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特許7431587法面施工装置及びこれを利用する法面施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】法面施工装置及びこれを利用する法面施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
E02D17/20 104B
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020004373
(22)【出願日】2020-01-15
(65)【公開番号】P2021110202
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000230788
【氏名又は名称】日本基礎技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中原 巖
(72)【発明者】
【氏名】新町 修一
(72)【発明者】
【氏名】奥野 倫太郎
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-078046(JP,A)
【文献】特開2016-079555(JP,A)
【文献】特開2006-307629(JP,A)
【文献】特開平11-293679(JP,A)
【文献】特開2018-009377(JP,A)
【文献】特開平04-272316(JP,A)
【文献】特開昭61-277798(JP,A)
【文献】登録実用新案第3105656(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面に対して施工を行うための装置であって、
重機の作業機に取り付けられ、外面に少なくとも1つの開口面を有する立体形状を成し、前記重機により移動される位置毎に前記開口面を法面に向ける態様で法面に載置される作業フレームと、
該作業フレーム内で移動可能に保持され、施工内容に応じた作業アタッチメントが前記開口面に向けて着脱可能に取り付けられる作業実行部と、
前記作業フレームの位置、及び、前記作業フレーム内での前記作業実行部の位置を把握するための位置把握手段と、
予め設定される設計値及び前記位置把握手段による位置把握結果に基づいて、前記作業フレーム内での前記作業実行部の移動と、前記作業アタッチメントの動作とを制御する制御部と、を含み、
前記作業フレームに、該作業フレームの傾きを計測するための傾斜計が取り付けられており、前記作業フレームが法面に載置される際に、前記傾斜計が確認されながら前記作業フレームの傾きが調整されることを特徴とする法面施工装置。
【請求項2】
前記作業フレームが、立方体ないし略立方体を成し、
前記作業実行部は、前記作業フレームの形状により仮想的に規定される、互いに平行な組み合わせの3対の面の各々と直交する3方向に、移動可能に保持されていることを特徴とする請求項1記載の法面施工装置。
【請求項3】
前記作業フレームの、法面に載置される際に法面と接触する位置に、複数のジャッキが設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の法面施工装置。
【請求項4】
前記作業フレームに、前記作業アタッチメントによる作業の様子を撮影するための撮影手段が取り付けられていることを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載の法面施工装置。
【請求項5】
前記作業アタッチメントとして、法面に吹付け材を吹付けるための吹付けノズルと、法面を削孔するための削孔機とのうち、少なくとも一方が取り付け可能であることを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載の法面施工装置。
【請求項6】
前記作業実行部に前記吹付けノズルが取り付けられ、
前記作業フレームが法面に載置された状態で、前記吹付けノズルにより法面に吹付けられた前記吹付け材の厚みを計測するための吹付け厚計測手段を備えることを特徴とする請求項記載の法面施工装置。
【請求項7】
前記吹付け厚計測手段は、前記作業フレームが法面に載置された状態における、法面に沿った前記作業実行部の移動方向に間隔を空けて、法面と直交する平面視で前記吹付けノズルを挟む位置で前記作業実行部に取り付けられた、2つの距離計測器を含むことを特徴とする請求項記載の法面施工装置。
【請求項8】
法面に対する施工方法であって、
重機の作業機に、外面に少なくとも1つの開口面を有する立体形状を成す作業フレームを取り付ける作業フレーム取付工程と、
前記作業フレーム内で移動可能に保持されている作業実行部に、施工内容に応じた作業アタッチメントを前記開口面に向けて取り付ける作業アタッチメント取付工程と、
前記作業フレームの位置を確認しながら前記重機により前記作業フレームを移動させ、前記開口面を法面に向ける態様で前記作業フレームを法面に載置する作業フレーム移動工程と、
前記作業フレームを法面に載置した状態で、予め設定した設計値及び前記作業フレーム内での前記作業実行部の位置に基づいて、前記作業フレーム内での前記作業実行部の移動と、前記作業アタッチメントの動作とを制御する作業工程と、を含み、
法面の全ての施工範囲での作業が終了するまで、前記作業フレーム移動工程と前記作業工程とを繰り返し実行し、
前記作業フレーム移動工程において法面に前記作業フレームを載置する際に、前記作業フレームに取り付けた傾斜計を確認しながら、前記作業フレームの傾きを調整することを特徴とする法面施工方法。
【請求項9】
立方体ないし略立方体を成す前記作業フレームを用い、
前記作業工程において、前記作業実行部を、前記作業フレームの形状により仮想的に規定される、互いに平行な組み合わせの3対の面の各々と直交する3方向に移動させることを特徴とする請求項記載の法面施工方法。
【請求項10】
前記作業フレーム移動工程において、前記作業フレームに取り付けた複数のジャッキを法面に接触させる態様で、前記作業フレームを法面に載置することを特徴とする請求項又は記載の法面施工方法。
【請求項11】
前記作業工程において、前記作業フレームに取り付けた撮影手段により撮影される、前記作業アタッチメントによる作業の様子を確認しながら、前記作業実行部の移動及び前記作業アタッチメントの動作を制御することを特徴とする請求項から10のいずれか1項記載の法面施工方法。
【請求項12】
前記作業アタッチメント取付工程において、前記作業アタッチメントとして、法面に吹付け材を吹付けるための吹付けノズルと、法面を削孔するための削孔機とのうち、いずれか一方を取り付けることを特徴とする請求項から11のいずれか1項記載の法面施工方法。
【請求項13】
前記作業アタッチメント取付工程において、前記作業アタッチメントとして前記吹付けノズルを取り付け、
前記作業工程において、前記吹付けノズルにより法面に吹付けた前記吹付け材の厚みを計測しながら、前記作業実行部の移動及び前記吹付けノズルの動作を制御することを特徴とする請求項12記載の法面施工方法。
