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特許7431649電子線発生源、電子線照射装置、及びX線照射装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】電子線発生源、電子線照射装置、及びX線照射装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 19/12 20060101AFI20240207BHJP
   G21K 5/04 20060101ALI20240207BHJP
   G21K 5/02 20060101ALI20240207BHJP
   H01J 19/16 20060101ALI20240207BHJP
   H01J 35/06 20060101ALI20240207BHJP
   H01J 35/00 20060101ALI20240207BHJP
   H01J 1/18 20060101ALI20240207BHJP
   H01J 1/22 20060101ALI20240207BHJP
   H05G 1/00 20060101ALI20240207BHJP
   G21K 5/00 20060101ALN20240207BHJP
【FI】
H01J19/12
G21K5/04 E
G21K5/04 F
G21K5/02 X
H01J19/16
H01J35/06 D
H01J35/00 Z
H01J1/18
H01J1/22
H05G1/00 D
G21K5/00 R
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020071470
(22)【出願日】2020-04-13
(65)【公開番号】P2021168273
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】原口 大
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 義人
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-264648(JP,A)
【文献】特開2002-157966(JP,A)
【文献】特開2004-077269(JP,A)
【文献】特開2000-066000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 19/12
G21K 5/04
G21K 5/02
H01J 19/16
H01J 35/06
H01J 35/00
H01J 1/18
H01J 1/22
H05G 1/00
G21K 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の軸線上において延在し、電子を放出する電子放出部と、
前記電子放出部の一方の端部に連結された可動部と、
前記可動部を前記軸線に沿って移動可能に支持する支持部と、
前記可動部に対して引張力を付与することによって、前記電子放出部の張力を保持する張力保持部と、を備え、
前記可動部は、前記電子放出部と前記張力保持部との間に設けられ、
前記可動部及び前記張力保持部は、それぞれ前記軸線上に配置されている、電子線発生源。
【請求項2】
前記張力保持部は、前記可動部が前記軸線に沿って移動するように前記可動部に対して前記引張力を付与する、請求項1に記載の電子線発生源。
【請求項3】
前記可動部は、前記可動部の重心位置が前記軸線上に位置するように配置される、請求項1又は2に記載の電子線発生源。
【請求項4】
前記電子放出部と前記張力保持部とは、互いに異なる部材からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の電子線発生源。
【請求項5】
前記支持部は、前記張力保持部を内部に収容する内部空間を備えた筐体部を備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の電子線発生源。
【請求項6】
前記筐体部は、前記電子放出部から前記張力保持部を直接見通せないように前記張力保持部を覆っている、請求項5に記載の電子線発生源。
【請求項7】
前記筐体部は、前記軸線に沿って延在するとともに前記可動部を前記軸線に沿って移動可能に保持する可動部保持部を備える、請求項5又は6に記載の電子線発生源。
【請求項8】
前記可動部保持部は、前記軸線に沿って延在する円柱状の貫通孔である、請求項7に記載の電子線発生源。
【請求項9】
前記電子放出部は、直線状を呈している、請求項1~8のいずれか一項に記載の電子線発生源。
【請求項10】
前記電子放出部は、コイル状を呈するコイル状部を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の電子線発生源。
【請求項11】
前記電子放出部の他方の端部及び前記張力保持部をそれぞれ支持する枠部を更に備える、請求項1~10のいずれか一項に記載の電子線発生源。
【請求項12】
前記可動部と前記張力保持部との連結位置は、前記軸線上に位置している、請求項1~11のいずれか一項に記載の電子線発生源。
【請求項13】
請求項1~1のいずれか一項に記載の電子線発生源と、
前記電子線発生源を収容する本体部と、
前記電子線発生源からの電子を前記本体部の外部に取り出すための電子取出部と、
を備えた電子線照射装置。
【請求項14】
請求項1~1のいずれか一項に記載の電子線発生源と、
前記電子線発生源を収容する本体部と、
前記電子線発生源からの電子が入射することでX線を発生するX線発生部と、
前記X線を前記本体部の外部に取り出すためのX線取出部と、
を備えたX線照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線発生源、電子線照射装置、及びX線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電子放出部から蛍光体に向けて電子を放出させ、蛍光体を発光させる蛍光表示管が記載されている。この蛍光表示管の電子線発生源においては、線状の電子放出部に対して張力保持部(ばね)の押圧力を作用させることによって、電子放出部の張力を保持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-264138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の蛍光表示管では、線状の電子放出部と張力保持部とを平行に配置し、両者の端部同士を連結部で連結することによって、張力保持部の押圧力を電子放出部に作用させている。このような構成では、張力保持部の押圧力を電子放出部の軸線に沿って電子放出部に対して作用させ難く、モーメントの作用によって電子放出部の軸ずれが生じることがある。
【0005】
そこで、本発明は、電子放出部に対して張力保持部の押圧力又は引張力を適切に作用させて、電子放出部の軸ずれを抑制することができる電子線発生源、電子線照射装置、及びX線照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電子線発生源は、所望の軸線上において延在し、電子を放出する電子放出部と、電子放出部の一方の端部に連結された可動部と、可動部を軸線に沿って移動可能に支持する支持部と、可動部に対して押圧力又は引張力を付与することによって、電子放出部の張力を保持する張力保持部と、を備え、可動部及び張力保持部は、それぞれ軸線上に配置されている。
【0007】
この電子線発生源では、電子放出部と、可動部と、張力保持部とがそれぞれ同じ軸線上に設けられている。このため、電子線発生源は、張力保持部の押圧力又は引張力を可動部を介して軸線方向に沿って電子放出部に作用させ易くなる。これにより、張力保持部の押圧力又は引張力が作用した場合であっても、電子放出部の軸ずれが抑制される。このように、電子線発生源は、電子放出部に対して張力保持部の押圧力又は引張力を適切に作用させて、電子放出部の軸ずれを抑制することができる。
