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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】車両用シートパッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A47C 27/22 20060101AFI20240207BHJP
   A47C 7/18 20060101ALI20240207BHJP
   B60N 2/90 20180101ALI20240207BHJP
【FI】
A47C27/22
A47C7/18
B60N2/90
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018082688
(22)【出願日】2018-04-24
(65)【公開番号】P2019187712
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-01-26
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】松本 真人
【合議体】
【審判長】一ノ瀬 覚
【審判官】中村 則夫
【審判官】八木 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-206077(JP,A)
【文献】特開2007-84039(JP,A)
【文献】特開2013-233680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも乗員が当接する側の当たり面部分を軟質ポリウレタン発泡成形体で形成した車両用シートパッドにおいて、
ブロック状に成形されたビーズ発泡成形体にして、その表裏方向に透孔が貫通している芯パッドと、
該芯パッドの表面に覗く前記透孔の孔口を覆って該芯パッドの表面に接合した通気性を有する多孔質体と、
軟質ポリウレタン発泡成形体にして、その意匠面側に前記当たり面部分を形成すると共に、前記多孔質体に含浸一体化した硬化部分を形成し、且つ前記意匠面側と反対の内面側が前記芯パッドの表面に、直接又は該多孔質体を介して当接した表層パッドと、を具備することを特徴とする車両用シートパッド。
【請求項2】
前記多孔質体が不織布又はスラブウレタンからなる請求項1記載の車両用シートパッド。
【請求項3】
前記多孔質体を、前記孔口の対向域では通気性が保たれたままにして、前記芯パッドとの対向面に接着剤が付いた接着剤付き多孔質体とし、且つ該多孔質体が該接着剤で前記芯パッドの表面に接着固定された請求項1又は2に記載の車両用シートパッド。
【請求項4】
前記芯パッドの表面に凹みを形成し、その底面から該芯パッドの裏面へ貫通する前記透孔が設けられ、且つ該凹み内に前記多孔質体を詰めて前記孔口を覆った請求項1乃至3のいずれか1項に記載の車両用シートパッド。
【請求項5】
前記凹みは、その入口側開口の面積よりもその底面の面積の方が大きく形成されている請求項4記載の車両用シートパッド。
【請求項6】
少なくとも乗員が当接する側の当たり面部分を軟質ポリウレタン発泡成形体で形成した車両用シートパッドの製造方法において、
ブロック状に成形されたビーズ発泡成形体にして且つその表裏方向に透孔が貫通している芯パッドを、裏面側が上型キャビティ面に当たるように係止してセットすると共に、該芯パッドの表面に覗く前記透孔の孔口を通気性の多孔質体で覆って、該芯パッドの表面に該多孔質体を係止してセットし、
次いで、下型キャビティ面上に軟質ポリウレタン発泡成形体用の発泡原料を注入すると共に型閉じし、