【請求項14】
前記作業工程において前記吹付け材の厚みを計測する際に、前記作業フレームを法面に載置した状態における、法面に沿った前記作業実行部の移動方向に間隔を空けて、法面と直交する平面視で前記吹付けノズルを挟む位置で前記作業実行部に取り付けた、2つの距離計測器を利用することを特徴とする請求項13記載の法面施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面に対して施工を行うための法面施工装置と、この法面施工装置を利用する法面施工方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、法面に対して吹付け等の施工を行う際には、作業員が親綱により法面にぶら下がって施工していた。又、建設機械のアーム先端にノズルを取り付け、そのノズルから法面に対して吹付け材料を吹付ける工法等も発案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-79555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、作業員が親綱によってぶら下がる方法は、施工範囲全体の位置出しを行った上で、作業員が施工位置を確認しながら作業を行うため、作業効率が悪かった。又、作業員が法面において直接作業を行うことから、特に安全面に配慮する必要があった。一方、建設機械にノズルを取り付ける方法は、ノズルの位置決めが困難であり、それが作業効率を悪化させる一因となっていた。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、法面施工の作業効率及び安全性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)法面に対して施工を行うための装置であって、重機の作業機に取り付けられ、外面に少なくとも1つの開口面を有する立体形状を成し、前記重機により移動される位置毎に前記開口面を法面に向ける態様で法面に載置される作業フレームと、該作業フレーム内で移動可能に保持され、施工内容に応じた作業アタッチメントが前記開口面に向けて着脱可能に取り付けられる作業実行部と、前記作業フレームの位置、及び、前記作業フレーム内での前記作業実行部の位置を把握するための位置把握手段と、予め設定される設計値及び前記位置把握手段による位置把握結果に基づいて、前記作業フレーム内での前記作業実行部の移動と、前記作業アタッチメントの動作とを制御する制御部と、を含む法面施工装置。
【0007】
本項に記載の法面施工装置は、作業フレーム、作業実行部、位置把握手段、及び制御部を含み、作業フレームは、外面に少なくとも1つの開口面を有する立体形状を成すものであり、ブームやアームといった重機の作業機に取り付けられる。そして、重機の作業機に取り付けられた作業フレームは、重機によって持ち運ばれて移動され、その移動される位置毎に、開口面を法面に向ける態様で法面に載置される。作業実行部は、作業フレーム内で移動可能に保持されており、法面に対する施工内容に応じた作業アタッチメントが、作業フレームの開口面に向けて着脱可能に取り付けられる。このため、作業フレームが法面に載置された状態では、作業実行部に取り付けられた作業アタッチメントが法面に向けられることになる。位置把握手段は、作業フレームの位置と、作業フレーム内での作業実行部の位置とを把握するためのものである。
【0008】
そして、この位置把握手段による位置の把握結果と、施工内容に応じて予め設定される設計値とに基づいて、制御部は、作業フレーム内での作業実行部の移動と、作業実行部に取り付けられている作業アタッチメントの動作とを制御する。すなわち、制御部は、作業フレーム内での作業実行部の位置を確認しながら作業実行部を移動させ、設計値通りに施工が行われるように作業アタッチメントの動作を制御するものである。このため、作業フレームが法面に載置された状態で、作業フレームの開口面が対向する法面に対して、制御部によって位置及び動作が制御された作業アタッチメントにより施工が行われることになる。従って、作業フレームの移動と作業フレーム内での作業アタッチメントによる施工とが繰り返し行われることで、作業フレームの開口面が対向する法面の範囲を分割単位とした複数の分割範囲毎に施工が行われ、結果として施工範囲全体が施工されることになる。
【0009】
これにより、作業効率が向上するものとなり、同時に、作業員が法面にぶら下がる等して法面で直接作業を行う必要なく、遠隔的に施工されるため、安全性も向上するものとなる。又、位置把握手段による作業フレームの位置の把握結果が確認されながら、重機により作業フレームが載置される法面の位置が調整されることで、作業フレームの位置決めが容易になる。更に、作業フレームは重機を介して法面に載置され、作業員による固定作業等が不要であるため、これによっても安全性が向上され、労力の削減や工期の短縮にも寄与するものとなる。加えて、作業実行部に取り付けられる作業アタッチメントは取り換え可能であるため、取り付け可能な作業アタッチメントの種類に応じて、様々な施工内容に対応するものとなる。又、同一の施工場所において、作業アタッチメントの付け替えで対応できる2種類以上の施工を行う場合には、それらの施工を別々の施工機械を用いて行う場合と比較して、工期が短縮されると共に、運搬コストが削減されるものとなる。
【0010】
(2)上記(1)項において、前記作業フレームに、該作業フレームの傾きを計測するための傾斜計が取り付けられており、前記作業フレームが法面に載置される際に、前記傾斜計が確認されながら前記作業フレームの傾きが調整される法面施工装置(請求項1)。
本項に記載の法面施工装置は、作業フレームの傾きを計測するための傾斜計が作業フレームに取り付けられていることで、作業フレームが法面に載置される際に、その傾斜計が確認されながら作業フレームの傾きが調整されるものである。これにより、作業フレームが安定した傾きで法面に載置されることとなる。なお、この傾斜計による計測結果は、位置把握手段による作業フレームの位置把握のため等に利用されてもよい。
【0011】
(3)上記(2)項において、前記作業フレームが、立方体ないし略立方体を成し、前記作業実行部は、前記作業フレームの形状により仮想的に規定される、互いに平行な組み合わせの3対の面の各々と直交する3方向に、移動可能に保持されている法面施工装置(請求項2)。
本項に記載の法面施工装置は、作業フレームが立方体ないし略立方体を成していることで、この作業フレームの形状によって、互いに平行な組み合わせの3対の面から成る6つの面(外面)が仮想的に規定され、そのうちの少なくとも1つの面が開口面になっている。そして、そのような作業フレームにおいて、作業実行部が、上述した3対の面の各々と直交する3方向に移動可能に保持されているものである。従って、略平坦な表面を有する法面に対して、開口面を法面へ向けて且つ別の1つの面を法面の上方へ向けて作業フレームが載置された状態では、法面と平行な上下方向と、法面と平行な左右方向と、法面と直交する前後方向との、3つの方向に作業アタッチメントが移動されることになる。これにより、実質的に作業フレーム内のあらゆる位置に作業アタッチメントが移動されるため、作業フレームの開口面が対向する法面の任意の位置に向かって、法面に対して適切な距離を取りながら、作業アタッチメントによる施工が行われることとなる。
