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特許7431456A型インフルエンザウイルス感染症の予防又は治療のためのアントシアニン-アニオン性多糖複合体の使用
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  • 特許-A型インフルエンザウイルス感染症の予防又は治療のためのアントシアニン-アニオン性多糖複合体の使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】A型インフルエンザウイルス感染症の予防又は治療のためのアントシアニン-アニオン性多糖複合体の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7048 20060101AFI20240207BHJP
   A23L 29/206 20160101ALI20240207BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20240207BHJP
   A23L 29/281 20160101ALI20240207BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240207BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240207BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20240207BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
A61K31/7048
A23L29/206
A23L29/256
A23L29/281
A23L33/105
A61K47/36
A61K47/61
A61P31/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021576649
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-13
(86)【国際出願番号】 KR2020008235
(87)【国際公開番号】W WO2020262964
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】10-2019-0075991
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521559061
【氏名又は名称】ジェービーケーラボ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ボン クン
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-508470(JP,A)
【文献】増田佐和子,インフルエンザウイルス,日耳鼻,Vol.118,2015年,pp.904-907
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7048
A61P 31/16
A61K 47/61
A23L 33/105
A23L 29/281
A23L 29/256
A23L 29/206
A61K 47/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アントシアニンとアニオン性多糖とがイオン結合してなるアントシアニン-アニオン性多糖複合体を有効成分として含むA型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は治療のための医薬組成物であって、
前記アニオン性多糖が、アルギン酸であり、
前記アントシアニンが、シアニジン-3-アラビノシド、シアニジン-3-(キシロシルグルコース)-5-ガラクトース、シアニジエン-3-キシロシド、シアニジン-3-グルコシド、シアニジン-3-ガラクトシド、シアニジン-3-(クマロイル-キシロシルグルコース)-5-ガラクトース、デルフィニジン-3-グルコシド、デルフィニジン-3-ルチノシド、ペオニジン-3-アラビノシド、ペオニジン-3-ガラクトシド、ペツニジン-3-グルコシド、シアニジン-3,5-ジグルコシド、シアニジン-3-ルチノシド、ペラルゴニジン-3-グルコシド、ペオニジン-3-グルコシド、マルビジン-3-グルコシド、及びマルビジン-3,5-ジグルコシドからなる群から選択される少なくとも1つである、医薬組成物。
【請求項2】
下記工程を有する、アントシアニンとアニオン性多糖とがイオン結合してなるアントシアニン-アニオン性多糖複合体の製造方法:
(a)酸性環境においてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を形成する工程と、
(b)上記で形成された複合体を回収する工程;
前記アニオン性多糖は、アルギン酸であり、
前記アントシアニンは、シアニジン-3-アラビノシド、シアニジン-3-(キシロシルグルコース)-5-ガラクトース、シアニジエン-3-キシロシド、シアニジン-3-グルコシド、シアニジン-3-ガラクトシド、シアニジン-3-(クマロイル-キシロシルグルコース)-5-ガラクトース、デルフィニジン-3-グルコシド、デルフィニジン-3-ルチノシド、ペオニジン-3-アラビノシド、ペオニジン-3-ガラクトシド、ペツニジン-3-グルコシド、シアニジン-3,5-ジグルコシド、シアニジン-3-ルチノシド、ペラルゴニジン-3-グルコシド、ペオニジン-3-グルコシド、マルビジン-3-グルコシド、及びマルビジン-3,5-ジグルコシドからなる群から選択される少なくとも1つである。
【請求項3】
前記A型インフルエンザウイルスがH1N1サブタイプである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記複合体中のアントシアニンとアニオン性多糖との重量比が1:1~100である、請求項1又は3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
アントシアニンとアニオン性多糖とがイオン結合してなるアントシアニン-アニオン性多糖複合体を有効成分として含むA型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は改善のための食品組成物、健康機能性食品組成物、又は健康補助食品組成物であって、
前記アニオン性多糖が、アルギン酸であり、
前記アントシアニンが、シアニジン-3-アラビノシド、シアニジン-3-(キシロシルグルコース)-5-ガラクトース、シアニジエン-3-キシロシド、シアニジン-3-グルコシド、シアニジン-3-ガラクトシド、シアニジン-3-(クマロイル-キシロシルグルコース)-5-ガラクトース、デルフィニジン-3-グルコシド、デルフィニジン-3-ルチノシド、ペオニジン-3-アラビノシド、ペオニジン-3-ガラクトシド、ペツニジン-3-グルコシド、シアニジン-3,5-ジグルコシド、シアニジン-3-ルチノシド、ペラルゴニジン-3-グルコシド、ペオニジン-3-グルコシド、マルビジン-3-グルコシド、及びマルビジン-3,5-ジグルコシドからなる群から選択される少なくとも1つである、食品組成物、健康機能性食品組成物、又は健康補助食品組成物。
【請求項6】
アントシアニンとアニオン性多糖とがイオン結合してなるアントシアニン-アニオン性多糖複合体を有効成分として含むA型インフルエンザウイルス感染症の予防又は改善のための医薬部外品組成物であって、
