(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】異種移植製品及び異種移植方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/12 20150101AFI20240207BHJP
A01K 1/00 20060101ALI20240207BHJP
A61K 35/22 20150101ALI20240207BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20240207BHJP
A61K 35/36 20150101ALI20240207BHJP
A61K 35/407 20150101ALI20240207BHJP
A61K 35/42 20150101ALI20240207BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20240207BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240207BHJP
A61L 27/60 20060101ALI20240207BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240207BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240207BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240207BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240207BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240207BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240207BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240207BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240207BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20240207BHJP
C12Q 1/22 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
A61K35/12
A01K1/00 Z
A61K35/22
A61K35/30
A61K35/36
A61K35/407
A61K35/42
A61L27/36 100
A61L27/36 300
A61L27/36 400
A61L27/38
A61L27/60
A61P1/16
A61P11/00
A61P13/12
A61P17/00
A61P25/00
C12N5/071
C12N15/09 100
C12N15/12
C12N15/54
C12Q1/22
(21)【出願番号】P 2021544098
(86)(22)【出願日】2019-10-04
(86)【国際出願番号】 US2019054833
(87)【国際公開番号】W WO2020072982
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-28
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521140205
【氏名又は名称】ゼノセラピューティクス インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】321008952
【氏名又は名称】アレクシス バイオ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホルザー ポール
(72)【発明者】
【氏名】アッキンズ ジョン
(72)【発明者】
【氏名】モンロー ロドニー エル.
(72)【発明者】
【氏名】チャン エリザベス ジェイ.
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-536228(JP,A)
【文献】特表2017-536814(JP,A)
【文献】Will Genetic Engineering Carry Xenotransplantation of Pig Islets to the Clinic?,Current Diabetes Reports,2018年09月18日,18:103,pp.1-12,https://doi.org/10.1007/s11892-018-1074-5
【文献】Pathogen elimination and prevention within a regulated, Designated Pathogen Free, closed pig herd for long-term breeding and production of xenotransplantation materials,Xenotransplantation,2018年07月,25(4), e12428,pp.1-11,DOI: 10.1111/xen.12428
【文献】Skin grafts from genetically modified a-1,3- galactosyltransferase knockout miniature swine: A functional equivalent to allografts,Burns,2017年,43,pp.1717-1724,http://dx.doi.org/10.1016/j.burns.2017.04.026
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
A01K 1/00- 1/12
A61L 27/00-27/60
A61P 1/00- 1/18
A61P 11/00-11/16
A61P 13/00-13/12
A61P 17/00-17/18
A61P 25/00-25/36
C12N 5/00- 5/28
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00- 1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトレシピエント
の異種移植
治療のための生物学的製
品であって、前記生物学的製品が、異種移植後に血管新生を誘導する生存細胞及び生存組織を含み、
前記
生存細胞及び前記生存組織が
非野生型の生物学的に操作されたブタ由来であって、前記ブタが、
A)
機能性アルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子(GGTA1)を欠失し、それによりガラクトース-アルファ-1,3-ガラクトースエピトープ
を発現しないように生物学的に操作されたゲノムを有し、
B)少なくとも下記の人畜共通感染症病原体
を含ま
ず:
(i)糞便物質中のAscaris属の種、cryptosporidium属の種、Echinococcus、Strongyloids sterocolis、及びToxoplasma gondii、
(ii)Leptospira属の種、Mycoplasma hyopneumoniae、ブタ生殖器呼吸器症候群ウイルス(PRRSV)、仮性狂犬病、伝染性胃腸炎ウイルス(TGE)/ブタ呼吸器コロナウイルス、及びToxoplasma Gondii(抗体力価を決定することによって確認される)、
(iii)ブタインフルエンザ、
(iv)細菌培養によって決定される下記の細菌病原体:Bordetella bronchisceptica、コアグラーゼ陽性ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、家畜関連メチシリン耐性Staphylococcus aureus(LA MRSA)、Microphyton、及びTrichophyton属の種、
(v)ブタサイトメガロウイルス、ならびに
(vi)Brucella suis
C)バイオバーデン低減手順に従って
維持され、前記手順が、隔離された閉鎖群中で前記ブタを維持することを含み、前記隔離された閉鎖群中のすべての他の動物が、前記人畜共通感染症病原体を含まないことが確認され、前記ブタが、前記隔離された閉鎖群の外部のいずれの非ヒト動物及び動物収容施設とも接触しないように隔離さ
れ、
前記
生物学的製品が、前記ブタを安楽死させること、及び前記ブタから前記生物学的製品を無菌的に取り出すこと
により、前記ブタから収集されたものであって、
前記生物学的製品
が、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)還元アッセイによって決定される細胞生存度を50%未満に低下させない滅菌プロセスを使用して
加工されたものであって、
前記治療が、ヒトレシピエントに対する前記生物学的製品の移植ステップを含み、前記移植により、前記生物学的製品が、臨床的利点を示す、
生物学的製品。
【請求項2】
臓器又は組織を含む、請求項1に記載の生物学的製品。
【請求項3】
前記臓器が、肝臓、肺、腎臓、又は皮膚を含む、請求項2に記載の生物学的製品。
【請求項4】
前記組織が、神経を含む、請求項2に記載の生物学的製品。
【請求項5】
前記治療の前記移植ステップが、免疫抑制剤又は他の免疫抑制治療の非存在下で実施される、請求項1から4のいずれか一項に記載の生物学的製品。
【請求項6】
前記臓器が皮膚であり、前記治療が前記移植ステップの前に前記移植部位を創傷清拭することをさらに含み、好ましくは前記皮膚が、前記異種移植後に、前記レシピエントの前記移植物の領域において血管新生を誘導する、請求項2に記載の生物学的製品。
【請求項7】
最終滅菌
されておらず、
a
.無菌性アッセイにおいて好気性細菌及び嫌気性細菌
の増殖
を促進しないこ
と、
b.マイコプラズマアッセイにおいてマイコプラズマコロニー
の形成
を促進しないこ
と、
c.エンドトキシンアッセイにおい
てエンドトキシンを含まないこ
と、
d.MTT還元アッセイにおい
て細胞生存度が少なくとも50%であるこ
と、
e.フローサイトメトリーによって判定する
とガラクトシル-a-1,3-ガラクトースエピトープを有さないこ
と、及び
f.Ascaris属の種、cryptosporidium属の種、Echinococcus、Strongyloids sterocolis、Toxoplasma gondii、Brucella suis、Leptospira属の種、mycoplasma hyopneumoniae、ブタ生殖器呼吸器症候群、仮性狂犬病、staphylococcus属の種、Microphyton属の種、Trichophyton属の種、ブタインフルエンザ、ブタサイトメガロウイルス、アルテリウイルス、コロナウイルス、Bordetella bronchiseptica、及び家畜関連メチシリン耐性Staphylococcus aureusを含まないこと、
を確認
された、請求項
1に記載の
生物学的製品。
【請求項8】
最終滅菌
されておらず、UV-C照
射、及び抗病原体槽に浸漬すること、のうちの少なくとも1つ
により滅菌された、請求項
1に記載の
生物学的製品。
【請求項9】
ヒト末梢血単核球(PBMC)との共培養時に誘導するサイトカインインターロイキン6(IL-6)の産生及びCD8+T細胞免疫応答が、インビトロの混合リンパ球反応アッセイによって測定すると、遺伝的な改変が行われていないカウンターパートブタから得られる細胞と比較して、それぞれ少なく、弱い
という特性を有する、請求項
1に記載の
生物学的製品。
【請求項10】
-40℃以下の温度で少なくとも1年間凍結保存した後に、前記生物学的製品が、生物学的に活性であり、血管新生を誘導する能力を有する生存細胞及び生存組織を含むという特性を有する、請求項1に記載の生物学的製品。
【請求項11】
少なくとも60%のミトコンドリア活性、及び/又は3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)還元アッセイにおいて少なくとも60%の細胞生存度を有する、請求項1に記載の生物学的製品。
【請求項12】
免疫抑制剤を前記ヒトレシピエントに投与しなくても前記ヒトレシピエントの免疫系による拒絶反応に抵抗性となる抗原性プロファイル及び免疫原性プロファイルを有する、請求項1に記載の生物学的製品。
【請求項13】
アルファ-1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ、
Neu5Gc、及び/又はβ1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ
の機能的発現を欠失している、請求項
1に記載の
生物学的製品。
【請求項14】
フローサイトメトリーによって確認すると、アルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼエピトープ及びN-グリコリルノイラミン酸エピトープを含まない、請求項13に記載の生物学的製品。
【請求項15】
フローサイトメトリーによって確認すると、アルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼエピトープ、N-グリコリルノイラミン酸エピトープ、及びβ1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼエピトープ又はSda様抗原を含まない、請求項13に記載の生物学的製品。
【請求項16】
前記ヒトレシピエントに、ブタ内在性レトロウイルスを伝染させない特性を有する、請求項1に記載の生物学的製品。
【請求項17】
細胞生存度を保つ保管条件の下で滅菌容器中に保管され、好ましくは冷凍保護媒体を更に含む、請求項1に記載の生物学的製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年10月5日出願の米国仮出願第62/742,188号、2018年11月7日出願の同第62/756,925号、2018年11月7日出願のUS62/756,955、2018年11月7日出願のUS62/756,977、2018年11月7日出願のUS62/756,993、2019年1月14日出願のUS62/792,282、2019年1月22日出願のUS62/795,527、2019年3月25日出願のUS62/823,455、及び2019年5月15日出願のUS62/848,272の優先権利益を主張し、これらすべての文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書に開示の主題は、遺伝的に操作された生物から得られる生物学的製品及び関連方法に関し、これらの生物学的製品及び関連方法は、異種移植において使用するためのものである。
【背景技術】
【0003】
全米臓器分配ネットワーク機構(United Network for Organ Sharing)(「UNOS」)によれば、全米移植待機リストに10分ごとに誰かが加わり、移植を待ちながら死亡する人は一日20人に上る。2019年8月現在、米国では約114,000人が救命臓器移植を必要としており、2018年においては、見つかったドナーは約10,000人にすぎず、移植実施件数は約36,000件にすぎなかった(全米臓器分配ネットワーク機構(UNOS)のデータ)。米国における特定臓器に対するニーズは下記の通りである(2019年8月12日時点):
【0004】
2016年には、待機リストに名を連ねながら、または個人的もしくは医学的な理由でリストから除名されてから30日以内に臓器移植を受けることなく死亡した候補者は7,000人を超える。悲しいことに、このように臓器供給が不十分であるが故に、毎日30人が死に至るか、または待機リストから除名される(そうした人の病気が進行しすぎて必要な手術を受けることが不可能になるためである)。利用可能なドナーとレシピエントのアンメットニーズとの間の相違比率はわずかには改善されてきてはいるものの、この不均衡は今日まで続いており、依然として相当なものであり、供給の不十分さは依然として散々なものである。こうした患者、及び同様に組織移植(角膜または膵島細胞など)から受ける恩恵が大きいと想定されるこうした統計に含まれない数百万の人々に対して、「同種移植が十分な供給源となることは決してないのである」。Ekser B,Cooper DKC,Tector AJ(2015)The Need for Xenotransplantation as a Source of Organs and Cells for Clinical Transplantation.International journal of surgery(London,England),23(0 0):199-204。
【0005】
臓器不足以外にも、同種移植に関する重要な課題は他にも存在し、こうした課題は、安全上、物流的、倫理的、法的、施設的、及び文化的な厄介な問題を伴って、多面的な問題を突き付けている。物流的には、臓器提供及び移植手順を成功させるに先立って、多数の因子を考慮しなくてはならない。血液型及び他の医学的要因を提供臓器ごとに評価しなくてはならないだけでなく、各臓器型は、同様に重きを置かねばならない特有の特徴(死後虚血、免疫学的適合性、患者の場所、及び施設の能力など)を示す。ヒトドナーから得られる同種組織は、重大な感染性疾患リスクをはらんでいる。2018には、「[ヒト]CMVが、臓器移植のレシピエントに影響を及ぼす最も重要な唯一の感染性病原体であり、こうした患者の少なくとも3分の2が移植後にCMV感染を有する」ことがDennerによって報告されている」。Denner J(2018)Reduction of the survival time of pig xenotransplants by porcine cytomegalovirus.Virology Journal,15(1):171、Rubin RH(1990)Impact of cytomegalovirus infection on organ transplant recipients.Reviews of Infectious Diseases,12 Suppl 7:S754-766。
【0006】
組織移植に関する規制には、ドナースクリーニング及び外来性病因物質の検査のための基準、ならびに組織移植物の加工及び分配を規定する厳密な規制が含まれる。同種移植の結果としてウイルスの伝染が生じている。臓器移植及び細胞移植の間には、外来性のレトロウイルス(ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)、ヒトT細胞白血病ウイルス2型(HTLV-2)、及びヒト免疫不全ウイルス(HIV))の伝染がヒト組織によって生じており、こうしたヒト組織は、ウイルス(ヒトサイトメガロウイルスなど)、さらには狂犬病まで有するものもある。臓器の生存度及び死後スクリーニングを巡っては技術的及び時間的な制約が存在するため、完璧に検査を行うことが困難であり、このリスクを排除することはできない。レシピエントとドナーとの間に免疫学的な相違があることが、一連の合併症及び追加リスクをレシピエント自身にもたらす免疫抑制レジメンを用いることなく移植片生着期間を延ばすことの妨げとなっている。患者が(非自己)ドナー(生存または死亡)から臓器を受け入れる場合、レシピエントの免疫系は、そうした移植物を外来物として認識することになる。この認識が生じると、免疫系の自然プロセスを抑制する薬物療法が同時に利用されない限り、レシピエントの免疫系が動員され、そうした臓器が「拒絶」されることになる。Benichou,et al.は、同種皮膚移植片に対する応答について、自然免疫系及び適応免疫系の両方の関与を伴う「強力な」免疫応答であると説明している。Abbas AK,Lichtman AHH,Pillai S(2017)Cellular and Molecular Immunologyでは、こうした自然免疫学的プロセスを鈍らせることはできるとしているが、不幸なことに、こうした薬物療法は、臓器移植後に生涯にわたって必要となることが多く、こうした薬物療法を行っていなければ通常は対処できる病原体にレシピエントが罹患しやすくなるものである。こうした薬物は、外来臓器の存在を移植レシピエントが寛容することを可能にする一方で、免疫系が損なわれることと関連して感染性の疾患及び症状のリスクを上昇させるものでもあり、これに伴って、「ヒト同種移植片によって多岐にわたる生物の伝染が生じる可能性がある」。Fishman JA,Greenwald MA,Grossi PA(2012)Transmission of lnfection With Human Allografts:Essential Considerations in Donor Screening.Clinical Infectious Diseases,55(5):720-727。
【0007】
物流的な制約で見落とされることが多いものの1つには、調達してから移植するまで間の時間、生存度を維持する必要がある提供臓器を精密かつタイムリーに保存する方法がある。これは、医薬の分野として、さらには有望な臨床的補助治療としても、極めて重要な物流的かつ科学的な移植基盤である。臓器保存に関する制限は相当なものであり、外科的能力に直接的に影響を及ぼす。一般的な最大臓器保存時間の例としては、24~36時間(腎臓)、12~18時間(膵臓)、8~12時間(肝臓)、4~6時間(心臓または肺)が挙げられる。こうした時間枠が制限的かつ限定的なものとなる基本的な理由は、より大きな組織または臓器を構成する多数かつ多様な細胞の基本的な生命能力を保つことが不可能であることによるものである。必要かつ高度に複雑な相互依存的細胞活性が妨害または完全に停止され、それによって移植物の潜在的な臨床的有用性が蝕まれる。
【0008】
こうした難点はあるものの、ほとんどの末期臓器不全患者にとって臓器移植は紛れもなく好ましい治療であり、この理由の大半は、実行可能な代替法が存在しないことによるものである。一方で、奏功する救命治療介入として臓器移植が出現したものの、この治療介入は、移植に利用可能な臓器の不足と隣り合わせであり、こうして臓器移植が出現したことによって、不幸なことに、誰を生かして誰を死なせるかを決定しなくてはならないというイデオロギー的に頭の痛い立場に医療専門家は立たされている。究極的には、同種移植材料の重大な欠点を最少化すると同時に、そうした同種移植材料をそのように有効なものにする作用機構と同じ作用機構を与えると想定される代替の補助治療選択肢があれば、世界の患者にとって計り知れないほど有益なものとなろう。
【0009】
皮膚臓器に関しては、重度かつ広範な深達性の部分層熱傷及び全層熱傷を有する患者は、より永続的な治療を受ける前に、そうした熱傷を塞ぐ応急的な治療選択肢が早急に必要である。この極めて重要な期間中、重度熱傷患者は、日和見病原体の感染、皮膚障壁の破壊、及び免疫応答の機能障害、ならびに熱傷部位からの体液喪失を介する血液量減少に起因して臨床的な状態が悪化するリスクを有する。この後には、臓器不全及び可能性としては死の一因となる電解質、体温、及びpHの不均衡が続発することが多い。そのような損傷の治療には自家移植片を利用することが理想的であろうが、熱傷治療の急性期(損傷から96時間以内)の間に患者自身の皮膚を供給することは限られることが多く、このことは、熱傷範囲が総体表面積の20%を超える症例では特に当てはまる。より重要なことには、自家移植片を収集することは、既に損なわれている患者のホメオスタシスをさらに侵襲し、病的状態を悪化させる結果を招くため、臨床的に禁忌となることが多い。例えば、Johnson,“Partial-thickness burns:identification and management,”Adv Skin.Wound Care.2003;16(4):178-87を参照のこと。したがって、自家移植片が利用不可能及び/または禁忌である場合、ヒト死体同種移植片(「HCA」)を利用することで、自家移植片が利用可能になり、及び/または望ましくなるまで応急的に創傷を被覆するというものが、現在行われる方法である。残念なことに、感染性病原体の懸念に加えて、物流的及び供給的な本質的制約が存在することを考慮すると、HCAの利用可能性は極めて限られたものである。
【0010】
自家移植片及び同種移植片による解決策の利用可能性が限られることに起因する臨床的なアンメットニーズに対処するためには、他の「一時的な」応急被覆材料が使用されることが一般的である。こうしたものには、浅達性熱傷の治療試行に主に使用される最終滅菌された非生存細胞から構成されるさまざまな合成または他の組織ベースの製品が含まれ、こうしたものは、感染に対する障壁となる。そのような製品の例としては、Biobrane(登録商標)、Transcyte(登録商標)、培養表皮同種ケラチノサイト、Dermagraft、Apligraf(登録商標)、及び親水コロイド被覆材(Aquacel(登録商標)など)が挙げられる。他の創傷閉鎖製品には、遺伝的に改変されていないブタ異種移植片(Gal+)、及び組織操作された送達系が含まれる。こうした創傷被覆製品及び創傷閉鎖製品の多くは、効能が限られたものであり、他にも文献に記載の制限を有するものである。例えば、Thornton JF and Gosman AA,“Skin Grafts and Skin Substitutes and Principles of Flaps,”Baylor University Medical Center,2004 10(1):2-78を参照のこと。そのような製品は、血管新生を誘導せず、重度かつ広範な深達性の部分層熱傷及び全層熱傷の治療を意図するものではなく、創傷床の血管新生を誘導することは不可能である。本発明以前には、生存するヒト皮膚の生物学的特性を近似再現可能な皮膚代替物は存在せず、満足のいくヒト同種移植片皮膚代替物は存在しない。したがって、特に皮膚に関しては、重度かつ広範な深達性の部分層熱傷及び全層熱傷を応急的に被覆して障壁機能(同種移植片と同等か、またはそれよりも良好なもの)を与え、創傷床において血管新生を誘導する高品質な方法に対するニーズが依然として存在する。
【0011】
より永続的な臓器または他の組織が見つかり、利用される一方で、一般に、応急的な治療に対するものを含めて、臓器及び他の移植組織に対する差し迫ったニーズが存在することがきっかけとなり、応急的異種移植及び/または永続的異種移植のための他の動物を含めて、非ヒト起源の臓器、細胞、及び組織の利用を検討するに至っている。
【0012】
ブタは、そのサイズ及び生理機能がヒトと適合すると考えられることから、ヒトへの異種移植において使用するための臓器、組織、及び/または細胞の潜在的な非ヒト供給源であると長く見なされてきた。しかしながら、ブタからヒトへの異種移植は、重大な障害を有する。こうした障害の少なくない部分が超急性拒絶反応であり、この超急性拒絶反応では、自然ヒト抗体が当該動物の細胞上のエピトープを標的とすることで、移植された臓器、細胞、または組織を拒絶し、不全に至らしめる。他の障害には、遅延性異種移植片拒絶反応、急性細胞性拒絶反応、慢性拒絶反応、疾患または寄生生物が異種間伝染するリスクが含まれる。
【0013】
超急性拒絶反応の原因の1つは、ブタ細胞にアルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ(「アルファ-1,3-GT」)が発現することに起因しており、このアルファ-1,3-GTによってアルファ-1,3-ガラクトースエピトープが合成される。ヒト、類人猿、及び旧世界ザルを除いて、ほとんどの哺乳類がガラクトースアルファ1,3-ガラクトースを含む糖タンパク質をその細胞表面上に保有する(例えば、Galili et al.,“Man,apes,and old world monkeys differ from other mammals in the expression of α-galactosyl epitopes on nucleated cells,”J.Biol.Chem.263:17755-17762(1988)を参照のこと)。ヒト、類人猿、及び旧世界ザルでは、天然起源の抗アルファgal抗体が産生されており、この抗体は、ガラクトースアルファ-1,3ガラクトースを有する糖タンパク質及び糖脂質に結合する(例えば、Cooper et al.,“Genetically engineered pigs,”Lancet 342:682-683(1993)を参照のこと)。したがって、天然型のブタ製品が異種移植に利用される場合、外来性のアルファ-1,3-ガラクトースエピトープに対してヒト抗体が誘導されることになり、通常は超急性拒絶反応が続発する。
【0014】
ブタを改変してアルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を除去しようとさまざまな方法が試みられており、これによって野生型のブタと比較して超急性拒絶反応が低減されることが示されている。例えば、米国特許第7,795,493号(「Phelps」)、同第7,547,816号(「Day」)、及び同第547,522号(「Hawley」)には、「ノックアウト」及び「ノックイン」ブタが開示されている。そうした参考文献はそれぞれ、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0015】
アルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼの発現を除去する以外のブタに対する他の遺伝的改変もまた、ヒトレシピエントによる、移植されたブタの細胞、組織、及び/または臓器の免疫学的拒絶反応の低減に役立ち得る。例えば、Neu5Gcの発現を除去することは、免疫学的拒絶反応を低減するための別の手法である。例えば、Scobie,L.,“Long-Term IgG Response to Porcine Neu5Gc Antigens without Transmission of PERV in Burn Patients Treated with Porcine Skin Xenografts,”The Journal of Immunology,191:2907-2915(2013)(「Scobie」)を参照のこと。当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。哺乳類はすべて、Neu5Ac(シアル酸)を発現する。ヒトを除く動物はすべて、Neu5Ac水酸化酵素(CMAH遺伝子によってコードされる)を使用してNeu5AcをNeu5Gcに変換する。したがって、アルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼエピトープと同様に、ブタ細胞上ではNeu5Gcが発現するが、このNeu5Gcは、異種移植製品のヒトレシピエントによって外来物として認識され、最終的な拒絶反応を引き起こす。したがって、CMAH(Neu5AcからNeu5Gcへの変換を担う酵素)を除去すれば、異種移植のためのブタ由来の臓器の細胞をさらに操作し、ヒトレシピエントにおいて拒絶反応が生じるリスクを低減し得る。
【0016】
アルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ及びNeu5Gcに加えて、β1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(B4GALNT2)の発現を除去することは、免疫学的拒絶反応を低減するための別の手法である。B4GALNT2は、ブタからヒトへの移植で観察される抗体応答に寄与し得るものであり、レシピエントに由来する免疫応答を誘発する糖鎖を生成させることがブタからヒヒへの移植モデルで示されている。例えば、Byrne,G.,“Cloning and expression of porcine β1,4-N-acetylgalactosaminyl transferase encoding q new xenoreactive antigen,”Xenotransplantation,21:543-554(2014)(「Byrne」)を参照のこと。当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。B4GALNT2遺伝子を破壊すると、ブタ細胞に対する免疫応答が低減される可能性があり、このことは、そうした細胞がアルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ及びCMAHも除去されたものである場合に特に当てはまる。例えば、米国特許公開公報第US2017/0311579号に記載のアルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ、Neu5Gc、及びβ1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼを組み合わせ除去(「トリプルノックアウト」とも称される)する態様(Byrne)を参照のこと。当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。多くの場合、先行技術の方法は、異種移植の結果として生じる負の作用に対処しようとするものであり、このことは、例えば、免疫抑制剤の投与を介して試みられる。これまでに使用された方法は免疫抑制剤を必要とするものであるが、免疫抑制剤を使用すると、生命を脅かす悪性腫瘍及び感染症が引き起こされることが多い。他の場合では、先行技術の方法は、動物遺伝子をノックアウトし、及び/またはヒト遺伝子を挿入してトランスジェニック動物を創出しようとするものであったが、そのようにして得られる動物は、免疫系が損なわれ、他にも表現型的な合併症を有することに起因して生存及び繁殖が不可能なものであった。そのような場合では、ブタ糖鎖及び/またはSLA遺伝子が破壊されることで、ナチュラルキラー細胞による溶解に対して細胞が脆弱化することが生じた。ナチュラルキラー細胞は、自然免疫、適応免疫、及び生殖において機能する動作の速い多機能リンパ球である。ヒトはそれぞれ、非常に多様なナチュラルキラー細胞を有する。以前の異種移植試験では、ナチュラルキラー細胞介在性の溶解が移植後に生じること、ならびにドナー動物における抗ウイルス免疫維持の困難さ及び自己免疫障害を含めて、問題が生じることが報告された。
【0017】
そのような刊行物は存在するものの、ヒトでの異種移植製品に関する複雑な課題は未解決のままであり、安全性及び有効性に特異性が必要となる場合、生存可能な異種移植製品を得るための指針は曖昧であり、相反し、かつ一般的なものに留まる。マーケティングが認可された生存する動物細胞、動物組織、または動物臓器を含む異種移植製品は存在せず、臨床試験はほとんど行われていない。この業界は安全性への懸念に直面しており、こうした懸念は、例えば、認可された製造手順及び製品特徴に対する有意義な規制指針が存在しないことに加えて、病原体が伝染する可能性があることである。さまざまな刊行物によって進展が報告されてはいるものの、例えば、学会では、生存する動物細胞、動物組織、または動物臓器を含む異種移植製品の認可に至ったものは存在せず、そのような製品または製造プロセスについての医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準(GMP)規制は公表されていない。それ故に、本発明は、異種移植の科学を臨床的な現実に変換することに対して長年存在するアンメットニーズに対処する。
【発明の概要】
【0018】
本発明の一態様によれば、ヒトレシピエントに異種移植するための生物学的製品を生産するための方法が提供され、当該生物学的製品は、異種移植後に血管新生を誘導する生存細胞及び生存組織を含み、方法は、非野生型の生物学的に操作されたブタを生産することであって、当該ブタが、1つ以上の細胞外表面糖鎖エピトープを当該ブタが発現しないように生物学的に操作されたゲノムを有する、当該生産すること、少なくとも下記の人畜共通感染症病原体を当該ブタが含まないことを確認すること、
(i)糞便物質中のAscaris属の種、cryptosporidium属の種、Echinococcus、Strongyloids sterocolis、及びToxoplasma gondii、
(ii)Leptospira属の種、Mycoplasma hyopneumoniae、ブタ生殖器呼吸器症候群ウイルス(PRRSV)、仮性狂犬病、伝染性胃腸炎ウイルス(TGE)/ブタ呼吸器コロナウイルス、Toxoplasma Gondii(抗体力価で確認)、
(iii)ブタインフルエンザ、
(iv)細菌培養によって決定される下記の細菌病原体:Bordetella bronchisceptica、コアグラーゼ陽性ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、家畜関連メチシリン耐性Staphylococcus aureus(LA MRSA)、Microphyton、及びTrichophyton属の種、
(v)ブタサイトメガロウイルス、ならびに
(vi)Brucella suis
バイオバーデン低減手順に従ってブタを維持することであって、当該手順が、隔離された閉鎖群中でブタを維持することを含み、隔離された閉鎖群中のすべての他の動物が、当該人畜共通感染症病原体を含まないことが確認され、ブタが、隔離された閉鎖群の外部のいずれの非ヒト動物及び動物収容施設とも接触しないように隔離される、当該維持すること、当該ブタから生物学的製品を収集することであって、当該収集することが、ブタを安楽死させること、及びブタから生物学的製品を無菌的に取り出すことを含む、当該収集すること、当該生物学的製品を加工することであって、当該加工することが、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)還元アッセイにおける細胞生存度を50%未満に低下させず、ミトコンドリア活性を50%未満に低下させない滅菌プロセスを使用して収集後に滅菌を行うことを含む、当該加工すること、ならびに当該生物学的製品を滅菌容器中に保管すること、を含む。
【0019】
本発明の一態様によれば、ヒトレシピエントへの異種移植に適した生物学的製品を生産するための方法が提供され、方法は、非野生型の生物学的に操作されたブタを生産することであって、当該ブタが、自然交配及び自然分娩を介して生産され、当該ブタが、1つ以上の細胞外表面糖鎖エピトープを当該ブタが発現しないように生物学的に操作されたゲノムを有し、当該ブタが、少なくとも下記の病原体:Ascaris属の種、cryptosporidium属の種、Echnococcus、Strongyloids sterocolis、Toxoplasma gondii、Brucella suis、Leptospira属の種、mycoplasma hyopneumoniae、仮性狂犬病、Toxoplasma Gondii、staphylococcus属の種、Microphyton属の種、及びTrichophyton属の種、ブタインフルエンザ、サイトメガロウイルス、アルテリウイルス、ならびにコロナウイルスを含まない、当該生産すること、ブタを飼育し、バイオバーデン低減手順に従ってブタを維持することであって、当該手順が、閉鎖群中でブタを維持することを含み、閉鎖群中のすべての他の動物が、少なくとも下記の病原体:Ascaris属の種、cryptosporidium属の種、Echnococcus、Strongyloids sterocolis、Toxoplasma gondii、Brucella suis、Leptospira属の種、mycoplasma hyopneumoniae、仮性狂犬病、Toxoplasma Gondii、staphylococcus属の種、Microphyton属の種、及びTrichophyton属の種、ブタインフルエンザ、サイトメガロウイルス、アルテリウイルス、ならびにコロナウイルスを含まないことが確認され、ブタが、閉鎖群の外部のいずれの非ヒト動物及び動物収容施設とも接触しないように隔離される、当該飼育し、維持すること、当該ブタから生物学的製品を収集することであって、当該収集することが、ブタを安楽死させること、及びブタから生物学的製品を無菌的に取り出すことを含む、当該収集すること、当該生物学的製品を加工することであって、当該加工することが、収集から15時間以内に滅菌を行うこと、及び当該生物学的製品を滅菌容器中に保管することを含む、当該加工すること、を含み、当該生物学的製品は、1つ以上の細胞外表面糖鎖を含まず、当該製品は、Ascaris属の種、cryptosporidium属の種、Echnococcus、Strongyloids sterocolis、Toxoplasma gondii、Brucella suis、Leptospira属の種、mycoplasma hyopneumoniae、仮性狂犬病、Toxoplasma Gondii、staphylococcus属の種、Microphyton属の種、及びTrichophyton属の種、ブタインフルエンザ、サイトメガロウイルス、アルテリウイルス、ならびにコロナウイルスを含まず、当該製品は、生物学的に活性であり、異種移植後に血管新生を誘導する能力を有する生存細胞及び生存組織を含み、当該製品の細胞ミトコンドリア活性は、MTTアッセイによって測定すると50%超であり、当該製品は、ヒト異種移植レシピエントに移植された場合、従来のGal-Tノックアウトブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、従来のトリプルノックアウトブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、トランスジェニックブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、野生型動物から調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、及び/または同種移植片と比較して免疫原性が低く、当該製品は、ヒト異種移植レシピエントに移植された場合、従来のGal-Tノックアウトブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、従来のトリプルノックアウトブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、トランスジェニックブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、野生型動物から調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、及び/または同種移植片と比較して抗原性が低く、当該製品は、ヒト異種移植レシピエントに対して免疫抑制剤を投与しない、または他の免疫抑制治療を施さなくても、ヒト異種移植レシピエントによる拒絶反応に抵抗性である。
【0020】
本発明の別の態様では、ヒトレシピエントへの製品の臨床的異種移植後、製品は、同種移植片製品と同等以上の臨床的利点を示す。本発明の別の態様では、製品は、臓器または組織を含み、こうした臓器または組織には、例えば、肝臓、腎臓、肺、皮膚、または神経が含まれる。本発明の別の態様では、製品は、異種移植後の患者の移植物の領域における血管新生との親和性を有する。本発明の別の態様では、皮膚に関して、製品は、異種移植後の患者の移植物の領域におけるコラーゲン産生との親和性を有する。いくつかの態様では、臨床的利点には、移植片接着不良が低減されること、移植片接着が増加すること、肉芽形成レベルが周囲組織と同等であること、過剰肉芽形成が20%未満、10%未満、5%未満、または2%未満であること、血腫が創傷サイズの20%未満、10%未満、5%未満、または2%未満であること、及びフィブリン沈着が創傷サイズの20%未満、10%未満、5%未満、または2%未満であること、同種移植片と比較して細菌感染が低減されること(例えば、コロニー数が105個/組織g未満であること)、蜂巣炎が低減されること、紅斑が低減されること、浮腫が低減されること、知覚過敏が減少されること、硬結が低減されること、圧痛が低減されること、そう痒が減少されること、膿瘍が低減されること、毒素性ショック症候群の発生率が低減されること、毒素1産生S.aureusのコロニー形成が低減されること、敗血症及び敗血症性ショックの発生率が低減されること、E.coli、P.aeruginosa、Klebsiella属の種、Providencia属の種、enterobacteriaceae、及び酵母(C.albicansなど)によるコロニー形成が低減されること、が含まれ得る。別の態様では、製品は、密封性のフィブリンシールを形成し得る。別の態様では、製品は、移植部位または治癒部位に組み込まれ得る。別の態様では、製品は、移植部位もしくは治癒部位における感染を低減もしくは阻止するか、移植部位もしくは治癒部位における体液を増進もしくは保持するか、移植部位もしくは治癒部位における電解質を増進もしくは保持するか、移植部位もしくは治癒部位における温度ホメオスタシスを増進もしくは保持するか、移植部位もしくは治癒部位における瘢痕を低減するか、敗血症を低減もしくは無くするか、タンパク質の喪失を低減もしくは無くするか、正常な身体機能を付与、改善、もしくは回復促進するか、またはそれらの組み合わせを実現し得る。本発明の別の態様では、製品は、免疫抑制剤または他の免疫抑制治療の非存在下で移植可能なものである。いくつかの態様では、本開示の異種移植製品の移植前、移植中、及び/または移植後は、本開示に従って免疫抑制剤は使用されない。いくつかの態様では、本開示の異種移植製品の移植前、移植中、及び/または移植後に、本開示に従って免疫抑制剤が使用され得る。いくつかの態様では、既に移植された異種移植製品の接着を延長するために、本開示の異種移植製品の移植後に、本開示に従って免疫抑制剤が使用される。
【0021】
本発明の別の態様例によれば、本開示は、ヒトへの臨床的異種移植のための生物学的製品を調製する方法を提供し、この方法は、既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列を選択すること、またはヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子をシークエンシングすること、ブタの細胞を遺伝的に改変することで、ブタの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の一部を、既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の対応部分またはヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の対応部分で置き換えて、ブタの細胞が、既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の対応部分またはヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の対応部分を発現するようにすること、既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の対応部分を発現するか、またはヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の対応部分を発現するブタから1つ以上の細胞、組織、及び/または臓器を単離することであって、単離された細胞、組織、及び/または臓器が生物学的製品となる、当該単離すること、を含む。
【0022】
本発明の別の態様例によれば、本開示は、遺伝的に再プログラム化されたブタを調製する方法を提供し、当該遺伝的に再プログラム化されたブタは、アルファ-1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子が破壊された核ゲノムを含み、既知のヒト配列の主要組織適合遺伝子複合体、あるいは当該遺伝的に再プログラム化されたブタから単離される細胞、組織、及び/または臓器のヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体を発現するように遺伝的に改変されており、当該方法は、既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体配列を選択するか、またはヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子をシークエンシングすること、少なくとも1つのブタ表面糖鎖遺伝子が破壊された核ゲノムを含むブタを得ること、ブタの細胞を遺伝的に改変することで、ブタの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子の一部を、既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体遺伝子の対応部分またはヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子の対応部分で置き換えて、ブタの細胞が、ヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体の一部を発現するようにすること、を含む。
【0023】
本発明の別の態様例によれば、本開示は、ヒトレシピエントに異種移植された組織に対する拒絶反応、分離反応、または有害反応を遅延、低減、または阻止する方法を提供し、この方法は、既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列を選択すること、またはヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子をシークエンシングすること、アルファ-1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子が破壊された核ゲノムを含むブタを得ること、ブタの細胞を遺伝的に改変することで、ブタの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子の一部を、既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の対応部分またはヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の対応部分で置き換えて、ブタの細胞が、既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の対応部分またはヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の対応部分を発現するようにすること、既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の対応部分またはヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の対応部分を発現する遺伝的に再プログラム化されたブタから細胞、組織、及び/または臓器を単離すること、ならびに遺伝的に再プログラム化されたブタから単離された細胞、組織、及び/または臓器をヒトレシピエントに移植すること、を含む。
【0024】
本発明の別の態様例によれば、本開示は、非野生型の生物学的に操作された非ヒト生物から得られる臨床的異種移植のための生物学的製品を提供し、当該生物学的製品の由来元である当該生物は、自然交配及び/または生殖補助技術を介して生産され、当該生物は、1つ以上の細胞外表面糖鎖エピトープを当該生物が発現しないように生物学的に操作されたゲノムを有し、当該生物は、少なくとも下記の病原体:Ascaris属の種、cryptosporidium属の種、Echnococcus、Strongyloids sterocolis、Toxoplasma gondii、Brucella suis、Leptospira属の種、mycoplasma hyopneumoniae、仮性狂犬病、Toxoplasma Gondii、staphylococcus属の種、Microphyton属の種、及びTrichophyton属の種、ブタインフルエンザ、サイトメガロウイルス、アルテリウイルス、ならびにコロナウイルスを含まず、当該生物は、トランスジェニックではなく、当該製品は、1つ以上の細胞外表面糖鎖を含まず、当該製品は、Ascaris属の種、cryptosporidium属の種、Echnococcus、Strongyloids sterocolis、Toxoplasma gondii、Brucella suis、Leptospira属の種、mycoplasma hyopneumoniae、仮性狂犬病、Toxoplasma Gondii、staphylococcus属の種、Microphyton属の種、及びTrichophyton属の種、ブタインフルエンザ、サイトメガロウイルス、アルテリウイルス、ならびにコロナウイルスを含まず、当該製品は、最終滅菌されておらず、当該製品は、従来のGal-Tノックアウトブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、従来のトリプルノックアウトブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、トランスジェニックブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、野生型動物から調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、及び/または同種移植片と比較して免疫原性が低く、当該製品は、ヒト異種移植レシピエントに移植された場合、従来のGal-Tノックアウトブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、従来のトリプルノックアウトブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、トランスジェニックブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、野生型動物から調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、及び/または同種移植片と比較して抗原性が低く、当該製品は、生物学的に活性であり、異種移植後に血管新生を誘導する能力を有する生存細胞及び生存組織を含む。
【0025】
本発明の別の態様例によれば、本開示は、第2世代の非野生型の生物学的に操作された子ブタを生産するための方法を提供し、この方法は、非野生型の生物学的に操作された子ブタを妊娠雌ブタから帝王切開を介して分娩させることであって、当該雌ブタが、自然交配及び/または生殖補助技術を介して生産されたものである、当該分娩させること、ならびに隔離された閉鎖群中で当該分娩された子ブタを保持することであって、隔離された閉鎖群中のすべての他のブタが、少なくとも下記の病原体:サイトメガロウイルス、アルテリウイルス、及びコロナウイルスを含まないことが確認され、当該子ブタが、少なくとも下記の病原体:サイトメガロウイルス、アルテリウイルス、及びコロナウイルスを含まない、当該保持すること、当該隔離された閉鎖群中で当該子ブタを飼育すること、当該子ブタを、性的に成熟した時点で、当該隔離された閉鎖群中で同じく維持され、当該病原体を含まない別のブタと交配させること、ならびに当該交配させることから得られる新たな子ブタを分娩させることであって、当該新たな子ブタが、当該病原体を同じく含まない第2世代の非野生型の生物学的に操作された子ブタである、当該分娩させること、を含む。
【0026】
本発明の別の態様例によれば、本開示は、臓器、神経、細胞、または組織の移植を必要とする損傷を患うヒト対象を治療する方法を提供し、方法は、第2世代の非野生型の生物学的に操作された子ブタから得られる臓器、神経、細胞、または組織を対象に移植することを含み、第2世代の非野生型の生物学的に操作された子ブタは、本開示の方法によって生産され、免疫抑制剤または他の免疫抑制治療は、対象に施されない。
【0027】
本発明の別の態様例によれば、本開示は、子ブタを生産するための方法を提供し、この方法は、帝王切開を介して妊娠雌ブタから子ブタを分娩させることであって、雌ブタが、自然交配及び/または生殖補助技術を介して生産されたものである、当該分娩させること、ならびに分娩された子ブタを、指定の病原体を含まないように維持された環境中で保持することであって、子ブタが、少なくとも下記の病原体:サイトメガロウイルス、アルテリウイルス、及びコロナウイルスを含まない、当該保持すること、当該環境中で子ブタを飼育すること、子ブタを、性的に成熟した時点で、当該環境中で同じく維持され、病原体を含まない別のブタと交配させること、ならびに交配させることから得られる新たな子ブタを分娩させることであって、新たな子ブタが、同じく病原体を含まない、当該分娩させること、を含む。本発明の別の態様では、ブタは、そのような方法によって生産される。方法の別の態様は、新たな子ブタから生物学的製品を収集することを含み、製品は、臓器または組織を含み、臓器は、肝臓、腎臓、もしくは皮膚を含み、及び/または組織は、神経を含む。
【0028】
本発明の別の態様例によれば、製品をヒト患者に異種移植するのための方法が提供され、この方法は、アルファ-1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子が破壊されたゲノムを有する非野生型の遺伝的に操作された非ヒト生物から製品を得ることであって、生物が、指定の病原体を含まない環境中で維持され、少なくとも下記の病原体:サイトメガロウイルス、アルテリウイルス、及びコロナウイルスを含まず、製品が、生物学的に活性である、当該得ること、ならびに製品をヒトレシピエントに移植することであって、移植時に製品が臨床的利点を示す、当該移植すること、を含む。方法の別の態様には、製品が、臓器または組織を含むこと、臓器が、肝臓、腎臓、または皮膚を含むこと、組織が、神経を含むこと、移植が、免疫抑制剤または他の免疫抑制治療の非存在下で行われること、製品が、異種移植後の患者の移植物の領域における血管新生との親和性を有すること、製品(例えば、皮膚)が、異種移植後の患者の移植物の領域におけるコラーゲン産生との親和性を有すること、臨床的利点が、同種移植片製品を上回っていること、生物学的製品の由来元である生物が、自然交配及び/または生殖補助技術を介して生産されること、が含まれる。いくつかの態様では、製品をヒト患者に異種移植するのための方法は、ヒトレシピエント試料(血液試料及び組織試料など)を収集保管して潜在的な感染の将来的な監視を可能にすること、レシピエントをその生涯にわたって追跡調査して任意の異常症状を検出すること、及び/または異種移植製品の試料を収集保管すること、をさらに含み得る。共培養プロセスに使用される任意の非ヒト動物細胞についても収集保管されることになる。
【0029】
さらに、ブタに対する他の遺伝的改変もまた、ヒトレシピエントによる、移植されたブタの細胞、組織、及び/または臓器の免疫学的拒絶反応の低減に役立ち得る。例えば、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)(亜群(クラスI、クラスII、及びクラスIII)を含む)は、脊椎動物において獲得免疫系が外来分子を認識する上で必要不可欠な一連の細胞表面タンパク質を含み、MHC分子は、病原体由来の抗原に結合し、適切なT細胞によって認識されるようにそうした抗原を細胞表面上にディプレイする。
図25を参照のこと。
【0030】
主要組織適合遺伝子複合体クラスI(MHCI)分子及び主要組織適合遺伝子複合体クラスII(MHCII)分子は、ペプチドを抗原提示細胞表面上にディスプレイしてその後にT細胞に認識されるようにする。
図22を参照のこと。ヒト集団内で、古典的なMHCI遺伝子産物及びMHCII遺伝子産物の間のアレルの多様性は、ペプチド結合の差異、胸腺レパートリーバイアス、及び同種移植片拒絶反応の基礎をなしている。MHC分子は、適応免疫のプロセスの中心をなす細胞表面糖タンパク質であり、ペプチドを捕捉し、それを抗原提示細胞(APC)の表面上にディスプレイするように機能する。MHCクラスI(MHCI)分子は、ほとんどの細胞上に発現しており、アミノ酸残基数8~10のサイズを有する内因性に由来するペプチドに結合し、CD8細胞傷害性Tリンパ球(CTL)によって認識される。
図18及び
図27を参照のこと。一方、MHCクラスII(MHCII)は、特殊なAPC上にのみ存在し、残基数9~22のサイズを有する外因性に由来するペプチドに結合し、CD4ヘルパーT細胞によって認識される。
図28を参照のこと。こうした差異は、MHCI分子及びMHCII分子が、T細胞介在性免疫応答の2つの異なる部分に関与することを示しており、MHCI分子は、CD8CTLによる破壊を受けるように進入病原体(ウイルスなど)を標的とし、MHCII分子は、サイトカインベースの炎症性メディエーターを誘導してCD4ヘルパーT細胞活性(B細胞の活性化、成熟、及び抗体産生を含む)を刺激する。いくつかの態様では、本開示の生物学的製品は、CD8+T細胞によって認識されず、抗HLA抗体と結合せず、NK介在性の溶解に抵抗性である。
【0031】
ヒトでは、MHC分子は、HLA(ヒト白血球抗原(human leukocyte antigen)の頭字語)と称され、染色体6p21.3に位置するHLA領域によってコードされる8,9。HLAセグメントは、3つの領域(クラスII、クラスIII、及びクラスI)(セントロメア側からテロメア側の順で記載)に分かれる。
図19を参照のこと。古典的なクラスI HLA遺伝子及びクラスII HLA遺伝子は、それぞれクラスI領域及びクラスII領域に含まれている一方で、クラスIII遺伝子座は、免疫系に関与するタンパク質をコードする遺伝子を保有するが、構造的にはMHC分子と関連しない。古典的HLAクラスI分子は、HLA-A、HLA-B、及びHLA-Cという3つの型を有するものである。こうした成熟HLAクラスI分子のα鎖のみが、それぞれHLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子、及びHLA-C遺伝子によってクラスI HLA遺伝子座内にコードされる。
図13を参照のこと。対照的に、ベータ-2ミクログロブリン(β2m)鎖は、β2m遺伝子によってコードされ、β2m遺伝子は、15番染色体に位置する。古典的HLAクラスII分子もまた、3つの型(HLA-DP、HLA-DQ、及びHLA-DR)を有するものであり、それぞれのα鎖及びβ鎖は両方共、一対の隣接遺伝子座によってコードされる。こうした古典的なHLAクラスI遺伝子及びHLAクラスII遺伝子に加えて、ヒトMHC遺伝子座は、広範囲にわたって並んだHLA偽遺伝子ならびに非古典的なMHCI分子及びMHCII分子をコードする遺伝子を含む。HLA偽遺伝子は、遺伝子重複がHLA進化の主な原動力であることを示すものである一方で、非古典的なMHCI分子及びMHCII分子は、αβTCRに抗原を提示する機能とは全く異なる限られた機能を免疫系内で果たすことが多い。