【0008】
張力保持部は、可動部が軸線に沿って移動するように可動部に対して押圧力又は引張力を付与してもよい。この場合、電子線発生源は、張力保持部の押圧力又は引張力が作用した場合に電子放出部の軸ずれをより一層抑制できる。
【0009】
可動部は、可動部の重心位置が軸線上に位置するように配置されてもよい。この場合、張力保持部の押圧力又は引張力が作用した場合であっても、モーメントの作用によって可動部が揺動することが抑制される。これにより電子線発生源は、電子放出部の軸ずれをより一層抑制できる。
【0010】
電子放出部と張力保持部とは、互いに異なる部材によって構成されていてもよい。この場合、電子線発生源は、電子放出部から張力保持部へ熱が伝導することを抑制でき、張力保持部が加熱されることを抑制できる。
【0011】
支持部は、張力保持部を内部に収容する内部空間を備えた筐体部を備えていてもよい。この場合、電子線発生源は、支持部が備える筐体部によって、電子放出部からの放射熱の影響を張力保持部が受けることを抑制できる。これにより、電子線発生源は、熱の影響によって張力保持部の押圧力又は引張力に変動が生じること及び熱による劣化を抑制でき、電子放出部の張力を安定して保持できる。
【0012】
筐体部は、電子放出部から張力保持部を直接見通せないように張力保持部を覆っていてもよい。この場合、電子線発生源は、電子放出部から放出された電子が張力保持部に直接当たることを防止でき、電子が衝突することによって生じる加熱劣化及び損傷を抑制できる。
【0013】
筐体部は、軸線に沿って延在するとともに可動部を軸線に沿って移動可能に保持する可動部保持部を備えていてもよい。この場合、筐体部は、可動部保持部によって安定して可動部を移動可能に保持することができる。
【0014】
可動部保持部は、軸線に沿って延在する円柱状の貫通孔であってもよい。この場合、可動部は、貫通孔内において回転することができる。これにより、例えば、張力保持部の伸縮時に張力保持部がねじれることによって可動部に回転方向の力が加わったとしても、貫通孔内で可動部が回転することによってねじれの力が一部に集中することを抑制しつつ電子放出部の張力を保持できる。これにより、電子線発生源は、張力保持部にねじれが生じた場合であっても、その影響を抑制できる。
【0015】
電子放出部は、直線状を呈していてもよい。この場合、電子線発生源は、軸方向の各位置において均一に電子を照射できる。
【0016】
電子放出部は、コイル状を呈するコイル状部を有していてもよい。この場合、電子線発生源は、電子放出部に対して張力を保持する機能を持たせることができる。
【0017】
電子線発生源は、電子放出部の他方の端部及び張力保持部をそれぞれ支持する枠部を更に備えていてもよい。この場合、枠部によって一体化することで、電子線発生源の取り扱いを容易にすることができる。
【0018】
このような電子線発生源と、電子線発生源を収容する本体部と、電子線発生源からの電子を本体部の外部に取り出すための電子取出部と、を備えた電子線照射装置としてもよい。また、このような電子線発生源と、電子線発生源を収容する本体部と、電子線発生源からの電子が入射することでX線を発生するX線発生部と、X線を本体部の外部に取り出すためのX線取出部と、を備えたX線照射装置としてもよい。この場合、電子放出部の軸ずれを抑制することができる電子線照射装置及びX線照射装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電子放出部に対して張力保持部の押圧力又は引張力を適切に作用させて、電子放出部の軸ずれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施形態に係る電子線照射装置の斜視図である。
図2図2は、図1の電子線照射装置の内部構造を示す一部断面図である。
図3図3は、図1のIII-III線に沿った断面図である。
図4図4は、フィラメントユニットの斜視図である。
図5図5は、フィラメントユニットの断面図である。
図6図6は、張力保持ユニットの断面斜視図である。
図7図7は、張力保持ユニットの断面図である。
図8図8は、第1変形例の張力保持ユニットの断面斜視図である。
図9図9は、第2変形例の張力保持ユニットの断面斜視図である。
図10図10は、第3変形例の張力保持ユニットの断面斜視図である。
図11図11は、第4変形例の張力保持ユニットの断面斜視図である。
図12図12は、第5変形例の張力保持ユニットの断面斜視図である。
図13図13は、第6変形例の張力保持ユニットの断面斜視図である。
図14図14は、第7変形例の張力保持ユニットの断面斜視図である。
図15図15は、可動体へのフィラメントの取り付け構造の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図において、同一又は相当する要素同士には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
図1に示される電子線照射装置1は、照射対象物への電子線EBの照射によって、例えば当該照射対象物のインキの硬化、滅菌、又は表面改質等を行うために使用される。なお、以下、電子線照射装置1によって電子線EBが照射される側である電子線出射側(窓部9側)を、「前側」として説明する。
【0023】
図1図3に示されるように、電子線照射装置1は、フィラメントユニット(電子線発生源)2、真空容器(本体部)3、陰極保持部材4、陰極保持部材5、レール部6、高電圧導入絶縁部材7、絶縁支持部材8、及び窓部(電子取出部)9を備えている。フィラメントユニット2は、電子線EBを発生させる電子線発生部である。また、フィラメントユニット2は、長尺状のユニットとなっている。
【0024】
真空容器3は、金属等の導電性材料によって形成されている。真空容器3は、略円筒状を呈している。真空容器3は、内部に略円柱状の真空空間Rを形成する。フィラメントユニット2は、真空容器3の内部において、略円柱状の真空空間Rの軸線方向(長軸方向)に沿って配置されている。真空容器3におけるフィラメントユニット2の前側の位置には、真空空間Rと外部の空間とを連通する開口部3aが設けられている。窓部9は、開口部3aに対して、真空封止するように固定されている。
【0025】
窓部9は、窓材9a、及び支持体9bを備えている。窓材9aは、薄膜状に形成されている。窓材9aの材料としては、電子線EBの透過性に優れた材料(例えば、ベリリウム、チタン、アルミニウム等)が用いられる。支持体9bは、窓材9aよりも真空空間R側に配置され、窓材9aを支持する。支持体9bは、メッシュ状の部材であり、電子線EBを通過させる複数の孔を有している。
【0026】
真空容器3におけるフィラメントユニット2の後ろ側の位置には、真空容器3内の空気を排出するための排気口3bが設けられている。排気口3bに図示しない真空ポンプが接続され、真空ポンプによって真空容器3内の空気が排出される。これにより、真空容器3の内部が真空空間Rとなる。略円筒状を呈する真空容器3の両端における他方側の開口部3c及び一方側の開口部3dは、高電圧導入絶縁部材7のフランジ部7a及び蓋部3eによってそれぞれ閉じられている。
【0027】
陰極電位となる一対の陰極保持部材4及び5は、それぞれ真空容器3内に配置される。他方側の陰極保持部材4と一方側の陰極保持部材5との間には、陰極電位であり、フィラメントユニット2を包囲する包囲電極を兼ねるレール部6が設けられている。レール部6は、断面略C字状を呈する導電性かつ長尺状の部材である。レール部6は、断面略C字状の開口が前側(窓部9側)を向くように配置されている。レール部6は、内側部分(内側空間)においてフィラメントユニット2を保持する。例えば、フィラメントユニット2は、真空容器3の蓋部3eが取り外された状態において、陰極保持部材5及び絶縁支持部材8に設けられた挿入孔を介してレール部6の内側に差し込まれることによって、レール部6に保持される。
【0028】
