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特許7431682フランシス水車の起動方法およびフランシス水車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】フランシス水車の起動方法およびフランシス水車
(51)【国際特許分類】
   F03B 3/02 20060101AFI20240207BHJP
   F03B 15/04 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
F03B3/02
F03B15/04 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020106306
(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公開番号】P2022001742
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(72)【発明者】
【氏名】中薗 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】島 諒介
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-222069(JP,A)
【文献】特開昭53-014255(JP,A)
【文献】特公昭46-039018(JP,B1)
【文献】中国特許出願公開第104500326(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 1/00-11/08
F03B 15/00-15/22
H02P 9/00- 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランナに導く水の流量を調整可能なガイドベーンを備えたフランシス水車の起動方法であって、
前記ガイドベーンを第1の開度で開いて、前記ランナの回転数を上昇させる第1回転数上昇工程と、
前記第1回転数上昇工程の後、前記ガイドベーンを前記第1の開度よりも大きい第2の開度で開いて、前記ランナの回転数の上昇を加速する第2回転数上昇工程と、
前記第2回転数上昇工程の後、前記ガイドベーンを無負荷開度で開いて、前記ランナの回転数を定格回転数に調整する回転数調整工程と、を備え、
前記第1の開度は、前記無負荷開度の半分以下の開度であ
前記第1回転数上昇工程において、前記ランナの回転数を第1の回転数に到達させ、
前記第1の回転数が前記定格回転数の30%以上の回転数である、または、前記定格回転数における前記ランナの外周部の周速と前記第1の回転数における前記ランナの前記外周部の周速との差が50m/sec以下である、フランシス水車の起動方法。
【請求項2】
ランナと、
前記ランナに導く水の流量を調整可能なガイドベーンと、
前記ガイドベーンを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記ガイドベーンを第1の開度で開いて、前記ランナの回転数を上昇させる第1回転数上昇工程と、
前記第1回転数上昇工程の後、前記ガイドベーンを前記第1の開度よりも大きい第2の開度で開いて、前記ランナの回転数の上昇を加速する第2回転数上昇工程と、
前記第2回転数上昇工程の後、前記ガイドベーンを無負荷開度で開いて、前記ランナの回転数を定格回転数に調整する回転数調整工程と、を行うように、前記ガイドベーンを制御し、
前記第1の開度は、前記無負荷開度の半分以下の開度であ
前記第1回転数上昇工程において、前記ランナの回転数を第1の回転数に到達させ、
前記第1の回転数が前記定格回転数の30%以上の回転数である、または、前記定格回転数における前記ランナの外周部の周速と前記第1の回転数における前記ランナの前記外周部の周速との差が50m/sec以下である、フランシス水車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、フランシス水車の起動方法およびフランシス水車に関する。
【背景技術】
【0002】
