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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】車両用灯具
(51)【国際特許分類】
   F21S 41/176 20180101AFI20240207BHJP
   F21S 41/675 20180101ALI20240207BHJP
   F21S 43/30 20180101ALI20240207BHJP
   F21S 43/16 20180101ALI20240207BHJP
   F21V 9/45 20180101ALI20240207BHJP
   F21V 7/00 20060101ALI20240207BHJP
   F21V 14/04 20060101ALI20240207BHJP
   F21V 5/04 20060101ALI20240207BHJP
   F21S 41/16 20180101ALI20240207BHJP
   F21S 43/13 20180101ALI20240207BHJP
   F21W 103/60 20180101ALN20240207BHJP
   F21W 102/155 20180101ALN20240207BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20240207BHJP
【FI】
F21S41/176
F21S41/675
F21S43/30
F21S43/16
F21V9/45
F21V7/00 590
F21V14/04
F21V5/04 350
F21V5/04 200
F21S41/16
F21S43/13
F21W103:60
F21W102:155
F21Y115:30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019165582
(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公開番号】P2021044159
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-08-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110004060
【氏名又は名称】弁理士法人あお葉国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前野 雄壮
(72)【発明者】
【氏名】時田 主
【審査官】安食 泰秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-077286(JP,A)
【文献】特開2015-002160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 41/176
F21S 41/675
F21S 43/30
F21S 43/16
F21V 9/45
F21V 7/00
F21V 14/04
F21V 5/04
F21S 41/16
F21S 43/13
F21W 103/60
F21W 102/155
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光源によるスポット光を走査する走査機構と、裏面に透明基板を有すると共に走査されたスポット光を透過させる透明基板付蛍光体を有し、走査に基づいた形態の表示を光によって行う車両用灯具において、
前記透明基板付蛍光体は、蛍光体の表面から透明基板の一部に至る深さの格子状の溝と、前記格子状の溝によって蛍光体から透明基板の一部に至るまで形成された島状発光部と、を有し、前記走査機構によるスポット光が格子状の溝を通過する際に前記レーザー光源が、消灯制御を行われることを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
レーザー光源によるスポット光を走査する走査機構と、裏面に透明基板を有すると共に走査されたスポット光を透過させる透明基板付蛍光体を有し、走査に基づいた形態の表示を光によって行う車両用灯具において、