その後、意匠面側に前記当たり面部分を形成すると共に前記多孔質体に前記発泡原料が含浸硬化し、前記意匠面側と反対の内面側が前記芯パッドの表面に、直接又は該多孔質体を介して当接する軟質ポリウレタン発泡成形体の表層パッドを発泡成形したことを特徴とする車両用シートパッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用座席シートを構成する車両用シートパッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両用座席シートの座部や背もたれを構成するシートパッドは、快適なクッション性が得られるよう軟質ポリウレタン発泡成形体で造られてきたが、近年は、燃費向上に向け、その一部をポリスチロール発泡体等のビーズ発泡成形体からなる芯パッドに置き代える軽量化の動きが進んでいる(特開平9-70330号公報等)。ただ、ビーズ発泡成形体との境界に欠肉不良を起こし易い課題に直面している。通常、上型にビーズ発泡成形体からなる非通気性の芯パッドをセットして、図7ごとくの型閉じ後、該芯パッドを埋設して軟質ポリウレタン発泡成形体の表層パッドを発泡成形するが、発泡成形過程で発生する余剰ガスが行き場を失うのである。欠肉不良は、乗員が着座した際、底付き等の不具合を引き起こし、また製品内部にできることから発泡成形後に発見が難しいという問題がある。さらに、表層パッドの発泡成形で、ビーズ発泡成形体の芯パッドとの一体化を終えると、製品を分解するのが困難で一層厄介な問題となる。こうしたことから、欠肉不良対策を講じた発明が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-206077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、特許文献1の発明は、芯パッドに設けた透孔を活用して、発泡成形過程で発生する余剰ガスを放出できるものの、時にウレタン発泡原料が透孔を通って芯パッド裏面に浸入付着し、これが車両骨格フレームと擦れあって異音を発生する新たな問題を引き起こす可能性がある。その場合、芯パッド裏面に付着したウレタン発泡原料の膜状硬化物を後加工で取り除かねばならない。特に芯パッドの窪んだ目地部分等に入り込むと難儀で、労力負担が大きくなってしまう。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するもので、芯パッドを用いて軟質ポリウレタン発泡成形体の表層パッドを発泡成形する際、余剰ガスによる欠肉不良を解消するにとどまらず、その発泡成形で、ウレタン発泡原料の芯パッド裏面側への浸入付着を起こさせない品質良好な車両用シートパッド及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、請求項1に記載の発明の要旨は、少なくとも乗員が当接する側の当たり面部分を軟質ポリウレタン発泡成形体で形成した車両用シートパッドにおいて、ブロック状に成形されたビーズ発泡成形体にして、その表裏方向に透孔が貫通している芯パッドと、該芯パッドの表面に覗く前記透孔の孔口を覆って該芯パッドの表面に接合した通気性を有する多孔質体と、軟質ポリウレタン発泡成形体にして、その意匠面側に前記当たり面部分を形成すると共に、前記多孔質体に含浸一体化した硬化部分を形成し、且つ前記意匠面側と反対の内面側が前記芯パッドの表面に、直接又は該多孔質体を介して当接した表層パッドと、を具備することを特徴とする車両用シートパッドにある。請求項2の発明たる車両用シートパッドは、請求項1で、多孔質体が不織布又はスラブウレタンからなることを特徴とする。請求項3の発明たる車両用シートパッドは、請求項1又は2で、多孔質体を、前記孔口の対向域では通気性が保たれたままにして、前記芯パッドとの対向面に接着剤が付いた接着剤付き多孔質体とし、且つ該多孔質体が該接着剤で前記芯パッドの表面に接着固定されたことを特徴とする。請求項4の発明たる車両用シートパッドは、請求項1~3で、芯パッドの表面に凹みを形成し、その底面から該芯パッドの裏面へ貫通する前記透孔が設けられ、且つ該凹み内に前記多孔質体を詰めて前記孔口を覆ったことを特徴とする。請求項5の発明たる車両用シートパッドは、請求項4で、凹みは、その入口側開口の面積よりもその底面の面積の方が大きく形成されていることを特徴とする。