フランシス水車の水車運転時においては、上池からの水が入口管を通ってケーシングに導かれる。ケーシングに流入した水は、ステーベーンおよびガイドベーンを通り、ガイドベーンによって流量が調整されて、ランナに導かれる。このランナへ流入する水によってランナが回転駆動され、ランナに主軸を介して連結された発電機が駆動され、発電が行われる。その後、水はランナから流出し、吸出し管を通って下池または放水路へ放出される。
【0003】
このようなフランシス水車は、通常、以下のようにして起動される。まず、入口管に設けられた入口弁を開き、ケーシング内へ水を流入させる。次に、ガイドベーンを起動開度で開き、流入する水によりランナを回転駆動して、ランナの回転数を上昇させる。続いて、ガイドベーンを無負荷開度で開き、ランナの回転数を定格回転数に調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-222069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フランシス水車の起動時において、ガイドベーンを上述した起動開度で開いた際、径方向においてガイドベーンとランナとの間に環状流路が形成される。そして、ガイドベーンを通過した水がこの環状流路を勢いよく流れ、ランナの周囲に速い速度の旋回流れが生じ得る。この旋回流れがランナのランナ羽根に衝突することで、剥離流れが生じ得る。とりわけ、落差が大きいフランシス水車の場合、旋回流れがより高速となり、より強い剥離流れが生じ得る。この際、ランナ内部の圧力が低下し、飽和水蒸気圧以下となる場合がある。この場合、水が蒸発して水中に水蒸気泡が発生し、この水蒸気泡内の水蒸気が凝縮する瞬間に衝撃的な圧力上昇が発生し得る。これにより、衝撃荷重がランナに加わり、ランナを損傷させるおそれがある。
【0006】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、ランナの損傷を抑制することができるフランシス水車の起動方法およびフランシス水車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施の形態によるフランシス水車の起動方法は、ランナに導く水の流量を調整可能なガイドベーンを備えたフランシス水車の起動方法である。フランシス水車の起動方法は、ガイドベーンを第1の開度で開いて、ランナの回転数を上昇させる第1回転数上昇工程と、第1回転数上昇工程の後、ガイドベーンを第1の開度よりも大きい第2の開度で開いて、ランナの回転数の上昇を加速する第2回転数上昇工程と、第2回転数上昇工程の後、ガイドベーンを無負荷開度で開いて、ランナの回転数を定格回転数に調整する回転数調整工程と、を備える。第1の開度は、無負荷開度の半分以下の開度である。
【0008】
また、実施の形態によるフランシス水車は、ランナと、ランナに導く水の流量を調整可能なガイドベーンと、ガイドベーンを制御する制御装置と、を備える。制御装置は、ガイドベーンを第1の開度で開いて、ランナの回転数を上昇させる第1回転数上昇工程と、第1回転数上昇工程の後、ガイドベーンを第1の開度よりも大きい第2の開度で開いて、ランナの回転数の上昇を加速する第2回転数上昇工程と、第2回転数上昇工程の後、ガイドベーンを無負荷開度で開いて、ランナの回転数を定格回転数に調整する回転数調整工程と、を行うように、ガイドベーンを制御する。第1の開度は、無負荷開度の半分以下の開度である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ランナの損傷を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態によるフランシス水車の子午面断面図である。
図2図2は、図1のフランシス水車の運転時の状態を示す上面断面図である。
図3図3は、図1のフランシス水車の停止時の状態を示す上面断面図である。
図4図4は、実施の形態によるフランシス水車の起動方法におけるガイドベーンの開度およびランナの回転数を示す時間線図である。
図5図5は、一般的なフランシス水車の起動方法におけるガイドベーンの開度を示す時間線図である。
