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特許7431558ホウ素非含有自由層のためのハイブリッド酸化物/金属キャップ層。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】ホウ素非含有自由層のためのハイブリッド酸化物/金属キャップ層。
(51)【国際特許分類】
   H10N 50/10 20230101AFI20240207BHJP
   H10B 61/00 20230101ALI20240207BHJP
   H01L 29/82 20060101ALI20240207BHJP
   H01F 10/32 20060101ALI20240207BHJP
   H01F 10/30 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
H10N50/10 Z
H10B61/00
H01L29/82 Z
H01F10/32
H01F10/30
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019206082
(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公開番号】P2020088388
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】16/194,248
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】フヌ イクタイア
(72)【発明者】
【氏名】モハマド クロウンビ
(72)【発明者】
【氏名】タン シュエティー
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0338402(US,A1)
【文献】特開2005-032780(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0231853(US,A1)
【文献】特表2017-505544(JP,A)
【文献】特開2007-142364(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0043301(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0075839(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 50/10
H10B 61/00
H01L 29/82
H01F 10/32
H01F 10/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定層と、
前記固定層上に主酸化物バリア層と、
前記主酸化物バリア層上に自由層と、
前記自由層上にハイブリッド酸化物/金属キャップ層と、を含み、
前記ハイブリッド酸化物/金属キャップ層は、
前記自由層上に第1酸化物層と、
前記第1酸化物層上に第2酸化物層と、
前記第2酸化物層上に金属キャップ層と、を含み、
前記自由層は、ホウ素(B)を含ま
前記第1酸化物層が第1酸化物を含み、
前記第2酸化物層が第2酸化物を含み、前記第2酸化物は、前記第1酸化物のバンドギャップと同一であるか、又はそのバンドギャップより大きいバンドギャップを含み、
前記金属キャップ層は、酸化物を形成するギブス自由エネルギーが前記第1酸化物層内の金属元素が形成するギブス自由エネルギーよりも大きく、前記第2酸化物層内の金属元素が酸化物を形成するギブス自由エネルギーよりも大きい金属元素を含み、
前記第2酸化物層は、前記第1酸化物及び前記金属キャップ層に比べて酸化物を形成するギブス自由エネルギーが最も低い金属を含む、
磁気トンネル接合スタック。
【請求項2】
前記第1酸化物層は、アルミニウム酸化物(AlO)、亜鉛酸化物(ZnO)、チタン酸化物(TiO)、バナジウム酸化物(VO)、ガリウム酸化物(GaO)、イットリウム酸化物(YO)、ジルコニウム酸化物(ZrO)、ニオブ酸化物(NbO)、ハフニウム酸化物(HfO)、タンタル酸化物(TaO)、シリコン酸化物(SiO)、マグネシウムガリウム酸化物(MgGaO)、ハフニウムジルコニウム酸化物(Hf‐Zr‐O)、ハフニウムシリコン酸化物(Hf‐Si‐O)、ジルコニウムシリコン酸化物(Zr‐Si‐O)、ハフニウムアルミニウム酸化物(Hf‐Al‐O)、ジルコニウムアルミニウム酸化物(Zr‐Al‐O)、及びインジウムガリウム亜鉛酸化物(In‐Ga‐Zn‐O)の中から選択された一つ又は複数の酸化物を含む、請求項1に記載の磁気トンネル接合スタック。
【請求項3】
前記第2酸化物層は、マグネシウム酸化物(MgO)、マグネシウムアルミニウム酸化物(MgAlO)、マグネシウムチタン酸化物(MgTiO)、及びアルミニウム酸化物(AlO)の中から選択された一つ又は複数の酸化物を含む、請求項1に記載の磁気トンネル接合スタック。
【請求項4】
前記金属キャップ層は、ルテニウム(Ru)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト鉄(CoFe)、鉄ニッケル(FeNi)、コバルトニッケル(CoNi)、コバルト鉄ボロン(CoFeB)、コバルト鉄ボロンモリブデン(CoFeBMo)、及びコバルト鉄ボロンタングステン(CoFeBW)の中から選択された一つ又は複数の金属を含む、請求項1に記載の磁気トンネル接合スタック。
【請求項5】
前記ハイブリッド酸化物/金属キャップ層は、ホウ素を含まない、請求項1に記載の磁気トンネル接合スタック。