前記透明基板付蛍光体は、蛍光体の表面から透明基板の一部に至る深さの格子状の溝と、前記格子状の溝によって蛍光体から透明基板の一部に至るまで形成された島状発光部と、を有し、前記蛍光体と、前記蛍光体を透過した光の光路上に配置された投影レンズとの間に消灯制御によって生じる減光を緩和させるプライマリー光学系を備えたことを特徴とする車両用灯具。
【請求項3】
前記島状発光部は、それぞれの側面に反射部を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の車両用灯具。
【請求項4】
前記島状発光部は、入射する前記スポット光を囲む形態を有することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用灯具。
【請求項5】
前記スポット光を囲う島状発光部は、入射する前記スポット光にならう形状を有することを特徴とする、請求項3に記載の車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
蛍光体と走査機構を介して配光可変型前照灯表示または路面描画を行う車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、段落番号[0026][0027]と図1図2等に半導体レーザ(光源)からの光を透明な放熱保持部と、放熱保持部に支持された蛍光体部の双方に透過させて所定の色の光を発生させる発光装置が開示されている。
【0003】
また、レーザースポット光の走査によって所望の形態の表示を行う車両用灯具においては、レーザースポット光を透明基板付蛍光体に透過させ、所定の色となったレーザースポット光を走査することで所望の形態の可変型前照灯表示や路面描画表示が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-223869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザースポット光の走査によって所望の形態の表示を行う車両用灯具においては、レーザースポット光のサイズが小さいほど表示される前照灯表示や路面描画表示の解像度が高くなる。しかし、透明基板付蛍光体を透過したレーザースポット光は、透明基板付蛍光体を透過する際に蛍光体内の全方向に拡散され、蛍光体を幅広く発光させることによって、透過前のレーザースポット光よりもサイズが大きくなる。このように蛍光体を透過することで生じるレーザースポット光の肥大化を滲みと定義した場合、蛍光体を透過することで生じるレーザースポット光の滲みは、前照灯表示や路面描画表示の解像度を低下させる点で問題がある。
【0006】
本願は、上記問題に鑑みて、レーザースポット光の滲みを低減させることで、解像度の高い可変型前照灯表示や路面描画表示の可能な車両用灯具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
レーザー光源によるスポット光を走査する走査機構と、裏面に透明基板を有すると共に走査されたスポット光を透過させる透明基板付蛍光体を有し、走査に基づいた形態の表示を光によって行う車両用灯具において、前記透明基板付蛍光体は、蛍光体の表面から透明基板の一部に至る深さの格子状の溝と、前記格子状の溝によって蛍光体から透明基板の一部に至るまで形成された島状発光部と、を有するようにした。
【0008】
(作用)格子溝によって分断された島状発光部の蛍光体の端面により、島状発光部の厚さ方向(第1方向とする)に直交する方向(第2方向とする)への透過レーザー光の拡散が限定され、レーザースポット光の滲みが抑制される。また、蛍光体の表面から裏面を通り透明基板の一部まで格子溝が形成される事で島状発光部の蛍光体が互いに完全に分断形成されるため、各島状発光部の蛍光体の表面(先端側)から裏面(基端側)に至る全域においてレーザースポット光の滲みが抑制される。また、島状発光部の透明基板においては、その端面によって反射されたレーザー光が蛍光体方向に反射される。
【0009】
また、車両用灯具において、前記島状発光部は、それぞれの側面に反射部を有することが望ましい。
【0010】
(作用)島状発光部の端面に入射した光が、全反射されることで透過方向に進行する。
【0011】
また、車両用灯具において、前記島状発光部は、入射する前記スポット光を囲む形態を有することが望ましい。
【0012】
