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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】熱交換器のろう付け方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 1/19 20060101AFI20240207BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20240207BHJP
   B23K 3/00 20060101ALI20240207BHJP
   B23K 31/02 20060101ALI20240207BHJP
   F28F 3/08 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
B23K1/19 F
B23K1/00 330H
B23K3/00 310F
B23K31/02 310B
B23K3/00 310K
F28F3/08 311
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020019365
(22)【出願日】2020-02-07
(65)【公開番号】P2021122849
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000151209
【氏名又は名称】マーレジャパン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26-46, D-70376 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 宏
(72)【発明者】
【氏名】畠野 陽平
(72)【発明者】
【氏名】有山 雅広
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/151315(WO,A1)
【文献】特開2019-176572(JP,A)
【文献】実開平06-060727(JP,U)
【文献】特開2016-165744(JP,A)
【文献】特開2009-036468(JP,A)
【文献】特開2017-136610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/19
B23K 1/00
B23K 3/00
B23K 31/02
F28F 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mgを含有するアルミニウム合金ブレージングシートによって周縁にテーパ部を有する形状に形成された複数のコアプレートを、当該コアプレートよりも大きくかつ厚い下面側のベースプレートの上で、上記テーパ部同士が接するように積層し、
上記コアプレートの積層体を囲む筒状に金属板から形成され、筒状の内壁面が上記テーパ部の先端縁との間で一定の微小間隔を有するように上記コアプレートの外周の輪郭に沿っているスクリーンを、上記ベースプレートとともに搬送可能なように上記ベースプレートの上に載置して、上記コアプレートの積層体を囲み、
上記スクリーンを載置したまま上記ベースプレートを上記コアプレートの積層体とともに炉内に搬入し、不活性ガス雰囲気中で加熱してろう付けする、
ことを特徴とする熱交換器のろう付け方法。
【請求項2】
上記ベースプレートの係合部と上記スクリーン下端とが係合することによって上記スクリーンが位置決めされる、ことを特徴とする請求項1に記載の熱交換器のろう付け方法
【請求項3】
上記コアプレートの積層体を上記ベースプレート上に位置決めするために上記ベースプレートに設けられたロケートピンによって、上記スクリーンが位置決めされる、ことを特徴とする請求項1に記載の熱交換器のろう付け方法
【請求項4】
上記ベースプレートの上に該ベースプレートよりも小さな第2のベースプレートが重ねられており、
上記スクリーンは、上記第2のベースプレートの周縁によって位置決めされる、ことを特徴とする請求項1に記載の熱交換器のろう付け方法
【請求項5】
上記微小間隔は、0.5mm以上でかつ5mm以下である、ことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の熱交換器のろう付け方法
【請求項6】
