IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザルトリウス ステディム バイオテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

特許7431832フィルタポケットを有するバイオリアクタ及びその製造方法
<>
  • 特許-フィルタポケットを有するバイオリアクタ及びその製造方法 図1
  • 特許-フィルタポケットを有するバイオリアクタ及びその製造方法 図2
  • 特許-フィルタポケットを有するバイオリアクタ及びその製造方法 図3
  • 特許-フィルタポケットを有するバイオリアクタ及びその製造方法 図4
  • 特許-フィルタポケットを有するバイオリアクタ及びその製造方法 図5
  • 特許-フィルタポケットを有するバイオリアクタ及びその製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】フィルタポケットを有するバイオリアクタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
C12M1/00 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021539938
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-03
(86)【国際出願番号】 EP2019086465
(87)【国際公開番号】W WO2020144049
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】102019100434.9
(32)【優先日】2019-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】508053186
【氏名又は名称】ザルトリウス ステディム バイオテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Sartorius Stedim Biotech GmbH
【住所又は居所原語表記】August-Spindler-Str.11, D-37079 Goettingen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】ブルマ,アルネ
(72)【発明者】
【氏名】ファウルシュティヒ,フランツィスカ
(72)【発明者】
【氏名】トゥンジニ,ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥルセール,レイチェル
(72)【発明者】
【氏名】トゥーア,ダリウス
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-535658(JP,A)
【文献】特表2014-527808(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0020922(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0287512(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0194589(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物、及び、動物又は植物に由来する細胞を培養するためのバイオリアクタであって、
柔軟なバイオリアクタの壁(18)の内面に配置されたフィルタポケットを有し、
前記フィルタポケットは、外側を前記バイオリアクタの壁(18)によって区切られ、内側をフィルタポケットの壁によって区切られ、
内側の前記フィルタポケットの壁は、少なくとも部分的にろ過材(12)によって形成され、
前記バイオリアクタの壁(18)と前記ろ過材(12)との間の前記フィルタポケットに、スペーサ(10)が配置され、
前記スペーサ(10)は、少なくとも1つの貫通開口部(20)を有し、
前記ろ過材(12)の接続部分(22)は、前記貫通開口部(20)を通じて突出し、前記バイオリアクタの壁(18)に直接接続されている、
バイオリアクタ。
【請求項2】
前記スペーサ(10)に、複数の前記貫通開口部(20)が設けられ、
前記ろ過材(12)の複数の前記接続部分(22)は、前記貫通開口部(20)を通じて突出し、前記バイオリアクタの壁(18)に直接接続されている、
請求項1に記載のバイオリアクタ。
【請求項3】
前記フィルタポケットには、完全に又は部分的に分離されたチャンバがない、請求項1又は請求項2に記載のバイオリアクタ。
【請求項4】
前記バイオリアクタの壁(18)は、少なくとも部分的にポリエチレンで形成されている、請求項1~3のいずれか1つに記載のバイオリアクタ。
【請求項5】
