(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】トロイダル無段変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 15/38 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
F16H15/38
(21)【出願番号】P 2020077947
(22)【出願日】2020-04-27
【審査請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 賢司
(72)【発明者】
【氏名】今井 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 謙一郎
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-71609(JP,A)
【文献】米国特許第2112763(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸の周りに配置され、互いに対向配置された一対のディスクと、
前記一対のディスクの間に傾転可能に挟まれた少なくとも1つのパワーローラと、
内輪、外輪、及び前記内輪と前記外輪に挟まれた転動体を有し、前記回転軸に組み付けられて前記一対のディスクのうち少なくとも一方からアキシャル方向の荷重を受ける軸受と、
頭部及び軸部を有し、前記軸部が前記回転軸の軸端面に螺入されたボルトとを備え、
前記軸受は、前記内輪が前記回転軸の前記軸端面と前記ボルトの前記頭部との間に挟み込まれることによって前記回転軸に組み付けられている、
トロイダル無段変速機。
【請求項2】
前記ボルトの前記軸部は、外周面に雄ネジが形成された雄ネジ部と、前記雄ネジ部よりも先端側に設けられて前記雄ネジ部よりも小径の円筒部とを有し、
前記回転軸の軸端部は回転軸線を中心とする円筒状であって、前記雄ネジと螺合する雌ネジが内周面に形成された雌ネジ部と、内周面が前記円筒部の外周面と接触する調心部とを有する、
請求項1に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項3】
前記軸受の前記内輪は、前記ボルトの座面が着座するボルト座と、前記ボルト座の周囲に設けられた環状突部とを有し、
前記ボルトの前記頭部の外周面と前記環状突部の内周面とが接触する、
請求項1又は2に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項4】
前記転動体と前記内輪との接触点が、前記ボルトの前記頭部の外周縁よりも径方向内側に位置する、
請求項1~3のいずれか一項に記載のトロイダル無段変速機。
【請求項5】
前記回転軸は、前記回転軸の内部に軸線方向へ延びる油路を有し、
前記ボルトは、前記ボルトの軸心部において前記頭部と前記軸部を貫通し、前記油路と連通する貫通孔を有する、
請求項1~4のいずれか一項に記載のトロイダル無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロイダル無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や航空機用発電機等に用いられるトロイダル無段変速機が知られている。トロイダル無段変速機は、入力ディスク及び出力ディスクと、これらのディスクの間に挟まれたパワーローラとを備える。パワーローラが回転することによって、動力が入力ディスクから出力ディスクへ伝達される。その際、パワーローラの傾きを変化させる(即ち、入力ディスク及び出力ディスクとの接触半径を変化させる)ことにより、出力を無段階で減速又は増速することができる。トロイダル無段変速機には、入力ディスクと出力ディスクとを互いに近づく向きに付勢するために、ローディングカム式の押圧装置が設けられたものがある。特許文献1は、この種のトロイダル無段変速機を開示する。
【0003】
