(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】振動制御装置、露光装置、および物品製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20240207BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240207BHJP
G10K 11/178 20060101ALI20240207BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
G03F7/20 521
F16F15/02 A
G10K11/178
G10K11/178 100
G10K11/16 100
G10K11/16 160
(21)【出願番号】P 2020018206
(22)【出願日】2020-02-05
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 康伸
(72)【発明者】
【氏名】畑 智康
(72)【発明者】
【氏名】森川 寛
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正裕
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 祐平
(72)【発明者】
【氏名】猪股 裕也
(72)【発明者】
【氏名】石井 祐二
(72)【発明者】
【氏名】橋本 拓海
(72)【発明者】
【氏名】有井 俊郎
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-118253(JP,A)
【文献】特開平08-261277(JP,A)
【文献】特開平09-260279(JP,A)
【文献】特開2011-096930(JP,A)
【文献】特開2004-100953(JP,A)
【文献】特開2003-130128(JP,A)
【文献】特開2006-107252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
F16F 15/02
G10K 11/178
G10K 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を露光する露光装置であって、
原版のパターンを前記基板に投影する投影光学系と、
前記投影光学系を構成する光学部材の振動を制御する
振動制御装置であって、前記投影光学系の変位、速度、加速度の少なくとも1つの物理量を検出するセンサと、前記センサにより検出された前記物理量に基づいて前記振動を低減するための制御信号を生成する適応フィルタと、前記制御信号に対応する制御音を出力するスピーカと、を含む振動制御装置と、
を有することを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記振動制御装置は、騒音を表す参照信号を取得するマイクロホンを更に含み、前記適応フィルタは、前記マイクロホンにより取得された前記参照信号と前記センサにより検出された前記物理量とに基づいて前記制御信号を生成し、
前記マイクロホンは、前記騒音の騒音源である送風機から前記投影光学系まで延びる給気ダクトの内部に配置される
ことを特徴とする
請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記振動制御装置は、騒音を表す参照信号を取得する取得部を更に含み、前記適応フィルタは、前記取得部により取得された前記参照信号と前記センサにより検出された前記物理量とに基づいて前記制御信号を生成し、
前記取得部は、変位、速度、加速度のいずれかを検出する検出器を含み、
前記検出器は、前記騒音の騒音源である送風機、または、前記送風機から前記投影光学系まで延びる給気ダクトに配置される
ことを特徴とする
請求項1に記載の露光装置。
【請求項4】
投影光学系を介して基板を露光する露光工程と、
前記露光工程で露光された基板を現像する現像工程と、
を含み、前記現像工程で現像された基板から物品を製造する物品製造方法であって、
前記露光工程において、前記投影光学系に含まれる素子の振動を低減するための制御信号に対応する制御音が出力された状態で前記基板の露光が行われ、
前記制御信号は、前記素子の変位、速度、加速度の少なくとも1つの物理量の検出結果に基づいて適応フィルタ処理によって生成されることを特徴とする物品製造方法。