前記スペーサ(10)は、少なくとも部分的にポリエチレンテレフタレートで形成されている、請求項1~4のいずれか1つに記載のバイオリアクタ。
【請求項6】
フィルタ(12)は、少なくとも部分的にポリエーテルスルホンで形成された精密ろ過膜である、請求項1~5のいずれか1つに記載のバイオリアクタ。
【請求項7】
前記精密ろ過膜の2つの面のうち少なくとも一方は、多孔性の平面構造体に接続されている、請求項6に記載のバイオリアクタ。
【請求項8】
前記ろ過材(12)に、ホースライン(16)を接続可能な接続部品(14)が差し込まれている、請求項1~7のいずれか1つに記載のバイオリアクタ。
【請求項9】
最大総容量が、少なくとも50リットルである、請求項1~8のいずれか1つに記載のバイオリアクタ。
【請求項10】
微生物、及び、動物又は植物に由来する細胞を培養するためのバイオリアクタにおけるフィルタポケットの製造方法であって、
前記バイオリアクタを形成するための柔軟な壁(18)と、スペーサ(10)と、少なくとも部分的にろ過材(12)によって形成され、前記スペーサ(10)よりも表面が大きいフィルタポケットの壁と、が設けられる工程と、
前記スペーサ(10)に、前記スペーサ(10)を完全に貫通する少なくとも1つの貫通開口部(20)が形成される工程と、
前記スペーサ(10)が前記バイオリアクタの前記壁(18)の内面上に載置される工程と、
前記フィルタポケットの壁が前記スペーサ(10)上に載置される工程と、
前記スペーサ(10)を超えてはみ出た前記フィルタポケットの縁部が前記バイオリアクタの前記壁(18)に周状に固定される工程と、
前記ろ過材(12)の接続部分(22)が前記貫通開口部(20)に通される工程と、
前記ろ過材(12)の接続部分(22)が前記バイオリアクタの前記壁(18)に直接固定される工程と、
を含む製造方法。
【請求項11】
前記バイオリアクタの前記壁(18)に対する前記ろ過材(12)の少なくとも1つの前記接続部分(22)の固定は、スポット溶着によって行われる、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記バイオリアクタの前記壁(18)に対する前記ろ過材(12)の少なくとも1つの前記接続部分(22)の固定は、接着によって行われる、請求項10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物、及び、動物又は植物に由来する細胞を培養するためのバイオリアクタに関する。さらに、本発明は、このようなバイオリアクタのフィルタポケットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
欧州特許第2268788号明細書には、単回使用の平らなバッグとして形成されたバイオリアクタが開示されている。当該バイオリアクタでは、バイオリアクタの壁の液体で濡れる内面に、少なくとも1つのフィルタポケット(filter pocket)が固定されている。フィルタポケットは、バイオリアクタの内壁に親水性のろ過材(filter medium)の縁部を溶着することにより形成される。連続的な溶着シームは、ろ過材とバイオリアクタの内壁との間に、収集及び/又は分配空間を画定する。収集/分配空間は、培地を供給及び/又は排出するための少なくとも1つの接続部に連通接続されている。収集/分配空間には、バイオリアクタの壁に対するろ過材の付着を防止して、収集/分配空間が潰れるのを防止する、支持布(support fabric)の形のスペーサが設けられてもよい。このようなバイオリアクタは、特に、傾斜装置上で使用するための単回使用のバイオリアクタ(「ロッキング・モーション・バッグ」又は「ロッカー・バッグ」)として、灌流に適し、2~50リットル(総容量、25リットルまでの運転容量に対応)のサイズで市販されている。容量が更に大きい場合には、とりわけフィルタポケットに作用する機械的応力が増大するので、大容量に適したバイオリアクタを提供する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、大容量、特に、100リットル又は200リットル程度、若しくはそれ以上の容量の灌流にも適したバイオリアクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は、請求項1の特徴を有するバイオリアクタと、請求項10の特徴を有する方法とによって達成される。本発明に係るバイオリアクタ及び本発明に係る方法の有利かつ有用な設計は、関連する従属項に明記されている。
【0005】
微生物、及び、動物又は植物に由来する細胞を培養するための、本発明に係るバイオリアクタは、好ましくは単回使用のバイオリアクタであり、フィルタポケットを有する。フィルタポケットは、バイオリアクタの柔軟な壁の内面に配置され、外側をバイオリアクタの壁によって区切られ、内側をフィルタポケットの壁によって区切られている。内側のフィルタポケットの壁は、少なくとも部分的にろ過材によって形成されている。バイオリアクタの壁とろ過材との間のフィルタポケットには、スペーサが配置されている。本発明によれば、スペーサは、少なくとも1つの貫通開口部を有する。ろ過材の接続部分は、貫通開口部を通じて突出し、バイオリアクタの壁に直接接続されている。
