限との間に介在するあらゆる値と、その規定された範囲内の任意の他の規定されるか介在する値は、本発明内に含まれると理解される。
【0092】
また、記載された本発明のバリエーションの任意の特徴は、独立して、または本明細書に記載された特徴のいずれか1以上と組み合わせて示され、クレームされ得ることが企図される。単一のアイテムへの言及には、同じアイテムが複数存在する場合が含まれる。より具体的には、本明細書および本明細書に関連する請求項で使用されるように、単数形「a」、「an」、「said」、および「the」は、特に明記しない限り、複数の指示対象を含む。言い換えれば、これらの用語の使用により、上記の説明および本発明に関連する請求項における主題の項目の「少なくとも1つ」が可能になる。さらに、請求項は、任意の要素を除外するように記載される場合があることに留意されたい。したがって、この記載は、クレーム要素の引用、または「否定的な」制限の使用に関連して、「単に」、「のみ」などの排他的な用語を使用するための先行詞として機能することを意図している。
【0093】
そのような排他的な用語を使用せずに、この開示に関連する請求項で「含む」という用語は、所定の数の要素がそのような請求項で列挙されているかどうかに関係なく、追加の要素を含めることを許容するか、または機能の追加により、そのような請求項に記載されている要素の性質を変換すると見なされる。本明細書で具体的に規定されている場合を除き、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、クレームの有効性を維持しながら、できるだけ広く一般に理解されている意味で与えられるべきである。
【0094】
本発明の範囲は、提供された実施例および/または明細書に限定されるべきではなく、むしろ本開示に添付された請求項の文言の範囲によってのみ限定されるべきである。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
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