(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】駆動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60K 23/04 20060101AFI20240207BHJP
F16H 48/24 20060101ALI20240207BHJP
B60K 23/08 20060101ALN20240207BHJP
【FI】
B60K23/04 E
F16H48/24
B60K23/08 C
(21)【出願番号】P 2020102470
(22)【出願日】2020-06-12
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】517175611
【氏名又は名称】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】長岡 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 竜也
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-136637(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0082634(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 23/04
F16H 48/24
B60K 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後に少なくとも一対の車輪を有し、かつ少なくとも前側の前記一対の車輪間又は後側の前記一対の車輪間に差動装置が配置されて、駆動源から前記差動装置を介して前記一対の車輪を駆動回転させる車両に用いられ、
前記差動装置は、駆動力が入力され回転可能に配置された入力部材と、前記入力部材に支承されて自転可能であると共に前記入力部材の回転によって公転する差動部材と、前記差動部材と噛み合って相対回転可能であると共にそれぞれが駆動力を出力可能な一対の出力部材と、前記一対の出力部材の差動回転をロック可能な差動ロック機構とを備え、
前記差動ロック機構のロックのON-OFFを自動で切り換え可能なオートモードを備えて制御する制御機構を備えた車両の駆動を制御する駆動制御装置であって、
前記制御機構は、前記車両の前後のうち少なくとも一方のみが駆動される2輪駆動状態と、前記車両の前後両方が駆動される4輪駆動状態とで、前記オートモードの切り換えタイミングが異なる第1と第2の切換タイミングを備えた制御部を有することを特徴とする駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の駆動制御装置であって、
前記車両の前後両方が駆動される4輪駆動状態は、さらに駆動トルクが増大可能な第2の4輪駆動状態に切り換え可能であり、
前記制御部は、前記第2の4輪駆動状態に対応した第3の切換タイミングを備えていることを特徴とする駆動制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の駆動制御装置であって、
前記差動装置は、自己制御で差動制限可能な差動制限機構を備え、
前記制御部は、前記差動装置が前記差動制限機構を備えた場合の切換タイミング有することを特徴とする駆動制御装置。
【請求項4】
前後に少なくとも一対の車輪を有し、かつ少なくとも前側の前記一対の車輪間又は後側の前記一対の車輪間に差動装置が配置されて、駆動源から前記差動装置を介して前記一対の車輪を駆動回転させる車両に用いられ、
前記差動装置は、駆動力が入力され回転可能に配置された入力部材と、前記入力部材に支承されて自転可能であると共に前記入力部材の回転によって公転する差動部材と、前記差動部材と噛み合って相対回転可能であると共にそれぞれが駆動力を出力可能な一対の出力部材とを備え、
前記差動装置の前記一対の出力部材のいずれか一方又は両方の駆動回転を制動可能なブレーキによって、差動回転を制御可能な制御機構を備えた車両の駆動を制御する駆動制御装置であって、
前記制御機構は、前記車両の前後のうち少なくとも一方のみが駆動される2輪駆動状態と、前記車両の前後両方が駆動される4輪駆動状態とで、前記ブレーキの制動の切り換えタイミングが異なる第1と第2の切換タイミングを備えた制御部を有することを特徴とする駆動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用される駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両としては、前後に少なくとも一対の車輪を有し、かつ少なくとも前側の一対の車輪間又は後側の一対の車輪間に差動装置が配置されて、駆動源から差動装置を介して一対の車輪を駆動回転させるものがある。
【0003】
この車両に適用される差動装置としては、駆動力が入力され回転可能に配置された入力部材としてのデフケースと、デフケースに支承されて自転可能であると共にデフケースの回転によって公転する差動部材としてのピニオンと、ピニオンと噛み合って相対回転可能であると共にそれぞれが駆動力を出力可能な一対の出力部材としてのサイドギヤと、一対のサイドギヤの差動回転をロック可能な差動ロック機構とを備えたものがある。
【0004】
このような差動装置が搭載された車両の駆動を制御する駆動制御装置としては、差動ロック機構のロックのON-OFFを自動で切り換え可能なオートモードを備えて制御する制御機構としての判断手段を備えたものが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
この駆動制御装置では、判断手段のオートモードにおいて、一対の車輪間の差回転が所定の回転差以上であるときに、判断手段が、差動ロック機構をロックするように作動させ、一対のサイドギヤの差動回転をロックする。
【0006】
このように一対のサイドギヤの差動回転をロックすることにより、一対の車輪間の差回転がなくなり、片側の車輪のスリップを回避することができ、悪路の走破性を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献1の駆動制御装置では、例えば、車両が4輪駆動状態で、車速が所定の速度以下であるときに、オートモードで差動ロック機構の作動を制御していた。
