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特許7431618サイロ用波形薄鋼板及びそれらが組み合わされた穀物用サイロ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】サイロ用波形薄鋼板及びそれらが組み合わされた穀物用サイロ
(51)【国際特許分類】
   E04H 7/30 20060101AFI20240207BHJP
   B65D 88/06 20060101ALI20240207BHJP
   A01F 25/14 20060101ALI20240207BHJP
   E04H 5/08 20060101ALI20240207BHJP
   E04B 1/343 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
E04H7/30
B65D88/06 B
A01F25/14 C
E04H5/08
E04B1/343 T
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020039292
(22)【出願日】2020-03-06
(65)【公開番号】P2021139216
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】原田 剛男
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸司
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-158775(JP,A)
【文献】特開2009-235812(JP,A)
【文献】特開2016-190671(JP,A)
【文献】実開昭61-169021(JP,U)
【文献】実開昭55-178501(JP,U)
【文献】実開昭51-163632(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 7/30
B65D 88/06
A01F 25/14
E04H 5/08
E04B 1/343
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有した波形鋼板から平面視円弧状の円筒曲面体に形成され、前記貫通孔に挿通されたボルトやリベットなどの接合部材で円周方向及び上下方向に接合されることにより端部が三枚以上重ね合される穀物を貯蔵する穀物用サイロを構築するためのサイロ用波形鋼板であって、
前記貫通孔は、接合する際に孔に貫通させるボルトの呼び径より僅かに大きな直径からなり、孔同士の位置のズレの調整のための遊びが無い丸孔であるとともに、板厚が2.7mm未満の薄鋼板からなること
を特徴とするサイロ用波形薄鋼板。
【請求項2】
貫通孔を有した波形鋼板から平面視円弧状の円筒曲面体に形成され、前記貫通孔に挿通されたボルトやリベットなどの接合部材で円周方向及び上下方向に接合されることにより端部が三枚以上重ね合される穀物を貯蔵する穀物用サイロを構築するためのサイロ用波形鋼板であって、
前記貫通孔は、四隅に形成された貫通孔を除き、接合する際に孔に貫通させるボルトの呼び径より僅かに大きな直径からなり、孔同士の位置のズレの調整のための遊びが無い丸孔であるとともに、板厚が2.7mm未満の薄鋼板からなること
を特徴とするサイロ用波形薄鋼板。
【請求項3】
前記接合部材は、ボルト及びナットであり、
板厚が0.27mm以上1.20mm以内の場合、前記丸孔の直径は、前記ボルトの径に1mmを加えた値以上、前記ボルトの径に4mmを加えた値以下となっており、
板厚が1.20mm超2.00mm以内の場合、前記丸孔の直径は、前記ボルトの径に2mmを加えた値以上、前記ボルトの径に6mmを加えた値以下となっており、
板厚が2.00mm超2.70mm未満の場合、前記丸孔の直径は、前記ボルトの径に3mmを加えた値以上、前記ボルトの径に7mmを加えた値以下となっていること