前記アニオン性多糖が、アルギン酸であり、
前記アントシアニンが、シアニジン-3-アラビノシド、シアニジン-3-(キシロシルグルコース)-5-ガラクトース、シアニジエン-3-キシロシド、シアニジン-3-グルコシド、シアニジン-3-ガラクトシド、シアニジン-3-(クマロイル-キシロシルグルコース)-5-ガラクトース、デルフィニジン-3-グルコシド、デルフィニジン-3-ルチノシド、ペオニジン-3-アラビノシド、ペオニジン-3-ガラクトシド、ペツニジン-3-グルコシド、シアニジン-3,5-ジグルコシド、シアニジン-3-ルチノシド、ペラルゴニジン-3-グルコシド、ペオニジン-3-グルコシド、マルビジン-3-グルコシド、及びマルビジン-3,5-ジグルコシドからなる群から選択される少なくとも1つである、医薬部外品組成物。
【請求項7】
前記医薬部外品が、気相フィルター、フィルターコーティング剤、ハンドウォッシュ、消毒クリーナー、シャワーフォーム、ウェットティシュー、洗剤石鹸、加湿器フィラー、マスク、又はエアフレッシュナーである、請求項6に記載の医薬部外品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2019年6月25日付で出願された韓国特許出願第10-2019-0075991号の利益を主張し、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0002】
本発明は、A型インフルエンザウイルス感染症を予防又は治療するためのアントシアニン-アニオン性多糖複合体の使用、より具体的には、それぞれが、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は治療のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む医薬組成物、食品組成物及び医薬部外品組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
インフルエンザは、オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)に属するインフルエンザウイルスによって引き起こされる急性呼吸器疾患である。インフルエンザウイルスは一本鎖RNAウイルスであり、核タンパク質(NP)及びマトリクス抗原の抗原性に応じてA型、B型及びC型の3種類に分類され、ウイルスエンベロープから突き出た糖タンパク質であるヘマグルチニン(HA)の種類に応じて16のサブタイプ(H1~H16)に分けられ、ノイラミニダーゼの種類によって更に9つのサブタイプ(N1~N9)に分類される。ヘマグルチニンは最も重要な抗原決定基であり、宿主細胞の表面にあるシアル酸受容体に結合して、ウイルスの宿主への侵入を促進する。ノイラミニダーゼは、宿主細胞からシアル酸を除去することによってビリオンの分離を触媒し、ビリオンの凝集を防ぎ、新たに作り出されたウイルスを容易に放出できるようにする。さらに、ウイルス膜タンパク質に少量存在するM2タンパク質は、ウイルス内部のpHを制御するイオンチャネルとして作用し、それによってウイルスRNAを宿主細胞に曝露する。
【0004】
その中で、A型インフルエンザウイルスは人獣共通感染症の病原体であり、動物及びヒトに感染し、伝染性が高く、世界的な大流行を引き起こし、人類の歴史において多くの犠牲者を出している。スペイン風邪は、1918年から1920年にかけて伝染性が高く、ヨーロッパで流行し、約4000万人が死亡し、史上最悪のインフルエンザになった。2009年3月、新型のA型インフルエンザウイルスH1N1が世界中に広がり、10000人超が死亡した。韓国では、これにより86万人超の確定症例及び270人の死亡が発生した。さらに、韓国保健医療研究院(National Evidence-based Healthcare Collaborating Agency)の調査によると、季節性インフルエンザにより年間2370人が死亡していると推定される。
【0005】
インフルエンザウイルスに対する予防法としてのワクチン開発には、安全性レベルの高い施設及び高収量を実現するための技術が必要である。さらに、ウイルスタンパク質の変異に応じて追加の研究が必要となるため、開発に多くの時間がかかり、したがって、かなりの費用が必要となる。ワクチンの開発に加えて、抗ウイルス剤が開発され、抗ウイルス治療として使用されてきた。一般的に使用される抗ウイルス剤としては、アマンタジン、リマンタジン、ザナミビル、及びオセルタミビルが挙げられる。アマンタジン及びリマンタジンはM2タンパク質の活性を阻害することにより抗ウイルス活性を有し、オセルタミビルとザナミビルはウイルス外膜に存在するノイラミニダーゼを阻害することにより抗ウイルス活性を有する。しかしながら、これらの抗ウイルス剤に耐性のあるインフルエンザウイルスが近年報告されており、抗ウイルス剤の製造期間及びライセンスの問題により、それらの使用は制限される。さらに、最も一般的に使用されるオセルタミビルには、激しい嘔吐の副作用がある。ザナミビルは高い抗ウイルス効果を有するが、バイオアベイラビリティが低く、腎排泄が速いという欠点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでに開発された抗インフルエンザ剤のほとんどは副作用を示す。そのため、インフルエンザの予防及び治療に有効でありながら副作用のない天然物をベースにしたA型インフルエンザウイルス感染症疾患の治療薬の開発が急務となっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明者らは、A型インフルエンザウイルス感染症疾患のための天然物ベースの治療薬を開発するために集中的な研究を繰り返した。その結果、本発明者らは、優れた薬理学的活性を有するアントシアニンと負に帯電した多糖を用いた複合体形成によりアントシアニンの安定性を高めることで、A型インフルエンザウイルス感染症を更に阻害することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の目的は、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は治療のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む医薬組成物を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は改善のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む食品組成物、健康機能性食品組成物、又は健康補助食品組成物を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、A型インフルエンザウイルス感染症の予防のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む、医薬部外品組成物を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は治療のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む医薬組成物を治療有効量、ヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、A型インフルエンザウイルス感染症疾患を予防又は治療する方法を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の製剤の製造のための、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は治療のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む医薬組成物の使用を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の治療のための、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は治療のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む医薬組成物の使用を提供することである。
