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特許7431577六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法、並びに化粧料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法、並びに化粧料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20240207BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20240207BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
C01B21/064 Z
C01B21/064 M
C01B21/064 H
A61K8/19
A61Q1/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019234693
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021102537
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-07-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【弁理士】
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆貴
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/049956(WO,A1)
【文献】特開2019-206455(JP,A)
【文献】特開2015-006985(JP,A)
【文献】特開2015-224264(JP,A)
【文献】特開平03-115109(JP,A)
【文献】特開平05-186205(JP,A)
【文献】特開2018-165241(JP,A)
【文献】特開昭60-033204(JP,A)
【文献】特開平7-041311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 1/00 -90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素吸着によって求められる比表面積(N)が5.29[m/g]以下であり、
前記比表面積(N)に対する酸素量の比が0.019[g/100m以下であり、
水蒸気吸着によって求められる比表面積(H)が0.8[m/g]以下である、六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
窒素吸着によって求められる比表面積(N)に対する、水蒸気吸着によって求められる比表面積(H)の比が0.2以下である、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
酸素量が、0.12質量%以下である、請求項1又は2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
化粧料の原料用である、請求項1~3のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項5】
ホウ素を含む化合物の粉末と窒素を含む化合物の粉末を含有する原料粉末を、不活性ガス、アンモニアガス又はこれらの混合ガスの雰囲気中、600~1300℃で焼成して、六方晶窒化ホウ素を含む仮焼物を得る仮焼工程と、
前記仮焼物と助剤とを含む混合粉末を、不活性ガス、アンモニアガス又はこれらの混合ガスの雰囲気中、1600℃以上且つ1900℃未満で焼成して、前記混合粉末における六方晶窒化ホウ素よりも高い結晶性を有する六方晶窒化ホウ素を含む焼成物を得る焼成工程と、
前記焼成物を粉砕、洗浄、及び乾燥し、乾燥粉末を得る精製工程と、
前記乾燥粉末を、不活性ガス、アンモニアガス又はこれらの混合ガスの雰囲気中、1900度℃以上でアニールするアニール工程と、を有し、
前記アニール工程で得られる六方晶窒化ホウ素粉末の、窒素吸着によって求められる比表面積(N)が5.29[m/g]以下であり、前記比表面積(N)に対する酸素量の比が0.03[g/100m]未満である、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項6】
