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特許7431834多糖類とエラスチン様ポリペプチドとのバイオコンジュゲート及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】多糖類とエラスチン様ポリペプチドとのバイオコンジュゲート及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/40 20060101AFI20240207BHJP
   C08G 81/00 20060101ALI20240207BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20240207BHJP
   C08G 69/48 20060101ALI20240207BHJP
   B82Y 5/00 20110101ALI20240207BHJP
【FI】
C08G69/40
C08G81/00
A61K47/69
C08G69/48
B82Y5/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021541316
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 EP2019075865
(87)【国際公開番号】W WO2020064836
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】18306238.9
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512082439
【氏名又は名称】アンスティテュ ポリテクニック ドゥ ボルドー
【氏名又は名称原語表記】Institut Polytechnique De Bordeaux
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】514058706
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ボルドー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン・ルコマンドゥ
(72)【発明者】
【氏名】エリザベト・ガランジェ
(72)【発明者】
【氏名】シャオ・イェ
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-506940(JP,A)
【文献】特開2004-231633(JP,A)
【文献】国際公開第2007/146228(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G69
C08G81
A61K47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのオリゴ糖もしくは多糖ブロック及び少なくとも1つのエラスチン様ポリペプチドブロックを有し、且つ下式(II):
【化1】
[式中、
・Rは、(C1-C6)アルキル基であり、
・Xは、オリゴ糖もしくは多糖であり、
・X’は、(C1-C6)アルキレン基であり、
・Yは、以下の基:
【化2】
{R1及びR2は、Hまたはこれらを担持する炭素原子と共にシクロヘキシル基を形成し、
R3及びR4は、Hまたはこれらを担持する炭素原子と共にシクロヘキシル基を形成し、
R5は、Hまたはアルキル基である}
からなる群より選択される基であり、
・iは、1から6の整数であり、
・X1は、共有結合または式:
【化3】
の基であり、
・X2は、共有結合または式-(AA)j-の基であり、jは、1から6の整数であり、AAは、個別に天然もしくは合成のアミノ酸であり、
・nは、1から200の整数であり、
・R’は、プロリン及びその誘導体以外の天然もしくは合成のアミノ酸の側鎖である]
を有するブロックコポリマー。
【請求項2】
R’が、-CH(CH3)2または-(CH2)2SCH3である、請求項1に記載されるブロックコポリマー。
【請求項3】
下式(III):
【化4】
[式中、
・kは、1から6の整数であり、
・i、n、X、X1、X2、R、及びR’は、請求項1に定義される通りである]
を有する、請求項1または2に記載されるブロックコポリマー。
【請求項4】
下式(III-1):
【化5】
[式中、
・kは、1から6の整数であり、
・n、X、R、及びR’は、請求項1に定義される通りである]
を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載されるブロックコポリマー。
【請求項5】
Xが、ガラクタン、グリコアミノグリカン、セルロース、キトサン、フコイダン、及びこれらの誘導体からなる群より選択されるオリゴ糖または多糖である、請求項1から4のいずれか一項に記載されるブロックコポリマー。
【請求項6】
オリゴ糖または多糖が、ヒアルロナン、ラミナリヘキサオース、デキストラン、またはガラクタンである、請求項5に記載されるブロックコポリマー。
【請求項7】
下式:
【化6】
[R’は、請求項1または2に定義される通りである]
の1つを有する、請求項1から6のいずれか一項に記載されるブロックコポリマー。
【請求項8】
式(IV):
【化7】
[式中、i、X1、X2、及びR’は、請求項1に定義される通りである]
を有する化合物と式(V):
【化8】
[X、R、及びX’は、請求項に定義される通りである]
を有するアジド化合物との反応を含む、請求項1又は2に定義されるブロックコポリマーの調製方法。
【請求項9】
式(IV)の化合物が、下式(VI):
【化9】
[式中、X1、X2 、R’及びnは、請求項1に定義される通りである]
を有する化合物と下式(VII):
【化10】
[式中、
・iは、請求項1に定義される通りであり、
・R”は、脱離基である]
を有する化合物との反応によって得られる、請求項8に記載される方法。
【請求項10】
ナノ粒子の調製のための、請求項1から7のいずれか一項に定義されるブロックコポリマーの使用。
【請求項11】
