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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】画像形成装置および画像形成システム
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/00 20060101AFI20240207BHJP
   G03G 15/20 20060101ALI20240207BHJP
   G03G 15/16 20060101ALI20240207BHJP
   G03G 21/00 20060101ALI20240207BHJP
   B41J 29/393 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
G03G15/00 303
G03G15/20 555
G03G15/16 103
G03G21/00 386
B41J29/393 105
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2019134012
(22)【出願日】2019-07-19
(65)【公開番号】P2021018330
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅博
(72)【発明者】
【氏名】海老原 俊一
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-103147(JP,A)
【文献】特開2001-051532(JP,A)
【文献】特開2016-019107(JP,A)
【文献】特開2018-081244(JP,A)
【文献】特開2006-251128(JP,A)
【文献】特開2019-035914(JP,A)
【文献】特開2017-015764(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0105618(US,A1)
【文献】特開2019-006020(JP,A)
【文献】特開2016-153855(JP,A)
【文献】特開2017-207618(JP,A)
【文献】特開2018-081165(JP,A)
【文献】特開2009-271240(JP,A)
【文献】特開2018-141959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/00
G03G 15/20
G03G 15/16
G03G 21/00
B41J 29/393
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに画像を形成する画像形成手段であって、前記シートに形成されたトナー画像を定着する定着手段を含む画像形成手段と、
前記定着手段を制御する制御手段と、
前記シートを読み取る読取手段と、
前記定着手段によって前記シートに定着された画像を前記読取手段により読み取ることで取得された読取結果を分析して分析結果を出力する分析手段と、
第一時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの前記分析結果のデータと前記第一時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの印刷条件のデータの組である第一組データと、第二時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの前記分析結果のデータと前記第二時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの前記印刷条件のデータの組である第二組データと、を蓄積する蓄積手段と、
記定着手段を制御するために前記第二時点以降に前記制御手段により使用される制御パラメータを、前記蓄積手段に蓄積された前記第一組データと前記第二組データと、前記定着手段の使用状況を参照して演算する演算手段と
を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記演算手段が算出する制御パラメータは、前記定着手段を構成する部材の使用量に応じた前記定着手段の制御に関する補正量であることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
シートに画像を形成する画像形成手段と、
シートに形成されたトナー画像を定着する定着手段と、
前記画像形成手段を制御する制御手段と、
前記シートを読み取る読取手段と、
前記シートに形成された画像を前記読取手段により読み取ることで取得された読取結果を分析して分析結果を出力する分析手段と、
第一時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの前記分析結果のデータと前記第一時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの印刷条件のデータの組である第一組データと、第二時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの前記分析結果のデータと前記第二時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの前記印刷条件のデータの組である第二組データと、を蓄積する蓄積手段と、
前記蓄積手段に蓄積された前記第一組データと前記第二組データと、前記定着手段の使用状況を参照して前記定着手段の状態を判定するためのパラメータを演算する演算手段と、
を有し、
記印刷条件は、前記定着手段の温度を制御するための制御条件であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
前記演算手段が判定する状態は、前記定着手段を構成する部材の残寿命であることを特徴とする請求項3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記印刷条件は、前記定着手段を構成する部材の使用量または前記部材の制御パラメータのうち、少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記画像形成手段はテスト画像を形成するように構成されており、
前記読取手段は前記テスト画像を読み取るように構成されており、
前記分析手段は、前記テスト画像を前記読取手段により読み取ることで取得された読取結果を分析して前記分析結果を出力するように構成されている
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
画像形成装置と外部装置とを有する画像形成システムであって、
シートに画像を形成する画像形成手段であって、前記シートに形成されたトナー画像を定着する定着手段を含む画像形成手段と、
前記定着手段を制御する制御手段と、
前記シートを読み取る読取手段と、
前記定着手段によって前記シートに定着された画像を前記読取手段により読み取ることで取得された読取結果を分析して分析結果を出力する分析手段と、
第一時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの前記分析結果のデータと前記第一時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの印刷条件のデータの組である第一組データと、第二時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの前記分析結果のデータと前記第二時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの前記印刷条件のデータの組である第二組データと、を蓄積する蓄積手段と、
前記定着手段を制御するために前記第二時点以降に前記制御手段により使用される制御パラメータを、前記蓄積手段に蓄積された前記第一組データと前記第二組データと、前記定着手段の使用状況を参照して演算する演算手段と
を有し、
前記画像形成手段、前記制御手段および前記読取手段は前記画像形成装置に設けられており、
前記分析手段は、前記画像形成装置と前記外部装置とのいずれか一方に設けられており、
前記蓄積手段は、前記画像形成装置と前記外部装置とのいずれか一方に設けられており、
前記演算手段は、前記画像形成装置と前記外部装置とのいずれか一方に設けられていることを特徴とする画像形成システム。
【請求項8】
前記演算手段が算出する制御パラメータは、前記定着手段を構成する部材の使用量に応じた前記画像形成手段の制御に関する補正量であることを特徴とする請求項7に記載の画像形成システム。
【請求項9】
画像形成装置と外部装置とを有する画像形成システムであって、
シートに画像を形成する画像形成手段と、
シートに形成されたトナー画像を定着する定着手段と、
前記画像形成手段を制御する制御手段と、
前記シートを読み取る読取手段と、
前記シートに形成された画像を前記読取手段により読み取ることで取得された読取結果を分析して分析結果を出力する分析手段と、
