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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】白色化フライアッシュの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 33/135 20060101AFI20240207BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20240207BHJP
   C09C 1/00 20060101ALI20240207BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
C04B33/135
C09D17/00
C09C1/00
B03C1/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023510314
(86)(22)【出願日】2021-08-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-28
(86)【国際出願番号】 EP2021072598
(87)【国際公開番号】W WO2022034214
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】20191116.1
(32)【優先日】2020-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520404573
【氏名又は名称】ベコー アイピー ホールディングス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】セヴェリン,エリック
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス,アーウィン エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】ミサ,ジョン ヴィンセント アダップ
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/079031(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/079029(WO,A1)
【文献】特開2013-193078(JP,A)
【文献】特開2003-047930(JP,A)
【文献】特開2004-083441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 33/00-33/36
C09C 1/00-1/10
C09D 1/00-201/10
B03C 1/00-1/32
B03B 1/00-13/06
B07B 1/00-15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色化フライアッシュの製造方法であって、当該製造方法が以下の工程:
(a)フライアッシュをサイズ分級工程にかけて、少なくとも90重量%が44μm~250μmの粒子径を有する、サイズ分級されたフライアッシュを得る工程;
(b)工程(a)からのサイズ分級されたフライアッシュを水と接触させてスラリーを形成する工程で、この際、当該スラリーが40重量%未満の固形分を有する;
(c)工程(b)で得られたスラリーを徹底的な磁気分離工程にかけて、磁気的に処理されたフライアッシュを形成する工程で、この際、前記の徹底的な磁気分離工程が、第1の磁気抽出工程と第2の磁気抽出工程を含み、前記の第2の磁気抽出工程が、前記の第1の磁気抽出工程よりも高い磁場強度で行われ、しかも、それぞれの磁気抽出工程の処理時間が少なくとも1分である;及び
(d)工程(c)で得られた磁気的に処理されたフライアッシュを湿式粉砕工程にかけて、白色化フライアッシュを形成する工程で、この際、前記の湿式粉砕工程が酸の存在下で行われる;
を含む、白色化フライアッシュの製造方法。
【請求項2】
