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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】窒化ホウ素精製法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
C01B21/064 M
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021500713
(86)(22)【出願日】2019-07-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 CA2019050953
(87)【国際公開番号】W WO2020010458
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】62/696,377
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500276482
【氏名又は名称】ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シマール、ベノワ
(72)【発明者】
【氏名】インゴールド、キース
(72)【発明者】
【氏名】ウォーカー、スティーブン ケンドリック
(72)【発明者】
【氏名】イアニット、ロビン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、ヒョンジン
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス - ルビ、ヤディエンカ
(72)【発明者】
【氏名】キム、グン スー
(72)【発明者】
【氏名】キングストン、クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】グワン、ジンウェン
(72)【発明者】
【氏名】デノミー、ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ルース、ディーン
(72)【発明者】
【氏名】プルンケット、マーク
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-521240(JP,A)
【文献】米国特許第04089931(US,A)
【文献】特開平01-093412(JP,A)
【文献】特表2015-522520(JP,A)
【文献】国際公開第2008/126534(WO,A1)
【文献】特開2007-138298(JP,A)
【文献】特開2006-306636(JP,A)
【文献】国際公開第2015/122378(WO,A1)
【文献】LIN, Xue-Song et al.,Purification of Yard-Glass Shaped Boron Nitride Nanotubes,Iranian Journal of Chemistry and Chemical Engineering,2014年,Vol. 33, No. 1,PP. 29-36
【文献】CHEN, Hua et al.,Purification of boron nitride nanotubes,Chemical Physics Letters,2006年,Vol. 425,PP. 315-319
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
B82Y 30/00
B82Y 40/00
C01B 32/00 -32/991
C23C 16/00 -16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)を精製する方法であって、
窒化ホウ素ナノチューブ及び不純物を含有する固体窒化ホウ素ナノチューブ材料を380℃~1250℃の温度範囲でハロゲンガスと接触させ、前記不純物は前記ハロゲンガスと反応して気体状ハロゲン含有副生成物を生成する工程と、
前記気体状ハロゲン含有副生成物及び未反応ハロゲンガスを前記固体窒化ホウ素ナノチューブ材料から除去して精製済み窒化ホウ素ナノチューブを生成する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
乾燥条件下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ハロゲンガスが塩素、臭素、又は塩素及び臭素の混合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ハロゲンガスが塩素を含み、前記温度が450℃~1250℃である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記温度が600℃~1050℃である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記温度が850℃~1250℃である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記不純物がホウ素含有不純物を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
除去される前記不純物が六方晶窒化ホウ素又は欠陥のあるBNNT材料を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記気体状ハロゲン含有副生成物が三ハロゲン化ホウ素を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記固体窒化ホウ素ナノチューブ材料が触媒を用いない方法で生成される材料である、及び/又は、前記気体状ハロゲン含有副生成物及び未反応ハロゲンガスが流通ガスの正圧下で前記固体窒化ホウ素ナノチューブ材料から除去される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記固体窒化ホウ素ナノチューブ材料は所定の温度で、固体窒化ホウ素ナノチューブ材料1グラム当たり1~20分間前記ハロゲンガスに暴露される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
窒化ホウ素ナノチューブを精製するためのシステムであって、
ハロゲンガス源;
固体窒化ホウ素ナノチューブ材料を収容するサンプルチャンバーを有する炉であって、ガスが通過するガス流通路、前記サンプルチャンバーの一方の端又は壁にガス流入口、前記サンプルチャンバーの第二の端又は壁にガス流出口、及び少なくとも前記サンプルチャンバーを380℃以上の温度に加熱するための加熱器を備える炉;
