(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】ポリアリレート樹脂
(51)【国際特許分類】
C08G 63/19 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
C08G63/19
(21)【出願番号】P 2023104830
(22)【出願日】2023-06-27
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2023082273
(32)【優先日】2023-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】北川 千晶
(72)【発明者】
【氏名】上川 泰生
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-132380(JP,A)
【文献】特開2009-096937(JP,A)
【文献】特開昭59-206404(JP,A)
【文献】米国特許第04978739(US,A)
【文献】特開2017-145368(JP,A)
【文献】特開2010-083986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00-63/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸成分および二価フェノール成分をモノマー成分として含有し、
ギ酸塩の含有量が0.1~2.0ppmである、ポリアリレート樹脂。
【請求項2】
前記ポリアリレート樹脂が-1.0~0.5の色差a値を有する、請求項1に記載のポリアリレート樹脂。
【請求項3】
前記ポリアリレート樹脂が粉粒状の形状を有する、請求項1に記載のポリアリレート樹脂。
【請求項4】
前記ギ酸塩がギ酸ナトリウムである、請求項1に記載のポリアリレート樹脂。
【請求項5】
前記ポリアリレート樹脂を射出成形により成形した厚み3mmの成形品プレートが22以下のYI値を有する、請求項1記載のポリアリレート樹脂。
【請求項6】
芳香族ジカルボン酸成分および二価フェノール成分を重合させるポリアリレート樹脂の製造方法であって、
ギ酸塩の含有量0.4~1.5質量%の亜ジチオン酸塩を前記二価フェノール成分に対して0.05~4.0質量%で添加する、ポリアリレート樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記亜ジチオン酸塩がギ酸ソーダ法により製造された亜ジチオン酸ナトリウムである、請求項6に記載のポリアリレート樹脂の製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載のポリアリレート樹脂を製造する、請求項6に記載のポリアリレート樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリレート樹脂およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ジカルボン酸成分と二価フェノール成分とから成るポリアリレート樹脂は、非晶性であり、透明でかつ優れた耐熱性を有する樹脂として、様々な用途に展開されている。なかでも、テレフタル酸およびイソフタル酸の残基と、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)の残基からなる非晶性ポリアリレート樹脂は、数少ないスーパーエンジニアリングプラスチックの1つであり、透明で、耐熱性が高く、機械的強度や寸法安定性に優れることから、その成形体は電気・電子、自動車、機械などの分野に幅広く応用されている。
【0003】
しかし、ポリアリレート樹脂は、その優れた耐熱性のため、汎用ポリマーと比較して溶融成形加工温度は高温になることが多く、溶融時に熱劣化し、着色しやすい性質を有している。また、成形品を高温下で長時間使用すると黄変する傾向もある。そのため、自動車ランプのレンズや、車載用または携帯電話搭載用のカメラレンズなど、色調や透明性が要求されかつ経時での色調変化が望ましくない用途には使用が制限される場合があった。
【0004】
上記のような問題を解決するために、溶融成形時または溶融混錬時に染顔料や酸化防止剤などの改質剤を添加する方法が種々検討されている。
例えば、特許文献1では、ポリカーボネート樹脂に染顔料と含イオウカルボン酸エステル類を溶融混錬する方法が提案されている。
また例えば、特許文献2では、ポリアリレート樹脂にフェノール系化合物、リン系化合物、およびラクトン系化合物を溶融混錬する方法が提案されている。
しかし、これらの方法はあくまで溶融混錬時に添加する添加剤による改質であるため、使用する添加剤の種類数や使用量の削減などの観点からも、ポリアリレート樹脂そのものの色調や熱変色性を改善することが求められている。
【0005】
ポリアリレート樹脂そのものの色調や熱変色性を改善するには、原料からポリアリレート樹脂を製造する段階での工夫が必要である。ポリアリレート樹脂の重合方法としては、溶融重合法、溶液重合法、界面重合法が知られている。特に界面重合法は、高い耐熱性を有するポリマーであっても、室温に近い温度で高重合度まで反応が進行するため、得られる樹脂は色調に優れたものとなり、ポリアリレート樹脂の本来持つ特徴である透明性や耐熱性を十分に生かすために、好適である。
【0006】
また、特許文献3にあるように、界面重合法に限定されるわけではないが、ハイドロサルファイトナトリウムなどの還元剤を重合工程中に添加することは、モノマーである二価フェノール系化合物の変色、さらには得られるポリアリレート樹脂の着色を防止するために、効果的である。
【0007】
一方、特許文献4では、重合工程中に添加する還元剤として、ハイドロサルファイトナトリウムを使用することにより、色調および耐熱性に優れた芳香族ポリカーボネートを製造する技術が開示されている。
【0008】
また、特許文献5では、ポリカーボネートの製造に使用するハイドロサルファイトナトリウム中に含まれるギ酸ナトリウムを0.3重量%以下とすることにより、色相に優れたポリカーボネートを製造する技術が開示されている。特に特許文献5には、ポリカーボネートの製造に使用するハイドロサルファイトナトリウム中に含まれるギ酸ナトリウムが0.3重量%より多いと、加熱時の樹脂の色相の悪化を引き起こすことが提唱されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平4-120164号公報
