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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】クロスローラ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/36 20060101AFI20240207BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
F16C19/36
F16C33/58
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019129093
(22)【出願日】2019-07-11
(65)【公開番号】P2021014871
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】川上 雄一郎
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-127319(JP,A)
【文献】実開昭59-125615(JP,U)
【文献】特開2008-014473(JP,A)
【文献】特開2007-170418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
V溝状の外輪軌道面(5)が内径側に形成された外輪(2)と、
前記外輪軌道面(5)と対向するV溝状の内輪軌道面(6)が外径側に形成された内輪(3)と、
前記外輪軌道面(5)と、前記内輪軌道面(6)との間に、傾斜角度が交互に変わるように、周方向の全周に亘って配置された複数のローラ(4)と、
を有し、
前記外輪軌道面(5)及び前記内輪軌道面(6)、前記各軌道面(5、6)の溝肩から溝底に向かう径方向の中間の位置よりも深い溝底側のドロップ量が、前記中間の位置よりも浅い溝肩側のドロップ量よりも大きくなるようにクラウニング(9、10)が形成されているクロスローラ軸受。
【請求項2】
前記溝底側と前記溝肩側の一方側にのみ前記クラウニング(9、10)が形成されており、他方側にはストレート部(7、8)が連設されている請求項1に記載のクロスローラ軸受。
【請求項3】
前記各軌道面(5、6)の前記中間の位置に前記クラウニング(9、10)が形成されていないストレート部(7、8)を有し、前記ストレート部(7、8)の前記溝底側及び前記溝肩側の両方に前記クラウニング(9、10)が連設されている請求項1に記載のクロスローラ軸受。
【請求項4】
前記外輪軌道面(5)及び前記内輪軌道面(6)の両方に前記クラウニング(9、10)が形成されている請求項1から3のいずれか1項に記載のクロスローラ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外輪と内輪の間に、周方向に交互に傾斜方向が異なるようにローラが配置されたクロスローラ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットの減速機等に用いられるクロスローラ軸受は、高い位置決め精度や繰り返し精度、高いモーメント剛性等の安定した特性が求められる。
【0003】
例えば、特許文献1に示すクロスローラベアリングは、環状に形成された一体構造の外輪及び内輪を有している。外輪の内周面には、内方に向かって開口するV字状の軌道面が円周方向に沿って形成され、内輪の外周面には、外輪の軌道溝と対向するように外方に向かって開口するV字状の軌道面が円周方向に沿って形成されている。内外輪の軌道面間には、多数のローラが、隣り合うもの同士の回転軸が交互に直交するように介装されている。
【0004】
一般的に、クロスローラ軸受の軌道面は、クラウニングが施されておらず、軸受の軸心方向に対し45度傾斜したストレート部のみで構成されている。そして、この軌道面にローラの転動面が接触して転動する(特許文献1の段落0012、図1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3739056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係るクロスローラベアリングはクラウニングが施されていないため、図7に示すように、外輪20と内輪21にそれぞれ形成されたV字状の外輪軌道面22及び内輪軌道面23とローラ24の転動面は、ローラ24の軸方向の全体に亘って接触可能となっている。