【請求項5】
対象物の振動を制御する振動制御装置であって、
前記対象物の
第1方向の並進運動における加速度
を検出する
複数の加速度計と、
前記
複数の加速度計により検出された
検出結果に基づいて前記振動を低減するための制御信号を生成する適応フィルタと、
前記制御信号に対応する制御音を出力するスピーカと、
前記検出結果から前記第1方向の振動を表す第1振動モードを求め、前記第1振動モードを、前記第1方向および前記第1方向と直交する第2方向の双方に対して直交する第3方向周りの振動を表す第2振動モードに変換するモード変換部と、
前記モード変換部により得られた前記第2振動モードに基づいて前記適応フィルタのパラメータを更新する処理部と、
を有
し、
前記複数の加速度計は、前記第2方向に離間して前記対象物に取り付けられることを特徴とする振動制御装置。
【請求項6】
騒音を表す参照信号を取得する取得部を更に有し、
前記適応フィルタは、前記取得部により取得された前記参照信号と前記
複数の加速度計により検出された前記
検出結果とに基づいて前記制御信号を生成する
ことを特徴とする請求項
5に記載の振動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動制御装置、露光装置、および物品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
露光装置では、微細なパターンを基板上へ露光するため、照明系、原版(マスク)、レンズ投影光学系、そして基板までの一連の相対位置関係を厳しい精度で制御する必要がある。各ユニットは構造体により支持されており、構造体はマウントによって制振されている。また、露光装置のチャンバ内部と投影光学系内部は温度制御が行われており、機械室で温度調節された空気が、チャンバ内部と投影光学系内部に給気ダクトを通じて供給されている。また、排気ダクトを通じてチャンバ内部と投影光学系内部の空気が機械室に戻される循環機構も設けられている。
【0003】
この温度調節された空気を供給し排気するためにファンが用いられるが、これが発生する騒音は露光装置各部を振動させる。例えば、機械室と投影光学系はダクトで接続されているため、ファンによる騒音がダクト経由で投影光学系内部に伝達され、光学部材が振動して光路が揺れることにより解像力などの装置性能が低下しうる。その他にも露光装置のインタフェースから入り込む騒音やマスク搬送用のロボットの駆動による騒音など様々な要因で装置各部が振動し、装置性能が低下しうる。また、露光装置の高精細化に伴い、これらの振動に対する要求が厳しくなっている。
【0004】
特許文献1には、露光装置における機械共振周波数付近の騒音を低減する様々な対策が挙げられている。1つ目の対策は、露光装置の機械共振周波数付近の騒音を発生させる送風用のシロッコファンを露光装置の機械共振周波数付近の騒音が小さいターボファンやラジアルファンに変えることである。これにより、ファンによる装置各部の共振が低減される。2つ目の対策は、特定の周波数帯域の騒音を低減するリアクティブ型消音器を使用することである。この手法は、音の伝達経路において共鳴部を作り、音の干渉を利用して騒音を低減させうる。3つ目の対策は、音の伝達経路であるダクトにアクティブノイズ制御を適用することである。アクティブノイズ制御は、一般には500Hz以下等の低い周波数の騒音に有効であるとされている。4つ目の対策は、チャンバ内壁にグラスウールなどからなる吸音部材を設置し定在波などの騒音を吸収することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された、ターボファンやラジアルファンを使用する手法は、一定の騒音の低減は可能であるが、効果は限定的である。また、リアクティブ型消音器が有効なのは特定の周波数帯域に限られ、広い周波数帯域に適用することができない。また、リアクティブ型消音器は共鳴部を必要とするため、空間的に制約がある場合は適用が困難である。さらに、リアクティブ型消音器は騒音の伝達経路に適用されるため、伝達経路が明確になっている必要があり、かつ消音可能な空間が消音器を設置した経路に限られる。アクティブノイズ制御を用いる手法は上記リアクティブ型消音器の課題である周波数帯域の課題や空間的制約を解決できる一方で、リアクティブ型消音器同様、伝達経路が明確になっている必要がある。また、この手法では、スピーカ等を使用するため、一部の空間で騒音が低減されていても、その他の空間で騒音が増加する可能性がある。例えば、スピーカを給気ダクト部に接続した場合、ダクト内部の騒音は低減する一方、スピーカ背面から発する音により対象物を振動させてしまう可能性がある。