を特徴とする請求項1又は2に記載のサイロ用波形薄鋼板。
【請求項4】
米、小麦、トウモロコシ、大豆などの穀物を貯蔵するための穀物用サイロであって、
請求項1ないし3のいずれかに記載のサイロ用波形薄鋼板が、三枚以上重ね合された接合部分を有して円周方向及び上下方向に組み合わされて接合されていること
を特徴とする穀物用サイロ。
【請求項5】
前記三枚以上重ね合された接合部分が溶接されていないこと
を特徴とする請求項4に記載の穀物用サイロ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイロ用波形鋼板及びそれらが組み合わされたサイロに関し、詳しくは、薄鋼板からなるサイロ用波形薄鋼板及びそれらが組み合わされた穀物用サイロに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、平面視円弧状の円筒曲面体である複数の波形鋼板を接合して円筒状の壁体を構成し、サイロ、骨材ビン、粉体・粒体貯蔵タンク、水槽などの貯槽として使用することが行われている。
【0003】
例えば、本願の出願人が提案した特許文献1には、周壁15を円筒状に連結させた貯槽本体にばら物を収容するためのばら物貯槽において、貯槽本体11は、コルゲートシート21を周方向及び上下方向に連結して周壁15を構成し、コルゲートシート21に対して塞ぎ板16を介して連結され、平面視で貯槽本体11を間仕切るように延設された間仕切り構造体12を備え、塞ぎ板16は、間仕切り構造体12の端部とコルゲートシート21との間隔を塞ぎつつ、当該間隔が離間自在となるようにしたばら物貯槽が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0021]~[0036]、図面の図1図3等参照)。
【0004】
特許文献1に記載のばら物貯槽は、穀物、石炭、セメント骨材等のばら物を貯蔵することを目的としており、特に貯蔵物が米、小麦、トウモロコシ、大豆といった穀物などの軽量物だけを想定したものでは無かった。このため、使用しているコルゲートシートも2.7mm(3mm)以上の中板又は厚板の鋼板からなる波形鋼板であった。そのため、同形の波形鋼板を接合する部分で無理が生じ、調整のため、ボルト接合する部分に長孔を設けて調整しなければ円筒状の壁体に組み上げることができないという問題があった。
【0005】
このようなばら物貯槽は、円筒状にするために、二枚の波形鋼板が円周方向に接合されるとともに、上下に連結するために、さらに一枚の波形鋼板が接合されている。このように三枚の波形鋼板の端部同士が重ね合されている接合部分には、略同形の物を組み合わせるため、どうしてもズレが生じ、一般的な丸孔のボルト孔では、孔同士の位置が合わず接合できなくなる。よって、このような波形鋼板は、板厚方向に貫通した長孔を介してボルトやリベットなどの連結部材で接合(連結)されることとなり、連結部材と長孔との間に板厚方向に貫通した隙間が生じるため、ばら物貯槽自体の気密性が確保できないという問題があった。
【0006】
このため、貯蔵物が穀物などの場合、湿気などの影響により、腐ったり品質が劣化したりするという問題が発生する。そのため、穀物用のサイロとして使用するばら物貯槽では、湿気対策として前述のようにボルト接合した上、波形鋼板同士を隅肉溶接等で溶接することが行われていた。しかし、鋼板同士を溶接するには、溶接の際に母材を貫通するおそれがあるため、2.7mm未満の薄鋼板では、湿気対策として溶接することはできないという問題が新たに発生する。よって、従来のばら物貯槽などに用いるサイロ用波形鋼板では、厚さ2.7mm未満の薄鋼板が用いられることは無かった。
【0007】
しかし、このような波形鋼板は、波形とすることで、強度や剛性を高くすることができるため、穀物などの軽量物を貯蔵するサイロの外殻として用いられる波形鋼板は、板厚を2.7mm以上とすることはオーバースペックとなっていた。このため、薄鋼板からなり気密性を確保できる波形鋼板が切望されていた。
【0008】