図6図6は、一般的なフランシス水車の起動方法において、ガイドベーンを起動開度で開いたときの水の流れを示す部分拡大上面断面図である。
図7図7は、実施の形態によるフランシス水車の起動方法において、ガイドベーンを微小開度で開いたときの水の流れを示す部分拡大上面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態によるフランシス水車の起動方法およびフランシス水車について説明する。
【0012】
まず、図1図3を用いて、本実施の形態によるフランシス水車について説明する。なお、以下では、水車運転時の水の流れに従って説明する。
【0013】
図1図3に示すように、フランシス水車1は、入口系統2と、ケーシング3と、複数のステーベーン4と、複数のガイドベーン5と、ランナ6と、を備えている。なお、図2および図3においては、入口系統2の図示は省略している。
【0014】
入口系統2は、不図示の上池からの水をケーシング3に導くように構成されている。入口系統2は、入口管21と、入口管21に設けられた入口弁22と、入口弁22をバイパスするバイパス管23と、バイパス管23に設けられたバイパス弁24と、を有している。
【0015】
入口管21は、不図示の上池から延びる水圧鉄管とケーシング3とに接続されており、不図示の上池からの水が流れて、当該水をケーシング3に導くことができるように構成されている。
【0016】
入口弁22は、入口管21に設けられており、開閉することによって、入口管21における水の流れを許可または遮断することができるように構成されている。フランシス水車1の停止時には、入口弁22は閉じられている。一方、フランシス水車1の運転時には、入口弁22は開かれている。入口弁22の開閉は、後述する制御装置Cにより制御されてもよい。
【0017】
バイパス管23は、入口管21のうち入口弁22の上流側の部分と入口管21のうち入口弁22の下流側の部分とに接続されており、入口弁22をバイパスして水をケーシング3に導くことができるように構成されている。
【0018】
バイパス弁24は、バイパス管23に設けられており、開閉することによって、バイパス管23における水の流れを許可または遮断することができるように構成されている。フランシス水車1の停止時には、バイパス弁24は閉じられている。一方、フランシス水車1の運転時には、バイパス弁24は開かれている。バイパス弁24の開閉は、後述する制御装置Cにより制御されてもよい。
【0019】
ケーシング3は、渦巻き状に形成されており、入口系統2からの水が流入して、当該水が内部を流れるように構成されている。
【0020】
ステーベーン4は、ケーシング3よりも内側に設けられている。ステーベーン4は、ケーシング3に流入した水をガイドベーン5およびランナ6に導くように構成されている。図2および図3に示すように、ステーベーン4は、周方向に所定の間隔をあけて配置されている。ステーベーン4の間には、水が流れる流路が形成されている。
【0021】
ガイドベーン5は、ステーベーン4よりも内側に設けられている。ガイドベーン5は、流入した水をランナ6に導くように構成されている。図2に示すように、ガイドベーン5は、周方向に所定の間隔をあけて配置されている。ガイドベーン5の間には、水が流れる流路が形成されている。各ガイドベーン5は回動可能に構成されており、各ガイドベーン5が回動して開度Gを変えることにより、ランナ6に導く水の流量を調整可能になっている。図3に示すように、フランシス水車1の停止時には、ガイドベーン5は閉じられている。ガイドベーン5の開度Gは、後述する制御装置Cにより制御されてもよい。
【0022】
ランナ6は、ガイドベーン5よりも内側に設けられている。ランナ6は、ケーシング3に対して回転軸線Xを中心に回転可能に構成され、ガイドベーン5から流入する水によって回転駆動される。ランナ6は、主軸7に連結されたクラウン8と、クラウン8の外周側に設けられたバンド9と、クラウン8とバンド9との間に設けられた複数のランナ羽根10と、を有している。図2および図3に示すように、ランナ羽根10は、周方向に所定の間隔をあけて配置されている。各ランナ羽根10は、クラウン8とバンド9とにそれぞれ接合されている。各ランナ羽根10の間には、水が流れる流路(翼間流路)が形成されている。各流路をガイドベーン5からの水が流れ、各ランナ羽根10が当該水から圧力を受けてランナ6が回転駆動される。これにより、ランナ6に流入する水のエネルギーが回転エネルギーへと変換される。