【0007】
本発明は、対象物の振動を低減するのに有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によれば、基板を露光する露光装置であって、原版のパターンを前記基板に投影する投影光学系と、前記投影光学系を構成する光学部材の振動を制御する振動制御装置であって、前記投影光学系の変位、速度、加速度の少なくとも1つの物理量を検出するセンサと、前記センサにより検出された前記物理量に基づいて前記振動を低減するための制御信号を生成する適応フィルタと、前記制御信号に対応する制御音を出力するスピーカと、を含む振動制御装置と、を有することを特徴とする露光装置が提供される。
本発明の他の側面によれば、対象物の振動を制御する振動制御装置であって、前記対象物の第1方向の並進運動における加速度を検出する複数の加速度計と、前記複数の加速度計により検出された検出結果に基づいて前記振動を低減するための制御信号を生成する適応フィルタと、前記制御信号に対応する制御音を出力するスピーカと、前記検出結果から前記第1方向の振動を表す第1振動モードを求め、前記第1振動モードを、前記第1方向および前記第1方向と直交する第2方向の双方に対して直交する第3方向周りの振動を表す第2振動モードに変換するモード変換部と、前記モード変換部により得られた前記第2振動モードに基づいて前記適応フィルタのパラメータを更新する処理部と、を有し、前記複数の加速度計は、前記第2方向に離間して前記対象物に取り付けられることを特徴とする振動制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、対象物の振動を低減するのに有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】実施形態における信号処理システムの機能ブロック図。
【
図3】実施形態における振動制御処理のフローチャート。
【
図6】実施形態における信号処理システムの機能ブロック図。
【
図7】実施形態における振動制御処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
<第1実施形態>
図1は、本発明の振動制御装置が適用される露光装置の構成を示す図である。本明細書および図面においては、水平面をXY平面とするXYZ座標系において方向が示される。一般には、被露光基板はその表面が水平面(XY平面)と平行になるように基板ステージの上に置かれる。よって以下では、基板Wの表面に沿う平面内で互いに直交する方向をX軸およびY軸とし、X軸およびY軸に垂直な方向をZ軸とする。また、以下では、XYZ座標系におけるX軸、Y軸、Z軸にそれぞれ平行な方向をX方向、Y方向、Z方向という。
【0013】
不図示の光源から発せられた露光光は、結像光学系18、原版であるマスク19、投影光学系11を通り、基板であるウエハ20に投影される。投影光学系11内には、台形鏡8、凹面鏡10、凸面鏡9等の各種の光学部材が構成されている。チャンバ15は、上記したマスク19、投影光学系11、ウエハ20等を収容する。また、投影光学系11内部などの光路となる空間は温度揺らぎが発生しないように温度が一定に保たれている。
【0014】
温度制御に関して、機械室1で空気の温度調節が行われ、温度調節された空気が送風機2によって給気ダクト3を通り、塵埃が除去されたクリーンな空気が投影光学系11に送られる。また、投影光学系11の空気は排気ダクト12を通じて機械室1に戻される。これら機械室1と投影光学系11の空気の循環は送風機2が作る気流により行われる。
【0015】
台形鏡8、凸面鏡9、凹面鏡10などの光学部材は投影光学系11によって支持されており、投影光学系11は構造体14によって支持されている。また、構造体14は、マウント13によって制振されている。マウント13は、各脚に取り付けられた加速度計(不図示)、渦電流センサ(不図示)、構造体のねじれを計測するセンサ(不図示)、のそれぞれで得られた値に基づいて制御されている。騒音等による投影光学系11内部の光学部材の振動は、マウント13によっては制振されてはいない。
