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特許7431705鋼殻エレメントの接合構造及びその施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】鋼殻エレメントの接合構造及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 13/00 20060101AFI20240207BHJP
   E21D 9/04 20060101ALI20240207BHJP
   E21D 11/04 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
E21D13/00
E21D9/04 F
E21D11/04 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020148966
(22)【出願日】2020-09-04
(65)【公開番号】P2022043606
(43)【公開日】2022-03-16
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】浅野 均
(72)【発明者】
【氏名】小山 正幸
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 克己
(72)【発明者】
【氏名】中村 太三
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏典
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-125342(JP,A)
【文献】特開2006-104678(JP,A)
【文献】特開2019-031772(JP,A)
【文献】特開平08-270376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
E21D 1/00- 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に並設され、第一鋼殻エレメントと、前記第一鋼殻エレメントの隣に設置された第二鋼殻エレメントと、を有する複数の鋼殻エレメントの接合構造であって、
前記第一鋼殻エレメントは、軸方向に沿って形成された雌継手と、前記雌継手の前記第二鋼殻エレメント側に開口された溝部と、を有し、
前記第二鋼殻エレメントは、軸方向に沿って形成された雄継手と、前記雄継手に形成され前記溝部に挿入可能で前記雌継手と係合しない突出部と、を有しており、
前記第一鋼殻エレメントと前記第二鋼殻エレメントとの間において、前記第一鋼殻エレメント及び前記第二鋼殻エレメントの側板に両端部が固定された補強部材を備え、
前記補強部材は、前記雌継手に固定されている
ことを特徴とする鋼殻エレメントの接合構造。
【請求項2】
地中に並設され、第一鋼殻エレメントと、前記第一鋼殻エレメントの隣に設置された第二鋼殻エレメントと、前記第二鋼殻エレメントの隣に設置された第三鋼殻エレメントとを有する複数の鋼殻エレメントの接合構造であって、
前記第一鋼殻エレメントは、軸方向に沿って形成された雌継手と、前記雌継手の前記第二鋼殻エレメント側に開口された溝部と、を有し、
前記第三鋼殻エレメントは、軸方向に沿って形成された雌継手と、前記雌継手の前記第二鋼殻エレメント側に開口された溝部と、を有し、
前記第二鋼殻エレメントは、軸方向に沿って第一鋼殻エレメント側及び第三鋼殻エレメント側の双方に形成された雄継手と、前記雄継手にそれぞれ形成され前記第一鋼殻エレメント及び前記第三鋼殻エレメントの双方の前記溝部に挿入可能で前記第一鋼殻エレメント及び前記第三鋼殻エレメントの双方の前記雌継手と係合しない突出部と、を有しており、
前記第一鋼殻エレメントと前記第二鋼殻エレメントとの間及び前記第二鋼殻エレメントと前記第三鋼殻エレメントとの間において、前記第一鋼殻エレメント及び前記第二鋼殻エレメントの側板並びに前記第二鋼殻エレメント及び前記第三鋼殻エレメントの側板に両端部が固定された補強部材をそれぞれ備え、
前記補強部材は、前記第一鋼殻エレメント及び前記第三鋼殻エレメントの前記雌継手にそれぞれ固定されている
ことを特徴とする鋼殻エレメントの接合構造。
【請求項3】
地中に並設され、第一鋼殻エレメントと、前記第一鋼殻エレメントの隣に設置された第二鋼殻エレメントと、前記第二鋼殻エレメントの隣に設置された第三鋼殻エレメントとを有する複数の鋼殻エレメントの接合構造であって、