【0009】
このため、上記特許文献1の駆動制御装置では、2輪駆動状態での、オートモードで差動ロック機構の作動を制御することができず、車両走行時の駆動力を十分に発揮することができなかった。
【0010】
そこで、この発明は、4輪駆動状態や2輪駆動状態などの車両の駆動方式に応じて、オートモードで差動ロック機構の作動を的確に制御することができる駆動制御装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前後に少なくとも一対の車輪を有し、かつ少なくとも前側の前記一対の車輪間又は後側の前記一対の車輪間に差動装置が配置されて、駆動源から前記差動装置を介して前記一対の車輪を駆動回転させる車両に用いられ、前記差動装置は、駆動力が入力され回転可能に配置された入力部材と、前記入力部材に支承されて自転可能であると共に前記入力部材の回転によって公転する差動部材と、前記差動部材と噛み合って相対回転可能であると共にそれぞれが駆動力を出力可能な一対の出力部材と、前記一対の出力部材の差動回転をロック可能な差動ロック機構とを備え、前記差動ロック機構のロックのON-OFFを自動で切り換え可能なオートモードを備えて制御する制御機構を備えた車両の駆動を制御する駆動制御装置であって、前記制御機構は、前記車両の前後のうち少なくとも一方のみが駆動される2輪駆動状態と、前記車両の前後両方が駆動される4輪駆動状態とで、前記オートモードの切り換えタイミングが異なる第1と第2の切換タイミングを備えた制御部を有することを特徴とする。
【0012】
この駆動制御装置では、制御機構が、車両の前後のうち少なくとも一方のみが駆動される2輪駆動状態と、車両の前後両方が駆動される4輪駆動状態とで、オートモードの切り換えタイミングが異なる第1と第2の切換タイミングを備えた制御部を有する。
【0013】
このため、制御機構のオートモードにおいて、制御部が、車両の2輪駆動状態と、4輪駆動状態とで、差動ロック機構のロックのON-OFFを自動で切り換えるタイミングを異ならせることで、差動ロック機構の作動を的確に制御し、車両走行駆動方式に合わせて駆動力を十分に発揮できる。
【0014】
このように車両の駆動方式に応じて、差動ロック機構のロックのON-OFFの切換タイミングを異ならせることにより、異なる駆動方式における車両の走破性を向上することができる。
【0015】
従って、このような駆動制御装置では、制御部が、車両の2輪駆動状態と、4輪駆動状態とで、オートモードの切り換えタイミングが異なる第1と第2の切換タイミングを備えているので、4輪駆動状態や2輪駆動状態などの車両の駆動方式に応じて、オートモードで差動ロック機構の作動を的確に制御することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、4輪駆動状態や2輪駆動状態などの車両の駆動方式に応じて、オートモードで差動ロック機構の作動を的確に制御することができる駆動制御装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る駆動制御装置が適用される車両の動力系の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る駆動制御装置が適用される差動装置の一例を示す断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る駆動制御装置の制御の流れを示す図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る駆動制御装置の制御の方式を示す図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る駆動制御装置が適用される車両の動力系の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1~
図5を用いて本発明の実施の形態に係る駆動制御装置について説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1~
図4を用いて第1実施形態について説明する。
【0020】
本実施の形態に係る駆動制御装置1は、前後に少なくとも一対の車輪を有し、かつ少なくとも前側の一対の車輪319,319間に差動装置315が配置され、又は後側の一対の車輪311,311間に差動装置201が配置されて、駆動源303から差動装置201を介して一対の車輪311,311を駆動回転させる車両301に用いられる。まず、本実施形態では、駆動制御装置として差動装置201側に適用した場合について説明する。
【0021】
差動装置201は、駆動力が入力され回転可能に配置された入力部材としてのデフケース203と、デフケース203に支承されて自転可能であると共にデフケース203の回転によって公転する差動部材としてのピニオン205と、ピニオン205と噛み合って相対回転可能であると共にそれぞれが駆動力を出力可能な一対の出力部材としてのサイドギヤ207,209と、一対のサイドギヤ207,209の差動回転をロック可能な差動ロック機構211とを備えている。
【0022】
さらに、駆動制御装置1は、差動ロック機構211のロックのON-OFFを自動で切り換え可能なオートモードを備えて制御する制御機構3を備えた車両301の駆動を制御する。
【0023】
そして、制御機構3は、車両301の前後のうち少なくとも一方のみの車輪が駆動される2輪駆動状態と、車両301の前後両方の車輪が駆動される4輪駆動状態とで、オートモードの切り換えタイミングが異なる第1と第2の切換タイミングを備えた制御部としてのデフロックECU5を有する。
【0024】
また、車両301の前後両方の車輪が駆動される4輪駆動状態は、さらに駆動トルクが増大可能な第2の4輪駆動状態に切り換え可能であり、デフロックECU5は、第2の4輪駆動状態に対応した第3の切換タイミングを備えている。
【0025】
さらに、差動装置201は、自己制御で差動制限可能な差動制限機構213を備え、デフロックECU5は、差動装置201が差動制限機構213を備えた場合に、切換タイミングをさらに別な切換タイミングへも調整可能である。
【0026】
まず、
図1を用いて本発明の実施の形態に係る駆動制御装置が適用される車両の動力系の一例について説明する。
【0027】