【0016】
送風機2には、一般に、温度調節された空気を供給し排気するためにファンが用いられる。このファンの動作音は騒音源となりうる。機械室1で温度調節された空気を送風機2によって投影光学系11に送る際、送風機2が騒音を発し、給気ダクト3を経由して光学部材を振動させうる。また、送風機2が発する騒音は、給気ダクト3を通り、ダクトからの音漏れによって光学部材を振動させうる。その他にも、送風機2が発する騒音が機械室1とチャンバ15を透過し、光学部材や装置各部を振動させうる。
【0017】
第1実施形態では、騒音源である送風機2、または、送風機2から投影光学系11まで延びる給気ダクト3の内部に、マイクロホン17が取り付けられる。マイクロホン17は、騒音を参照信号として取得する取得部を構成する。例えば、
図1の例では、給気ダクト3内にマイクロホン17が取り付けられる。この場合、給気ダクト3に流れる風がマイクロホン17に当たって風雑音が発生し、これにより制振対象物である光学部材を振動させている騒音が計測できない可能性がある。そのため、マイクロホン17に防風スクリーン(不図示)を取り付けるなどの風雑音の対策がとられてもよい。マイクロホン17は信号処理システム4(処理部)に接続され、マイクロホン17からの信号は信号処理システム4で処理される。マイクロホン17は、フィードフォワード制御で制振対象物を制御するために使用されるため、制振対象物の振動とコヒーレンス関数が高くなる位置に取り付けられる。例えば、ダクト内にマイクロホン17を設置することが困難な場合には、騒音の発生源である機械室1付近に設置されてもよく、その設置位置は、事前に制振対象物の振動とコヒーレンス関数が高い位置を調査することにより決定されうる。
【0018】
解像力などの装置性能に影響を与える光学部材として、凹面鏡10がある。そこで本実施形態では、例えば凹面鏡10を制振対象物とする。凹面鏡10には、振動に関する物理量を検出する複数のセンサが配置される。振動に関する物理量には変位、速度、加速度が含まれうる。したがって、複数のセンサは、制振対象物である凹面鏡10の変位、速度、加速度のいずれかを検出するセンサでありうる。ここでは、複数のセンサのそれぞれは、振動の加速度を検出する加速度計であるものとする。
図1の例では、凹面鏡10に、加速度計6,7が取り付けられる。加速度計6,7のそれぞれは、凹面鏡10のY方向(第1方向)の並進運動における加速度を検出するように、凹面鏡10の背面に取り付けられる。
【0019】
加速度計6,7は信号処理システム4に接続され、加速度計6,7の出力信号は信号処理システム4で処理される。加速度計6,7は、解像力などの装置性能に大きな影響を与えうる凹面鏡10の軸の振動を計測するために使用される。解像力などの装置性能に大きな影響を与えうる軸の振動としては例えば、X軸周りの回転であるピッチングがある。ピッチングの計測を行う場合には、加速度計6,7はそれぞれ、Y方向(第1方向)と直交するZ方向(第2方向)に離間して(すなわち、位置をずらして)凹面鏡10に取り付けられる。また、Z軸周りの回転であるヨーイングの計測を行う場合には、加速度計6,7はそれぞれ、X方向に離間して凹面鏡10に取り付けられる。
【0020】
上記したように、加速度計6,7のそれぞれによって検出されるのは、Y方向の並進運動における加速度である。信号処理システム4は、加速度計6,7それぞれの検出結果からY方向の並進運動の振動を表す第1振動モードを求める。信号処理システム4は更に、求められた第1振動モードを、Y方向(第1方向)およびZ方向(第2方向)の双方に対して直交するX方向周り(第3方向周り)の振動を表す第2振動モードに変換する処理を行う。以下ではこの処理を「モード変換」という。モード変換は、対象物の重心座標と加速度計の取り付け座標に基づいて計算される。例えば、ピッチングの振動を計測する場合、モード変換は次の近似式を用いて行われうる。
【0021】
【数1】
ただし、Z
6は、対象物の重心のZ座標と加速度計6のZ座標との間の距離、Z
7は、対象物の重心のZ座標と加速度計7のZ座標との距離、Acc6およびAcc7はそれぞれ、加速度計6および加速度計7の出力信号である。
【0022】