(作用)走査されるレーザースポット光が、通過対象となる島状発光部の外に漏れることなく全て島状発光部に入射する。
【0013】
また、車両用灯具において、前記スポット光を囲う島状発光部は、入射する前記スポット光にならう形状を有することが望ましい。
【0014】
(作用)走査されるレーザースポット光が、通過対象となる島状発光部の外に漏れることなく全て島状発光部に入射する。
【0015】
また、車両用灯具において、前記走査機構によるスポット光が格子状の溝を通過する際に前記レーザー光源が、消灯制御を行われるようにすることが望ましい。
【0016】
(作用)島状発光部ではなく溝に入射する光の発生が抑制される。
【0017】
また、車両用灯具において、前記蛍光体と、前記蛍光体を透過した光の光路上に配置された投影レンズとの間に消灯制御によって生じる減光を緩和させるプライマリー光学系を備えることが望ましい。
【0018】
(作用)レーザースポット光が溝を通過して減光することによるレーザースポット光の照度むらが低減される。
【発明の効果】
【0019】
車両用灯具によれば、島状発光部の透明基板側に入射した光がその端面によって蛍光体への入射を促進され、かつ互いに完全に分断された島状発光部の発光によって形成された滲みの無いサイズの小さなレーザースポット光が形成され、その小さなレーザースポット光を走査することで解像度の高い前照灯表示や路面描画表示を行うことが出来る。
【0020】
また、車両用灯具によれば、島状発光部の端面に入射した光が端面を通過することなく全反射されることで透過方向への進行を促進されるため、島状発光部の発光効率が向上する。
【0021】
また、車両用灯具によれば、レーザースポット光の全体が通過する島状発光部に漏れなく全て入射することで、島状発光部の発光効率が更に向上する。
【0022】
また、車両用灯具によれば、レーザースポット光の全体が通過する島状発光部の外周に沿って外周の極めて近くに全て入射することで、滲みが最大限に抑制されて、島状発光部の発光効率が更に向上する。
【0023】
また、車両用灯具によれば、溝に入射する光によるグレア光が発生しないため、解像度の安定したレーザースポット光による走査を行うことが出来る。
【0024】
また、車両用灯具によれば、溝を通過する際にレーザースポット光に照度むらが生じにくいことで、照度むらのない可変型車両用灯具表示や路面描画表示を行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】MEMSミラーを走査機構として有する車両用灯具の第1実施形態にかかる平面図。
図2】車両用灯具の走査機構であるMEMSミラーを示す斜視図。
図3】描画表示の際の投影レンズへの照射領域の一例を示す図。
図4】(a)従来の透明基板付蛍光体を説明するための斜視図。(b)第1実施形態の透明基板付蛍光体を示す正面図。
図5】(a)は、図4(b)に示す透明基板付蛍光体のI-I断面図。(b)は、図5(a)の透明基板付蛍光体の島状発光部及び格子溝を示す拡大断面図。
図6】(a)スポット光を囲む形状に形成された島状発光部及び格子溝に関する第1変形例を示す拡大部分正面図。(b)スポット光の外形にならいかつ前記外形を囲む形状に形成された島状発光部及び格子溝に関する第2変形例を示す拡大部分正面図。
図7】(a)島状発光部と格子溝に対向するプライマリ光学系の形態を示す拡大部分断面図。(b)図8(a)における光路説明図。
図8】回転機構を走査機構として有する車両用灯具の第2実施形態にかかる平面図。
図9】ポリゴンミラーを走査機構として有する車両用灯具の第2実施形態にかかる平面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態を図1から図9に基づいて説明する。各図においては、車両用灯具の搭載車両(図示せず)において、ドライバーから見た道路の方向を(上方:下方:左方:右方:前方:後方=Up:Lo:Le:Ri:Fr:Re)として説明する。
【0027】
図1は本発明の第1実施形態にかかる車両用灯具を示すものである。車両用灯具1は、レーザー光源2、集光レンズ3,走査機構であるMEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)ミラー4、制御装置5、透明基板付蛍光体6,プライマリー光学系21及び投影レンズ8を図示しない前面カバー付ランプボディの灯室内に備える。