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明は、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は治療のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む医薬組成物を提供する。
【0015】
本発明はまた、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は改善のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む食品組成物、健康機能性食品組成物、又は健康補助食品組成物を提供する。
【0016】
本発明はまた、A型インフルエンザウイルス感染症の予防のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む医薬部外品組成物を提供する。
【0017】
本発明はまた、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は治療のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む医薬組成物を治療有効量、ヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、A型インフルエンザウイルス感染症疾患を予防又は治療する方法を提供する。
【0018】
本発明はまた、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の製剤の製造のための、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は治療のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む医薬組成物の使用を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の治療のための、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は治療のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む医薬組成物の使用を提供する。
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は治療のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む医薬組成物
本発明は、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は治療のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む医薬組成物を提供する。
【0022】
本発明において、「アントシアニン」は、植物に存在する水溶性色素グリコシドであり、細胞液の酸濃度、色素化合物の化学構造、及び様々な金属イオンとの結合状態に応じて紫、赤、及び青等の色を示す天然の植物色素を指す。最近、アントシアニンは様々な生理学的活性を有することが知られており、例えば、老化防止活性、抗菌活性、変異原性抑制活性、コレステロール低下活性、視力向上効果、血管保護機能、及び抗潰瘍機能が認められている。
【0023】
本発明において、上記アントシアニンは、植物から単離及び抽出され得るか、又は化学的に合成され得る。植物としては、アントシアニンを産生する任意の植物を挙げることができ、例えば、黒米、ブラックビーン、カシス、チョークベリー、黒チョークベリー、クランベリー、アロニア、クワ、チェリー、ラズベリー、ブルーベリー、ブラックベリー、ナス、アサイー、野生ブドウ又はブドウ、好ましくはアロニアであり得る。
【0024】
本発明において、上記アントシアニンの種類は、特に限定されないが、ペオニジン、シアニジン-3-アラビノシド、シアニジン-3-(キシロシルグルコース)-5-ガラクトース、シアニジエン-3-キシロシド、シアニジン-3-グルコシド、シアニジン-3-ガラクトシド、シアニジン-3-(クマロイル-キシロシルグルコース)-5-ガラクトース、デルフィニジン-3-グルコシド、デルフィニジン-3-ルチノシド、ペオニジン-3-アラビノシド、ペオニジン-3-ガラクトシド、ペツニジン-3-グルコシド、シアニジン、デルフィニジン、マルビジン、ペラルゴニジン、ペオニジン、シアニジン-3,5-ジグルコシド、シアニジン-3-ルチノシド、ペラルゴニジン-3-グルコシド、ペオニジン-3-グルコシド、マルビジン-3-グルコシド、及びマルビジン-3,5-ジグルコシドからなる群から選択することができる。
【0025】
本発明において、上記アニオン性多糖は、それが生体適合性を有する限り特に限定されず、1つ以上の負に帯電した官能基を含み得る。「多糖」という用語は、2つ以上の単糖分子のポリマーを指し、単糖は同じであっても又は異なってもよい。本発明の多糖は、架橋されてもよく、又は架橋されなくてもよい。
【0026】
本発明の複合体は、アニオン性多糖自体を使用することによって、又は負に帯電した官能基を全く含まないか又は少量しか含まない一般的な多糖に化学修飾を導入して負に帯電した官能基を付与することによって形成され得る。負に帯電した官能基は、例えば、1つ又は2つ以上のカルボキシル基又は硫酸基であり得る。
【0027】
特定の例において、上記アニオン性多糖は、ヒアルロン酸、o-硫酸化ヒアルロン酸(o-硫酸化HA)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラチン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、アルギン酸、フコイダン、カラギーナン、それらの混合物、及びそれらの複合体からなる群から選択することができ、好ましくはアルギン酸であるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0028】
アニオン性多糖は、食品及び飲料によく使われる物質であり、人体に無害であるだけでなく、中性溶液中で強い負電荷を帯びているため、正に帯電したアントシアニンと効果的にイオン結合して複合体を形成することができる。
【0029】
多糖は特に限定されないが、約1000~1000000の範囲、好ましくは約10000~300000の範囲、より好ましくは20000~50000の範囲の重量平均分子量を有し得る。
【0030】