請求項6に記載の発明の要旨は、少なくとも乗員が当接する側の当たり面部分を軟質ポリウレタン発泡成形体で形成した車両用シートパッドの製造方法において、ブロック状に成形されたビーズ発泡成形体にして且つその表裏方向に透孔が貫通している芯パッドを、裏面側が上型キャビティ面に当たるように係止してセットすると共に、該芯パッドの表面に覗く前記透孔の孔口を通気性の多孔質体で覆って、該芯パッドの表面に該多孔質体を係止してセットし、次いで、下型キャビティ面上に軟質ポリウレタン発泡成形体用の発泡原料を注入すると共に型閉じし、その後、意匠面側に前記当たり面部分を形成すると共に前記多孔質体に前記発泡原料が含浸硬化し、前記意匠面側と反対の内面側が前記芯パッドの表面に、直接又は該多孔質体を介して当接する軟質ポリウレタン発泡成形体の表層パッドを発泡成形したことを特徴とする車両用シートパッドの製造方法にある。請求項7の発明たる車両用シートパッドの製造方法は、請求項6で、多孔質体が不織布又はスラブウレタンからなることを特徴とする。請求項8の発明たる車両用シートパッドの製造方法は、請求項6又は7で、多孔質体を、前記孔口の対向域では通気性が保たれたままにして、前記芯パッドとの対向面に接着剤が付いた接着剤付き多孔質体とし、前記芯パッドの表面に覗く前記透孔の孔口を該多孔質体で覆って、該多孔質体を該接着剤で前記芯パッドの表面に接着固定してセットすることを特徴とする。請求項9の発明たる車両用シートパッドの製造方法は、請求項6~8で、芯パッドの表面に凹みを形成し、その底面から該芯パッドの裏面へ貫通する前記透孔が設けられ、該凹み内に前記多孔質体を詰めて前記孔口を覆うようにして、該芯パッドの表面に該多孔質体を接合させて該上型キャビティ面にセットしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車両用シートパッド及びその製造方法は、欠肉不良を解消し、且つ芯パッド裏面側へのウレタン発泡原料の膜状硬化物の付着をなくし、さらに芯パッドへの表層パッドの一体化も可能になるなど優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明のシートパッド及びその製造方法の一形態で、シートパッドの斜視図である。
図2図1のII-II線矢視図である。
図3図2に代わる他態様図である。
図4】(イ)が凹みと多孔質体の対比図、(ロ)が図3の部分拡大図である。
図5】型開状態の発泡成形型に芯パッドをセットし、発泡原料を注入する断面図である。
図6】芯パッドに多孔質体を係止する説明拡大図である。
図7】型閉じした断面図である。
図8】表層パッドの発泡成形を終えた断面図である。
図9図8の部分拡大図である。
図10図5に代わる他態様の説明断面図である。
図11図6に代わる他態様の説明断面図である。
図12図7に代わる他態様の説明断面図である。
図13図8に代わる他態様の説明断面図である。
図14図9に代わる他態様の説明断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る車両用シートパッド(以下、単に「シートパッド」ともいう。)及びその製造方法について詳述する。図1図14は本発明のシートパッド及びその製造方法の一形態で、図1はシートパッドの斜視図、図2図1のII-II線矢視図、図3図2に代わる他態様図、図4は(イ)が凹みと多孔質体の対比図、(ロ)が図3の部分図、図5は発泡成形型に芯パッドをセットし、発泡原料を注入する断面図、図6は芯パッドに多孔質体を係止する説明図、図7は型閉じした断面図、図8は表層パッドの発泡成形を終えた断面図、図9図8の部分図、図10図14図5図9に代わる他態様図を示す。尚、各図は判り易くするため、簡略化して発明要部を強調図示する。
【0010】
(1)車両用シートパッド