前記の湿式粉砕工程が、第1の酸性粉砕処理工程と第2の酸性粉砕処理工程とを含み、前記の第1の酸性粉砕処理工程が塩酸の存在下で行われ、しかも、前記の第2の酸性粉砕処理工程がシュウ酸の存在下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記の酸が0.2M~3.0Mのモル濃度を有する、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記の酸が、酢酸(エタン酸)、アスコルビン酸((2R)-2-[(1S)-1,2-ジヒドロキシエチル]-3,4-ジヒドロキシ-2H-フラン-5-オン)、クエン酸、塩酸、硝酸、シュウ酸(エタン二酸)、硫酸、およびそれらの任意の組み合わせから選択される、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記の酸が硫酸または塩酸である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記の湿式粉砕工程がキレート剤の存在下で行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(c)の間、前記の磁気的に処理されたフライアッシュが、焼成及び/又は焼結工程に供される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(a)で得られた前記のサイズ分級されたフライアッシュが、d 50 粒子径が44μmより大きい粒子径分布を有する、請求項~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(a)で得られた前記の分級フライアッシュが、100重量%が44μm~250μmの粒子径を有した粒子径を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記のフライアッシュが微粉炭燃焼(PCC)フライアッシュである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記の磁気的に処理されたフライアッシュが、1.0%未満の酸化鉄含有量を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法によって得られた白色化フライアッシュの、セラミック、塗料、ゴム、及び/又はプラスチック中の充填剤としての使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色化フライアッシュの製造方法に関する。本発明の方法によって得られる白色化フライアッシュは、セラミック製品を製造するための材料として、または塗料、ゴム、及び/又はプラスチックに使用するための充填剤/増量剤(extender)として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
製品に使用する充填剤および増量剤
【0003】
プラスチックや塗料などの多くの製品には、充填剤や増量剤が含まれている。充填剤または増量剤は通常、不活性で、低コストの微粉末であり、これらは、組成物や製品に添加して、使用する必要があるプラスチックや顔料などの高価な原材料の量を減らしたり、製品の物性を変化させるのに役立つ。例えば、白色塗料には、主な白色顔料の他に、炭酸カルシウム及び/又はケイ酸カルシウムなどの他の白色粉末が含まれていることが非常に多い。これは、TiOなどの高価な顔料を「増量(extend)」するのに役立ち、所定のレベルの白色度を達成するために必要なレベルを下げることができる。しっくい(whitewash)などの塩基性塗料には、顔料として炭酸カルシウムなどの材料しか含まれていない場合がある。
【0004】
セラミック製品及びセラミックベースの素材には、白色のベースカラーが必要な場合がある。これは、多くの理由により、例えば、色合わせ(colour matching)を容易にするため、特定の色を実現するため、または白色の製品とすることの審美的欲求を達成するだけのためなどである。白色のセラミックスやセラミック系の材料を作る場合には、白色の原料とする必要がある。
【0005】
充填剤が可能な限り白色である場合、プラスチックに充填剤を添加する時に色の問題を回避することがしばしば容易である。これによって、必要なカラーマッチングが容易になることが多い。
【0006】