前記ハロゲンガス源と前記サンプルチャンバーの前記流入口の間にあるガス流制御器であって、前記サンプルチャンバーへのハロゲンガス流を制御し、前記ハロゲンガスが前記サンプルチャンバー内の前記固体窒化ホウ素ナノチューブ材料を十分に通って流れるようにするためのガス流制御器;並びに
前記サンプルチャンバーの前記流出口に流通できるように接続され、前記サンプルチャンバーの前記流出口を通って流れる前記ハロゲンガスを収容し、前記サンプルチャンバーの前記流出口から出るハロゲン含有気体状化合物の流れを封鎖するように配置されたスクラバー;
を含むシステム。
【請求項13】
前記スクラバーが塩基の水溶液を含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
第二ハロゲンガス源を含む、請求項12又は13に記載のシステム。
【請求項15】
回収チャンバーが前記サンプルチャンバーの前記流出口と前記スクラバーとの間に挿入されている、請求項12又は13に記載のシステム。
【請求項16】
BNNT材料を製造するためのシステムと統合されている、請求項15に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は2018年7月11日提出の米国特許仮出願番号USSN62/696,377の利益を請求する。当該仮出願の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)、特に窒化ホウ素ナノチューブの精製法、及び精製システムに関する。
【背景技術】
【0003】
K.S.Kimら[1]による総説論文中で要約されているような、窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)のスケール化可能な製造方法は、ホウ素元素、使用されていない又はわずかに精製された原料、加えて金属粒子などのいくつかの触媒粒子などの様々な不純物を含有する材料を生成する。商業的観点から最も有望な製造方法は高温方法である。なぜなら高温方法は金属触媒の使用を必要とせず、元素のホウ素、h-BN(h=六方晶)及び単純ガスなどの単純な原料を使用し、BNNT成長の限界密度に達する前に、原料が蒸発及び/又は分解するからである。米国特許番号US9,862,604B2、又は米国特許番号US8,206,674B2に開示されている精製法などの高温精製法、若しくは米国特許公開番号US2015/037448、又は米国特許公開番号US2018/0029885に開示されている精製法においてこれらの材料中のBNNTの含有量は55重量%以下である。これらの方法で生成されたBNNT(すなわち生成時材料、又はap材料)は高結晶性で、ほとんど壁を有さず、一般的に壁は10未満、500を超えるアスペクト比(長さ/直径)を有する。不純物はホウ素元素、及び様々なケージド誘導体、様々なホウ素含有重合体、2次元(2-D)非晶質の、及び結晶の窒化ホウ素化合物が挙げられる。使用する装置次第で、材料は炭素含有化合物に汚染されうる。これらの不純物の除去は様々な用途におけるBNNTの利用に必須である。例えば複合材料の領域において透明性又は機械的特性の促進が求められる場合、不純物の除去は出来るだけ完全である必要がある。医療用途において材料は出来るだけ純粋である必要がある。
【0004】
BNNT材料を精製するいくつかの方法が報告されている。これらは4つのグループ、液相処理、気相処理、それらの組み合わせ、固-液相処理に分類できる。液相処理は酸酸化「2」、過酸化水処理[3]、及び超酸抽出が挙げられる。これらの方法の問題点は有効性が限られること、BNNTの損傷、拡張可能性が限られること、及び経費である。気相処理は国際特許公開番号WO2017/136574で提案されている処理、及び科学文献(D.M.Marincel,M.Adnan,J.Ma,E.Amram Bengio,M.A.Trafford,O.Kleinerman,D.V.Kosynkin,S-H Chu,C.Park,S.J.A.Hocker,C.C.Fay,S.Arepalli,A.A.Marti,Y.Talmon、及びM.Pasquali,Chem.Mat.,31、1520-1527(2019))で報告されている処理などの高温水蒸気処理[5]が挙げられる。この処理で試薬は元素のホウ素、又はホウ素末端をホウ酸塩に変化させるための酸素源であり、かつ、ホウ酸塩を600℃より高温で昇華する水素化ホウ酸塩に変化させるための水素源となる水である。この方法の主な問題点は、変化率が低いため時間がかかり、BNNTに対する化学的攻撃のため収率が低いことである。気相処理と液相処理の組み合わせは高温での空気酸化[6]が挙げられる。この処理で第一工程は試薬として酸素分子を用い、元素のホウ素及びホウ素末端を酸化ホウ素に変化させる気相酸化である。第二工程は通常、水(しかしメタノールも用いられる)を用いて生成した酸化ホウ素を取り除く液相工程である。この工程は元素のホウ素由来の酸化ホウ素をかなり効果的に除去するが、酸化ホウ素末端、及び他の種類の不純物には有効でない。この方法の主な問題点は、空気酸化が行われる温度がBNNTとの他の化学作用が起こる温度でもあること、および生成した酸化ホウ素が液体状態に存在し、そのためBNNTを被覆することである。酸化ホウ素が界面活性剤として働くため、この酸化ホウ素被覆はBNNTを可溶性にすることなく溶液相処理で除去することが難しい。
【0005】
固-液相処理の組み合わせが米国特許番号8,734,748に開示されている。液体、又は液体に近い状態の塩化第二鉄塩を用い、一般的に250~350℃でBNNTの内部表面に浸透、及び内部表面を湿らせ、不純物を溶解し、ナノ材料の外部表面に拡散し洗浄除去する。精製法が効果的に働くために塩が分解する状態はさけるべきである。室温での塩化水素などの他の試薬の使用、及び空気中で700℃への加熱は、塩化第二鉄塩の適用を補足し、溶融した塩のみ用いて溶解できない不純物を除去する。この方法の主な問題点は、拡張可能性の欠如、溶融金属塩の使用、及び複数工程の洗浄サイクルである。収率は不明であるが、複数工程の洗浄サイクルのためおそらく収率は低い。
【0006】
BNNT材料精製の簡易で、低費用、及びスケール化可能は方法が、依然として求められている。本明細書で用いたように精製は不純物の除去を意味する。精製はまたBNNT材料の結晶性の向上を含んでもよい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの局面では、窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)の精製法であって、窒化ホウ素ナノチューブ及び不純物を含有する固体窒化ホウ素ナノチューブ材料を380℃以上の温度でハロゲンガスと接触させ、前記不純物は前記ハロゲンガスと反応して気体状ハロゲン含有副生成物を生成する工程と、前記気体状ハロゲン含有副生成物及び未反応ハロゲンガスを前記固体窒化ホウ素ナノチューブ材料から除去して精製済み窒化ホウ素ナノチューブを生成する工程と、を含む精製法を提供する。