図1に示すように、車両301の動力系は、エンジンや電動モータなどの駆動源303と、駆動源303からの駆動力がトランスミッション304を介して前輪側と後輪側とに伝達するトランスファ305と、後輪側プロペラシャフト307と、後輪側の左右輪の差動を許容するリヤデフである第1の差動装置201と、後車軸309,309と、後輪311,311と、前輪側プロペラシャフト313と、前輪側の左右輪の差動を許容するフロントデフである第2の差動装置315と、前車軸317,317と、前輪319,319などを備えている。
【0028】
この車両301の動力系では、駆動源303からの駆動力がトランスファ305に伝達され、常時、後輪側プロペラシャフト307を介して差動装置201に伝達され、後車軸309,309を介して後輪311,311に駆動力が配分される。
【0029】
一方、トランスファ305に伝達された駆動力は、このトランスファ305に備えられた図示外のクラッチを接続すると、駆動源303からの駆動力の一部が前輪側プロペラシャフト313を介して差動装置315に伝達される。そして、差動装置315に備えられた図示外の断続機構(一般的にアクスルディスコネクトやフリーランニングなどと称される)が接続状態で動力伝達がなされると、前車軸317,317を介して前輪319,319に駆動力が配分され、車両301が前後輪駆動の4輪駆動状態となる。
【0030】
これに対して、差動機構315に適用された断続機構が接続解除状態であると、前輪側プロペラシャフト313からフロントデフ315への動力伝達が遮断され、前輪319,319側に駆動力が伝達されず、車両301が後輪駆動の2輪駆動状態となる。
【0031】
トランスファ305内には、通常走行における第1の4輪駆動状態から駆動トルクが増大可能な第2の4輪駆動状態へ切り換え可能なHi-Low切り換えギヤ機構が備えられており、ドライバによる手動選択又は車両の走行状態を検出してデフロックECUによる自動選択が可能になっている。
【0032】
なお、車両301の動力系では、主として後輪側に駆動力が伝達されるFRベースの車両となっているが、これに限らず、主として前輪側に駆動力が伝達されるFFベースの車両にも、駆動制御装置を適用することができる。
【0033】
この場合には、駆動源303からの駆動力が、常時、フロントデフである第1の差動装置315に伝達され、車両が前輪駆動の2輪駆動状態となる。そして、リヤデフに適用された断続機構が接続状態であると、リヤデフである第2の差動装置201が駆動され、車両が前後輪駆動の4輪駆動状態となる。断続機構が接続解除状態であると、車両が前輪駆動の2輪駆動状態に戻る。
【0034】
なお、FRベース車両における差動装置315側、或いはFFベース車両における差動装置201側への駆動力の断続は、トランスファ305に適用された動力伝達を断続する断続機構のみの断続によって行ってもよい。
【0035】
次に、
図2を用いて、車両301に搭載され、駆動制御装置によって作動が制御される差動装置201について説明する。
【0036】
図2に示すように、差動装置201は、差動機構215と、差動ロック機構211と、差動制限機構213とを備えている。
【0037】
差動機構215は、デフケース203と、ピニオンシャフト217と、ピニオン205と、一対のサイドギヤ207,209とを備えている。
【0038】
デフケース203は、軸方向両側に形成されたボス部219,221のそれぞれの外周でベアリング(不図示)を介してキャリアなどの静止系部材(不図示)に回転可能に支持されている。
【0039】
このデフケース203には、リングギヤ(不図示)が固定されるフランジ部223が形成されている。
【0040】
このフランジ部223に固定されたリングギヤは、例えば、駆動源303(
図1参照)から駆動力を伝達する後輪側プロペラシャフト307(
図1参照)と一体回転可能に設けられた動力伝達ギヤ(不図示)と噛み合い、駆動力が入力されてデフケース203を回転駆動させる。
【0041】
このようなデフケース203には、ピニオンシャフト217と、ピニオン205と、一対のサイドギヤ207,209などが収容されている。
【0042】
ピニオンシャフト217は、両端部がデフケース203に形成された孔部に係合され、一方の端部がピンで抜け止めされデフケース203と一体に回転駆動される。
【0043】
このピニオンシャフト217の両端側には、ピニオン205がそれぞれ支承されている。
【0044】
ピニオン205は、デフケース203の周方向等間隔に複数(ここでは2つ)配置され、それぞれピニオンシャフト217の端部側に支承されてデフケース203の回転によって公転する。
【0045】
このピニオン205は、噛み合っている一対のサイドギヤ207,209に差回転が生じると回転駆動されるようにピニオンシャフト217に自転可能に支持されている。
【0046】
このようなピニオン205は、デフケース203に入力された駆動力を一対のサイドギヤ207,209に伝達する。
【0047】
一対のサイドギヤ207,209は、デフケース203内に相対回転可能に収容され、それぞれ第1出力部材225と、第2出力部材227とからなる。
【0048】
第1出力部材225は、環状に形成され、外周側にピニオン205のギヤ部と噛み合うギヤ部229が形成されている。
【0049】
第2出力部材227は、第1出力部材225と軸方向に近接して配置可能なように、第1出力部材225を収容可能な凹状の収容部を有して環状に形成されている。
【0050】
この第2出力部材227の内周側には、一対のサイドギヤ207,209に伝達された駆動力を出力する出力部231が設けられている。
【0051】
また、第2出力部材227の外周側には、差動制限機構213のテーパリング273と摺動する摺動部233が設けられている。
【0052】
このような第2出力部材227と第1出力部材225との間には、カム部235が設けられて互いに一体回転可能に連結されている。
【0053】
カム部235は、第1出力部材225の内周側に設けられ回転方向前後に傾斜した係合面を有する複数の凹凸部と、第2出力部材227の出力部231の外周側に設けられ回転方向前後に傾斜した係合面を有する複数の凹凸部とからなる。
【0054】
このカム部235は、第1出力部材225と第2出力部材227との互いの複数の凹凸部が回転方向に係合することにより、互いに連結する凹凸部が第1出力部材225と第2出力部材227とを一体回転可能とさせる。
