(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】縦型ウェーハボート
(51)【国際特許分類】
H01L 21/22 20060101AFI20240207BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
H01L21/22 511G
H01L21/68 N
(21)【出願番号】P 2020213137
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】能勢 敦史
【審査官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-511179(JP,A)
【文献】特開2005-240171(JP,A)
【文献】特開2008-277781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/22
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウェーハ支持部材のウェーハ支持面が、CVD-SiC膜とイットリア質粉末層とを順に備え、
さらに前記イットリア質粉末層をイットリア(Y
2O
3)質で被覆した層を備え、
前記イットリア質粉末層の平均粒子径が1~5μmであり、
前記イットリア質被覆層の厚みが10~30μmであることを特徴とする縦型ウェーハボート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体熱処理用ウェーハボートに関し、詳しくは、ウェーハ支持面に形成されたCVD-SiC膜をイットリア(Y2O3)で被覆した縦型ウェーハボートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体の微細化に伴い、半導体基板に生じる微細な結晶欠陥がその半導体基板上に形成されるトランジスタやキャパシタ等の各素子の電気特性を劣化させる原因となり、半導体デバイスの製造工程で歩留りの低下を生じさせることがある。
【0003】
半導体基板表面の結晶欠陥を減少させるには、半導体基板を1000℃以上の高温プロセスに供する必要がある。そのため、耐熱性に優れた炭化ケイ素(SiC)材料をウェーハボート等の熱拡散炉内の部材として使用することで、半導体デバイスの製造工程での生産性向上を目指してきた。熱拡散炉の部材をSiC材料で形成し、水素またはアルゴン雰囲気中で高温熱処理を行えば、ウェーハ表面近傍の結晶欠陥が低減され、デバイス特性を向上させることができる。また、熱拡散炉の構成部材であるSiCと、成膜過程で熱拡散炉の内壁に堆積するケイ素(Si)や窒化ケイ素(Si3N4)等の被膜(デポ膜)との熱膨張率が近いため、デポ膜剥離に起因するパーティクル数も減少させることができる。さらに、SiC基材に、化学蒸着法(CVD)により、純度の高いSiC物質の被膜を施すことで熱拡散炉内の部材を高純度化することができる。
【0004】
特許文献1には、半導体ウェーハを搭載するための棚部が形成された複数本の支柱と、前記支柱の上下端部を固定する天板と底板とを備え、SiC基材の表面にSiC被覆膜が形成された縦型ウェーハボートにおいて、前記棚部におけるウェーハ当接部に対して第1のSiC被膜形成後に研磨によるフラット化処理を行い、その上面に第2のSiC被膜を形成してその表面の表面粗さRaを0.1μm以上0.9μm以下とし、前記ウェーハ当接部を除く部分に第2のSiC膜を形成して、その表面粗さRaを1.0μm以上8.0μm以下とすることで、ウェーハへの傷やスリップの発生が抑えられ、かつ、パーティクルによる汚染も防止できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のCVD-SiC膜を有するSiC製ウェーハボートでは、ウェーハを搭載する棚部の表面粗さRaの精密な制御が難しく、依然として、特にSiCとは異種のSiN等を成膜する場合、デポ膜剥離により発生するパーティクルを大幅に低減することは難しかった。また、塩素(Cl2)ガスやフッ素(F2)ガスなどのハロゲン系ガスを使用したプラズマによるドライクリーニングを行うと、ウェーハボートの基材がエッチングされて、デポ膜剥離によるパーティクルが発生する。基材がエッチングされると、ウェーハボートの強度低下にも繋がる。
【0007】
そこで、本発明では、半導体ウェーハ支持部材のウェーハ支持面の表面粗さRaを制御することで、ウェーハボート内壁に付着したデポ膜の剥離を抑え、また、三フッ化塩素ガスや、塩素ガス、フッ素ガスを使用したプラズマによるドライクリーニングに起因するウェーハボート表面の摩耗を抑えることができる縦型ウェーハボートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の縦型ウェーハボートは、半導体ウェーハ支持部材のウェーハ支持面が、CVD-SiC膜とイットリア質粉末層とを順に備え、さらに前記イットリア質粉末層をイットリア質で被覆した層を備えることを特徴とする。
【0009】
