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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】液圧回転機
(51)【国際特許分類】
   F04B 1/324 20200101AFI20240207BHJP
   F04B 1/2078 20200101ALI20240207BHJP
【FI】
F04B1/324
F04B1/2078
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020091538
(22)【出願日】2020-05-26
(65)【公開番号】P2021188532
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保井 宏暁
(72)【発明者】
【氏名】岩名地 哲也
(72)【発明者】
【氏名】武井 元
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-051380(JP,A)
【文献】特開2019-138223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 1/12
F03C 1/253
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧回転機であって、
駆動軸と共に回転するシリンダブロックと、
前記シリンダブロックに形成され前記駆動軸の周方向に所定の間隔をもって配置される
複数のシリンダと、
前記シリンダ内に摺動自在に挿入され前記シリンダの内部に容積室を区画するピストン
と、
前記容積室を拡縮するように前記ピストンを往復動させる傾転可能な斜板と、
供給される制御圧に応じて前記斜板を付勢する第1付勢機構と、
前記第1付勢機構に抗するように前記斜板を付勢する第2付勢機構と、
前記第1付勢機構に導かれる前記制御圧を前記液圧回転機の自己圧に応じて制御するレ
ギュレータと、を備え、
前記レギュレータは、
前記斜板の傾転に追従して伸縮する付勢部材と、
前記付勢部材の付勢力に応じて移動して、前記制御圧を調整する制御スプールと、
前記制御スプールを前記付勢部材の付勢力に抗して押圧する押圧機構と、を有し、
前記押圧機構は、
複数の信号圧がそれぞれ導かれる複数の信号圧室と、
前記複数の信号圧室に導かれる前記信号圧の合力が作用して前記制御スプールを前記付
勢部材の付勢力に抗して押圧する押圧部材と、を有し、
前記押圧部材は、前記制御スプールよりも外径が大きいことを特徴とする液圧回転機。
【請求項2】
前記レギュレータは、前記押圧部材を収容する収容孔が前記制御スプールの中心軸と同
軸に形成されるハウジング部材を有し、
前記収容孔には、前記制御スプールの前記中心軸に垂直な方向への前記押圧部材の移動
を規制し、前記制御スプールの前記中心軸に沿った前記押圧部材の移動を案内するガイド
部が設けられることを特徴とする請求項1に記載の液圧回転機。
【請求項3】
前記押圧機構は、前記押圧部材に向けて前記制御スプールの軸方向に突出する軸部を有
する着座部材をさらに有し、
前記押圧部材には、前記軸部が挿入されて前記軸部と共に前記信号圧室を形成する軸部
挿入孔が形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の液圧回転機。
【請求項4】
前記押圧機構は、
前記制御スプールの軸方向に沿って設けられ前記制御スプールに当接する端面とは反対
側の前記押圧部材の端面に当接する軸部と、
前記軸部が挿入されて前記軸部と共に前記信号圧室を形成する軸部挿入孔が形成される
中間部材と、をさらに有することを特徴とする請求項1又は2に記載の液圧回転機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧回転機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、斜板の傾転角が大きくなる向きに斜板を付勢する第1付勢手段と、第1付勢手段による斜板への付勢力と反対向きの付勢力を斜板に作用させる第2付勢手段と、を備える可変容量型の油圧ポンプが開示されている。この第2付勢手段は、ハウジングのガイド部に摺動自在に配置される付勢ロッドと、複数の付勢ピンを有する付勢ピンユニットと、を有し、複数の付勢ピンは、対応する信号圧に応じて付勢ロッドを斜板に向けて付勢するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-3609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される油圧ポンプでは、付勢ピンユニットは、対応する信号圧に応じて複数の付勢ピンが付勢ロッドを付勢する構成である。このため、信号圧の大きさの違いや、付勢ピンと付勢ロッドとの接触位置の違いなどによって、付勢ロッドは、その中心軸に対して傾斜する方向に付勢ピンユニットから付勢力をうけることがある。この場合、付勢ロッドと当該付勢ロッドを収容するハウジングとの間での偏摩耗が生じやすくなる。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、信号圧に応じて斜板を付勢する押圧機構を有する液圧回転機において、押圧機構による制御スプールの摩耗を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、液圧回転機であって、駆動軸と共に回転するシリンダブロックと、シリンダブロックに形成され駆動軸の周方向に所定の間隔をもって配置される複数のシリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されシリンダの内部に容積室を区画するピストンと、容積室を拡縮するようにピストンを往復動させる傾転可能な斜板と、供給される制御圧に応じて斜板を付勢する第1付勢機構と、第1付勢機構に抗するように斜板を付勢する第2付勢機構と、第1付勢機構に導かれる制御圧を液圧回転機の自己圧に応じて制御するレギュレータと、を備え、レギュレータは、斜板の傾転に追従して伸縮する付勢部材と、付勢部材の付勢力に応じて移動して、制御圧を調整する制御スプールと、制御スプールを付勢部材の付勢力に抗して押圧する押圧機構と、を有し、押圧機構は、複数の信号圧がそれぞれ導かれる信号圧室と、複数の信号圧室に導かれる信号圧の合力が作用し制御スプールを付勢部材の付勢力に抗して押圧する押圧部材と、を有し、押圧部材は、制御スプールよりも外径が大きいことを特徴とする。
【0007】
この発明では、複数の信号圧室にそれぞれ信号圧が導かれても、各信号圧によって生じる推力は、合力としていずれも同じ押圧部材に作用し、押圧部材によって制御スプールが付勢部材の付勢力に抗して押圧される。よって、信号圧の大きさの違いなどがあっても、共通の押圧部材によって制御スプールが押圧される構成であるため、信号圧の推力を制御スプールの中心軸に沿って均等に制御スプールに作用させやすくなる。よって、制御スプールに生じる摩擦が低減され、制御スプールの摩耗を抑制することができる。