高電圧導入絶縁部材7は、真空容器3における他方側の開口部3c側の端部に設けられている。高電圧導入絶縁部材7の他方の端部は、開口部3cを介して真空容器3の外部に突出している。高電圧導入絶縁部材7は、その径方向における外側に張り出すフランジ部7aを有し、真空容器3の開口部3cを封止する。高電圧導入絶縁部材7は、絶縁材料(例えばエポキシ樹脂等の絶縁性樹脂、セラミック等)によって形成されている。陰極保持部材4は、接地電位である真空容器3に対して電気的に絶縁された状態で高電圧導入絶縁部材7の一方の端部を保持する。
【0029】
また、高電圧導入絶縁部材7は、電子線照射装置1の外部の電源装置から高電圧の供給を受けるための高耐電圧型のコネクタである。高電圧導入絶縁部材7には、図示しない電源装置から高電圧供給用プラグが挿入される。高電圧導入絶縁部材7の内部には、外部から供給された高電圧をフィラメントユニット2等に供給するための内部配線が設けられている。この内部配線は、高電圧導入絶縁部材7を構成する絶縁材料によって覆われており、真空容器3との絶縁が確保されている。
【0030】
絶縁支持部材8は、真空容器3における一方側の開口部3d側の端部(蓋部3e側の端部)に設けられている。絶縁支持部材8は、絶縁材料(例えばエポキシ樹脂等の絶縁性樹脂、セラミック等)によって形成されている。陰極保持部材5は、真空容器3に対して電気的に絶縁された状態で絶縁支持部材8の他方側の端部を保持する。
【0031】
図3図5に示されるようにフィラメントユニット2は、レール部6に対して着脱可能なように、一つのユニットとして構成されている。フィラメントユニット2は、フィラメント(電子放出部)10、メインフレーム(枠部)11、グリッド電極12、サブフレーム13、給電線14、ガイド部材15、端子保持部材16、フィラメント固定部材17、及び張力保持ユニット20を備えている。
【0032】
メインフレーム11は、断面略コの字状を呈する長尺状の部材である。メインフレーム11は、断面略コの字状の開口が前側(窓部9側)を向くように配置されている。メインフレーム11の内側(内側空間)においてメインフレーム11の他方の端部には、フィラメント固定部材17が設けられている。また、メインフレーム11の内側(内側空間)においてメインフレーム11の一方の端部には、張力保持ユニット20が設けられている。
【0033】
フィラメント10は、通電によって加熱されることで電子線EBとなる電子を放出する電子放出部である。フィラメント10は、線状の部材であり、一方側から他方側に延びる、所望の軸線L上において延在している。フィラメント10は、高融点金属材料、例えばタングステンを主成分とした材料等によって形成されている。フィラメント10の一方の端部は、張力保持ユニット20に接続されている。フィラメント10の他方の端部は、フィラメント固定部材17に接続されている。このように、メインフレーム11は、フィラメント10の一方の端部に接続された張力保持ユニット20と、フィラメント10の他方の端部に接続されたフィラメント固定部材17とをそれぞれ支持する。
【0034】
端子保持部材16は、メインフレーム11の他方の端部に取り付けられている。端子保持部材16は、フィラメント10が電子を放出するための電流を供給するフィラメント用端子T1、フィラメントユニット2に陰極電位を供給する高電圧用端子T2、及びグリッド電極12への印加電圧を供給するグリッド電極用端子T3を互いに電気的に絶縁された状態で保持している。フィラメント用端子T1は、給電線14の他方の端部に接続されている。高電圧用端子T2は、フィラメント固定部材17と電気的に接続されている。
【0035】
サブフレーム13は、断面略コの字状を呈する長尺状の部材である。サブフレーム13は、メインフレーム11と平行に配置されている。給電線14は、フィラメント用端子T1との接続位置からサブフレーム13の内側(内側空間)を通って張力保持ユニット20に接続されており、サブフレーム13は給電線14の保護機能を備えている。メインフレーム11とサブフレーム13とは、複数のガイド部材15によって互いに連結されている。ガイド部材15の外面は、レール部6の内面と摺動可能に当接する。
【0036】
グリッド電極12は、フィラメント10の前側に配置され、ガイド部材15によって絶縁部材18を介して支持されている。グリッド電極12には、複数の孔が形成されている(図4等参照)。グリッド電極12は、図示しない配線を介してグリッド電極用端子T3と電気的に接続されている。
【0037】
張力保持ユニット20は、フィラメント10の張力を保持する。ここでは、張力保持ユニット20は、フィラメント10の一方側の端部に連結された可動体をばねによって押圧する又は引っ張ることによって、フィラメント10の張力を保持することができる。本実施形態おいて張力保持ユニット20は、可動体をばねによって引っ張ることによってフィラメント10の張力を保持する。張力保持ユニット20は、メインフレーム11とは絶縁部材等を介して電気的に絶縁された状態でメインフレーム11に取り付けられている。張力保持ユニット20には、給電線14の一方の端部が接続されている。張力保持ユニット20は、フィラメント10の張力を保持しつつ、給電線14を介して供給された電力をフィラメント10に供給することができる。
【0038】
フィラメントユニット2は、フィラメント用端子T1等が設けられた他方側の端部を先頭にして、陰極保持部材5及び絶縁支持部材8に設けられた挿入孔を介してレール部6の内側(内側空間)に挿入されて固定される。フィラメントユニット2の挿入が完了した位置において、フィラメント用端子T1、高電圧用端子T2、及びグリッド電極用端子T3の先端部は、高電圧導入絶縁部材7に設けられた3つの接続端子の先端部にそれぞれ当接する。これにより、フィラメント用端子T1等と、高電圧導入絶縁部材7に設けられた接続端子とが電気的に接続される。
【0039】
フィラメント10は、通電によって加熱された状態で、マイナス数10kV~マイナス数100kVといった高い負電圧が印加されることにより、電子を放出する。グリッド電極12には、所定の電圧が印加される。例えば、グリッド電極12には、フィラメント10に印加される負電圧よりも100V~150V程度プラス側の電圧が印加されてもよい。グリッド電極12は、電子を引き出すとともに拡散を抑制するための電界を形成する。これにより、フィラメント10から放出された電子は、グリッド電極12に設けられた孔から電子線EBとして前側に出射される。
【0040】
次に、フィラメント10の張力を保持する張力保持ユニット20の詳細について、図6及び図7を用いて説明する。なお、以下の説明において、説明の便宜上、張力保持ユニット20に対してフィラメント10が設けられている側(他方側)を「左側」、フィラメント10に対して張力保持ユニット20が設けられている側(一方側)を「右側」として説明する。すなわち、左右方向とは、一方側から他方側に延びる軸線L方向に沿った方向である。
【0041】
図6及び図7に示されるように、張力保持ユニット20は、可動体(可動部)21、筐体(支持部、筐体部)22、ばね(張力保持部)23、及び箔材(給電経路部)24を備えている。可動体21は、フィラメント10の一方の端部に連結されている。可動体21は、円柱部21a、及び接続部21bを有している。円柱部21aは、左右方向に沿って延在する円柱状を呈している。円柱部21aの左側の端部には、フィラメント10の一方の端部が固定される。円柱部21aとフィラメント10との固定方法については、種々の方法が採用され得る。接続部21bは、円柱部21aの右側の端部に連結されている。接続部21bには、ばね23の他方の端部及び箔材24の他方の端部がそれぞれ接続される。可動体21は、導電材料によって形成されている。可動体21は、例えば、ステンレス、銅、銅合金等の材料によって形成されている。
【0042】
可動体21は、軸線L上に設けられている。なお、可動体21が軸線L上に設けられていることとは、軸線Lに沿った方向から見たときに、可動体21の外縁の内側に軸線Lが位置する配置状態である。他の部材が軸線L上に設けられていることについても同様の意図とする。また、可動体21は、可動体21の重心位置が軸線L上に位置するように配置されているとよい。