【請求項6】
前記第1酸化物層は、非晶質層又は半結晶質層である、請求項1に記載の磁気トンネル接合スタック。
【請求項7】
前記第2酸化物層は、非晶質層又は結晶質層又は半結晶質層である、請求項1に記載の磁気トンネル接合スタック。
【請求項8】
前記自由層は、CoFe1‐x(0<x<1)、CoFeNi、CoFeAl、CoMnSi、CoFeMnSi、CoFeSi、MnGa、及びMnGeのうちの少なくとも一つを含む、請求項1に記載の磁気トンネル接合スタック。
【請求項9】
前記自由層の減衰定数(α)は、0.006以下である、請求項1に記載の磁気トンネル接合スタック。
【請求項10】
前記自由層は、Mが80μemu/cm2よりも大きく、Hが+1kOeよりも大きい、請求項1に記載の磁気トンネル接合スタック。
【請求項11】
固定層上に主酸化物バリア層を形成することと、
前記主酸化物バリア層上に自由層を形成することと、
前記自由層上にハイブリッド酸化物/金属キャップ層を形成することと、を含み、
前記ハイブリッド酸化物/金属キャップ層を形成することは、
前記自由層上に第1酸化物層を形成することと、
前記第1酸化物層上に第2酸化物層を形成することと、
前記第2酸化物層上に金属キャップ層を形成することと、を含み、
前記自由層は、ホウ素(B)を含ま
前記第1酸化物層が第1酸化物を含み、
前記第2酸化物層が第2酸化物を含み、前記第2酸化物は、前記第1酸化物のバンドギャップと同一であるか、又はそのバンドギャップより大きいバンドギャップを含み、
前記金属キャップ層は、酸化物を形成するギブス自由エネルギーが前記第1酸化物層内の金属元素が形成するギブス自由エネルギーよりも大きく、前記第2酸化物層内の金属元素が酸化物を形成するギブス自由エネルギーよりも大きい金属元素を含み、
前記第2酸化物層は、前記第1酸化物及び前記金属キャップ層に比べて酸化物を形成するギブス自由エネルギーが最も低い金属を含む、磁気トンネル接合スタックの製造方法。
【請求項12】
前記第1酸化物層を形成すること、又は前記第2酸化物層を形成することは、酸化物ターゲットを直接スパッタリングすることである、請求項11に記載の磁気トンネル接合スタックの製造方法。
【請求項13】
前記第1酸化物層を形成すること、又は前記第2酸化物層を形成することは、
金属層を蒸着すること、及び
前記金属層を酸化させて前記第1又は第2酸化物層を提供することを含む、請求項11に記載の磁気トンネル接合スタックの製造方法。
【請求項14】
前記第1酸化物層は、AlO、ZnO、TiO、VO、GaO、YO、ZrO、NbO、HfO、TaO、SiOx、MgGaO、Hf‐Zr‐O、Hf‐Si‐O、Zr‐Si‐O、Hf‐Al‐O、Zr‐Al‐O、及びIn‐Ga‐Zn‐Oの中から選択された一つ又は複数の酸化物を含む、請求項11に記載の磁気トンネル接合スタックの製造方法。
【請求項15】
前記第2酸化物層は、MgO、MgAlO、MgTiO、及びAlOの中から選択された一つ又は複数の酸化物を含む、請求項11に記載の磁気トンネル接合スタックの製造方法。
【請求項16】
前記金属キャップ層は、Ru、W、Mo、Co、Fe、Ni、CoFe、FeNi、CoNi、CoFeB、CoFeBMo、及びCoFeBWの中から選択された一つ又は複数の金属を含む、請求項11に記載の磁気トンネル接合スタックの製造方法。
【請求項17】
前記第1酸化物層は、1~6Åの厚さを有する、請求項11に記載の磁気トンネル接合スタックの製造方法。
【請求項18】
前記自由層の減衰定数(α)は、0.006以下である、請求項11に記載の磁気トンネル接合スタックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気トンネル接合(MTJ:Magnetic Tunnel Junction)に関し、例えば、垂直磁気トンネル接合(p‐MTJ:perpendicular‐Magnetic Tunnel Junction)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のスピントルク伝達(STT:Spin Torque Transfer)磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetic Random Access Memory)は、自由磁気層(free magnetic layer)と固定磁気層(pinned or fixed magnetic layer)との間に積層されるトンネルバリアを有するp‐MTJを介して充電電流を通過させることで、二進ビットを表す充電状態を保存する。充電電流は、自由磁気層の磁気モーメントに影響を与え、自由磁気層の磁気モーメントが(電流による影響を受けない)固定磁気層の磁気モーメントに整列するか、又は整列しないようにする。充電電流がなければ磁気モーメントの整列が変わらないため、MTJスタックは、メモリ保存に適切な双安定(bi‐stable)システムで作動する。
【0003】
p‐MTJでは、低いスイッチング電流、十分な熱安定性及び長い保持時間(retention time)を同時に、又は一斉に得る必要がある。
【0004】
上述の背景技術の段落に開示している情報は、単に発明の背景を理解し易くするためのものであり、当該分野の通常の技術者に既に公知の先行技術を形成しない情報を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、ホウ素非含有(boron‐free)自由層を含むMTJスタックを提供することにある。
【0006】