前記アニール工程で得られる六方晶窒化ホウ素粉末の、水蒸気吸着によって求められる比表面積(H)が0.8[m/g]以下である、請求項5に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項7】
前記アニール工程で得られる六方晶窒化ホウ素粉末の、窒素吸着によって求められる比表面積(N)に対する、水蒸気吸着によって求められる比表面積(H)の比が0.2以下である、請求項5又は6に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項8】
前記アニール工程で得られる六方晶窒化ホウ素粉末の酸素量が0.12質量%以下である、請求項5~7のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項の六方晶窒化ホウ素粉末を含む化粧料。
【請求項10】
請求項5~8のいずれか一項の製造方法で得られる六方晶窒化ホウ素粉末を原料として用いて化粧料を製造する、化粧料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法、並びに化粧料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素は、潤滑性、高熱伝導性、及び絶縁性等を有しており、固体潤滑剤、離型剤、樹脂及びゴムの充填材、化粧料(化粧品ともいう)の原料、並びに耐熱性を有する絶縁性焼結体等、幅広い用途に利用されている。
【0003】
化粧料に配合される六方晶窒化ホウ素粉末の機能としては、化粧料への滑り性、伸び性、隠ぺい性の向上、及び、光沢性の付与等が挙げられる。特に、六方晶窒化ホウ素粉末は、同様の機能を有するタルク粉末及びマイカ粉末に比べて滑り性に優れているため、優れた滑り性が求められる化粧料に汎用されている。特許文献1では、滑り性を改善するために、せん断応力と加圧力の比を所定の数値範囲にすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-43792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
化粧料に対する顧客の要求レベルの高水準化に対応するため、化粧料に用いられる原料特性もさらなる向上が求められている。そこで、例えば、ファンデーション等に用いられる原料は、一層優れた伸び性を有することが必要であると考えられる。一方で、六方晶窒化ホウ素粉末は、凝集ダマを形成し易く、これが伸び性に影響を及ぼすと考えられる。そこで、本開示では、伸び性に優れる化粧料を製造することが可能な六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法を提供する。また、本開示では、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を用いることによって伸び性に優れる化粧料及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、窒素吸着によって求められる比表面積(N)に対する酸素量の比が0.1[g/100m]以下である。このような六方晶窒化ホウ素粉末は、単位表面積あたりの酸素量が小さい。このため、例えば、大気雰囲気下において、六方晶窒化ホウ素の粒子の表面に水分が吸着し難い。また、表面に発生する静電気を低減できる。これらの要因によって、六方晶窒化ホウ素粉末の凝集が抑制され、優れた伸び性を有するものと推察される。このような六方晶窒化ホウ素粉末は、化粧料の原料用として好適である。
【0007】
水蒸気吸着によって求められる、上記六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積(H)は0.8[m/g]以下であってよい。このような六方晶窒化ホウ素粉末は、大気中の水分が吸着し難いことから、凝集を一層抑制し一層優れた伸び性を有する。
【0008】
窒素吸着によって求められる比表面積(N)に対する、水蒸気吸着によって求められる比表面積(H)の比が0.2以下であってよい。このような六方晶窒化ホウ素粉末は、水分の吸着を十分に抑制できるため、凝集を一層抑制し一層優れた伸び性を有する。
【0009】
上記六方晶窒化ホウ素粉末の酸素量は0.15質量%以下であってよい。これによって、水蒸気の吸着が一層抑制され、伸び性を一層向上することができる。
【0010】
上記六方晶窒化ホウ素粉末は、化粧料の原料用であってよい。上記六方晶窒化ホウ素粉末は、伸び性に優れることから、化粧料の原料用に好適である。