【0008】
また、本発明は、レギュレータが、押圧部材を収容する収容孔が制御スプールの中心軸と同軸に形成されるハウジング部材を有し、収容孔には、制御スプールの中心軸に垂直な方向への押圧部材の移動を規制し、制御スプールの中心軸に沿った押圧部材の移動を案内するガイド部が設けられることを特徴とする。
【0009】
この発明では、押圧部材から制御スプールに作用する付勢力を、より確実に制御スプールの中心軸に沿って作用させることができる。
【0010】
また、本発明は、押圧機構が、押圧部材に向けて制御スプールの軸方向に突出する軸部を有する着座部材をさらに有し、押圧部材には、軸部が挿入されて軸部と共に信号圧室を形成する軸部挿入孔が形成される。
【0011】
この発明では、押圧部材に形成される軸部挿入孔に軸部が挿入されることで信号圧室が形成される構成であるので、押圧部材の傾きが軸部によって抑制される。
【0012】
また、本発明は、押圧機構が、制御スプールの軸方向に沿って設けられ制御スプールに当接する端面とは反対側の押圧部材の端面に当接する軸部と、軸部が挿入されて軸部と共に信号圧室を形成する軸部挿入孔が形成される中間部材と、をさらに有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、液圧回転機の制御スプールの摩耗の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る液圧回転機の断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る液圧回転機のレギュレータの構成を示す図であり、図1におけるA部の拡大断面図である。
図3】本発明の実施形態の第1変形例に係る押圧機構の構成を示す断面図である。
図4】本発明の実施形態の第2変形例に係る押圧機構の構成を示す断面図である。
図5】本発明の実施形態の第3変形例に係る押圧機構の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る液圧回転機100について説明する。
【0016】
液圧回転機100は、外部からの動力によりシャフト(駆動軸)1が回転してピストン5が往復動することで、作動流体としての作動油を供給可能なピストンポンプとして機能する。また、液圧回転機100は、外部から供給される作動油の流体圧によりピストン5が往復動してシャフト1が回転することで、回転駆動力を出力可能なピストンモータとして機能する。なお、液圧回転機100は、ピストンポンプとしてのみ機能するものでもよいし、ピストンモータとしてのみ機能するものであってもよい。
【0017】
以下の説明では、液圧回転機100をピストンポンプとして使用した場合について例示し、液圧回転機100を「ピストンポンプ100」と称する。
【0018】
ピストンポンプ100は、例えば駆動対象を駆動する油圧シリンダ等のアクチュエータ(図示省略)に作動油を供給する油圧供給源として使用される。ピストンポンプ100は、図1に示すように、動力源によって回転するシャフト1と、シャフト1に連結されシャフト1と共に回転するシリンダブロック2と、シリンダブロック2を収容するケース3と、を備える。
【0019】
ケース3は、有底筒状のケース本体3aと、ケース本体3aの開口端を封止しシャフト1が挿通するカバー3bと、を備える。ケース3の内部は、ドレン通路(図示省略)を通じてタンク(図示省略)に連通する。なお、ケース3の内部は、後述する吸込通路(図示省略)に連通してもよい。
【0020】
カバー3bの挿通孔3cを通じて外部に突出するシャフト1の一方の端部1aには、エンジン等の動力源(図示省略)が連結される。シャフト1の端部1aは、軸受4aを介してカバー3bの挿通孔3cに回転自在に支持される。シャフト1の他方の端部1bは、ケース本体3aの底部に設けられるシャフト収容孔3dに収容され、軸受4bを介して回転自在に支持される。図示は省略するが、シャフト1の他方の端部1bには、ピストンポンプ100と共に動力源によって駆動されるギアポンプ等の他の油圧ポンプ(図示省略)の回転軸(図示省略)が、シャフト1と共に回転するように同軸的に連結される。
【0021】
シリンダブロック2は、シャフト1が貫通する貫通孔2aを有し、貫通孔2aを介してシャフト1とスプライン結合される。これにより、シリンダブロック2はシャフト1の回転に伴って回転する。
【0022】
シリンダブロック2には、一方の端面に開口部を有する複数のシリンダ2bがシャフト1と平行に形成される。複数のシリンダ2bは、シリンダブロック2の周方向に所定の間隔を持って形成される。シリンダ2bには、容積室6を区画する円柱状のピストン5が往復動自在に挿入される。ピストン5の先端側はシリンダ2bの開口部から突出し、その先端部には球面座5aが形成される。
【0023】
ピストンポンプ100は、ピストン5の球面座5aに回転自在に連結され球面座5aに摺接するシュー7と、シリンダブロック2の回転に伴ってシュー7が摺接する斜板8と、シリンダブロック2とケース本体3aの底部との間に設けられるバルブプレート9と、をさらに備える。
【0024】
シュー7は、各ピストン5の先端に形成される球面座5aを受容する受容部7aと、斜板8の摺接面8aに摺接する円形の平板部7bと、を備える。受容部7aの内面は球面状に形成され、受容した球面座5aの外面と摺接する。これにより、シュー7は球面座5aに対してあらゆる方向に角度変位可能である。
【0025】
斜板8は、ピストンポンプ100の吐出量を可変とするため、カバー3bに傾転可能に支持される。シュー7の平板部7bは、摺接面8aに対して面接触する。
【0026】
バルブプレート9は、シリンダブロック2の基端面が摺接する円板部材であり、ケース本体3aの底部に固定される。図示は省略するが、バルブプレート9には、シリンダブロック2に形成された吸込通路と容積室6とを接続する吸込ポートと、シリンダブロック2に形成された吐出通路と容積室6とを接続する吐出ポートと、が形成される。
【0027】
ピストンポンプ100は、流体圧に応じて斜板8を傾転させる傾転機構20と、傾転機構20に導かれる流体圧を斜板8の傾転角に応じて制御するレギュレータ50と、をさらに備える。
【0028】
傾転機構20は、傾転角が小さくなる方向に斜板8を付勢する第1付勢機構30と、傾転角が大きくなる方向に斜板8を付勢する第2付勢機構40と、を有する。つまり、第2付勢機構40は、第1付勢機構30に抗するように斜板8を付勢する。
【0029】
第1付勢機構30は、カバー3bに形成される第1ピストン収容孔31に摺動自在に挿入され斜板8に当接する大径ピストン32と、大径ピストン32によって第1ピストン収容孔31内に区画される制御圧室33と、を有する。
【0030】
制御圧室33には、レギュレータ50によって調整される流体圧(以下、「制御圧」と称する。)が導かれる。大径ピストン32は、制御圧室33に導かれた制御圧によって、傾転角が小さくなる方向に斜板8を付勢する。
【0031】
第2付勢機構40は、ケース本体3aに形成される第2ピストン収容孔41に摺動自在に挿入され斜板8に当接する制御ピストンとしての小径ピストン42と、小径ピストン42によって第2ピストン収容孔41内に区画される圧力室43と、を有する。