また、本発明の目的は、ホウ素非含有自由層を含むMTJスタックの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ホウ素非含有自由層を含み、長いデータ保持時間及び良好な熱安定性を犠牲にせずに低いスイッチング電流を有する、MTJスタックに関する。
【0008】
また、本発明は、前記MTJスタックを形成する方法に関する。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、磁気トンネル接合スタックは、固定層と、前記固定層上に主酸化物バリア層と、前記主酸化物バリア層上に自由層と、前記自由層上にハイブリッド酸化物/金属キャップ層と、を含み、前記ハイブリッド酸化物/金属キャップ層は、前記自由層上に第1酸化物層と、前記第1酸化物層上に第2酸化物層と、前記第2酸化物層上に金属キャップ層と、を含み、前記自由層は、ホウ素(B)を含まない。
【0010】
前記自由層は、CoFe1‐x(0<x<1)、CoFeNi、CoFeAl、CoMnSi、CoFeMnSi、CoFeSi、MnGa、及び/又はMnGeを含む。
【0011】
前記第1酸化物層は、第1酸化物を含み、前記第2酸化物層は、第2酸化物を含み、前記第2酸化物は、前記第1酸化物のバンドギャップと同一であるか、又はそのバンドギャップより大きいバンドギャップを含む。
【0012】
前記第1酸化物層は、アルミニウム酸化物(AlO)、亜鉛酸化物(ZnO)、チタン酸化物(TiO)、バナジウム酸化物(VO)、ガリウム酸化物(GaO)、イットリウム酸化物(YO)、ジルコニウム酸化物(ZrO)、ニオブ酸化物(NbO)、ハフニウム酸化物(HfO)、タンタル酸化物(TaO)、シリコン酸化物(SiO)、マグネシウムガリウム酸化物(MgGaO)、ハフニウムジルコニウム酸化物(Hf‐Zr‐O)、ハフニウムシリコン酸化物(Hf‐Si‐O)、ジルコニウムシリコン酸化物(Zr‐Si‐O)、ハフニウムアルミニウム酸化物(Hf‐Al‐O)、ジルコニウムアルミニウム酸化物(Zr‐Al‐O)、及びインジウムガリウム亜鉛酸化物(In‐Ga‐Zn‐O)の中から選択された一つ又は複数の酸化物を含む。
【0013】
前記第2酸化物層は、マグネシウム酸化物(MgO)、マグネシウムアルミニウム酸化物(MgAlO)、マグネシウムチタン酸化物(MgTiO)、及びアルミニウム酸化物(AlO)の中から選択された一つ又は複数の酸化物を含む。
【0014】
前記金属キャップ層は、酸化物を形成するギブス自由エネルギーが前記第1酸化物層内の金属元素が形成するギブス自由エネルギーよりも大きく、前記第2酸化物層内の金属元素が酸化物を形成するギブス自由エネルギーよりも大きい金属元素を含む。
【0015】
前記金属キャップ層は、ルテニウム(Ru)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト鉄(CoFe)、鉄ニッケル(FeNi)、コバルトニッケル(CoNi)、コバルト鉄ボロン(CoFeB)、コバルト鉄ボロンモリブデン(CoFeBMo)、及びコバルト鉄ボロンタングステン(CoFeBW)の中から選択された一つ又は複数の金属を含む。
【0016】
前記ハイブリッド酸化物/金属キャップ層は、ホウ素を含まない。
【0017】
前記第1酸化物層は、非晶質層又は半結晶質層である。
【0018】
前記自由層の減衰定数(α)は、約0.006以下である。
【0019】
前記自由層の減衰定数(α)は、約0.004以下である。
【0020】
前記自由層は、Mtが約80μemu/cmより大きく、Hが+1kOeより大きいので、これにより、垂直磁化に好適な自由層を提供することができる。
【0021】
本発明の一部実施形態によれば、磁気トンネル接合スタックの製造方法は、基板上に固定層を形成することと、前記固定層上に主酸化物バリア層を形成することと、前記主酸化物バリア層上に自由層を形成することと、前記自由層上にハイブリッド酸化物/金属キャップ層を形成することと、を含み、前記ハイブリッド酸化物/金属キャップ層を形成することは、前記自由層上に第1酸化物層を形成することと、前記第1酸化物層上に第2酸化物層を形成することと、前記第2酸化物層上に金属層を形成することと、を含み、前記自由層は、ホウ素(B)を含まない。
【0022】
前記第1酸化物層を形成すること、又は前記第2酸化物層を形成することは、酸化物ターゲットを直接スパッタリングすることである。
【0023】
前記第1酸化物層又は前記第2酸化物層を形成することは、金属層を蒸着し、前記金属層を酸化させて、前記第1又は第2酸化物層を提供することを含む。
【0024】
前記第1酸化物層は、第1酸化物を含み、前記第2酸化物層は、第2酸化物を含み、前記第2酸化物は、前記第1酸化物のバンドギャップと同一であるか、又はそのバンドギャップより大きいバンドギャップを含む。
【0025】
前記第1酸化物層は、AlO、ZnO、TiO、VO、GaO、YO、ZrO、NbO、HfO、TaO、SiO、MgGaO、Hf‐Zr‐O、Hf‐Si‐O、Zr‐Si‐O、Hf‐Al‐O、Zr‐Al‐O、及びIn‐Ga‐Zn‐Oの中から選択された一つ又は複数の酸化物を含む。
【0026】
前記第2酸化物層は、MgO、MgAlO、MgTiO、及びAlOの中から選択された一つ又は複数の酸化物を含む。
【0027】
前記金属キャップ層は、Ru、W、Mo、Co、Fe、Ni、CoFe、FeNi、CoNi、CoFeB、CoFeBMo、及びCoFeBWの中から選択された一つ又は複数の金属を含む。
【0028】
前記第1酸化物層は、約1~6Åの厚さを有する。
【0029】
前記自由層の減衰定数(α)は、約0.006以下である。
【発明の効果】
【0030】