その他、特許文献2には、波形鋼板(波形板1)と波形鋼板との間にパッキング5,6,7を介装して気密性を保持したサイロが開示されている(特許文献2の実用新案登録請求の範囲の請求項1、明細書の第1頁第14行目~第3頁第7行目、図面の第2図等参照)。
【0009】
しかし、特許文献2に記載のサイロは、パッキング5,6,7パッキンが介装されているものの、三枚の波形鋼板の端部同士が重ね合されている接合部分においては、長孔でなければ接合できず、隙間があって気密性を保てないという前記問題を解決することはできなかった。
【0010】
また、特許文献3には、波形鋼板であるコルゲートシートからなる屋根付コルゲート骨材ビンが開示されている(特許文献3の明細書の第1頁第17行目~第6頁第2行目、図面の第1図、第3図等参照)。
【0011】
しかし、特許文献3記載の屋根付コルゲート骨材ビンは、石炭、コークス、鉱石等の重量物を収納できるように設計されているものであり、薄鋼板を用いることや接合部分の前記問題点について何ら考慮されていなかった。
【0012】
また、サイロが組み立てられたとしても、組み上げたときの出来形の組立精度が悪い場合は、サイロの真円度や直径の精度が低くなり、ホッパーや屋根等の部材の取り付けに影響を与えるため、サイロとしての使用に支障が生じ得る。つまり、組立てられることを優先してボルト孔を長孔とした場合、長孔となっている分、ガタが大きくなり組み上げたサイロの真円度や直径の組立精度が低くなり、サイロとしての使用に支障が生じ得る。そのため、波板鋼板を組み上げた壁体の組立精度が高いこと、即ち、波板鋼板からサイロとして精度よく組み立てられることが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2004-270262号公報
【文献】実開昭51-163632号公報
【文献】実開昭55-178501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、薄鋼板からなり気密性を確保することができ精度よく組み立てることができるサイロ用波形薄鋼板及びそれらが組み合わされたサイロを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1発明に係るサイロ用波形薄鋼板は、貫通孔を有した波形鋼板から平面視円弧状の円筒曲面体に形成され、前記貫通孔に挿通されたボルトやリベットなどの接合部材で円周方向及び上下方向に接合されることにより端部が三枚以上重ね合される穀物を貯蔵する穀物用サイロを構築するためのサイロ用波形鋼板であって、前記貫通孔は、接合する際に孔に貫通させるボルトの呼び径より僅かに大きな直径からなり、孔同士の位置のズレの調整のための遊びが無い丸孔であるとともに、板厚が2.7mm未満の薄鋼板からなること
を特徴とする。
【0016】
第2発明に係るサイロ用波形薄鋼板は、貫通孔を有した波形鋼板から平面視円弧状の円筒曲面体に形成され、前記貫通孔に挿通されたボルトやリベットなどの接合部材で円周方向及び上下方向に接合されることにより端部が三枚以上重ね合される穀物を貯蔵する穀物用サイロを構築するためのサイロ用波形鋼板であって、前記貫通孔は、四隅に形成された貫通孔を除き、接合する際に孔に貫通させるボルトの呼び径より僅かに大きな直径からなり、孔同士の位置のズレの調整のための遊びが無い丸孔であるとともに、板厚が2.7mm未満の薄鋼板からなることを特徴とする。
【0017】
第3発明に係るサイロ用波形薄鋼板は、第1発明又は第2発明において、前記接合部材は、ボルト及びナットであり、板厚が0.27mm以上1.20mm以内の場合、前記丸孔の直径は、前記ボルトの径に1mmを加えた値以上、前記ボルトの径に4mmを加えた値以下となっており、板厚が1.20mm超2.00mm以内の場合、前記丸孔の直径は、前記ボルトの径に2mmを加えた値以上、前記ボルトの径に6mmを加えた値以下となっており、板厚が2.00mm超2.70mm未満の場合、前記丸孔の直径は、前記ボルトの径に3mmを加えた値以上、前記ボルトの径に7mmを加えた値以下となっていることを特徴とする。
