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特許7431774クローズドループシステムを用いた地熱資源からの水素生産
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】クローズドループシステムを用いた地熱資源からの水素生産
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20240207BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240207BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20240207BHJP
   C25B 5/00 20060101ALI20240207BHJP
   C25B 9/05 20210101ALI20240207BHJP
   C25B 9/67 20210101ALI20240207BHJP
   C25B 15/02 20210101ALI20240207BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B1/04
C25B1/042
C25B5/00
C25B9/05
C25B9/67
C25B15/02
【請求項の数】 8
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021081896
(22)【出願日】2021-05-13
(65)【公開番号】P2021191893
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2021-09-08
(31)【優先権主張番号】63/023,894
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516268312
【氏名又は名称】グリーンファイア・エナジー・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】GREENFIRE ENERGY INC
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】アマヤ, アルバロ ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】シェーラー, ジョゼフ エイ.
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-033435(JP,A)
【文献】特表平11-508342(JP,A)
【文献】特表2017-508921(JP,A)
【文献】特表2019-513211(JP,A)
【文献】特開2020-045430(JP,A)
【文献】特開2020-067027(JP,A)
【文献】国際公開第96/023181(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/013491(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/033759(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2006/0011472(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0245729(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0031652(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0041500(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0048005(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0174581(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0285226(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0010220(US,A1)
【文献】中国実用新案第205882726(CN,U)
【文献】J. Shnell, et al.,Supercritical Geothermal Cogeneration: Combining Leading-Edge, Highly-Efficient Energy and Materials Technologies in a Load-Following Renewable Power Generation Facility,GRC Transactions,2018年,Vol. 42,publications.mygeoenergynow.org/grc/1033971.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00 - 15/08
E21B 43/00 - 43/40
F03G 4/00 - 4/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を循環させ、U字ループ構造を有するクローズドループダウンボア装置を介して電気エネルギーを加えるシステムであって、
2つの略垂直な井戸が別の井戸によって接続されており、
上記2つの略垂直な井戸又は上記別の井戸の少なくとも一部が地熱資源に配置され、そこから熱エネルギーが上記流体へ伝達され、
上記装置内の流体の圧力が高いシステムであり、上記システムは、
ポンプ及び/又は熱サイフォンを利用して、井戸ケーシング又はライナーを介して水含有流体を循環させる循環システムであって、上記地熱資源からの熱エネルギーが循環流体へ伝達され、上記流体の重量、上記流体の熱膨張、又は循環流体の圧力を高くするポンプによる追加圧力によってダウンボアの流体の圧力が増加する循環システム;
循環流体に電流を印加するよう構成された電解システムであって、高温高圧の水を用いてAEダウンボア法、SOECダウンボア法、又はPEMダウンボア法で水素ガス及び酸素ガスを生成する電解システム;
上記水含有流体が水素及び酸素へ完全に変換されるように、クローズドループへの流体の投入速度と電解反応速度とを制御することで、該流体の地表への再循環流が存在しないようにするよう構成された制御システム;及び
電気分解で生成された水素ガス及び酸素ガスを回収し、これらのガスを高圧状態のまま地表へ送達するガス回収システム
を有するシステム。
【請求項2】
SOECダウンボア法、又はPEMダウンボア法において、電解セル又はゼロギャップ電解セルを使用する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシステムを用いて、AEダウンボア法、SOECダウンボア法、又はPEMダウンボア法で水素を生産するプロセス。
【請求項4】
流体柱の高さ、若しくは熱膨張から生じるか、又はクローズドループにおいて別の方法で追加された圧力とともに、上記資源から伝達された熱、又は地表で追加された追加熱エネルギーから超臨界相の水を生成して、そのような超臨界水を電解プロセスへ供給する、請求項に記載の水素を生産するプロセス。
【請求項5】
流体を循環させ、U字ループ構造を有するクローズドループダウンボア装置を介して電気エネルギーを加えるシステムであって、
井戸が地熱資源に配置され、そこから熱エネルギーが上記流体へ伝達され、上記装置内の流体の圧力が高いシステムであり、上記システムは、
ポンプ及び/又は熱サイフォンを利用して、井戸ケーシング又はライナーを介して水含有流体を循環させる循環システムであって、上記地熱資源からの熱エネルギーが循環流体へ伝達され、上記流体の重量、上記流体の熱膨張、又は循環流体の圧力を高くするポンプによる追加圧力によってダウンボアの流体の圧力が増加する循環システム;
循環流体に電流を印加するよう構成された電解システムであって、高温高圧の水が配置され、これを用いて、AEダウンボア法、SOECダウンボア法、又はPEMダウンボア法で水素ガス及び酸素ガスを生成する電解システム;