【文献】特開2002-265766号公報
【文献】特公平1-18939号公報
【文献】特開平7-233253号公報
【文献】特許第5544681号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の技術では、以下の問題が生じることがあった。
・十分に色調に優れたポリアリレート樹脂を得ることができない。
・ポリアリレート樹脂を用いて成形するとき、溶融成形時の熱劣化による着色を十分に抑制できない。
【0011】
本発明は、溶融成形時の熱劣化による着色をより十分に抑制できる、色調により十分に優れたポリアリレート樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、本課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリアリレート樹脂がギ酸塩を適量で含有することにより、ポリアリレート樹脂の色調がより十分に優れ、溶融成形時の熱劣化による着色をより十分に抑制できることを見出した。
【0013】
本発明の要旨は、以下の通りである。
<1> 芳香族ジカルボン酸成分および二価フェノール成分をモノマー成分として含有し、
ギ酸塩の含有量が0.1~2.0ppmである、ポリアリレート樹脂。
<2> 前記ポリアリレート樹脂が-1.0~0.5の色差a値を有する、<1>に記載のポリアリレート樹脂。
<3> 前記ポリアリレート樹脂が粉粒状の形状を有する、<1>または<2>に記載のポリアリレート樹脂。
<4> 前記ギ酸塩がギ酸ナトリウムである、<1>~<3>のいずれかに記載のポリアリレート樹脂。
<5> 前記ポリアリレート樹脂を射出成形により成形した厚み3mmの成形品プレートが22以下のYI値を有する、<1>~<4>のいずれかに記載のポリアリレート樹脂。
<6> 芳香族ジカルボン酸成分および二価フェノール成分を重合させるポリアリレート樹脂の製造方法であって、
ギ酸塩の含有量0.4~1.5質量%の亜ジチオン酸塩を前記二価フェノール成分に対して0.05~4.0質量%で添加する、ポリアリレート樹脂の製造方法。
<7> 前記亜ジチオン酸塩がギ酸ソーダ法により製造された亜ジチオン酸ナトリウム(別名:ハイドロサルファイトナトリウム)である、<6>に記載のポリアリレート樹脂の製造方法。
<8> <1>~<5>のいずれかに記載のポリアリレート樹脂を製造する、<6>または<7>に記載のポリアリレート樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリアリレート樹脂は、ポリアリレート樹脂自体の色調がより十分に良好であり、かつ溶融成形時の熱劣化による着色をより十分に抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のポリアリレート樹脂は、芳香族ジカルボン酸成分(その機能誘導体含む)および二価フェノール成分とから得られる芳香族系ポリエステル樹脂であり、これらの成分をモノマー成分として含有する。従って、本発明のポリアリレート樹脂は、芳香族ジカルボン酸成分および二価フェノール成分の残基を含有する、と表現することもできる。本発明のポリアリレート樹脂の構造は、特に限定されず、本発明はいかなる構造のポリアリレート樹脂にも適用可能である。機能誘導体は、芳香族ジカルボン酸のカルボキシ基を、より反応性の高い置換基に置き換えた有機化合物を意味し、例えば、後述の酸ハライド基を有する酸ハライド化物を含む。
【0016】
ポリアリレート樹脂を構成する芳香族ジカルボン酸残基を導入するための芳香族ジカルボン酸成分は、芳香族環および1分子あたり2つのカルボキシル基を含有する有機化合物である。カルボキシル基は酸ハライド基であってもよい。酸ハライド基は、カルボキシル基の水酸基がハロゲン原子で置換された基のことである。このような芳香族ジカルボン酸成分の具体例として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、クロルフタル酸、ニトロフタル酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、メチルテレフタル酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2-ビス(4-カルボキシフェノキシ)エタン、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ジフェン酸ならびにそれらの誘導体(例えば、酸ハライド化物)などが挙げられる。これらの芳香族ジカルボン酸は、1種類で用いることもできるし、2種類以上で併用することもできる。これらの中では、ポリアリレート樹脂は、色調と耐変色性のさらなる向上の観点から、テレフタル酸およびイソフタル酸の少なくとも一方、好ましくは両方を含有することが好ましい。
【0017】
本明細書中、色調は、ポリアリレート樹脂自体の色調であって、測色色差計による色差a値がより小さい特性のことである。
耐変色性は、ポリアリレート樹脂の溶融成形時の熱劣化による着色をより十分に抑制する特性であって、得られた成形品の色調測定装置によるイエローインデックス(YI)値がより小さい特性のことである。
【0018】
ポリアリレート樹脂におけるテレフタル酸およびイソフタル酸の合計含有量は特に限定されず、色調と耐変色性のさらなる向上の観点から、芳香族ジカルボン酸成分全量に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、十分に好ましくは100質量%である。テレフタル酸およびイソフタル酸の合計含有量はテレフタル酸とイソフタル酸の残基の合計含有量であってもよい。
【0019】
ポリアリレート樹脂が芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸およびイソフタル酸を含有する場合、これらの含有割合は特に限定されず、色調と耐変色性のさらなる向上の観点から、テレフタル酸/イソフタル酸の質量比率で、好ましくは0/100~100/0であり、より好ましくは20/80~80/20であり、さらに好ましくは40/60~60/40であり、特に好ましくは45/55~55/45であり、十分に好ましくは50/50である。テレフタル酸およびイソフタル酸の含有割合はテレフタル酸およびイソフタル酸の残基の含有割合であってもよい。
【0020】