【0011】
本開示の一側面に係る六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、六方晶窒化ホウ素と助剤とを含む混合粉末を、不活性ガス、アンモニアガス又はこれらの混合ガスの雰囲気中、1600℃以上且つ1900℃未満で焼成して、混合粉末における六方晶窒化ホウ素よりも高い結晶性を有する六方晶窒化ホウ素を含む焼成物を得る焼成工程と、焼成物を粉砕、洗浄、及び乾燥し、乾燥粉末を得る精製工程と、乾燥粉末を、不活性ガス、アンモニアガス又はこれらの混合ガスの雰囲気中、1900℃以上でアニールするアニール工程と、を有する。
【0012】
上記製造方法では、助剤を用いて1700℃以上且つ1900℃未満の温度で焼成することによって、結晶性の高い六方晶窒化ホウ素を含む焼成物を得ることができる。この焼成物を粉砕後、洗浄することによって、残存する助剤等が低減され、その後のアニール時の粒成長を抑制できる。そして、乾燥後、既に結晶化した六方晶窒化ホウ素を含む焼成物を1900℃以上の温度でアニールをしていることから、一次粒子の粒成長を抑制しつつ、粒子の表面に付着している酸素及び酸素を含む官能基を飛散させて、酸素量を低減することができる。このような六方晶窒化ホウ素粉末は、単位表面積当たりの酸素量が低いため、粒子の表面に水分が吸着し難い。また、表面に発生する静電気を低減できる。これらの要因によって、六方晶窒化ホウ素粉末の凝集が抑制され、優れた伸び性を有するものと推察される。このような六方晶窒化ホウ素粉末は、化粧料の原料用として好適である。
【0013】
上記製造方法は、焼成工程の前に、ホウ素を含む化合物の粉末と窒素を含む化合物の粉末を含有する原料粉末を、不活性ガス、アンモニアガス又はこれらの混合ガスの雰囲気中、600~1300℃で焼成して、低結晶性の六方晶窒化ホウ素を含む仮焼物を得る仮焼工程を有してよい。そして、焼成工程における混合粉末は仮焼物と助剤とを含んでよい。このように、焼成工程よりも低い温度で仮焼を行うことによって、大きい比表面積を有する六方晶窒化ホウ素粉末を得ることができる。
【0014】
上記アニール工程で得られる六方晶窒化ホウ素粉末の、窒素吸着によって求められる比表面積(N)に対する酸素量の比は、0.1[g/100m]以下であってよい。
【0015】
本開示の一側面に係る化粧料は、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を含む。上述の六方晶窒化ホウ素粉末は、凝集が抑制され、優れた伸び性を有する。このため、このような六方晶窒化ホウ素粉末を含む化粧料は、優れた伸び性を有する。
【0016】
本開示の一側面に係る化粧料の製造方法は、上述のいずれかの製造方法で得られる六方晶窒化ホウ素粉末を原料として用いて化粧料を製造する。上述の製造方法で得られる六方晶窒化ホウ素粉末は、凝集が抑制され、優れた伸び性を有する。このため、このような六方晶窒化ホウ素粉末を原料として用いて製造された化粧料は、優れた伸び性を有する。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、伸び性に優れる化粧料を製造することが可能な六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法を提供することができる。また、本開示によれば、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を用いることによって伸び性に優れる化粧料及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0019】
本実施形態の六方晶窒化ホウ素粉末は、窒素吸着によって求められる比表面積(N)に対する酸素量の比が0.1[g/100m]以下である。当該比は、0.08[g/100m]未満であってよく。0.05[g/100m]未満であってよく、0.03[g/100m]未満であってもよい。当該比を小さくすることによって、伸び性を向上することができる。当該比は、例えば0.001[g/100m]以上であってよく、0.005[g/100m]以上であってもよい。これによって、極性溶媒中への分散性を良好にすることができる。このため、例えば、六方晶窒化ホウ素粉末を化粧料の原料として用いる場合に、化粧料の製造を円滑に行うことができる。
【0020】