【0008】
別の局面では下記を提供する:
窒化ホウ素ナノチューブを精製するためのシステムであって、ハロゲンガス源;固体窒化ホウ素ナノチューブ材料を収容するサンプルチャンバーを有する炉であって、ガスが通過するガス流通路、前記サンプルチャンバーの一方の端又は壁にガス流入口、前記サンプルチャンバーの第二の端又は壁にガス流出口、及び少なくとも前記サンプルチャンバーを380℃以上の温度に加熱するための加熱器を備える炉;前記ハロゲンガス源と前記サンプルチャンバーの前記流入口の間に、前記サンプルチャンバーに流入するハロゲンガス流を制御し、前記ハロゲンガスが前記サンプルチャンバー内の前記固体窒化ホウ素ナノチューブ材料を十分に通って流れるようにするためのガス流制御器;並びに前記サンプルチャンバーの前記流出口に流通できるように接続され、前記サンプルチャンバーの前記流出口を通って流れる前記ハロゲンガスを収容し、前記サンプルチャンバーの前記流出口から出るハロゲン含有気体状化合物の流れを封鎖するように配置されたスクラバー;を含むシステム。
【0009】
なお、本明細書で用いるように用語「接続」、及び「接続した」は、本開示のシステム(例えば装置)の要素又は特徴の直接の又は間接の物理的関連を示すことを理解されるべきである。したがって、これらの用語は、たとえ接続すると記載されている要素又は特徴の間に介在するほかの要素又は特徴が存在していたとしても、部分的に又は完全に相互に含まれる、付着する、連結する、配置する、接合する等の要素又は特徴を示すと理解してもよい。
【0010】
本発明の気相法はBNNT材料から不純物を除去でき、溶液相処理の必要なく容易に除去される気相物質種となる、急速で、効率的で、スケール化可能な方法である。精製済みBNNTの純度は使用するハロゲンガスの調節、追加の添加剤(例えば塩化水素)の使用、温度、及び精製法を実施する適用時間により制御できる。本精製法は塩素分子などのハロゲンと不純物、及び初期BNNTとの間の反応率の違いに基づいている。380~1250℃の温度範囲で塩素分子は最も急速に元素のホウ素、及びホウ素空孔と反応する。欠陥のあるBNNT表面などのBN、及びBNH誘導体中の末端などの末端は、元素のホウ素よりは低速であるが構造的に初期BNNT表面よりは急速に、塩素分子ガスと反応する。したがって、温度及び暴露時間の調節により初期BNNTより優先的に不純物を除去できる。本方法は精製済みBNNTに化学作用を施すように更に適応できる。
【0011】
本発明の一態様を以下に示すが、本発明はそれに限定されない。
[発明1]
窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)を精製する方法であって、
窒化ホウ素ナノチューブ及び不純物を含有する固体窒化ホウ素ナノチューブ材料を380℃以上の温度でハロゲンガスと接触させ、前記不純物は前記ハロゲンガスと反応して気体状ハロゲン含有副生成物を生成する工程と、
前記気体状ハロゲン含有副生成物及び未反応ハロゲンガスを前記固体窒化ホウ素ナノチューブ材料から除去して精製済み窒化ホウ素ナノチューブを生成する工程と、
を含む方法。
[発明2]
乾燥条件下で行われる、発明1に記載の方法。
[発明3]
前記ハロゲンガスが塩素、臭素、又は塩素及び臭素の混合物である、発明1又は2に記載の方法。
[発明4]
前記ハロゲンガスが塩素を含み、前記温度が450℃~1250℃である、発明1又は2に記載の方法。
[発明5]
前記温度が600℃~1050℃である、発明4に記載の方法。
[発明6]
前記温度が850℃~1250℃である、発明4に記載の方法。
[発明7]
前記不純物がホウ素含有不純物を含む、発明1~6のいずれか一に記載の方法。
[発明8]
前記温度が最大温度の1250℃まで上昇するにつれて、前記方法により回収されたBNNT材料の純度及び結晶性が向上する、発明1~6のいずれか一に記載の方法。
[発明9]
除去される前記不純物が六方晶窒化ホウ素を含む、発明7又は8に記載の方法。
[発明10]
除去される前記不純物が欠陥のあるBNNT材料を含む、発明7又は8に記載の方法。
[発明11]
前記気体状ハロゲン含有副生成物が三ハロゲン化ホウ素を含む、発明1~10のいずれか一に記載の方法。
[発明12]
前記固体窒化ホウ素ナノチューブ材料が触媒を用いない方法で生成される材料である、発明1~11のいずれか一に記載の方法。
[発明13]
前記気体状ハロゲン含有副生成物及び未反応ハロゲンガスが流通ガスの正圧下で前記固体窒化ホウ素ナノチューブ材料から除去される、発明1~12のいずれか一に記載の方法。
[発明14]
前記精製済み窒化ホウ素ナノチューブの純度が少なくとも75%である、発明1~13のいずれか一に記載の方法。
[発明15]
前記固体窒化ホウ素ナノチューブ材料は所定の温度で、固体窒化ホウ素ナノチューブ材料1グラム当たり約1~20分間前記ハロゲンガスに暴露される、発明1~14のいずれか一に記載の方法。
[発明16]
窒化ホウ素ナノチューブを精製するためのシステムであって、
ハロゲンガス源;
固体窒化ホウ素ナノチューブ材料を収容するサンプルチャンバーを有する炉であって、ガスが通過するガス流通路、前記サンプルチャンバーの一方の端又は壁にガス流入口、前記サンプルチャンバーの第二の端又は壁にガス流出口、及び少なくとも前記サンプルチャンバーを380℃以上の温度に加熱するための加熱器を備える炉;
前記ハロゲンガス源と前記サンプルチャンバーの前記流入口の間にあるガス流制御器であって、前記サンプルチャンバーへのハロゲンガス流を制御し、前記ハロゲンガスが前記サンプルチャンバー内の前記固体窒化ホウ素ナノチューブ材料を十分に通って流れるようにするためのガス流制御器;並びに
前記サンプルチャンバーの前記流出口に流通できるように接続され、前記サンプルチャンバーの前記流出口を通って流れる前記ハロゲンガスを収容し、前記サンプルチャンバーの前記流出口から出るハロゲン含有気体状化合物の流れを封鎖するように配置されたスクラバー;
を含むシステム。
[発明17]
前記スクラバーが塩基の水溶液を含む、発明16に記載のシステム。
[発明18]
第二ハロゲンガス源を含む、発明16又は17に記載のシステム。
[発明19]
回収チャンバーが前記サンプルチャンバーの前記流出口と前記スクラバーとの間に挿入されている、発明16又は17に記載のシステム。
[発明20]
BNNT材料を製造するためのシステムと統合されている、発明19に記載のシステム。
更なる特徴は、下記詳細な説明に沿って記載され、又は明らかにする。なお、本明細書で記載した各特徴は任意の複数の他の記載された特徴との任意の組み合わせで利用してもよく、同業者に明らかであることを除いて各特徴はその他の特徴の存在に必ずしも依存しないことを理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
より明らかな理解のために実施例を用いて、添付の図面を参照して、特定の態様を詳細に記載する。