前記第一鋼殻エレメントは、軸方向に沿って形成された雌継手と、前記雌継手の前記第二鋼殻エレメント側に開口された溝部と、を有し、
前記第三鋼殻エレメントは、軸方向に沿って形成された雌継手と、前記雌継手の前記第二鋼殻エレメント側に開口された溝部と、を有し、
前記第二鋼殻エレメントは、軸方向に沿って第一鋼殻エレメント側及び第三鋼殻エレメント側の双方に形成された雄継手と、前記第一鋼殻エレメント側の前記雄継手に形成され前記第一鋼殻エレメントの前記溝部に挿入可能であって、前記第一鋼殻エレメントの前記雌継手と係合しない突出部と、前記第三鋼殻エレメント側の前記雄継手に形成され前記第三鋼殻エレメントの前記溝部に挿入可能であって、前記第三鋼殻エレメントの前記雌継手と係合する突出部と、を有しており、
前記第一鋼殻エレメントと前記第二鋼殻エレメントとの間において、前記第一鋼殻エレメント及び前記第二鋼殻エレメントの側板に両端部が固定された補強部材を備え、
前記補強部材は、前記第一鋼殻エレメントの前記雌継手に固定されている
ことを特徴とする鋼殻エレメントの接合構造。
【請求項4】
前記補強部材の両端部が固定される鋼殻エレメントは、側板と頂板及び底板との少なくとも一方との間に設けられたコーナー補強材を有し、
前記コーナー補強材は、隣り合う鋼殻エレメントに引張力が作用した際に前記側板の変形を抑止する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項に記載の鋼殻エレメントの接合構造。
【請求項5】
前記補強部材は、両端部が前記側板にボルトを介して固定されており、
前記ボルトが前記補強部材の端部及び前記側板を貫通し、前記ボルトの端部に座金を介してナットが螺合され、
前記座金の前記ナットと接する面、あるいは、前記ナットの前記座金と接する面の少なくとも一方が球面であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちいずれか1項に記載の鋼殻エレメントの接合構造。
【請求項6】
前記補強部材は、両端部が前記側板にボルトを介して固定されており、
前記ボルトが前記補強部材の端部及び前記側板を貫通し、前記ボルトの端部に座金を介してナットが螺合され、
前記座金は、前記ナットと接する面が反対の面に対して傾斜しているテーパー座金であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちいずれか1項に記載の鋼殻エレメントの接合構造。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のうちいずれか1項に記載の鋼殻エレメントの接合構造の施工方法であって、
前記補強部材を前記雌継手に固定した後に、前記補強部材の両端部を隣り合う鋼殻エレメントの側板に固定することを特徴とする鋼殻エレメントの接合構造の施工方法。
【請求項8】
前記補強部材の両端部を隣り合う鋼殻エレメントの側板に固定する際に、当該補強部材が固定された雌継手を備える鋼殻エレメントに先に固定することを特徴とする請求項7に記載の鋼殻エレメントの接合構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非開削工法により地下構造物を構築する際に用いる鋼殻エレメントの接合構造及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下構造物を構築する際に、地上での交通規制が不要であり、周辺地盤への影響も少ない非開削工法を採用することがある。
非開削工法としては、一側に凹継手を有し、他側に凸継手を有する中空の鋼殻エレメントを、継手を繋ぎ合わせながら推進工法により地中に並設して鋼殻構造体を形成し、鋼殻エレメント内にコンクリートを打設して外殻躯体を形成し、その後、外殻躯体で囲まれた内側を掘削して地下構造物を構築する方法がある。
【0003】
しかし、このような工法は、隣接する鋼殻エレメント間に引張力が加わると、継手が外れて隣接する鋼殻エレメントどうしが離れる恐れがある。この結果、鋼殻構造体や外殻躯体の構造に支障をきたし、地下構造物の内部に地下水が侵入する等の重大な事態が発生しかねない。
【0004】
そこで、従来、凹継手の溝部内に内周面両側から突出する係止部を形成し、凸継手の先端に両側へ突出する突起部を設けた鋼殻エレメントの継手構造が、例えば、特許文献1として提案されている。