ポリアリレート樹脂を構成する二価フェノール残基を導入するための二価フェノール成分は、フェノール性水酸基を1分子あたり2つ含有する有機化合物である。フェノール性水酸基は、芳香族環に直接的に結合する水酸基のことである。このような二価フェノール成分の具体例として、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(ビスフェノールAP)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル〔4,4’-ビフェノール〕、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)、4,4’-(1,3-ジメチルブチリデン)ジフェノール、レゾルシノール等を挙げることができる。これらの化合物は単独で使用してもよいし、あるいは2種類以上混合して使用してもよい。ポリアリレート樹脂は、色調と耐変色性のさらなる向上の観点から、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールZ、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビスフェノールTMCからなる群から選択される1種類以上の二価フェノール成分を含有することが好ましく、ビスフェノールAを含有することがより好ましい。
【0021】
ポリアリレート樹脂におけるビスフェノールAの含有量は特に限定されず、色調と耐変色性のさらなる向上の観点から、二価フェノール成分全量に対して、好ましくは0~100質量%、より好ましくは40~100質量%、さらに好ましくは60~100質量%、特に好ましくは80~100質量%、十分に好ましくは100質量%である。ビスフェノールAの含有量はビスフェノールAの残基の含有量であってもよい。
【0022】
ポリアリレート樹脂は、本発明の特性や効果を損なわない範囲で、二価フェノール成分の一部をエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、1,4-ジヒドロキシメチルシクロヘキサン等からなる群から選択される少なくとも1種類の二価アルコール成分で置き換えて含有してもよい。
【0023】
ポリアリレート樹脂における上記二価アルコール成分の含有量は特に限定されず、例えば、二価フェノール成分全量に対して、50質量%以下であってもよく、色調と耐変色性のさらなる向上の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下、十分に好ましくは0質量%である。二価アルコール成分の含有量は二価アルコール成分の残基の含有量であってもよい。
【0024】
ポリアリレート樹脂は、本発明の特性や効果を損なわない範囲で、3官能以上の多価モノマー成分をさらに含有してもよい。ポリアリレート樹脂が3官能以上の多価モノマー成分を含有する場合、ポリアリレート樹脂には分岐構造が導入される。3官能以上の多価モノマー成分としては、例えば、1,3,5-ベンゼンカルボン酸等のトリカルボン酸成分;4,4’,4’’-トリヒドロキシトリフェニルメタン等のトリオール成分等が挙げられる。
【0025】
ポリアリレート樹脂における多価モノマー成分の含有量は特に限定されず、例えば、二価フェノール成分および芳香族ジカルボン酸成分の合計量に対して、20質量%以下であってもよく、色調と耐変色性のさらなる向上の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下、十分に好ましくは0質量%である。多価モノマー成分の含有量は多価モノマー成分の残基の含有量であってもよい。
【0026】
ポリアリレート樹脂は末端封止剤を含有し、分子量が調節されていてもよい。末端封止剤として、フェノール、クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、2,3,5-トリメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、クミルフェノールなどの一価のフェノール類;安息香酸クロライド、メタンスルホニルクロライド、フェニルクロロホルメートなどの一価の酸クロライド類;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ドデシルアルコール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコールなどの一価のアルコール類;酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、フェニル酢酸、p-tert-ブチル安息香酸、p-メトキシフェニル酢酸などの一価のカルボン酸などからなる群から選択される1種類以上の化合物が挙げられる。末端封止剤は、色調と耐変色性のさらなる向上の観点から、一価フェノール類(特にp-tert-ブチルフェノール)が好ましい。
【0027】
ポリアリレート樹脂における末端封止剤の含有量は特に限定されず、色調と耐変色性のさらなる向上の観点から、二価フェノール成分100質量部に対して、好ましくは0.2~20質量部、より好ましくは0.6~10質量部、さらに好ましくは1.2~6質量部、特に好ましくは2~5質量部である。末端封止剤の含有量は末端封止剤の残基の含有量であってもよい。
【0028】
本発明のポリアリレート樹脂はギ酸塩を0.1~2.0ppmで含み、色調と耐変色性のさらなる向上の観点から、ギ酸塩の含有量は好ましくは0.1~1.5ppm、より好ましくは0.1~0.8ppm、さらに好ましくは0.1~0.5ppm、特に好ましくは0.2~0.4ppmである。本発明においては、ポリアリレート樹脂がギ酸塩を上記のような適量で含有することにより、ポリアリレート樹脂自体の色調が十分に優れるだけでなく、当該ポリアリレート樹脂を含む成形品の耐変色性も十分に優れる。ギ酸塩の含有量が2ppmを超える場合、溶融成形時の熱劣化が促進され、樹脂成形品の黄変が顕著となる。一方、ポリアリレート樹脂のギ酸塩の含有量が0.1ppmを下回ると、粉粒体の色差a値は大変低い値となるが、溶融成形時の熱変色に対する抑制効果が不十分となり、樹脂成形品の黄変が顕著となる。
【0029】
ギ酸塩はギ酸のアルカリ金属塩であってよく、例えば、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム等が挙げられる。ギ酸塩は、色調と耐変色性のさらなる向上の観点から、ギ酸ナトリウムであることが好ましく、上記含有量はギ酸ナトリウムの含有量であることが好ましい。