【0013】
図1】窒化ホウ素ナノチューブ精製のためのシステム(例えば装置)の概略図である。
【0014】
図2】750℃30分の塩素処理後の精製済みBNNT材料の熱重量分析の結果を示すグラフである。
【0015】
図3】様々な温度及び継続時間での塩素処理後の質量減量を示すグラフである。
【0016】
図4】様々な温度で塩素処理を行った精製済BNNT材料の4回の水洗浄後の質量減量を示すグラフである。
【0017】
図5Aから図5Eは様々な温度及び継続時間で塩素処理した精製BNNT材料の走査電子顕微鏡写真である。
図5A】750℃30分塩素処理した精製済みBNNT材料を示す。
図5B】850℃30分塩素処理した精製済みBNNT材料を示す。
図5C】950℃30分塩素処理した精製済みBNNT材料を示す。
図5D】1050℃30分塩素処理した精製済みBNNT材料を示す。
図5E】1050℃120分塩素処理した精製済みBNNT材料を示す。
【0018】
図6】生成されたBNNT材料のP3HT/BNNT複合体、及び様々な温度での塩素処理により生成した精製済みBNNT材料の吸収を示すグラフである。
【0019】
図7】1050℃、様々な継続時間での塩素処理により生成した精製済みBNNT材料のP3HT/BNNT複合体の吸収を示すグラフである。
【0020】
図8】BNNTの連続的なプロセスを提供し、所望の質の精製済みナノ材料を得るためのBNNT材料生成のためのシステムと統合した本開示のシステムの図である。
【0021】
図9】BNNT材料を精製するために使用するハロゲンガスとして臭素を用いるために構成した図1のシステムへの改変の図である。
【0022】
図10】本開示のシステムの一部、及び臭素(Br)ガスを用いた精製前後のBNNT材料に対する色の変化を示す。
【0023】
図11A及び図11Bは、生成時(未精製)、及び本開示に従って精製した精製済みBNNT材料の試料の画像である。以下に詳述する。
図11A】残余の(遊離)rra-P3HTの除去前後のAP-BNNT材料懸濁液の写真画像よりなる。
図11B】残余の(遊離)rra-P3HTの除去前後の精製済みBNNT材料懸濁液(750~1050℃)の写真画像よりなる。
【0024】
図12A~12DはBNNT材料についての紫外線-可視光吸収スペクトラムとバックグラウンドのグラフである。以下に詳述する。
図12A図11で示したAP-BNNT材料についての紫外線-可視光吸収スペクトラム、及びバックグラウンドのグラフを示す。
図12B】AP-BNNT材料についてのバックグラウンドのグラフを除去して抽出した紫外線-可視光吸収スペクトラムを示す。
図12C図11で示したように様々な温度で精製したBNNT材料についての紫外線-可視光吸収スペクトラム、及びバックグラウンドのグラフを示す。
図12D】様々な温度で精製したBNNT材料についてバックグラウンドのグラフを除去して抽出した紫外線-可視光吸収スペクトラムを示す。
【0025】
図13】AP-BNNT材料、及び図11で示したように様々な温度で精製したBNNT材料についてのBET表面領域(SBET)及びrra-P3HT品質指標の比較を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
BNNT材料中には同定できるいくつかの不純物が存在し、それぞれ様々な用途に対する品質に影響する。そのようなナノ材料の精製のより効率的な精製法を開発するにあたって、有用な材料の減量を最小限にするためにBNNTの完全性を保持しながら、プロセスが容易であることが考慮された。窒化ホウ素、h-BN、及び他の不純物と比べて、BNNT構造は科学的に安定ではないと考えられており、このような不純物の除去のために用いられる過酷な条件に耐えづらいと考えられている。
【0027】
しかしながら構造的に初期窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)と最小限に反応するハロゲンを用いて、単一の工程でBNNT材料からハロゲン反応性不純物を除去するために、広い温度範囲でハロゲンガスを用いてもよいことが発見された。溶液相処理などの追加の工程を必要とせず精製済みBNNTから容易に除去できる、気体状の副生成物が生成される。収率効率及び回収したBNNTの純度は先行技術方法に比べて高い。
【0028】
本開示のために、本明細書に開示の精製法後に回収されたBNNT材料の質を2つの主なパラメーター、すなわち、純度及び欠陥密度に従って評価できる。BNNT材料試料の純度は試料中のナノチューブの画分として定義する。欠陥密度はホウ素又は窒素の空孔などの構造の欠陥、若しくはナノチューブ壁上の他の構造欠陥(これらはBNNTの結晶性の完全性に不利な影響を与える)の存在率と定義する。BNNT材料の質はMartinez Rubiら、2019[7]、及びMartinez Rubiら、2015[8]の分光器及び比色方法でBNNTとハイブリット化rra-P3HTを用いて決定できる。これらの参照は本明細書に参照により全体として組み込まれている。
【0029】
固体窒化ホウ素ナノチューブ材料より除去される不純物はハロゲン反応性である。不純物はホウ素含有不純物(例えば元素のホウ素(B)、非結晶の窒化ホウ素(BN)、六方晶窒化ホウ素(h-BN)、BNH誘導体等)、炭素含有化合物、残余原料、金属触媒、又は他の不純物であってもよい。固体窒化ホウ素ナノチューブ材料は、窒化ホウ素ナノチューブ材料中に全く、又はほとんど金属粒子が存在しないように触媒を用いない精製法で生成された材料であることが好ましい。この精製法は金属触媒が存在している場合も適応可能であるが、金属によってはハロゲンとの反応で形成される不揮発性のハロゲン化金属を除去するため追加の工程が必要となる可能性がある。
【0030】
ハロゲンガスは気体状のフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、又はそれらの任意の混合物であってもよい。一部の態様によれば、ハロゲンガスは塩素、臭素、及びそれらの混合物である。その他の態様によれば、ハロゲンガスは塩素である。更に他の態様によれば、ハロゲンガスは臭素である。
【0031】
ハロゲンガスの混合物を用いる場合、ガスの相対比率は未精製の、又は部分的に精製したBNNT材料のプロセス中において、同じままであっても変化してもよい。その他の態様によれば、各ハロゲンガスはBNNT材料のプロセス中、すなわち、サンプルチャンバー/炉サブシステム中で異なるハロゲンガスにとって最適となる温度プロセス範囲を利用して、ガスを混合することなく順次適用してもよい-図1及び図8参照。
【0032】