また、スピーカ5が、解像力などの装置性能に影響を与える対象物である凹面鏡10の振動軸を制御できる位置に取り付けられる。スピーカ5は、信号処理システム4によって生成された振動を低減するための制御信号に対応する制御音を出力する制御用スピーカである。例えば、凹面鏡10の重心からZ方向にずらした位置に制御音が当たるようにスピーカ5が取り付けられることにより、ピッチングの制御が可能になる。スピーカ5としては、対象物の固有振動数付近の周波数帯域が出力可能なスピーカが使用される。
【0023】
信号処理システム4は、CPU、メモリ、デジタル信号処理プロセッサ等によって構成される。実施形態において、信号処理システム4は、複数のセンサ(加速度計)のそれぞれにより検出された物理量に基づいて振動を低減するための制御信号を生成する適応フィルタを含みうる。
【0024】
図2は、実施形態における信号処理システム4の機能ブロック図である。信号処理システム4は、A/D変換部22~24、D/A変換部25、適応フィルタ26、適応アルゴリズム演算部27、アンプ28、モード変換部29を含みうる。A/D変換部22,23はそれぞれ、加速度計6,7の出力信号をデジタル信号に変換し変換されたデジタル信号をモード変換部29に伝送する。A/D変換部24は、マイクロホン17の出力信号をデジタル信号に変換し変換されたデジタル信号を適応フィルタ26に伝送する。D/A変換部25は、アンプ28の出力信号をアナログ信号に変換して変換されたアナログ信号をスピーカ5に伝送する。
【0025】
図3は、本実施形態における振動制御処理のフローチャートである。
ステップS1において、信号処理システム4は、マイクロホン17から騒音を参照信号として取得する。ここで取得されるマイクロホン17からの信号は、凹面鏡10に取り付けられた加速度計6,7の信号とコヒーレンス関数が高い必要がある。
ステップS2において、信号処理システム4は、A/D変換部24により、取得された信号のA/D変換を行う。
ステップS3において、信号処理システム4は、適応フィルタ26により適応フィルタ処理を行う。
ステップS4において、信号処理システム4は、アンプ28により、適応フィルタ処理された信号の位相を反転する。このアンプ28の出力信号が、振動を低減するための制御信号となる。
ステップS5において、信号処理システム4は、D/A変換部により、アンプ28からの出力信号(すなわち、制御信号)のD/A変換を行う。
ステップS6において、信号処理システム4は、スピーカ5により、制御信号に対応する制御音を出力する。
ステップS7において、信号処理システム4は、加速度計6,7から加速度信号を取得する。
ステップS8において、信号処理システム4は、A/D変換部22,23により、取得された加速度信号のA/D変換を行う。
ステップS9において、信号処理システム4は、モード変換部29により、上記したモード変換を行う。
ステップS10において、信号処理システム4は、適応アルゴリズム演算部27により、モード変換により得られた信号に対して適応アルゴリズム演算を行う。適応アルゴリズムとしては例えばFiltered-X LMSが使用されうる。
ステップS11において、信号処理システム4は、適応アルゴリズム演算によって得られたパラメータで適応フィルタの更新を行う。
【0026】
以上の処理(S1~S11)が繰り返し行われることにより、凹面鏡10の振動が低減されうる。上記の処理の前に、スピーカ5から凹面鏡10までの伝達特性をキャンセルするフィルタや、マイクロホン17とスピーカ5との間の伝達特性に基づくハウリング防止用フィルタを作成する等の前処理が行われてもよい。
【0027】
本実施形態では、従来のアクティブノイズ制御で使用されるような誤差マイクの代わりに、対象物に取り付けられる複数の加速度計を使用して、像振動に影響を与える振動モード(第2振動モード)を、スピーカ5によって制御する。誤差マイクの代わりに加速度計を使用することにより、振動を直接最適化することが可能になる。そのため、回り込み音などによって誤差マイクで音を低減しても振動が低減されないという従来の課題を解決することができる。さらに、本実施形態によれば、像振動に影響を与える振動モードを考慮することができる。
【0028】
なお、本発明の振動制御装置が適用されうるのは露光装置等のリソグラフィ装置に限定されない。対象物の振動を計測する2つ以上の振動計測センサ(加速度計)、スピーカ、およびマイクロホンを使用可能であれば、本発明は、走査型顕微鏡などの機器にも適用可能である。
【0029】