【0007】
ところが、モーメント荷重が負荷されたときは、図8に示すように、V溝の溝肩側(図7中の丸数字2’及び、丸数字3’を付した側)から溝底側(図7中の丸数字1’及び丸数字4’を付した側)に向かうほど、すなわち、溝底から溝肩までを軌道面に沿って100等分した軌道面位置において、図7中の外輪2側に付した軌道面位置100から1に向かうほど、又は、内輪3側に付した軌道面位置1から100に向かうほど、接触面圧S’、S’が単調に高くなる分布を示すことがある。このとき、接触面圧が高い部分(例えば、図8中で接触面圧が最大値のSm1’、Sm2’となる部分)を起点として不具合が生じる虞がある。ローラ24にクラウニングを施して接触面圧の分布の均一化を図ることも考えられるが、ローラ24の組み込み方向の管理が必要となるため実用化は難しい。
【0008】
そこで、この発明は、モーメント負荷時に軌道面に作用する接触面圧の分布を均一化することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、この発明においては、V溝状の外輪軌道面が内径側に形成された外輪と、前記外輪軌道面と対向するV溝状の内輪軌道面が外径側に形成された内輪と、前記外輪軌道面と、前記内輪軌道面との間に、傾斜角度が交互に変わるように、周方向の全周に亘って配置された複数のローラと、を有し、前記外輪軌道面又は前記内輪軌道面の少なくとも一方に、前記各軌道面の溝肩から溝底に向かう径方向の中間の位置よりも深い溝底側と、前記中間の位置よりも浅い溝肩側で、ドロップ量を異ならせるようにクラウニングが形成されているクロスローラ軸受を構成した。
【0010】
このようにすると、モーメント負荷時の接触面圧の分布に対応して、溝底側と溝肩側で適切なドロップ量を設定することにより、軌道面に作用する接触面圧の分布を均一化することができる。これにより、接触面圧が局所的に高くなるのを防止して、接触面圧が高い部分を起点とする不具合の発生を防止することができる。
【0011】
前記構成においては、前記溝底側と前記溝肩側の一方側にのみ前記クラウニングが形成されており、他方側にはストレート部が連設されている構成とすることができる。あるいは、前記各軌道面の前記中間の位置に前記クラウニングが形成されていないストレート部を有し、前記ストレート部の前記溝底側及び前記溝肩側の両方に前記クラウニングが連設されている構成とすることもできる。
【0012】
このようにすると、ストレート部において軌道面とローラの接触状態を確保しつつ、ローラの軸方向の一方側端部又は両端において局所的に発生する高い接触面圧を低減することができる。
【0013】
前記各構成においては、前記外輪軌道面及び前記内輪軌道面の両方に前記クラウニングが形成されている構成とすることができる。
【0014】
このようにすると、外輪と内輪の両方において、局所的に発生する高い接触面圧を低減することができ、軸受寿命の延長を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明では、クロスローラ軸受において、軌道面の溝底側と溝肩側で、ドロップ量を異ならせるようにクラウニングを形成したので、モーメント負荷時に軌道面に作用する接触面圧の分布を均一化して、接触面圧が高い部分を起点とする不具合の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明に係るクロスローラ軸受の一部を切り欠いた正面図
図2図1中のII-II線に沿う断面図(第一例)
図3図1に示すクロスローラ軸受の要部の断面図(第一例)
図4】軌道面に作用する面圧分布の一例を示す図
図5】クロスローラ軸受の要部の断面図(第二例)
図6】クロスローラ軸受の要部の断面図(第三例)
図7】従来のクロスローラ軸受の要部の断面図