【0018】
第4発明に係る穀物用サイロは、米、小麦、トウモロコシ、大豆などの穀物を貯蔵するための穀物用サイロであって、請求項1ないし3のいずれかに記載のサイロ用波形薄鋼板が、三枚以上重ね合された接合部分を有して円周方向及び上下方向に組み合わされて接合されていることを特徴とする。
【0019】
第5発明に係る穀物用サイロは、第4発明において、前記三枚以上重ね合された接合部分が溶接されていないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
第1発明~第5発明によれば、薄鋼板から構成することで、必要な強度や剛性を保持しつつ軽量化を達成できるとともに、安価に製造することができる。また、第1発明~第5発明によれば、接合する貫通孔を長さ調整のための遊びが無い丸孔とすることでサイロとして気密性を保持することができる。その上、第1発明~第5発明によれば、薄鋼板がたわみ易く、ねじれ易いことを利用して組立施工時のハンドリング性能を向上させることができ、精度よくサイロを組み立てることができる。
【0021】
特に、第3発明によれば、さらに精度よくサイロを組み立てることができ、サイロ組立の施工時間を削減することができる。
【0022】
特に、第5発明によれば、接合部分が溶接されていないので、その分、穀物用サイロを短時間で安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本実施形態に係る穀物用サイロを示す図であり、図1(a)が、本実施形態に係る穀物用サイロの立面図であり、図1(b)が、その水平断面図である。
図2図2は、同上の穀物用サイロの壁体の展開図である。
図3図3は、本発明の第1実施形態に係るサイロ用波形薄鋼板を示す図であり、図3(a)が、サイロ用波形薄鋼板の正面図、図3(b)が、その平面図、図3(c)が、四隅の貫通孔付近を示すA部拡大正面図である。
図4図4は、サイロ用波形薄鋼板の右側面図である。
図5図5は、サイロ用波形薄鋼板同士をボルト接合する接合部分を示す鉛直断面図であり、図5(a)が、一般部の上下方向の接合部分を示す鉛直断面図であり、図5(b)が、円周方向の接合部分と上下方向の接合部分が重なる端部が三枚以上重ね合された接合部分を示す鉛直断面図である。
図6図6は、本発明の第2実施形態に係るサイロ用波形薄鋼板を示す図であり、図6(a)が、サイロ用波形薄鋼板の正面図、図6(b)が、その平面図、図6(c)が、四隅の貫通孔付近を示すB部拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態に係るサイロ用波形薄鋼板及び穀物用サイロについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
<穀物用サイロ>
先ず、図1図2を用いて、本発明の実施形態に係る穀物用サイロについて説明する。図1は、本実施形態に係る穀物用サイロ10を示す図であり、図1(a)が、本実施形態に係る穀物用サイロ10の立面図であり、図1(b)が、その水平断面図である。また、図2は、図1で示す穀物用サイロ10の壁体11の展開図である。
【0026】
穀物用サイロ10は、米、小麦、トウモロコシ、大豆といった穀物などの軽量物を貯蔵することを目的とした穀物用(軽量物用)のサイロであり、本実施形態では、200tサイズを例示して説明する。なお、軽量物とは、かさ比重が、米、小麦、トウモロコシ、大豆のように1.0t/m以下となるような、砂や普通土、砂利など、と比べて軽い(小さい)物を指している。
【0027】
図1(a)に示すように、穀物用サイロ10は、後述のサイロ用波形薄鋼板1が、円周方向及び上下方向に組み合わされて接合された円筒状の壁体11と、その壁体11の上方に架設された屋根12など、から構成されている。また、図1(b)に示す▽の位置に、図示しないH形鋼などからなる補強柱が所定のピッチ(図示形態では1500mmピッチ)で設置されている。
【0028】
(壁体)