上記水含有流体が水素及び酸素へ完全には変換されないように、クローズドループへの流体の投入速度と電解反応速度とを制御することで、水が地表へ連続的に流れ、クローズドループシステムを介して再循環できるよう構成された制御システム;及び
電気分解で生成された水素ガス及び酸素ガスを回収し、これらのガスを高圧状態のまま地表へ送達するガス回収システム
を有するシステム。
【請求項6】
SOECダウンボア法、又はPEMダウンボア法において、電解セル又はゼロギャップ電解セルを使用する、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
請求項5または6に記載のシステムを用いて、AEダウンボア法、SOECダウンボア法、又はPEMダウンボア法で水素を生産するプロセス。
【請求項8】
流体柱の高さ、若しくは熱膨張から生じるか、又はクローズドループにおいて他の方法で追加された圧力とともに、上記資源から伝達された熱、又は地表で追加された追加熱エネルギーから超臨界相の水を生成して、そのような超臨界水を電解プロセスへ供給する、請求項に記載の水素を生産するプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、クローズドループシステムを用いて地熱資源から水素を生産する装置、システム、プロセス、及び方法に関する。より具体的には、本発明は、複数のシステム、プロセス、及び方法を用いて様々な種類の井戸から地熱エネルギーを収穫することで、様々な燃料及び方法を用いて炭素排出を低減又はゼロにしつつ効率的且つ費用効果的に水素を生産する装置、システム、プロセス、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気候変動への懸念が高まり、温室効果ガスの寄与がより明らかとなるにつれ、カーボンフリー燃料として機能する水素を生産するシステムの更なる開発により重点が置かれるようになっている。太陽光及び風力からの電力は断続的であり、電力網に問題を引き起こす。これに対処するためには高価な貯蔵ソリューションが必要である。適切な貯蔵技術に支えられた場合の水素の利点としては、様々な手段で安全に輸送し、様々な形で貯蔵し、さらにそれ自体を電力の生産に使用することができるため、国内消費に使用できる点が挙げられる。水素はすでに多くの目的で使用されているが、大規模で費用効果的な水素の生産によって、炭素ガスの寄与なく、輸送、発電、及び加熱用の化石燃料を水素に置き換えることができる。
【0003】
水素は、炭素を含まない燃料として唯一知られたものであるだけでなく、エネルギー含有量も大きい。内燃機関や燃料電池で直接燃焼させる燃料として使用でき、副産物としては水しか生成しない。そのため、水素は環境に優しい再生可能エネルギーの二次形態として世界的に受け入れられている。
【0004】
しかしながら、化石燃料とは異なり、水素は自然界では容易に入手できない。水素生産には幅広い種類のプロセスが利用可能であり、使用する原材料に応じて2つの主要なカテゴリ、すなわち、従来技術と再生可能技術とに分類できる。第1のカテゴリでは化石燃料を処理し、炭化水素の熱分解と、水蒸気改質、部分酸化、及び自己熱改質という炭化水素の改質技術とが含まれる。
【0005】
第2のカテゴリには、バイオマス又は水由来の再生可能資源から水素を生産する方法が含まれる。バイオマスを供給原料として利用する場合、これらの方法は更に2つの一般的なサブカテゴリ、すなわち熱化学的プロセスと生物学的プロセスとに分類できる。熱化学的方法は更に、熱分解、ガス化、燃焼、及び液化に分類できる。水を供給原料として使用する方法は、電気分解、熱分解、及び光電気分解という水分解技術によって特徴付けられる。
【0006】
商業レベルの水素生産方法はいずれも相当なエネルギーを必要とし、典型的には化石燃料を燃やすことで供給されている。従って、地熱エネルギーを用いて再生可能な供給原料から水素を生成する場合、燃料としてもエネルギー源としても化石燃料の使用が回避されるため、地熱エネルギーを水素生産に使用できる可能性は二重に魅力的となる。更に、水素生産方法において水を供給原料として使用する場合、地熱エネルギーを使用して炭素ガスの排出を回避できる。地球にはクローズドループ地熱システムで利用できる熱が事実上無制限に存在し、継続的で信頼性が高く環境に優しい条件でエネルギーを生産できるという事実から、化石燃料を使用することなく又は温室効果ガスを排出することなく大量のエネルギーを生産することが大いに期待できる。
【0007】
当然ながら、地熱エネルギーは電気の生産に利用されることが多く、その電気を用いて、電気分解で水素を生産できる。しかしながら、このような2段階プロセスは、典型的には非効率的且つ不経済である。
【0008】
地熱資源から地表へ熱を運んで、熱エネルギーを供給して水を加熱し、それにより地表システムを用いた電気分解等の方法による水素生成を支援することも検討されている。従来の地熱技術を用いた従来の地熱システムでは、地熱熱水(ブライン)及び/又は蒸気を含む地球の割れ目を発見又は形成しなければならず、そのような熱水及び/又は蒸気がその割れ目を流れ続けなければならない。また、従来の地熱システムを使用する場合、そのような熱水及び/又は蒸気は地表へ上昇する際に膨張し、膨張によって温度が失われ、熱水及び/又は蒸気が地表へ近づくと、一般的に周囲の被覆岩に対して更に熱損失が生じる。同様に、従来の地熱技術を用いた従来の地熱システムの場合、従来の地熱井中の地熱熱水及び/又は蒸気が地表へ上昇する際に膨張するため、圧力が失われる。これらの各要因は、水素生産への地熱エネルギーの使用に悪影響を与える。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様において、本明細書に開示した実施形態は、クローズドループを形成して、該クローズドループ内で作動流体を循環させる装置とともに地熱資源に設置された井戸を利用して地熱資源を使用することで、熱を採取し、圧力を生成して、水素を生産する各種方法を向上させるシステムに関する。上記システムは、いくつかの井戸構造に、該井戸構造及び各種水素生産方法に適切な装置とともに配置してもよい。
【0010】
いくつかの実施形態において、上記クローズドループシステムは井戸において同軸状に配置され、地熱資源からの熱、上記井戸を深く貫通する水柱から生じる高圧、熱膨張等を用いた各種の化学的方法及び水分解方法によってダウンボアの水素生産を向上させるのに使用される。
【0011】
いくつかの実施形態において、上記クローズドループシステムは、井戸においてダウンボアで同軸状に配置され、ゼロギャップ電解セルを使用してもしなくてもよいアルカリ電解法(AEダウンボア法)を用いた水素生産を向上させるのに使用される。AEダウンボア法では、カソードにおいて水が導入され、そこで、分離ユニットで水から分離される水素と、水性電解質を介してアノードへ移動して酸素(O)を形成する水酸化物イオン(OH)とに分解される。
【0012】
いくつかの実施形態において、上記クローズドループシステムは、井戸においてダウンボアで同軸状に配置され、固体酸化物電解セル法(SOECダウンボア法)を用いた水素生産を向上させるのに使用される。SOECダウンボア法では、カソードにおいて予熱した蒸気が導入され、そこで固体電解質を用いて水素と酸素(O)とに分解される。記載したシステム及びプロセスのいくつかにおいて水素を生産するのに供給されたエネルギーは、地熱エネルギーによって供給され、他の供給源からの熱と一体化されて、反応温度が高くなって必要な電気が低減する。
【0013】
いくつかの実施形態において、上記クローズドループシステムは、井戸において同軸状に配置され、プロトン交換膜法(PEMダウンボア法)を用いた水素生産を向上させるのに使用される。PEMダウンボア法では、アノードにおいて電気分解のために水が導入され、そこで、膜を介してカソードへ移動して水素(H)及び酸素(O)を形成するプロトン(水素イオン、H)に分解される。
【0014】
いくつかの実施形態において、上記クローズドループシステムは、井戸において同軸状に配置され、上述したAEダウンボア法、SOECダウンボア法、又はPEMダウンボア法を用いた水素生産を向上させるのに使用されるが、超臨界相の水が使用される。これらの実施形態では、地表において十分な温度の水がクローズドループシステム内を流れ、圧力が増加し、更に、潜在的には極めて熱い地熱資源において、温度が増加することで、超臨界状態へ達する。超臨界相の水を用いることで、水を電気分解するのに必要な電気エネルギーが大きく減少するため、電気分解全体の効率が向上する。
