(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】ベルセトラグを用いて胃不全麻痺の症状を治療する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/46 20060101AFI20240207BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240207BHJP
A61P 1/06 20060101ALI20240207BHJP
A61P 1/08 20060101ALI20240207BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
A61K31/46
A61P1/04
A61P1/06
A61P1/08
A61P1/14
(21)【出願番号】P 2020505338
(86)(22)【出願日】2018-07-30
(86)【国際出願番号】 US2018044337
(87)【国際公開番号】W WO2019027881
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-02-03
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-26
(32)【優先日】2017-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514190040
【氏名又は名称】セラヴァンス バイオファーマ アール&ディー アイピー, エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】317013544
【氏名又は名称】アルファシグマ ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】バーンズ, クリストファー ノエル
(72)【発明者】
【氏名】ヴィスコミ, ジュゼッペ クラウディオ
(72)【発明者】
【氏名】レンズーリ, チェチーリア
(72)【発明者】
【氏名】グリマルディ, マリア
【合議体】
【審判長】原田 隆興
【審判官】磯部 洋一郎
【審判官】吉田 佳代子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-532546(JP,A)
【文献】特表2008-535848(JP,A)
【文献】History of Changes for Study: NCT01718938, Phase 2 Study of Velusetrag in Diabetic or Idiopathic Gastroparesis,ClinicalTrials.gov archive [online],2015年05月11日,[retrieved on 2021-10-13],Retrieved from the Internet: <URL: https://clinicaltrials.gov/ct2/history/NCT01718938?V_11=View#StudyPageTop>
【文献】Gastroenterology,2015年,Vol.148, No.4, Supplement 1,p.S-507, Abstract No.Su1426
【文献】Quality of Life Research,2004年,Vol.13,pp.833-844
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
A61P1/00-43/00
CAPlus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病性又は特発性胃不全麻痺のヒト患者における食後膨満感、早期満腹、鼓腸、上腹部痛、心窩部灼熱感、悪心及び嘔吐
のいずれか1つ以上の胃不全麻痺の主要な症状を予防、軽減、改善、緩和、治療するための医薬組成物であって、
1-イソプロピル-2-オキソ-1,2-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸{(1S,3R,5R)-8-[(R)-2-ヒドロキシ-3-(メタンスルホニル-メチル-アミノ)プロピル]-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタ-3-イル}アミド(ベルセトラグ)又はその薬学的に許容可能な塩を含み、
かつ
前記医薬組成物の投与量が、ベルセトラグ換算で5mg/日で
ある医薬組成物。
【請求項2】
薬学的に許容可能な塩が塩酸塩である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
ベルセトラグが、結晶形及び/又は水和物である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
特発性胃不全麻痺の患者において、ベルセトラグの1日投与量が5mgで、4週目での、毎日、7日間の平均複合GCSI-24Hスコア(daily and 7-day mean composite GCSI-24H score)のベースラインからの変化が、プラセボと比較して0.6ポイントを超える、又は、特発性胃不全麻痺の患者において、ベルセトラグの1日投与量が5mgで、8週目での、毎日、7日間の平均複合GCSI-24Hスコアのベースラインからの変化が、プラセボと比較して0.6ポイントを超える、若しくは、特発性胃不全麻痺の患者において、ベルセトラグの1日投与量が5mgで、毎日、7日間の平均複合GCSI-24Hスコアのベースラインからの変化が、プラセボと比較して、治療時間にわたって持続する請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
糖尿病性胃不全麻痺の患者において、ベルセトラグの1日投与量が5mgで、4週目での、毎日、7日間の平均複合GCSI-24Hスコアのベースラインからの変化が、プラセボと比較して0.2ポイントを超える、又は、糖尿病性胃不全麻痺の患者において、ベルセトラグの1日投与量が5mgで、8週目での、毎日、7日間の平均複合GCSI-24Hスコアのベースラインからの変化が、プラセボと比較して0.1ポイントを超える、又は、糖尿病性胃不全麻痺の患者において、ベルセトラグの1日投与量が5mgで、毎日、7日間の平均複合GCSI-24Hスコアのベースラインからの変化が、プラセボと比較して、治療時間にわたって持続する、若しくは、糖尿病性胃不全麻痺の患者において、ベルセトラグの1日投与量が30mgで、14週目での、毎日、7日間の平均複合GCSI-24Hスコアのベースラインからの変化が、プラセボと比較して0.1ポイントを超える請求項1記載の医薬組成物。
【請求項6】
ヒト患者において、医薬組成物を用いた治療が、高血糖症又は血液中のグルコースの著しい増加を引き起こさない請求項1~
5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
経口、非経口、口腔(buccal)、舌下、直腸、腹腔内、又は気管内投与される請求項1~
6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
非経口投与が、注入(infusion)、注射(injection)、移植(implantation)又は経皮的である請求項
7記載の医薬組成物。
【請求項9】
経皮的投与が、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、経皮を介した投与又は移植によるものである請求項
8記載の医薬組成物。
【請求項10】
液体、カプセル剤、錠剤、チュアブル錠又は溶解性フィルムの形態で経口投与される請求項
7記載の医薬組成物。
【請求項11】
液体、固体又はゲルの形態で非経口投与される請求項
7記載の医薬組成物。
【請求項12】
食物とともに又は食物なしで経口摂取する請求項1~
10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本発明は、ベルセトラグ又はその薬学的に許容可能な塩を、ヒト患者に約0.5mg/日~約30mg/日投与することによってそのヒト患者の特発性又は糖尿病性胃不全麻痺に関連する症状を治療するため及び/又はその症状の治療における使用のための、ベルセトラグ(1-イソプロピル-2-オキソ-1,2-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸{(1S,3R,5R)-8-[(R)-2-ヒドロキシ-3-(メタンスルホニル-メチル-アミノ)プロピル]-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタ-3-イル}アミド)及びそれを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術
上部消化管の胃十二指腸領域で発生する基本的な消化機能の変化は、多くの人々に影響を与える非常に一般的な状態である。消化管のさまざまな性質の障害は、1つ以上の消化管の機能を損なう。構造的及び神経的異常は、消化管のあらゆるレベルで腸内容物の動きを遅らせるか、閉塞するか、又は加速する可能性がある。胃腸壁が炎症性及び潰瘍性の状態になると、分泌、運動及び吸収が妨げられる。肝臓、膵臓若しくは胆嚢の炎症又は閉塞により、代謝が変化し、局所若しくは全身症状、又はその両方を引き起こす可能性がある。消化管障害の多くの臨床徴候は非特異的であり、さまざまな障害によって引き起こされる可能性がある。人口の少なくとも20%は、胃十二指腸機能の障害に起因する慢性症状を有しており、この状態は患者の通常の活動に大きく影響を与え、以下の1つ以上の症状によって特徴付けられる。その症状とは、悪心(吐き気)、鼓腸、食後膨満感、早期満腹、嘔吐、上腹部痛、心窩部灼熱感、灼熱感を伴うか又は伴わない胃逆流、及び胃腸運動障害である。症状は慢性的であり、少なくとも週に1回、かつ少なくとも6か月間にわたって生じるが、臓器的(器質的)には説明できない(Tack,J.,et al.Gastroenterology.2006; 130; 1466-1479(非特許文献1))。
【0003】
上部消化管の一般的であるが重篤な慢性感覚運動障害である胃不全麻痺の患者に存在する同様の臨床徴候は、機械的(器質的)閉塞がない場合の胃排出(GE)遅延の存在によって定義され、生活の質(QOL)を大きく損なう可能性のある重大な症状(総体的症状)(例えば、悪心、嘔吐、早期満腹、鼓腸及び腹痛)に関連する(Parkman, H.P. et al., Gastroenterology, 2004, 127(5), 1592-1622(非特許文献2);Stein, B. et al, J.Clin. Gastroenterol., 2015, 49(7)(非特許文献3);Parkman, et al., Clin. Gastroenterol. Hepatol., 2011, 9(12), 1056-1064(非特許文献4))。
【0004】
胃不全麻痺の病因は多様であるが、しばしば糖尿病に関連している(Stein, B.et al, J. Clin. Gastroenterol., 2015, 49(7)(非特許文献3);Bharucha, A. E., Gastroenterol. Clin. North Am., 2015, 44(1), 9-19(非特許文献5))。しかし、患者のほぼ50%において、根本的な原因を特定することができない(例えば、特発性疾患など)。
【0005】
他の上部消化管疾患と同様に胃不全麻痺においても、症状の定義はやや曖昧なままであり、患者、医師、研究者による理解及び解釈が潜在的に困難であり、それにより肯定的な治療成果への到達が遅れる。これらの症状に基づく病態生理学的機構は、複雑でかつ多因子的である。胃不全麻痺の症状は、関連するGE遅延を伴う上部消化管疾患の症状と大部分は重複している。上部消化管障害の4名に1名以上の患者が胃排出遅延のエビデンスを有し(Sarnelli G. et al. Am J Gastroenterol 2003; 98: 783-788(非特許文献6))、ある研究では、胃不全麻痺患者の86%が胃十二指腸の関与を示唆する症状(悪心、鼓腸、食後膨満感、早期満腹、嘔吐、上腹部痛、心窩部灼熱感、灼熱感を伴うか又は伴わない胃逆流、及び排便、これらの状態の考えられる類似の病態生理学的特徴の現れ(revelatory))を示している。
【0006】
現在、糖尿病性胃不全麻痺の唯一のFDA承認薬はメトクロプラミドであり、メトクロプラミドはドーパミンD2受容体拮抗薬(antagonist)及び弱い5-HT4アゴニスト活性を有する5-HT3受容体拮抗薬であって、長くても12週の治療で急性及び再発性の糖尿病性胃停滞(gastric stasis)に関連する症状の緩和が示されている。メトクロプラミドは、ドンペリドンと比較した場合、糖尿病性胃不全麻痺の症状の短期のコントロールにおいて同等に有効であることが見出されている。しかし、CNS(中枢神経系)の副作用はメトクロプラミドの方が著しく多くみられ、一般に重症度がより高い(Patterson, D., et al., Am. J. Gastroenterol., 1999, 94(5), 1230-1234(非特許文献7))。メトクロプラミドの効果は時間の経過とともに急速に減少し、長期的に使用することは、鎮静及び不穏並びに頻度の低い錐体外路作用(extrapyramidal effect)を含む比較的一般的なCNSの有害作用(毎日の治療に対して患者の30%までに報告されている)、最も一般的には急性ジストニアによって制限される。従って、メトクロプラミドは、有効性及び副作用(不可逆的な遅発性ジスキネジアを含む)が不確実であるため、日常的には推奨されない。
【0007】
アコチアミドは、胃排出を促進し、かつ胃適応性弛緩(gastric accommodation)を高
めるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤である(Kusunoki H. et al. Neurogastroenterol Motil 2012; 24: 540-545(非特許文献8))。日本における機能性ディスペプシア患者を対象とした二重盲検プラセボ対照試験では、プラセボに割り当てられた患者の35%と比較して、積極的治療に割り当てられた患者の52%において症状が改善し(MatsuedaK. et al. Gut 2012; 61: 821-828(非特許文献9))、食後膨満感、上腹部鼓腸及び早期満腹において有意な改善が認められたが、上腹部痛又は不快感には認められなかった。5-ヒドロキシトリプタミン-1A受容体に作用して胃底の弛緩をもたらすブスピロン及びタンドスピロンなどの薬物もまた機能性ディスペプシアに関して試験されており、ブスピロンは、ランダム化クロスオーバー試験に登録された17名の機能性ディスペプシア患者において胃底の弛緩や鼓腸及び食後膨満感の減少に有効であることが証明された(TackJ. et al. Clin Gastroenterol Hepatol 2012; 10: 1239-1245(非特許文献10))。
144名の患者を対象とした二重盲検プラセボ対照研究では、4週間のタンドスピロン治療後の奏効率(response rate)は、プラセボの12.7%と比較して31.5%であった(Miwa H. et al. Am J Gastroenterol 2009; 104: 2779-2787(非特許文献11))。
【0008】
エリスロマイシンは、マクロライド系抗生物質及びモチリン受容体活性化因子であり、胃排出を改善することが示されているが、胃不全麻痺の症状管理における有効性に関する臨床データには一貫性がない(Camilleri, M., et al., Am. J. Gastroenterol., 2013, 108(1), 18-37(非特許文献12);Maganti, K., et al., Am. J. Gastroenterol., 2003, 98(2), 259-263(非特許文献13);Sturm, A., et al., Digestion, 1999, 60(5), 422-427(非特許文献14))。メトクロプラミドと同様に、タキフィラキシーの急速な発症によって効果は制限される。エリスロマイシンはQT間隔を延長し、特に、共存する危険因子(例えば、性別としての女性(female gender))、うっ血性心不全、心筋症(cardiomyopathies)、QT延長症候群)を有する患者において心律動異常(心不整脈)(トルサード・ド・ポアントを含む)に関連している。エリスロマイシンに関連する他の有害作用としては、低血圧症及びクロストリジウム・ディフィシル(C. difficile)腸炎が挙げられる。さらに、抗生物質耐性の発生が起こり得る。
【0009】
ドンペリドンは、メトクロプラミドと同様に、D2受容体拮抗薬であるが、一般に重篤な有害作用の危険性は低い。ドンペリドンは、メトクロプラミドと同様の有効性を示しているが、いかなる適応症に対してもFDAに承認されておらず、利点が潜在的なリスクを上回る可能性がある患者に対しては、治験薬への拡大アクセスプログラム(Expanded Access to Investigational Drugs program)を通じてのみ利用可能である。拡大アクセスプログラムでは、処方する医師がIND及びIRBの承認を得る必要があり、これにより、ドンペリドンへのアクセスがさらに制限される。ドンペリドンは、主にQT間隔の延長に起因する心停止や突然死などの循環器系の有害作用のリスクの増加に関係しているが、これらの事象の発生率は低い(Camilleri, M., et al., Am. J. Gastroenterol., 2013, 108(1), 18-37(非特許文献12))。
【0010】
さらに、記述された個々の症状は、母集団でよく見られる症状であるだけでなく、特に最も重度なケースにおいては、一般的な又は類似の病態生理学的なメカニズムに関連しそうな症状をクラスター化することで、患者の3分の1以上において、消化性の症状がかなり重複している。因子分析により、満腹感、鼓腸、早期満腹を含むクラスター、悪心、嘔吐を含む第2のクラスター、不快感、痛み、げっぷ、逆流を含む第3のクラスターの少なくとも3つのクラスターが明らかになった。
【0011】
広範な調査にもかかわらず、薬理的な治療の選択肢は限られたままであり、しばしば重度の副作用を伴う。胃不全麻痺の治療に関して、最近の大規模な地域調査では、回答者のたった19%が、薬理的な及び非薬理的な選択肢の両方を含む有効な治療に満足したと評価し、その内訳は、ある程度満足している(15%)から満足している(4%)であり、60%が満足度を不満からやや不満と評価していることが示された(Yu, D., et al., Dig. Dis. Sci., 2017, 62(4), 879-893(非特許文献15))。
【0012】
現在まで、悪心、鼓腸、食後膨満感、早期満腹、嘔吐、上部腹痛、心窩部灼熱感、胃腸運動性及び症状クラスター内のこれらの様々な組み合わせなどの、上部消化管に関連する主症状で、慢性的な特発性胃不全麻痺でみられ得る症状を有する胃不全麻痺患者の治療/薬剤に対し、未だ対処されていない強い医学的なニーズがある。この問題は、症状の顕著な変動(variability)や重複レベルのために、誤解を招く診断の原因となることが多く、特に解決することが困難である。胃不全麻痺、特に、特発性及び/又は糖尿病性の胃不全麻痺の全ての症状を効果的に治療するのに適した治療/薬剤も必要である。また、胃排出遅延をもたらすことなく、又は胃排出を正常化することで、胃不全麻痺に関連する症状を治療、減少、改善及び/又は軽減することができる薬を見つけることも必要である。
【0013】