【0032】
移植では、MHC分子は、それ自体が抗原として働き、レシピエント由来の免疫応答を誘発することで、移植拒絶反応を引き起こす。したがって、ドナー動物から特定のMHC分子の発現を除去することが、ヒトレシピエントに移植されるブタの細胞、組織、及び/または臓器に対する免疫学的拒絶反応の低減に役立つことなる。ヒトのMHCクラスI及びMHCクラスIIは、ヒト白血球抗原(HLA)とも呼ばれる。本発明者らは、ドナー動物が生存及び繁殖するためには、最低限には能力を有する免疫系をドナー動物に与えるある特定のMHC分子(例えば、SLA)を保持する必要があることを発見した。MHC遺伝子の欠失に依存するという先行技術方針は、ドナー動物に重大なリスク(例えば、重症複合免疫不全(SCID))をもたらすものである。ブタゲノムを再プログラム化しないという先行技術方針は、ヒトレシピエントに重大な拒絶反応リスクをもたらすものであるか、または免疫抑制剤を相当かつ永遠に使用することを必要とするものである。本開示の生物学的製品は、多くのヒト免疫経路を回避するものであり、こうして回避される免疫経路には、抗原提示及び適応免疫の生成、ナチュラルキラー細胞介在性の溶解、T細胞介在性の溶解、及び/またはマクロファージ食作用が含まれる。したがって、本開示の生物学的製品を用いれば、全身免疫抑制を必要とすることなくヒトレシピエントに異種移植された製品が長期的に生着するようになる。
【0033】
ヒト白血球抗原(HLA)系またはHLA複合体は、ヒトの主要組織適合遺伝子複合体(MHC)タンパク質をコードする遺伝子複合体である。こうした細胞表面タンパク質は、ヒトにおける免疫系の制御を担う。HLA遺伝子複合体は、染色体6p21内の3Mbpの区間に存在する。
図14を参照のこと。HLA遺伝子は、高度に多型性であり、このことは、HLA遺伝子が、異なるアレルを多く有し、これによって、そうしたHLA遺伝子が適応免疫系を微調整することが可能であることを意味する。
図15を参照のこと。ある特定の遺伝子によってコードされるタンパク質は、抗原としても知られており、こうして抗原として知られることになったのは、そうした抗原が臓器移植物中の因子として歴史的に発見された結果である。クラスが異なれば、機能が異なる。
図16及び
図17を参照のこと。
【0034】
MHCクラスIに対応するHLA(A、B、及びC)はすべて、HLAクラス1群のものであり、細胞内に由来するペプチドを提示する。例えば、細胞がウイルス感染を受けた場合、HLA系は、ウイルスの断片を細胞の表面に運び、その結果、免疫系によってそうした細胞が破壊され得る。こうしたペプチドは、プロテアソーム中で分解された消化タンパク質に由来して生成する。一般に、こうした特定のペプチドは、アミノ酸数約9の長さの小さなポリマーである。MHCクラスIによって提示される外来抗原は、細胞を破壊するキラーT細胞(CD8陽性T細胞または細胞傷害性T細胞とも呼ばれる)を誘引する。MHCクラスIタンパク質は、β2-ミクログロブリンと結び付く。β2-ミクログロブリンは、HLAタンパク質とは異なり、15番染色体上の遺伝子によってコードされる。
【0035】
MHCクラスIIに対応するHLA(DP、DM、DO、DQ、及びDR)は、細胞の外部に由来する抗原をTリンパ球に提示する。こうした特定の抗原は、ヘルパーT細胞(CD4陽性T細胞とも呼ばれる)の増殖を刺激し、ヘルパーT細胞は、次に、その特定の抗原に対する抗体を産生するように抗体産生B細胞を刺激する。自己抗原は、制御性T細胞によって抑制される。この影響を受ける遺伝子は、MHCクラスII遺伝子の転写を制御する4つの異なる制御因子をコードすることが知られる。これらのトランス作用性因子は、クラスIIトランス活性化因子、ならびに制御因子X(RFX)の3つのサブユニット(アンキリンリピート含有RFX(RFXANK)、RFXファミリーの第5メンバー(RFX5)、及びRFX関連タンパク質(RFXAP))である。それぞれのうちの1つの変異が、4つの異なる相補群を規定しており、これらの相補群は、それぞれA、B、C、及びDと呼ばれる。
【0036】
MHCクラスIIIに対応するHLAは、補体系の構成成分をコードする。HLAは、他にも役割を有する。HLAは、疾患からの防御において重要である。HLAは、臓器移植拒絶反応の主な原因である。HLAは、がんに対する保護を与えるか、または(感染によって下方制御される場合)がんに対する保護を与え損ね得る。HLAに変異が生じると、自己免疫疾患に繋がり得る(例:I型糖尿病、セリアック病)。HLAは、人が他人の匂いを感受することとも関連し得、孤立コミュニティにおける配偶者間のHLA類似性が予測を下回る割合であることが少なくとも1つの研究によって明らかになったように、配偶者選択に関与し得る。
【0037】
6つの主要な抗原提示タンパク質をコードする遺伝子とは別に、他にも遺伝子が多数存在し(こうした遺伝子の多くが免疫機能に関与する)、HLA複合体上に位置する。ヒト集団におけるHLAの多様性は、疾患防御の一側面であり、結果として、無関係な2個体が、すべての遺伝子座上に同一のHLA分子を有する確率は極めて低い。HLA遺伝子は、歴史的には、HLAが類似する個体の間で臓器移植が成功する能力の結果として同定されている。
【0038】
各ヒト細胞は、6つのMHCクラスIアレル(各親からHLA-A、HLA-B、及びHLA-Cのアレルが各1つ)ならびに6~8つのMHCクラスIIアレル(各親からHLA-DP及びHLA-DQが各1つ、HLA-DRが1つまたは2つ、ならびにこれらの組み合わせ)を発現する。ヒト集団におけるMHCの多様性は大きく、少なくとも、HLA-A遺伝子については少なくとも350のアレルが存在し、HLA-Bについては、少なくとも620のアレルが存在し、DRについては少なくとも400のアレルが存在し、DQについては少なくとも90のアレルが存在する。ヒトでは、MHCクラスII分子は、HLA-DR、HLA-DQ、及びHLA-DPという3つの異なる遺伝子座によってコードされ、これらの遺伝子座は、互いに約70%の類似性を示す。多形性は、MHCクラスII遺伝子の注目すべき特徴である。本開示は、再プログラム化用としてドナー動物に導入すべきヌクレオチド配列を同定し、SLAの対応セクションを見つけ、再プログラム化に使用すべき当該ヌクレオチド配列(例えば、50~80ヌクレオチド、60~72ヌクレオチド、62~68ヌクレオチド)を用いてSLAの当該対応セクションを選択的に置き換えることを含む。いくつかの態様では、MHCクラスII遺伝子が再プログラム化される。SLA遺伝子のマップは利用可能である。
図25及び
図26を参照のこと。したがって、本開示は、動物のゲノムにヒト遺伝子が挿入されたトランスジェニック動物を調製するのではなく、遺伝コードの小さなセクションを再プログラム化することを含む。先行技術であるMHC-サイレンシング手法に勝る本開示の利点には、免疫系が良好に機能し、開示の発明の利点を達成する上では排除することが非常に重要であることを本発明者らが同定した特定の病原体群を実質的に含まず、ヒトレシピエントの免疫系にとって「不可視」である(すなわち、ヒトレシピエントの免疫系による拒絶反応を顕著に遅延させるか、または回避する)異種移植製品を与える生物学的に再プログラム化されたブタを提供することが含まれる。
【0039】
一卵性双生児ではない2個体はいずれも、異なるMHC分子を発現することになる。MHCノックアウト細胞が調製されているが、そのような細胞は、MHCアレルが欠失しているため、下流の適応免疫応答が活性化されないことを含めて問題を抱えている。本開示によれば、ブタのMHCアレルを置き換えることによって、完全な免疫学的機能性が維持されるため、ドナー-レシピエントの適合性が改善する。具体的には、ブタドナー細胞がヒトレシピエントのMHC分子を発現するように、遺伝子編集手法を介して当該ドナー細胞を改変することが、ヒトレシピエントに移植されるブタの細胞、組織、及び/または臓器に対する免疫学的拒絶反応の低減に役立つことになる。こうすることは、ヒト集団におけるMHC多様性が非常に大きいが故に望ましいことであり、移植される細胞、組織、または臓器が、レシピエントと実質的に同一のMHC分子を発現するようにすることが、そのような移植されるブタの細胞、組織、及び/または臓器に対する免疫学的拒絶反応の低減に役立つことになる。
【0040】
本開示の態様によれば、HLA-Eコンストラクト及びHLA-GコンストラクトをブタMHC領域クラスI領域にノックインするために遺伝子編集が実施される。本開示の態様によれば、HLA-Cコンストラクト、HLA-Eコンストラクト、及びHLA-GコンストラクトをブタMHC領域クラスI領域にノックインするために遺伝子編集が実施される。CD94/NKG2は、ナチュラルキラー(NK)及び小さなT細胞サブセットに発現するヘテロ二量体である。この受容体は、どのNKG2アイソフォームが発現するかによって抑制分子または活性化分子として機能するように変わり得る。CD94/NKG2に対するリガンドは、ヒトではHLA-Eであり、HLA-Eは、他のクラスI分子に由来するリーダーペプチドと結合する。NK細胞と同様に、CD94を高レベルで発現するCD8T細胞のほとんどがNKG2A(抑制性アイソフォーム)を共発現する。この受容体が結合を受けると、細胞傷害性が遮断され得る。一方で、こうした受容体は、NK細胞及びCD8T細胞の両方の細胞生存にも関与している。CD94の発現レベルは、培養中のアポトーシスのレベルと逆相関する。したがって、CD94/NKG2受容体は、NK細胞及びCD8T細胞のエフェクター機能及び細胞生存を制御し、それによって病原体に対する自然免疫応答及び適応免疫応答において非常に重要な役割を担い得る。ある特定の態様では、本開示は、ナチュラルキラー細胞の増加について、ドナー動物及び/または異種移植製品レシピエントを検査することを含み、この検査は、例えば、マスサイトメトリーによって行われる。
【0041】
ブタに対して他の遺伝的改変を施しても、免疫学的拒絶反応が低減され得る。例えば、免疫原性及び免疫学的拒絶反応を低減するために、ブタに対して多くのトランスジェニック改変が行われている(例えば、Denner J,“Xenotransplantation-Progress and Problems:A Review,”J Transplant Technol Res 4(2):133(2014)(「Denner」)を参照のこと。当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)。こうしたものには、限定されないが、hCD46(hMCP、ヒト膜補因子)、hCD55、hCD59、hCD39、トロンボモジュリン、ヘムオキシゲナーゼ1、A20、HLA-E、及びCD47、ならびにそれらの組み合わせ(ヒト補体制御の抑制のためのもの)、ならびにDenner及び本明細書に示される他の改変が含まれる。別の改変については、US2018/0184630、US2017/0216358、US2019/0004063、及び米国特許第9,888,673号に記載されており、これらの文献は、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0042】
本発明からも理解されようが、異種移植のためのブタから得られる製品には、ヒトの体に由来する免疫応答を亢進させる特徴が他にもある。例えば、ブタは、数多くの病原体を保有し得るものであり、こうした病原体には、限定されないが、ブタサイトメガロウイルス(「pCMV」)、Leptospira属の種、アルテリウイルス、ブタコロナウイルス、Toxoplasma gondii、及び他の病原体が含まれる。本発明らは、開示の発明の利点を達成する上では排除することが非常に重要な特定の病原体群を同定した。したがって、ブタからヒトへの異種移植手順のためのブタ由来製品が、本明細書に記載の特定の病原体群を含まないようにすることが本発明の目的の1つである。
【0043】
自然免疫系は、ヒトパターン認識受容体(PRR)及びtoll様受容体(TLR)を介して、細胞表面上に位置する非自己構造またはその他の状態でそのような病原体と関連する非自己構造(例えば、病原体関連分子パターン(PAMP))を検出し、対象異種移植製品に対する拒絶反応を誘発する。したがって、対象製品に由来するそのような構造を除去、排除、不活化、破壊、及び/またはその他の様式で中和してそのような製品を異種移植したときに生じる免疫学的反応及び/または拒絶反応を最少化するか、または除去さえすることが本発明の目的の1つである。
【0044】
本発明の別の目的は、そのような特定の病原体を含まないブタ製品を生産することであり、このブタ製品は、1つ以上の特有の特徴(例えば、遺伝的に再プログラム化、操作、及び/または改変された非野生型であること)を有するブタから得られるものであり、こうしたブタには、限定されないが、表面糖鎖エピトープの発現を欠いたブタ、遺伝的に改変されたブタ、生物学的に再プログラム化されたブタ、及び本明細書に記載及び開示の他のブタが含まれる。
【0045】
本発明の別の目的は、そのような製品の処理操作を最小限にすることである。異種移植製品をその自然な状態から逸脱させる処理操作(例えば、アルデヒド中での固定)は、そのような製品を非生存化する一因となる。したがって、本明細書に開示及び記載の製品を、行われる処理操作が最小限に留まる生存可能な生存細胞とし、移植レシピエントと有機的に調和可能なものにすることが本発明の目的の1つであり、こうした有機的な調和には、限定されないが、移植レシピエントにおける血管新生及び/またはコラーゲン生成の誘導が含まれる。
【0046】
本発明の別の目的は、そのような製品を、場合によっては保存すること(限定されないが、凍結保存を介して保存することを含む)であり、こうした保存は、そのような製品に特徴的な生存度及び生存細胞を維持する様式で行われる。そのような製品は、収集から移植まで新鮮な状態を絶やさずに保管され、凍結保存されない場合もあり得ることが理解されよう。本発明の別の目的は、そのような製品が、移植前の凍結解凍サイクル後に、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%のミトコンドリア活性を有するようにすることである。本発明の別の目的は、そのような製品が、新鮮な移植用製品では、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%のミトコンドリア活性を有するようにすることである。本発明の別の目的は、そのような製品が、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)還元アッセイにおいて、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、または少なくとも85%の細胞生存度を有するようにすることである。本発明は、MTT還元アッセイを使用する検出に限定されるものではなく、他の検出アッセイも使用され得る。そのようなアッセイの一例では、100%の代謝活性のレベルが定義され(例えば、単一の供給源動物ドナーから得られる新鮮(非凍結保存)組織試料から得られるMTT還元アッセイの結果として定義される)、これが、製品ロットの生存度のベースライン(陽性対照)となる。代謝活性が存在しないこと(0%)は、単一の供給源動物ドナーから得られる熱不活化(煮沸または類似処理)組織試料から得られるMTT還元アッセイの結果として定義され、これが、製品ロットの生存度のベースライン(陰性対照)となる。製品生存度は、検査品の代謝活性の比較値であり、この比較値は、上記の100%境界条件のもの及び0%境界条件のものと比較したときのものである。一貫して臨床的に有用な材料を供給する上で容認される生物学的活性は50%であることが、業界基準及び公開参考基準によって裏付けられている。
【0047】
本発明の別の目的は、そのような製品を相同的使用のためのものとすることであり、こうした相同的使用は、すなわち、レシピエントの臓器、細胞、及び/または組織を、ドナーのものと同じ基本機能(複数可)を果たす対応臓器、対応細胞、及び/または対応組織を用いて修復、再構築、置き換え、または補充を行うことである(例えば、ヒト皮膚用移植物としてブタ皮膚を使用すること、ヒト腎臓用移植物としてブタ腎臓を使用すること、ヒト肝臓用移植物としてブタ肝臓を使用すること、ヒト神経用移植物としてブタ神経を使用することなど)。
【0048】
本発明の別の目的は、そのような製品が、正常な免疫機能を抑制または妨害する免疫抑制剤または免疫抑制治療の使用を必要としてまたは必要とせずに、異種移植において利用されるようにすることである。免疫抑制剤を使用すれば異種移植製品に対する拒絶反応を阻止し得ることが知られているが、そのような薬物は、免疫応答(例えば、ウイルス感染及び細菌感染に対するもの)も抑制し、それによってレシピエントにリスクを負わせるものである。異種移植では、典型的には、移植される組織に対する拒絶反応が後に生じている。こうした拒絶反応は、細胞性(リンパ球介在性)拒絶反応または液性(抗体介在性)拒絶反応であり得、こうした拒絶反応には、限定されないが、超急性拒絶反応、急性拒絶反応、慢性拒絶反応(生存期間を限定する血小板減少凝固障害を伴い得る)、及び急性液性異種移植片反応(AHXR)が含まれる。機序によって限定されないが、液性拒絶反応プロセス及び細胞性拒絶反応プロセスは両方共、MHC分子を標的とし得る。移植組織上に存在するブタの糖鎖及びタンパク質に対するヒト超急性拒絶応答は非常に強力なものであるため、そうした移植組織は、典型的には、ヒトへの移植から数分以内または数時間以内にヒト免疫系によって損傷を受ける。
【0049】
さらに、臓器選択的な様式で、異なる拒絶機序が優勢になることもあり得る。急性または急激な液性拒絶反応は、移植から数分以内に開始し得、急性または急激な細胞性拒絶反応は、移植から数日以内に開始し得る。液性拒絶反応にしても細胞性拒絶反応にしても、そうした拒絶反応には緩徐化または慢性の拒絶反応期も存在し得、この慢性期は、数年間生じ得る。Demetris et al.1998“Antibody-mediated Rejection of Human Orthotopic Liver Allografts.A study of liver transplantation across ABO blood group barriers”,Am J.Pathol 132:489-502、Nakamura et al 1993“Liver allograft rejection in sensitized recipients.Observations in a Clinically Relevant Small Animal Model”Am J.Pathol.142:1383-91、Furuya et al 1992.“Preformed Lymphocytotoxic Antibodies:the Effects of Class,Titer and Specificity on Liver v Heart Allografts”Hepatology 16:1415-22、Tector et al 2001.“Rejection of Pig Liver Xenografts in Patients with Liver Failure:Implications for Xenotransplantation”,Liver Transpl pp.82-9を参照のこと。これらの文献は、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0050】
ブタ細胞は、ヒト細胞には見られないタンパク質を複数発現する。こうしたものには、限定されないが、α1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ(αGal)、シチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸水酸化酵素(CMAH)、及びβ1-4N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼが含まれる。異種組織を移植する前から、ヒト血液中にはCMAH(及びNeu5GC)、α-Gal、ならびにSda様抗原に対する抗体が存在し、こうした抗体は、移植組織に対する激烈かつ即時型の抗体介在性拒絶反応に関与する。さらに、ブタ細胞は、複数のブタ白血球抗原(SLA)を発現する。ヒトとは異なり、ブタは、クラスI SLA及びクラスII SLAを内皮細胞上に構成的に発現する。SLA及びHLAは、かなりの配列相同性を共有する(Varela et al 2003 J.Am.Soc.Nephrol14:2677-2683)。ブタ組織を移植する前から、ヒト血清中には抗HLA抗体が存在しており、こうした抗HLA抗体は、ブタ組織上のSLA抗原と交差反応する。こうしたSLA交差反応性抗体は、移植されるブタ組織に対する激烈かつ即時型の拒絶反応の一因となる。SLA抗原は、レシピエントのT細胞介在性免疫応答にも関与し得る。ブタSLAには、限定されないが、SLA-1遺伝子座によってコードされる抗原、SLA-2遺伝子座によってコードされる抗原、SLA-3遺伝子座によってコードされる抗原、SLA-4遺伝子座によってコードされる抗原、SLA-5遺伝子座によってコードされる抗原、SLA-6遺伝子座によってコードされる抗原、SLA-8遺伝子座によってコードされる抗原、SLA-9遺伝子座によってコードされる抗原、SLA-11遺伝子座によってコードされる抗原、及びSLA-12遺伝子座によってコードされる抗原が含まれ得る。ブタクラスII SLAには、SLA-DQ遺伝子座によってコードされる抗原及びSLA-DR遺伝子座によってコードされる抗原が含まれる。
図26を参照のこと。
【0051】
本開示は、ドナー動物の完全な免疫機能は保持されるが、細胞表面に発現するタンパク質及び糖鎖がヒトレシピエントの免疫系によって外来物として認識されないようにそうしたタンパク質及び糖鎖が再プログラム化されるようにドナー動物細胞を再プログラム化することを含む。したがって、MHC及びSLAをノックアウトするか、または導入遺伝子を動物のゲノムに挿入することが求められる先行技術の開示内容とは対照的に、本開示は、動物が機能的な免疫系を保持するが、動物の再プログラム化された細胞が、ヒトレシピエントの免疫系による攻撃を誘発する細胞表面発現タンパク質及び細胞表面発現糖鎖を発現しないように個別かつ小さな部分のみを再プログラム化することによって動物のゲノムを再プログラム化することに関する。
【0052】
CRISPRを使用する免疫原性の再プログラム化については、標的部位に位置するゲノムDNAの相補的配列にガイドRNAが最初に結合する。次に、Cas9が標的部位に二本鎖切断(DSB)を生じさせる。しかしながら、標的が切断されるには、このヌクレアーゼが、切断部位の3~4ヌクレオチド下流に位置するプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)に最初に結合することが欠かせない。SpCas9のためのPAMモチーフは、5’-NGG-3’である(Nは、任意のヌクレオチドを表す)。CRISPRヌクレアーゼの型が異なれば、認識するPAM配列が異なる。DSBが生じると、細胞は、切断部位の修復機構を活性化させることになる。ゲノムに対する編集が生じるのはこの修復の間である。
【0053】
いくつかの態様では、遺伝子を無効にする変異が導入されるようにノックアウトが達成される。真核細胞では、DSBは、非相同末端結合(NHEJ)を介して修復されることが多く、NHEJは、各DNA鎖の末端を一緒に連結することを伴う応急修復機構である。NHEJでは、エラーが生じやすいことから、結果としてヌクレオチドの挿入または欠失(インデルと呼ばれる)が切断部位に生じることが多い。タンパク質コード領域中のインデルが3の倍数でないと、フレームシフト変異が誘導される。こうした変異は、遺伝子のリーディングフレームを変化させるため、遺伝子機能の喪失を引き起こすことが多い(すなわち、ノックアウトであり、機能性タンパク質が生じない)。この型の改変は、さまざまな機能喪失型用途に使用され得る。
【0054】
いくつかの態様では、外来遺伝配列が挿入されるようにノックインが達成される。
【0055】
重要なことに、今日においては、市販のCRISPRキットを用いても、CRISPR技術を使用する実験において任意の所望のノックアウトまたはノックインの結果が保証される設計サービス、コンサルティングサービス、及び実験サービスを提供する多数の商業的サービス組織を利用しても、当業者なら細胞を遺伝的に改変することが完全に可能である。したがって、過度の実験を行わずとも、当業者なら本開示を使用して、開示の発明を実現及び使用することが可能である。
【0056】
ある特定の態様では、本開示は、レシピエントのHLA/MHC遺伝子をシークエンシングすること、テンプレートHLA/MHC配列を調製すること、CRISPR-Cas9プラスミドを調製すること(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を使用して行われる)、テンプレートHLA/MHC配列をプラスミドにクローニングすること、ブタ細胞内のHLA/MHC遺伝子座のCRISPR切断部位を決定すること、gRNA配列を1つ以上のCRISPR-Cas9プラスミドにクローニングすること、CRISPR-Cas9プラスミドをブタ細胞に投与すること、ブタ細胞のMHC遺伝子座にCRIPSR/Cas9による切断を生じさせること、レシピエントのシークエンシングされたHLA/MHC遺伝子と一致する1つ以上のテンプレートHLA/MHC配列を用いてブタ細胞内のHLA/MHC遺伝子座を置き換えること、を含む。Cas9系では、細菌CRISPR系には天然の多様性が存在することを考慮し、多くのCas9様ヌクレアーゼが開発された。Cpf1(推定クラス2CRISPRエフェクター)は、Cas9とは異なる特徴を有する標的DNA編集を媒介する。Cas9が平滑末端を生成させることは対照的に、Cpf1は、5’オーバーハングを有する5ntずれた切断を生成させ、このことは、ゲノムへのNHEJベースの遺伝子挿入(ノックイン)を促進する上で特に有利である。Cas9-ニッカーゼ及びPmCDA1(活性化誘導シチジンデアミナーゼ)を組み合わせたハイブリッド酵素は、テンプレートDNAを使用することなく標的位置にヌクレオチド置換(C-U)を導入することから、点変異を生じさせるための新たな経路を与え得るものである。最近では、RNAを標的とするCRISPR系(Cas13a)も開発されている。3’フラップ構造を認識するフラップエンドヌクレアーゼ-1と、FokIの切断ドメイン(DNA鎖を切断する)と、からなる構造ガイド型エンドヌクレアーゼ(SGN)も使用され得る。不対3’末端を有する標的に相補的なガイドDNAは、3’フラップ構造を形成する必要がある。SGNは、標的とガイドDNAとの間に形成されるダブルフラップ複合体の3’フラップ構造に基づいて標的DNAを認識及び切断する。SGNは、任意の所望の標的DNAを構造に基づいて認識、捕捉、及び編集するための指針を与え、それによって遺伝的改変を行うためのツールキットを拡大させるものである。ある特定の態様では、本開示は、HLA/MHCでの置き換えステップの実施後に、ブタ細胞内のHLA/MHC配列が置き換えに成功したものであるかどうかを決定するために、ブタ細胞をシークエンシングすることをさらに含む。ある特定の態様では、本開示は、HLA/MHC配列に置き換わったブタから得られる1つ以上の細胞、組織、及び/または臓器をヒトレシピエントに移植することをさらに含む。ある特定の態様では、本開示は、HLA/MHC配列に置き換わったブタを、異種移植において使用される生存組織、生存臓器、及び/または生存細胞の供給源として使用する前に、そうしたブタを少なくとも一世代または少なくとも二世代にわたって交配繁殖させることをさらに含む。
【0057】
ある特定の態様では、既知のヒト配列情報が利用可能であり、例えば、IPD-IMGT/HLAのデータベースまたはライブラリー(ebi.ac.uk/ipd/imgt/hla/にて利用可能)及びinternational ImMunoGeneTics information system(登録商標)(imgt.orgにて利用可能)において利用可能である。
図20には、そのような遺伝子の命名法が示される。例えば、HLA-A1,B8,DR17は、コーカサス人種の中で最も一般に見られるHLAハプロタイプであり、その頻度は5%である。さらに、ヒトゲノム情報から動物ゲノム情報に至るまで、ゲノム情報のマップが利用可能である。例えば、
図23及び
図24に示されるように、ヒト及びブタの主要組織適合遺伝子複合体クラスI領域及び主要組織適合遺伝子複合体クラスII領域のマップが知られており、こうしたマップを本開示に従ってブタ細胞の再プログラム化に使用することで、ドナー動物から異種移植された製品に対するヒトレシピエントの体の反応性を低減または除去すると同時にドナー動物の免疫機能を保持することができる。したがって、開示の方法は、既知のMHC/HLA配列情報を使用して実施できるものである。
【0058】
ある特定の態様では、本開示は、非野生型の遺伝的操作されたブタから得られる臨床的異種移植のための生物学的製品を含み、当該ブタは、アルファ-1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子が破壊されたゲノムを有し、ブタから得られる細胞は、当該生物学的製品のレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体を発現するように遺伝的に改変されている。
【0059】
以下には、上記の態様及び他のさまざまな態様が、添付の図面を参照しながら記載されている。
【0060】
添付の図面は、参照によって本明細書に組み込まれ、本開示の一部をなすものであり、本発明のさまざまな態様の例示に役立ち、説明と併せることで、関連技術分野の当業者が本明細書に開示の態様を実現及び使用することが可能になるように本発明を説明する上でさらに役立つものである。図面では、同じ参照番号は、同一または機能的に類似の要素を指し示す。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】本発明による供給源動物施設、ならびに対応する指定の病原体を含まない施設、動物、及び群を示す。
【
図2】本発明による皮膚製品を調製するための方法を示す。
【
図4】本発明による体外式の肝臓フィルター及び回路を示す。
【
図5】Aは、POD-12時点での創傷部位のブタ分層皮膚移植片を示し、これらの創傷部位は、左から右の方向でそれぞれ創傷部位1、創傷部位2、創傷部位3、及び創傷部位4である。Bは、POD-12(左)及びPOD-14(右)の時点の創傷部位4のブタ分層皮膚移植片を示す。
【
図6】Aは、MTT還元アッセイによるブタ組織試料の比較を新鮮なものと凍結保存(7年)したものとで行ったグラフであり、統計的に差がないことを示す。Bは、MTT還元アッセイによるブタ組織試料の比較を熱不活化したものと凍結保存(7年)したものとで行ったグラフであり、生成ホルマザンの量に統計的に有意な差があることを示す。