第一時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの前記分析結果のデータと前記第一時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの印刷条件のデータの組である第一組データと、第二時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの前記分析結果のデータと前記第二時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの前記印刷条件のデータの組である第二組データと、を蓄積する蓄積手段と、
前記蓄積手段に蓄積された前記第一組データと前記第二組データと、前記定着手段の使用状況を参照して前記定着手段の状態を判定するためのパラメータを演算する演算手段と、
を有し、
前記印刷条件は、前記定着手段の温度を制御するための制御条件であり、
前記画像形成手段、前記制御手段および前記読取手段は前記画像形成装置に設けられており、
前記分析手段は、前記画像形成装置と前記外部装置とのいずれか一方に設けられており、
前記蓄積手段は、前記画像形成装置と前記外部装置とのいずれか一方に設けられており、
前記演算手段は、前記画像形成装置と前記外部装置とのいずれか一方に設けられていることを特徴とする画像形成システム。
【請求項10】
前記演算手段が判定する状態は、前記定着手段を構成する部材の残寿命であることを特徴とする請求項9に記載の画像形成システム。
【請求項11】
前記印刷条件は、前記定着手段を構成する部材の使用量または前記部材の制御パラメータのうち、少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項7から10のいずれか一項に記載の画像形成システム。
【請求項12】
前記画像形成手段はテスト画像を形成するように構成されており、
前記読取手段は前記テスト画像を読み取るように構成されており、
前記分析手段は、前記テスト画像を前記読取手段により読み取ることで取得された読取結果を分析して前記分析結果を出力するように構成されている
ことを特徴とする請求項7から11のいずれか一項に記載の画像形成システム。
【請求項13】
シートに画像を形成する画像形成手段と、
前記画像形成手段の稼働量を計測する計測手段と、
前記稼働量を補正量の予測式に代入することで制御パラメータの補正量を演算する演算手段と、
前記補正量に基づき前記制御パラメータを補正する補正手段と、
前記制御パラメータに基づき前記画像形成手段を制御する制御手段と、
前記シートを読み取る読取手段と、
前記読取手段による複数の前記シートの読み取り結果に基づき前記予測式の修正が必要かどうかを判定する判定手段と、
前記判定手段が前記予測式の修正が必要と判定すると、複数の前記シートの読み取り結果に基づき前記予測式を修正する修正手段と、を有することを特徴とする画像形成システム。
【請求項14】
前記制御手段は、所定の判定実行条件が満たされると、前記画像形成手段を制御して前記シートにテスト画像を形成させ、前記読取手段に当該シートに形成された前記テスト画像を読み取らせ、
前記判定手段は、前記テスト画像の読み取り結果に基づき前記予測式の修正が必要かどうかを判定することを特徴とする請求項13に記載の画像形成システム。
【請求項15】
前記テスト画像の読み取り結果は、前記シートにおいて前記テスト画像から所定距離だけ離れた領域の読み取り結果であることを特徴とする請求項14に記載の画像形成システム。
【請求項16】
前記所定の判定実行条件は、前記画像形成手段の稼働量の増加量が一定量に達したことであることを特徴とする請求項14または15に記載の画像形成システム。
【請求項17】
前記稼働量は、前記画像形成手段に供給されたシートの数であることを特徴とする請求項16に記載の画像形成システム。
【請求項18】
前記所定の判定実行条件が満たされると、前記テスト画像の読み取り結果から得られた分析結果と、前記稼働量および前記補正量を含む印刷条件と、を関連付けて記録する記録手段をさらに有し、
前記修正手段は、前記記録手段に保持されている第一稼働量と、当該第一稼働量に関連付けられている第一補正量と、当該第一稼働量に関連付けられている分析結果と、前記記録手段に保持されている第二稼働量と、当該第二稼働量に関連付けられている第二補正量と、当該第二稼働量に関連付けられている分析結果と、に基づき前記予測式を修正することを特徴とする請求項14ないし17のいずれか一項に記載の画像形成システム。
【請求項19】
前記予測式は、前記稼働量を変数とする一次関数であることを特徴とする請求項18に記載の画像形成システム。
【請求項20】
前記一次関数は、前記稼働量に乗算される第一係数と、前記第一係数と前記稼働量との積に対して加算される第二係数とを有することを特徴とする請求項19に記載の画像形成システム。
【請求項21】
前記一次関数は、前記積と前記第二係数との和に乗算される既知の第三係数をさらに有することを特徴とする請求項20に記載の画像形成システム。
【請求項22】
前記修正手段は、前記記録手段に保持されている第一稼働量と、当該第一稼働量に関連付けられている第一補正量と、当該第一稼働量に関連付けられている分析結果と、前記記録手段に保持されている第二稼働量と、当該第二稼働量に関連付けられている第二補正量と、当該第二稼働量に関連付けられている分析結果とに基づき前記第一係数と前記第二係数とを演算することで、前記修正された予測式を求めることを特徴とする請求項20または21に記載の画像形成システム。
【請求項23】
前記画像形成手段は、シートに形成されたトナー画像を加熱することで前記シートに対して前記トナー画像を定着させる定着手段を有し、
前記定着手段は、
加圧ローラと、
前記加圧ローラに対向して設けられ、前記加圧ローラとともに前記シートを挟持して搬送するフィルム部材と、
前記フィルム部材を所定の目標温度に加熱するヒータと、
前記ヒータの温度を測定する測定手段と、
を有し、
前記制御手段は、前記測定手段により測定された温度が前記目標温度に近づくように制御し、
前記制御パラメータは前記目標温度であることを特徴とする請求項14ないし22のいずれか一項に記載の画像形成システム。
【請求項24】
前記フィルム部材は、前記稼働量の増加につれて摩耗する部材であり、
前記定着手段は、前記フィルム部材が摩耗するにつれて、前記フィルム部材の表面温度と前記ヒータの温度とが乖離する特性を有しており、
前記補正量は、前記フィルム部材の表面温度と前記ヒータの温度との乖離を補正する補正量であることを特徴とする請求項23に記載の画像形成システム。
【請求項25】
前記テスト画像の読み取り結果は、前記シートにおいて前記テスト画像から所定距離だけ離れた領域の読み取り結果であり、当該所定距離は、円筒形状の前記フィルム部材の周長に等しいことを特徴とする請求項24に記載の画像形成システム。
【請求項26】
前記画像形成手段は、
感光体と、
前記感光体に形成された静電潜像をトナーにより現像してトナー画像を形成する現像手段と、
前記トナー画像を前記感光体からシートに転写する転写手段と、
前記転写手段に転写バイアスを印加する印加手段と、を有し、
前記制御パラメータは前記転写バイアスであることを特徴とする請求項13に記載の画像形成システム。
【請求項27】
前記シートの読み取り結果は、前記シートにおいてトナー画像が転写されていない非画像領域の読取結果であることを特徴とする請求項26に記載の画像形成システム。
【請求項28】
前記画像形成システムは、プリンタと、前記プリンタに接続された外部装置とを有し、
前記記録手段は、前記外部装置に設けられていることを特徴とする請求項18に記載の画像形成システム。
【請求項29】
前記第一係数と前記稼働量との積に対して前記第二係数とを加算することで得られる和に基づき前記画像形成手段において画像形成に関与する部材の残り寿命を示すパラメータを演算する寿命演算手段と、
前記残り寿命を示すパラメータを表示する表示手段と、をさらに有することを特徴とする請求項20に記載の画像形成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像形成装置および画像形成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置を構成する部材(例:定着フィルム)の特性は画像を形成するごとに少しずつ変化する。これは、部材が少しずつ消耗または劣化するからである。したがって、部材の劣化に応じて部材の制御パラメータが補正される。特許文献1によれば、画像形成装置から出力された画像を読み取ることで、その部材の残り寿命を判定することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-153855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、画像を形成したときに使用された印刷条件とその画像の読み取り結果(分析結果)とを紐付けて蓄積しておくと、画像形成装置の状態がどのように推移しているかがわかる。したがって、蓄積された情報を参照すれば、画像形成装置の制御パラメータを精度よく求めることができるだろう。また、蓄積された情報は画像形成装置の部材の状態(例:残寿命など)を把握するためにも役立つであろう。そこで、本発明は、画像を形成したときに使用された印刷条件とその画像の読み取り結果(分析結果)とを紐付けて蓄積する画像形成装置または画像形成システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、たとえば、