【0030】
ギ酸塩の含有量は、ポリアリレート樹脂0.5gから超純水50mLにてギ酸塩を抽出し、イオンクロマトグラフィー(IC)にて定量分析することにより測定された値を用いている。
【0031】
本発明のポリアリレート樹脂に含有されるギ酸塩は、当該ポリアリレート樹脂の製造時に使用された還元剤(例えば亜ジチオン酸塩(特にハイドロサルファイトナトリウム))に含有されていたギ酸塩の残留物であってもよいし、またはポリアリレート樹脂の製造後、新たに添加された添加物であってもよい。
【0032】
ギ酸塩の含有量は以下の方法により制御することができる;
・ポリアリレート樹脂を、当該ポリアリレート樹脂を溶解可能な有機溶剤により溶解および洗浄する。これにより、ギ酸塩の含有量を低減することができる。ポリアリレート樹脂を構成するモノマー成分によって溶解可能な有機溶剤はさまざまあるが、例えば、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、ジブロモメタン、トリブロモメタン、ブロモエタン、1,1-ジブロモエタン、1-ブロモプロパンなどの脂肪族塩素系溶媒、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼンなどの芳香族塩素系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド系溶媒、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒や、それらの混合物等が挙げられる。
・ポリアリレート樹脂の製造に際し、還元剤としての亜ジチオン酸塩(特にハイドロサルファイトナトリウム)に含まれるギ酸塩の含有量を調整する。例えば、亜ジチオン酸塩(特にハイドロサルファイトナトリウム)のギ酸塩含有量を低減すると、ポリアリレート樹脂のギ酸塩含有量を低減することができる。また例えば、亜ジチオン酸塩(特にハイドロサルファイトナトリウム)のギ酸塩含有量を増加させると、ポリアリレート樹脂のギ酸塩の含有量を増加させることができる。
・ポリアリレート樹脂の製造に際し、還元剤としての亜ジチオン酸塩(特にハイドロサルファイトナトリウム)の使用量を調整する。例えば、亜ジチオン酸塩(特にハイドロサルファイトナトリウム)の使用量を低減すると、ポリアリレート樹脂のギ酸塩含有量を低減することができる。また例えば、亜ジチオン酸塩(特にハイドロサルファイトナトリウム)の使用量を増加させると、ポリアリレート樹脂のギ酸塩含有量を増加させることができる。
・ポリアリレート樹脂の製造に際し、純水による洗浄工程を強化する(例えば、洗浄時間の延長など)ことで、ポリアリレート樹脂のギ酸塩含有量を低減することができる。
上記した方法のうち、1つ以上を採用するか、または2つ以上複合的に採用することにより、ポリアリレート樹脂のギ酸塩の含有量を制御することができる。
【0033】
本発明のポリアリレート樹脂の色差a値は通常、-1.0~0.5であり、色調と耐変色性のさらなる向上の観点から、好ましくは-1.0~0.2、より好ましくは-1.0~-0.1、さらに好ましくは-1.0~-0.4、特に好ましくは-0.8~-0.45である。
【0034】
色差a値は、ポリアリレート樹脂を測定容器に間隙がないように詰め、測色色差計(例えば、日本電色工業(株)製の測色色差計(ZE6000))により反射モードにて測定することにより得られた値を用いている。測定に用いられるポリアリレート樹脂は粒子形状を有しており、当該粒子の粒子径は0.7~5.0mmである(一部、微粉を含む場合がある)。
【0035】
本発明のポリアリレート樹脂を射出成形して得られた厚さ3mmのプレートのYI値は通常、22以下であり、色調と耐変色性のさらなる向上の観点から、好ましくは19.5以下、より好ましくは14以下、さらに好ましくは10以下、特に好ましくは9以下である。当該YI値の下限値は特に限定されず、YI値は通常、1以上、特に4以上である。
【0036】
YI値は、ポリアリレート樹脂を、一般的な射出成形機(例えば、JSW社製J110AD射出成形機)により、樹脂温度360℃で射出成形して得られた厚さ3mmのプレートを、色調測定装置(例えば、日本電色工業(株)製SZ-Σ90型測色器)に供して測定された値を用いている。成形に用いられるポリアリレート樹脂は粒子形状を有しており、当該粒子の粒子径は0.7~5.0mmである(一部、微粉を含む場合がある)。
【0037】
本発明のポリアリレート樹脂は通常、機械的物性ならびに溶融成形時および溶融混錬時の作業性の観点から、インヘレント粘度が、0.40~1.30dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.45~1.10dl/g、さらに好ましくは0.45~0.90dl/g、特に好ましくは0.50~0.80dl/g、十分に好ましくは0.50~0.60dl/gである。
【0038】
インヘレント粘度(ηinh)は分子量の指標であり、以下の方法により測定された値を用いている。1,1,2,2-テトラクロロエタンを溶媒に用いて、濃度1g/dlとなるように、ポリアリレート樹脂の樹脂溶液を調製し、温度25℃の条件で相対粘度(ηrel)を測定する。得られた相対粘度より下記式にてインヘレント粘度を算出する。
ηinh(dl/g) = Ln(ηrel)/c (c:濃度)
【0039】
ポリアリレート樹脂の重合方法は、得られるポリアリレート樹脂が上記した特性値を有する限り、特に限定されず、公知の方法であってよく、例えば、以下の方法が挙げられる;
・芳香族ジカルボン酸成分を含む二価のカルボン酸ハライドと、二価フェノール成分を含むジオールを有機溶剤中で反応させる溶液重合法;
・上記二価のカルボン酸とジオールを無水酢酸やジアリルカーボネートの存在下で加熱する溶融重合法;および
・水と相溶しない有機溶剤に溶解せしめた二価のカルボン酸ハライドとアルカリ水溶液に溶解せしめたジオールとを混合する界面重合法。
【0040】
本発明に用いるポリアリレート樹脂の重合方法は、色調と耐変色性のさらなる向上の観点から、比較的低温で高重合度まで反応が進行することから、界面重合法が好適である。
【0041】