ベルセトラグは、胃不全麻痺の治療のために部分的に改良して開発され、運動促進活性を有する新規で強力な胃腸全体の(pan-GI)、強力な高選択性5-ヒドロキシトリプタミンサブタイプ4(5-HT4)受容体作動薬(agonist)である。ベルセトラグの化学名は、1-イソプロピル-2-オキソ-1,2-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸{(1S,3R,5R)-8-[(R)-2-ヒドロキシ-3-(メタンスルホニル-メチル-アミノ)プロピル]-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタ-3-イル}アミドであり、化学構造を以下の式Iに示す:
【0014】
【0015】
ベルセトラグは、先に、出願人が共通する(commomly-assigned)2004年4月7日提出の米国仮出願番号60/560,076(特許文献1)、2005年4月6日提出の米国特許出願番号11/100,113(特許文献2)で開示され、結晶形が、2005年4月6日提出の米国仮出願番号60/668,780(特許文献3)、EP1 735
304(特許文献5)に対応する2016年4月5日提出の米国特許出願番号11/398,119(特許文献4)で開示された。本明細書に引用されたすべての特許、特許出願及び文書は、参照によりその全体がそれぞれ本明細書に組み込まれている。
【0016】
ベルセトラグは、現在、胃不全麻痺の治療のための塩酸塩として、臨床試験されている。未だ対処されていない医学的なニーズに基づいて、そして、ベルセトラグでの治療による胃排出の改善についてのデータによって裏付けられ、糖尿病性及び特発性胃不全麻痺を対象に、胃不全麻痺の症状に対するベルセトラグ(5mg、15mg及び30mg)の影響を見極め、胃排出シンチグラフィー(gastric emptying scintigraphy)を用いて胃排出を評価する開発プログラムが開始された。主な評価項目、すなわち、4週間の投与後、患者報告の症状のスコアにおいてプラセボで補正したベースラインからの変化に対する先験的統計分析では、データが約0.5mgから約30mgにおいては用量に依存して症状スコアが改善すると裏付けると仮定した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】米国仮出願番号60/560,076
【文献】米国特許出願番号11/100,113
【文献】米国仮出願番号60/668,780
【文献】米国特許出願番号11/398,119
【文献】EP1 735 304
【非特許文献】
【0018】
【文献】Tack, J., et al. Gastroenterology. 2006; 130; 1466-1479
【文献】Parkman, H.P. et al., Gastroenterology, 2004, 127(5), 1592-1622
【文献】Stein, B. et al, J. Clin. Gastroenterol., 2015, 49(7)
【文献】Parkman, et al., Clin. Gastroenterol. Hepatol., 2011, 9(12),1056-1064
【文献】Bharucha, A. E., Gastroenterol. Clin. North Am., 2015, 44(1), 9-19
【文献】Sarnelli G. et al. Am J Gastroenterol 2003; 98: 783-788
【文献】Patterson, D., et al., Am. J. Gastroenterol., 1999, 94(5), 1230-1234
【文献】Kusunoki H. et al. Neurogastroenterol Motil 2012; 24: 540-545
【文献】Matsueda K. et al. Gut 2012; 61: 821-828
【文献】Tack J. et al. Clin Gastroenterol Hepatol 2012; 10: 1239-1245
【文献】Miwa H. et al. Am J Gastroenterol 2009; 104: 2779-2787
【文献】Camilleri, M., et al., Am. J. Gastroenterol., 2013, 108(1), 18-37
【文献】Maganti, K., et al., Am. J. Gastroenterol., 2003, 98(2), 259-263
【文献】Sturm, A., et al., Digestion, 1999, 60(5), 422-427
【文献】Yu, D., et al., Dig. Dis. Sci., 2017, 62(4), 879-893
【発明の概要】
【0019】
驚くべきことに、現在、ベルセトラグを糖尿病性の又は特発性の成人患者の胃不全麻痺を治療するために使用する場合、患者によって報告される症状の緩和は、胃腸運動(機能)の向上(増加)と相関しないことがわかっている。初期のフェーズ2a(初期第2a相)試験(earlier Phase 2a study)に基づいて、胃排出が最大になると患者の症状が改善すると予想されたが、代わりに予想外にも、患者は、15mg/日又は30mg/日以上のような、より大きな胃排出をもたらす高用量に比較して、5mg/日以下の用量でより大きな症状の緩和を報告する。これまで、低用量と患者から報告される症状との間に逆の関係が存在することは認識されていなかった。したがって、本発明は、一般に、胃排出の量と患者が報告する症状との間の適切なバランスを見つけ、胃不全麻痺患者(gastroparetic patients)を効果的に治療することに関する。
【0020】
本発明は、ベルセトラグ又はその薬学的に許容可能な塩を、食物とともに、又は食物なしで、約0.5mg/日~約30mg/日、約0.5mg/日~約15mg/日、約0.5mg/日~約5mg/日、約5mg/日投与することによって、ヒト患者における胃不全麻痺に関連する症状を予防、軽減、改善、緩和及び/又は治療する方法に関する。本発明はまた、前記方法で使用するための対応する組成物に関する。本発明によれば、胃不全麻痺に関連する症状を予防、軽減、改善、緩和及び/又は治療する方法は、ベルセトラグを約0.5mg/日、1.0mg/日、1.5mg/日、2.0mg/日、2.5mg/日、3.0mg/日、3.5mg/日、4.0mg/日、4.5mg/日、5.0mg/日、10mg/日、15mg/日、20mg/日、25mg/日、又は30mg/日又はそれ以上で投与することに基づいている。本発明によれば、胃不全麻痺のすべての症状、特にすべての中心的な症状(膨満感/早期満腹、鼓腸、上腹部痛、心窩部灼熱感、悪心、嘔吐)の改善が達成される。
【0021】
一実施態様では、本発明は、糖尿病患者の胃不全麻痺の症状を治療、予防、軽減及び/又は改善する方法に関する。
【0022】
別の実施態様では、本発明は、特発性患者の胃不全麻痺の症状を治療、予防、軽減及び/又は改善する方法に関する。
【0023】
一実施態様では、患者は糖尿病性の又は特発性の胃不全麻痺であってもよく、別の実施態様において、糖尿病性の胃不全麻痺患者にベルセトラグを投与しても、高血糖症及び/又はグルコースがほとんど又は全く増加しない。別の実施態様では、薬学的に許容可能な塩は塩酸塩である。さらに別の実施形態では、ベルセトラグは、米国特許第7,728,004号に記載されているように結晶形である。
【0024】
一実施態様では、本発明は、胃排出遅延を有する対象者(又は患者)に対して、ベルセトラグを治療上、約0.5mg/日~約30mg/日、約0.5mg/日~約15mg/日、約0.5mg/日~約5mg/日、約5mg/日の量を投与して、胃不全麻痺の症状を治療、予防、軽減、改善、緩和及び/又は治療する方法に関する。
【0025】
別の実施態様では、本発明は、胃排出遅延を有する対象者に対して、ベルセトラグを治療上、約0.5mg/日~約30mg/日、約0.5mg/日~約15mg/日、約0.5mg/日~約5mg/日、約5mg/日の量を投与して、悪心及び嘔吐から選択される症状を治療、予防、軽減及び/又は改善する方法に関する。
【0026】
さらなる実施態様では、本発明は、胃排出遅延を有する対象者に対して、ベルセトラグを治療上、約0.5mg/日~約30mg/日、約0.5mg/日~約15mg/日、約0.5mg/日~約5mg/日、約5mg/日の量を投与して、食後膨満感及び早期満腹から選択される症状を予防、軽減、改善、緩和及び/又は治療する方法に関する。
【0027】
本明細書に示されている別の実施態様は、胃排出遅延を有する対象者に対して、ベルセトラグを治療上、約0.5mg/日~約30mg/日、約0.5mg/日~約15mg/日、約0.5mg/日~約5mg/日、約5mg/日の量を投与して、上腹部痛を予防、軽減、改善、緩和及び/又は治療する方法である。
【0028】
さらなる実施態様は、胃排出遅延を有する対象者に対して、ベルセトラグを治療上、約0.5mg/日~約30mg/日、約0.5mg/日~約15mg/日、約0.5mg/日~約5mg/日、約5mg/日の量を投与して、心窩部灼熱感を予防、軽減、改善、緩和及び/又は治療する方法に関する。
【0029】
本明細書に示されている一実施態様は、胃排出遅延を有する対象者に対して、ベルセトラグを治療上、約0.5mg/日~約30mg/日、約0.5mg/日~約15mg/日、約0.5mg/日~約5mg/日、約5mg/日の量を投与して、排便を予防、軽減、改善、緩和及び/又は治療する方法である。
【0030】
本明細書に示されている別の実施態様は、胃排出遅延を有する対象者に対して、ベルセトラグを治療上、約0.5mg/日~約30mg/日、約0.5mg/日~約15mg/日、約0.5mg/日~約5mg/日、約5mg/日の量を投与して、悪心及び/又は嘔吐、及び/又は食後膨満感、及び/又は早期満腹、及び/又は鼓腸、上腹部痛、及び/又は心窩部灼熱感及び/又は排便又はこれらの組み合わせを予防及び/又は軽減及び/又は改善、及び/又は治療する方法である。
【0031】
さらに別の実施態様は、ベルセトラグの投与期間中に1日投与量が5mg以下で逆用量反応(reverse dose response)を得る方法である。
【0032】
一実施態様では、本発明は、治療中にタキフィラキシー又は効果の減少が生じる患者の胃腸の症状を予防、及び/又は軽減、及び/又は改善、及び/又は減少、及び/又は治療する方法に関する。
【0033】
別の実施態様は、ベルセトラグを約0.5~約30mg/日で投与することにより、症状の重症度のレベルにおいて、症状が0.5~1.5ポイントより大きな値で減少変化し、重度から中等度の症状に、中等度から軽度の症状に変化する方法に関する。
【0034】
別の実施態様では、本発明は、ベルセトラグを約0.5~30mg/日の量で、必要な限り、例えば、1週間、4週間、8週間、12週間以上投与し、予防、軽減、改善、緩和及び/又は治療する方法に関する。さらに別の実施態様では、前記方法において、0.5mg/日~15mg/日、より好ましくは0.5mg/日~5mg/日、最も好ましくは約5mg/日の量で投与される。
【0035】
さらなる実施態様は、胃不全麻痺に関連する1つ又は複数の症状を効果的に予防、及び/又は軽減、及び/又は改善、及び/又は治療、及び/又は減少、及び/又は十分に緩和する方法を含む。
【0036】
付加的な実施態様は、悪心、嘔吐、食後膨満感、早期満腹、鼓腸、上腹部痛、心窩部灼熱感及び排便から選択される1つ又は複数の症状の減少を含む胃不全麻痺の症状の十分な緩和も包含する。1つ以上の症状の減少において、ベルセトラグの有効性が胃排出に影響を及ぼさない。また、症状の減少は、症状のベースライン値からの減少によって確認される。一実施態様では、治療の前に症状のベースラインが定められる。
【0037】
ある実施態様では、胃不全麻痺の症状の十分な緩和は、質問をした対象者(患者)からの「はい(‘Yes’)」の回答と収集したアンケートによる(評価される)。
【0038】
一態様によれば、本明細書で提供されるのは、胃不全麻痺症状を有する対象の生活の質(QOL)測定値を改善する方法である。
【0039】
一態様によれば、本明細書では、胃不全麻痺症状を有する対象のQOL測定値を改善する方法であって、ベルセトラグを投与することを含む方法が提供される。
【0040】
別の態様では、本発明は、胃不全麻痺症状を有する対象のQOL測定値を改善する方法であって、ベルセトラグを1日投与量約0.5mg/日~約30mg/日で1週間、2週間、4週間、8週間、12週間、14週間以上の期間、投与することを含む方法を提供する。さらに別の実施態様では、この方法において、約0.5mg/日~約15mg/日、約0.5mg/日~約5mg/日、約5mg/日の量で投与される。
【0041】
一実施態様では、悪心、嘔吐、食後膨満感、早期満腹、鼓腸、上腹部痛、心窩部灼熱感、排便、身体違和感、身体像(body image)、健康上の心配、社会的な反応や関係から選択される症状を含む1つ又は複数のQOL測定値がベルセトラグの投与で改善される。
【0042】
別の実施態様では、胃不全麻痺の治療に使用するための医薬組成物が提供される。さらに別の実施態様では、医薬組成物は、本質的に原薬(ベルセトラグ塩酸塩(velusetrag HCI))、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶セルロース、乳糖一水和物及びステアリン酸マグネシウムからなる固体ブレンドである。
【0043】
さらなる実施態様は、有効量のベルセトラグを含む放出制御医薬組成物(controlled release pharmaceutical composition)に関する。
【0044】
さらに別の実施態様では、本発明は、必要とする男性または女性において、悪心、嘔吐、食後膨満感、早期満腹、鼓腸、上腹部痛、灼熱感、及び排便から選択される症状を減少、予防、軽減、改善、緩和及び/又は治療する方法に関する。
【0045】
別の実施態様では、本発明は、約50歳又は55歳以上の特発性及び糖尿病性の対象者(患者)における胃不全麻痺の関連症状を減少、予防、軽減、改善、緩和及び/又は治療する方法に関する。
【0046】
本発明はまた、ベルセトラグを用いた治療の前に、約1週間から1年間、症状に苦しむ対象において、胃不全麻痺の症状を減少、予防、改善、軽減、緩和及び/又は治療する方法に関する。
【0047】
本発明の別の実施態様では、ヒト患者へのベルセトラグの異なる投与経路を有する医薬組成物も含まれる。投与経路には、とりわけ、経口、非経口、口腔(buccal)、舌下、直腸、腹腔内、または気管内の投与経路が含まれる。例えば、非経口投与は、注入(infusion)、注射(injection)又は移植(implantation)によるものであってもよい。非経口投与には、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、経皮を介した投与又は移植による経皮的な投与も含まれる。ベルセトラグが非経口投与される場合、その形態は液体、固体又はゲルの形態であってもよい。同様に、ベルセトラグが経口投与される場合、その形態は液体、カプセル剤、錠剤、チュアブル錠又は溶解性フィルムの形態であってもよい。
【0048】
一実施態様では、本発明は、本発明によるベルセトラグを含む医薬品の添付文書に、使用及び投薬の説明書を含むキットを提供する。別の実施態様では、添付文書には、患者にベルゼトラグを1週間、2週間、4週間、8週間、12週間以上の期間で投与するよう指示されている。
【0049】
一実施態様では、前記医薬品(product)又はキットには、胃不全麻痺の症状の治療のためにラベル化又は表示(labeled)された約0.5mg~約30mgの量のベルセトラグが含まれる。さらに別の実施態様では、前記医薬品又はキットには、胃不全麻痺の症状の治療のために表示(添付文書情報)又はラベル化(labeled)された約0.5mg~約15mg、約0.5mg~約5mg、又は約5mgの量のベルセトラグが含まれる。
【0050】
別の実施態様では、前記医薬品には、糖尿病性又は特発性の胃不全麻痺患者の胃不全麻痺症状の治療のために表示(添付文書情報)又はラベル化(labeled)された約0.5mg~約30mg、約0.5mg~約15mg、約0.5mg~約5mg、又は約5mgの量のベルセトラグが含まれる。
【0051】
一実施態様では、本発明は、必要としている患者に対しベルセトラグを0.5~30mg/日、0.5mg/日~15mg/日、0.5mg/日~5mg/日、又は約5mg/日の1日投与量で投与することにより、悪心、嘔吐、食後膨満感、早期満腹、鼓腸、上腹部痛、心窩部灼熱感、排便を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法を提供した。
【0052】
さらに別の実施態様では、本発明は、ベルセトラグを0.5~30mg/日、0.5mg/日~15mg/日、0.5mg/日~5mg/日、又は約5mg/日の量での治療の前に、少なくとも1週間、前記症状が発生している患者において、胃不全麻痺の症状を予防、減少、改善、軽減、緩和及び/又は治療する方法を提供する。
【0053】
本発明はまた、約0.5mg~約30mgの1日投与量でベルセトラグを投与する場合、GCSI-24Hの症状領域(症状ドメイン)(symptom domain)の大部分で逆用量反応(reverse dose response)を提供する。別の実施態様では、本発明は、1つ以上の胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和、及び/又は治療する方法を提供し、この方法では、症状領域の大部分で逆用量反応(reverse dose response)が実現される。
【0054】
別の実施態様では、本発明は、1つ以上の胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法に関し、この方法では、約0.5mg~約30mgの1日投与量のベルセトラグ治療の間、GCSI-24H総スコア(GCSI-24H Total Score)において、プラセボと比較して少なくとも0.4又はそれを超える値で症状が減少する。
【0055】
別の実施態様には、1つ以上の胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法が含まれ、この方法では、4週目のGCSI-24H総スコア(Week 4, GCSI-24H Total Score)において、プラセボと比較して少なくとも0.4又はそれを超える値で症状が減少する。4週目のGCSI総スコア(GCSI Total Score)における症状の減少が、プラセボと比較して0.4以上であってもよい。
【0056】
さらに別の実施態様では、本発明は、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法を提供し、この方法では、7日間の平均GCSI-24H複合スコア(the 7 day mean GCSI-24H composite score)において、ベースライン及びプラセボと比較して、症状の減少が4週目にみられる。
【0057】
同様に、本発明はまた、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法を提供し、この方法では、治療の1~3週目と5~12週目にわたって、毎日、7日間の平均複合GCSI-24Hスコア(daily and 7-day mean composite GCSI-24H score)において、ベースラインからの症状の減少がみられる。
【0058】
本発明はまた、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法を提供し、この方法では、治療の1~12週目にわたって、毎日、7日間の平均複合GCSI-24H各成分スコア(daily and 7-day mean composite GCSI-24 H individual component score)において、ベースラインからの症状の減少がみられる。
【0059】