図1(b)に示すように、この壁体11は、サイロ用波形薄鋼板1が円周方向に端部を100mmずつ重ね合わせて9枚連結され、外径の直径がD1(図示形態では、8,594mm)となった円筒状の壁体である。勿論、壁体11は、直線部を有する平面視長孔形状の壁体となっていてもよい。要するに、本発明に係る穀物用サイロ10は、サイロ用波形薄鋼板1が円周方向に接合された枚数や途中に直線状の波形鋼板が挿置されているかに関係なく、壁体部分に半円筒状の部分が有ればよい。
【0029】
この壁体11は、図2に示すように、サイロ用波形薄鋼板1が上下方向に段部を19mmずつ重ね合されて8段積みに組み合わされており、サイロ用波形薄鋼板1同士の接合部分が上下で互い違いとなって応力が集中しないように馬目地状に接合されている。なお、図2に示す△も、図1の▽と同様に、補強柱の設置を示しいている。
【0030】
また、図2に示すように、壁体11は、穀物等の内容物の積み高さに応じて高くなる内圧に対向するためにサイロ用波形薄鋼板1が下段に行くに従って段階的に厚くなるように構成されている。具体的には、下2段のサイロ用波形薄鋼板1の板厚t=1.2mm、その上の中3段の板厚t=1.0mm、その上の上3段の板厚t=0.8mmとなっている。勿論、サイロ用波形薄鋼板1の板厚は、穀物用サイロ10の規模(何tサイズ)、直径D1の大きさ、何段積みか等に応じて適宜選定すればよいことは云うまでもない。
【0031】
(屋根)
屋根12は、平面視で中央に円形の開口12aが形成された円錐台状の屋根であり、図1に示すように、屋根勾配θ1(実施形態では、θ1=30°)の傾斜の付いた屋根である。
【0032】
<サイロ用波形薄鋼板>
[第1実施形態]
次に、図3図4を用いて、本発明の第1実施形態に係るサイロ用波形薄鋼板1について説明する。図3は、本発明の第1実施形態に係るサイロ用波形薄鋼板1を示す図であり、図3(a)が、サイロ用波形薄鋼板1を壁体11の内側から見た正面図、図3(b)が、その平面図、図3(c)が、四隅の貫通孔付近を示すA部拡大正面図である。また、図4は、サイロ用波形薄鋼板1の右側面図である。
【0033】
サイロ用波形薄鋼板1は、剛性を上げるため波形に形成された波形鋼板からなり、平面視円弧状の円筒曲面体に形成された前述の穀物用サイロ10の壁体11を構成するための穀物用サイロ用の鋼板である。このサイロ用波形薄鋼板1は、2.7mm未満の薄板(薄鋼板)からなる波形薄鋼板である。また、サイロ用波形薄鋼板1の鋼材の種類は、一般的な鋼板の種類でよく、例えば、熱間圧延鋼材(SPH),熱間圧延鋼板(SPHC),冷間圧延鋼板(SPCC),電気亜鉛めっき鋼鈑(SECC),溶融亜鉛めっき鋼鈑(SGCC),電気めっき鋼鈑(SPTE),溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板(SGMC,SGMH)など、が挙げられる。
【0034】
サイロ用波形薄鋼板1は、図3(a)に示すように、壁体11の内側から見た正面視で矩形状の鋼板であり、図3(b)に示すように、平面視で円弧状となった円筒体の一部を構成する円筒曲面体の形状に形成されている。図示形態では、サイロ用波形薄鋼板1は、幅W1(図示形態では、W1=3100mm)×高さH1(図示形態では、H1=1058mm)の矩形状となっている。なお、円弧の曲率半径R=D1/2である。
【0035】
そして、図3(a)に示すように、このサイロ用波形薄鋼板1には、サイロ用波形薄鋼板1同士を接合するためのボルト孔として複数の貫通孔2が穿設されている。本実施形態に係るサイロ用波形薄鋼板1では、図3(c)に示すように、これらの貫通孔2は、全て後述のボルトの呼び径より僅かに大きな直径からなる長さ調整のための遊びが無い丸孔となっている。なお、「長さ調整のための遊びが無い」とは、具体的な数値を含めて、試験結果を踏まえて後で詳述する。
【0036】
図3(a)に示すように、貫通孔2は、円周方向に接合するための丸孔として、サイロ用波形薄鋼板1の左右の各端部の山部1aと谷部1bに、それぞれ1列ずつ計2列設けられている。また、貫通孔2は、上下方向に接合するための丸孔として、サイロ用波形薄鋼板1の上下の各端部の山部1aに、1列ずつ設けられている。