【0012】
(4)上記(2)(3)項において、前記作業フレームの、法面に載置される際に法面と接触する位置に、複数のジャッキが設けられている法面施工装置(請求項3)。
本項に記載の法面施工装置は、作業フレームの、法面に載置される際に法面と接触する位置に、複数のジャッキが設けられていることで、これら複数のジャッキが法面と作業フレームとの間に介在して法面に接触する態様で、作業フレームが法面に載置されるものである。従って、法面の表面に起伏があるような場合でも、ジャッキの伸縮長さの調整により、作業フレームが安定した姿勢で法面に載置されることとなり、又、ジャッキを介して反力を受けて、作業フレームの位置が安定して維持されることにもなる。
【0013】
(5)上記()から(4)項において、前記作業フレームに、前記作業アタッチメントによる作業の様子を撮影するための撮影手段が取り付けられている法面施工装置(請求項)。
本項に記載の法面施工装置は、作業アタッチメントによる作業の様子を撮影するための撮影手段が、作業フレームに取り付けられていることで、作業フレーム内での作業の様子が作業員等により把握されるものである。従って、法面を直接確認する必要なく、施工の様子が遠隔的に監視されるものとなる。そして、その監視結果を反映して作業アタッチメントの位置及び動作が調整されることで、施工精度がより向上されるものとなり、更には、作業フレーム内で異常が発生した場合に、それが直ぐに把握されて異常への対応が迅速に行われるものとなる。
【0014】
(6)上記()から(5)項において、前記作業アタッチメントとして、法面に吹付け材を吹付けるための吹付けノズルと、法面を削孔するための削孔機とのうち、少なくとも一方が取り付け可能である法面施工装置(請求項)。
本項に記載の法面施工装置は、作業実行部に取り付けられる作業アタッチメントとして、法面に吹付け材を吹付けるための吹付けノズルと、法面を削孔するための削孔機とのうち、少なくとも一方が取り付け可能なものである。すなわち、作業実行部に吹付けノズルが取り付けられる場合は、作業フレームが載置される位置毎に、作業フレームの開口面が対向する法面の範囲に対して、吹付け材が設計値通りの厚みになるように吹付け作業が行われる。又、作業実行部に削孔機が取り付けられる場合は、作業フレームが載置される位置毎に、作業フレームの開口面が対向する法面の範囲に含まれる設計位置に対して、法面に載置された作業フレームへの反力を利用して削孔が行われる。これにより、法面に対する吹付け作業や削孔の安全性が向上されると共に、効率よく作業が行われるものとなる。
【0015】
(7)上記(6)項において、前記作業実行部に前記吹付けノズルが取り付けられ、前記作業フレームが法面に載置された状態で、前記吹付けノズルにより法面に吹付けられた前記吹付け材の厚みを計測するための吹付け厚計測手段を備える法面施工装置(請求項)。
本項に記載の法面施工装置は、作業実行部に作業アタッチメントとして吹付けノズルが取り付けられると共に、吹付け材の厚みを計測するための吹付け厚計測手段を備えるものである。この吹付け厚計測手段は、作業フレームが法面に載置された状態で、吹付けノズルから法面に吹付けられた吹付け材の厚みを計測する。従って、この吹付け厚計測手段の計測結果が加味されながら、制御部によって作業実行部の移動及び吹付けノズルの動作が制御されることで、より設計値通りの厚みに近づくように吹付けが行われ、吹付け作業の精度が更に向上されるものとなる。
【0016】
(8)上記(7)項において、前記吹付け厚計測手段は、前記作業フレームが法面に載置された状態における、法面に沿った前記作業実行部の移動方向に間隔を空けて、法面と直交する平面視で前記吹付けノズルを挟む位置で前記作業実行部に取り付けられた、2つの距離計測器を含む法面施工装置(請求項)。
本項に記載の法面施工装置は、吹付け材の厚みを計測する吹付け厚計測手段が、作業実行部に取り付けられた2つの距離計測器を含んでおり、これら2つの距離計測器は、同じく作業実行部に取り付けられた吹付けノズルと一体的に移動される。又、2つの距離計測器は、作業フレームが法面に載置された状態での、法面に沿った作業実行部の移動方向に間隔を空けて配置されており、更に、法面と直交する平面視で、吹付けノズルを挟む位置で作業実行部に取り付けられている。すなわち、2つの距離計測器と吹付けノズルとは、吹付けノズルを中間にして直線状に配置されている。
【0017】
このため、2つの距離計測器が離間している方向に沿って作業実行部が移動されると、一方の距離計測器は、吹付けノズルが通過する直前の位置を通過することになり、他方の距離計測器は、吹付けノズルが通過した直後の位置を通過することになる。従って、上記のように作業実行部が移動されながら、吹付けノズルによる吹付けと2つの距離計測器による計測とが行われることで、一方の距離計測器により、吹付けノズルから吹付け材が吹付けられる直前の法面の表面までの距離が計測され、他方の距離計測器により、吹付けノズルから吹付け材が吹付けられた直後の法面の表面までの距離が計測される。これにより、吹付け材が吹付けられる前後の距離の差から、吹付け材の厚みが容易に算出されるものとなる。
【0018】
(9)上記(1)から(8)項において、前記位置把握手段は、法面に予め設定される基準点と前記重機との位置関係、及び、前記重機と前記作業フレームとの位置関係を利用して、前記作業フレームの位置を把握する法面施工装置。
本項に記載の法面施工装置は、位置把握手段が作業フレームの位置を把握する際に、法面に予め設定される基準点と重機との位置関係、及び、重機と作業フレームとの位置関係を利用するものである。基準点は、施工の事前準備の段階で法面に設定されるものであり、位置把握手段は、その基準点を含む施工範囲の測量データを利用して、重機から視た基準点の位置を認識することによって、重機と基準点との位置関係を把握する。又、位置把握手段は、作業フレームが取り付けられた重機の作業機の大きさや、作業機の現在の姿勢等に基づいて、重機と作業フレームとの位置関係を把握する。これにより、作業フレームの位置が正確に把握されることとなるため、この作業フレームの位置及び測量データ等に基づいて、法面に載置される作業フレームの位置が調整されることで、作業フレームが精度よく位置決めされた状態で施工され、施工精度が向上されるものとなる。更に、基準点と測量データとを利用して作業フレームの位置を把握するものであるため、施工範囲全体の位置出しを行う必要がなく、事前準備の時間が抑制されるものとなる。
【0019】