【0055】
このようなカム部235における複数の凹凸部の回転方向の係合面は、所定角度傾斜され相互に当接するカム面が形成されているが、カム面の形態に関しては、回転方向に連結し回転軸方向にスラスト力を発生させる構造であれば、他の形状も適宜採り得る。
【0056】
このカム部235におけるカム面は、一対のサイドギヤ207,209の回転により、ピニオン205のギヤ部から伝達された駆動力によって第1出力部材225,225を介して第2出力部材227,227を軸方向外側にそのカムスラスト力で移動させる。
【0057】
この第2出力部材227,227の軸方向移動により、一対のサイドギヤ207,209の摺動部233,233とテーパリング273,273との摺動が強化され、差動制限機構213における差動制限力を強化することができる。
【0058】
このような一対のサイドギヤ207,209の出力部231,231には、例えば、後車軸309,309(
図1参照)に連結された駆動軸が一体回転可能に連結され、デフケース203に入力された駆動力が一対のサイドギヤ207,209から後輪311,311(
図1参照)側に分配して出力される。
【0059】
このような差動機構215は、その差動が差動ロック機構211によって断続される。
【0060】
差動ロック機構211は、クラッチ部材237と、断続部239と、アクチュエータ241とを備えている。
【0061】
クラッチ部材237は、環状に形成され、周方向に連続する一部材で形成された基部243がデフケース203の壁部245とサイドギヤ207のギヤ部229の背面側との軸方向間に軸方向移動可能に配置されている。
【0062】
このクラッチ部材237のデフケース203の壁部245側には、デフケース203と一体回転可能に係合する係合部247が設けられ、クラッチ部材237のサイドギヤ207のギヤ部229の背面側には、断続部239が設けられている。
【0063】
係合部247は、クラッチ部材237の基部243に周方向等間隔に設けられた複数の凸部249と、デフケース203の壁部245に周方向等間隔に軸方向に貫通して設けられた複数の孔251とからなる。
【0064】
この凸部249と孔251とが回転方向に係合することにより、クラッチ部材237がデフケース203に回り止めされ、クラッチ部材237とデフケース203とが一体回転可能となる。
【0065】
この係合部247としての凸部249と孔251との周方向両側の対向面には、同一傾斜のカム面がそれぞれ形成されている。
【0066】
このカム面は、クラッチ部材237が断続部239の接続方向に移動され、断続部239に回転方向の噛み合い作用が生じたときに、デフケース203の回転によってそれぞれのカム面が係合する。
【0067】
このそれぞれのカム面の係合により、クラッチ部材237をさらに断続部239の噛み合い方向に移動させ、断続部239の接続を強化させる。
【0068】
断続部239は、クラッチ部材237の基部243の係合部247と軸方向反対側の側面で、クラッチ部材237とサイドギヤ207のギヤ部229の背面側との軸方向間に設けられている。
【0069】
この断続部239は、クラッチ部材237とサイドギヤ207の第2出力部材227とにそれぞれ周方向に複数形成されて互いに噛み合う噛み合い歯となっている。
【0070】
このような断続部239は、互いの噛み合い歯が噛み合うことにより、クラッチ部材237とサイドギヤ207とが一体回転可能に接続、すなわちデフケース203とサイドギヤ207とが一体回転可能に接続され、差動機構215の差動がロック状態となる。
【0071】
この差動機構215のロック状態では、デフケース203に入力され、一対のサイドギヤ207,209に伝達された駆動力が、例えば、左右の後輪311,311(
図1参照)側に均一に出力される。
【0072】
一方、クラッチ部材237とサイドギヤ207のギヤ部229の背面側との軸方向間で断続部239の径方向内側には、付勢部材253が配置されている。
【0073】
この付勢部材253は、クラッチ部材237を、常時、断続部239の接続解除方向に付勢している。
【0074】
このような付勢部材253によって、クラッチ部材237が断続部239の接続解除方向に移動され、断続部239の接続が解除され、差動機構215の差動がアンロック状態となる。
【0075】
このような断続部239の断続状態は、アクチュエータ241によって制御される。
【0076】
アクチュエータ241は、可動部材255と、電磁石257とを備えている。
【0077】
可動部材255は、電磁石257の内径側でデフケース203のボス部219の外周に軸方向移動可能に配置され、環状のプランジャ259と、リング部材261とを備えている。
【0078】
プランジャ259は、磁性材料から形成され、磁束が透過可能に設定された微小隙間であるエアギャップをもって電磁石257の内径側に配置されている。
【0079】
リング部材261は、非磁性材料から形成され、プランジャ259の内径側に一体に固定され、プランジャ259の内周側からデフケース203側へ磁束が漏れることを防止している。
【0080】
このリング部材261は、デフケース203のボス部219の外周に軸方向移動可能に配置され、デフケース203のボス部219の外周に圧入固定された非磁性材料からなる規制部材263によって軸方向外側への移動規制がなされている。
【0081】
このようなリング部材261は、クラッチ部材237側の軸方向の端面に、クラッチ部材237の凸部249と当接可能な押圧部265が設けられている。
【0082】
この押圧部265は、電磁石257によって可動部材255がクラッチ部材237側に移動されたときに、その軸方向の移動操作力をクラッチ部材237に伝達し、クラッチ部材237を断続部239の接続方向に押圧操作する。
【0083】
電磁石257は、デフケース203のボス部219の外周側でデフケース203の壁部245に対して軸方向に隣接配置されている。
【0084】
この電磁石257は、回り止め部(不図示)を介してキャリアなどの静止系部材に回り止めされ、電磁コイル267と、コア269とを備えている。
【0085】
電磁コイル267は、環状に所定巻き数巻回されて樹脂でモールド成形されている。
【0086】
この電磁コイル267には、外部に引き出されるリード線(不図示)が接続され、このリード線を介して通電を制御する駆動制御装置1に電気的に接続されている。