一実施態様では、本発明は、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法を提供し、この方法では、ベルセトラグを約0.5mg/日~約30mg/日、約0.5mg/日~約15mg/日、約0.5mg/日~約5mg/日、又は約5mg/日の1日投与量で用いた場合、より高い有効性を示す糖尿病性の患者に比べ、特発性の患者の方が、毎日、7日間の平均複合GCSI-24Hスコア(daily and 7-day mean composite GCSI-24 H score)でのベースラインからの症状の減少が大きい。また、ベルセトラグの1日投与量が0.5~30mgで、特発性の患者における、毎日、7日間の平均複合GCSI-24Hスコアのベースラインからの変化が、糖尿病性の患者における変化より大きい。
【0060】
別の実施態様では、本発明では、4週間以上でより高い有効性を示す糖尿病性の患者に比べ、特発性の患者の方が、毎日、7日間の平均複合GCSI-24Hスコア(daily and 7-day mean composite GCSI-24 H score)でのベースラインからの症状の減少が大きい。
【0061】
別の実施態様では、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法を提供し、この方法では、糖尿病性の患者において、ベルセトラグを5mg/日で用いた場合、4週目のプラセボGCSI-24H(placebo GCSI-24H)からのベースラインの症状の減少が約0.2である。
【0062】
さらに別の実施態様では、本発明は、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法を提供し、この方法では、糖尿病性の患者において、ベルセトラグを5mg/日で用いた場合、8週目のプラセボGCSI-24Hからのベースラインの症状の減少が約0.1である。
【0063】
一実施態様では、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法が提供され、この方法では、糖尿病性の患者において、ベルセトラグを5mg/日で用いた場合、プラセボGCSI-24Hからのベースラインの減少が治療時間において8週間にわたって持続(維持)する。
【0064】
別の実施態様では、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法が提供され、この方法では、糖尿病性の患者において、べルセトラグを30mg/日で用いた場合、14週目のプラセボGCSI-24Hからのベースラインの減少が約0.1である。
【0065】
別の実施態様は、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法に関し、この方法では、治療時間において、ベルセトラグを約0.5mg~約30mgの1日投与量で用いた場合、特発性の患者におけるGCSI-24Hスコアのベースラインからの変化(減少変化)が約0.4である。
【0066】
一実施態様は、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法に関し、この方法では、特発性の患者において、ベルセトラグを5mgの1日投与量で用いた場合、4週目のGCSI-24Hスコアのベースラインからの症状の減少が約0.6である。
【0067】
別の実施態様では、本発明は、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法に関し、この方法では、特発性の患者において、ベルセトラグを5mgの1日投与量で用いた場合、8週目のGCSI-24Hスコアのベースラインからの症状の減少が約0.6である。
【0068】
一実施態様は、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法に関し、この方法では、特発性の患者において、ベルセトラグを5mgの1日投与量で用いた場合、12週目のGCSI-24Hスコアのベースラインからの症状の減少が約0.6である。
【0069】
別の実施態様は、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法に関し、この方法では、特発性の患者において、ベルセトラグを5mgの1日投与量で用いた場合、GCSI-24Hスコアのベースラインからの症状の減少が、治療時間において持続(維持)する。
【0070】
一実施態様では、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法を提供し、この方法では、特発性の患者において、ベルセトラグを15mgの1日投与量で用いた場合、4週目のGCSI-24Hスコアのベースラインからの症状の減少が約0.3であり、この変化は治療時間において持続(維持)する。
【0071】
一実施態様において、本発明では、ベルセトラグを15mgの1日投与量で用いた場合、糖尿病性の患者と比較して特発性の患者では、8週目で約0.3ポイントのベースラインからの症状の減少がみられる。特発性の患者において、ベルセトラグの1日投与量が15mgで、8週目での、毎日、7日間の平均複合GCSI-24Hスコアのベースラインからの変化が、糖尿病性の患者と比較して0.3ポイントを超えていてもよい。別の実施態様において、本発明では、ベルセトラグを15mgの1日投与量で用いた場合、糖尿病性の患者に比べ、特発性の患者では、12週目で約0.2ポイントのベースラインからの変化がみられる。特発性の患者において、ベルセトラグの1日投与量が15mgで、12週目での、毎日、7日間の平均複合GCSI-24Hスコアのベースラインからの変化が、糖尿病性の患者と比較して0.2ポイントを超えていてもよい。
【0072】
さらに別の実施態様では、本発明では、ベルセトラグを15mgの1日投与量で用いた場合、糖尿病性の患者と比較して特発性の患者では、14週間で約0.1ポイントのベースラインからの症状の減少がみられる。特発性の患者において、ベルセトラグの1日投与量が15mgで、14週目での、毎日、7日間の平均複合GCSI-24Hスコアのベースラインからの変化が、糖尿病性の患者と比較して0.1ポイントを超えていてもよい。また、特発性の患者において、ベルセトラグの1日投与量が5mgで、14週目での、毎日、7日間の平均複合GCSI-24Hスコアのベースラインからの変化が、糖尿病性の患者と比較して0.3ポイントを超えていてもよい。
【0073】
一実施態様は、1~3週目及び5~12週目にわたって、かつ、ベルセトラグ約0.5mg/日~約5mg/日の投与量での全ての治療において、各週(1-12)のGCSI-24H各成分スコア(the GCSI-24 H individual components at each Week (1-12) score)のベースラインから少なくとも1ポイント改善する方法を含む。
【0074】
別の実施形態は、約5mg以下のベルセトラグを投与することにより、4週目のGCSI-24H総スコアにおいて、かつすべての治療時間において、統計的に有意な差、又は減少、又は改善を提供する方法を含む。
【0075】
別の実施態様では、本発明は、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法を提供し、この方法では、1~3週目及び5~12週目にわたる治療で、一部の対象者(患者)において、各週(1-12)のGCSI-24H各成分スコア(the GCSI-24 H individual components at each Week (1-12) score)のベースラインから少なくとも1ポイント改善させる。一実施態様では、本発明は、4週目のGCSI-24H総スコアの統計的に有意な差、又は減少、又は改善を提供する。
【0076】
一実施態様では、本発明は、約5mg以下のベルセトラグの投与により、4週目のGCSI-24H総スコアにおいて、そして全ての治療時間にわたって、統計的に有意な差、減少、及び/又は改善を提供する方法に関する。
【0077】
別の実施態様では、本発明は、5mg以下のベルセトラグの投与により、食後膨満感/早期満腹、鼓腸、上腹部痛、心窩部灼熱感、悪心及び嘔吐の症状に有意な改善を提供する。
【0078】
別の実施態様では、本発明は、治療時間全体にわたって約5mg以下のベルセトラグの投与により、食後膨満感/早期満腹、鼓腸、上腹部痛、心窩部灼熱感、悪心及び嘔吐の症状に有意な改善を提供する。
【0079】
さらに別の実施態様では、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法を提供し、この方法では、1~3週目及び5~12週目以上にわたる治療で、治療期間中の平均複合GRSスコア(mean composite GRS score)のベースラインからの症状の減少を提供する。同様に、本発明は、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法も提供し、この方法では、1~12週目にわたる治療で、治療期間中の毎日の症状の平均複合GRS各成分スコア(daily in the treatment period mean composite GRS individual component scores of the symptoms)のベースラインからの症状の減少を提供する。別の実施態様では、本発明は、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法を提供し、この方法では、糖尿病性又は特発性の患者の1~3週目及び5~12週目にわたる治療及びそれ以上の治療で、一部の対象者(患者)に、各週(1-12)のGRS各成分スコア(the GCSI-24 H individual components at each Week (1-12) score)のベースラインからの少なくとも1ポイントの改善がみられる。
【0080】
一実施態様では、本発明は、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法を提供し、この方法では、4週目のGRS総スコアの統計的に有意な差、又は減少、又は改善を提供する。別の実施態様では、本発明は、糖尿病性及び特発性の患者において、治療時間に伴って、4週目、8週目、12週目以上のGRS総スコアの統計的に有意な差、又は減少、又は改善を提供する。
【0081】
別の実施態様では、本発明は、約0.5mg~約30mg、約0.5mg~約15mg、約0.5mg~約5mg、又は約0.5mgの1日投与量でベルセトラグを投与することにより、4週目のGRS総スコアにおいて、統計的に有意な差、又は減少、又は改善を提供する方法に関する。
【0082】
本発明はまた、5-HT4受容体複合体(5-HT4 receptor complex)を介した直接的なメカニズムを有する化合物の投与により、胃不全麻痺の症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法を提供する。
【0083】
一実施態様では、本発明は、約0.5mg~約5mgの1日投与量でベルセトラグを投与することにより、食後膨満感/早期満腹、鼓腸及び上腹部痛を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法を提供する。
【0084】
別の実施態様では、本発明は、膨満感/早期満腹、鼓腸、上腹部痛及び心窩部灼熱感を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法を提供し、この方法では、プラセボと比較して、0.4ポイントより大きい、統計的に有意なLS平均差(最小二乗平均差(LS mean difference))が得られる。
【0085】
さらに別の実施態様では、本発明は、ベルセトラグを約0.5mg/日~約30mg/日、約0.5mg/日~約15mg/日、約0.5mg/日~約5mg/日、又は約5mg/日の投与量で用いた場合、タキフィラキシーを伴うことなく(with no tachyphylaxis effect)、4週目のGRS総スコアにおいて、胃不全麻痺の関連症状に有意な改善をもたらすことにより、胃不全麻痺の症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法に関する。
【0086】
別の実施形態では、本発明は、胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法に関し、この方法では、ベルセトラグを約5mgの1日投与量で用いた場合、ベースラインGRS(baseline GRS)(因子1:膨満感/早期満腹、鼓腸、上腹部痛、心窩部灼熱感)の症状の減少は、全ての治療時間で0.2より大きい。
【0087】
さらに別の実施態様では、本発明は、特発性患者の胃不全麻痺症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法を提供し、この方法では、ベルセトラグを約5mgの1日投与量で用いた場合、ベースラインGRS(因子1)の症状の減少は、全ての治療時間で0.5より大きい。
【0088】
さらなる実施態様では、ベルセトラグを約0.5mg~約30mgの1日投与量で投与することにより、症状は、重度の症状から中等度/軽度の症状、又は中等度の症状から軽度/無症状へ全体の症状負荷のレベルにおいて、ベースラインから0.1~1.5ポイントより大きく減少する。
【0089】
一実施態様では、本発明は、ベルセトラグを約0.5mg~約30mgの1日投与量でベルセトラグを投与することにより胃の機能を正常化する方法に関する。
【0090】
一実施態様では、本発明は、悪心及び嘔吐を予防、減少、改善、軽減、緩和及び/又は治療する方法を提供し、この方法では、プラセボと比べ、統計的に有意なLS平均差(最小二乗平均差(LS mean difference))が0.2ポイントより大きい。
【0091】
本発明はまた、胃不全麻痺の関連症状を予防、軽減、改善、減少、緩和及び/又は治療する方法に関し、この方法は、胃不全麻痺の残りの症状を悪化させることなく、一部の中心的な症状を治療するために、必要な患者に対して、ベルセトラグを、約0.5mg/日~約30mg/日又はそれ以上の投与量で治療的に投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0092】
本発明の様々な態様を、添付の図面を参照して説明する。
【
図1】
図1は、4週目と12週目の週ごとのGCSI-24
Hのベースラインからの各サブグループの変化をLS平均差で示す。LS平均差は、週ごとのGCSI-24H総スコアのベースラインからの変化とともに、反復測定混合モデル(repeated measures mixed model)に基づいて計算された。前記反復測定混合モデルには、従属変数、治療、胃不全麻痺型(糖尿病性対特発性)、GE試験時期(過去対将来)、ベースラインGCSI総スコア、時間(絶対的な時間)、時間単位での治療の相互作用効果、時間単位でのベースラインGCSI総スコア、胃不全麻痺型別の治療、及び時間単位かつ胃不全麻痺型別の治療などによる固定効果(fixed effect)と、サイト内(within site)でのランダム被験者効果(random effect of subject)とが含まれ、非構造化共分散構造(unstructured covariance structure)が用いられた。
【
図2】
図2は、4週目および12週目での性別によるGCSI-24H総スコアを示す(それぞれ
図2Aおよび2B)。
【
図3】
図3は、4週目および12週目での胃不全麻痺型別のGCSI-24H総スコアを示す(それぞれ
図3Aおよび3B)。
【
図4】
図4は、4週目および12週目での年齢別のGCSI-24H総スコアを示す(それぞれ
図4Aおよび4B)。
【
図5】
図5は、4週目および12週目での胃排出スクリーニング試験(Gastric Emptying Screening Test)の型別のGCSI-24H総スコアを示す(それぞれ
図5Aおよび5B)。
【
図6】
図6は、4週目および12週目でのスクリーニングGESとGEBTの重症度別のGCSI-24H総スコアを示す(それぞれ
図6Aおよび6B)。
【
図7】
図7は、4週目および12週目でのベースライン総スコア別のGCSI-24H総スコアを示す(それぞれ
図7Aおよび7B)。
【
図8A】
図8Aは、4週目での胃不全麻痺型及び性別によるGCSI-24H総スコアを示す。
【
図8B】
図8Bは、12週目での胃不全麻痺型及び性別によるGCSI-24H総スコアを示す。
【
図9】
図9は、4週目および12週目での性別によるGCSI-24Hレスポンダーのオッズ比を示す(それぞれ
図9Aおよび9B)。
【
図10】
図10は、4週目および12週目での胃不全麻痺型別のGCSI-24Hレスポンダーのオッズ比を示す(それぞれ
図10Aおよび10B)。
【
図11】
図11は、4週目および12週目での年齢別のGCSI-24Hレスポンダーのオッズ比を示す(それぞれ
図11Aおよび11B)。
【
図12】
図12は、4週目および12週目での胃排出スクリーニング試験(Gastric Emptying Screening Test)の型(過去及び将来)別のGCSI-24Hレスポンダーのオッズ比を示す(それぞれ
図12Aおよび12B)。
【
図13】
図13は、4週目および12週目での胃排出スクリーニング試験(Gastric Emptying Screening Test)の型別のGCSI-24Hレスポンダーのオッズ比を示す(それぞれ
図13Aおよび13B)。
【
図14】
図14は、4週目および12週目でのスクリーニングGESとGEBTの重症度別のGCSI-24Hレスポンダーのオッズ比を示す(それぞれ
図14Aおよび14B)。
【
図15】
図15は、4週目および12週目でのベースライン総スコア別のGCSI-24Hレスポンダーのオッズ比を示す(それぞれ
図15Aおよび15B)。
【
図16A】
図16Aは、4週目での胃不全麻痺型及び性別によるGCSI-24Hレスポンダーのオッズ比を示す。
【
図16B】
図16Bは、12週目での胃不全麻痺型及び性別によるGCSI-24Hレスポンダーのオッズ比を示す。
【
図17】
図17は、プラセボおよび5mg、15mg、および30mgのベルセトラグについての14週間にわたる週ごとのGRS総スコアのベースラインからの最小二乗(LS)平均の変化を示す。LS平均差は、週ごとのGRS総スコアのベースラインからの変化とともに、反復測定混合効果モデル(repeated measures mixed effect model)に基づいて計算された。前記反復測定混合モデルには、従属変数、治療、胃不全麻痺型(糖尿病性対特発性)、GE試験時期(過去対将来)、ベースラインGRS総スコア、時間(絶対的な時間)、時間単位での治療の相互作用効果、時間単位でのベースラインGRS総スコア、胃不全麻痺型別の治療、及び時間単位かつ胃不全麻痺型別の治療などによる固定効果と、サイト内(within site)でのランダム被験者効果(random effect of subject)とが含まれ、非構造化共分散構造(unstructured covariance structure)が用いられた。5mgのデータ上のアスタリスクは、そのデータセットのポイントが、ベースラインの公称p値(baseline nominal p-value)(0.05未満)からの変化において、プラセボと有意な差があることを示す。
【
図18】
図18は、4週目および12週目での性別によるGRS総スコアを示す(それぞれ
図18Aおよび18B)。
【
図19】
図19は、4週目および12週目での胃不全麻痺型別のGRS総スコアを示す(それぞれ
図19Aおよび19B)。
【
図20】
図20は、4週目および12週目での年齢別のGRS総スコアを示す(それぞれ
図20Aおよび20B)。
【
図21】