【0015】
いくつかの実施形態において、上記クローズドループシステムは、地熱資源の深部にある2つの垂直井戸を地下で接続して形成されたU字構造であり、これにより、圧力下で熱を輸送する流体が、連続プロセスでありながらも、流体全体がガス生成物(水素及び酸素)へ変換される流速でU字井戸内を流れる。水は地表へは再循環されずに、いずれの場合も、AEダウンボア法、SOECダウンボア法、及びPEMダウンボア法を用いた水素生産を向上させる。
【0016】
いくつかの実施形態において、上記クローズドループシステムは、地熱資源の深部にある2つの垂直井戸を地下で接続して形成されたU字構造であり、これにより、圧力下で熱を輸送する流体が、連続プロセスでU字井戸内を流れることで、超臨界相であってもなくてもよい高温高圧水を、ダウンボアであってもU字ループの出力口で地表にあってもよい処理ユニットへ送達して、AEダウンボア法、SOECダウンボア法、又はPEMダウンボア法を用いた水素生産を向上させる。このような実施形態では、水素生産を最大化するように流速が制御され、未変換の水及び/又は電解質の再循環が許容、制御、及び最適化される。
【0017】
いくつかの実施形態において、記載した装置及び方法は、地熱源からの熱及び共生産からの電気を供給することで吸熱要件を供給及び最適化するよう設計されているが、他の実施形態において、記載した装置及び方法では、接触表面積を最適化する部材と吸熱・発熱並行反応を組み合わせて、両メカニズムの熱伝達を最適化することで、発熱水素生産方法を利用して吸熱性水素生産要件を満たす。この場合、地熱貯留層を熱源として用いるのに加えて、システムのベースラインの温度及び圧力を増加させることで、各水素生産方法のエネルギー要件を低減し、システム全体の効率を高める。
【0018】
いくつかの実施形態において、2つのクローズドループシステムが井戸においてダウンボアで同軸状に配置され、塩化銅法(CuClダウンボア法)を部分酸化法(POXダウンボア法)と組み合わせて用いた水素生産を向上させるのに使用される。塩化銅法は、異なる温度における一連の化学反応を伴う熱化学サイクルであり、熱を化学エネルギーに変換して水素を生産するのに最も有望なプロセスの一つを構成する。いくつかの実施形態では、各クローズドループ自体を連結して化学反応室として機能させて、発熱POXダウンボア法からの余剰熱を吸熱CuClダウンボア法で使用することで、いずれの場合も水素を生産する。
【0019】
いくつかの実施形態において、クローズドループシステムが配置される井戸は、新たに目的を持って掘削された同軸状の井戸である。他の実施形態では、既存の地熱井又は石油・ガス井を同軸状のクローズドループシステムを用いて改築する。POXダウンボア法等における水素生産プロセスの燃料又はエネルギー投入物として炭化水素を使用する場合、該炭化水素は、改築した石油・ガス井や、他の石油・ガス生産井から抽出してもよい。本システムを地熱井に設置した場合、炭化水素燃料を運び込んでもよい。
【0020】
別の態様において、本明細書中の実施形態は、地表若しくは水中ポンプ、熱サイフォン効果、又はそれらの組み合わせを用いて、生成された流体をシステム内で輸送する工程を有していてもよい。
【0021】
別の態様において、本明細書中の実施形態は、地熱熱水を作動流体として生産又は共生産し、上述した各種水素生産方法で使用できる火力又は電力を地表で生産するプロセスに関し、上記方法は地表で実施しても、井戸に配置されたクローズドループシステムでダウンボアで実施してもよい。上記プロセスは、貯留層に対して開口しているライニング済みの井戸又は穴で構成された生産導管内に熱交換器を配置する工程を有していてもよく、上記熱交換器は、外部熱交換導管と内部導管とを有する。作動流体は、外部熱交換導管から内部導管へ循環してもよく、その逆であってもよい。外側の裸孔又は井戸ケーシングと内側の熱交換器とで形成された環状部から井戸が蒸気又は液体熱水を生産できるいくつかの実施形態において、上記熱水は地上へ産出され、電気エネルギーを生産するのに使用されてもよく、該電気エネルギーを上述した各種電解法で使用できる。いくつかの実施形態において、その産出された熱水を使用して熱エネルギーを送達し、上述した水素生産方法で使用される水等の流体を予熱してもよい。
【0022】
他の態様及び利点は、以下の記載及び添付の特許請求の範囲から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本明細書に記載の実施形態に係る、AEダウンボア法で水素を生産するのに使用される同軸ダウンボアクローズドループシステムの図である。
図2】本明細書に記載の実施形態に係る、AEダウンボア法で水素を生産するクローズドループ地熱システムのプロセスフロー図である。
図3】本明細書に記載の実施形態に係る、ゼロギャップセルを用いたAEダウンボア法で水素を生産するのに使用される同軸ダウンボアクローズドループシステムの図である。
図4】本明細書に記載の実施形態に係る、ゼロギャップセルを用いたAEダウンボア法で水素を生産するクローズドループ地熱システムのプロセスフロー図である。
図5】本明細書に記載の実施形態に係る、SOECダウンボア法で水素を生産するのに使用される同軸ダウンボアクローズドループシステムの図である。
図6】本明細書に記載の実施形態に係る、SOECダウンボア法で水素を生産するクローズドループ地熱システムのプロセスフロー図である。
図7】本明細書に記載の実施形態に係る、PEMダウンボア法で水素を生産するのに使用される同軸ダウンボアクローズドループシステムの図である。
図8】本明細書に記載の実施形態に係る、PEM法で水素を生産するクローズドループ地熱システムのプロセスフロー図である。
図9】水平電極位置の完全変換設計流速システムにおいてAEダウンボア法で水素を生産するのに使用されるU字ループ状クローズドループシステムの図である。
図10】垂直電極位置の完全変換設計流速システムにおいてAEダウンボア法で水素を生産するのに使用されるU字ループ状クローズドループシステムの図である。
図11】本明細書に記載の実施形態に係る、完全変換設計流速システムにおいてAEダウンボア法で水素を生産するクローズドループ地熱システムのプロセスフロー図である。
図12】連続流及び再循環とともにゼロギャップセルを用いたAEダウンボア法で水素を生産するのに使用されるU字ループ状クローズドループシステムの図である。
図13】連続流及び再循環を用いたSOECダウンボア法で水素を生産するのに使用されるU字ループ状クローズドループシステムの図である。
図14】連続流及び再循環を用いたPEMダウンボア法で水素を生産するのに使用されるU字ループ状クローズドループシステムの図である。
図15】本明細書に記載の実施形態に係るバッチプロセスで使用される、AEダウンボア法、SOECダウンボア法、又はPEMダウンボア法で水素を生産するU字ループ状クローズドループ地熱システムのプロセスフロー図である。
図16】本明細書に記載の実施形態に係る、CuClダウンボア法とPOXダウンボア法との組み合わせで水素を生産するのに使用される同軸ダウンボアクローズドループシステムの図である。
図17】本明細書に記載の実施形態に係る、CuClダウンボア法とPOXダウンボア法との組み合わせで水素を生産するのに使用されるクローズドループ地熱システムのプロセスフロー図である。
図18】本明細書に記載の実施形態に係る、地熱熱水を共生産して電力生産及び熱水リサイクルを行いつつ各種方法で水素を生産する同軸ダウンボアクローズドループシステムの図である。
図19】U字ループシステムにおいてエネルギーを共生産するシステムの簡略化プロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上で概説した通り、水素を生産する方法としては様々なものが存在しているが、いずれの水素生産方法も、熱エネルギー、電気エネルギー、又はその両方により供給されるエネルギーを極めて大量に必要とする。また、水素生産方法の多くは、高温高圧で実施した場合、必要なエネルギーがより少なく、より効率的である。
【0025】