【0043】
筐体22は、内部に収容空間(内部空間)Sを有する箱体である。筐体22の収容空間Sには、ばね23、箔材24、及び可動体21の右側端部が収容される。筐体22は、ばね23等を収容空間Sに収容できるように、一面が開口した箱部22a、及び箱部22aの開口部を覆う蓋部22bによって構成されていてもよい。筐体22におけるフィラメント10側(他方側)の壁部であるフィラメント側壁部22c(筐体22を構成する左側の壁部)には、ガイド孔(可動部保持部)22dが設けられている。ガイド孔22dは、軸線Lに沿って延在する。また、ガイド孔22dは、軸線Lに沿って延在する円柱状を呈する貫通孔である。ガイド孔22dの直径は、可動体21の円柱部21aの直径よりも所望の値だけ大きい。ガイド孔22dは、可動体21の円柱部21aを軸線Lに沿って移動可能にガイドする。すなわち、筐体22は、ガイド孔22dによって、可動体21を軸線Lに沿って移動可能に保持する。
【0044】
筐体22におけるフィラメント10側に対して反対側(一方側)の壁部である給電側壁部22e(筐体22を構成する右側の壁部)には、給電線14の一方の端部が接続される給電線接続部22fが設けられている。例えば、給電線14の端部は、給電線接続部22fにおいてボルトによって筐体22と電気的に接続される。これにより、筐体22は、給電線14等を介して、フィラメント10に給電する電源装置(給電装置)と電気的に接続される。筐体22は、導電材料によって形成されている。筐体22は、例えば、ステンレス、銅、銅合金等の材料によって形成されている。
【0045】
ばね23は、筐体22の収容空間Sに収容されている。ばね23は、軸線L上に設けられている。ばね23の他方の端部は、接続部21bにおける右側の端部に連結されている。ばね23と接続部21bとの連結位置は、軸線L上に位置している。ばね23の一方の端部は、筐体22の給電側壁部22eに連結されている。筐体22は、フィラメント10からばね23を直接見通せないように、ばね23を覆っている。ばね23と可動体21との連結位置(接続部分)は、収容空間S内に位置している。
【0046】
ばね23は、引張ばねである。ばね23は、可動体21が軸線Lに沿って移動するように可動体21に対して引張力を付与する。すなわち、ばね23は、可動体21との連結位置から軸線Lに沿った一方側方向に可動体21を引っ張る。可動体21は、フィラメント10の一方の端部とばね23の他方の端部とを連結している。これにより、ばね23は、可動体21に対して引張力を付与することによって可動体21を介してフィラメント10を引っ張り、フィラメント10の張力を保持する。ばね23は、例えば、ステンレス、インコネル等の材料によって形成されている。ばね23は、フィラメント10とは異なる材料によって形成されているとよい。ばね23の荷重は、動作時(フィラメント10の通電時)に所望の範囲にあることが必要であり、その範囲を逸脱するとフィラメント10の弛み、或いは、塑性変形、断線等の問題が発生する可能性がある。そのため、ばね23の荷重をFa、フィラメント10の許容引張荷重をFx、可動体21の重さ及び摩擦力を合わせたものをFyとすると、Fx+Fy> Faの関係が成立する必要がある。更に、フィラメント10の通電加熱により、フィラメント10の許容引張荷重について、常温時の許容引張荷重Fx1>加熱時の許容引張荷重Fx2という関係が生じるため留意する必要がある。従って、ばね23の荷重は0.01N~1000Nの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.01N~100N、さらに好ましくは0.1N~10Nの範囲であることが好ましい。
【0047】
箔材24は、筐体22の収容空間Sに収容されている。箔材24は、給電線14を介して筐体22に供給された電力を可動体21に供給する給電経路となる。箔材24は、一方の端部が筐体22の給電側壁部22eに接続されるとともに、他方の端部が可動体21の接続部21bに接続される。箔材24と可動体21との接続部分は、収容空間S内に位置している。これにより、箔材24は、可動体21を介してフィラメント10と電気的に接続される。箔材24は、ばね23よりも電気伝導性の良い材料によって形成されている。すなわち、ばね23の電気抵抗値は、箔材24の電気抵抗値よりも大きい。箔材24は、例えば、電気伝導性が良く且つ屈曲性が良い材料として、銅等によって形成されている。例えば、箔材24の材料として銅を用いる場合、銅の電気抵抗率は1.7×10-8Ω・mであるため、例えばその長さを50mmとした場合、その断面積を1.4×10-2mm以上とすれば、ばね23を例えばステンレスで形成した場合の電気抵抗は約6Ωとなるため、その1/100以下と十分に低くすることができる。
【0048】
箔材24は、金属によって形成された薄膜状の部材(金属薄膜部)である。箔材24の厚さは、箔材24の幅よりも薄く、箔材24の幅は、箔材24の長さよりも小さい。箔材24は、給電側壁部22eから可動体21側に向けて延在するとともに、先端部がU字状に折り返された状態で接続部21bに固定されている。このように、箔材24は、U字状に折り返された折返部24aを有しており、その左側の端部において、軸線Lに沿った位置関係としては重なった(二重になった)領域を備え、かつ、当該領域は軸線Lに垂直な方向においては互いに離間している。このため、箔材24の長さは、ばね23よりも長く、かつ箔材24と給電側壁部22eとの接続位置Aから、箔材24と可動体21との接続位置Bまでの長さ(直線の長さ)よりも長い。これにより、可動体21が軸線Lに沿って移動した場合であっても、箔材24は、箔材24における折返部24aの位置が移動する(二重になった領域が大きくなったり小さくなったりする)ことによって可動体21の移動を許容しつつ、給電側壁部22eと可動体21とが接続された状態を維持できる。
【0049】
図7に示されるように、筐体22は、一方の端部が給電側壁部22eに固定され、他方の端部が可動体21側に向かって延びる仕切部22gを更に備えていてもよい。仕切部22gは、ばね23と離間した状態で、ばね23の左側端部よりも左側まで、箔材24を載置するように延在し、ばね23と箔材24とを区画する。これにより、箔材24がばね23に接触することが防止される。
【0050】
このように、張力保持ユニット20では、ばね23の引張力によってフィラメント10の張力を維持できる。また、ばね23の長さ(自由長)は、フィラメント10が熱膨張によって長さが長くなった場合であっても、可動体21に引張力を付与できる長さとなっている。例えば、フィラメント10を構成する材料がタングステンである場合、全長500mmのフィラメント10が2000℃に加熱されると、タングステンの線膨張係数を5.2×10-6[1/K](2000℃)とすれば、約5mm程度、熱膨張によって長くなる。従って、フィラメント10の熱膨張分を吸収するためには、可動体21は少なくとも5mm程度の移動が可能となるようにする必要がある。加えて、周辺部材(例えばメインフレーム11)の熱膨張をも加味した移動範囲を確保すると、より好ましい。これにより、張力保持ユニット20は、フィラメント10が熱膨張をすることによって長さが変化した場合であっても、ばね23の引張力によってフィラメント10の張力を維持できる。このように、フィラメント10は、張力保持ユニット20によって直線状に張られた状態が維持される。
【0051】
また、張力保持ユニット20では、給電線14が接続される給電側壁部22eとフィラメント10が接続される可動体21とが、ばね23及び箔材24によってそれぞれ接続される。ここで、箔材24は、ばね23よりも電気伝導性の良い材料によって形成されている。これにより、ばね23ではなく、主に箔材24を通って給電側壁部22eから可動体21へ給電される。これにより、通電によるばね23の発熱が抑制され、熱の影響によってばね23の引張力に変動が生じたり、劣化すること等が抑制される。このように、張力保持ユニット20は、箔材24によって可動体21を介してフィラメント10に電力を供給しつつ、ばね23によってフィラメント10の張力を保持できる。より詳細には、フィラメント10への給電が可動体21を介することで、ばね23の伸縮による機械的摺動動作による擦れ等は可動体21が受け持つことになるため、フィラメント10への機械的ダメージを抑制しつつ、ばね23によるフィラメント10の張力の保持と、箔材24によるフィラメント10に対する給電への影響を抑制できる。