図21は、4週目および12週目での胃排出スクリーニング試験(Gastric Emptying Screening Test)の型(過去及び将来)別のGRS総スコアを示す(それぞれ
図21Aおよび21B)。
【
図22】
図22は、4週目および12週目での胃排出スクリーニング試験(Gastric Emptying Screening Test)の型別のGRS総スコアを示す(それぞれ
図22Aおよび22B)。
【
図23】
図23は、4週目および12週目でのスクリーニングGESとGEBTの重症度別のGRS総スコアを示す(それぞれ
図23Aおよび23B)。
【
図24】
図24は、4週目および12週目でのベースライン総スコア別のGRS総スコアを示す(それぞれ
図24Aおよび24B)。
【
図25A】
図25Aは、4週目での糖尿病性、特発性胃不全麻痺型別の、かつ性別によるGRS総スコアを示す。
【
図25B】
図25Bは、12週目での糖尿病性、特発性胃不全麻痺型別の、かつ性別によるGRS総スコアを示す。
【
図26A】
図26Aは、
4週目での個々の症状別のGRSサブスケールスコアを示す。
【
図26B】
図26Bは、
12週目での個々の症状別のGRSサブスケールスコアを示す。
【
図27】
図27は、
4週目および12週目での個々の症状別のGRSサブスケールスコアを示す(それぞれ
図27Aおよび27B)。
【
図28】
図28は、
4週目および12週目での個々の症状別のGRSサブスケールスコアを示す(それぞれ
図28Aおよび28B)。
【
図29】
図29は、1~14週目のGRS悪心スコアのベースラインからのLS平均の変化を示す(ITT対象集団、プラセボおよびベルセトラグ5mg)。
【
図30】
図30は、1~14週目のGRS嘔吐スコアのベースラインからのLS平均の変化を示す(ITT対象集団、プラセボおよびベルセトラグ5mg)。
【
図31】
図31は、1~14週目のGRS膨満感/早期満腹スコアのベースラインからのLS平均の変化を示す(ITT対象集団、プラセボおよびベルセトラグ5mg)。
【
図32】
図32は、1~14週目のGRS鼓腸スコアのベースラインからのLS平均の変化を示す(ITT対象集団、プラセボおよびベルセトラグ5mg)。
【
図33】
図33は、1~14週目のGRS上腹部痛スコアのベースラインからのLS平均の変化を示す(ITT対象集団、プラセボおよびベルセトラグ5mg)。
【
図34】
図34は、1~14週目のGRS胃腸(GI)灼熱感スコアのベースラインからのLS平均の変化を示す(ITT対象集団、プラセボおよびベルセトラグ5mg)。
【
図35】
図35は、1~14週目のGRS排便スコアのベースラインからのLS平均の変化を示す(ITT対象集団、プラセボおよびベルセトラグ5mg)。
【
図36】
図36は、週ごとのサマリスコア1のベースラインからのLS平均の変化を示す(ITT分析セット)。
【
図37】
図37は、週ごとのサマリスコア2のベースラインからのLS平均の変化を示す(ITT分析セット)。
【
図38】
図38は、週ごとのサマリスコア1のベースラインからのLS平均の変化を示す(糖尿病性胃不全麻痺対象集団)。
【
図39】
図39は、週ごとのサマリスコア2のベースラインからのLS平均の変化を示す(糖尿病性胃不全麻痺対象集団)。
【
図40】
図40は、週ごとのサマリスコア1のベースラインからのLS平均の変化を示す(特発性胃不全麻痺対象集団)。
【
図41】
図41は、週ごとのサマリスコア2のベースラインからのLS平均の変化を示す(特発性胃不全麻痺対象集団)。
【
図42】
図42は、12週目のサマリスコア1におけるベースライン及びプラセボからのLS平均の変化を示す(ITT分析セット、ベルセトラグ5mgおよびプラセボ)。
【
図43】
図43は、12週目のサマリスコア2におけるベースライン及びプラセボからのLS平均の変化を示す(ITT分析セット、ベルセトラグ5mgおよびプラセボ)。
【
図44】
図44は、サマリスコア1における週ごとのポジティブ反応(positive weekly response)に対するLSの割合を示す(ITT分析セット)。
【
図45】
図45は、サマリスコア2における週ごとのポジティブ反応(positive weekly response)に対するLSの割合を示す(ITT分析セット)。
【発明を実施するための形態】
【0093】
発明の詳細な説明
ベルセトラグ(VEL)は式Iの化合物であり、式IIで表される結晶性の塩酸塩を形成する。
【0094】
【0095】
ベルセトラグと、その薬学的に許容可能な塩とは、胃不全麻痺、慢性の特発性の便や他の適応症(例えば、米国特許第7,375,114号、米国特許第7,728,004号、米国特許第8,404,711号に見られる適応症などを参照)の治療に役立つ高選択性5-ヒドロキシトリプタミンサブタイプ4(5-HT4)である。
【0096】
本発明は、一つには、約0.5mg~30mg、0.5~15mg、0.5~5mg、又は約5mgの1日投与量でベルセトラグの塩酸塩を用いた、ヒト患者における胃不全麻痺に関連する症状の治療に関する。
【0097】
上記の通り、胃不全麻痺は、機械的(器質的)閉塞のない状態での胃排出遅延を特徴とする胃の多症状疾患である(Parkman, H.P., et al., Gastroenterology, 2004, 127(5), 1592-1622)。根底にある胃遅延は、症状が生じるメカニズムであると考えられているが、機能的な遅延と症状の正確な関係は一貫して実証されていない(Ardila-Hani, et al., Dig. Dis. Sci., 2013, 58(2), 478-487)。
【0098】
胃不全麻痺の症状を評価するために、フェーズ2b(DIGEST I)試験(a Phase2b (DIGEST I) study)が実施された。この試験には、合計233人の胃不全麻痺の患者が登録され、そのうち、約50%が糖尿病性の胃不全麻痺患者で、約50%が特発性の胃不全麻痺患者であった。
【0099】
ベルセトラグの有効性の評価において、特発性の患者の登録により、症状の選択や評価、および症状の減少が可能となった。
【0100】
本明細書に記載の方法での薬学的に有効な量又は治療的に有効な量を、ヒト患者の胃不全麻痺を治療するために使用してもよい。このベルセトラグの1日投与量は、約0.5mg~約15mgであってもよく、0.5mg、1mg、1.2mg、1.4mg、1.6mg、1.8mg、2.0mg、2.2mg、2.4mg、2.6mg、2.8mg、3.0mg、3.2mg、3.4mg、3.6mg、3.8mg、4.0mg、4.2mg、4.4mg、4.6mg、4.8mg、5.0mg、5.2mg、5.4mg、5.6mg、5.8mg、6.0mg、6.2mg、6.4mg、6.6mg、6.8mg、7.0mg、7.2mg、7.4mg、7.6mg、7.8mg、8.0mg、8.2mg、8.4mg、8.6mg、8.8mg、9.0mg、9.2mg、9.4mg、9.6mg、9.8mg、10.0mg、10.2mg、10.4mg、10.6mg、10.8mg、11.0mg、11.2mg、11.4mg、11.6mg、11.8mg、12.0mg、12.2.mg、12.4mg、12.6mg、12.8mg、13.0mg、13.2mg、13.4mg、13.6mg、13.8mg、14.0mg、14.2mg、14.4mg、14.6mg、14.8mgのベルセトラグの1日投与量を含む。あるいは、ベルセトラグの1日投与量は、約1mg~約15mgであってもよく、1.0mg、1.5mg、2.0mg、2.5mg、3.0mg、3.5mg、4.0mg、4.5mg、5.0mg、5.5mg、6.0mg、6.5mg、7.0mg、7.5mg、8.0mg、8.5mg、9.0mg、9.5mg、10.0mg、10.5mg、11.0mg、11.5mg、12.0mg、12.5mg、13.0mg、13.5mg、14.0mg、14.5mgのベルセトラグの1日投与量を含む。好ましい実施態様において、ベルゼトラグは、場合によりその薬学的に許容可能な塩の形態で、5mgの1日投与量で投与される。ベルセトラグを薬学的に許容可能な塩の形態で使用する場合、上記のベルセトラグの量を塩の重量に換算(調整)する。
【0101】
一実施態様において、ベルセトラグの薬学的に許容可能な塩は、ベルセトラグの塩酸塩である。本発明の結晶性の塩酸塩は、典型的には、式Iの化合物の1モル当量あたり約0.8~1.2モル当量の塩酸を含み、式Iの化合物の1モル当量当たり約0.9~1.1モル当量の塩酸を含んでいてもよい。
【0102】
その塩の形態に加えて、ベルゼトラグは結晶形態及び/又は水和物であってもよい。さらに別の実施態様において、ベルセトラグは、米国特許第7,728,004号に記載され、かつ本明細書の実施例に記載されているように結晶形態である。
【0103】
胃不全麻痺は、糖尿病、神経疾患(パーキンソン病、筋緊張性ジストロフィー、片頭痛、自律神経機能不全(autonomic dysfunction)、コラーゲン血管疾患(collagen vascular diseases)(強皮症、又はエーラー・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos Syndrome))、慢性疲労症候群などのさまざまな慢性疾患に続発する可能性がある。胃不全麻痺は、手術(ニッセンの胃底皺襞形成術(フンドプリケーション)(Nissen fundoplication)、ウィップル病(Whipple)、移植)又はウイルス感染に続いても起こりうる。より一般的には、胃不全麻痺の原因は不明または特発性である。糖尿病性の及び特発性の胃不全麻痺は、患者の大部分を占める(Soykan, I., et al., Dig Dis Sci., 1998, 43(11), 2398-2404; Karamanolis, et al., Gut, 2007, 56(1), 29-36)。さらに、特発性の胃不全麻痺と機能性ディスペプシアとはかなり重複しており、機能性ディスペプシアのRome II基準(Rome II criteria)を満たす患者のうちの37%が胃排出遅延を有している(Tack,J., et al., Gastroenterology, 2004, 127(4), 1239-1255)。
【0104】
本発明の一実施態様では、治療方法は、糖尿病性又は特発性の胃不全麻痺に関連する症状に焦点を合わせる。さらに別の実施態様では、糖尿病性胃不全麻痺の患者にベルセトラグを投与しても、高血糖症及び/又はグルコースをほとんど又は全く増加させない。
【0105】
胃不全麻痺の症状は、通常、突発性の悪化(episodic exacerbation)を伴う慢性症状
であり、個人(罹患率(morbidity)と死亡率(mortality))と社会(ヘルスケアの利用(healthcare utilization))の両方に大きな負担をかける可能性がある(Parkman, H.P., et al., Gastroenterology, 2004, 127(5), 1592-1622; Parkman, H.P., et al., Clin. Gastroenterol. Hepatol., 2011, 9(12), 1056-1064; Jung, et al., Gastroenterology, 2009, 136(4), 1225-1233)。胃不全麻痺の登録簿(registry)に登録されている患者の分析において、患者の89%が慢性症状を示し、かつ慢性症状を有する前記患者のうちの75%が経時的な症状の悪化又は断続的な悪化を示した。メトクロプラミドのような、短期的な治療の選択肢が有益である可能性が高い場合において、わずか11%の患者が事実上、症状は周期的であると評価した(Parkman, H.P., et al., Clin. Gastroenterol. Hepatol., 2011, 9(12), 1056-1064)。
【0106】
主要な胃不全麻痺の症状には、悪心、嘔吐、鼓腸、食後膨満感、早期満腹及び上腹部痛が含まれる(Soykan, I., et al., Dig Dis Sci., 1998, 43(11), 2398-2404)。患者は、さまざまな重症度で各症状を組み合わせた症状に直面する可能性がある。悪心は、胃不全麻痺の患者では、ある程度はほぼ普遍的な症状であり、胃不全麻痺の評価をする最も一般的な理由(根拠)である(Parkman, H.P., et al., Clin. Gastroenterol. Hepatol., 2011, 9(12), 1056-1064)。悪心と上腹部痛は、最大90%の患者で報告されている(Soykan,I., et al., Dig Dis Sci., 1998, 43(11), 2398-2404; Cherian, D., et al., Clin. Gastroenterol. Hepatol., 2010, 8(8), 676-681)。これらの患者は、日常的な嘔吐、早期満腹、食後膨満感及び鼓腸もしばしば報告している(Hasler, W., Nat. Rev. Gastroenterol. Hepatol., 2011, 8(8), 438-453)。特に、痛みと鼓腸は、生活の質(QOL)及び雇用を維持し得るか否かの影響の見地から最も限定された(制限のかかる)症状と考えられており、これらの症状の強さは、他の症状の重症度と相関している(Hasler, W., Nat. Rev. Gastroenterol. Hepatol., 2011, 8(8), 438-453; Hasler, W., et al., Am. J. Gastroenerol., 2011, 106(8), 1492-1502)。
【0107】
胃不全麻痺の発生率と罹患率は十分に説明されていない。しかし、米国(U.S.)において、症状の影響を受けている個人の数は、400万人を超えると推定されている(Stein, B., et al., J. Clin. Gastroenterol., 2015, 49(7))。この状態は、主に若い成人(10代の)女性から成人期にかけて影響を及ぼす。シンチグラフィーで確認された典型的な症状や胃排出遅延の発生率は、地域ベースの調査(1996~2006年)では、男性で、2.4/100,000、女性では、9.8/100,000であった(Jung, et al.,
Gastroenterology, 2009, 136(4), 1225-1233)。
【0108】
シンチグラフィーによる胃排出の遅延の重症度と症状との相関には課題があるが、胃不全麻痺協会(the Gastroparesis Consortium)は、早期満腹と食後膨満感が患者の一般的な症状であると報告している。これらの症状の重症度の上昇と、固形食の胃での貯留(gastric retention)の増加及び水負荷テスト(water load test)中の体積の減少とは関連していた。さらに、これらの症状は、悪心/嘔吐、早期満腹/食後膨満感、鼓腸、上腹部痛及び胃食道逆流疾患(GERD)のサブスコア(sub scores)を含む他の胃不全麻痺症状とも関連していた。また、早期満腹及び食後膨満感の重症度の上昇は、上部消化管症状の患者報告による重症度指標(Patient Assessment of Upper Gastrointestinal Symptom Severity Index(PAGI))-QOL及びショートフォーム(short form(SF))-36身体健康調査(physical health survey)による胃不全麻痺の重症度の上昇、ボディマス指数(body-mass-index(BMI))の減少、及び生活の質(quality of life(QOL))の低下とも関連していた(Parkman, H.P., et al., Neurogastroenterol. Motil., 2017,29(4))。
【0109】
全体的なQOLと雇用の安定性に対して、胃不全麻痺は大きく影響する。腹痛、鼓腸及び悪心は、胃不全麻痺の最も限定された(制限のかかる)症状と考えられている。重要なことに、これらの症状の強さは、最終的に、健康関連QOL(health-related QOL)を著しく損なう可能性がある他の症状の重症度と相関していることが多い(Hasler, W., Nat. Rev. Gastroenterol. Hepatol., 2011, 8(8), 438-453; Hasler, W., et al., Am. J. Gastroenerol., 2011, 106(8), 1492-1502; Jaffe, J. K., et al., J. Clin Gastroenterol., 2011, 45(4), 317-321)。これらの症状がQOLに重大な影響を与えるだけでなく、臨床的な結果が深刻になる可能性がある。例えば、患者が長引く悪心と嘔吐を患うと、臨床医にとっては、十分な栄養供給、水分補給、及び治療手段が、実質的な課題となり得る(Parrish, C. R., Gastroenterol. Clin. North Am., 2015, 44(1), 83-95)。さらに、糖尿病性の胃不全麻痺の患者では、胃排出が予測不能であったり、経口投与される血糖降下薬(hypoglycemic)及び消化管運動改善薬(prokinetic drug)の吸収が変動するために、血中グルコースをコントロールするのがますます難しくなる可能性がある(Alam, U., et al., Diabetes Ther., 2010, 1(1), 32-43; O’Donovan, D., et al., Curr. Treat. Options Gastroenterol., 2003, 6(4), 299-309)。重度の症状は、栄養失調、脱水症状、代謝異常、食道炎、及びレッチング(むかつき)(retching)や嘔吐に起因し得るマロリー・ワイス裂傷(Mallory-Weiss tears)などの合併症を引き起こす可能性がある(O’Donovan, D., et al., Curr. Treat. Options Gastroenterol., 2003, 6(4), 299-309; Parrish, C. R., Gastroenterol. Clin. North Am., 2015, 44(1), 83-95; Parkman, H. P., and Schwartz, S. S., Arch. Intern. Med., 1987, 147(8), 1477-1480; Younes, Z., and Johnson, D. A., J. Clin. Gastroenterol., 1999, 29(4), 306-317)。入院加療(hospitalization)や病的状態(morbidity)など、胃不全麻痺の健康への影響について他にも多くの例がある。
【0110】
DIGEST Iの終了及び分析に先立って、データにより、ベルセトラグの5mgから15mgまで、また、30mgまでの投与量において、症状スコアの投与量依存的な改善が裏付けられた。このことは、初期のフェーズ2a(初期第2a相)試験(early Phase 2a study)で見られる客観的な胃排出と一致していた。したがって、本発明の重要な目的は、4週間の投薬後の胃不全麻痺主症状指標(Gastroparesis Cardinal Symptom Index(GCSI))、4週間及び12週間での胃不全麻痺評価尺度(Gastroparesis Rating Score(GRS))、上部消化管症状の患者報告による重症度指標(Patient Assessment of Upper Gastrointestinal Symptom Severity Index(PAGI-SYM))及び改善された胃排出時間の客観的な測定値により評価された患者報告の症状スコアにより示されるような、投与量依存的な症状の緩和の証拠を提供することであった。薬が使用される状況(clinical setting)で評価される症状には、悪心、鼓腸、食後膨満感、早期満腹、嘔吐、上腹部痛、心窩部灼熱感、灼熱感を伴うか又は伴わない胃逆流及び排便が含まれるが、これらに限定されない。患者は、プラセボ、ベルセトラグ5mg、ベルセトラグ15mg及びベルセトラグ30mgそれぞれの場合において、1日1回投与での14週間にわたる結果を報告した。また、毎週のGRS総スコア(GRS total score)のベースラインからの変化を14週にわたって評価した。なお、14週のうち最後の2週間については、患者が治療から離れていた間のスコアを反映している。