(10)上記(9)項において、前記位置把握手段は、前記作業機の姿勢を計測するための姿勢計測手段を含む法面施工装置。
本項に記載の法面施工装置は、作業機の姿勢を計測するための姿勢計測手段を含むことで、位置把握手段が、姿勢計測手段の計測結果から、作業機の姿勢を精度よく把握するものである。従って、そのような作業機の姿勢と、予め設定される重機の作業機の大きさとが併されることで、重機と作業フレームとの位置関係が把握され、結果として作業フレームの位置が高精度で算出されるものとなる。
【0020】
(11)法面に対する施工方法であって、重機の作業機に、外面に少なくとも1つの開口面を有する立体形状を成す作業フレームを取り付ける作業フレーム取付工程と、前記作業フレーム内で移動可能に保持されている作業実行部に、施工内容に応じた作業アタッチメントを前記開口面に向けて取り付ける作業アタッチメント取付工程と、前記作業フレームの位置を確認しながら前記重機により前記作業フレームを移動させ、前記開口面を法面に向ける態様で前記作業フレームを法面に載置する作業フレーム移動工程と、前記作業フレームを法面に載置した状態で、予め設定した設計値及び前記作業フレーム内での前記作業実行部の位置に基づいて、前記作業フレーム内での前記作業実行部の移動と、前記作業アタッチメントの動作とを制御する作業工程と、を含み、法面の全ての施工範囲での作業が終了するまで、前記作業フレーム移動工程と前記作業工程とを繰り返し実行する法面施工方法。
【0021】
(12)上記(11)項において、前記作業フレーム移動工程において法面に前記作業フレームを載置する際に、前記作業フレームに取り付けた傾斜計を確認しながら、前記作業フレームの傾きを調整する法面施工方法(請求項8)。
13)上記(12)項において、立方体ないし略立方体を成す前記作業フレームを用い、前記作業工程において、前記作業実行部を、前記作業フレームの形状により仮想的に規定される、互いに平行な組み合わせの3対の面の各々と直交する3方向に移動させる法面施工方法(請求項)。
【0022】
(14)上記(12)(13)項における、前記作業フレーム移動工程において、前記作業フレームに取り付けた複数のジャッキを法面に接触させる態様で、前記作業フレームを法面に載置する法面施工方法(請求項10)。
(15)上記(12)から(14)項における、前記作業工程において、前記作業フレームに取り付けた撮影手段により撮影される、前記作業アタッチメントによる作業の様子を確認しながら、前記作業実行部の移動及び前記作業アタッチメントの動作を制御する法面施工方法(請求項11)。
【0023】
(16)上記(12)から(15)項における、前記作業アタッチメント取付工程において、前記作業アタッチメントとして、法面に吹付け材を吹付けるための吹付けノズルと、法面を削孔するための削孔機とのうち、いずれか一方を取り付ける法面施工方法(請求項12)。
(17)上記(16)項における、前記作業アタッチメント取付工程において、前記作業アタッチメントとして前記吹付けノズルを取り付け、前記作業工程において、前記吹付けノズルにより法面に吹付けた前記吹付け材の厚みを計測しながら、前記作業実行部の移動及び前記吹付けノズルの動作を制御する法面施工方法(請求項13)。
【0024】
(18)上記(17)項において、前記作業工程において前記吹付け材の厚みを計測する際に、前記作業フレームを法面に載置した状態における、法面に沿った前記作業実行部の移動方向に間隔を空けて、法面と直交する平面視で前記吹付けノズルを挟む位置で前記作業実行部に取り付けた、2つの距離計測器を利用する法面施工方法(請求項14)。
(19)上記(11)から(18)項において、前記作業フレーム移動工程において前記作業フレームの位置を確認する際に、法面に予め設定した基準点と前記重機との位置関係、及び、前記重機と前記作業フレームとの位置関係を利用する法面施工方法。
【0025】
(20)上記(19)項において、前記重機と前記作業フレームとの位置関係を把握するために、前記作業機の姿勢を計測する姿勢計測手段を利用する法面施工方法。
そして、(11)~(20)項の法面施工方法は、各々、上記(1)~(10)項に記載の法面施工装置を用いて実行されることで、上記(1)~(10)項の法面施工装置に対応する同等の作用を奏するものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明は上記のような構成であるため、法面施工の作業効率及び安全性を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施の形態に係る法面施工装置の構成の一例を示す側面図である。
図2図1の作業フレームの簡略的な三面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る法面施工方法の一例を示すフロー図である。
図4】施工範囲を複数の分割範囲に分割して施工する状態を示すイメージ図である。
図5】凹凸のある法面に載置される作業フレームの様子を示す側面図である。
図6】作業アタッチメントとして吹付けノズルを用いた場合の施工イメージ図である。
図7】作業アタッチメントとして削孔機を用いた場合の取付イメージ図及び施工イメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、又、図面の全体にわたって、同一部分又は対応する部分は、同一符号で示している。
図1は、法面92に対して施工を行うための、本発明の実施の形態に係る法面施工装置10の構成の一例を概略的に示している。図示のように、法面施工装置10は、作業機78を有する重機76を利用するものであって、作業フレーム12、作業実行部34、位置把握手段40、及び制御部50を含んでいる。なお、本実施形態では、作業機78として第1ブーム80と第2ブーム82とアーム84とを有するバックホウが、重機76として利用されているが、後述するように作業フレーム12を移動できるものであれば、クレーン等の他の重機を利用してもよい。
【0029】
作業フレーム12は、重機76の作業機78に取り付けられ、より詳細には、アーム84に姿勢調整部86を介して取り付けられている。本実施形態の作業フレーム12は、図2で確認できるように、略立方体を成しており、この作業フレーム12の形状により仮想的に規定される6つの面(立方体の6つの外面)の1つが、開口面14になっている。更に、作業フレーム12の開口面14と対向する面は、姿勢調整部86に取り付けられるための取付面16になっているが、図2(b)の平面図では、取付面16に設けられる姿勢調整部86と接続される部材の図示を省略している。なお、これに限定されるものではないが、一例として、作業フレーム12は、縦幅3000mm、横幅6000mm、高さ3000mm程度の大きさを有している。
【0030】