【
図7】凍結保存した移植片から得られた切片をH&E染色した組織画像を示し、7年間保管しても皮膚は正常に生存しており、その表皮はインタクトであることが示される。血管及び付属器構造も正常であった。保管期間に基づく組織学的レベルでの区別可能な差異は見つけることができなかった。左から右の方向で(保管期間)15分、7年、7年。
【
図8】非ヒト霊長類レシピエントにおける全層欠損創傷の処置において応急的創傷閉鎖物として使用したブタ分層皮膚移植片の長期的な進行を示す。左:POD-0時点での創傷部位2の異種移植製品。右:POD-30時点での創傷部位2の同じ異種移植製品。
【
図9】Aは、POD-15時点でのH&Eを示す。表面及び濾胞上皮に壊死を伴うものの組織が生存能を有することが高倍率H&E画像によって示される。Bは、POD-22時点のH&Eを示す。高倍率画像によって、残存自家移植片(アスタリスク)が良好な全生存能を有することが示される。表面被覆組織に壊死は認められず、表面には幾分かの壊死が認められ、自家移植片への浸潤を伴う広範な線維化も併せて認められた(矢印)。
【
図10】POD-30時点での組織画像を示す。上中央:上皮被覆が完全なものであることが創傷部位の低倍率H&E画像によって示される。点線は、残存異種移植製品を囲むものである。
【
図11】Aは、試験過程での4匹すべての対象(2001、2002、2101、2102)の血清中総IgM ELISA(μg/mL)を示すグラフである。Bは、試験過程での4匹すべての対象(2001、2002、2101、2102)の血清中総IgG ELISA(μg/mL)を示すグラフである。
【
図12A】POD-0、POD-7、POD-14、POD-21、及びPOD-30の時点でLuminex23-plexによって測定した可溶性CD40Lの全身濃度を示すグラフである。
【
図12B】POD-0、POD-7、POD-14、POD-21、及びPOD-30の時点でLuminex23-plexによって測定したTGF-アルファの全身濃度を示すグラフである。
【
図12C】POD-0、POD-7、POD-14、POD-21、及びPOD-30の時点でLuminex23-plexによって測定したIL-12/23(p40)の全身濃度を示すグラフである。
【
図13】ヒトのMHCクラスIアイソタイプ及びMHCクラスIIアイソタイプを模式的に示す。
【
図14】HLA遺伝子の共優性発現及びヒト6番染色体上でのHLA遺伝子の位置を模式的に示す。
【
図15】ヒトのMHCクラスIアイソタイプ及びMHCクラスIIアイソタイプの血清学的抗原、タンパク質、及びアレルの数を列挙した表である。
【
図16】細胞の表面上のHLAクラスI及びHLAクラスIIを模式的に示す。
【
図17】MHCクラスIタンパク質の構造(A)及びMHCクラスIIタンパク質の構造(B)を示す。ペプチド結合領域(PBR)を形成する2つの球状ドメインは原形質膜から最も離れて位置し、青色の影付きで示される。β2-ミクログロブリンを含む2つのIg様ドメインは、灰色の影付きで示される。
【
図18】細胞の表面上のHLAクラスIを模式的に示す。
【
図19】ヒト白血球抗原複合体(HLA)を示す。HLA遺伝子は、ゲノム中で最も多形性に富むものである。HLAクラスI遺伝子座及びHLAクラスII遺伝子座のアレル多様性は大きく、>13,000のアレルが存在すると説明される。
【
図20】HLAアレルの命名法を示す。各HLAアレル名は、コロンによって仕切られた最大4組の桁に対応する特有の数を有する。アレル指定の長さは、アレルの配列及びその最も近い関連アレルの配列に依存する。すべてのアレルに少なくとも4桁の名称が付けられ、この4桁は、最初の2組の桁に対応し、これより長い名称は、必要なときにのみ割り当てられる。最初のコロンの前の桁は型を表し、この型は、アロタイプが保有する血清学的抗原に対応することが多い。次の組の桁は、サブタイプの記載に使用され、DNA配列が決定された順序で数が割り当てられる。これら2組の桁の数が異なるアレルは、コードタンパク質のアミノ酸配列を変化させる1つ以上のヌクレオチド置換に差異があるということになる。コード配列中に同義ヌクレオチド置換(サイレント置換または非コード置換とも呼ばれる)が存在することのみによって異なるアレルは、3組目の桁を使用することによって区別される。イントロン中の配列多型のみによって異なるアレル、またはエクソン及びイントロンと隣接する5’非翻訳領域もしくは3’非翻訳領域中の配列多型のみによって異なるアレルは、4組目の桁を使用することによって区別される。
【
図21】Tsurui et al.,General Med 2013,2:1から引用したTCR-pMHC複合体のストリングモデルを示す。この単純化モデルでは、TCRのCDR1及びCDR2が、MHC分子の両側に沿って走るヘリックスと主に相互作用し、これらのヘリックスの間には、提示されたペプチドが位置する。この場合、CDR3(LKVEGTRVY)は、提示されたペプチド(LDIRASELT)と9段(L-L、K-D、V-I、E-R、G-A、T-S、R-E、V-L、Y-T)のラダーを形成するように相互作用する。単純化するために、CDR3と提示されたペプチドとの間の相互作用のみが考慮されている(SI 1)。(A)M-JマトリックスによってAA接触エネルギーをそれぞれこうした段(AA対)に割り当てた。こうした値を合計することによってCDR3と提示されたペプチドとの間の結合エネルギーが計算され得る。(B)TCR-pMHC複合体(PDBID:1AO7)の実際の三次元構造が示される。両方のCDR3ループは、提示されたペプチドに対して並行ではなく、それにまたがって走るα鎖及びβ鎖を構成する。CDR2は、ヘリックスと主に相互作用する一方で、CDR1は、MHCヘリックスとも提示されたペプチドとも相互作用する。TCR-pMHCの結合様式は、大きく異なることもあり得る。
【
図22】T細胞受容体(TCR)と結合しているMHCクラスI及びペプチドを模式的に示す。
【
図23】ヒトMHCクラスI領域及びブタMHCクラスI領域のゲノム構成を比較したものである。
【
図24】ヒトMHCクラスII領域及びブタMHCクラスII領域のゲノム構成を比較したものである。
【
図25】SLA複合体の物理的マップを示す。黒色のボックス:MHC関連配列を含む遺伝子座。白色のボックス:MHC関連配列を含まない遺伝子座。染色体の長腕から短腕の方向で、領域は、クラスII(II)、クラスIII(III)、及びクラスI(I)の順序で存在する。
【
図26】SLA遺伝子の分子構成の模式図を示す。エクソンは、灰色の卵円によって表され、イントロンは、線によって表される。遺伝子長は、Hp-1.1ゲノム配列に見られるものとほぼ同じである。
【
図27】細胞傷害性T細胞(CD8+)と標的細胞との相互作用を模式的に示す。
【
図28】細胞傷害性T細胞(CD4+)と標的細胞との相互作用を模式的に示す。
【
図30】異種移植製品の保管に使用される凍結保存用バイアルを示す。
【
図31】環境温度未満の温度(限定されないが、-150℃及び他の温度を含む)で異種移植製品を保管するための二次閉鎖系または二次容器系を示す。
【
図32】本発明の一態様による臨床的創傷評価尺度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本開示の主題の態様は、さまざまな形態で具体化し得るものであり、これ以後に続く説明は、単に、こうした形態のいくつかを、本開示が包含する主題の具体例として開示することを意図するものにすぎない。したがって、本開示の主題は、そのように説明される形態または態様に限定されないものとする。
【0063】
「a」、「an」、及び「the」という単数形は、別に文脈上明確に示されない限り、複数の指示対象を含む。
【0064】
本明細書で使用される「治療すること」または「治療」という用語は、当該技術分野ではよく理解されていることであるが、臨床結果を含めて、有益な結果または所望の結果を得るための手法を意味する。有益な臨床結果または所望の臨床結果には、限定されないが、1つ以上の症状または状態の軽減または改善、疾患の程度の減少、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しないこと)、疾患進行の遅延または鈍化、疾患状態の改善または緩和、疾患の再発の減少、及び軽快(部分的であるか、または完全であるかは無関係である)が含まれ得、これらが検出可能であるか、または検出不可能であるかは無関係である。「治療すること」及び「治療」は、治療を受けていない場合に予想される生存期間と比較して生存期間を延ばすことをも意味し得る。本明細書に開示の方法は、治療の方法として有用であることに加えて、疾患の阻止または予防にも有用であり得る。
【0065】
濃度、量、及び他の数値データは、本明細書では、範囲形式で表されるか、または示され得る。そのような範囲形式は、単に、簡便性及び簡潔性を得るために使用されるものにすぎず、したがって、そうした範囲の限界値として明示的に記載される数値を含むだけではなく、そうした範囲内に含まれるすべての個々の数値または部分範囲もまた、各数値及び各部分範囲が明示的に記載される場合と同様に含むものと柔軟に解釈すべきであることが理解されよう。一例として、「約0.01~2.0」という数値範囲は、約0.01~約2.0という明示的に記載される値を含むだけではなく、この指定範囲内の個々の値及び部分範囲も含むと解釈すべきである。したがって、この数値範囲には、個々の値(0.5、0.7、及び1.5など)ならびに部分範囲(0.5~1.7、0.7~1.5、及び1.0~1.5など)が含まれる。さらに、そのような解釈は、記載される範囲幅または特徴にかかわらず適用されるものとする。さらに、パーセントはすべて、別段の指定がない限り、重量によるものであることに留意されたい。
【0066】
本開示の範囲の理解においては、本明細書で使用される「含む(including)」または「含む(comprising)」という用語及びそれらの派生語は、記載される特徴、要素、成分、群、整数、及び/またはステップが存在することを定めるが、他の記載されない特徴、要素、成分、群、整数、及び/またはステップが存在することを排除しない非限定型の用語であることを意図する。上記のことは、同様の意味を有する言葉(「含む」という用語、「有する」という用語、及びそれらの派生語など)にも適用される。本明細書で使用される「なる」という用語及びその派生語は、記載される特徴、要素、成分、群、整数、及び/またはステップが存在することを定めるが、他の記載されない特徴、要素、成分、群、整数、及び/またはステップが存在することは排除する限定型の用語であることを意図する。本明細書で使用される「から本質的になる」という用語は、記載される特徴、要素、成分、群、整数、及び/またはステップが存在することを定め、これらにはさらに、特徴、要素、成分、群、整数、及び/またはステップの基本的かつ新規の特性(複数可)に実質的に影響を与えないものが加わることを意図する。こうした移行用語(すなわち、「含む」、「なる」、または「本質的になる」)のいずれか1つに対する言及からは、具体的に使用されないその他の移行用語のいずれかへの置き換えに対する直接的な裏付けが得られることが理解されよう。例えば、「含む」から「から本質的になる」へと用語を修正するのであれば、この定義を根拠として直接的な裏付けが得られることになる。
【0067】
本明細書で使用される「約」という用語は、所与の値が、数値範囲端点を「少し上回る」または「少し下回る」可能性があることを示すことによってそうした端点に柔軟性を与えるために使用される。この用語の柔軟性の程度は、具体的な変数によって示され得るものであり、経験及び本明細書の関連記載に基づいて決定を行う当業者の知見に含まれるものであろう。例えば、一態様では、柔軟性の程度は、数値の約±10%以内であり得る。別の態様では、柔軟性の程度は、数値の約±5%以内であり得る。別の態様では、柔軟性の程度は、数値の約±2%以内、約±1%以内、または約±0.05%以内であり得る。
【0068】
一般に、本明細書では、「または」という用語は、「及び/または」を含む。
【0069】
本明細書で使用されるように、簡便性を得るための一般的なリストには複数の化合物またはステップが存在し得る。しかしながら、こうしたリストについては、こうしたリストの各メンバーが個別かつ特有のメンバーとして個々に特定される場合と同様に解釈すべきである。したがって、矛盾する指定がない限り、そのようなリストのいかなる個々のメンバーも、それが一般的な群の中で示されたことのみに基づいて同じリストの任意の他のメンバーと事実上同等であると解釈すべきではない。
【0070】
本開示は、免疫原性が低減され、抗原性が低減され、生存度が上昇し、ミトコンドリア活性が上昇し、具体的に必要な病原体プロファイルを有し、凍結保存に供された異種移植組織の有効期間が予想外に長い異種移植製品の連続製造プロセスを提供する。連続製造プロセスは、超急性拒絶反応、遅延性異種移植片拒絶反応、急性細胞性拒絶反応、慢性拒絶反応、疾患の異種間伝染、寄生生物の異種間伝染、細菌の異種間伝染、真菌の異種間伝染、ウイルスの異種間伝染を回避する上で驚くほどかつ予想外に有効である。連続製造プロセスは、検出可能な病理学的変化を伴わずにドナー動物が正常に生存する閉鎖群を創出する上で驚くほどかつ予想外に有効である。
【0071】
供給源動物施設(「SAF」)
図1に関して、閉鎖コロニー(指定の病原体を含まない(「DPF」)閉鎖コロニー(「DPF閉鎖コロニー」)102を含む)ブタを収容、繁殖、維持、管理、及び利用するために使用可能な障壁付き供給源動物所在地(限定されないが、供給源動物施設(「SAF」)100を含む)が示される。本明細書に含まれるように、SAFは、陽圧を有し、特定の隔離障壁条件の下で生物学的封じ込め特徴が有効化される。
【0072】
本明細書に記載のように、DPF閉鎖コロニー102は、ヒトへの異種移植及び他の治療において使用するためのさまざまな生物学的製品を収集するために維持及び繁殖される供給源動物から構成され、そのような製品は、バイオバーデンが低減されており、異種移植及び他の治療手順から生じる免疫原性を低減するものである。いくつかの態様では、本開示の異種移植製品の免疫原性は、従来のGal-Tノックアウトブタから調製される異種移植製品、従来のトリプルノックアウトブタから調製される異種移植製品、トランスジェニックブタから調製される異種移植製品、野生型動物から調製される異種移植製品、及び/または同種移植片と比較して低い。例えば、実施例1及び実施例2に示されるように、本開示に従って調製した生物学的製品は、シングルノックアウトブタをドナー動物として使用すると、Neu5Gc及びブタB4GALNT2が存在するにもかかわらず、本開示に従って調製した生物学的製品は、同種移植片と比較して免疫原性が低く、血管新生を誘導し、試験期間全体を通じて拒絶反応に抵抗性であったという点において、予想外に高い臨床的利点を与えた。
【0073】
本明細書にさらに記載されるように、SAF100及びその付属区域(例えば、部屋、特別室、または他の区域)のそれぞれを利用することで、生物学的製品が収集及び/または加工される供給源動物を収容及び維持することができる。SAF100及びその区域は、収集及び/または加工される生物学的製品の汚染、ならびにそのような製品の間の交差汚染が生じる可能性が最小化及び排除されるように設計される。
【0074】
SAF100内では、いくつかの態様では、利用される動物区域が換気される。例えば、動物区域は、建物の天井から取り入れた新鮮な空気を高性能微粒子(HEPA)フィルターに通して得られた空気で換気されることで、例えば、時間当たり少なくとも10~15倍の空気の入れ替えが行われる。さらに、異種移植製剤加工特別室を含めて、SAF部屋では、1つ以上の層流フード(例えば、Class II Type A2 Laminar Airflow Biosafety Cabinets)が利用されて追加換気が得られることで、交差汚染が最小化または排除される。
【0075】
いくつかの態様では、利用される区域は、温度も制御及び監視される。例えば、区域は、加温及び冷却が行われて一定範囲内に温度が維持され、こうした範囲は、例えば、実験動物の管理及び使用のための指針(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)によって定められるものである。利用される動物を保持する部屋は、警報機の取り付及び温度の高低の中央での監視も行われ、温度が必要温度を超えるとスタッフが即座に気付くようにされる。
【0076】
いくつかの態様では、SAF100では、複数のレベルで供給源動物の封じ込めが行われる。例えば、供給源動物の封じ込めは、ステンレス鋼の掛け金によって安全性が担保された囲い及びケージからなる一次レベルの封じ込めによって行われる。二次レベルの封じ込めに関して、機能的に設計された区域(例えば、部屋、特別室、または他の区域)は、掛け金を備えた内部ドア、及び廊下へのアクセスがカードで制御される準備室を有し得る。三次レベルの封じ込めは、外に設置される外周フェンスを含み得る。
【0077】
SAF全体は、単一の建物内に位置する。主要な入口は、プログラム可能な識別(ID)カードを介して単一のドアを通過するものである。他の外部ドアはすべて、警報機付きであり、鍵がかかったままの状態であり、非常時にのみ使用するためのものである。
【0078】
セキュリティーもまた、SAF100のセキュリティーを一般に確保し、外部から汚染物質がSAF100に入り、供給源動物に到達するリスクが最少化されるようにSAF100に立ち入る個人を制御するためのするための考慮事項である。したがって、一態様では、SAF100への主要な入口は、プログラム可能な識別(ID)カード118を介して単一のドア116を通過するものである。他の外部ドア120はすべて、警報機付きであり、鍵がかかったままの状態であり、非常時にのみ使用するためのものである。
【0079】
本明細書に開示のSAF100及びその特徴は、例として示されるものであることが理解されよう。また、さまざまな特徴を有する他の施設を利用して方法を実施し、本明細書に開示の製品を生産することもできることがさらに理解されよう。
【0080】
いくつかの態様では、SAF100動物プログラムは、認可及び/または認定され、経験豊富な専門スタッフのチームによって監督、評価、及び運用される。例えば、プログラムは、USDA Animal and Plant Health Inspection Service(認可された動物研究施設として)、National Institute of Health(NIH)Office of Laboratory Animal Welfare(OLAW)(公共の健康及び安全(Public Health and Safety)(PHS)規制の遵守確認が行われる)、Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care(AAALAC)(担当獣医師の指示の下でSAFに収容された供給源動物の獣医学的管理に関して)、ならびに他の連邦規制当局、州規制当局、及び地方規制当局によって登録及び/または認定される。
【0081】
いくつかの態様では、供給源動物の健康を確保するために、SAF職員及び供給源動物の管理人は、Animal Welfare Act(7 U.S.C.2131以降)に従って適切なInstitutional Animal Care and Use Committeeによって認可され、AAALACによって認定され、Guide for the Care and Use of Laboratory Animalsにおいて示される基準を遵守する動物飼育、組織収集、及び動物屠殺の手順を忠実に守る。
【0082】
いくつかの態様では、管理人は、本発明に従って扱われる供給源動物の取り扱い及び管理において広い訓練及び経験を有する。例えば、各管理人は、こうした供給源動物の取り扱い及び管理を規定する標準的作業手順を対象とする文書化された訓練プログラムを受け、毎日の健康評価を実施し、必要ないずれの動物にも迅速な管理を確実に行き届ける技能を身に付けることになる。さらに、管理人は、本明細書に記載の隔離区域(例えば、部屋、特別室、または他の区域)に立ち入る前の手洗い手順及び更衣手順の訓練を受け、さらに医学的監視プログラムの下に入ることで、スタッフの健康及び供給源動物の健康を確保し得る。
【0083】
SAFに対する汚染リスクを最少化及び排除するために、SAFに立ち入る職員または訪問者はいずれも、いずれの封じ込め区域に立ち入る前にも、職員保護装備を着用するか、または施設専用の衣服及び履物への変更を行う。動物区域への立ち入りを希望する訪問者は、訪問前の少なくとも24時間は、生きたブタと接触を一切行ってはならない、または立ち入り前に施設においてシャワーを浴びなくてはならない。
【0084】
本明細書に示される手法及び手順は、SAF100内の供給源動物に汚染が及ばないことをどのように確保するかに関する例であることが理解されよう。供給源動物のための環境が指定の病原体を含まないようにするには、数多くの手法を利用できることもさらに理解されよう。
【0085】
供給源動物
いくつかの態様では、本明細書に記載のように、ブタを供給源動物として利用できる。別段の指定がない限り、本明細書で使用される「ブタ(swine)」、「ブタ(pig)」、及び「ブタ(porcine)」という用語は、性別、サイズ、または品種にかかわらず、同じ種類の動物を指す一般用語である。本発明に従って任意の数の供給源動物が利用され得ることが理解されよう。こうした供給源動物には、限定されないが、ブタ、非ヒト霊長類、サル、ヒツジ、ヤギ、マウス、ウシ、シカ、ウマ、イヌ、ネコ、ラット、ラバ、及び任意の他の哺乳類が含まれる。供給源動物には、任意の他の動物(限定されないが、鳥類、魚類、爬虫類、及び両生類を含む)も含まれ得る。本明細書で使用される「破壊すること」もしくは「破壊する」もしくは「破壊された」という用語または同様の用語は、遺伝子及び関連物質に対するいずれか及び/またはすべての改変を含み得ることが理解されよう。こうした改変には、限定されないが、除去、編集、サイレンシング、修飾、再プログラム化、免疫ゲノム再プログラム化、変換、変更、操作、ノックイン、付加、ノックアウト、及び/またはいずれかもしくはすべての他のそのような改変が含まれる。
【0086】
細胞外表面糖鎖エピトープの発現を欠いたブタ
いくつかの態様では、ブタ供給源動物は、遺伝的に改変されたものである(すなわち、非野生型)。例えば、いくつかの態様では、ブタには、米国特許第7,795,493号(「Phelps」)に開示のブタの特徴を1つ以上有する「ノックアウト」及び/または「ノックイン」ブタが含まれ、当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。そのようなブタでは、移植時にヒトにおける超急性拒絶反応を担うα-(1,3)ガラクトシルエピトープが活性ではなく、(及び/または破壊されている)。Phelpsでは、ノックアウト/ノックインブタの生産方法が複数開示されており、こうした生産方法には、1つ以上の点変異(例えば、エクソン9の第2塩基のT→G点変異)及び/または9列目6行目~10列目13行目、21列目53行目~28列目47行目、及び31列目48行目~38列目22行目に開示の遺伝子標的化事象によってアルファ-1,3-GT遺伝子の一方のアレルまたは両方のアレルを不活化することが含まれる。本発明の実施においては、記載の方法を介するそのようなブタの創出、及び/または創出後のそのようなブタ及び後代の利用を行うことができ、こうした利用には、限定されないが、そのようなブタから得られる臓器、組織、及び/または細胞の利用が含まれる。
【0087】
同様に、他の態様では、ブタ供給源動物には、米国特許第7,547,816号(「Day」)に開示のブタの特徴を1つ以上有する「ノックアウト」及び「ノックイン」ブタが含まれ、当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。そのようなブタにおいても、移植時にヒトにおける超急性拒絶反応を担うα-(1,3)ガラクトシルエピトープが活性ではなく、(及び/または破壊されている)。Dayでは、ノックアウト/ノックインブタの生産方法が複数開示されており、こうした生産方法には、卵母細胞を除核し、この除核卵母細胞を、非機能性アルファ-1,3-GT遺伝子を有するブタ細胞と融合させた後、代理母に移植するものが含まれ、この方法は、4列目61行目~18列目55行目により完全に記載されている。本発明の実施においては、記載の方法を介するそのようなブタの創出、及び/または創出後のそのようなブタ及び後代の利用を行うことができ、こうした利用には、限定されないが、そのようなブタから得られる臓器、組織、及び/または細胞の利用が含まれる。
【0088】
同様に、他の態様では、ブタ供給源動物には、米国特許第7,547,522号(「Hawley」)に開示のブタの特徴を1つ以上有するGGTAヌル(「ノックアウト」及び「ノックイン」)ブタが含まれ、当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。そのようなブタにおいても、移植時にヒトにおける超急性拒絶反応を担うα-(1,3)ガラクトシルエピトープが活性ではなく、(及び/または破壊されている)。Hawleyに開示されるように、ノックアウト/ノックインブタの生産には、相同組換え手法を利用するもの、卵母細胞を除核した後、非機能性アルファ-1,3-GT遺伝子を有する細胞と融合させ、代理母に移植するものが含まれる(6列目1行目~14列目31行目により完全に開示される)。本発明の実施においては、記載の方法を介するそのようなブタの創出、及び/または創出後のそのようなブタ及び後代の利用を行うことができ、こうした利用には、限定されないが、そのようなブタから得られる臓器、組織、及び/または細胞の利用が含まれる。
【0089】
さらに他の態様では、ブタ供給源動物には、米国特許第9,883,939号(「Yamada」)に記載のブタの特徴を1つ以上有し、α-(1,3)ガラクトシルエピトープが活性ではなく、(及び/または破壊されている)ブタが含まれ、当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。ある特定の態様では、本開示に従って使用または改変するためのブタ供給源動物には、米国2018/0184630(Tector,III)に記載のブタの特徴を1つ以上有するブタが含まれ、当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。本発明の実施においては、記載の方法を介するそのようなブタの創出、及び/または創出後のそのようなブタ及び後代の利用を行うことができ、こうした利用には、限定されないが、そのようなブタから得られる臓器、組織、及び/または細胞の利用が含まれる。
【0090】
さらに他の態様では、ブタ供給源動物には、米国特許第8,106,251号(Ayares)、同第6,469,229号(Sachs)、同第7,141,716号(Sachs)に開示のブタの特徴を1つ以上有するブタが含まれ、これらの文献の開示内容はそれぞれ、参照によって本明細書に組み込まれる。本発明の実施においては、記載の方法を介するそのようなブタの創出、及び/または創出後のそのようなブタ及び後代の利用を行うことができ、こうした利用には、限定されないが、そのようなブタから得られる臓器、組織、及び/または細胞の利用が含まれる。
【0091】
いくつかの態様では、ブタは、近交係数が0.50以上である1つ以上の高度近交ブタ群を起源とし得る(こうした高度近交ブタ群のブタが、遺伝的に改変されているか、または遺伝的に改変されいない(すなわち、野生型)かは無関係である)。近交係数が高くなることは、供給源動物から得られる製品が、ブタからヒトへの異種移植において使用するための生物学的特性をより一貫して有し得ることを示す(例えば、一態様では、近交係数は0.80以上である)。動物の近交係数については、Mezrich et al.,“Histocompatible Miniature Swine:An Inbred Large-Animal Model,”Transplantation,75(6):904-907(2003)に開示されている。ブタの高度近交群の一例としては、Sachs,et al.,“Transplantation in Miniature Swine.I.Fixation of the Major Histocompatibility Complex,”Transplantation 22:559(1976)に開示のミニチュアブタから得られるミニチュアブタ後代が含まれ、こうしたミニチュアブタは、特に臨床移植に最終的に利用される臓器として合理的なサイズ適合性を有する高度近交系のものである。本発明の実施においては、記載の方法を介するそのようなブタの創出、及び/または創出後のそのようなブタ及び後代の利用を行うことができ、こうした利用には、限定されないが、そのようなブタから得られる臓器、組織、及び/または細胞の利用が含まれる。
【0092】
供給源動物には、アルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ、Neu5Gc、及びβ1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼが活性ではなく、(及び/または破壊されている)ブタ動物(米国特許公開公報第US2017/0311579号(Tector)に開示される)も含まれ得る。当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。本発明の実施においては、記載の方法を介するそのようなブタの創出、及び/または創出後のそのようなブタ及び後代の利用を行うことができ、こうした利用には、限定されないが、そのようなブタから得られる臓器、組織、及び/または細胞の利用が含まれる。
【0093】
免疫ゲノム再プログラム化ブタ
細胞外表面糖鎖エピトープの発現欠如
本明細書で使用される「免疫ゲノム再プログラム化」は、ドナー動物のゲノムの保存された遺伝物質の置き換え、サイレンシング、変更、または破壊を含み、こうしたことは、例えば、ドナーブタのゲノムの標的位置を操作するための部位特異的エンドヌクレアーゼを使用することによって行われる。遺伝的改変は、既知のゲノム編集手法を利用して行うことができ、こうした手法は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、アデノ随伴ウイルス(AAV)介在性の遺伝子編集、及び規則的な間隔でクラスター化した反復回文配列Cas9(CRISPR-Cas9)などである。こうしたプログラム可能なヌクレアーゼは、DNA二本鎖切断(DSB)を標的位置に生成させることが可能であり、このDSBによって細胞の修復機構の上方制御が促進され、これによって非相同末端結合(NHEJ)のエラープローンプロセスまたは相同組換え修復(HDR)のいずれかが生じ、これらのうち、HDRを外来性のドナーDNAテンプレートの組み込みに使用することができる。一態様では、ドナーブタのゲノムある特定の領域が再プログラム化され、こうした領域には、限定されないが、ヒトのMHC領域に相同的/類似的/オルソロガスな、ドナーブタのMHC領域が含まれる。例えば、非限定的な一態様によれば、ブタのゲノムは、SLA-DQの代わりにHLA-DQ(αβ)を発現するように免疫ゲノム再プログラム化され得る。ブタとヒトとの間の対応領域の特定は、文献において見つけることができ、こうした文献には、例えば、Ando et al.Immunogenetics(2005)57:864-873、Lunney,J.,“Molecular genetics of the swine major histocompatibility complex,the SLA complex,”Developmental and Comparative Immunology 33:362-374(2009)、Shigenari et al.,Immunogenetics(2004)55:696-705、Gao et al.,Developmental and Comparative Immunology,(2014)45:87-96、Bentley et al.,Tissue Antigens,(2009)74,393-403が含まれ、これらの文献はそれぞれ、その全体が参照によってあらゆる目的のために本明細書に組み込まれ、こうした目的には、限定されないが、遺伝子の情報、配列、及びマッピングが含まれる。
