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特許7431764モータの電機子巻線構造及びモータの電機子巻線巻回方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】モータの電機子巻線構造及びモータの電機子巻線巻回方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/46 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
H02K3/46 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021022561
(22)【出願日】2021-02-16
(65)【公開番号】P2022124746
(43)【公開日】2022-08-26
【審査請求日】2021-02-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】松下 孝
【合議体】
【審判長】窪田 治彦
【審判官】八木 敬太
【審判官】柿崎 拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-137926(JP,A)
【文献】特開2014-75929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K3/00-3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータのボビンに電機子巻線を施す電機子巻線構造であって、
巻線を施すボビン側壁面の四隅の角部のうちの少なくとも1の角部に曲面を有するフィレット形状部を設け、
前記フィレット形状部は、
前記ボビンに巻回される巻線の第1層目における巻き始めの巻線位置から巻き終わりの巻線位置に向けて、前記ボビン側壁面の角部の前記曲面の曲率半径が小さくなっていき、かつ、ボビン側壁面の周長が長くなっていき、
前記モータの電機子の外周側に設けられた外径側フランジ部から前記モータの電機子の内周側に設けられた内径側フランジ部に向けて、前記ボビン側壁面の前記角部の前記曲面の曲率半径が小さくなっていき、かつ、前記ボビン側壁面の周長が長くなっていくように構成され、前記内径側フランジ部側の前記ボビン側壁面に部分傾斜部が形成され、前記フィレット形状部に続いて前記巻線が巻かれる部分フィレット形状部を部分傾斜部に形成し、前記部分フィレット形状部は、前記外径側フランジ部から前記内径側フランジ部に向かう方向に、前記ボビン側壁面の角部の前記曲面の曲率半径が大きくなる、電機子巻線構造。
【請求項2】
前記フィレット形状部は、前記ボビン側壁面の角部の曲率半径が徐々に変化することを特徴とする請求項1に記載の電機子巻線構造。
【請求項3】
前記ボビンの側面部に、
モータの電機子の外周側に設けられた外径側フランジ部とモータの電機子の内周側に設けられた内径側フランジ部とを設けた、請求項1又は2に記載の電機子巻線構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの電機子巻線構造及びモータ電機子巻線巻回方法に関し、モータの電機子巻線において、ボビンにおける巻線を巻回する面の角部に曲面状のフィレット形状部を設け、そのフィレット形状部の曲面の径の大きさを、巻線を巻回していく方向のうちの一方向に向けて変化させることで、巻線整列性を向上させるとともにボビン又はインシュレータ(以下、インシュレータを用いるか否かはモータの電機子の設計上任意事項であるので、「ボビン」と称することもある。)の偏応力を緩和し、カスタマイズ性を担保しつつ巻線の高占積率の達成によりモータ性能向上を図る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの電機子巻線は、ボビンにより多くの電線を巻回して巻線の占積率を向上させることで、モータの性能向上、効率向上に寄与することができる。そのため、電機子設計の段階でこの巻数を検討し、ボビンに巻回された電線がスロット内の空間において所定の本数が収まるよう設計を行う。
【0003】
ところが多くの場合、製造の段階になって巻回したコイルの全体のサイズが想定よりも大きくなり、電機子コアや隣のコイルと干渉して、モータが組み立てられない事例や、絶縁が保てずに地絡してしまう事例が起こる。