これらの充填剤は、多くの異なる業界や用途で大規模に使用されている。したがって、この役割で使用できる低コストで環境に優しい材料を見つけることには大きな価値がある。 色が可能な限り白色である場合、このような材料の用途が広がり、用途の範囲も広がる。
【0007】
フライアッシュ
【0008】
燃焼灰は、燃焼器からの排気ガスから除去された非常に微細な灰であるフライアッシュと、燃焼器の火格子(grate)または底部から除去された大きな燃え殻(cinders)を含むボトムアッシュに分かれる。灰の大部分はフライアッシュの形態である。ボトムアッシュは物理的にも化学的にもフライアッシュとは大きく異なる。
【0009】
フライアッシュ、特に石炭燃焼フライアッシュ、特に微粉炭燃焼(PCC)フライアッシュは、発電用の石炭の燃焼中に非常に大量に生成される廃棄物である。ボイラーの設計が異なれば、燃焼できる燃料や石炭に添加される石灰石などの添加物が異なるため、異なる種類の灰が生成される。微粉炭燃焼ボイラーでは、PCCフライアッシュが発生する。このPCCフライアッシュの多くは、ポゾラン(pozzolan)、特により細かいPCCフライアッシュとして使用されるが、残りの多くは依然として埋め立て地やその他の廃棄物処理場に送られる。したがって、灰の廃棄の問題を最小限に抑えるために、この廃棄フライアッシュの更なる用途を見つける必要性が常にある。他のプロセスで使用される原材料を廃棄フライアッシュで置き換えることには、環境上および経済上の利点がある。これは、ポゾランとして使用するには粗すぎて、現在はほとんど価値がない、特に粗いPCCフライアッシュの場合である。
【0010】
したがって、白く、より細かく、安価で環境に優しい充填剤材料を形成するために、望ましくないオフホワイトの粗いフライアッシュを使用することができる、低コストで単純なプロセスは特に価値がある。
【0011】
PCCフライアッシュを含むフライアッシュは、燃焼する石炭の種類と、使用するボイラーの設計に応じて、さまざまな化学的および鉱物学的組成と形態を有している。
【0012】
特に、フライアッシュにはさまざまな量の酸化鉄と未燃炭素が含まれている。PCCフライアッシュでは、酸化鉄はマグネタイト及び/又はヘマタイトなどの小さな暗色の結晶の形で存在することがよくある。酸化鉄と未燃炭素は、多くの灰の灰色またはオフホワイトの色特性の主な原因である。これらの薄い色により、フライアッシュを「そのまま」充填剤または増量剤として使用する範囲が制限される。
【0013】
フライアッシュは一般的に選別(beneficiated)される。この用語は、フライアッシュをポゾランとして使用するのにより適したものにするために、典型的には酸化鉄と未燃焼炭素の量を減らす工程を指す。選鉱(Beneficiation)は、主に色の改善よりもセメントにおける化学的適合性に関係している。ほとんどの選鉱工程は、フライアッシュをわずかに白くするが、当該技術分野にて説明されている方法の大部分は、塗料の増量剤などのより要求の厳しい用途で使用するのに十分なほどフライアッシュを白くするように設計されていないか、または意図されていない。
【0014】
フライアッシュの色を変える方法はたくさんある。従来のか焼(calcination)、粉砕(milling)及び/又は分級(classification)、および磁気抽出(magnetic extraction)に基づく方法はすべて、フライアッシュの色を変えることができる。しかしながら、それらは、白色充填剤または顔料増量剤として、またはベース顔料として使用できるほど十分に材料を白くすることはできない。
【0015】
白色化されたフライアッシュを製造するための方法の必要性
【0016】
したがって、フライアッシュ、特にPCCフライアッシュ、特に、粗いPCCフライアッシュの白色度を改善できる方法を開発する必要がある。フライアッシュを十分に白い材料に変えて、白色化されたフライアッシュをセラミック製品の製造に使用したり、塗料、ゴム、及び/又はプラスチックに使用する充填剤/増量剤として使用したりする方法が必要である。