特許文献1のトロイダル無段変速機では、入力ディスクと入力軸との間に、ローディングカム式の押圧装置が設けられている。この押圧装置は、入力軸とともに回転するカム板と、入力ディスクとカム板との間に挟まれた複数のローラと、カム板を回転軸に回動可能に支持させるサポート軸受とを備える。サポート軸受はスラストアンギュラ玉軸受であって、内輪と、外輪と、内輪及び外輪に挟まれた転動体とを有する。回転軸に内輪が嵌められたうえ、回転軸の内輪よりも突出した部分にナットが螺嵌されることによって、サポート軸受けが回転軸に組み付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のトロイダル無段変速機では、サポート軸受の内輪を回転軸に組み付けるために、ナットが用いられている。そのため、ナットのねじ込み量だけ回転軸は内輪から突出していなければならない。トロイダル無段変速機では更なる小型化が求められており、回転軸の軸長の短縮という観点で改良の余地が残されている。
【0006】
以上に鑑み、本発明は、トロイダル無段変速機において、アキシャル荷重を受ける軸受(例えば、スラスト玉軸受やスラストアンギュラ玉軸受)が組み付けられた回転軸の軸長の短縮化を実現する、軸受の組付構造を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るトロイダル無段変速機は、
回転軸と、
前記回転軸の周りに配置され、互いに対向配置された一対のディスクと、
前記一対のディスクの間に傾転可能に挟まれた少なくとも1つのパワーローラと、
内輪、外輪、及び前記内輪と前記外輪に挟まれた転動体を有し、前記回転軸に組み付けられて前記一対のディスクのうち少なくとも一方からアキシャル方向の荷重を受ける軸受と、
頭部及び軸部を有し、前記軸部が前記回転軸の軸端面に螺入されたボルトとを備え、
前記軸受は、前記内輪が前記回転軸の前記軸端面と前記ボルトの前記頭部との間に挟み込まれることによって前記回転軸に組み付けられていることを特徴としている。
【0008】
上記構成の変速機では、軸受が組付けられる回転軸の軸端部は、軸受の内輪よりも軸線方向に突出していない。よって、従来のように、回転軸の軸端部を軸受の内輪より突出させて、当該突出部分にナットや止め輪を設ける場合と比較して、回転軸の軸長を短縮することができる。これにより、変速機の小型化に寄与することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、トロイダル無段変速機において、アキシャル荷重を受ける軸受が組み付けられた回転軸の軸長を短縮化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るトロイダル無段変速機を備える駆動機構一体型発電装置の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すトロイダル無段変速機の押圧装置及びその近傍の拡大図である。
【
図3】
図3は、回転軸及びそれに組み付けられたサポート軸受の拡大断面図である。
【
図4】
図4は、回転軸の軸端面及びその近傍の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係るトロイダル無段変速機10を備える駆動機構一体型発電装置1の断面図である。
図1に示すように、駆動機構一体型発電装置1(Integrated Drive Generator:IDG)は、航空機の交流電源に用いられるものであって、航空機のエンジンに取り付けられるケーシング2を備える。ケーシング2には、入力機構3と、トロイダル無段変速機(以下、単に「変速機10」と称する)と、動力伝達機構7と、発電機5とが収容されている。なお、変速機10は、駆動機構一体型発電装置の一部とした構成でなくてもよく、用途も航空機に限られない。
【0013】
〔変速機10の概略構成〕