シートに画像を形成する画像形成手段であって、前記シートに形成されたトナー画像を定着する定着手段を含む画像形成手段と、
前記定着手段を制御する制御手段と、
前記シートを読み取る読取手段と、
前記定着手段によって前記シートに定着された画像を前記読取手段により読み取ることで取得された読取結果を分析して分析結果を出力する分析手段と、
第一時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの前記分析結果のデータと前記第一時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの印刷条件のデータの組である第一組データと、第二時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの前記分析結果のデータと前記第二時点で前記読取手段により読み取られた前記シートの前記印刷条件のデータの組である第二組データと、を蓄積する蓄積手段と、
記定着手段を制御するために前記第二時点以降に前記制御手段により使用される制御パラメータを、前記蓄積手段に蓄積された前記第一組データと前記第二組データと、前記定着手段の使用状況を参照して演算する演算手段と
を有することを特徴とする画像形成装置を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、像を形成したときに使用された印刷条件とその画像の読み取り結果(分析結果)とを紐付けて蓄積する画像形成装置または画像形成システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】画像形成装置を説明する図
図2】定着器を説明する図
図3】コントローラを説明する図
図4】稼働量と温度上昇度との関係を示す図
図5】稼働量、温度上昇度および摩耗量の関係を示す図
図6】稼働量または温度上昇度とオフセット濃度との関係を示す図
図7】テスト画像と蓄積データを説明する図
図8】修正方法を示すフローチャート
図9】稼働量、温度上昇度および摩耗量の関係を示す図
図10】情報処理装置を含む画像形成システムを説明する図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して実施形態が詳しく説明される。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでするものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一または同様の構成に同一の参照番号が付され、重複した説明は省略される。
【0009】
[実施例1]
<画像形成装置>
図1は多色画像を形成する電子写真方式の画像形成装置100を示している。プロセスステーション(プロセスカートリッジ)5Y,5M,5C,5Kは画像形成装置100に対して着脱可能であり、画像形成部25の主要部である。四個のプロセスステーション5Y,5M,5C,5Kの構造はいずれも同一であるが、トナーの色が異なる。参照符号の末尾に付与されているYMCKはトナーの色であるイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックを示している。特定のプロセスステーションの説明を行う場合を除き、以下、YMCKの文字は省略される。トナー容器23はトナーを保持する容器である。感光ドラム1は静電潜像やトナー画像を担持する像担持体である。帯電ローラ2は感光ドラム1の表面を一様に帯電させる。露光装置7は入力された画像データに応じてレーザ光を感光ドラム1の表面上で走査し、感光ドラム1の表面上に画像データに対応した静電潜像を形成する。現像ローラ3は、トナー容器23に保持されているトナーを静電潜像に付着させることで静電潜像を現像し、トナー画像を形成する。一次転写ローラ6は、感光ドラム1に担持されているトナー画像を中間転写ベルト8に転写する。中間転写ベルト8は駆動ローラ9と対向ローラ10とに張架されており、駆動ローラ9によって矢印Aの方向に回転する。中間転写ベルト8が回転することで、対向ローラ10も従動して回転する。クリーニングブレード4は、感光ドラム1の表面に残ったトナーを回収容器24に回収する清掃部材である。
【0010】
給送装置12はシートPを主搬送路r1へ給送する。主搬送路r1は給送カセット13から反転点p1まで延在する搬送路である。給送装置12は、基本的に、先行シートと後続シートとの間隔が一定間隔となるようにシートを給送する。これは、プロセスステーション5が先行シートに転写される画像と後続シートに転写する画像とを一定間隔で中間転写ベルト8に形成することに由来する。給送ローラ14は給送カセット13に収納されているシートPを搬送ローラ対15aへ送り出す。搬送ローラ対15aは、シートPをレジストローラ対16へ送り出す。レジストローラ対16は、中間転写ベルト8によって搬送されるトナー画像が二次転写部T2に到着するタイミングと、レジストローラ対16によって搬送されるシートPが二次転写部T2に到着するタイミングとが一致するように、シートPを搬送する。たとえば、コントローラ40はシートセンサ17によりシートPが検知されたタイミングに基づきレジストローラ対16の回転速度や回転再開時刻を調整する。
【0011】
二次転写ローラ11は中間転写ベルト8に担持されているトナー画像をシートPに転写する。二次転写ローラ11と中間転写ベルト8は二次転写部T2を形成している。クリーニングブレード4Xは、二次転写が終了した後に中間転写ベルト8の表面に残留したトナーを回収容器24Xへ回収する清掃部材である。中間転写ベルト8と二次転写ローラ11によって挟持されたシートPは定着器18に送り込まれる。定着器18は、シートPおよびトナー画像を加熱および加圧することによりトナー画像をシートPに定着させる。画像形成の完了したシートPは、フラッパ50によって、主搬送路r1から排出ローラ対20へ誘導される排出ローラ対20はシートPを排出トレイへ排出する。
【0012】
シートPの第二面に画像を形成する場合、コントローラ40は排出ローラ対20を逆回転させるとともに、フラッパ50を切り替える。これにより、シートPの搬送方向が入れ替われることで、シートPの表裏が入れ替われる。フラッパ50は、シートPを副搬送路r2へ誘導する。副搬送路r2は反転点p1から合流点p2まで存在する搬送路である。副搬送路r2においてシートPは搬送ローラ対15b、15cにより搬送される。主搬送路r1において合流点p2は、レジストローラ対16よりも上流側に設けられている。このようにしてシートPは再びレジストローラ対16に渡される。レジストローラ対16により搬送タイミングを調整されたシートPは二次転写部T2に搬送される。シートPの第二面が中間転写ベルト8に接触することで、第二面にトナー画像が転写される。定着器18はシートPの第二面にトナー画像を定着させる。フラッパ50は両面プリントの完了したシートPを排出ローラ対20へ誘導する。これにより、両面に画像が形成されたシートPが排出トレイに排出される。なお、副搬送路r2にはシートPの表面を読み取る画像センサ60が設けられている。
【0013】
<定着装置>
図2が示すように、定着器18は、定着フィルム31と、加圧ローラ32と、ヒータ33と、ヒータホルダ34と、加圧ステー35と、入り口ガイド36とを有する。定着フィルム31は、エンドレスのフィルム状に形成された部材であり、基層211、弾性層212および表層213を重ねることで形成されている。弾性層212は、定着性の向上や光沢度の均一化のために、シリコーンゴムなどの耐熱性を有する弾性材料で構成される。表層213は、シートPの分離性を向上し、かつ、トナー画像Tのオフセットを抑制するために、離型性の良い材料(例:耐熱性を有するフッ素樹脂など)で構成される。表層213の厚みは、累積される画像形成枚数に応じて、減少していく。そのため、表層213の厚みは、定着器18の想定寿命に応じて設計される。加圧ローラ32は、芯軸部221と、少なくとも一層以上の弾性層222と、表層223とを有する。弾性層222は、定着ニップ部Npの幅を確保するために、耐熱性を有する弾性材料(例:シリコーンゴム、フッ素ゴムなど)で構成される。表層223は、トナーや紙粉による汚れを防止するために、耐熱性を有する離型性の良い材料(例:フッ素樹脂)で構成される。
【0014】
ヒータ33は、定着フィルム31の内周面と接触しながら定着フィルム31を急速加熱する板状発熱体である。サーミスタ231はヒータ33の温度を検知する。サーミスタ231はヒータ33を保持する基板の裏面に当接している。サーミスタ231の検知信号に基づいてヒータ33の温度が所定の目標温度になるようにヒータ33へ供給される電力が制御される。
【0015】
ヒータホルダ34はヒータ33を保持する保持部材である。加圧ステー35は、剛性を有する部材で構成され、バネなどの加圧部材から受けた加圧力を、ヒータホルダ34を介して加圧ローラ32に付与する。この加圧力により、定着フィルム31と加圧ローラ32との間に所定幅の定着ニップ部Npが形成される。
【0016】
