(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】メチオニンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 319/28 20060101AFI20240207BHJP
C07C 319/20 20060101ALI20240207BHJP
C07C 323/58 20060101ALI20240207BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240207BHJP
【FI】
C07C319/28
C07C319/20
C07C323/58
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019559812
(86)(22)【出願日】2018-05-08
(86)【国際出願番号】 EP2018061799
(87)【国際公開番号】W WO2018210615
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-04-19
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-17
(32)【優先日】2017-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン ベアンハート
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ケアファー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ライヒャート
(72)【発明者】
【氏名】ハンス ヨアヒム ハッセルバッハ
(72)【発明者】
【氏名】ベアント ドラパール
(72)【発明者】
【氏名】ライナー ペーター
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン カイザー
(72)【発明者】
【氏名】ベニー ハルトノ
(72)【発明者】
【氏名】ハラルト ヤーコプ
【合議体】
【審判長】瀬良 聡機
【審判官】野田 定文
【審判官】宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第4069251(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C25B
B01D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチオニンの製造方法であって、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ金属炭酸塩および/またはアルカリ金属炭酸水素塩を含む水性プロセス溶液中で5-(2-メチルメルカプトエチル)-ヒダントイン(メチオニンヒダントイン)をアルカリ加水分解してメチオニンアルカリ金属塩を形成し、二酸化炭素によりメチオニンを沈殿させ、沈殿させたメチオニンを前記プロセス溶液から分離し、前記プロセス溶液を濃縮し、前記プロセス溶液に再び送られるメチオニンヒダントインの前記アルカリ加水分解において前記プロセス溶液を再利用することを含み、ここで、前記プロセス溶液中のアルカリ金属カチオンは、
90/
10~20/80の範囲のK/Naモル比を有するカリウムおよびナトリウムである、方法。
【請求項2】
前記プロセス溶液中の前記K/Naモル比が70/30~50/50の範囲である、請求項
1記載の方法。
【請求項3】
前記沈殿させたメチオニンを水溶液から再結晶し、ろ過して乾燥させ、そのようにして得られた結晶性メチオニンは、99%を超える純度ならびに0.3%未満のカリウム含有量および0.1%未満のナトリウム含有量を有する、請求項1
または2記載の方法。
【請求項4】
前記結晶性メチオニン中の前記カリウム含有量が0.05~0.3%の範囲であり、前記ナトリウム含有量が0.01~0.1%の範囲である、請求項
3記載の方法。
【請求項5】
前記プロセス溶液の一部であるパージ溶液をプロセスから連続的に除去し、新鮮なアルカリ金属水酸化物溶液と交換する、請求項1から
4までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ金属炭酸塩および/またはアルカリ金属炭酸水素塩を含む水性プロセス溶液中での5-(2-メチルメルカプトエチル)-ヒダントイン(メチオニンヒダントイン)のアルカリ加水分解を含み、ここで、プロセス溶液中のアルカリ金属カチオンは、99/1~20/80の範囲のK/Naモル比を有するカリウムおよびナトリウムである、メチオニンの製造方法に関する。
【0002】
アミノ酸メチオニンは、現在、世界中で大量に工業的に生産されており、商業的にかなり重要である。メチオニンは、医薬品、健康品およびフィットネス品などの多くの分野で用いられているが、特に、様々な家畜用の多くの飼料における飼料添加物として用いられている。
【0003】
工業規模では、メチオニンは、ストレッカー合成の変法であるブヘラ・ベルクス反応を介して化学的に生成される。この場合、出発物質3-メチルメルカプトプロパナール(2-プロペナールとメチルメルカプタンとから製造される)、シアン化水素酸(シアン化水素)、アンモニアおよび二酸化炭素を反応させて5-(2-メチルメルカプトエチル)ヒダントイン(メチオニンヒダントイン)が得られ、続けてこれを炭酸カリウムおよび炭酸水素カリウムを用いたアルカリにより加水分解してメチオニン酸カリウムが得られる。メチオニンは、二酸化炭素を用いた処理(「炭酸化反応」)によりカリウム塩から最終的に遊離させられ、これは炭酸カリウムおよび炭酸水素カリウムを含む母液からの沈殿物としてろ過することができる(米国特許第5,770,769号明細書)。次いで、沈殿したメチオニンを水溶液から再結晶させ、ろ過して乾燥させる。このようにして得られたメチオニンは、99%を超える純度および0.5%未満のカリウム含有量を有する。
【0004】
米国特許第4,272,631号明細書は、アルカリ金属水酸化物とアルカリ土類金属水酸化物との混合物を使用してメチオニンヒダントインを鹸化できることを実証している。しかしながら、これらのプロセスでは、メチオニンの遊離中に最初にアルカリ土類金属イオンを分離する必要があり、そのため最大収率は80.5%しか得られない。米国特許第4,272,631号明細書は、メチオニンヒダントインの鹸化のためのアルカリ金属水酸化物の混合物の使用を開示していない。
【0005】
アンモニア、炭酸カリウムおよび炭酸水素カリウムの試薬に加えて二酸化炭素も、一般に工業的なメチオニン生産で再利用される。しかしながら、このヒダントイン加水分解循環の水性プロセス溶液の一部を新鮮な水酸化カリウムと連続的に交換し、この循環から不活性化カリウム塩をギ酸カリウムの形態で本質的に除去(「パージ」)する必要がある。ギ酸カリウムは、メチオニンヒダントイン溶液中に存在するシアン化水素の残留物と、ヒダントイン加水分解によるアルカリカリウム塩とから形成される(国際公開第2013030068号
2)。メチオニン合成の更なる副生成物がジペプチドメチオニルメチオニンである(欧州特許出願公開第1564208号明細書)。一般に、ヒダントイン加水分解循環での副生成物の過剰な濃縮は回避されなければならない。さもなければ、結晶形成の破壊が下流で発生するからである。ヒダントイン加水分解循環のスキームを
図1に示す。
【0006】
ヒダントイン加水分解循環に再利用される典型的なプロセス溶液は、約10~16質量%のカリウム、5~10質量%のメチオニン、3~5質量%のメチオニルメチオニン、0.5~2.0質量%のギ酸塩および0.2~0.3質量%の酢酸塩を含む。
【0007】
メチオネートとカリウムは、二酸化炭素を用いた沈殿により、それぞれメチオニンと炭酸カリウムの形態で部分的にパージ流から回収し、ろ過してプロセス溶液に供給し戻すことができる。しかしながら、依然として比較的高価なカリウム塩のかなりの損失がある。最終パージ溶液は、約2~6質量%のメチオニン、4~8質量%のメチオニルメチオニン、6~14質量%のカリウム塩の形態のカリウム、1~1.7質量%のギ酸塩および0.3~0.5質量%の酢酸塩を含む。
【0008】