変速機10は、同軸上に配置されて相対回転可能な変速機入力軸11及び変速機出力軸12を備える。以下、変速機入力軸11及び変速機出力軸12の軸線を「回転軸線A1」と称する。また、回転軸線A1の延伸方向を「軸線方向X」と称する。変速機入力軸11は、入力機構3を介してエンジン回転軸(図示せず)に接続されている。入力機構3は、エンジン回転軸からの回転動力が入力される装置入力軸3aと、装置入力軸3aと一体回転するギヤ3bとを含む。変速機入力軸11には、それと一体回転するギヤ6が設けられている。変速機出力軸12は、動力伝達機構7を介して発電機5の発電機入力軸5aに接続されている。
【0014】
エンジン回転軸から取り出された回転動力は、入力機構3を介して変速機入力軸11に入力され、変速機入力軸11の回転動力が入力ディスク13に伝達される。変速機10は、変速機入力軸11の回転を変速して変速機出力軸12に出力する。変速機出力軸12の回転動力は、動力伝達機構7を介して発電機入力軸5aに伝達される。発電機入力軸5aが回転駆動されると、発電機5が交流電力を発生する。変速機10の変速比は、エンジン回転軸の回転速度の変動に関わらず発電機入力軸5aの回転速度を適値(航空機の電装品の作動に適した周波数に対応する値)に保つように連続的に変更される。
【0015】
変速機10は、一例として、ハーフトロイダル型且つダブルキャビティ型であり、二組の入力ディスク13,13及び出力ディスク14,15を備える。但し、変速機10は、ダブルキャビティ型に限定されず、例えば、シングルキャビティ型でもよい。
【0016】
入力ディスク13,13は変速機入力軸11に嵌合されており、変速機入力軸11と一体的に回転軸線A1を中心として回転する。出力ディスク14,15は変速機出力軸12に嵌合されており、変速機出力軸12と一体的に回転軸線A1を中心として回転する。
【0017】
入力ディスク13は凹面21aを有する。出力ディスク14,15は凹面31aを有する。入力ディスク13と出力ディスク14とは、互いの凹面21a,31aが対向するように、軸線方向Xに対向配置されている。同様に、入力ディスク13と出力ディスク15とは、互いの凹面21a,31aが対向するように、軸線方向Xに対向配置されている。対向する凹面21a,31aによって回転軸線A1回りに円環状のキャビティが形成されている。
【0018】
変速機10は、一例として、中央入力型である。変速機出力軸12は、変速機入力軸11内に挿通されて、変速機入力軸11から軸線方向Xの両側に突出する。一対の入力ディスク13,13は、中央ディスクであって、変速機入力軸11上で背中合わせに配置されている。一対の出力ディスク14,15は、外ディスクであって、一対の入力ディスク13,13の軸線方向Xの外側に配置されている。一対の入力ディスク13,13間には、変速機入力軸11の外周面上に設けられて当該変速機入力軸11と一体回転するギヤ6が配置されている。
【0019】
一方側の出力ディスク14は、変速機出力軸12の端部に設けられた凸部12aによって、回転軸線A1外方への変位が規制されている。他方側の出力ディスク15は、予圧バネ64によって入力ディスク13に向けて付勢され、且つ、回転駆動時には押圧装置17によって入力ディスク13に向けて付勢される。出力ディスク15は、押圧装置17を介して動力伝達機構7に動力伝達可能に接続されている。押圧装置17については、後ほど詳細に説明する。
【0020】
変速機10は、キャビティ内に配置された複数のパワーローラ18と、複数のパワーローラ18をそれぞれ傾転可能に支持する複数のトラニオン19とを備える。トラニオン19は、傾転軸線A2周りに傾転可能かつ傾転軸線A2方向に変位可能な状態でケーシング2に支持される。傾転軸線A2は、回転軸線A1とねじれの位置にある。パワーローラ18は、傾転軸線A2に対して垂直な回転軸線(図示略)回りに回転自在にトラニオン19に支持される。トラニオン19は、油圧駆動機構(図示略)に接続されており、その油圧駆動機構がトラニオン19をパワーローラ18とともに傾転軸線A2方向に往復変位させる。
【0021】
〔押圧装置17の構成〕
図2は、
図1に示すトロイダル無段変速機10の押圧装置17及びその近傍の拡大図である。
図2に示すように、押圧装置17は、カム板61と、ローラユニット60とを有する。
【0022】