上記スクリーンは、上記コアプレートの積層体を囲む筒状部分の上端に、上記微小間隔の上端を覆う廂部を備えている、ことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の熱交換器のろう付け方法
【請求項7】
上記スクリーンは、上記ベースプレート上に組み立てられた上記コアプレートの積層体を周囲から囲むように複数個に分割されて構成されている、ことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の熱交換器のろう付け方法
【請求項8】
上記スクリーンは、上記ベースプレート上に組み立てられた上記コアプレートの積層体を両側から挟むように第1半割部と第2半割部とに2分割されて構成されている、ことを特徴とする請求項7に記載の熱交換器のろう付け方法
【請求項9】
上記スクリーンは、上記第1半割部と上記第2半割部との境界部においては、一方の端縁部分が板厚相当分だけ外側へオフセットして延びており、内側に位置する他方の端縁部分と互いに重なりあっている、ことを特徴とする請求項8に記載の熱交換器のろう付け方法
【請求項10】
上記スクリーンは、熱膨張率が11×10-6以上で、かつ、融点が650℃以上の金属材料からなる、請求項1~9のいずれかに記載の熱交換器のろう付け方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミニウム合金のクラッド材からなるブレージングシートを用いてろう付けにより組み立てられる熱交換器の製造技術に関し、特に、ろう付け時に用いるスクリーンおよびこれを用いたろう付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のオイルクーラ等として用いられる熱交換器は、熱伝導率、比重、成形性、などの観点から、アルミニウム合金から構成するのが一般的であり、相対的に融点が低いろう材層を表面に備えたクラッド材からなるブレージングシートを用いて複数の部材を形成し、これらの部材を仮組立した上で炉内で加熱して一体にろう付けする手法が多く採用されている。
【0003】
ろう付け工法は、大きくは、大気圧下で不活性ガス(窒素、アルゴン等)を用い、フッ化物系フラックスを使用して行ういわゆるCAB法(Control Atomsphere Brazing)と、高真空下でフラックスを使用せずに行ういわゆるVB法(真空ろう付け法)と、に大別される。
【0004】
CAB法では、ろう付けされるワークに予め非腐食性のフッ化物系フラックスを塗布しておくことで、ろう付け時に、ブレージングシートのろう材層の表面における酸化被膜が破壊される。これにより、溶融したろう材が表面張力によって部材間の隙間に拡がり、部材同士の接合がなされる。
【0005】
VB法では、クラッド材のろう材層や心材としてMgを含有するアルミニウム合金を用い、あるいはワークとは別にMgを炉内に置いて、高真空下でろう付けを行う。Mgが炉内で加熱されることで、ブレージングシートのろう付け層の表面における酸化被膜を破壊し、蒸発したMgが、表面近傍に存在するろう付け阻害物質である微量の酸素や水分を捕獲する。これにより、フラックスを使用しないろう付けが可能となる。
【0006】
大気圧下で行うCAB法は、成形サイクル時間が比較的に短くかつ設備費が比較的安価となる反面、フラックスの塗布工程やフラックス残渣の洗浄工程が必要となる、などフラックス使用に伴う多くの欠点がある。
【0007】
一方、VB法は、フラックスに関連した問題はない反面、真空炉によるバッチ処理のため量産性が低く、設備も高額となり易い。
【0008】
このようなことから、特許文献1,2では、フラックスを使用せず、かつ高真空とすることを要さずに、アルミニウム合金ブレージングシートのろう付けを可能とするために、ワークを金属製のカバー状部材で覆うことが提案されている。
【0009】
特許文献1では、Mgを含有するアルミニウム合金ブレージングシートを用いてワークを構成し、炉内でワークがろう材の融点近くまで昇温したときにワークをカバー状の風除け治具で覆う構成となっている。風除け治具は、炉内で循環して使用されるように構成されている。
【0010】
また特許文献2には、Mgを含有するアルミニウム合金ブレージングシートを用い、あるいは別置きのMg供給源を用いて、ワークにカバー状の覆いを被せて加熱することが開示されている。覆いは、天井面中央に孔が開いた箱状の構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2006-175500号公報