加圧ローラ32は、モータなどの駆動源によって駆動されて、矢印R1方向に回転する。定着フィルム31は、加圧ローラ32の回転に伴い、矢印R2方向へ従動して回転する。ヒータ33の温度が所定の目標温度に制御された状態において、シートPが入り口ガイド36に沿って定着ニップ部Npに案内される。シートPは、定着フィルム31と加圧ローラ32とにより挟持され、矢印D方向に搬送される。搬送過程において、シートPには熱と圧力が付与され、トナー画像TがシートPに定着する。
【0017】
<コントローラ>
図3が示すようにコントローラ40はCPU300とメモリ301とを有していてもよい。CPU300はメモリ301のROM領域に記憶された制御プログラムを実行することで様々な機能を実現する。これらの機能の一部またはすべてがASICやFPGAなどのハードウエア回路により実現されてもよい。ASICは特定用途集積回路の略称である。FPGAはフィールドプログラマブルゲートアレイの略称である。メモリ301は、ROM、RAM、ソリッドステートドライブ、およびハードディスクドライブなどの記憶装置を有していてもよい。
【0018】
定着制御部302は、サーミスタ231により測定された温度が、目標補正部304により決定された目標温度に近づくようにヒータ33に供給される電力を制御する。読取制御部303は、画像センサ60を制御して、画像センサ60から読取結果を取得する。読取制御部303は、フラッパ50や排出ローラ対20を制御してシートPを副搬送路r2に誘導する。読取制御部303は、画像センサ60を制御し、シートPに形成されたテスト画像を読み取らせる。目標補正部304は、補正量演算部311により決定された補正量CiまたはCi'を用いて目標温度を補正し、目標温度を定着制御部302に設定する。
【0019】
分析部305は、定着フィルム31の劣化状態を把握するために、画像センサ60により取得されたシートPの読取結果を分析する。たとえば、濃度演算部306は、シートPの読取結果に基づきオフセット濃度Doffを演算する。オフセット濃度Doffとは、定着フィルム31の劣化もしくは消耗の程度、または、補正量Ciを予測もしくは演算するための予測式のずれ量に相関するパラメータである。修正判定部307は、オフセット濃度Doffと閾値Dlimとを比較することで予測式の修正が必要かどうかを判定する。予測式の修正が必要な場合、修正部308が、メモリ301に蓄積されている画像分析結果と印刷条件を読み出し、予測式を修正する。たとえば、修正部308は予測式の係数を求めることで予測式を修正する。
【0020】
条件取得部310は印刷条件などの条件情報を取得してメモリ301に格納する。条件情報とは、たとえば、画像形成時の印刷条件、部材の状態情報、画像形成装置100に設けられた各種センサの検出値、制御パラメータなど、画像形成装置100が把握可能な情報である。印刷条件は、たとえば、プリントモード(例:モノクロ/カラー)、シートサイズ(例:A4、LTR)といった印刷時の画像形成装置100の設定に関する情報である。部材の状態情報は、たとえば、画像形成装置100、プロセスステーション5または定着器18の稼働量(画像形成枚数もしくは稼働時間)など、部材の寿命や使用量に関する情報である。各種センサの検出値としては、たとえば、環境センサにより検出された温度および湿度、メディアセンサにより検出されたシートPの表面性や厚み、サーミスタ231により検出された温度情報、電流検知素子により検出された転写部の電流情報などである。制御パラメータとしては、目標温度の補正量Ci、転写バイアス、現像バイアス、帯電バイアス、露光量などである。以下では、説明の便宜上、印刷条件は、カウンタ312によりカウントされたシート数Ni(累積値)と、補正量演算部311により求められた補正量Ciである。テスト部313は、画像形成装置100を制御してテスト画像をシートPに形成する。たとえば、テスト部313は、テスト画像に対応する画像データを露光装置7に供給する。状態判定部320は、蓄積された分析結果と印刷条件とを参照して画像形成装置を構成する部材の状態を判定する。状態判定部320は、たとえば、寿命演算部325を有していてもよい。寿命演算部325は、画像形成装置100に使用される部材(例:定着器18)の寿命に関する値(例:残り寿命、全寿命に対する残り寿命の割合)を演算する。
【0021】
操作部321は、ユーザーに情報を提供する表示装置とユーザー指示を受け付ける入力装置とを有する。電源装置322は、現像ローラ3に印加する現像バイアスを生成する電源装置である。通信回路323は外部装置(例:サーバーなど)と通信する通信回路である。
【0022】
<目標温度の補正の目的>
定着フィルム31はシートPやトナー画像Tに直接接触して熱を付与する部材であるため、定着フィルム31の表面温度は適切な目標温度に維持されることが想定されている。定着制御部302は、サーミスタ231により検知された温度をフィードバックすることでヒータ33の温度を一定温度に維持できる。しかし、ヒータ33によって加熱されている定着フィルム31の温度と、ヒータ33の温度とは一致しない。これは、定着フィルム31が熱抵抗を有しており、しかもこの熱抵抗が定着フィルム31の稼働量(積算摩耗量)に応じて変化するからである。
【0023】
定着フィルムの表層213は、シートPや紙粉との微視的な摺擦によって摩耗する。その結果、表層213における領域であってシートPと接触する領域の厚みは、稼働量が増加するにつれて減少していく。表層213の離型性を確保するために、表層213には、フィラーのような熱伝導を向上させる添加剤が少ない。そのため、表層213についての単位厚み当たりの熱抵抗は、基層211および弾性層212のそれと比べて大きい。このため、表層213の厚み変化は定着フィルム31の全体の熱抵抗に大きく影響する。とりわけ、表層213の厚みの減少に伴い、定着フィルム31の熱抵抗が低下していく。
【0024】
定着フィルム31の熱抵抗が低下すると、ヒータ33の温度が一定値に維持されていても、定着フィルム31の温度が上昇する。その結果、トナー画像Tに過剰な熱量が付与され、トナー画像Tの一部が定着フィルム31に付着してしまう。定着フィルム31に付着したトナーは、定着フィルム31が一回転した後にシートPに転写されて定着してしまう。つまり、一回転前の画像が副走査方向(シートPの搬送方向)にオフセットした位置に形成されてしまう。このような現象はホットオフセットと呼ばれてもよい。ホットオフセットを低減するために、CPU300は、表層213の摩耗量を正確に予測し、予測結果に基づきヒータ33の目標温度を補正する。これにより、定着フィルム31の温度が所定の目標温度に維持されるようになり、ホットオフセットが低減される。したがって、表層213の摩耗量を正確に予測することが補正精度を左右する。
【0025】
<目標温度の補正の概要>
図4は定着フィルム31の温度上昇量ΔTと定着フィルム31の稼働量(定着器18を通過したシートPの数N)との関係を示している。縦軸は温度上昇量Δを示す。横軸はシート数Nを示す。温度上昇量ΔTは、N=0のとき(つまり、定着フィルム31が未使用のとき)の定着フィルム31の温度を基準とした定着フィルム31の温度の上昇量を表している。シート数Nは、実際に使用されるシートPのサイズを、LTRサイズまたはA4サイズに換算されてもよい。たとえば、A4サイズよりも長いシートPは、一枚のA4サイズのシートPよりも、定着フィルム31を多く削るからである。
【0026】
図4が示すように、温度上昇量ΔTとシート数Nは線形関係を有しているものと仮定されている。温度上昇量ΔTは、シート数Nが0であるときの定着フィルム31の温度T0に対する上昇量である。そのため、温度上昇量ΔTは、切片が0で、シート数Nを変数とする一次関数である。図4が示すように、一次関数の傾きをαとすれば、シート数Nにおける定着フィルム31の温度上昇量ΔTは次式で表すことができる。
【0027】
ΔT = α×N ・・・(1)
定着プロセスで使用される温度範囲では、ヒータ33の温度の変化幅と、この変化幅に対応する定着フィルム31の温度の変化幅とは、略比例関係にある。よって、定着フィルム31が摩耗したとしても定着フィルム31の温度を一定値に維持するためには、温度上昇量ΔTに応じてヒータ33の目標温度が低下すればよい。ここでは、ヒータ33の目標温度についての補正量がCと定義される。つまり、目標補正部304は、目標温度から補正量Cを減算することで、補正された目標温度を取得する。このように、補正量Cが温度上昇量ΔTと等しければ、定着フィルム31が摩耗したとしても定着フィルム31の温度が一定の設計値に維持される。温度上昇量ΔTをヒータ33の温度に変換する変換係数をγとすれば、補正量演算部311は、次式を用いて補正量Cを演算できる。
【0028】
C = γ×ΔT ・・・(2)
このように目標温度は(1)式と(2)式から算出される補正量αγNだけ低下される。傾きαや変換係数γは、定着器18の出荷時にシミュレーションまたは実験により求められる既知の値である。傾きαや変換係数γは、たとえば、メモリ301のROM領域に保持されている。
【0029】
<予測精度の改善>
傾きαを決定するために使用された定着フィルム31の稼働条件と同じ稼働条件で画像形成装置100が稼働していれば、表層213の摩耗量は傾きαにしたがって増加する。この場合、(2)式が示す補正量Cによって温度上昇量ΔTが相殺され、定着フィルム31の温度が精度よく補正され、ホットオフセットが生じにくい。
【0030】