カム板61は、出力ディスク15の背面(凹面31aと反対側の面)と対向するように、変速機出力軸12に遊嵌されている。カム板61は中空円盤状のカム部611と、カム部611の外周縁部分から軸線方向Xに突出する円筒状の筒軸部612とを一体的に有する。
【0023】
カム部611の主面は、出力ディスク15の背面と対峙している。カム部611の主面は第1カム面613であり、凹凸が円周方向に亘って繰り返し形成されている。第1カム面613と対峙する出力ディスク15の背面には、第2カム面151が設けられている。第2カム面151にも、第1カム面613と対応するように、凹凸が円周方向に亘って繰り返し形成されている。
【0024】
ローラユニット60は、第1カム面613と第2カム面151と軸線方向Xの間に設けられている。ローラユニット60は、保持器62と、保持器62に保持された複数のローラ63とからなる。各ローラ63は第1カム面613及び第2カム面151に挟まれており、その周面は第1カム面613及び第2カム面151の双方と接触する。
【0025】
保持器62に、回転軸線A1を中心として円周方向に略等間隔に並ぶ複数のローラ組63Gが保持されている。1組のローラ組63Gは、径方向に延びる自転軸線上に並ぶ少なくとも1つのローラ63(本実施形態では3つ)を含む。ローラ組63Gの各ローラ63は、ローラ組63Gの自転軸線を中心として回転可能である。
【0026】
押圧装置17が出力ディスク15から受けるアキシャル方向の荷重は、変速機出力軸12に固定されたサポート軸受4によって支持される。サポート軸受4は、カム板61の背面側(即ち、カム部611と反対側)に配置されて当該カム板61を変速機出力軸12に相対回転可能に支持させる。具体的には、サポート軸受4は内輪41と、外輪42と、内輪41と外輪42との間に回転自在に挟まれた転動体43とを有する。内輪41は変速機出力軸12に固定されている。外輪42は内輪41に対し回転自在であり、外輪42はカム板61と一体的に回転軸線A1を中心として回転する。
【0027】
カム板61とサポート軸受4との間には予圧バネ64が配置されている。予圧バネ64は、変速機出力軸12の非回転時にも出力ディスク15が入力ディスク13へ向けて押圧(予圧)されるように、カム板61に出力ディスク15へ向かう軸線方向Xの押圧力を付与するものである。本実施形態に係る予圧バネ64は、カム板61のカム部611とサポート軸受4の外輪42との間に挟まれて、軸線方向Xに圧縮されている。
【0028】
サポート軸受4の外輪42は、バネ当接部47と、バネ当接部47よりも径方向外側に位置するストッパ部48とを有する。バネ当接部47は筒軸部612の径方向内側に位置し、予圧バネ64と当接している。本実施形態では、バネ当接部47と予圧バネ64との間には調整部材としてのシム板66が設けられており、より詳細にはバネ当接部47はシム板66と当接している。シム板66は、カム板61と予圧バネ64との間に設けられていてもよい。ストッパ部48は、カム板61の筒軸部612と僅かな間隙Gを空けて軸線方向Xに対峙している。
【0029】
カム板61が非回転の状態において、間隙Gの軸線方向Xの長さは、予圧バネ64の弾性限度における軸線方向Xの変形量よりも小さい。よって、カム板61が回転して、カム作用により出力ディスク15とカム板61とが互いに離れるように軸線方向Xに相対変位し始めると、予圧バネ64が弾性変形範囲内にあるうちにカム板61がストッパ部48に当たって間隙Gが無くなる。カム板61がストッパ部48に当たった後は、カム板61の回転速度の増加に伴って、カム作用による出力ディスク15への押圧力が増加していく。このように、伝達トルクの増加に伴ってカム作用によって出力ディスク15がカム板61から離れるように押圧されることで、入力ディスク13と出力ディスク15とが互いに近づく向きに付勢され、パワーローラ18が入力ディスク13と出力ディスク15との間で十分な接触圧で挟まれる。
【0030】