【0052】
以上のように、電子線照射装置1(フィラメントユニット2)では、フィラメント10と、可動体21と、ばね23とがそれぞれ同じ軸線L上に設けられている。このため、電子線照射装置1は、ばね23の引張力を可動体21を介して軸線L方向に沿ってフィラメント10に作用させ易くなる。これにより、ばね23の引張力が作用した場合であっても、フィラメント10の軸ずれ(軸線Lからのずれ)が抑制される。このように、電子線照射装置1は、フィラメント10に対してばね23の引張力を適切に作用させて、フィラメント10の軸ずれを抑制することができる。その結果、より均一な電子放出分布を得ることができる。
【0053】
ばね23は、可動体21が軸線Lに沿って移動するように可動体21に対して引張力を付与する。この場合、電子線照射装置1は、ばね23の引張力が作用した場合にフィラメント10の軸ずれをより一層抑制できる。
【0054】
可動体21の重心位置が軸線L上に位置するように配置されている場合、ばね23の引張力が作用した場合であっても、モーメントの作用によって可動体21が揺動することが抑制される。これにより電子線照射装置1は、フィラメント10の軸ずれをより一層抑制できる。
【0055】
フィラメント10とばね23とが互いに異なる部材によって形成されているため、電子線照射装置1は、フィラメント10からばね23へ熱が伝導することを抑制でき、ばね23が加熱されることを抑制できる。
【0056】
ばね23は、筐体22の収容空間Sに収容されている。この場合、電子線照射装置1は、フィラメント10からの放射熱の影響をばね23が受けることを抑制できる。これにより、電子線照射装置1は、熱の影響によってばね23の引張力に変動が生じること及び熱による劣化を抑制でき、フィラメント10の張力を安定して保持できる。
【0057】
筐体22は、フィラメント10からばね23を直接見通せないようにばね23を覆っている。この場合、電子線照射装置1は、フィラメント10から放出された電子がばね23に直接当たることを防止でき、電子が衝突することによって生じる加熱劣化及び損傷を抑制できる。
【0058】
筐体22には、軸線Lに沿って延在するとともに、可動体21を軸線Lに沿って移動可能に保持するガイド孔22dが設けられている。この場合、筐体22は、ガイド孔22dによって安定して可動体21を移動可能に保持することができる。
【0059】
ガイド孔22dは、軸線Lに沿って延在する円柱状を呈する貫通孔である。この場合、可動体21は、ガイド孔22d内において回転することができる。これにより、張力保持ユニット20は、例えば、ばね23の伸縮時にばね23がねじれることによって可動体21に回転方向の力が加わったとしても、ガイド孔22d内で可動体21が回転することによってねじれの力が一部に集中することを抑制しつつフィラメント10の張力を保持できる。これにより、電子線照射装置1は、ばね23にねじれが生じた場合であっても、その影響を抑制できる。
【0060】
フィラメント10は、張力保持ユニット20によって張力が保持されることによって、直線状を呈している。この場合、電子線照射装置1は、軸線L方向の各位置において均一に電子を照射できる。
【0061】
フィラメントユニット2は、フィラメント10の一方の端部が接続された張力保持ユニット20と、フィラメント10の他方の端部が接続されたフィラメント固定部材17と、を保持するメインフレーム11を備えている。この場合、フィラメントユニット2をメインフレーム11によって一体化することで、フィラメントユニット2の取り扱いを容易にすることができる。また、フィラメントユニット2を電子線照射装置1のレール部6に対して着脱可能とすることができるので、フィラメントユニット2とともにフィラメント10及び張力保持ユニット20を電子線照射装置1のレール部6に対して着脱できる。
【0062】
次に、電子線照射装置1に設けられる張力保持ユニットの種々の変形例について説明する。以下では、上記実施形態における張力保持ユニット20との相違点及び各変形例における張力保持ユニットとの相違点を中心に説明する。
【0063】
(第1変形例)
図8に示されるように、第1変形例における張力保持ユニット20Aは、可動体21A、筐体22A、ばね23、及び環状弾性体(給電経路部)25を備えている。可動体21Aは、左右方向に沿って延在する円柱状を呈している。可動体21Aの左側の端部には、フィラメント10の一方の端部が固定される。可動体21Aの右側の端部には、ばね23の他方の端部が連結される。可動体21Aは、軸線L上に設けられている。また、可動体21Aは、可動体21Aの重心位置が軸線L上に位置するように配置されている。可動体21Aは、導電材料によって形成されている。可動体21Aは、例えば、電気伝導性が良い材料として、銅合金、ステンレス等によって形成されている。
【0064】
筐体22Aは内部に収容空間Sを有する箱体である。筐体22Aの収容空間Sには、ばね23が収容される。筐体22Aは、ばね23を収容空間Sに収容できるように、一面が開口した箱部22aによって構成されていてもよい。筐体22Aにおけるフィラメント側壁部22cには、ガイド孔22dが設けられている。ガイド孔22dの直径は、可動体21Aの直径よりも所望の値だけ大きい。ガイド孔22dにおける軸線L方向の長さは、可動体21Aの長さよりも長い。ガイド孔22dは、可動体21Aを軸線Lに沿って移動可能にガイドする。すなわち、筐体22Aは、ガイド孔22dによって、可動体21Aを軸線Lに沿って移動可能に保持する。筐体22Aは、導電材料によって形成されている。筐体22Aは、例えば、電気伝導性が良い材料として、銅合金、ステンレス等によって形成されている。
【0065】
ばね23は、軸線L上に設けられている。ばね23の他方の端部は、可動体21Aの右側の端部に連結されている。ばね23と可動体21Aとの連結位置は、軸線L上に位置している。ばね23の一方の端部は、筐体22Aの給電側壁部22eに連結されている。筐体22Aは、フィラメント10からばね23を直接見通せないように、ばね23を覆っている。
【0066】
ばね23は、可動体21Aが軸線Lに沿って移動するように可動体21Aに対して引張力を付与する。すなわち、ばね23は、可動体21Aとの連結位置から軸線Lに沿った一方側方向に可動体21Aを引っ張る。これにより、ばね23は、可動体21Aに対して引張力を付与することによって可動体21Aを介してフィラメント10を引っ張り、フィラメント10の張力を保持する。
【0067】
環状弾性体25は、筐体22Aのガイド孔22d内に収容されている。環状弾性体25は、給電線14を介して筐体22Aに供給された電力を可動体21Aに供給する給電経路となる。環状弾性体25は、環状に形成された、導電性を備える弾性部材によって構成されている。環状弾性体25は、可動体21Aの、軸線Lと垂直に交わる方向の断面における外周面において周方向の全域にわたって延在する凹部21cに嵌め込まれている。
【0068】
環状弾性体25における径方向(軸線Lと垂直に交わる方向)の外周縁の部分(一方の端部)は、筐体22Aのガイド孔22dの内周面に当接し、電気的に接続される。環状弾性体25における径方向の内周縁の部分(他方の端部)は、可動体21Aの外周面(凹部21cの内壁面)に当接し、電気的に接続される。つまり、環状弾性体25は、凹部21cに嵌め込まれた状態において、その外周の径が可動体21Aの外周の径よりも大きく、その内周の径は、少なくとも可動体21Aの外周の径よりも小さい。これにより、環状弾性体25は、筐体22Aと電気的に接続されるとともに、可動体21Aを介してフィラメント10と電気的に接続される。環状弾性体25は、ばね23よりも電気伝導性の良い材料によって形成されている。すなわち、ばね23の電気抵抗値は、環状弾性体25の電気抵抗値よりも大きい。環状弾性体25は、例えば、電気伝導性が良い材料として、銅合金等によって形成されている。