窒素吸着によって求められる比表面積(N)は、吸着ガスを窒素として、市販の比表面積測定装置を用いて測定される値である。比表面積(N)は、0.5[m/g]以上であってよく、1[m/g]以上であってもよい。大きい比表面積(N)を有することによって、一次粒子を十分に小さくすることができる。これによって、皮膚及びシワへの付着性を高めることができる。比表面積(N)は、8[m/g]以下であってよく、6[m/g]以下であってもよい。これによって、伸び性のみならず、滑り性も十分に高くすることができる。
【0021】
酸素量は、0.15質量%以下であってよく、0.12質量%以下であってもよい。酸素量を低くすることによって、粒子表面への水分の吸着を抑制することができる。また、粒子の表面に生じる静電気を低減することができる。これらの要因によって、六方晶窒化ホウ素粉末が凝集することを抑制できる。酸素量は、0.05質量%以上であってよく、0.01質量%以上であってもよい。これによって、極性溶媒中への分散性を良好にすることができる。このため、例えば、六方晶窒化ホウ素粉末を化粧料の原料に使用する場合に、化粧料の製造を円滑に行うことができる。酸素量は、焼成工程における焼成温度及び焼成時間、並びに、アニール工程におけるアニール温度及びアニール時間を変えることによって調整するこができる。
【0022】
水蒸気吸着によって求められる比表面積(H)は、吸着ガスを水として、市販の比表面積測定装置を用いて測定される値である。すなわち、この値が大きくなると、粒子の表面への水分の吸着量が大きくなる。比表面積(H)は、0.8[m/g]以下であってよく、0.6[m/g]以下であってもよい。低い比表面積(H)を有することによって、粒子の表面への水分の吸着を抑制し、六方晶窒化ホウ素粉末の凝集が抑制される。比表面積(H)は、0.1[m/g]以上であってよく、0.2[m/g]以上であってもよい。これによって、水系の溶媒中への分散性を良好にすることができる。
【0023】
窒素吸着によって求められる比表面積(N)に対する、水蒸気吸着によって求められる比表面積(H)の比は、0.2以下であってよく、0.17以下であってもよい。当該比を小さくすることによって、水分の吸着を一層抑制することができる。当該比の下限は、0.01であってよく、0.03であってもよい。これによって、極性溶媒中への分散性を良好にすることができる。
【0024】
本実施形態に係る六方晶窒化ホウ素は、凝集ダマを形成し難く、優れた伸び性を有することから、化粧料の原料用に好適である。すなわち、本開示は、六方晶窒化ホウ素を化粧料の原料として使用する使用方法も提供することができる。優れた伸び性を有する化粧料は、皮膚に塗り拡げる際に、より広い面積の皮膚を覆うことができる。
【0025】
一実施形態に係る化粧料は、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を含有する。この六方晶窒化ホウ素粉末は、粒子の表面への水分の吸着が抑制されているうえ、表面に発生する静電気を抑制できる。このため、六方晶窒化ホウ素粉末は凝集し難くなると考えられる。したがって、この六方晶窒化ホウ素粉末を含有する化粧料は、伸び性に優れる。
【0026】
化粧料としては、例えば、ファンデーション(パウダーファンデーション、リキッドファンデーション、クリームファンデーション)、フェイスパウダー、ポイントメイク、アイシャドー、アイライナー、マニュキュア、口紅、頬紅、及びマスカラ等が挙げられる。これらのうち、ファンデーション及びアイシャドーには、六方晶窒化ホウ素粉末が特に良く適合する。化粧料における六方晶窒化ホウ素粉末の含有量は、例えば0.1~70質量%である。化粧料は公知の方法によって製造することができる。化粧料の製造方法は、例えば、六方晶窒化ホウ素粉末と他の原料とを配合して混合する工程を有する。
【0027】
一実施形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、ホウ素を含む化合物の粉末と窒素を含む化合物の粉末を含有する原料粉末を、不活性ガス雰囲気中、アンモニアガス雰囲気中、又はこれらの混合ガス雰囲気中、600~1300℃で焼成して、低結晶性の六方晶窒化ホウ素、及び非晶質の六方晶窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一方を含む仮焼物を得る仮焼工程と、仮焼物と助剤とを含む混合粉末を、不活性ガス及び/又はアンモニアガスの雰囲気中、1600℃以上且つ1900℃未満の温度で焼成して焼成物を得る焼成工程と、焼成物を粉砕、洗浄、及び乾燥し、乾燥粉末を得る精製工程と、乾燥粉末を、不活性ガス、アンモニアガス又はこれらの混合ガスの雰囲気中、1900℃以上の温度でアニールするアニール工程と、を含む。