上記特許文献1に記載の鋼殻エレメントの継手構造は、隣接する鋼殻エレメント間に引張力が加わっても、突起部が係止部に係合して凸継手が凹継手から抜け出すことがなく、隣接する鋼殻エレメントが離れるのを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-71904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載のような鋼殻エレメントの継手構造は、施工による隣接する鋼殻エレメント間の位置関係が、凸継手と凹継手との係合可能な許容範囲を超えると、凸継手の突起部が凹継手の係止部にぶつかってしまうため凸継手を凹継手へ差し込むことができず、特に位置関係が大きくなりやすい閉合エレメントを設置する部分では、凸継手の先端の突起部を省略せざるを得ない場合があった。そのような場合、凸継手の突起部と凹継手の係止部との係合による抜け止め機能を発揮することができず、隣接する鋼殻エレメント間に引張力が作用した際には、鋼殻エレメントによる分離を防止することはできなくなる。
本発明が解決しようとする課題は、鋼殻エレメントの施工誤差を吸収できるとともに、隣接する鋼殻エレメント間に引張力が作用しても、鋼殻エレメントによる分離を防止することができ、鋼殻エレメントの変形を防止できる、鋼殻エレメントの接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願請求項1に係る発明は、地中に並設され、第一鋼殻エレメントと、前記第一鋼殻エレメントの隣に設置された第二鋼殻エレメントと、を有する複数の鋼殻エレメントの接合構造であって、前記第一鋼殻エレメントは、軸方向に沿って形成された雌継手と、前記雌継手の前記第二鋼殻エレメント側に開口された溝部と、を有し、前記第二鋼殻エレメントは、軸方向に沿って形成された雄継手と、前記雄継手に形成され前記溝部に挿入可能で前記雌継手と係合しない突出部と、を有しており、前記第一鋼殻エレメントと前記第二鋼殻エレメントとの間において、前記第一鋼殻エレメント及び前記第二鋼殻エレメントの側板に両端部が固定された補強部材を備え、前記補強部材は、前記雌継手に固定されていることを特徴とする鋼殻エレメントの接合構造である。
【0008】
本願請求項2に係る発明は、地中に並設され、第一鋼殻エレメントと、前記第一鋼殻エレメントの隣に設置された第二鋼殻エレメントと、前記第二鋼殻エレメントの隣に設置された第三鋼殻エレメントとを有する複数の鋼殻エレメントの接合構造であって、前記第一鋼殻エレメントは、軸方向に沿って形成された雌継手と、前記雌継手の前記第二鋼殻エレメント側に開口された溝部と、を有し、前記第三鋼殻エレメントは、軸方向に沿って形成された雌継手と、前記雌継手の前記第二鋼殻エレメント側に開口された溝部と、を有し、前記第二鋼殻エレメントは、軸方向に沿って第一鋼殻エレメント側及び第三鋼殻エレメント側の双方に形成された雄継手と、前記雄継手にそれぞれ形成され前記第一鋼殻エレメント及び前記第三鋼殻エレメントの双方の前記溝部に挿入可能で前記第一鋼殻エレメント及び前記第三鋼殻エレメントの双方の前記雌継手と係合しない突出部と、を有しており、前記第一鋼殻エレメントと前記第二鋼殻エレメントとの間及び前記第二鋼殻エレメントと前記第三鋼殻エレメントとの間において、前記第一鋼殻エレメント及び前記第二鋼殻エレメントの側板並びに前記第二鋼殻エレメント及び前記第三鋼殻エレメントの側板に両端部が固定された補強部材をそれぞれ備え、前記補強部材は、前記第一鋼殻エレメント及び前記第三鋼殻エレメントの前記雌継手にそれぞれ固定されていることを特徴とする鋼殻エレメントの接合構造である。
【0009】
本願請求項3に係る発明は、地中に並設され、第一鋼殻エレメントと、前記第一鋼殻エレメントの隣に設置された第二鋼殻エレメントと、前記第二鋼殻エレメントの隣に設置された第三鋼殻エレメントとを有する複数の鋼殻エレメントの接合構造であって、前記第一鋼殻エレメントは、軸方向に沿って形成された雌継手と、前記雌継手の前記第二鋼殻エレメント側に開口された溝部と、を有し、前記第三鋼殻エレメントは、軸方向に沿って形成された雌継手と、前記雌継手の前記第二鋼殻エレメント側に開口された溝部と、を有し、前記第二鋼殻エレメントは、軸方向に沿って第一鋼殻エレメント側及び第三鋼殻エレメント側の双方に形成された雄継手と、前記第一鋼殻エレメント側の前記雄継手に形成され前記第一鋼殻エレメントの前記溝部に挿入可能であって、前記第一鋼殻エレメントの前記雌継手と係合しない突出部と、前記第三鋼殻エレメント側の前記雄継手に形成され前記第三鋼殻エレメントの前記溝部に挿入可能であって、前記第三鋼殻エレメントの前記雌継手と係合する突出部と、を有しており、前記第一鋼殻エレメントと前記第二鋼殻エレメントとの間において、前記第一鋼殻エレメント及び前記第二鋼殻エレメントの側板に両端部が固定された補強部材を備え、前記補強部材は、前記第一鋼殻エレメントの前記雌継手に固定されていることを特徴とする鋼殻エレメントの接合構造である。