【0069】
このように、張力保持ユニット20Aでは、実施形態における張力保持ユニット20と同様に、ばね23の引張力によってフィラメント10の張力を維持できる。また、張力保持ユニット20Aでは、筐体22Aと可動体21Aとが、ばね23及び環状弾性体25によってそれぞれ接続される。また、環状弾性体25は、ばね23よりも電気伝導性の良い材料によって形成されている。これにより、ばね23ではなく、主に環状弾性体25を通って筐体22Aから可動体21Aへ給電される。これにより、通電によるばね23の発熱が抑制され、熱の影響によってばね23の引張力に変動が生じたり、劣化すること等が抑制される。このように、張力保持ユニット20Aは、環状弾性体25によって可動体21Aを介してフィラメント10に電力を供給しつつ、ばね23によってフィラメント10の張力を保持できる。
【0070】
以上のように、電子線照射装置1は、張力保持ユニット20Aを備える場合であっても、実施形態における張力保持ユニット20を備える場合と同様の作用効果を奏することができる。
【0071】
(第2変形例)
図9に示されるように、第2変形例における張力保持ユニット20Bは、可動体21B、筐体22B、ばね(張力保持部)26、及び箔材(給電経路部)27を備えている。可動体21Bは、フィラメント10の一方の端部に連結されている。可動体21Bは、円柱部21a、及び小径円柱部21dを有している。小径円柱部21dは、円柱部21aよりも小径の本体部21d1と、本体部21d1よりも小径の先端部21d2を備えている。本体部21d1は円柱部21aの左側の端部に連結され、先端部21d2は本体部21d1の左側の端部に連結されている。小径円柱部21dの先端部21d2の左側の端部には、フィラメント10の一方の端部が固定される。可動体21Bは、軸線L上に設けられている。また、可動体21Bは、可動体21Bの重心位置が軸線L上に位置するように配置されている。可動体21Bは、導電材料によって形成されている。可動体21Bは、例えば、ステンレス、銅、銅合金等の材料によって形成されている。
【0072】
筐体22Bは、第1変形例における筐体22A(図8参照)に対して筐体ばね受け部(筐体張力受け部)22hを更に備えている。筐体ばね受け部22hは、フィラメント側壁部22cのフィラメント10側(他方側)の面に設けられている。筐体ばね受け部22hには、可動体21Bの小径円柱部21dの先端部21d2が挿通可能な小径孔22jが設けられている。小径孔22jの直径は、ガイド孔22dの直径よりも小さく、先端部21d2の直径よりも大きい。筐体22Bは、導電材料によって形成されている。筐体22Bは、例えば、ステンレス、銅、銅合金等の材料によって形成されている。
【0073】
ばね26は、筐体22Bのガイド孔22d内に収容されている。ばね26は、軸線L上に設けられている。ばね26の内側には、可動体21Bの小径円柱部21dの本体部21d1が通されている。つまり、ばね26の外径はガイド孔22dの内径よりも小さく、ばね26の内径は小径円柱部21dの本体部21d1の外径よりも大きい。ばね26の一方の端部は、可動体21Bにおける円柱部21aの左側の端面に当接する。ばね26の他方の端部は、筐体ばね受け部22hにおける右側の面に当接する。すなわち、可動体21Bにおける円柱部21aの左側の端面が、ばね26が当接する可動体ばね受け部(可動体張力受け部)21eとなる。筐体ばね受け部22hは、可動体ばね受け部21eよりもフィラメント10側に位置している。ばね26は、可動体ばね受け部21eと筐体ばね受け部22hとの間に配置されている。筐体ばね受け部22hは、フィラメント10からばね26を直接見通せないように、ばね26を覆っている(フィラメント10とばね26とを区画している)。
【0074】
ばね26は、圧縮ばねである。ばね26は、可動体21Bが軸線Lに沿って移動するように可動体21Bに対して押圧力を付与する。すなわち、ばね26は、可動体21Bとの当接位置から軸線Lに沿って、一方側方向に可動体21Bを押圧する。可動体21Bは、フィラメント10の一方の端部に連結されている。これにより、ばね26は、可動体21Bに対して押圧力を付与することによって可動体21Bを介してフィラメント10を右方向に引っ張り、フィラメント10の張力を保持する。ばね26は、例えば、ステンレス、インコネル等の材料によって形成されている。ばね26は、フィラメント10とは異なる材料によって形成されているとよい。
【0075】
箔材27は、筐体22Bの収容空間Sに収容されている。箔材27は、給電線14を介して筐体22Bに供給された電力を可動体21Bに供給する給電経路となる。箔材27は、一方の端部が筐体22Bの給電側壁部22eに接続されるとともに、他方の端部が可動体21Bの円柱部21aに接続される。これにより、箔材27は、可動体21Bを介してフィラメント10と電気的に接続される。箔材27は、ばね26よりも電気伝導性の良い材料によって形成されている。すなわち、ばね26の電気抵抗値は、箔材27の電気抵抗値よりも大きい。箔材27は、例えば、電気伝導性が良く且つ屈曲性の良い材料として、銅等によって形成されている。
【0076】
箔材27は、金属によって形成された薄膜状の部材(金属薄膜部)である。箔材27の厚さは、箔材27の幅よりも薄く、箔材27の幅は、箔材27の長さより小さい。箔材27の長さは、箔材27と給電側壁部22eとの接続位置Aから、箔材27と可動体21Bとの接続位置Bまでの長さ(軸線Lに沿った直線の長さ)よりも長い。これにより、可動体21Bが軸線Lに沿って移動した場合であっても、箔材24は、可動体21Bの移動を許容しつつ、給電側壁部22eと可動体21Bとが接続された状態を維持できる。
【0077】
このように、張力保持ユニット20Bでは、ばね26の押圧力によってフィラメント10の張力を維持できる。また、ばね26の長さ(自由長)は、フィラメント10が熱膨張をすることによって長さが長くなった場合であっても、可動体21Bに押圧力を付与できる長さとなっている。これにより、張力保持ユニット20Bは、フィラメント10が熱膨張をすることによって長さが変化した場合であっても、ばね26の押圧力によってフィラメント10の張力を維持できる。このように、フィラメント10は、張力保持ユニット20Bによって直線状に張られた状態が維持される。
【0078】
また、張力保持ユニット20Bでは、筐体22Bと可動体21Bとが、ばね26及び箔材27によってそれぞれ接続される。ここで、箔材27は、ばね26よりも電気伝導性の良い材料によって形成されている。これにより、ばね26ではなく、主に箔材27を通って給電側壁部22eから可動体21Bへ給電される。これにより、通電によるばね26の発熱が抑制され、熱の影響によってばね26の押圧力に変動が生じること等が抑制される。このように、張力保持ユニット20Bは、箔材27によって可動体21Bを介してフィラメント10に電力を供給しつつ、ばね26によってフィラメント10の張力を保持できる。
【0079】
以上のように、電子線照射装置1は、張力保持ユニット20Bを備える場合であっても、実施形態における張力保持ユニット20を備える場合と同様の作用効果を奏することができる。
【0080】
具体的には、張力保持ユニット20Bを備える電子線照射装置1(フィラメントユニット2)では、フィラメント10と、可動体21Bと、ばね26とがそれぞれ同じ軸線L上に設けられている。このため、電子線照射装置1は、ばね26の押圧力を可動体21Bを介して軸線L方向に沿ってフィラメント10に作用させ易くなる。これにより、ばね26の押圧力が作用した場合であっても、フィラメント10の軸ずれ(軸線Lからのずれ)が抑制される。このように、張力保持ユニット20Bを備える電子線照射装置1は、フィラメント10に対してばね26の押圧力を適切に作用させて、フィラメント10の軸ずれを抑制することができる。その結果、より均一な電子放出分布を得ることができる。
【0081】