【0032】
小径ピストン42は、第1摺動部42aと、第1摺動部42aよりも外径が小さい第2摺動部42bと、第1摺動部42aと第2摺動部42bの外径差によって形成される段差面42cと、を有する。
【0033】
第2ピストン収容孔41は、小径ピストン42の第1摺動部42aが摺動する第1収容部41aと、第1収容部41aよりも内径が小さく第2摺動部42bが摺動する第2収容部41bと、第1収容部41aと第2収容部41bとの内径差によって形成される段差面41cと、を有する。第1収容部41aは、ケース3の内部に開口する。小径ピストン42の第2摺動部42bの外周面及び段差面42cと、第2ピストン収容孔41の第1収容部41aの内周面及び段差面41cと、によって圧力室43が区画される。つまり、圧力室43は、小径ピストン42の外周に形成される環状の空間である。
【0034】
圧力室43には、ケース本体3aに形成される吐出圧通路10を通じて、ピストンポンプ100の吐出圧(自己圧)が常時導かれる。小径ピストン42は、圧力室43に導かれた吐出圧を受けて、傾転角が大きくなる方向に斜板8を付勢する。小径ピストン42の外周に形成される段差面42cが、圧力室43に導かれた吐出圧を受圧する小径ピストン42の受圧面である。
【0035】
また、小径ピストン42には、後述する外側スプリング51a及び内側スプリング51bの一端部を収容するばね収容孔44aが、斜板8とは反対側の端部に形成される。さらに、小径ピストン42には、ばね収容孔44aとケース3の内部とを連通する連通孔44bが形成される。よって、ばね収容孔44a及び第2ピストン収容孔41の内部は、連通孔44b及びケース3の内部を通じてタンクと連通する。
【0036】
大径ピストン32は、小径ピストン42よりも制御圧の受圧面積が大きく形成される。大径ピストン32は、図1に示すように、斜板8に対して小径ピストン42とは反対側に設けられる。つまり、大径ピストン32は、シャフト1の中心軸に対する周方向の位置が小径ピストン42と略一致するように配置される。
【0037】
レギュレータ50は、ピストンポンプ100の吐出圧に応じて制御圧室33に導かれる制御圧を調整し、ピストンポンプ100の馬力(出力)を制御する。
【0038】
レギュレータ50は、小径ピストン42を斜板8に向けて付勢する付勢部材としての外側スプリング51a及び内側スプリング51bと、外側スプリング51a及び内側スプリング51bの付勢力に応じて移動して、制御圧を調整する制御スプール52と、外側スプリング51a及び内側スプリング51bの付勢力に抗して制御スプール52を押圧する押圧機構60と、を有する。
【0039】
外側スプリング51a及び内側スプリング51bは、それぞれコイルスプリングであり、斜板8の傾転に追従するように伸縮する。内側スプリング51bは、外側スプリング51aよりも巻き径が小さく、外側スプリング51aの内側に設けられる。外側スプリング51a及び内側スプリング51bの一端部は、小径ピストン42のばね収容孔44aに収容され、ばね座72を介してばね収容孔44aの底部に着座する。外側スプリング51a及び内側スプリング51bの他端部は、ばね座73を介して制御スプール52の端面に着座する。一方のばね座72は、小径ピストン42と共に移動し、他方のばね座73は、制御スプール52と共に移動する。
【0040】
斜板8の傾転角が最大となる状態(図1に示す状態)では、他方のばね座73は、第2ピストン収容孔41の第2収容部41bの底部とは接触せず、第2収容部41bの底部から離れて浮いた状態となる。
【0041】
外側スプリング51aの自然長(自由長)は、内側スプリング51bの自然長より長い。斜板8の傾転角が最大となる状態(図1に示す状態)では、外側スプリング51aはばね座73によって圧縮された状態となる一方、内側スプリング51bはいずれかの端部がばね座(図1ではばね座72)から離れて浮いた状態(自然長となる状態)となる。つまり、斜板8の傾転角が最大の状態から小さくなる際、初めのうちは外側スプリング51aのみが圧縮され、外側スプリング51aの長さが内側スプリング51bの自然長を超えて圧縮されると、外側スプリング51a及び内側スプリング51bの両方が圧縮される。これにより、小径ピストン42を介して斜板8に付与される外側スプリング51a及び内側スプリング51bからの弾性力が段階的に高まるように構成される。
【0042】
ケース本体3aには、制御スプール52が摺動自在に挿入されるスプール収容孔50aが形成される。スプール収容孔50aは、小径ピストン42を収容する第2ピストン収容孔41と同軸に形成され、第2ピストン収容孔41(より具体的には第2収容部41b)に連通して設けられる。
【0043】
また、ケース本体3aには、ピストンポンプ100の吐出圧が導かれる吐出圧通路10と、大径ピストン32の制御圧室33に制御圧を導く制御圧通路11と、が形成される。吐出圧通路10には、ピストンポンプ100の吐出圧が常時導かれている。制御圧通路11は、カバー3bに形成されるカバー側通路(図示省略)を通じて制御圧室33に連通する。
【0044】
スプール収容孔50aは、ケース本体3aの端面に開口する。ケース本体3aの端面に対するスプール収容孔50aの開口は、キャップ90により閉塞される。
【0045】
図2に示すように、制御スプール52は、スプール収容孔50aの内周面に摺接する本体部53と、ばね座73に挿入される突出部54と、を有する。
【0046】
突出部54は、本体部53より外径が小さく形成され、本体部53と突出部54の外径差により生じる段差面55は、ばね座73に当接する。
【0047】
制御スプール52の外周には、第1制御ポート56a及び第2制御ポート56bが、それぞれ環状の溝として形成される。また、制御スプール52には、第1制御ポート56aに連通する第1制御通路57が、径方向に制御スプール52を貫通するように形成される。さらに、制御スプール52には、一端部(突出部54)から軸方向に沿って設けられる軸方向通路58が形成される。軸方向通路58は、第1制御通路57と、ばね座73に形成さればね収容孔44a(第2ピストン収容孔41)に連通する接続通路73aとを連通する。
【0048】
このように、第1制御通路57は、軸方向通路58、ばね座73の接続通路73a、小径ピストン42のばね収容孔44a及び連通孔44b(図1参照)を通じてケース3の内部と連通する。よって、第1制御通路57内の圧力は、タンク圧となる。
【0049】
押圧機構60は、外側スプリング51a及び内側スプリング51bが制御スプール52に対して発揮する付勢力に抗するように制御スプール52に対して付勢力を発揮する補助付勢部材としての補助スプリング70と、補助スプリング70が発揮する付勢力を調整する調整機構80と、キャップ90に形成される収容孔91に収容され制御スプール52の端面53aの全体に当接する押圧部材としての押圧ピストン61と、を有する。
【0050】
補助スプリング70は、コイルスプリングである。補助スプリング70は、キャップ90に形成される凹部95に収容される。補助スプリング70の一端は、キャップ90の凹部95に収容される着座部材75に着座し、他端は、押圧ピストン61の端面に着座する。補助スプリング70は、着座部材75と押圧ピストン61との間で圧縮された状態で設けられ、押圧ピストン61を介して制御スプール52に付勢力を発揮する。