【0023】
ランナ6には、主軸7を介して発電機11が連結されている。発電機11は、水車運転時には、ランナ6の回転エネルギーが伝達されて発電を行うように構成されている。
【0024】
ランナ6の下流側には、吸出し管12が設けられている。吸出し管12は、不図示の下池または放水路に連結されており、ランナ6を回転駆動させた水が、圧力を回復して、下池または放水路に放出されるようになっている。
【0025】
なお、発電機11は、電動機としての機能をも有し、電力が供給されることによりランナ6を回転駆動するように構成されていてもよい。この場合、吸出し管12を介して下池の水を吸い上げて上池に放出させることができ、フランシス水車1を、ポンプ水車としてポンプ運転(揚水運転)することが可能になる。この際、ガイドベーン5の開度Gは、ポンプ揚程に応じて適切な揚水量になるように変えられる。
【0026】
また、本実施の形態によるフランシス水車1は、制御装置Cを備えている。
【0027】
制御装置Cは、ガイドベーン5を制御可能に構成されている。制御装置Cは、フランシス水車1の起動時に、後述する第1回転数上昇工程と、後述する第2回転数上昇工程と、後述する回転数調整工程と、を行うように、ガイドベーン5を制御する。より具体的には、制御装置Cは、まず、第1回転数上昇工程において、ガイドベーン5を第1の開度G1で開いて、ランナ6の回転数Nを上昇させるように、ガイドベーン5を制御する。次に、制御装置Cは、第2回転数上昇工程において、ガイドベーン5を第2の開度G2で開いて、ランナ6の回転数Nの上昇を加速するように、ガイドベーン5を制御する。その後、制御装置Cは、回転数調整工程において、ガイドベーン5を無負荷開度G3で開いて、ランナ6の回転数Nを定格回転数N0に調整するように、ガイドベーン5を制御する。
【0028】
また、制御装置Cは、入口弁22およびバイパス弁24を制御可能に構成されていてもよい。この場合、制御装置Cは、後述する流入開始工程のバイパス弁開工程において、バイパス弁24を開くように、バイパス弁24を制御する。また、制御装置Cは、後述する流入開始工程の入口弁開工程において、入口弁22を開くように、入口弁22を制御する。
【0029】
次に、図4を用いて、本実施の形態によるフランシス水車の起動方法について説明する。
【0030】
本実施の形態によるフランシス水車1の起動方法は、ケーシング3内への水の流入を開始する流入開始工程と、ランナ6の回転数Nを第1の回転数N1に到達させる第1回転数上昇工程と、ランナ6の回転数Nを第2の回転数N2に到達させる第2回転数上昇工程と、ランナ6の回転数Nを定格回転数N0(到達目標回転数)に調整する回転数調整工程と、を備えている。
【0031】
フランシス水車1の停止時には、入口弁22、バイパス弁24、およびガイドベーン5は閉じられている(図3参照)。この状態で、まず、流入開始工程が行われる。この流入開始工程においては、ケーシング3内への水の流入が開始される。流入開始工程は、バイパス弁24を開くバイパス弁開工程と、入口弁22を開く入口弁開工程と、を含んでいる。
【0032】
流入開始工程においては、まず、バイパス弁開工程が行われる。この工程においては、入口弁22およびガイドベーン5が閉じた状態で、バイパス弁24が開かれる。これにより、上池からの水が入口管21からバイパス管23に流れ、バイパス弁24を通って、ケーシング3内に導かれる。これにより、ケーシング3内の水の圧力を上昇させ、入口弁22の上流側とケーシング3内との間の圧力差を減少させることができる。このため、入口弁22の開閉を容易に行うことができる。
【0033】
次に、入口弁開工程が行われる。この工程においては、バイパス弁24が開き、かつガイドベーン5が閉じた状態で、入口弁22が開かれる。これにより、上池から多くの水が入口弁22を通ってケーシング3内に導かれる。こうして、ケーシング3内への水の流入が開始される。