ばね26は、可動体21Bが軸線Lに沿って移動するように可動体21Bに対して押圧力を付与する。この場合、張力保持ユニット20Bを備える電子線照射装置1は、ばね26の押圧力が作用した場合にフィラメント10の軸ずれをより一層抑制できる。
【0082】
可動体21Bは、可動体21Bの重心位置が軸線L上に位置するように配置されている。この場合、ばね26の押圧力が作用した場合であっても、モーメントの作用によって可動体21Bが揺動することが抑制される。これにより張力保持ユニット20Bを備える電子線照射装置1は、フィラメント10の軸ずれをより一層抑制できる。
【0083】
フィラメント10とばね26とが互いに異なる部材によって形成されている場合、張力保持ユニット20Bを備える電子線照射装置1は、フィラメント10からばね26へ熱が伝導することを抑制でき、ばね26が加熱されることを抑制できる。
【0084】
ばね26は、筐体22Bのガイド孔22dに収容されている。この場合、張力保持ユニット20Bを備える電子線照射装置1は、フィラメント10からの放射熱の影響をばね26が受けることを抑制できる。これにより、張力保持ユニット20Bを備える電子線照射装置1は、熱の影響によってばね26の押圧力に変動が生じること及び熱による劣化を抑制でき、フィラメント10の張力を安定して保持できる。
【0085】
筐体ばね受け部22hに設けられた小径孔22jはガイド孔22dよりも径が小さく、小径円柱部21dが通る程度の径となっている。また、筐体ばね受け部22hは、フィラメント10からばね26を直接見通せないように、ばね26を覆っている。この場合、張力保持ユニット20Bを備える電子線照射装置1は、フィラメント10から放出された電子がばね26に直接当たることを防止でき、電子が衝突することによって生じる加熱劣化及び損傷を抑制できる。
【0086】
(第3変形例)
図10に示されるように、第3変形例における張力保持ユニット20Cは、第2変形例における張力保持ユニット20B(図9参照)の構成のうち、箔材27に代えて、第1変形例における張力保持ユニット20A(図8参照)の環状弾性体25を備える構成となっている。具体的には、張力保持ユニット20Cは、可動体21C、筐体22B、環状弾性体(給電経路部)25、及びばね26を備えている。可動体21Cの円柱部21aの外周面には、凹部21cが設けられている。円柱部21aの凹部21cには、環状弾性体25が嵌め込まれている。
【0087】
張力保持ユニット20Cでは、第2変形例における張力保持ユニット20Bと同様に、ばね26の押圧力によってフィラメント10の張力を維持できる。また、張力保持ユニット20Cでは、筐体22Bと可動体21Cとが、環状弾性体25及びばね26によってそれぞれ接続される。ここで、環状弾性体25は、ばね26よりも電気伝導性の良い材料によって形成されている。これにより、ばね26ではなく、主に環状弾性体25を通って筐体22Bから可動体21Cへ給電される。これにより、通電によるばね26の発熱が抑制され、熱の影響によってばね26の押圧力に変動が生じること等が抑制される。このように、張力保持ユニット20Cは、環状弾性体25によって可動体21Cを介してフィラメント10に電力を供給しつつ、ばね26によってフィラメント10の張力を保持できる。
【0088】
以上のように、電子線照射装置1は、張力保持ユニット20Cを備える場合であっても、第2変形例における張力保持ユニット20Bを備える場合と同様の作用効果を奏することができる。
【0089】
(第4変形例)
図11に示されるように、第4変形例における張力保持ユニット20Dは、第2変形例における張力保持ユニット20B(図9参照)の構成に対し、絶縁リング(絶縁部材)28、及び絶縁リング(絶縁部材)29を更に備えている。すなわち、張力保持ユニット20Dは、可動体21B、筐体22B、ばね26、箔材27、絶縁リング28、及び絶縁リング29を備えている。
【0090】
絶縁リング28は、ばね26と筐体ばね受け部22hとの間に配置されている。絶縁リング28は、筐体22Bとばね26とを電気的に絶縁する。絶縁リング28は、ばね26よりも導電性が低い材料によって形成されている。絶縁リング28の外縁部は、ばね26の外周部を囲むように、ばね26側に向けて軸線Lに沿った方向に突出している。これにより、絶縁リング28は、ばね26の外周部がガイド孔22dの内周面に当接することを防止できる。また、絶縁リング28の内周部によって、ばね26の軸線Lに垂直な方向における位置決めもされるので、ばね26と可動体21Bの小径円柱部21dとの接触も抑制されている。
【0091】
同様に、絶縁リング29は、可動体21Bにおける円柱部21aの可動体ばね受け部21eとばね26との間に配置されている。絶縁リング29は、可動体21Bとばね26とを電気的に絶縁する。絶縁リング29は、ばね26よりも導電性が低い材料によって形成されている。絶縁リング29の外縁部は、ばね26の外周部を囲むように、ばね26側に向けて軸線Lに沿った方向に突出している。これにより、絶縁リング29は、ばね26の外周部がガイド孔22dの内周面に当接することを防止できる。また、絶縁リング29の内周部によって、ばね26の軸線Lに垂直な方向における位置決めもされるので、ばね26と可動体21Bの小径円柱部21dとの接触も抑制されている。
【0092】
なお、張力保持ユニット20Dは、絶縁リング28及び絶縁リング29のいずれか一方のみを備える構成であってもよい。
【0093】
以上のように、第4変形例における張力保持ユニット20Dでは、絶縁リング28及び29を備えることによって、ばね26に電気が流れることをより一層抑制できる。これにより、張力保持ユニット20Dは、通電によるばね26の発熱をより一層抑制できる。
【0094】
(第5変形例)
図12に示されるように、第5変形例における張力保持ユニット20Eは、第3変形例における張力保持ユニット20C(図10参照)の構成に対し、絶縁リング(絶縁部材)28、及び絶縁リング(絶縁部材)29を更に備えている。すなわち、張力保持ユニット20Eは、可動体21C、筐体22B、環状弾性体25、ばね26、絶縁リング28、及び絶縁リング29を備えている。絶縁リング28及び29は。第4変形例における絶縁リング28及び29と同じ構成である。
【0095】
以上のように、第5変形例における張力保持ユニット20Eでは、絶縁リング28及び29を備えることによって、ばね26に電気が流れることをより一層抑制できる。これにより、張力保持ユニット20Eは、通電によるばね26の発熱をより一層抑制できる。
【0096】
ここで、例えば、図6及び図7を用いて説明した実施形態における張力保持ユニット20においても、ばね23に電気が流れることを更に抑制することができる。具体的には、図6及び図7に示される張力保持ユニット20の接続部21bは、ばね23が連結される部分(引っ掛けられる部分)が絶縁材料(例えばセラミック等)によって構成されていてもよい。または、接続部21bのうちばね23が連結される部分には、絶縁コーティングが施されていてもよい。さらに、張力保持ユニット20のばね23には、絶縁コーティングが施されていてもよい。同様に、例えば、図8を用いて説明した第1変形例の張力保持ユニット20Aの可動体21Aのうちばね23が連結される部分(引っ掛けられる部分)が絶縁材料(例えばセラミック等)によって構成されていてもよい。または、可動体21Aのうちばね23が連結される部分には、絶縁コーティングが施されていてもよい。さらに、張力保持ユニット20Aのばね23には、絶縁コーティングが施されていてもよい。これらの場合であっても、張力保持ユニット20及び20Aは、ばね23に電気が流れることをより一層抑制でき、通電によるばね23の発熱をより一層抑制できる。
【0097】
(第6変形例)
図13に示されるように、第6変形例における張力保持ユニット20Fは、実施形態における張力保持ユニット20の筐体22を、2つに分割したものである。具体的には、張力保持ユニット20Fは、可動体21、筐体22F、ばね23、及び箔材24を備えている。筐体22Fは、第1筐体部22k、及び第2筐体部22mを備えている。