本明細書中の実施形態は、水素生産をダウンボアで実施できるクローズドループ地熱システムを対象としている。水素を生産するダウンボアプロセスでは、ダウンボアで利用可能なより高熱且つ高圧の条件を利用し、最適化できる。例えば、熱水及び/又は蒸気を回収して熱エネルギーを採取し、水素をダウンボアで生産すると、従来の地熱システムに伴う熱及び圧力の損失を回避できる。また、本明細書中のシステム及びプロセスは高温を達成することもでき、外部から電気を供給する必要をなくすことができる。更に、ここでの実施形態は、発熱性生産方法に由来する熱を採取、貯蔵、及びリサイクルした後、そのような熱を使用することで、同時に又は段階的に吸熱性水素生産方法へ電力を供給できる。これらの利点及び他の利点のうち1つ以上は、本明細書中のシステム及びプロセスによって実現できるものであり、以下で更に説明する。
【0026】
クローズドループ地熱システムでは、地熱資源の深部へと掘削された井戸を採用しているため、熱エネルギーを採取でき、クローズドループにおける水柱又はポンプから高レベルの静水圧を生成し、維持できる。更に、地熱資源に配置されたクローズドループシステムは、正確に制御された圧力及び温度で加熱された流体を地表へ生成することで、多くの水素生産方法で必要な電気エネルギーを地表で生成できる。クローズドループ地熱システムのこれらの主要な特徴を利用することで、従来の水素生産方法と比較して、ダウンボアの水素生産を向上できる。水素が非炭素系の再生可能供給原料(水等)から生成される場合、燃料、反応エネルギー源、及び水素生産の産出物としての炭素を回避できるため、水素生産に地熱エネルギーを使用できる可能性はさらにいっそう魅力的となる。
【0027】
同様に、クローズドループ地熱システムには、資源に割れ目、浸透性、及び水が存在するかどうかに関係なく、また、存在する場合には水が長期間循環して、循環流体に熱を送達できるかどうかに関係なく、資源から熱を吸収できる流体を循環させられるという利点がある。対照的に、クローズドループ地熱システムは高温岩体で作動でき、従来の熱水システムを制限する各種の資源条件には関係なく長寿命となる。
【0028】
地熱貯留層において、高温流体は一般的に途方もない圧力下にあるが、この圧力源は被覆岩(地盤圧力)、地下水面(静水圧)、又はこれら2つをいくらか組み合わせたものである。蒸気及び/又は熱水で構成された地熱流体が井戸を介して地熱貯留層から生成されると、流体の圧力が低下する。実際に、この圧力差は、地熱蒸気又は熱水を地表へと押し上げるものである。蒸気又は熱水の圧力及びエンタルピーに応じて、蒸気又は熱水は井戸を上昇する際に膨張したりフラッシュ蒸気になったりする。このことが生成流体のエンタルピーに悪影響を与えることはないが、生成した蒸気と熱水との混合物の温度は低下する。
【0029】
地熱生産井にダウンボアクローズドループシステムを挿入することで、深部のより高温な地熱蒸気及び熱水温度を利用できる。井戸が自然には蒸気及び熱水を地表へ産出していない場合であっても、流体がクローズドループ内を循環するので、資源深部の高熱をクローズドループシステム内の流体に伝達できる。これにより、クローズドループシステム内を循環している流体は、地熱が地表へ産出されて地表システムに伝達されることで水素生産に熱エネルギーを供給する場合と比較して、各種方法で水素を生産するのに必要な熱エネルギーの全体又は一部をより効率的に且つ動的反応及び流れを改善しつつ獲得することができる。
【0030】
地熱資源にダウンボアクローズドループシステムを挿入し、該クローズドループシステム内で流体を循環させると、上部にある流体柱の静水圧によって、クローズドループの底部に向かって流体の圧力が高くなる。これにより、クローズドループシステム内を循環する流体が、各種方法で水素を生産するのに必要な高圧をより効率的に且つ動的反応を改善しつつ有することができるため、地表で従来の水素生産システムにおいて同様の圧力に到達するのに必要となるような流体を圧縮するための追加エネルギーが必要でなくなる。更に、クローズドループシステムから地表へ送達される水素を高圧のままにできるため、輸送等の商業目的で水素を圧縮するのに必要とされる追加エネルギーの必要性を低減できる。このようなクローズドループシステムの高圧特性は地熱資源とは独立しているので、井戸がどのような蒸気又は熱水を生産するかにかかわらず、地熱井で高圧を形成できる。結果として、クローズドループシステムは高温高圧を供給することで、非生産地熱井若しくは石油・ガス井から、又は世界中にある地熱資源の大部分を構成する高温岩体地熱資源から水素を生産するのを支援できる。
【0031】
電気分解は、精製工程をほとんど又は全く追加する必要のない非常に純粋な水素を生成するために各種水素生産方法において使用されており、そのような方法は、典型的には高温においてさらにいっそう効率的である。本明細書に記載した電解システムは、熱エネルギーに加えて電気分解用の電気エネルギーを生産することでそのような高温を達成できるため、水素精製のために外部から電気を供給する必要を完全に又は部分的になくせるという利点がある。
【0032】
大半の水素生産方法は吸熱性であるが、部分酸化等の本明細書に記載したいくつかの方法は発熱性である。本明細書に記載のシステム及び方法の利点としては、単一のシステムによって、発熱性生産方法に由来する熱を採取、貯蔵、及びリサイクルしてその熱を使用することで、同時に又は段階的に吸熱性水素生産方法へ電力を供給できる点が挙げられる。
【0033】
いくつかの実施形態において、クローズドループシステムは井戸において同軸状に配置され、地熱資源からの熱及び流体柱からの圧力、熱膨張、及びポンプ又は熱サイフォン効果による潜在的な追加圧力を用いることで、ダウンボアで採用された各種の化学的及び電気分解的水素生産方法を向上させる。図1図3図5図7図16、及び図18は、このように各種方法における水素生産で使用されるクローズドループシステムの同軸配置を表す。クローズドループシステムを井戸に設置するのは比較的容易であり、GreenFire Energy社がカリフォルニア州コーゾの地熱井を用いたデモプロジェクトで実証している。システム全体を技術的・経済的に最適化するのに最も適した資源及び地表条件に合わせて目的を持って掘削された井戸を使用できる。しかしながら、ほとんどの地熱井や多くの石油・ガス井は、本明細書中で提案されているようなクローズドループシステムを挿入し、地熱資源、井戸の履歴、井戸の仕様、並びに既存の地表電力及びインフラに最も適した水素生産方法を以下の方法から選択することで、水素生産に転用できる。そのように転用された井戸の多くは、本来の目的では全く生産性がないか、わずかにしか生産性がないものであり得るが、井戸がすでに掘削、ケーシングされており、井戸及び周辺の地熱資源の特徴及び履歴がよく知られており、容易に検証できるのであれば、非常に低コストでクローズドループ水素生産システムを用いて改築できる。
【0034】
電解プロセスが起こる図示された全ての実施形態において、電圧差によって電荷供給部1から電流が注入され、電子が電流供給カソード2を通過し、電解質を通ってアノード3へと移動する。ボアホールを掘削した後、井戸ケーシング4を設置した。地熱貯留層からの地熱熱水及び蒸気12が存在していてもよく、存在する場合、井戸ケーシング及びクローズドループケーシング5の間の環状部を上昇して、クローズドループに熱を供給し、井戸の底部から地表へ熱を輸送し、そこで電気を共生産するのに使用できる。資源に地熱熱水及び蒸気が存在しない場合、井戸ケーシング5とクローズドループケーシング7とは同じであってもよく、岩体からの熱をクローズドループに直接伝達してもよい。いくつかの実施形態において、非導電性セントラライザー10が同軸管部材を支持することで、電極と他の導電性部材とを確実に分離させる。いくつかの実施形態において、ダウンボア圧力を保持しつつ流体及びガスを地表へ戻すのを補助するのに適切な電動水中ポンプ(ESP)20を追加してもよい。地表面は19で表す。具体的な実施形態の内部では、様々なボアホール及び他の条件に応じて最適な結果を得るために、様々な部材、構造、プロセス、及び方法を使用してもよい。
【0035】
いくつかの実施形態において、クローズドループシステムは井戸において同軸状に配置され、アルカリ電解法(AEダウンボア法)を用いた水素生産を向上させるのに使用される。いくつかのそのような実施形態において、AEダウンボア法には、ゼロギャップアルカリ電解セルをダウンボアで使用する装置及びシステムが含まれ、アルカリ電解質水が電気分解され、そこで水素生成物ストリームと酸素生成物ストリームとに分割される。
【0036】