【0010】
本願請求項4に係る発明は、前記補強部材の両端部が固定される鋼殻エレメントは、側板と頂板及び底板との少なくとも一方との間に設けられたコーナー補強材を有し、前記コーナー補強材は、隣り合う鋼殻エレメントに引張力が作用した際に前記側板の変形を抑止することを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項に記載の鋼殻エレメントの接合構造である。
【0011】
本願請求項5に係る発明は、前記補強部材は、両端部が前記側板にボルトを介して固定されており、前記ボルトが前記補強部材の端部及び前記側板を貫通し、前記ボルトの端部に座金を介してナットが螺合され、前記座金の前記ナットと接する面、あるいは、前記ナットの前記座金と接する面の少なくとも一方が球面であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちいずれか1項に記載の鋼殻エレメントの接合構造である。
【0012】
本願請求項6に係る発明は、前記補強部材は、両端部が前記側板にボルトを介して固定されており、前記ボルトが前記補強部材の端部及び前記側板を貫通し、前記ボルトの端部に座金を介してナットが螺合され、前記座金は、前記ナットと接する面が反対の面に対して傾斜しているテーパー座金であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちいずれか1項に記載の鋼殻エレメントの接合構造である。
【0013】
本願請求項7に係る発明は、請求項1乃至請求項6のうちいずれか1項に記載の鋼殻エレメントの接合構造の施工方法であって、前記補強部材を前記雌継手に固定した後に、前記補強部材の両端部を隣り合う鋼殻エレメントの側板に固定することを特徴とする鋼殻エレメントの接合構造の施工方法である。
【0014】
本願請求項8に係る発明は、前記補強部材の両端部を隣り合う鋼殻エレメントの側板に固定する際に、当該補強部材が固定された雌継手を備える鋼殻エレメントに先に固定することを特徴とする請求項7に記載の鋼殻エレメントの接合構造の施工方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、雄継手の係合しない突出部は雌継手の溝部に対して挿入深さを調整できるので、隣り合う鋼殻エレメント間の施工誤差を吸収でき、しかも、隣り合う鋼殻エレメントどうしは補強部材で連結されているため引張力に対しても抵抗し、強固な鋼殻構造体、外殻躯体を容易に構築することが可能である。特に施工誤差が大きくなりやすい閉合エレメントにおいて効果的である。
また、補強部材は雌継手に固定されているので、取付け作業が行いやすい。さらに、鋼殻エレメント間に加わる引張力は雌継手にも分散されるため、引張力による側板の変形を防止できる。
【0016】
加えて、補強部材の両端部が固定される鋼殻エレメントは、側板と頂板及び底板との少なくとも一方との間に設けられたコーナー補強材を有し、このコーナー補強材は、隣り合う鋼殻エレメントに引張力が作用した際に前記側板の変形を抑止するので、鋼殻エレメントのコーナー部分が補強されるとともに、補強部材の固定位置からコーナー補強材を介して頂板あるいは底板に応力が伝達されるので、側板の孕み等の変形を抑止して安定した構造とすることができる。
【0017】
加えて、補強部材は、両端部が側板にボルトを介して固定されており、ボルトが補強部材の端部及び側板を貫通し、ボルトの端部に座金を介してナットが螺合され、座金のナットと接する面、あるいは、ナットの座金と接する面の少なくとも一方が球面であるので、隣接する鋼殻エレメントの側板どうしが互いに傾斜した位置関係であった場合でも、ボルトの軸方向が側板を傾斜した状態で貫通しても、ナットが片当たりすることはなく、補強部材やボルトの変形や破損を防止できる。
【0018】
