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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】バルブの較正システムおよび較正方法
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/06 20060101AFI20240207BHJP
   F16K 31/122 20060101ALI20240207BHJP
   F16K 51/00 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
F16K31/06 340
F16K31/06 310C
F16K31/122
F16K51/00 F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020022204
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021127793
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】505236469
【氏名又は名称】キャタピラー エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】中嶌 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】喜安 浩一
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-502948(JP,A)
【文献】特開2017-190858(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0290523(US,A1)
【文献】特開2001-317503(JP,A)
【文献】特開平11-248026(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0277243(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0076689(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 13/043
F15B 13/044
F15B 19/00
F16K 11/07
F16K 31/06 - 31/11
F16K 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気アクチュエータに対する電流印加に基づき作動して流路を開閉するバルブを備えた作業機械の油圧回路において、前記バルブが流路を開くときの電気アクチュエータへの印加電流値であるバルブ開口位置電流値を較正する較正システムであって、該較正システムは、
バルブ開口位置電流値に関する情報に基づいてバルブ開口位置電流値の較正値を予測する較正値予測手段と、
スイープ開始電流値を設定するスイープ開始電流値設定手段と、
バルブの入口側に一定圧力の油圧を供給する油圧供給手段と、
電気アクチュエータへの電流印加を開始してスイープ開始電流値まで上昇させ、さらに該スイープ開始電流値から所定速度で電気アクチュエータへの印加電流値をスイープ上昇させる印加電流制御手段と、
電気アクチュエータへの電流印加中にバルブの入口側または出口側の圧力変化を測定する圧力測定手段とを備え、
前記圧力測定手段により測定された圧力変化時の印加電流値に基づいてバルブ開口位置電流値の較正値を求める構成にするとともに、
前記スイープ開始電流値設定手段は、スイープ開始電流値を、スイープ開始から前記較正値予測手段により予測された予測値までのスイープ上昇にかかる時間が予め設定された一定時間になるように予測値に応じて設定することを特徴とするバルブの較正システム。
【請求項2】
請求項1において、較正値予測手段がバルブ開口位置電流値の較正値を予測するために必要なバルブ開口位置電流値に関する情報として、過去のバルブ開口位置電流値の較正情報、電気アクチュエータやバルブの製造情報、バルブが用いられる作業機械の情報、作業機械が稼働する現地情報のうち少なくとも一つの情報を含むことを特徴とするバルブの較正システム。
【請求項3】
請求項1または2において、バルブ開口位置電流値に関する情報はビッグデータとしてサーバーに蓄積されるとともに、該サーバーに設けられた較正値予測手段が、ビッグデータをトレンド解析した結果に基づいてバルブ開口位置電流値の較正値を予測することを特徴とするバルブの較正システム。