【0028】
ホウ素を含む化合物としては、ホウ酸、酸化ホウ素及びホウ砂等が挙げられる。窒素を含む化合物としては、シアンジアミド、メラミン、及び尿素が挙げられる。ホウ素を含む化合物の粉末と窒素を含む化合物の粉末を含有する原料粉末におけるホウ素原子と窒素原子のモル比は、ホウ素原子:窒素原子=2:8~8:2であってよく、3:7~7:3であってもよい。原料粉末は、上記化合物以外の成分を含んでもよい。例えば、仮焼用助剤として炭酸リチウム及び炭酸ナトリウムなどの炭酸塩を含んでよい。また、炭素等の還元性物質を含んでよい。
【0029】
上述の成分を含有する原料粉末を、例えば電気炉を用いて、窒素ガス、ヘリウムガス、又はアルゴンガス等の不活性雰囲気中、アンモニア雰囲気中、或いはこれらを混合した混合ガス雰囲気中で仮焼する。仮焼温度は、600~1300℃であってよく、800~1200℃であってよく、900~1100℃であってもよい。仮焼時間は、例えば0.5~5時間であってよく、1~4時間であってもよい。
【0030】
仮焼によって得られる仮焼物は、低結晶性の六方晶窒化ホウ素、及び非晶質の六方晶窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一方を含む。仮焼工程は、後述の焼成工程よりも低温で窒化ホウ素の反応を進行させる。仮焼の温度を低くすることにより粒成長を抑制させ、最終的に得られる窒化ホウ素粉末の粒径を小さくすることができる。また、六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積(N)を大きくすることができる。
【0031】
次に、得られた仮焼物と助剤とを配合して混合し、混合粉末を得る。助剤としては、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、並びに、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム及び炭酸リチウム等の炭酸塩が挙げられる。六方晶窒化ホウ素を含む仮焼物100質量部に対する、助剤の配合量は2~20質量部であってよく、2~8質量部であってもよい。このような混合粉末を、例えば電気炉中、窒素ガス、ヘリウムガス、又はアルゴンガス等の不活性雰囲気中、アンモニア雰囲気中、或いはこれらを含む混合ガス雰囲気中で焼成する。
【0032】
焼成工程では、助剤の存在下、窒化ホウ素の生成及び結晶化が進行する。これによって、仮焼物に含まれる窒化ホウ素の結晶性を高めることができる。焼成温度は、1600℃以上且つ1900℃未満である。この焼成温度は、1650~1850℃であってよく、1650~1750℃であってもよい。焼成時間は、例えば0.5~5時間であってよく、1~4時間であってもよい。
【0033】
焼成温度が低くなり過ぎると、六方晶窒化ホウ素の生成及び結晶化が十分に進行し難くなる傾向にある。六方晶窒化ホウ素の結晶化が不十分になると、化粧料に用いた場合に滑り性が低下する傾向にある。焼成時間が短くなり過ぎたときも同様の傾向にある。一方、焼成温度が高くなり過ぎると、六方晶窒化ホウ素の結晶成長が進み過ぎて、微粉砕が困難になる傾向にある。焼成時間が長くなり過ぎたときも同様の傾向にある。
【0034】
焼成工程で得られた焼成物は、通常の粉砕装置で粉砕してよい。粉砕した粉砕粉の中には、六方晶窒化ホウ素以外に不純物が含まれる。不純物としては、残存する助剤、及び水溶性ホウ素化合物等が挙げられる。精製工程では、このような不純物を、洗浄によって低減する。洗浄後、固液分離して乾燥し、乾燥粉末を得る。洗浄に用いる洗浄液としては、水、酸性物質を含む水溶液、有機溶媒、有機溶媒と水との混合液等が挙げられる。不純物の二次的な混入を避ける観点から、電気伝導度が1mS/m以下の水を使用してよい。酸性物質としては、例えば塩酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール及びアセトン等の水溶性の有機溶媒が挙げられる。洗浄方法に特に制限はなく、例えば、粉砕粉を洗浄液中に浸漬し撹拌して洗浄してよく、粉砕粉に洗浄液をスプレーして洗浄してもよい。
【0035】
洗浄終了後、デカンテーション、吸引ろ過機、加圧ろ過機、回転式ろ過機、沈降分離機又はこれらを組み合わせた装置を用いて洗浄液を固液分離してよい。分離した固形分を通常の乾燥機で乾燥して乾燥粉末を得てもよい。乾燥機は、例えば、棚式乾燥機、流動層乾燥機、噴霧乾燥機、回転型乾燥機、ベルト式乾燥機、及びこれらの組み合わせが挙げられる。乾燥後に、粗大粒子を除去するために、例えば篩による分級を行ってもよい。