【0051】
着座部材75は、キャップ90の凹部95の内周面に摺接する板状のベース部76と、ベース部76から軸方向に突出し補助スプリング70の内周を支持する支持部77と、支持部77の先端から軸方向に突出する2つの軸部78a,78bと、を有する。ベース部76と支持部77との外径差によって形成される段差面(支持部77側のベース部76の端面)76aに補助スプリング70の一端部が着座する。
【0052】
調整機構80は、キャップ90に形成される雌ねじ孔81と、雌ねじ孔81に螺合し着座部材75を補助スプリング70の付勢方向に沿って進退させるねじ部材82と、雌ねじ孔81に対するねじ部材82の螺合位置を固定するナット83と、を有する。
【0053】
雌ねじ孔81は、凹部95の底部を貫通して形成され、凹部95に開口する。
【0054】
ねじ部材82は、補助スプリング70が着座する端面76aとは軸方向の反対側からベース部76に当接する。ねじ部材82は、雌ねじ孔81との螺合位置を調整することで、その軸方向(補助スプリング70の付勢力の方向)に沿って着座部材75に対して進退する。つまり、ねじ部材82を進退させることで、補助スプリング70が伸縮するように着座部材75が進退し、補助スプリング70のセット荷重(初期荷重)を調整することができる。これにより、補助スプリング70が発揮する付勢力が調整可能に構成される。ナット83がねじ部材82に螺合してキャップ90に対して締め付けられることで、雌ねじ孔81に対するねじ部材82の螺合位置が固定される。
【0055】
押圧ピストン61を収容するキャップ90は、ハウジング部材に相当する。キャップ90の収容孔91は、ケース本体3aに形成されるスプール収容孔50aと同軸となるように設けられる。また、キャップ90の収容孔91は、凹部95に連続して凹部95と同軸に形成されると共に、スプール収容孔50aに臨んでいる。キャップ90の収容孔91には、制御スプール52の一端部も収容される。
【0056】
キャップ90の収容孔91は、断面が円形の第1孔部92と、第1孔部92よりも内径が大きく第1孔部92と同軸に形成される第2孔部93と、を有する。第1孔部92は、凹部95の内径よりも大きく形成され、凹部95に連続する。第2孔部93が、ケース本体3aのスプール収容孔50aに臨む。
【0057】
第1孔部92と凹部95との内径差により、第1段差面92aが形成される。第1孔部92と第2孔部93との内径差により、第2段差面93aが形成される。
【0058】
押圧ピストン61は、キャップ90の収容孔91の第1孔部92に挿入される円柱状の第1ピストン部62と、第2孔部93に挿入され第1ピストン部62よりも外径が大きい第2ピストン部63と、を有する。
【0059】
第1ピストン部62は、収容孔91の第1孔部92の内周面に摺接する。これにより、押圧ピストン61は、第1孔部92によって、収容孔91の径方向(軸方向に垂直な方向)への移動は規制されつつ、収容孔91の軸方向に沿った移動が案内される。このように、第1孔部92がガイド部に相当する。
【0060】
第2ピストン部63は、制御スプール52の外径よりも大きな外径を有する円柱状に形成される。第2ピストン部63の端面63a(押圧ピストン61において制御スプール52に対向する端面)は、円形の平坦面として形成される。また、第2ピストン部63の端面63aに対向する制御スプール52の端面53aも、円形の平坦面として形成される。これにより、制御スプール52の端面53aは、全体が押圧ピストン61の第2ピストン部63の端面63aに当接(面接触)する。なお、本実施形態では、第1ピストン部62も、制御スプール52の外径よりも大きな外径に形成される。
【0061】
押圧ピストン61は、制御スプール52を介して伝達される外側スプリング51aの付勢力によって、第1ピストン部62が収容孔91の第1段差面92aに当接するように押し付けられる。これにより、外側スプリング51aの付勢力による図中左方向への制御スプール52の所定以上の移動が押圧ピストン61により規制される。
【0062】
また、押圧ピストン61には、着座部材75の一対の軸部78a,78bがそれぞれ挿入される一対の軸部挿入孔61a,61bが形成される。一対の軸部78a,78bが押圧ピストン61の一対の軸部挿入孔61a,61bにそれぞれ挿入されることで、押圧ピストン61には、一対の軸部78a,78bと当該軸部78a,78bが挿入される軸部挿入孔61a,61bの内壁とによって、馬力制御に利用される信号圧が導かれる一対の信号圧室60a,60bが形成される。
【0063】
一方の信号圧室60aは、押圧ピストン61の外周に形成される第1連通ポート64a、信号圧室60aと第1連通ポート64aとを接続する第1接続通路65a、及びキャップ90に形成される第1キャップ通路90aを通じて吐出圧通路10に連通する。よって、信号圧室60aには、ピストンポンプ100の吐出圧(自己圧)が信号圧として導かれる。他方の信号圧室60bは、押圧ピストン61の外周に形成される第2連通ポート64b、信号圧室60bと第2連通ポート64bとを接続する第2接続通路65b、及びキャップ90に形成される第2キャップ通路90bを通じて、ケース本体3aに形成される外部圧通路(図示省略)に連通する。外部圧通路には、例えば、ピストンポンプ100と共に動力源によって駆動される他の油圧ポンプから吐出される信号圧としての外部ポンプ圧が導かれる。このように、信号圧室60a,60bは互いに独立した圧力室であり、互いに異なる信号圧が導かれる。
【0064】
なお、押圧ピストン61は、第1連通ポート64aと第1キャップ通路90aとが連通し、第2連通ポート64bと第2キャップ通路90bとが連通するように位置決めされた状態で収容孔91に挿入され、この状態で回り止め機構(図示省略)によって回転が規制されている。回り止め機構は、収容孔91内において制御スプール52の軸方向への押圧ピストン61の移動を許容し、収容孔91内での押圧ピストン61の回転を規制することが可能である限り、公知の構成を採用できるため、詳細な説明は省略する。なお、例えば、軸部78a,78bを支持部77(着座部材75)とは別体に形成し、支持部77に軸部78a,78bが挿入される孔を形成して、軸部78a,78bを回り止め機構としてもよい。
【0065】
信号圧室60a,60bに導かれる信号圧は、軸部78a,78bに対向する信号圧室60a,60bの内壁部に作用する。よって、制御スプール52は、押圧ピストン61を介して軸部78a,78bの断面積(言い換えれば軸部挿入孔61a,61bの断面積)分に相当する受圧面積によって信号圧を受け、信号圧によって外側スプリング51a及び内側スプリング51bを圧縮する方向に付勢される。このようにして、押圧ピストン61は、信号圧室60a,60bに導かれる信号圧の合力による推力を受けて、外側スプリング51a及び内側スプリング51bの付勢力に抗するように制御スプール52を押圧する。
【0066】