【請求項4】
電気アクチュエータに対する電流印加に基づき作動して流路を開閉するバルブを備えた作業機械の油圧回路において、前記バルブが流路を開くときの電気アクチュエータへの印加電流値であるバルブ開口位置電流値を較正する較正方法であって、該較正方法は、
バルブ開口位置電流値に関する情報に基づいてバルブ開口位置電流値の較正値を予測する工程と、
スイープ開始電流値を設定する工程と、
バルブの入口側に一定圧力の油圧を供給する工程と、
電気アクチュエータへの電流印加を開始してスイープ開始電流値まで上昇させ、さらに該スイープ開始電流値から所定速度で電気アクチュエータへの印加電流をスイープ上昇させる工程と、
電気アクチュエータへの電流印加中にバルブの入口側または出口側の圧力変化を測定する工程と、
測定された圧力変化時の印加電流値に基づいてバルブ開口位置電流値の較正値を求める工程とを含むとともに、
前記スイープ開始電流値は、スイープ開始から前記予測されたバルブ開口位置電流値の較正値の予測値までのスイープ上昇にかかる時間が予め設定された一定時間になるように予測値に応じて設定されることを特徴とするバルブの較正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の作業機械の油圧回路に設けられるバルブの較正システムおよび較正方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル等の作業機械の油圧回路には、電気アクチュエータに対する電流印加に基づき作動して流路を開閉するバルブが設けられることがある。このようなバルブが、例えば、油圧ショベルに設けられるブームシリンダやスティックシリンダ等の油圧アクチュエータに対する油給排制御を行うコントロールバルブであり、該コントロールバルブにパイロット圧を出力してコントロールバルブを作動せしめる電磁比例弁が電気アクチュエータである場合、各油圧アクチュエータ用操作具の操作に基づいて電磁比例弁に印加され、これにより電磁比例弁からパイロット圧が出力されてコントロールバルブが油圧アクチュエータに至る流路を開くことになるが、該コントロールバルブが流路を開くときの電磁比例弁への印加電流値(バルブ開口位置電流値)は、電磁比例弁の個体差(製造公差)だけでなく、コントロールバルブの開口特性やコントロールバルブが配置される回路構成等によって差異があり、さらに、電磁比例弁やコントロールバルブの構成部品の経年劣化によってもバルブ開口位置電流値は変化する。このため、バルブを作業機械の油圧回路に配設した状態でのバルブ開口位置電流値の較正(キャリブレーション)が必要となる。
このようなバルブ開口位置電流値の較正方法として、従来、バルブの入口側に一定圧力の油圧を供給した状態で、電気アクチュエータへの電流印加をスイープ上昇させながらバルブの入口側の圧力変化を測定し、該測定された圧力変化に基づいてバルブ開口位置電流値(クラッキングポイント電流コマンド)の較正値を決定するようにした技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5281573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記特許文献1のように、電気アクチュエータへの電流印加をスイープ上昇させながら圧力測定することでバルブ開口位置電流値の較正を行う場合、電流ゼロの時点から印加電流のスイープ上昇を始めると、較正作業に時間がかかって作業効率に劣るという問題がある。そこで、スイープ上昇を開始するスイープ開始電流値を予め設定し、電流値ゼロからスイープ開始電流値までは急速度で電流を上昇させ、スイープ開始電流値からはスイープに適した所定速度で印加電流を上昇させることが提唱される。しかしながら、油圧ショベルに設けられる油圧回路のように多数のバルブが設けられており、これら多数のバルブの較正を行うような場合、スイープ開始電流値を一律に設定すると、前述したように、バルブ開口位置電流値は、同種の電気アクチュエータが用いられていても、電気アクチュエータの個体差だけでなく、バルブの開口特性や回路等の種々の条件によって異なるため、スイープ開始電流値からバルブ開口位置電流値に達するまでのスイープ時間に差異が生じる。