しかし、表層213の摩耗量は、給送されるシートPの種類や定着器18の温度に依存する。灰分量の多い紙および剛度の大きい紙は、一般的な紙と比べ、表層213を摩耗させやすい。たとえば、このような紙として、填料である炭酸カルシウム成分の多い紙、および、坪量の大きい紙などが挙げられる。定着フィルム31の温度が高いほど、表層213は摩耗しやすい。たとえば、定着性を確保するために、シートPの温度が低い環境(低温環境)の目標温度は、通常環境の目標温度よりも高く設定される。つまり、低温環境では表層213が摩耗しやすい。
【0031】
このように、シートPの種類や環境条件(シート条件)に依存して、定着フィルム31の表層213の摩耗量の推移が変わる。そのため、定着フィルム31の稼働量に基づいて算出される補正量Cは、実際に必要となる補正量からずれてしまうことがありうる。
【0032】
図5(A)、図5(B)および図5(C)は、表層213の摩耗量の予測がはずれてオフセットが発生する事例を示している。とりわけ、画像形成装置100を使用開始から途中までは予測が正しいものの、途中でシート条件が想定条件から変わったために予測がはずれている。第一象限は、シート数Nと表層213の摩耗量Δdの関係を示している。この関係は、シート条件の影響を受ける。本実施例では、シート数N1でシート条件が変化し、摩耗量Δdの推移が変化したことを示している。第二象限は、摩耗量Δdと温度上昇量ΔTとの関係を示している。この関係は、定着フィルム31の熱抵抗の変化に依存した関係である。そのため、この関係は、定着フィルム31を含む定着器18の構成によって決まり、シート条件の影響は受けない。
【0033】
●N=0~N1
図5(A)を用いて、シート数が0からN1までの区間における挙動が説明される。この区間では、摩耗量Δdは、第一象限の直線Fに沿って推移している。摩耗量Δdの増加(表層213の厚みの減少)にともない、定着フィルム31の熱伝導率が高くなる。温度上昇量ΔTは、第二象限に示された関係に従って、上昇する。
【0034】
シート数がN1であるときの定着フィルム31の温度の温度上昇量がΔT1と定義され、補正量がC1と定義される。CPU300は、シート数N1におけるヒータ33の目標温度を、シート数0における目標温度に対して、補正量C1だけ低くなるように調整する。補正量C1が適用されると、定着フィルム31の温度は、ΔT1(=C1/γ)だけ低下する。その結果、摩耗量Δdに対応する温度上昇量ΔT1が、補正量C1にしたがったC1/γにより相殺される。よって、シート数が0からN1までの区間においては、定着フィルム31の温度が適切に補正されるため、ホットオフセットは発生しない。
【0035】
●N=N1~
図5(B)および図5(C)を用いてシート数がN1以上となる区間が説明される。この区間では、シート条件などの変化により、摩耗量Δdは、第一象限の直線F'に沿って変化する。直線F'の傾きは、想定された直線Fの傾きよりも大きい。シート数N2における実際の摩耗量はΔd2'であり、想定された摩耗量はΔd2であり、定着フィルム31の実際の温度上昇量はΔT2'であり、想定された温度上昇量はΔT2である。直線F'に沿って推移する実際の摩耗量Δd2'は、直線Fに沿って推移する想定された摩耗量Δd2よりも大きくなる。その結果、実際の温度上昇量ΔT2'は、想定された温度上昇量ΔT2よりも大きくなる。
【0036】
シート数N2におけるヒータ33の目標温度の補正量はC2と定義される。シート数N2におけるヒータ33の目標温度は、シート数0におけるヒータ33の目標温度よりも補正量C2だけ低くなるよう調整される。補正量C2により、定着フィルム31の温度はC2/γだけ低下する。その結果、実際の温度上昇量はΔT2'であるが、補正量C2を用いるとΔT2(=C2/γ)しか目標温度が削減されない。よって、シート数N2における定着フィルム31の温度は、ΔT2'-ΔT2の差分であるΔT2difだけ適正温度よりも高くなり、ホットオフセットが発生してしまう。
【0037】
図5(C)によれば、シート数N2よりも多いシート数N3における摩耗量はΔd3'であり、想定された摩耗量はΔd3であり、実際の温度上昇量はΔT3'であり、想定された温度上昇量はΔT3であり、補正量はC3である。直線F'に沿って推移する実際の摩耗量Δd3'は、直線Fに沿って推移する想定された摩耗量Δd3よりも大きい。さらに、シート数N3における摩耗量Δd3'とΔd3との差は、シート数N2における差よりも増加している。その結果、温度上昇量ΔT3'-ΔT3の差分であるΔT3difは、ΔT2difよりも大きくなる。よって、シート数N3では、シート数N2よりも顕著なホットオフセットが発生してしまう。
【0038】
表層213の摩耗量の推移が想定から外れてしまうと、ホットオフセットを精度よく低減することが難しくなる。したがって、実際の摩耗量の推移に合わせて目標温度または補正量の予測式を修正することが必要となる。たとえば、CPU300は、画像センサ60を使って実際の出力画像を読み取って分析し、ホットオフセットの発生レベルを表すオフセット濃度Doffを求める。さらに、CPU300は、オフセット濃度Doffと、これに紐づけられた条件情報から現在の摩耗量の推移を把握して、予測式を修正する。
【0039】
<定着フィルム31の温度とオフセット濃度との関係>
オフセット濃度Doffから補正量を求めるための予測式を修正するための計算式を導出するためには、予め定着フィルム31の温度とオフセット濃度Doffとの関係が必要となる。
【0040】
図6(A)は温度上昇量ΔTとオフセット濃度Doffとの関係を示している。横軸は温度上昇量ΔTを示す。縦軸はオフセット濃度Doffを示す。この関係は、定着フィルム31を含む定着器18の構成やトナーによって決まるものであり、シート条件の影響を受けない。ΔTsはホットオフセットが発生し始める温度上昇量であり、定着器18の稼働初期における定着フィルム31の温度に対するマージンを示している。温度上昇量ΔTがオフセットマージン温度ΔTsを超えると、オフセット濃度Doffが徐々に増加する。オフセット濃度Doffは、オフセットの元となっているトナー画像の濃度を超えることはあり得ない。そのため、オフセット濃度Doffは所定値に収束する。
【0041】
図6(A)に示された関係には非線形な部分が存在するものの、本実施例では線形な部分が考慮される。なぜなら、本実施例では、上述した予測式から得られた補正量が適用されるため、実際に発生する温度上昇量ΔTの範囲も線形な部分に収まるからである。つまり、オフセット濃度Doffと温度上昇量ΔTは実質的に線形関係にあると近似される。ここで傾きをaとすれば、温度上昇量ΔTに対するオフセット濃度Doffは次式から求められる。
【0042】
Doff = a ×(ΔT-ΔTs) ・・・(3)
ただし、ΔT ≦ ΔTsでは、Doff = 0
傾きaと温度上昇量ΔTsは、実験またはシミュレーションにより求められる既知の定数である。
【0043】
図5(C)を用いて説明されたように、シート数N2での温度上昇量はΔT2difであり、シート数N3での温度上昇量はΔT3difであった。シート数N2およびN3においてそれぞれ発生するホットオフセットのオフセット濃度はDoff2およびDoff3と定義される。(3)式によれば、オフセット濃度Doff2およびDoff3は次式から求められる。
【0044】
Doff2 = a ×(ΔT2dif-ΔTs) ・・・(4)
Doff3 = a ×(ΔT3dif-ΔTs) ・・・(5)
このように、オフセット濃度Doff2およびDoff3を測定できれば、実際のΔT2difおよびΔT3difを求めることができる。つまり、当初の予測式に基づき予測されたΔT2、ΔT3に対する実際のΔT2'、ΔT3'のずれ量であるΔT2dif、ΔT3difがそれぞれ演算可能となる。
【0045】
<オフセット濃度の推移>
図6(B)はオフセット濃度Doffとシート数Nとの関係を示している。横軸はシート数Nである。縦軸はオフセット濃度Doffである。シート数Nが0からN1までの区間では、目標温度の補正が想定通りに機能しているため、オフセット濃度Doffはゼロである。
【0046】
一方、シート数N1以降の区間では、目標温度を補正しても、シート数NがN2、N3と増加するにつれて、温度上昇量のずれ量がΔT2dif、ΔT3difと上昇する。その結果、オフセット濃度もDoff2、Doff3と上昇し、ホットオフセットが顕在化する。本実施例では、オフセット濃度Doffについて、許容限界値Dlimが設けられている。許容限界値Dlimは、許容可能なオフセット濃度Doffの最大値である。少量のホットオフセットが発生しても、人間の目には感知されない。したがって、実害がないホットオフセットを許容するために、許容限界値Dlimが設定される。オフセット濃度Doffが許容限界値Dlimを越えた場合、CPU300は、予測式の修正を実行する。図6(B)では、シート数がN3になったときに、オフセット濃度Doffが許容限界値Dlimを初めて越えたと判定され、予測式の修正が実行される。
【0047】
<画像分析と条件情報の取得方法>
予測式を修正するためには、オフセット濃度Doff、これに紐づけられたシート数、および補正量といった条件情報が必要となる。以下では、オフセット濃度Doffを求めるための画像分析と条件情報の取得方法が説明される。
【0048】