過剰の炭酸ナトリウムを再利用する目的で、CapelleおよびRey(国際公開第2016/170252号)は、水相中でのメチオニンヒダントインのアルカリ加水分解によりメチオニンを生成し、加水分解媒体からアンモニアと二酸化炭素を除去し、得られたメチオニンナトリウム塩を中和する方法を提案しており、ここで、アンモニアと二酸化炭素の除去後、反応媒体を濃縮することで炭酸ナトリウムを沈殿させ、これをろ過し、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムの存在下でのアルカリ加水分解に再利用する。しかしながら、この方法では、メチオニンナトリウム塩の中和は亜硫酸により達成され、これは依然として、プロセスから除去しなければならない副生成物として大量の硫酸ナトリウムをもたらす。
【0009】
炭酸化反応、すなわち、メチオニンのアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応でメチオニンとアルカリ金属炭酸水素塩を形成する反応(
図1)では、メチオニンが沈殿し、プロセス溶液から除去される。しかしながら、炭酸水素ナトリウムとメチオニンの溶解度の差は小さいため(
図2)、メチオニンのナトリウム塩がこの反応で使用される場合、大量の炭酸水素ナトリウムがメチオニンと共沈する。したがって、炭酸化反応ではメチオニンのカリウム塩が使用され、これは、通常、水酸化カリウムがヒダントイン加水分解循環プロセスに追加されることを意味する。
【0010】
米国特許第4,259,525号明細書および米国特許第5,770,769号明細書からは、カリウム塩または水酸化物の代わりにナトリウム塩または水酸化物がメチオニンヒダントインの加水分解に用いられる場合、二酸化炭素を用いて沈殿させたメチオニンは、生成物とともに沈殿する炭酸ナトリウムの溶解度が低いため、高濃度のナトリウムを含む傾向があることも知られている。
【0011】
本発明の目的は、水酸化カリウムおよび/または炭酸カリウムおよび/または炭酸水素カリウムを含む水性プロセス溶液中で5-(2-メチルメルカプトエチル)-ヒダントイン(メチオニンヒダントイン)をアルカリ加水分解してメチオニンカリウム塩を形成し、二酸化炭素によりメチオニンを沈殿させ、沈殿させたメチオニンをプロセス溶液から分離し、プロセス溶液を濃縮し、プロセス溶液をメチオニンヒダントインのアルカリ加水分解に再利用することを含み、ここで、プロセス溶液中のカリウムカチオンを部分的にナトリウムカチオンに置き換えることでパージ溶液流中の比較的高価なカリウム塩の損失を回避する、メチオニンの製造方法を提供することである。
【0012】
ヒダントイン加水分解反応から生じるプロセス溶液中では、炭酸化反応での炭酸水素ナトリウムの望ましくない共沈殿なしに、カリウムの大部分をナトリウムで置き換えることができることがわかった。
【0013】
この目的は、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ金属炭酸塩および/またはアルカリ金属炭酸水素塩を含む水性プロセス溶液中で5-(2-メチルメルカプトエチル)-ヒダントイン(メチオニンヒダントイン)をアルカリ加水分解してメチオニンアルカリ金属塩を形成し、二酸化炭素によりメチオニンを沈殿させ、沈殿させたメチオニンをプロセス溶液から分離し、プロセス溶液を濃縮し、プロセス溶液に再び送られるメチオニンヒダントインのアルカリ加水分解においてプロセス溶液を再利用することを含み、ここで、プロセス溶液中のアルカリ金属カチオンは、99/1~20/80のK/Naモル比を有するカリウムおよびナトリウムであり、カリウム濃度は13.9質量%~1.2質量%の範囲であり、ナトリウム濃度は0.04質量%~6.6質量%の範囲である、メチオニンの製造方法により達成される。
【0014】
濃縮ステップ中、プロセス溶液は、ヒダントイン加水分解循環のその典型的な開始濃度、すなわち、約5~16質量%のアルカリ金属、5~8質量%のメチオニン、3~5質量%のメチオニルメチオニン、0.7~1.1質量%のギ酸塩および0.2~0.3質量%の酢酸塩を含む濃度に再濃縮される。
【0015】
本発明による方法では、プロセス溶液中のK/Naモル比は、好ましくは90/10~20/80の範囲であり、カリウム濃度は12.6質量%~1.2質量%の範囲であり、ナトリウム濃度は0.35質量%~6.6質量%の範囲である。理想的には、プロセス溶液中のK/Naモル比は70/30~50/50の範囲であり、カリウム濃度は9.8質量%~3質量%の範囲であり、ナトリウム濃度は1,06質量%~4,1質量%の範囲である。