【0006】
本発明は、いくつかの知見に基づく。まず、総容量が100リットル又はそれ以上のバイオリアクタでは、ろ過材の縁部の溶着がもはや十分ではなく、ろ過材の縁部がバイオリアクタの壁から離れ得ることが、試験によって示されている。このような場合、バイオリアクタのろ過されていない培地もフィルタポケットに進入できるので、フィルタポケットは、もはや確実には機能しない。その理由は、静水圧によって、バイオリアクタ内の液体の大きな量及び重量、すなわち、それらに応じた力が、フィルタポケットに作用することである。バイオリアクタが傾斜装置上で使用される場合、培地のスロッシング及びそれによって生じる力の衝突、並びに相対的な動きから生じる摩擦力によって、フィルタポケットの応力は、更に増加する。
【0007】
さらに、ろ過材、スペーサ、及びバイオリアクタの壁の好適な材料は、互いに容易に接続できないことが分かっている。これらの材料が溶着可能である場合にも、好適な材料の融点が著しく異なるので、ろ過材とスペーサとバイオリアクタの壁とを有するグループを溶着によって製造することには、既に問題がある。構成部品の接着又は他のタイプの接続にも、同じことが当てはまる。
【0008】
本発明は、ろ過材のみがバイオリアクタの壁に接続される点で、これらの困難を克服する。先行技術から知られるように、ろ過材の縁部をバイオリアクタの壁に対して周状に液密に接続することに加えて、本発明では更に、ろ過材とバイオリアクタの壁との少なくとも1つの点接続が、フィルタポケットの中央領域(すなわち、フィルタポケットの縁部領域ではない領域)に設けられる。当該少なくとも1つの点接続は、当該少なくとも1つの接続に加わるスペーサをろ過材とバイオリアクタの壁との間に配置することなく、すなわち、スペーサとろ過材との間、又は、スペーサとバイオリアクタの壁との間の直接的な接続を設けることなく、フィルタポケットを更に安定化するために設けられる。このことは、本発明によれば、スペーサが少なくとも1つの貫通開口部を有し、貫通開口部を通じて突出したろ過材の接続部分がバイオリアクタの壁に直接接続されることにより、達成される。このようにして、フィルタポケットに固定点を更に設けるときに、スペーサを無視することができる。すなわち、ろ過材の材料とバイオリアクタの壁の材料のみが、接続を確立する。
【0009】
スペーサの貫通開口部を通じて突出したろ過材の接続部分によって、スペーサがフィルタポケットにおいて位置決めされることは、本発明による、フィルタポケットを更に固定することの二次的な特に有利な効果である。この位置決めは、本発明に係る設計によって、溶着、接着、又は他の任意の接合技術なしに、自動的に実現される。このことは、スペーサが使用中に機械的に変形したり、丸まったり、広がったりすることがないので、特に有利である。
【0010】
本発明の好適な実施形態によれば、スペーサに好ましくは規則的に分布するように配置された複数の貫通開口部が設けられる。よって、ろ過材の接続部分は、スペーサの各貫通開口部を通じて突出し、バイオリアクタの壁に直接接続される。点状の接続の数、配置、サイズ、及び形状を巧みに選択することにより、フィルタポケットの安定性が良好であることと、フィルタポケット内のろ過された培地の分配に対する干渉が可能な限り小さいことと、流れによって自由に使用され得る膜面が可能な限り大きいこととの間の最適な関係を実現することができる。当該最適な関係では、溶着部は、膜面の全体と比較して可能な限り小さい。
【0011】
このことに関連して、フィルタポケットに完全に又は部分的に分離されたチャンバがない実施形態は、有利である。このことは、フィルタポケットにデッドスペース等が形成されないように、バイオリアクタの壁に追加的に固定されたろ過材の接続部分の数、配置、サイズ、及び形状が選択されることを意味する。特に、点状の接続部分の配置によって完全に又はほとんど閉鎖された接続線を形成して、フィルタポケット内に完全に又はほぼ完全に閉鎖されたチャンバを生じることは、有利ではない。
【0012】
本発明は、特定の灌流過程に好適な材料に関して適する。特に、本発明は、バイオリアクタの壁がとりわけポリエチレンで形成され、精密ろ過膜の形のろ過材と組み合わされるバイオリアクタに適する。精密ろ過膜は、少なくとも部分的に、好ましくは脂肪族ポリアミド、ポリスルホン及びポリエーテルスルホン、ポリエステル、ハロゲン化ポリビニリデン(polyvinylidene halides)、アクリル系重合体、アクリル系共重合体、並びにセルロースエステル、特に好ましくはポリエーテルスルホンで形成されている。精密ろ過膜は、その2つの側面のうちの少なくとも一方で、多孔性の平面構造体、特に、ポリプロピレン/ポリエチレン-ポリエチレンテレフタレート-ポリプロピレン/ポリエチレンの積層体に接続されている。これらの材料は、特に溶着により、互いに容易に接続され得る。接続に関与しないスペーサは、前述の材料に接続できない、又は、前述の材料に不十分にしか接続できないポリエチレンテレフタレートで作製されることが好ましい。原理的には、機械的及び化学的に不活性な材料の更なるスペーサが可能である。その材料の膨張及び収縮の程度は、膜の機能に悪影響を与えないほど低い。