図1に表すように、水及びアルカリ電解質11がカソード9において導入される。この具体的なケースの場合、カソードはダウンボアに延びる多孔管9で構成され、地表で電解液供給部11に接続されている。図1はまた、カソード9からアノード6に移動するプロセス電子を示している。電極間では電解液11を含む水が分解されて、水素14及び酸素15が形成される。電解液は、ガス分離膜8を支持、ライニングする別の多孔管7を通過する。この膜は電解質を透過し、水酸化物イオン(OH)は水性電解質中を移動でき、そこで酸化されて酸素(O)を形成し、プロトンは還元されて電子を獲得し、水素(H)を形成する。しかしながら、この膜は、それぞれ静電的に反対の方向又は軸の異なる側で生成・形成されたガス(水素及び酸素)は透過しない。また、電解液11の投入流速は、生成物流速形成と等しくなるように制御され、水位13は一定且つシステム変換の最適レベルに保持され、ガスは重力及び真空誘導力によって地表へ輸送される。水素(H(g))16及び酸素(O(g))17は地表で特定のストリームに回収される。長いボアホールクローズドループシステムに沿った電極と電解質との接触表面積が大きいため、高い変換効率が期待される。また、地熱流体を地表18で回収することで、1で電解ループを再開するための電力を従来のシステムで生産したり、電解質を補給したり、地熱資源へ再注入したりしてもよい。
【0037】
図2は、AEダウンボア法のプロセスフロー図である。ダウンボア電解システム21は井戸22によって加熱され、共生産された地熱熱水及び蒸気はサイクロンセパレータ23で分離され、タービン24へ送られる。そこで電気が生産され、その一部がダウンボア電解装置21へ供給される。タービン24から、復水器25、次いでポンプ26へと流体が送られて、排熱された凝縮水の再循環を電解質21として輸送し、ループを閉じる。図2のストリームは、共生産流27、地熱システムから分離された蒸気28、排熱された水28、凝縮水30、及び揚水要求量31を表す。タービン24からは電気32が供給され、井戸22からは熱ストリーム33が供給される。該サイクルの生成物は、それぞれ水素ストリーム34及び酸素ストリーム35で示されている。そして、サイクロンセパレータから分離された熱水36は、電解ループの再開に利用できるか、あるいは地熱資源に再注入される。
【0038】
図3に示す別の実施形態のシステムにおいて、AEダウンボア法は、電解反応に対する全体的な抵抗を低減するのに使用できるゼロギャップセル39を用いた電気分解を含む。一般的な部材のいくつかは図1に関してすでに説明したが、電解部材の構造が異なることから、他のいくつかのもの、特に横断ゼロギャップセルで接続されたカソード3とアノード38は変化している。この構造では、電解質及び水11が地表で導入され、管42を通ってクローズドループケーシング5の底部まで輸送される。上昇する流体をゼロギャップセルに通過させ、各セルの内部で水素及び酸素を別々の管40及び41へ分離して、それぞれ地表で水素産出物43及び酸素産出物44を送達する。図4はゼロギャップセルAEダウンボア法のプロセスフロー図である。これは図2のプロセスフロー図と同じであるが、ダウンボア電解システム21をゼロギャップ・ダウンボア電解システム45に置き換えている。
【0039】
いくつかの実施形態において、クローズドループシステムは、井戸において同軸状にダウンボア配置され、固体酸化物電解セル法(SOECダウンボア法)を用いた水素生産を向上させるのに使用される。図5に示す通り、電荷供給部1からの電気は、固体酸化物電解セル47のカソード38に供給される。流体46がパイプ42においてクローズドループシステムの底部へ導入され、そこでその温度及び圧力が増加し、固体酸化物電解セル47へと上昇する。そこで水素及び酸素に分解され、次いでそれぞれ分離ユニット40及び41で水から分離され、それぞれ産出導管43及び44で地表へ送達される。図6はSOECダウンボア法のプロセスフロー図であり、ダウンボア電解システム21を固体酸化物電解セル47に置き換えた以外は図2のプロセスフロー図と同じである。
【0040】
いくつかの実施形態において、クローズドループシステムは、井戸において同軸状に配置され、プロトン交換膜法(PEMダウンボア法)を用いた水素生産を向上させるのに使用される。図7に示す通り、液体又は蒸気としての水ストリーム49がパイプ42へ導入され、クローズドループシステムの底部まで下降し、そこで地熱勾配、水柱、及び/又はポンプ支援によって所望の温度及び圧力が増加する。高分子電解質膜セルが、上昇流方向を横断するように直列配置されている。電気が電荷点1からカソード3及びアノード2へ供給され、そこで電気分解によって水が水素プロトン又はイオン(H)へと分解され、これが膜50を通って近くのカソード38へ移動し、そこでHを形成し、分離ユニット40で流体から分離され、導管43で地表へ送達される。酸素(O)は分離ユニット41で回収され、別の導管44で地表へ送達される。プロトン交換膜電解反応器は、井戸の底部にあっても、裸孔に沿っていても、又は地表にあってもよい。図8はPEMダウンボア法のプロセスフロー図であり、ダウンボア電解システム21をプロトン交換膜反応器51に置き換えた以外は図2のプロセスフロー図と同じである。
【0041】
いくつかの実施形態において、地表で十分な温度の水がクローズドループシステムを流れ、圧力が増加し、潜在的には非常に高温の地熱資源において、温度が十分に増加して超臨界状態に達する。超臨界状態の水の場合、本明細書中で特定した方法を用いて水を電気分解及び分解するのに必要な電気エネルギーは大きく低減されるため、水の電気分解の全体的な効率が向上する。
【0042】
いくつかの実施形態において、クローズドループシステムは、地熱資源からの熱と、流体の重量、流体の熱膨張、及び必要に応じて循環流体の圧力を高くするポンプによる追加圧力によって生じるダウンボアの流体の圧力増加とを用いて、ダウンボアの水素生産を向上させるのに使用できるU字ループ構造で井戸において配置される。図9、10、12、13、及び14は、このように各種方法における水素生産で使用されるクローズドループシステムのU字ループ配置を表す。システム全体を技術的・経済的に最適化するのに最も適した資源及び地表条件に合わせて目的を持って掘削された井戸を使用できる。地熱井や石油・ガス井のなかには、U字ループの垂直部分として機能させ、横方向に掘削したセグメントで相互接続して改築することで、水素生産に転用できるものもある。そのような井戸は、目的を持って掘削されたものであれ既存の井戸を改築したものであれ、地熱資源、井戸の履歴、井戸の仕様、並びに既存の地表電力及びインフラに最も適した水素生産方法を以下の方法から選択しつつ、本明細書で記載したように掘削され、完成されるだろう。このような改築のために選択された転用井戸はいずれも、本来の目的では全く生産性がないか、わずかにしか生産性がないものであり得るが、井戸がすでに掘削、ケーシングされており、井戸及び周辺の地熱資源の特徴及び履歴がよく知られており、容易に検証できるのであれば、非常に低コストでクローズドループ水素生産システムを用いて改築できる。
【0043】
いくつかの実施形態では、水平又は垂直電極位置のAEダウンボア法、AEゼロギャップセル、SOECダウンボア法、及びPEMダウンボア法等の各種方法を用いて、図9、10、12、13、及び14に示したU字ループ構造から水素を生産できる。
【0044】
いくつかの実施形態において、図9に示す通り、ボアホール地熱システムの水平接続部52内でAEダウンボア法が採用される。電極(カソード53及びアノード54)は水平に設置され、セントラライザー10で支持されている。水及び電解質11は、水素ガス及び酸素ガスの生成速度に合わせて設定された最適な流速でパイプ59を介してダウンボア注入される。考えられる水面・電解質面13も図9に示されている。AEダウンボア法で上述したのと同様に、カソード53とアノード54との間で電気分解が起こる。電極間には環状格子56が設置されて、各電極側で形成された水素及び酸素を分離するとともに、この格子の周囲にライニングされた環状ガス分離膜55を支持している。この膜は、ガスは透過しないが、電解液は透過する。水素ガスはパイプ57で回収され、地表出口60まで上昇し、酸素ガスはパイプ58で回収され、地表出口61まで上昇する。
【0045】