前記ブロックコポリマーをその転移温度より高温で加熱する工程を含む、請求項1から7のいずれか一項に定義されるブロックコポリマーのナノ粒子の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類とエラスチン様ポリペプチドとのバイオコンジュゲート、その調製方法、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の糖化学の進歩により、直鎖状ブロックポリマーの調製が可能となり、ここでは、多糖鎖が、合成または天然の第2のブロックと結合する。糖鎖を、クリックケミストリーによって、例えば組換えDNA技術によって得られた規定のペプチド配列と共重合させると、高度な機能性を得ることができ、これにより正確な一次構造を有するポリペプチドが得られる。
【0003】
このアプローチにより、明確に定義された機能性、及び場合によっていずれかまたは両方のブロックに組み込むことが可能な刺激応答性並びに固有の生物活性を備えたブロックコポリマーを設計することができる。あえて前記ブロックの水への溶解度は大幅に異なってよく、且つ/または物理化学的環境の変化に対応することができ、このため、区画された凝集体、例えばコア/コロナ球状凝集体または円筒状凝集体、あるいはベシクルを形成することができる。
【0004】
特に、エラスチン様ポリペプチド(ELP)は、特定の温度(転移温度、Tt)で水和コイルから崩壊したコアセルベートに相転移することから、温度応答性ペプチド配列として近年注目されている。状態図中の最低温度に相当する下限臨界共溶温度(LCST)は、ポリペプチドの長さ及び一次配列によって制御可能であり、このため、特定の濃度における転移温度を必要に応じて調整することができる。
【0005】
また、多糖類及びポリペプチドベースにのブロックコポリマーは、その本来の生体適合性や生分解性により、生物医学及び生体材料の分野において、組織工学及びドラッグデリバリーのために広く応用されている。多糖類の中には、特定の受容体を認識するものがあり(例:ガラクタン/ガレクチン、またはヒアルロン酸/CD44)、標的コポリマーの設計に大きな関心が寄せられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】Meyer, D. E.; Chilkoti, A. Biomacromolecules 2004, 5, 846-851
【文献】McDaniel, J. R.; Radford, D. C.; Chilkoti, A. Biomacromolecules 2013, 14(8), 2866-2872
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、温度誘起自己組織化特性を有する新規なブロックコポリマーを提供することである。
本発明の別の目的は、調節可能なLCSTを有し、且つ温度に応じてナノ粒子を形成可能なブロックコポリマーを提供することである。
本発明の別の目的は、特定の調節可能なLCST以上の水性条件において、正確な生物活性及び刺激応答性自己組織化特性を備えた材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明は、少なくとも1つのオリゴ糖もしくは多糖ブロック及び少なくとも1つのエラスチン様ポリペプチドブロックを有するブロックコポリマーに関し、前記ブロックコポリマーは、下式(I):
【化1】
[式中、
R’は、プロリン及びその誘導体以外の天然もしくは合成アミノ酸の側鎖である]
を有する少なくとも1つの繰り返し単位を含む。
【0009】
したがって、本発明によるブロックコポリマーは、多糖類(またはオリゴ糖)ブロック、並びに式(I)の繰り返し単位に相当するエラスチン様ポリペプチド(ELP)の誘導体を含む複合物である。
【0010】
ELPは、[-Val-Pro-Gly-Xaa-Gly-]ペンタペプチドの繰り返し配列であって、ゲスト残基Xaaはプロリンを除く任意のアミノ酸であり、これは本来トロポエラスチンの疎水性ドメインから着想されたものである(本発明による式(I)の繰り返し単位において、R'が前記Xaaアミノ酸の側鎖に相当する)。
【0011】
ELPは、合成ポリマー、例えばポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(pNIPAM)と同様に、逆温度転移(Tt)とも呼称される下限臨界共溶温度(LCST)を示す。ELP鎖は、LCST以下で水に完全に溶解する一方で、LCST以上では不溶性の状態に変化する。完全に可逆に、この凝集は、ELP繰り返し配列中のXaaゲスト残基の性質、ELPの全体的分子量及びモル濃度、並びに溶液のイオン強度などの様々なパラメータによって影響される(Meyer, D. E.; Chilkoti, A. Biomacromolecules 2004, 5, 846-851; McDaniel, J. R.; Radford, D. C.; Chilkoti, A. Biomacromolecules 2013, 14(8), 2866-2872)。この溶解度変化は、細菌溶解物からの組換えELPの精製のため、並びに個々のELPブロックの制御された自己組織化のために、大きな利点であることが判明している。
【0012】
本発明によれば、「プロリン及びその誘導体」なる表現は、プロリン並びに任意の環状α-アミノ酸を意味する。
「プロリン誘導体」なる語は、プロリン骨格に基づく任意の非標準アミノ酸、すなわちα、β、γ、またはδ炭素原子に置換基を有するプロリン、例えば4-ヒドロキシプロリンまたはα-メチルプロリンを企図する。
好ましくは、Xaaアミノ酸は、バリンまたはメチオニンである。
【0013】
有利な実施態様によれば、本発明のブロックコポリマーは、式(I)を有する少なくとも1つの繰り返し単位を含み、ここで、R’は、-CH(CH3)2または-(CH2)2SCH3である。
【0014】
一実施態様によれば、本発明のブロックコポリマーにおいては、オリゴ糖もしくは多糖類ブロックとエラスチン様ポリペプチドブロックとがリンカーによって連結されており、前記リンカーは、クリックケミストリーによって得られるY基を含む。
【0015】
このように、Y基は、クリックケミストリー反応によって得られる。こうしたクリックケミストリー反応には、特に、不飽和化合物の環化付加反応が含まれ、その中でもジエノフィルとジエンとの間のディールス-アルダー反応、また特に、アジド-アルキン1,3-双極子環化付加反応、好ましくは銅触媒によるアジド-アルキン環化付加反応(CuAAC)を挙げることができる。
【0016】
別のクリックケミストリー反応には、チオール官能を含む反応、例えば、アルケン及び混合ジスルフィドからのチオエーテルの生成、さらに、非アルドール型の求電子性カルボニル基を含む反応、例えば、オキシアミンからのオキシムエーテルの生成、ヒドラジンからのヒドラゾンの生成、あるいはまた、チオセミカルバジンからのチオセミカルバゾンの生成が含まれる。