このようなスイープ開始電流値からバルブ開口位置電流値に達するまでのスイープ時間の差異が大きいと、較正作業の作業条件のバラツキとなって作業の標準化、精度向上の妨げとなるという問題があり、ここに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、電気アクチュエータに対する電流印加に基づき作動して流路を開閉するバルブを備えた作業機械の油圧回路において、前記バルブが流路を開くときの電気アクチュエータへの印加電流値であるバルブ開口位置電流値を較正する較正システムであって、該較正システムは、バルブ開口位置電流値に関する情報に基づいてバルブ開口位置電流値の較正値を予測する較正値予測手段と、スイープ開始電流値を設定するスイープ開始電流値設定手段と、バルブの入口側に一定圧力の油圧を供給する油圧供給手段と、電気アクチュエータへの電流印加を開始してスイープ開始電流値まで上昇させ、さらに該スイープ開始電流値から所定速度で電気アクチュエータへの印加電流値をスイープ上昇させる印加電流制御手段と、電気アクチュエータへの電流印加中にバルブの入口側または出口側の圧力変化を測定する圧力測定手段とを備え、前記圧力測定手段により測定された圧力変化時の印加電流値に基づいてバルブ開口位置電流値の較正値を求める構成にするとともに、前記スイープ開始電流値設定手段は、スイープ開始電流値を、スイープ開始から前記較正値予測手段により予測された予測値までのスイープ上昇にかかる時間が予め設定された一定時間になるように予測値に応じて設定することを特徴とするバルブの較正システムである。
請求項2の発明は、請求項1において、較正値予測手段がバルブ開口位置電流値の較正値を予測するために必要なバルブ開口位置電流値に関する情報として、過去のバルブ開口位置電流値の較正情報、電気アクチュエータやバルブの製造情報、バルブが用いられる作業機械の情報、作業機械が稼働する現地情報のうち少なくとも一つの情報を含むことを特徴とするバルブの較正システムである。
請求項3の発明は、請求項1または2において、バルブ開口位置電流値に関する情報はビッグデータとしてサーバーに蓄積されるとともに、該サーバーに設けられた較正値予測手段が、ビッグデータをトレンド解析した結果に基づいてバルブ開口位置電流値の較正値を予測することを特徴とするバルブの較正システムである。
請求項4の発明は、電気アクチュエータに対する電流印加に基づき作動して流路を開閉するバルブを備えた作業機械の油圧回路において、前記バルブが流路を開くときの電気アクチュエータへの印加電流値であるバルブ開口位置電流値を較正する較正方法であって、該較正方法は、バルブ開口位置電流値に関する情報に基づいてバルブ開口位置電流値の較正値を予測する工程と、スイープ開始電流値を設定する工程と、バルブの入口側に一定圧力の油圧を供給する工程と、電気アクチュエータへの電流印加を開始してスイープ開始電流値まで上昇させ、さらに該スイープ開始電流値から所定速度で電気アクチュエータへの印加電流をスイープ上昇させる工程と、電気アクチュエータへの電流印加中にバルブの入口側または出口側の圧力変化を測定する工程と、測定された圧力変化時の印加電流値に基づいてバルブ開口位置電流値の較正値を求める工程とを含むとともに、前記スイープ開始電流値は、スイープ開始から前記予測されたバルブ開口位置電流値の較正値の予測値までのスイープ上昇にかかる時間が予め設定された一定時間になるように予測値に応じて設定されることを特徴とするバルブの較正方法である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1、4の発明とすることにより、バルブ開口位置電流値の較正に必要な印加電流のスイープ上昇にかかる時間を略一定にすることができて、較正作業の標準化が図れ、作業効率の向上および較正精度の向上に貢献できる。
請求項2の発明とすることにより、精度の高い予測値を得ることができる。
請求項3の発明とすることにより、より高精度な予測値を確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】油圧ショベルの油圧回路の概略図である。
図2】較正制御部の構成を示すブロック図である。
図3】較正制御を示すフローチャート図である。
図4】スイープ開始電流値から予測値までのスイープ時間を示す図である。
図5】バルブ入口側圧力(または出口側圧力)とスプール変位と印加電流値との関係を示す図である。
図6】サーバーの入出力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1に、作業機械の一例である油圧ショベルの油圧回路の概略図を示すが、該図1において、1は油圧ポンプ、1aは油圧ポンプ1の容量可変手段、2は油圧ポンプ1の吐出ライン、3は油タンク、4は油圧シリンダ、5は油圧シリンダ4に対する油給排制御を行うパイロット作動式のコントロールバルブ、6A、6Bはコントロールバルブ5にパイロット圧を出力する第一、第二電磁比例弁である。