【0004】
その原因はさまざまであるが、その一つには、巻線1本1本が設計段階で検討した位置には収まらず、巻き乱れることで重なり合い、想定以上にコイルが膨らんでしまうことが挙げられる。
モータ性能向上、モータ効率向上を図るためには巻線が設計段階と同じ位置に収まることが必要であり、そのために巻線の整列性を向上させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-272045号公報
【文献】特許第4655764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1に従来のボビンの全体外観図(図1(a))と巻線断面図(図1(b))を示す(特許文献1参照)。巻線105は、図1(a)のボビンと呼ばれる構造体か、このボビン101を軸方向に2分割したインシュレータ104と呼ばれる構造体に巻回される。インシュレータ104は絶縁を目的としており、主に高分子樹脂等の絶縁材料で形成される。インシュレータ104の巻線が巻かれる巻線部は、上面部104a、下面部104b、側面部104c、104dを有する断面コ字状をなしており、インシュレータ104の巻線が巻かれる全周囲に設けられる。なお、側面部104cは、側面部のうちの短手部分を示し、側面部104dは、側面部のうちの長手部分を示し、後者は特に側端部104cと称することがある。側端部104c部分にはさらに長手方向の両側にそれぞれ延びるフランジ部102が設けられており、巻線の向きが変更されていく部分であり、また、巻線の始端を導入し又は終端を導出する部分でもあり、全体として、巻線の円滑な巻回と、巻線の導出入を行い、巻回時の巻線の外れやずれを防止する。
【0007】
図1(b)は、モータの電機子コアの磁極160にインシュレータ104を介して巻線105が巻回された状態を示す軸線に対する半径方向の断面図である。
巻線の設計段階では、図1(b)に示すように、磁極160にインシュレータ104を介して巻線105が直線状に整列して巻回された状態を作図して巻数の検討を行う。しかし、前述のように実際には巻線105の乱れが発生する。
【0008】
巻線105の乱れの主な原因は、図1(b)の太枠で囲まれた領域に示されたた巻線(これを第1層目とする。)のようになるべきところが、インシュレータ104に巻線が開始された位置から巻回された第1層目の巻線105が所定の本数並ばず、例えばインシュレータ104に巻回された第1層目における巻線開始位置から巻線終了位置までの巻回工程中に巻線105が作図における意図と異なり第2層目にずれ上がってしまうことなどに起因して起こる。
【0009】
図示しない巻線機のノズルと呼ばれる電線をその先端から供給する先端部品は、ノズルの位置の移動等を予め決めておく巻線プログラムに従って上下動することで電線を供給し、巻線機のノズルに対して所定の位置に設けられた回転軸にセットされたインシュレータ側が回転して巻線105がインシュレータ104、すなわちボビンに巻回される。このとき、通常であれば所定の位置に巻線が巻回して配置され、図1(b)のようなインシュレータの側端部104cの面上に直線状に整列した巻線となる。しかしながら、巻線機の初期位置の誤差、ボビンやインシュレータ自体の寸法誤差など、ノズルとボビンの相対位置のズレによって、1本1本の巻線の供給位置が数百~数十μmオーダーでズレが生じてくる。このような事象により、図1(b)のような理想的な第1層目の配置が得られず、第1層目の巻線の配置の整列性に乱れが生じる。
【0010】
ここで、第2層目の巻線105は第1層目の巻線105の間に形成された、断面円形の隣接する巻線同士が形成する溝部に収まる「俵巻き」と呼称される配置に巻回される状態が最も安定する形態である。したがって、第1層目の巻線に乱れが生じなければ、第2層目の巻線の俵巻き状態も、巻線同士が形成する溝部がガイドとなって安定して位置取りがされ、それ以降の層も同様に安定して巻回されていく。しかし、第1層目の巻線に乱れが生じると、第2層目以降の巻線にも乱れが生じ、その乱れが層を重ねるごとに積み重なっていき、最終層に至るまでに、巻線に大きな積弊、すなわち巻き乱れによる巻線の膨らみが生じる。
上記の巻線の膨らみ現象が生じないようにする対策として、図2にその改良型の溝付きボビンの構成例を示す。図1に対応する部分の符号は、図1の符号の数字に100を加算した数字による符号にて対応関係を示している。
【0011】