【0028】
図1により、走査機構であるMEMSミラー4を備えた車両用灯具1の概略について説明する。制御装置5によって点消灯の制御を受けるレーザー光源2によるレーザー光R1は、集光レンズ3によってMEMSミラー4の反射面11aに向けて集光される。MEMSミラー4は、投影レンズ8の光軸上に配置され、制御装置5の制御に基づいて高速かつ二軸回動が可能な自動反射鏡によってレーザー光R1を上下左右に自在に走査する。走査されたレーザー光R1は、透明基板付蛍光体6,プライマリー光学系21、投影レンズ8を順に透過することにより、所望の描画パターンを車両用灯具1の搭載車両(図示せず)前方に表示する。
【0029】
図1によって車両用灯具1の構成要素について説明する。レーザー光源2は、後述する透明基板付蛍光体6との組み合わせ(例えば、前照灯の白色光を発生させる場合、レーザー光源2は、青色レーザーダイオードとし、透明基板付蛍光体6の蛍光体は、黄色に構成される)によって多種多様な色の描画を行う。尚、レーザー光源2と透明基板付蛍光体6の蛍光体との組み合わせは、これに限られない。
【0030】
集光レンズ3は、前面が凸となる透明または半透明の平凸レンズとして形成され、後述するMEMSミラー4の反射面上に焦点を結ぶようにレーザー光R1を透過させる位置に配置される。
【0031】
図2によって走査機構であるMEMSミラー4を説明する。MEMSミラー4は、ベース9、第1回動体10、第2回動体11、第1トーションバー12、第2トーションバー13、一対の第1永久磁石14、一対の第2永久磁石15、および端子部16を有する。第2回動体11は、板状に形成された反射鏡であり、第2回動体11の前面には、銀蒸着やスパッタリング処理などによって反射面11aが形成される。
【0032】
図2に示す板状の第1回動体10は、第1トーションバー12によって左右(Y軸周り)に回動可能に支持されて、第2回動体11は、一対の第2トーションバー13によって上下(X軸周り)に回動可能な状態で第1回動体10に支持される。一対の第1永久磁石14及び一対の第2永久磁石15は、ベース9において一対の第1及び第2トーションバー(12、13)の延びる方向にそれぞれ設けられる。一対の第1及び第2回動体(10、11)には、それぞれ端子部16を介して通電され、制御装置5によってそれぞれ独立した電通制御をされる第1及び第2のコイル(図示せず)が設けられている。
【0033】
図2に示す第1回動体10は、第1コイル(図示せず)への通電オン又は通電オフに基づいて第1トーションバーの軸線(Y線)回りに高速で往復傾動し、第2回動体11は、第2コイル(図示せず)への通電のオン又は通電オフに基づいて第2トーションバー13の軸線(X軸)回りに高速で往復傾動する。反射面11aは、後述する投影レンズ8の光軸上に配置され、第1及び第2回動体(10,11)の傾動に基づいて、レーザー光源2から入射するレーザー光R1を上下左右方向に自在に反射させ、走査を行う。
【0034】
図1に示す制御装置5は、CPU等で構成され、レーザー光源2の点消灯のタイミングと発生する輝度を制御し、更にMEMSミラー4の第1及び第2コイル(図示せず)への通電制御によって第2回動体11の反射面11aの回動方向、回動範囲、回動速度を制御する。
【0035】
図1に示す投影レンズ8は、前方側表面が凸となる平凸レンズなどであり、その後方焦点が、MEMSミラー4の反射面11aの近傍に位置するように配置される。MEMSミラー4により、投影レンズ8の光軸に対して直交する面内を高速で走査されたレーザー光R1は、透明基板付蛍光体6,プライマリー光学系21及び投影レンズ8を順に透過して積層されることで所望の形状の描画パターンとなる。
【0036】
図3は、MEMSミラー4による描画パターンの一例であるロービーム配光パターンに係る照射領域Laを示す図である。制御装置5は、走査領域SA内において、走査位置を少しずつ上にずらしつつ高速で繰り返し左右に走査するようにMEMSミラー4の第1及び第2回動体(10,11)を制御しつつ、走査位置が照射領域La内である場合に、レーザー光源2を点灯させ、照射領域La外にある場合に消灯させる。走査されたレーザー光R1は、投影レンズ8の入射面8aにおいて照射領域Laに入射し、投影レンズ8を透過して反転像となり、反転増は、車両用灯具1前方の仮想スクリーン上(投影レンズ8の光軸に直交する仮想面上)に投影されると共に所望の投影場所に照射される。