ハロゲンガスは窒化ホウ素ナノチューブ材料中で不純物と反応し、気体状ハロゲン含有副生成物に加えて、固体窒化ホウ素ナノチューブ材料から自発的に分離した、若しくは負圧の適用により、又は流通ガスの正圧下で分離する他の気体状の副生成物を生成する。流通ガスはハロゲンガス、又は不活性のキャリヤーガス(例えばヘリウム、アルゴン、窒素等)、又はそれらの混合物であってもよい。ホウ素含有不純物の場合、不純物中のホウ素は気体状のハロゲン化ホウ素、例えば三ハロゲン化ホウ素、又はより複雑な揮発性ハロゲン化物に変換する。非結晶のBN、h-BN、又はBNH不純物中の窒素は窒素ガスに変換する、又は揮発性のハロゲン化物中に含まれてもよい。BNH不純物中の水素は水素ガス、又は気体状ハロゲン化水素に変換してもよい。ダングリングボンド末端不純物中の酸素は、気体状の様々な種類の酸化ハロゲン化物、NO、又は水素原子と結合する場合オキソ酸に変換されてもよい。副生成物はプロセスの温度で気体状なので、残余を置いて脱出したり、除去のための更なる処理を必要とすることなく、流通ガス又はその混合物と共に固体窒化ホウ素ナノチューブ材料から容易に脱出できる。例えばBF、BCl、BBr、又はBIの大気圧での沸点はそれぞれ-100℃、12.6℃、91.3℃、又は210℃であり、全て380℃よりかなり低い。
【0033】
h-BNなどの不純物の更に選択的な又は完全な除去のため追加の精製添加剤を任意選択的に使用してもよい。一部の態様によれば不純物を含む前プロセスBNNT材料(AP-BNNT材料、及び/又は部分的に精製したBNNT材料)に添加剤を用いている。その他の態様によれば、不純物を含むBNNT材料を精製するためにハロゲンガスとともに添加剤を用いている。更に他の態様によれば、ハロゲンガスによる不純物を含むBNNT材料のプロセスの後に添加剤を用いている。
【0034】
例えば、BNNT材料からh-BN不純物を除去(エッチング)するため、本開示の精製法で用いられる温度範囲と同様の温度範囲で、HClガスをハロゲンガスに加えて使用できる[9]。一部の態様によれば、HClガスはBNNT材料からh-BN不純物を除去するために約850℃~約1250℃の範囲で塩素ガスと混合される。図1を参照すると、ハロゲン、アルゴン、及び窒素ガスのためのラインが備えられている所にHCl用の追加のガスシリンダーラインを加えてもよい(例1参照)。質量流量制御器はBNNT材料の精製を達成するためにガスを所望の様々な割合に調節できる。50%以下のHClを塩素、アルゴン、又は他のガスと併用してもよい。
【0035】
一部の態様によれば、使用するHClガスの量は使用するハロゲンガスの量に比して一定の割合を保持する。その他の態様によれば、使用するHClガスの割合は、使用するハロゲンガスの量に比して、異なるプロセス段階で変化する、例えば、所定のプロセス段階に対して適用される温度により定められてもよい。
【0036】
更に他の態様によれば、元素のホウ素を除去するために、不純物を含むBNNT材料の最初のプロセス後使用するHClの量を徐々に増加する。関連する態様によれば、500℃で不純物を含むBNNT材料のプロセス後HClガスを添加する。その他の関連する態様によれば、750℃で不純物を含むBNNT材料のプロセス後HClガスを添加する。
【0037】
気体状ハロゲン含有副生成物は精製プロセスの下流でガススクラバーにより封鎖されてもよい。ガススクラバーは気体状ハロゲン含有副生成物を吸収、及び/又は気体状ハロゲン含有副生成物と反応して吸収される生成物を形成できる、任意の媒質を含んでもよい。例えば、ガススクラバーは塩基の水溶液を含んでもよい。塩基は任意の適切な塩基、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、有機塩基、それらの混合物等であってよい。一部の態様によれば、アルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又はそれらの混合物を用いてもよい。
【0038】
プロセスが実施される温度は380℃以上である。一部の態様によれば、温度は1250℃以下である。他の態様によれば、温度は950℃以下である。塩素ガスを使用する場合は、温度は約450℃~約1250℃であることが好ましい。塩素ガスを使用する場合の特に適切な温度は、例えば、600℃~1050℃、又は850℃~1250℃といったサブレンジを内包する600℃~1250℃の範囲内である。フッ素ガスを使用する場合、温度は750℃以下が好ましい。フッ素ガスを使用する場合の特に適切な温度は500℃~700℃、例えば、550~650℃の範囲内である。臭素ガスを使用する場合、温度は1250℃以下が好ましい。臭素ガスを使用する場合の特に適切な温度は700℃~1250℃、例えば、950℃~1250℃の範囲内である。プロセスによりホウ素含有不純物などの不純物を固体窒化ホウ素ナノチューブ材料から首尾よく除去できる温度が、構造的に初期のBNNTがハロゲンガスと反応を始める温度より低い、ということは有利である。この様にBNNTの官能基化によるBNNTの減量も生じることなく、窒化ホウ素ナノチューブ材料から不純物を除去してもよい。ただし本明細書で用いたように、用語「約」は所与の値からほぼ+/-10%の変動を示す。このような変動は特に示していようとしていなかろうと、及び別の方法で述べていない限り、本明細書で用いられる任意の所定の値に含まれる。
【0039】
ハロゲンガスは任意の適切な圧力であってよい。利用しやすさの観点から、ハロゲンガスは大気圧であってもよいが、より低圧または高圧でもよい。高圧のハロゲンガスは反応率を上昇させる可能性がある。
【0040】
ハロゲンガスは窒化ホウ素ナノチューブ材料内の不純物を抽出するのに十分な時間、固体窒化ホウ素ナノチューブ材料と接触させるべきである。接触時間は1グラム当たり0.1~30分、例えば1グラム当たり1~20分であってもよい。状況により、不純物を抽出するハロゲンガスの能力を促進するため精製前に固体窒化ホウ素ナノチューブ材料の粒子サイズを減少させてもよい。粒子のサイズは切断する、砕く、粉にひくなどして減少させる。
【0041】
ハロゲンへの暴露は乾燥条件下で行うことが好ましい。乾燥条件下では水は実質的に排除される。水は任意の適切な方法で、例えば窒化ホウ素ナノチューブ材料を高温(例えば300℃)、好ましくは不活性ガス流下で乾燥させることにより除去してもよい。ハロゲンガスを水に溶解しないために水は最小限にしてもよい。ハロゲンガスの水への溶解は、と遊離ハロゲン分子の利用可能性を減少させ、収率の低下、及び不要な気体状の副生成物の生成、及び/又はBNNTの破壊又は化学変性をもたらす。典型的な乾燥時間は300℃、流量500sccmのアルゴン下で、1グラム当たり5~100分の範囲内であるが、他の乾燥条件を用いてもよい。
【0042】
本明細書で開示した精製法は、精製法を高度化するために酸素、アンモニア、及び水などの、他の反応性ガスの使用を排除しない。しかしながら他の反応性ガスとハロゲンの混合は注意深く評価しなくてはならない。一部の態様によれば、他の反応性ガスは順次適用できる。例えば、所定の時間ハロゲンガスに暴露後、ハロゲンの流れを止め、システムを充填し、及び他の反応性ガスを所定の時間導入してもよい。必要に応じて循環を繰り返すことが出来る。