このような方法は、できるだけ簡単で安価であり、できるだけ環境に優しいものである必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、白色化フライアッシュの製造方法に関するものであり、この方法は、以下の工程:(a)少なくとも90重量%が44μm~250μmの粒子径を有する粒子径を有した、サイズ分級されたフライアッシュを得るために、フライアッシュをサイズ分級工程にかける工程;(b)任意に、工程(a)からのサイズ分級されたフライアッシュを水と接触させてスラリーを形成する工程で、この際、当該スラリーが40重量%未満の固形分を有する;(c)工程(a)で得られたサイズ分級されたフライアッシュまたは、工程(b)で得られたスラリーを徹底的(exhaustive)な磁気分離工程にかけて、磁気的に処理されたフライアッシュを形成する工程で、この際、前記の徹底的な磁気分離工程が、第1の磁気抽出工程と第2の磁気抽出工程を含み、前記の第2の磁気抽出工程が、前記の第1の磁気抽出工程よりも高い磁場強度で行われる;及び(d)工程(c)で得られた磁気的に処理されたフライアッシュを粉砕工程にかけて、白色化フライアッシュを形成する工程を含む。
【課題を解決するための手段】
【0018】
発明の詳細な説明
【0019】
白色化フライアッシュの製造方法
本発明の方法は、以下の工程を含む。
【0020】
(a)少なくとも90重量%が44μm~250μmの粒子径を有するような粒子径を有したサイズ分級されたフライアッシュを得るために、フライアッシュをサイズ分級工程にかける工程;
【0021】
(b)任意に、工程(a)からのサイズ分級されたフライアッシュを水と接触させてスラリーを形成する工程で、この際、当該スラリーが40重量%未満の固形分を有する;
【0022】
(c)工程(a)で得られたサイズ分級されたフライアッシュまたは、工程(b)で得られたスラリーを徹底的な磁気分離工程にかけて、磁気処理されたフライアッシュを形成する工程で、この際、徹底的な磁気分離工程が、第1の磁気抽出工程と第2の磁気抽出工程を含み、前記の第2の磁気抽出工程が、前記の第1の磁気抽出工程よりも高い磁場強度で行われる;及び
【0023】
(d)工程(c)で得られた磁気的に処理されたフライアッシュを粉砕工程にかけて、白色化フライアッシュを形成する工程。
【0024】
工程(a)、サイズ分級。
【0025】
工程(a)において、フライアッシュは、少なくとも90重量%、または少なくとも95重量%が、44μm~250μm、または50μm~250μm、または75μm~250μmの粒子径を有する粒子径を有したサイズ分級されたフライアッシュを得るために、サイズ分級工程にかけられる。フライアッシュは、100重量%が、44μm~250μm、または50μm~250μm、または75μm~250μmの粒子径を有する粒子径を有したサイズ分級されたフライアッシュを得るために、サイズ分級工程にかけられることが好ましい。この分級は、空気分級機にて行うことができる。
【0026】
このより粗いフライアッシュは、ポゾランとして使用するには粗すぎ、より大きな未燃焼炭素粒子の濃度が高いためにしばしば暗い色であるが、驚くべきことに、磁気抽出、特に湿式磁気抽出による精製に特に適していることがわかった。より粗いフライアッシュは、細かいフライアッシュよりも磁気抽出によって高度に精製することができる。理論に束縛されることは望まないが、磁気感受性の粒子が大きいほど、より多量の磁気感受性材料が存在するために、磁場内でより大きな力を受けると考えられている。特定の直径の粒子中に存在する物質の量は、直径の3乗の関数である。対照的に、液体中を移動する粒子が受ける粘性抵抗は、その直径の関数である。したがって、より大きな磁気感受性粒子は、磁気感受性粒子をスラリーからより容易に除去することを可能にする、粘性抵抗力に対するより大きな比率の磁力を受ける。
【0027】
スラリーを形成する、任意の工程(b)。
【0028】
任意の工程(b)は、工程(a)からのサイズ分級されたフライアッシュを水と接触させてスラリーを形成する。このスラリーは、40重量%未満、または35重量%未満、さらには30重量%未満の固形分を有する。
【0029】
好ましくは、工程(b)は必須の工程であり、工程(c)の間、工程(b)で得られたスラリーは、徹底的な磁気分離工程にかけられ、磁気的に処理されたフライアッシュを形成する。
【0030】
工程(c)、磁気抽出。
【0031】