本発明の実施形態によれば、長いデータ保持時間及び良好な熱安定性を犠牲にせずに、低いスイッチング電流を有する、MTJスタックを提供することができる。本発明の実施形態によれば、長いデータ保持時間及び良好な熱安定性を犠牲にせずに、低いスイッチング電流を有する、MTJスタックの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態によるp‐MTJスタックの概略断面図を示す。
図2】本発明の一実施形態によるp‐MTJスタックの製造に関する方法を示すフローチャートである。
図3】基準p‐MTJスタックのブロードバンド強磁性共鳴(FMR:Ferromagnetic Resonance)測定から抽出された周波数の関数としての線幅を示す。
図4】本発明の実施形態によるp‐MJTスタックのFMR測定から抽出された周波数の関数としての線幅を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下の詳細な説明では、単に本発明の所定の例示的な実施を示して説明する。当該分野の通常の技術者が認識できるように、本発明は、多くの様々な形態で具現化され、本明細書で説明した実施形態に限定されると解釈してはならない。それぞれの例示的な実施形態の特徴又は様相の説明は、他の類似した特徴又は様態に、通常、適用可能であると見なす。明細書全体に亘り同一の参照符号は、同一の要素を指す。
【0033】
図1は、本発明の一部実施形態によるp‐MTJスタックの概略断面図を示す。
【0034】
図1を参照すると、p‐MTJスタックは、アンダー層100と、アンダー層100上の固定層210(例えば、固定層(fixed layer)又は基準層(reference layer))と、固定層210上の主酸化物バリア層220(非磁性トンネルバリア層又は非磁性層ともいう)と、主酸化物バリア層220上の自由層230と、自由層上のハイブリッド酸化物/金属キャップ層300と、を含む。
【0035】
アンダー層100は、MTJスタックの蒸着のための基板である。アンダー層100は、固定層210が形成される表面を提供する。任意の適切な材料及び構造が、アンダー層100に使用される。
【0036】
固定層210は、アンダー層100と固定層210との間の界面に対して垂直な磁化(magnetization)の固定軸(例えば、固定された、又は永久的な軸)を示す磁性材料を含む。固定層210は、コバルト(Co)、鉄(Fe)、コバルト鉄合金(CoFe)、コバルト鉄ボロン合金(例えば、CoFeB)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)等の適切な磁性材料と、非磁性物質とを含む。主酸化物バリア層220は、結晶性酸化マグネシウム(MgO)、非晶質酸化アルミニウム等の非磁性物質を含む。自由層230は、磁性物質を含み、ホウ素は含まない。
【0037】
従来のp‐MTJにおいて、自由層は、典型的にはホウ素を含む。ホウ素含有自由層は、処理及び工程が容易である。しかし、ホウ素含有自由層は、短いデータ保持時間を有する傾向がある。また、適切な(例えば、高い)垂直磁気異方性(PMA:Perpendicular Magnetic Anisotropy)を得るために、二つの酸化層がホウ素含有自由層を間に挟むように利用される。さらに、適切な(例えば、高い)トンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistance)を得るために、ホウ素吸収層が自由層又は自由層の中間に蒸着される。アニーリング工程は、ホウ素を、自由層から拡散(diffuse)させるために利用され、自由層とこれに隣接する層との間の界面からさらに遠く拡散させるために利用される。
【0038】
自由層内のホウ素の量は、先に説明した従来のp‐MTJの構造と工程を介して減少するが、自由層内には残留ホウ素が存在する。また、ホウ素は自由層に隣接する吸収層及び/又は酸化層には依然として存在し、保持時間の低下を招き得る。
【0039】
本発明の実施形態によるp‐MTJスタックにおいて、自由層230は、ホウ素を含まず、ホウ素非含有自由層である。ホウ素非含有自由層230のために蒸着された物質は、CoFe1‐x(0≦x≦1)、CoFeNi、CoFeAl、CoMnSi、CoFeMnSi、CoFeSi、MnGa、及び/又はMnGe等の3d遷移金属、これらの合金及び/又はハスラー合金(Heusler alloys)を含む。従って、ホウ素を含まない二元系(binary)、三元系(tenary)及び他の合金がホウ素非含有自由層230を形成するために主酸化物バリア層220上に蒸着される。言い換えれば、ホウ素を除いた他の物質、及び/又はさらなる非磁性物質及び/又は磁性物質が、ホウ素非含有自由層に提供される。例えば、ホウ素を除いた、少なくとも一つの元素Fe、元素Co、元素Ni、元素Mn、CoFe等のFe含有合金、CoFe等のCo含有合金、Ni含有合金、Mn含有合金、及びハスラー合金が、ホウ素非含有自由層230の形成に利用される。ホウ素非含有自由層230は、前述の物質を含み、多結晶、非晶質、又は結晶質‐非晶質複合体が蒸着されたものである。また、ホウ素非含有自由層230は、高いPMAを有する。自由層230のPMAエネルギーは、面外消磁(Demagnetization)エネルギーを超える。従って、ホウ素非含有自由層230の磁気モーメントは、平面に対して垂直に安定する。
【0040】
ホウ素非含有自由層のさらなる例及びその製造方法は、関連の米国特許出願第15/590,101号で確認することができ、その開示内容は、本明細書にその全体が参照として組み込まれる。
【0041】