【0013】
フィルタポケットの培地を容易に供給及び/又は排出することができるように、ろ過材には、バイオリアクタの外に至るホースラインを接続可能な接続部品が差し込まれることが好ましい。
【0014】
本発明の利点は、最大総容量が少なくとも50リットル、好ましくは100リットル、200リットル、及び1000リットルまでのバイオリアクタ、特に、このサイズの、傾斜装置上で使用することが意図された単回使用のバイオリアクタにおいて、最良の効果を発揮する。
【0015】
また、本発明は、微生物、及び、動物又は植物に由来する細胞を培養するためのバイオリアクタにおけるフィルタポケットの製造方法を提供する。当該製造方法は、バイオリアクタを形成するための柔軟な壁、スペーサ、及び、少なくとも部分的にろ過材によって形成されてスペーサよりも表面が大きいフィルタポケットの壁が設けられる工程と、スペーサにスペーサを完全に貫通する少なくとも1つの貫通開口部が形成される工程と、スペーサがバイオリアクタの低い方の壁の内面上に載置される工程と、フィルタポケットの壁がスペーサ上に載置される工程と、スペーサを超えてはみ出たフィルタポケットの縁部がバイオリアクタの壁に周状に固定される工程と、ろ過材の接続部分が貫通開口部に通される工程と、ろ過材の接続部分がバイオリアクタの壁に直接固定される工程と、を含む。
【0016】
本発明に係る製造方法は、スペーサが容易に「貫通される」ことができ、その後、ろ過材又はバイオリアクタの壁との直接的な接続を形成する必要のあるスペーサなしに、ろ過材がこのようにして設けられた(好ましくは、同じ工程で設けられた)貫通開口部を通じてバイオリアクタの壁に直接接続され得る、という知見を利用している。スペーサに設けられた穴の断面は、それぞれ、後の接続部分、すなわち、ろ過材とバイオリアクタの壁との間の直接的な接続の点又は面領域よりも、相対的にわずかに大きくされるべきである。このことにより、ろ過材がバイオリアクタの壁に接続されるとき、特に溶着により接続されるときに、スペーサの材料も不用意に溶着されてしまうことがより確実になくなる。このようにして、穴のサイズによって、接続点又は接続領域の強度がより確実にされ、使用中に穴が生じることはない。
【0017】
本発明に係るフィルタポケットの製造後、バイオリアクタが完成される。ここで、バイオリアクタが、例えば、壁を折り畳み、重なった自由縁部を接続することにより、フィルタポケットを伴う柔軟な壁から実質的に単独で形成されるか、又は、1つ以上の更なる壁がバイオリアクタを形成するように互いに接続されるかは、基本的に重要ではない。
【0018】
ろ過材の少なくとも1つの接続部分とバイオリアクタの壁との固定は、スポット溶着によって行われることが最良である。適切な装置は、市場で入手可能である。このような接続技術は、実証及び確立されている。
【0019】
または、ろ過材の少なくとも1つの接続部分とバイオリアクタの壁との固定は、接着によって行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明の更なる特徴及び利点は、以下の説明及び参照される添付の図面から明らかになる。
【0021】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係るバイオリアクタにおけるフィルタポケット用のスペーサを示す図である。
図2図2は、本発明の第1実施形態に係るバイオリアクタにおける、フィルタポケットを形成するためのろ過材を示す図である。
図3図3は、本発明の第1実施形態に係るバイオリアクタにおける完成されたフィルタポケットを示す図である。
図4図4は、本発明の第2実施形態に係るバイオリアクタにおけるフィルタポケット用のスペーサを示す図である。
図5図5は、本発明の第2実施形態に係るバイオリアクタにおける、フィルタポケットを形成するためのろ過材を示す図である。
図6図6は、本発明の第2実施形態に係るバイオリアクタにおける完成されたフィルタポケットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図は、大きなバイオリアクタにフィルタポケットがどのように形成され得るかを例示している。より具体的には、図1図3は、総容量が100リットル(推奨運転容量:50リットル)のバイオリアクタである第1実施形態に関し、図4図6は、総容量が200リットル(推奨運転容量:100リットル)のバイオリアクタである第2実施形態に関する。以下の説明は、基本的に両方の実施形態に適用される。2つの実施形態の間の差異は、最後に別途説明される。