界面重合法を適用する場合、使用する有機溶剤は、水と相溶せず、使用する二価のカルボン酸ハライドおよび生成するポリアリレート樹脂が可溶であれば特に限定されるものではない。そのような有機溶剤としては、例えばジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、1,1,1-トリクロロエタン、テトラクロロエタンなどの脂肪族塩素系溶媒;クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼンなどの芳香族塩素系溶媒;それらの混合物が適している。生成したポリアリレート樹脂の単離・乾燥工程においては、沸点が高すぎる有機溶剤は避けた方がよい。有機溶剤としては、中でも、脂肪族塩素系溶媒(特にジクロロメタン)が好ましい。
【0042】
界面重合法においては、還元剤として、ギ酸ソーダ法で製造された亜ジチオン酸塩を使用することが好ましい。前記したポリアリレート樹脂におけるギ酸塩含有量を容易に達成し、結果として、色調および耐変色性に優れた本発明のポリアリレート樹脂を容易に製造できるためである。
【0043】
亜ジチオン酸塩は、亜ジチオン酸のアルカリ金属塩であってよく、例えば、亜ジチオン酸ナトリウム(別名:ハイドロサルファイトナトリウム)、亜ジチオン酸カリウム等が挙げられる。亜ジチオン酸塩は、色調と耐変色性のさらなる向上の観点から、ハイドロサルファイトナトリウムであることが好ましい。
【0044】
亜ジチオン酸塩は、色調と耐変色性のさらなる向上の観点から、ギ酸ソーダ法で製造されたハイドロサルファイトナトリウムが好適である。ギ酸ソーダ法以外の方法(例えば、電解法)で製造された亜ジチオン酸塩は、それ自身にギ酸塩を含有しない。
【0045】
ギ酸ソーダ法とは、ギ酸ナトリウムを用いてハイドロサルファイトナトリウムを製造する方法である。詳しくは、含水アルコール(例えば含水メタノール)中にギ酸ナトリウムを溶解し、水酸化ナトリウムと無水亜硫酸とを添加し、反応させる方法である。
【0046】
亜ジチオン酸塩に含まれるギ酸塩の含有量(特に、ギ酸ソーダ法で製造されたハイドロサルファイトナトリウムに含まれるギ酸ナトリウムの含有量)は、色調および耐変色性のさらなる向上の観点から、0.4~1.5質量%が好ましく、0.4~1.0質量%がより好ましく、0.5~1.0質量%がさらに好ましく、0.5~0.8質量%が特に好ましい。当該ギ酸塩(特に、ギ酸ナトリウム)の含有量が少なすぎても、または多すぎても、得られるポリアリレート樹脂が本発明のポリアリレート樹脂のギ酸塩含有量を達成することが困難となり、溶融成形時の熱劣化による着色を十分に抑制できない。当該ギ酸塩(特に、ギ酸ナトリウム)の含有量は、亜ジチオン酸塩全量(特にハイドロサルファイトナトリウム全量)に対する割合である。亜ジチオン酸塩全量とは、亜ジチオン酸塩および当該亜ジチオン酸塩に含まれるギ酸塩の合計量のことであり、特に亜ジチオン酸塩に副生成物および分解生成物が含まれる場合、当該副生成物および分解生成物も含む合計量のことである。ハイドロサルファイトナトリウム全量とは、ハイドロサルファイトナトリウムおよび当該ハイドロサルファイトナトリウムに含まれるギ酸ナトリウムの合計量のことであり、特にハイドロサルファイトナトリウムに副生成物および分解生成物が含まれる場合、当該副生成物および分解生成物も含む合計量のことである。
【0047】
亜ジチオン酸塩に含まれるギ酸塩の定量方法(特に、ギ酸ソーダ法で製造されたハイドロサルファイトナトリウムに含まれるギ酸塩の定量方法)には、「食品添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号) 第2 添加物(平成29年11月30日現在)」に定められた方法や、イオンクロマトグラフィーによる有機酸の検出方法などが挙げられる。本発明では、イオンクロマトグラフィーによる有機酸の検出方法を採用する。
【0048】
亜ジチオン酸塩(特に、ハイドロサルファイトナトリウム)に含まれるギ酸塩の含有量は、例えば、亜ジチオン酸塩(特に、得られたハイドロサルファイトナトリウム)をメタノール水溶液で洗浄精製することで制御することができる。詳しくは、メタノール水溶液での洗浄回数およびメタノール水溶液のメタノール濃度を調整することにより、ギ酸塩(特に、ギ酸ナトリウム)の含有量を制御することができる。
例えば、洗浄回数を多くするほど、ギ酸塩(特に、ギ酸ナトリウム)の含有量は少なくなる。他方、洗浄回数を少なくするほど、ギ酸塩(特に、ギ酸ナトリウム)の含有量は多くなる。
また例えば、メタノール水溶液のメタノール濃度を高くするほど、ギ酸塩(特に、ギ酸ナトリウム)の含有量は少なくなる。他方、メタノール水溶液のメタノール濃度を低くするほど、ギ酸塩(特に、ギ酸ナトリウム)の含有量は多くなる。
【0049】
還元剤(例えば、亜ジチオン酸塩(特にギ酸ソーダ法で製造されたハイドロサルファイトナトリウム))の添加量は、色調および耐変色性のさらなる向上の観点から、使用する二価フェノール成分の質量に対して、0.05~4.0質量%が好ましく、0.1~2.0質量%がより好ましく、0.2~1.5質量%がさらに好ましく、0.2~1.1質量%であることが十分に好ましく、0.3~0.8質量%であることがより十分に好ましい。還元剤の添加量が少なすぎても、または多すぎても、本発明のポリアリレート樹脂のギ酸塩含有量を達成することが困難となる。例えば、当該添加量が0.05質量%未満では、二価フェノール成分に対する着色防止の効果が不十分であり、溶融成形時の熱劣化による着色を十分に抑制できない。一方で、当該添加量を4.0質量%超に増量すると、本発明のポリアリレート樹脂のギ酸塩含有量が多すぎて、溶融成形時の熱劣化による着色を十分に抑制できない。
【0050】
界面重合法において重合触媒が使用されてもよい。界面重合法の重合触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリ-イソプロピルアミン、トリヘキシルアミン、トリデシルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、ピリジン、キノリン、ジメチルアニリン等の第3級アミン類;トリメチルベンジルアンモニウムハライド、トリエチルベンジルアンモニウムハライド、トリ-n-プロピルベンジルアンモニウムハライド、トリ-n-ブチルベンジルアンモニウムハライド等の第4級アンモニウム塩類;トリメチルベンジルホスホニウムハライド、テトラメチルベンジルホスホニウムハライド、トリエチルベンジルホスホニウムハライド、トリ-n-ブチルベンジルホスホニウムハライド、テトラ-n-ブチルホスホニウムハライド、トリフェニルベンジルホスホニウムハライド、テトラフェニルホスホニウムハライド等の第4級ホスホニウム塩類;18-クラウン-6、18-ベンゾクラウン-6、18-ジベンゾクラウン-6、15-クラウン-5等のクラウンエーテル類が挙げられる。特に重合速度と価格の面から第4級アンモニウム塩類(特にトリメチルベンジルアンモニウムハライド、トリ-n-ブチルベンジルアンモニウムハライド)が好ましい。