【0017】
クリックケミストリー反応としては、チオカルボン酸またはチオエステルを用いてチオエステル及びアミドの生成をもたらす反応、またさらに、アジドとホスフィンとの反応(例えば、シュタウディンガーライゲーション)も挙げられる。
【0018】
好ましくは、Y基は、2つの反応性官能の間の反応によって得られ、前記反応は、以下からなる群より選択される。
・アジドとアルキンとの反応、
・アルデヒドまたはケトンとヒドラジドとの反応、
・アルデヒドまたはケトンとオキシアミンとの反応、
・アジドとホスフィンとの反応、
・アルケンとテトラジンとの反応、
・イソニトリルとテトラジンとの反応、及び
・チオールとアルケンとの反応(チオール-エン反応)。
【0019】
一実施態様によれば、本発明のブロックコポリマーは、下式(II):
【化2】
[式中、
・Rは、(C1-C6)アルキル基であり、
・Xは、オリゴ糖もしくは多糖であり、
・X’は、(C1-C6)アルキレン基であり、
・Yは、以下の基:
【化3】
{R1及びR2は、Hまたはこれらを担持する炭素原子と共にシクロヘキシル基を形成し、
R3及びR4は、Hまたはこれらを担持する炭素原子と共にシクロヘキシル基を形成し、
R5は、Hまたはアルキル基である}
からなる群より選択される基であり、
・iは、1から6の整数であり、
・X1は、共有結合または式:
【化4】
の基であり、
・X2は、共有結合または式-(AA)j-の基であり、jは、1から6の整数であり、AAは、個別に天然もしくは合成のアミノ酸であり、
X2は、好ましくは、式:
【化5】
の基であり、
・nは、1から200の整数であり、
・R’は、式(I)において以上に定義される通りであり、好ましくは、個別に-CH(CH3)2または-(CH2)2SCH3である]
を有する。
【0020】
本発明によれば、「(Ct-Cz)アルキル」なる表現は、tからz個の炭素原子を持つことのできるアルキル基を意味する。
【0021】
本発明においては、「アルキル基」なる語は、特記のない限り、1から6、好ましくは1から4の炭素原子を含む、直鎖状または分枝状の、飽和または不飽和の、炭化水素系脂肪族基を意味する。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、またはペンチル基を挙げることができる。
【0022】
本明細書では、「アルキレン」(または「アルキリデン」)なる語は、1から6、好ましくは1から4の炭素原子を含む2価の基を意味する。前記基が直鎖状である場合、これは式(CH2iで表してよく、ここでiは1から6の整数である。以下のアルキレン基を例として挙げることができる:メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、またはヘキシレン。
【0023】
一実施態様によれば、以上に定義されるY基は、下記より得られる。
・アジドとアルキンとの反応、特に銅触媒を用いたアジド-アルキン-ハウゼン1,3-双極子環化付加(CuAAc)による反応、好ましくは、こうした基は、上述の式(A)を有し、
・アジドとシクロオクチンとの反応、特に歪み促進型の銅触媒非存在下のアジド-アルキン[3+2]環化付加(SPAAc)による反応、好ましくは、こうした基は、上述の式(B)を有し、
・テトラジンとトランスシクロオクチンとの反応、特に逆電子需要ディールス-アルダー環化付加(iEDDA)による反応、好ましくは、こうした基は、上述の式(C)を有する。
【0024】
より好ましくは、Yは、トリアゾール基から選択され、最も好ましくは式(A)を有する。
【0025】
一実施態様によれば、 本発明のブロックコポリマーは、下式(III):
【化6】
[式中、
・kは、1から6の整数であり、
・i、n、X、X1、X2、R、及びR’は、上記式(II)に定義される通りである]
を有する。
【0026】
一実施態様によれば、 本発明のブロックコポリマーは、下式(III-1):
【化7】
[式中、
・kは、1から6の整数であり、
・n、X、R、及びR’は、上記式(II)に定義される通りである]
を有する。
【0027】
好ましくは、本発明によるブロックコポリマー、特に式(II)、(III)、または(III-1)においては、Xは、ガラクタン、グリコアミノグリカン、セルロース、キトサン、フコイダン、及びこれらの誘導体からなる群より選択されるオリゴ糖または多糖である。
【0028】
より好ましくは、前記オリゴ糖または多糖は、ヒアルロナン、ラミナリヘキサオース(laminarihexaose)、デキストラン、またはガラクタンであり、最も好ましくは、ヒアルロナン、ラミナリヘキサオース、またはガラクタンである。
【0029】
一実施態様によれば、 本発明のブロックコポリマーは、下式:
【化8】
の1つを有する。
【0030】
本発明はまた、オリゴ糖もしくは多糖類ブロックと及び官能基G1を担持する化合物(1)と、少なくとも1つのエラスチン様ポリペプチドブロック及び官能基G2を担持する化合物(2)との反応を含み、ここで、前記官能基G1とG2とが反応してクリックケミストリーによりリンカーが形成される、以上に定義されるブロックコポリマーの調製方法に関する。
【0031】
より好ましくは、本発明は、以上に定義され、且つ好ましくは式(II)を有するブロックコポリマーの調製方法に関し、式(IV):
【化9】
[式中、i、X1、X2、及びR’は、上記式(II)に定義される通りである]
を有する化合物と式(V):
【化10】
[X、R、及びX’は、上記式(II)に定義される通りである]
を有するアジド化合物との反応を含む。
【0032】
好ましい実施態様によれば、式(IV)の化合物は、下式(VI):
【化11】
[式中、X1、X2、及びR’は、上記式(II)に定義される通りである]
を有する化合物と下式(VII):
【化12】
[式中、
・iは、上記式(II)に定義される通りであり、
・R”は、脱離基である]
を有する化合物との反応によって得られる。
【0033】
上記式(II)において、R”は、当該技術分野で周知の任意の脱離基を表す。好ましくは、この基は、以下:
・N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)から誘導される基、例えば以下の基:
【化13】
・またはペンタフルオロフェノールから誘導される基、例えば以下の基:
【化14】
からなる群より選択される。
【0034】
別の脱離基には、塩素原子または-OC(=O)-OAlk基も含まれ、Alkはアルキル基を表す。