図2(a)の溝付きボビンの全体図では図1(a)のボビンと外観は類似しているが、フランジ部204a、204b間のボビン201の側端部204cには図2(b)に示すように、多数の溝部207が形成されている。この溝部207はその上部が巻線が入り込む開口とされており、底部が巻線が収まる略円弧形状であり、巻線の径等に合わせて底部にちょうど収まるように底部の幅等各種諸元が適切に設定される。その目的が達成される限りその形状は任意である。このような構成に依れば、各溝部に第1層目の巻線が直線状に整列して収まることで、第1層目の巻線は所定の位置に確実に配置されるため、第2層目以降も含めて巻線全体の整列性が安定したものとなる。
【0012】
このような改良例では、整列性の向上という観点では確実性が高いが、溝部207の底部の幅等各種諸元は前述のように巻線の径等の巻線の形状に依存するものであるため、巻線の径等の異なる巻線をボビン210に巻回するときは、巻線の径等に適したボビン210をそれぞれ用意する必要があり、巻線径のバリエーションの数だけボビンの種類を用意しておく必要がある。
【0013】
これはボビンなどを製造する樹脂成形の金型費用の増加や、在庫管理や生産性に劣るものであり、電源電圧や電源電流容量の異なる駆動条件において、モータの電機子巻線をカスタマイズするなど、巻線の径等を設計上試行錯誤して最適な設計を行う一般的な電気設計を想定すると、上記の点は大きな悪影響をもたらす。
【0014】
次に、他の改良例として、図3を示す。図2と同様に、図1の符号の数字に対応する部分の符号の数字は、図1のものに200を加算して対応関係を示している。特にモータの巻線断面図及びその拡大図を示す図3において、図3(a)に示すように、太枠Hで囲まれた巻線を巻くインシュレータ306の側面の形状を凹凸にすることにより、巻線の乱れを抑制して膜線整列性を向上させている。
これにより隣のコイルとの接触が防止され、高い占積率時に絶縁性の高いステータ製作が可能となる。
【0015】
この構造では、図3(b)に示すように、磁極360のティース厚みに外周側から内周側に向けて太くなる傾斜をつけている。傾斜を形成することにより巻線を傾斜に沿って滑らせながら巻くことにより、外周側又は内周側のいずれか一方に巻線が偏ることに起因する巻線間の隙間の形成を抑制し、巻線の配列の整列性の向上を図っている。
【0016】
しかしながら、図3(a)の他の改良例は、図2の改良例と同様に凹凸を形成する段の幅は電線径により変化するため、電線径のバリエーションによる金型費用の増加等、図2と同様の問題は避けられない。
なお、図3(b)については後述する。
【0017】
次に特許文献2の例を示す。図4は下記特許文献2の巻線部分の断面拡大図である。図4に示すように、特許文献2の技術では、巻線405は符号404cに示すように磁極460の外周側から内周側に向けて磁極の幅が広くなるような傾斜を有している。加えて、内径側支持部404b及び外径側支持部404aを巻回部端面に対して直角になるよう傾斜させていることを特徴としている。これによりコア401端部の傾斜に合わせ巻線されても、直角になっている支持部404a、404bにより巻線405の崩れを抑制することができる。図3(b)の他の改良例と図4とは、電機子コアの側面に対してボビンの壁面を傾斜させて巻線を片端に寄せることで整列性を向上させる、という共通のメカニズムを用いている。しかし、この手法は以下の課題を含んでいる。
【0018】
(1)片側への応力集中の影響
例えば図4の手法では、符号404cで示す傾斜に沿って巻線されていくため、フランジ部404a,404bに対し巻線応力がかかり、ボビンの反りによるクラックの発生や組立性悪化が生じうる。
【0019】
(2)コイルエンドの高さ増大による全長増大の影響
例えば図4の手法のように傾斜に沿って巻線していくと、内径側のコイルエンド部が高くなり(符号404a参照)、内径側のコイルエンド部の高まりに起因して巻線の膨らむことにより起因してモータ全長が長くなる。
【0020】
(3)厚みが不均一による占積率低下と応力クラックの影響
巻線の厚みの不均一に起因する巻線数当たりの巻線の厚みが厚くなる部分がることで巻線スペースを圧迫し、占積率低下に繋がる。また、位置に依存する応力の差に起因するクラックが生じる可能性がある。
【0021】