画像形成装置100は、オフセット濃度Doffを測定するために、テスト画像を出力し、画像センサ60によってテスト画像を読み取り、分析部305によって画像の状態を分析する。図7(A)は、シートP上に形成されたテスト画像700を示している。矢印DはシートPの搬送方向を示している。シートP上に形成されたテスト画像700は、所定の濃度で形成されたトナー画像であり、Y、M、C、Kの各色について用意される。トナー色に依存してホットオフセットの発生しやすさが異なる場合、最もホットオフセットが発生しやすいトナー色だけについてテスト画像700が形成されてもよい。ホットオフセットが発生するような状況では、テスト画像700が形成された領域から距離L1だけ搬送方向で下流側にあるオフセット領域702にホットオフセットが出現する。ここで、距離L1は定着フィルム31の周長に等しい。CPU300はテスト画像700が定着したシートPを画像センサ60へ搬送し、画像センサ60にテスト画像700を読み取らせる。分析部305は、画像センサ60により生成された画像データのうち、オフセット領域702の画像データを抽出する。シートPに対するテスト画像700の領域と、距離L1が既知であるため、シートPから取得された画像データにおけるオフセット領域702の位置も既知である。分析部305は、オフセット領域702の画像データを構成する複数の画素信号を明度情報に変換する。分析部305は、オフセット領域702の明度と非画像部(下地)の明度との差分で表されるオフセット濃度Doffを算出し、分析結果として出力する。非画像部とは、シートPのうち、トナー画像もホットオフセットも形成されない領域である。シートPにおける非画像部の位置は既知であるため、分析部305は、シートPから取得された画像データから非画像部(下地)の明度を取得できる。
【0049】
図7(B)が示すように、分析部305は、オフセット濃度Doffを、テスト画像700をシートPに形成したときの条件情報と紐付けて、メモリ301に保存する。本実施例では、予測式の修正に必要な条件情報はシート数Nと補正量Cである。オフセット濃度Doff、シート数Nおよび補正量Cは、画像分析が実行されるたびに、メモリ301に蓄積される。
【0050】
<予測式の修正方法>
図8はCPU300により実行される予測式の修正方法を示したフローチャートである。CPU300は、たとえば、一つのプリントジョブを終了するたびに、以下の処理を実行する。
【0051】
S801でCPU300は分析実行条件が満たされたかどうかを判定する。たとえば、分析実行条件は、前回、画像分析が実行されたときの稼働量(シート数Ni-1)と、今回の稼働量(シート数Ni)との差分であるΔNiが閾値Nth以上となったことである。なお、分析実行条件は、操作部321を通じて分析を指示されたことであってもよい。分析実行条件が満たされていなければ、CPU300は修正方法を終了する。分析実行条件が満たされていれば、CPU300はS802に進む。
【0052】
S802でCPU300はシートPにテスト画像を形成し、テスト画像の分析を実行する。たとえば、テスト部313は、画像形成装置100を制御してシートPにテスト画像700を形成する。テスト部313は、排出ローラ対20やフラッパ50を制御し、シートPを副搬送路r2へ搬送する。テスト部313は、搬送ローラ対15b,15cを制御し、画像センサ60がテスト画像700を形成されたシートPを読み取れるよう、シートPを搬送する。読取制御部303は、画像センサ60を制御してシートPを読み取り、画像データを生成し、メモリ301に保存する。分析部305の濃度演算部306は画像データからオフセット濃度Doffを演算する。
【0053】
S803でCPU300は分析結果をメモリ301に保存する。たとえば、分析部305の濃度演算部306はオフセット濃度Doffi、シート数Ni、および補正量Ciを相互に紐付けてメモリ301に保存する。
【0054】
S804でCPU300はオフセット濃度Doffiに基づき予測式の修正が必要かどうかを判定する。たとえば、修正判定部307は、オフセット濃度Doffが許容限界値Dlim以上であるかどうかを判定してもよい。オフセット濃度Doffが許容限界値Dlim以上であることは、予測式が実際の状況からずれていることを示している。オフセット濃度Doffが許容限界値Dlim以上でなければ、CPU300は、修正方法を終了する。オフセット濃度Doffが許容限界値Dlim以上であれば、CPU300はステップS805に進む。
【0055】
S805でCPU300はオフセット濃度Doffiに基づき予測式を修正する。たとえば、修正部308は、前回のオフセット濃度Doffi-1、シート数Ni-1および補正量Ci-1と、今回のオフセット濃度Doffi、シート数Niおよび補正量Ciとに基づき予測式を修正する。
【0056】
<予測式を修正するための計算式>
図9(A)は温度上昇量ΔTとシート数Nの関係を示した図である。シート数N1を境に表層213の摩耗量Δdの推移が変化している、シート数N1以降における温度上昇量はΔT'であり、傾きはα'であり、切片はβ'と定義されている。温度上昇量ΔT'とシート数Nとの関係は、次式によって表現される。
【0057】
ΔT' = α'× N + β' ・・・(6)
修正された新たな補正量はC'と仮定される。補正量C'が実際の温度上昇量ΔT'と等しければ、ホットオフセットが発生しない。よって、(2)式に(6)式を代入することにより、補正量C'を算出するための予測式が得られる。
【0058】
C'= γ × ΔT'
= γ(α'× N + β') ・・・(7)
ここで、上述されたように変換係数γは既知の定数である。現在の定着フィルム31の状態に合わせて予測式を修正することは、(7)式のα'とβ'を求めることに相当する。未知の定数α'、β'は、オフセット濃度Doffと、これに紐付けられたシート数Nと、修正前の補正量Cとからなる二以上のセットに基づき求められ。ここでは、シート数N2に紐づけられた情報と、シート数N3に紐づけられた情報とに基づき、定数α'、β'が算出される。
【0059】
(6)式によれば、シート数N2に紐づけられた温度上昇量ΔT2'と、シート数N3に紐づけられた温度上昇量ΔT3'はそれぞれ次式により表すことができる。
【0060】
ΔT2' = α'× N2 + β' ・・・(8)
ΔT3' = α'× N3 + β' ・・・(9)
一方、シート数N2に紐づけられたオフセット濃度Doff2は、(4)式に(2)式を代入することより求められる。
【0061】
Doff2 = a ×(ΔT2dif-ΔTs)
= a ×(ΔT2'- ΔT2 -ΔTs)
= a ×(ΔT2'- C2/γ -ΔTs) ・・・(10)
同様に、シート数N3に紐づけられたオフセット濃度Doff3は、(5)式と(2)式より求められる。
【0062】
Doff3 = a ×(ΔT3dif-ΔTs)
= a ×(ΔT3'- ΔT3 -ΔTs)
= a ×(ΔT3'- C3/γ -ΔTs) ・・・(11)
ここで、(10)式に(8)式を代入することにより次式が得られる。
【0063】
Doff2 = a ×{(α'× N2 + β')- C2/γ -ΔTs}
=[ a ×α']×N2 + [a×(β'- C2/γ -ΔTs)] ・・・(12)
同様に、(11)式に(9)式を代入することにより、オフセット濃度Doff3は次式で表現される。
【0064】
Doff3 =[ a ×α']×N3 + [a×(β'- C3/γ -ΔTs)] ・・・(13)
(12)式と(13)式で表されるオフセット濃度Doffは、カウンタ312によりカウントされたシート数Nを変数とする一次関数である。ここで、オフセット濃度Doffの傾きa、補正量C2、C3、オフセットマージン温度ΔTs、および変換係数γは既知の定数である。未知の変数はα'とβ'の2つであるため、シート数Nを変数とするオフセット濃度Doffの式が少なくとも2つ以上あれば、傾きα'と切片β'を求めることができる。たとえば、(12)式と(13)式とを二元連立方程式と考えると、以下の式が得られる。
【0065】
β' = -N2×α' + K ・・・(14)
K = Doff2/a + C2/γ + ΔTs ・・・(15)
β' = -N3×α' + L ・・・(16)
L = Doff3/a + C3/γ + ΔTs ・・・(17)
α' = (L-K)/(N3-N2) ・・・(18)
β' = (K×N3 - L×N2)/(N3 - N2) ・・・(19)
修正部308は(19)式から切片β'を算出する。また、修正部308は(18)式から傾きα'を算出する。ここで、オフセット濃度Doff2、Doff3を用いて予測式が修正されているが、3つ以上のオフセット濃度Doffから統計的にα'とβ'が算出されてもよい。
【0066】
補正量演算部311は、α'とβ'を(7)式に代入することで、修正された予測式を完成させる。補正量演算部311は、(7)式により修正された補正量C'を求め、目標補正部304に設定する。目標補正部304は、修正された補正量C'を用いて目標温度を補正する。これにより、ホットオフセットが発生しにくくなる。補正量演算部311は、修正された補正量C'iを、シート数Niおよびオフセット濃度Doffiと関連付けてメモリ301に保存する。
【0067】
[実施例2]