【0036】
アニール工程では、乾燥粉末を、例えば電気炉を用いて、窒素ガス、ヘリウムガス、又はアルゴンガス等の不活性雰囲気中、アンモニア雰囲気中、或いはこれらを混合した混合ガス雰囲気中で1900℃以上に加熱する。このアニール温度は、酸素量を十分に低減する観点から、1950℃以上であってよく、2000℃以上であってもよい。アニール工程を行うことによって、粒子の表面に官能基等として存在する酸素を飛散させ、酸素量を低減することができる。アニール工程では、精製工程によって、焼成物よりも助剤が低減された乾燥粉末をアニールしていることから、粒成長を抑制しつつ酸素量を低減することができる。
【0037】
粒子の成長を抑制する観点から、アニールの温度は2200℃以下であってよく、2100℃以下であってよい。アニール時間は、酸素量を十分に低減するとともに粒子の成長を抑制する観点から、例えば0.5~5時間であってよく、1~4時間であってもよい。
【0038】
このようにして、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を得ることができる。上記製造方法には、六方晶窒化ホウ素粉末の実施形態に係る説明を適用することができる。六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、上述の実施形態に限定されない。例えば、アニール工程は複数回繰り返して行ってもよい。また、アニール工程の後に、超音波振動を与えるホモジナイザー等を用いて、六方晶窒化ホウ素粉末を解砕する解砕工程を行ってもよい。
【0039】
以上、本開示の幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例
【0040】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
[六方晶窒化ホウ素粉末の調製]
<仮焼工程>
ホウ酸粉末(純度99.8質量%以上、関東化学社製)100.0g、及びメラミン粉末(純度99.0質量%以上、和光純薬社製)90.0gを、アルミナ製乳鉢を用いて10分間混合し混合原料を得た。乾燥後の混合原料を、六方晶窒化ホウ素製の容器に入れ、電気炉内に配置した。電気炉内に窒素ガスを流通させながら、10℃/分の速度で室温から1000℃に昇温した。1000℃で2時間保持した後、加熱を止めて自然冷却した。温度が100℃以下になった時点で電気炉を開放した。このようにして、低結晶性の六方晶窒化ホウ素を含む仮焼物を得た。
【0042】
<焼成工程>
仮焼物100.0gに、助剤として炭酸ナトリウム(純度99.5質量%以上)を3.0g添加し、アルミナ製乳鉢を用いて10分間混合した。混合物を、上述の電気炉内に配置した。電気炉内に窒素ガスを流通させながら、10℃/分の速度で室温から1700℃に昇温した。1700℃の焼成温度で4時間保持した後、加熱を止めて自然冷却した。温度が100℃以下になった時点で電気炉を開放した。得られた焼成物を回収し、アルミナ製乳鉢で3分間粉砕して、六方晶窒化ホウ素の粗粉を得た。
【0043】
<精製工程>
六方晶窒化ホウ素の粗粉中に含まれる不純物を除くため、希硝酸500g(硝酸濃度:5質量%)に、粗粉を30g投入し、室温で60分間攪拌した。攪拌後、吸引ろ過によって固液分離し、ろ液が中性になるまで水(電気伝導度:1mS/m)を入れ替えて洗浄した。洗浄後、乾燥機を用いて120℃で3時間乾燥して乾燥粉末を得た。
【0044】
<アニール工程>
乾燥粉末を、上述の電気炉内に配置した。電気炉内に窒素ガスを流通させながら、10℃/分の速度で室温から2000℃に昇温した。2000℃で4時間保持した後、加熱を止めて自然冷却した。温度が100℃以下になった時点で電気炉を開放した。得られた焼成物を回収し、アルミナ製乳鉢で3分間粉砕し、得られた乾燥粉末から、超音波振動篩(株式会社興和工業所製、商品名:KFS-1000、目開き250μm)を用いて粗粉を除去して、実施例1の六方晶窒化ホウ素粉末を得た。
【0045】
[六方晶窒化ホウ素粉末の評価]
<比表面積(N)の測定>