【0023】
図1及び図4は、完成されたフィルタポケットにおいてスペーサ10となる目の粗い網目状(wide-meshed)の工業用織物のブランク(blank)をそれぞれ示す。織物は、PET(polyethylene terephthalate(ポリエチレンテレフタレート))繊維で形成されていることが好ましいが、他の方法、及び/又は、柔軟で壊れにくく座屈しない他の任意の材料によって形成されてもよい。スペーサ10については、フィルタポケット内のろ過された(細胞を含まない)培地を通過させることができる(すなわち、とりわけ硬くはない)一方で、フィルタポケット内に画定された空間が潰れるのを防止するのに十分な安定性を有することが重要である。さらに、特定の領域は、スペーサ10からより確実に分離される必要がある。スペーサ10のこの特徴は、後でより詳細に説明される。
【0024】
図2及び図5は、バイオリアクタにおいて内側のフィルタポケットの壁を形成するろ過材12をそれぞれ示している。ろ過材12は、細胞に対しては不透過性である一方、細胞懸濁液の他の成分をよく透過し得る。この目的には、有効孔径が最大で10μmの精密ろ過膜(以下、単に膜と呼ぶ)、例えば、濡れても膨張せず、孔径が1,2μmである親水性のポリエーテルスルホン(PESU)膜が適する。いずれにせよ、孔は、スペーサ10の網目よりも小さい。
【0025】
膜の一方面又は両面は、PP/PE-PET-PP/PE積層構造(ポリプロピレン/ポリエチレン-ポリエチレンテレフタレート-ポリプロピレン/ポリエチレン積層体)を有する安定したコアシュラウド不織布(stable core shroud nonwoven)等の、多孔性の平面構造体に接着接続してもよい。
【0026】
ろ過材12には、接続部品14が組み込まれている。接続部品14には、例えば、ろ過材12を完全に貫通するホースオリーブ(hose olive)がある。接続部品14には、少なくともろ過材12の一方面において、ホースライン16を接続することができる。
【0027】
以下では、フィルタポケットの壁となるろ過材12とスペーサ10とを用いた、柔軟な単回使用のバイオリアクタにおけるフィルタポケットの製造について説明する。例えば、フィルタポケットの壁18は、PE(ポリエチレン(polyethylene))から形成されることが好ましい。
【0028】
スペーサ10は、所定の位置で「貫通されて」いる。すなわち、これらの位置には、スペーサ10を完全に貫通する貫通開口部20が形成されている。貫通開口部20は、例えばパンチング等の様々な方法により作製され得る。貫通開口部20は、基本的には任意の形状に作製されるが、円形の外周を有することが好ましい。図1及び図4では、スペーサ10には、それぞれ4つ及び6つの貫通開口部20が既に設けられている。
【0029】
バイオリアクタが完成される前に、まず、スペーサ10は、バイオリアクタの壁18の、バイオリアクタの使用時に培地に面する内面上で、フィルタポケットが形成される位置に載置される。その上に、全ての辺でスペーサ10を超えてはみ出たより大きなろ過材12が載置される。
【0030】
続いて、フィルタポケットの壁の縁部は、全周に亘って液密に、特に溶着によって、バイオリアクタの壁18に接続される。ここで説明する例示的な実施形態では、フィルタポケットの壁は、ろ過材12のみによって形成されている。このような液密な接続は、フィルタポケットの壁又はろ過材12を、フィルタポケットの壁又はろ過材12とバイオリアクタの壁18との間に配置された材料と共に、バイオリアクタの壁18に対して間接的に取り付けることとも理解される。間接的で液密な接続は、適切である場合に、直接的な接続と比較して接着性及び/又は密着性が改善するときに有利であり得る。このようにして形成されたフィルタポケットは、まだ完成されてはいないが、外側をバイオリアクタの壁18によって区切られ、内側を(少なくとも部分的に)ろ過材12によって区切られている。スペーサ10は、ろ過材12の縁部がバイオリアクタの壁18に固定されることによってスペーサ10がこのように形成されたフィルタポケットに「閉じ込められる」ことを除いて、この接続工程には関与しない。
【0031】
その後、更なる接続工程では、ろ過材12とバイオリアクタの壁18との間に、点状の接続が追加される。この目的のために、ろ過材12の対応する接続部分22は、スペーサ10の貫通開口部20を通じて押し付けられ、バイオリアクタの壁18に直接固定される。このことは、例えば、接着、又は、特にスポット溶着システムを使用した局所的な加熱及び溶融により可能である。スペーサ10は、この接続工程にも直接関与していない。すなわち、スペーサ10自体は、ろ過材12又はバイオリアクタの壁18のいずれとも接続を形成していない。しかしながら、スペーサ10のフィルタポケットにおける移動性は、点接続によって、厳しく制限されるか又は完全に防止される。このことは、有利であり望ましい。
