(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】温熱刺激器具
(51)【国際特許分類】
A61F 7/00 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
A61F7/00 320E
(21)【出願番号】P 2020097740
(22)【出願日】2020-06-04
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】502323391
【氏名又は名称】株式会社エル
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 博史
【審査官】山田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特表平08-501957(JP,A)
【文献】特開2008-289616(JP,A)
【文献】実開昭56-135733(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 7/00
A61F 7/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルと本体部を備える温熱刺激器具であって、
前記本体部は
上面と前記上面の反対側に底面とを有し、
前記底面近傍に電熱体を備え
、
前記ハンドルが前記上面に配置され、前記本体部の上方に位置し、前記底面に対して略平行に延在することを特徴とする、温熱刺激器具。
【請求項2】
前記ハンドルは蒸気の放出を制御する蒸気スイッチを備え、
前記本体部は気化室と、前記気化室と流体連通する蒸気室とをさらに備え、
前記蒸気室は前記本体部の底面に向かって貫通する水蒸気噴出口が設けられ、
前記蒸気スイッチは、前記気化室に投入された液体が前記電熱体により加熱されて形成された水蒸気が前記蒸気室を通って、前記水蒸気噴出口から放出されることを制御することを特徴とする請求項1に記載の温熱刺激器具。
【請求項3】
前記投入された液体は水であることを特徴とする請求項2に記載の温熱刺激器具。
【請求項4】
前記本体部
の底面は50℃以上である請求項1~3のいずれか一項に記載の温熱刺激器具。
【請求項5】
前記本体部
の底面は140℃以下である請求項4に記載の温熱刺激器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に温熱刺激を施すための器具に関し、特に迷走神経への温熱刺激を施すための器具に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の不調に対し、患部などの対応箇所に外部刺激を与えて活性化し、向上させることは、種々の方法を用い、広く行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、急性心筋梗塞等の循環器疾患の治療に際し、迷走神経に電気刺激を印加することを開示する。また、特許文献2では交感神経系又は迷走神経系の活動を調節して患者の自律神経活動を好適な状態に改善したり、自律神経異常を改善したりする治療のため、患者の頚部に圧力負荷手段を取り付け、この圧力負荷手段により該頚部へ吸引(陰圧)又は押圧(陽圧)を負荷することによって、迷走神経活動を増加又は低下させ、また、交感神経活動を低下又は増加させて、交感神経活動値及び/ 又は迷走神経活動値を目標値に制御することで自律神経異常を改善する、自律神経治療装置が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、迷走神経に直接電気刺激を印加させるため、電極を迷走神経近辺に埋め込む等の外科手術を必要とする。また、特許文献2に記載の治療装置は頸部に圧力を付加するものであり、危険性が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2010-106823号
【文献】国際公開2006-080075号
【文献】特開2019-15597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの事情に鑑み、本願発明は、対象者に外傷を与えることなく、簡便でかつ効率よく人体の対象箇所に温熱刺激を与える器具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施態様は、ハンドルと本体部を備える温熱刺激器具であって、前記本体部は、電熱体を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の他の実施態様では、前記ハンドルは蒸気の放出を制御する蒸気スイッチを備え、
前記本体部は気化室と、前記気化室と流体連通する蒸気室とをさらに備え、
前記蒸気室は前記本体部の底面に向かって貫通する水蒸気噴出口が設けられ、
前記蒸気スイッチは、前記気化室に投入された液体が前記電熱体により加熱されて形成された水蒸気が前記蒸気室を通って、前記水蒸気噴出口から放出されることを制御することを特徴とする。
【0009】
本発明の一実施態様によれば、被施術者の迷走神経を効率よく活発化させ、種々の疾病症状を軽減または回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施例を示す温熱刺激器具を表す図であり、(a)は当該温熱刺激器具の断面図であり、(b)は温熱刺激器具の底面図である。
【
図2】本発明の一実施例を示す温熱刺激器具を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明による温熱刺激器具の一実施態様について、図を参照にしながら詳細に説明する。
【0012】
(蒸気を用いる実施態様)
本発明の一の実施態様において、温熱刺激器具10は、蒸気スイッチ102を備えるハンドル100と、電熱体105と、気化室106と、気化室106と流体連通する蒸気室109とを備える本体部110とを備える(
図1(a)および(b)参照)。
【0013】
ハンドル100は蒸気スイッチ102を備え、本体部110上部に設けられる。使用者はハンドル100を把持して本体部110を移動させるとともに、蒸気スイッチ102を操作し、基板103に接続する蒸気開閉装置104を作動させる。蒸気スイッチ102はハンドル100上の任意の位置に設けることができる。
【0014】
本体部110は電熱体105と、気化室106と、気化室106と流体連通する蒸気室109とを備え、蒸気室109から本体部110の底面に向かって、水蒸気噴出口108が設けられている。