【0035】
本発明はまた、以上に定義され、特に、式(II)、(III)、または(III-1)の1つを有するブロックコポリマーの、粒子、例えばナノ粒子またはマイクロ粒子の調製のための使用にも関する。
【0036】
好ましくは、前記粒子は、散乱法(光、中性子)または顕微鏡法(AFM、Cryo-TEM)で測定して、10nmから10μm、より好ましくは50nmから500nmの平均直径を有する。
【0037】
本発明はまた、以上に定義されるブロックコポリマーの(ナノ)粒子の調製方法にも関し、上記ブロックコポリマーを、その転移温度以上に加熱する工程を含む。
【0038】
得られた粒子、特にマイクロ粒子またはナノ粒子は、様々な分野で、例えば、エマルションの安定化のためのみならず、パーソナルケアのため、または保健医療におけるナノキャリアとして使用できる点で、特に有利である。これらはまた、化粧品分野においても使用してよい。
【0039】
一実施態様によれば、以上に定義されるブロックコポリマー製のこれらナノ粒子は、前記ブロックコポリマーの可溶性形態と比較して、強化されたレクチン結合親和性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は、水中のDex-ELPの集合体(125μm)の動的光散乱(DLS)分析を表す。散乱強度を、高速加熱時の温度の関数として示す。
図2図2は、水中のDex-ELPの集合体(125μm)の動的光散乱分析を表す。様々な温度(30℃、40℃、45℃、55℃、及び60℃)における強度のサイズ分布を示す。
図3図3は、DLSにおける、水中のDex-ELP(125μM)の高速加熱(45℃)及び冷却(25℃)を繰り返した際の時間の関数として、Z平均サイズ及び多分散性を表す。
図4図4は、水中のDex-ELP(125μM)の、45℃、90°におけるDLS自己相関関数(g2(t)-1)及び緩和時間分布(A(q,t))を表す。
図5図5は、水中のHex-ELPの集合体(125μM)の動的光散乱分析を表す。(A) 散乱強度を、高速加熱時の温度の関数として示す。(B)様々な温度(30℃、33℃、37℃、42℃、50℃、及び60℃)における強度のサイズ分布を示す。
図6図6は、(A)35℃または(B)65℃におけるマイカ基板上のDex-ELP(水中50μM)の、(C)30℃または(D)55℃におけるHOPG基板上のHex-ELP(水中50μM)の、液体AFM画像を表す。スケールバーは1μmを示す。
図7図7は、90°、33℃におけるHex-ELPのDLS自己相関関数(g2(t)-1)及び緩和時間分布(A(q,t))を表す。
図8図8は、90°、37℃におけるHex-ELPのDLS自己相関関数(g2(t)-1)及び緩和時間分布(A(q,t))を表す。
図9図9は、90°、45℃におけるHex-ELPのDLS自己相関関数(g2(t)-1)及び緩和時間分布(A(q,t))を表す。
図10図10は、水中のHA-ELPの集合体(150μM)の動的光散乱分析を表す。散乱強度を、高速加熱時の温度の関数として示す。
図11図11は、水中のHA-ELPの集合体(150μM)の動的光散乱分析を表す。様々な温度(25℃、35℃、48℃、及び60℃)における強度のサイズ分布を示す。
図12図12は、DLSにおける、水中のHA-ELP(125μM)の高速加熱(48℃)及び冷却(25℃)を繰り返した際の時間の関数として、Z平均サイズ及び多分散性を表す。
図13図13は、水中のHA-ELP(125μM)の、50℃、90°におけるDLS自己相関関数(g2(t)-1)及び緩和時間分布(A(q,t))を表す。
図14図14は、(A)25℃、(B)52℃、または(C)55℃におけるマイカ基板上のHA-ELP(水中150μM)の、液体AFM画像を表す。スケールバーは1μmを示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
実施例
材料
アクロレイン(95%)、アジ化ナトリウム(NaN3、99.5%)、酢酸(AcOH、99.8%)、メトキシアミン塩酸塩(98%)、ナトリウムシアノボロハイドライド(NaBH3CN、95%)、塩酸(HCl、37%)、4-ペンチン酸(97%)、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC, 99%)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS、98%)、トリメチルアミン(TEA、99%)、硫酸銅(II)五水和物(CuSO4、99%)、ジクロロメタン(DCM、99.9%)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、99.8%)、ジメチルスルホキシド(DMSO、99.7%)、メタノール(MeOH、99.8%)、ジエチルエーテル(99.9%)、及び無水硫酸マグネシウム(MgSO4、99.5%)を、Sigma-Aldrichから購入した。N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA,99%)、酢酸ナトリウム(AcONa、99%)、及びアスコルビン酸ナトリウム(NaAsc、99%)を、Alfa Aesarから入手した。メトキシポリエチレングリコール(mPEG)、トリス(ベンジルトリアゾリルメチル)アミン(TBTA、97%)及び4-トルエンスルホニルクロライド(TsCl、99%)を、TCIから購入した。Cuprisorb(登録商標)をSeachemから購入した。デキストラン(Dex、T10)をpharmacosmosから購入した。ラミナリヘキサオース(Hex)をMegazymeから購入した。ヒアルロナン酸ナトリウム(HA)をLifecore Biomedicalから購入した。水を、ELGA PURELAB Classicシステムを用いて精製した。溶媒を、Innovative TechnologyのPureSolv MD-5溶媒精製システムを用いて精製した。透析は、Spectra/Por(登録商標)6透析膜を用いて行った。
【0042】
式(V)の化合物の調製
アジドリンカーの調製
【化15】
N-(3-アジドプロピル)-O-メチルヒドロキシルアミン(アジドリンカー)