以上のように、制御スプール52は、外側スプリング51a及び内側スプリング51bによる付勢力によって斜板8から離れる方向(図中左方向)に付勢される。制御スプール52は、押圧ピストン61を介して、信号圧室60a,60bに導かれたピストンポンプ100の吐出圧及び外部ポンプ圧と、補助スプリング70による付勢力と、によって斜板8に近づく方向に付勢される。つまり、制御スプール52は、外側スプリング51a及び内側スプリング51bの付勢力、補助スプリング70の付勢力、ピストンポンプ100の吐出圧及び外部ポンプ圧による付勢力が釣り合うように移動する。このように、補助スプリング70の付勢力と信号圧室60a,60bの信号圧による推力とを制御スプール52に作用させることで、レギュレータ50による馬力制御特性を調整することができる。
【0067】
この際、押圧ピストン61は、信号圧室60a,60bのそれぞれの信号圧の合力による推力を受けるものであり、制御スプール52の端面53aの全体に当接して、制御スプール52を押圧する。したがって、制御スプール52(スプール収容孔50a)の中心軸に対して傾斜せずに軸方向に沿って(言い換えれば、中心軸に対して平行に)制御スプール52を付勢することができるため、制御スプール52とスプール収容孔50aとの間での摩耗の発生が抑制される。
【0068】
制御スプール52の移動を具体的に説明すると、制御スプール52は、第1ポジションと第2ポジションとの2つのポジションの間で移動する。図1及び図2(後述する図3図4も同様)は、制御スプール52が第2ポジションである状態を示している。制御スプール52は、図1及び図2に示す第2ポジションから、図中右方向へ移動するのに伴い、第1ポジションに切り換わる。
【0069】
第1ポジションは、斜板8の傾転角を小さくしてピストンポンプ100の吐出容量を減少させるポジションである。第1ポジションでは、ケース本体3aの吐出圧通路10と制御圧通路11とが、制御スプール52の第2制御ポート56bを通じて連通し、制御スプール52の第1制御通路57と制御圧通路11とは連通が遮断される。よって、第1ポジションでは、第1付勢機構30の制御圧室33には、ピストンポンプ100の吐出圧が導かれる。
【0070】
第2ポジションは、斜板8の傾転角を大きくしてピストンポンプ100の吐出容量を上昇させるポジションである。第2ポジションでは、制御圧通路11と制御スプール52の第1制御通路57とが第1制御ポート56aを通じて連通し、吐出圧通路10と制御圧通路11との連通が遮断される。よって、第2ポジションでは、制御圧室33には、タンク圧が導かれる。
【0071】
次に、ピストンポンプ100の作用について説明する。
【0072】
ピストンポンプ100では、レギュレータ50によって、ピストンポンプ100の吐出圧を一定に保つように、ピストンポンプ100の吐出容量(斜板8の傾転角)を制御する馬力制御が行われる。
【0073】
レギュレータ50の制御スプール52は、信号圧室60a,60bの信号圧(ピストンポンプ100の吐出圧と外部ポンプ圧)による付勢力と補助スプリング70による付勢力とによって第1ポジションとなるように付勢されると共に、外側スプリング51a及び内側スプリング51bの付勢力によって第2ポジションとなるように付勢される。
【0074】
信号圧室60a,60bの信号圧及び補助スプリング70による付勢力が外側スプリング51aの付勢力以下に保たれた状態では、レギュレータ50の制御スプール52は第2ポジションに位置し、斜板8の傾転角が最大に保たれる(図1参照)。
【0075】
ピストンポンプ100の吐出圧は、ピストンポンプ100の吐出圧で駆動する油圧シリンダの負荷が上昇するのに伴い上昇する。斜板8の傾転角が最大に保たれた状態から、ピストンポンプ100の吐出圧が上昇すると、信号圧室60a,60bの信号圧及び補助スプリング70による付勢力の合力が外側スプリング51aの付勢力を上回るようになる。これにより、制御スプール52は、第2ポジションから第1ポジションに切り換わる方向(図中右方向)へ移動する。制御スプール52が第1ポジションまで移動すると、制御圧通路11に吐出圧通路10から吐出圧が導かれるため、制御圧が上昇する。より具体的には、制御スプール52が第1ポジションに移動するにつれて、制御圧通路11に対する制御スプール52の第2制御ポート56bの開口面積(流路面積)が増加する。よって、第1ポジションに切り換わる方向(図中右方向)への制御スプール52の移動量が大きくなるについて、制御圧通路11に導かれる制御圧が上昇する。制御圧通路11に導かれる制御圧が上昇することにより、大径ピストン32(図1参照)が斜板8に向けて移動し、傾転角が小さくなる方向に斜板8が傾転する。よって、ピストンポンプ100の吐出容量が減少する。
【0076】
傾転角が小さくなる方向に斜板8が傾転すると、小径ピストン42は、外側スプリング51a及び内側スプリング51bを圧縮するように、斜板8に追従して図中左方向へ移動する。言い換えれば、傾転角が小さくなる方向に斜板8が傾転すると、小径ピストン42は、第2ポジションに切り換わる方向へ外側スプリング51a(及び内側スプリング51b)を通じて制御スプール52を付勢するように移動する。これにより、制御スプール52が押し戻されて第2ポジションに切り換わる方向へ移動すると、制御圧通路11を通じて制御圧室33へ供給される制御圧が減少する。制御圧の減少に伴い、制御圧により斜板8に付与される付勢力が、外側スプリング51a(及び内側スプリング51b)から斜板8に付与される付勢力と釣り合うと、大径ピストン32の移動(斜板8の傾転)が停止する。このように、ピストンポンプ100の吐出圧が上昇すると、吐出容量が減少する。
【0077】
反対に、ピストンポンプ100の吐出圧は、ピストンポンプ100の吐出圧で駆動する油圧シリンダの負荷が低下するのに伴い低下する。ピストンポンプ100の吐出圧が低下すると、信号圧室60a,60bの信号圧及び補助スプリング70による付勢力の合力が外側スプリング51a及び内側スプリング51bによる付勢力を下回るようになる。これにより、制御スプール52は、第1ポジションから第2ポジションへ切り換わる方向へ移動する。制御スプール52が第2ポジションに移動すると、制御圧通路11がタンク圧である第1制御通路57に連通するため、制御圧は低下する。制御圧が低下することにより、外側スプリング51a及び内側スプリング51bの付勢力を受ける小径ピストン42によって傾転角が大きくなる方向に斜板8が傾転する。
【0078】
傾転角が大きくなる方向に斜板8が傾転すると、外側スプリング51a及び内側スプリング51bの付勢力を受ける小径ピストン42は、外側スプリング51a及び内側スプリング51bが伸長するように、斜板8に追従して図中右方向へ移動する。これにより、外側スプリング51a及び内側スプリング51bから制御スプール52が受ける付勢力が小さくなる。このため、制御スプール52は、信号圧室60a,60bの信号圧を受けて、外側スプリング51a及び内側スプリング51bを圧縮する方向へ移動する。つまり、制御スプール52は、小径ピストン42に追従するように、第2ポジションから第1ポジションへと切り換わる方向へ移動する。制御スプール52が再び第1ポジションに位置して制御圧が上昇し、制御圧により斜板8に付与される付勢力が、外側スプリング51a(及び内側スプリング51b)から斜板8に付与される付勢力と釣り合うと、大径ピストン32の移動(斜板8の傾転)が停止する。このように、ピストンポンプ100の吐出圧が低下すると、吐出容量が増加する。