【0094】
そのような「免疫ゲノム再プログラム化」は、本明細書に記載のように、再プログラム化されたドナー動物ゲノムの保存領域(複数可)が自然な状態であり、ドナー動物内で自然に生じるため、ドナー動物にトランスジェニック特徴を創出するものではない。このことは、異なる動物種に由来する不自然な遺伝子が導入されるように改変されたゲノムを有するトランスジェニック動物(例えば、限定されないが、hCD46(ヒト膜補因子タンパク質(MCP))、hCD55(ヒト崩壊促進因子(DAF))、及び本明細書の表1に示される他のヒト遺伝子、ならびに当該技術分野で知られるそれら以外のヒト遺伝子、を有するか、または発現するブタ)とは対照的である。
【0095】
いくつかの態様では、細胞外表面糖鎖エピトープの発現を欠く免疫ゲノム再プログラム化ブタが提供される。いくつかの態様では、供給源動物には、アルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼの除去(シングルノックアウト)、これに加えて、本明細書に記載のようにMHCの発現を改変するための免疫ゲノム再プログラム化が、遺伝的改変を介して行われたゲノムを有するブタが含まれ得る。他の態様では、供給源動物は、アルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ及びNeu5Gcの除去(ダブルノックアウト)、これに加えて、本明細書に記載のようにMHCの発現を改変するための免疫ゲノム再プログラム化が、遺伝的改変を介して行われたゲノムを有するブタも含まれ得る。さらに他の態様では、供給源動物には、アルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ、Neu5Gc、及びβ1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼの除去(トリプルノックアウト)、これに加えて、本明細書に記載のようにMHCの発現を改変するための免疫ゲノム再プログラム化が、遺伝的改変を介して行われたゲノムを有するブタも含まれ得る。さらに他の態様では、供給源動物には、本明細書に記載のようにヒトレシピエントの1つ以上の特定のMHC分子または既知のヒト配列を発現するゲノムを有する動物も含まれ得る。
【0096】
いくつかの態様では、免疫ゲノム再プログラム化の結果、本明細書に記載の供給源動物においてMHCが発現するようになるか、MHCが発現しないようになるか、またはMHCの発現が調節される。こうした追加の免疫ゲノム再プログラム化態様については、3つの一般的手法を用いて低免疫原性の寛容性ドナー細胞を創出することができる。こうした手法は、異種移植のためにそのような低免疫原性の寛容性ドナー細胞を達成する上で相補的または相乗的なものであり、このことは、本明細書に記載の異種移植関連部に記載される他者によって利用される「下流」手法とは異なる。
【0097】
第1の手法では、本発明は、レシピエントによって自然細胞介在性免疫応答が誘発されないようにするために、免疫ゲノム再プログラム化を利用してMHC-I(クラスA)要素を低減または除去する。別の態様では、HLA-A及びHLA-Bのエクソン領域に対応するドナー動物(例えば、ブタ)ゲノム中のエクソン領域が、ドナー動物のゲノムのサイレンシング、完全除去、またはノックアウトに供される。別の態様では、HLA-A及びHLA-Bのエクソン領域に対応するドナー動物(例えば、ブタ)ゲノム中のエクソン領域が、ドナー動物のゲノムのサイレンシング、完全除去、またはノックアウトに供され、HLA-Cのエクソン領域に対応するドナー動物(例えば、ブタ)ゲノム中のエクソン領域が調節され得る(例えば、下方調節される)。一態様では、本開示は、供給源動物の相同的/類似的/オルソロガスなHLA-Cのサイレンシング、ノックアウト、または発現最少化(こうしたことは、そのような免疫ゲノム再プログラム化を行わない場合に想定されるそのようなものの発現程度と比較したときのものである)を行うことを含む。別の態様では、免疫ゲノム再プログラム化は、ブタドナー細胞におけるクラスII主要組織適合遺伝子複合体トランス活性化因子(CIITA)の発現を調節することを含む(この調節は、供給源動物におけるHLA-Cの代替的発現に影響を与え、その一方で、供給源動物の免疫学的機能は保持されるように行われる)。
【0098】
追加または代替の手法では、本開示は、MHC-I(クラスB)分子の抑制作用及び共刺激作用を再プログラム化または活用することを含む。具体的には、本開示は、HLA遺伝子の一部に対応するドナー動物ゲノムの一部を「発見し、置き換える」プロセスを含み、このプロセスは、例えば、HLA-Gが過剰発現するように行われ、可能な場合、HLA-Eに対応する部分は保持し、過剰発現させ、及び/またはHLA-Fに対応する部分を「発見し、置き換える」ことが行われる。本明細書で使用される「発見し、置き換える」という用語は、相同的/類似的/オルソロガスな保存遺伝領域を特定し、遺伝子編集手法を介して対応ヒト要素でそうしたセクション(複数可)を置き換えることを含む。別の態様は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、及びHLA-Gにおいて発現するベータ-2ミクログロブリンタンパク質を発見し、置き換えることを含む。サイトカイン媒介性の補体を抑制またはその他の様式で免疫調節する相同的/類似的/オルソロガスな保存された細胞マーカーまたは表面タンパク質は、ドナー-レシピエント細胞界面での全体的な免疫寛容を増強すると想定される。ある特定の態様では、本明細書に開示の態様のいずれかと組み合わせてhCD55がノックインされ得る。ある特定の態様では、本明細書に開示の態様のいずれかと組み合わせてhCD46がノックインされ得る。
【0099】
第3の手法では、本発明は、特定のリガンド及び他の免疫調節分子を発現または過剰発現させて、脱落膜の領域においてトロホブラスト及び胎盤細胞が示す様式で、ドナー-レシピエント細胞界面に最も近い領域に限局された免疫抑制環境を創出するために、「発見し、置き換える」を利用する。それによって、ドナー細胞が、T細胞(限定されないが、CD8+T細胞を含む)及びNK細胞のアポトーシスを誘導する能力を有し、TReg及びCD4+T細胞に免疫寛容原性の影響を及ぼすと想定される。こうしたものには、限定されないが、Fas-L、TRAIL、PDL-1(デスリガンド)、及びPDL-2が含まれる。
【0100】
ある特定の態様では、本開示は、SLA-11、SLA-6、SLA-7、SLA-8、SLA-MIC2、及びSLA-DQA、SLA-DQB1、SLA-DQB2をノックアウトし、HLA-C、HLA-E、HLA-G、及びHLA-DQをノックインすることを含む。ある特定の態様では、本開示は、HLA-C、HLA-E、HLA-Gをノックインすることを含む。ある特定の態様では、本開示は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-F、DQ、及びDRに対応するブタ遺伝子をノックアウトし、HLA-C、HLA-E、及びHLA-Gをノックインすることを含む。ある特定の態様では、本開示は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-F、DQ、及びDRに対応するブタ遺伝子をノックアウトし、HLA-C、HLA-E、HLA-G、HLA-F、及びDQをノックインすることを含む。ある特定の態様では、HLA-Cの発現が調節され得る(例えば、下方調節される)。ある特定の態様では、本明細書に開示の態様のいずれかと組み合わせてベータ-2ミクログロブリンがノックインされ得る。ある特定の態様では、本明細書に開示の態様のいずれかと組み合わせてhCD55がノックインされ得る。ある特定の態様では、本明細書に開示の態様のいずれかと組み合わせてhCD46がノックインされ得る。ある特定の態様では、本開示は、本明細書に開示の態様のいずれかと組み合わせて、1つ以上のアポトーシス誘導リガンド(例えば、FasL、TRAIL、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)、プログラム細胞死リガンド2(PD-L2))を過剰発現させてT細胞応答を弱めることを含む。ある特定の態様では、本開示は、ブタ表面糖鎖エピトープのシングルノックアウト、ダブルノックアウト、またはトリプルノックアウトと組み合わせて前述の遺伝的改変を任意の組み合わせで行うことを含む。ある特定の態様では、本開示は、PERV-A、PERV-B、及び/またはPERV-Cをコードする遺伝子をノックアウトすることは含まない。
【0101】
ある特定の態様では、HLA-Cの発現が調節され得る(例えば、下方調節される)。ある特定の態様では、本明細書に開示の態様のいずれかと組み合わせてベータ-2ミクログロブリンがノックインされ得る。ある特定の態様では、本明細書に開示の態様のいずれかと組み合わせてhCD55がノックインされ得る。ある特定の態様では、本明細書に開示の態様のいずれかと組み合わせてhCD46がノックインされ得る。ある特定の態様では、本開示は、本明細書に開示の態様のいずれかと組み合わせて、1つ以上のアポトーシス誘導リガンド(例えば、FasL、TRAIL、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)、プログラム細胞死リガンド2(PD-L2))を過剰発現させてT細胞応答を弱めることを含む。ある特定の態様では、本開示は、ブタ表面糖鎖エピトープのシングルノックアウト、ダブルノックアウト、またはトリプルノックアウトと組み合わせて前述の遺伝的改変を任意の組み合わせで行うことを含む。
【0102】
ある特定の態様では、本開示は、HLA-C、HLA-E、HLA-Gをノックインすることを含む。ある特定の態様では、本開示は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-F、DQ、及びDRに対応するブタ遺伝子をノックアウトし、HLA-C、HLA-E、及びHLA-Gをノックインすることを含む。ある特定の態様では、本開示は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-F、DQ、及びDRに対応するブタ遺伝子をノックアウトし、HLA-C、HLA-E、HLA-G、HLA-F、及びDQをノックインすることを含む。
【0103】
いくつかの実施形態では、そのようなトランスジェニックではない操作されたブタが有する遺伝的操作の数は10未満(約8以下または約5以下など)である。いくつかの実施形態では、操作されたブタが含むそのような遺伝的操作の数は、20未満であるか、またはいくつかの実施形態では、約15以下もしくは約10以下である。
【0104】
本発明者らは、妊娠中の胎盤の母体免疫細胞と胎児トロホブラスト細胞との間の相互作用と照らし合わせて異種移植を考慮することで、母体-胎児寛容性を許容する機構を変換及び改変して本開示の低免疫原性異種移植製品を調製している。本明細書に記載のようにSLA遺伝子を遺伝的に再プログラム化し、1つ以上の表面糖鎖をノックアウトし、アポトーシス誘導タンパク質及び補体制御タンパク質の限られたサブセットを任意選択で導入することによって、異種移植製品は、妊娠中の胎児トロホブラスト細胞が母体-胎児寛容性を享受可能になる動態を模倣する。
【0105】
ある特定の態様では、本開示は、救命移植片を長く生着させるために、移植手順後に移植レシピエントが外来性の免疫抑制剤(または長期の免疫抑制レジメン)を多くかつ有害に使用する必要のない低免疫原性及び/または免疫寛容原性の細胞、組織、及び臓器を創出することに重点を置いている(基礎を置いている)。この手法の中心原理は、現存及び以前の定説的手法に従う代わりに、こうした定説的手法に抗っており、ドナーとレシピエントとの間の生得的かつ不動の相違を許容し、それによって、レシピエントにおいて自然に生じる免疫応答の低減/排除/負の改変を行う方法として使用される介入、遺伝子改変、及び/または外来性の併用免疫抑制剤に焦点を当てる代わりに、本発明者らは、基礎的な科学界の定説のうちのその他の領域に着目することに逆行する選択をあえて行っている。ドナーとレシピエントとの間の免疫学的不適合性、具体的には(限定されないが)主要組織適合遺伝子複合体(複数可)のそうした不適合を受け入れるのではなく、本発明者らは、供給源におけるこうした触媒抗原を改変し、それによって、ドナーとレシピエントとの間の細胞拒絶反応、組織拒絶反応、及び臓器拒絶反応の原因エフェクターである誘発機構をすべて排除することを意図する。
【0106】
免疫抑制剤/レジメンを厄介なレベルで使用することが必要となる律速ステップを排除することによって、本発明らは、異種移植の全分野の中心的障害の1つに間接的に(しかしながら実質的に)対処している。すなわち、1996年(Patience,et al,1997)以降、通常なら(無害な)内在性のレトロウイルス(PERV)(すべてのブタ細胞において遍在的に発現する)の感染力に関する懸念によって現在の科学分野の進歩が著しく制限された。さらに、レシピエントの自然免疫能力を不応性に損なわせるか、または意図的に抑制すること(これらを行うには、主に、臓器/移植片の長期的な生着を可能にする薬物が必要になる)は、異種移植治療の潜在的な臨床的リスクに関する懸念をさらに悪化させた。以来、二十年にわたって有望な研究が広範にわたって行われたことから、PERVに関する懸念の大半は一掃されており、これと並行して、潜在的ブタ供給源ドナーのゲノムからPERV(複数可)をすべて根絶する努力も行われた。本発明者らの手法は、臓器拒絶現象の根本をなす基本的原因に対処(及びそれを著しく低減)する機構によってそうした基本的原因を排除するものであり、PERV RNAの生存及び/または存在が患者に真実性のあるリスクをもたらすことはない。
【0107】
換言すれば、このアンメット臨床ニーズに対するかつて/以前の手法は、「万人に有効な(one-size fits all)」古典的な医学的定説に明確に従っている。代わりに、本発明者らは、この狭窄した視野を積極的に打ち砕き、現在の技術的進歩及び基本原理を原動力として利用して、臨床転帰尺度が劇的に改善する「患者特異的」解決策を達成する能力を実利的に実証する。前者のことを、本発明者らは「下流」手法と称し、この手法では、次々に生じる自然免疫プロセスのすべてに対処することに取り組まなくてはならない。後者(本発明者らの手法)のことを、本発明者らは、「上流」手法と楽観的に命名し、この手法は、満たされない科学的労力の集大成が調和のとれた橋渡し的成果となったものである。
【0108】
改変手法
本明細書で提供される供給源動物のゲノムに対する破壊及び改変は、いくつかの方法によって実施できることがさらに理解されよう。こうした方法には、限定されないが、規則的な間隔でクラスター化した短鎖反復回文配列(「CRISPR」)を使用するものが含まれ、この方法を利用すると特定の目的に合うゲノムを有する動物を創出することができる。例えば、Niu et al.,“Inactivation of porcine endogenous retrovirus in pigs using CRISPR-Cas-9,”Science 357:1303-1307(22 September 2017)を参照のこと。そのようなゲノム改変には、限定されないが、α-(1,3)ガラクトシルエピトープの発現の妨害または除去、本明細書に開示の遺伝的改変もしくはトランスジェニック改変(例えば、Dennerに開示のもの)のいずれか、及び/またはそのような供給源動物から得られる製品のバイオバーデン及び免疫原性を低減して免疫学的拒絶反応が最少化するように設計された任意の他の目的適合型ゲノム改変が含まれ得る。
【0109】
規則的な間隔でクラスター化した短鎖反復回文配列(CRISPR)/CRISPR関連タンパク質(Cas)は、元々は微生物適応免疫系として知られていたものであり、最近では哺乳類遺伝子編集に適用されている。CRISPR/Cas系は、外来遺伝要素の侵入をDNA干渉またはRNA干渉を介して防ぐための細菌及び古細菌の適応免疫機構を基礎としている。哺乳類コドン最適化を経て、CRISPR/Casは、DNA/RNAの特定位置を正確に標的とすることに適用されており、哺乳類の細胞及び胚に高度に有効である。最も一般に使用され、集中的に特徴付けられたゲノム編集用CRISPR/Cas系は、Streptococcus pyogenesに由来するII型のCRISPR系であり、この系では、Cas9ヌクレアーゼ及び短いガイドRNA(gRNA)を組み合わせて使用して切断対象の特定のDNA配列が標的とされる。PAM配列(例えば、NGG)のすぐ5’側に位置する標的DNAに相補的な20ヌクレオチドのgRNAがCas9を標的DNAに導き、二本鎖DNAの切断を媒介することでDSBが形成される。したがって、CRISPR/Cas9を使用すれば、任意のN20-NGG部位に対する遺伝子ターゲッティングを達成できる。
【0110】
いくつかの態様では、ゲノム改変タンパク質は、RNAガイド型の規則的な間隔でクラスター化した短鎖反復回文配列(CRISPR)/CRISPR関連(Cas)(CRISPR/Cas)ヌクレアーゼ系、CRISPR/Cas二重ニッカーゼ系、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、メガヌクレアーゼ、ヌクレアーゼドメイン(すなわち、二本鎖DNA切断を生成させる)に連結されたプログラム可能なDNA結合ドメインを含む融合タンパク質、及びそれらの組み合わせから選択され得る。そのようなゲノム改変手法を使用すると、体細胞または胚のいずれにおいても高い改変率を得るための二本鎖切断(DSB)が高い割合で得られ、多数の遺伝的に改変されたブタが生成され、これは、例えば、改変体細胞の体細胞核移植(SCNT)を介して行われるか、または操作されたヌクレアーゼを胚に直接的にマイクロインジェクションすることによって行われる。体細胞核移植またはクローニングでは、所期の遺伝的改変を保有する体細胞(典型的には、胎児線維芽細胞)のスクリーニング、及びクローニングプロセスにおける改変細胞の核移植が行われる。事前スクリーニングまたは選択指針を介してインビトロでドナー細胞内にNHEJ誘導性変異またはHDR誘導性変異のいずれを創出する上でも、操作されたヌクレアーゼを容易に適用することができ、こうした事前スクリーニングまたは選択指針を使用することで、所望の変異を保有する細胞の含量を高めることができる。SCNTの代替法としては、単一細胞胚において直接的に遺伝子編集を行う方法がある。編集実行実体のmRNA(ノックアウト用)または編集実行実体のmRNAをドナーDNAと一緒にしたもの(ノックイン用)を接合体の細胞質または前核にマイクロインジェクションすることができ、次に、この接合体を、同期化した代理母に移すことで、編集された動物が生成される。この手順は、SCNTと比較して非常に簡単である。
【0111】
他の態様では、非ヌクレアーゼ改変ドメインに連結されたプログラム可能なDNA結合ドメインを含む融合タンパク質が、遺伝物質の改変に使用され得る。ある特定の態様では、融合タンパク質のプログラム可能なDNA結合ドメインは、触媒的に不活性なCRISPR/Cas系、触媒的に不活性なメガヌクレアーゼ、ジンクフィンガータンパク質、または転写活性化因子様エフェクターであり得、融合タンパク質の非ヌクレアーゼ改変ドメインは、アセチルトランスフェラーゼ活性、デアセチラーゼ活性、メチルトランスフェラーゼ活性、脱メチル化酵素活性、キナーゼ活性、ホスファターゼ活性、ユビキチンリガーゼ活性、脱ユビキチン化活性、アデニル化活性、脱アデニル化活性、SUMO化活性、脱SUMO化活性、リボシル化活性、脱リボシル化活性、ミリストイル化活性、脱ミリストイル化活性、シトルリン化活性、ヘリカーゼ活性、アミノ化活性、脱アミノ化活性、アルキル化活性、脱アルキル化活性、酸化活性、転写活性化活性、または転写リプレッサー活性を有し得る。特定の態様では、融合タンパク質の非ヌクレアーゼ改変ドメインは、シトシンデアミナーゼ活性、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性、転写活性化活性、または転写リプレッサー活性を有する。
【0112】
方法は、(a)プログラム可能なDNA改変タンパク質、またはプログラム可能なDNA改変タンパク質をコードする核酸と、(b)少なくとも1つのプログラム可能なDNA結合タンパク質、または少なくとも1つのプログラム可能なDNA結合タンパク質をコードする核酸とを、真核細胞に導入することを含み得る。プログラム可能なDNA改変タンパク質は、標的染色体配列へと標的化され、少なくとも1つのプログラム可能なDNA結合タンパク質のそれぞれが、標的染色体配列の近位部位へと標的化される。少なくとも1つのプログラム可能なDNA結合タンパク質が、標的染色体配列の近位部位に結合すると、標的染色体配列へのプログラム可能なDNA改変タンパク質の到達性が向上し、それによって標的ゲノム改変効率及び/または特異性が向上する。
【0113】
トランスジェニック手法
他の態様では、ブタ供給源動物には、ヒト形質を発現するように改変されたトランスジェニック動物が含まれる。そのような追加の改変は、例えば、Denner J,“Xenotransplantation-Progress and Problems:A Review,”J Transplant Technol Res 4(2):133(2014)(「Denner」)に開示されており、当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。そのような改変には、限定されないが、hCD46(ヒト膜補因子タンパク質(MCP))、hCD55(ヒト崩壊促進因子(DAF))、hCD59(ヒトプロテクチン)、H-トランスフェラーゼ(アルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼが必要とする基質に対して競合する)、hCTLA4-Ig(Ig重鎖と融合したヒト細胞傷害性マウスTリンパ球抗原4であり、CD28/CTLA4T細胞共刺激の遮断に使用される代用リガンドとしてのもの)、hTM(ヒトトロンボモジュリン、抗凝固、タンパク質Cの活性化)、hA20(腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-アルファ)誘導性遺伝子であり、AVRを制御し得る)、HLA-E/ベータ-ミクログロブリン(ヒトナチュラルキラー細胞の細胞傷害性に対する保護)、TRAIL(腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘発リガンドであり、アポトーシスを誘導する)、hHO-1(ヒトヘムオキシゲナーゼ-1、抗アポトーシス性、細胞保護性、Fas-L-Fasリガンド、腫瘍壊死因子(TNF)ファミリーに属し、その受容体に結合するとアポトーシスを誘導する)、GnT-III(β-1、4-NアセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIIIであり、N-結合型糖鎖中のバイセクティングGlcNAc構造の形成を触媒する)、shRNA PERV(PERV特異的短鎖ヘアピンRNAであり、RNA干渉によってPERV発現を抑制する)、及び他の改変が含まれ得る。そのような改変には、以下の表1(以下のようにDennerから引用した)に示されるものも含まれ得る。
【表1-1】
【表1-2】
【0114】
いくつかの実施形態では、そのようなトランスジェニックである操作されたブタが有する遺伝的操作の数は10未満(約8以下または約5以下など)である。いくつかの実施形態では、操作されたブタが含むそのような遺伝的操作の数は、20未満であるか、またはいくつかの実施形態では、約15以下もしくは約10以下である。
【0115】
したがって、複数の供給源動物を、多くの生物学的特性(限定されないが、ゲノム改変及び/または他の遺伝的に操作された特性を含む)を持たせて利用することで、異種移植から生じるヒトの免疫原性及び/または免疫学的拒絶反応(例えば、急性拒絶反応、超急性拒絶反応、及び慢性拒絶反応)を低減できることが理解されよう。ある特定の態様では、本開示を使用することで、本開示の生物学的製品をヒト患者に移植することによって生じる血栓性微小血管症を低減または回避することができる。ある特定の態様では、本開示を使用することで、本開示の生物学的製品をヒト患者に移植することによって生じる糸球体症を低減または回避することができる。本明細書に示される供給源動物のリストは限定ではなく、本発明は、単独または組み合わせで免疫原性及び/または免疫学的拒絶反応の低減に役立つ1つ以上の改変(遺伝的なもの、またはその他のもの)を有する任意の他の型の供給源動物を包含することがさらに理解されよう。
【0116】
PERVを含むシングルノックアウトブタ
いくつかの態様では、活性なα-(1,3)ガラクトシルエピトープを欠くか、または発現しないゲノムを有し、PERV A、PERV B、及びPERV Cをゲノムが含み、本明細書に記載のプロセスによって生産されるゲノムを有するブタが、そのような供給源動物に由来する優れた生物学的製品を与えることで、異種移植後のヒトにおける免疫原性が低減され、移植物の長寿命化が促進されることがさらに理解されよう。そのような生産態様には、限定されないが、指定の病原体を含まない施設(限定されないが、本明細書に記載の施設を含む)において指定の病原体を含まないように維持及び繁殖された動物から製品が得られること、動物及び得られる製品が、ある特定の病原体(限定されないが、ascaris属の種、cryptosporidium属の種、Echinococcus、Strongyloids sterocolis、Toxoplasma gondii、Brucella suis、Leptospira属の種、mycoplasma hyopneumoniae、ブタ生殖器呼吸器症候群、仮性狂犬病、staphylococcus属の種、Microphyton属の種、Trichophyton属の種、ブタインフルエンザ、ブタサイトメガロウイルス、アルテリウイルス、コロナウイルス、Bordetella bronchiseptica、及び家畜関連メチシリン耐性Staphylococcus aureusを含む)を含まないこと、収集時から異種移植までの製品の処理操作が最小限であること、製品が生存細胞(例えば、活力を有し、生物学的に活性である)であること、製品が、異種移植後に対象において血管新生を誘導できること、及び/または製品の移植が、免疫抑制剤及び/または他の免疫抑制治療の同時使用を必要としないこと、が含まれる。
【0117】
本明細書に記載の製品のそのような免疫原性低減は、少なくとも2つの試験(本明細書の実施例1に示されるもの)によって裏付けられており、これらの試験では、1つ以上の細胞外表面糖鎖(活性なα-(1,3)ガラクトシルエピトープを含む)を欠いたゲノムを有し、本発明に従って生産及び調製されたブタから得られた皮膚移植片が、活性なα-(1,3)ガラクトシルエピトープを欠くゲノムを有するが、本発明に従って生産及び/または調製されていないブタをサルに対して利用した先行試験と比較して、サルに対して顕著に良好な性質を示したことが示されている。例えば、Albritton et al.,Lack of Cross-Sensitization Between alpha-1,3-Galactosyltransferase Knockout Porcine and Allogeneic Skin Grafts Permits Serial Grafting,Transplantation & Volume 97,Number 12,June 27,2014(レシピエントヒヒ上のGal-T-KO皮膚移植片は、12日または13日が経過するまでに完全に拒絶された)、Barone et al.,Genetically modified porcine split-thickness skin grafts as an alternative to allograft for provision of temporary wound coverage:preliminary characterization,Burns 41(2015)565-574(レシピエントヒヒ上のGal-T-KO皮膚移植片は、11日が経過するまでに完全に拒絶された)、及びWeiner et al.,Prolonged survival of Gal-T-KO swine skin on baboons,Xenotransplantation,2010,17(2):147-152(ヒヒ上のGal-T-KO異種分層皮膚移植片は、11日が経過するまでに完全に拒絶された)を参照のこと。さらに、驚くべきことに、本発明に従って生産されたDPF閉鎖コロニーのα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから得られた皮膚移植片が、同種移植片よりも良好な性質を示したことが少なくとも1つの試験によって示されている。本明細書の実施例1を参照のこと。本明細書の基礎的実施例は、モデル臓器として皮膚を使用して本開示の有利な結果を実証するものであるが、良好な皮膚異種移植製品をもたらす因子は、他の臓器の異種移植にも同じく成功をもたらし、同じ因子がこの成功と相関することを当業者なら認識している。したがって、さまざまな型の細胞、組織、及び異なる臓器を異種移植する能力が当業者によって認識され、収集された異種移植組織は、ある一定期間、レシピエントの体による拒絶反応に抵抗性であることが示されている。こうした因子には、本発明の製品が、生存していること、生物学的に活性であること、最終滅菌されていないこと、低免疫原性であること、低バイオバーデンであること、低病原性であること、血管新生を誘導すること、コラーゲン増殖を誘導すること、及び/または臓器もしくは組織の接着、有機的な調和、またはレシピエントによる他の一次的もしくは永続的な許容を誘導する移植レシピエント由来の他の相互作用を誘導すること、が含まれる。本明細書で使用される「最終滅菌された」という語句は、製品が、その最終容器中で滅菌されていることを指し、「最終滅菌されていない」という語句は、製品が、その最終容器中で滅菌されていないことを指す。最終滅菌は、典型的には、高品質環境条件の下で製品容器の充填及び密封を行うことを含む。製品は、この型の環境中で充填及び密封されることで、仕掛品の微生物含量及び微粒子含量が最小化され、その後の滅菌プロセスの確実な成功が支援される。次に、最終容器中の製品は、滅菌プロセス(熱または照射など)に供される。無菌プロセスでは、最終滅菌プロセスとは対照的に、医薬品、容器、及び密封用物は、必要に応じて最初に別々に滅菌方法に供され、その後にひとまとまりにされる。ある特定の製品は、その性質が理由で、プロセス中のより早い段階で無菌的に加工されるか、またはその全体を通じて無菌的に加工される。製品をその最終容器中で滅菌するプロセスは存在しないため、容器の製品充填及び密封は高度滅菌環境中で行われる。無菌加工は、最終滅菌と比較して多くの可変要素を伴う。最終製品へと無菌的に統合される前に、最終製品の個々の部品は、一般に、さまざまな滅菌プロセスに供される。例えば、ガラス容器は乾熱に供され得る。容器は、UV照射及び/または抗病原体槽に供され得る。ゴム栓は湿熱に供され得る。液体はろ過に供され得る。こうした製造プロセスはそれぞれ、検証及び管理を必要とする。各プロセスからは、最終的に汚染製品の流通に繋がり得るエラーが導入される可能性がある。