図10は、U字ループ構造の片側に垂直電極位置のAEダウンボア法を用いて水素を生産する実施形態を表す。水及び電解質は、水素ガス及び酸素ガスの生成速度に合わせて設定された最適な流速で11において注入される。垂直管状アノード62は、井戸ケーシング4の内側ライニングを構成する。管状カソード63と、ガス分離膜8を有する多孔管7とが、井戸において同軸状に配置されて同心管を構成している。セントラライザー10は、同心管を支持し、分離する。電解液は、電解質を透過するガス分離膜8を支持、ライニングしている同心状多孔管7を通過する。水酸化物イオン(OH)は水性電解質中を移動でき、そこで酸化されて酸素(O)を形成し、その結果、水素プロトンが還元されて電子を獲得し、水素(H)を形成する。ガス分離膜8は、膜の反対側にも形成されるガス(水素及び酸素)を透過しない。水素ガスH(g)は、カソード管63と膜8との間の環状部でその地表の出口65へと地表へ輸送される。酸素ガスO(g)15は、多孔管7と井戸ケーシング62との間の環状部で地表へと輸送される。図11は、完全変換のU字ループAEダウンボア法のプロセスフロー図であり、ダウンボア電解システム21をアルカリ電解システム66に置き換えた以外は図2のプロセスフロー図と同じである。
【0046】
いくつかの実施形態では、図12、13、及び14に示すU字ループ構造のシステムを使用できる。これらは、流体再循環を行う連続流で作動するように設計されているという点で、図9及び10に示すシステムとは異なるダウンボア電解システムである。
【0047】
再循環を行う連続流でゼロギャップ電解を行うU字ループAEダウンボア法を図12に示す。新鮮な水/電解質を76において注入する。水/電解質は水平部67を通過し、そこで地熱資源によって加熱され、流れを横断するように配置されたゼロギャップセル77を通過させられる。ゼロギャップセル内部では流れが分割され、カソード及びアノードをそれぞれ表す垂直電極68及び69から供給される電圧差及び電流に支持されて電気分解が起こる。セルで生成された水素は出口73を有する導管へと回収され、生成された酸素は出口74を有する導管へと回収される。未変換の水/電解質は、その導管及び出口75を流れ、この流れからのストリームは、ストリーム76とともにシステムへリサイクルしてクローズドループで再循環できる。
【0048】
いくつかの実施形態では、図13で示すように、U字ループ構造と、連続流及び再循環とを用いたSOECダウンボア法を採用できる。水/電解質が81において注入され、水平部67を通過し、そこで地熱資源によって加熱された後、固体酸化物電解セル(SOEC)ユニット82へ流入する。このSOECユニットはダウンボアに配置しても、地表に配置しても、これら2つの位置の間に配置してもよい。いずれの場合も、連続プロセスにおける水の注入量を最適化することで、最適な再循環コストで最大の水素転換を得る。SOECユニット82で電気分解した後、カソード68から生成された水素はパイプ70で輸送された後、出口78で地表へ送達される。同様に、アノード69から生成された酸素はパイプ71を通って輸送され、出口79で地表へ送達される。SOECユニット82からの未変換流体はパイプ72を通過し、出口80から投入ストリーム81へ再循環させてクローズドループプロセスを再開できる。
【0049】
いくつかの実施形態では、図14で示すように、連続流及び再循環を用いたU字ループ構造のPEMダウンボア法を採用できる。水/電解質が86において注入される。流体は水平部67を通過し、そこで地熱資源によって加熱された後、流れを横断するように平行配置されたプロトン交換膜(PEM)ユニット87を通過させられる。PEMユニット内部では流れが分割され、カソード及びアノードをそれぞれ表す垂直電極68及び69から供給される電圧差及び電流に支持されて電気分解が起こる。PEMユニットで電気分解した後、水素は導管70で回収され、出口83へ上昇する。同様に、酸素は導管71で回収され、出口84へ上昇する。その出口85からの未変換の水/蒸気は、ストリーム86とともにシステムへリサイクルしてクローズドループプロセスを再開できる。
【0050】
図12、13、及び14でそれぞれ示すような再循環とともに連続流を用いたゼロギャップ電解を行う又は行わないAEダウンボア法、SOECダウンボア法、及びPEMダウンボア法のそれぞれでダウンボア水素生産するためのU字ループ構造のプロセスフロー図を図15に示す。電解法88は、3つの方法のそれぞれについて前述した各実施形態及び部材を表している。図15は、ダウンボア電解システム21を電解法88に置き換えた以外は図2のプロセスフロー図と同じである。
【0051】
本発明のさらに他の実施形態において、向上した熱力学的条件での水分解プロセスのためにクローズドループダウンボア熱交換器からの予熱済み補給水を使用して、地表でAEダウンボア法、SOECダウンボア法、及びPEMダウンボア法のそれぞれを用いて、U字ループ構造から水素を生産できる。また、この構造及びプロセスでは、温度及び圧力を正確に制御して水を超臨界状態とすることで、電気分解のエネルギー要件を大幅に削減できる。
【0052】
本発明の別の態様は、流体を循環させ、ダウンボア反応チャンバとして機能する装置及びシステムを用いてクローズドループを同軸状に構成することで、塩化銅反応法(CuClダウンボア法)、部分酸素化反応法(POXダウンボア法)、及び/又は自己熱改質法(ARダウンボア法)を組み合わせて水素を生成する化学反応を行うことができるというものである。これらの方法はそれぞれ、地熱資源からの熱、クローズドループシステム内の高圧、及び該方法における各種の吸熱・発熱化学反応を利用して、水素生産を向上させる。図16は、これらの化学反応の組み合わせをおおまかに説明したものである。
【0053】
本発明の別の実施形態では、図16に示す同軸クローズループ構造において、蛇管90において発熱性の炭化水素酸化反応が起こる。この螺旋状蛇管90は、ダウンボアCuClサイクル経路の一部である同心管89に巻き付けられている。同心管と螺旋管は常に直接接触するよう互いに固定されているので、両管間の熱交換が最大化される。両管は、井戸ケーシング4内部に配置されているクローズループケーシング5によってダウンボアで囲まれている。クローズドループケーシング5と井戸ケーシング4との間にある環状部で輸送される流体91は、上昇する地熱井流体(水、蒸気、及び/又は熱水)である。クローズドループケーシング5と同心管89との間で輸送される流体92は銅塩素流体であり、この流体は反応機構の進行段階ごとに組成が変化する。螺旋管で下方に輸送される流体93は、部分酸化燃焼反応において反応する炭化水素と酸素(すなわち、メタンと酸素)の混合物である。ストリーム12及び94はそれぞれ、貯留層からの地熱流体の投入物及び産出物である。ストリーム102、120、及び136はPOX法の投入物であり、ストリーム103は産出物である。CuClサイクルの投入ストリームは100であり、産出ストリームは(以下で例を挙げて説明する各工程において)95、98、及び101である。バルブ99A、99B、及び99Cを用いて、流れ方向を制御し、プロセスの適切な段階で特定の反応機構条件について特定のストリーム及び産出物を制御する。ストリーム96は、(分離プロセス後の)リサイクルストリームを含んでいてもよく、それにより、CuClサイクルの工程に応じた望ましい条件で流体がシステムへ復帰する。地表電解ユニット97は、各種の適切な電解法を備えることができる。
【0054】