また外径側支持部(図4、404c)を傾斜させることによって薄くなる箇所に必要な絶縁距離を確保するためには、外径側フランジ部404cを全体的に厚くする必要がある。このように外径側フランジ部404cを厚くすると、巻線スペースを圧迫し占積率低下に繋がる。一方、外径側フランジ部404cを薄くすると強度が弱くなるためボビンの反りに繋がりクラックの発生や組立性の悪化が考えられる。
【0022】
以上のように、壁面を傾斜させることによる整列性向上を図ろうとすると、上記のようなデメリットがあるという技術的課題を有している。
本発明は、より簡単な構造で巻線の整列性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の一観点によれば、モータのボビンに電機子巻線を施す電機子巻線構造であって、
巻線を施すボビン側壁面の四隅の角部のうちの少なくとも1の角部に曲面を有するフィレット形状部を設け、
前記フィレット形状部は、前記ボビンに巻回される巻線の第1層目における巻き始めの巻線位置から巻き終わりの巻線位置に向けて、前記ボビン側壁面の角部の前記曲面の曲率半径が小さくなっていくことを特徴とする、電機子巻線構造が提供される。
巻線を巻回する際に上記のフィレット形状部を設け、そのフィレット形状部において、その曲面の径の大きさを巻線を巻回していく方向のうちの前記一方向に向けて変化させる構成としたため、前記一方向に沿って巻線が巻かれていく。従って、巻線の整列性を向上させることができる。
前記フィレット形状部は、前記ボビン側壁面の角部の曲率半径が徐々に変化するものであっても、断続的に変化するものであっても良い。
また、前記ボビン側面部に、モータの電機子の外周側に設けられた外径側フランジ部とモータの電機子の周側に設けられた内径側フランジ部とを設けても良い。
【0024】
また、前記フィレット形状部に続いて巻線が巻かれる部分フィレット形状部を形成し、前記部分フィレット形状部は、巻線の各層における巻き始めの巻線位置から巻き終わりの巻線位置に向けて、前記ボビン側壁面の角部の前記曲面の曲率半径が大きくなることを特徴とする電機子巻線構造である。
なお、前記部分フィレット形状部における曲面の曲率半径の変化は一様であっても良いし、一様でなくても良い。
【0025】
前記フィレット構造における曲面の曲率半径の変化を一方向に向けて変化させることで、巻線整列性を向上させるとともにボビンの偏応力を緩和し、カスタマイズ性を担保しつつ高占積率の達成によりモータ性能向上を図ることができる。
【0026】
また本発明は、モータのボビンに電機子巻線を施す電機子巻線巻回方法であって、巻線を施すボビンの側壁面の四隅の角部のうちの少なくとも1の角部に曲面を有するフィレット形状部であって、前記ボビンに巻回される巻線の第1層目における巻き始めの巻線位置から巻き終わりの巻線位置に向けて、前記ボビン側壁面の角部の前記曲面の曲率半径が小さくなるフィレット形状部を設け、前記ボビンへの第1層目の巻線を、周長の大きいフィレット形状部から、周長の小さいフィレット形状部に向けて順次巻回する、モータの電機子巻線巻回方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、モータの電機子巻線構造において、ボビンの巻線を施す面の角部のエッジを丸めたフィレット形状を設けたことにより、ボビンの偏応力を緩和し、巻線の乱れを抑制して巻線整列性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】従来のボビンの全体外観図(図1(a))とモータの電機子コアの磁極にインシュレータを介して巻線が巻回された状態を示す軸線に対する半径方向の断面図(図1(b))(特許文献1参照)である。
図2】溝付きボビンの構成例を示す図である(図1の改良型)。
図3図1の他の改良例として巻線を巻くインシュレータの側面の形状を凹凸にして構成例を示す図である。
図4】巻線を磁極の外周側から内周側に向けて磁極の幅が広くなるような傾斜を有する構成例を示す図である(特許文献2参照)。
図5】本発明の第1の実施の形態によるモータの電機子巻線構造に用いられるボビンの構成例を示す図であり、図5(a)はボビンの側面図、図5(b)はボビンの斜視拡大図である。
図6図6(a)から(c)までは本発明の第1の実施の形態によるボビンの六面図であり、図6(d)は斜視図である。
図7図7(a)は、本発明の第1の実施の形態によるボビンを側面から見た際の切断位置を示す図である。図7(b)から図7(d)までは、切断位置に依存するフィレットの詳細な構造を示す図である。