【0043】
精製済みBNNTの収率は未精製の窒化ホウ素ナノチューブ材料の開始時重量に対して50重量%以上、60重量%以上とすることができる。50~80重量%、例えば60~80重量%の範囲内の収率が、多数の窒化ホウ素ナノチューブ材料では典型的である。収率は生成される窒化ホウ素ナノチューブ材料の質、精製法の温度、及び継続時間により変化するだろう。精製済みBNNTの純度は75%以上、80%以上、85%以上、又は90%以上の等級であってもよい。
【実施例
【0044】
例1-精製システム
生成された窒化ホウ素ナノチューブ材料(AP-BNNT)を精製するための装置1として配置されたシステムの概略図を図1に示す。装置1は筒状炉2を備え、筒状炉2は3段階オーブン3、及びオーブン3内に置かれた垂直配向の石英管を備える。3段階オーブン3は必要であれば石英管4に沿って異なる温度帯を提供でき、石英管4の上部、中間部、下部は区別して加熱でき。精製されるBNNT材料5は多孔フリット6上に乗せ石英管4中に置くことができる。多孔フリット6にガスを通過させながら、BNNT材料5が石英管4から落ちることを防ぐ。BNNT材料5の精製は石英管4中で生じており、そこでハロゲンガスが不純物と反応して気体状の副生成物が生成する。
【0045】
石英管4の上及び下は、それぞれTeflon(登録商標)フランジ7a、7bで密閉されていてよく、フランジ7a、7bはガスラインを受け入れつつ密閉するよう配置する。Teflon(登録商標)フランジ7a、7bは弁を備えていてもよい。下のフランジ7bにはガスが圧力下で石英管4に流れるように密閉して流入口ガスライン8を付ける。石英管4中のガス流AはBNNT材料5を通過し、垂直に下から上に流れる。排ガスは上のフランジ7aに密閉してつけられた排ガスホース10内で石英管4の上を通過し、石英管4から流出する。
【0046】
装置で使用するガスはガスシリンダー11に圧力下で保管する。図1に示すように、別々のガスシリンダー11a、11b、及び11cを、例えばそれぞれハロゲンガス、アルゴンガス、及び窒素ガス用に備える。必要であれば、塩素水素ガスなどの他のガスの適用に応じて、追加のラインを加えることもできる。ガスシリンダー11a、11b、及び11cからのガスは、それぞれ別々のガス供給ライン12a、12b、及び12cを通ってマルチポート質量流量制御器(MFC)13の別々の入口ポートに分けられる。入口ガスライン8はMFC13の出口ポートから供給ガスを受けとる。MFC13は独立して入口ライン8への供給ガスの流量を制御することができる。
【0047】
排ガスホース10は石英管4からの排ガスを受け入れ、排ガスをガススクラバー14に運ぶ。ガススクラバーは洗浄液16、例えば塩基の水溶液(例えばアルカリ水溶液)を含む容器15を備える。排ガスはバブリングされ、洗浄液16中に直接流入し、中和及び/又は溶解される。ガススクラバー14は、排ガスの洗浄をより効率的に行うために、洗浄液16を再循環ライン18を通して循環し、洗浄液16を確実に混合する再循環ポンプ17を更に備える。
【0048】
本開示のBNNT精製のシステムの代替態様を図8に示した。図8に本開示のシステム、及び精製法を適用して「その場で(in situ)」高品質のBNNTを作るための完全に統合した製造法の概略図を示した。図1に示したシステム/装置はBNNTの製造反応器に統合され、米国特許US9,862,604B2、又は米国特許US8,206,674B2で開示される高温精製法、若しくは米国出願公開番号US2015/037448、又は米国出願番号US2018/0029885で開示される精製法中の高温精製法に適していた。これらの開示の全内容は、参照により本明細書に含まれる。
【0049】
100は原料供給器である。200は原料を気化するプラズマトーチである。300はBNNT成長反応器である。400は精製法の、環状の塩素注入器を用いて行われる塩素注入/供給工程、又は図1に示されるガス供給システムに類似の、他のガス供給システムを表す。図1のシステム特徴2、3、4は、BNNTが合成されるプラズマ反応器の後、及びBNNTが回収される回収領域の前に挿入できる。環状の塩素注入器は石英管に統合される。合成プロセス中に生成した不純物は直ちに気体状の物質種に変換し、中和のためスクラバーに流れ、一方で生成したBNNTは変性せずに塩素化区分を通り抜け、ろ過設備(表示せず)で回収される。より具体的には、2は活性加熱工程500を実行に移すための管状炉(より詳細は図1をまた参照)のような加熱源である。600はBNNTの回収室である。14は腐食性ガスを中和するために用いられるスクラバーである。
【0050】
本開示のシステムの様々な態様の設計において重要な考慮すべき事柄は、未精製のBNNT材料全てを同じ限度、又は程度まで精製するために、ハロゲンガス及び他のガスを均一に未精製BNNT材料にいかに確実に通過させるかである。この点に関する一要因はサンプルチャンバー中の生成時、又は部分的に精製されたBNNT材料の密度であり、場合によって水平方向のサンプルチャンバーに対して直立型のサンプルチャンバーが好ましく要求されることを、当業者は理解すると考える。
【0051】
例2-精製法:ホウ素元素の除去
例1で記載した装置を用いて以下の精製法に従って生成された窒化ホウ素ナノチューブ材料(AP-BNNT)を精製した。
AP-BNNTを計量し、材料を乾燥するためにオーブン内、150℃、24時間ハウスエア(hous air)下で脱気する。その後材料をオーブンから出したらすぐにまた計量する。乾燥AP-BNNTはシートを引き離すためのピンセットでシートに寸断し、寸断した材料を石英管中の多孔質フリット上に移送する。挿入時の材料の静電特性を減らすために移送前に石英管は105℃に加熱しておく。
【0052】
スクラバーには15Lの水、及び乾燥AP-BNNTの質量の10倍に等しい量の水酸化ナトリウムを用意した。Teflon(登録商標)製の上のフランジを石英管の上に固定し、石英管の上は排ガスホースでガススクラバーに接続する。Teflon(登録商標)製の下のフランジを石英管の下に固定し、石英管の下は流入口ガスラインでマルチポート質量流量制御器に接続する。フランジは弁を備えていてもよい。質量流量制御器は乾燥アルゴンガス源、乾燥窒素ガス源、及び塩素ガス源に別々のポート、及びガス供給ラインを通じて接続した。石英管は流量500sccmのアルゴンで満たした。10分後石英管の温度を300℃に上昇した。300℃で更に15分後、アルゴンの流量を40sccmに下げ、アルゴンを一晩中流しておいた。
【0053】