【0037】
次に図4及び図5により、第1実施形態における透明基板付蛍光体6を説明する。図4(a)は、透明基板付蛍光体の従来技術を示すものである。従来の透明基板付蛍光体6’は、所定の色を有する板状の蛍光体6a’の裏面(後面)に透明または半透明の透明基板6b’を一体化することで形成されていた。MEMSミラー等の走査機構によって走査されるレーザー光’は、透明基板6b’側から蛍光体6a’に図4(a)に示すような楕円形状のスポット光SP1’や円形状のスポット光(図示せず)として入射して蛍光体6a’を発光させる。しかし、蛍光体6a’においてスポット光SP1’の範囲に入射したレーザー光R1は、蛍光体6a’の面方向、即ち上下左右方向に拡散する。そのため、蛍光体6a’において、符号SP1’の範囲に入射したレーザー光R1’は、符号SP1’の範囲よりも拡散された符号SP2’の範囲を発光させることで、SP1’よりも大きな楕円スポット光SP2’を蛍光体6a’に発生させる。
【0038】
一般にレーザー光の走査によって表示される前照灯表示や路面描画表示の解像度は、蛍光体に発生するレーザースポット光のサイズが小さいほど高くなる。しかし、従来技術の透明基板付蛍光体のように、入射レーザー光の上下左右方向の拡散(以降はこれを滲みと言う。)によって蛍光体6a’内に発生するレーザースポット光の肥大化は、スポット光の外縁を不鮮明にすることで表示される前照灯表示や路面描画表示の分解能や解像度を低下させる点で問題があった。
【0039】
本発明の第1実施形態においては、上記従来の問題を解決するために、図4(b)、図5(a)及び図5(b)に示すように透明基板付蛍光体6を形成しているため、これを説明する。
【0040】
図4(b)、図5(a)及び図5(b)に示す、第1実施形態の透明基板付蛍光体6は、蛍光体6aと、蛍光体6aに生じた熱を放熱するために放熱性を有する素材(サファイヤ、MgO、Y、GaN等)で形成された透明基板6bによって構成されている。また、透明基板付蛍光体6には、図4(b)に示すように透明基板付蛍光体6の面方向に展開する格子状の溝19を介して正面から見て正方形形状の島状発光部20が多数形成されている。透明基板付蛍光体6は、透明基板6bをMEMSミラー4の反射面11aに対向させ、かつ蛍光体6aを後述するプライマリー光学系21に対向させた状態でMEMSミラー4に反射されたレーザー光R1の光路上に配置される。
【0041】
尚、島状発光部20は、例えば、蛍光体6aに表示されるレーザースポットが円形レーザースポット光SP3のような場合において、正方形に形成され、または、蛍光体6aに表示されるレーザースポットが楕円形レーザースポット光(後述する図6(a)を参照)のような場合において、長方形に形成されることが望ましい。また、島状発光部20は、これらの形状に限られず、正面から見て多種多様な正面視形状を有するように形成されてもよい。
【0042】
尚、格子状の溝19は、フォムト秒レーザー等によるレーザー加工、ダイシングなどによる機械加工、またはエッチング等によって透明基板付蛍光体6に形成されることが望ましい。
【0043】
また、図4(b)に示すように正面から見た格子状の溝19の幅W1は、各島状発光部20の一辺の幅W2の1/5以下とすることが望ましく、正面から見た島状発光部の一辺の幅W2は、青色レーザーダイオードによるレーザースポット光が円形の場合において、青色レーザーダイオード光の1/eにおけるスポット外径以上かつスポット外径の3倍以下とすることが望ましい。
【0044】
また、図5(a)、図5(b)に示すように格子状の溝19は、透明基板付蛍光体6(蛍光体6a)の表面から透明基板の一部に至る深さに形成されている。格子状の溝19によって分断された島状発光部20の蛍光体6aの端面6a1、6a2により、島状発光部20の厚さ方向(第1方向=前後方向とする)に直交する方向(第2方向=上下左右方向とする)への透過レーザー光の拡散が限定され、レーザースポット光SP3の滲みが抑制される。また、蛍光体6aの表面6a3から裏面6a4を通り透明基板6bの一部まで格子状の溝19が形成されることで島状発光部20の蛍光体6aが互いに完全に分断形成されるため、各島状発光部20の蛍光体6aの表面(先端側)から裏面(基端側)に至る全域においてレーザースポット光SP3の滲みが抑制される。また、島状発光部20の透明基板6bにおける端面6a1、6a2は、各端面に入射したレーザー光R1を格子状の溝19に向けて透過させにくくなり、蛍光体方向に導くように反射することでグレア光の発生を防ぐ。