図8図8(b)は、本発明の第1の実施の形態による巻き始めの図であり、図8(a)は、巻き終えた図である。
図9】一部傾斜付ボビンと巻線について示す図である(別の従来例)。
図10】本発明の第2の実施の形態によるモータの電機子巻線構造に用いられるボビンの構成例を示す図であり、図10(a)は全体図であり、図10(b)から図10(f)は端部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態によるモータの電機子巻線構造について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0030】
(第1の実施の形態)
図5は、本実施の形態によるモータの電機子の巻線構造に用いられるボビンの構成例を示す図であり。図5(a)はボビンの側面図、図5(b)はボビンの端部の拡大斜視図である。図6(a)から(c)まではボビンの六面図であり、図6(d)は全体を見た斜視図である。図7(a)は、ボビンを側面から見た図で、図7(b)から図7(d)の断面図の切断位置を示す図であり、図7(b)から図7(d)までは、各断面位置におけるフィレット形状部の詳細な構造を示す図である。図8(a)は、巻き終えた状態を示す図であり、図8(b)は、巻き始めの状態を示す図である。
【0031】
図5(a)のボビン1の全体図は図1(a)の全体図と外観上はほぼ同じである。
但し、図5(a)及び図5(b)に示す図5(a)の端部の斜め方向から見た拡大図に示すように、巻線5が巻回されるボビン1に巻線5を巻回する壁面4の四隅の角部に半円状の曲面を有する。そして、外径側フランジ部3a(第1フランジ部)側のボビン1の上面部4aから内径側フランジ部3b(第2フランジ部)側のボビン1の底面部4bに向けて巻線を行うボビンの角部における周曲面の曲率半径Rを徐々に変化させている。このような形状を有する角部をフィレット形状部3cと称する。フィレット形状部3cを形成することで、外径側フランジ部3aから内径側フランジ部3bに向けて傾斜を有する傾斜部が形成される。
なお、符号4dはボビン1の側端面である。フィレット形状部3cの詳細な構成については後述する。
【0032】
図6(a)から図6(c)まではボビン1の六面図であり、図6(d)はボビン1の斜視図である。図6に示すように、本実施の形態によるボビン構造では、巻線5を巻回する壁面の四隅の角部にフィレット形状部3cを形成した。これにより、後述するように、巻線5の整列性を向上させることができる。
【0033】
図7にフィレット形状部3cの詳細な構成例を示す。図7(a)は、ボビン1を側面から見た際の切断位置を示す図である。図7(b)から図7(d)までは、図7(a)に示す各切断位置に対するフィレットの詳細な構造を示す図である。図7(a)の側面図において、外径側フランジ部3aから内径側フランジ部3bに向けて異なる位置である断面AA、断面BB、断面CCの3つの断面の端部の断面形状を図7(b)から図7(d)までにそれぞれ示した。
図7(b)から図7(c)に示すように、巻線するための壁面の四隅の角部にフィレット形状部3cを設けている。すなわち、フィレット形状部3cにおいては、AA線切断面からCC線切断面まで、ボビン1の側面の角部の曲率半径がRA1からRC1まで連続的に小さくなるような円弧形状を有している(曲率半径の大きさ:RA1>RB1>RC1)。図7に示す例では、外径側フランジ部3aから内径側フランジ部3bに向けて徐々にボビンの周の曲率半径Rを小さくしている。
【0034】
巻線5の第1層目は、ボビン1の四隅の角部に形成したフィレット形状部3cにおいて円弧形状に沿って巻線5が巻回されるため、角部の円弧形状の曲率半径が小さいほど、より小さな曲げ角度で巻線5が巻回される。また、巻線5のボビン1の側面一周の周長は、円弧形状の大きいAA断面が最も短く、円弧形状の小さいCC断面が最も長い。以降、説明のために、このように、ボビンの周の曲率半径Rを徐々に変化させたフィレット形状部3cを、「徐変フィレット形状部」と呼称することがある。
【0035】
図8に、ボビン1に巻線5を施した本発明のモータの電機子巻線構造の一例を示す。
図8(a)は、巻線5を巻き終えたボビン1の様子を示す図である。巻線5の第1層目の巻き始めはボビン1の端部から巻線5が導入されており、数層の巻回を経て、最終層から巻線5の端部が引き出されている。
【0036】