【0098】
第1筐体部22kには、可動体21の円柱部21aが通されるガイド孔22dが設けられている。第2筐体部22mは、ばね23、及び箔材24の給電側壁部22e側の部位をを収容する収容空間Sを有している。第1筐体部22kと第2筐体部22mとは、絶縁物を介してフィラメントユニット2のメインフレーム11に取り付けられている。すなわち、第1筐体部22kと第2筐体部22mとは互いに電気的に絶縁されている。
【0099】
以上のように、電子線照射装置1は、張力保持ユニット20Fを備える場合であっても、実施形態における張力保持ユニット20を備える場合と同様の作用効果を奏することができる。また、張力保持ユニット20Fは、第1筐体部22kに設けられたガイド孔22dの内周面から可動体21へ直接給電されることなく、給電側壁部22eから箔材24を介して可動体21へ給電できる。このように、張力保持ユニット20Fは、互いに摺動する部材間を介して給電する構成ではないため、可動体21に対してより確実に給電できる。
【0100】
(第7変形例)
図14に示されるように、第7変形例における張力保持ユニット20Gは、第1変形例における張力保持ユニット20Aの筐体22Aを、2つに分割したものである。具体的には、張力保持ユニット20Gは、可動体21A、筐体22G、ばね23、及び環状弾性体25を備えている。筐体22Gは、第1筐体部22n、及び第2筐体部22pを備えている。
【0101】
第1筐体部22nには、可動体21Aが通されるガイド孔22dが設けられている。ばね23の一方の端部は可動体21Aの右側端部に連結される。ばね23の他方の端部は、第2筐体部22pに連結されている。第1筐体部22nと第2筐体部22pとは、絶縁物を介してフィラメントユニット2のメインフレーム11に取り付けられている。すなわち、第1筐体部22nと第2筐体部22pとは互いに電気的に絶縁されている。
【0102】
第1筐体部22nには、給電線14の端部が接続される。張力保持ユニット20Gでは、第1筐体部22nから環状弾性体25及び可動体21Aを介してフィラメント10へ給電される。これにより、通電によるばね23の発熱が抑制され、熱の影響によってばね23の引張力に変動が生じること等が抑制される。このように、張力保持ユニット20Gは、環状弾性体25によって可動体21Aを介してフィラメント10に電力を供給しつつ、ばね23によってフィラメント10の張力を保持できる。
【0103】
(フィラメントの固定方法の一例)
次に、実施形態における張力保持ユニット20の可動体21の先端部にフィラメント10を固定する方法の一例について説明する。以下で説明するフィラメント10の固定方法は、上述した張力保持ユニットの種々の変形例にも適用可能である。図15に示されるように、可動体21の円柱部21aの先端面(他端面)には、軸線Lに沿って延在するボルト孔21fが設けられている。フィラメント10の先端部(一端側部)には、フィラメント固定部材40が取り付けられている。フィラメント固定部材40は、筒部41、及びフランジ部42を備えている。筒部41には、フィラメント10の先端部が通されて固定されている。ここでは、筒部41は、かしめられることによって、内周面でフィラメント10の先端部を挟み込み、フィラメント10に取り付けられていてもよい。フランジ部42は、筒部41の可動体21側の端部の外周面から、外側に向って張り出している。
【0104】
フィラメント固定部材40は、孔付きボルト50によって可動体21の先端部に固定される。孔付きボルト50には、孔付きボルト50の軸方向に沿って延在する貫通孔50aが設けられている。貫通孔50a内には、フランジ部42が孔付きボルト50の先端部に当接するように、フィラメント固定部材40の筒部41及びフィラメント10の一部が通されている。孔付きボルト50は、貫通孔50aに筒部41等が通された状態で、円柱部21aのボルト孔21fに取り付けられる。フィラメント10の先端部に取り付けられたフィラメント固定部材40は、孔付きボルト50の先端部と円柱部21aのボルト孔21fの底部とによってフランジ部42が挟み込まれることによって、円柱部21aの先端部に固定される。
【0105】
このように、図15に示される構成では、孔付きボルト50を用いることによって、可動体21からフィラメント10を容易に着脱できる。これにより、この構成では、フィラメント10の交換が容易となる。また、この構成によれば、可動体21は、軸ずれを抑制しつつ、フィラメント10を軸線L方向に容易に引っ張ることができる。
【0106】
以上、本発明の実施形態及び種々の変形例について説明したが、本発明は、上記実施形態及び種々の変形例に限定されない。なお、以下に説明する構成は、可能な限り全ての実施形態及び種々の変形例に適用可能とする。実施形態の張力保持ユニット20において、ばね23は、例えばガイド孔22dによって可動体21の移動方向がガイドされている等の構成が設けられていれば、可動体21を軸線Lに沿った方向に引っ張る構成でなくてもよい。例えば、ばね23が軸線Lとは少しずれた方向に可動体21を引っ張る構成であっても、ガイド孔22dによって可動体21の移動方向が軸線L方向にガイドされていればよい。実施形態の張力保持ユニット20において、可動体21は、可動体21の重心位置が軸線L上に位置することに限定されない。
【0107】
実施形態における張力保持ユニット20において、ばね23が筐体22の収容空間Sに収容されていることに限定されない。例えば、筐体22が収容空間Sを有していない場合、ばね23は、収容空間Sに収容されない構成であってもよい。実施形態の張力保持ユニット20において、ばね23は、フィラメント10から直接見通せないように配置されている構成に限定されない。実施形態の張力保持ユニット20において、可動体21は、筐体22のガイド孔22dによってガイドされていなくてもよい。なお、可動体21が筐体22のガイド孔22dによってガイドされる場合、可動体21やガイド孔22dの形状は、軸線Lに沿って延在する円柱状を呈していることに限定されない。可動体21やガイド孔22dは、円柱状以外の形状、例えば多角形状を呈していてもよい。
【0108】
フィラメント10は、全ての部分が直線状の部材であることに限定されない。例えば、フィラメント10は、コイル状を呈するコイル状部を有していてもよい。この場合、フィラメント10は、自身が有するコイル状部によってもフィラメント10の張力を保持できる。このように、電子線照射装置は、フィラメント10に対して張力を保持する機能を持たせることができる。
【0109】
また、フィラメントユニット2は、X線を照射するX線照射装置に設けられた電子線発生源として用いられてもよい。フィラメントユニット2をX線照射装置の電子線発生源として用いる場合、フィラメントユニット2を収容する本体部と、フィラメントユニット2からの電子が入射することでX線を発生するX線発生部としてのX線ターゲット(例えば、タングステン、モリブデン等)と、X線を本体部の外部に取り出すためのX線取出部と、を備える。この場合、X線取出部の一例として、図1に示される窓部9が、X線の透過性の高い窓材(例えば、ベリリウム、ダイヤモンド等)と、窓材の真空空間R側の面に設けられたX線ターゲットとによって構成されるX線照射用の窓部に変更されてもよい。これにより、フィラメントユニット2から出射された電子線EBをX線ターゲットに入射させ、X線ターゲットからX線を出射させることができる。
【0110】
以上に記載された実施形態及び種々の変形例の少なくとも一部が任意に組み合わせられてもよい。
【符号の説明】
【0111】
1…電子線照射装置、2…フィラメントユニット(電子線発生源)、10…フィラメント(電子放出部)、11…メインフレーム(枠部)、20,20A~20G…張力保持ユニット、21,21A~21C…可動体、22,22A,22B,22F,22G…筐体(支持部、筐体部)、22d…ガイド孔(可動部保持部)、23,26…ばね(張力保持部)、L…軸線、S…収容空間(内部空間)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15