ホウ素非含有自由層230は、ポストアニール工程後に結晶質構造を有する。本発明の実施形態による自由層230の形成には、ホウ素が含まれないため、ホウ素吸収層を必要とせず、自由層に隣接する層にホウ素を誘導するポストアニール工程を必要としない。また、ホウ素がなければ、高いTMR及び高いPMAを得る製造工程で、もはやホウ素拡散の細かな制御が争点(例えば、主な争点)とならないため、p‐MTJスタックは、より高い自由度を有する。
【0042】
p‐MTJに関する好ましい特性の一部は、記録(write)効率及びデータ保持の改善のために低いスイッチング電流、十分な熱安定性、及び/又は長い保持時間を含む。このような特性は、飽和磁化、減衰定数、異方性磁界、及び自由層の他の特性によって影響を受ける。例えば、十分な飽和磁化及び高い異方性磁界は、装置の長い保持時間及び熱安定性が要求される。
【0043】
ホウ素非含有自由層230は、高いPMAを有し、これにより、p‐MTJスタックにおいて十分なデータ保持時間を提供する。例えば、ホウ素非含有自由層230は、約80μemu/cm2より大きいMt、例えば、120μemu/cm2より大きいか、又は180μemu/cm2より大きいMtを有し、且つ+1kOeより大きいH、例えば、+4kOeより大きいHを有する。Mt及びHの値が前記範囲内にある場合に、自由層は、(例えば、容易に、又は適切に)自由層の物理的な平面に垂直な磁化方向に垂直磁化する。
【0044】
本発明の実施形態によるハイブリッド酸化物/金属キャップ層300は、第1自由層230上の第1酸化物層310と、第1酸化物層310上の第2酸化物層320と、第2酸化物層320上の金属キャップ層330と、を含む。
【0045】
第1酸化物層310は、ホウ素非含有自由層230と接触し、第2酸化物層320は、第1酸化物層310と接触する。第1酸化物層310は、第2酸化物層320のバンドギャップと同一であるか、又はそのバンドギャップより低いバンドギャップの酸化物からなるので、ハイブリッド酸化物/金属キャップ層300の寄生抵抗を低減させるか、又は最小化することができる。
【0046】
第1酸化物層310を形成するための酸化物の非制限的な例は、AlO、ZnO、TiO、VO、GaO、YO、ZrO、NbO、HfO、TaO、SiO、MgGaO、Hf‐Zr‐O、Hf‐Si‐O、Zr‐Si‐O、Hf‐Al‐O、Zr‐Al‐O、及びIn‐Ga‐Zn‐Oを含む。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、任意の適切な金属酸化物が、第1酸化物層310を形成するために利用される。
【0047】
本発明の実施形態によるp‐MTJスタックにおいて、ホウ素は自由層を形成するために利用されない。従って、ホウ素非含有自由層230と第1酸化物層310との間の界面付近にはホウ素が存在しない。
【0048】
第2酸化物層320は、第1酸化物層310及び金属キャップ層330よりも酸化物を形成し易い金属を含む。即ち、第2酸化物層320は、第1酸化物層310及び金属キャップ層330に比べて、酸化物を形成するギブス自由エネルギーが最も低い金属を含む。第2酸化物層320を形成するための酸化物の非制限的な例としては、MgO、MgAlO、MgTiO、及びAlOがある。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、任意の適切な金属酸化物が、第2酸化物層320を形成するために利用される。
【0049】
第1酸化物層310は、非晶質層又は半結晶質層(又は非晶質と結晶質の複合構造を有する層)である。即ち、第1酸化物層310は、原子及び/又は分子からなる規則正しい配列を有さないか、又はそのような規則正しい配列のない領域と原子及び/又は分子からなる規則正しい配列の領域が混合した領域を有する。一方、ホウ素非含有自由層230は、(例えば、結晶構造を有する)結晶質層又は結晶‐非晶質複合層である。典型的には、結晶質のホウ素非含有自由層上に(MgO、MgAlO、MgTiO等のような第2酸化物層320として利用される)結晶酸化物が直接蒸着される場合に、それに相応する酸化物層は結晶質である。従って、ホウ素非含有自由層230と第2酸化物層320との間の格子構造は一致しない。本発明の実施形態による非晶質又は半結晶構造を有する第1酸化物層310がホウ素非含有自由層230と第2酸化物層320との間に挿入される場合に、格子構造における不一致が緩和又は減少し、これにより、これらの層間の界面における張力(tension)が減少する。第1酸化物層310の挿入(例えば、第1酸化物層310上に直接第2酸化物層320を蒸着)はまた、第2酸化物層320を非晶質層又は半結晶質層にすることができる。このように、第2酸化物層320は、非晶質層又は半結晶質層(又は非晶質及び結晶質の複合構造を有する層)でもある。
【0050】
第1酸化物層310の厚さは、約1~6Åである。例えば、第1酸化物層310は、約1~3Åの厚さを有する。第1酸化物層310の厚さが前記範囲内である場合に、非晶質層又は半結晶質層が形成される。第2酸化物層320は、約1~8Åの厚さを有する。例えば、第2酸化物層320は、約3~8Åの厚さを有する。第1酸化物層310及び第2酸化物層320の総厚は、約4~14Åである。
【0051】
金属キャップ層330は、第1酸化物層310及び第2酸化物層320に利用される金属元素よりも酸化物を形成するギブス自由エネルギーがさらに高い(即ち、酸化物の形成がより困難な)金属元素からなる。従って、金属キャップ層330は、高温アニール時に相応する酸化物を容易に形成できないため、第1酸化物層310及び第2酸化物層320からの酸素拡散を防止又は抑制できる。金属キャップ層330を形成するための金属の非制限的な例としては、Ru、W、Mo、Co、Fe、Ni、CoFe、FeNi、CoNi、CoFeB、CoFeBMo、及びCoFeBWを含む。しかし、本発明はこれに限定されず、任意の適切な金属が金属キャップ層330を形成するために利用される。