車両用シートパッドSは、背もたれ用のバックパッドや着座した乗員の下半身を受け支えるクッションパッドである。本実施形態は車両後部座席の図1のようなクッションパッドに適用する。クッションパッドに表皮を被せてシートクッションの形にすれば、公知のバックパッドに表皮を被せたシートバックと公知のヘッドレストとで、車幅方向中央に補助席部が付加された後部座席シートを形成する。
シートパッドSは、芯パッド1と多孔質体2と表層パッド5とを具備する。図2は紙面水平左方向が車両前方、図1では紙面斜め右上方向が車両前方になる。
【0011】
芯パッド1は、シートパッドSの下半部を占める図2のような大きさにして、ブロック状に成形されたビーズ発泡成形体である。表層パッド5を形成する軟質ポリウレタン発泡成形体の見掛け密度よりも見掛け密度が小のビーズ発泡成形体で構成し、シートパッドSの裏面側に配される。芯パッド1と表層パッド5との密度比較は、発泡前の素材の密度でなく、発泡後の見掛け密度で比較する。
芯パッド1は見掛け密度が表層パッド5を形成する軟質ポリウレタン発泡成形体の見掛け密度よりも小さければ充足し、例えば発泡ポリプロピレン、発泡スチロール、又はこれらの一方を少なくとも含むビーズ発泡成形体等がある。
【0012】
車両設置時に上面になる芯パッド1の表面1aは、図2のように車両前方側から乗員着座時に体重がのる臀部の下方部位まで下降傾斜し、ここを湾底にして、その後、車両後方側へ向けて上昇傾斜する湾曲面が形成される。そして、湾曲面にした芯パッド1の湾底域に、表面1aから裏面1bへ貫通するガス抜き用の透孔12を設ける。図2の芯パッド1は表裏方向に同一孔径の透孔12が貫通するが、図3,図4では、芯パッド表面1aに凹み13を形成し、該凹み13の底面132から芯パッド裏面1bへ貫通する透孔12を設けている。
符号141は、車両前方側及び車両後方側の芯パッド側壁14にて、該芯パッド1の裏面側下部を段差状に凹ませてできた段差面を示す。
【0013】
多孔質体2は、芯パッド1の表面1aに覗く透孔12の孔口120を覆って、芯パッド表面1aに接合する通気性のシート状体又は塊状体である。孔口120を通気性多孔質体2で覆うことで、表層パッド5の発泡成形時に、余剰ガスが孔口120から透孔12を通って放出され、液状発泡原料Gは該多孔質体2内へ浸入すると発泡膨張が抑制され発泡硬化へと進む。
【0014】
多孔質体2は、例えば通気性を有する編み物,織物等の布地の他、不織布,フェルトやスラブウレタン等のシート状体、又はこれらの切れ端を丸めた塊状体である。図2のような孔口120を覆う多孔質体2は、扱い易さと共に、余剰ガスの円滑なガス抜きや、発泡成形時における発泡原料Gの多孔質体2内での発泡硬化を促すことのできる不織布やスラブウレタンのシート状体がより好ましい。
さらに、多孔質体2は、図2,図6のごとく、孔口120の対向域では通気性が保たれた露出面20のままにして、該露出面20以外の芯パッド1との対向面に接着剤3が付いた接着剤3付き多孔質体2とするのが好ましい。該接着剤3で多孔質体2が芯パッド表面1aに接着固定される。芯パッド1に多孔質体2が接着剤3で接着固定され、且つ表層パッド5の発泡成形で多孔質体2内に発泡原料Gが発泡硬化することで、本来、結合が困難な発泡スチロール製芯パッド1とポリウレタン製表層パッド5が接着剤3付き多孔質体2を介して結合できるからである。本実施形態は、孔口120を覆うだけでなく、芯パッド1と表層パッド5との結合力を一段と高めるべく図2のような大きなシート状多孔質体2を用いる。図中、符号2aは表層パッド5との多孔質体2の接合面を示す・
【0015】
表層パッド5は、軟質ポリウレタン発泡成形体用の発泡原料Gを用いて、外形がクッションパッド座部形状に成形された発泡成形品である。少なくとも乗員が当接する側の当たり面部分51を軟質ポリウレタン発泡成形体で形成する。乗員が当接する意匠面5a側に当たり面部分51が設けられ、且つ内面5bが芯パッド1の表面形状にならうように設けられた表層パッド5が芯パッド表面1aを覆う。そして、芯パッド裏面1bは露出面19として残しながら、芯パッド1の側壁14が表層パッド5の側壁部55で覆われる。表層パッド5の発泡成形によって、当たり面部分51を形成すると共に多孔質体2に含浸一体化した硬化部分52を形成し、表層パッド5の内面5b側が、直接又は多孔質体2を介して芯パッド表面1aに当接する(図2,図9)。さらに場合によっては、発泡成形時の発泡原料Gのごく一部が多孔質体2を越えて透孔12に浸入し、孔口120近くに硬化物54が沈着する。