【文献】特開平9-85433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1の構成では、炉内で風除け治具を上下昇降させてワークに被せる機構ないし装置が必要であり、炉が複雑かつ高価なものとなる。
【0013】
また特許文献2では、炉内に設けられるワークの支持台の上に覆いが置かれる構成となっており、覆いとワークとの間の間隔の厳密な管理が困難であるとともに、炉内での覆いの脱着のための作業工程が煩雑となる。
【0014】
しかも、特許文献2のように箱状の覆いを被せた場合には、ワークに炉の輻射熱が作用しないため、ろう付けそのものが阻害される一方で、Mgが覆いの中で広く拡散してしまい、現実にはフラックスを使用しないろう付けは到底実現できない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明に係る熱交換器のろう付け方法は、
Mgを含有するアルミニウム合金ブレージングシートによって周縁にテーパ部を有する形状に形成された複数のコアプレートを、当該コアプレートよりも大きくかつ厚い下面側のベースプレートの上で、上記テーパ部同士が接するように積層し、
上記コアプレートの積層体を囲む筒状に金属板から形成され、筒状の内壁面が上記テーパ部の先端縁との間で一定の微小間隔を有するように上記コアプレートの外周の輪郭に沿っているクリーンを、上記ベースプレートとともに搬送可能なように上記ベースプレートの上に載置して、上記コアプレートの積層体を囲み、
上記スクリーンを載置したまま上記ベースプレートを上記コアプレートの積層体とともに炉内に搬入し、不活性ガス雰囲気中で加熱してろう付けする
【0017】
ブレージングシートに含まれたMgは、ろう付け時に、ろう付けを困難にするブレージングシート表面のアルミニウム酸化被膜を破壊する。そして、本発明のスクリーンでワークであるコアプレートの積層体を囲むことにより、加熱に伴ってブレージングシートから気化したMgが雰囲気中に散逸せずにコアプレートの周囲の近傍に留まり、このMgによって、ろう付け性を妨げる酸素や水分が捕獲される。従って、フラックスを使用せずに、かつ真空炉によらずに、熱交換器のろう付けが可能となる。とりわけ、ろう付け時に雰囲気中に露出している形となる周縁のテーパ部同士のろう付け性が向上する。
【0018】
ここで、本発明では、熱交換器の主要部となるコアプレートの積層体が、コアプレートよりも大きくかつ厚いベースプレートの上に積層され、スクリーンは、コアプレートの積層体を囲むようにしてベースプレートの上に載置される。つまり、炉に搬入・搬出されるワークの一部であるベースプレートによってスクリーンが支持され、ワークと一体となってスクリーンが搬送される。そのため、コアプレートとスクリーンとの間の微小間隔の管理が容易であるとともに、炉内への搬入・搬出を含めてスクリーンの取り扱いが簡単なものとなる。
【0019】
本発明の好ましい一つの態様では、上記ベースプレートの係合部と上記スクリーン下端とが係合することによって上記スクリーンが位置決めされる。
【0020】
好ましくは、上記コアプレートの積層体を上記ベースプレート上に位置決めするために上記ベースプレートに設けられたロケートピンによって、上記スクリーンが位置決めされる。
【0021】
このようにロケートピンによってスクリーンを位置決めするようにすれば、コアプレートの積層体とスクリーン内壁面との間の間隔がより精度よく得られる。また、ロケートピンがコアプレートの積層体の位置決めとスクリーンの位置決めとの双方に利用されることで、部品点数が少なくなる。
【0022】
本発明の他の一つの態様では、上記ベースプレートの上に該ベースプレートよりも小さな第2のベースプレートが重ねられており、上記スクリーンは、上記第2のベースプレートの周縁によって位置決めされる。つまり、ベースプレートの上に相対的に小さい第2のベースプレートを重ねることで段差が生じ、この段差によってスクリーンが位置決めされる。
【0023】
好ましくは、上記微小間隔は、0.5mm以上でかつ5mm以下である。
【0024】
ブレージングシートに含有されるMgは、一般に微小量であり、従って、コアプレートの積層体とスクリーン内壁面との間の間隔が大きいと、気化したMgは雰囲気中に拡散してしまい、ろう付け箇所近傍の酸素や水分の捕獲が十分に行われない。そのため、5mm以下の間隔とすることが望ましい。
【0025】