丸底フラスコ内の酢酸(4mL)を、-20℃に冷却し、アクロレイン(1.84mL、27.4mmol)を加え、続いてH2O(10.4mL)中のアジ化ナトリウム(2.38g、41.2mmol)の溶液を滴下した。混合物を-20℃で1.5時間攪拌し続けた。その後これに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(sat.aq.NaHCO3 80mL)を加えて急冷し、得られた混合物をDCM(2×100mL)で抽出した。合わせた有機抽出液を、飽和NaHCO3水溶液(150mL)で洗浄し、無水MgSO4上で乾燥させ、ろ過し、真空濃縮して100mLとした。DCM中の溶液に、メトキシアミン塩酸塩(2.68g、31.68mmol)及び酢酸ナトリウム(4.42g、54mmol)を加え、混合物を室温で一晩撹拌した。飽和NaHCO3水溶液(150mL)を加えて反応を急冷し、得られた混合物をDCM(2×100mL)で抽出した。合わせた有機抽出液を飽和NaHCO3水溶液(150mL)で洗浄し、無水MgSO4上で乾燥させ、ろ過し、真空濃縮して100mLとした。DCM中の溶液に、NaBH3CN(2g、32mmol)を加え、続いて1Mのエタノール性HCl(32mL、エタノールに塩化アセチルを加えて新たに調製したもの)を滴下した。得られた混合物を室温で1.5h撹拌した。その後、溶媒をエバポレーターで除去し、得られた白色固体を飽和NaHCO3水溶液(150mL)中に懸濁させ、DCMで抽出した(2×100mL)。合わせた有機抽出物を、飽和NaHCO3水溶液(150mL)で洗浄し、無水MgSO4上で乾燥させ、ろ過し、真空中で濃縮して、粗製のN-(3-アジドプロピル)-O-メチルヒドロキシルアミンを黄色油として得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(DCM中1-3%のMeOH)で精製し、N-(3-アジドプロピル)-O-メチルヒドロキシルアミン(アジドリンカー、1.1g、3ステップで62%)が無色のオイルとして得られた。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 3.55 (s, 3H, CH3O), 3.41 (t, 2H, CH2N3), 3.00 (t, 2H, NHCH2), 1.83 (p, 2H, CH2CH2CH2).
13C NMR (101 MHz, CDCl3): δ 62.01 (CH3O), 49.44 (CH2N3), 48.94 (NHCH2), 26.87 (CH2CH2CH2).
【0043】
1.デキストラン-アジドの合成
【化16】
デキストラン-アジド(Dex-azide)
デキストラン(MW8000)(1g、0.125mmol)の酢酸緩衝液(AcOH/AcONa、2M、pH4.6、4.2mL)中の溶液に、アジドリンカー(380mg、2.9mmol)を加え、反応混合物を40℃のサーモミキサー上で9日間振とうした(1日に3回ボルテックス)。その後、混合物を、純水で透析バッグ(MWCO 1000)を用いて24時間透析することにより精製した(1日に3回水を交換)。最終生成物を、凍結乾燥によって得た(白色粉末、805mg、収率79%)。
1H NMR (400 MHz, D2O): δ 4.98 (d, H-1), 4.18 (d,CHN(OCH3)CH2), 4.04-3.97 (m, H-6), 3.95-3.89 (m, H-5), 3.69-3.80 (br m, H-6’, H-3), 3.61-3.37 (br m, H-2, H-4, CH2N3), 3.20-3.13 (dt, CHN(OCH3)CH2), 3.01-2.93 (dt, CHN(OCH3)CH2’), 1.92-1.88 (m, CH2CH2CH2). FT-IR (ATR): 3368, 2906, 2106 (υazide), 1351, 1148, 1164, 1007, 915, 846, 763, 545, 429 cm-1.
【0044】
2.ラミナリヘキサオース-アジドの合成
【化17】
ラミナリヘキサオース-アジド(Hex-azide)
ラミナリヘキサオース(500mg、0.5mmol)の酢酸緩衝液(AcOH/AcONa、2M、pH4.6、5mL)中の溶液に、アジドリンカー(900mg、6.9mmol)を加え、反応混合物を40℃のサーモミキサー上で8日間振とうした(1日に3回ボルテックス)。その後、混合物を凍結乾燥させ、水5mLに再溶解させ、純水で透析バッグ(MWCO100)を用いて36時間透析することにより精製した(1日3回水を交換)。最終生成物を、凍結乾燥によって得た(白色粉末、302mg、収率54%)。
1H NMR (400 MHz, D2O): δ 4.81 (d, H-1), 4.23 (m, CHN(OCH3)CH2), 3.97-3.88 (m, H-6), 3.86-3.68 (br m, H-6’, H-3), 3.67-3.33 (br m, H-2,H-4,H-5, CH2N3), 3.22-3.13 (m, CHN(OCH3)CH2’), 3.03-2.95 (m, CHN(OCH3)CH2), 1.91 (m, CH2CH2CH2).
FT-IR (ATR): 3434, 3151, 2890, 2100 (υazide), 1568, 1403, 1308, 1159, 1072, 1022, 896, 557 cm-1.
【0045】
3.ヒアルロナン-アジドの合成
【化18】
ヒアルロナン-アジド(HA-azide)
ヒアルロン酸ナトリウム(MW7000)(1g、0.14mmol)の酢酸緩衝液(AcOH/AcONa、2M、pH5.5、5mL)中の溶液に、アジドリンカー(520mg、4mmol)及びシアノ水素化ホウ素ナトリウム(65mg、1mmol)を加え、反応混合物を50℃のサーモミキサー上で5日間振とうした(1日に3回ボルテックス)。その後、混合物を水5mLで希釈し、続いて純水で透析バッグ(MWCO 1000)を用いて24時間透析した(1日に3回水を交換)。最終生成物を、凍結乾燥によって得た(白色粉末、610mg、収率60%)。
1H NMR (400 MHz, D2O): δ 4.56 (d, GlcNAc H-1), 4.48 (d, GlcUA H-1), 3.99-3.67 (br m, GlcNAc H-6, H-2, H-3, H-5, GlcUA H-4), 3.66-3.41 (br m, GlcNAc H-4, GlcUA H-3, H-5, CH2N3), 3.35 (t, GlcUA H-2), 2.94-2.86 (m, CH2N(OCH3)CH2), 2.03 (s, GlcNAc COCH3), 1.87 (m, CH2CH2CH2).