【0016】
ここでの表層パッド5は、乗員が座るメイン部5Aと、該メイン部の両外側で隆起して、該乗員に係る臀部,大腿部の側部を支えるサイド部5Bと、補助席部5Cとを備える(図1図6)。そして、図2で説明すると、表層パッド5は車両前方側の側壁部55がその上端で当たり面部分51とつながり、該当たり面部分51は車両後方へ向けその厚みが徐々に増し、乗員の臀部を支える部分で最大になる。その後は、厚みを小さくして斜面5Dを形成し、バックパッドとの合わせ部5Eに至る。前記芯パッド1に湾曲面を形成したことによって、着座乗員の臀部下に位置する表層パッド5の厚みが大きくなり、クッション性が良好な所望のシートパッドSになっている。
【0017】
図3,図4図2に代わる他態様のシートパッドSを示す。芯パッド1の表面1aに、開口130が孔口120より大の凹み13を形成し、凹み底面132に孔口120を設け、芯パッド1の表裏方向に透孔12が貫通する。凹み13内に多孔質体2が詰められて孔口120を覆うシートパッドSになっている。多孔質体2は図4(イ)のごとく凹み13の大きさよりも一回り大きくし、該多孔質体2を圧縮させて凹み13内に詰められる。多孔質体2はスラブウレタンや不織布を凹み13に合せてカットしたものでもよいが、不織布等の布地の切れ端を丸めて塊状にしたものであってもよく、廃材を活用できる。
また、凹み13の形状は椀状や柱状の凹所でもよいが、凹み13の入口側開口130の面積よりも底面132の面積の方が大きく形成されている方が好ましい。例えば図4のごとく縦断面をアリ溝状又は錐台穴の凹み13にすると、多孔質体2を圧縮させて凹み13内に収めることで、凹み側壁面131に多孔質体2の側周面24が当たってストッパ作用が働き、芯パッド1へ多孔質体2を係止できる。さらに図4(ロ)のように表層パッド5の発泡成形で、多孔質体2内への発泡原料Gの含浸硬化部分52が形成されることによって、多孔質体2を介して表層パッド5と芯パッド1との一体化も可能になる。
尚、前記透孔12、多孔質体2、さらに凹み13は、一箇所にだけ図示したが、勿論複数設けることができる。符号53は段差面141があるアンダーカット部を埋める表層パッド5の発泡成形部、符号59は縦溝591,横溝592等の吊溝を示す。
【0018】
(2)車両用シートパッドの製造方法
前記シートパッドSは例えば次のような製法によって造られる。発泡成形型7を用い、少なくとも乗員が当接する側の当たり面部分51を軟質ポリウレタン発泡成形体で形成した表層パッド5を発泡成形し、その発泡成形で芯パッド1と多孔質体2を埋設一体化する車両用シートパッドの製造方法である。
【0019】
芯パッド1と多孔質体2は、(1)シートパッドで述べたものと同様で、説明を省く。
発泡成形型7は、図5ごとくの分割型で、下型8と上型9はヒンジ71で開閉可能に接続されている。図7のごとく型閉じすると、全体が椀状にへこんで当たり面部分51の意匠面5aを形成する下型キャビティ面81と、全体が平坦な芯パッド1の裏面1bに合わせた上型キャビティ面91とで、図1に示すII-II線断面のシートパッドS用キャビティCをつくる。透孔12の孔口120を覆った多孔質体2付き芯パッド1を上型キャビティ面91にセットし、発泡原料Gを注入後、型閉じし、表層パッド5を発泡成形すると、図1,図8のシートパッドSを造ることのできる発泡成形型7になっている。尚、図5図8の発泡成形型7は図2のシートパッドSを上下が逆になった形で成形する。
【0020】
前記芯パッド1と多孔質体2と発泡成形型7を用いて、シートパッドSが例えば次のように製造される。