【0032】
比較的厚いスペーサ10及び/又は比較的柔軟性のないろ過材12の場合、ろ過材12のバイオリアクタの壁18と結びつく面に、突出したニップルが設けられてもよい。突出したニップルの配置は、スペーサ10における貫通開口部20の配置に適合している。このとき、ろ過材12は、固定前に、ニップルが貫通開口部20内に又は貫通開口部20を通じて延びるように、スペーサ10上に載置される。このことにより、ろ過材12をこれらの位置で固定することが容易になる。このようなニップルは、ろ過材上のニップルに加えて、又は、ろ過材上のニップルに代えて、バイオリアクタの壁18に設けられてもよい。
【0033】
点接続の正確な形状は、特に重要ではない。例えば、環状の固定点は、加熱された円筒状の管を用いて形成され得る。
【0034】
しかしながら、点接続がろ過材12の縁部領域ではなく中央領域に設けられることは、重要である。このことにより、ろ過材12とバイオリアクタの壁18との間の接続がより確実に非常に強いものとなるだけではなく、スペーサ10は、ろ過材12とバイオリアクタの壁18との間の接続に直接関与することなく、より確実に所定の位置に固定される。また、それぞれの点接続のために、フィルタポケットにおいて、チャンバ又は他のデッドスペースが分離されたり、区切られたりしないことがより確実にされる。むしろ、培地は、フィルタポケットのどの領域にも到達できる。
【0035】
図3及び図6に示すように、原理的には逆の順序でも行われ得る上述の2つの接続工程が完了した後、灌流に適した極めて堅牢なフィルタポケットが、バイオリアクタ内に形成される。その後、既知の方法により、バイオリアクタ自体が完成される。
【0036】
内側のフィルタポケットの壁は、一部のみがろ過材12で形成されてもよい。すなわち、内側のフィルタポケットの壁の全体がろ過材12で形成される必要はない。
【0037】
ろ過材12、スペーサ10、及びバイオリアクタの壁18の異なる材料は、特にバイオリアクタの使用中に、スペーサ10がろ過材12又はバイオリアクタの壁18のいずれにも付着しないように選択される。
【0038】
特にフィルタポケットから培地を排出するために設けられたホースライン16は、バイオリアクタから引き出されることができ、ろ過材12のフィルタポケットと反対を向いた接続部品14に接続され得る。原理的には、他の設計も可能である。フィルタポケットには、分離された流れ接続を実現可能な少なくとも1つの液体接続を有することが不可欠である。当該流れ接続は、フィルタポケットから排出される培地がバイオリアクタ内に残る培地と混ざらないように、バイオリアクタ内のフィルタポケットの外にある培地と分離されている。
【0039】
上述のように、図1図3は、総容量が100リットルのバイオリアクタである第1実施形態に関し、図4図6は、総容量が200リットルのバイオリアクタである第2実施形態に関する。第2実施形態では、第1実施形態とは異なり、4つではなく6つの規則的に配置された点接続が設けられている。しかしながら、点接続の具体的な数、配置、形状、及びサイズは、上述の実施形態又は他の実施形態のいずれかを限定するものとして理解されるべきではなく、原則として可変である。
【0040】
バイオリアクタにおけるフィルタポケットのサイズ、形状、及び位置は、用途に応じて任意に幅広く選択され得る。例えば、非常に細長いフィルタポケット、又は、バイオリアクタの内周の周囲を完全に延びるフィルタポケットも考えられる。後者の場合、フィルタポケットの壁の縁部を「周状に」接続することは、環状のフィルタポケットの壁における長手方向の2つの縁部をバイオリアクタの壁18に対して接続することとして理解される。
【0041】
一般に、フィルタポケットの具体的な設計は、以下の要件及び基準を満たすべきである。
【0042】
一方では、それぞれの意図された使用のためのフィルタポケットの安定性は、いつでも確実にされる必要がある。しかし、他方では、流れによって使用可能なろ過材12の膜面は、可能な限り制限されないようにされるべきである。すなわち、点接続のために使用不可能なフィルタ面は、可能な限り小さくされるべきである。加えて、点接続は、フィルタポケットにおける培地の分配を可能な限り損なわないようにされるべきである。また、接続部品14は、より確実に機能する必要がある。
【0043】
堅牢なフィルタポケットを製造するという前記の構想は、傾斜装置上で使用するための100リットル及び200リットルのサイズのバイオリアクタにおいて、既に成功裏に試験されている。しかしながら、当該構想は、他のサイズのバイオリアクタ、特に、更に大きなバイオリアクタにも用いることができる。
【符号の説明】
【0044】
10 スペーサ
12 ろ過材
14 接続部品
16 ホースライン
18 バイオリアクタの壁
20 貫通開口部
22 接続部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6