【0034】
流入開始工程の後に、第1回転数上昇工程が行われる。この第1回転数上昇工程においては、ガイドベーン5を第1の開度G1(微小開度G1)で開いて、ランナ6の回転数Nを上昇させる。ここで、微小開度G1は、後述する無負荷開度G3の半分以下(50%以下)の開度である。第1回転数上昇工程は、ガイドベーン5の開度Gを微小開度G1まで上昇させる第1開度上昇工程と、ガイドベーン5の開度Gを微小開度G1で維持する微小開度維持工程と、を含んでいる。
【0035】
図4には、ガイドベーン5の開度Gおよびランナ6の回転数Nを示す時間線図の一例が示されている。図4の(a)のグラフにおいては、横軸は時刻Tを示し、縦軸はガイドベーン5の開度Gを示している。図4の(b)のグラフにおいては、横軸は時刻Tを示し、縦軸はランナ6の回転数Nを示している。
【0036】
第1回転数上昇工程においては、まず、図4に示すように、時刻T1から時刻T2までの間に第1開度上昇工程が行われる。この工程においては、ガイドベーン5を開くように回動させて、ガイドベーン5の開度Gを0%(閉じた状態)から微小開度G1まで上昇させる。これにより、各ガイドベーン5の間に微小な流路が形成され、ケーシング3内に流入した水が、ガイドベーン5の間の各流路を流れて、ランナ6に流入し始める。
【0037】
次に、図4に示すように、時刻T2から時刻T3までの間に微小開度維持工程が行われる。この工程においては、ガイドベーン5の開度Gを微小開度G1で維持する。この間、ケーシング3内に流入した水は、各ガイドベーン5の間の微小な流路を流れて、ランナ6に流入し続ける(図7参照)。ランナ6に流入した水は、各ランナ羽根10の間の流路を流れる。この流路を流れる水からランナ羽根10が圧力を受けて、ランナ6が回転駆動され、ランナ6の回転数Nが上昇する。これにより、図4に示すように、ランナ6の回転数Nを、時刻T3で第1の回転数N1まで上昇させることができる。
【0038】
ここで、第1の回転数N1は、ランナ6の定格回転数N0よりも小さい回転数であり、例えばランナ6の定格回転数N0の30%以上の回転数であってもよい。また、後述する定格回転数N0におけるランナ羽根10の外周縁13の周速V0と第1の回転数N1におけるランナ羽根10の外周縁13の周速V1との差は、50m/sec以下であってもよい。
【0039】
第1回転数上昇工程の後に、第2回転数上昇工程が行われる。この第2回転数上昇工程においては、ガイドベーン5を微小開度G1よりも大きい第2の開度G2(起動開度G2)で開いて、ランナ6の回転数Nの上昇を加速する。第2回転数上昇工程は、ガイドベーン5の開度Gを起動開度G2まで上昇させる第2開度上昇工程と、ガイドベーン5の開度Gを起動開度G2で維持する起動開度維持工程と、を含んでいる。
【0040】
第2回転数上昇工程においては、まず、図4に示すように、時刻T3から時刻T4までの間に第2開度上昇工程が行われる。この工程においては、ガイドベーン5を開くように回動させて、ガイドベーン5の開度Gを微小開度G1から起動開度G2まで上昇させる。これにより、各ガイドベーン5の間の流路の幅が広がり、より多くの水が、ランナ6に流入し始める。
【0041】
次に、図4に示すように、時刻T4から時刻T5までの間に起動開度維持工程が行われる。この工程においては、ガイドベーン5の開度Gを起動開度G2で維持する。この間、ケーシング3内に流入した水は、各ガイドベーン5の間の流路を流れて、ランナ6に流入し続ける。ランナ6に流入した水は、各ランナ羽根10の間の流路を流れる。この流路を流れる水からランナ羽根10が圧力を受けて、ランナ6が回転駆動され、ランナ6の回転数Nの上昇が加速される。これにより、図4に示すように、ランナ6の回転数Nを、時刻T5で第2の回転数N2まで上昇させることができる。
【0042】
このように、ガイドベーン5の開度Gを微小開度G1から起動開度G2に上昇させて、ランナ6に導く水の流量を増大させることで、ランナ6の回転数Nを速やかに上昇させることができる。これにより、フランシス水車1の起動時間の増大を抑制することができる。
【0043】