加えて、補強部材は、両端部が側板にボルトを介して固定されており、ボルトが補強部材の端部及び側板を貫通し、ボルトの端部に座金を介してナットが螺合され、座金は、ナットと接する面が反対の面に対して傾斜しているテーパー座金であるので、隣接する鋼殻エレメントの側板どうしが互いに傾斜した位置関係であった場合でも、ボルトの軸方向が側板を傾斜した状態で貫通しても、座金のナットに接する面とボルトの軸方向とのなす角度を直角に近づけることができ、これにより、ナットの片当たりを防いで、補強部材やボルトの変形や破損を防止する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係る鋼殻構造体の断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る基準エレメントの断面図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る一般エレメントの断面図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る閉合エレメントの断面図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係る鋼殻構造体の要部断面図である。
図6】本発明の第1の実施形態に係る鋼殻エレメントの接合部分の断面図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係る鋼殻構造体の要部断面図である。
図8】本発明の第2の実施形態に係る鋼殻エレメントの接合部分を示し、(A)は一般エレメントが閉合エレメントに対して上側に向けて傾斜した位置である場合の断面図、(B)は一般エレメントが閉合エレメントに対して下側に向けて傾斜した位置である場合の断面図である。
図9】本発明の第3の実施形態に係る閉合エレメントの断面図である。
図10】本発明の第3の実施形態に係る鋼殻構造体の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態につき図面を参照する等して説明する。なお、本発明は、実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【0021】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態を図1図6と共に説明する。
図1は、鋼殻構造体の断面図であり、図2は、基準エレメントの断面図であり、図3は、一般エレメントの断面図であり、図4は、閉合エレメントの断面図であり、図5は、鋼殻構造体の要部断面図であり、図6は、鋼殻エレメントの接合部分の断面図である。
【0022】
非開削工法により地下構造物を構築するには、まず、図1に示すように、鋼製の多数の中空筒状の鋼殻エレメント1を、断面視で周方向に閉鎖するよう、相互に接合して地中に並設して鋼殻構造体2を形成し、鋼殻エレメント1の内部にコンクリートなどを充填して外殻躯体を形成する。その後、外殻躯体の内側の土砂を掘削する。
【0023】
鋼殻エレメント1には、基準エレメント1aと、一般エレメント1bと、閉合エレメント1cとがあり、鋼殻構造体2を形成するには、例えば、基準エレメント1aを構築位置の頂部中央と底部中央に推進埋設し、基準エレメント1aの周方向両側に一般エレメント1bを順次接合しながら並設し、掘削順序において末端となる位置に閉合エレメント1cを推進埋設して先に設置されている一般エレメント1bと接合する。
【0024】
基準エレメント1aは、図2に示すように、断面略矩形で中空の本体部10と、本体部10の両側の上下端部から側方へ張り出し軸方向に沿って形成された雌継手11とを備える。
本体部10は、左右一対の側板100と、側板100の上下端からそれぞれ延びて左右の側板100間を連結する頂板101及び底板102とを備える。
一方の側板100には、開閉自在な蓋103で閉鎖された出入口104が形成されている。
また、側板100の上端部と頂板101の側端部との間、及び、側板100の下端部と底板102の側端部との間には、コーナー補強材105が軸方向の適宜間隔ごとに架設されている。
【0025】
雌継手11は、内側片11aと外側片11bとで側方に開口する溝部110を有し、溝部110の内部には上下両面から突出する係止部111が形成される。
溝部110の開口は、シール材が注入されたバネ状の二重のパッキング112で閉鎖されている。
また、雌継手11には、内側片11aを貫通し外側片11bを貫通しないネジ孔113が形成されている。このネジ孔113は、溝部110の開口が開かないよう、図示しない開き止めボルトを螺合させることができる。外側片11bに形成されたネジ孔113が有底であるのは止水効果を高めるためである。なお、また、閉合エレメント1cに接合される一般エレメント1bの雌継手11については、ネジ孔113は、後述する補強部材3が固定されるので内側片11aにだけ設けられており、外側片11bには設けられていない(図5図6)。この補強部材3が固定されるために内側片11aに設けられるネジ孔113は有底であっても良い。