翌日スクラバーから排ガスホースを取り外し、排ガスホースの端を密閉し、装置内のアルゴンガス圧を800Torrに上昇させてアルゴンガス流を止め、確実にシステム内のガス圧が5分間にわたって低下しないこと観察することにより、ガスライン、及びフランジが密閉されていることが確実である装置であることをチェックする。漏れがないことが明白である場合、排ガスホースをスクラバーに再び取り付ける。
【0054】
石英管の温度を300℃に保ったまま流量500sccmのアルゴンガスを5分間流し続けてシステムを充填する。アルゴン流を止め、流量1000sccmの塩素ガスで石英管を満たす。充填時間は7分間が典型的である。それからガススクラバーの再循環ポンプの電源を入れた。石英管の塩素ガスの充填が一旦完了すれば、塩素ガスの流量を50sccmに変換し、20分間塩素ガスを流しておく。前記20分の後、塩素ガスの流量を1000sccmに変換し、流量50sccmでアルゴンガスを流し始める。更に20分後、石英管の温度を750℃に上昇させる。熱によりゆがむことを防ぐためにTeflon(登録商標)フランジは、例えば送風機により冷却すべきである。
【0055】
精製プロセス中、石英管中のガスの色が黄緑色(塩素)から白色/無色(BCl)に変化する。精製が完了するのに必要な時間は、通常石英管に装入したAP-BNNT1グラム当たり約1.2分であった。石英管の上部に黄色のガスが再び現れる時、精製は完了に近づいている。この時点で塩素ガスの流量を50sccmに変換する。精製完了時に、精製済みBNNTの色はベージュ/白色で、石英管中全体にわたって均一であるべきである。精製済み生成物の検査後、更なる精製が必要な場合、精製が完了するまで、一般的に更に5~15分間、塩素ガスの流量を500sccmに上げ、アルゴンガスの流量を50sccmに設定する。
【0056】
精製完了後、塩素ガスをシステムから追い出し、精製済み生成物は焼成する。この作業は塩素ガス流を止め、流量500sccmの窒素ガス流を供給することにより行うが、この時流量250sccmの窒素ガスはマルチポート流量制御器を充填するため塩素ガス供給ラインを通して供給し、流量250sccmはマルチ流量制御器の窒素ポートを通して供給する。15分の充填後、スクラバーの再循環ポンプのスイッチを切り、流量500sccmのアルゴンガスを45分間、システム中全体に流す。
【0057】
45分後、アルゴンの流量を500sccmに保ったまま石英管の温度を25℃に下げる。冷却期間中に石英管の中間部の温度が500℃に達した時、オーブンを開く。石英管の中間部の温度が75℃以下に下がった時、アルゴンの流量を50sccmに下げる。システムが完全に冷却した時、排ガスホースとガススクラバーの接続を断ち、上のフランジを取り外す。それから下のフランジを取り外し、精製済みBNNTを石英管から取り出した。石英管は水、続いてメタノールで洗浄する。
【0058】
BNNT材料の回収の限度を決定するために、様々な生成されたBNNT材料で精製法を実施した。生成時BNNT材料は全て2018年1月9日に発布された米国特許US9,862,604に記載されたプロセスに従って生成した。当該特許の全内容は参照により本明細書に含まれる。フィルターの表面から回収した薄片状で柔軟な、布に似たBNNT材料を生成されたBNNT材料として用いて実施した反復精製実験の結果を表1に示した。全ての実験は上記のように750℃で実施した。
【0059】
【表1】
【0060】
表1で示したように、精製プロセスにより精製前後の質量の差に基づいて60~85重量%のBNNT回収率が得られる。多数の実験について回収率は70重量%を上回っていた。精製済み材料の熱重量分析(TGA)により残余の遊離ホウ素の量は0.1重量%未満であることが示される。典型的なTGAを図2に示す。100℃~900℃の温度範囲で質量増加はみられず、遊離のホウ素が存在しないことが示される。重量分析により更に生成されたBNNT、及び精製済みBNNT中のh-BN誘導体の量が同じであることが示され、上記の条件下で行ったプロセスは元素のホウ素物質種、及びいくらかのBNH重合体物質種の除去に有効であるが、残余のh-BN誘導体には有効で無いことが示された。以下の手順に厳密に従って重量分析を行った。BNNT材料(生成時、又は精製済み)2gを1Lの瓶に入れ、熱湯1Lを加えた。それから瓶を音波洗浄器内に入れ、15分間音波処理を行った。その後混合物を開口20μmのステンレス鋼網で濾過した。このプロセスを4回行い、その後溶液は音波処理後透明のままであった。それから濾取を乾燥し、計量し、材料の開始時の質量と比較した。質量の減量は、開始時の材料中に存在するh-BN誘導体の量に直接的に相関関係を示した。
【0061】
例3-精製法:h-BN除去、及び結晶性の向上
この例の実験は最終目標温度に到達した時のみ塩素ガスを注入する以外は例2と同様の手順に従った。その時塩素ガスは流量1000sccmで規定の30分間流した。2個の試料を1050℃で、1つは規定の30分間、もう1つは規定の120分間処理した。その後実験を終わらせ、材料を例2に記載されたように回収した。52gのAP-BNNT材料を均質化し、12gの試料4つ、及び2gの試料2つに分けた。12gの試料は各々異なる温度:750℃、850℃、950℃、及び1050℃で30分間精製した。2gの試料の一つを1050℃で120分間精製した。もう一つの2gの試料は比較のためそのままにしておいた。回収後精製済み試料は様々な分析を行った。図3に、温度及びT=1050℃について暴露時間の関数として質量減量を示した。温度が上昇すると質量減量が増加し、1050℃ではより長い暴露時間で平坦域となる傾向があることが明らかであった。図4に温度の関数として、重量分析のために、例1に記載した手順を用いて水で洗浄した後の質量の減量を示した。ここでは塩素処理した材料2gを分析ごとに用いた。洗浄プロセスは4回繰り返した。その後溶液は音波処理後透明のままであった。それから濾取を乾燥して計量した。SEM分析により濾過液は主として残余のh-BN誘導体であることが示された。したがって図4に見られる質量の減量はh-BNの除去に関連する。プロセス温度が上昇するにつれてフィルターを通過するh-BN誘導体の量が減少することが明らかであり、温度が上昇するにつれてAP-BNNT中のh-BN誘導体が塩素により除去されることが示された。これらの結果は提案された熱力学的現象、及び塩素分子ガスによるh-BNの選択的エッチングに関する他の観察[6]と整合するようである。この仮説はまたSEM分析により実証される。図5A図5Eは様々な温度での処理の後のBNNTの電界放出SEMを示す。温度が上昇するにつれ、所与の温度(図5Eで示すように、ここでは1050℃)でより長い暴露時間で、BNNTの相対的な量が増加することが明らかである。
【0062】