【0037】
なお、サイロ用波形薄鋼板1の幅方向の中ほどに間隔をおいて2列縦方向に並んだ丸孔は、前述の補強柱と接合するためのボルト孔である。この補強柱と接合するためのボルト孔は、必須ではなく、補強柱がある場合でも設けなくてもよい。逆に、下段に作用する水平力に対抗するため設けた補剛材と接合するためのボルト孔を設けてもよい。
【0038】
図4に示すように、サイロ用波形薄鋼板1の波形形状は、上下方向に沿って所定のピッチP1で山部1aと谷部1bが繰り返される所定深さの縦波の波形となっている。図示形態では、ピッチP1=68mmとなった高さH1内に山部1aが16山表れるも波の深さD3=13mmとなったものを例示している。なお、山部1a、谷部1bとは、壁体11の内側から見た状態のことを指している。
【0039】
<接合部分>
次に、図5を用いて、サイロ用波形薄鋼板1同士の接合部分について説明する。図5は、サイロ用波形薄鋼板1同士をボルト接合する接合部分を示す鉛直断面図であり、図5(a)が、一般部の上下方向の接合部分を示す鉛直断面図であり、図5(b)が、円周方向の接合部分と上下方向の接合部分が重なる端部が三枚以上重ね合された接合部分を示す鉛直断面図である。
【0040】
図5(a)に示すように、サイロ用波形薄鋼板1同士をボルト接合する一般部の上下方向の接合部分は、端部を所定距離H2(図示形態では、H2=19mm)だけ重ね合わせて山部1aに設けられた貫通孔2でボルト接合されている。つまり、図5(a)に示すように、波板用の山用ボルト3が、ボルト頭3aを外側として頭側ワッシャ4とナット側ワッシャ5を介して、ナット6で壁体11の内側から内締めされている。なお、このとき、ゴム材等の弾性体からなるボルト用パッキングを介装してボルト接合してもよい。
【0041】
また、図示しないが、サイロ用波形薄鋼板1同士をボルト接合する円周方向の接合部分も、同様にボルト接合されている。但し、円周方向の接合部分の貫通孔2は、前述のように、2列設けられており、谷部1bでも接合される。谷部1bで接合される場合は、図5(a)に示した場合と相違して、波板用の谷用ボルトが、ボルト頭を内側として頭側ワッシャとナット側ワッシャを介してナットで壁体11の外側から外締めされる。いずれか一方に応力が集中することを防ぐためである。
【0042】
そして、図5(b)に示すように、サイロ用波形薄鋼板1同士をボルト接合する部分において、円周方向の接合部分と上下方向の接合部分が重なる接合部は、サイロ用波形薄鋼板1の端部が三枚以上重ね合されて接合されることとなる。
【0043】
このため、板厚が3mm以上の中板鋼板からなる従来のサイロ用波形鋼板では、剛性の高い略同形の中板鋼板同士を組み合わせるため、どうしてもズレが生じ、一般的な丸孔のボルト孔では、孔同士の位置が合わず接合できなくなっていた。
【0044】
しかし、本実施形態に係るサイロ用波形薄鋼板1は、前述のように、2.7mm未満の薄板(薄鋼板)からなり、しかも、従来の波形鋼板であるコルゲートシートの波形より波の深さが浅い、波の深さD3=13mmとなっている。このため、サイロ用波形薄鋼板1は、従来のコルゲートシートより、たわみ易く、ねじれ易くなっており、組立施工時のハンドリング性能が格段に向上している。そのため、ボルト孔を丸孔としても組み付けることが可能となり、鋼板を貫通した隙間がなくなり、穀物用サイロ10として気密性を保持することができる。
【0045】
要するに、図5(a)及び図5(b)に示したサイロ用波形薄鋼板1同士の接合部分では、溶接して気密性を保持するようなことは必要無い。このため、三枚以上重ね合された接合部分をはじめサイロ用波形薄鋼板1同士の接合部分は、いずれの箇所も溶接されていない。
【0046】