FT-IR (ATR): 3323, 2892, 2107 (υazide), 1729, 1642, 1555, 1376, 1315, 1152, 1042, 610 cm-1.
【0046】
式(IV)の化合物の調製
1.ペンチン酸-NHSエステルの合成
【化19】
ペンチン酸-NHSエステル
ペンチン酸(210mg、2.14mmol)のDCM(8mL)中の溶液に、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(480mg、2.3mmol)を加えた。混合物を5分間撹拌した後、N-ヒドロキシスクシンイミド(260mg、2.3mmol)を加えた。この反応物を室温で3h継続して撹拌した。その後、析出したジシクロヘキシルカルバミドをセライトで濾過し、濾過ケーキを冷温DCMで洗浄した(2×10mL)。濾液を回収し、DCMを真空下で除去した。生成物をEtOAc(10mL)に再溶解させ、0℃の冷蔵庫で20分間冷却した。析出物をセライトで再度ろ過し、ろ液を飽和NaHCO3(2×50mL)及びブライン(2×50mL)で洗浄し、無水MgSO4上で乾燥させ、ろ過し、真空中で濃縮して、粗生成物を無色のオイルとして得た。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(石油エーテル:EtOAc=2:1)で精製することにより、ペンチン酸NHS-エステルを白色固体として得た(300mg、収率72%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 2.90-2.82 (m, 6H, COCH2CH2CO, OCOCH2CH2), 2.62 (ddd, 2H, CH2C≡CH), 2.05 (t, 1H, C≡CH).
13C NMR (101 MHz, CDCl3): δ 168.89 (COCH2CH2CO), 167.02 (OCOCH2), 80.84 (CH2C≡CH), 70.04 (CH2C≡CH), 30.31 (OCOCH2), 25.57 (COCH2CH2CO), 14.09 (CH2C≡CH).
【0047】
2.アルキン-ELPの合成
【化20】
アルキン-ELP(Alk-ELP)
ELP(225mg、13.2μmol)の無水DMSO(18mL)中の溶液に、ペンチン酸NHS-エステル(92mg、0.47mmol)及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(1.7mg、13.2μmol)を加えた。この反応物を室温で72h撹拌した。その後、混合物を水(20mL)で希釈し、得られた溶液を透析バッグ(MWCO15000)中の純水で2日間透析した(1日に3回水を交換)。最終生成物を、凍結乾燥によって得た(白色粉末、210mg、収率93%)。
1H NMR (400 MHz, D2O): δ 7.63-7.09 (br, indole H Trp), 4.57 (m, CHα Met), 4.45 (m, CHα Val, Pro), 4.19 (d, CHα Val Xaa), 4.06-3.89 (br m, CH2α Gly, CH2δ Pro), 3.75 (m, CH2’δ Pro), 2.69-2.46 (br m, CH2γ Met, CH2CH2C≡CH ), 2.33 (m, CH2β Pro), 2.18-1.91 (m, CH2β Met, CH2’β Pro CH2γ Pro, CHβ Val, CH3ε Met, CH2C≡CH), 1.05-0.91 (m, CH3γ Val).
MALDI-TOF:理論MW=17115Da、実測[M+H]+=17120.5Da.
【0048】
式(II)のブロックコポリマーの調製
1.デキストラン-ELP
【化21】
デキストラン-b-ELP(Dex-ELP)
アルキン-ELP(65mg、3.8μmol)、デキストラン-アジド(46mg、5.7μmol)、硫酸銅(6mg、22.8μmol)、アスコルビン酸ナトリウム(10mg、45.6μmol)、及びTBTA(12mg、22.8μmol)を、無水DMSO(8mL)にアルゴン雰囲気下で溶解させた。この混合物を室温で3日間撹拌した。その後、混合物を冷水(20mL)で希釈し、4℃の冷蔵庫で20分間冷却した。TBTAが析出し、これを遠心分離機で除去した。Cuprisorb(120mg)を上澄み液に加え、得られた溶液を室温で一晩振とうして銅を除去した。Cuprisorbを遠心分離で除去し、上澄み液を透析バッグ(MWCO 15000)中の純水で5日間透析した(1日に3回水を交換)。最終生成物を、凍結乾燥によって得た(白色粉末、92mg、収率90%)。
1H NMR (400 MHz, D2O): δ 7.75 (s, triazole H), 7.63-7.09 (br, indole H Trp), 4.99 (d, Dex H-1), 4.55 (m, CHα Met), 4.44 (m, CHα Val, Pro), 4.17 (d, CHα ValXaa), 4.06-3.87 (br m, CH2α Gly, CH2δ Pro, Dex H-6,H-5), 3.82-3.67 (m, CH2’δ Pro, Dex H-6’,H-3), 3.62-3.49 (Dex H-2,H-4), 2.69-2.48 (br m, CH2γ Met), 2.31 (m, CH2β Pro), 2.18-1.89 (m, CH2β Met, CH2’β Pro CH2γ Pro, CHβ Val, CH3ε Met), 1.03-0.88 (m, CH3γ Val).
FT-IR (ATR): 3332, 2929, 1653, 1527, 1443, 1342, 1152, 1106, 1017, 917, 547 cm-1.