本発明の好ましい一つの態様では、上記スクリーンは、上記コアプレートの積層体を囲む筒状部分の上端に、上記微小間隔の上端を覆う廂部を備えている。この廂部により、気化したMgの上方への拡散が効果的に制限される。
【0026】
本発明の好ましい一つの態様では、スクリーンは、上記ベースプレート上に組み立てられた上記コアプレートの積層体を周囲から囲むように複数個に分割されて構成されている。一つの例では、上記ベースプレート上に組み立てられた上記コアプレートの積層体を両側から挟むように第1半割部と第2半割部とに2分割されて構成されている。例えば、コアプレートを積層してなる積層体の上部から金属管が導出されているような形式の熱交換器では、筒状をなすスクリーンをそのままコアプレートの積層体に被せることができない場合がある。このような場合でも、スクリーンを分割構成することで、テーパ部に近接した状態にスクリーンを配置することが可能となる。
【0027】
このような2分割構成においては、好ましくは、上記第1半割部と上記第2半割部との境界部においては、一方の端縁部分が板厚相当分だけ外側へオフセットして延びており、内側に位置する他方の端縁部分と互いに重なりあっている。これにより、筒状の内壁面が実質的に段差なく周方向に連続したものとなる。
【0028】
スクリーンは、熱膨張率が11×10-6以上で、かつ、融点が650℃以上の金属材料から形成されることが好ましい。
【0029】
このように熱膨張率が比較的大きい金属材料を用いることで、ろう付け時つまり温度上昇時において、コアプレートとスクリーンとの間の微小間隔の減少が抑制される。つまり、温度上昇に伴うコアプレートの熱膨張によるスクリーンとの接触が抑制される。換言すれば、ブレージングシートやベースプレートとなるアルミニウム合金材料の熱膨張率は例えば23×10-6程度であり、これらの熱膨張率とスクリーンの熱膨張率との差が小さいことが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
この発明によれば、スクリーンを用いることによって、アルミニウム合金ブレージングシートを用いた熱交換器のろう付けを、フラックスを使用せずに、かつ真空炉によらずに行うことが可能となり、フラックスに伴う種々の問題や真空炉に関連した問題を回避することができる。
【0032】
そして、スクリーンがワークの一部となるベースプレートの上に載置された状態でワークとともに搬送されるので、工程の複雑化や高価な設備を伴うことがない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】この発明が適用される熱交換器の構成を示す断面説明図。
図2】スクリーンを配置した状態を示す断面説明図。
図3】第1実施例のスクリーンを熱交換器とともに示す断面図。
図4】スクリーンの組付前の状態を示す斜視図。
図5】一方の半割部のみを熱交換器とともに示す斜視図。
図6】第2実施例のスクリーンを熱交換器とともに示す断面図。
図7】第3実施例のスクリーンを熱交換器とともに示す断面図。
図8】第4実施例のスクリーンを熱交換器とともに示す断面図。
図9】第5実施例のスクリーンを熱交換器とともに示す平面図。
図10】第5実施例のスクリーンを熱交換器とともに示す斜視図。
図11】第6実施例のスクリーンを熱交換器とともに示す平面図。
図12】第6実施例のスクリーンを熱交換器とともに示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、この発明の一実施例を詳細に説明する。
【0035】
図1は、この発明が適用される一実施例の熱交換器1の構成を模式的に示した断面説明図である。この熱交換器1は、例えば自動車用内燃機関の潤滑用オイルを冷却水との熱交換により冷却するオイルクーラである。なお、以下では、理解を容易にするためにろう付け時の姿勢である図1の姿勢を基準として「上」「下」の用語を用いるが、実際のオイルクーラの使用時には、図1の姿勢に限定されるものではない。
【0036】
熱交換器1は、比較的厚い板状のベースプレート2の上に、多数の薄板状のコアプレート4をフィンプレート5とともに積層してなる積層体つまりコア部3が載置された構成となっている。
【0037】
熱交換器1の各構成部品(つまり、コアプレート4、フィンプレート5、ベースプレート2)は全てアルミニウム系材料にて構成されており、所定の状態に組み立てた後に治具で保持したまま炉内で加熱することにより各部一体にろう付けされている。ろう材の供給手法としては、コアプレート4がその両面にそれぞれろう材層を備えたクラッド材からなるアルミニウム合金ブレージングシートにて形成されている。このブレージングシートは、フラックスを使用しないろう付けを実現するために、微小量のMgを含有している。ブレージングシートについては、さらに詳しく後述する。