図8】従来のクロスローラ軸受において軌道面に作用する面圧分布を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明に係るクロスローラ軸受1の実施形態(第一例)を、図面を用いて説明する。以下の説明では、クロスローラ軸受1の回転軸と平行な方向を軸方向、前記回転軸に対し直交する方向を径方向、前記回転軸を中心とする円弧に沿う方向を周方向という。このクロスローラ軸受1は、図1及び図2に示すように、外輪2と、外輪2の内径側に、この外輪2と同軸に配置された内輪3、及び、外輪2と内輪3の間に介在する複数のローラ4を主要な構成要素としている。これらの構成要素は、いずれも鋼製である。
【0018】
外輪2の内径側には、略直交するV溝状の外輪軌道面5が、内輪3の外径側には、外輪軌道面5と対向し、略直交するV溝状の内輪軌道面6が、それぞれ形成されている。以下においては、各軌道面5、6の溝肩から溝底に向かう径方向の中間の位置よりも深い側を溝底側(図3中の丸数字1、及び、丸数字4を付した側)、浅い側を溝肩側(図3中の丸数字2、及び、丸数字3を付した側)という。
【0019】
図2に示すように、外輪軌道面5の溝底側と溝肩側、及び、内輪軌道面6の溝底側と溝肩側は、それぞれ軌道面の形状が異なっている。すなわち、内外輪軌道面5、6の溝肩側にはクラウニングが施されておらず、この溝肩側の軌道面は、軸方向に対し45度傾斜したストレート部7、8で構成されている。その一方で、内外輪軌道面5、6の溝底側にはクラウニング9、10が施されている。このように、ストレート部7、8及びクラウニング9、10を連設したことにより、内外輪軌道面5、6の溝肩側のドロップ量(ローラ4の転動面と内外輪軌道面5、6との間の隙間の大きさ)がほぼ0であるのに対し、溝底側では溝底に向かうほどドロップ量が大きくなっており、内外輪軌道面5、6の溝底側と溝肩側でドロップ量は異なる。
【0020】
なお、図2(クロスローラ軸受1の要部の断面図を示す図3図5、及び、図6も同様)においては、内外輪軌道面5、6に形成されたクラウニング9、10を視覚的に見やすくするために、クラウニング9、10の傾斜角を誇張して描いているが、実際の傾斜角は小さく(例えば2度程度)、モーメント荷重の作用時に、内外輪軌道面5、6とローラ4の転動面が、ローラ4の軸方向の全体に亘って接触することが可能となっている。
【0021】
ローラ4は、外輪軌道面5と内輪軌道面6との間に、周方向に隣り合うローラ4の傾斜角度が交互に90度ずつ変わるように、周方向の全周に亘って配置されている。ローラ4の直径は、その回転軸方向の長さよりも若干長くなっている。このため、ローラ4の回転軸方向の端部が、このローラ4の転動面が転動する内外輪軌道面5、6のV字溝を構成する一方側の面と略直交する他方側の面に接触することなく、このローラ4をスムーズに転動させることができる。
【0022】
ローラ4の転動面は、その軸方向の全体に亘って外径の大きさが一定の円柱面であり、クラウニングは施されていない。このため、ローラ4を内外輪軌道面5、6の間に組み込む際に、その組み込み方向の管理を行う必要がなく、その組み込み作業をスムーズに行うことができる。なお、隣り合うローラ4の間に間座を配置して、ローラ4間に所定の大きさの隙間を確保した構成とすることもできる。
【0023】
図3に示すように、内外輪軌道面5、6の溝底側のみにクラウニング9、10を施す一方で、溝肩側をストレート部7、8としたときに、ローラ4の転動面から内外輪軌道面5、6に作用する接触面圧の分布の計算結果の一例を図4に示す。この計算は、外径が85mmΦ、軸方向幅が18.5mmのクロスローラ軸受1をモデルとして行ったものである。本図は、溝底から溝肩までを軌道面に沿って100等分し、その100等分された軌道面位置のうちローラ4と接触している領域における接触面圧の分布を示している。図3及び図4中に示す丸数字1と丸数字4が溝底側に対応し、丸数字2と丸数字3が溝肩側に対応する。
【0024】
このように、内外輪軌道面5、6の溝底側のみにクラウニング9、10を施すことにより、溝底側で高くなりやすい接触面圧を低減して(従来のクロスローラ軸受に係る図8中に示した最大接触面圧Sm1’、Sm2’と、図4中に示した最大接触面圧Sm1、Sm2との大小関係が、Sm1<Sm1’かつSm2<Sm2’)、この接触面圧の均一化を図ることができる。これにより、接触面圧が高い部分を起点とする不具合の発生を防止することができる。しかも、ストレート部7、8において軌道面とローラ4との間の安定的な接触状態を確保することができるため、クロスローラ軸受1の回転安定性を高めることができる。