BNNTの純度はrra-P3HTを用いた分光測定法で決定できる。Martinez-Rubiらはrra-P3HTがπ-π相互作用によりBNNTと特定的に相互作用し、h-BNとは相互作用しないことを示した[7,8]。この相互作用によりrra-P3HTはBNNTの長さに沿って整列させられ、溶液の色が変化する。クロロホルム中のrra-P3HTはオレンジ色であるのに対して、いったんBNNT上に整列すると溶液は紫色に変化する。この変化は吸収分光測定法を用いて正確に追跡できる。遊離のrra-P3HTの吸収帯は432nmにピークを有するのに対して、BNNT/rra-P3HT複合体の吸収帯は520nm、555nm、及び603nmに発生する。Martinez-Rubiらは更に吸収強度が試料中に存在するBNNTの濃度に関係することを示した。
【0063】
このアプローチを利用して、精製済みBNNT試料の純度をrra-P3HTを用いた分光測定法で決定した。図6に様々な温度で精製した精製済みBNNT試料の結果を示し、塩素処理前のAP-BNNT(「未精製の」)との比較を提供する。これらのスペクトラムより温度が上昇するにつれて試料の純度が上昇することが明らかである。吸収帯の強度(より正確にはカーブの下の領域)に有意な違いが存在し、強度は温度に伴って増加する。更に吸収帯の構造は温度が上昇するにつれより明確になり、1050℃の試料は典型的なよく分解された吸収帯構造、及びより長い波長への小さいシフトを示しており、結晶性の上昇を示す。これらの結果は精製温度の高いBNNT試料の純度、及び結晶性の上昇を示す。理論に縛られることを希望しないが、塩素ガスは構造的に初期BNNT表面よりも欠陥のあるBNNT表面とより急速に反応すると推測する。いったん欠陥のある表面がエッチング除去されると、構造的に初期表面は純粋なBNNTを得るのに十分な長さの時間完全なままであった。炭素、及び窒化ホウ素ナノチューブの分野においてナノチューブの表面上に欠陥が存在することはよく知られている。BNNTについてはこれらの欠陥はホウ素、又は窒素の空孔である可能性があり、ホウ素の空孔では-O-ブリッジで終結している可能性があった。図5A図5Eに示すように暴露時間の増加に伴うBNNTの品質の向上がSEM分析により観察される。
【0064】
例4-精製法:より長い暴露時間の効果
例3に記載したように実施した別の一連の実験において、均質なバッチから10gの試料を5つ用意し、1050℃で、しかし異なる暴露時間、30、60、90、120、及び180分間塩素処理した。図7にその結果のBNNT/rra-P3HT複合体の吸収スペクトラムを示す。暴露時間が長くなるにつれて純度が上昇するが、ある時間以降、ここでは1050℃、90分間で平坦域に達することが明らかである。より長い暴露時間の効果はまた図5A図5Eに示したSEM、及び図3に示した質量の減量からも明らかである。
【0065】
例5-臭素ガスを用いた精製法
臭素は室温で液体であるが、約200Torrの蒸気圧を有する。図1に示した装置は図9の略図で示すような、キャリヤーガス(Ar)が臭素蒸気を反応器に付随する臭素貯蔵器19を含むように変更する必要がある。質量流量制御器(図9の13参照)をArの流量を制御するために貯蔵器19の前に挿入し、貯蔵器19から出ていくガスラインを図1のライン8に結合する。分析天秤を用いてAP-BNNTを10g計量し、石英管(図1の4参照)の多孔フリット上に置いた。次に精製手順を以下の仕様で例2同様に進行した。ガス漏れが無いことを確認後、流量1000sccmのAr下で炉の温度を950℃に上げた。炉の温度が950℃になった時、Ar/Brガス混合物を石英管に導入した。全体の流量を1000sccmに保ったままゆっくりと純粋なArからAr/Br混合物に移行させた。プロセスは10時間行った。精製が完了した時、ガス流を純粋なArに移行し、炉を冷却した。図10に精製法を適用する前後の材料の写真を示す。精製結果はこれらの写真より経験的に明らかであり、Br用いた精製の収率は約42%で、950℃で塩素を用いた例と同様であった。
【0066】
先述したように反応速度が遅く、臭素の最大濃度が室温で200Torrに制限されているので、臭素を用いる精製は、塩素を用いるより時間がかかる。同業者であればArの代わりに塩素ガスを用いることにより塩素及び臭素の混合物を用いる可能性を理解できる。これにより精製法に更に制御の要素が与えられた。
【0067】
例6-精製済みBNNT材料の品質評価
上記の例により本明細書に記載の精製法は3つの方法でBNNT材料を明らかに精製できることが示された。
1)ハロゲンガスが塩素で、温度が約400℃~約750℃の時、精製法により元素のホウ素誘導体、及びBNH重合体残余物が除去される。
2)ハロゲンガスが塩素などで、温度が約850℃~約1250℃の時、精製法によりh-BN誘導体が除去される、及び
3)ハロゲンガスが塩素で、温度が約850℃~約1250℃の時、欠陥のあるBNNT層が除去される。
【0068】
したがって、本明細書で示す精製法は、ハロゲンガスを混合する、及び/又はHClなどの他の精製剤を添加するという選択肢を有し、所与のハロゲンガスを用いて温度範囲、及び暴露時間を選択することにより様々な精製水準、及び収率でBNNT材料を精製する方法を提供することが同業者にとり明らかであろう。精製済みBNNT材料の品質評価できる方法を示すために、AP-BNNT材料を本開示の精製法に従って精製した。図11A~11B、12A~12D、及び13をY.Martinez Rubiらが記載の方法、及び品質指標[7,8]に従って示した。適用した品質指標はA1-0バンドの最大値で測定した低エネルギー領域での、及び420nmで測定した高エネルギー領域での吸光度(I)の比率(Q)として定義する。低及び高エネルギー領域での吸光度はそれぞれ整然とした、及び無定形のrra-P3HT集合体の量を測定する。図13を参照するとAP-BNNT材料のプロセス温度が上昇するにつれ、より高いrra-P3HT品質指標値が得られ、より純粋及び結晶性の(初期)BNNT材料であることが示される。
【0069】
参照文献:各参照文献の全体の内容は参照により本願に含まれる。

[1] K.S.Kim,M.J.Kim,C.Park,C.C.Fay,S.FI.Chu,C.T.Kingston,B.Simard, Semicond.Sci.Technol. 2017,32,013003.
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【0070】
様々な特定の実施例を以上で記載したが、これらの実施例は例示の方法としてのみ示されており、特許請求の範囲を制限する意図はないことを理解するべきである。その代わりに特許請求の範囲は全体として特許請求の範囲、及び明細書の用語と一致した最も広い解釈が与えられるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7
図8
図9
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図11A
図11B
図12A
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図13