実施例1で説明されたように、温度上昇量ΔTと摩耗量Δdとの間には一定の関係が存在する。したがって、CPU300(寿命演算部325)は、温度上昇量ΔTから摩耗量Δdを算出することができる。一方で、未使用の定着フィルム31の表層213の厚み(初期厚みd)は既知である。表層213の厚みが0になると、定着器18の交換が必要となる。したがって、寿命演算部325は、未使用の定着フィルム31の表層213の厚みと、摩耗量Δdとから定着フィルム31の残り寿命を演算できる。たとえば、残り寿命が閾値以下になると、寿命演算部325は、定着器18の交換を促すメッセージを操作部321の表示装置に出力してもよい。これにより、定着器18が完全に使用不能になる前に、ユーザーは、定着器18を交換できるため、ダウンタイムが削減される。ダインタイムとは、ユーザーが画像を形成できない時間である。
【0068】
図9(B)は定着器18の寿命予測方法を説明する図である。図9(B)におけるシート数N、表層213の摩耗量Δd、および、温度上昇量ΔTの関係は図5(A)に関連してすでに説明された通りである。ここでは、一例として、シート数がN3になったときの定着器18の寿命予測が説明される。
【0069】
定着器18の寿命が尽きるタイミングは、摩耗量Δdの積算値が初期厚みdと等しくなった時点である。寿命が尽きたタイミングにおける表層213の摩耗量の積算値はΔdendと定義される。初期厚みdは設計値と考えることができるため、初期厚みdと等しいΔdendは既知の値である。
【0070】
寿命が尽きたタイミングにおける温度上昇量はΔTendと定義される。ΔTendはΔdendから予め求めることができる既知の値である。何故なら、図9(B)の第二象限が示す摩耗量Δdと温度上昇量ΔTの関係は、定着器18の構成によって決まり、ユーザーの使い方によって変化するシート条件の影響は受けないからである。
【0071】
一方、ΔT3'は、実施例1で説明されたように、メモリ301に蓄積されたオフセット濃度Doff、これに紐づけられたシート数N、および補正量Cから算出可能である。たとえば、CPU300は、α'とβ'を求めて(9)式を完成させ、さらにΔT3'に対応するシート数N3を(9)式に代入することで、ΔT3'を算出できる。
【0072】
摩耗量Δdと温度上昇量ΔTは比例に関係にある。そこで、寿命演算部325は、シート数N3における表層213の初期厚みdに対する残膜厚の割合R[%]を(20)式を用いて演算してもよい。残膜厚は残り寿命と呼ばれてもよい。
【0073】
R=ΔT3'/ΔTend × 100 ・・・(20)
定着器18の寿命予測の別の例として、寿命演算部325は、寿命が尽きるタイミングまで給送可能なシート数も予測可能である。図9(B)が示すように、寿命が尽きるタイミングまで給送可能なシート数はNendと定義される。寿命演算部325は、(6)式を変形することで得られる(21)式を用いて、ΔTendに対応するNendを求める。
【0074】
Nend=(ΔTend-β')/α' ・・・(21)
ここで、寿命演算部325は、シート数N3を基準とした、寿命が尽きるタイミングまでの給送可能なシート数ΔNを、次式を用いて算出してもよい。
【0075】
ΔN = Nend - N3 ・・・(22)
つまり、寿命演算部325は、(22)式を用いて残り寿命に相当するΔNを算出してもよい。このように、実施例2によれば、現在のシート条件を考慮することで、定着器18の寿命予測精度が向上する。
【0076】
[実施例3]
実施例1、2では予測式の修正に関する演算のすべてが画像形成装置100の内部で実行されている。しかし、これは必須ではない。図10が示すように、予測式の修正に関する演算のすべてまたは一部が、情報処理装置1000により実行されてもよい。
【0077】
図10において、情報処理装置1000は、CPU300a、メモリ301a、操作部321aおよび通信回路323aを有するコンピュータである。通信回路323aは、通信回路323とネットワーク(例:LAN、インターネット)を介して通信する。つまり、CPU300aは、通信回路323aと通信回路323を介して画像形成装置100のCPU300とコマンドおよびデータを送受信できる。
【0078】
テスト部313はカウンタ312のカウント値が実行開始条件を満たすと、画像形成装置100にテスト画像を形成させ、画像センサ60にテスト画像を読み取らせ、テスト画像の画像データを情報処理装置1000へ送信する。CPU300aは上述された濃度演算部306、修正判定部307、修正部308、補正量演算部311、寿命演算部325(状態判定部320)を有している。これらの機能は実施例1、2で説明された通りである。CPU300aは、画像データを受信すると、これらの機能を用いて、修正された予測式を用いて補正量C'を演算し、補正量C'を画像形成装置100に送信する。画像形成装置100の目標補正部304は、補正量C'を受信し、現在の目標温度から補正量C'を減算することで新たな目標温度を決定する。
【0079】
図10では、濃度演算部306、修正判定部307、修正部308、補正量演算部311、および寿命演算部325(状態判定部320)が情報処理装置1000に設けられている。しかし、これらの機能の一部が画像形成装置100に設けられていてもよい。たとえば、通信回路323と通信回路323aとの間の通信トラフィックを削減するために、濃度演算部306が画像形成装置100に設けられていてもよい。画像データのデータ量と比較してオフセット濃度Doffのデータ量はずっと少ないからである。
【0080】
図10が示すように、画像分析に関する機能を情報処理装置1000に設けることで、画像分析および演算に要する時間を短縮することが可能となるだろう。これは、情報処理装置1000のCPU300aの演算能力がCPU300の演算能力よりも高いことが前提となる。画像分析にディープラーニングなどの機械学習が用いられる場合、多大な計算量が必要になる。この場合、画像形成装置100の外部にあるコンピュータを用いるメリットが大きい。
【0081】
情報処理装置1000は、複数の画像形成装置100に接続されていてもよい。この場合、情報処理装置1000は、複数の画像形成装置100に対して画像分析サービスを提供できる。また、情報処理装置1000は、複数の画像形成装置100の状態を一括して管理することができる。
【0082】
[まとめ]
[観点1]
分析部305は、シートPに形成されたテスト画像を画像センサ60により読み取ることで取得された読取結果を分析して分析結果を出力する分析手段として機能する。メモリ301、301aは、テスト画像を形成したときの印刷条件と分析結果とを相互に紐付けて蓄積する蓄積手段として機能する。CPU300は、蓄積手段に蓄積された分析結果と印刷条件とを参照して、画像形成手段を制御するために制御手段により使用される制御パラメータ(例:目標温度)を演算する演算手段として機能する。このように観点1によれば、画像を形成したときに使用された印刷条件とその画像の読み取り結果(分析結果)とを紐付けて蓄積する画像形成装置100が提供される。また、蓄積手段に蓄積された分析結果と印刷条件とを参照して、画像形成手段を制御するために制御手段により使用される制御パラメータが求められる。これにより、蓄積手段に蓄積された分析結果と印刷条件から画像形成装置100の状態の推移が分かるため、精度よく、制御パラメータが求められる。
【0083】
[観点2、8]
演算手段(例:CPU300)が算出する制御パラメータは、画像形成手段を構成する部材(例:定着器)の使用量に応じた画像形成手段の制御に関する補正量(目標温度の補正量)であってもよい。これにより、精度よく、補正量が求められるようになろう。
【0084】
[観点3]
CPU300や状態判定部320は、蓄積手段に蓄積された分析結果と印刷条件とを参照して画像形成手段を構成する部材(例:定着器)の状態を判定する状態判定手段として機能してもよい。蓄積手段に蓄積された分析結果と印刷条件から画像形成装置100の状態(定着器の消耗)の推移が分かるため、精度よく、部材の状態が判定されるようになろう。
【0085】
[観点4、10]
状態判定手段(例:CPU300や寿命演算部325)が判定する状態は、画像形成手段を構成する部材の残寿命であってもよい。これにより、蓄積手段に蓄積された分析結果と印刷条件から部材の消耗の推移が精度よく判明するため、部材の残寿命が精度よく求められるであろう。
【0086】
[観点5、11]
印刷条件は、画像形成手段を構成する部材の使用量または部材の制御パラメータのうち、少なくとも一方を含んでもよい。蓄積された部材の使用量は部材の使用量の推移を示す。また、時々刻々と変化する画像形成装置100の状態に応じて制御パラメータは補正される。したがって、制御パラメータも間接的に画像形成装置100の状態を示す。よって、部材の使用量または部材の制御パラメータは、画像形成装置100の状態の推移を示す尺度となろう。
【0087】
[観点6、12]
図8に関して説明されたように、画像形成手段はテスト画像を形成するように構成されていてもよい。また、読取手段はテスト画像を読み取るように構成されていてもよい。この場合、分析手段は、テスト画像を読取手段により読み取ることで取得された読取結果を分析して分析結果を出力するように構成される。テスト画像のように予め定められた画像を分析することで、分析結果の信頼性が向上する。ただし、テスト画像に代えてユーザーが印刷指定した画像が分析対象とされてもよい。この場合は、分析精度と引き換えに、分析に必要とされるシートが不要となるメリットが生じよう。