【0026】
一般エレメント1bは、図3に示すように、本体部10と、本体部10の一側の上下端部から側方へ張り出し軸方向に沿って形成された雌継手11と、本体部10の他側の上下端部から側方へ張り出し軸方向に沿って形成された雄継手12とを備える。
本体部10及び雌継手11は、基準エレメント1aの本体部10及び雌継手11とほぼ同様の構造を有する。
また、閉合エレメント1cに接合される一般エレメント1bの雌継手11側の側板100の上下端部であって、コーナー補強材105が取り付けられる高さの範囲に、ボルト挿通孔106が穿設されている(図5図6)。ボルト挿通孔106とコーナー補強材105との鋼殻エレメント軸方向の距離も補強部材の固定位置からコーナー補強材を介して頂板あるいは底板に応力を伝達して、側板の孕み等の変形を抑止して安定した構造とするために満足するものに設定されている。
【0027】
雄継手12は、溝部110へ開口を通して挿入される板状の突出部120と、突出部120の先端から溝部110の上下両面方向へ突出する係合部121とを備える。
突出部120を溝部110内に挿入した状態で、雄継手12と雌継手11とを引き離そうとする力(引張力)が働くと、係合部121が係止部111に係合して抜け止めとなる。
また、図示しないが、突出部120には、雌継手11のネジ孔113に対応して、開き止めボルトを挿通するための孔が形成される。この孔は、雌継手11と雄継手12との施工誤差とのパッキング112による止水性の確保の双方を考慮して、接続方向に例えばネジ孔113の径の数倍の大きさとしてある。
【0028】
閉合エレメント1cは、図4に示すように、本体部10と、本体部10の両側の上下端部から側方へ張り出し軸方向に沿って形成された雄継手12とを備える。
本体部10の構造は、基準エレメント1a及び一般エレメント1bの本体部10と同様の構造を有する。また、閉合エレメント1cの側板100の上下端部であって、コーナー補強材105が取り付けられる高さの範囲に、ボルト挿通孔106が穿設されている。ボルト挿通孔106とコーナー補強材105との鋼殻エレメント軸方向の距離も補強部材の固定位置からコーナー補強材を介して頂板あるいは底板に応力を伝達して、側板の孕み等の変形を抑止して安定した構造とするために満足するものに設定されている。
雄継手12は、雄継手12と同様に板状の突出部120を有するが、突出部120の先端に係合部121が形成されていない。
【0029】
隣り合う鋼殻エレメント1の雌継手11と雄継手12とは互いに係合されるが、閉合エレメント1cの雄継手12には、雌継手11の係止部111と係合する係合部121が形成されていないので、互いに係合せず、閉合エレメント1cとこれに隣接する一般エレメント1bとの位置誤差を吸収することはできるが、両者を引き離そうとする力(引張力)に対抗することはできない。
そこで、図5に示すように、閉合エレメント1cとその両側に隣接する一般エレメント1bとの間に補強部材3を介在させ、補強部材3の両端部を一般エレメント1b及び閉合エレメント1cの対向する側板100にそれぞれボルト4で固定し、閉合エレメント1cと一般エレメント1bを補強部材3で連結する。閉合エレメント1cが本発明の第二鋼殻エレメントに相当し、両側の一般エレメント1bのうち一方が本発明の第一鋼殻エレメントに、他方が本発明の第三鋼殻エレメント相当する。
【0030】
図6に示すように、補強部材3は、金属帯片を略コ字状に折り曲げてなり、連結片300と、その両端部を同じ方向に略直角に屈曲した固定片301とを備える。連結片300と固定片301との角部には、三角形の補強片302が取り付けられている。
また、連結片300の中央部分には貫通孔303が形成され、固定片301には固定用孔304が穿設されている。
【0031】
閉合エレメント1cとその隣の一般エレメント1bとは補強部材3で連結されるので、その雌継手11の開口を開こうとする引張応力は加わらず、開き止めボルトは必要ない。
そこで、補強部材3は、連結片300の貫通孔303を通してネジ5を内側片11aに設けられたネジ孔113に締め込むことにより雌継手11に固定される。