尚、本実施の形態において、コントロールバルブ5は本発明のバルブに相当し、第一、第二電磁比例弁6A、6Bは本発明の電気アクチュエータに相当する。また、油圧ショベルには、ブームシリンダ、スティックシリンダ、バケットシリンダ、走行モータ、旋回モータ等の種々の油圧アクチュエータが設けられるとともに、各油圧アクチュエータに対応してそれぞれコントロールバルブが設けられ、さらに各コントロールバルブを作動せしめるべくパイロット圧を出力する電磁比例弁が設けられるが、図1には、これら油圧アクチュエータ、コントロールバルブ、電磁比例弁を代表して、1つの油圧シリンダ4と、該油圧シリンダ4に対応するコントロールバルブ5と、該コントロールバルブ5に対応する第一、第二電磁比例弁6A、6Bと、図示しない他の2つの油圧アクチュエータにそれぞれ対応する他の2つのコントロールバルブ7のみを示してある。
【0009】
前記コントロールバルブ5は、第一、第二パイロットポート5a、5bを備えたスプール弁であって、第一、第二の両パイロットポート5a、5bにパイロット圧が入力されていない状態では、油圧ポンプ1から油圧シリンダ4に至る供給流路および油圧シリンダ4から油タンク3に至る排出流路を閉じる中立位置Nに位置しているが、第一電磁比例減圧弁6Aまたは第二電磁比例弁6Bから第一パイロットポート5aまたは第二パイロットポート5bにパイロット圧が入力されることで、油圧ポンプ1から油圧シリンダ4に至る供給流路5cおよび油圧シリンダ4から油タンク3に至る排出流路5dを開く第一作動位置Xまたは第二作動位置Yに変位して、油圧シリンダ4に対する供給流量制御および排出流量制御を行うように構成されている。
【0010】
さらに、図1において、8は車載のコントローラであって、該コントローラ8は、油圧シリンダ4用の操作具(操作レバーや操作ペダル等)9の操作方向および操作量を検出する操作検出手段9Aからの操作信号を入力し、該入力信号に基づいて、前記第一、第二電磁比例弁6A、6Bに制御信号としての電流を印加する。そして、該印加電流値に応じて増減するパイロット圧が第一、第二電磁比例弁6A、6Bから出力されることで、前述したようにコントロールバルブ5が中立位置Nから第一作動位置Xまたは第二作動位置Yに変位して油圧シリンダ4に対する供給流量制御および排出流量制御を行うようになっている。
尚、コントローラ8は、後述するように、較正作業時には操作具操作のない状態で第一、第二電磁比例弁6A、6Bに対して電流印加する。また、油圧ショベルには、油圧シリンダ4以外の油圧アクチュエータを操作するための操作具や、これら操作具の操作を検出する操作検出手段も設けられているが、図1には、油圧シリンダ4用の操作具9および操作検出手段9Aのみを示す。
【0011】
さらに、図1において、10は油圧ポンプ1から油タンク3に流れるブリード流量を制御するブリード弁であって、該ブリード弁10は、コントローラ8からの制御信号に基づいて、油圧シリンダ用操作具9および他の油圧アクチュエータ用操作具の操作量の増加に応じてブリード流量を減少(ブリード流量ゼロを含む)させるべく作動する。尚、コントローラ8は、後述するように、較正作業時には操作具操作のない状態でブリード弁10を作動させる。
【0012】
次いで、本発明の較正システムおよび較正方法について、コントロールバルブ5が中立位置Nから第一作動位置Xに変位して、油圧ポンプ1から油圧シリンダ4に至る供給流路5cを開くときの、第一電磁比例弁6Aへの印加電流値であるバルブ開口位置電流値を較正する較正作業を例にとって、図2図5に基づいて説明する。
まず、前記コントローラ8には、バルブ開口位置電流値の自動較正を制御する較正制御部11が設けられているが、該較正制御部11は、図2に示す如く、入力側に、油圧ポンプ1の吐出ライン2の圧力を検出する圧力センサ12が接続され、出力側に、前記第一、第二電磁比例弁6A、6B、油圧ポンプ1の容量可変手段1a、ブリード弁10が接続され、さらに、コントローラ8に着脱自在に接続されるパソコン等の外部コントローラ13が入出力自在に接続されるとともに、予測値読み込み部14、スイープ開始電流値設定部15、ポンプ圧制御部16、印加電流制御部17、圧力測定部18、電流値較正部19等を具備して構成されている。尚、図2には、コントローラ8の行う種々の制御のうち較正制御部11に関する部分のみを図示してある。また、較正制御部11の出力側には、前記第一、第二電磁比例弁6A、6Bだけでなく、較正が行われる各種電気アクチュエータ(例えば、他のコントロールバルブ7にパイロット圧を出力する電磁比例弁等)が接続されるが、これらについても省略してある。
【0013】