まず、発泡成形型7の型開状態下、図5のようなブロック状に成形されたビーズ発泡成形体にして且つその表裏方向に透孔12が貫通している芯パッド1を、芯パッド裏面1b側が上型キャビティ面91に当たるようにして、図示しない係止具で係止してセットする。このセットと相前後して、芯パッド1の表面1aに覗く透孔12の孔口120を通気性のシート状多孔質体2で覆って、芯パッド表面1aに該多孔質体2を係止、セットする。ここでの多孔質体2は、孔口120の対向域で通気性が保たれた露出面20のままにして、芯パッド表面1aとの対向面2bに接着剤3が付いた接着剤3付き多孔質体2にする。そして、芯パッド1の表面1aに多孔質体2が接着剤3で接着固定された多孔質体2付き芯パッド1とする。しかる後、多孔質体2と一体の芯パッド1を上型キャビティ面91に図5のごとくセットする。
多孔質体2で孔口120が覆われた芯パッド1を上型キャビティ面91へセットした後、下型キャビティ面81上に、注入ノズルNL等を使用して軟質ポリウレタン発泡成形体用の発泡原料Gを所定量注入する。
【0021】
続いて、上型9を作動させ型閉じする(図7)。上型9と下型8との型閉じで、多孔質体2付き芯パッド1がインサートセットされたシートパッド用キャビティCができる。尚、本実施形態は発泡原料Gを注入後に型閉じしたが、型閉じした後、発泡原料Gを注入することもできる。
【0022】
型閉じ後、表層パッド5の発泡成形に移る。意匠面5a側に着座乗員の当たり面部分51を有する、軟質ポリウレタン発泡成形体からなる表層パッド5を発泡成形する。図7の型閉じ状態を所定時間維持し、当たり面部分51を形成すると共に多孔質体2に発泡原料Gが含浸硬化し、内面5b側が芯パッド1の表面1aに直接又は多孔質体2を介して当接する軟質ポリウレタン発泡成形体の表層パッド5を発泡成形する。表層パッド5の内面5b側が芯パッド1の表面1aに接合した表層パッド5を形成する。
【0023】
表層パッド5の発泡成形に伴い、発泡原料Gが型閉じ下のキャビティC内を上昇し、キャビティCに存在していた空気や余剰の発泡ガスは通気性多孔質体2を潜って透孔12を通り抜けた後、型合せ面89,99や図示しない逃し溝を通って型外に放出される。上下を逆にしたシートパッドSを成形するキャビティC内では、芯パッド1の湾底が高位置になり(図7)、湾底に在る透孔12へ余剰の発泡ガスが集まり型外へ円滑排出される。発泡成形で余剰ガスは孔口120に効率良く寄せ集められるので、余剰ガスによる欠肉不良をなくす。
一方、液状発泡原料Gは、発泡上昇し表層パッド5を形成するキャビティCを埋め、さらに一部が多孔質体2へ浸入するが、浸入した発泡原料Gは多孔質体2内で微細孔を多数形成した細孔壁或いは三次元網目構造の繊維等との表面接触で発泡膨張が抑えられる。多孔質体2内に浸入した発泡原料Gの見掛け密度及び硬度が高くなり、該発泡原料Gは多孔質体2に含浸硬化する。この含浸硬化部分52が多孔質体2と一体化することによって、表層パッド5は含浸硬化部分52を介して多孔質体2に結合する。既述のごとく、シート状多孔質体2が芯パッド1に接着固定されていることから、軟質ポリウレタン発泡成形体の表層パッド5と発泡スチロール等の芯パッド1とが接合力に乏しくても、両者が表層パッド5の成形によって多孔質体2,含浸硬化部分52,接着剤3を介して接合一体化する。発泡成形を完了させ脱型すれば、芯パッド1の採用で軽量化を実現し、且つ芯パッド1と表層パッド5とが多孔質体2,含浸硬化部分52,接着剤3を介して結合力を高めた所望のシートパッドSが出来上がる。
尚、発泡原料Gは多孔質体2との接触で発泡膨張が抑えられるが、万一、発泡原料Gが多孔質体2を通り抜けることが起こってもごく僅かで、透孔12の孔口120から芯パッド裏面1b側の孔穴口121までの途中で硬化物54となって固化し、芯パッド裏面1bに達することはない。
【0024】