図17は、CuClダウンボア法とPOXダウンボア法との組み合わせで使用されるプロセスフロー図である。ダウンボア井戸104は、熱交換プロセス105、CuClダウンボア法の初期段階106、及びPOX法の初期段階107という3段階に分けられるダウンボアクローズループシステムを通過する水/蒸気129を共生産できる。一連のCuClサイクル経路に続いて、ストリーム128が106のダウンボアプロセスに供給され、そこで高温で加水分解が起こる。CuOClが121でバルブ/ディバイザ108へ流れ、バルブ/ディバイザ108が、(サイクルの工程に応じて、又は所望通り生成物を分離するための特定の温度条件でサイクルが作動する場合に)2つの異なる部材へ流れを送達する。ストリーム123が分解反応器へ進み、そこで酸素が形成、分離される109。分離された酸素は、POXサイクルで使用してもよいが、以下で説明するようなサイクルへ接続されることとなる。別の工程として、分解反応器109へのストリームと平行して、バルブ/ディバイザ108は、平行ストリーム122を電解システム111へ、該電解プロセスに望ましい温度で送達する。ストリーム124は、分解反応器109を塩素化反応器110と接続する。ストリーム125は、電解システム111を塩素化反応器110と接続し、塩素化反応器110は、電解システム111の副生成塩化物と分解反応器109の生成物とを用いて銅塩素溶液を再生することで、ストリーム126で輸送されるCuClを生成する。このストリームは新鮮な水ストリーム134と混合されて、ポンプ113によって溶液127で輸送されて、ダウンボアCuClサイクルが完了する。電解システム111は、本サイクルの所望の生成物である水素ストリーム132を生成する。このようにバルブ/ディバイザ108が作動してサイクル中の複数の工程を制御するとともに、選択した機構の反応温度に関連している。例えば、図16を参照すると、ストリーム92において別の特定の所望分離温度に達したとき、バルブ99を用いて流れを第2循環経路のサイクルへ分離又は流入させ、そこでストリームを電解システム111へ直接送達してもよい。再び図17を参照すると、塩素化反応器110の生成物はミキサータンク112へ進んでもよく、そこでサイクルの初期溶液が復水器116から来る新鮮な水134で再生される。一連の共生産地熱流体経路に続いて、井戸104からの共生産流体がクローズドループ装置に沿って上昇し、加熱されてストリーム129の熱力学的条件に達し、セパレータ114を通過する。液相138は、再注入しても別の交換プロセスで使用してもよい。気相流体130はタービン115を通過して電力を生産してもよく、その電力は131の経路を取って電解システム111で使用してもよい。また、生産された電力は電気ネットワークに送達されてもよく、排熱流体133は復水器116へ進んでもよく、産出ストリーム134はCuClサイクルで使用され、112で混合されてもよい。一連のPOX法経路に続いて、ストリーム135で分解反応器109から分離された酸素は、117で圧縮され、ストリーム136で螺旋状反応器107へ流れ、そこで部分酸化法によって炭化水素(メタンであってもよい)と反応するが、自己熱改質法で炭化水素及び水と反応することもできる。井戸104が石油/ガス田に配置されている場合、別の石油/ガス生産井119から螺旋状反応器107へ炭化水素を供給してもよい。また、新鮮な酸素によって、反応器107で起こってもよいPOX反応又は自己熱改質法の酸素要件を補完してもよい。ストリーム137で示される反応器107の生成物は、圧力変動吸着(PSA)プロセス118で分離して、水素140及び合成ガス141を並行生成物として生成してもよい。
【0055】
図16に示した実施形態は、各種の熱化学的分解サイクル又はメカニズムで使用できる。これらのサイクル又はメカニズムは、低温、中温、又は高温で起こってもよい。例えば、600K~800Kの中温範囲での銅塩素サイクルの反応機構の場合、反応プロセスは、塩化銅(II)(CuCl)の加水分解、オキシ塩化銅(CuOCl)の分解、塩化銅(I)(CuCl)の塩素化、及び塩化水素(HCl)の電気分解という4つの工程で構成される。この例では2つのプロセス工程が予想される。第1のプロセス工程では、ストリーム102、120、及び136中のメタン(CH)及び酸素(O)の流速を調整することで、ダウンボア反応器89で起こってもよいCuOCl分解反応の温度要件を効果的に制御する。螺旋管90からの反応産出物は、ストリーム103中の水素(H)及び一酸化炭素(CO)である。螺旋管内の流速及び温度が制御され、安定した水(HO)及び塩化銅(II)(CuCl)が投入ストリーム100に注入される場合、バルブ99Aによって流れをダウンボア装置内へ進入させるべきである。加水分解及び加熱プロセスもダウンボアで起こってもよい。螺旋管での発熱反応によって、上昇ストリーム92の温度が、CuOCl分解反応にエネルギーを供給するのに必要な特定の反応温度へ到達するようにダウンボア反応器89へ熱が伝達されることとなる。ディバイザ108は、ストリームを産出物95及び122として分割する。ストリーム95は、地表のオキシ塩化銅分解ユニット109へ進んでもよく、そこで分離酸素136を回収し、リサイクルし、ストリーム102と、空気からの新鮮な酸素ストリーム120とともに部分酸化蛇管内へ圧縮してもよい。ストリーム95は、電解システムへ直接進む塩化水素である。109から分離された塩化銅(I)(CuCl)96は、塩素化反応器110内のサイクルへ再注入される。電解システムの起動時には、CuCl又はストリーム0をストリーム100とともに装置内へ注入して、連続サイクルを作動させる必要がある。電解システムから塩素が生成されたら、ストリーム0を止めてもよい。第2工程のサイクル経路では、流れ102、120、136、及び139を制御することになるか、あるいはARダウンボア法をPOXダウンボア法と組み合わせることで、螺旋状反応器90の温度を下げ、結果的に89の温度を下げることができる。ストリーム92は第2工程の反応に望ましい温度へ達するべきであり、ダウンボアで生成された塩化水素(HCl)ストリーム122は電解システム111へ流れる。水素がストリーム98で生成され、塩素がダウンボアで注入される。CuClサイクルで分解される水要求量は、凝縮水100から供給されてもよい。
【0056】
図16の92に示す塩化銅(CuCl)及び水を含有する流体を循環させる循環システムは、チューブインチューブアセンブリであってもよいクローズドループ配管システムを介した熱サイフォン効果及び/又はポンプを利用したものであってもよい。チューブインチューブアセンブリでは、内管の流れが内管周囲にある環状部の流れと隔離されている。上記クローズドループ配管システムは、ダウンボア熱交換器(DBHX)として機能し、地熱資源深部の井戸に設置されており、地熱資源からの熱エネルギーが循環流体へ伝達され、流体の重量、流体の熱膨張、及び必要に応じて循環流体の圧力を高くするポンプによる追加圧力によってダウンボアの流体の圧力が増加する。このような循環システムで吸熱加水分解反応が起こることで液体CuCl及び水が高温高圧で反応して、HCl及び固体CuOClが形成される。この反応に続いて吸熱分解反応が起こり、固体CuOClがCuCl及びOに変換される。また、固体CuCl及びClガスの発熱塩素化反応が起こって、固体CuClが形成される。最後に、電解反応の水素生成反応が起こって、HClがHガス及びClガスに分解される。
【0057】
別の循環システムが図16に示されており、上述したDBHXの周りに螺旋状等の密接した状態で巻かれた配管システム90でメタン(CH)を循環させるものであり、発熱部分酸化反応(POX)が起こることでCHが酸化されてCOガス及びHガスが形成される。この燃焼による熱は、螺旋状クローズドループを介して内管89へ伝達され、内管89を通ってCuClがCuClサイクルで下降することで、図16に記載した吸熱加水分解及びオキシ塩化銅分解反応のエネルギーを供給する。
【0058】
上述したDBHXの周りに螺旋状等の密接した状態で巻かれた同じクローズドループ配管システム90を、ストリーム102でシステムに水蒸気を加えて本クローズドループ内のメタンから吸熱反応でH、CO、及びOを生成させることで、ARダウンボア法を構成する自己熱改質反応に用いることができる。螺旋状クローズドループ配管システムを用いてPOXダウンボア法又はARダウンボア法で水素を生成するかどうかは、地熱資源から及び地熱資源への熱伝達、POXの発熱処理に由来する余剰熱をCuClサイクルで採取する程度、ダウンボア圧力、並びに動作上の考慮点等、様々な要因に左右される。しかしながら、POXダウンボア法で螺旋状クローズドループ配管システムにおける及び該システムからの温度を上げ、ARダウンボアシステムでその温度を下げるという柔軟性は、システムの動作上の利点である。
【0059】
POXダウンボア法及びARダウンボア法の両方を使用する場合、メタン(CH)は水素を生成するために重要な投入物となるため、使用する地熱資源に近接してメタンが入手できることは利点となる。従って、豊富なメタンをすぐに利用できる化石燃料地域でCuClサイクル及びPOXダウンボア法又はARダウンボア法を運用することは、メタンの燃焼のみで全エネルギー(水素として生産されたエネルギーを含む)を生産した場合よりも少ない量の炭素(一酸化炭素として)が環境へ放出されるとはいえ、メタンを用いてグリーン燃料として水素を生成する利点及び方法である。メタンが近接していることに加えて、化石燃料地域での運用には、使用済み又はその他未使用の石油・ガス井をPOXダウンボア法又はARダウンボア法を用いたCuClサイクル用に改築できるため、高いコストをかけて全く新しい井戸を掘削することを回避できるという点で大きな利点がある。