【0087】
コア269は、電磁コイル267への通電により磁界が形成されるように磁性材料から形成され、所定の磁路断面積を有している。
【0088】
このコア269は、電磁コイル267の内外周面及び電磁コイル267のデフケース203の壁部245と反対側に位置する軸方向一側端面を環状に覆っている。
【0089】
このようなコア269の外径側には、デフケース203の壁部245から軸方向に延設部271が設けられ、磁束が透過可能に設定された摺動接触面をもって覆うように配置されている。
【0090】
この延設部271は、軸方向の端面がコア269に設けられた径方向外側に向けて突出する凸部と当接することによって、電磁石257の軸方向内側への位置決めがなされている。
【0091】
一方、コア269の軸方向外側の端面は、可動部材255の軸方向外側への移動を規制する規制部材263によって、可動部材255と共に電磁石257の軸方向外側への位置決めがなされている。
【0092】
このような差動ロック機構211は、電磁石257の励磁によりコア269とプランジャ259とデフケース203の壁部245とを透過する磁束によって、最短の磁束ループを形成する。
【0093】
この磁束ループを有効に用いることによって、プランジャ259がクラッチ部材237側に移動操作され、リング部材261が押圧部265を介してクラッチ部材237を押圧する。
【0094】
この可動部材255によるクラッチ部材237の押圧操作により、クラッチ部材237が付勢部材253の付勢力に抗して断続部239の接続方向に移動され、断続部239が接続される。
【0095】
この断続部239の接続により、サイドギヤ207とクラッチ部材237とが一体回転可能に接続され、サイドギヤ207とデフケース203とが接続されて差動機構215がロック状態となる。
【0096】
一方、断続部239の接続解除では、電磁石257への通電を停止することにより、クラッチ部材237が付勢部材253の付勢力によって断続部239の接続解除方向に移動され、断続部239の接続が解除される。
【0097】
この断続部239の接続解除により、サイドギヤ207とクラッチ部材237とが相対回転可能となり、サイドギヤ207とデフケース203とが相対回転可能となって差動機構215のロック状態が解除される。
【0098】
なお、アクチュエータは、上述したように電磁石を作動源として如何なる手段かを用いてクラッチ部材を操作して断続部を接続又は接続解除するものであってもよい。
【0099】
例えば、電磁石以外の作動源として、流体圧作動シリンダとピストンを用いた構成、或いは電動モータと減速機構やカム機構を組み合わせた構成など、適宜採用することができる。
【0100】
ここで、例えば、クラッチ部材237には、クラッチ部材237と一体に軸方向移動され、デフケース203の外部に配置される検知部材(不図示)が設けられている。
【0101】
この検知部材は、キャリアなどの静止系部材に固定され、駆動制御装置1に電気的に接続されたポジションスイッチ(不図示)と対向して配置される。
【0102】
このポジションスイッチは、検知部材の軸方向位置を検出し、一体移動するクラッチ部材237の軸方向位置を検出する。
【0103】
このようにポジションスイッチによってクラッチ部材237の軸方向位置を検出することにより、断続部239が接続状態であるか否かを検出することができ、差動ロック機構211がロック状態であるか否かを検出することができる。
【0104】
なお、ポジションスイッチは、検知部材と接触することによってON-OFFされる接触型センサ、或いは検知部材と非接触に近接して配置され検知部材の位置を検出する非接触型センサなどを用いることができる。
【0105】
差動制限機構213は、一対のサイドギヤ207,209とデフケース203との間に配置された一対のテーパリング273,273を備えている。
【0106】
一対のテーパリング273,273は、それぞれ環状部275,275を備え、回転軸方向一端側から回転軸方向他端側に向けて所定角度をもって縮径するように形成されている。
【0107】
このテーパリング273の環状部の内周面は、サイドギヤ207,209に所定角度をもって形成された摺動部233と摺動する摺動面が設けられている。
【0108】
また、環状部275の外周面は、デフケース203に所定角度をもって形成されたテーパ面に相対回転不能かつ相対移動不能に当接されている。
【0109】
このようなテーパリング273には、デフケース203に設けられた内部に部材を収容するための孔部(不図示)に回転方向に係合する係合部(不図示)が設けられ、孔部に係合部を係合させることにより、テーパリング273がデフケース203と一体回転可能に配置される。
【0110】
なお、上述したように、テーパリング273は、環状部275がデフケース203のテーパ面とサイドギヤ207,209の摺動部233との間に保持されており、回転軸方向に対しても適切に位置決めされている。
【0111】
このテーパリング273は、環状部275が、差動機構215の回転状況に応じて、ピニオン205との噛み合い反力によって軸方向に移動された一対のサイドギヤ207,209の摺動部233と摺動することにより、差動機構215の差動を制限する。
【0112】
このようなテーパリング273の環状部275と一対のサイドギヤ207,209の摺動部233とは、デフケース203に入力する駆動トルクの大きさに応じて摩擦トルクを生じるトルク感応型のコーンクラッチとなっている。
【0113】
このような差動制限機構213は、差動装置201において、差動ロック機構211がロック解除状態(OFF状態)であるときに、例えば、一方の後輪311(
図1参照)にスリップが生じた場合などのような差動機構215の回転状況に応じた差動制限力を発生させる。
【0114】
この差動制限力の発生により、差動機構215の差動が制限され、車両301(
図1参照)の悪路に対する走破性を向上することができる。
【0115】
このように差動装置201は、差動機構215の状況に応じた差動制限力を発生する自己制御型の差動制限機構213による差動制限機能と、断続部239の接続によって差動機構215をロック状態とさせる差動ロック機構211によるデフロック機能とを有するデファレンシャル装置となっている。
【0116】