カム板61の筒軸部612の外周面には、外歯614が形成されている。この外歯614は、動力伝達機構7の第1ギヤ71に設けられた内歯711と噛合して、ドッグクラッチを構成している。出力ディスク15から複数のローラ63を介して回転力を受けてカム板61が回転すると、カム板61の回転が動力伝達機構7の第1ギヤ71へ伝達される。動力伝達機構7は、変速機10からの出力を発電機5及びオイルポンプユニット(図示略)へ伝達する。
【0031】
〔動力伝達機構7の構成〕
図1に示すように、動力伝達機構7は、第1ギヤ71~第4ギヤ74を含む複数のギヤで構成される。第1ギヤ71は、中空ギヤである。第1ギヤ71は、内歯711と外歯712とを有する。内歯711はカム板61の外歯614と噛合し、外歯712は第2ギヤ72と噛合している。
【0032】
第2ギヤ72は、主歯721と副歯722とを有する。主歯721は、第1ギヤ71の外歯712及び第3ギヤ73と噛合している。副歯722は、変速機10の出力をオイルポンプユニット(図示略)へ伝達するためのギヤ(図示略)と噛合している。第3ギヤ73は、第2ギヤ72の主歯721及び第4ギヤ74と噛合している。第4ギヤ74は、発電機5の発電機入力軸5aに固定されている。
【0033】
〔変速機10の動作方法〕
上記構成の変速機10において、入力ディスク13,13が回転駆動されると、パワーローラ18を介して出力ディスク14,15が回転駆動され、変速機出力軸12が回転駆動される。トラニオン19及びパワーローラ18が傾転軸線A2方向に変位すると、パワーローラ18の傾転軸線A2周りの傾転角が変更され、変速機10の変速比が傾転角に応じて連続的に変更される。パワーローラ18は、傾転軸線A2回りに傾転可能な状態で、入力ディスク13,13の凹面21aと出力ディスク14,15の凹面31aとの間に挟まれ、入力ディスク13の回転駆動力を傾転角に応じた変速比で変速して出力ディスク14,15に伝達する。出力ディスク14,15の回転トルクが増加すると、押圧装置17によって出力ディスク15が入力ディスク13に近づく向きに押圧され、入力ディスク13,13及び出力ディスク14,15がパワーローラ18を挟む圧力が増加する。
【0034】
出力ディスク15が回転すると、カム面151によって複数のローラ63がカム板61のカム面613に押し付けられる。この結果、出力ディスク15がパワーローラ18に押圧されると同時に、一対のカム面151,613と複数のローラ63との噛合に基づいて、カム板61が回転する。そして、このカム板61の回転がドッグクラッチ(カム板61の外歯614と第1ギヤ71の内歯711)の噛合によって動力伝達機構7へ入力され、発電機入力軸5aが回転する。
【0035】
〔サポート軸受4の組付構造〕
ここで、サポート軸受4の変速機出力軸12への組付構造について詳細に説明する。以下では、本実施形態に係る変速機出力軸12のことを、説明の便宜を図って「回転軸9」と呼ぶ。
図3は、回転軸9及びそれに組み付けられたサポート軸受4の拡大断面図である。
図4は、回転軸9の軸端面91及びその近傍の拡大断面図であり、
図5は、ボルト8の断面図である。
【0036】
図3及び
図4に示すように、回転軸9は中空軸であって、内部に油路90が形成されている。回転軸9の少なくとも一方の軸端面91には軸線方向Xに向かって開口する端部開口92が設けられている。回転軸9には、一方の軸端面91から反対側の軸端面に向かって順に、雌ネジ部93、テーパ部94、及び、調心部95が形成されている。雌ネジ部93は中空筒状を呈し、雌ネジ部93の内周面には雌ネジ931が形成されている。調心部95は、雌ネジ部93よりも肉厚の中空筒状を呈する。つまり、調心部95の内径D95は、雌ネジ部93の内径D93よりも小さい。テーパ部94は、内径の異なる雌ネジ部93と調心部95とを接続するように軸線方向Xに内径が変化する。
【0037】
図3に示すように、サポート軸受4は、アンギュラ玉軸受であって、内輪軌道を有する内輪41と、内輪軌道と対向する外輪軌道を有する外輪42と、内輪軌道と外輪軌道との間に転動自在に配置された複数の転動体43とを有する。外輪42は、変速機出力軸12に回転自在に嵌められて、出力ディスク15からカム板61を介して軸線方向Xの押圧力を受ける。
【0038】