前記イットリア質粉末層の平均粒径が1~5μmであり、前記イットリア質被覆層の厚みが10~30μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、半導体ウェーハ支持部材において、ウェーハ支持面に形成されたCVD-SiC膜上に、イットリア質粉末層、さらにイットリア質で被膜することで、デポ膜に起因するパーティクル発生を抑制することができる。この理由は、イットリア質粉末層により、ウェーハ支持面が適度に粗化され、アンカー効果による接合力を発揮することによると考えられる。また、ウェーハ成膜工程後、塩素ガスプラズマやフッ素ガスプラズマを用いたドライクリーニングを行っても、耐食性に優れているためウェーハボート内壁の摩耗に起因するパーティクルの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の半導体熱処理部材の一形態である縦型ウェーハボートを表す図である。
【
図2】
図2は、半導体ウェーハ支持部材において、ウェーハ支持面のCVD-SiC膜の表面にイットリア質粉末層を設けて、さらにイットリア質で被膜した構成を示す図である。
【
図3】
図3は、半導体ウェーハ支持部材のウェーハ支持面のCVD-SiC膜にイットリア質粉末分散液を噴霧する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面も参照しながら、本発明の半導体熱処理部材について詳細に説明する。
本発明の半導体熱処理部材は、サセプタやリングなど半導体製造における熱処理部材であれば適用可能であるが、一実施形態である縦型ウェーハボートを用いて詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の半導体熱処理部材の一実施形態である縦型ウェーハボート(以下単に「ウェーハボート」ともいう。)を表している。ウェーハボートは、ウェーハWを装入するための支持溝13が形成された複数本のウェーハ支持部材11と、前記ウェーハ支持部材11の上下端部を固定する天板と底板とを備える。ウェーハボート1を構成する各部材は、炭化ケイ素(SiC)、シリコン/SiC複合材料、または炭素材料で形成される。ウェーハ支持面12およびこれを備える支持溝13は、SiCまたはシリコン/SiC複合材料で形成するのが好ましい。
【0014】
支持溝13は、ウェーハWを載せるウェーハ支持面12を有している。支持溝13の大きさは、ウェーハ支持面12の先端部から壁、すなわち、ウェーハ支持面12の先端部からウェーハ支持部材11までの長さは15mm未満にするのが好ましい。先端部から壁までの長さが15mm以上あると、化学蒸着(CVD)によりイットリア質を成膜するとき、先端部とウェーハ支持部材11の壁付近とで被膜量に差が生じることがある。イットリアの被膜量に差があると、ウェーハ成膜に際して内壁に堆積する被膜(デポ膜)の剥離などによるパーティクル数にばらつきが発生し、成膜したウェーハ内の欠陥分布などに影響することがある。因みに、ウェーハ支持面12の先端部から壁までの長さが100mmあると、イットリアの膜厚の差が最大20μmに及ぶ。
【0015】
ウェーハ支持部材11の支持溝13に形成されたウェーハ支持面12は、通常の化学蒸着法(CVD)により形成されたSiC膜(以下「CVD-SiC膜16」という。)を有している。本発明のウェーハボート1は、CVD-SiC膜16の表面に、イットリア質粉末層14が形成され、さらに前記イットリア質粉末層14を含むウェーハボート1の表面全体をイットリア質被覆層15で被覆した構成を有する。
【0016】
イットリア質粉末層14は、イットリア、YAG、フッ化イットリウム、オキシフッ化イットリウムのいずれかの粉末を用いるのが好ましい。これらの粉末を純水に分散させ、CVD-SiC膜16の表面にその分散液をスプレー噴霧することにより形成する。
図3は、イットリア質粉末分散液103を噴霧器102に充填し、CVD-SiC膜16の表面に垂直にノズル101を向けて噴霧する様子を示している。
【0017】
イットリア質粉末層14には、平均粒子径が1~5μm、好ましくは平均粒子径3~5μmのイットリア質粉末を用いる。イットリア質粉末の平均粒子径が1~5μmであるとき、アンカー効果によりデポ膜の剥離によるパーティクルの発生を抑えることができる。平均粒子径が1μmより小さいと、アンカー効果が得られにくく、デポ膜の剥離によるパーティクルの発生を抑えることができない。一方、平均粒子径が5μmよりも大きいと、ウェーハ支持面12が粗くなりすぎて、ウェーハを載せた時にその裏面を損傷し、これによりウェーハ由来のパーティクルが発生することがある。なお、イットリア質粉末層14および後述するイットリア質被覆層15を形成した後、ウェーハ支持面の表面は、表面粗さRaを2~4μmにすることが好ましい。表面粗さRaは算術平均粗さと呼ばれる高さ方向のパラメータを指し、平均粒子径は、レーザ回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を指す。
【0018】
イットリア質粉末分散液103の濃度は0.95~1.90g/cm3とするのが好ましい。イットリア質粉末分散液103は、イットリア質粉末層の厚さが5.0~10.0μmとなるように、CVD-SiC膜に対して、概ね0.01~0.05ml/mm2の量で噴霧する。
【0019】
イットリア質粉末分散液103を噴霧後、水を蒸発させることで、