【0038】
コア部3は、基本的な形状が同一の矩形状をなす浅皿状のコアプレート4をフィンプレート5とともに多数積層することで、隣接する2枚のコアプレート4の間に、オイル通路6と冷却水通路7とを交互に構成するようにしたものである。フィンプレート5は、オイル通路6の中に配置されている。なお、この種の熱交換器1は、例えば特開2011-007411号公報や特開2013-007516号公報等に開示されているように、基本的に公知の構成である。
【0039】
ブレージングシートからなるコアプレート4は、周縁に斜めに立ち上がったテーパ部4aを有する構成であり、各コアプレート4が上下方向に積層されたときに、各々のテーパ部4a同士が互いに重なり合って密接する関係にある。そして、このように重なり合った各コアプレート4のテーパ部4aが互いにろう付けされることで、各段のオイル通路6および冷却水通路7の周囲が密封され、かつ熱交換器1が全体として一体化される。また、オイル通路6の内部では、コアプレート4の表面にフィンプレート5がろう付けされる。同様に、最下端のコアプレート4の下面がベースプレート2にろう付けされる。
【0040】
ベースプレート2は、熱交換器1を所望の位置に取り付けるための取付部としても機能するものであり、コア部3から周囲にはみ出るようにコアプレート4よりも大きく、かつコアプレート4よりも厚い板状部材から構成されている。
【0041】
ろう付けは、フラックスを使用せずに行われる。また、従前のVB法のような高真空の真空炉を用いずに、基本的に大気圧付近での圧力下で窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気中でろう付けが行われる。つまり、フラックスを使用せずに、CAB法に準じたろう付けがなされる。好適な一つの例では、ワークを搬送しながら連続的に加熱処理を行う連続炉を用いてろう付けを行うことができる。
【0042】
このろう付けの際には、図2に模式的に示した本発明のスクリーン11がワークに被せられる。このスクリーン11によって、ブレージングシートから気化したMgが雰囲気中に散逸せずに、コア部3(つまりコアプレート4の積層体)の近傍に留まることとなり、このMgによって、ろう付け性を妨げるろう付け面近傍の酸素や水分が捕獲される。
【0043】
スクリーン11は、ろう付け時の加熱温度に耐えうるだけの耐熱性を有するステンレス鋼や他の耐熱金属の薄肉金属板からなり、コア部3を囲む略四角形断面の筒状をなしている。詳しくは、筒状部分の内壁面11aが、コアプレート4のテーパ部4aの先端縁との間で一定の微小間隔Dを有するように、コアプレート4の外周の輪郭に沿って形成されている。つまり、全周に亘って一定の微小間隔Dを有している。微小間隔Dは、0.5mm以上で5mm以下であることが望ましく、特に、2mm以下であることが望ましい。
【0044】
また、好ましい実施例では、コア部3を囲む筒状部分の上端に、微小間隔Dの上端を覆う廂部12を備えている。廂部12が対向するコア部3の最上部(例えば最上部のテーパ部4aの先端)と廂部12下面との間の間隔hは、5mm以下であることが望ましい。
【0045】
廂部12は、上方から投影して見たときに、コア部3の周縁と重なっていてもよい。廂部12とコア部3周縁との重なり代Lは、0mm以上である。つまり、上方から投影して見たときに、少なくとも廂部12とコア部3とが隙間なく連続した配置となる。重なり代Lは、適宜に大きな値とすることもできるが、スクリーン11の内部空間と外部空間との間でガスの置換が可能なようにスクリーン11の上面は十分に大きく開口している必要がある。重なり代Lは、好ましくは、5mmである。
【0046】
なお、上記の各寸法は、室温における値である。
【0047】
次に、熱交換器1のコアプレート4に用いるブレージングシートの一例を説明する。実施例のブレージングシートは、心材の両面にそれぞれ心材よりも融点が低いろう材層を設けたものであり、特に、冷却水通路7に面する側には、心材の腐食を抑制するための犠牲層となる中間層を心材とろう材層との間に備えている。つまり、4層構造のクラッド材である。
【0048】
クラッド材のろう材層は、10.0重量%以上で15.0重量%以下のSiを含むAl-Si合金であることが望ましい。よく知られているように、Siは、融点を下げることに寄与する。