フィレット形状部3cの径の変化方向は、巻線5の第1層目の巻線5に対して、近い角部のフィレット形状部3cは曲率半径の大きいAA断面、遠くなるにつれて曲率半径の小さいBB断面、CC断面と変化することが適切な設定となる。
このように巻線5を施すボビン1の側壁面の四隅のうちの少なくとも1の角部に曲面を有するフィレット形状部3cにおいて、ボビン1に巻回される巻線5の第1層目における巻き始めの巻線位置から巻き終わりの巻線位置に向けて、ボビン1側壁面の角部の曲面の曲率半径が小さくなる、
最初の巻線5の巻回の様子を図8(b)に示す。上記の通り、ボビン1端から巻かれ始める巻線5が、ボビン1の一層分だけ巻かれている様子を示している。このとき第1層目の巻線5は、周長の大きいフィレット形状部3c(図7(b))から、周長の小さいフィレット形状部3c(図7(d))に向けて順次巻かれていく。
【0037】
この際、巻線5がボビン1の巻回部において、巻線5が図7(a)のCC線の位置からAA線位置に向けて滑る力が発生する。この巻線5が滑る力により、図3(b)や図4のようにボビン側面に傾斜を設けた場合と同様に、巻線5の巻回処理中にボビン1の一端に向けて巻線5が移動する方向に力が働くため、巻線5間の隙間が生じにくくなり、巻線5の第1層目から最終層目までの整列性を向上させて巻線の乱れを抑制して巻線の整列性を向上させることができる。
【0038】
【表1】
【0039】
表1は、従来例(図1)~従来例(図4)までと本発明のモータの電機子巻線構造を比較した表である。本発明によれば、従来例と比較して以下のような効果がある。
【0040】
(1)本実施の形態のモータの電機子巻線構造では、従来例(図2)のようにボビン1での巻線の乱れを抑制できる。
(2)本実施の形態のモータの電機子巻線構造では、従来例(図2)のようにボビン1での巻線の乱れを抑制するために、ボビン1に巻線5の径に合わせた溝をボビン1の側端面に形成する必要がなく、同一のボビン1で多種の巻線5を巻くことが可能となる。
(3)本実施の形態のモータの電機子の巻線構造では、従来例(図3)や特許文献2の例(図4)のように、徐変フィレット形状部3cを除いて、巻回部のうちボビン1の四隅の角部のうちの少なくとも1の角部にのみ傾斜が形成されているため、巻線時にフランジ部(図5(a)の符号3a、3b)にかかる応力は小さく、反りやクラックなどの問題がなく巻線をすることが可能である。
【0041】
(4)本実施の形態のモータの電機子巻線構造では、電機子コアに形成されたスロット部を画定する面に接して設けられたボビン1の厚みは、ボビン1の角部を除いて一定であり、ボビン1の厚みが均一でなく、厚みのある部分が生じることによる巻線スペースの圧迫がなく、巻線5の占積率を低下させることなく巻線5を施すことが可能である。
(5)本実施の形態のモータの電機子の巻線構造では、角部を除いてボビン厚みは一定であり、巻線5が部分的に乱れることに起因する巻線の厚みの不均一を防止するように巻線5を施すことが可能である。
【0042】
(第2の実施の形態)
図9は、別の従来例(図9(a))の電機子巻線構造を説明するための図である。図10は、本発明の第2の実施の形態による電機子巻線構造を説明するための図である。
【0043】
図9に示すように、巻回部の一部にコアに沿った傾斜が予め設けられているボビンについて説明する。
別の従来例(図9)として、一部傾斜付ボビンと巻線5について示す。図9(a)に示すように、別の従来例(図9)電機子巻線構造では、ボビン1の一部、ここでは内径側の側面の一部が傾斜する部分傾斜部4eが形成されている。この部分傾斜部4eは、従来例(図3)、別の従来例(図4)のように、巻線5を片側に寄せる目的で設けられたものではなく、図9(b)に示すように、電機子コアの側面に沿って磁極先端の傾斜に合わせて傾斜が設けられている場合がある。モータでは回転子に対して電機子側の磁束を有効に作用させるために、多くの場合、磁極60の内周側が開いた形状に設計する。この磁極60の内周側が開いた形状部分に沿ってボビン1も部分傾斜部4eを設けることは、占積率の観点からまた多く用いられている。
しかし、この部分傾斜部4eも上述した従来例のように、巻線5の整列性を悪化させる要因となる。
【0044】