作業フレーム12は、図1に示すように、重機76により移動されて法面92に載置されるものであり、この際、開口面14を法面92に向ける態様で、複数のジャッキ60を介して法面92に載置される。すなわち、作業フレーム12には、法面92に載置される際に法面92と接触する位置、本実施形態では開口面14側の四隅に、4本のジャッキ60(図2も参照)が設けられている。これら4本のジャッキ60は、重機76の運転室88等からの操作によって、個別に伸縮長さが調整できるようになっていることが好ましい。なお、ジャッキ60には、油圧式、空気式、それらの併用のもの等、任意の種類のものが使用できる。
【0031】
又、作業フレーム12には、図2での図示は省略しているが、傾斜計62と撮影手段64とが取り付けられている。傾斜計62は、重機76により移動される作業フレーム12の傾きを計測するためのものであり、傾きを計測可能な任意の傾斜計が利用できる。なお、傾斜計62と併せてジャイロセンサを取り付け、作業フレーム12の角速度を計測するようにしてもよい。撮影手段64は、作業フレーム12の内部の様子を撮影するために設置され、特に、後述する作業アタッチメント36による作業の様子を撮影するように取り付けられる。撮影手段64には、動画や連続的な静止画を撮影可能な任意のカメラが使用され、異なる角度から撮影するように複数台のカメラが設置されてもよい。
【0032】
作業実行部34は、施工内容に応じた作業アタッチメント36、本実施形態では吹付けノズル36Aが着脱可能に取り付けられ、作業フレーム12内で移動可能に保持されている。吹付けノズル36Aは、モルタルやコンクリート等の吹付け材70を法面92に吹付けるためのものであって、作業フレーム12が法面92に載置される際に法面92と対向する開口面14に向くように、作業実行部34に取り付けられている。なお、図1及び図2では、吹付けノズル36Aに吹付け材70を供給するための配管やプラント等の図示は省略している。
【0033】
又、作業実行部34には、吹付けノズル36Aから法面92に吹付けられた吹付け材70の厚み70b(図6(b)参照)を計測するための吹付け厚計測手段54として、2つの距離計測器56、58が取り付けられている。図2(b)(c)で確認できるように、2つの距離計測器56、58は、接続部26を介して、図示の左右方向に間隔を空けて、吹付けノズル36Aを挟むようにして取り付けられており、吹付けノズル36Aと併せて直線状に配置されている。2つの距離計測器56、58には、障害物があっても計測できる点や、計測精度が高い点等から、音波センサを用いることが好ましいが、他の距離センサを用いてもよい。なお、図2(a)では、接続部26及び距離計測器56、58の図示を省略している。
【0034】
図2に示すように、作業フレーム12には、図2(a)(b)における上下方向に延びる縦レール20が、図2(b)(c)における左右両側に設けられており、これらの縦レール20の間で縦レール20に沿って移動可能に、図2(b)(c)における左右方向に延びる横レール22が設けられている。更に、横レール22に沿って移動可能に、距離調整部24が設けられており、この距離調整部24によって、吹付けノズル36Aと2つの距離計測器56、58と接続部26とを含む作業実行部34が、図2(a)における左右方向に移動可能に保持されている。このため、作業実行部34は、図2(a)~(c)の各々において紙面と直交する3方向に移動されるようになっている。
【0035】
作業実行部34を上記のように移動させるための移動機構には、例えばリニアガイド等の従来既知の任意の移動機構が利用でき、又、その移動のための動力にも、電気や油圧等の任意の動力が利用できる。なお、縦レール20の位置が図2(a)における左右方向に手動で調整されるようになっていることで、同方向での作業実行部34のデフォルト位置が調整可能になっていてもよい。又、作業フレーム12には、図2(a)(b)における上下方向に延びる補強バー28Aが、図2(b)(c)における左右両側に設けられると共に、図2(b)(c)における左右方向に延びる補強バー28Bが、図2(a)(b)における上下両側に設けられているが、図1では補強バー28Aの図示を省略している。
【0036】
図1に戻り、位置把握手段40は、重機76によって移動される作業フレーム12の位置と、作業フレーム12内での作業実行部34の位置とを把握するためのものであり、重機76の運転室88等に設置される任意のコンピュータを含んでいてよい。又、本実施形態の位置把握手段40は、作業機78の姿勢を計測するための姿勢計測手段42を含み、この姿勢計測手段42には、第1ブーム80の姿勢を計測する傾斜計44と、第2ブーム82の姿勢を計測する傾斜計46と、アーム84の姿勢を計測する傾斜計48とが含まれる。そして、位置把握手段40は、例えば、事前にドローン等を利用して計測された、法面92に予め設定される基準点74及び施工範囲72(図4参照)を含む測量データ等を用いて、重機76から視た基準点74の位置を認識することによって、重機76と基準点74との位置関係を算出する。
【0037】
更に、位置把握手段40は、姿勢計測手段42(傾斜計44、46、48)による計測結果、傾斜計62の計測結果、及び予め設定される作業機78(第1ブーム80、第2ブーム82、アーム84)の大きさ等を用いて、重機76と作業フレーム12との位置関係を算出する。そして、上記のように算出した基準点74と重機76との位置関係、及び、重機76と作業フレーム12との位置関係を利用して、作業フレーム12の位置を把握する。把握された作業フレーム12の位置は、運転室88等に設置されるディスプレイを介して作業員等に提示されてもよい。一方、位置把握手段40は、作業実行部34を移動させる移動機構から取得される作業実行部34の移動量や、作業フレーム12に設置される任意のセンサ等を利用して、作業フレーム12内での作業実行部34の位置を把握する。なお、作業機78に、第1ブーム80と第2ブーム82とアーム84との夫々の傾きを計測するセンサが予め設けられている場合には、それらのセンサを姿勢計測手段42として用いてもよい。
【0038】
制御部50は、法面施工装置10全体を制御するものであり、その制御には、作業フレーム12内での作業実行部34の移動と、作業アタッチメント36(吹付けノズル36A)の動作との制御が含まれる。このような制御部50は、例えば重機76の運転室88等に設置され、作業実行部34を移動させる制御機構や作業アタッチメント36を制御可能な、任意のコンピュータで構成される。例えば、制御部50は、位置把握手段40により把握される作業フレーム12内での作業実行部34の位置を確認しながら、予め設定される設計値通りの施工が行われるように、作業アタッチメント36の位置及び動作を制御する。この際、制御部50は、プログラム等に基づいた自動制御を行ってもよく、運転室88の作業員等の操作を受けて手動制御を行ってもよく、状況に応じてそれらの双方を含む制御を行ってもよい。
【0039】