【0049】
また、クラッド材のろう材層、心材、中間層の少なくともいずれか1層に、Mgが0.25~1.5重量%の範囲で含有されていることが望ましい。
【0050】
さらに、クラッド材のろう材層、心材、中間層の少なくともいずれか1層に、Biが0.02~0.5重量%の範囲で含有されていることが望ましい。Biは、ろう付け時の表面の濡れ性の向上に寄与する。
【0051】
また、クラッド材のろう材層、心材、中間層の少なくともいずれか1層に、577℃における蒸気圧がMgよりも高い元素が含有されていることが望ましい。例えば577℃における蒸気圧がMgよりも高い元素として、Zn,Na,K,Sの中から少なくとも1種類を0.01重量%以上含有することができる。
【0052】
表1は、後述するろう付け性の試験に用いたブレージングシートとなるクラッド材A~Iの構成を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
次に、上記のクラッド材A~Iを用い、かつスクリーン11の利用と組み合わせて行ったろう付け性の試験について説明する。
【0055】
表1に示すクラッド材A~Iを用いて、スタンピング成形により、80mm角のコアプレート4を作製した。ベースプレート2およびフィンプレート5は、AA3003材で作製した。
【0056】
スタンピング成形したコアプレート4に対し、表2に示すアルカリ洗浄あるいは酸洗浄を行い、その後、純水で超音波洗浄を実施した。
【0057】
【表2】
【0058】
その後、図1に示すようにコアプレート4やフィンプレート5をベースプレート2上で積層して熱交換器1を組み立てるとともに冶具で固定し、さらに、図2に示すようにスクリーン11を設置した。
【0059】
実験で用いたスクリーン11はSUS304製で、板厚は1mmである。
【0060】
スクリーン11をベースプレート2上にセットした熱交換器1を、フラックスを使用せずにCAB法で以下の条件でろう付けを行った。
【0061】
ろう付け炉として、メッシュベルト式連続アルミろう付け炉を使用し、不活性ガスとしては窒素を使用した。
【0062】
ろう付け炉450℃~600℃の温度ゾーンでの酸素濃度は15~20ppm、露点は-55℃~-57℃、の条件でろう付けを行った。
【0063】
温度条件としては、ワークを測温し、室温から600℃までを30分で昇温させ、600℃を3分間保持した後、600℃から450℃へ4分で冷却するように温度制御を行った。
【0064】
ろう付け後の製品について気密試験およびろう付け状態の確認を実施した。ろう付け状態は、外面側ろう付け部のフィレット形成長さを評価した。すなわち、「フィレット形成率=形成されたフィレット長/ろう付けされるべき全長」としてフィレット形成率を求め、95%以下を「×」、95~99%を「△」、99%~100%を「○」、100%を「◎」として評価した。
【0065】
気密試験は、0.5MPa、1分のエアリーク試験を実施し、水中で気密性をチェックした。
【0066】
試験の結果を表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
表3における実施例1と比較例1との比較により、今回の検討結果で最良と考えられる材料および化学洗浄を選択した場合でも、スクリーン11を使用しかつ最適に配置をしなければ、フラックスを使用しないCAB法でのろう付けは困難であり、スクリーン11の設置が必須であることが明らかである。
【0069】
また、スクリーン11を使用した場合でも、スクリーン11の形状や製品との位置関係を適切に管理することが必要となる。実施例1,2,3と比較例2との比較から明らかなように、良好なろう付け性を達成するためには、スクリーン11と製品外面のろう付け部(つまりテーパ部4a先端縁)との距離Dが、5mm以内であることが望ましい。
【0070】
また、実施例1と比較例3との比較から明らかなように、スクリーン11に廂部12を設けることが、ろう付け安定性に寄与する。
【0071】
加えて、実施例1と比較例4との比較により、スクリーン11の廂部12と製品最上部とで形成される開口部の距離hが5mm以下であることが、気密性とフィレット形成率を向上させる上で望ましい。
【0072】
一方、実施例1,5と比較例5との比較により、スクリーン11を最適に設定した場合でも、クラッド材のろう材層のSi濃度が10重量%未満であると、気密は確保できるものの、フィレット形成率が悪化することから、ろう材層中のSiは10重量%以上が望ましいと言える。