【0045】
また、図5(b)に示す端面6a1、6a2は、銀蒸着等による反射膜などを設け、または反射材を埋め込まれることによって光を全反射する反射部として形成されることが望ましい。
【0046】
また、図5(b)に示すように格子状の溝19の深さD1は、蛍光体の厚さD2よりも深く、透明基板内における格子状の溝19の深さD3は、透明基板6bの厚さD4の1/2以下に形成されることが望ましい。
【0047】
尚、正面から見た島状発光部は、図6(a)に示すようにレーザースポット光SP4が楕円形であれば、正面から見て長方形形状を有するように格子状の溝19’によって形成され、かつ楕円形レーザースポット光SP4の外周を囲む形態に形成されることが望ましい。例えば、正面から見て長方形の島状発光部20’は、長方形の長辺の長さL1を楕円形レーザースポット光の長軸の長さL2以上に形成され、長方形の短辺の長さL3を楕円形レーザースポット光の短軸の長さL4以上に形成されることが望ましい。また、図示していないが、レーザースポット光が円形の場合、島状発光部は、正面から見て円形レーザースポット光の外径よりも大きな一辺を有する正方形形状を有するように形成される事が望ましい。このようにすることで、走査中のレーザースポット光SP4は、1つの島状発光部20’を通過する際にその範囲内に全て入射することで、グレア光を発生しにくくなる。
【0048】
更に、正面から見た島状発光部は、図6(b)に示すように、正面から見て多数の円形を画成する形状の格子状の溝19''により、レーザースポット光SP5が円形であれば、正面から見て円形を有し、かつ円形レーザースポット光SP5の外径にならう形態に形成されることがより望ましい。具体的には、正面から見て円形の島状発光部20’’は、その外径D5が円形レーザースポット光SP5の外径D6以上となるように形成され、走査によって島状発光部20を円形レーザースポット光SP5の外形に沿って囲むように形成されることがより望ましい。また、図示していないが、レーザースポット光が楕円形の場合にも、島状発光部は、正面から見て楕円レーザースポット光の長辺以上の長辺を備え、かつ楕円レーザースポット光の短辺以上の短辺を備えた楕円形状を有するように形成されることがより望ましい。このようにすることで、走査中のレーザースポット光SP5は、1つの島状発光部20’’を通過する際における光の拡散範囲を外形に沿って更に狭められることで、島状発光部20’’の発光効率を高められる。
【0049】
尚、レーザースポット光の形態及び島状発光部の形態は、島状発光部が正面から見てレーザースポット光を囲むか、囲みかつならう形態であれば、上記に限られない。
【0050】
尚、図1に示す制御装置5は、MEMSミラー4に走査される図4(b)、図6(a)、図6(b)に示すレーザースポット光SP3、SP4、SP5が格子状の溝の境界19a、19a’、19a’’をそれぞれ通過する際にレーザー光源2を消灯制御することで、格子状の溝19から前方に照射されるグレア光の発生を防止する。制御装置5は、例えば、レーザースポット光SP3~SP5の形状(正方形等なら辺の長さ、円形なら外径等)、格子状の溝の幅W1、島状発光部20の幅W2、MEMSミラー4の第1及び第2回動体10,11の傾動速度や傾動角度等から総合的に算出したタイミングでタイマーによる消灯制御を行うことが考えられる。
【0051】
また、図7(a)に示すように透明基板付蛍光体6の前方近傍には、レーザースポット光が高速で通過する際に消灯制御を行うことによって発生する暗部による描画むらを低減させるためのプライマリー光学系21を設けることが望ましい。具体的には、プライマリー光学系21は、図1のMEMSミラー4による反射光R1の光路上に配置され、透明基板付蛍光体6の前面に対向する後端面に平坦な光入射面を有し、かつ前端の光出射面が上下方向及び左右方向において凸面21bと凹面21cが交互に繰り返すことで構成された自由曲面21aからなる形状を垂直断面及び水平断面の双方において有するように形成されることが考えられる。