【0016】
本発明による方法では、沈殿させたメチオニンを、次いで水溶液から再結晶し、ろ過して乾燥させる。そのようにして得られたメチオニンは、99%を超える純度ならびに0.3%未満のカリウム含有量および0.1%未満のナトリウム含有量を有し、特に、結晶性メチオニン中のカリウム含有量は0.05~0.3%の範囲であり、ナトリウム含有量は0.01~0.1%の範囲である。
【0017】
本発明による方法では、プロセス溶液の一部、いわゆる「パージ溶液」をプロセスから連続的に除去し、新鮮なアルカリ金属水酸化物溶液と交換することができる。
【0018】
プロセスから除去されたパージ溶液は、2~6質量%のメチオニン、4~8質量%のメチオニルメチオニン、1~1.7質量%のギ酸塩、0.3~0.5質量%の酢酸塩および6~14質量%のカリウム塩およびナトリウム塩の形態のアルカリ金属を含み、ここで、カリウムおよびナトリウムは、99/1~20/80のK/Naモル比を有するカリウムおよびナトリウムであり、カリウム濃度は13.9質量%~1.2質量%の範囲であり、ナトリウム濃度は0.04質量%~6.6質量%の範囲である。
【0019】
本発明による方法はまた、90/10~20/80の範囲のK/Naモル比を有し、カリウム濃度は12.6質量%~1.2質量%の範囲であり、ナトリウム濃度は0.35質量%~6.6質量%の範囲であるパージ溶液をもたらし得る。
【0020】
本発明による方法はまた、70/30~50/50の範囲のK/Naモル比を有し、カリウム濃度は9.8質量%~3質量%の範囲であり、ナトリウム濃度は1.06質量%~4.1質量%の範囲であるパージ溶液をもたらし得る。
【0021】
カリウム、窒素、硫黄およびナトリウムの含有量により、そのようにして得られたパージ溶液は液体肥料として適している(C.C.Mitchel and A.E.Hiltbold,Journal of Plant Nutrition,17(12),2119-2134,1994)。さらに、ナトリウムは、植物の機能性栄養素、すなわち、バイオマスの最大収量を促進する要素および/または必須要素の要件(臨界レベル)を下げる要素であると考えられる(Subbarao et al.,Critical Reviews in Plant Sciences,22(5):391-416(2003))。
【0022】
パージ溶液は、2~6質量%のメチオニン、4~8質量%のメチオニルメチオニン、1~1.7質量%のギ酸塩、0.3~0.5質量%の酢酸塩および13.9質量%~1.2質量%のカリウム塩の形態のカリウムおよび0.04質量%~6.6質量%のナトリウム塩の形態のナトリウムを含み得る。パージ溶液はまた、12.6質量%~1.2質量%の範囲のカリウム濃度および0.35質量%~6.6質量%の範囲のナトリウム濃度を有し得る。あるいはパージ溶液は、9.8質量%~3質量%の範囲のカリウム濃度および1.06質量%~4.1質量%の範囲のナトリウム濃度を有し得る。
【0023】
その組成により、パージ溶液は肥料または肥料添加剤として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】ヒダントイン加水分解循環のスキームを示す図である。
【
図2】水中でのKHCO
3、NaHCO
3およびメチオニンの溶解度曲線を示す図である。
【
図3】プロセス溶液中のモル比K/Naが異なる未加工フィルターケーキの組成を示す図である(例1)。
【0025】
図2における測定値は、次の出典に由来する。
KHCO
3の溶解度:
Seidell,1940:Seidel,A.;Solubility Data Ser.,1940
Gmelin:Gmelins Handbuch,22,1938
Takahashi,1927:Takahashi,G.;Bull.Imp.Seric.Stn.Tokyo 29,1927,165
NaHCO
3の溶解度:
Trypuc & Kielkowska,1998:Trypuc,M.;Kielkowska,U.;J.Chem.Eng.Data 43(2),1998,201-204