【0073】
また実施例1,7,8により、スクリーン11を最適に設定した場合に、クラッド材のろう材層のMg濃度が0.25重量%以上で1.5重量%以下であると、気密性およびフィレット形成率とも満足することが確認できる。
【0074】
ろう付け時に表面の酸化アルムニウム被膜の破壊に必要なMgの下限が0.25重量%であり、他方、Mgが1.5重量%を超えると、逆に強固な酸化マグネシウム被膜が生成され、ろう付け性を阻害すると考えられる。
【0075】
また、実施例1,9と比較例6との比較により、スクリーン11を最適に設定しても、クラッド材のろう材中に微量のBiが存在することが望ましいことが明らかであり、Biが少なくとも0.02重量%以上あれば、気密性およびフィレット形成率を満足することが確認できた。これは、微量のBiが溶融ろう材の流動性を上げていると考えられる。
【0076】
なお、Biは、ろう付け時の熱による拡散が容易であり、ろう材へ直接に添加する以外にも、芯材あるいは中間層の少なくとも1層に添加することで、ろう付け時の熱でろう材中へ拡散することが予測される、このため、Biは、ろう材、芯材、中間層の少なくとも1層に添加されていればよい。
【0077】
実施例3と実施例10との比較により、クラッド材のろう材中に、揮発性の高い元素としてZnを添加することで、ろう付け性がより向上することが確認できる。
【0078】
実施例1,12,13の比較から、スクリーン11とクラッド材をそれぞれ最適化することで、化学洗浄なしでもろう付け性は確保できるが、化学洗浄を実施することで、表面酸化被膜が削減され、併せてろう付け阻害物質等が除去できることから、フィレット形成率がより向上することが確認できる。
【0079】
実施例11により、MgおよびBiは、その拡散係数の大きさから、ろう材だけに限らず、ろう材に隣接する芯材、中間層のいずれに添加しても効果があることが確認できる。
【0080】
なお、コア部3の天面においては、ろう付け時の炉からの輻射熱を授受する効率の観点からは受熱面積が大きい方がよいため、受熱面積が天面面積の70%以上になるように廂部12の重なり代Lを設定することが好ましい。重なり代Lが5mmの場合、例えばコアプレート4の外形寸法が80mm×80mmであると、受熱面積を70%以上確保することができる。
【0081】
次に、図3図12に基づいて、スクリーン11のより具体的な構成を説明する。
【0082】
図3図5は、スクリーン11の第1実施例を示している。このスクリーン11は、例えば耐熱性を有するSUS304のようなステンレス鋼の薄板(例えば厚さ1mm程度)を折り曲げて構成されており、熱交換器1のコア部3を囲む断面略正方形の筒状をなしている。特に、内壁面11aがコアプレート4のテーパ部4a先端縁との間で全周に亘って一定の微小間隔を有するように、角部が丸められたコアプレート4の輪郭に沿った形状をなしている。筒状部分の上端には、内壁面11aとコア部3との間に生じる微小間隔の上端を覆うように、内周側へ折れ曲がった廂部12を備えている。なお、スクリーン11は、他の金属材料から形成してもよい。前述したように、熱膨張率が11×10-6以上で、かつ、融点が650℃以上の金属材料であることが望ましい。
【0083】
また、第1実施例においては、スクリーン11は、ベースプレート2上のコア部3を両側から挟み込むように、第1半割部11Aと第2半割部11Bとの2部品に分割構成されている。第1実施例においては、2つの対向する側面の中央が第1半割部11Aと第2半割部11Bとの分割面となっている。これらの第1半割部11Aと第2半割部11Bは、分割面における各々の端縁13,14が互いに突き合わされて配置される。
【0084】
図5は、一方の第2半割部11Bのみをベースプレート2上に載置した状態を示しているが、この図5に示すように、スクリーン11は、ろう付け工程の前にベースプレート2上に載置され、ベースプレート2とともに搬送される。つまりベースプレート2上に載置されたまま炉への搬入および搬出が行われる。図示せぬ治具で組立状態に固定されたワーク(つまり熱交換器1)はスクリーン11で囲まれた状態のまま炉内において不活性ガス中で加熱され、一体にろう付けされる。そして、ろう付け工程が終了して温度が十分に低下した後に、スクリーン11はワークから取り外される。スクリーン11は、当然のことながら、繰り返し使用される。
【0085】