図2に示すように、CVD-SiC膜16の上に凹凸構造を有するイットリア質粉末層14が形成される。この凹凸構造がデポ膜に対するアンカー効果を発揮し、パーティクル発生を防止する役割を果たす。
【0020】
イットリア質粉末層14を形成後、イットリア質被覆層15で被覆する。イットリア質被覆層15を形成することで、ウェーハボート1に耐久性を付与するとともに、その表面を緻密で滑らかにすることができる。
【0021】
このイットリア質被覆層15は、イットリア質粉末層14とは異なり、通常の化学蒸着法(CVD)により形成する。イットリア質被覆層15は、イットリア、YAG、フッ化イットリウム、オキシフッ化イットリウムのいずれかの材料で形成するのが好ましい。
【0022】
イットリア質被覆層15の膜厚は、10~30μmである。イットリア質被覆層15が10μmよりも薄い場合は、ガスクリーニングの際にウェーハ支持面12がエッチングされるため、パーティクルが発生することがある。また30μmよりも厚い場合は、その内部応力によって、イットリア質被覆膜15が剥離し、この剥離した膜によりパーティクルが発生することがある。イットリア質被覆層15の膜厚10~25μmがより好ましい。この範囲にある場合、ガスクリーニングのエッチングによるパーティクルやイットリア質被覆膜15自体の剥離によるパーティクルが発生することがないため好ましい。
【0023】
図2に示すように、本発明の半導体熱処理部材は、ウェーハ支持面12に、CVD-SiC膜16とイットリア質粉末層14とがこの順に形成され、さらにイットリア質層で被覆された構造を有する。このような構造を有することにより、イットリア質粉末層14により適度に粗化されたウェーハ支持面12がアンカー効果による接合力を発揮して、デポ膜剥離によるパーティクルの発生を防止し、成膜した半導体ウェーハ内の欠陥を大幅に低減することができる。また、成膜工程後などに、塩素ガスプラズマやフッ素ガスプラズマを用いたドライクリーニングを行っても、ウェーハボート内壁の摩耗に起因するパーティクルの発生を効果的に抑制することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記に示す実施例により制限されるものではない。
【0025】
[実施例1~6][比較例1~4]
SiC基材で形成されるウェーハ支持面12に1100℃でCVD-SiC膜16を形成した。次に、粒径3μmの粉末イットリアを純水に混合した分散液を噴射器に充填し、
図3に示すように、CVD-SiC膜の表面に垂直にノズルを向けて、CVD-SiC膜16の表面に噴霧して、表1に示す厚みを有するイットリア質粉末層14を形成した。
【0026】
次いで、ウェーハボートを化学蒸着装置に入れて、前記イットリア質粉末層を含むウェーハボート内壁全体にイットリア膜を表1に示す厚みになるまで堆積して、イットリア質被覆層15を形成し、ウェーハ支持面の表面粗さRaを2~3μmになるように調節した。
【0027】
前記ウェーハボートにウェーハを搭載してCVDによりSiN膜を蒸着した。パーティクル検出器を用いてウェーハのSiN膜の表面のパーティクル数を計測したところ、ウェーハボート内壁に付着したデポ膜の剥離に起因するパーティクルは低減されていた。この理由として、イットリア質粉末層により、ウェーハ支持面が適度に粗化され、アンカー効果による接合力を発揮されたものと考えられる。
【0028】
前記ウェーハボートについて、三フッ化塩素(ClF
3)ガス曝露試験を行った。ClF
3ガスを400℃で曝露した後、クリーニング炉内から前記ウェーハボートを取り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)により表面で発生したパーティクル数を計測した。パーティクル数が5個以下は◎(優)とし、パーティクル数が5個超10個以下は〇(良)とし、パーティクル数が10個超は×(不良)とした。
また、ウェーハボート内壁の摩耗を目視で評価した。明確な消耗は確認されず、エッチピットも見られなかった場合は◎(優)とし、表面のわずかな消耗のみで、エッチピットが見られなかった場合を〇(良)とし、表面の顕著な消耗確認され、さらにエッチピットも見られた場合を×(不良)とした。
結果を表1に示す。
イットリア質粉末層14を有さない比較例1と、イットリア質粉末層14に比べて厚いイットリア質被覆層15が形成された比較例4では、イットリア質粉末層14によるアンカー効果が発揮されにくく、デポ膜剥離に起因するパーティクルが発生していた。イットリア質被覆層15の厚みが小さい比較例3では、耐ガスクリーニング性に劣っていた。
【表1】
【0029】
前記ウェーハボートをSiCで形成した場合において、ウェーハ支持面12に粒径3~5μmのSiC粉末の水分散液を噴霧して凹凸構造を形成した後、CVDによりSiCを被膜した形態であっても、デポ膜剥離起因のパーティクル発生を抑制され、ウェーハ熱処理減圧CVD(LPCVD)プロセスへの適用が可能となると考えられる。
【符号の説明】
【0030】
1 ウェーハボート
11 ウェーハ支持部材
12 ウェーハ支持面
13 支持溝
14 イットリア質粉末層
15 イットリア質被覆層
16 CVD-SiC膜
101 ノズル
102 噴霧器
103 粉末状イットリア水分散液
W ウェーハ