このような差動装置201において、差動ロック機構211は、ロックのON-OFF(ロック状態-ロック解除状態)の切り換えが、駆動制御装置1によって制御されている。
【0117】
図1~
図4に示すように、駆動制御装置1は、制御機構3及び制御部としてのデフロックECU5を備えてメインECUとの通信を可能に配置されている。メインECU7は、車両における駆動源303、トランスミッション304、その他の状態制御を行っている。ただし、デフロックECU5は単独の位置づけではなく、メインECU7との協調制御又はメインECU7への統合も可能である。
【0118】
デフロックECU5やメインECU7には、例えば、車両301の走行状態で検出されるグリップ限界センサ、左右輪の差回転を検出する左右輪差回転センサ、駆動源303から入力される駆動力の大きさを検出する駆動力センサ、車両301の横傾斜状況を検出する横傾斜センサ、車両301の横加速度を検出する横加速度センサ、車速センサ、ドライバの選択した操作状況などを検出するドライバセンサなどの各種センサの情報が受信可能となっている。
【0119】
なお、車速センサから直接車速を検知してもよいが、前後左右車輪に設けられた回転センサが検知した回転に基づいて車速を演算してもよい。
【0120】
また、デフロックECU5やメインECU7へは、上述した各種センサの他に、アクセル角センサなどからなる加減速フィールセンサ、操舵角センサ、駆動源303としてのエンジンの起動・停止、燃料・エア供給量などを制御するエンジン制御指令、ブレーキセンサ、スロットル開度センサ、前後輪差回転センサ、ヨーモーメントセンサ、油温センサ、外気温センサなどの各種センサの情報が入力される。
【0121】
このような各種センサの情報を受信可能であるデフロックECU5やメインECU7は、必要なセンサ情報を選択、演算又は記録チャートとの対比が可能であり、車両301に搭載された各機構に制御情報を出力して各機構の作動を制御する。
【0122】
デフロックECU5は、メインECU7との間で各種センサなどの情報が送受信可能となっており、差動ロック機構211のロックのON-OFFに関わるマニュアルモード或いはオートモードに必要な各種センサ情報が入力可能であり、差動ロック機構211のアクチュエータ241である電磁石257と電気的に接続され、受信された情報に基づき、電磁石257への通電を制御する。
【0123】
ここで、駆動制御装置1は、差動ロック機構211のロックのON-OFFの切り換えにおいて、ドライバなどの操作者によって任意に選択できるマニュアルモードと、デフロックECU5が自動的に選択するオートモードとを有する。
【0124】
なお、差動装置201は、自己制御型の差動制限機構213を有するので、差動ロック機構211のロックがOFF(ロック解除状態)である場合、差動制限機構213が自己制御で差動機構215の差動を制限する(
図4ではLSDと示す)。
【0125】
マニュアルモードでは、ドライバなどの操作者が、例えば、車室内に設けられたモードスイッチ(
図3のモードSW)をマニュアルモードとし、そのマニュアルスイッチをON-OFF操作することにより、差動ロック機構211のロックをON(ロック状態:
図4のDIFF.LOCK)とする、或いは差動ロック機構211のロックをOFF(ロック解除状態:
図4のLSD)とすることを任意に選択することができる。
【0126】
オートモードでは、ドライバなどの操作者が、例えば、車室内に設けられたモードスイッチ(
図3のモードSW)をオートモード(
図4のAUTO)とし、デフロックECU5が、差動ロック機構211のロックをON(ロック状態:
図4のDIFF.LOCK)とする、或いは差動ロック機構211のロックをOFF(ロック解除状態:
図4のLSD)とすることを自動的に切り換える。
【0127】
ここで、車両301は、後輪駆動の2輪駆動状態(
図4の2WD)と、前後輪駆動の4輪駆動状態との駆動方式を有し、4輪駆動状態は、車速が所定速度以上で駆動トルクが所定トルク以下の第1の4輪駆動状態(
図4の4H)と、車速が所定速度以下で駆動トルクが所定トルク以上の第2の4輪駆動状態(
図4の4L)との駆動方式を有する。
【0128】
この各駆動方式は、ドライバなどの操作者が、例えば、車室内に設けられた選択スイッチを切り替えることによって、任意に選択することができるが、車両の走行状況に応じて、デフロックECU5が、自動的に駆動方式を切り換えるようにしてもよい。
【0129】
従来の駆動制御装置では、例えば、車速が所定速度以下で駆動トルクが所定トルク以上の第2の4輪駆動状態(
図4の4L)の駆動方式でのみ、オートモードで差動ロック機構211のロックをON-OFFしていた。
【0130】
本実施形態の駆動制御装置1のデフロックECU5は、車両301の前後のうち少なくとも一方のみ(ここでは後輪側)が駆動される2輪駆動状態(
図4の2WD)と、車両301の前後両方が駆動される第1の4輪駆動状態(
図4の2H)とで、オートモードの切り換えタイミングが異なる第1と第2の切換タイミングを備えている。
【0131】
また、デフロックECU5は、駆動トルクが増大可能な第2の4輪駆動状態(
図4の4L)に対応した第3の切換タイミングを備えている。
【0132】
第2の4輪駆動状態(
図4の4L)では、差動装置201への入力トルクの閾値が、この駆動方式における閾値に設定されているので、デフロックECU5のオートモードで差動ロック機構211のロックのONを入力トルクが小さい段階から早めに切り換えることで、一方の車輪にスリップを生じていないときのようなかなり早い段階で差動ロック機構211がロックされ、駆動トルクを車輪へレスポンス良く伝達して走破性を向上させることができる。
【0133】
一方、第1の4輪駆動状態(
図4の4H)では、差動装置201への入力トルクの閾値が、この駆動方式よりも低速な第2の4輪駆動状態における閾値よりも高く設定されているので、例えば、車両走行時に一方の車輪に多少のスリップを許容することでステアリングの操作性、すなわち旋回性を向上させている。。
【0134】
また、2輪駆動状態(
図4の2WD)では、上述した第1の4輪駆動状態における差動装置201への入力トルクより僅かに高い又は同程度の閾値を設定し、かつ左右輪の回転差に対する所定の閾値を加えることで、通常走行時の操安性を向上させることともに、緊急時の走破性を向上させることができる。
【0135】