【0051】
重合触媒の使用量は特に限定されず、色調と耐変色性のさらなる向上の観点から、二価フェノール成分に対して、好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.1~3質量%、さらに好ましくは0.1~1.5質量%である。
【0052】
本発明のポリアリレート樹脂を界面重合法により製造するに際し、以下の方法を採用することが好ましい。
二価フェノール成分、末端封止剤、還元剤、および重合触媒をアルカリ性水溶液に溶解して水層を得る。これとは別に有機溶剤に芳香族ジカルボン酸成分を溶解し有機層を得る。非相溶の2液(前記した水層および有機層)を強撹拌下で混合し、水層中の二価フェノール成分および末端封止剤成分の層間移動により、高重合度に達するまで重合反応を行う。反応終了後、撹拌を停止し、生成したポリアリレート樹脂が溶解した状態の有機層と、副生成物である塩や未反応モノマーなどが溶解した水層に分離したのち、有機層を、酢酸やリン酸などの無機酸で中和する。
【0053】
中和後の有機層には、未反応モノマーやポリアリレート樹脂の低分子量体、副生成物の塩やその他の不純物が含まれており、それらを除去するために、静置分離法や遠心分離法などの手段を利用し、有機層を純水で十分に洗浄する。静置分離法も遠心分離法も、有機層中に含まれる各種不純物の純水への抽出を利用しており、適宜どちらの方法を用いてもよい。純水による洗浄により、ポリアリレート樹脂におけるギ酸塩の含有量を低減することができる。また当該純水による洗浄の回数や洗浄時間を増やすことにより、ギ酸塩の含有量をさらに低減することができる。
【0054】
十分に洗浄されたポリアリレート樹脂が溶解した有機層からポリアリレート樹脂を造粒する工程には、温水中で有機溶剤を留去する温水造粒法、ニーダー等で加熱して有機溶剤を蒸発させて残留ポリマーを粉砕するニーダー法、スプレーにより有機溶剤を噴霧させて有機溶剤を瞬間的に蒸発させるスプレードライ法や、ポリアリレート樹脂に対する貧溶媒中に有機溶剤溶液を投入してポリマー分を析出、沈殿させる再沈殿法などがある。適宜どの方法を採用しても良いが、本発明では得られる粒子の性状や装置の簡便さなどから、温水造粒法にて実施することが好ましい。
【0055】
有機溶剤にジクロロメタンを使用した場合、温水造粒では、攪拌機付き温水ジャケットタンクに50℃の温水を入れ、撹拌し、さらにタンクの底部から温水を抜き出して湿式粉砕機に導入して再度同じタンクに戻す循環を行いながら、ポリアリレート樹脂が溶解した有機溶剤溶液を供給し、タンク内の液温度を50℃に保ちながら、有機溶剤を留去してポリアリレート樹脂を造粒し、循環ラインの湿式粉砕機で大きな粒子が発生しないように注意しながらポリアリレート/温水スラリーを得、このスラリーをフィルターを通して抜き出して、ポリアリレート樹脂粉粒体のみを得る。
【0056】
造粒されたポリアリレート樹脂粉粒体は、生産量等に応じて適切な乾燥機を使用して、適切な方法で乾燥する。この時、乾燥温度が140℃超では、気化するジクロロメタンが熱分解を起こし、塩化水素が発生することで乾燥機内壁が激しく腐食するため、140℃以下(特に120~135℃)での運転が望ましい。乾燥温度を120~135℃とすることにより、ポリアリレート樹脂のギ酸塩含有量を前記した範囲としつつ、水分およびジクロロメタン分を十分に取り除くことができる。
【0057】
本発明のポリアリレート樹脂が粉粒状の形状(または粉粒体の形態)を有する場合、当該粒子の粒子径は0.7~5.0mmである(一部、微粉を含む場合がある)。さらに、本発明のポリアリレート樹脂には、2個以上の粒子同士が圧着したものが一部含まれていてもよい。
【0058】
ポリアリレート樹脂の粒子径は、ポリアリレート樹脂の任意の50個の粒子をキーエンス社製マイクロスコープ(VHX-6000)により測定して得られた値を用いている。
【0059】
本発明のポリアリレート樹脂は、さまざまな熱可塑性樹脂や各種添加剤と溶融混錬することで、特徴的な性能が付与されたポリアリレート樹脂組成物となり得る。混錬方法としては、一般的な押出機、例えば一軸押出機、二軸押出機、ロール混練機、ブラベンダー等を用いた方法があるが、なかでも二軸押出機を使用する方法が、複数の原料の混練状態を良好とするため、好ましい。また、スタティックミキサーやダイナミックミキサーを併用することも好ましい。原料は、ぞれぞれ、ホッパーから、または、サイドフィーダーから添加してもよい。溶融混錬し、得られた樹脂組成物は、ペレットの形態とすることが好ましい。ポリアリレート樹脂組成物は、本発明のポリアリレート樹脂を含み、熱可塑性樹脂および添加剤から選択される少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。例えば、ポリアリレート樹脂組成物は、ポリアリレート樹脂、熱可塑性樹脂および添加剤のみを含んでいてもよい。このとき、ポリアリレート樹脂組成物は熱可塑性樹脂および添加剤をそれぞれ独立して、含んでいてもよいし、または含んでいなくてもよい。
【0060】
熱可塑性樹脂として、例えば、ナイロン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスチレン樹脂等が挙げられる。ポリエステル樹脂は本発明のポリアリレート樹脂以外のポリエステルのことである。
【0061】
ポリアリレート樹脂組成物における熱可塑性樹脂の含有量は特に限定されず、例えば、ポリアリレート樹脂に対して、100質量%以下、特に50質量%以下であってもよく、色調および耐変色性のさらなる向上の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。熱可塑性樹脂の含有量の下限値は特に限定されず、熱可塑性樹脂の含有量は0質量%であってもよい。
【0062】
添加剤としては、従来から、ポリアリレート樹脂に添加されてよい添加剤が使用可能であり、例えば、酸化防止剤、滑剤、染顔料、流動性改良剤、難燃剤、フィラー等が挙げられる。
酸化防止剤として、例えば、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、チオエーテル系、燐系等の各種酸化防止剤が挙げられる。