なお、後述の組立試験の結果から、2.7mm未満の薄板(薄鋼板)からなる波形鋼板とすることにより、たわみ易く、ねじれ易くなっているため、長孔や遊びのある丸孔とすることにより、逆にサイロを組み立てることが困難になることが判明した。よって、本実施形態に係るサイロ用波形薄鋼板1の貫通孔2は、長さ調整のための遊びが無い丸孔となっている。このため、サイロ用波形薄鋼板1によれば、穀物用サイロ10を精度よく組み立てることができる。
【0047】
また、サイロ用波形薄鋼板1同士をボルト接合する場合を例示して説明したが、サイロ用波形薄鋼板1同士は、リベットなどの他の接合部材で接合されていても構わない。ここで、接合部材とは、ボルトやリベットなどの機械的に乾式接合する部材を指している。
【0048】
以上説明した第1実施形態に係るサイロ用波形薄鋼板1及びそれらが組み合わされた穀物用サイロ10によれば、必要な強度や剛性を保持しつつ軽量化を達成できるとともに、安価に製造することができる。また、サイロ用波形薄鋼板1及び穀物用サイロ10によれば、穀物用サイロ10として必要な気密性を保持することができる。その上、サイロ用波形薄鋼板1及び穀物用サイロ10によれば、組立施工時のハンドリング性能を向上させることができ、精度よく短時間で穀物用サイロ10を組み立てることができる。
【0049】
[第2実施形態]
次に、図6を用いて、本発明の第2実施形態に係るサイロ用波形薄鋼板1’について説明する。本発明の第2実施形態に係るサイロ用波形薄鋼板1’が前述の第1実施形態に係るサイロ用波形薄鋼板1と相違する点は、四隅に設けられた貫通孔2’が長孔となっている点だけである。よって、その点について主に説明し、同一構成は同一符号を付し説明を省略する。
【0050】
図6は、本発明の第2実施形態に係るサイロ用波形薄鋼板1’を示す図であり、図6(a)が、サイロ用波形薄鋼板1’の正面図、図6(b)が、その平面図、図6(c)が、四隅の貫通孔2’付近を示すB部拡大正面図である。図6に示すように、サイロ用波形薄鋼板1’は、四隅に設けられた貫通孔2’が長孔となっている。また、その他の構成は、前述のサイロ用波形薄鋼板1と同じとなっている。
【0051】
このため、第2実施形態に係るサイロ用波形薄鋼板1’によれば、端部が三枚以上重ね合されて接合される接合部分においても、組立不能の事態を回避することができる。一方、長孔とすることにより長孔とボルトとの間に鋼板を貫通した隙間ができるおそれがある。しかし、四隅に設けられた貫通孔2’だけであれば、大きめのボルト用パッキングを使用したり、隙間にシールを施したりして別途防湿対策を施して気密性を確保することができる。
【0052】
以上、本発明の第1実施形態及び第2実施形態に係るサイロ用波形薄鋼板1,1’及びこれらを組み合わせた穀物用サイロ10について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0053】
<組立試験>
次に、本発明に係るサイロ用波形薄鋼板において、板厚tと丸孔の径の関係を解明するために行った組立試験について説明する。組立試験は、一般的に入手可能な鋼板としてJIS G 3470コルゲートセクションの2形の波形状において、鋼板の板厚を段階的に変更してサイロの壁体を実際に組み立て、組み立てられるか否か、組立精度が低いか高いか等の観点で考察した。
【0054】
また、組立試験は、M10ボルトとM16ボルトの2種類のボルトで行った。表1がM10の場合、表2がM16の場合の結果である。また、表3は、2つの試験の結果をまとめたものである。表において、×:組めない、〇:組める+組立精度高い、△:組める+組立精度低い、××:組めるが組立精度が低く出来形として不出来との判断である。
【0055】
【表1】
【0056】
表1から明らかなように、M10ボルトを使用する場合は、板厚tが0.27mm以上1.20mm以内の範囲内では、呼び径と同じ丸孔の径が10mmの場合、組み立てることができなかった。しかし、丸孔の径が11mm~14mmの場合、組み立てることができ、且つ、組立精度も良好であった。そして、丸孔の径が15mm~19mmの場合、組み立てることができるが、組立精度は低かった。なお、丸孔の径が20mm以上の場合、組み立てることはできるが、組立精度が極めて低く出来形として不出来との判断となった。