【0052】
より具体的には、プライマリー光学系21は、凸面21bがそれぞれの格子状の溝19の前方に位置し、かつ凹面21cが島状発光部20の中央部20aの正面に位置するように形成されることが望ましい。その理由を図7(b)に示すレーザー光R1の光路によって説明する。
【0053】
本実施形態において、消灯制御によって生成される暗部は、格子状の溝19の位置に生成されるため、格子状の溝19の正面の照度を向上させる必要がある。本実施例においては、図7(b)に示すようにレーザー光R1のうち島状発光部20における格子状の溝19の近傍から前方に直接出射する光R11及び、島状発光部20の端面6a1、6a2によって格子状の溝19の近傍に反射された光R12は、プライマリー光学系21に裏面から入射して凸面21bから出射することにより、格子状の溝19の正面に焦点を結ぶように出射し、低下した格子状の溝19の正面の照度を向上させる。
【0054】
図7(b)に示すように一方でプライマリー光学系21に裏面から入射して島状発光部20の中央部20aの正面に位置する凹面21cから出射した光R13は、島状発光部20の中央部20aの前方から徐々に外周方向に拡散され、格子状の溝19に向かって集光した光束の減少を補完する。これら凸面21bによる格子状の溝19の前方への光R11、R12の集光と、凹面21cによる島状発光部20の前方全体への光R13の拡散により、島状発光部20から出た走査光による前照灯表示や路面描画表示は、レーザースポット光の消灯制御による光の明暗が発生しても、表示の照度が照射領域内で一定になる。
【0055】
尚、図8は、走査機構として第1実施形態のMEMSミラー4の替わりに回転機構25を用いた第2実施形態の車両用灯具24を示す。回転機構25は、制御装置27による図示しないモーター等の駆動源の制御に基づいて中心軸線R周りに自動で回転する回転リフレクタ26を備える。回転リフレクタ26は、自由曲面形状の反射面26bを備えた複数(本実施形態では3枚)の同一形状のブレード26aによって構成される。また、車両用灯具24は、1または配列された複数の光源28を有する。光源28による出射光は、高速回転する各ブレード26aの反射面26bの自由曲面形状に基づいて一方向に走査され、ブレードが変わる毎に元の位置から同じ一方向に走査されることを繰り返す。走査光は、制御装置27の点消灯に基づく長さの1以上の線を光源28の数に基づいて積層され、所定形状の描画パターンを形成する。透明基板付蛍光体6と、プライマリー光学系21は、第1実施例と同一の形態を備えると共に、回転機構25による反射光R2の光路上に設けられ、反射光R2は、透明基板付蛍光体6、プライマリー光学系21,投影レンズ8の順に透過してその前方に所望の形状の表示を行う。
【0056】
図9は、回転機構25の変形例であるポリゴンミラー31を走査機構に用いた車両用灯具30を示す。ポリゴンミラー31は、回転軸Rを鉛直方向にもち、回転軸Rに直交する断面が正多角形形状を有し、図示しない制御装置に制御されたモーター等の駆動源によって自動的に回転する。ポリゴンミラー31に向けて水平方向にレーザー光R3を出射するように配置された光源32からの出射光は、回転するポリゴンミラー31の側面に設けられた反射面31aによって反射され、反射光を水平方向へ走査して配光パターンを形成する。光源32の点消灯制御もまた、図示しない制御装置に基づいて行われる。透明基板付蛍光体6と、プライマリー光学系21は、第1実施例と同一の形態を備えると共に、ポリゴンミラー31による反射光R3の光路上に設けられ、反射光R3は、透明基板付蛍光体6、プライマリー光学系21,投影レンズ8の順に透過し、図示しない制御装置によるポリゴンミラー31の回転制御と光源32の点消灯制御に基づいた所望の形状の表示を前方に行う。
【符号の説明】
【0057】
1 車両用灯具
2 レーザー光源
4 走査機構
6 透明基板付蛍光体
6a 蛍光体
6a1,6a2 島状光部の端面(反射部)
6b 透明基板
8 投影レンズ
19 格子状の溝
20 島状発光部
21 プライマリー光学系
R1 レーザー光
SP3 レーザースポット光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9