次に、図3に示すフロー図の流れに沿って、上述した法面施工装置10を利用する、本発明の実施の形態に係る法面施工方法について、法面92に対して吹付工を行う場合を例にして説明する。法面施工装置10の構成については、適宜、図1及び図2を参照のこと。なお、図3に示すフロー図は、本発明の実施の形態に係る法面施工方法を説明するための、手順の流れの一例を示したものである。従って、本発明の実施の形態に係る法面施工方法は、図3のフロー図に限定されるものではなく、例えば、法面施工装置10の構成や状況等に応じて、図3に示したステップの一部が削除、変更、ないし適宜追加されたフローであってもよいものである。
【0040】
S10(事前準備):図4に示すように、法面92の施工範囲72の近傍や施工範囲72内に、基準点74を設定する。更に、ドローン等を利用して施工範囲72及び基準点74を含む領域を計測して測量データを取得する。この際、施工範囲72全体を、作業フレーム12を載置して作業を行う複数の分割範囲12a(図4に太線で示す)に仮想的に分割し、各分割範囲12aの位置データを設定してもよい。分割範囲12aの大きさ及び形状は、作業フレーム12の大きさ及び形状や、作業フレーム12内での作業実行部34の移動範囲等に基づいて決定される。又、法面92に対する施工内容に応じた準備、本実施形態では吹付工を行うための準備をする。すなわち、ラス張りやプラントの準備等がこれに含まれる。
【0041】
S20(作業フレーム取付):重機76の作業機78、本実施形態ではアーム84に、姿勢調整部86を介して作業フレーム12を取り付ける。この際、作業フレーム12の取付面16と姿勢調整部86とを接続し、取付面16と対向する位置にある開口面14を、法面92に向け易くなるように取り付ける。
S30(作業アタッチメント取付):作業フレーム12内で保持されている作業実行部34に、作業アタッチメント36、本実施形態では吹付けノズル36Aを、開口面14に向けて取り付ける。同時に、吹付け厚計測手段54として、2つの距離計測器56、58を作業実行部34に取り付ける。なお、本ステップS30と上記S20とは、順序が逆であってもよい。
【0042】
S40(作業フレーム移動):重機76によって作業フレーム12を移動させ、図4に示されるような施工範囲72のうち、まだ作業が行われていない位置に、作業フレーム12を載置する。例えば、図4のように複数の分割範囲12aに分割したときは、まだ作業が行われていない何れかの分割範囲12aに作業フレーム12が載置されるように、位置把握手段40により把握される作業フレーム12の位置を確認しながら、作業員により重機76を操作して作業フレーム12の位置を調整し、開口面14を法面92に向けて載置する。このとき、図5に示すように、作業フレーム12に取り付けた傾斜計62やジャイロセンサ等の計測結果を確認して作業フレーム12の傾きを調整しながら、法面92の表面の状態に応じて4本のジャッキ60の伸縮長さを調整して、安定した状態で法面92に載置されるようにする。なお、図4のような複数の分割範囲12aの中で、作業フレーム12を載置する分割範囲12aの順序は任意であるが、可能な限り効率的に施工されるように順序を設定することが好ましい。
【0043】
S50(作業):制御部50により、作業実行部34を移動させながら、作業実行部34に取り付けた吹付けノズル36Aの動作を制御して、作業フレーム12の開口面14が対向する法面92の範囲全体に吹付け材70を吹付ける。より詳しくは、位置把握手段40により把握される作業フレーム12内での作業実行部34の位置を確認しながら作業実行部34を移動させ、予め設定された設計値通りの吹付け厚になるように吹付け材70を吹付ける。このとき、作業実行部34に取り付けた2つの距離計測器56、58を利用して、吹付けノズル36Aにより法面92に吹付けた吹付け材70の厚みを計測する。ここで、図6には、作業フレーム12が法面92に載置された状態で、作業フレーム12の開口面14が対向する法面92の範囲(分割範囲12a)に対して、吹付けを行う方法の一例を示している。
【0044】
具体的に、図6の例では、平面視の図6(a)における左上から右下まで、太線で示される移動経路Rに沿って作業実行部34を移動させながら、破線で示される吹付け範囲70aのように吹付けを行う。この際、図6(a)における左から右へ向けて作業実行部34が移動しているときは、図6(a)における下方から視た図6(b)に示すように、一方の距離計測器56により吹付け材70が吹付けられる前の法面92の表面までの距離を計測し(矢印56a参照)、もう一方の距離計測器58により吹付け材70が吹付けられた後の法面92の表面までの距離を計測する(矢印58a参照)。そして、それらの2つの計測値の差から、制御部50により、現在移動されている吹付けノズル36Aから吹付けられた吹付け材70の厚み70bを算出する。他方、図6(a)における右から左へ向けて作業実行部34が移動しているときは、距離計測器58により吹付け材70が吹付けられる前の法面92の表面までの距離を計測すると共に、距離計測器56により吹付け材70が吹付けられた後の法面92の表面までの距離を計測して、それらの差から吹付け材70の厚み70bを算出することになる。
【0045】
そして、上記のような算出した吹付け材70の厚み70bに基づいて、吹付けノズル36A(作業実行部34)の移動速度の調整や、一度吹付けた位置での2回目以上の吹付け等を行う。又、作業フレーム12を法面92に載置してから吹付けを始める前に、吹付けノズル36Aから吹付けをしない状態で作業実行部34を移動させ、開口面14が対向する範囲全体の法面92の表面までの距離を距離計測器56又は58で計測し、この計測結果に基づいて作業実行部34の移動速度や移動経路Rを設定してもよい。すなわち、作業実行部34の移動速度や移動経路Rの設定方法は任意であって、法面92の表面の起伏に応じた吹付け厚の平均化ソフトウェア等を利用してもよく、プラントからの吹付け材70の供給量を加味してもよい。又、状況に応じて、図6(a)における左右及び上下方向だけでなく、紙面と直交する方向に作業実行部34を移動させてもよく、前進と後退とを繰り返しながら作業実行部34を移動させてもよい。加えて、作業フレーム12に取り付けた撮影手段64を利用して、作業フレーム12内の様子を確認しながら、作業員が制御部50を介して作業実行部34の移動や吹付けノズル36Aの動作を制御してもよい。
【0046】
S60(作業範囲判定):作業員又は制御部50により、図4に示されるような施工範囲72全体において、作業を行ったか否かを判定する。その結果、施工範囲72全体での作業が終わっておらず、まだ作業していない範囲(分割範囲12a)が残っていると判定した場合(NO)は、上記S40へ復帰する。すなわち、法面92の施工範囲72全体での作業が終了するまで、上記S40と上記S50とを繰り返し実行する。一方、施工範囲72全体での作業が終了したと判定した場合(YES)は、本実施形態の法面施工方法が終了となる。
【0047】