【0111】
驚くべきことに、糖尿病性の又は特発性の成人患者の胃不全麻痺を治療するためにベルセトラグを用いる場合、患者から報告される症状の緩和と、胃腸運動(機能)の向上(増加)とは相関しないということが現在わかっている。
【0112】
胃不全麻痺患者の管理目標には、栄養状態の改善、症状の減少、胃排出の改善、及び糖尿病患者の血糖コントロールを果たすことが含まれる(Camilleri, M., et al., Am. J. Gastroenterol., 2013, 108(1), 18-37)。食生活を変えたり、他の非薬理的な選択肢に対しても効き目を示さない胃不全麻痺患者のための、ある程度安全で有効な薬理療法がある。したがって、現在の取組みと治療法では、管理目標が未だ対処されていないことが多く、胃不全麻痺の患者を治療するために、好ましいリスクとベネフィットの特性(リスクベネフィットプロファイル)(risk-benefit profile)を有する薬剤の開発が医学的に緊急に必要とされている(FDA Draft Guidance, July 2015)。
【0113】
本発明では、胃不全麻痺の患者において、症状に対するベルセトラグの有効性の評価を提示する。これらの症状には、悪心、鼓腸、食後膨満感、早期満腹、嘔吐、腹痛、心窩部灼熱感、灼熱感を伴うか又は伴わない胃逆流及び排便が含まれ、胃排出のレベルの違いで評価される。患者が報告した結果については、以下で説明するように、GCSI-24H及びGRSの心理測定的な特性(psychometric properties)で評価した。
【0114】
使用する用語と規定の定義(DEFINITION OF TERMS AND CONVENTIONS USED)
本明細書及び付随する特許請求の範囲において、特に明示しない限り、以下の用語は以下の意味で定義される。
【0115】
単数形「a」、「an」、及び「the」には、使用する文脈で明確に指示されていない限り、対応する複数形が含まれる。
【0116】
投与量に関連して使用される場合の「約(about)」又は「およそ(approximately)」という用語は、概して、標準偏差(standard deviation)の約2倍又は95%の信頼区間(confidence interval)の半値幅である許容誤差(margin of error)によって定義される。本開示の他の分野において、「およその(approximate)」という用語を、ある一組のデータ値の標準偏差又は変動量又は分散量(amount of variation or dispersion)を示すために使用してもよい。本明細書において、特に明記しない限り、量を表す全ての数値を、あらゆる場合で「約(about)」という用語で修飾すると解される。投与量に関連して使用される場合の「約(about)」又は「およそ(approximately)」という用語は、典型的には±0.5mg、好ましくは±0.2mgである。各数値は、報告された有効数字を考慮して、かつ通常の丸め手法(rounding technique)を適用して解釈されるべきである。
【0117】
「すべての症状(all symptoms)」という用語には、悪心、鼓腸、食後膨満感、早期満腹、嘔吐、腹痛、心窩部灼熱感、灼熱感を伴うか又は伴わない胃逆流及び排便が含まれる。「すべての症状(all symptoms)」という用語は、上記の全ての症状のうち、少なくとも3つの症状、好ましくは全ての症状のうちの5つの症状、最も好ましくは全ての症状のうちの9つの症状と定義される。
【0118】
「comprising」、「including」及び「having」という用語は、包括的であることを意図しており、記載されている要素以外にも追加の要素があってもよいことを意味する。
【0119】
胃不全麻痺主症状指標(Gastroparesis Cardinal Symptom Index(GCSI))は、各症状ドメイン(symptom domain)の重症度を評価するための最大9つの質問をして、3つの症状を評価する患者の報告結果である。3つの症状とは、(1)単一症状としての悪心/嘔吐、(2)1つの症状としての食後膨満感/早期満腹、及び(3)鼓腸である。
【0120】
胃不全麻痺評価尺度(Gastroparesis Rating Score(GRS))は、症状の重症度、症状の日々の頻度、1日基準で症状が生じる時間の長さ、かつ症状が24時間を超えて続くかどうかを評価するための最大27の質問をして、9つの症状を評価する患者の報告結果である。9つの症状とは、(1)悪心、(2)鼓腸、(3)食後膨満感、(4)早期満腹、(5)嘔吐、(6)腹痛、(7)心窩部灼熱感、(8)灼熱感を伴うか又は伴わない胃逆流、及び(9)排便である。
【0121】
「ヒト患者(human patient)」という用語には、小児、青年、成人の患者が含まれる。
【0122】
上部消化管症状の患者報告による重症度指標(Patient Assessment of Upper Gastrointestinal Symptom Severity Index(PAGI-SYM))は、2週間の治療(試験)を終える(行う)患者(リコール患者)(recall patient)が報告する胃不全麻痺、機能性ディスペプシア、胃食道逆流症(gastro-esophageal reflux disease)の評価基準であり、20の症状の重症度の項目で評価され、以下の症状、(1)悪心、(2)嘔吐、(3)食後膨満感、(4)早期満腹、(5)鼓腸、(6)上腹部痛、(7)下腹部痛、(8)胸やけ、及び(9)反すう(regurgitation)を網羅する。
【0123】
胃排出及び胃排出遅延は、使用した試験に基づいて以下の基準で定義される。例えば、試験食後、胃内容物の半分が空になる推定時間である胃排出の半減期(gastric emptyinghalf time)(GE t1/2)が、4時間のオクタン酸呼気試験(octanoic breathe test)で、180分を超えること、胃排出シンチグラフィーのための試験食後4時間で胃の固形食の滞留の割合が10%を超えること、及び試験食の摂取後、1分あたりの13CO2の排出率が以下の閾値を下回ることで定義される。前記閾値は、スピルリナ呼気試験(spirulina breath test)において、45分では12.9、90分では26.9、120分では34.4、150分では39.5、180分では43、240分では35である。
【0124】
「薬学的に許容可能な(pharmaceutically acceptable)」という用語は、本発明で使用される場合、生物学的にも他の点においても許容可能な物質を指す。例えば、「薬学的に許容可能な担体(pharmaceutically acceptable carrier)」という用語は、許容できない生物学的な効果を引き起こすことなく、又は、組成物の他の成分と許容できない方法(unacceptable manner)で相互作用することなく、組成物に組み込まれ、患者に投与できる物質を指す。そのような薬学的に許容可能な物質は、通常、毒性学的試験及び製造試験の必要な基準を満たしており、米国食品医薬品局(the U.S. Food and Drug administration)によって適切な不活性成分として同定された物質が含まれる。
【0125】
「薬学的に許容可能な塩(pharmaceutically acceptable salt)」という用語は、哺乳類などの患者への投与に許容できる塩基又は酸から調製される塩(例えば、所定の投与計画において、哺乳類に対して許容できる安全性を有する塩)を意味する。薬学的に許容可能な塩は、薬学的に許容可能な無機塩基又は有機塩基、及び薬学的に許容可能な無機酸又は有機酸由来の塩である。さらに、アミン、ピリジン又はイミダゾールなどの塩基性部分(基)と、カルボン酸又はテトラゾールなどの酸性部分(基)とを両方含む化合物では、両性イオンが形成され、本明細書で使用される「塩」という用語に含まれる。薬学的に許容可能な無機塩基に由来する塩には、アンモニウム塩、カルシウム塩、銅塩、第二鉄塩、第一鉄塩、リチウム塩、マグネシウム塩、マンガン塩(manganic)、亜マンガン塩(manganous)、カリウム塩、ナトリウム塩、及び亜鉛塩などが含まれる。薬学的に許容可能な有機塩基に由来する塩には、置換アミン、環状アミン、天然アミンなどを含む、一級、二級及び三級アミンの塩が含まれる。このようなアミンには、アルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N、N’-ジベンジルエチレンジアミン、ジエチルアミン、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N-エチルモルホリン、N-エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リジン、メチルグルカミン、モルホリン、ピペラジン(piperazine)、ピペラジン(piperadine)、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、 トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トロメタミンなどが含まれる。薬学的に許容可能な無機酸に由来する塩には、ホウ酸、炭酸、ハロゲン化水素(臭化水素、塩酸、フッ化水素又はヨウ化水素)、硝酸、リン酸、スルファミン酸及び硫酸の塩が含まれる。薬学的に許容可能な有機酸に由来する塩には、脂肪族ヒドロキシ酸(クエン酸、グルコン酸、グリコール酸、乳酸、ラクトビオン酸、リンゴ酸、酒石酸など)、脂肪族モノカルボン酸(酢酸、酪酸、ギ酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸など)、アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸など)、芳香族カルボン酸(安息香酸、p-クロロ安息香酸、ジフェニル酢酸、ゲンチジン酸、馬尿酸、トリフェニル酢酸など)、芳香族ヒドロキシ酸(o-ヒドロキシ安息香酸、 p-ヒドロキシ安息香酸、1-ヒドロキシナフタレン-2-カルボン酸、3-ヒドロキシナフタレン-2-カルボン酸など)、アスコルビン酸、ジカルボン酸(フマル酸、マレイン酸、シュウ酸、コハク酸など)、グルコロン酸、マンデル酸、ムチン酸、ニコチン酸、オロチン酸、パモ酸、パントテン酸、スルホン酸(例えば、ベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、エジシル酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸、メタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2,6-ジスルホン酸、p-トルエンスルホン酸)、キシナホ酸などの塩が含まれる。
【0126】
「治療法(treating)」又は「治療(treatment)」という用語には、胃不全麻痺に関連する症状を予防、軽減、改善、緩和することが含まれる。
【0127】
「単位剤形(unit dosage form)」という用語は、患者に投与するのに適した物理的に個々の単位(discrete unit)を指す。すなわち、単独で又は1つ以上のさらなる単位との組合せのいずれかで、所望の治療効果をもたらすように算出された所定量の活性成分(有効成分)(active agent)を含む各単位を指す。
【0128】
医薬組成物及び製剤
本発明はまた、胃不全麻痺の治療に使用する医薬組成物に関する。本発明の結晶性塩酸塩は、通常、医薬組成物の形態で患者に投与される。このような医薬組成物は、許容可能な投与経路であれば、どのような経路であっても、患者に投与することができる。前記許容可能な投与経路としては、経口投与、直腸投与、膣内投与、鼻腔投与、吸入、局所投与(経皮投与を含む)及び非経口投与様式が含まれるが、投与経路はこれらに限定されない。
【0129】
したがって、その組成物の1つの態様として、本発明は、薬学的に許容可能な担体又は賦形剤と、治療上有効な量の式Iの化合物の結晶性塩酸塩とを含む医薬組成物に関する。任意で、このような医薬組成物は、必要に応じて他の治療薬及び/又は製剤化剤(formulating agent)を含んでもよい。
【0130】
本発明の医薬組成物は、通常、治療上有効な量の本発明の結晶性の塩を含む。通常、このような医薬組成物は、約0.1~約95重量%の活性成分を含み、約1~約70重量%、例えば、約5~約60重量%の活性成分を含んでいてもよい。
【0131】
本発明の医薬組成物では、任意の従来の担体又は賦形剤を使用することができる。特定の担体又は賦形剤であるか、担体又は賦形剤の組み合わせであるかの選択は、特定の患者を治療するために使われる投与様式、又は医学的状態(medical condition)の型、又は病状(disease state)に依存する。これに関し、特定の投与様式に適した医薬組成物の調製は、十分に製薬分野の当業者の範囲内である。さらに、このような組成物の成分は、例えば、Sigma,P.O.Box 14508,St.Louis,MO 63178から市販されている。さらなる例示として、従来の製剤技術は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition, Lippincott Williams & White, Baltimore, Maryland (2000)及びH.C. Ansel et al., Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems, 7th Edition, Lippincott Williams & White, Baltimore, Maryland (1999)に記載されている。
【0132】
薬学的に許容可能な担体として機能し得る物質の代表例には、(1)糖(例えば、ラクトース、グルコース、スクロースなど)、(2)スターチ(デンプン)(例えば、コーンスターチ、ポテトスターチなど)、(3)微結晶セルロースなどのセルロース;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、酢酸セルロースなどのセルロース誘導体など、(4)トラガカント粉末、(5)麦芽、(6)ゼラチン、(7)タルク、(8)賦形剤(例えば、ココアバター、座薬ワックス(suppository wax)など)、(9)油(例えば、ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、大豆油など)、(10)グリコール(例えば、プロピレングリコールなど)、(11)ポリオール(例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコールなど)、(12)エステル(例えば、オレイン酸エチル、ラウリン酸エチルなど)、(13)寒天、(14)緩衝化剤(例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなど)、(15)アルギン酸、(16)発熱物質を含まない水(pyrogen-free water)、(17)等張生理食塩水(isotonic saline)、(18)リンガー溶液(Ringer's solution)、(19)エチルアルコール、(20)リン酸緩衝液、(21)医薬組成物に使用される他の非毒性適合物質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0133】
本発明の医薬組成物は、通常、本発明の化合物と、薬学的に許容可能な担体及び1つ以上の任意の成分とを完全にかつ密接に(intimately)混合又はブレンドすることにより調製される。さらに、必要に応じて、均一にブレンドして得られた混合物を、従来の手順や装置を使用して、錠剤、カプセル剤、丸剤(pill)などに成形又は充填してもよい。
【0134】
本発明の医薬組成物は、好ましくは単位剤形で包装される。例えば、そのような単位剤形は、カプセル剤、錠剤、丸剤などであってもよい。
【0135】
好ましい実施態様において、本発明の医薬組成物は経口投与に適している。経口投与に適した医薬組成物は、カプセル剤、錠剤、丸剤、トローチ剤、オブラート(の薬包)(cachet)、小袋(sachet)、スティックパック(stick-pack)、糖衣錠、散剤(powders)、顆粒剤の形態であってもよく、水性液体又は非水性液体の溶液又は懸濁液の形態で、又は、水中油あるいは油中水型の液体エマルジョンの形態で、又は、エリキシル剤、シロップ剤の形態などであってもよく、各形態において、本発明の化合物が活性成分(有効成分)として所定量含まれる。
【0136】
固体剤形(solid dosage form)(すなわち、カプセル剤、錠剤、丸剤など)で経口投与をする場合、本発明の医薬組成物は、通常、活性成分(有効成分)としての、本発明の化合物と、1つ以上の薬学的に許容可能な担体(例えば、クエン酸ナトリウム、リン酸二カルシウムなど)とを含む。任意に、又は代わりに、このような固体剤形はまた、(1)充填剤又は増量剤(例えば、スターチ(澱粉)、微結晶性セルロース、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール及び/又はケイ酸など)、(2)結合剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース及び/又はアカシアなど)、(3)保水剤(例えばグリセロールなど)、(4)崩壊剤(disintegrating agent)(例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカ澱粉、アルギン酸、特定のケイ酸塩、及び/又は炭酸ナトリウムなど)、(5)溶解遅延剤(solution retarding agent)(例えば、パラフィンなど)、(6)吸収促進剤(例えば、四級アンモニウム化合物など)、(7)湿潤剤(例えば、セチルアルコール及び/又はグリセロールモノステアレートなど)、(8)吸収剤(例えば、カオリン及び/又はベントナイト粘土など)、(9)潤滑剤(例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、及び/又はこれらの混合物など)、(10)着色剤、(11)緩衝剤を含んでいてもよい。
【0137】
剥離剤、湿潤剤、コーティング剤、甘味料、香味料(flavoring)や香料(perfuming)、防腐剤及び抗酸化剤もまた、本発明の医薬組成物中に含まれていてもよい。薬学的に許容可能な抗酸化剤の例としては、(1)水溶性抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、システイン塩酸塩、重硫酸ナトリウム(硫酸水素ナトリウム)、メタ重亜硫酸ナトリウム(二亜硫酸ナトリウム)、亜硫酸ナトリウムなど)、(2)油溶性抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸パルミテート、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル(propyl gallate)、α-トコフェロールなど)、(3)金属キレート剤(例えば、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸など)が挙げられる。錠剤、カプセル剤、丸剤などのために使用されるコーティング剤は、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ポリ酢酸ビニルフタレート(PVAP)、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メタクリル酸-メタクリル酸エステル共重合体、トリメリト酸酢酸セルロース(CAT)、カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)などの腸溶コーティングに使用されるコーティング剤であってもよい。