なお、図示する例の熱交換器1では、上部から2本のコネクタ9が突出しており、これらのコネクタ9は、スクリーン11の廂部12と干渉しない位置にある。
【0086】
図6は、スクリーン11の第2実施例を示している。この第2実施例では、ワークとなる熱交換器1のベースプレート2に、コア部3における最下段のコアプレート4を位置決めするための複数のロケートピン15が設けられている。つまり、複数のロケートピン15で囲まれた領域内に最下段のコアプレート4がセットされる。そして、スクリーン11は、この複数のロケートピン15を利用して、ベースプレート2上で位置決めされる。つまり、複数のロケートピン15の外側に2分割されたスクリーン11がセットされる。スクリーン11の下縁部には、ロケートピン15とそれぞれ嵌合する膨出部16が形成されている。
【0087】
このようにロケートピン15によってスクリーン11をベースプレート2上で位置決めすることにより、コア部3に対するスクリーン11の位置の管理が容易となり、結果的にろう付けを確実に行うことができる。
【0088】
なお、スクリーン11の位置決めとしては、上記のロケートピン15に代えて、スクリーン11の下端部外周形状に沿った溝を係合部としてベースプレート2に形成し、この溝にスクリーン11の下端を係合させるようにしてもよい。
【0089】
図7は、スクリーン11の第3実施例を示している。この第3実施例では、廂部12が単純な平坦面に沿った形状ではなく、廂部12の内周端が下方へ湾曲した形状をなしている。換言すれば、廂部12は、上方へ向かって凸となった断面形状を有している。
【0090】
図8は、スクリーン11の第4実施例を示している。この第4実施例では、ベースプレート2の上に該ベースプレート2よりも小さな第2のベースプレート18が重ねられており、スクリーン11は、この第2のベースプレート18の周縁によって位置決めされている。つまり、第2のベースプレート18の外形状は、所望のスクリーン11の位置および当該位置にあるスクリーン11の内壁面11aの輪郭に対応しており、スクリーン11を第2のベースプレート18の周縁に嵌め込むことによって、ベースプレート2上でのスクリーン11の位置が規定される。
【0091】
図9および図10は、第1半割部11Aと第2半割部11Bとの境界部の構成を変更した第5実施例のスクリーン11を示している。この実施例においては、第1半割部11Aの端縁部分21が板厚相当分だけ外側へオフセットして延びており、内側に位置する第2半割部11Bの端縁部分22と互いに重なりあっている。これにより、第1半割部11Aと第2半割部11Bとの間での隙間(つまり気化したMg等が流出する経路)の発生が抑制されるとともに、内壁面11aは実質的に凹凸のない連続した面となる。つまり、各々の端縁部分21,22が互いに重なりながらも、コア部3との間で全周に亘り一定の微小間隔を得ることができる。
【0092】
なお、図9および図10では、廂部12が示されていないが、第1実施例もしくは第3実施例と同様の廂部12を備えていてもよい。
【0093】
図11および図12は、第5実施例における境界部の位置を変更した第6実施例のスクリーン11を示している。この第6実施例においては、第1半割部11Aと第2半割部11Bとの境界部が、略正方形をなす筒状部分の互いに対向するコーナ部分に位置している。そして、第5実施例と同様に、第1半割部11Aの端縁部分21が板厚相当分だけ外側へオフセットして延びており、内側に位置する第2半割部11Bの端縁部分22と互いに重なりあっている。これにより、第5実施例と同様に、第1半割部11Aと第2半割部11Bとの間での隙間の発生が抑制されるとともに、内壁面11aは実質的に凹凸のない連続した面となる。つまり、各々の端縁部分21,22が互いに重なりながらも、コア部3との間で全周に亘り一定の微小間隔を得ることができる。
【0094】
なお、図11および図12では、廂部12が示されていないが、第1実施例もしくは第3実施例と同様の廂部12を備えていてもよい。
【0095】
また、スクリーン11は、上記のような2分割構成に限らず、3分割や4分割など任意の個数に分割して構成することができる。
【符号の説明】
【0096】
1…熱交換器
2…ベースプレート
3…コア部3(コアプレートの積層体)
4…コアプレート
5…フィンプレート
11…スクリーン
11A…第1半割部
11B…第2半割部
12…廂部
図1
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図12