上記の実施形態によれば、従来のアクティブノイズ制御と比較して、解像力などの装置性能に影響を与える振動を低減することができる。また、マイクロホン17で対象物の振動とコヒーレンス関数の高い音を計測できる場合、騒音の伝達経路によらず対象物の振動を低減することが可能となる。
【0030】
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態に係る露光装置の構成を示す図である。第1実施形態(
図1)では、給気ダクト3内にマイクロホン17が取り付けられていたが、本実施形態(
図4)では、その代わりに、送風機2、給気ダクト3等の騒音源付近の部位の変位、速度、加速度のいずれかを検出する検出器が取り付けられる。ここでは、そのような検出器として加速度計21を用いることとする。加速度計21は、送風機2または給気ダクト3に配置されうる。それ以外は、第1実施形態と同様である。
【0031】
第1実施形態のようにマイクロホンを騒音源側に取り付けた場合、マイクロホンが直接給気ダクト3に流れる送風機の風に当たり、風雑音などの影響でS/Nが低下する可能性がある。そのため、振動源側の信号が効果的に検知できないことがある。そこで本実施形態では、対象物の振動とコヒーレンス関数が高くなる振動源側の部品として、加速度計21を取り付けた。加速度計21は、例えば、給気ダクト3や機械室1に取り付けられる。加速度計21を取り付ける部品の周波数特性が対象物の周波数特性と大きく変わる場合、コヒーレンス関数が低くなるため、事前に対象物の振動のコヒーレンス関数が高くなる振動源側の部材を調査して、加速度計21が取り付けられるとよい。
【0032】
本実施形態によれば、風雑音などの影響を低減することが可能となる。
【0033】
<第3実施形態>
図5は、第3実施形態に係る露光装置の構成を示す図である。第3実施形態では、第1実施形態で使用されたようなマイクロホン17や第2実施形態で使用された加速度計21などの検出器を使用しない。そのため、本実施形態では、凹面鏡10に取り付けた加速度計6,7の信号に基づいて制御音を計算し出力するフィードバック制御を行う。
【0034】
図6は、本実施形態における信号処理システム4の機能ブロック図である。
図7は、本実施形態における振動制御処理のフローチャートである。
ステップS12において、信号処理システム4は、凹面鏡10に取り付けられた加速度計6,7から加速度信号を取得する。
ステップS13において、信号処理システム4は、A/D変換部22,23により、取得された加速度信号のA/D変換を行う。
ステップS14において、信号処理システム4は、モード変換部29により、モード変換を行う。
ステップS15において、信号処理システム4は、適応アルゴリズム演算部27により、モード変換により得られた信号に対して適応アルゴリズム演算を行う。
ステップS16において、信号処理システム4は、適応アルゴリズム演算によって得られたパラメータで適応フィルタの更新を行う。
ステップS17において、信号処理システム4は、適応フィルタ26により適応フィルタ処理を行う。
ステップS18において、信号処理システム4は、アンプ28により、適応フィルタ処理された信号の位相を反転する。このアンプ28の出力信号が、振動を低減するための制御信号となる。
ステップS19において、信号処理システム4は、D/A変換部により、アンプ28からの出力信号(すなわち、制御信号)のD/A変換を行う。
ステップS20において、信号処理システム4は、スピーカ5により、制御信号に対応する制御音を出力する。
【0035】
以上の処理(S12~S20)が繰り返し行われることにより、凹面鏡10の振動が低減されうる。
【0036】
本実施形態は、騒音源もしくは振動源が特定できない場合などにも有利である。
<露光装置版>
<物品製造方法の実施形態>
本発明の実施形態に係る物品製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。本実施形態の物品製造方法は、基板に塗布された感光剤に上記の露光装置を用いて潜像パターンを形成する工程(基板を露光する工程)と、かかる工程で潜像パターンが形成された基板を現像する工程とを含む。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0037】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0038】
3:給気ダクト、4:信号処理システム、5:スピーカ、6,7:加速度計、17:マイクロホン