【0118】
閉鎖コロニー
一般閉鎖コロニー
ここでは
図1に関して、一態様では、動物は、外部の影響を受けないように保護されることで、一般閉鎖コロニー128に加えるための候補と見なされ、一般閉鎖コロニー128は、DPF閉鎖コロニー102の繁殖を支援するためにSAF100内に収容されており、DPF閉鎖コロニー102もまた、SAF100内の別の隔離区域152に収容されている。外部の影響を受けないように保護された動物のSAFへの輸送は、潜在的な感染性病原体への曝露が軽減されるように管理される。そのような軽減手法には、限定されないが、クロルヘキシジンを用いて浄化され、他の動物が存在しないバンを使用して輸送の間に滅菌HEPAフィルター付きケージを使用するものが含まれる。
【0119】
候補動物は、一般閉鎖コロニー128に入場する上での健康状態及び適格性を調べるために最初に検疫される。例えば、いくつかの態様では、外部から入ってくる動物は、SAF内の検疫入場区域130に最初に収容され、完全な健康記録(限定されないが、出生日、ワクチン接種、感染症、及び抗生物質使用歴を含む)、系統、ならびに遺伝子検査の結果が添えられる。こうした動物は、少なくとも7日間、検疫入場区域130に留まり、その間に付属の記録が評価され、他の健康スクリーニング(いくつかの感染性病原体のスクリーニングを含む)の測定値が取られる。
【0120】
いくつかの態様では、健康状態が良好でないか、疑わしい医学的状態を有するか、またはそのような医学的問題の治療が不可能な動物は、一般閉鎖コロニー128に移ることは認められず、及び/またはその他の様式で検疫区域130から選別排除されることになる。合否判定基準の例としては、限定されないが、(a)その群から発症したことが想定外であり、動物の健康の質に影響を与え得る任意の先天性欠損症を伴って供給源動物が生まれていないこと、(b)供給源動物が、年齢に応じたワクチン接種をすべて受けており、こうしたワクチン接種が、不活化病原体を用いるものであったこと、(c)臨床的介入に加えて、供給源動物の生存期間に生じた任意の感染症が審査されており、そうした感染症及び任意の治療(該当する場合)が動物の健康の質に影響を与えないと決定されたこと、(d)監視検査の結果が審査されており、過去3ヶ月以内に供給源動物が検査されたことが検証されていること(代償を払ってすべての供給源動物が検査され、すべての検査が陰性でなくてはならない)、(e)診療を必要とする任意の様式で動物が損傷を負った場合、審査が実施されており、そうした損傷及び医学的介入(該当する場合)が動物の健康に影響を与えなかったことが確認されていること、及び/または(f)PERV検査が実施され、結果が記録されていること、が挙げられる。
【0121】
いくつかの態様では、このスクリーニングプロセス及び日程に合格した動物は、検疫入場区域130から出され、SAF100内の一般保持区域132に移されて、現存する一般閉鎖コロニー128への合流または新たに形成される一般閉鎖コロニー128の創出に使用される。一般保持区域132は、DPF隔離区域152内のDPF閉鎖コロニー102に適用される条件と実質的に同様の閉鎖コロニー条件の下に置かれることが理解されよう。
【0122】
外部の影響を受けないように保護された候補動物は、その子孫を除いては、DPF閉鎖コロニーのメンバーになることは決してないことがさらに理解されよう。一般閉鎖コロニー128動物から得られる子ブタが、本明細書にさらに記載されるようにDPF閉鎖コロニーの創出及び/または繁殖に利用されることになる。
【0123】
DPF閉鎖コロニー
妊娠雌ブタ及びDPF子ブタ
一態様では、妊娠雌ブタ134(または未経産ブタ)を外部から得るか、または一般閉鎖コロニー128から得ることで、DPF閉鎖コロニー102群を創出及び/またはDPF閉鎖コロニー102群に追加するための子ブタが生産される。例えば、一態様では、雌ブタ134は、分娩までの期間はSAF内の雌ブタ検疫区域136内に置かれ、分娩は、この態様では、潜在的な病原体(ブタサイトメガロウイルス(pCMV)を含む)に子ブタが曝露されないようにするために帝王切開を介して行われる。自然分娩の間に子ブタが雌ブタの腟を通過すると子ブタがpCMVに罹患し得る。子ブタは、本明細書に記載のように帝王切開を介して分娩されることから、そのような罹患が阻止され、本明細書に記載の方法を介して生産される子ブタは、pCMVを含まない。
【0124】
帝王切開手順に先立って、例えば、この手順の午前中に、SAF100内の手術部屋138は、滅菌環境下で標準的な手術部屋プロトコールに従っての準備が行われ、手術部屋138は、A側140及びB側142という2つの側を備えており、A側140は、雌ブタの帝王切開のためのものであり、B側142は、DPF閉鎖コロニーの創出またはDPF閉鎖コロニーへの追加のための候補である子ブタ144を受け入れるためのものである。
【0125】
雌ブタ134は、家畜銃によって安楽死させるために手術部屋138に移される。この直後に、雌ブタ134は、左側臥位にされ、クロルヘキシジンを用いて腹部及び胴体が広く前処理され、滅菌様式で覆いがかけられる。迅速に側腹切開が行われ、腹筋が裂かれて腹膜へのアクセスが確保される。子宮を露出させ、切開し、二重に固定し、臍帯を分離した後、子ブタ144が取り出される。家畜銃によって安楽死させた後の外科的手順を迅速に遂行することは、子ブタ144の生存に非常に重要である。
【0126】
出生時には子ブタ144のための感染管理が行われる。子ブタ144は、クロルヘキシジン(または他の滅菌剤(betadineなど))を1%含む温かい滅菌生理食塩水の浴槽溶液中に置かれた後、子ブタ取り扱い者に渡されて、蘇生のための蘇生区域148に移され、復温され、第1用量の初乳による強制飼養が行われる。雌ブタの134屠殺体は、スタッフによって縫合で閉じられ、適切な手順に従って処分される。
【0127】
その後、子ブタ144は、別の滅菌子ブタ検疫部屋150で検疫された後、指定の病原体を含まない隔離区域(「DPF隔離区域」)152に移されてDPF閉鎖コロニー102の創出またはDPF閉鎖コロニー102への合流に使用される。DPF隔離区域152は、本明細書に記載の交配繁殖、飼育、分娩、収集、及び全体的な扱いに必要な程度に、DPF閉鎖コロニーの扱い及び維持に適した任意のサイズのものであり得ることが理解されよう。
【0128】
一態様では、DPF閉鎖コロニーを支援するDPF隔離区域152は、アクセスが制限され、陽圧障壁のある隔離特別室であり、広さが約500ft2あり、少なくとも9匹の動物(各最大20kg)を支援する動物飼育能力を有し、より大きなSAF100の内部に存在する。本明細書に記載の製品及び方法に応じて、供給源動物の必要数及び製品の需要によって、DPF隔離区域152は、これよりもかなり大きくなる可能性があり、複数の区域(限定されないが、複数の部屋及び特別室を含む)を含み得ることが理解されよう。
【0129】
いくつかの態様では、子ブタの追跡が実施され、DPF隔離区域152では、指定の病原体を含まない条件の下で子ブタが取り扱われる。例えば、子ブタの取り扱いは、DPF隔離区域152では個人用保護具(「PPE」)(フェイスマスク、手袋、靴カバー、及びヘアネットを含む)を着用して実施される。動物は、他のブタが収容されるいずれの動物部屋または動物施設にも立ち入っていない清潔な職員によって取り扱われる。追跡を行うために、子ブタは、分娩から3日後に耳切が行われ、手標識されたプラスチック耳タグを用いて離乳時(通常3~5週間)に耳タグが装着される。
【0130】
DPF隔離区域152内のDPF閉鎖コロニー102で異種移植製品の供給源として育てられる子ブタもいれば、DPF閉鎖コロニー102で成熟することが許され、一般閉鎖コロニー128の繁殖に使用される子ブタもいることが理解されよう。一般閉鎖コロニー128の繁殖の際には、DPF隔離区域152から成熟動物が取り出され、交配繁殖のために一般閉鎖コロニー128に加えられる。DPF隔離区域152はDPFとなるように管理されるため、こうした動物または任意の他の動物が一旦DPF隔離区域152を離れると、そうした動物がDPF隔離区域152に戻されることは決してない。
【0131】
DPF閉鎖コロニー102内のいずれの動物も汚染(例えば、DPF閉鎖コロニー102の外部の動物から得られる血液、血液製品、または組織)に曝露されないようにするために予防措置が講じられる。DPF閉鎖コロニー102の外部の動物から得られる血液、血液製品、または組織に対してDPF閉鎖コロニー102内のいずれかの動物が偶発的に曝露された場合、そうした動物はDPF閉鎖コロニー102から取り除かれ、DPF閉鎖コロニー102に戻されることは決してない。すべての非経口な介入には無菌手法及び滅菌装置が使用され、所定作業(ワクチン接種、薬物または生物製剤での処理、静脈切開、及び生検など)が実施される。DPF隔離区域152へのアクセスは、カードによって、特別な許可及び訓練を受けたスタッフのみに制限される。
【0132】
本発明の別の態様では、態様によっては、新生子ブタは、DPF隔離区域152内で訓練されたガウン着用スタッフによって取り扱われ、手で飼育されることで、新生子ブタの健康が確保され、そうした新生子ブタが指定の病原体を含まないものとして確実に維持される。
【0133】
繁殖
DPF閉鎖コロニー102の繁殖は、複数の方法で行われ得る。例えば、本明細書に記載のように、外部または一般閉鎖コロニー128から雌ブタ134が選び取られ、検疫され、帝王切開を介して分娩されるその子ブタ144を与え、得られた子ブタは、蘇生され、滅菌され、検疫され、DPF隔離区域152に入れられ得る。新生子ブタは、26~30℃または80~85oFで維持され得る。いくつかの態様では、加熱ランプを使用して動物が温かく保たれる。新生子ブタは、SAF内で、滅菌タオル/覆布を底に敷いた中位の滅菌クレートに最初に収容される。
【0134】
DPF閉鎖コロニー102の繁殖は、他の方法でも行われ得る。例えば、一態様では、DPF閉鎖コロニー102の繁殖は、完全にDPF隔離区域152内で生じるDPF閉鎖コロニー102の動物間の自然交尾を介して行われる。人工授精または自然交尾を伴わない他の交配繁殖手法の結果としても、DPF隔離区域152内のDPF閉鎖コロニー102での妊娠は生じ得ることが理解されよう。
【0135】
そのような態様では、DPF隔離区域152内のDPF閉鎖コロニー102の妊娠雌ブタ154(または未経産ブタ)が妊娠全体を担い、子ブタは生児経膣分娩を介して分娩され、帝王切開術は不要である。重要なことは、DPF隔離区域152内での自然交尾及び生児経膣分娩から得られる子ブタは、pCMVに感染していないことを含めて、指定の病原体を含まないということである。
【0136】
生児経膣分娩後、子ブタはすぐに雌ブタから引き離されて、雌ブタが子ブタに害を及ぼさないようにされる。次に、子ブタは、本明細書に記載の方法を用いてDPF隔離区域152内で分娩時からヒトの手によって育てられる。
【0137】
DPF閉鎖コロニー102または一般閉鎖コロニー128において交配が行われる場合、本明細書に開示のブタの交配繁殖は、典型的には、ホモ接合型同士の交配繁殖である。雌には、妊娠の2週間前及び全妊娠期間、ホルモンが投与される。さらに、DPF閉鎖コロニー102と同様に、一般閉鎖コロニー128の繁殖もまた、一般閉鎖コロニー128の動物間での自然交尾を介して行われ得、人工授精または自然交尾を伴わない他の生殖補助技術(ART)の結果としても生じ得る。
【0138】
遺伝的に優れた動物から多数の子孫を得るために、または生殖力のない(もしくは低受胎性)動物から子孫を得るために、さまざまな手法が開発及び洗練されている。こうした手法には、人工授精、配偶子または胚の凍結保存(凍結)、過排卵の誘発、胚移植、インビトロ受精、精子または胚の性決定、核移植、クローニングなどが含まれる。
【0139】
人工授精(AI)は、遺伝的に優れた雄から子孫を得るために、200年を超える期間、使用されている。精液の凍結保存(凍結)及び保管を行うための方法が改良されたことで、より多くの家畜生産者がAIを利用することが可能になっている。精液の凍結保存と同じ様式で胚凍結を凍結することで、遺伝的に質の高い動物を世界的に商業化することが可能となった。
【0140】
過排卵及び胚移植:胚移植技術が開発されたことで、生産者が、遺伝的に優れた雌から複数の後代を得ることが可能である。種に応じて、優れた遺伝的メリットを有する雌(胚ドナーとも呼ばれる)から外科的または非外科的な手法によって受精胚を回収することができる。次に、こうした遺伝的に優れた胚は、それよりも遺伝的メリットが少ない雌(胚レシピエントとも呼ばれる)に移植される。ウシ及びウマでは、手術を行わずに受精胚を回収する効率的な手法が存在するが、それぞれの通常の生殖サイクルの間に得られる胚は1つのみ、または場合によっては2つである。ブタ及びヒツジでは、胚は、外科的手法によって回収されなくてはならない。遺伝的に優れた雌から回収され得る胚の数を増やすには、胚ドナーをホルモンレジメンで処理して過排卵または過剰排卵の誘発が行われる。
【0141】
インビトロ受精:ドナー動物からの胚の採取に代わるものとして、最近では胚をインビトロ(実験室内)で生成させるための方法が開発されている。こうした方法は、インビトロ胚生成とも呼ばれる。生殖力のない雌もしくは高齢の雌の卵巣または通常の胚ドナー(上記のもの)から未熟卵母細胞(雌卵)を得ることができる。卵子(卵)の採取は、卵巣から未熟卵母細胞を吸引するために超音波及びガイド付針を使用する非外科的手法である。卵巣から未熟卵母細胞が取り出されると、そうした未熟卵母細胞は、成熟され、受精され、移植または凍結に適する段階にその発生が進むまで最大で7日間、インビトロで培養される。
【0142】
1980年代半ば以来、割球(初期胚及び未分化と想定される卵割段階の胚に由来する細胞)または体細胞(線維芽細胞、皮膚、心臓、神経、もしくは他の体細胞)から得られる核を除核卵母細胞(核が取り除かれた未授精の雌卵細胞)に移植するための技術が開発されている。この「核移植」によって、自体が他の動物(トランスジェニック動物、遺伝的に優れた動物、または生産乳汁量が多い動物もしくは他の望ましい形質をいくつか有する動物など)のほぼ同一のコピーである動物コピーが複数得られる。このプロセスは、クローニングとも称される。今日までに、体細胞核移植が使用されてウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウマ、ラバ、ネコ、ウサギ、ラット、及びマウスがクローニングされている。
【0143】
手法は、クローニング対象となる動物から得られる適切な組織(線維芽細胞)に由来する体細胞を培養することを含む。次に、培養体細胞から得られる核が、同じ種または密接に関連する種の別の個体から得られる除核卵母細胞にマイクロインジェクションによって導入される。理解が未だ進んでいないプロセスを介して、胚の通常発生の誘導に適した遺伝子発現パターンへと、体細胞由来の核が再プログラム化される。インビトロでさらに培養及び発生が行われた後、レシピエント雌に胚が導入され、最終的に生存子孫が誕生する。核移植による動物の繁殖成功率は10パーセント未満であることが多く、多くの因子に依存するものであり、こうした因子には、種、レシピエント卵子の供給源、ドナー核の細胞型、核移植前のドナー細胞の処理、核移植に使用される手法などが含まれる。
【0144】
最も一般に使用されるARTは、最初のステップとして受精に依存するものである。卵子と精子とのこの接合は、雄親及び雌親に由来する遺伝物質の組換えによって達成され、「遺伝子トランプのシャフリング」と称されることが多い。こうした交配繁殖手法は、DPF隔離区域152内での交配繁殖ステップとしてDPF閉鎖コロニー内で使用され得るか、あるいは一般閉鎖コロニーの雌及び/または外部由来の雌に対する交配繁殖ステップとして使用され得ることが理解されよう。
【0145】
ARTを利用して一般閉鎖コロニーの雌及び/または外部由来の雌を妊娠させる場合、そのような雌から得られる子ブタの分娩は、本明細書に記載のように実施することができ、すなわち、外部または一般閉鎖コロニー128から雌ブタ134が選び取られ、検疫され、帝王切開を介して分娩されるその子ブタ144を与え、得られた子ブタは、蘇生され、滅菌され、検疫され、DPF隔離区域152に入れられ得る。
【0146】
閉鎖コロニーの維持
本明細書で使用される「指定の病原体を含まない」という語句は、動物、動物群、そこから得られる動物製品、及び/または動物施設が1つ以上の特定の病原体を含まないことを説明するために使用され得ることが理解されよう。好ましくは、そのような「指定の病原体を含まない」動物、動物群、そこから得られる動物製品、及び/または動物施設は、適切な標準的作業手順(SOP)ならびにそのような指定の病原体が存在しないこと及び/または不活化されていることを保証する群飼育及び獣医学的管理の慣行(限定されないが、本明細書に開示及び記載の所定作業、検査、手順、飼育、及び獣医学的管理を含む)を利用しながら、そのような指定の病原体を検査する明確に規定された所定作業を使用して維持される。本明細書で使用される「含まない」及び「実質的に含まない」という用語、ならびに同様の用語は、「病原体を含まない」と併用される場合、対象病原体が存在しないか、生存していないか、活性でないか、またはその他の状況で対象病原体の標準的な検査方法もしくは他の検査方法によって検出不可能なことを示すことを意図するものであることがさらに理解されよう。
【0147】
指定の病原体には、任意の数の病原体が含まれ得る。こうした病原体には、限定されないが、ウイルス、細菌、真菌、原生動物、寄生生物、及び/またはプリオン(及び/または伝染性海綿状脳症(TSE)と関連する他の病原体)が含まれる。指定の病原体には、限定されないが、いずれか及びすべての人畜共通感染症ウイルス、ならびに下記の科に由来するウイルスが含まれ得る:adenoviridae、anelloviridae、astroviridae、calicivirdae、circoviridae、coronaviridae、parvoviridae、picornaviridae、及びreoviridae。
【0148】
指定の病原体には、限定されないが、アデノウイルス、アルボウイルス、アルテリウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルス、カリシウイルス、カルジオウイルス、サーコウイルス2、サーコウイルス1、コロナウイルス、脳心筋炎ウイルス、エペリスロゾーン、haemophilus suis、ヘルペスウイルス及びヘルペス関連ウイルス、イリドウイルス、コブウイルス、レプトスピリウム(leptospirillum)、リステリア、マイコバクテリアTB、マイコプラズマ、オルソミクソウイルス、パポウイルス(papovirus)、パラインフルエンザウイルス3、パラミクソウイルス、パルボウイルス、パサウイルス-1、ペスチウイルス、ピコビルナウイルス(PBV)、ピコルナウイルス、ブタサーコウイルス様(po-circo様)ウイルス、ブタアストロウイルス、ブタバコウイルス(porcine bacovirus)、ブタボカウイルス-2、ブタボカウイルス-4、ブタエンテロウイルス-9、ブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)、ブタポリオウイルス、ブタリンパ球向性ヘルペスウイルス(PLHV)、ブタ糞便関連環状ウイルス(porcine stool associated circular virus)(PoSCV)、ポサウイルス-1、ポックスウイルス、狂犬病関連ウイルス、レオウイルス、ラブドウイルス、リケッチア、サペロウイルス、サポウイルス、staphylococcus hyicus、staphylococcus intermedius、staphylococcus epidermidis、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、スイポックスウイルス、ブタインフルエンザ、テッシェン(teschen)、トロウイルス、トルクテノサスウイルス-2(TTSuV-2)、伝染性胃腸炎ウイルス、水疱性口内炎ウイルス、及び/またはいずれか及び/またはすべての他のウイルス、細菌、真菌、原生動物、寄生生物、及び/またはプリオン(及び/またはTSEと関連する他の病原体)が含まれ得る。いくつかの態様では、具体的にはブタ群では、ブタの自然条件ではTSEは報告されていないため、TSEの検査は実施されない。他の態様では、本開示の方法の一部としてTSEの検査が実施される。
【0149】
動物群に対する検査が行われ得る可能性のある病原体は膨大な数に上ることから、異種移植の安全性及び有効性を確保するためにドナー動物に対してどの特定の病原体群を検査すべきか、及びドナー動物集団からどの特定の病原体群を除去すべきかに関する分野における規制指針もしくは基準または理解は存在しない。換言すれば、本開示以前には、検査及び排除すべき有限数の予測可能な病原体が同定されていなかった。本開示は、異種移植の安全性及び有効性を得る上では排除することが非常に重要であることを本発明者らが同定した特定の病原体群を提供する。この特定の病原体群は、以下の表2に示される。
【表2-1】
【表2-2】
【0150】
ある特定の態様では、本開示の製品は、本開示で論じられる病原体の複数またはすべてについて抗体力価レベルが検出レベルを下回る動物が供給源となる。ある特定の態様では、本開示の製品が移植される対象は、本開示で論じられる病原体の複数またはすべてについて抗体力価レベルが検出レベルを下回ることが試験され、明らかにされる。
【0151】
いくつかの態様では、本開示は、18~35(例えば、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、または18)種類以下の病原体からなる特定の病原体群について検査する方法を含み、この特定の病原体群には、表2に記載の病原体のそれぞれが含まれる。いくつかの態様では、本開示は、18~35(例えば、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、または18)種類の病原体を含まないドナー動物を創出すること、維持すること、及び使用することを含み、この特定の病原体群には、表2に記載の病原体のそれぞれが含まれる。
【0152】
本明細書に記載のように、DPF閉鎖コロニー102内で生児経膣分娩を介して生まれる子ブタは、pCMVに感染していないが、それでもなお、pCMVの検査は継続的に行われる。ブタサイトメガロウイルス(pCMV)及びブタ内在性レトロウイルス(PERV)についての検査は、本明細書に記載のスクリーニング及び維持を行う上で定型的かつ継続的であるべきであり、DPF閉鎖コロニーについても定型的かつ継続的に行われるべきである。本発明のいくつかの態様では、本明細書に記載の供給源動物は、PERV A及びPERV Bのみが陽性であり、場合によっては、PERV A、PERV B、及びPERV Cが陽性である。他の態様では、供給源動物は、(CRISPR及び他の手法を利用することで)PERV A、PERV B、及び/またはPERV Cを含まない。
【0153】
PERVに関して、すべてではないにせよ、ほとんどのブタが、PERV A及びPERV Bが陽性であることが知られていることが理解されよう。PERVは認知されている一方で、ブタ由来の組織を用いる治療からPERVが伝染するリスクは稀なものであると予想される。現在のところ、すべてのブタ組織及びすべてのブタ品種において発現するPERV mRNAは8つ存在し、ブタの細胞、組織、及び臓器(膵島を含む)に曝露される前臨床ヒト異種移植試験及び臨床ヒト異種移植試験においてPERVの伝染が実証されたことはない。例えば、Morozov VA,Wynyard S,Matsumoto S,Abalovich A,Denner J,Elliott R,“No PERV transmission during a clinical trial of pig islet cell transplantation,”Virus Res 2017;227:34-40を参照のこと。ヒト感染が生じることはありそうもないが、そうしたことが万一発生したとしても、PERVは、臨床的に一般に使用されるヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤及び非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤に対してインビトロで感受性を有するものである。例えば、Wilhelm M,Fishman JA,Pontikis R,Aubertin AM,Wilhelm FX,“Susceptibility of recombinant porcine endogenous retrovirus reverse transcriptase to nucleoside and non-nucleoside inhibitors,”Cellular & Molecular Life Sciences 2002;59:2184-90、Schuurman,H.,“Regulatory aspects of clinical xenotransplantation,”Int.J.Surg.,23,(2015),pp.312-321を参照のこと。本開示の異種移植製品を使用して得られた実験データから、レシピエントの臓器ではPERV遺伝物質は検出されず、異種移植された臓器からブタのDNA及び細胞がレシピエントの循環に遊走することはないことが示された。
【0154】
DPF閉鎖コロニー102は、動物が指定の病原体を含まない状態が確実に維持され、動物管理及び健全性の適切な基準がSAF100のすべてのレベル(すなわち、交配繁殖、維持、繁殖)で確実に適用されるように維持される。例えば、本明細書で特定される多数の病原体(限定されないが、pCMV及び他の病原体を含む)を含めて、病原体及び他の生物学的マーカーの検査が継続的に行われる。病原体の遺伝子型判定及び検査を行うために、必要に応じて環境試料及び血液試料が採取される。病原体または他の健康上の懸念について得られる検査結果(複数可)は施設獣医師によって評価され、この施設獣医師によって、追跡検査及び経過観察、ならびに必要に応じて施設または施設内の区域(例えば、部屋、特別室、もしくは他の区域)の検疫が推奨され得る。供給源動物の所定の管理の間に使用される抗微生物剤はいずれも、しっかりとした文書化が継続されることになり、不活化ワクチンは、専用のものが使用される。抗微生物剤の例としては、セファゾリン、バシトラシン、ネオマイシン、及びポリミキシンが含まれる。
【0155】
いくつかの態様では、供給源動物の所定の健康監視及び病原体(例えば、外来性病因物質)スクリーニングが3ヶ月ごとに実施される。3ヶ月ごとに、一般閉鎖コロニー及びDPF閉鎖コロニーの各動物の血清試料、鼻腔スワブ試料、及び糞便試料が採取され、そのような病原体を検出するための分析検査に供される。家畜銃による安楽死の直後に供給源動物の血清試料、鼻腔スワブ試料、及び糞便試料が検査用に採取され、本明細書に開示のように評価される。こうした評価には、無菌性アッセイを実施し、当該無菌性アッセイにおいて好気性細菌及び嫌気性細菌が増殖しないことを確認すること、マイコプラズマアッセイを実施し、当該マイコプラズマアッセイにおいてマイコプラズマコロニーが形成されないことを確認すること、エンドトキシンアッセイを実施し、当該エンドトキシンアッセイにおいて生物学的製品がエンドトキシンを含まないことを確認すること、MTT還元アッセイを実施し、当該MTT還元アッセイにおいて製品の細胞生存度が少なくとも50%であることを確認すること、フローサイトメトリーを実施し、当該フローサイトメトリーによって判定すると製品がガラクトシル-a-1,3-ガラクトースエピトープを有さないことを確認すること、18~35種類の病原体に特異的な病原体検出アッセイを実施し、製品が、Ascaris属の種、cryptosporidium属の種、Echinococcus、Strongyloids sterocolis、Toxoplasma gondii、Brucella suis、Leptospira属の種、mycoplasma hyopneumoniae、ブタ生殖器呼吸器症候群、仮性狂犬病、staphylococcus属の種、Microphyton属の種、Trichophyton属の種、ブタインフルエンザ、ブタサイトメガロウイルス、アルテリウイルス、コロナウイルス、Bordetella bronchiseptica、及び家畜関連メチシリン耐性Staphylococcus aureusを含まないことを確認すること、のうちの1つ以上が含まれる。
【0156】
いくつかの態様では、すべてのブタが所定の健康監視を受け、こうした健康監視には、すべての疾病、医療、手順、投与薬物、ワクチン接種、身体検査、施された任意の治療、及び総体的な健康評価の文書化、ならびに動物が立ち上がり、自由に行動することができ、臨床的に正常であると思われることを示す目視の健康検証を伴う給餌時の毎日の観察、ならびに動物飼育記録帳に任意の欠乏を記録して行う動物の見た目、活力、及び食欲に関する観察が含まれる。いくつかの態様では、動物に対して、Mycoplasma Hyopneumoniae、Hemophilus Parasuis、Streptococcus Suis、Pasteurella Multocida、Bordatella Bronchiseptica、及びErysipelothrix Rhusiopathiaeに対するワクチン接種が行われる。6ヶ月齢以上のすべてのブタに対して、Erysipelothrix Rhusiopathiae、Leptospira(Canicola-Grippotyphosa-Hardjo-Icterohaemorrhagiae-Pomona)、インフルエンザ、及びパルボウイルスに対するワクチン接種が行われ得る。ワクチン接種は反復実施される可能性があり、例えば、6ヶ月ごとに実施される。
【0157】