【0138】
必要に応じて、本発明の医薬組成物は、一例として、様々な割合のヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス(polymer matrices)、リポソーム(liposome)、及び/又はミクロスフェア(microsphere)を用いて、活性成分をゆっくり供給するために製剤化したり、活性成分の遊離をコントロールしてもよい。
【0139】
加えて、本発明の医薬組成物は、任意に乳白剤(opacifying agent)を含んでいてもよく、消化管の特定の部分で、任意に、遅効性の様式で活性成分だけを、又は優先的に活性成分を遊離するように製剤化してもよい。使用できる包埋組成物の例としては、ポリマー物質(polymeric substance)及びワックスが挙げられる。活性成分は、適切な場合、上記の賦形剤を1つ以上含むマイクロカプセル化形態(micro-encapsulated form)であってもよい。
【0140】
経口投与に適した液体剤形には、一例として、薬学的に許容可能なエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ剤及びエリキシル剤が含まれる。そのような液体剤形は、通常、活性成分及び不活性希釈剤(inert diluent)(例えば、水又は他の溶媒など)、可溶化剤及び乳化剤(例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油(特に、綿実油、ピーナッツ油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、ゴマ油など)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール、ソルビタンの脂肪酸エステル、及びこれらの混合物など)を含む。懸濁液は、活性成分に加えて、例えば、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、微結晶セルロース、メタ水酸化アルミニウム(aluminum metahydroxide)、ベントナイト、寒天およびトラガカント、及びこれらの混合物などの懸濁剤を含んでいてもよい。
【0141】
あるいは、本発明の医薬組成物は、吸入投与のために製剤化されてもよい。吸入投与に適した医薬組成物は、通常、エアロゾル又は粉末の形態である。そのような組成物は、一般に、定量吸入器、乾燥粉末吸入器、ネブライザー又は類似の供給装置(delivery device)などの周知の供給装置(delivery device)を使用して投与される。
【0142】
加圧容器(pressurized container)を用いて吸入投与される場合、本発明の医薬組成物には、通常、活性成分と、適切な噴霧材(propellant)(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素又は他の適したガスなど)とが含まれる。
【0143】
さらに、医薬組成物は、本発明の化合物と粉末吸入器での使用に適した粉末(散剤)とを含むカプセル剤又はカートリッジ(例えば、ゼラチン製)の形態であってもよい。適切な粉末基剤(powder base)には、一例として、ラクトース又はデンプンが含まれる。
【0144】
本発明の化合物は、既知の経皮供給システム(transdermal delivery system)や賦形剤を使用して経皮投与することもできる。例えば、本発明の化合物は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノラウレート、アザシクロアルカン-2-オンなどの透過促進剤(permeation enhancer)と混合し、パッチ(patch)又は同様の供給システムに組込むことができる。ゲル化剤(gelling agent)、乳化剤(emulsifier)、及び緩衝液を含む追加の賦形剤を、必要に応じてそのような経皮組成物(transdermal composition)に使用してもよい。
【0145】
以下の製剤は、本発明の代表的な医薬組成物を例示している。
【0146】
製剤例A
経口投与用のゼラチン硬カプセル(hard gelatin capsule)を次のように調製する。
【0147】
【0148】
代表的な手順:成分を完全にブレンドし、ゼラチン硬カプセル(hard gelatin capsule)に充填する(1カプセルあたり組成物260mg)。
【0149】
製剤例B
経口投与用のゼラチン硬カプセル(hard gelatin capsule)を次のように調製する。
【0150】
【0151】
代表的な手順:成分を完全に混合し、ふるい(No.45メッシュU.S.シーブ(No. 45 mesh U.S. sieve ))に通し、ゼラチン硬カプセル(hard gelatin capsule)に充填する(1カプセルあたり組成物200mg)。
【0152】
製剤例C
経口投与用のカプセル剤を次のように調製する。
【0153】
【0154】
代表的な手順:成分を完全にブレンドし、ゼラチンカプセルに充填する(1カプセルあたり組成物310mg)。
【0155】
製剤例D
経口投与用の錠剤を次のように調製する。
【0156】
【0157】
代表的な手順:活性成分(有効成分)、デンプン及びセルロースをふるい(No.45メッシュU.S.シーブ(No. 45 mesh U.S. sieve ))に通し、完全に混する。ポリビニルピロリドンの溶液と、得られた粉末とを混合し、次にこの混合物をふるい(No.14メッシュU.S.シーブ(No. 14 mesh U.S. sieve ))に通す。このようにして生成した顆粒を、50-60℃で乾燥し、ふるい(No.18メッシュU.S.シーブ(No. 18 mesh U.S. sieve ))に通す。次いで、カルボキシメチルスターチナトリウム、ス
テアリン酸マグネシウム及びタルク(前もって、ふるい(No.60メッシュU.S.シーブ(No. 60 mesh U.S. sieve ))に通したもの)を顆粒に加える。混合後、混合物を錠剤機(tablet machine)で圧縮して、100mgの重量の錠剤を得る。
【0158】
製剤例E
経口投与用の錠剤を次のように調製する。
【0159】
【0160】
代表的な手順:成分を完全にブレンドして圧縮することにより、錠剤の形態に成形する(1錠剤あたり組成物440mg)。
【0161】
製剤例F
経口投与用の一本割線入り錠剤(シングルスコア錠剤)(single-scored tablet)を次のように調製する。
【0162】
【0163】
代表的な手順:成分を完全にブレンドして圧縮することにより、一本割線入り錠剤(シングルスコア錠剤)の形態に成形する(1錠剤あたり組成物215mg)。
【0164】
製剤例G
経口投与用の懸濁液を次のように調製する。
【0165】
【0166】
代表的な手順:成分を混合し、懸濁液10mLあたり10mgの活性成分を含む懸濁液を作製する。
【0167】
製剤例H
吸入投与用の乾燥粉末を次のように調製する。
【0168】
【0169】
代表的な手順:活性成分(有効成分)を微粉化し、ラクトースとブレンドする。その後、このブレンドした混合物を、ゼラチン製吸入カートリッジに充填する。カートリッジの内容物を粉末吸入器で投与する。
【0170】
製剤例I
定量吸入器での吸入投与用の乾燥粉末を次のように調製する。
【0171】
代表的な手順:0.2gのレシチンを200mLの脱塩水に溶解した溶液に、平均サイズが10μm未満の微粒子化粒子として10gの活性化合物(active compound)を分散させることで、5重量%の本発明の塩と、0.1重量%のレシチンとを含む懸濁液を調製する。懸濁液を噴霧乾燥し、得られた材料(物質)を平均直径が1.5μm未満の粒子に微粒子化(微粉化)する。得られた粒子を、加圧した1,1,1,2-テトラフルオロエタンとともにカートリッジに充填する。
【0172】
製剤例J
注射製剤を次のように調製する。
【0173】
【0174】
代表的な手順:上記成分をブレンドし、0.5NのHCl又は0.5NのNaOHを用いてpHを4±0.5に調整する。
【0175】
製剤例K
経口投与用のカプセル剤を次のように調製する。
【0176】
【0177】
代表的な手順:成分を完全にブレンドし、ゼラチンカプセル(サイズ#1、白、不透明)に充填する(1カプセルあたり組成物264mg)。
【0178】
製剤例L
経口投与用のカプセル剤を次のように調製する。
【0179】
【0180】
代表的な手順:成分を完全にブレンドし、ゼラチンカプセル(サイズ#1、白、不透明)に充填する(1カプセルあたり組成物148mg)。
【0181】
投与経路
本発明はまた、ヒト患者へのベルセトラグの許容可能な投与経路にも関し、その投与経路には、経口、非経口、口腔(buccal)、舌下、直腸、腹腔内、又は気管内の投与経路が含まれるが、これらに限定されない。例えば、非経口投与は、注入(infusion)、注射(injection)、又は移植(implantation)によるものであってもよい。非経口的な投与には、皮下経路、筋肉内経路、静脈内経路、経皮を介した経路、又は移植による経皮的な投与も含まれる。ベルセトラグが非経口投与される場合、ベルセトラグは液体、固体又はゲルの形態であってもよい。 同様に、ベルセトラグが経口投与される場合、ベルセトラグ
は液体、カプセル剤、錠剤、チュアブル錠又は溶解性フィルムの形態であってもよい。
【0182】
以下の実施例は、本明細書に記載の本発明の範囲を限定することなく、目的を説明するものである。
【実施例】
【0183】
実施例及び実験
1.0 臨床試験材料
1.1 結晶性ベルセトラグ塩酸塩の調製
ベルセトラグの調製については、米国特許第7,375,114B2号に記載され、ベルセトラグ塩酸塩については、米国特許第7,728,004B2号に記載されている。
【0184】
1Lフラスコで、1-イソプロピル-2-オキソ-1,2-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸{(1S,3R,5R)-8-[(R)-2-ヒドロキシ-3-(メタンスルホニル-メチル-アミノ)プロピル]-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタ-3-イル}アミド(34.7g、0.069モル)を無水エタノール(210mL)に懸濁した。濃HCl(1.1当量)を室温で撹拌しながら加えた。混合物を還流で30分間撹拌し、室温に冷却し、2時間撹拌した。固体をろ過し、湿ったケーク(濾滓)を冷無水エタノール(3×50mL)で洗浄した。固体を真空下、30℃で48時間乾燥させて、表題の化合物(34.5g、収率93.7%、カールフィッシャー法による水分含有量0.13%)を得た。
【0185】
1.2 結晶性ベルゼトラグ塩酸塩水和物の調製
ベルセトラグ塩酸塩の水和物の調製については、米国特許第7,728,004B2号にも記載されている。1-イソプロピル-2-オキソ-1,2-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸{(1S,3R,5R)-8-[(R)-2-ヒドロキシ-3-(メタンスルホニル-メチル-アミノ)プロピル]-8-アザビシクロ[3.2.1]オクタ-3-イル}アミド塩酸塩(139mg、0.28ミリモル)を注射用滅菌水(2mL)に溶解した。数時間かけて、溶液は濁った懸濁液になった。懸濁液を撹拌し、周囲温度で一晩静置すると、白色沈殿物が生じた。固体を濾過により収集し、周囲条件(約40~50%の相対湿度)で2分間乾燥させ、表題の化合物(130mg、収率91%)を得た。
【0186】
1.3 臨床研究用製剤の調製
臨床環境(clinical setting)で試験された医薬組成物は、本質的に、原薬(ベルセトラグ塩酸塩(velusetrag HCI))、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶セルロース、乳糖一水和物及びステアリン酸マグネシウムからなる固体ブレンドであった。それぞれ5mg、15mg又は30mgのベルセトラグを含む3つの配合製剤(blended formulation)を、ノバストラボ(Novast Lab)で製造した。配合製剤の組成(成分)を以下の表1に示す。
【0187】
【0188】
2.0 臨床研究
2.1 フェーズ2a(第2a相)試験と試験結果
第2a相試験は、多施設、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、不完備型3期固定シーケンスクロスオーバー(incomplete 3 period fixed sequence crossover)の第2相試験として実施され、糖尿病性の胃不全麻痺患者(n=18)又は特発性の胃不全麻痺患者(n=16)において、胃排出に対するベルセトラグの効果を評価した(4時間を超える[13C]-オクタン酸呼気試験([13C]-octanoate breath testing)によって評価した)。ベルセトラグの投与量が異なる3パターン(5mg[n=26]、15mg[n=25]又は30mg[n=25])において、それぞれの量のベルセトラグを1週間の治療期間に1日1回投与し、治療期間の間に1週間のウォッシュアウト(休薬)期間を設けた。無作為抽出された被験者(又は患者、対象者)に、治験登録の前に少なくとも3ヶ月の間、胃不全麻痺の症状を記録(文書化)させた。この研究において、スクリーニング時の胃排出遅延の記録(文書化)が、重要な選択(算入)基準(inclusion criterion)であった。遅延は、オクタン酸呼気試験の胃排出の半減期(gastric emptying half time)(GE t1/2)において、GE t1/2>180分と定義される。180分とは、健康な被験者の95%信頼区間の上限である。胃排出の半減期は、胃内容物の半分が空になったとみなされるときに、胃排出曲線(gastric emptying curve)から推定される時間として定義される。
【0189】
特発性及び糖尿病性の胃不全麻痺の両方の被験者(患者)を含む治療企図解析(ITT)対象集団(intent-to-treat (ITT) population)において、7日目のGE t1/2が、ベースラインから臨床的に関連して少なくとも20%減少した被験者(患者)の割合は、すべてのベルセトラグ治療グループでプラセボと比較して数値的に大きく、ベルセトラグを30mg用いて治療した患者では、統計的有意性(P=0.002)がみられた(前記割合が、プラセボの対象者では5%であるのに対し、ベルセトラグ30mgの対象者では52%であった)。ベルセトラグ5mg、15mgを用いた場合では、GE t1/2がベースラインから20%減少した被験者(患者)の割合は、それぞれ26%、20%と数値的には増加したが、その増加量はどちらも統計的に有意ではなかった。
【0190】
GE t1/2の時間及びベースラインの割合(%)において、最小二乗(LS)平均が絶対的に、プラセボでは13分(2%)減少したのに対し、ベルセトラグを5mg、15mg、30mg用いた場合では、それぞれ35分(11%)、34分(8%)、52分(21%)減少した。このことは、ベルセトラグ治療グループの胃排出で、臨床的に関連のある変化が見られ、ベルセトラグ30mgの投与で統計的有意性があることを示している。
【0191】
ほとんどの有害事象(adverse event)(AEs)の重症度は軽度であった。最も頻度の高い治療下で発現した有害事象(treatment-emergent AEs)(TEAEs)は、下痢、悪心、腹痛、便秘、腹部の張り(鼓腸)、及び頭痛であった。TEAEの大部分は、ベルセトラグ5mg及び15mgの投与後に報告され、ベルセトラグ5mgの治療を受けている1人の被験者に、軽度の下痢、消化不良(dyspepsia)、及び悪心がみられたため試験から除外した。ほとんどのAEは、ベルセトラグ5mg及び15mgでの治療中に報告されたが、治療シーケンス(treatment sequence)の最後にベルゼトラグ30mgを投与することによる脱感作が原因の可能性がある。
【0192】
糖尿病性及び特発性の胃不全麻痺の両方のサブグループにおいて、ベルセトラグの全投与量で、GE t1/2がベースラインから減少した。特発性胃不全麻痺のサブグループに比べ、糖尿病性胃不全麻痺のサブグループでは、ベースラインからの大幅な減少がみられた(糖尿病性胃不全麻痺サブグループでは、ベルセトラグ5mg、15mg、30mgの投与で、ベースラインからGE t1/2がそれぞれ39分、47分、72分減少し、特発性胃不全麻痺のサブグループでは、ベルセトラグ5mg、15mg、30mgの投与で、ベースラインからGE t1/2がそれぞれ26分、15分、26分減少した)。
【0193】
第2a相(フェーズ2a)臨床試験(Phase 2a clinical study)では、ベルセトラグが糖尿病性又は特発性の胃不全麻痺の被験者(患者)の胃排出を促進すること、かつ、ベルセトラグがこれらの集団(患者)において忍容性が高いことが示された。ベルセトラグを30mgの投与量で治療を受けている患者では、胃排出量が最大となり、かつAEの発生が最も少なかった。
【0194】
2.2 DIGEST I試験と試験結果
DIGEST Iは、網羅的な第2b相(フェーズ2b)(Phase 2b)、12週間、多施設、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、平行4群試験(parallel 4-group study)であり、この試験により、プラセボと比較して、ベルセトラグの3つの投与レベル(投与量)(5mg、15mg、30mg)について評価した。この試験では、糖尿病性又は特発性の胃不全麻痺(GP)の被験者(患者)に対し、約12週間、各投与量のベルセトラグを1日1回投与した。試験を完了した各被験者(患者)は、試験に約19週間携わった。その内訳は、スクリーニング期間(1週間のベースライン期間を含む最長5週間)、治療期間(12週間)及びフォローアップ期間(2週間)である。
【0195】
被験者が試験に適格であるかを決定するために、スクリーニング期間中に被験者を診断した。これらの診断には、上部消化管症状の患者報告による重症度指標(Patient Assessment of Upper Gastrointestinal Symptom Severity Index(PAGI-SYM))の調査票(questionnaire)(胃不全麻痺主症状指標(Gastroparesis Cardinal Symptom Index(GCSI))を含んだ2週間の治療(試験)を終える(行う)患者が報告する指標(recall instrument)(この試験では、GCSI-2Wと表す)(Gastroparesis: Clinical Evaluation of drugs for treatment Guidance for Industry-July 2015))やスクリーニング治療満足度調査票(Screening Treatment Satisfaction Questionnaire)、安全性試験(safety laboratory test)、心電図(ECGs)を含む、完了した様々なPRO測定が含まれる。被験者に対し、胃排出試験(gastric emptying test)(4時間のテクネチウム標識硫黄コロイド[99mTc]胃排出シンチグラフィー(technetium-labelled Sulphur colloid [99mTc] gastric emptying scintigraphy)[GES]又は4時間の13C-スピルリナ胃排出能呼気試験(13C-spirulina Gastric Emptying Breath Test)[GEBT]のいずれか)もスクリーニング期間の間に行った。ただし、スクリーニング期間から遡って1年以内に、比較できる適格な胃排出試験を受けた被験者については除外した。この試験は、適格な過去の調査(試験)(historical test)を信頼するのではなく、スクリーニング期間中に行われる胃排出試験によって、被験者の少なくとも50%が登録資格を得るように設計された。