例えば、図9(c)に示したように、第2層1ターン目の巻線5Aは第1層最終巻回の巻線5と、部分傾斜部4eの壁面との間に配置されるのが好ましい。この巻線5Aは第1層目から第2層目が変化する切り替えの巻回である。そのため、図9(c)の巻線5Aの半ターン前の巻線は、図9(c)の左にある巻線となる。すなわち巻線5Bに示す位置から巻線5Aに示す位置に向けて斜め方向に巻線5が巻回されるため、巻線5は巻線時の張力により、周長の短い方へ動こうとする力(図面上方向の力)が作用する。巻線5Aは前述の所定の位置ではなく、図9(d)に示したように、巻線5Bに示すように第1層目の巻線の間に収まってしまうケースがある。これが、部分傾斜部4eによって巻き乱れを起こす原因となる。
【0045】
そこで、本発明の第2の実施の形態では、従来、部分傾斜部4eを設けていたボビン1において、部分フィレット形状部3eに続く部分に第1の実施の形態と同じく徐変フィレット形状部3cを形成し、上記問題を解決した。
図10は、本発明の第2の実施の形態として、部分フィレット形状部3eと第1の実施の形態のフィレット形状部(徐変フィレット形状部)3cとを組み合わせた例を示す図である。図10(a)は全体図であり、図10(b)は端部拡大図である。
【0046】
ただし、部分フィレット形状部3eを図10(c)の断面で切断して確認すると、図10(d)~(f)までに示したように、角部の曲面(半円)の径Rを底面側に向けて徐々に大きくなる方向に変化している。これは図7のフィレット形状部3cの外径側支持部3aから内径側支持部4bに向けての曲率半径の変化と逆の方向である。
すなわち、第1の実施の形態におけるボビン1の場合は、垂直方向に伸延するボビン壁面の角部は、巻線1ターン目に対して図7と同じく第2フランジ部3bに近い方から曲率半径の大きいフィレットであることが適切であるが、第2の実施の形態におけるボビン1の場合は、部分フィレット形状部3eとして第2フランジ部3b、すなわち巻線1ターン目に対して遠い方が曲率半径の大きいフィレットが適用されているという特徴を有する。
【0047】
部分フィレット形状部3eにおいて角部の曲面の曲率半径の変化の方向が第1の実施の形態の徐変フィレット形状部3c場合と逆方向のフィレットが適用されている理由について、そのメカニズムを以下に説明する。
【0048】
図9(c)、(d)を参照して前述したとおり、第1層目と第2層目の切り替え部の巻回に対しては、前述のように紙面上方向へ向かう力が作用してしまい、5A巻線は5B巻線の位置に移行しやすい。
【0049】
そこで、図10(c)に示すように、部分フィレット形状部3eの角部の曲面(半円)の曲率半径Rを変化する方向を、外径側フランジ部3aから内径側フランジ部3bの方向(紙面下方向)に設定することで、切り替え部の巻線に作用する力が緩和される。
その理由は、図10(d)~(f)に示すように底面(図面の下方向)に移行するにつれて部分フィレット形状部3eの曲率半径を大きくするからである。長い周長の断面に対して、曲率半径の大きなフィレット形状部3を適用することで、極力周長を短くすることができる。すなわち図9(c)の巻線5Bと巻線5Aが配置される半分の周長の相対的な差は小さくなる方向に移行する。これにより、内径側フランジ部3bから外径側フランジ部3aの方向(紙面下方向から紙面上方向)に作用する力が軽減されるため、巻線の第2層目において、1ターン目の巻線位置が内径側フランジ部3bから外径側フランジ部3aの方向にズレることを抑制することができる。
【0050】
以上、具体的な形態で説明してきたとおり、本発明は、モータの電機子巻線構造において、巻線を施すボビン側壁面の四隅のうちの少なくとも1の角部に半円状の曲面を有するフィレット形状部を設けることで、巻線整列性を向上させるとともにボビン又はインシュレータの偏応力を緩和し、カスタマイズ性を担保しつつ巻線の高占積率の達成によりモータ性能向上を図るものであり、それを具現化するものであれば、上記実施の形態に限られることなく、本発明の要旨を変更しない範囲で、任意のものに変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、モータの電機子巻線構造として利用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 ボビン
3a 外径側フランジ部(第1フランジ部)
3b 内径側フランジ部(第2フランジ部)
3c フィレット形状部(徐変フィレット形状部)
3e 部分フィレット形状部
4 壁面(ボビン)
4a 上面部
4b 底面部
4c 側端部
4d 側壁
5 巻線
6 スロット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10