いくつかの態様では、通常は、清掃及び給餌のための毎日の飼育手順の一部として健康監視を実施することで、ブタ保持区域(例えば、部屋、特別室、または他の区域)に立ち入ることが最小化されることになる。立ち入りに先立って、職員は、個人用保護具(PPE)を着用し、自身の履き物が大量の汚染物(例えば、視認可能な汚れまたは泥)を確実に含まないようにしなくてはらない。次に、職員は、立ち入り前に、使い捨ての靴/長靴を着用することになる。指定の病原体を含まない施設内に収容されていないいずれかの動物と接触した職員は、汚染された場合はPPEを取り換えることになる。用具(シャベル、他の必要な道具)はすべて、外から動物施設に持ち込まれるものであり、かつ必要と判断されれば、クロルヘキシジンに2分以上浸漬されることになる。固形排泄物及び汚れた寝床は取り除かれる。動物保持区域は、希釈されたQuat-PVまたは漂白剤で最低でも2週間に1回衛生化される。
【0158】
いくつかの態様では、寝床は、照射処理した木くずの寝床を使用して毎日交換される。交換に使用する量は、取り除かれた量とほぼ同じ量である。寝床はすべて、最低でも週に1回の頻度で完全に交換される。健康状態確認、清掃、及び水レベルを含む毎日の活動は動物飼育記録帳において文書化される。適切に標識されたごみ及び生物学的廃棄物は、スタッフによって毎日集められ、焼却される。
【0159】
子ブタに関して、新生ブタの取り扱い及び管理は、訓練を受けたガウン着用スタッフによって隔離特別室で行われる。補給品、部屋、及びクレートはすべて、子ブタの収容前に衛生化される。クレートの底部には、滅菌された覆布及びタオルが敷かれる。室温は、80~85oFに制御される。動物のクレートは、加熱ランプを使用して85~95oFに維持される。子ブタは、最初の2週間はずっとクレート中で維持され、その後、子ブタは、照射処理した木くずを敷いた床の上に収容される。クレートは毎日清潔にされ、木くずは毎日交換及び補充される。最初のうちは、子ブタが自力で給餌器から飼料を摂取するようになるまでは、新たに調製される滅菌初乳(ブタ用に調合されたウシ初乳IgG、Sterling Nursemate ASAP、または同等のもの)が、1~2時間ごとに給餌チューブを使用して子ブタに給餌される。初期は、子ブタの体重測定が1日に2回行われ、1日に2回健全性が確認及び記録される。14日目からは、照射処理した子ブタ用穀物(抗生物質非含有餌付け飼料、Blue Seal 813、または同等のもの)がさらに補給された代用乳(Ralco Birthrightまたは同等のもの)が1日に3回子ブタに給餌され始める。給餌ごとの各子ブタの摂食量が記録される。子ブタの分娩から最初の7日以内に、ワクチン接種、遺伝子型判定、耳切、及び誕生時点で既に存在する歯のトリミングが実施される。いくつかの態様では、ワクチンは、不活化病原体を使用するものである。分娩後7日目に、子ブタに対して、Mycoplasma Hyopneumoniae、Hemophilus Parasuis、Streptococcus Suis、Pasteurella Multocida、Bordatella Bronchiseptica、及びErysipelothrix Rhusiopathiaeに対するワクチン接種が行われ、28日齢の時点で追加のワクチン接種が行われる。一態様では、ワクチンは、不活化病原体である。6ヶ月齢以上のすべてのブタに対して、Erysipelothrix Rhusiopathiae、Leptospira(Canicola-Grippotyphosa-Hardjo-Icterohaemorrhagiae-Pomona)、インフルエンザ、及びパルボウイルスに対するワクチン接種が行われる。ワクチン接種は、6ヶ月ごとに反復実施される。
【0160】
異種移植製品のための供給源動物は、所与のプログラムを扱う者によって適用される標準的な作業手順によって規定される特定の隔離障壁条件の下で陽圧の生物学的封じ込め施設内で維持され、制御された条件の下で特別な管理を受けることで外来性病因物質が減らされる。異種移植のための使用が意図される供給源動物の閉鎖コロニーの健康を確保するために、SAF、職員、及び供給源動物の管理人は、動物飼育、組織収集、及び動物の屠殺の手順を遵守する。供給源動物は、特定の隔離障壁条件の下で陽圧の生物学的封じ込め施設内に収容される。
【0161】
いくつかの態様では、飼料及び寝床は、ローディングドックに搬送され、輸送され、内部の廊下からスタッフのみがアクセス可能な清浄ケージ洗浄区域に繋がった特定の飼料部屋に搬入保管される。寝床及び飼料はすべて、照射によって滅菌され、袋を二重にして無菌性が保証される。子ブタ及び成熟が進んだ動物に使用される飼料は、特定の製造者による規定の穀物飼料である。この規定の穀物飼料は、ウシタンパク質を全く含まない。水の供給は、施設の滅菌システムを使用するか、または購入滅菌水を滅菌された受け皿に分配することによって行われる。飼料、水、及び他の消耗品の保管及び搬送についての記録がプロトコールに従って維持され、こうした記録には、製造者、バッチ番号、及び他の関連情報が含まれる。
【0162】
いくつかの態様では、動物の記録は、その動物が異種移植において使用される生存組織、生存臓器、及び/または生存細胞の供給源として使用される前の少なくとも二世代にわたって、供給源動物に与えられる飼料について記載されるように維持される。こうしたものには、供給源、供給業者、及び使用飼料の型(その中身を含む)が含まれる。動物に由来する飼料の使用は禁じられる。2008年に拡大強化された使用禁止飼料に関するFDA規制によって供給源動物として禁止されている動物タンパク質(21 CFR 589.2000)もしくは他のウシ由来物質(21 CFR 589.2001)を含む飼料、あるいは薬物汚染または残留殺虫剤もしくは残留除草剤を著しく含む飼料が供給源動物用として供給源動物に与えられることはない。
【0163】
いくつかの態様では、十分な品質で精製水が提供されることで、感染性病原体、薬物、殺虫剤、除草剤、及び肥料に動物が不必要に曝露されないようにされる。新生動物には、群認定のために明確に認定された初乳が与えられる。いくつかの態様では、ブタ用に調合されたウシ初乳IgG、Sterling Nursemate ASAP、または同等のものを使用して新生動物への給餌が行われる。
【0164】
DPF閉鎖コロニーから得られる生物学的製品
生物学的製品
本明細書に記載のように、異種移植のための生物学的製品は、本発明に従って生産及び維持された供給源動物(本明細書に記載のDPF閉鎖コロニー102由来のものを含む)から得られる。そのような生物学的製品には、限定されないが、肝臓、腎臓、皮膚、肺、心臓、膵臓、腸、神経、ならびに他の臓器、細胞、及び/または組織が含まれる。
【0165】
そのような生物学的製品の収集は、供給源動物の屠殺に始まり、最終製品の生産が完了するまでの連続的かつ自己完結型の分離された単一製造事象として行われる。動物は、家畜銃での安楽死によって安楽死させられ、必要に応じて非通気性滅菌バッグに入れた状態で、供給源動物からの生物学的製品の収集手順が行われることになる手術部屋に運ばれ得る。手術チームのすべてのメンバーが、供給源動物を受け入れる前に完全滅菌手術着を着用(例えば、滅菌着を着用)して、指定の病原体を含まない条件を維持し、場合によっては、手袋を二重に着用して汚染を最小限にとどめるべきであり、外科処理領域及び道具は滅菌される。供給源動物は、無菌様式でバッグ及び容器から取り出される。消毒剤(例えば、クロルヘキシジン)ブラシを用いて手術スタッフによって供給源動物が徹底洗浄され(この洗浄は、例えば、少なくとも1~10分間行われる)、この洗浄では、手術対象となる全動物領域が、そうした領域に定期的にクロルヘキシジンをかけながらくまなく徹底洗浄されることで、確実に洗浄が行きわたるようにされる。開封したBetadineブラシ及び滅菌水すすぎ液を用いて動物の外科処理領域(複数可)が徹底洗浄され(この洗浄は、例えば、1~10分間行われる)、この洗浄によって、手術対象となる全動物領域がくまなく徹底洗浄される。手術については、手術者は、プログラム及び他の基準に従って滅菌着を着用して指定の病原体を含まない条件を維持することになる。異種移植に使用されることになる供給源動物から得られる臓器、細胞、または組織はすべて、動物の屠殺から15時間以内に収集される。
【0166】
生物学的製品には、限定されないが、本明細書に開示のもの(例えば、具体例に開示もの)、ならびに供給源動物から収集されたいずれか及びすべての他の組織、臓器、及び/または精製されたか、もしくは実質的に純粋な細胞及び細胞株も含まれ得る。いくつかの態様では、本明細書に記載の異種移植に利用される組織には、限定されないが、乳輪組織、血液、咽頭扁桃組織、骨組織、褐色脂肪組織、網状組織、軟骨組織、軟骨、海綿組織、軟骨様組織、クロム親和性組織、結合組織、肉様膜様組織、弾性組織、上皮組織、表面被覆組織、脂肪組織、線維硝子組織、線維組織、ギャンジー包帯、ゼラチン様組織、肉芽組織、腸管関連リンパ系組織、ハラー脈管組織、硬性の造血組織、未分化組織、間質組織、被覆組織、島組織、リンパ組織、リンパ系組織、間葉組織、中腎組織、膠様組織、多房性脂肪、筋組織、骨髄組織、軟組織鼻点、腎発生組織、神経組織、結節組織、骨組織、造骨組織、類骨組織、根尖周囲組織、細網組織、網状組織、ゴム状組織、骨格筋組織、平滑筋組織、及び皮下組織が含まれる。いくつかの態様では、本明細書に記載の異種移植に利用される臓器には、限定されないが、皮膚、腎臓、肝臓、脳、副腎、肛門、膀胱、血液、血管、骨、軟骨、角膜、耳、食道、眼、腺、歯ぐき、毛、心臓、視床下部、腸、大腸、靱帯、唇、肺、リンパ、リンパ節及びリンパ管、乳腺、口、爪、鼻、卵巣、卵管、膵臓、陰茎、咽頭、下垂体、幽門、直腸、唾液腺、精嚢、骨格筋、皮膚、小腸、平滑筋、脊髄、脾臓、胃、腎上体、歯、腱、精巣、胸腺、甲状腺、舌、扁桃腺、気管、尿管、尿道、子宮、ならびに腟が含まれる。
【0167】
いくつかの態様では、本明細書に記載の異種移植に利用される精製されたか、または実質的に純粋な細胞及び細胞株には、限定されないが、血液細胞、血液前駆細胞、心筋細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、内皮細胞、表皮細胞、上皮細胞、線維芽細胞、顆粒膜細胞、造血細胞、ランゲルハンス島細胞、ケラチノサイト、リンパ球(B及びT)、マクロファージ、メラノサイト、単球、単核細胞、神経系細胞、他の筋細胞、膵臓アルファ-1細胞、膵臓アルファ-2細胞、膵臓ベータ細胞、膵臓インスリン分泌細胞、脂肪細胞、上皮細胞、大動脈内皮細胞、大動脈平滑筋細胞、アストロサイト、好塩基球、骨細胞、骨前駆細胞、心筋細胞、軟骨細胞、好酸球、赤血球、線維芽細胞、グリア細胞、肝細胞、ケラチノサイト、クッパー細胞、肝臓星状細胞、リンパ球、微小血管内皮細胞、単球、神経幹細胞、ニューロン、好中球、膵島細胞、上皮小体細胞、耳下腺細胞、血小板、始原幹細胞、シュワン細胞、平滑筋細胞、甲状腺細胞、腫瘍細胞、臍帯静脈内皮細胞、副腎細胞、抗原提示細胞、B細胞、膀胱細胞、頸部細胞、錐体細胞、卵細胞、上皮細胞、生殖細胞、有毛細胞、心臓細胞、腎細胞、ライディッヒ細胞、黄体細胞、マクロファージ、メモリー細胞、筋細胞、卵巣細胞、ペースメーカー細胞、管周細胞、下垂体細胞、形質細胞、前立腺細胞、赤血球、網膜細胞、桿体細胞、セルトリ細胞、体細胞、精子細胞、脾細胞、T細胞、精巣細胞、子宮細胞、腟上皮細胞、白血球、線毛細胞、円柱上皮細胞、ドーパミン作動性細胞、ドーパミン作動性細胞、胚性幹細胞、子宮内膜細胞、線維芽細胞、胎児線維芽細胞、濾胞細胞、杯細胞、角質化上皮細胞、肺細胞、乳腺細胞、粘液細胞、非角質化上皮細胞、骨芽細胞、破骨細胞、骨細胞、及び扁平上皮細胞が含まれる。
【0168】
臓器は、体内で1つ以上の特定機能を一緒になって発揮する関連細胞群である。生物学的に、皮膚は、体で最も大きく、最も速く増殖する臓器であり、外皮系の主要成分として分類され、外皮系は、「進化した」動物に見られる10個の巨大臓器系のうちの1つである。皮膚は、温度を制御すること、外界に対する動的障壁を与えること、及び感覚受容器の巨大ネットワークを支援するルートとして働くことを含めて、いくつかの非常に重要な役割を果たす。皮膚は、体の生存及び健康に極めて重要ないくつかの機能を果たす。皮膚は、創傷が生じた後の血液喪失を阻止するように治癒し、熱を消散させることによって体温を調節し、寒冷に対する層、吸収、分泌、熱調節、感覚検出及び方向決定、ならびに障壁保護を与えるものとして働く。実際、皮膚の移植が成功することは、他の臓器の移植と相関することが認識されているだけでなく、皮膚移植物の拒絶反応感受性は、他の臓器(例えば、免疫特権を有する臓器(肝臓など))と比較して高いようにも思われ、皮膚移植物は、「前哨移植物」として使用すること(すなわち、同じレシピエントに移植される固形臓器に対する拒絶反応を早期に予測するものとして、ヒトレシピエントに皮膚移植片を使用すること)さえ提案されている。例えば、Ali et al.Transplant Proc.2016 Oct;48(8):2565-2570に報告されているように、何人かの腸管移植レシピエント及び多臓器移植レシピエントにおける腹壁移植の経験によって得られた証拠は、腸管同種移植片において拒絶反応が出現するよりも前に皮膚成分において拒絶反応が顕在化し得、これが「リードタイム」となり、この「リードタイム」の間に腹壁の拒絶反応を治療することで腸管拒絶反応の出現を阻止し得ることを示唆している。
【0169】
さらに、合衆国法典第42編の274章及び301章では、皮膚が、ヒト臓器のうちのその正式定義の中に明確に収載されており、すなわち、「ヒト臓器は、全米臓器移植法(National Organ Transplant Act)の301章によって取り扱われており、改正を経てはいるが、ヒト(胎児を含む)の腎臓、肝臓、心臓、肺、膵臓、骨髄及び他の造血幹/前駆細胞(それらの採取方法は無関係である)、角膜、眼、骨、皮膚、ならびに腸(食道、胃、小腸、及び/または大腸、または胃腸管の任意の部分を含む)を意味する」。同様に、ヒト臓器移植条例(Human Organ Transplant Ordinance)(HOTO)は、臓器売買を阻止し、自己決定に関するドナー及びレシピエントの権利を保護するために国際的に批准される条例であり、この世界的な法律においても、皮膚(及び外皮系の全セグメント)が臓器として正式に収載されており、「全体が除去されれば、体によって再生し得ない構造化された組織配置からなるヒトの体の任意の部分。。。。」として、臓器がより広く定義されている。移植の正式な医学的定義に従えば、移植は、「体の一部または一個体から組織を取り出し、別個体にそれを埋め込むか、または挿入すること、特にこれを手術によって行うこと」である。HOTOでは、「永続性にかかわらず、移植手術の間に一個人から別個人に臓器を移すこと」として移植が定義されている。
【0170】
皮膚に関して、移植片は、典型的には、脱細胞化及び/または再構成された均質化真皮シートからなり、この均質化真皮シートは、表在性創傷の応急的な被覆の達成に使用される。そのような移植片は、元の組織構造も保持せず、代謝的な活性も有さず(これらは、通常なら細胞に自然に存在する)、それ故に、血管新生が誘導されず、内部への毛細血管成長または血管間の結合が生じない。結果的に、免疫による拒絶は懸念事項にならないが、こうした皮膚移植片は、こうした移植片の下で完全な宿主被覆組織が増殖することによって拒絶されるのではなく、「はじき出される」のである。したがって、そのような解決策に移植片という用語は正しく当てはまる可能性はあるが、移植物(transplant)を移植片(graft)と区別する主な品質は、複雑性、秩序、及び1つ以上の型の組織の内包が増強されているというものである。本発明の場合、皮膚移植物は、先行技術分野で知られる移植片とは基本的に区別される。例えば、皮膚異種移植物は、患者の元の皮膚と同じ機能を発揮する生存細胞から構成され、この機能は、最終的に免疫介在性に拒絶されるまで発揮される。したがって、この関連では、本開示による皮膚異種移植物は、移植片というよりはむしろ、臓器移植物である。
【0171】
製品の特長及び治療的使用
いくつかの態様では、本明細書に記載及び開示される異種移植製品は応急的なものであり、すなわち、当該異種移植製品は、異種移植を受ける患者において永続的に使用されるわけではなく、主に急性の病気及び損傷を治療するために利用されるものであり、本発明に従わずに生産される製品と比較して長期利用することができる。本明細書に記載及び開示される製品の態様のいくつかは、永続的またはより永続的なものでもあり得、移植される臓器、組織、及び/または細胞は、有害な拒絶反応を伴うことなく、はるかに長期にわたってヒトレシピエントによって許容されることが理解されよう。
【0172】
他の態様では、本明細書に記載及び開示される異種移植製品は、生存可能な生存細胞(例えば、活力を有し、生物学的に活性である)製品であり、血管新生プロセスを完了させる能力を有さない最終滅菌された非生存細胞から構成される合成または他の組織ベースの製品とは異なる。さらに、いくつかの態様では、本開示の製品は、失活処理が行われないか、またはグルタルアルデヒドもしくは照射処理で「固定化」されない。
【0173】
さらに他の態様では、本明細書に記載及び開示される異種移植製品は、行われる処理操作が最小限に留まるものであり(例えば、関連する細胞、臓器、または組織が物理的に改変されない)、その結果、そのような製品は、実質的にその自然状態にある。
【0174】
さらに他の態様では、本明細書に記載及び開示される異種移植製品は、ヒトレシピエントとの有機的な調和をもたらす能力を有し、こうした有機的な調和には、限定されないが、血管新生、コラーゲン増殖(例えば、皮膚に関するもの)、及び/または移植片接着、有機的な調和、もしくはレシピエントによる他の一次的もしくは永続的な許容を誘導する移植レシピエント由来の他の相互作用、との親和性が生じることが含まれる。
【0175】
さらに他の態様では、本明細書に記載及び開示される異種移植製品は、免疫抑制剤または他の免疫抑制治療を使用することを必要とせずに異種移植において利用されて所望の治療結果が達成される。
【0176】
他の態様では、本明細書に記載及び開示される異種移植製品のいくつか(例えば、皮膚)は、本発明に沿って、凍結保存によって保管されるか、新鮮なまま(凍結を伴うことなく)保管されるか、またはそのような製品を保存する他の方法を介して保管される。保管は、細胞及び組織の生存度を保つ条件及びプロセスを使用することを含む。
【0177】
いくつかの態様では、保管は、氷上で滅菌等張液(例えば、抗生物質を含むか、または含まない滅菌生理食塩水)を使用するもの、-40℃付近または-80℃付近の温度で凍結保存用液体中で凍結保存するもの、及び当該分野で知られる他の方法、の任意の組み合わせで臓器、組織、または細胞を保管することを含み得る。そのような保管は、一次封じ込め系及び二次封じ込め系において行われ得る。
【0178】
さらに他の態様では、本明細書に記載及び開示される異種移植製品は、相同的使用のためのものであり、こうした相同的使用は、すなわち、レシピエントの臓器、細胞、及び/または組織を、ドナーのものと同じ基本機能(複数可)を果たす対応臓器、対応細胞、及び/または対応組織を用いて修復、再構築、置き換え、または補充を行うことである(例えば、ヒト腎臓用移植物としてブタ腎臓を使用すること、ヒト肝臓用移植物としてブタ肝臓を使用すること、ヒト皮膚用移植物としてブタ皮膚を使用すること、ヒト神経用移植物としてブタ神経を使用することなど)。
【0179】
さらに他の態様では、本明細書に記載及び開示される異種移植製品は、バイオバーデンが少ないことで、製品のバイオバーデン及び異種移植時の製品に対するヒトの体の免疫学的拒絶反応の増加に働き得る病原体、抗体、遺伝子マーカー、及び他の特徴が最小化されている。こうした免疫学的拒絶反応には、自然免疫系がPRR及びTLRを介してPAMPを検出し、対象異種移植製品を拒絶するものが含まれ得る。
【0180】
本明細書に開示及び記載される態様は、本発明が包含する態様の特徴及び/または態様のうちの1つ以上を含む一連の態様または異なる態様を創出するために、任意の数の組み合わせにおいて適用可能であることが理解されよう。
【0181】
本発明に従ってDPF閉鎖コロニーから得られる製品には多数の治療用途が存在することが理解されよう。例えば、そのような製品は、臓器、細胞、または組織の急性及び/または慢性の疾患、障害、または損傷、ならびに本明細書に開示の製品が利用され得るいずれか及びすべての他の病気を治療するために利用され得る。そのような治療及び/または療法には、そのような製品を(いくつかの態様では応急的に、他の態様では永続的に)利用して、ドナーのものと同じ基本機能(複数可)を果たすヒトレシピエントの対応臓器、対応細胞、及び/または対応組織を修復、再構築、置き換え、または補充することが含まれ得る。
【0182】
特定の治療用途には、限定されないが、肺移植、肝臓移植、腎臓移植、膵臓移植、心臓移植、神経移植、及び他の完全移植または部分移植が含まれる。皮膚に関して、治療用途には、限定されないが、熱傷、糖尿病性潰瘍、静脈性潰瘍、慢性皮膚状態、ならびに他の皮膚病、皮膚損傷、及び/または皮膚状態(限定されないが、重度かつ広範な深達性の部分層及び全層の損傷、病気、及び/または状態を含む)の治療(例えば、本明細書の実施例2を参照のこと)、総体表面積の30%以上を構成する真皮深層熱傷または全層熱傷を有する成人患者及び小児患者における使用(この使用は、任意選択で、分層自家移植片を併用して行われるか、または患者の創傷/熱傷の重症度及び程度が理由で分層自家移植片が選択肢となり得ない患者については単独で行われる)、本発明に従って得られる肝臓製品を用いる肝不全、創傷、病気、損傷、及び/または状態の治療、末梢神経損傷ならびに他の神経病、神経損傷、及び/または神経状態の治療、ならびにDPF閉鎖コロニーから収集される材料を利用する細胞治療及び他の治療も含まれ、こうした治療には、米国特許第7,795,493号(「Phelps」)に開示の治療的使用が含まれ、こうした治療的使用には、ある特定の障害に対する細胞治療及び/または細胞注入(30列目1行目~31列名9行目に開示のもの)ならびにある特定の障害または病状の治療(31列目10~42行目に開示のもの)が含まれ、当該文献の開示内容は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0183】
本明細書には治療が具体的に記載されるが、こうした具体的な記載は、本明細書に開示及び記載される製品の治療用途の型をいかなる様式においても限定しないことが理解されよう。こうした治療用途の対象となるものには、下記の臓器、組織、及び/または細胞の急性及び/または慢性の疾患、障害、損傷が含まれる:皮膚、腎臓、肝臓、脳、副腎、肛門、膀胱、血液、血管、骨、脳、脳、軟骨、耳、食道、眼、腺、歯ぐき、毛、心臓、視床下部、腸、大腸、靱帯、唇、肺、リンパ、リンパ節及びリンパ管、乳腺、口、爪、鼻、卵巣、卵管、膵臓、陰茎、咽頭、下垂体、幽門、直腸、唾液腺、精嚢、骨格筋、皮膚、小腸、平滑筋、脊髄、脾臓、胃、腎上体、歯、腱、精巣、胸腺、甲状腺、舌、扁桃腺、気管、尿管、尿道、子宮、子宮、腟、乳輪組織、血液、咽頭扁桃組織、骨組織、褐色脂肪組織、網状組織、軟骨組織、軟骨、海綿組織、軟骨様組織、クロム親和性組織、結合組織、肉様膜様組織、弾性組織、上皮組織、表面被覆組織、脂肪組織、線維硝子組織、線維組織、ギャンジー包帯、ゼラチン様組織、肉芽組織、腸管関連リンパ系組織、ハラー脈管組織、硬性の造血組織、未分化組織、間質組織、被覆組織、島組織、リンパ組織、リンパ系組織、間葉組織、中腎組織、膠様組織、多房性脂肪、筋組織、骨髄組織、軟組織鼻点、腎発生組織、神経組織、結節組織、骨組織、造骨組織、類骨組織、根尖周囲組織、細網組織、網状組織、ゴム状組織、骨格筋組織、平滑筋組織、及び皮下組織;血液細胞、血液前駆細胞、心筋細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、内皮細胞、表皮細胞、上皮細胞、線維芽細胞、顆粒膜細胞、造血細胞、ランゲルハンス島細胞、ケラチノサイト、リンパ球(B及びT)、マクロファージ、メラノサイト、単球、単核細胞、神経系細胞、他の筋細胞、膵臓アルファ-1細胞、膵臓アルファ-2細胞、膵臓ベータ細胞、膵臓インスリン分泌細胞、脂肪細胞、上皮細胞、大動脈内皮細胞、大動脈平滑筋細胞、アストロサイト、好塩基球、骨細胞、骨前駆細胞、心筋細胞、軟骨細胞、好酸球、赤血球、線維芽細胞、グリア細胞、肝細胞、ケラチノサイト、クッパー細胞、肝臓星状細胞、リンパ球、微小血管内皮細胞、単球、神経幹細胞、ニューロン、好中球、膵島細胞、上皮小体細胞、耳下腺細胞、血小板、始原幹細胞、シュワン細胞、平滑筋細胞、甲状腺細胞、腫瘍細胞、臍帯静脈内皮細胞、副腎細胞、抗原提示細胞、B細胞、膀胱細胞、頸部細胞、錐体細胞、卵細胞、上皮細胞、生殖細胞、有毛細胞、心臓細胞、腎細胞、ライディッヒ細胞、黄体細胞、マクロファージ、メモリー細胞、筋細胞、卵巣細胞、ペースメーカー細胞、管周細胞、下垂体細胞、形質細胞、前立腺細胞、赤血球、網膜細胞、桿体細胞、セルトリ細胞、体細胞、精子細胞、脾細胞、T細胞、精巣細胞、子宮細胞、腟上皮細胞、白血球、線毛細胞、円柱上皮細胞、ドーパミン作動性細胞、ドーパミン作動性細胞、胚性幹細胞、子宮内膜細胞、線維芽細胞、胎児線維芽細胞、濾胞細胞、杯細胞、角質化上皮細胞、肺細胞、乳腺細胞、粘液細胞、非角質化上皮細胞、骨芽細胞、破骨細胞、骨細胞、ならびに扁平上皮細胞。このリストは、急性及び/または慢性の疾患、障害、損傷、臓器不全または組織不全、ならびに本明細書に開示の製品が利用され得るいずれか及びすべての他の病気を治療するための一連の治療的使用を限定することを、いかなる様式においても意図するものではない。
【0184】
熱傷(限定されないが、例えば、第II度熱傷及び第III度熱傷を含む)の治療に関して、いくつかの態様では、本発明に従って得られる皮膚製品は、重度かつ広範な深達性の部分層熱傷及び/または全層熱傷を有するヒト患者を治療するために使用される。そのような製品は、使用前にエクスビボで増殖しない最終分化した細胞型を含み、所期の治療期間中に適用部位から遊走することはない。したがって、腫瘍原性が生じる可能性は無視できる。
【0185】
そのような製品は、創傷床に接着し、熱傷直後期間中に障壁機能を与える。そのような製品は、最終滅菌されていない生存細胞を有することから、レシピエントにおいて移植組織の血管新生を生じさせることが可能である。いくつかの態様では、表皮は、完全にインタクトなままであり、真皮成分は、さまざまな細胞及び組織の構造的な形態及び秩序が変化することなく維持される。この生理学的構造は、移植材料の生存長期化を支援し、同種移植片と同等以上の顕著な臨床効果を伴って少なくとも応急的な障壁機能を与える。いくつかの態様では、感染の臨床徴候(例えば、疼痛、浮腫、紅斑、温感、体液排出、臭気、または原因不明の発熱)が存在するか、または発生している場合、そうした感染の臨床徴候が、所定の期間(例えば、1日、2日、3日、4日、5日、6日、もしくは7日、1週間、2週間、3週間、もしくは4週間)減少もしくは消失するか、または対象が検査で感染陰性となるまでは、本開示の製品は適用されない。いくつかの態様では、創傷は、浄化され、血管新生が良好に誘導されること、及び滲出がないことが確認される。真皮代用物(死体同種移植片など)も使用される場合、生着同種移植片から表皮層が除去された後に、生着真皮を除去することなく製品が適用される。表皮層は、施設の標準的作業手順に従って採皮機器または他の器具を用いて除去され得る。
【0186】
臨床診療において通常使用される移植片は、脱細胞化及び/または再構成された均質化真皮シートからなり、この均質化真皮シートは、表在性創傷の応急的な被覆の達成に使用される。そのような従来の移植片は、元の組織構造も保持せず、代謝的な活性も有さず(これらは、通常なら細胞に自然に存在する)、それ故に、血管新生が誘導されず、内部への毛細血管成長または血管間の結合が生じない。対照的に、本明細書に記載の皮膚製品は、そのような移植片とは基本的に区別されるものであり、これは、本開示の製品が、患者の元の皮膚と同じ機能を発揮する生存細胞を含むためであり、すなわち、当該製品は、臓器移植物として働く。皮膚は、ホメオスタシス、温度制御、体液交流、及び感染阻止と関連する非常に重要な役割を追加で果たす。十分な量の皮膚が存在しないと、こうした機能を発揮する能力が損なわれることで、感染及び体液喪失に起因して死亡及び病的状態の発生率が高まり得る。皮膚移植物は、著しい創傷を有する患者にこうした転帰が生じることを阻止するために、注目すべき臨床的利点を伴って確実に使用されており、そうした移植片が応急的または永続的なものであるかは無関係である。したがって、他の提唱移植物とは異なり、免疫抑制剤の使用は不要となることが想定される。実際、損傷によってあるレベルの免疫機能不全が既に生じている熱傷患者では、そのようなレジメンは禁忌となるであろう。したがって、成型されてシートまたはメッシュ状になった再構成された均質化野生型ブタ真皮からなる従来の「異種移植片」製品(EZ-Derm(商標)またはMedi-Skin(商標)など)と本開示の異種移植製品を混同すべきではない。そのようなブタ異種移植片は、血管新生を誘導せず、主に浅達性熱傷の応急的な被覆にのみに有用である。全く対照的に、本開示の異種移植製品は、代謝的に活性であり、細胞に対する処理操作が最小限に留まっており、こうした細胞が供給源組織と同一の立体構造及び不変の形態を有するものである。
【0187】
いくつかの態様では、本開示は、ドナー皮膚を異種移植して、同じ動物ドナーから得られる他の臓器の拒絶反応を予測するための検査とすることを含む。ヒトドナー皮膚を使用してそのような予測検査を実施するための手法については、以前に報告されており、こうした報告は、例えば、Moraes et al.,Transplantation.1989;48(6):951-2、Starzl,et al.,Clinical and Developmental Immunology,vol.2013,Article ID 402980,1-9、Roberto et al.,Shackman et al.,Lancet.1975;2(7934):521-4において行われており、これらの文献の開示内容は、それらの全体があらゆる目的のために参照によって本明細書に組み込まれる。Moraesの報告によれば、この交差適合手順は、早期の腎臓移植拒絶反応を予測する上で高度な正確性を有していた。Shackmanの報告によれば、有望な生存ヒト腎臓ドナーから取り出した皮膚移植片の運命は、同じドナーから得られた腎臓移植の結果とよく相関するものである。本開示によれば、一態様では、本開示は、ヒト患者に皮膚試料を異種移植することで、同じ動物ドナーから異種移植する他の臓器がヒト患者において拒絶されるリスクが存在するかどうかを決定する方法を含む。
【0188】
いくつかの態様では、本開示の異種移植製品は、規制上の要件を満たす薬物動態特性及び薬力学特性を有する。そのような特性を特徴付けるには、薬物の吸収、分布、代謝、及び排泄の古典的意義に関する特有の手法が必要である。薬物動態を考慮する目的のための異種移植製品の「吸収」は、異種移植製品に生じる血管新生プロセスによって説明され得る。例えば、手術後すぐに、皮膚異種移植製品は、温かさ、柔らかさ、及びピンク色を呈し得るが、野生型または従来の異種移植片の見た目は、血管新生を誘導しない「白色の移植片」である。いくつかの態様では、移植物の分布は、移植物の部位に限られ、このことは、移植部位を超えて末梢血にブタ細胞が存在するか否かを実証するためのDNA PCR検査によって確認される。
【0189】