また、両側の固定片301の固定用孔304を通して、閉合エレメント1c及び一般エレメント1bの側板100のボルト挿通孔106にボルト4を挿通し、ボルト4の先端に座金40を介してナット41を螺合し、補強部材3の両端部を閉合エレメント1c及び一般エレメント1bの側板100に固定する。なお、ナット41はシングルであるが、緩み防止のために、ダブルナットにしても良い。
【0032】
なお、図5における左側の補強部材3に関しては、一般エレメント1bに固定される補強部材3の両端部を固定するボルト4のうち、閉合エレメント1c側の一方のボルト4aを一般エレメント1b側の他方のボルト4bよりも長くしている(図5図6)。このようにすることにより、補強部材3を一般エレメント1bの側板100と雌継手11に固定した後に、一方のボルト4aを取付ける際に、閉合エレメント1cと一般エレメント1bとの距離の変化に対応でき、すなわち施工誤差にも対応(他方のボルト4bを長くする場合はエレメント間が広がった施工誤差に対応)しやすいようになっている。
また、図5における右側の補強部材3に関しては、一般エレメント1bに固定される補強部材3の両端部を固定するボルト4のうち、一般エレメント1b側の他方のボルトを閉合エレメント1c側の一方のボルトよりも長くしている(図5)。このようにすることにより、補強部材3を一般エレメント1bの雌継手11と閉合エレメント1cの側板100に固定した後、すなわち、一般エレメント1bと閉合エレメント1cとの連結をした後に、他方のボルトを取付ける際に、閉合エレメント1cと一般エレメント1bとの距離の変化に対応でき、すなわち施工誤差にも対応しやすいようになっている。
【0033】
以下、地下構造物を構築する手順について説明する。
鋼殻エレメント1を、その先端面に掘削装置を装着し、発進立坑から軸方向に継ぎ足しながら推進させる。また、周方向に隣り合う鋼殻エレメント1を雌継手11と雄継手12とを接合しながら、基準エレメント1a、一般エレメント1b、閉合エレメント1cの順に推進させていく。
【0034】
鋼殻エレメント1を周方向に接合するには、埋設しようとする雄継手12の突出部120を、先に埋設されている鋼殻エレメント1の雌継手11の溝部110に軸方向端部から差し込み、軸方向に推進させる。
溝部110の開口はバネ状のパッキング112で閉鎖されているので、溝部110に突出部120を挿入すると、突出部120の両面にパッキング112が圧接され、雌継手11と雄継手12の接合部が密封される。
【0035】
基準エレメント1a及び一般エレメント1bを設置したら、隣接する二つの一般エレメント1bの間に閉合エレメント1cを設置する。
閉合エレメント1cの設置は、一般エレメント1bと同様に行う。
閉合エレメント1cの両側の雄継手12は、両側に位置する一般エレメント1bの雌継手11と接合されるが、板状の突出部120を有するだけで、その先端に係合部121が形成されていないので、突出部120の溝部110に対する挿入長さを現地にあわせて調整することができ、両側の一般エレメント1bの施工誤差を吸収できる。すなわち、突出部120が、溝部110のパッキング112に接して止水性さえ確保できる程度の位置であれば、その程度の施工誤差まで吸収できることになる。
【0036】
次に、閉合エレメント1c及びその隣の一般エレメント1bの側板100に設けられた蓋103を開けて出入口104を開放し、閉合エレメント1cとその両側の一般エレメント1bとの間の土砂を撤去する。
次いで、閉合エレメント1cと、その両側に位置する一般エレメント1bとの間において、内側片11aにネジ5を螺合させて雌継手11に補強部材3の連結片300をネジ5で固定し、閉合エレメント1c及び一般エレメント1bの対向する側板100に補強部材3の固定片301をボルト4で固定する。
【0037】
すべての鋼殻エレメント1の設置が完了したら、鋼殻エレメント1の内部、及び、閉合エレメント1cとその両側の一般エレメント1bとの隙間にコンクリートを充填して外殻躯体を構築する。
さらに、外殻躯体で囲まれた内側の土砂を撤去した後、外殻躯体の内側に地下構造物を構築する。
【0038】
〔第2の実施形態〕
以下、本発明に係る第2の実施形態について図面の図7及び図8と共に説明する。なお、第1の実施形態と同様の部分については説明を省略し、主に異なる部分について説明する。
【0039】
第2の実施形態において、ボルト4に螺合されるナット41’の両端面は、軸方向外側へ凸に湾曲した球面となっている。
また、一方のボルト4aに取り付けられ、鋼殻エレメント1の側板100とナット41’との間に介在される座金40’は、ナット41’と接する面が傾斜したテーパー座金である。
【0040】