サポート軸受4のうち内輪41が回転軸9に固定される。内輪41は転動体43を支持する内輪軌道よりも内周側に膨出した部分を有し、当該部分に軸線方向Xを向いた軸座413が形成されている。内輪41の内径D41は、回転軸9の端部開口92の内径D92と同じ又はそれよりも大きく、且つ、回転軸9の軸端面91の外径D91よりも小さい(D92≦D41<D91)。従って、回転軸9と内輪41とを心合わせをしたときに、回転軸9の端部開口92の周囲(軸端面91)の少なくとも一部分は内輪41の軸座413と軸線方向Xに重複する。
【0039】
内輪41の軸座413と反対側の面には、平らなボルト座414が形成されている。そっして、ボルト座414の周囲には、軸線方向Xに突出する環状の環状突部412が形成されている。
【0040】
図3及び
図5に示すように、ボルト8は、頭部81、軸部83、及び、頭部81と軸部83とを接続する首部82とを一体的に有する。頭部81は、ボルト8の操作に利用される。また、頭部81は、軸端面91との間に内輪41を挟み込む。軸部83は回転軸9の端部開口92から内部へ挿入(螺入)される。
【0041】
頭部81は、短円筒状を呈する。頭部81の主面811には複数の操作用穴812が形成されている。複数の操作用穴812は主面811において円環状に並んでいる。ボルト8の軸部83を回転軸9の軸端面91に螺入する際には、複数の操作用穴812に嵌入する複数のピンを有する工具(図示略)が用いられる。
【0042】
頭部81の外径は、内輪41の環状突部412の内径と対応している。頭部81が環状突部412に嵌って、頭部81の外周面と環状突部412の内周面とが接触することにより、ボルト8と内輪41との心出しが行われる。
【0043】
頭部81の背面813の周縁部には、中空円盤形状を呈する平らな座面814が形成されている。座面814は内輪41のボルト座414に着座する。
【0044】
軸部83は、頭部81側から順に雄ネジ部831と円筒部832とを有する。雄ネジ部831は、円筒状を呈し、回転軸9の雌ネジ部93の内径D93と対応する外径D831を有する(D93≒D831)。雄ネジ部831の外周面には、雌ネジ931と螺合する雄ネジ833が形成されている。
【0045】
円筒部832は、円筒状を呈し、回転軸9の調心部95の内径D95と対応する外径D832を有する(D95≒D832)。円筒部832が調心部95に挿入されて、円筒部832の外周面と調心部95の内周面とが接触することにより、回転軸9とボルト8との心出しが行われる。
【0046】
首部82は、頭部81の背面813と、軸部83の雄ネジ部831の端部とを滑らかに接続している。首部82と頭部81との接続部では、隅に「のど厚部821」が設けられている。のど厚部821が設けられることにより、設けられていない場合と比較して首部82の強度が高められている。こののど厚部821の張り出しと対応するようにサポート軸受4の内輪41の内周縁角部のボリュームが切り欠かれて、内輪41に面取部411が形成されている。このように内輪41(面取部411)が薄肉化されることにより、ボルト8の首部82に十分な肉厚を持たせるための空間が確保されるとともに、応力の集中しやすい内周縁角部が除かれるので応力集中が緩和される。
【0047】
内輪41が薄肉化されることから、転動体43から内輪41が受ける荷重をボルト8で積極的に支持するように構成されている。具体的には、転動体43と内輪41との接触点P1が、ボルト8の頭部81の外周縁よりも回転軸線A1を中心とする径方向内側に位置する。サポート軸受4の接触角を考慮すれば、ボルト8のうち頭部81及び首部82(特に、のど厚部821)が内輪41から伝わる押圧力を支持する部分となり得る。なお、サポート軸受4の接触角は、転動体43と外輪42及び内輪41との接触点を結ぶ直線とラジアル方向とのなす角度である。そこで、頭部81及び首部82には、十分な肉厚が備えられている。更に、サポート軸受4の面取部411と、ボルト8ののど厚部821の少なくとも一部分とが接触する。これによりボルト8は頭部81及び首部82で荷重を受けることができる。