本発明のアニオン性多糖では、アントシアニンのカプセル化速度は、多糖の負電荷の種類及び数を使用してアントシアニンとのイオン結合比を調整することによって制御することができる。したがって、負電荷を有する多糖である限り、目的に応じて様々な分子量を有する1種以上の多糖を使用することができる。複合体中のアントシアニンとアニオン性多糖との重量比は、1:1~100、好ましくは1:1~50、より好ましくは1:1~10、最も好ましくは1:5~10であり得る。上記の範囲内で、本発明の多糖から形成される複合体は、アントシアニンの安定性及び生理学的活性を増強するという点で有利な効果を示し得る。
【0031】
アントシアニンは低pHで高い安定性を有し、特にpH3以下で最も高い安定性及び最も高い抗酸化活性を有することが知られている。さらに、アントシアニンはpH3以下で正電荷を帯びているため、生体適合性を有するアニオン性多糖とのイオン結合を介して複合体を形成することにより、構造的に安定させることができる。アントシアニン-アニオン性多糖ナノ複合体は、酸化安定性及び貯蔵安定性に優れているため、医薬品又は食品に適用した場合の処理条件及び貯蔵特性を向上させることができる。さらに、上記複合体を使用すると、安定性が向上するため、in vivoでの吸収を高めることができ、これは薬の開発に非常に役立つ可能性がある。
【0032】
本発明において、複合体は、10nm~1000μmの範囲のサイズを有し得て、アントシアニンは、多糖によってカプセル化され得るが、必ずしもこれに限定されるものではない。本発明によるアントシアニン-多糖複合体は、使用の目的又は分野に応じて、懸濁液又は粉末であり得る。
【0033】
場合によっては、アントシアニン-多糖複合体は、生体適合性又は生分解性の担体を更に含むことができる。この場合、アントシアニン-多糖複合体は担体中にあるか又はその一部であり、担体はリポソーム、ミセル又は重合小胞であり得る。
【0034】
本発明の複合体の最も好ましい形態では、アニオン性多糖はアルギン酸であり得て、重量平均分子量は20000~50000の範囲であり、アントシアニンはシアニジン配糖体、好ましくはシアニジン-3-ガラクトシド、シアニジン-3-グルコシド、シアニジン-3-アラビノシド、及び/又はシアニジン-3-キシロシドであり得る。
【0035】
シアニジン配糖体は、アニオン性多糖とのイオン結合によって複合体を形成することができる。
【0036】
本発明において、アントシアニン-アニオン性多糖複合体は、
(i)酸性環境においてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を形成する工程、及び/又は、
(ii)上記で形成された複合体を回収する工程、
を含む方法によって調製することができるが、調製方法は特に限定されない。
【0037】
別の実施の形態において、アントシアニン-多糖複合体を調製する方法は、
(iii)中性又は酸性の環境でアントシアニン-アニオン性多糖複合体を形成する工程を含むことができる。
【0038】
アントシアニン-アニオン性多糖複合体を形成する場合、溶媒は特に限定されないが、食用のものの方が優れている。多糖とアントシアニンとを適切な比率で調製した後、2つの溶液を均等に撹拌し、約4℃で複合体が完全に形成されるまで待つ。
【0039】
上記(i)の方法によって形成された複合体は、剤形に応じて、経口製剤の場合と同様に酸性環境を維持し得るが、注射剤として使用する場合は、方法(ii)によってpHを中性にすることが好ましい。
【0040】
(i)及び(iii)の方法を使用することの違いは、複合体を形成する多糖がどのような種類の官能基を持っているかによって異なる。例えば、(i)及び(iii)の方法はどちらも、pKa値が低いために硫酸基を有する多糖に使用することができるが、カルボキシル基を有する多糖には、(iii)の方法を使用するのが適切である。カルボキシル基を有する多糖に(i)の方法を使用することができるが、(ii)のプロセスのみにてアントシアニンと安定して複合体が形成されなければならない。
【0041】
本発明において、A型インフルエンザウイルスの種類は特に限定されないが、H1N1、H1N2、H2N2、H3N2、H5N1、H5N6又はH7N9、好ましくはH1N1であり得る。より好ましくは、本発明において、A型インフルエンザウイルスは、H1N1 A/カリフォルニア/O4/09又はA/カリフォルニア/7/2009、そして最も好ましくは、H1N1 A/カリフォルニア/7/2009であり得る。
【0042】
本発明の実施の形態によれば、アントシアニン-アルギン酸複合体は、アントシアニン又はアルギン酸単独と比較した場合、A型インフルエンザウイルスに対して有意な抗ウイルス効果、すなわち相乗効果を示した。一方、アントシアニン-アルギン酸複合体は、B型インフルエンザウイルスに対していかなる相乗効果も示さないことが確認された。
【0043】
本発明において、A型インフルエンザウイルス感染症疾患は、インフルエンザ、風邪、咽喉頭炎、気管支炎、肺炎、鳥インフルエンザ、豚インフルエンザ又は山羊インフルエンザであり得て、好ましくはインフルエンザ、風邪、咽喉頭炎、気管支炎又は肺炎であり得る。
【0044】
一方、本明細書において、「有効成分として含む」とは、アントシアニン-アニオン性多糖複合体の有効性又は活性を達成するのに十分な量を含むことを意味する。本発明の一実施の形態において、本発明の組成物中のアントシアニン-アニオン性多糖複合体は、例えば、0.001mg/kg以上、好ましくは0.1mg/kg以上、より好ましくは10mg/kg以上、更により好ましくは100mg/kg以上、より好ましくは250mg/kg以上、そして最も好ましくは0.1g/kg以上である。アントシアニン-アニオン性多糖複合体は天然物であり、過剰投与しても副作用がないため、本発明の組成物に含まれるアントシアニン-アニオン性多糖複合体の量の上限は、当業者が適切な範囲で選択することができる。
【0045】
本発明の医薬組成物を、有効成分に加えて、薬学的に適切で生理学的に許容可能なアジュバントを使用して調製することができる。アジュバントとして、賦形剤、崩壊剤、甘味料、結合剤、コーティング剤、膨張剤、滑沢剤、スリップ調整剤、又は香味料を使用することができる。
【0046】
医薬組成物は、好ましくは、投与のための上記の有効成分に加えて、1つ以上の薬学的に許容可能な担体を含むことにより、医薬組成物として製剤化され得る。
【0047】
薬学的に許容可能な担体は、当該技術分野において一般的に用いられるものであり、この例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアガム、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロール、メチルセルロース、微結晶性セルロール、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱油が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。さらに、本発明の医薬組成物は、希釈剤又は賦形剤、例えば充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤及び界面活性剤、並びに他の薬学的に許容可能な添加物を更に含むことができる。
【0048】