滑剤として、例えば、ステアリン酸塩に代表される脂肪酸塩等が挙げられる。
染顔料として、例えば、金属錯体染料、アンスラキノン系染料、ペリノン系染料や、カーボンブラックや無機金属系の無機顔料、アゾ顔料や多環顔料に代表される有機化合物を成分とする有機顔料等が挙げられる。
流動性改良剤として、例えば、脂肪酸塩のような無機系化合物や、フッ素系、アミド系化合物を含む有機系化合物等が挙げられる。
難燃剤として、例えば、ハロゲン系、リン系、窒素系、水和金属系の各種難燃剤等が挙げられる。
フィラーとして、例えば、ガラス、マイカ、タルク、シリカなどの無機フィラー等が挙げられる。
【0063】
ポリアリレート樹脂組成物における添加剤の含有量は特に限定されず、例えば、ポリアリレート樹脂に対して、50質量%以下、特に30質量%以下であってもよく、色調および耐変色性のさらなる向上の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下であり、特に好ましくは0.8質量%以下であり、十分に好ましくは0.4質量%以下であり、より十分に好ましくは0質量%である。2種以上の添加剤が含まれる場合、それらの合計含有量が上記範囲内であればよい。添加剤の含有量の下限値は特に限定されず、添加剤の含有量は0質量%であってもよい。
【0064】
特にポリアリレート樹脂組成物における酸化防止剤の含有量は特に限定されないが、本発明のポリアリレート樹脂組成物は、酸化防止剤を含まなくても、色調および耐変色性に十分に優れる。このため、ポリアリレート樹脂組成物における酸化防止剤の含有量は、ポリアリレート樹脂に対して、20質量%以下、特に10質量%以下であってもよく、色調および耐変色性のさらなる向上の観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.4質量%以下であり、特に好ましくは0.2質量%以下であり、十分に好ましくは0質量%である。2種以上の酸化防止剤が含まれる場合、それらの合計含有量が上記範囲内であればよい。
【実施例】
【0065】
本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で種々の変形および応用が可能である。
【0066】
<ハイドロサルファイトナトリウム中のギ酸塩の定量方法>
(1)ハイドロサルファイトナトリウム中のギ酸ナトリウムの定量方法
ハイドロサルファイトナトリウム約0.1gをPP製容器に入れて秤量し、超純水20mLを加えて室温で一晩静置し溶解させた。その後、溶液を超純水で100倍希釈し、その希釈液を0.2μmのメンブランフィルターでろ過してイオンクロマトグラフィー(IC)による定量分析を行った。定量には、検量線法(多点検量線)を用いた。
【0067】
<ポリアリレート樹脂粉粒体の評価方法>
(1)ポリアリレート樹脂粉粒体中の残留ギ酸ナトリウムの定量方法
凍結粉砕したポリアリレート樹脂粉粒体約0.5gをPP(ポリプロピレン)製容器に入れて秤量した。凍結粉砕したポリアリレート樹脂の形状は、その粒子径が0.3~1.5mmの粒子からなり、0.3mm以下の微粉を含む。なお、粒子径は、任意の50個の粒子をキーエンス社製マイクロスコープ(VHX―6000)により測定して得られたものである。次に超純水50mLを加えて、120℃に設定した乾燥機で1時間加温抽出を行った。その後、0.2μmのメンブランフィルターでろ過し、イオンクロマトグラフィー(IC)による定量分析を行った。定量には、検量線法(一点検量線)を用い、以下の式1よりギ酸イオン量を算出し、式2でギ酸ナトリウム量に換算した。
【0068】
【0069】
A=校正用標準試料(ギ酸)濃度
B=分析対象試料のICピーク面積
C=BlankのICピーク面積
D=希釈倍率
E=校正用標準試料のICピーク面積
F=分析対象試料重量
【0070】
【0071】
G=ギ酸イオン量
H=ギ酸ナトリウム式量(68.01)
I=ギ酸イオン式量(45.02)
【0072】
(2)ポリアリレート樹脂粉粒体の色差a値
日本電色工業(株)製の測色色差計(ZE6000)を使用した。ポリアリレート樹脂粉粒体を、測定容器に間隙がないように詰め、試料台受けにセットし、反射モードにて測定を行った。当該粒子の粒子径は0.7~5.0mmである(一部、微粉を含む場合がある)。
【0073】
(3)ポリアリレート樹脂粉粒体の射出成形体のイエローインデックスYI値
得られたポリアリレート樹脂粉粒体を一般的な射出成形機(例えば、JSW社製J110AD射出成形機)を用いて、樹脂温度360℃で、厚さ3mmの見本板(プレート)を成形し、色調測定装置(日本電色工業(株)製SZ-Σ90型測色器)により測定した。以下の基準に従って評価した。
◎◎:10以下(優秀);
◎:10超、14以下(優良);
○:14超、19.5以下(良);
△:19.5超、22以下(合格:実用上問題なし);
×:22超(不合格:実用上問題あり)。
【0074】
<ハイドロサルファイトナトリウム>
ハイドロサルファイトナトリウムを以下の方法により製造した。
【0075】
・ハイドロサルファイトナトリウムA(製法:ギ酸ソーダ法)(ギ酸Na含有量0.7質量%)およびハイドロサルファイトナトリウムB(製法:ギ酸ソーダ法)(ギ酸Na含有量0.9質量%)。
ギ酸ソーダ法により、ハイドロサルファイトナトリウムを製造した。製造したハイドロサルファイトナトリウムの含有ギ酸ナトリウム量をイオンクロマトグラフィー(IC)で定量分析した。ギ酸ナトリウムの含有量は、製造ロットごとに若干異なり、含有量が0.7質量%のものをハイドロサルファイトナトリウムAとしとし、含有量が0.9質量%のものをハイドロサルファイトナトリウムBとした。
【0076】
・ハイドロサルファイトナトリウムC(製法:ギ酸ソーダ法):ギ酸Na含有量3.0質量%(比較例1,2で使用)。
ギ酸Naの含有量が3.0質量%となるように、ハイドロサルファイトナトリウムA(ギ酸Na含有量0.7質量%)に、市販のギ酸ナトリウムをブレンドし、ハイドロサルファイトナトリウムCを製造した。
【0077】
・ハイドロサルファイトナトリウムD(製法:電解法):ギ酸Na含有量0質量%(比較例5で使用)。
電解法により、ハイドロサルファイトナトリウムDを製造した。
【0078】
<ポリアリレート樹脂のインヘレント粘度>
1,1,2,2-テトラクロロエタンを溶媒に用いて、濃度1g/dlとなるように樹脂溶液を調製し、温度25℃の条件で相対粘度(ηrel)を測定した。得られた相対粘度より下記式よりインヘレント粘度を算出した。