図10図14図5図9に代わる他態様図を示す。芯パッド1の表面1aに凹み13を形成し、その底面132から該芯パッド1の裏面1bへ貫通する透孔12が設けられた芯パッド1を採用する。凹み底面132に覗く透孔12の孔口120を覆うように塊状の通気性多孔質体2を凹み13内に詰めて、該多孔質体2を芯パッド1の表面1aに接合、係止させ、上型キャビティ面91に該多孔質体2付き芯パッド1をセットする(図10)。多孔質体2は圧縮して凹み13内に詰め込まれたことによる弾性復元力で凹み13に係止されるので、係止具や接着剤3等を用いなくて済む。
凹み13は図11のごとくその入口側開口130の面積よりもその底面132の面積の方が大きく形成された断面がアリ溝状又は錐台穴とする。凹み13よりも大きな塊状多孔質体2を圧縮して詰めることで、多孔質体2は芯パッド1と一体になる。
【0025】
後は、発泡原料Gの注入後、型閉じし(図12)、当たり面部分51を形成すると共に多孔質体2に発泡原料Gが含浸硬化し、且つ内面5b側が芯パッド表面1aに、直接又は多孔質体2を介して当接する表層パッド5を発泡成形してシートパッドSを得る(図13)。
表層パッド5の発泡成形過程で、液状発泡原料Gは上昇し、凹み13内の多孔質体2内に浸入すると発泡原料Gの発泡膨張が止まり発泡硬化することで、含浸硬化部分52を形成する(図14)。多孔質体2を発泡原料Gが潜り抜けることがあってもごく一部であり、孔口120寄り透孔12内に硬化物54としてとどまる。一方、発泡成形で発生する余剰ガスは、通気性多孔質体2を潜り抜けて透孔12から型外へ円滑放出されることから、発泡成形を終え、脱型すれば、芯パッド裏面1bに膜状硬化物の付着がない所望のシートパッドSが出来上がる。
【0026】
(3)効果
このように構成した車両用シートパッド及びその製造方法によれば、軟質ポリウレタン発泡成形体の一部をビーズ発泡成形体の芯パッド1に代えているので、軽量化を推し進めることができる。それでいて、図2のごとく芯パッド表面1aに、車両前方側から乗員着座で体重がのる臀部域の下方部位まで下降傾斜し、ここを湾底にして、その後、車両後方側へ向けて上昇傾斜する湾曲面が形成され、臀部下に厚みを大にした軟質ポリウレタン発泡成形体の表層パッド5を配することができるので、快適なクッション性は維持される。
そして、芯パッド1の表裏方向に透孔12が貫通しているので、表層パッド5の発泡成形時に、余剰の発泡ガスは、孔口120を覆う通気性多孔質体2を潜り抜け、該透孔12を通って型外へ円滑放出される。特に、着座時の臀部域の下方部位を湾曲面の湾底にし、且つ該湾底部位に表裏方向に透孔12が貫通する芯パッド1とし、発泡成形時に湾曲面の高地点に透孔12の孔口120が配されると、発泡成形時の余剰ガスは図7,図8のごとく孔口120へ集められることになり、スムーズに透孔12を通って型外へ放出できる。したがって、発泡成形過程で発生する余剰ガスが行き場を失って、欠肉不良といった品質不具合を招くことがない。
【0027】
一方、通気性を有する多孔質体2が芯パッド表面1aに覗く孔口120を覆って芯パッド表面1aに接合しているので、表層パッド5の発泡成形時に、発泡原料Gは多孔質体2内に浸入すると多孔質体2内で発泡が抑制され硬化を促される。液状発泡原料Gが発泡しながら該多孔質体2内に浸入し、細孔壁や三次元網目構造の繊維相互がからまった多孔質体2の極めて大きな表面積を有する微細孔形成組織に接触すると、発泡が効果的に抑制され、発泡膨張が止まる。表層パッド5の発泡成形で、液状発泡原料Gは、発泡しながら上昇して多孔質体2に浸入し、透孔12を通って余剰発泡ガスを放出する傍ら、多孔質体2に含浸一体化した硬化部分52を形成し、該多孔質体2に一体固化する。多孔質体2から発泡原料Gの一部が漏れ出ても、ごく一部にとどまって、孔口120近くの透孔12内に硬化物54となって沈着する。芯パッド裏面1b側の孔穴口121には達しない。多孔質体2の存在により、従来のように芯パッド裏面1b側にまで発泡原料Gが流出して膜状硬化物を付着させることはない。故に、芯パッド1に付着した膜状硬化物を後加工で取り除くといった労力負担を強いられることがない。図1のような後部座席の大きなシートパッドSでの後加工が省略でき、生産性,作業性の大幅な向上につながる。また、芯パッド裏面1bの目地等に入り込んだ該膜状硬化物は取り除くにしても、除去困難な残存部分が残って見た目に悪い印象を与えるが、こうした不具合もない。品質的に優れたシートパッドを生産できる。