工程(c)では、工程(a)で得られたサイズ分級されたフライアッシュまたは、工程(b)で得られたスラリーを徹底的な磁気分離工程にかけて、磁気的に処理されたフライアッシュを形成する。この徹底的な磁気分離工程は、第1の磁気抽出工程と第2の磁気抽出工程を含む。第2の磁気抽出工程は、第1の磁気抽出工程よりも高い磁場強度で実施される。追加の磁気抽出工程を用いることもでき、通常、後に続く各磁気抽出工程は、前の磁気抽出工程よりも高い磁場強度で実施される。第3の磁気抽出工程が実施されることが好ましい場合があり、この際、第3の磁気抽出工程は、第2の磁気抽出工程よりも高い磁場強度で実施される。
【0032】
典型的には、磁気的に処理されたフライアッシュは、1.0%未満、またはさらには0.5%未満の酸化鉄含有量を有する。
【0033】
工程(c)は、磁気抽出の徹底的なプロセスを用い、非常に低レベルの磁気感受性鉄含有種であっても粒子を除去して、非常に低い鉄含有量を有する高度に精製された材料の残留物を残すことができる。これは、(i)金属抽出などのさらなる処理のために、高い鉄含有量を有する粒子のみを除去するように設計された、及び/又は、(ii)ポゾランとして使用するためのフライアッシュの選鉱のために設計された、のいずれかである、ほとんどの磁気分離工程とは異なる。
【0034】
本発明の方法は、徹底的な磁気抽出工程を含む。徹底的とは、スラリーが複数の磁気抽出の工程を受け、この際、その後の各工程の間、磁場強度の強度が一定であるか、または増加することを意味する。典型的には、スラリーは、現在の磁場強度で磁気感受性材料を抽出することができない場合には、次の磁気強度抽出工程まで進行するだけである。
【0035】
サイズ分級されたフライアッシュまたはスラリーが単一の強力な磁気抽出工程にのみかけられる場合、非磁性材料の多くも除去される。理論に束縛されることを望むものではないが、非磁性材料は、一度に除去されるすべての磁気感受性材料の大部分によって捕捉されると考えられる。
【0036】
本発明者らは、本発明の方法で必要とされるように、磁気感受性材料が多数の磁気抽出工程によって除去される場合、どの工程でも限られた量の材料しか除去されないことを見出した。これにより、次々に方法の全体的な効率が向上し、工程(c)の間に、サイズ分級されたフライアッシュ又はスラリーから、非磁気的に感受性の低い材料が除去される。
【0037】
工程(c)は、典型的には、抗力による粒子の除去を回避するように、スラリーを介して所定の磁場強度の磁性棒を通過させることによって、ゆっくりと制御された方法にて行うことができる。次に、磁気棒をスラリーから取り出し、磁気棒に付着した磁気感受性材料を除去することができる。
【0038】
典型的には、比較的低い磁場強度の第1の磁気棒が、磁気棒がスラリーを通過するたびに磁気的に影響を受けやすい材料が除去されなくなるまで使用される。典型的には、磁場強度が比較的高い第2の磁気棒が、その後、使用され、磁気抽出工程が繰り返される。比較的高い磁場強度を有する磁気棒を用いた各工程でのさらなる磁気抽出工程を使用することができる。次の工程に移る前に、繰り返し、できれば穏やかに磁気感受性物質を抽出する (即ち、特定の磁場強度で磁気感受性物質の抽出を「徹底的に行う(exhausting)」)このような工程は、他の商業的に使用される工程とは異なる。
【0039】
磁気抽出工程で使用されるスラリーは、40重量%未満、または35重量%未満、またはさらに30重量%未満の固形分を有することが好ましい。これは、粒子:粒子相互作用と衝突により、高固形分スラリーでは粒子の分離が困難になるためである。
【0040】
典型的には、磁石は、水性スラリーを通過するか、またはスラリーが磁気分離器を通過する。この手順は、典型的には、例えば磁気的に影響を受けやすい材料が磁石によって抽出されなくなるまで、複数回繰り返される。これは典型的には、磁場にさらされるスラリーの処理時間の最小時間を必要とする。磁気処理時間が短すぎると、磁気感受性材料が十分に除去されない可能性がある。典型的な最小処理時間は、少なくとも1分、または少なくとも5分、または少なくとも10分、またはそれ以上も場合もある。この処理時間の期間は、所与の磁場強度で磁気分離器を通過するなど、複数の工程にわたって達成することができる。
【0041】
適した磁気処理は、1000ガウスの磁気棒をスラリーを通して繰り返し引き抜き、続いて3000ガウスの磁気棒をスラリーを通して繰り返し引き抜き、その後、8000ガウスの磁気棒を続けてもよい。
【0042】