続いて、図7を参照して、作業実行部34に作業アタッチメント36として削孔機36Bを取り付けた場合について説明する。削孔機36Bは、法面92を削孔するためのものであって、作業フレーム12が法面92に載置される際に法面92と対向する開口面14に向くように、作業実行部34に取り付けられている。このため、削孔機36Bは、図7(a)における上下方向と左右方向と紙面と直交する方向との3方向に移動されるようになっている。削孔機36Bは、作業フレーム12が法面92に載置された状態で、制御部50からの制御を受けて、作業フレーム12内での位置が調整されながら、例えば図7(b)に示すように、作業フレーム12の開口面14が対向する法面92の範囲(分割範囲12a)内の複数個所に、穴94を削孔する。穴94の位置や深さは、予め設定される設計値に基づくものである。そして、重機76により作業フレーム12の位置が移動されながら、例えば図4に示したような複数の分割範囲12aの全てにおいて作業を行うことで、施工範囲72全体に複数の穴94を削孔する。
【0048】
ここで、本発明の実施の形態に係る法面施工装置10は、上述した構成に限定されるものではなく、図1図2図7等に示された複数の構成部位の一部が削除又は置換されたものであってもよく、新たな構成部位が追加されたものであってもよい。例えば、作業フレーム12の形状は、外面に少なくとも1つの開口面14を有する立体形状を成していれば任意である。又、作業アタッチメント36として、吹付けノズル36Aや削孔機36B以外の機材が取り付けられてもよい。更に、位置把握手段40は、作業フレーム12の位置や作業実行部34の位置を任意の方法で把握してよく、それらの位置把握のために使用する各種のセンサの構成も任意である。
【0049】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係る法面施工装置10は、図1及び図2に示すように、作業フレーム12、作業実行部34、位置把握手段40、及び制御部50を含み、作業フレーム12は、外面に少なくとも1つの開口面14を有する立体形状を成し、アーム84等の重機76の作業機78に取り付けられる(図3のS20参照)。そして、重機76の作業機78に取り付けられた作業フレーム12は、重機76によって持ち運ばれて移動され、その移動される位置毎に、開口面14を法面92に向ける態様で法面92に載置される(図3のS40参照)。作業実行部34は、作業フレーム12内で移動可能に保持されており、法面92に対する施工内容に応じた作業アタッチメント36が、作業フレーム12の開口面14に向けて着脱可能に取り付けられる(図3のS30参照)。このため、作業フレーム12が法面92に載置された状態では、作業実行部34に取り付けられた作業アタッチメント36が法面92に向けられることになる。位置把握手段40は、作業フレーム12の位置と、作業フレーム12内での作業実行部34の位置とを把握するためのものである。
【0050】
そして、この位置把握手段40による位置の把握結果と、施工内容に応じて予め設定される設計値とに基づいて、制御部50は、作業フレーム12内での作業実行部34の移動と、作業実行部34に取り付けられている作業アタッチメント36の動作とを制御する。すなわち、制御部50は、作業フレーム12内での作業実行部34の位置を確認しながら作業実行部34を移動させ、設計値通りに施工が行われるように作業アタッチメント36の動作を制御するものである。このため、作業フレーム12が法面92に載置された状態で、作業フレーム12の開口面14が対向する法面92に対して、制御部50によって位置及び動作が制御された作業アタッチメント36により施工を行うことができる(図3のS50参照)。従って、作業フレーム12の移動と作業フレーム12内での作業アタッチメント36による施工とを繰り返し行うことで、図4に示すように、作業フレーム12の開口面14が対向する法面92の範囲を分割単位とした複数の分割範囲12a毎に施工を行い、結果として施工範囲72全体を施工することができる。
【0051】
これにより、作業効率を向上させることができ、同時に、作業員が法面92にぶら下がる等して法面92で直接作業を行う必要なく、遠隔的に施工できるため、安全性も向上させることが可能となる。又、位置把握手段40による作業フレーム12の位置の把握結果を確認しながら、重機76により作業フレーム12を載置する法面92の位置を調整することで、作業フレーム12の位置決めを容易に行うことができる。更に、作業フレーム12は重機76を介して法面92に載置され、作業員による固定作業等が不要であるため、これによっても安全性を向上させることができ、労力の削減や工期の短縮にも寄与することができる。加えて、作業実行部34に取り付けられる作業アタッチメント36は取り換え可能であるため、取り付け可能な作業アタッチメント36の種類に応じて、様々な施工内容に対応することができる。
【0052】
又、本発明の実施の形態に係る法面施工装置10は、図2で確認できるように、作業フレーム12が立方体ないし略立方体を成していることで、この作業フレーム12の形状によって、互いに平行な組み合わせの3対の面から成る6つの面(外面)が仮想的に規定され、そのうちの1つの面が開口面14になっている。そして、そのような作業フレーム12において、作業実行部34が、上述した3対の面の各々と直交する3方向(図2(a)~(c)の各々で紙面と直交する3方向)に移動可能に保持されているものである。従って、図1に示すように、略平坦な表面を有する法面92に対して、開口面14を法面92へ向けて且つ別の1つの面を法面92の上方へ向けて作業フレーム12が載置された状態では、法面92と平行な上下方向と、法面92と平行な左右方向と、法面92と直交する前後方向との、3つの方向に作業アタッチメント36を移動させることができる。これにより、実質的に作業フレーム12内のあらゆる位置に作業アタッチメント36を移動できるため、作業フレーム12の開口面14が対向する法面92の任意の位置に向かって、法面92に対して適切な距離を取りながら、作業アタッチメント36による施工を行うことが可能となる。
【0053】
又、本発明の実施の形態に係る法面施工装置10は、作業フレーム12の、法面92に載置される際に法面92と接触する位置に、複数のジャッキ60が設けられていることで、これら複数のジャッキ60が法面92と作業フレーム12との間に介在して法面92に接触する態様で、作業フレーム12が法面92に載置される。従って、例えば図5に示すように法面92の表面に起伏があるような場合でも、ジャッキ60の伸縮長さの調整により、作業フレーム12を安定した姿勢で法面92に載置することができ、又、ジャッキ60を介して反力を受けて、作業フレーム12の位置を安定して維持することもできる。
【0054】
更に、本発明の実施の形態に係る法面施工装置10は、図1に示すように、作業フレーム12の傾きを計測するための傾斜計62が作業フレーム12に取り付けられていることで、作業フレーム12を法面92に載置する際に、その傾斜計62を確認しながら作業フレーム12の傾きを調整することができる。これにより、作業フレーム12を安定した傾きで法面92に載置することができる。又、作業アタッチメント36による作業の様子を撮影するための撮影手段64が、作業フレーム12に取り付けられていることで、作業フレーム12内での作業の様子を作業員等により把握することができる。従って、法面92を直接確認する必要なく、施工の様子を遠隔的に監視することができる。そして、その監視結果を反映して作業アタッチメント36の位置及び動作を調整することとすれば、施工精度をより向上させることができ、更には、作業フレーム12内で異常が発生した場合に、それを直ぐに把握して異常への対応を迅速に行うことが可能となる。