【0052】
ハイブリッド酸化物/金属キャップ層300は、主酸化物バリア層220よりも低い電気抵抗を有する。第1酸化物層310及び第2酸化物層320の総厚は、主酸化物バリア層220の厚さよりも薄い。
【0053】
p‐TMJは、記録効率及びデータ保持の改善のために、低いスイッチング電流、十分な熱安定性、及び長い保持時間の全てを必要とする。本発明の実施形態によるホウ素非含有自由層230は、高いPMAを有するので、十分なデータ保持時間及び熱安定性を提供する。スイッチング電流Jc(即ち、自由層の磁気モーメントをスイッチングするために必要な最低電流)は、以下の数式(1)で表される。
【0054】
【数1】
数式(1)において、それぞれ、eは電子の電荷、μは真空の透磁率、tは自由層の厚さ、Mは飽和磁化、ηはスピンの伝達効率、
はプランク定数、αは減衰定数、Hは異方性磁界である。素子の長い保持時間及び熱安定性のためには、十分な面積磁化(厚さt及び飽和磁化Mの積)Mt、及び高い異方性磁界Hが好ましいので、本発明の実施形態によれば、低いスイッチング電流を達成し、電力消費の効率を改善するために減衰定数αは減少する。
【0055】
本発明の実施形態によるp‐TMJスタックにおいて、ホウ素非含有自由層230の減衰定数は、ハイブリッド酸化物/金属キャップ層300を介して変更される。本発明の実施形態による減衰定数は0.006以下である。例えば、減衰定数は0.005以下又は0.004以下である。減少した減衰定数により、本発明の実施形態によるp‐TMJスタックは、同時に又は一斉に低いスイッチング電流、高い保持時間及び良好な熱安定性を有する。
【0056】
図2は、本発明の一実施形態によるp‐MTJスタックを製造する過程を示すフローチャートである。
【0057】
図2を参照すると、段階1002において、垂直磁気トンネル接合スタックの固定層210及び主酸化物バリア層220と、固定層210の下の他の適切な層とが形成される。固定層210は、適切な蒸着技術を利用して、アンダー層100上に蒸着される。蒸着技術の非制限的な例としては、化学気相蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)、プラズマ強化CVD(PECVD:Plasma Enhanced CVD)、高周波CVD(RFCVD:Radio‐Frequency CVD)、物理的気相蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)、原子層蒸着(ALD:Atomic Layer Deposition)、分子ビーム蒸着(MBD:Molecular Beam Deposition)、パルスレーザー蒸着(PLD:Pulsed Laser Deposition)及び/又は液体ミスト化学蒸着(LSMCD:Liquid Source Misted Chemical Deposition)、スパッタリング、及び/又はメッキを含む。固定層210は、Co、Fe、CoFe、CoFeB、Ta、W、Mo、Pt、Ru、Ir、及び/又はこのような適切な磁性物質及び非磁性物質から形成される。
【0058】
主酸化物バリア層220は、適切な蒸着技術を利用して、固定層210上に形成される。蒸着技術の非制限的な例としては、CVD、PECVD、RFCVD、PVD、ALD、MBD、PLD及び/又はLSMCD、スパッタリング、及び/又はメッキを含む。主酸化物バリア層220は、結晶性酸化マグネシウム、非晶質酸化アルミニウム等の非磁性物質を含む。
【0059】
段階1004において、ホウ素非含有自由層230が蒸着される。関連の米国特許出願第15/590,101号では、ホウ素非含有自由層を形成するための適切な方法の例を開示しており、その開示内容は、本明細書に含まれる。ホウ素非含有自由層230は、CoFe1‐x(0≦x≦1)、CoFeNi、CoFeAl、CoMnSi、CoFeMnSi、CoFeSi、MnGa及びMnGe等のような3d遷移金属、これらの合金及び/又はハスラー合金を含む。
【0060】
段階1006において、第1酸化物層310が蒸着される。第1酸化物層310は、酸化物ターゲットの直接的なスパッタリングによって、又は金属層の酸化によって蒸着される。例えば、第1酸化物層310は、まず、ホウ素非含有自由層上に金属層を蒸着した後に、金属層を酸化させることによって形成される。金属層は、適切な蒸着技術を利用して自由層230上に蒸着される。蒸着技術の非制限的な例は、CVD、PECVD、RFCVD、PVD、ALD、MBD、PLD及び/又はLSMCD、スパッタリング、及び/又はメッキを含む。次いで、金属層が酸化工程を利用して酸化され、例えば、酸化工程は、約178K~478Kの範囲の適切な温度で金属層上に酸素が流れて、金属層を金属酸化層に酸化させる。第1酸化物層310は、第2酸化物層320のバンドギャップと同一であるか、又はそのバンドギャップより低い酸化物からなり、その結果、ハイブリッド酸化物/金属キャップ層300の寄生抵抗を低減又は最小化できる。
【0061】
第1酸化物層310は、例えば、AlO、ZnO、TiO、VO、GaO、YO、ZrO、NbO、HfO、TaO、SiO、MgGaO、Hf‐Zr‐O、Hf‐Si‐O、Zr‐Si‐O、Hf‐Al‐O、Zr‐Al‐O、及びIn‐Ga‐Zn‐Oを含む。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、任意の適切な金属酸化物が、第1酸化物層310を形成するために利用される。