【0049】
2.ラミナリヘキサオース-b-ELPの合成
【化22】
ラミナリヘキサオース-b-ELP(Hex-ELP)
アルキン-ELP(62mg、3.6μmol)、ラミナリヘキサオース-アジド(20mg、18.1μmol)、硫酸銅(5.5mg、22μmol)、及びアスコルビン酸ナトリウム(9mg、45.4μmol)を、無水DMSO(8mL)にアルゴン雰囲気下で溶解させた。この反応物を室温で3日間撹拌した。その後、混合物を冷水(20mL)で希釈した。Cuprisorb(110mg)を混合物に加え、得られた溶液を室温で一晩振とうして銅を除去した。Cuprisorbを遠心分離で除去し、上澄み液を透析バッグ(MWCO 15000)中の純水で5日間透析した(1日に3回水を交換)。最終生成物を、凍結乾燥によって得た(白色粉末、60mg、収率93%)。
1H NMR (400 MHz, D2O): δ 7.74 (s, triazole H), 7.60-7.09 (br, indole H Trp), 4.80 (m, Hex H-1), 4.55 (m, CHα Met), 4.43 (m, CHα Val, Pro), 4.17 (d, CHα ValXaa), 4.05-3.85 (br m, CH2α Gly, CH2δ Pro, Hex H-6), 3.82-3.66 (m, CH2’δ Pro, Hex H-6’,H-3), 3.62-3.34 (Hex H-2,H-4, H-5), 2.69-2.48 (br m, CH2γ Met), 2.41-2.24 (m, CH2β Pro), 2.19-1.88 (m, CH2β Met, CH2’β Pro CH2γ Pro, CHβ Val, CH3ε Met), 1.05-0.85 (m, CH3γ Val).
FT-IR (ATR): 3322, 2917, 1654, 1522, 1440, 1221, 1105, 1063, 1027, 562 cm-1.
【0050】
3.ヒアルロナン-b-ELPの合成
【化23】
ヒアルロナン-b-ELP(HA-ELP)
ヒアルロナン-アジドは、まず塩酸水溶液を加えることで酸性化し、DMSOに完全に溶解させた。アルキン-ELP(60mg、3.5μmol)、硫酸銅(9mg、36μmol)、アスコルビン酸ナトリウム(18mg、90μmol)、及びトリス(ベンジルトリアゾリルメチル)アミン(TBTA、22mg、41μmol)を、無水DMSO(4mL)にアルゴン雰囲気下で溶解させた。無水DMSO(2mL)に完全に溶解したヒアルロナン-アジド(18mg、3.5μmol)の溶液を加えた。この反応物を40℃で4日間撹拌した。その後、混合物を、冷水(20mL)で希釈し、4℃の冷蔵庫で20分間冷却した。TBTAが析出し、これを遠心分離で除去した。Cuprisorb(180mg)を上澄み液に加え、得られた溶液を室温で一晩振とうして銅を除去した。Cuprisorbを遠心分離によって除去し、上澄み液を透析バッグ(MWCO 15000)中の純水で5日間透析した(1日に3回水を交換)。粗生成物を凍結乾燥によって得た(白色粉末、53mg)。脱イオン水(5.3mL)を加え、溶液を40℃に加熱して1時間保持した。不溶性の未反応ELPを40℃での遠心分離によって除去し、上澄み液を凍結乾燥して最終生成物を得た(白色粉末、42mg、収率54%)。
1H NMR (400 MHz, D2O): δ 7.75 (s, triazole H), 7.60-7.09 (br, indole H Trp), 4.62-4.37 (br, CHα Met, Val, Pro, GlcUA H-1, GlcNAc H-1), 4.17 (d, CHα ValXaa), 4.04-3.66 (br, CH2α Gly, CH2δ Pro, CH2’δ Pro, GlcUA H-4, GlcNAc H-2, H-3, H-5, H-6), 3.65-3.42 (GlcUA H-3, H-5), 3.41-3.30 (t, GlcUA H-2), 2.69-2.48 (br m, CH2γ Met), 2.41-2.25 (m, CH2β Pro), 2.20-1.89 (m, CH2β Met, CH2’β Pro CH2γ Pro, CHβ Val, CH3ε Met), 1.06*0.88 (m, CH3γ Val).
FT-IR (ATR): 3298, 2964, 1631, 1528, 1440, 1232, 1153, 1044, 541 cm-1.
【0051】
粒子の調製
温度誘起自己組織化研究
水中における多糖類-ELPバイオコンジュゲート(本発明によるブロックコポリマーに相当)の温度誘起自己組織化を、動的光散乱(DLS)、静的光散乱(SLS)、及び液体原子間力顕微鏡法(液体AFM)によって調べた。
【0052】
実験方法
動的光散乱測定(DLS)
動的光散乱測定は、NanoZS計器(Malvern、U.K.)を用い、キュベット内の定位置で90°の角度で行った(一定の散乱体積)。得られるカウントレート(DCR)を、減衰率で正規化した平均散乱強度として定義した。DCRを、温度に対してプロットし、Ttを、このプロットにおいてDCRが増加し始める点に相当する温度として定義した。
【0053】
静的光散乱(SLS)
静的光散乱測定は、フルデジタル相関器を、Spectra Physicsレーザー(λ=632.8nmで垂直偏光を照射)及び恒温槽コントローラー(20から50℃の範囲)と組み合わせて備えた、ALV/CG6-8Fゴニオメーターを使用して実施した。データは、ALV相関器ソフトウェアを用いて得られ、計数時間は、30°から150°の範囲で10段階に分けた各散乱角で、典型的には15秒であった。流体力学的半径(Rh)を、見かけの拡散係数及びStokes-Einsteinの式から決定した。旋回半径(Rg)は、同じ角度での平均散乱強度の測定から得られたギニエプロットから決定した。
【0054】
温度制御液体原子間力顕微鏡法(液体AFM)