医薬組成物の配合剤は、顆粒、粉末、錠剤、コーティングされた錠剤、カプセル剤、坐剤、溶液、シロップ剤、ジュース、懸濁液、エマルション、液滴又は注射用溶液であり得る。例えば、錠剤又はカプセル剤の形態の配合剤の場合、有効成分は、エタノール、グリセロール、水等の経口で非毒性の薬学的に許容可能な不活性担体と組み合わせることができる。さらに、所望又は必要に応じて、適切な結合剤、滑沢剤、崩壊剤、及び発色剤も混合物に含めることができる。適切な結合剤としては、デンプン、ゼラチン、天然糖(グルコース又はベータラクトース等)、トウモロコシ甘味料、天然及び合成のガム(アカシア、トラガント又はオレイン酸ナトリウム等)、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム等が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。崩壊剤としては、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガム等が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0049】
液体溶液として製剤化された組成物では、薬学的に許容可能な担体は無菌で生体適合性であり、生理食塩水、無菌水、リンゲル液、緩衝生理食塩水、アルブミン注射液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、及び1つ以上のこれらの成分を混合することによって使用され得る。必要に応じて、酸化防止剤、緩衝液、及び静菌剤等の他の従来の添加物を加えることができる。さらに、本発明の組成物は、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤及び滑沢剤と混合することにより、注射用の水溶液、懸濁液及びエマルション、丸剤、カプセル剤、顆粒又は錠剤を含む異なる形態で製剤化され得る。
【0050】
組成物を、Remington's Pharmaceutical Science, Mack Publishing Company, Easton PAに示されている方法に従うことにより、成分に応じて適切な形態で更に調製することができる。
【0051】
本発明の医薬組成物は、経口又は非経口投与が可能であり、非経口投与の場合、静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射、経皮投与等により投与され得るが、経口投与が好ましい。
【0052】
本発明において、「経口投与」という用語は、口を通して病的症状を緩和するための薬物を注入する方法である。本発明において、「非経口投与」という用語は、経口投与を除いて、チューブを使用する皮下、筋肉内、静脈内、又は腹腔内の投与の方法を指す。
【0053】
本発明の医薬組成物を、ラット、マウス、家畜、及びヒト等の哺乳動物に経口投与することができる。
【0054】
非経口投与用配合剤の場合、従来の方法により、滅菌水溶液、液体、非水溶液、懸濁液、エマルション、点眼薬、眼軟膏、シロップ剤、坐剤、エアロゾル等の外用製剤、及び滅菌注射液を調製することができ、好ましくはクリーム、ゲル、パッチ、スプレー、軟膏、絆創膏、ローション、塗布剤、ペースト又はパップ剤等の皮膚外部医薬組成物を調製することができるが、必ずしもこれらに限定されない。局所投与用の組成物は、臨床処方に応じて、無水又は水性であり得る。非水溶液及び懸濁液は、1つ以上の活性化合物に加えて、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、オレイン酸エチルのような注射可能なエステル等を含むことができる。坐剤は、1つ以上の活性化合物に加えて、ウィテップゾール、マクロゴール、tween 61、カカオバター、ラウリンバター、グリセロゼラチン等を含むことができる。
【0055】
本発明の医薬組成物の適切な投与量は、製剤化方法、投与方法、年齢、体重、性別、病状、食物、投与時間、投与経路、排泄速度、及び患者の反応感受性等の要因に応じて変化する。所望の治療又は予防のための有効な投与量は、通常の熟練した医師によって容易に決定され、処方され得る。本発明の好ましい実施の形態によれば、本発明の医薬組成物の1日用量は、0.001g/kg~10g/kgである。
【0056】
本発明の医薬組成物は、単位用量の形態の又は複数用量の容器内で、薬学的に許容可能な担体及び/又は賦形剤を使用することによって当業者によって実施され得る方法によって製剤化され得る。配合剤は、油又は水溶性媒体中の溶液、懸濁液又はエマルション、抽出物、粉末、顆粒、錠剤又はカプセル剤の形態であり得る。このとき、分散剤又は安定剤を追加で含めることができる。
【0057】
A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は改善のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む食品組成物
本発明はまた、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は改善のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む食品組成物を提供する。
【0058】
本発明において、「改善」という用語は、本発明の組成物を被験体に投与する又は摂取させることによって悪液質の悪い状態を好転させる任意の作用を指す。
【0059】
本発明による食品組成物は、医薬組成物と同じ方法で配合し、機能性食品として使用するか、又は様々な食品に添加することができる。例えば、本発明の組成物は、飲料、アルコール飲料、スナック、ダイエットバー、乳製品、肉、チョコレート、ピザ、ラーメン(ramyuns)、他の麺類、ガム、アイスクリーム、ビタミン複合体、健康補助食品等に添加することができる。
【0060】
本発明の食品組成物は、有効成分としてのアントシアニン-アニオン性多糖複合体だけでなく、食品製造中に一般的に添加される成分、例えば、タンパク質、炭水化物、脂肪、栄養素、香辛料及び香味料も含むことができる。上記の炭水化物は、グルコース及びフルクトース等の単糖類;マルトース、スクロース及びオリゴ糖等の二糖類;デキストリン及びシクロデキストリン等の多糖類;並びにキシリトール、ソルビトール及びエリスリトール等のグルコースアルコールの1つであり得る。それ以外に、天然甘味料(タウマチン、ステビア抽出物、例えばレバウジオシドA、グリチルリチン等)及び合成甘味料(サッカリン、アスパルテーム等)を甘味料として含めることができる。例えば、本発明の食品組成物がドリンク又は飲料として調製される場合、本発明のアントシアニン-アニオン性多糖複合体に加えて、クエン酸、高フルクトースコーンシロップ、砂糖、グルコース、酢酸、リンゴ酸、果汁、及び様々な植物抽出物を追加で含めることができる。
【0061】
本発明は、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は改善のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む食品組成物を含む、健康機能性食品又は健康補助食品を提供する。上記健康機能性食品又は健康補助食品は、健康機能性食品法に従って人体に有用な原料又は成分を使用して製造及び処理された食品を指す。「機能性」という用語は、人体の構造及び機能のための栄養素の調節又は生理学的効果等の健康目的のための有用な効果を得るための摂取を指す。本発明において、健康機能性食品とは、飲料、茶、香辛料、ガム、スナック等の食品素材にアントシアニン-アニオン性多糖複合体を添加して調製した食品であるか、又はカプセル剤、粉末、懸濁液等の中にアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含ませることにより調製される。上記の食品を摂取した場合、特定の健康効果がもたらされ、一般的な薬とは異なり、食品を原料として使用することで、薬を長期間服用した場合に発生する可能性のある副作用はなくなる。このようにして得られた本発明の健康機能性食品又は健康補助食品は、日常的に摂取できるため非常に有用である。