【0060】
図16は地表で作動する電解法を示しているが、図18は、ダウンボアの各種電解法とともにPOXダウンボア法を用いた各種方法で水素を生産するための一般的な同軸クローズドループシステムを示す。図16及び図18はいずれも生産井からの地熱熱水の共生産を示しているが、本システム用に改築した非生産井にも適用できる。AEダウンボア法(ここではゼロギャップ電解とともに示す)、SOECダウンボア法、及び/又はPEMダウンボア法等の各種電解法を使用でき、いずれの場合もPOXダウンボア法と組み合わせられる。このような実施形態において、炭化水素(メタン等)及び酸素をストリーム157で導入することでサイクルが開始され、それらが発熱反応で結合することで、各種反応で使用される熱が増加する。この発熱反応は、ストリーム158の水素及び一酸化炭素の生産を可能にするのに有用である。螺旋管147での発熱反応によって、同心管142への熱の伝達が可能になる。この同心管では、ストリーム156(ダウンボア同心管142への流れ方向を制御するバルブ99A及び99B)で注入された水が、蒸気又は超臨界状態へ相変化する。蒸気又は超臨界水は、高温高圧で電気分解が起こる電解システム(SOEC145、ゼロギャップセル144、PEMセル143、その他の電解システム、又はそのようなシステムの組み合わせを含んでもよい)を通過させられる。水素は管148で分離され、159で産出される。酸素は管92で輸送され、バルブ99Cから産出される。ストリーム95中の酸素を用いて、POX反応のストリーム157要件を供給できる。また、螺旋管147で発生した発熱温度は、故障した地熱井や非生産石油/ガス井の改築にも役立つ。井戸ケーシング4とクローズドループケーシング5との間にある環状部に閉じ込められた水をストリーム12で示す。この水は、発熱反応の温度の高まり、相変化によって流れることとなるか、あるいは電動水中ポンプ(ESP)20で支援することもできる。上昇環状部149を通って輸送された水は、ストリーム150において地表で回収される。ストリーム158からの水素を必要に応じて精製するために、プロセス圧力変動吸着(PSA)システム152を有していてもよい。
【0061】
本明細書中の各実施形態の別の態様は、そのような実施形態によって生産された酸素及び水素から電気を生成できることである。例えば、図18を参照すると、管92内の酸素は、バルブ99C及び99Dを通過し、燃料電池152へ進入し、159から155へ送達された水素と反応できる。
【0062】
本明細書に記載したそのような同軸クローズドループシステム及びアセンブリが生産地熱井に配置されていて、井戸ケーシング又はライナーと該クローズドループシステム及びアセンブリとの間にある環状部で地熱熱水又は蒸気が生産される場合、そのようなプロセスを共生産という。このような構造の模式例を、図1、3、5、7、16、18、及び19のストリーム12に示す。既存の生産地熱井は、効率損失を伴って蒸気タービンで価値の低い電気へ変換しなければならない単純な蒸気よりも高い価値を有する水素を生産するのに使用されるエンタルピー及び健全性を有することになると予想される。その結果、地熱資源から水素を生産する提案方法の経済性によって、従来の地熱井から水素生産への転換を迫ることができる。これにより、地表にある既存の蒸気プラントシステムへ蒸気を連続送達して電気を生産したり、坑口タービン発電機を坑口に設置して電気を生産したりする等の様々な目的で、共生産した熱水を使用する機会が得られる。このようなそれぞれの場合における電気は、本明細書で想定される各種電解プロセスで使用できる。あるいは、共生産した熱水及び蒸気を使用して、本明細書に記載したプロセスで使用される補給水等の流体を予熱することもできる。最後に、このように生産された地熱蒸気及び熱水を処理し、本明細書中の各種水素生産方法に水を供給するのに使用できる。また、地熱熱水には塩類がよく見られ、塩水は電解質として使用されることが多いため、そのような塩水を採取し、本明細書に記載した電解プロセスに使用できる。図19は、U字ループシステムでも共生産が有用であり得ることを示す。本図面中、部材82は任意の電解法を表す。共生産された流体12は、井戸ケーシング4とクローズドループケーシング5との間にある環状部で輸送される。必要に応じて、オプションとして電動水中ポンプ20を使用して移動を支援できる。従って、図9、10、12、13、及び14に記載した各システムはこの共生産オプションを有していてもよい。あるいは、共生産された熱水及び蒸気を用いて、本明細書に記載したプロセスで使用される補給水等の流体を予熱することもできる。
【0063】
最後に、このように生産された地熱蒸気及び熱水を処理し、本明細書中の各種水素生産方法に水を供給するのに使用できる。また、地熱熱水には塩類がよく見られ、塩水は電解質として使用されることが多いため、そのような塩水を採取し、本明細書に記載した電解プロセスに使用できる。
【0064】
本明細書では、数値範囲を用いて、本発明に関する特定のパラメータを定量化している。数値範囲が示されている場合、その範囲は、範囲の下限値のみが記載されている請求項の限定及び範囲の上限値のみが記載されている請求項の限定に対して文言上のサポートを提供するものと解釈されるべきである。例えば、10~100という数値範囲の開示は、「10より大きい」(上限なし)と記載された請求項と、「100より小さい」(下限なし)と記載された請求項とに対して文言上のサポートを提供する。
【0065】
本明細書中、「包含している」及び「包含する」という語は、その用語より前に記載された対象から、その用語より後に記載された1つ又は複数の要素へ移行するのに使用されるオープンエンドの移行句であり、移行句の後に記載された1つ又は複数の要素は、必ずしも対象を構成する唯一の要素ではない。
【0066】
本明細書中、「含んでいる」及び「含む」という語は、「包含している」及び「包含する」と同じオープンエンドの意味を持つ。例えば、「含んでいる」という語は、全体を通じて「制限なく含んでいる」という意味であるとみなされるべきである。
【0067】
本明細書中、「有している」及び「有する」という語は、「包含している」及び「包含する」と同じオープンエンドの意味を持つ。
【0068】
本明細書中、「含有している」及び「含有する」という語は、「包含している」及び「包含する」と同じオープンエンドの意味を持つ。
【0069】
本明細書中、「a」、「an」、「the」、及び「said」という語は、1つ又は複数を意味する。
【0070】
本明細書中、「及び/又は」という語は、2つ以上の項目のリストで使用された場合、列挙した項目のうち任意の1つをそれだけで採用しても、列挙した項目のうち2つ以上の任意の組み合わせを採用してもよいことを意味する。例えば、組成物が成分A、B、及び/又はCを含有すると記載されている場合、組成物はAのみ、Bのみ、Cのみ、A及びBの組み合わせ、A及びCの組み合わせ、B及びCの組み合わせ、又はA、B、及びCの組み合わせを含有できる。
【0071】
上記した本発明の好ましい形態は、例示としてのみ使用されるものであり、本発明の範囲を解釈するのに限定的な意味で使用されるべきではない。当業者であれば、本発明の精神から逸脱することなく、上述した例示的な実施形態に対して明らかな変更を容易に実施できるだろう。
【0072】
本発明者らは、以下の特許請求の範囲に記載された本発明の文言範囲から大きくは逸脱していないが範囲外である任意の装置に関して、本発明の合理的に公正な範囲を決定し、評価するにあたっては均等論に依拠する意図をここに表明する。
【0073】
本開示には限られた数の実施形態しか含まれていないが、本開示の範囲から逸脱しない他の実施形態も考え出せることが、本開示の利益を享受する当業者には理解されるであろう。従って、本範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。

図1
図2
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図5
図6
図7
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図10
図11
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図18
図19