【0196】
以下の条件を満たす被験者が、試験のベースライン期間に移行することができ、その条件とは、a)悪心、鼓腸、食後膨満感(feeling excessively full after meals)及び通常サイズの食事を終えることができないという症状について、GCSI-2Wの複合スコアが、2ポイント以上及び5ポイント未満であること、b)スクリーニング時のGCSI-2Wのスコアが、これら4つの症状のうち少なくとも2つの症状で3ポイント以上であること、c)4時間の99mTc GES又はGEBTのいずれかにおいて、胃排出遅延であると決定されたこと、の3つである。被験者がスクリーニング時のGES又はGEBTのいずれかにおいてクリアできなかった場合、試験への参加資格を得るために、スクリーニング期間中にGEBTによる二次の胃排出試験(second gastric emptying test)を実施した。さらなる試験に参加できる被験者は、ベースラインを確立するために7日間にわたって、2つのPRO測定を毎日行った。2つの測定とは、胃不全麻痺評価尺度(Gastroparesis Rating Scale[GRS])と、毎日のGCSI(胃不全麻痺主症状指標)であり、この調査では、Gastroparesis Cardinal Symptom Index-24 Hour Recall[GCSI-24H]と表す。
【0197】
1週間のベースライン期間の後、被験者は、次の期間に移行するために、1日目(Day 1)(治療薬投与開始日)でのGCSI-24Hの7日間の平均スコアが2.5ポイント以上5ポイント未満であることが必要である。適格な被験者は、上部消化管症状の患者報告による重症度指標(Patient Assessment of Upper Gastrointestinal Quality of Life(PAGI-QOL))の調査票(アンケート)に記入し、1日目(投薬開始日)にベースラインの測定基準を確立した。その後、被験者を、ベルセトラグの3投与レベルの1つ又はプラセボに、1:1:1:1の比で無作為に割り当て、両方の治験薬を、およそ12週間、二重盲検法で1日1回投与した。
【0198】
治療期間中、被験者には、毎朝ほぼ同じ時間に食事をし、食事のおよそ30分前に1日1回1カプセルの治験薬を服用し、電子日記に服薬の時間を記録するように指示をした。被験者はまた、電子日記を使用して、日常的にGCSI-24HとGRSとを記録した。被験者はまた、指定の時間に、PAGI-QOLの調査票(アンケート)に記入し、QOLの測定基準と治療満足度調査票(Treatment Satisfaction Questionnaire)も評価した。さらに、被験者および臨床医は、GRS測定の心理測定的な評価のアンカー手段(anchor instrument)として役立つように、総合的な治療効果(Overall Treatment Effect)(OTE)と総合的な胃不全麻痺の重症度(Overall Gastroparesis Severity)(OGS)を記録した。試験手順の一覧表に詳述されているように、被験者は、安全性と有効性の評価のために試験センターに戻った。
【0199】
この試験の主な目的は、胃不全麻痺の症状と胃排出に対して、ベルセトラグの効果を評価することであった。患者の約半分は糖尿病性胃不全麻痺の患者で、残りの半分は特発性胃不全麻痺の患者であった。
【0200】
GP症状を、胃不全麻痺評価尺度(GRS)で評価するために、毎日の独自の患者報告結果(patient reported outcome)(PRO)ツールを使用した。このツールは、現在のFDA PROガイダンスに従って開発された。GRSは、以下の主要な症状ドメイン(症状領域)である(1)悪心、(2)嘔吐、(3)食後膨満感/早期満腹、(4)鼓腸、(5)上腹部痛、(6)胃逆流/灼熱感、(7)排便を網羅している。GRSの症状ドメイン(症状領域)はまた、因子1(満腹感、早期満腹感、鼓腸、上腹部痛及び心窩部灼熱感)と因子2(悪心及び嘔吐)に分類又はグループ化される場合もある。
【0201】
標準的な安全性と忍容性のモニタリングについても評価した。具体的には、特発性及び糖尿病性胃不全麻痺患者を対象にベルセトラグの試験を行い、以下の3点について評価した。3点とは、(1)糖尿病性又は特発性胃不全麻痺の患者の症状に対する、12週間の治療期間中、1日1回、経口投与されたベルセトラグ(5mg、15mg及び30mg)の効果(プラセボと比較)、(2)胃排出に対する、経口投与のベルセトラグ(5mg、15mg及び30mg)の効果(プラセボと比較)、(3)12週間の治療中の経口投与のベルセトラグ(5mg、15mg及び30mg)の安全性(プラセボと比較)である。
【0202】
全ての有害事象(AE)については、治験担当医師が評価し、発現及び解決(消失)の日付、重症度、治験薬との関係、結果、治験薬による作用などをeCRFに記録した。
【0203】
臨床的な重症度は、次のように記録され、認められた。
軽度:兆候や症状を認識しているが、容易に耐えうる
中等度:通常の活動を妨げるほどの不快感がある
重度:無能力となり、仕事や通常の活動を行うことができない
【0204】
すべての被験者は、既存の病状の治療のために、定期的に処方された薬(薬物療法)(プロトンポンプ阻害薬、セロトニン(5-HT3)拮抗薬、その他の制吐薬、ベンゾジアゼピン誘導体、推進薬(propulsive)、抗推進薬(antipropulsive)、ジフェニルメタン誘導体、H2受容体拮抗薬)を継続することが認められた。
【0205】
2.3 治験対象母集団
表2に示すように、合計233人の患者を、無作為に3パターンの投与量のベルセトラグ(5mg、15mg、又は30mg)のいずれか又はプラセボを服用する者に割り付け、12週間、食物とともに又は食物なしで1日1回(QD)、朝に投与した。
【0206】
【0207】
【0208】
最も高いベースライン症状スコアは、食後膨満感/早期満腹及び鼓腸であり、平均スコアが3.6~3.7ポイントの範囲であった。悪心及び/又は嘔吐のサブスケールは、重症度が最も低く、平均1.7~2.1ポイントであった。本来のGCSIの2週間のリコールPRO(2週間の治療(試験)を終える(行う)患者が行うPRO)(GCSI 2 week recall PRO)には、痛みの質問が含まれていなかったため、GCSI-24Hには痛みのサブスケールはなかった。ベースライン上腹部痛サブスコアについては、平均(SD)のスコアが3.3(0.96)ポイントのGRS PROから導き出した。
【0209】
【0210】
2.4 GCSI-24H総スコアによる症状の変化
総スコアを使用してGCSI PROを評価した。GCSI PROの平均3は症状ドメインスコアを意味する。LS平均GCSI-24H総スコアとベースラインからの変化を表5にまとめる。
【0211】
【0212】
4週目のGCSI-24H総スコアで逆用量反応がみられ、15mg及び30mgの投与量グループに比べて、5mgの投与量グループで、より大きな治療効果が得られた。ベルセトラグ5mgの投与量グループでは、4週目のGCSI-24H総スコアが、ITT分析セットのプラセボと比較して、-0.4ポイント(95% CI:-0.75、-0.0
3、p=0.0327)で、名目上、統計的に有意な差(改善を意味する減少)がみられた。多重度調整の後、4週目以降のGCSI-24Hに、統計的有意性はみられなかった。プラセボを含むすべてのグループにおいて、4週目を過ぎても症状は改善傾向が続き、6週目から、8週目、12週目の治療終了まで、症状は安定して改善していた。12週間の治療期間全体にわたって、5mgのベルセトラグ治療グループでは、2つの高投与量グループとプラセボグループと比較して、症状の総スコアに明確な分離(違い)がみられた(
図1)。
【0213】
3因子モデルの初期分析は、3つのドメイン、悪心/嘔吐(Q1:悪心、Q2:レッチング(むかつき)、Q3:嘔吐)、食後膨満感/早期満腹(Q4:胃の膨満、Q5: 通常サイズの食事を終えることができないこと、Q6:過度な満腹、Q7:食欲不振)、及び鼓腸(Q8:鼓腸、Q9:胃が大きく感じる)に基づいて行われた。
【0214】
個々のドメインが評価された。タキフィラキシー又は効果の減少の兆候は、治療の12週間にわたって観察されなかった。
図2~8は、GCSI-24H総スコアにより、胃不全麻痺に関連する症状の減少と軽減に関して、プラセボに対するベルセトラグ投与の有効性を明らかにする結果を示す。各サブグループのLS平均差は、週ごとのGCSI-24H総スコアのベースラインからの変化とともに、反復測定混合効果モデル(repeated measures mixed effect model)に基づいて計算される。前記反復測定混合効果モデルには、従属変数、治療、胃不全麻痺型(糖尿病性対特発性)、GE試験時期(過去対将来)、ベースラインGCSI-24H総スコア、時間、サブグループ変数、時間単位での治療の相互作用効果、時間単位でのベースラインGCSI-24H総スコア、サブグループ変数単位での治療、サブグループ変数単位での時間、及び時間単位かつサブグループ変数単位での治療などによる固定効果と、サイト内(within site)でのランダム被験者効果(random effect of subject)とが含まれ、非構造化共分散構造が用いられる。GCSIベースラインサブグループ分析では、ベースライン24H総スコアがGCSIベースラインのカテゴリー変数に置き換えられる。
【0215】
図9~16は、GCSI-24Hレスポンダーオッズ比により、胃不全麻痺に関連する症状の減少と軽減に関して、プラセボに対するベルセトラグ投与の結果を示す。これらの結果は、ベルセトラグ投与の有効性を示している。奏功する患者とは、ベースラインから少なくとも1ポイント減少する対象者を意図している。各サブグループのオッド比(Odd ratio)は、固定効果としての、従属変数、治療、胃不全麻痺型(糖尿病性対特発性)、GE試験時期(過去対将来)、ベースラインGCSI-24H総スコア、時間、サブグループ変数、時間単位での治療の相互作用効果、時間単位でのベースラインGCSI-24H総スコア、サブグループ変数単位での治療、サブグループ変数単位での時間、及び時間単位かつサブグループ変数単位での治療などの週ごとのGCSI-24H総スコアのレスポンダー(Y/N)と、自己回帰共分散構造を用いるサイト内でのランダム被験者効果との二項分布を用いたロジスティック反復測定混合効果モデル(logistic repeated measures mixed effect model)に基づいて計算される。GCSIベースラインサブグループ分析では、ベースライン24H総スコアがGCSIベースラインのカテゴリー変数に置き換えられる。多重度調整をすることなく、公称のp値(nominal p-value)が報告される。
【0216】
2.4a プラセボと比較した、特発性及び糖尿病性患者における異なる1日投与量でのベルセトラグの有効性
表6及び7は、特発性サブグループと糖尿病性サブグループにおける、4、8、14週GCSI-24H総スコアでのベースラインとプラセボからの最小二乗(LS)平均の変化を示す。
【0217】
【0218】
【0219】
2.5 GCSI-24Hの心理測定の効果
GCSI-24Hの分析で、評価可能な232人の被験者のうち、2人の被験者のデータが欠落しており、分析から除外された。したがって、合計230人の被験者が分析に含まれた。
【0220】
3因子モデルの初期分析は、3つのドメイン、悪心/嘔吐(Q1:悪心、Q2:レッチング(むかつき)、Q3:嘔吐)、食後膨満感/早期満腹(Q4:胃の膨満、Q5:通常サイズの食事を終えることができないこと、Q6:過度な満腹、Q7:食欲不振)、及び鼓腸(Q8:鼓腸、Q9:胃が大きく感じる)に基づいて行われた。3因子モデルの適合統計量は低く、近似の二乗平均平方根誤差(root mean square error of approximation)(RMSEA)=0.150、比較適合度指標(comparative fit index)(CFI)/非標準適合指数(nonnormed fit index)(NNFI)=0.844/0.767、及び標準化二乗平均平方根残差(standardized root mean square residual)(SRMR)=0.098であった。しかし、これらの適合統計は、Q5とQ6、及びQ5とQ7の残余相関を追加することでかなり改善された(RMSEA=0.071;CFI/NNFI=0.968/0.948;SRMR=0.069)(表8)。
【0221】
【0222】
3因子の総スコアの妥当性については、3つの方法を使用して評価した。3つの方法とは、二因子モデル(bifactor model);高次モデル(higher order model);顕在変数としてのドメインスコアや、単一の独立潜在変数のような潜在性総スコアを使用する方法である。
【0223】
二因子モデルでは、モデルパラメーターの概算の標準誤差を計算できないと述べた誤差では計算できなかった。
【0224】
高次モデルでは、200,000回の反復でも収束せずに計算できなかった。
【0225】
最後に、個々のドメインがそれぞれ単独で評価された。これらの最終的なドメインモデルはすべて、よく適合した。
【0226】
表9は、各ドメインレベルモデルの適合統計(fit statistics)のまとめを示す。悪心/嘔吐の適合統計は、以下の通りであった。RMSEA=<0.001、CFI/NNFI=1.000。このドメインでのQ2レッチングと、Q3嘔吐の相関は、0.920であった。モデルのほぼ完全な適合と2項目間の高い相関性により、別のモデルについては、食後膨満感/早期満腹を追加することにより、悪心/嘔吐ドメインに対して評価した。このことにより、適切な適合が実証された。食後膨満感/早期満腹は、残留相関が含まれると良好に適合した。1ドメインごとに2項目しかない推定の確証的因子分析(confirmatory factor analysis)(CFA)モデルは煩わしいため、鼓腸、食後膨満感/早期満腹については、追加項目の強度(strength)を高めるために、1つのモデルで評価した。
【0227】
【0228】
2.6 GRS総スコアによる症状の変化
一次エンドポイントの評価時点は4週目で、8週目と12週目に感度分析を実施した。治療効果の持続性及び/又はタキフィラキシーを評価するために、12週目を二次エンドポイントとした。
【0229】
ベルセトラグの3つの投与量すべてにおいて、かつ毎日の症状PROで逆用量反応パターンが観察され、5mgの投与量では、2つの高投与量と比較して、より大きい、より一貫した症状の改善がみられた。このことは、胃不全麻痺を定義する中心的特性の胃排出でみられる予期しない用量反応である。
【0230】
投与量が5mgのベルセトラグでは、ITT対象集団のプラセボと比較して、4週目のGRS総スコアが-0.4ポイント(95%CI 0.71、-0.07;p=0.0159)で、統計的に名目上有意な差がみられ、12週目(治療終了)でも同様の治療効果と名目上、統計的有意性を示した(表10)。
【0231】
ベルセトラグ5mgを用いた場合のこれらの症状の変化は、患者レベルで顕著であり、症状の重症度のレベルで1~1.5ポイントを超えて変化し、重度の症状から中程度の症状に、中程度の症状から軽度の症状に変化する。
【0232】
【0233】
ベルゼトラグ5mgのグループでは、より高投与量のグループ及びプラセボグループに比べ、12週間の治療全体を通して、GRS症状総スコアの差(分離)が明確である(
図17)。12週間の治療期間中、タキフィラキシー又は効果の減少の兆候は見受けられなかった。予想通り、被験者が治療を受けていなかった13週目と14週目に症状スコアがわずかに増加した。
【0234】
図18~25は、GRS総スコアによる胃不全麻痺に関連する症状の減少、改善、軽減、緩和、治療における、プラセボに対するベルセトラグ投与の有効性を明らかにする結果を示す。各サブグループのLS平均差は、週ごとのGRS総スコアのベースラインからの変化とともに、反復測定混合効果モデル(repeated measures mixed effect model)に基づいて計算される。前記反復測定混合効果モデルには、従属変数、治療、胃不全麻痺型(糖尿病性対特発性)、GE試験時期(過去対将来)、ベースラインGRS総スコア、時間、サブグループ変数、時間単位での治療の相互作用効果、時間単位でのベースラインGRS総スコア、サブグループ変数単位での治療、サブグループ変数単位での時間、及び時間単位かつサブグループ変数単位での治療などによる固定効果と、サイト内(within site)でのランダム被験者効果(random effect of subject)とが含まれ、非構造化共分散構造が用いられる。
【0235】
2.7 GRSの心理測定効果
合計で、232人の被験者でGRSの心理測定評価がなされた。初期の心理測定レビューが実施された後、GRSのスコアリングから4項目が削除され、別の項目を1つのドメインから別のドメインに移動した。解釈(観察)の問題により、便秘のドメインは削除された。その後の心理測定分析により、残りの6つのGRSドメインに対する一次元の適切な適合性が確立された。
【0236】
GRS因子1(サマリスコア1)は、膨満/早期満腹、鼓腸、上腹部痛、心窩部灼熱感ドメイン(領域)を含み、GRS因子2(サマリスコア2)は悪心及び嘔吐ドメインを含んでいた。ベースラインデータでの項目とスケールの心理測定により、項目の特別な重みづけは不要であることが明らかとなった。ベースラインデータでの項目及びスケールレベルの心理測定により、嘔吐ドメインの分散スコアが予想よりもわずかに高いことを除いて、すべてのドメインとサマリスコアで有望な(強力な)研究結果が明らかとなった。膨満/早期満腹ドメインでは、試験の信頼性及び再試験の信頼性が低く、これは、症状の特徴の可能性がある。
【0237】
心理測定評価の後、GRSは2つのサマリスコアを用いて要約された。サマリスコア1は、膨満/早期満腹、鼓腸、上腹部痛、心窩部灼熱感ドメインを組み合わせ、サマリスコア2は、悪心及び嘔吐ドメインを組み合わせた。個々の症状ドメインにおいて、悪心及び嘔吐が、ベルセトラグ治療で最も作用しなかった症状ドメインであると言及したように、サマリスコア2に比べてサマリスコア1でより大きな効果がみられた。しかし、これら2つの症状(悪心及び嘔吐)においても改善傾向はあった。
【0238】
4週目でのサマリスコア1について、ベルセトラグ5mgでは、ITT分析セットのプラセボと比較して、統計的に有意なLS平均差が-0.4ポイント(95%CI:-0.72、-0.08;p=0.0143)であった。数値的な効果は12週目(治療終了)でも維持していた(-0.4ポイント 95%CI:-0.75、0.01;p=0.0536)(表11)。
【0239】
サマリスコア2では、プラセボと比較して、12週目のLS平均差が-0.2ポイント(95%CI:-0.43、0.03;p=0.0841)であり、数値的な傾向はみられた(表12)。
【0240】
ベルセトラグ5mgによるこれらの症状の変化は被験者レベルで顕著であり、全体の症状負荷のレベルにおいて、ベースラインから1~1.5ポイントを超える変化を示し、重度の症状から中等度/軽度の症状へ、又は中等度の症状から軽度/無症状へ変化する。
【0241】
【0242】
【0243】