【0028】
さらに、図2,図8のように多孔質体2が接着剤3で芯パッド表面1aに接着固定されると、表層パッド5は、その発泡成形で、発泡原料Gが多孔質体2に硬化部分52を形成して含浸一体化するので、表層パッド5と芯パッド1とを結合一体化できる。
通常、発泡スチロール等のビーズ発泡成形体からなる芯パッド1への軟質ポリウレタン発泡成形体の表層パッド5の接着力は乏しく結合が弱い。しかるに、本発明では、表層パッド5はその硬化部分52が一体化した多孔質体2に結合し、該多孔質体2は芯パッド1に接着剤3で接着固定するので、表層パッド5と芯パッド1との固定化が図られる。芯パッド1に接着固定し且つ発泡原料Gが含浸硬化した多孔質体2を、芯パッド1と表層パッド5間に介在させて両者の連結一体が図られる。車室内で、乗員がシートパッドS上を横移動等する際に、表層パッド5が芯パッド1に対し横ずれしたり滑ったりする不具合のない高品質のシートパッドSになる。
特に大きな図1のような後部座席のシートパッドSでは、段差面141の下方にアンダーカットを埋める軟質ポリウレタン発泡成形部53を設けても、外周縁域に限られることから、芯パッド表面1aと表層パッド内面5bとが浮いたり分離したりする虞がある。しかるに、当たり面部分51の中央主要域における芯パッド表面1aと表層パッド内面5bとを結合させる接着剤3付きシート状多孔質体2を設けることで、表層パッド5と芯パッド1とがずれたり離れたりしない一体感のある極めて優れもののシートパッドSになる。さらにいえば、孔口120を覆う接着剤3付きシート状多孔質体2を芯パッド表面1aの全域又は全域近くまで広げて接着固定すると、段差面141や軟質ポリウレタン発泡成形部53をなしにしても、表層パッド5と芯パッド1の一体強化を図ることができる。
【0029】
また、芯パッド1の表面1aに凹み13を形成し、底面132から芯パッド1の裏面1bへ貫通する透孔12が設けられ、且つ該凹み13内に多孔質体2を詰めて孔口120を覆ったシートパッドSであると、凹み13の入口側開口130,底面132が透孔12の孔口120に制限を受けず大きくでき、また凹み13深さを大にできる。よって、表層パッド5の発泡成形時に多孔質体2内で発泡原料Gの発泡が抑制され硬化を促すに十分な大きさの多孔質体2を該凹み13に詰めることができる。多孔質体2から発泡原料Gの一部が透孔12へ漏れ出すのも解消可能になる。
加えて、入口側開口130の面積よりも底面132の面積の方が大きな凹み13が形成されると、凹み13よりも大き目の多孔質体2を凹み13内に圧縮させて詰めることによって、接着剤3なしでも孔口120を多孔質体2で覆って、芯パッド1に該多孔質体2を簡単に係止できる。
かくのごとく、本車両用シートパッド及びその製造方法は、上述した種々の優れた効果を発揮し極めて有益である。
【0030】
尚、本発明は前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。芯パッド1,多孔質体2,接着剤3,表層パッド5,発泡成形型7等の形状,大きさ,個数,材質等は用途に合わせて適宜選択できる。実施形態はクッションパッドに適用したが、背もたれ用バックパッドにも適用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 芯パッド
1a 表面(芯パッド表面)
1b 裏面(芯パッド裏面)
12 透孔
120 孔口
2 多孔質体
3 接着剤
5 表層パッド
5a 意匠面
5b 内面
51 当たり面部分
52 含浸硬化部分(硬化部分)
81 下型キャビティ面
92 上型キャビティ面
C キャビティ
G 発泡原料
S シートパッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14