【0079】
以上のように、ピストンポンプ100の吐出圧が上昇することによりピストンポンプ100の吐出容量が減少し、吐出圧が低下することにより吐出容量が増加するように馬力制御が行われる。
【0080】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0081】
ピストンポンプ100では、押圧機構60は、制御スプール52の端面53aの全体に当接する押圧ピストン61によって制御スプール52を外側スプリング51a及び内側スプリング51bの付勢力に抗して押圧する。よって、信号圧の推力及び補助スプリング70の付勢力を、制御スプール52の中心軸に沿って制御スプール52に作用させることができる。したがって、ピストンポンプ100によれば、レギュレータ50の制御スプール52とスプール収容孔50aとの間での摩耗の発生が抑制される。これにより、レギュレータ50によって調整される制御圧が制御スプール52やスプール収容孔50aの摩耗に起因してばらつくことを抑制できる。
【0082】
ここで、信号圧による推力を制御スプールに作用させるには、制御スプールに信号圧室を形成することも考えられる。しかしながら、制御スプールに信号圧室を形成する場合には、信号圧室の数を変更するには、制御スプールそのものを変更しなければならず、コスト増加につながる。また、形成する信号圧室の数は、制御スプールの外径の制限を受けるため、設計の自由度が高いとは言えない。
【0083】
これに対し、本実施形態では、信号圧室60a,60bは押圧機構60、具体的には、制御スプール52よりも外径が大きい押圧ピストン61に形成される。このため、本実施形態によれば、制御スプール52に信号圧室60a,60bを形成する場合と比較して、信号圧室60a,60bの数の増加が容易であり、設計の自由度が高い。また、信号圧室60a,60bの数や構成が異なる場合であっても、制御スプール52は共通化することができるため、製造コストを低減することができる。
【0084】
また、押圧機構60では、信号圧室60a,60bに導かれる信号圧による推力は、いずれも押圧ピストン61に作用し、押圧ピストン61を介して制御スプール52に作用する。つまり、信号圧室60a,60bに導かれる信号圧の合力が推力として押圧ピストン61に作用する。このように、異なる信号圧の推力が共通の押圧ピストン61を介して制御スプール52に作用するため、信号圧の大きさなどが異なる場合であっても、制御スプールの端面には均等に力を作用させやすくなる。よって、制御スプール52の中心軸に沿って押圧機構60から制御スプール52に付勢力を作用させることができる。
【0085】
また、制御スプール52に当接する押圧ピストン61の第2ピストン部63の外径は、制御スプール52の外径よりも大きく形成される。これにより、制御スプール52の端面53aの全体を押圧ピストン61の第2ピストン部63の端面63aに当接させることができ、より確実に制御スプール52の中心軸に沿った状態で押圧機構60から制御スプール52に付勢力を作用させることができる。
【0086】
また、押圧ピストン61は、キャップ90の収容孔91の第1孔部92によって、制御スプール52(スプール収容孔50a)の径方向への移動が規制されると共に、制御スプール52の軸方向に沿った移動が案内される。これにより、押圧ピストン61から制御スプール52に作用する付勢力を、より確実に制御スプール52の中心軸に沿って作用させることができる。したがって、制御スプール52に生じる摺動摩擦を低減でき、制御スプール52の摩耗をより確実に抑制することができる。また、制御スプール52の摺動摩擦が低減されることで、レギュレータ50のヒステリシスを改善することができる。
【0087】
また、本実施形態では、押圧ピストン61に形成される軸部挿入孔61a,61bに軸部78a,78bが挿入されることで信号圧室60a,60bが形成される構成である。これにより、キャップ90の収容孔91内における押圧ピストン61の傾きが軸部78a,78b及び軸部挿入孔61a,61bによっても抑制される。このため、押圧ピストン61から制御スプール52に作用する付勢力を、より確実に制御スプール52の中心軸に沿って作用させることができ、制御スプール52に生じる摩耗をより確実に抑制することができる。
【0088】
次に、図3から図5を参照して、本実施形態の変形例について説明する。以下のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。なお、図3から図5に示す変形例では、上記実施形態と同様の構成については同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0089】
(1)第1変形例
まず、図3に示す第1変形例について説明する。
【0090】
上記実施形態では、押圧ピストン61に信号圧室60a,60bが形成されると共に、押圧ピストン61が制御スプール52に当接して、制御スプール52には信号圧による推力が作用する。
【0091】
これに対し、第1変形例では、信号圧室60a,60bが形成される部材と、制御スプール52に当接する部材とは、別の部材である。言い換えれば、信号圧室60a,60bは、制御スプール52に当接する押圧ピストン61(押圧部材)とは別の部材によって形成される。
【0092】
図3に示すように、押圧機構60は、制御スプール52の端面53aに当接する押圧部材としての押圧ピストン162と、2つの軸部挿入孔161a,161bが形成される中間部材としての中間ピストン163と、制御スプール52に当接する端面162aとは反対側の押圧ピストン162の端面に当接しそれぞれ2つの軸部挿入孔161a,161bに移動自在に挿入される2つの軸部としての信号ピン175a,175bと、を有する。
【0093】
押圧ピストン162は、制御スプール52の外径よりも大きな外径を有する円板状の部材である。上記実施形態と同様に、制御スプール52の端面53aは、全面が押圧ピストン162の端面162aに当接する。押圧ピストン162は、収容孔91の第2孔部93に摺動自在に挿入される。この第1変形例では、第2孔部93が、径方向への押圧ピストン162の移動を規制し、軸方向への移動を案内するガイド部に相当する。
【0094】
中間ピストン163には、上記実施形態と同様の第1,第2連通ポート64a,64b及び第1,第2接続通路65a,65bが形成され、図示しない回り止め機構によって回り止めされている。軸部挿入孔161a,161bに信号ピン175a,175bが移動自在に挿入されることで、中間ピストン163には、軸部挿入孔161a,161bの内壁と信号ピン175a,175bとによって信号圧室60a,60bが形成される。なお、信号ピン175a,175bは、押圧ピストン162とは別体として形成されているが、押圧ピストン162と一体的に形成されてもよい。これによれば、信号ピン175a,175bによって押圧ピストン162の回り止めをすることができる。