GRSサマリスコア1とGRSサマリスコア2の差(分離)は、12週間の治療全体を通して、ベルゼトラグ5mgのグループでは、より高投与量のグループ及びプラセボグループに比べ、明確であった。12週間の治療期間中、タキフィラキシー又は効果の減少の兆候は見受けられなかった。被験者が治療を受けていなかった13週目と14週目に症状スコアがわずかに増加した。
【0244】
2.8 個々の症状ドメインの変化
個々の症状ドメインで症状を見ると、ベルセトラグ5mgを用いた場合、GRSのすべての症状ドメインで改善がみられた(
図26~28参照)。
【0245】
図26~28は、GRSサブスケールスコアによる、胃不全麻痺に関連する症状の減少及び軽減について、プラセボに対するベルセトラグ投与の有効性を明らかにする結果を示す。LS平均差は、週ごとのGRS総スコアのベースラインからの変化とともに、従属変数、治療、胃不全麻痺型(糖尿病性対特発性)、GE試験時期(過去対将来)、ベースラインサブスケールスコア、時間、時間単位での治療の相互作用効果、非構造化共分散構造を用いたベースラインによる(基づく)反復測定混合効果モデル(repeated measures mixed effect model)に基づいて計算される。
【0246】
図26~28に示すように、悪心及び嘔吐はベースラインが最小であり、すなわち治療効果が最小であったが、両方の症状ドメインにおいて改善の傾向はある。GRS総スコアは、主に食後膨満感/早期満腹、鼓腸、及び上部腹痛ドメインの変化に伴って変化する。これら3つの症状ドメインは、ベルセトラグが5HT-4受容体複合体を介する直接的なメカニズムを有している可能性が高いためと考えられる。5mgの投与量グループでのベースラインからの変化は、全症状において、最初の1週以内に観察され、6~8週においても安定して改善し、総体的に12週の治療終了まで継続して改善がみられた。驚くべきことに、ベルセトラグを5mgの投与量で用いたことで、上腹部痛で大幅な減少がみられたように、内臓過敏症(visceral hypersensitivity)の減少に対して効果があった。
【0247】
特発性サブグループ、糖尿病性サブグループに関係なく、症状が改善した(
図26~27)。特発性グループでは、プラセボと比較してより大きな変化がみられた。これは、2つのサブグループ間のプラセボ反応の違いによってこの違いが完全に引き起こされるためである。ベルセトラグを5mg用いた場合、ベースラインからのLS平均の変化は、糖尿病性のグループでは1.3ポイント、特発性のグループでは1.3ポイントであったが、2つのグループにはプラセボ変化に違いがあり、糖尿病性のグループでは1.0ポイント、特発性のグループでは0.8ポイント、症状が減少した。
【0248】
ベースラインGCSIスコアにより被験者でわずかに高い治療効果がみられる。しかし、その差は小さく、ベースラインスコアが大きいほど変化の見込みが大きいことに起因する可能性がある。GRSの総変化を胃排出の重症度のレンズを通して見ると、
図23に、軽度、中等度、重度と一覧にされているように、標本サイズが小さいにもかかわらず、より重度の患者でより大きな反応がみられる。
【0249】
さらに、ベルセトラグ5mgで治療を受けている被験者の4週目と12週目のGRS症状の比較では、4週目と12週目の両方で、GRSサブスケールスコアで測定された被験者において、プラセボよりもベルセトラグを用いた場合によい作用(効果)をもたらすことが示された。
【0250】
GRS因子1および2をさらに分析すると、プラセボと比較してよい作用をもたらすスコアがそれぞれ16%および20%増加している(表13参照)。
【0251】
【0252】
2.9 糖尿病性胃不全麻痺の対象集団に対するサマリスコア1
サマリスコア1について、糖尿病性胃不全麻痺に羅患した患者グループで評価した。結果を表14に示す。
【0253】
【0254】
糖尿病性胃不全麻痺のサブグループでは、ベルセトラグ5mgとプラセボとの間に明確な違いがある。
【0255】
2.10 糖尿病性胃不全麻痺の対象集団に対するサマリスコア2
サマリスコア2は、糖尿病性胃不全麻痺に罹患した患者のグループで評価された。結果を表15に示す。
【0256】
【0257】
ベルセトラグ5mgのグループのみが、プラセボと比較した場合に同様の傾向を示した。ベルセトラグ15mg及び30mgのグループでは、プラセボと比較した場合に悪化する結果(効果)は認められなかった。
【0258】
2.11 特発性胃不全麻痺の対象集団に対するサマリスコア1
特発性胃不全麻痺に罹患した患者のグループで要約スコア1について評価した。結果を表16に示す。
【0259】
【0260】
糖尿病性のサブグループに対するITT分析とは対照的に、ITT及び糖尿病性のサブグループでは、唯一5mgの投与量の場合にプラセボより大きな有効性を示したが、特発性のサブグループでは5mg及び15mgのベルセトラググループの両方において、同様の有効性を示した。
【0261】
2.12 特発性胃不全麻痺の対象集団に対するサマリスコア2
特発性胃不全麻痺に罹患した患者のグループでサマリスコア2について評価した。結果を表17示す。
【0262】
【0263】
特発性胃不全麻痺グループでは、経時的な効果の減少はなく、12週間の投与期間にタキフィラキシーの兆候もみられなかった。
【0264】
サマリスコア1及びサマリスコア2において、サブグループに関係なく4週目に改善が認められた。疾患の重症度が増すにつれて、より大きな効果をもたらす傾向があった。ベースラインGCSI総スコアが低い(3未満;無症状から軽度の症状)被験者に比べ、ベースラインGCSI総スコアが高い(3以上;中等度から重度の症状)被験者では、より大きな治療効果がみられた。胃排出の重症度(軽度、中等度、および重度)に基づいてサマリスコアの変化を考慮すると、重度の(胃排出)遅延の被験者でより大きな反応がみられた。今回の試験では、男性の被験者の数が少なかったため、男性被験者と女性被験者の違いについて結論付けることができなかった。個々の症状では、サイズが小さかった。
【0265】
個々の症状では、サイズが小さいため、サマリスコア1のいくつかのサブグループで名目限界有意性(nominal marginal significance)(<0.10)から統計的有意性(<0.05)がみられた。同様の傾向が、12週目でも認められた(
図26~35)。
【0266】
3.0 レスポンダー解析(Responder Analysis)の結果
毎週のレスポンダーを、症状がベースラインから臨床的に関連して変化した被験者として規定(定義)した。ベースラインからの変化に対する反応閾値(response thresholds)又はMCIOを表18にまとめる。
【0267】
【0268】
12週間の治療期間にわたって症状の変化を見ると、平均して、被験者は治療開始後約6週間で最大かつ安定した反応に達し、持続した。
【0269】
これらの知見から、レスポンダーとは、12週間のうち少なくとも6週間、かつ最後の4週間のうち少なくとも3週間の治療において、週ごとのレスポンダーである被験者である。ある週にデータが欠落している被験者(ドロップアウト)は、その週のノンレスポンダー(non-responder)と規定した。
【0270】
3.1 サマリスコア1
ベルセトラグ5mgを投与された被験者の半数以上(54%)が、サマリスコア1のレスポンダー規定(定義)を満たした。ベルゼトラグ5mg(LS比率(LS proportion):0.53)とプラセボ(LS比率:0.37)の間のレスポンダーの割合の差は16%で、被験者はITT分析セット(ITT analysis set)の症状において、1.9倍の割合で持続的な臨床反応を示している可能性が高い(表19)。週ごとのレスポンダーにとって、ベルゼトラグ5mgでは、1週目から14週目まで、プラセボよりも高い奏功率(反応率)(response rate)を示した。ベルセトラグ5mgとプラセボとの違いは、1週目か
ら4週目及び9週目で統計的に有意であった。
【0271】
全体的なレスポンダー(overall responder)と週ごとのレスポンダー(weekly responder)の両方のまとめで、逆用量反応(reverse dose-response)の傾向が認められ、用量が増加するにつれ、奏効率が低下した。
【0272】
【0273】
3.2 サマリスコア2
サマリスコア1と同様に、ベルセトラグ5mgを投与された被験者の半数以上(54%)が、サマリスコア2のレスポンダー規定(定義)を満たした。ベルゼトラグ5mg(LS比率:0.53)とプラセボ(LS比率:0.33)の間のレスポンダーの割合の差は20%で、被験者はITT分析セット(ITT analysis set)の症状において、2.2倍の割合で持続的な臨床反応を示している可能性が高い(表20)。週ごとのレスポンダーにとって、1週目から14週目まで、ベルゼトラグ5mgでは、プラセボよりも高い奏功率(反応率)(response rate)を示した。5mgのベルセトラググループとプラセボグループとの結果の違いは、2、3、7、10、及び12週で統計的に有意であった。
【0274】
【0275】
奏効率は、糖尿病性と特発性の主要なサブグループの両方で改善した。治療効果の違い(ベルセトラグ/プラセボのオッズ比[OR])は、サマリスコア1の2つのサブグループ間では類似していた(1.8~2.0)が、サマリスコア2では、特発性のサブグループに対して、糖尿病性のサブグループでより大きく、特発性のサブグループで1.6~1.9であるのに対し、糖尿病性のサブグループでは2.3~2.6であった。
【0276】
3.3 糖尿病性胃不全麻痺サブグループ
糖尿病性胃不全麻痺サブグループでは、レスポンダーのLS比率は、プラセボグループの37%と比較して、サマリスコア1の5mgベルセトラググループで51%であった(OR:1.8[p=0.2871])。
【0277】
【0278】
サマリスコア2では、レスポンダーのLS比率は、プラセボグループの33%と比較して、5mgベルセトラググループで56%であった(OR:2.6[p=0.0773])。表22に示されているように、糖尿病性のサブグループのサマリスコア2のレスポンダーでより大きな治療効果が得られた。
【0279】
【0280】
3.4 特発性胃不全麻痺サブグループ
特発性胃不全麻痺サブグループでは、レスポンダーのLS比率は、プラセボグループの被験者の38%と比較して、サマリスコア1の5mgベルセトラググループで54%であった(OR:2.0[p=0.2224])。
【0281】
【0282】
サマリスコア2では、レスポンダーのLS比率は、プラセボグループの被験者の34%と比較して、5mgベルセトラググループで50%であった(OR:1.9p=0.2469])(表24)。
【0283】
【0284】
3.5 胃排出試験(Gastric Emptying Test)
全体として、28日目の平均GES保持率(貯留率)(retention)の結果は、3つのベルセトラグ治療グループのすべてと比較して、プラセボグループ(26.0%~81.2%の範囲)で高かった。
【0285】
平均GES保持率(貯留率)の結果は、すべてのグループで経時的に減少し、30mgのベルセトラググループでの4時間の保持率(貯留率)が9.5%で最も低かった。28日目のGESの結果を表25に示す。
【0286】
【0287】
【0288】
スクリーニングからのGES重症度の推移を表27にまとめる。ベースラインと28日目の4時間でのGES値で比較すると、プラセボ治療グループでは被験者の30%が悪化するのに対し、ベルセトラグ治療グループでは、被験者の3%だけが悪化した。
【0289】
【0290】
3.6 胃排出の有効性のまとめ
二次エンドポイントとして、スクリーニングの間にGESを行い、28日目のGESを完了した一部の被験者(各治療グループ内の約半分の被験者)の胃排出の変化を評価した。結果を表28にまとめる。
【0291】
プラセボグループのすべての被験者で、28日目には(胃排出の)遅延がみられ、胃の遅延が正常化することもなかった。正常化は、胃遅延の基準(GESによる4時間の保持率が10%を超える)を満たさないことと定義された。対照的に、4時間での評価により、ベルセトラグの3つの投与量レベルのすべてにおいて、顕著で注目すべき割合の被験者で胃の機能の正常化が認められ、ベルセトラグを5mg、15mg、30mg投与した被験者において、それぞれ、44%、65%、71%の被験者で胃機能が正常化した。
【0292】
【0293】
4.2 試験の安全性と忍容性
特発性又は糖尿病性胃不全麻痺の合計232人の被験者に、ベルセトラグを少なくとも1回投与した。DIGEST I試験では、重大な有害事象は報告されなかった。
【0294】
非臨床及び臨床データにより、胃不全麻痺の治療のためにベルセトラグが有用であると裏付けられている。ベルセトラグは、5-HT3受容体に対する5-HT4受容体の固有活性(intrinsic activity)が3,000倍高く、かつ他のセロトニン作動性受容体サブタイプに対する5-HT4受容体の固有活性が70倍である高選択性5-HT4受容体アゴニスト(作用薬)であるため、他の5-HTサブタイプに関連する有害反応(副作用)がベルセトラグで認められる可能性は低い。ベルセトラグでは、(ヒトを含む複数の種にわたる)冠動脈の緊張(coronary artery tone)又は血小板凝集(platelet aggregation)に影響を与えることなく、オフターゲット効果(off-target effect)に対するリスクも低い。
【0295】
収集されたデータに基づく安全シグナルのエビデンスが存在し、ベルセトラグは一般的に忍容性が良好であった。ベルセトラグは、特発性及び糖尿病性の両方の被験者において、胃不全麻痺のすべての主要な症状で改善を実証している。12週の治療の間にタキフィラキシー又は治療効果の減少の兆候はみられず、ベルセトラグが胃不全麻痺の症状に対する初期の慢性維持療法(chronic maintenance therapy)となる可能性があることを示唆した。
【0296】
ベルセトラグを用いることで、胃不全麻痺の患者に、安定した(強力な)1日1回の経口治療の選択肢を与え、胃不全麻痺の症状、胃排出遅延、全体的な生活の質(overall quality of life)を改善し、疾患状態に関連する全死亡率を減らし得る好機となる。
【0297】
要約すると、ベルセトラグによる治療により、胃不全麻痺のすべての主要な症状である、膨満感/早期満腹、鼓腸、上腹部痛、心窩部灼熱感、悪心、嘔吐が数値的に改善した。GCSI-24HおよびGRS PROの症状ドメインの大部分で逆用量反応がみられ、15mg及び30mgの投与量グループに比べて5mgのグループで症状が最も大きく減少した。逆用量反応パターンは、サマリスコアでもみられた。サマリスコアについては、プラセボと比較して、わずかな(名目上の)統計的改善を示したのは、5mgの投与量の場合のみであった。
【0298】
ベルセトラグ5mgでは、4週目のGCSI-24H総スコアで名目上統計的に有意な差(改善を意味する減少)を示した(プラセボ(指定された一次エンドポイント)と比較して、-0.4ポイント[95%CI:-0.75、-0.03;p=0.0327])。12週目においても、プラセボと比較して、(4週目のGCSI-24H総スコアの)数値的な減少が認められた(-0.3ポイント[95%CI:-0.73、0.10;p=0.1331])。
【0299】
ベルセトラグ5mgでは、プラセボと比較して、4週目のGRSサマリスコア1で名目上統計的に有意な差(-0.4ポイント[95%CI:-0.72、-0.08;p=0.0143])を示した。(GRSサマリスコア1の)数値的な効果は12週目(治療終了)でも持続していた(-0.4ポイント[95%CI:-0.75、0.01;p=0.0536])。ベルセトラグ5mgでは、プラセボと比較して、4週目のGRSサマリスコア2で数値的な差(-0.1ポイント[95%CI:-0.38、0.09;p=0.2240])を示した。12週目でも、プラセボと比較して(GRSサマリスコア2の)数値の減少が認められた(-0.2ポイント[95%CI:-0.43、0.03;p=0.0841])。
【0300】
さらに、5mg及び15mgの1日投与量でベルセトラグを用いた場合、糖尿病性のサブグループよりも特発性のサブグループの患者で、GCSI-24H総スコアがより大きなポイントで減少し、より大きな効果を示した。特発性のサブグループでは、5mgの投与後14週間で0.3ポイントの減少がみられ、15mgの投与後8週間で0.3ポイント減少した。
【0301】
GRSサマリスコアの分析により、5mgのベルセトラググループでは、GRSサマリスコア1のレスポンダーの割合(responder rate)(12週間のうちの少なくとも6週間かつ治療の最後の4週間のうち少なくとも3週間、ベースラインから少なくとも1ポイント改善していると定義)がプラセボの37%と比較して、53%であり、結果として、その割合の差として16%の改善又はオッズ比1.9が得られた。オッズ比1.9とは、すなわち、ベルセトラグ5mgの被験者では、ITT分析セットのプラセボより臨床的に関連する症状スコアの低下がみられる可能性が1.9倍高かったということである。同様に、GRSサマリスコア2に対しても、ベルセトラグ5mgのグループとプラセボグループとの間の割合(奏効率(反応率))の差は、20%であり、ITT分析セットのプラセボより臨床的に関連する症状スコアの低下を2.2倍の割合で示す可能性がある。レスポンダーの割合の違いは数値的であり、直接的な推論のために統計的に検出されない。
【0302】
ベルセトラグ5mgを用いることで、食後膨満感、早期満腹、鼓腸、上腹部痛、心窩部灼熱感、悪心及び嘔吐の症状が改善した。5mgのベルセトラグ5mgグループでは、すべての症状のベースラインからの変化が最初の1週間以内にみられ、その変化は6週目まで改善し続け、12週目(治療終了)まで安定して改善した(治療終了)。タキフィラキシー効果は見受けられなかった。個々の症状ドメインで認められているように、サマリスコア2に比べてGRSサマリスコア1でより大きな効果が得られた。悪心及び嘔吐は、ベースラインスコアが低いためにこれらのドメインのうち最も影響の少ない症状ドメインであるが、これらの2つの症状でも改善傾向は見受けられた。
【0303】
主要なサブグループ(糖尿病性胃不全麻痺及び特発性胃不全麻痺)の両方で症状の改善が認められた。各治療グループのGRSサマリスコア1のベースラインからの変化において、サブグループ間に違いはなかった(糖尿病性グループでは-1.5ポイント、特発性グループでも-1.5ポイントであった)。同様のパターンがGRSサマリスコア2でもみられ、プラセボグループと比較した、ベルセトラググループのベースラインからの変化に、サブグループ間にわずかな差も認められなかった。しかし、2つのサブグループの間にはプラセボ反応(placebo response)に違いがみられ、糖尿病性のサブグループでは特発性のサブグループに比べてプラセボ反応が大きく、2つのサブグループ間でベースライン又はベースラインからの変化に差はなかったが、結果として、特発性のサブグループでより高い治療効果が得られた。
【0304】
全体として、GES基準に適合し、28日目のGES評価を受けた評価可能な被験者において、4時間の保持率(貯留率)(LS平均[±SE])は、ベルセトラグ治療グループ(用量依存的に12.4%[4.3%]~16.1%[4.2%]の範囲)に比べ、プラセボグループでより高かった(29.5%[4.0%])。このことは、28日目では、ベルセトラググループよりプラセボグループでより大きく胃排出遅延が生じていることを示している。10%未満の4時間の胃の保持率(貯留率)を示す被験者が、プラセボでは0%であるのに対し、ベルセトラグの3つの投与量レベルの全グループでは、統計的に多数(用量依存的に44%~71%)認められ、ベルセトラグの3つの投与量レベルのすべてにおいて、胃排出の正常化が認められた。
【0305】
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