ここで、前記外部コントローラ13は、モニタ等の表示手段や、キーボード、タッチパネル等の操作手段を備えたものであって、後述するように、サーバー20に接続されており、該サーバー20からバルブ開口位置電流値の較正値の予測値iEを取得できるようになっているとともに、該外部コントローラ13の操作手段によって、較正制御部11による自動較正作業の開始や、較正の対象となる電気アクチュエータの選択等を行うことができるようになっている。尚、外部コントローラ13の代わりにインターネット等の通信手段を介して、コントローラ8にサーバー20を接続可能にするとともに、該コントローラ8に前記外部コントローラ13と同等の機能をもたせることもできる。
【0014】
また、バルブ開口位置電流値の較正を行うにあたり、前準備として、較正の対象となるコントロールバルブ5から圧油供給される油圧シリンダ4の圧を抜いておく。この場合に、圧抜きは手動で実施しても良いが、コントロールバルブ5のスプールを自動的にシフトさせて圧を抜く機能を持たせておくと、連続して較正を実施するプロセスに組込むことを想定すると有効である。さらに、較正作業中の作動油温は、手動または自動で所定温度範囲を保持するように制御する。
【0015】
次いで、前記較正制御部11が行う自動較正作業の制御について、図3のフローチャート図に基づいて説明する。
まず、外部コントローラ13から較正作業開始の操作信号が入力されると、必要な初期設定が行われた後、ポンプ圧制御部16から油圧ポンプ1の容量可変手段1aおよびブリード弁10に対して制御指令が出力されて、油圧ポンプ1の吐出圧を予め設定された一定圧に保持する。これにより、コントロールバルブ5の入口側に一定圧力の油圧が供給される(ステップS1)。尚、前記油圧ポンプ1は本発明の油圧供給手段を構成する。
【0016】
さらに、圧力測定部18によって、圧力センサ12から入力される吐出ライン2の圧力測定値に基づき、コントロールバルブ5の入口側の圧力変化が監視される(ステップS2)。該圧力変化の監視は、較正作業の終了まで行われる。尚、前記圧力センサ12は本発明の圧力測定手段を構成する。
【0017】
続けて、予測値読み込み部14による予測値iEの読み込みが行われる(ステップS3)。該予測値iEは、予測される第一電磁比例弁6Aのバルブ開口位置電流値の今回の較正値であって、外部コントローラ13を介してサーバー20から提供されるが、該サーバー20による予測値iEの提供については後述する。
【0018】
続けて、スイープ開始電流値設定部15によるスイープ開始電流値iSの設定が行われる(ステップS4)。該スイープ開始電流値iSは、後述する印加電流のスイープ上昇を開始するときの電流値であって、該スイープ開始電流値iSの設定は、スイープ開始から前記予測値iEまでのスイープ上昇にかかる時間が予め設定された一定時間Tになるように、前記予測値iEに応じて設定される。この場合、スイープ開始電流値iSは、スイープ時の電流値の上昇速度から一定時間Tにおける電流値の変化量を演算し、該変化量を予測値iEから減ずることで演算される。しかして、図4に示す如く、予測値iEの値がiE-1、iE-2と異なっていても、スイープ開始電流値iS-1、iS-2から予測値iE-1、iE-2までのスイープ時間は一定時間Tとなるように制御される。尚、前記スイープ開始電流値設定部15は本発明のスイープ開始電流値設定手段を構成する。
【0019】
続けて、印加電流制御部17による第一電磁比例弁6Aへの電流印加が開始される。この場合、印加電流制御部17は、電流値ゼロから前記スイープ開始電流値iSまでは急速度(スイープ速度より急速度)で電流を上昇させ(ステップS5)、スイープ開始電流値iSに達した以降は、スイープに適した所定の一定速度で印加電流をスイープ上昇させる(ステップS6)。
尚、前記電流値ゼロからスイープ開始電流値iSまでは、予測されるバルブ開口位置電流値の今回の較正値の区間外であるため、較正作業の時間短縮のため印加電流を急速度で上昇させる。また、前記印加電流制御部17は本発明の印加電流制御手段を構成する。
【0020】
前記印加電流のスイープ上昇中、電流値較正部19は、圧力測定部18によりコントロールバルブ5の入口側の圧力変化が確認されたか否かを判断する(ステップS7)。そして、圧力変化が確認されない場合には、前記印加電流のスイープ上昇を続行する。一方、圧力変化が確認された場合、電流値較正部19は、前記圧力変化時の印加電流値を、バルブ開口位置電流値の今回の較正値iCとして決定し、バルブ開口位置電流値を今回の較正値iCに更新(ステップS8)して、第一電磁比例弁6Aの較正作業は終了する。しかる後、同様にして、第二電磁比例弁6Bや、他のバルブを作動せしめる電気アクチュエータ(例えば、他のコントロールバルブ7にパイロット圧を出力する電磁比例弁等)の較正作業が順次行われるようになっている。