実施例1で作製した六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積を、比表面積測定装置(ユアサアイオニクス社製、装置名:MONOSORB)を用いて、BET1点法により測定した。吸着ガスとして窒素ガスを、キャリアガスとしてヘリウムガスを用いた。試料1gを300℃、15分間の条件で乾燥脱気してから測定を行った。測定結果は、表2に「比表面積(N)」として示した。
【0046】
<比表面積(H)の測定>
実施例1で作製した六方晶窒化ホウ素粉末を、300℃で12時間真空脱気した。吸着ガスとしてHOガスを使用し、市販の吸着量測定装置(マイクロトラックベル社製、装置名:BELSORP-maxII)を用いて、BET法で真空脱気後の六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積(H)を測定した。測定結果は、表2に「比表面積(H)」として示した。比表面積(N)に対する比表面積(H)の比も、表2に併せて示した。
【0047】
<酸素量の測定>
酸素/窒素同時分析装置(堀場製作所社製、装置名:EMGA-920)を用いて、酸素量を測定した。具体的には、六方晶窒化ホウ素粉末を、ヘリウム雰囲気中、昇温速度4.6℃/秒で室温から3000℃まで加熱しながら酸素量と窒素量を測定した。そして、窒素が検知されない間に検知された酸素量を、酸素量とした。測定結果は表2に示すとおりであった。比表面積(N)に対する酸素量の比も、表2に併せて示した。
【0048】
<伸び性の評価>
人工皮膚(縦×横=10mm×50mm)の一端に、六方晶窒化ホウ素粉末0.2gを載せた。人工皮膚の表面に六方晶窒化ホウ素粉末を塗り付けるように、ヘラを用いて六方晶窒化ホウ素粉末を縦方向に沿って伸ばした。市販の画像解析ソフトウェア(WinROOF)を用いて画像解析を行って、人工皮膚の全面積に対する、六方晶窒化ホウ素粉末の塗布面積の割合を求めた。この面積割合が大きいほど伸び性が優れている。伸び性の評価基準は、面積割合に応じて表1に示すとおりとした。伸び性の評価結果は表2に示すとおりであった。
【0049】
【表1】
【0050】
(実施例2)
焼成工程の焼成温度を1600℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして六方晶窒化ホウ素粉末を調製した。そして、実施例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末の各測定及び評価を行った。結果は表2に示すとおりであった。
【0051】
(実施例3)
アニール工程の2000℃での保持時間を2時間にしたこと以外は、実施例1と同様にして六方晶窒化ホウ素粉末を調製した。そして、実施例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末の各測定及び評価を行った。結果は表2に示すとおりであった。
【0052】
(実施例4)
乾燥後の混合原料に助剤として炭酸ナトリウム(純度99.5質量%以上)を3.0g添加し、仮焼工程を行わずに焼成工程を行ったこと以外は、実施例1と同様にして六方晶窒化ホウ素粉末を製造した。そして、実施例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末の各測定及び評価を行った。結果は表2に示すとおりであった。
【0053】
(比較例1)
アニール工程を行わず、精製工程で粗粒を除去して得られた粉末を、比較例1の六方晶窒化ホウ素粉末とした。実施例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末の各測定及び評価を行った。結果は表2に示すとおりであった。
【0054】
【表2】
【0055】
実施例1~3は、比較例1よりも、比表面積(N)当たりの酸素量が低く且つ比表面積(N)に対する比表面積(H)の比も小さいことが確認された。外観を観察すると、比較例1は、凝集ダマを形成しているのに対し、実施例1~4では、凝集ダマが比較例1よりも明らかに少なかった。このため、実施例1~4の方が、比較例1よりも、優れた伸び性を有すると推察される。実施例1は特に凝集ダマが少なく、最も優れた伸び性を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本開示によれば、伸び性に優れる化粧料を製造することが可能な六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法が提供される。また、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を用いることによって伸び性に優れる化粧料が提供される。