図8の(A)に示すように、一般エレメント1bが閉合エレメント1cに対して、上側に向けて傾斜した位置である場合、座金40’の厚い側を上に向ける。また、図8の(B)に示すように、一般エレメント1bが閉合エレメント1cに対して、下側に向けて傾斜した位置である場合、座金40’の厚い側を下に向ける。すなわち、座金40’の厚い側を、対向する側板100間の距離が狭い側に向けると、座金40’のナット41と接する面がボルト4に対して直角に近づく。
【0041】
従って、閉合エレメント1cとこれに隣り合う一般エレメント1bとが傾斜した位置であって、対向する側板100が互いに傾斜した状態で、一方のボルト4aが傾斜した状態で側板100を貫通することになったとしても、端面が球面であるナット41’が座金40,40’に片当たり(一側のみが当接)することなく、側板100及びボルト4の変形や破損を防止できる。
【0042】
〔第3の実施形態〕
以下、本発明に係る第3の実施形態について図9及び図10と共に説明する。なお、第1及び第2の実施形態と同様の部分については説明を省略し、主に異なる部分について説明する。
【0043】
第3の実施形態では、図9に示すように、閉合エレメント1c’の両側に設けられた雄継手12の内、一側の雄継手12のみが、板状の突出部120の先端に形成された係合部121を備えており、他側の雄継手12には係合部121が形成されていない。
また、閉合エレメント1c’の係合部121を備えた板状の突出部120側の側板100には、ボルト挿通孔106が設けられていない。これに対向する一般エレメント1bの側板100にもボルト挿通孔106は設けられていない(図10)。
【0044】
従って、閉合エレメント1c’とその一側に隣接する一般エレメント1bとの間は、補強部材3で連結する必要がなく、図10に示すように、閉合エレメント1c’と、他側に隣接する一般エレメント1bとの間のみが、補強部材3で連結されている。閉合エレメント1c’が本発明の第二鋼殻エレメントに相当し、両側の一般エレメント1bのうち閉合エレメント1c’と係合しない一方が本発明の第一鋼殻エレメントに、閉合エレメント1c’と係合する他方が本発明の第三鋼殻エレメント相当する。
【0045】
〔その他の変形例〕
本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。例えば以下のようなものも含まれる。
【0046】
本実施形態では、鋼殻エレメントの本体部は断面矩形としてあるが、長方形であっても良い。
【0047】
第2の実施形態では、ナットの座金と接する面が球面となっているが、座金のナットと接する面を球面としてもよい。
【0048】
本実施形態では、雌継手の開口をパッキングで閉鎖しているが、このパッキングを省略して、雌継手と雄継手を係合した後、雌継手の溝部内にコンクリート等を充填することもできる。
【0049】
本実施形態では、基準エレメントの両側に一般エレメントを並設し、隣接する一般エレメントの間に閉合エレメントを設置したものであったが、これに限られない。
基準エレメントの雌継手と一般エレメントの雄継手との接合においても、本発明の補強部材を用いた接合構造を適用しても良い。この場合には、基準エレメントが本発明の第一鋼殻エレメントで一般エレメントが本発明の第二鋼殻エレメントに相当することになる。 また、先行して埋設された一般エレメントの雌継手と後行して埋設された一般エレメントの雄継手との接合においても、本発明の補強部材を用いた接合構造を適用しても良い。この場合には、先行して埋設された一般エレメントが本発明の第一鋼殻エレメントで後行して埋設された一般エレメントが本発明の第二鋼殻エレメントに相当することになる。
【0050】
いずれの実施形態における各技術的事項を他の実施形態に適用して実施例としても良い。
【符号の説明】
【0051】
1 鋼殻エレメント
1a 基準エレメント
1b 一般エレメント
1c,1c’ 閉合エレメント
10 本体部
100 側板
101 頂板
102 底板
103 蓋
104 出入口
105 コーナー補強材
106 ボルト挿通孔
11 雌継手
110 溝部
111 係止部
112 パッキング
113 ネジ孔
12 雄継手
120 突出部
121 係合部
2 鋼殻構造体
3 補強部材
300 連結片
301 固定片
302 補強片
303 貫通孔
304 固定用孔
4 ボルト
40 座金
41,41’ ナット
5 ネジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10