そこで、デフロックECU5のオートモードでは、例えば、差動装置201への入力トルクの閾値が異なるように設定された第1と第2と第3との切換タイミングを有することにより、各駆動方式における差動装置201への入力トルクが閾値を超えたときに、各駆動方式に応じた的確なタイミングで差動ロック機構211のロックをONとし、差動機構215の差動をロック状態とさせる。
【0136】
このため、車両301の駆動方式に応じて、差動ロック機構211のロックのON-OFFを的確に制御することができ、各駆動方式における車両301の操安性を向上させ、走破性を向上させることができる。
【0137】
なお、2輪駆動状態、第1,第2の4輪駆動状態におけるそれぞれの切換タイミングは、閾値として左右輪の回転差を用いるなど、デフロックECUにダイレクトに入力する各種センサ情報、又はメインECUに入力される各種センサ情報から引用される特定のセンサ情報を直接利用し又は組み合わせて利用して、決定されても良い。
【0138】
ここで、差動装置201は、自己制御で差動機構215の差動を制限する差動制限機構213を有しており、差動ロック機構211のロックがOFF状態であるときには、差動機構215の差動が差動制限機構213によって制限されている。
【0139】
この差動制限機構213は、差動機構215の差動を制限可能な条件があり、車両301の走行状況によって、条件を超える値が入力されるまでは、差動制限機構213では、差動機構215の差動を制限することができる。
【0140】
そこで、デフロックECU5は、オートモードにおいて、差動制限機構213の閾値に応じて、差動ロック機構211のロックのON-OFFの切換タイミングを調整する。
【0141】
ここで、差動制限機構213の閾値は、例えば、デフロックECU5へ入力される、上述した左右輪の差回転の他に、車両301の走行状態で検出されるグリップ限界、駆動源303から入力される駆動力の大きさ、車両301の横傾斜状況、車両301の横加速度の少なくともいずれかの入力によって決定される。
【0142】
デフロックECU5のオートモードでは、上述した条件において、差動制限機構213の閾値を超えるいずれかの値が入力されたとき、差動制限機構213では差動機構215の差動を制限することができないと判断し、差動ロック機構211のロックをONとし、差動機構215の差動をロック状態とさせる。
【0143】
このように差動ロック機構211のロックのON-OFFの切換タイミングを、差動制限機構213の閾値に合わせて設定することにより、差動制限機構213の差動制限力を最大限発揮させ、的確なタイミングで差動ロック機構211を作動させることができ、車両301の操安性を向上させ、走破性を向上することができる。
【0144】
このような差動制限機構213は、車両301の各駆動方式において、車両301の走行状態が異なるので、差動機構215の差動を制限可能な閾値が、各駆動方式で異なっている。
【0145】
このため、デフロックECU5のオートモードでは、第1と第2と第3との切換タイミングが、各駆動方式における差動制限機構213の制限特性を発揮できる異なる閾値によって設定されている。
【0146】
このため、車両301の各駆動方式において、差動制限機構213の差動制限力を最大限発揮させ、的確なタイミングで差動ロック機構211を作動させることができ、各駆動方式における車両301の走破性を向上することができる。
【0147】
このようにデフロックECU5は、差動装置201が差動制限機構213を有している場合、オートモードにおける第1と第2と第3との切換タイミングを差動制限機構213に合わせて調整することができる。
【0148】
このような駆動制御装置1の制御を、
図3,
図4を用いて説明する。
【0149】
図3,
図4に示すように、駆動制御装置1は、まず、ドライバなどの操作者が、選択スイッチによって、車両301の各駆動方式において、いずれの駆動方式を選択したのかを確認し(S1)、選択された車両301の駆動方式を確定する(S2)。
【0150】
なお、車両301の駆動方式については、車両301の路面や気象などの走行状態に合わせて、デフロックECU5が自動的に各駆動方式を選択してもよく、この場合には、自動的に選択された車両301の駆動方式を確定する。
【0151】
次に、駆動制御装置1は、ドライバなどの操作者が、モードスイッチによって、マニュアルモードとオートモードとのいずれかのモードを選択したのかを確認する(S3)。
【0152】
なお、車両にマニュアルモードの設定が無い場合には、このステップS3は省略可能であり、ステップS1で選択された駆動方式に沿って、ステップS4以降の設定された所定の切換タイミングで差動ロック機構211のロックのON-OFF制御が行われる。
【0153】
次に、駆動制御装置1は、確定された駆動方式と、選択されたモードに合わせて差動ロック機構211のロックのON-OFFの作動の制御に移行する(S4)。
【0154】
このとき、駆動制御装置1は、選択されたモードがマニュアルモードである場合、各駆動方式において、ドライバなどの操作者によるマニュアルスイッチの操作に合わせて、差動ロック機構211のロックをON(ロック状態:
図4のDIFF.LOCK)とする、或いは差動ロック機構211のロックをOFF(ロック解除状態:
図4のLSD)とする。
【0155】
一方、駆動制御装置1は、選択されたモードがオートモード(
図4のAUTO)である場合、確定された駆動方式に合わせて、デフロックECU5が、直接又はメインECU7から差動ロック機構211のロックのON-OFFの切換タイミングの条件を取得する(S5)。
【0156】
そして、駆動制御装置1は、各駆動方式(
図4の2WD,4H,4L)におけるオートモード(
図4のAUTO)において、デフロックECU5が、直接又はメインECU7から取得した条件に基づき、差動ロック機構211のロックをON(ロック状態:
図4のDIFF.LOCK)とする、或いは差動ロック機構211のロックをOFF(ロック解除状態:
図4のLSD)とすることを自動的に切り換える(S6)。
【0157】
このような駆動制御装置1では、制御機構3が、車両301の前後のうち少なくとも一方のみが駆動される2輪駆動状態と、車両301の前後両方が駆動される4輪駆動状態とで、オートモードの切り換えタイミングが異なる第1と第2の切換タイミングを備えたデフロックECU5を有する。
【0158】