【0055】
又、本発明の実施の形態に係る法面施工装置10は、作業実行部34に取り付けられる作業アタッチメント36として、図1に示すような法面92に吹付け材70を吹付けるための吹付けノズル36Aと、図7に示すような法面92を削孔するための削孔機36Bとが取り付け可能なものである。すなわち、作業実行部34に吹付けノズル36Aが取り付けられる場合は、作業フレーム12が載置される位置毎に、作業フレーム12の開口面14が対向する法面92の範囲に対して、図6に示すように、吹付け材70が設計値通りの厚みになるように吹付け作業を行うことができる。又、作業実行部34に削孔機36Bが取り付けられる場合は、作業フレーム12が載置される位置毎に、図7(b)に示すように、作業フレーム12の開口面14が対向する法面92の範囲に含まれる設計位置に対して、法面92に載置された作業フレーム12への反力を利用して削孔することができる。これにより、法面92に対する吹付け作業や削孔の安全性を向上させることができると共に、効率よく作業を行うことができる。又、例えば吹付工を行った後にロックボルト挿入のために削孔する場合等の、同一の施工場所において吹付けノズル36Aによる吹付けと削孔機36Bによる削孔との双方を行う場合には、それらを別々の施工機械を用いて行う場合と比較して、工期を短縮することができると共に、運搬コストを削減することもできる。
【0056】
更に、本発明の実施の形態に係る法面施工装置10は、図2に示すように、作業実行部34に作業アタッチメント36として吹付けノズル36Aが取り付けられる場合に、吹付け材70の厚みを計測するための吹付け厚計測手段54を備えるものである。この吹付け厚計測手段54は、作業フレーム12が法面92に載置された状態で、吹付けノズル36Aから法面92に吹付けられた吹付け材70の厚みを計測する。従って、この吹付け厚計測手段54の計測結果を加味しながら、制御部50によって作業実行部34の移動及び吹付けノズル36Aの動作を制御することで、より設計値通りの厚みに近づくように吹付けを行うことができ、吹付け作業の精度を更に向上させることができる。
【0057】
そして、本発明の実施の形態に係る法面施工装置10は、吹付け材70の厚みを計測する吹付け厚計測手段54として、作業実行部34に取り付けられた2つの距離計測器56、58を含み、これら2つの距離計測器56、58は、同じく作業実行部34に取り付けられた吹付けノズル36Aと一体的に移動される。又、2つの距離計測器56、58は、作業フレーム12が法面92に載置された状態での、法面92に沿った作業実行部34の移動方向(図2(a)(b)における左右方向)に間隔を空けて配置されており、更に、法面92と直交する平面視で、吹付けノズル36Aを挟む位置で作業実行部34に取り付けられている。すなわち、2つの距離計測器56、58と吹付けノズル36Aとは、吹付けノズル36Aを中間にして直線状に配置されている。
【0058】
このため、図6(a)の移動経路Rのように、2つの距離計測器56、58が離間している方向に沿って作業実行部34が移動されると、一方の距離計測器56(58)は、吹付けノズル36Aが通過する直前の位置を通過することになり、他方の距離計測器58(56)は、吹付けノズル36Aが通過した直後の位置を通過することになる。従って、このように作業実行部34を移動させながら、吹付けノズル36Aによる吹付けと2つの距離計測器56、58による計測とを行うことで、図6(b)に示すように、一方の距離計測器56(58)により、吹付けノズル36Aから吹付け材70が吹付けられる直前の法面92の表面までの距離を計測し、他方の距離計測器58(56)により、吹付けノズル36Aから吹付け材70が吹付けられた直後の法面92の表面までの距離を計測することができる。これにより、吹付け材70が吹付けられる前後の距離の差から、吹付け材70の厚み70bを容易に算出することができる。
【0059】
加えて、本発明の実施の形態に係る法面施工装置10は、図1及び図4に示すように、位置把握手段40が作業フレーム12の位置を把握する際に、法面92に予め設定される基準点74と重機76との位置関係、及び、重機76と作業フレーム12との位置関係を利用するものである。基準点74は、施工の事前準備の段階(図3のS10参照)で法面92に設定されるものであり、位置把握手段40は、その基準点74を含む施工範囲72の測量データを利用して、重機76から視た基準点74の位置を認識することによって、重機76と基準点74との位置関係を把握する。又、位置把握手段40は、作業フレーム12が取り付けられた重機76の作業機78の大きさや、作業機78の現在の姿勢等に基づいて、重機76と作業フレーム12との位置関係を把握する。これにより、作業フレーム12の位置を正確に把握することができるため、この作業フレーム12の位置及び測量データ等に基づいて、法面92に載置する作業フレーム12の位置を調整することで、作業フレーム12を精度よく位置決めした状態で施工することができ、施工精度を向上させることが可能となる。更に、基準点74と測量データとを利用して作業フレーム12の位置を把握するものであるため、施工範囲72全体の位置出しを行う必要がなく、事前準備の時間を抑制することができる。
【0060】
又、本発明の実施の形態に係る法面施工装置10は、作業機78の姿勢を計測するための姿勢計測手段42(傾斜計44、46、48)を含むことで、位置把握手段40が、姿勢計測手段42の計測結果から、作業機78の姿勢を精度よく把握することができる。従って、そのような作業機78の姿勢と、予め設定される重機76の作業機78の大きさとを併せることで、重機76と作業フレーム12との位置関係を把握することができ、結果として作業フレーム12の位置を高精度で算出することができる。
なお、図3に示したような本発明の実施の形態に係る法面施工方法は、上述した法面施工装置10を用いて実行されることで、法面施工装置10に対応する同等の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0061】
10:法面施工装置、12:作業フレーム、14:開口面、34:作業実行部、36:作業アタッチメント、36A:吹付けノズル、36B:削孔機、40:位置把握手段、50:制御部、54:吹付け厚計測手段、56、58:距離計測器、60:ジャッキ、62:傾斜計、64:撮影手段、70:吹付け材、70b:吹付け材の厚み、72:施工範囲、76:重機、78:作業機、92:法面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7