【0021】
ここで、図5に、前記ステップS5~S8におけるコントロールバルブ5の入口側圧力(圧力センサ12の測定値)と、コントロールバルブ5のスプール移動量と、第一電磁比例弁6Aへの印加電流値との関係を示すが、該図5に示されるように、第一電磁比例弁6Aへの印加電流をスイープ開始電流値iSからスイープ上昇させると、コントロールバルブ5のスプールが動き始めて供給流路5cが開口するバルブ開口位置に達する。そして、スプールがバルブ開口位置に達すると、コントロールバルブ5の入口側圧力が急に低下するが、該低下し始めたときの印加電流値を、バルブ開口位置電流値の較正値iCとして決定するようになっている。
尚、本実施の形態では、コントロールバルブ5の入口側圧力によってバルブ開口位置電流値の較正値iCを求めるように構成されているが、前記図5に点線で示すように、コントロールバルブ5の出口側の圧力変化の測定によっても、バルブ開口位置電流値の較正値iCを求めることができる。
また、本実施の形態では、コントロールバルブ5の入口側圧力が低下し始めたときの印加電流値をバルブ開口位置電流値とする構成になっているが、入口側圧力が低下し始めたときの印加電流値からオフセット修正した電流値をバルブ開口位置電流値とすることもできる。この場合、オフセット修正量は、バルブの開口特性、バルブから圧油供給される油圧アクチュエータにかかる負荷、回路構成等に応じて、適宜設定される。
【0022】
次いで、前記バルブ開口位置電流値の較正値の予測値iEを提供するサーバー20について説明する。該サーバー20には、図6に示す如く、過去のバルブ開口位置電流値の較正データが蓄積されたデータベース21や、コントロールバルブ5や電磁比例弁6A、6Bの製造元端末22、コントロールバルブ5が用いられる作業機械(本実施の形態では油圧ショベル)の製造元端末23等からの各種情報が入力されるとともに、前記外部コントローラ13を介して、作業機械が稼働する現地情報(気温、気圧等)が入力される。この場合、コントロールバルブ5や電磁比例弁6A、6Bの製造元端末22から入力される情報としては、例えば、製造現場環境(気温等)、仕様、ロットまたは個体の出荷検査情報等があり、また、作業機械の製造元端末23から入力される情報としては、例えば、製造現場環境、仕様、作動油種、ロットまたは個体の出荷検査情報、経年数情報等がある。
【0023】
そして、前記サーバー20は、入力された各種情報を、バルブ開口位置電流値の較正に関するビッグデータとして蓄積するとともに、該ビッグデータは、サーバー20に設けられた予測値演算手段(本発明の較正値予測手段に相当する)24によって、学習期間を経てトレンド解析され、該解析結果に基づいて油圧ショベルに設けられる個々の電気アクチュエータについてバルブ開口位置電流値の較正値が予測される。そして、該予測された結果は、個々の電気アクチュエータの較正作業時に、バルブ開口位置電流値の較正値の予測値iEとして外部コントローラ13を介して車載のコントローラ8に提供されるようになっている。
【0024】
叙述の如く構成された本実施の形態において、較正システムは、例えば油圧ショベルの油圧回路に設けられたコントロールバルブ5(バルブ)が供給流路5cを開くときの第一電磁比例弁6A(電気アクチュエータ)への印加電流値であるバルブ開口位置電流値を較正するために用いられるが、該較正システムは、バルブ開口位置電流値に関する情報に基づいてバルブ開口位置電流値の較正値を予測する予測値演算手段24と、スイープ開始電流値iSを設定するスイープ開始電流値設定部15と、バルブの入口側に一定圧力の油圧を供給する油圧ポンプ1と、電気アクチュエータへの電流印加を開始してスイープ開始電流値iSまで上昇させ、さらに該スイープ開始電流値iSから所定速度で電気アクチュエータへの印加電流値をスイープ上昇させる印加電流制御部17と、電気アクチュエータへの電流印加中にバルブの入口側の圧力変化を測定する圧力センサ12とを備えており、そして、前記圧力センサ12により測定された圧力変化時の印加電流値に基づいてバルブ開口位置電流値の較正値iCが求められることになるが、このものにおいて、前記スイープ開始電流値設定部15は、スイープ開始から前記予測値演算手段24により予測された予測値iEまでのスイープ上昇にかかる時間が予め設定された一定時間Tになるように、予測値iEに応じてスイープ開始電流値iSを設定することになる。
【0025】