ここで、起動開度G2は、上述したように、微小開度G1よりも大きい開度であるが、例えばガイドベーン5の最大開度の10%以上20%以下の開度であってもよい。また、第2の回転数N2は、第1の回転数N1よりも大きく、ランナ6の定格回転数N0よりも小さい回転数であり、例えばランナ6の定格回転数N0の80%以上95%以下の回転数であってもよい。
【0044】
第2回転数上昇工程の後に、回転数調整工程が行われる。この回転数調整工程においては、ガイドベーン5を無負荷開度G3で開いて、ランナ6の回転数Nを定格回転数N0に調整する。回転数調整工程は、ガイドベーン5の開度Gを無負荷開度G3まで下降させる開度下降工程と、ガイドベーン5の開度Gを無負荷開度G3で維持する無負荷開度維持工程と、を含んでいる。
【0045】
回転数調整工程においては、まず、図4に示すように、時刻T5から時刻T6までの間に開度下降工程が行われる。この工程においては、ガイドベーン5を閉じるように回動させて、ガイドベーン5の開度Gを起動開度G2から無負荷開度G3まで下降させる。
【0046】
次に、図4に示すように、時刻T6から時刻T7までの間に無負荷開度維持工程が行われる。この工程においては、ガイドベーン5の開度Gを無負荷開度G3で維持する。この間、ランナ6に流入する水によってランナ6が回転駆動され、ランナ6の回転数Nが更に上昇する。これにより、図4に示すように、ランナ6の回転数Nを、時刻T7で定格回転数N0に到達させることができる。
【0047】
このように、ランナ6の回転数Nが定格回転数N0に到達する前に、ガイドベーン5の開度Gを起動開度G2から無負荷開度G3に低下させて、ランナ6に導く水の流量を減少させることで、ランナ6の回転数Nの上昇を緩やかにしている。これにより、ランナ6の回転数Nが定格回転数N0を超えないようにしつつ、ランナ6の回転数Nを徐々に上昇させて定格回転数N0に到達させることができる。
【0048】
ここで、無負荷開度G3は、上述したように、起動開度G2よりも小さい開度であるが、例えばガイドベーン5の最大開度の5%以上15%以下の開度であってもよい。
【0049】
なお、上述した流入開始工程、第1回転数上昇工程、第2回転数上昇工程、および回転数調整工程において、入口弁22の開閉、バイパス弁24の開閉、およびガイドベーン5の開度Gの調整は、制御装置Cにより行われてもよい。しかしながら、制御装置Cによらず、作業員により手動で操作されてもよい。
【0050】
このようにして、ランナ6の回転数Nが定格回転数N0に調整され、本実施の形態によるフランシス水車1が起動される。その後、フランシス水車1は通常運転(負荷運転)が行われ、ランナ6の回転エネルギーが発電機11に伝達されて、発電機11による発電が行われる。
【0051】
次に、図5図7を用いて、本実施の形態によるフランシス水車1の起動方法の作用効果について説明する。
【0052】
まず、一般的なフランシス水車1の起動方法について説明する。一般に、フランシス水車1の起動時には、入口弁22を開いて、ケーシング3内への水の流入を開始した後、図5に示すように、ガイドベーン5を起動開度G2で開いて、ランナ6の回転数Nを上昇させる。その後、ランナ6の回転数Nが所定の回転数に到達したら、ガイドベーン5を無負荷開度G3にして、ランナ6の回転数Nを定格回転数N0に調整する。
【0053】
この場合、ガイドベーン5を上述した起動開度G2で開いた際、図6に示すように、径方向においてガイドベーン5とランナ6との間に環状流路30が形成される。そして、各ガイドベーン5の間の流路を流れた水が、この環状流路30を勢いよく流れ、ランナ6の周囲に速い速度の旋回流れ31が生じ得る。この旋回流れ31がランナ羽根10に衝突することで、剥離流れ32が生じ得る。この際、ランナ6の内部の圧力が低下し、飽和水蒸気圧以下となる場合がある。この場合、水が蒸発して水中に水蒸気泡が発生し、この水蒸気泡内の水蒸気が凝縮する瞬間に衝撃的な圧力上昇が発生し得る。これにより、衝撃荷重がランナ6に加わり、ランナ6を損傷させるおそれがある。
【0054】