Fedotev,1904:Fedotev,P.P.,Z.Phys.Chem.49,1904,168
メチオニンの溶解度:
Fuchs et al.,2006:Fuchs et al.,2006,Ind.Eng.Chem.Res.,45,6578-6584
(Fuchs et al.,2006に従った)実験室実験:独自の実験室実験の結果
【0026】
実験部
炭酸化反応では、0.5当量の炭酸カリウムを伴うメチオニンのカリウム塩(K-Met)をCO2と反応させる。KHCO3が形成され、メチオニン(H-Met)が沈殿する(化学反応式1および2):
K-Met+CO2+H2O→H-Met(s)+KHCO3 (化学反応式1)
K2CO3+CO2+H2O→2KHCO3 (化学反応式2)
【0027】
KHCO
3と比較してNaHCO
3の溶解度が著しく低いため(
図2)、炭酸化反応器中でのNaHCO
3結晶の望ましくない沈殿を避けるために、K/Naのモル比を慎重に調整する必要がある。
【0028】
したがって、モル比K/Naが異なる合成プロセス溶液を用いた炭酸化反応を調べるために、実験室で一連の実験を行う。全体のアルカリ濃度(KおよびNaの合計パラメーター)を一定に維持し、つまり、モル比K/Na=100/0と比較してK/Na=70/30の場合、カリウム濃度は30%低下し、等モルがナトリウムで置き換えられている。この調査の結果を
図3にまとめる。
【0029】
フィルターケーキ中のメチオニン含有量は、モル比K/Naが100/0~0/100の場合に一定であると考えることができる。フィルターケーキ中のNa含有量は、モル比K/Naが100/0~20/80の場合に3.92gまで僅かに増加し、これは、フィルターケーキに付着して取り込まれるプロセス溶液によって説明することができる。しかしながら、モル比K/Naが10/90および0/100の場合にフィルターケーキ中で著しく高いNa含有量(9.34~19.67g)が観察され、NaHCO3も部分的に沈殿していることが示された。
【0030】
したがって、炭酸水素ナトリウムの共沈殿なしにモル比K/Na20/80まで炭酸化反応を実行することが可能である。
【0031】
例1
モル比K/Naが90/10のプロセス溶液を製造するための実験手順
1000mlのビーカーを氷浴に入れ、KOH(水中40%、354.2g、2.53mol)、NaOH(水中40%、11.2g、0.28mol)、D,L-メチオニン(159.7g、1.07mol)、DL-メチオニル-DL-メチオニン(29.9g、0.11mol)およびギ酸(水中50%、41.4g、0.45mol)を200mlの脱イオン水に溶解し、45分間撹拌した。次いで、この溶液を20℃に加温し、1000mlのメスフラスコに移し、脱イオン水で1000mlの総容量に満たした。
【0032】
次いで、1100gの溶液を2リットルのビュッヒ実験室オートクレーブに移し、0.32gのDefoamer EG2007を加えた。冷却ジャケットとクライオスタットにより、オートクレーブを30℃に冷却した。機械的撹拌を開始し、オートクレーブをCO2ガスで2bargに加圧した。pH8に達し、温度が30℃に維持されるまで、CO2ガス供給流を2bargで維持するように調節した。オートクレーブから圧力を解放し、懸濁液を真空フィルターフリットに移し、940mbarの絶対圧力で15分間吸引乾燥させた。ろ液を100mlのガラス瓶に集め、脱イオン水で希釈して、その後の固形物の沈殿を回避し、続けて平衡化した。フィルターケーキをスパチュラで3000mlのビーカーに移し、フリット中の残留固形物を脱イオン水ですすいでビーカーに入れた。固形物が溶解するまで追加の脱イオン水を加えた。次いで、溶液を3リットルのガラス瓶に移して平衡化した。さらに、オートクレーブ中の残留固形物も、いわゆる「ホールドアップ」としてガラス瓶に集められた脱イオン水ですすいで平衡化した。
【0033】
合成プロセス溶液、脱イオン水に溶解したフィルターケーキ、ろ液および「ホールドアップ」を、KおよびNa含有量についてはIPC-OESにより、MetおよびMet-MetについてはHPLCにより、ギ酸塩についてはイオンクロマトグラフィーにより分析し、結果を表1にまとめる。
【0034】