ηinh(dl/g) = Ln(ηrel)/c (c:濃度)
【0079】
(実施例1)
(ポリアリレート樹脂粉粒体の合成方法)
攪拌装置を備えた反応容器中に2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA) 100質量部、p-tert-ブチルフェノール 3.8質量部、水酸化ナトリウム 37質量部、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド0.6質量部、ハイドロサルファイトナトリウムAを、二価フェノール成分の質量に対して0.5質量%を仕込み、水 1103質量部に溶解し、水層とした。これとは別にジクロロメタン 895質量部にテレフタル酸クロライド/イソフタル酸クロライド=1/1混合物 92質量部を溶解し、有機層とした。この有機層を、先に調製した水層中に強攪拌下で添加し、15℃にて2時間重合反応を行った。この後、水層と有機層を分離したのち、有機層に酢酸10質量部を添加して反応を停止し、さらに中性となるまで水洗を繰り返し、17質量%のポリアリレートのジクロロメタン溶液を得た。ポリアリレートのジクロロメタン溶液は、温水造粒法にて造粒し、120~135℃のパドル式熱風ドライヤーにて水分とジクロロメタン分を十分に乾燥し、実施例1のポリアリレート樹脂粉粒体を得た。当該粒子の粒子径は0.7~5.0mmである(一部、微粉を含む場合がある)。得られたポリアリレート樹脂粉粒体の他の各特性値は、表1に示した通りであった。
【0080】
(実施例2)
ハイドロサルファイトナトリウムAを、二価フェノール成分の質量に対して1.0質量%添加し、p-tert-ブチルフェノールを1.6質量部とする以外、実施例1で実施した「ポリアリレート樹脂粉粒体の合成方法」と同様の方法で、ポリアリレート樹脂粉粒体を合成した。当該粒子の粒子径は0.7~5.0mmである(一部、微粉を含む場合がある)。得られたポリアリレート樹脂粉粒体の他の各特性値は、表1に示した通りであった。
【0081】
(実施例3)
ハイドロサルファイトナトリウムBを、二価フェノール成分の質量に対して1.2質量%添加し、p-tert-ブチルフェノールを1.2質量部とする以外、実施例1で実施した「ポリアリレート樹脂粉粒体の合成方法」と同様の方法で、ポリアリレート樹脂粉粒体を合成した。当該粒子の粒子径は0.7~5.0mmである(一部、微粉を含む場合がある)。得られたポリアリレート樹脂粉粒体の他の各特性値は、表1に示した通りであった。
【0082】
(実施例4)
ハイドロサルファイトナトリウムBを、二価フェノール成分の質量に対して3.0質量%添加し、p-tert-ブチルフェノールを0.9質量部とする以外、実施例1で実施した「ポリアリレート樹脂粉粒体の合成方法」と同様の方法で、ポリアリレート樹脂粉粒体を合成した。当該粒子の粒子径は0.7~5.0mmである(一部、微粉を含む場合がある)。得られたポリアリレート樹脂粉粒体の他の各特性値は、表1に示した通りであった。
【0083】
(比較例1)
ハイドロサルファイトナトリウムCを、二価フェノール成分の質量に対して3.0質量%添加する以外、実施例1で実施した「ポリアリレート樹脂粉粒体の合成方法」と同様の方法で、ポリアリレート樹脂粉粒体を合成した。当該粒子の粒子径は0.7~5.0mmである(一部、微粉を含む場合がある)。得られたポリアリレート樹脂粉粒体の他の各特性値は、表1に示した通りであった。
【0084】
(比較例2)
ハイドロサルファイトナトリウムCを、二価フェノール成分の質量に対して0.5質量%添加する以外、実施例1で実施した「ポリアリレート樹脂粉粒体の合成方法」と同様の方法で、ポリアリレート樹脂粉粒体を合成した。当該粒子の粒子径は0.7~5.0mmである(一部、微粉を含む場合がある)。得られたポリアリレート樹脂粉粒体の他の各特性値は、表1に示した通りであった。
【0085】
(比較例3)
ハイドロサルファイトナトリウムBを、二価フェノール成分の質量に対して7.0質量%添加する以外、実施例1で実施した「ポリアリレート樹脂粉粒体の合成方法」と同様の方法で、ポリアリレート樹脂粉粒体を合成した。当該粒子の粒子径は0.7~5.0mmである(一部、微粉を含む場合がある)。得られたポリアリレート樹脂粉粒体の他の各特性値は、表1に示した通りであった。
【0086】
(比較例4)
ハイドロサルファイトナトリウムAを、二価フェノール成分の質量に対して0.1質量%添加する以外、実施例1で実施した「ポリアリレート樹脂粉粒体の合成方法」と同様の方法で、ポリアリレート樹脂粉粒体を合成した。当該粒子の粒子径は0.7~5.0mmである(一部、微粉を含む場合がある)。得られたポリアリレート樹脂粉粒体の他の各特性値は、表1に示した通りであった。
【0087】
(比較例5)
ハイドロサルファイトナトリウムDを、二価フェノール成分の質量に対して0.5質量%添加する以外、実施例1で実施した「ポリアリレート樹脂粉粒体の合成方法」と同様の方法で、ポリアリレート樹脂粉粒体を合成した。当該粒子の粒子径は0.7~5.0mmである(一部、微粉を含む場合がある)。得られたポリアリレート樹脂粉粒体の他の各特性値は、表1に示した通りであった。
【0088】
【0089】
上記の実施例および比較例から、以下の事項が明らかとなった:
・ポリアリレート樹脂に含有されるギ酸ナトリウム量を適量とすることで、ポリアリレート樹脂自体の色調が良好となり、加熱溶融による熱劣化に起因する成形加工品の黄変をより十分に低減できる;および
・本発明のポリアリレート樹脂は、特定のギ酸ナトリウム含有量のハイドロサルファイトナトリウムを特定量で用いることにより製造できる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のポリアリレート樹脂は、成形加工品の黄変防止が要求される種々の用途で有用である。そのような用途として、例えば、自動車に搭載されるランプカバーやカメラレンズ、携帯電話やスマートフォン搭載用のカメラレンズ、電子基板を構成するモジュール、ガラス部材が主流である部品のプラスチック材料への代替使用等が挙げられる。
【要約】
【課題】溶融成形時の熱劣化による着色をより十分に抑制できる、色調により十分に優れたポリアリレート樹脂を提供すること。
【解決手段】芳香族ジカルボン酸成分および二価フェノール成分をモノマー成分として含有し、ギ酸塩の含有量が0.1~2.0ppmである、ポリアリレート樹脂。
【選択図】なし