【0025】
なお、図4に示した接触面圧の分布はあくまでも一例に過ぎず、クラウニング9、10の形状(傾斜角の大きさや、溝底から溝肩に向かう方向の長さ等)を変化させることにより、接触面圧が高い部分が生じないようにその分布を適宜変化させることもできる。
【0026】
この発明に係るクロスローラ軸受1の他の実施形態(第二例)を図5に示す。このクロスローラ軸受1の基本構成は第一例のものと共通しているが、内外輪軌道面5、6の形状が異なっている。
【0027】
すなわち、第二例に係るクロスローラ軸受1においては、内外輪軌道面5、6が、溝底側(図5中の丸数字1、及び、丸数字4を付した側)と溝肩側(図5中の丸数字2、及び、丸数字3を付した側)の中間部に形成されたストレート部7、8と、ストレート部7、8の溝底側に連設された第一クラウニング9a、10aと、ストレート部7、8の溝肩側に連設された第二クラウニング9b、10bによって構成されている。第一クラウニング9a、10aと第二クラウニング9b、10bは、傾斜角の大きさや、溝底から溝肩に向かう方向の長さが相違し、ドロップ量は互いに異なる。
【0028】
このように、内外輪軌道面5、6の溝底側と溝肩側の両方にクラウニング9a、9b、10a、10bを施すことにより、ローラ4の軸方向両端との接触に伴って高くなりやすい接触面圧を低減して、この接触面圧の均一化を図ることができる。このため、第一例に係るクロスローラ軸受1と同様に、接触面圧が高い部分を起点とする不具合の発生を防止することができる。しかも、ストレート部7、8において軌道面とローラ4との間の安定的な接触状態を確保することができるため、クロスローラ軸受1の回転安定性を高めることができる。
【0029】
この発明に係るクロスローラ軸受1のさらに他の実施形態(第三例)を図6に示す。このクロスローラ軸受1の基本構成は第一例及び第二例のものと共通しているが、内外輪軌道面5、6の形状がさらに異なっている。
【0030】
すなわち、第三例に係るクロスローラ軸受1においては、内外輪軌道面5、6が、溝底側(図6中の丸数字1、及び、丸数字4を付した側)に形成された第一クラウニング9a、10aと、溝肩側(図6中の丸数字2、及び、丸数字3を付した側)に形成された第二クラウニング9b、10bによって構成されている。第一クラウニング9a、10aと第二クラウニング9b、10bは、傾斜角の大きさや溝底から溝肩に向かう方向の長さが相違し、ドロップ量は互いに異なる。
【0031】
このように、内外輪軌道面5、6の溝底側と溝肩側の両方にクラウニング9a、9b、10a、10bを施すことにより、第二例に係るクロスローラ軸受1と同様に、ローラ4の軸方向両端との接触に伴って高くなりやすい接触面圧を低減して、この接触面圧の均一化を図ることができる。このため、第一例に係るクロスローラ軸受1と同様に、接触面圧が高い部分を起点とする不具合の発生を防止することができる。
【0032】
上記実施形態に示すクロスローラ軸受1はあくまでも例示に過ぎず、モーメント負荷時に軌道面に作用する接触面圧の分布を均一化する、というこの発明の課題を解決し得る限りにおいて、各構成部材の形状、配置、素材等を適宜変更することが許容される。
【0033】
上記実施形態においては、V溝状の内外輪軌道面5、6を、傾斜角が異なる複数の部分(第一例ではストレート部7、8とクラウニング9、10、第二例ではストレート部7、8と2か所のクラウニング9a、9b、10a、10b、第三例では2か所のクラウニング9a、9b、10a、10b)によって構成したが、内外輪軌道面5、6の全体に連続したクラウニング9によって構成することもできる。また、上記実施形態においては、V溝状の内外輪軌道面5、6を、その溝中心に対して対称の形状としたが、非対称の形状とすることもできる。また、外輪軌道面5又は内輪軌道面6の一方側のみにクラウニング9を施すこともできる。
【符号の説明】
【0034】
1 クロスローラ軸受
2 外輪
3 内輪
4 ローラ
5 外輪軌道面
6 内輪軌道面
7、8 ストレート部
9、10 クラウニング
9a、10a 第一クラウニング
9b、10b 第二クラウニング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8