温度制御された液体原子間力顕微鏡法による測定は、Dimension FastScan Bruker AFMシステムを用いて実施した。バイオコンジュゲートのトポグラフィー画像を、典型的な先端半径5nmを有するシリコンカンチレバー(ScanAsyst-Fluid+、Bruker)を用い、Peak Forceタッピングモードで得た。カンチレバーの共振は150kHzであり、バネ定数は0.7N/mであった。基板はAgar Scientificから購入した。試料は、50μM(HA-ELPの場合は150μM)のバイオコンジュゲート水溶液の、新たに劈開したマイカまたはHOPG表面へのドロップキャスティングにより調製し、これを直接画像化に用いた。AFM画像処理は、特定温度の液体環境中で行われた。外部加熱ステージ(Bruker)を用いて、,基板表面に標的温度を実現させた。
【0055】
実験結果
Dex-ELPの自己組織化研究
DLSを高速で加熱したところ、Dex-ELP(水中125μM)の転移温度(Tt)が約40℃であることが判明したが、これはELP及び物理的混合物のTtに比べて高かった。実際のところ、親水性ブロックのELPへの結合により、Ttの上昇がもたらされた。
【0056】
Dex-ELPのTt以下の低温では、小さな物体と少数の凝集体が非常に低い散乱強度で観察された(30℃)。散乱強度は転移温度(約40℃)で急激に増加し、自己組織化を引き起こして、流体力学直径(Dh)が約165nmである構造を形成した。Dex-ELPを45℃以上に加熱したところ、ナノ粒子の直径はほとんど変化せず、Dhは約290nmであった(図1-2)。
【0057】
このDex-ELP集合体の転移温度以上での安定性を、様々な加熱方法を実施することによって調査した。すべての加熱方法が30分以内で約300-330nmのDhに達し、PDIには顕著な違いは見られなかった。DLSの冷却過程では、Dex-ELPがゆっくりとした分解挙動を示した。Dex-ELP溶液に加熱と冷却を繰り返してDLS測定を行い、温度応答性システムの可逆性を調査した(図3-4)。初期にはDex-ELPが高速で組織化されてナノ粒子となり、45℃で5分後には平均直径約250nmで安定化した。その後、Dex-ELPナノ粒子を25℃に冷却し、10~15分間保持することで、集合体が完全に分解された。平均直径が25nm以下で、PDIが高い、小さな物体が、25℃で観察された。加熱と冷却の繰り返しによって同様の挙動が見られることから、この温度応答性が完全に可逆的であり、ELPの温度転移を制御するための簡単な方法を提供していることが示された。
【0058】
その後、Dex-ELPの集合体を、45℃のSLSで分析し、回転半径(Rg)及び流体力学半径(Rh)を測定した。Rg/Rh比は0.72と算出され、ミセル構造を示した。
【0059】
液体原子間力顕微鏡法を実施し、ELPのTt以下/Tt以上の転移によって形成されたナノ構造の形態を調査した。DLSの結果と矛盾なく、非常に小さな物体がTt以下の35℃では観察され、Tt以上の65℃では球状の粒子が観察されて、その平均直径は約280~300nmであった(図6)。
【0060】
Hex-ELPの自己組織化研究
Hex-ELPは親水性の割合が少ないため、Hex-ELPの転移温度(Tt)は約33℃であって、ELPのTtに比べてやや高めであった。Hex-ELPのTt以下の低温では、小さな物体及び少数の凝集体が、非常に低い散乱強度をもって観察された(30℃)。散乱強度は転移温度(約33℃)で急激に増加し、自己組織化を引き起こして、流体力学直径(Dh)が約210nmである構造体を形成した。Hex-ELPの温度応答性は完全に可逆的である。温度を45℃以上に加熱すると、ナノ粒子は散乱強度にほとんど変化を示さず、約400~500nmの直径Dhを示した(図5)。
【0061】
Hex-ELPの集合体を、静的光散乱法によって、室温(25℃)、Tt(33℃)、ピーク温度(37℃)、及び高温(45℃)でさらに分析した。DLSと同様に、Hex-ELP集合体のDhは、Ttで及び45℃で、それぞれ約250nm及び500であった(図7-9)。Tt及び高温でのRg及びRhは同等であり、集合体が高温では比較的に安定なことを示した。SLSデータと同様に、液体AFMは、Hex-ELPの集合体について、大きな直径(500~900)を示した(図6)。
【0062】
【表1】
【0063】
HA-ELPの自己組織化研究
UV-vis測定と同様に、DLS加熱過程でのHA-ELPのTtは約45℃と判明した。HA-ELPのTt以下の低温では、非常に低い散乱強度で小さな物体が観察された(35℃)。散乱強度は転移温度で急激に増加し、自己組織化を引き起こして、48-50℃でDhが約300nmの構造を形成した(図10-11)。HA-ELPを55℃以上に加熱したところ、ナノ粒子の直径が不安定となり、2つのサイズ分布に分離した。このことは液体AFMでも確認された(図14C)。
【0064】
48℃でのHA-ELP集合体の安定性を、DLS上で加熱と冷却を繰り返すことによって調査した。この温度応答性システムは完全に可逆性でもあり、HA-ELPは、すべての加熱時間ごとの平均直径が約280nmであり、48℃で20分の間、比較的に安定であった(図12)。50℃での静的光散乱による更なる分析は、同様に、304nmでのDhを示した(図13)。Rg/Rh比は0.79と算出され、おそらくはミセル構造が形成されていることを示した。平均直径約220-280nmのナノ粒子が、同濃度の50℃での液体AFMによって観察された(図14B)。
【0065】
結論として、上記のバイオコンジュゲートは、様々なサイズの粒子に自己組織化することができた。自己組織化の特徴を下表にまとめた。
【表2】
この自己組織化プロセスは、温度を制御することによって完全に可逆的であり、これらの多糖類-ELPバイオコンジュゲートを、生体材料、ドラッグデリバリー、受容体認識に利用することを可能にする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14