【0048】
ボルト8の軸心部には、頭部81、首部82、及び軸部83を貫通する貫通孔85が設けられている。貫通孔85の内部は、回転軸9内の油路90と連通されている。貫通孔85は、頭部81側が小径孔部851、軸部83側が小径孔部851よりも大径の大径孔部852となっている。小径孔部851は、油路90から貫通孔85を通じて排出されようとする作動油に抵抗を与える絞りとして機能する。
【0049】
回転軸9には、軸心部の油路90と外周とを連通する少なくとも1つの油孔96が設けられている。回転軸9が回転すると、遠心力によって油路90の作動油が油孔96を通じて回転軸9の外周側へ噴出し、噴出した作動油によって回転軸9に外装された部品が潤滑される。油路90の油面は油面上限高さまで上昇可能である。油路90の油面上限高さは、ボルト8の貫通孔85の小径孔部851の内径によって決まる。つまり、小径孔部851の内径が小さくなるほど油面上限高さが高くなる。油路90内の油面高さが油面上限高さを超えると、余剰の作動油はボルト8の貫通孔85を通じて外部へ排出される。油路90の油面高さが高いほど、油路90内で圧縮される作動油量が増えるので、油路90内の作動油が受ける遠心圧力が大きくなって、油孔96から噴出する作動油の量が増加する。このように、ボルト8に設けられた貫通孔85の径(特に、小径孔部851の内径)の大きさによって、油孔96から噴出する作動油の量を調整することができる。
【0050】
〔サポート軸受4の組付手順〕
ここで、回転軸9にサポート軸受4を組み付ける手順を説明する。先ず、回転軸9にサポート軸受4を外輪42、転動体43、及び内輪41の順に嵌める。内輪41を嵌める前に、回転軸9の軸端面91の端面に予圧調整用のシム49が配置されてもよい。次に、ボルト8の軸部83を回転軸9の端部開口92から内部へ挿入し、ボルト8を回転させて雄ネジ部831を回転軸9の雌ネジ部93へ螺入する。ボルト8の座面814が内輪41のボルト座414と当接して、ボルト8がこれ以上回転軸9の奥へ進まなく回らなくなったところで、回転軸9にサポート軸受4が組み付けられる。
【0051】
図3に示すように、上記の手順で回転軸9に組み付けられたサポート軸受4では、軸座413がシム49を介して回転軸9の軸端面91に圧接されており、ボルト座414がボルト8の座面814に圧接されている。このように、内輪41が回転軸9とボルト8との間で軸線方向Xに挟圧されることによって、内輪41が回転軸9に相対移動不能に組み付けられる。
【0052】
また、ボルト8の円筒部832の外周面が回転軸9の調心部95の内周面と接触しており、これによりボルト8と回転軸9との心出しが成されている。更に、ボルト8の頭部81の外周面が内輪41の環状突部412の内周面と接触しており、これによりボルト8とサポート軸受4との心出しが成されている。このようにして、ボルト8を介して回転軸9とサポート軸受4との心出しが成されている。
【0053】
以上に説明した通り、本実施形態に係る変速機10は、回転軸9(本実施形態では変速機出力軸12)と、回転軸9の周りに配置され、互いに対向配置された一対のディスク13,15と、一対のディスク13,15の間に傾転可能に挟まれた少なくとも1つのパワーローラ18と、回転軸9に組み付けられて一対のディスク13,15うち少なくとも一方からアキシャル方向の荷重を受ける軸受4と、頭部81及び軸部83を有し、軸部83が回転軸9の軸端面91に螺入されたボルト8とを備える。軸受4は、内輪41、外輪42、及び内輪41と外輪42との間に挟まれた転動体43を有する。そして、軸受4が、内輪41が回転軸9の軸端面91とボルト8の頭部81との間に挟み込まれることによって回転軸9に組み付けられていることを特徴としている。
【0054】
上記構成によれば、軸受4が組付けられる回転軸9の軸端部は、軸受4の内輪41よりも軸線方向に突出していない。よって、従来のように、回転軸9の軸端部を軸受4の内輪41より突出させて、当該突出部分にナットや止め輪を設ける場合と比較して、回転軸9の軸長を短縮することができる。これにより、変速機10の小型化に寄与することができる。