他のタイプの磁気分離器もまた、特に大規模な工業プロセスに適している。適したタイプの分離器としては、好適な磁場の印加により回転ドラムの表面に磁気的に引き付けられることによって磁性粒子がスラリーから除去される、いわゆる湿式高強度磁気分離器が挙げられる。他の適した設計としては、スラリーが重力によって磁気表面上を流動するカスケード磁気分離器が挙げられる。複数の設計があるが、いずれも、磁性粒子が表面に付着するように磁性表面の近くに材料を、好ましくはスラリー形態で通過させることに依存している。磁性粒子は、表面から洗い流すか、または別の方法で除去することができる。磁場は、(適切に配置された)永久磁石によって発生されるか、または電磁石によって発生される。好ましいアプローチは、調整可能な電磁石を有する1つ以上の磁気分離器の使用を含む。一定の強さの磁場を用い、セパレーターを通してスラリーを繰り返し通すことができ、すべての磁性材料が磁場の強さで徹底的に抽出されたら、磁場の強さを増加させるように電磁石を調整し、このプロセスを繰り返す。
【0043】
あるいは、スラリーは、徹底的な効果を達成するために、より低い強度の磁場に設定された第1のセパレーターに繰り返し通過され、続いてより高強度の磁場に設定された第2のセパレーターに繰り返し通過されてもよい。一連の適した磁気分離器が、米国ペンシルベニア州エリーのエリーズ社から供給されている。
【0044】
工程(c)で得られた磁気的に処理されたフライアッシュが化学処理工程を受けることも好ましい場合がある。好ましい化学処理工程は、キレート剤の存在下で行うことができ、好ましくはキレート剤と酸の両方の存在下でも行うことができる。
【0045】
好ましいキレート化剤としては、エチレンジアミン二コハク酸(EDDS)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジアミンジ(o-ヒドロキシフェニル酢酸)(EDDHA)、1-ヒドロキシエタン1,1ジホスホン酸(HEDP)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、およびそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0046】
任意のキレート剤処理工程の間、典型的にはフライアッシュをキレート剤と接触させる。典型的には、フライアッシュとキレート剤を、水と一緒に接触させて水性スラリーを形成する。このキレート剤処理工程は、50℃を超える温度、または60℃を超える温度、さらには70℃を超える温度などの高温で実施することができる。典型的には、液体の上澄みは除去される。残りのフライアッシュは濯ぐことができる。
【0047】
工程(c)の間、磁気的に処理されたフライアッシュは、か焼及び/又は焼結工程に供されることが好ましい場合がある。
【0048】
工程(c)の間、磁気的に処理されたフライアッシュは、典型的には450℃を超える、または500℃を超える、または600℃を超える、または750℃を超える、典型的には1000℃までで、か焼工程に供されることが好ましい場合がある。
【0049】
工程(c)の間、磁気的に処理されたフライアッシュは、典型的には1000℃を超える、または1100℃を超える、または1200℃を超える、または1300℃を超える温度で焼結工程に供されることが好ましい場合がある。この焼結工程は、磁気的に処理されたフライアッシュの色をさらに改善し、及び/又は磁気的に処理されたフライアッシュからの重金属イオンなどの物質の浸出性(leachability)を低下させることができる。
【0050】
工程(d)、粉砕。
【0051】
工程(d)は、白色化フライアッシュを生成するために、工程(c)で得られた磁気的に処理されたフライアッシュに粉砕工程を施す。
【0052】
工程(d)においては、工程(c)で得られた磁気的に処理されたフライアッシュを粉砕工程にかけて、白色化フライアッシュを得る。工程(d)は、湿式粉砕工程であっても乾式粉砕工程であってもよい。粉砕工程が乾式粉砕工程であっても湿式粉砕工程であっても、ボールミルや振動ロッドミルは適した装置である。
【0053】
上記の湿式粉砕工程は、工程(c)で得られた磁気的に処理されたフライアッシュを酸と接触させ、酸性湿式粉砕工程に供する、酸性湿式粉砕工程であってもよい。
【0054】
工程(d)で使用するのに適した酸としては、鉱酸及び/又は有機酸が挙げられる。