これに対して本実施の形態では、上述したように、ガイドベーン5を起動開度G2で開く前に、ガイドベーン5を微小開度G1で開いて、ランナ6の回転数Nを第1の回転数N1に到達させている(図4参照)。図7に示すように、ガイドベーン5を微小開度G1で開いた場合、各ガイドベーン5の間に微小な流路が形成され、ケーシング3内に流入した水は、これらの微小な流路を流れて、ランナ6に流入する。微小な流路では、圧力損失が大きくなり、旋回流れ31の運動エネルギーに変換される圧力のエネルギーが小さくなる。このため、ガイドベーン5を微小開度G1で開いている間、環状流路30を流れる旋回流れ31の速度を抑制することができ、剥離流れ32の発生を抑制することができる。
【0055】
一方、ガイドベーン5を微小開度G1で開いている間にも、ランナ6の回転数Nを上昇させることができる。本実施の形態では、ランナ6の回転数Nを第1の回転数N1に到達させた後、ガイドベーン5を起動開度G2で開いている。ガイドベーン5を起動開度G2で開いた際、図6の場合と同様に、ランナ6の周囲に速い速度の旋回流れ31が生じ得る。このとき、本実施の形態では、ランナ6の回転数Nは第1の回転数N1に到達していることから、ランナ羽根10の外周縁13の周速Vはそれに対応する周速V1に到達している。このことにより、ガイドベーン5を起動開度G2で開いたときの旋回流れ31の速度とランナ羽根10の外周縁13の周速Vとの速度差を小さくすることができる。このため、旋回流れ31がランナ羽根10に衝突する勢いを緩和することができ、剥離流れ32の発生を抑制することができる。
【0056】
このように本実施の形態によれば、フランシス水車1の起動時の第1回転数上昇工程において、ガイドベーン5を無負荷開度G3の半分以下の微小開度G1で開いて、ランナ6の回転数Nを上昇させている。このことにより、第1回転数上昇工程において、旋回流れ31の速度を抑制しつつ、ランナ6の回転数Nを上昇させることができる。これにより、第2回転数上昇工程において、ガイドベーン5を起動開度G2で開いたときの旋回流れ31の速度とランナ羽根10の外周縁13の周速Vとの速度差を小さくすることができる。このため、旋回流れ31がランナ羽根10に衝突する勢いを緩和することができ、剥離流れ32の発生を抑制することができる。この結果、剥離流れ32に伴う衝撃荷重がランナ6に加わることを抑制することができ、ランナの損傷を抑制することができる。
【0057】
また、本実施の形態によれば、第1の回転数N1は、定格回転数N0の30%以上の回転数である。第1の回転数N1を定格回転数N0の30%以上の回転数にすることにより、第2回転数上昇工程において、ガイドベーン5を起動開度G2で開いたときの旋回流れ31の速度とランナ羽根10の外周縁13の周速Vとの速度差をより小さくすることができる。このため、旋回流れ31がランナ羽根10に衝突する勢いをより効果的に緩和することができ、剥離流れ32の発生をより一層抑制することができる。
【0058】
また、本実施の形態によれば、定格回転数N0におけるランナ羽根10の外周縁13の周速V0と第1の回転数N1におけるランナ羽根10の外周縁13の周速V1との差が50m/sec以下である。ランナ羽根10の外周縁13がこのような比較的速い周速V1を有しているときにガイドベーン5を起動開度G2で開くことにより、旋回流れ31がランナ羽根10に衝突する勢いをより効果的に緩和することができ、剥離流れ32の発生をより一層抑制することができる。
【0059】
以上述べた実施の形態によれば、ランナの損傷を抑制することができる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0061】
なお、上述した実施の形態では、フランシス水車がポンプ運転を行うことができるポンプ水車である例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、フランシス水車は、ポンプ運転を行わないように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1:フランシス水車、5:ガイドベーン、6:ランナ、13:外周縁、C:制御装置、G1:微小開度、G2:起動開度、G3:無負荷開度、N:回転数、N0:定格回転数、N1:第1の回転数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7