【0062】
かかる健康機能性食品又は健康補助食品に添加されるアントシアニン-アニオン性多糖複合体の量は、対象となる健康機能性食品の種類によって異なり、一律に定義することはできないが、食品本来の味を損なわない範囲で添加することができる。具体的には、添加される複合体の量は、通常、対象食品に対して0.01重量%~50重量%、好ましくは0.1重量%~20重量%の範囲である。さらに、丸剤、顆粒、錠剤又はカプセル剤の形態の健康機能性食品又は健康補助食品の場合、上記複合体は通常、0.1重量%~100重量%、好ましくは0.5重量%~80重量%の量で添加される。本発明の一実施の形態において、本発明の健康機能性食品又は健康補助食品は、丸剤、錠剤、カプセル剤又は飲料の形態であり得る。
【0063】
本発明の食品組成物は、従来の食品添加物を含むことができる。「食品添加物」として適切かどうかは、別段の指定がない限り、食品医薬品安全処によって承認された食品添加物コードの一般規則及び一般試験方法に従い、関連品目の仕様及び基準に従って判断される。
【0064】
「食品添加物コード」に列挙されている品目としては、例えば、ケトン、グリシン、クエン酸カリウム、ニコチン酸、及び桂皮酸等の化学化合物;柿色素、甘草エキス、結晶セルロース、コウリャン色素、及びグアーガム等の天然添加物;並びにL-グルタミン酸ナトリウム製剤、麺用アルカリ添加物、防腐剤、タール着色配合剤等の混合製剤が挙げられる。
【0065】
さらに、本発明の食品組成物は、A型インフルエンザウイルス感染症疾患を予防及び/又は改善する目的で、錠剤、カプセル剤、粉末、顆粒、液体、及び丸剤の形態で製造及び加工することができる。
【0066】
例えば、錠剤形態の健康機能性食品は、本発明によるアントシアニン-アニオン性多糖複合体を有効成分として含む医薬組成物、賦形剤、結合剤、崩壊剤、及び他の添加物の混合物を従来の方法で造粒し、続いて滑沢剤を添加して圧縮成形することにより調製され得る。或いは、混合物を直接圧縮成形することもできる。さらに、錠剤形態の健康機能性食品は、調味料等を含むことができ、必要に応じて適切なコーティング剤でコーティングされ得る。
【0067】
カプセル剤形態の健康機能性食品のうち、ハードカプセルは、従来のハードカプセルに、本発明によるアントシアニン-アニオン性多糖複合体を有効成分として含む医薬組成物と、賦形剤(その顆粒又はそのコーティングされた顆粒)との混合物を充填することによって調製することができる。ソフトカプセルは、ゼラチン等のカプセルベースに、本発明による食品組成物と賦形剤等の添加物との混合物を充填することによって調製することができる。
【0068】
丸剤形態の健康機能性食品は、本発明によるアントシアニン-アニオン性多糖複合体を有効成分として含む医薬組成物、賦形剤、結合剤、崩壊剤等の混合物を適切な方法を用いて成形することにより調製することができる。必要に応じて、丸剤をスクロース若しくは他の適切なコーティング剤でコーティングすることができ、又はデンプン、タルク若しくは適切な材料でコーティングすることができる。
【0069】
顆粒形態の健康機能性食品は、本発明によるアントシアニン-アニオン性多糖複合体を有効成分として含む医薬組成物、賦形剤、結合剤、崩壊剤等の混合物を適切な方法を用いて造粒することにより調製することができ、必要に応じて香味料、調味料等を含むことができる。12番(1680μm)、14番(1410μm)、及び45番(350μm)の篩を使用して粒度試験を行った場合、健康機能性食品顆粒の総量は12番篩を通過し、健康機能性食品顆粒の総量の5.0%以下は14番篩に残り、健康機能性食品顆粒の総量の15.0%以下が45番篩を通過した。
【0070】
賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、調味料、香味料等の用語の定義は、当該技術分野で知られている文書に記載されており、同じ又は類似の機能を有するものを含む(The Korean Pharmacopoeia, Moonsung Publishing Co., Korean Association of Pharmacy Education, 5th edition, p33-48, 1989).
【0071】
本明細書において、食品は特に限定されるものではなく、広い意味で、ほぼ全ての健康機能性食品を含めることができる。
【0072】
A型インフルエンザウイルス感染症の予防のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む医薬部外品組成物
本発明はまた、A型インフルエンザウイルス感染症の予防のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む医薬部外品組成物を提供する。
【0073】
すなわち、本発明によるアントシアニン-アニオン性多糖複合体を、A型インフルエンザウイルス感染症を予防する目的で医薬部外品に添加することができる。本発明の組成物を医薬部外品添加物として使用する場合、該組成物をそのまま添加することも、他の医薬部外品又は医薬部外品成分と併用することもでき、従来の方法に従って適切に使用することができる。有効成分の混合量は、使用目的に応じて適切に決定され得る。
【0074】
本発明において、「医薬部外品」という用語は、ヒト又は動物の疾患を治療、緩和、又は予防する目的で使用される繊維製品、ゴム製品等;人体への作用が弱い又は人体に直接作用しない、装置若しくは機械ではないもの等;並びに感染症を予防するための滅菌、殺虫及び同様の目的に使用される製剤のうちの1つを指す。また、ヒト又は動物の疾患を診断、治療、緩和、又は予防する目的で使用される器具、機械、又は装置以外の物品;並びにヒト又は動物の構造及び機能に薬理学的に影響を与える目的で使用される器具、機械、又は装置以外の物品を意味する。
【0075】
本発明において、医薬部外品は、特にフィルターコーティング剤、ハンドウォッシュ、消毒クリーナー、シャワーフォーム、ウェットティシュー、洗剤石鹸、加湿器フィラー、マスク、又はエアフレッシュナーとすることができるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0076】
本発明において、医薬部外品組成物は、気相フィルターに適用され、抗ウイルスフィルターとして使用され得る。
【0077】
本発明において、「気相フィルター」という用語は、微生物及び粉塵を空気から除去して、微生物及び粉塵等の危険物質又は汚染物質の外部からの流入を防ぎ、フィルターによる二次汚染を防ぐためのフィルターを指す。したがって、本発明による気相フィルターは、自動車用気相フィルター、家電用気相フィルター、エアコン用気相フィルター、ガスマスク用気相フィルター、空気清浄機用気相フィルター、又はクリーンルーム用気相フィルターとして使用することができ、空気清浄機用気相フィルターとして使用できることが好ましい。
【0078】
フィルター基板としては、金属、プラスチック、不織布、フィルム等を使用することができる。空気清浄機用気相フィルターとしては、気孔率の高い不織布が好ましく使用され得るが、必ずしもこれに限定されない。
【0079】
気相フィルターを製造するために、まず、本発明によるインフルエンザウイルス感染症を予防するための医薬部外品組成物を調製する。インフルエンザウイルス感染症を予防するための医薬部外品組成物は、気相フィルターを調製するための溶液の形態で使用される或る特定の溶媒に溶解又は希釈することが好ましい。溶媒としては、水、エタノール、メタノール、ブタノール、若しくはn-ヘキサン、n-ヘプタン、DMSO、又はそれらの混合溶媒を使用することができる。