【0055】
工程(d)で使用するのに適した酸は、酢酸(エタン酸)、アスコルビン酸((2R)-2-[(1S)-1,2-ジヒドロキシエチル]-3,4-ジヒドロキシ-2H-フラン-5-オン)、クエン酸、塩酸、硝酸、シュウ酸(エタン二酸)、硫酸、およびそれらの任意の組み合わせから選択することができる。
【0056】
好ましい酸は硫酸である。別の好ましい酸は塩酸である。
【0057】
好ましくは、工程(d)で使用される酸は、0.2M~3.0M、または0.5M~2.5M、またはさらに1.0M~2.0Mのモル濃度を有する。
【0058】
好ましくは、工程(d)は、6.0未満、または5.0未満、または4.0未満、または3.0未満、または2.0未満、またはさらには1未満のpHで実施される。
【0059】
酸性湿式粉砕工程は、キレート剤の存在下で実施することもできる。 適したキレート剤は上記のものである(工程(c)に適したキレート剤)。
【0060】
工程(d)は、50℃以上、または60℃以上、さらには70℃以上の高温で実施することができる。
【0061】
工程(d)は、10分~90分、または20分~80分、さらには30分~70分など、90分以下の継続時間を有してもよい。
【0062】
好ましくは、工程(d)は、ボールミルまたはロッドミルにて行うことができる。
【0063】
上記の湿式粉砕工程は、好ましくは、第1の酸性粉砕処理工程と第2の酸性粉砕処理工程とを含む。第1の酸性粉砕処理工程で使用される酸は、第2の酸性粉砕処理工程で使用される酸と同じ酸であってもよいし、異なる酸が使用されてもよい。第2の酸性粉砕処理工程で使用される酸は、第1の酸性粉砕処理工程で使用される酸よりも高いモル濃度を有することが好ましい場合がある。好ましくは、第1の酸性粉砕処理工程は、塩酸の存在下で実施される。好ましくは、第2酸性粉砕処理工程は、シュウ酸の存在下で実施される。
【0064】
好ましくは、工程(d)は、6.0未満、または5.0未満、または4.0未満、または3.0未満、または2.0未満、またはさらには1.0未満のpHで実施される。
【0065】
工程(d)は、大気圧よりも高い圧力下で実施されてもよい。工程(d)は、100℃を超える、例えば125℃を超える、または150℃までの温度で実施することができる。
【0066】
工程(d)の間、粉砕された磁気処理フライアッシュは、典型的には450℃を超える、または500℃を超える、または600℃を超える、または750℃を超える、典型的には1000℃までの温度で焼成工程にかけられることが好ましい場合がある。
【0067】
工程(d)の間、粉砕された磁気処理フライアッシュは、典型的には1000℃を超える、または1100℃を超える、または1200℃を超える、または1300℃を超える焼結工程にかけられることが好ましい場合がある。この焼結工程は、磁気的に処理されたフライアッシュの色をさらに改善し、及び/又は磁気的に処理されたフライアッシュからの重金属イオンなどの物質の浸出性を低下させることができる。この焼結されたフライアッシュは、さらに粉砕されてもよい。
【0068】
フライアッシュ
【0069】
好ましくは、上記のフライアッシュは石炭燃焼フライアッシュであり、最も好ましくは微粉炭燃焼(PCC)フライアッシュである。
【0070】
上記のフライアッシュはタイプF石炭フライアッシュであってもよい。
【0071】
典型的には、上記のフライアッシュは未処理の(raw)フライアッシュである。未処理のフライアッシュとは、典型的には、フライアッシュがいかなる高温の炭素除去選鉱工程にもさらされていないことを意味する。これは、高温熱処理工程がフライアッシュの磁化率を低下させるためである。これは、高磁性マグネタイトが低磁性ヘマタイトに変換される高温、またはマグネタイトなどの磁性材料がキュリー点を超えて加熱されることが原因である可能性がある。
【0072】
サイズ分級されたフライアッシュ。
【0073】
工程(a)で得られるサイズ分級されたフライアッシュは、d50粒子径が44μmを超える、または50μmを超える、またはさらに75μmを超えるような粒子径分布を有していてもよい。
【0074】
工程(a)で得られるサイズ分級されたフライアッシュは、100重量%が44μm~250μm、または50μm~250μm、または75μm~250μmの粒子径を有するような粒子径を有していても良い。