このため、制御機構3のオートモードにおいて、デフロックECU5が、車両301の2輪駆動状態と、4輪駆動状態とで、差動ロック機構211のロックのON-OFFを自動で切り換えるタイミングを異ならせることができる。
【0159】
このように車両301の駆動方式に応じて、差動ロック機構211のロックのON-OFFの切換タイミングを異ならせることにより、異なる駆動方式における車両301の操安性を向上させ、走破性を向上することができる。
【0160】
従って、このような駆動制御装置1では、デフロックECU5が、車両301の2輪駆動状態と、4輪駆動状態とで、オートモードの切り換えタイミングが異なる第1と第2の切換タイミングを備えているので、4輪駆動状態や2輪駆動状態などの車両301の駆動方式に応じて、オートモードで差動ロック機構の作動を的確に制御することができる。
【0161】
また、車両301の前後両方が駆動される4輪駆動状態は、さらに駆動トルクが増大可能な第2の4輪駆動状態に切り換え可能であり、デフロックECU5は、第2の4輪駆動状態に対応した第3の切換タイミングを備えている。
【0162】
このため、様々な車両301の駆動方式に応じて、オートモードによって、的確な切換タイミングで差動ロック機構211の作動を制御することができる。
【0163】
さらに、差動装置201は、自己制御で差動制限可能な差動制限機構213を備え、デフロックECU5は、差動装置201が差動制限機構213を備えた場合に、切換タイミングをさらに調整可能である。
【0164】
このため、差動制限機構213の差動制限機能を効率的に発揮させつつ、的確な切換タイミングで差動ロック機構211の作動を制御することができる。
【0165】
(第2実施形態)
図5を用いて第2実施形態について説明する。
【0166】
本実施の形態に係る駆動制御装置101は、差動装置201が、一対のサイドギヤ207,209のいずれか一方又は両方の駆動回転を制動可能なブレーキ277によって、差動回転を制御可能である。
【0167】
そして、デフロックECU5は、ブレーキ277の作動に第1と第2と第3の切換タイミングを備えている。
【0168】
なお、第1実施形態と同一の構成には、同一の記号を記して構成及び機能説明は第1実施形態を参照するものとし省略するが、第1実施形態と同一の構成であるので、得られる効果は同一である。
【0169】
図5に示すように、ブレーキ277は、一対のサイドギヤ207,209(
図2参照)に連結された後車軸309,309と後輪311,311との間にそれぞれ設けられている。
【0170】
このブレーキ277,277は、アクチュエータ(不図示)が駆動制御装置101のデフロックECU5に電気的に接続され、デフロックECU5の制御によって作動され、一対の左右車輪311,311、すなわち一対の左右サイドギヤ207,209からの回転を制動し、差動機構215(
図2参照)の差動を疑似的にロック状態とさせることができる。
【0171】
なお、ブレーキ277,277は、差動機構215をロック状態とさせるタイミングで、少なくともいずれか一方のブレーキ277を作動させて、差動機構215をロック状態とさせればよい。
【0172】
ここで、本実施形態における差動装置201は、ブレーキ277が差動機構215の差動をロック状態とさせることができるので、クラッチ部材237を有する差動ロック機構211(
図2参照)を有していない。
【0173】
すなわち、本実施形態においては、ブレーキ277が、差動機構215の差動を疑似的にロック状態、或いはロック解除状態とさせる差動ロック機構として機能する。
【0174】
このようなブレーキ277は、マニュアルモードである場合、ドライバなどの操作者によるマニュアルスイッチの操作に合わせて、差動機構215をロック状態に疑似的に制御する、或いは差動機構215をロック解除状態とする。
【0175】
一方、ブレーキ277は、オートモードである場合、デフロックECUに直接、またはメインECU7を介して入力する条件に合わせて、デフロックECU5が、差動機構215を疑似的にロック状態とする、或いは差動機構215をロック解除状態とすることを自動的に切り換える。
【0176】
このような差動ロック機構として機能するブレーキ277を有する差動装置201に適用される駆動制御装置101は、デフロックECU5が、オートモードにおいて、車両301の各駆動方式に応じて、ブレーキ277のON-OFFを切り換える切換タイミングとして、差動ロック機構211と同様の第1と第2と第3の切換タイミングを備えている。
【0177】
このようにデフロックECU5が、車両301の各駆動方式に応じたブレーキ277の作動を制御する第1と第2と第3の切換タイミングを備えることにより、車両301の駆動方式に応じて、ブレーキ277の作動を的確に制御することができ、各駆動方式における車両301の操安性が向上し、走破性を向上することができる。
【0178】
このような駆動制御装置101では、デフロックECU5が、ブレーキ277の作動に第1と第2と第3の切換タイミングを備えているので、車両301の駆動方式に応じて、オートモードでブレーキ277の作動を制御することができる。
【0179】
本実施形態は第1実施形態と同様にデフロックECU5が個別に設定された場合を説明したが、デフロックECUを設けずに、ブレーキECU、トラクションコントロールECUなどのブレーキ系を制御するECUが制御機構3を構成しても良い。
【0180】
なお、本実施の形態に係る制御装置では、差動装置が、差動制限機構を備え、差動制限機構に合わせて、差動ロック機構の切換タイミングを調整しているが、これに限らず、差動装置が差動制限機構を備えていない場合には、各駆動方式に応じて、差動ロック機構の切換タイミングを異ならせばよい。
【0181】
また、差動ロック機構は、前後の差動装置315,201それぞれに設けられ、それぞれ又はいずれかの差動装置を発明の構成要素として本発明の駆動制御装置が構成されても良い。
【符号の説明】
【0182】
1,101 駆動制御装置
3 制御機構
5 デフロックECU(制御部)
7 メインECU(制御部)
201 差動装置
203 デフケース(入力部材)
205 ピニオン(差動部材)
207,209 サイドギヤ(出力部材)
211 差動ロック機構
213 差動制限機構
277 ブレーキ
301 車両
303 駆動源
311 後輪(車輪)
319 前輪(車輪)