【0015】
気化室106は電熱体105に隣接またはその近傍に設けられ、内部に投入された水が電熱体105で加熱され、水蒸気となる空間である。気化室106には水を投入するための流路が連結され、気化室106は、
図1(a)に記載されているような滴下水流路101や、貯水タンク(不図示)と流体連通する。貯水タンクは本体部110内に設けられていてもよい。
【0016】
蒸気室109は、気化室106と流体連通し、気化室106で形成された水蒸気を貯蔵する。
【0017】
さらに、蒸気室109から本体部110の底面に向かって水蒸気噴出口108が設けられ、蒸気室109の蒸気が本体部110の底面から放出されることとなる。水蒸気噴出口108は、単数設けられても、また複数設けられてもよい。複数の場合、比較的広範囲を同時に加熱することができ、好ましい。
【0018】
水蒸気の放出は、蒸気スイッチ102により蒸気開閉装置104を操作して行われる。蒸気スイッチ102から開の信号が基板103に送られると蒸気開閉装置104が動作し、蒸気室109内の水蒸気が水蒸気噴出口108から放出される。
【0019】
本発明の一実施態様において、使用者は被施術対象に対して本体部110を押圧して圧力をかけながら、温熱刺激を提供する。圧力は被施術対象によるが、例えば5kPa~15kPa程度の圧力で押圧しながら、温熱刺激を提供してもよい。被施術対象に本体部110を押圧する際にはタオル等の緩衝材を間にはさんで押圧してもよい。押圧は、被施術対象およびその施術範囲にもよるが、押圧位置を移動させながら、施術中、数10回行われてもよい。
【0020】
押圧刺激において当該蒸気は、当該緩衝材を挟んで被施術対象に与えられた温度が35℃~60℃の温度となるように、提供される。蒸気を提供するため、温熱刺激器具10の器具底面の温度は130℃~140℃に加熱されてもよい。
【0021】
(蒸気を用いない実施態様)
本発明の他の実施態様において、温熱刺激器具10は、ハンドル100と、電熱体105とを備え、被施術対象に熱と圧力を与え、温熱刺激を提供することができる。以下、それらの概要を順に説明する(
図2参照)。
【0022】
ハンドル100は本体部110上部に設けられ、使用者はハンドル100を把持して本体部110を移動させる。
【0023】
本体部110は電熱体105を備える。本体部110は電熱体105により加熱され、被施術対象に対して35~60℃の温度を与える温度で加熱される。本発明の一実施態様において、施術者は電熱体105と被施術対象との間にタオル等の緩衝材を挟んで施術を行われる。圧力は被施術対象によるが、蒸気を用いる場合と同様、例えば5kPa~15kPa程度の圧力で押圧しながら、施術中、数10回の温熱刺激を提供してもよい。被施術対象に本体部110を押圧する際にはタオル等の緩衝材を間にはさんで押圧してもよい。
【0024】
(被施術対象)
本発明の一実施態様において、温熱刺激器具10は被施術対象の身体の任意の箇所に温熱刺激を提供することができる。例えば、背部、腹部、横腹部、肩部、腕部、腰部、脚部に対して、温熱刺激を提供することができる。当該温熱刺激器具10は表面に温熱刺激を与えるだけでなく、身体深層部にも刺激を提供する。例えば、背部に温熱刺激を提供することにより、背部の迷走神経を活発化することができる。また、当該温熱刺激器具10は医療用途だけでなく、美容用途や整体用途にも用いることができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の一実施態様の温熱刺激器具を用いて、被施術対象に温熱刺激処置を行った結果を示す。
【0026】
(実施例1)
風邪の症状と首の痛みを持つ被施術対象(40代、女性)に対し、当該温熱刺激器具を
用い、本体部温度130~140℃(被施術対象温度40℃)で蒸気を発生させながら、
肩部および背面部に5kPa~15kPa程度の圧力で数10回押圧を行い、温熱刺激
処置を行った。
【0027】
施術後、風邪の症状と首の痛みが消失した。また、施術前後で、ふともも-0,9cm、ふくらはぎ-0.5cm、足首-1.2cmのサイズダウンが測定された。
【0028】
(実施例2)
腰痛、背中の痛み、および肩こりの症状を持つ被施術対象(60代、男性)に対し、当該温熱刺激器具を用い、本体部温度130~140℃(被施術対象温度40℃)で蒸気を発生させながら、肩部、背面部、腰部、および臀部に5kPa~15kPa程度の圧力で各30回押圧を行い、温熱刺激処置を行った。
【0029】
施術後、腰痛と背中の痛みが消失した。また、施術前後で、前屈および後屈に変化が見られ、体の柔軟性が向上した。結果を表1に示す。
【0030】
【0031】
(実施例3)
転倒により負傷した被施術対象(60代、男性)に対し、当該温熱刺激器具を用い、 本体部温度130~140℃(被施術対象温度40℃)で蒸気を発生させながら、肩部および背面部に5kPa~15kPa程度の圧力で数10回押圧を行い、温熱刺激処置を2回行った。
【0032】
施術前後で、前屈および後屈に変化が見られ、体の柔軟性が向上した。結果を表2に示す。
【0033】
【0034】
(実施例4)
左首に痛みのある被施術対象(60代、男性)に対し、当該温熱刺激器具を用い、本体部温度130~140℃(被施術対象温度40℃)で蒸気を発生させながら、背面部に5kPa~15kPa程度の圧力で左右数10回押圧を行い、温熱刺激処置を2回行った。
【0035】
施術後は、首の可動域が改善した。また、施術前後で、前屈および後屈に変化が見られ、体の柔軟性が向上した。結果を表3に示す。
【0036】
【0037】
このように、本発明の一実施態様において、当該温熱刺激器具は迷走神経を活発化させ、身体の不調を解消し、体の柔軟性を向上させることができた。
【0038】
このように、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施態様においても本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施態様におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のないあらゆる構成を含め、その用途や目的に応じて任意に変更し得るものである。
【符号の説明】
【0039】
10 温熱刺激器具
100 ハンドル
101 滴下水流路
102 蒸気スイッチ
103 基板
104 蒸気開閉装置
105 電熱体
106 気化室
108 水蒸気噴出口
109 蒸気室
110 本体部