【0062】
段階1008において、第2酸化物層320が蒸着される。第2酸化物層320は、酸化物ターゲットの直接的なスパッタリングによって、又は金属層の酸化によって蒸着される。例えば、第2酸化物層320は、まず、ホウ素非含有自由層上に金属層を蒸着した後に、金属層を酸化させることによって形成される。金属層は、適切な蒸着技術を利用して自由層230上に蒸着される。蒸着技術の非制限的な例は、CVD、PECVD、RFCVD、PVD、ALD、MBD、PLD及び/又はLSMCD、スパッタリング、及び/又はメッキを含む。次いで、金属層が酸化工程を利用して酸化され、例えば、酸化工程は、約178K~478Kの範囲の適切な温度で金属層上に酸素が流れて、金属層を金属酸化層に酸化させる。第2酸化物層320は、第1酸化物層310及び金属キャップ層330よりも酸化物を形成し易い金属を含む。即ち、第2酸化物層320は、酸化物を形成するギブス自由エネルギーが最も低い金属(即ち、酸化物を最も形成し易い金属)を含む。第2酸化物層320を形成するための酸化物の非制限的な例として、MgO、MgAlO、MgTiO、及びAlOを含む。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、任意の適切な金属酸化物が、第2酸化物層320を形成するために利用される。
【0063】
第1酸化物層310は、非晶質層又は半結晶質層(又は非晶質及び結晶質複合構造を有する層)である。ホウ素非含有自由層230は、結晶質層又は結晶質‐非晶質複合体層である。典型的には、結晶質酸化物(MgO、MgAlO、MgTiO等のように第2酸化物層320として利用される)がホウ素非含有自由層上に直接蒸着される場合に、相応する酸化物層は結晶質である。従って、ホウ素非含有自由層230と第2酸化物層320との間の格子構造は一致しない。本発明の実施形態による非晶質又は半結晶構造を有する第1酸化物層310がホウ素非含有自由層230と第2酸化物層320との間に挿入される場合に、格子構造における不一致が緩和又は減少し、これにより、これらの層間の界面における張力が減少する。第1酸化物層310の挿入(例えば、第1酸化物層310上に直接第2酸化物層320を蒸着)はまた、第2酸化物層320を非晶質層又は半結晶質層にすることができる。このように、第2酸化物層320は、非晶質層又は半結晶質層(又は非晶質及び結晶質の複合構造を有する層)でもある。
【0064】
第1酸化物層310は、約1~6Åの厚さを有する。例えば、第1酸化物層310は、約1~3Åの厚さを有する。第1酸化物層310の厚さが前記範囲内である場合に、非晶質層又は半結晶質層が形成される。第2酸化物層320は、約1~8Åの厚さを有する。例えば、第2酸化物層320は、約3~8Åの厚さを有する。第1酸化物層310及び第2酸化物層320の総厚は4~14Åである。
【0065】
段階1010において、金属キャップ層330が蒸着される。金属キャップ層330は、第1酸化物層310及び第2酸化物層320に利用される金属元素よりも酸化物を形成するギブス自由エネルギーがさらに高い(即ち、酸化物の形成がより困難な)金属元素からなる。従って、金属キャップ層330は、高温アニール時に相応する酸化物を容易に形成できないため、第1酸化物層310及び第2酸化物層320からの酸素拡散を防止又は抑制できる。金属キャップ層330を形成するための金属の非制限的な例としては、Ru、W、Mo、Co、Fe、Ni、CoFe、FeNi、CoNi、CoFeBi、CoFeBMo、及びCoFeBWを含む。しかし、本発明はこれに限定されず、任意の適切な金属が金属キャップ層330を形成するために利用される。
【0066】
段階1012において、さらなる金属層及び/又はハードマスク400が金属キャップ層330上に蒸着される。さらなる金属層及び/又はハードマスク400は、任意の適切な技術を利用して蒸着され、任意の適切な物質から形成される。
【0067】
MTJスタックは、適切な温度、例えば、400℃でさらにポストアニールが行われる。第1酸化物層310及び第2酸化物層320は、界面で相互拡散する。自由層にホウ素が存在しないため、MTJスタックは熱的に安定し、高い垂直異方性及び低い(例えば、超低)減衰定数を有する。また、ハイブリッド酸化物/金属キャップ層にはホウ素がない。即ち、ホウ素非含有自由層230、第1酸化物層310及び第2酸化物層320、並びにこれらの層間の界面には、いずれもホウ素がない。
【0068】
本発明の実施形態による減衰定数は0.006以下である。例えば、減衰定数は0.005以下又は0.004以下である。
【0069】
図3は、基準自由層のスタックのFMR測定から抽出された周波数の関数としての線幅を示す。基準自由層のスタックは、アンダー層/MgO/ホウ素非含有自由層(13Å)/MgO/金属キャップ層の順に積層される構造を有し、400℃で30分間アニールを行う。この基準自由層のスタックには、第1酸化物層を含まない。図3のデータと振動試料型磁力計を使用する別途の測定から、図3の自由層は、次のパラメータを有することが計算される。Mt=183.7μemu/cm2、α=0.0067、及びH=7.37kOe。
【0070】