【0095】
信号圧室60a,60bに信号圧が導かれることで、信号圧による推力が、信号ピン175a,175bを介して押圧ピストン162に伝達され、押圧ピストン162から制御スプール52に作用する。このように、第1変形例では、上記実施形態と同様に、複数の信号圧による推力が、それぞれ共通の押圧ピストン162を通じて制御スプール52に作用する。また、制御スプール52の端面53aの全体に当接する押圧ピストン162が、信号圧室60a,60bの信号圧によって生じる推力を受けて制御スプール52を外側スプリング51a及び内側スプリング51bの付勢力に抗して押圧する。したがって、第1変形例であっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0096】
(2)第2変形例
次に、図4を参照して、第2変形例について説明する。
【0097】
上記実施形態では、制御スプール52は、ケース本体3aに形成されるスプール収容孔50aに収容される。また、押圧機構60は、補助スプリング70及び調整機構80を有する。
【0098】
これに対し、図4に示す第2変形例のように、ケース本体3aに形成される取付孔3eにスリーブ260を取り付け、スリーブ260に形成されるスプール収容孔250aに制御スプール52を収容してもよい。また、図4に示すように、押圧機構60は、補助スプリング70及び調整機構80を有していなくてもよい。以下、具体的に説明する。
【0099】
第2変形例では、レギュレータ250は、ケース本体3aに形成される取付孔3eに取り付けられるスリーブ260を有する。
【0100】
スリーブ260は、ケース本体3aの取付孔3eに形成される雌ねじ203に螺合することで、ケース本体3aに取り付けられる。スリーブ260には、制御スプール52が挿入されるスプール収容孔250aと、スプール収容孔250aと同軸に形成され押圧ピストン61が挿入される収容孔291と、が形成される。つまり、第2変形例では、スリーブ260がハウジング部材に相当する。
【0101】
また、スリーブ260には、外周に形成される第1ポート260aを通じて制御圧通路11に連通する第1連通孔261aと、外周に形成される第2ポート260bを通じて吐出圧通路10に連通する第2連通孔261bと、が形成される。第1ポート260a及び第2ポート260bは、それぞれスリーブ260の外周面に形成される円環状の溝である。第1連通孔261aと第2連通孔261bとは、それぞれスプール収容孔250aと交差し、スプール収容孔250aに連通する。
【0102】
スリーブ260に形成されるスプール収容孔250aの一端は、上記実施形態と同様に、小径ピストン42を収容する第2ピストン収容孔41に開口する。収容孔291の端部は、スリーブ260に螺合して取り付けられるプラグ270によって封止される。
【0103】
プラグ270は、押圧ピストン61に形成される軸部挿入孔61a,61bに挿入される軸部278a,278bを有する。プラグ270の軸部278a,278bと押圧ピストン61の軸部挿入孔61a,61bの内壁とによって、信号圧室60a,60bが形成される。
【0104】
また、第2変形例では、押圧ピストン61は、収容孔291に対して摺動する。よって、収容孔291が、制御スプール52の径方向への押圧ピストン61の移動を規制すると共に軸方向への移動を案内するガイド部として機能する。
【0105】
このような第2変形例であっても、上記実施形態と同様に、複数の信号圧による推力が、それぞれ共通の押圧ピストン61を通じて制御スプール52に作用する。したがって、第2変形例であっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0106】
(3)第3変形例
次に、図5を参照して、第3変形例について説明する。
【0107】
上記実施形態では、押圧ピストン61に形成される軸部挿入孔61a,61bと、着座部材75の軸部78a,78bと、によって信号圧室60a,60bが形成される。また、制御スプール52の端面53aの全体が押圧ピストン61の端面63aに当接する。
【0108】
これに対し、図5に示す第3変形例では、押圧ピストン61には、第2ピストン部63とは反対側の第1ピストン部62の端部に第3ピストン部64が設けられる。第3ピストン部64の外径は、第1ピストン部62の外径よりも小さく、第3ピストン部64と第1ピストン部62との間に外径差によって第1ピストン段差面62bが形成される。また、第1ピストン部62と第2ピストン部63との間には、外径差によって第2ピストン段差面63bが形成される。また、収容孔91には、第3変形例の押圧ピストン61に対応して、押圧ピストン61の第3ピストン部64が摺動自在に挿入される第3孔部94がさらに形成される。第3変形例では、収容孔91の第1段差面92aは、第3孔部94と第1孔部92との内径差によって形成される。第3孔部94が、凹部95に接続される。
【0109】
このような第3変形例では、押圧ピストン61の第3ピストン部64の外周面、第1ピストン段差面62b、及び収容孔91の第1段差面92aによって一方の信号圧室60aが形成される。また、第1ピストン部62の外周面、第2ピストン段差面63b、及び収容孔91の第2段差面93aによって他方の信号圧室60bが形成される。また、押圧ピストン61は、貫通孔61dを有する中空に形成されており、補助スプリング70は、押圧ピストン61の貫通孔61dを通じて制御スプール52の端面53aに直接接触している。また、押圧ピストン61が制御スプール52に向けて図5中右方向に移動しても、第3ピストン部64が収容孔91の第3孔部94の挿入された状態が維持される。これにより、押圧ピストン61が制御スプール52に向けてフルストロークしても、一方の信号圧室60aが収容孔91の他部に連通することがなく、信号圧室60aが閉じられた状態は維持される。
【0110】
制御スプール52の端部には、本体部53よりも外径が大きいフランジ部353が設けられている。押圧ピストン61には貫通孔61dが設けられるため、フランジ部353と押圧ピストン61とは、円環状の接触面により接触する。このように、制御スプール52の端面53aの全体が押圧ピストン61に接触する構成ではなく、一部が押圧ピストン61に接触する構成であってもよい。この場合、制御スプール52と押圧ピストン61との接触面は、例えば、円環状のように、制御スプール52の軸方向視において、制御スプール52の中心点を中心とした点対称となるように設けられることが望ましい。このように接触面を設けることで、押圧ピストン61の端面63aが制御スプール52の端面53aに対して均等に接触するため、その中心軸が傾斜するように制御スプール52に押圧ピストン61から推力が作用することを防止できる。
【0111】
このような第3変形例であっても、複数の信号圧の合力による推力が、それぞれ共通の押圧ピストン61を通じて制御スプール52に作用する。したがって、第3変形例であっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0112】
(4)その他の変形例
次に、その他の変形例について説明する。