【0080】
フィルター基板は、インフルエンザウイルス感染症を予防するために医薬部外品組成物でコーティングされる。コーティング方法として、スポンジ等の吸収性部材をその外側に有するローラーを組成物に浸漬し、次いでローラーをフィルター基板上で転がし、乾燥させて基板をコーティングすることによりフィルター基板をコーティングする方法、フィルター基板を組成物に直接浸し、それを乾燥させることによってフィルター基板をコーティングする方法、又は組成物をフィルター基板上に噴霧し、それを乾燥することによってフィルター基板をコーティングする方法を使用することができる。
【0081】
本発明の組成物に加えて、フィルターは、既存の抗菌物質、デオドラント(例えば、フラボノイド、フィトンチッド、木酢液(pyroligneous liquor)、植物抽出物、シクロデキストリン、金属イオン、二酸化チタン等)、又はダストコレクションフィルターを更に含むことができる。
【0082】
A型インフルエンザウイルス感染症疾患を予防又は治療する方法
本発明は、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は治療のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む医薬組成物を治療有効量、ヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、A型インフルエンザウイルス感染症疾患を予防又は治療する方法を提供する。
【0083】
本明細書において、「治療有効量」という用語は、A型インフルエンザウイルスによって引き起こされる感染性疾患を予防又は治療するのに有効な量、例えば、治療される被験体に投与される有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含むA型インフルエンザウイルス感染症疾患を予防又は治療するための医薬組成物の量である。治療有効量としては、A型インフルエンザウイルスによって引き起こされる感染性疾患の発生又は再発を予防する量、症状を緩和する量、直接的又は間接的な病理学的結果を抑制する量、転移を防ぐ量、進行速度を低下させる量、状態を緩和又は一時的に改善する量、並びに予後を好転する有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含むA型インフルエンザウイルス感染症疾患を予防又は治療するための医薬組成物の量が挙げられる。すなわち、治療有効量は、A型インフルエンザウイルスによって引き起こされる感染性疾患の症状を、有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含むA型インフルエンザウイルス感染症疾患を予防又は治療するための医薬組成物によって好転させる又は治癒する全ての量を含むと解釈され得る。
【0084】
A型インフルエンザウイルスによって引き起こされる感染性疾患を予防又は治療する方法は、有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含むA型インフルエンザウイルス感染症疾患を予防又は治療するための医薬組成物を投与することにより、症状の発症前に疾患自体を制御するだけでなく、症状を抑制又は回避することも含む。疾患の管理において、特定の有効成分の予防的又は治療的用量は、疾患の性質及び重症度、並びに有効成分が投与される経路に応じて変化し得る。用量及び投薬の頻度は、個々の患者の年齢、体重及び反応に応じて変化し得る。適切な投与計画は、これらの要因を考慮に入れて当業者によって容易に選択され得る。さらに、本発明の予防的又は治療的方法は、A型インフルエンザウイルスによって引き起こされる感染性疾患の予防又は治療に有用な治療有効量の追加の活性剤を、有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含むA型インフルエンザウイルス感染症疾患を予防又は治療するための医薬組成物と共に投与することを更に含むことができる。追加の活性剤は、有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含むA型インフルエンザウイルス感染症疾患を予防又は治療するための医薬組成物との相乗効果又は相加効果を示すことができる。
【0085】
ヒトを含む哺乳動物としては、ヒト、サル、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、及びラット等の哺乳動物が挙げられる。
【0086】
A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は治療のための医薬組成物の使用
本発明は、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の製剤の製造のための、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は治療のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む医薬組成物の使用を提供する。
【0087】
本発明は、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の治療のための、A型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は治療のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む医薬組成物の使用を提供する。
【0088】
A型インフルエンザウイルス感染症疾患用の製剤を製造するための本発明のA型インフルエンザウイルス感染症疾患の予防又は治療のための有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む医薬組成物を、許容可能な担体等と混合することができ、更に他のアゴニストを含むことができる。
【0089】
本発明の医薬組成物、食品組成物、医薬部外品組成物、予防方法又は治療方法、及び使用において言及されたものは、それらが互いに矛盾しない限り、等しく適用される。
【発明の効果】
【0090】
本発明において提供される有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む組成物は、A型インフルエンザウイルスに対して優れた抗ウイルス活性を示し、したがって、A型インフルエンザウイルス感染症によって引き起こされる疾患の予防又は治療のための作用物質の開発において非常に有利な用途を見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
図1】DLSデバイスを用いてアントシアニン-アルギン酸複合体粒子のサイズを測定した結果を示す一連のグラフである(ATC:アントシアニン、ATC/Alg複合体:アントシアニン-アルギン酸複合体)。
図2】分光光度計を用いて、アントシアニン-アルギン酸複合体粒子の形成を確認した結果を示す一連のグラフである(ATC:アントシアニン、ATC/Alg複合体:アントシアニン-アルギン酸複合体)。
図3】分光光度計を用いて、アントシアニン-アルギン酸複合体粒子の経時安定性を確認した結果を示す一連のグラフである(ATC:アントシアニン、ATC/Alg複合体:アントシアニン-アルギン酸複合体)。