図4は、本発明の実施形態による自由層のスタックのFMR測定から抽出された周波数の関数としての線幅を示す。自由層のスタックは、アンダー層/MgO/ホウ素非含有自由層(13Å)/第1酸化物層/MgO/金属キャップ層の順に積層される構造を有し、400℃で30分間アニールを行う。ここで、図4の自由層のスタックは、図3と同一の下部層、固定層、ホウ素非含有自由層、固定層とホウ素非含有自由層との間のMgO、及び金属キャップ層等の自由層のスタックを使用し、第1酸化物層を含むものは除外される。図4のデータと振動試料型磁力計を使用する別の測定から、自由層(又は自由層のスタック)は、次のパラメータを有することが計算される。Mt=177.8μemu/cm2、α=0.0031及びH=8.2kOe。
【0071】
図4図3の自由層のスタックを比較すると、本発明の実施形態による自由層のスタック(例えば、第1金属酸化物層及び第2金属酸化物層を含む)は、高いMt及び高いHを保持しながら、かなり低い減衰定数αを有する。このように、本発明の実施形態による自由層のスタックは、長い保持時間、良好な熱安定性及び低い臨界電流密度を同時に有する。
【0072】
「第1」、「第2」、「第3」等の用語は、本明細書において様々な成分、構成要素、領域、層及び/又はセクションを説明するために用いられるが、これらの成分、構成要素、領域、層及び/又はセクションは、上述の用語に限定されない。このような用語は、一つの成分、構成要素、領域、層又はセクションを他の成分、構成要素、領域、層又はセクションと区別するために用いられる。従って、ここで論ずる第1要素、第1構成要素、第1領域、第1層又は第1セクションは、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく、第2要素、第2構成要素、第2領域、第2層、又は第2セクションと称することができる。
【0073】
また、一つの層が二つの層間にあると言及する場合に、その層は、二つの層間の唯一の層であるか、又は一つ又は複数の中間層が存在する。
【0074】
本明細書で用いる用語は、特定の実施形態を説明するためのものであり、本発明の概念を限定するものではない。本明細書で用いる単数形は、文脈上明らかに別の指示がない限り複数形も含む。「含む」という用語は、本明細書で用いる場合に、言及する特徴、定数、段階、動作、成分、及び/又は構成要素の存在を特定するものであるが、一つ又は複数の他の特徴、定数、段階、動作、成分、構成要素、及び/又はこれらのグループの存在及び追加を排除するものではない。本明細書で用いる「及び/又は」という用語は、一つ又は複数の関連する目録化された項目の任意の組合せ及び全ての組合せを含む。構成要素の目録の前の「少なくとも一つ」等の表現は、構成要素の全目録を修飾し、目録の個別構成要素を修飾しない。また、本発明の概念の実施形態を記述する際に用いる「できる」という表現は、「本発明の概念の一つ又は複数の実施形態」を意味する。
【0075】
構成要素又は層が、他の構成要素又は層の「上に」、「連結された」、「結合された」、又は「隣接する」とした場合に、これはその構成要素又は層が、他の構成要素又は層に直接連結され、又は他の要素又は層に隣接して結合されるか、又は一つ又は複数の介在要素又は層が存在する。構成要素又は層が、他の構成要素又は層に「直接」、「直接連結された」、「直接結合された」、又は「隣接する」とした場合に、介在する要素又は層は存在しない。
【0076】
本明細書で用いる「実質的に」、「約」及びこれと同様の用語は、近似(approximation)の用語として用いられ、程度(degree)の用語としては用いられず、通常の知識を有する者にとって自明に認識される測定値又は計算値の固有の変化を説明するものである。
【0077】
本明細書で用いる「使用」、「使用する」及び「使用される」という用語は、それぞれ、「利用」、「利用する」及び「利用される」と同義語とみなす。
【0078】
p‐MTJを図示しているが、本発明の実施形態は、これに限定されない。ホウ素非含有自由層を有する他の磁気トンネル接合は、ハイブリッド酸化物/金属キャップ層が利用できる。
【0079】
本明細書に記述した本発明の実施形態によるp‐MTJ及び/又は任意の他の関連装置又は構成要素は、任意の適切なハードウェア、ファームウェア(例えば、特定用途の集積回路)、ソフトウェア、又は適切なソフトウェア、ファームウェア及びハードウェアの組合せを利用して具現される。例えば、p‐MTJの様々な構成要素は、一つの集積回路(IC)チップ上に、又は個別ICチップ上に形成される。さらに、p‐MTJの様々な構成要素は、フレキシブルプリント回路フィルム、テープキャリアパッケージ(TCP:Tape Carrier Package)、プリント回路基板(PCB:Printed Circuit Board)上に具現されるか、又は同じ基板上に形成される。また、p‐MTJの様々な構成要素は、本明細書に記述した様々な機能を実行するために一つ又は複数のプロセッサ上で実行され、一つ又は複数のコンピューティングデバイスでコンピュータプログラムの命令語を実行し、他のシステム構成要素と相互作用する、プロセス又はスレッド(thread)である。
【0080】
本発明は、本発明の例示的な実施形態に関する特定の例で詳細に説明しているが、本明細書で説明した実施形態が完全であったり、発明の範囲を開示した正確な形態に限定したりしようとするものではない。本発明の属する技術及びその技術分野の当業者は、開示された組立、動作の構造及び方法に関する変更、及び変化が、本願発明の原理、思想及び範囲を逸脱することなく、明示された請求項及びその均等の範囲で実施できることが理解される。
【符号の説明】
【0081】
100:アンダー層
210:固定層
220:主酸化物バリア層
230:自由層、ホウ素非含有自由層
300:ハイブリッド酸化物/金属キャップ層
310:第1酸化物層
320:第2酸化物層
330:金属キャップ層
400:金属層及び/又はハードマスク
図1
図2
図3
図4