【0088】
[観点7、9]
図10を用いて説明されたように、画像形成装置100と外部装置(例:情報処理装置1000)とを有する画像形成システムが提供されてもよい。この場合、画像形成手段、制御手段および読取手段は画像形成装置100に設けられる。一方、分析手段は、画像形成装置と外部装置とのいずれか一方に設けられる。蓄積手段も、画像形成装置と外部装置とのいずれか一方に設けられる。演算手段も画像形成装置と外部装置とのいずれか一方に設けられる。状態判定手段(例:寿命演算部325)も画像形成装置と外部装置とのいずれか一方に設けられる。れにより、画像形成装置100の負荷とハードウエア(記憶装置の容量など)が削減されるであろう。
【0089】
[観点13]
図1が示すように、画像形成部25は、シートPに画像を形成する画像形成手段の一例である。カウンタ312は、画像形成手段の稼働量(例:シート数)を計測する計測手段の一例である。CPU300および補正量演算部311は稼働量を補正量の予測式(例:(7)式)に代入することで制御パラメータ(例:ヒータ33の目標温度)の補正量を演算する演算手段の一例である。目標補正部304は、補正量に基づき制御パラメータを補正する補正手段として機能する。CPU300および定着制御部302は、制御パラメータに基づき画像形成手段を制御する制御手段として機能する。画像センサ60はシートPを読み取る読取手段として機能する。CPU300および修正判定部307は読取手段によるシートの読み取り結果に基づき予測式の修正が必要かどうかを判定する判定手段として機能する。CPU300および修正部308は判定手段が予測式の修正が必要と判定すると、画像の読み取り結果に基づき予測式を修正する修正手段として機能する。シートの読み取り結果はユーザーの使い方に相関する。したがって、シートの読み取り結果に応じて補正量の予測式を修正することで、画像不良の発生が低減される。
【0090】
[観点14]
CPU300およびテスト部313は、所定の判定実行条件が満たされると、画像形成手段を制御してシートPにテスト画像を形成させ、読取手段に当該シートに形成されたテスト画像を読み取らせる。CPU300および修正判定部307は、テスト画像の読み取り結果に基づき予測式の修正が必要かどうかを判定する。このように、テスト画像を用いることで、より正確に予測式の修正が必要かどうかを判定することが可能となる。
【0091】
[観点15]
図7(A)が例示するように、テスト画像の読み取り結果は、シートPにおいてテスト画像から所定距離だけ離れた領域の読み取り結果である。これは、テスト画像に起因したホットオフセットがテスト画像から所定距離だけ離れた領域に発生しうるからである。このように特定の領域に着目することで、演算量が削減されるであろう。
【0092】
[観点16]
S801に関して説明されたように、所定の判定実行条件は、画像形成手段の稼働量の増加量(例:ΔN)が一定量に達したことであってもよい。これは、稼働量に相関して画像形成手段が消耗するからである。
【0093】
[観点17]
稼働量は、画像形成手段により形成された画像の数(例:定着器18に給送されたシートの枚数)であってもよい。これは、画像形成手段に供給されたシートの数に相関して画像形成手段が消耗するからである。
【0094】
[観点18]
図7(B)が示すように、メモリ301は、所定の判定実行条件が満たされると、テスト画像の読み取り結果から得られた分析結果と、稼働量および補正量を含む印刷条件と、を関連付けて記録する記録手段して機能する。CPU300および修正部308は、記録手段に保持されている情報に基づき予測式を修正してもよい。この情報には、たとえば、第一稼働量と、当該第一稼働量に関連付けられている第一補正量と、当該第一稼働量に関連付けられている分析結果とが含まれていてもよい。さらに、この情報には、第二稼働量と、当該第二稼働量に関連付けられている第二補正量と、当該第二稼働量に関連付けられている分析結果とが含まれていてもよい。これにより、予測式を正確に修正することが可能となる。
【0095】
[観点19]
(7)式などが示すように、予測式は稼働量を変数とする一次関数であってもよい。これにより、簡単な演算により補正量を求めることが可能となる。なお、予測式は、補正量を演算する演算式であり、補正式とよばれてもよいだろう。
【0096】
[観点20]
(7)式が例示するように、一次関数は、稼働量に乗算される第一係数(例:α')と、第一係数と稼働量との積に対して加算される第二係数(例:β')とを有してもよい。
【0097】
[観点21]
一次関数は、積と第二係数との和に乗算される既知の第三係数(例:γ)を有してもよい。定着フィルム31の温度を直接的に測ることは困難である。その一方で、(2)式に関して説明されたように、定着フィルム31の温度とヒータ33の温度との間には一定の関係がある。したがって、既知の第三係数を用いることで、サーミスタ231で測定された温度は定着フィルム31の温度に換算可能である。
【0098】
[観点22]
修正部308は、記録手段に保持されている情報に基づき第一係数と第二係数とを演算することで、修正された予測式を求めてもよい。この情報には、第一稼働量と、当該第一稼働量に関連付けられている第一補正量と、当該第一稼働量に関連付けられている分析結果とが含まれる。さらに、この情報には、第二稼働量と、当該第二稼働量に関連付けられている第二補正量と、当該第二稼働量に関連付けられている分析結果が含まれる。
【0099】
[観点23]
画像形成部25は、シートPに形成されたトナー画像を加熱することでシートに対してトナー画像を定着させる定着手段(例:定着器18)を有してもよい。定着手段は、加圧ローラ32と、加圧ローラに対向して設けられ、加圧ローラとともにシートPを挟持して搬送するフィルム部材(例:定着フィルム31とを有する。さらに、定着手段は、フィルム部材を所定の目標温度に加熱するヒータ33と、ヒータの温度を測定する測定手段(例:サーミスタ231)とを有する。定着制御部302は、測定手段により測定された温度が目標温度に近づくようにヒータ33を制御する。この場合、制御パラメータはヒータ33の目標温度であってもよい。
【0100】
[観点24]
フィルム部材は、稼働量の増加につれて摩耗する部材である。定着手段は、フィルム部材が摩耗するにつれて、フィルム部材の表面温度とヒータの温度とが乖離する特性を有していることがある。この場合に、補正量は、フィルム部材の表面温度とヒータの温度との乖離を補正する補正量として機能する。
【0101】
[観点25]
図7(B)が示すように、テスト画像の読み取り結果は、シートPにおいてテスト画像から所定距離だけ離れた領域の読み取り結果であってもよい。とりわけ、当該所定距離は、円筒形状のフィルム部材(例:定着フィルム31)の周長に等しい。上述されたように、ホットオフセットは、定着フィルム31の周長の整数倍の距離ごとに発生しうる。したがって、定着フィルム31の周長の整数倍の距離に着目することで、画像分析に伴う演算量が削減される。また、ホットオフセット以外の要因に伴うトナー汚れの影響を低減できる。
【0102】
[観点26]
画像形成部25に、感光ドラム1は感光体として機能する。現像ローラ3は、感光体に形成された静電潜像をトナーにより現像してトナー画像を形成する現像手段として機能する。一次転写ローラ6、中間転写ベルト8および二次転写ローラ11はトナー画像を感光体からシートに転写する転写手段として機能する。電源装置322は転写手段に転写バイアスを印加する印加手段として機能する。この場合、制御パラメータは転写バイアスであってもよい。現像ローラ3が消耗すると、いわゆるカブリという現象が発生する。カブリは、トナー画像の周囲にある非画像部にトナーが付着してしまう現象である。テスト画像を読み取ることで、CPU300は、カブリの濃度を測定できる。つまり、オフセット濃度Doffに代えてカブリ濃度を採用することで、転写バイアスの補正量の予測式を修正してもよい。メモリ301には、カブリ濃度、補正量およびシート数が関連付けられて蓄積されることになる。
【0103】
[観点27]
カブリ濃度に関しては、シートの読み取り結果は、シートにおいてトナー画像が転写されていない非画像領域の読取結果である。これは、カブリが非画像領域に発生するからである。
【0104】
[観点28]
画像形成装置(例:画像形成システム)は、プリンタ(例:画像形成装置100)と、プリンタに接続された外部装置(例:情報処理装置1000)とを有していてもよい。この場合、記録手段(例:メモリ301a)は外部装置に設けられていてもよい。この場合、画像形成装置100のメモリ301の記憶容量を削減することが可能となろう。
【0105】
[観点29]
寿命演算部325は、第一係数と稼働量との積に対して第二係数とを加算することで得られる和に基づき画像形成手段において画像形成に関与する部材の残り寿命を示すパラメータ(例:R)を演算する寿命演算手段として機能する。操作部321の表示装置は、残り寿命を示すパラメータを表示する表示手段として機能する。これにより、ユーザーは、部材の残り寿命や交換時期を理解しやすくなるであろう。
【符号の説明】
【0106】
25...画像形成部、312...カウンタ、300...CPU
図1
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図9
図10