【0113】
上記実施形態では、一対の軸部挿入孔61a,61bと一対の軸部78a,78bによって、2つの信号圧室60a,60bが押圧ピストン61に形成される。これに対し、押圧機構60は、3つ以上の信号圧室を有するものでもよいし、1つの信号圧室を有するものでもよい。また、信号圧の種類も上記実施形態に限定されるものではなく、ピストンポンプ100の用途等に応じて任意に構成することができる。例えば、ピストンポンプ100が、2つのポートから作動油を吐出する、いわゆるスプリットフロータイプである場合には、一方のポートから吐出される作動油の吐出圧を信号圧として一方の信号圧室に導き、他方のポートから吐出される作動油の吐出圧を信号圧として他方の信号圧室に導くように構成してもよい。
【0114】
また、上記実施形態では、2つの信号圧室60a,60bのそれぞれにタンク圧よりも大きい信号圧が導かれ、押圧ピストン61には、2つの信号圧室60a,60bに導かれる信号圧によって生じる推力がそれぞれ作用する。つまり、押圧ピストン61には、2つの信号圧室60a,60bに導かれる信号圧によって生じる推力の合力が作用する。これに対し、複数の信号圧室の一部には、信号圧としてタンク圧が導かれてもよい。この場合、タンク圧が導かれる信号圧室では、押圧ピストン61を付勢する推力が発揮されない、言い換えれば、発揮される推力の大きさが「0」である。本明細書において、複数の信号圧室に導かれる信号圧の合力とは、大きさが「0」である推力との合力も含む意味である。よって、本発明には、複数の信号圧室のうち、一つの信号圧室にタンク圧よりも大きい信号圧が導かれて「0」より大きい推力が生じ、その他の信号圧室のすべてにタンク圧が導かれて推力が「0」となるような形態(つまり、合力の大きさは、タンク圧よりも大きな信号圧が導かれる単一の信号圧室によって発揮される推力に相当する形態)も含まれる。
【0115】
以下、本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0116】
ピストンポンプ100は、シャフト1の回転に伴って回転するシリンダブロック2と、シリンダブロック2に形成されシャフト1の周方向に所定の間隔をもって配置される複数のシリンダ2bと、シリンダ2b内に摺動自在に挿入されシリンダ2bの内部に容積室6を区画するピストン5と、シリンダブロック2の回転に伴って容積室6を拡縮するようにピストン5を往復動させる傾転可能な斜板8と、供給される制御圧に応じて斜板8を付勢する第1付勢機構30と、第1付勢機構30に抗するように斜板8を付勢する第2付勢機構40と、第1付勢機構30に導かれる制御圧をピストンポンプ100の自己圧に応じて制御するレギュレータ50と、を備え、レギュレータ50は、斜板8の傾転に追従して伸縮する外側スプリング51a及び内側スプリング51bと、外側スプリング51a及び内側スプリング51bの付勢力に応じて移動して、制御圧を調整する制御スプール52と、制御スプール52を外側スプリング51a及び内側スプリング51bの付勢力に抗して押圧する押圧機構60と、を有し、押圧機構60は、複数の信号圧がそれぞれ導かれる信号圧室60a,60bと、複数の信号圧室60a,60bに導かれる信号圧の合力が作用し制御スプール52を外側スプリング51a及び内側スプリング51bの付勢力に抗して押圧する押圧ピストン61,162と、を有する。
【0117】
この構成では、複数の信号圧室60a,60bにそれぞれ信号圧が導かれても、各信号圧によって生じる推力は、いずれも同じ押圧ピストン61,162に作用し、押圧ピストン61,162によって制御スプール52が外側スプリング51a及び内側スプリング51bの付勢力に抗して押圧される。よって、信号圧の大きさの違いなどがあっても、共通の押圧ピストン61,162によって制御スプール52が押圧される構成であるため、信号圧の推力を制御スプール52の中心軸に沿って均等に制御スプール52に作用させやすくなる。よって、制御スプール52に生じる摩擦が低減され、制御スプール52の摩耗を抑制することができる。
【0118】
また、ピストンポンプ100では、押圧ピストン61,162の外径は、制御スプール52の外径よりも大きく形成される。
【0119】
この構成では、制御スプール52の端面53aの全体が、より確実に押圧ピストン61,162に当接する。
【0120】
また、ピストンポンプ100では、レギュレータ50は、押圧ピストン61,162を収容する収容孔91,291が制御スプール52の中心軸と同軸に形成されるハウジング部材(キャップ90,スリーブ260)を有し、収容孔91,291には、制御スプール52の中心軸に垂直な方向への押圧ピストン61,162の移動を規制し、制御スプール52の中心軸に沿った押圧ピストン61,162の移動を案内するガイド部(第1孔部92、第2孔部93、収容孔291)が設けられる。
【0121】
この構成では、押圧ピストン61,162から制御スプール52に作用する付勢力を、より確実に制御スプール52の中心軸に沿って作用させることができる。したがって、制御スプール52に生じる摩耗をより確実に抑制することができる。
【0122】
また、ピストンポンプ100では、押圧機構60が、押圧ピストン61に向けて制御スプール52の軸方向に突出する軸部78a,78bを有する着座部材75をさらに有し、押圧ピストン61には、軸部78a,78bが挿入されて軸部78a,78bと共に信号圧室60a,60bを形成する軸部挿入孔61a,61bが形成される。
【0123】
この構成では、押圧ピストン61に形成される軸部挿入孔61a,61bに軸部78a,78bが挿入されることで信号圧室60a,60bが形成される構成であるので、押圧ピストン61の傾きが軸部78a,78bによって抑制される。
【0124】
また、第1変形例では、押圧機構60は、制御スプール52の軸方向に沿って設けられ制御スプール52に当接する端面とは反対側の押圧ピストン162の端面に当接する信号ピン175a,175bと、信号ピン175a,175bが挿入されて信号ピン175a,175bと共に信号圧室60a,60bを形成する軸部挿入孔161a,161bが形成される中間ピストン163と、をさらに有する。
【0125】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0126】
100…ピストンポンプ(液圧回転機)、1…シャフト(駆動軸)、2…シリンダブロック、2b…シリンダ、3…ケース、5…ピストン、6…容積室、8…斜板、30…第1付勢機構、40…第2付勢機構、50,250…レギュレータ、51a…外側スプリング(付勢部材)、51b…内側スプリング(付勢部材)、52…制御スプール、60…押圧機構、60a,60b…信号圧室、61,162…押圧ピストン(押圧部材)、61a,61b,161a,161b…軸部挿入孔、75…着座部材、78a,78b…軸部、90…キャップ(ハウジング部材)、91…収容孔、92…第1孔部(ガイド部)、93…第2孔部(ガイド部)、163…中間ピストン(中間部材)、175a,175b…信号ピン(軸部)、260…スリーブ(ハウジング部材)、291…収容孔(ガイド部)
図1
図2
図3
図4
図5