この様に、本実施の形態にあっては、バルブ開口位置電流値を較正するにあたり、バルブ開口位置電流値に関する情報に基づいてバルブ開口位置電流値の較正値が予測されるとともに、該予測値iEに応じて、スイープ開始から予測値iEまでのスイープ上昇にかかる時間が一定時間Tになるようにスイープ開始電流値iSが設定されることになるが、この場合に、予測値iEは、バルブ開口位置電流値の較正値iCを予測した値であって該較正値iCに近い値であるから、較正時において実際にスイープ開始から較正値iCまでのスイープ上昇にかかる時間は、前記一定時間Tに近い値となる。
この結果、較正時において電気アクチュエータへの印加電流値のスイープ上昇にかかる時間を、電気アクチュエータの種類や個体差、バルブの開口特性、回路構成、あるいは電気アクチュエータやバルブの経年変化等に関係なく、略一定時間(一定時間Tの近似値)とすることができ、しかして、多数のバルブおよび該バルブを作動せしめる電気アクチュエータが設けられている油圧ショベルのような作業機械であっても、各バルブのバルブ開口位置電流値の較正に必要なスイープ時間の差異を可及的に少なくすることができて、較正作業の標準化が図れ、作業効率の向上および較正精度の向上に貢献できる。
【0026】
このものにおいて、前記予測値演算手段24(較正値予測手段)がバルブ開口位置電流値の較正値を予測するために必要な情報として、過去のバルブ開口位置電流値の較正情報、電気アクチュエータやバルブの製造情報、バルブが用いられる作業機械の情報、作業機械が稼働する現地情報のうち少なくとも一つの情報を含むことにより、これらの情報に基づいて精度の高い予測値iEを得ることができる。
【0027】
さらに、本実施の形態では、バルブ開口位置電流値に関する情報はビッグデータとしてサーバー20に蓄積されるとともに、該サーバー20に設けられた予測値演算手段24が、ビッグデータをトレンド解析した結果に基づいてバルブ開口位置電流値の較正値を予測する構成になっており、これにより、より高精度な予測値iEを確実に得ることができる。
【0028】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されないことは勿論であって、本発明の較正システムおよび構成方法は、油圧ショベルの油圧回路に設けられたコントロールバルブだけでなく、種々の作業機械に用いられる各種バルブの較正に実施できる。また、較正されるバルブ、該バルブを作動せしめる電気アクチュエータとしては、上記実施の形態のようにバルブと電気アクチュエータとが別体のものに限らず、バルブと電気アクチュエータとが一体のものであっても良い。
さらに、本実施の形態では、サーバーと車載のコントローラとの通信はパソコン等の外部コントローラを介して行うようになっているとともに、外部コントローラの操作に基づいて較正作業を開始するように構成されているが、これに限定されることなく、例えば、作業機械の運転室に操作手段を備えたモニタ装置が配設されている場合には、該モニタ装置の操作手段を用いて較正作業の開始や進行、較正するバルブの選択等を行う構成にすることもできる。また、較正作業を、例えば作業機械の所定稼働時間毎に自動的に行う構成にすることもできる。さらに、作業機械に通信装置を搭載することにより、外部コントローラを介することなくサーバーと通信して較正作業を実施する構成にすることもできる。
さらに、本実施の形態では、サーバーに設けた較正値予測手段によって予測された予測値iEが車載のコントローラ8に読み込まれる一方、該コントローラ8に設けたスイープ開始電流値設定手段(スイープ開始電流値設定部15)がスイープ開始電流値iSを設定する構成になっているが、サーバー側に、予測値iEに基づいてスイープ開始電流値iSを演算して設定するスイープ開始電流値設定手段を設け、該サーバーのスイープ開始電流値設定手段によって設定されたスイープ開始電流値iSを、コントローラ8に読込ませる構成にすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、電気アクチュエータに対する電流印加に基づいて作動するバルブの較正に利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
5 コントロールバルブ
6A、6B 第一、第二電磁比例弁
8 コントローラ
11 較正制御部
13 外部コントローラ
14 予測値読み込み部
15 スイープ開始電流値設定部
16 ポンプ圧制御部
17 印加電流制御部
18 圧力測定部
19 電流値較正部
20 サーバー
24 予測値演算手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6