【0075】
粗いサイズに分級されたフライアッシュは、磁気抽出後の粉砕工程にて、より細かいフライアッシュよりも粉砕するのが容易である。
【0076】
白色化フライアッシュ。
【0077】
本発明の方法によって得られる白色化フライアッシュは、セラミック、塗料、ゴム、及び/又はプラスチックの充填剤として使用することができる。
【0078】
典型的には、上記の白色化フライアッシュは、1.0重量%未満、またはさらに0.5重量%未満の酸化鉄含有量を有する。
【0079】
粒子径の測定方法。
【0080】
粒度分布は典型的には、レーザー回折によって測定される。レーザー回折によるサイズ分析の適した基準は、ISO 13320:2009に記載されている。適した粒度分析器は、Malvern InstrumentsによるMastersizer 2000および3000機器である。試験材料を最初に流体に分散させる湿式法よりも、材料を粉末流として試験する圧縮空気によってサンプルを分散させる(通常はScirocco 2000ユニットを使用)ことが好ましい。しかしながら、これらのセラミック混合物を非水性液体に分散させて試験することは可能である。この測定は、典型的にはメーカーの取扱説明書とテスト手順に従って行われる。
【0081】
スラリーの固形分測定方法。
【0082】
スラリーの固形分は、100gのスラリーサンプルを100℃のオーブンに24時間入れ、乾燥サンプルの重量を測定することにより測定できる。これは固形分パーセントである。
【0083】
酸化鉄含有量の測定方法。
【0084】
酸化鉄のレベルは、典型的には、蛍光X線によって測定される。フライアッシュの典型的な粒子径は十分に小さいため、この技術は正確な測定に適している。この技術は、高エネルギーガンマ線またはX線を使用してサンプルを励起することによって機能する。これにより、存在する原子が電離し、原子の種類に依存する固有周波数のEM放射が放出される。異なる周波数の強度を分析することで、元素分析を行うことができる。適した機器は、オリンパスにより提供されるXRF分析装置のVartaシリーズである。この装置は元素鉄を検出し、その結果は通常、対応するレベルのFeに変換される。
【実施例
【0085】
本発明の実施例
白色化フライアッシュは以下のようにして調製した。
【0086】
最初のPCCフライアッシュは、ISO 3688によると白色度25であった。
【0087】
44μmと250μmの間に篩い分けた200gのPCCフライアッシュを、2000gの水に加え、攪拌してスラリーを作製した。
【0088】
次いで、このスラリーを以下のように徹底的な磁気抽出および精製工程にかけた。1000ガウスの棒磁石を手動でスラリーに繰り返し通過させて磁性粒子を収集し、定期的にきれいに拭き取った。これを、磁石の表面に集まる磁性粒子が見られなくなるまで続けた。その後、この工程を3000ガウスの棒磁石で繰り返し、最後に高強度の8000ガウスの棒磁石を使用して繰り返した。
【0089】
磁気抽出工程の後、スラリーを沈降させ、上澄み液を注ぎ出した。次いで、処理されたフライアッシュをオーブンにて110℃にて1時間乾燥させた。
【0090】
次に、処理されたフライアッシュ150gを、1.0M硫酸150gと共にボールミル容器(MITRモデルYXQM-8Lに適合)に入れた。約1250gのアルミナ粉砕ボールも容器内に入れた。このアルミナボール(密度3.95g/ml)は、以下のサイズ分布を有していた:5mm(50%wt)、10mm(32%wt)、20mm(18%wt)。
【0091】
次いで、上記のスラリーを遊星ボールミル(MITRモデルYXQM-8L)にて180rpmで60分間粉砕した。この操作が終了した時点で、スラリーは80℃以下であることがわかった。
【0092】
粉砕後、上記のスラリーを遠心分離し、上澄み液を捨てた。撹拌しながら300gの水を固体に添加することにより固形物をすすぎ、続いて遠心分離し、液体を除去した。このすすぎ工程を3回繰り返した。次いで、湿った固体を110℃で一定重量になるまで乾燥させた。
【0093】
次いで、乾燥した固体をオーブン内で1250℃にて0.5時間入れることによってか焼した。
【0094】
白色化されたフライアッシュは、ISO 3688によると86を超える白色度を有していた。