【0055】
また、本実施形態に係る変速機10において、ボルト8の軸部83は、外周面に雄ネジ833が形成された雄ネジ部831と、雄ネジ部831よりも先端側に設けられて当該雄ネジ部831よりも小径の円筒部832とを有する。そして、回転軸9の軸端部は回転軸線A1を中心とする円筒状であって、内周面に雄ネジ833と螺合する雌ネジ931が形成された雌ネジ部93と、内周面が円筒部832の外周面と接触する調心部95とを有する。
【0056】
上記構成によれば、ボルト8が回転軸9の軸端面91に螺入されて、円筒部832の外周面が調心部95の内周面と接触することにより、回転軸9とボルト8との調心が行われる。
【0057】
また、本実施形態に係る変速機10において、軸受4の内輪41は、ボルト8の座面814が着座するボルト座414と、ボルト座414の周囲に設けられた環状突部412とを有し、ボルト8の頭部81の外周面と環状突部412の内周面とが接触する。
【0058】
上記構成によれば、ボルト8が回転軸9の軸端面91に螺入されて、ボルト8の座面814がボルト座414に着座し、ボルト8の頭部81の外周面と環状突部412の内周面とが接触することにより、ボルト8と軸受4との調心が行われる。
【0059】
また、本実施形態に係る変速機10では、転動体43と内輪41との接触点P1が、ボルト8の頭部81の外周縁よりも径方向内側に位置する。
【0060】
上記構成によれば、内輪41が受けるアキシャル荷重を、ボルト8の頭部81で受けることができる。その結果、内輪41を薄肉化することが可能となり、本実施形態では内輪41の内周側角部の肉が削られて薄肉の面取部411となっている。そして、内輪41が薄肉された分、ボルト8の頭部81と首部82との間にのど厚部821が設けられて厚肉化されて強度が高められている。
【0061】
また、本実施形態に係る変速機10では、回転軸9は、回転軸9の内部に軸線方向Xへ延びる油路90を有し、ボルト8は、ボルト8の軸心部において頭部81と軸部83を貫通し、油路90と連通する貫通孔85を有する。
【0062】
上記構成によれば、回転軸9の油路90の油面高さを、ボルト8の貫通孔85の内径で調整することができる。油面高さを超えた作動油は、ボルト8の貫通孔85を通じて油路90から外部へ排出される。回転軸9の油路90の油面高さに応じて、油路90から回転軸9を径方向に貫く油孔96を通じて外周側へ噴出する作動油の量を調整することができる。つまり、ボルト8の貫通孔85の内径の大きさによって、回転軸9から油孔96を通じて外周側へ噴出する作動油の量を調整することができる。
【0063】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、本発明の思想を逸脱しない範囲で、上記実施形態の具体的な構造及び/又は機能の詳細を変更したものも本発明に含まれ得る。上記の構成は、以下のように変更することができる。
【0064】
例えば、変速機10は、中央入力型に限定されず、中央出力型でもよい。中央出力型の場合には、前述した入力ディスク13と出力ディスク14との位置関係が逆転し、出力ディスクが中央ディスク(第2ディスク)となり、入力ディスクが外ディスク(第1ディスク)となる。この場合、押圧装置17は入力ディスクを出力ディスクに向けて押圧するように構成され、カム板61には外歯614と噛合するギヤから回転が入力される。
【符号の説明】
【0065】
4 :サポート軸受
8 :ボルト
9 :回転軸
10 :トロイダル無段変速機
10 :変速機
13 :入力ディスク
14,15 :出力ディスク
18 :パワーローラ
41 :内輪
42 :外輪
43 :転動体
63 :ローラ
81 :頭部
82 :首部
83 :軸部
85 :貫通孔
90 :油路
91 :軸端面
93 :雌ネジ部
95 :調心部
412 :環状突部
413 :軸座
414 :ボルト座
814 :座面
821 :のど厚部
831 :雄ネジ部
832 :円筒部
833 :雄ネジ
851 :小径孔部
852 :大径孔部
931 :雌ネジ
A1 :回転軸線
P1 :接触点