図4】プラーク減少アッセイにより、A型インフルエンザウイルス(H1N1)に対するアントシアニン-アルギン酸複合体の阻害効果を確認した結果を示すグラフである。
図5】プラーク減少アッセイにより、B型インフルエンザウイルスに対するアントシアニン-アルギン酸複合体の阻害効果を確認した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0092】
これより、本発明を以下の実施例及び実験例によって詳細に説明する。
【0093】
しかしながら、以下の実施例及び実験例は、本発明の例示のためであるにすぎず、本発明の内容は実施例及び実験例に限定されるものではない。
【0094】
実施例1:アントシアニン-アニオン性多糖ナノ複合体の調製
アントシアニンは、アロニアの生果実を潰し、その果汁をポリフェノール吸着樹脂に吸着させ、エチルアルコール水溶液で溶出し、それを粉砕することにより得た。上記で調製したアントシアニン粉末20mgをリン酸緩衝液(pH3、PB3)5mlに40℃で溶解し、アルギン酸(アニオン性多糖)200mgを脱イオン水(D.I水)10mlに室温で溶解した。アントシアニン-アニオン性多糖ナノ複合体を、アントシアニン溶液をアルギン酸溶液(1:1、体積/体積)に加え、続いて室温で48時間撹拌することによって調製した。
【0095】
実施例2:アントシアニン-アニオン性多糖ナノ複合体の粒子径の測定
実施例1で調製されたアントシアニン-アルギン酸ナノ複合体の粒子径分布を、動的光散乱(DLS)測定装置であるZeta sizer Nano Zs(英国のMalvern Instruments Ltd)を使用して測定した。DLS測定装置を使用してアントシアニン-アルギン酸ナノ複合体の粒子径を測定した結果、複合体の粒子径は約360nmであった。アルギン酸(-50±1.66mV)がアントシアニン(2.3±1.01mV)と複合体を形成すると、アルギン酸の負電荷強度が低下し、複合体のゼータ電位は-26.4±1.17mVであった(図1)。
【0096】
実施例3:アントシアニン-アニオン性多糖ナノ複合体形成の確認
実施例1で調製した複合体1mlをUVキュベットに入れ、アントシアニンの最大吸光度波長帯を分光光度計で確認した。PB3/D.I水(1:1体積)に溶解したアントシアニン溶液も上記と同様の処理に供し、複合体の形成に伴う溶液の色及び最大吸光度波長帯の変化を確認した。
【0097】
その結果、アントシアニンのカチオン性とアルギン酸のアニオン性によって生成されるイオン結合によってアントシアニン-アルギン酸複合体が形成され、アントシアニンの最大吸光度がアントシアニン分子間のπ-π相互作用により長波長に移動し、そのため複合体を形成した試料はわずかに紫色であることが観察された。したがって、アントシアニン-アルギン酸複合体が形成されていることが確認された(図2)。
【0098】
実施例4:アントシアニン-アニオン性多糖ナノ複合体の経時的安定性の確認
アントシアニンの量を、分光光度計を使用して確認し、実施例1で調製した複合体の経時的安定性を確認した。40mlのアントシアニン-アルギン酸複合体を13000rpmで30分間遠心分離し、沈殿物をPBS(pH3又はpH7.4)に分散させた。さらに、アントシアニンをPBS(pH3又はpH7.4)に溶解して調製した。PBS(pH3又はpH7.4)に分散された複合体及びアントシアニンの吸光度を分光光度計でそれぞれ513nm又は520nmの各波長帯で測定し、アントシアニンの吸光度値の変化を観察した。
【0099】
その結果、アントシアニンは低pH環境(pH3)で安定であることが確認された。具体的には、低pH環境(pH3)で76時間後、複合体は18.7%多いアントシアニンを含み、より安定していた。pHが上昇するにつれて分解が起こるため、アントシアニンの最大吸光度はpH7.4で4時間以内に大幅に減少したのに対し、複合体の最大吸光度はわずかな減少を示した。4時間後、アントシアニン及び複合体が同様の速度で減少することが確認された。アントシアニンの最大吸光度をパーセンテージで表した結果、アントシアニンは、pH7.4で4時間以内に複合体よりも42.5%少ないアントシアニンを含むことがわかった。そのため、該複合体は、アントシアニンよりも安定性が高いことが確認された(図3)。
【0100】
実施例5:細胞内ウイルス感染症に対するアントシアニン-アニオン性多糖ナノ複合体の阻害効果の確認
実施例1で調製したアントシアニン-アルギン酸複合体の抗ウイルス効果を確認するために、インフルエンザウイルスに対してプラーク減少アッセイを実施した。まず、MDCK細胞の単層で満たされた12ウェル細胞培養皿を調製した。調製したアントシアニン-アルギン酸複合体をA型インフルエンザウイルス(A/カリフォルニア/07/2009、H1N1)と濃縮混合した後、それぞれ0.1mLを、MDCK細胞を含む12ウェル細胞培養皿に入れ、細胞にウイルスを1時間30分感染させた。比較群として、複合体を形成するアルギン酸及びアントシアニンも、同じ濃度で上記と同じ方法で実施した。1時間30分後、無血清DMEMを含む1.5mLの1%アガロースゲルを各ウェルに加えて硬化させた。細胞を37℃の5%COインキュベーターで72時間培養した後、細胞固定液(メタノール:酢酸=3:1)及びクリスタルバイオレット溶液を混合し(1:1)、それぞれ2mLを固体ゲル上に置き、24時間染色した。ウェル内のゲルを除去して洗浄した後、未染色部分であるプラークの数を数えた。同じ方法をB型インフルエンザウイルスで行った。陽性対照として、オセルタミビルを使用した。
【0101】
プラーク数の減少は、感染力のあるウイルス数の減少を意味する。
【0102】
図4に示すように、アントシアニンは1μg/ml以上の濃度からA型インフルエンザウイルスに対して有意な抗ウイルス効果を示し、アントシアニンの安定性を維持する物質であるアルギン酸は抗ウイルス効果を示さなかった。アントシアニン-アルギン酸複合体処理群の場合、各単回投与群においてほとんど効果を示さなかった濃度の組合せ(アルギン酸0.5μg/ml+アントシアニン0.1μg/ml)であってもA型インフルエンザウイルスが著しく抑制されることが確認された。以上の結果から、アントシアニン-アルギン酸複合体はA型インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果において相乗効果を示すことが確認された。特に、A型インフルエンザウイルスに対するアントシアニン-アルギン酸複合体の抗ウイルス効果は低濃度でも陽性対照として使用されるオセルタミビルよりも有意に優れていることが確認された。
【0103】
図5に示すように、アルギン酸はA型インフルエンザウイルスとは異なり、B型インフルエンザウイルスに対して或る特定濃度以上で抗ウイルス効果を示し、アントシアニンも1μg/ml以上の濃度で約50%の抗ウイルス効果を示した。アントシアニン-アルギン酸複合体処理群の場合、アルギン酸とアントシアニンとの組合せによる相乗効果は見られず、アントシアニン-アルギン酸複合体処理は、アントシアニン単独処理と同様の抗ウイルス効果しか示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明において提供される有効成分としてアントシアニン-アニオン性多糖複合体を含む組成物は、A型インフルエンザウイルスに対して優れた抗ウイルス活性を示し、したがって、A型インフルエンザウイルス感染症によって引き起こされる疾患の予防又は治療のための作用物質の開発において非常に有利な用途を見出すことができる。
図1
図2
図3
図4
図5