【0057】
また、板厚tが1.20mm超2.00mm以内の範囲内では、丸孔の径が10mm~11mmの場合、組み立てることができなかった。しかし、丸孔の径が12mm~16mmの場合、組み立てることができ、且つ、組立精度も良好であった。そして、丸孔の径が17mm~19mmの場合、組み立てることができるが、組立精度は低かった。なお、丸孔の径が20mm以上の場合、組み立てることはできるが、組立精度が極めて低く出来形として不出来との判断となった。
【0058】
そして、板厚tが2.00mm超2.70mm未満の範囲内では、丸孔の径が10mm~12mmの場合、組み立てることができなかった。しかし、丸孔の径が13mm~17mmの場合、組み立てることができ、且つ、組立精度も良好であった。そして、丸孔の径が18mm~19mmの場合、組み立てることができるが、組立精度は低かった。なお、丸孔の径が20mm以上の場合、組み立てることはできるが、組立精度が極めて低く出来形として不出来との判断となった。
【0059】
【表2】
【0060】
表2から明らかなように、M16ボルトを使用する場合は、板厚tが0.27mm以上1.20mm以内の範囲内では、呼び径と同じ丸孔の径が16mmの場合、組み立てることができなかった。しかし、丸孔の径が17mm~20mmの場合、組み立てることができ、且つ、組立精度も良好であった。そして、丸孔の径が21mm~25mmの場合、組み立てることができるが、組立精度は低かった。なお、丸孔の径が26mm以上の場合、組み立てることはできるが、組立精度が極めて低く出来形として不出来との判断となった。
【0061】
また、板厚tが1.20mm超2.00mm以内の範囲内では、丸孔の径が16mm~17mmの場合、組み立てることができなかった。しかし、丸孔の径が18mm~22mmの場合、組み立てることができ、且つ、組立精度も良好であった。そして、丸孔の径が23mm~25mmの場合、組み立てることができるが、組立精度は低かった。なお、丸孔の径が26mm以上の場合、組み立てることはできるが、組立精度が極めて低く出来形として不出来との判断となった。
【0062】
そして、板厚tが2.00mm超2.70mm未満の範囲内では、丸孔の径が16mm~18mmの場合、組み立てることができなかった。しかし、丸孔の径が19mm~23mmの場合、組み立てることができ、且つ、組立精度も良好であった。そして、丸孔の径が24mm~25mmの場合、組み立てることができるが、組立精度は低かった。なお、丸孔の径が26mm以上の場合、組み立てることはできるが、組立精度が極めて低く出来形として不出来との判断となった。
【0063】
組立試験は、JIS G 3470コルゲートセクションの1形の波形状においても行ったが、2形の波形状と同様の結果となった。このことから波形薄鋼板を用いた場合、波形状の違いよりも板厚が組立精度に影響するとの判断となった。
【0064】
【表3】
【0065】
これらをまとめると、組立試験では、板厚tが0.27mm以上1.20mm以内の場合、丸孔の直径が、ボルト径に1mmを加えた値以上、ボルト径に4mmを加えた値以下となったとき。また、板厚tが1.20mm超2.00mm以内の場合、丸孔の直径が、ボルト径に2mmを加えた値以上、ボルト径に6mmを加えた値以下となっているとき。そして、板厚tが2.00mm超2.70mm未満の場合、丸孔の直径が、ボルト径に3mmを加えた値以上、ボルト径に7mmを加えた値以下となっていると、波形薄鋼板から円筒状の壁体を容易に組み立てることができ、且つ、組立精度も良好と結論付けることができる。
【符号の説明】
【0066】
1,1’:サイロ用波形薄鋼板
1a:山部
1b:谷部
2:貫通孔(丸孔)
2’:四隅の貫通孔(長孔)
3:山用ボルト(接合部材)
3a:ボルト頭(接合部材)
4:頭側ワッシャ(接合部材)
5:ナット側ワッシャ(接合部材)
6:ナット(接合部材)
10:穀物用サイロ
11:壁体
12:屋根
12a:開口
θ1:屋根勾配
図1
図2
図3
図4
図5
図6