他の態様では、本発明に従って生産される生物学的製品の細胞は、異種移植後に遊走してレシピエントに入り込むこと(レシピエントの循環に入り込むことを含む)はない。このことには、PERVまたはPERVに感染したブタ細胞が遊走してレシピエントに入り込まないことが含まれる。そのような細胞が遊走してレシピエントに入り込まないことの確認は、多くの方法によって実施され得る。こうした方法には、移植部位ならびに灌流が高度に生じる臓器(例えば、肝臓、肺、腎臓、及び脾臓)から得られる末梢血単核球(PBMC)及び試料をDNA-PCR分析することで、末梢血へのブタ細胞(DNA)またはブタレトロウイルス(RNA)成分の遊走がレシピエントにおいて生じなかったことを決定するか、またはその他の様式で実証するものが含まれる。
【0190】
さらに、異種移植製品の生物学的利用率及び作用機構は、サイズの影響を受けない。異種移植製品の分布は、適用部位に限られる。例えば、皮膚移植物の場合、外傷または熱傷によって初期に創出される創傷床が清拭されたものが適用部位となる。本開示は、適用部位を超えて末梢血、創傷床、脾臓、及び/または腎臓に異種移植製品由来の細胞が分布していないかを検査して検出することを含む。ある特定の態様では、そのような検査では、適用部位を超えて末梢血、創傷床、脾臓、及び/または腎臓に異種移植製品由来の細胞が存在しないことが実証されることになる。そのような検査は、製品の取得元である型の動物に存在するさまざまな細胞マーカー(例えば、PERV、ブタMHC、及び他のブタDNA配列)を検査するDNA PCRを含み得る。ある特定の態様では、異種移植製品由来の細胞及び核酸は、適用部位に限局して留まる。
【0191】
異種移植製品の代謝は、生体によってそうした薬物が代謝分解されること(典型的には、特殊な酵素または酵素系を介して生じる)として伝統的には定義されるものであり、前述の自然宿主拒絶現象と一致し得、この自然宿主拒絶現象は、外来性の免疫抑制剤の非存在下で生じるものである。ヒトでの将来の使用が意図されるものと同じ製剤及び同一の適用経路を介して、臨床的に有用な期間中にそのような異種移植製品がたどる免疫拒絶過程は、同種移植片比較物と同様の遅延型のものである。
【0192】
同様の様式で、異種移植製品の排泄は、抗体介在性の血管損傷に起因してそうした移植物に壊死性の虚血が生じて、組織が最終的に死に至る結果として生じる臨床的な「脱落」現象によってモデル化され、実験的に監視され得る。
【0193】
本開示の異種移植製品の有効性は、安全性、利用可能性、保管、有効期間、及び分布と併せて実証されており、これによって、現在の標準治療を上回る大きな利点が得られる。
【0194】
いくつかの態様では、本開示の異種移植製品の「用量」は、単位移植面積当たりの製品中の生存細胞のパーセントとして表される。したがって、いくつかの態様では、本開示の異種移植製品は、医薬品中の活性医薬成分に類似するものと見なすことができる。
【0195】
本開示の異種細胞、異種組織、または異種臓器の生存度は、以下のことを回避することによって上昇する:(a)異種移植製品への免疫細胞もしくは炎症性細胞の浸潤、または他の関連コンパートメント(血液及び脳脊髄液など)におけるそのような細胞の変化、(b)異種移植製品の線維性被包(例えば、結果的に、機能が損なわれるもの、または異種移植製品が損失するもの)、(c)異種移植製品の壊死、(d)移植片対宿主病(GVHD)、ならびに(e)拒絶応答または炎症応答を弱めることを意図する封入または障壁をインビボで機能させ永続させること。
【0196】
子ブタから血液試料が採取され、FITC-IB4標識化及びフローサイトメトリーを使用して表現型(血液細胞の細胞表面上でのアルファガラクトースの発現を欠いていること)の検査が行われる。この発育段階において、すべての後代が、出生時に遺伝子型判定を受けることになる。ブタが野生型ガラクトース-α1,3ガラクトーストランスフェラーゼ遺伝子(Gal-T)を有するかどうか、またはGal-Tノックアウト(Gal-T-KO)についてブタがヘテロ接合型もしくはホモ接合型であるかどうかを、耳切時試料またはPBMCから単離されるDNAを使用して決定するためのPCRアッセイは確立されている。ゲノムDNAは、Qiagen DNeasyキットの指示に従ってDNeasyキットを使用してPBMC(または皮膚組織)から単離される。PCRは、ゲノムDNAならびに対照テンプレートDNA(野生型Gal-T(+/+)、ヘテロ接合型Gal-T-KO(+/-)、及びホモ接合型Gal-T-KO(-/-))で実施される。
【0197】
75-cm2フラスコに入れた培養培地(10%ウシ胎児血清、ならびにグルタミン、ペニシリン、及びストレプトマイシンが添加されたダルベッコ改変イーグル培地)中で維持されたサブコンフルエントの標的細胞(ヒト293(腎臓被覆組織)細胞株及びブタST-IOWA細胞株)と共に皮膚移植片のパンチ生検検体が共培養される。この生検検体は、標的細胞と接触させながら5日間保持された後、培養培地及び残存組織が除去され、必要に応じて継代培養によって標的細胞共培養物が維持される。培養上清中の逆転写酵素(RT)活性の存在によって標的細胞のPERV感染が決定される。伝染アッセイは、陰性と見なされる前に最低でも60日間維持される。
【0198】
安全性、同一性、純粋性、及び有効性を測定するための製品の特徴付けが実施される。安全性検査には、細菌及び真菌の無菌性、マイコプラズマ、ならびにウイルス物質が含まれる。本開示は、すべての最終異種移植製品の試料(すなわち、細胞もしくは組織、または臓器の生検検体)を、新鮮なものか、またはエクスビボでの培養から得られるものかにかかわらず、必要に応じてさらに検査するために凍結保存すること及び収集保管すること含む。場合によっては、例えば、異種移植製品がインタクトな全臓器である場合、関連代用試料(例えば、隣接組織または対側臓器)が収集保管される。
【0199】
皮膚に関して、ブタ皮膚の保管及び凍結保存の特徴付けは完全には行われておらず、特に生存度に関しての特徴付けが不完全である。これは、ほとんどのブタ異種移植片が意図的に失活されるか、またはグルタルアルデヒドもしくは照射処理を用いて「固定化」されるためである。そのような情報は、活力のあるブタ皮膚移植片またはブタ皮膚移植物を、応急的及び臨床的に有利な選択肢として使用することを支援する上で必要なものである。
【0200】
異種移植製品を供給源動物から取り出した直後に移植する手順(全臓器の異種移植など)では、異種移植製品を臨床的に使用する前にその検査結果が利用不可能な場合があり得る。そのような場合、実施可能な検査は、そうした手順の前に行う供給源動物自体の検査がすべてとなり得る。そのような異種移植製品から採取される試料または適切な関連生物学的代用物(例えば、隣接組織もしくは対側臓器)の検査は、本開示に従って実施され得る。微生物学的検査方法は、以下の表3に示される態様を含み得る:
【表3-1】
【表3-2】
【0201】
本開示は、塩化ナトリウム-ペプトン緩衝溶液(pH7.0)またはリン酸緩衝液(pH7.2)を使用して検査懸濁液を調製することを含む。この懸濁液によってA.brasiliensisの胞子が懸濁され、この緩衝液には、ポリソルベート80が0.05%添加され得る。本開示は、この懸濁液を2時間以内に使用するか、または2℃~8℃で保管する場合は24時間以内に使用することを含む。A.brasiliensisまたはB.subtilisの新鮮な栄養細胞懸濁液を調製し、その後に希釈することの代替法としては、安定胞子懸濁液が調製され、その後にこの胞子懸濁液が適切な量で検査播種に使用される。安定胞子懸濁液は、検証期間中は2°~8°で維持され得る。検査条件を検証するために、検査調製物の代わりに選択希釈液を使用して陰性対照が実施される。微生物の増殖が生じてはならない。製品の検査時には、「製品の検査」に記載されるように陰性対照も実施される。陰性対照が失敗した場合は調査が必要である。微生物学的検査は、USP61、USP63、USP71、USP85 EPセクション2.6.13 非滅菌製品の微生物検査(特定微生物の検査)に従って実施することができ、これらはそれぞれ、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0202】
ブタサイトメガロウイルス(PCMV)の検査に関して、供給源動物は、3ヶ月ごとにPCMVについてスクリーニングされる。しかしながら、帝王切開で得られた子ブタが、その後に閉鎖コロニーで一貫して育てられる場合、こうした子ブタはPCMVに感染しない。PCMVの分析は、本明細書の実施例1の試験中に実施し、下記のPCR法を使用してパンチ生検試料中にPCMVが検出されることはなかった。こうした結果は、鼻腔スワブから得られたPCR結果と一致していた。PCMVの検査には定量的リアルタイムPCRが利用される。Stratagene Mx3005Pを使用してリアルタイムPCRによって標的DNA配列を定量化した。各遺伝子標的に対して配列特異的プライマー及びTaqManプローブを生成させた。標的DNA、800nMのプライマー、200nMのTaqManプローブ、20nMのRox参照色素、及び1×Brilliant III Ultra Fast Master Mixを各25uLのPCR反応液に含めた。PCRサイクル条件は下記の通りである:95℃5分のサイクルを1回実施後、95℃10秒の変性及び60℃30秒のアニーリング-伸長反応のサイクルを50回実施し、各伸長反応の後にデータを収集。ゲル抽出増幅産物をクローニングしたInvitrogen TOPOプラスミドを段階希釈したものを定量化用標準物質として使用した。標的DNAの検出は、コピー数が10~106となる直線ダイナミックレンジで行われる。PCMV DNAの定量化については、300ngの異種移植片ブタ腎臓DNAをTaqMan PCRにおいて3連で分析した。PCMV DNAポリメラーゼ遺伝子に特異的なプライマー及びプローブは、PLHV-1との交差反応性が存在しないことが示されている。帝王切開で得られたブタを供給源動物として利用し、得られる閉鎖コロニーでの動物飼育を併せて行い、障壁隔離条件を維持することによって、動物がPCMVを含まないものと見なされる。皮膚に関して、(トリプルノックアウトとは対照的に、またはさらに遺伝的に改変されたブタとさえ異なって)シングルノックアウトブタを使用することで実施例1において安全性及び有効性を示す結果が達成されたことは、同種移植片と同等の性能が得られたことを鑑みると、非常に驚くべきことであることに本発明らは気付いた。
【0203】
いくつかの態様では、異種移植製品の検査に使用される分析手順には、下記のものも含まれ得る:
a.USP<71>無菌性.適切なようにトリプティックソイブロス(TSB)または液状チオグリコール酸培地(FTM)に試料を移す。静菌作用及び静真菌作用については、Bactillus subtilisの24時間培養物及びCandida albicansの24時間培養物の100コロニー形成単位(CFU)未満の種菌、ならびに胞子数100未満のAspergilius braseiliensisをTSB試料に添加する。FTM試料に対しては、Staphyloccocus aureusの24時間培養物、Pseudomonas aeruginosaの24時間培養物、及びClostridium sporogenesの24時間培養物の100CFU未満の種菌を添加する。増殖が観察されない場合、その製品は静菌性または静真菌性であることが明らかとなり、USP<71>無菌性検査に不合格である。
b.好気性細菌及び嫌気性細菌の培養.適切なようにトリプティックソイブロス(TSB)または液状チオグリコール酸培地(FTM)に試料を移す。潜在的な増殖が可能になるように容器をインキュベートする。微生物が増殖したという証拠が見つからない場合、その製品は、USP<71>に記載の無菌性検査に適合すると判断されることになる。
c.マイコプラズマアッセイUSP<63>.100mLのマイコプラズマHayflickブロスに新鮮な試料を添加し、37℃で最大21日間インキュベートする。2~4日後、7~10日後、14日後、及び21日後に試料を継代培養する。次に、プレートを37℃で最大14日間インキュベートし、マイコプラズマコロニーの存在について調べる。非検出の場合、その製品は、USP<63>に適合することが明らかとなり、マイコプラズマを含まない。
d.エンドトキシンUSP<85>.カブトガニ血球抽出物(LAL)検査の阻害/促進について同じロット由来の3つの試料を検査する。試料当たり40mLのWFIを用いて試料を37℃で1時間抽出する。次に、5~50EU/mLの範囲の標準曲線を用いてLALカイネティック比色法において検証済希釈率で試料を検査する。USP<85>に従ってアッセイを実施する。
e.細胞生存度のMTTアッセイ.[3-4,5ジメチルチアゾール-2-イル]-2,5ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)代謝についての生化学的アッセイを使用して医薬品の代謝活性を対照組織試料と比較して試験する。新鮮な異種移植製品組織(陽性対照)もしくは異種移植製品組織の熱不活化ディスク(陰性対照)である陽性対照試料及び陰性対照試料、または異種移植製品の検査品を、MTT溶液(0.5mLのDMEM中0.3mg/mL)を含む黄褐色の微量遠心チューブに入れる。これらのディスクをMTTホルマザンで処理し、CO2含量5%の空気の雰囲気下、37℃で180±15分間インキュベートする。それらのディスクを取り出すことによって反応を停止し、環境温度で24時間以内のインキュベートを行うか、または4℃で72時間以内の冷蔵を行うことによってホルマザンを抽出する。この間、試料の遮光を行う。抽出完了後に一定分量を取り、550nmでの吸光度を測定し(630nmを参照波長とする)、標準曲線と比較する。
f.細胞外糖鎖エピトープのIB4アッセイ.細胞上にガラクトシル-a-1,3-ガラクトース(アルファ-Gal)エピトープが存在しないことを、蛍光活性化フローサイトメトリーを使用して決定する。蛍光色素標識型イソレクチン-B4(FITC-I-B4)を用いて全血中の白血球を染色し、野生型陽性対照から得た血液及びGal-T-KO供給源動物から得た血液に対する比較を2回行う。出生時にすべての供給源動物に検査(1回目)を行う。供給源動物の屠殺時に採取した全血を用いて同じ検査(2回目)を実施し、遺伝子ノックアウトの安定性及びアルファ-Galの陰性表現型について検査する。イソレクチンは、野生型ブタ由来の細胞上のエピトープには結合するが、Gal-T-KOブタ由来の細胞上には結合しない。このアッセイは、遺伝的に操作された供給源動物中にアルファ-galエピトープが存在しないことの確認となる。遺伝子が自発的に再び活性化し、屠殺後にアルファ-Gal部分が再び発現していることはまずあり得ず、予期することは非合理的であるが、仮にアルファ-Gal部分が含まれることになれば、異種移植製品の有効性に悪影響を及ぼし、異種移植製品が野生型ブタ組織と似たものとなり、以前に実証されたように超急性拒絶反応が生じることになる。
g.PERVウイルスアッセイ.PERV polの定量化 Stratagene MX300Pリアルタイムサーモサイクラー(Agilent Technologies)を使用して、50サイクルのPERVポリメラーゼ定量的TaqMan PCRにおいてRT反応液の1:625希釈液10uLを3連で増幅した。「RT酵素なし」の対照RT反応液の1:25希釈液10uLを同様に処理した。PCR条件では、PERV polのフォワードプライマー及びリバースプライマー(最終濃度800nM)及びPERV polのプローブ(最終濃度200nM)を使用した。20nMのROXレポーター色素(600880 Agilent Technologies)及び0.04ユニット/μLのUNGヌクレアーゼ(N8080096、Life Technologies)が添加されたBrilliant III Ultra Fastマスターミックス(600880 Agilent Technologies)を使用した。サイクル条件では、50℃10分のサイクルを1回実施後、95℃10分のサイクルを1回、95℃10秒の後60℃30秒のサイクルを50回実施し、各サイクルの終了時にデータを収集した。PERV polの絶対コピー数、ならびにブタMHC-I核酸及びブタGAPDH核酸の絶対コピー数をインプットcDNAのナノグラム当たりとして測定した。PERV DNA及びPERV RNAの存在について検査は、本明細書に記載のように解凍したパンチ生検試料、及び洗浄した異種移植製品で行う。
h.組織学的検査及び形態学的検査.異種移植製品の試料を、記載の製造プロセス後に、細胞の形態及び秩序を検査するために採取する。視認検査による顕微鏡下での検証を行って異種移植製品組織の細胞の形態及び秩序が正しく、異常細胞浸潤集団が存在しないことを確かめる。
i.出荷アッセイ試料採取方法論.すべての最終異種移植製品ロット単位が創出された時点で、必要な合否判定基準を得るための製造出荷アッセイにおいて使用するために独立かつ無作為に単位を選択する。こうした単位を、さまざまな研究業者へのロット出荷用として印を付け、必要なcGMP条件に従ってさまざまな分析検査を実施する。
【0204】
同様に、ヒトでの臨床使用のための検証に先立って、最終異種移植製品はすべて、材料用のドナーブタを選択するための合否判定基準を満たさなくてはならず、こうした合否判定基準には、(i)規定の系統についての医療記録の審査、(ii)フローサイトメトリーでの評価基準によるアルファ-1,3-ガラクトースの検査結果についての医療記録の審査、(iii)すべてのワクチン接種の実施歴についての医療記録の審査、(iv)ブタの生存期間にわたって実施される監視検査についての医療記録の審査、(v)供給源動物の外来性病因物質スクリーニング、(vi)ブタの生存期間にわたる感染についての医療記録の審査、及び(vi)動物の生存期間中に認められた任意の皮膚異常についての医療記録の審査、が含まれる。
【0205】
最終異種移植製品の管理方針及び分析検査が製造プロセスの終局時に実施された後で、臨床使用に向けての出荷が行われる。必要な分析検査の結果は、異種移植製品医薬品の各ロットに関するマスターバッチ記録と共に維持される異種移植製品医薬品分析証明書(COA)を介して文書化されることになる。
【0206】
以下の表4は、異種移植製品材料に関して実施される一連の検査のアッセイ及び結果のリストである。
【表4】
【0207】
別の態様では、種、系統、地理的起源、組織型、及び生じる徴候を含めて、供給源動物に基づいて開発される外来性病因物質管理方針が含められることが理解されよう。細菌、真菌、マイコプラズマ、及びウイルス微生物を含むように、外来性病因物質についての分析検査が実施され、こうした分析検査には、下記のものが含まれる:
a.細菌を含まない状態-細菌学的なスクリーニングを実施することで、ヒトで懸念が生じる可能性がある生物学的病因物質を医薬品が含まないことを確認する。好気性スクリーニング及び嫌気性スクリーニングの両方を実施して無菌性を確める。本明細書に記載のように試料を解凍し、適切なようにトリプティックソイブロス(TSB)または液状チオグリコール酸培地(FTM)に移す。潜在的な増殖が可能になるように容器をインキュベートする。微生物が増殖したという証拠が見つからない場合、その製品は、無菌性検査に適合すると判断されることになる。
b.菌類(真菌)を含まない状態-菌類のスクリーニングを実施することで、懸念が生じる可能性がある真菌物質を医薬品が含まないことを確認する。本明細書に記載のように試料を解凍する。解凍後、試料を大豆-カゼイン消化物寒天に移す。潜在的な増殖が可能になるように容器をインキュベートする。真菌が増殖したという証拠が見つからない場合、その製品は、USP<71>に従う無菌性検査に適合すると判断されることになる。
c.マイコプラズマを含まない状態-マイコプラズマのスクリーニングを実施することで、医薬品がマイコプラズマを含まないことを確認する。本明細書に記載のように試料を解凍し、100mLのマイコプラズマブロスに添加し、37℃で最大21日間インキュベートする。2~4日後、7~10日後、14日後、及び21日後に試料を継代培養する。次に、プレートを37℃で最大14日間インキュベートし、マイコプラズマコロニーの存在について調べる。非検出の場合、その製品は、USP<63>に適合することが明らかとなり、マイコプラズマを含まない。
d.エンドトキシンを含まない状態-エンドトキシンのスクリーニングを実施することで、エンドトキシン及び関連懸念物質を医薬品が含まないことを確認する。カブトガニ血球抽出物(LAL)検査の阻害/促進について同じロット由来の3つの試料を検査する。本明細書に記載のように試料を解凍し、試料当たり40mLのWFIを用いて37℃で1時間抽出する。次に、5~50EU/mLの範囲の標準曲線を用いてLALカイネティック比色法において検証済希釈率で試料を検査する。USP<85>に従ってアッセイを実施する。
e.実施ウイルスアッセイ-ウイルスアッセイを実施することで、懸念が生じる可能性のあるウイルス物質を供給源動物が含まないことを確認する(内在性ウイルスの確認)(以下を参照のこと)。これは、共培養、及び特定の潜在性の内在性ウイルス(PERVを含む)のRT-PCR検査を含む。供給源動物に対してインビボアッセイも実施することで、ロット出荷判定基準の重要側面として動物の健康及びウイルス感染の不在を監視する。PERVはブタ組織に固有のものであるという性質を有するため、これによって、結果が陽性であっても、そのような組織を使用することが可能であると見なされる。しかしながら、このウイルスをロット出荷に際して同定し、特徴付けることで、異種移植製品のレシピエントを監視するための情報を提供する。
f.細胞生存度アッセイ-MTTアッセイを実施することで、異種移植製品中の細胞が生物学的に活性な状態であることを確認する。ミトコンドリア活性のサロゲートマーカーを陽性(新鮮であり、凍結保存されていない)対照及び陰性(熱変性)対照と比較することで生存度の証拠を得る。異種移植製品が所期の臨床機能を与えるには細胞の活性が必要である。このことは、ロット出荷判定基準として必要であり、組織生存度が、新鮮な組織対照比較物が示す代謝活性の50%を下回るべきでないということが現在確立されている。
g.組織学的検査及び形態学的検査-表皮層及び真皮層をヘマトキシリン・エオシン(H&E)切片染色による視認検査によって顕微鏡下での検証を行って異種移植製品組織及び細胞浸潤集団の細胞の形態及び秩序が正しいことを確かめる。これを実施することで、異種移植製品に存在する細胞の生理学的な外見及び同一性が適切であることを確認する。異種移植製品は、行われた処理操作が最小限に留まるブタの真皮組織層及び表皮組織層から構成される。このことは、ロット出荷判定基準として必要である。表皮層中の下記の細胞層(最表層から最深層への順に記載される)の証拠を検証する:
i.角質層
ii.顆粒層
iii.有棘層
iv.基底層
真皮層中の下記の細胞構造の証拠を検証する:
v.血管(脈管構造の証拠)
vi.神経
vii.さまざまな腺
viii.毛包
ix.コラーゲン
【0208】
遺伝的に操作された供給源動物は、いずれの外来性DNAもゲノムに導入されておらず、用いられる遺伝子改変は、細胞表面抗原を遍在性に発現させる酵素のコードを担う単一の遺伝子のノックアウトのみである。1つ以上の態様における異種移植製品には、導入遺伝子技術(CD-46トランスジェニックコンストラクトまたはCD-55トランスジェニックコンストラクトなど)が組み込まれていないことが理解されよう。
【0209】
エンドトキシンのスクリーニングを実施することで、エンドトキシン及び関連懸念物質を医薬品が含まないことが確認される。エンドトキシンを含まない状態を保証するためのプロトコールは下記の通りである:カブトガニ血球抽出物(LAL)検査の阻害/促進について同じロット由来の3つの試料を検査する。試料を解凍し、抽出し、USP<85>に従って、5~50EU/mLの範囲の標準曲線を用いてLALカイネティック比色法において検証済希釈率で検査する。
【0210】
MTTアッセイを実施することで、製品中の細胞が生物学的に活性な状態であることが確認される。ミトコンドリア活性のサロゲートマーカーを陽性(新鮮であり、凍結保存されていない)対照及び陰性(熱変性)対照と比較することで生存度の証拠が得られる。製品が所期の臨床機能及び生存度パラメーター(一態様については、50%~100%の範囲のミトコンドリア活性)を与えるには細胞の活性が必要である。
【0211】
表皮層及び真皮層をヘマトキシリン・エオシン(H&E)切片染色による視認検査によって顕微鏡下での検証を行って異種移植製品組織及び細胞浸潤集団の細胞の形態及び秩序が正しいことが確かめられる。これを実施することで、製品に存在する細胞の生理学的な外見及び同一性が適切であることが確認される。
【0212】
皮膚異種移植製品については、表皮層中の下記の細胞層(最表層から最深層への順に記載される)の証拠が検証される:角質層、顆粒層、有棘層、基底層。真皮層中の下記の細胞構造の証拠が検証される:血管(脈管構造の証拠)、神経、さまざまな腺、毛包、コラーゲン。
【0213】
異種移植製品は、好気性細菌及び嫌気性細菌、真菌、ウイルス、ならびにマイコプラズマを含まない状態が確実に保持されるようにさらに加工され得る。異種移植製品は、収集直後、収集から1秒以内、2秒以内、3秒以内、4秒以内、5秒以内、6秒以内、7秒以内、8秒以内、9秒以内、10秒以内、10秒~1分以内、1分~1時間以内、1時間~15時間以内、または15時間~24時間以内に、適用可能な無菌手法を使用して医薬品加工特別室の層流フード内の滅菌条件の下で滅菌され、この滅菌は、例えば、UV照射または抗微生物剤/抗真菌剤を1つ以上使用して行われる。一態様では、製品は、抗微生物/抗真菌槽(「抗病原体槽」)に入れられ得る。抗病原体槽は、1つ以上の抗細菌剤(例えば、アンピシリン、セフタジジム、ネオマイシン、ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、セファロスポリン、ペニシリン、テトラサイクリン、バンコマイシン、及び同様のもの)、1つ以上の抗真菌剤(例えば、アムホテリシン-B、アゾール、イミダゾール、トリアゾール、チアゾール、カンジシジン、ハマイシン、ナタマイシン、ナイスタチン、リモシジン、アリルアミン、エキノキャンディン、及び同様のもの)、及び/または1つ以上の抗ウイルス剤を含み得る。抗病原体槽は、希釈剤として担体または媒体(例えば、RPMI-1640培地)を含み得る。いくつかの態様では、抗病原体槽は、少なくとも2つの抗細菌剤を含み得る。いくつかの態様では、抗病原体槽は、少なくとも2つの抗細菌剤及び少なくとも1つの抗真菌剤を含み得る。いくつかの態様では、抗病原体槽は、少なくとも4つの薬剤を含み得る。いくつかの態様では、抗病原体槽は、4つ以下、5つ以下、6つ以下、7つ以下、8つ以下、9つ以下、または10個以下の薬剤を含み得る。いくつかの態様では、抗病原体槽は、前述のものを任意の組み合わせで含み得る。
【0214】
製品は、UV光滅菌を使用して滅菌され得る。例えば、製品は、所望の時間(例えば、0.5分間、1分間、1.5分間、2分間、3分間、4分間、5分間、6分間、またはそれを超える時間)、UVランプの下に置かれた後、反対側にひっくり返され、同じか、または異なる時間、反対側にしてUVランプの下に置かれる。所与の試料がUVに曝露される時間は、滅菌対象となる特定の生物学的病因物質または生物学的病因物質の型によって異なり得る(例えば、後に示される表8に示されるように異なる)。例えば、少なくとも100uW/cm2のUV-C強度を有するUVランプを使用して、少なくとも2分間~最大で15分間、12分間、10分間、8分間、6分間、5分間、4分間、3分間、または2.5分間、製品を滅菌し、その後にひっくり返してその反対表面が少なくとも2分間~最大で15分間、12分間、10分間、8分間、6分間、5分間、4分間、3分間、または2.5分間、UVランプに曝露されるようにすることで、UV処理製品を得ることができる。UV-C用量は、少なくとも100,000uW秒/cm2~最大で800,000uW秒/cm2、700,000uW秒/cm2、600,000uW秒/cm2、500,000uW秒/cm2、400,000uW秒/cm2、300,000uW秒/cm2、または200,000uW秒/cm2である。UV-C用量は、少なくとも200,000uW秒/cm2~最大で800,000uW秒/cm2、700,000W秒/cm2、600,000W秒/cm2、500,000W秒/cm2、400,000W秒/cm2、または300,000uW秒/cm2である。少なくとも100uW/cm2のUV-C強度を有するUVランプを使用して、少なくとも2分間~最大で15分間、12分間、10分間、8分間、6分間、5分間、4分間、3分間、または2.5分間行われる。
【0215】
製品加工は、供給源動物の屠殺に始まり、最終製品の生産が完了するまでの連続的かつ自己完結型の分離された単一製造事象として行われる。動物は、家畜銃での安楽死によって安楽死させられ、必要に応じて非通気性滅菌バッグに入れた状態で、供給源動物からの生物学的製品の収集手順が行われることになる手術部屋に運ばれ得る。手術チームのすべてのメンバーが、供給源動物を受け入れる前に完全滅菌手術着を着用(例えば、滅菌着を着用)して、指定の病原体を含まない条件を維持し、場合によっては、手袋を二重に着用して汚染を最小限にとどめるべきであり、外科処理領域及び道具は滅菌される。供給源動物は、無菌様式でバッグ及び容器から取り出される。消毒剤(例えば、クロルヘキシジン)ブラシを用いて手術スタッフによって供給源動物が徹底洗浄され(この洗浄は、例えば、少なくとも1~10分間行われる)、この洗浄では、手術対象となる全動物領域が、そうした領域に定期的にクロルヘキシジンをかけながらくまなく徹底洗浄されることで、確実に洗浄が行きわたるようにされる。開封したBetadineブラシ及び滅菌水すすぎ液を用いて動物の外科処理領域(複数可)が徹底洗浄され(この洗浄は、例えば、1~10分間行われる)、この洗浄によって、手術対象となる全動物領域がくまなく徹底洗浄される。
【0216】
一態様では、皮膚に関して、本発明に従ってブタから得られる真皮組織からなる全層皮膚移植片創傷被覆材は、培養された表皮自家移植片と併せて使用されるか、または培養された表皮自家移植片と組み合わせて使用されることで、本開示による製品となり、この製品は、本開示の方法において使用することができるものである。適切な基質を確保するには、表皮自家移植片の適用に先立って、創傷床をしっかりと清拭することが必要である。創傷床が表皮自家移植片を受け入れる準備が整ったかを確認するために、本明細書に記載の皮膚製品(例えば、本開示の動物に由来する生物学的皮膚製品)が適用されて接着が確認される。接着が確認されると、この応急的創傷被覆製品が除去され、いくつかの態様では、メッシュ状自家移植を用いて創傷床が被覆され、この自家移植片メッシュ中のギャップを埋めるために1つ以上の培養表皮自家移植片製品が上に被せられる。
【0217】
創傷清拭は、機械的創傷清拭、化学的創傷清拭、酵素的創傷清拭、またはそれらの組み合わせを含み得る。機械的創傷清拭は、外科的切除(例えば、健康な組織が見えるまで真皮の薄層を除去するための接線切除、または基礎をなす筋膜に到達するまで真皮の全層を除去するための筋膜上切除)を含み得る。接線切除は、壊死組織と共に除去される生存組織を少なく済ますことができるが、典型的には失血が多くなるものであり、筋膜上切除と比較して生理学的ストレス要因が大きくなり、創傷清拭が「不完全」になる可能性が高くなり、失活組織がそのままいくらか残るものである。筋膜上切除では、失血及び手術時間は最少化されるが、熱傷組織と共に除去される健康な組織の量が多くなることが多い。創傷清拭剤には、外来物質及び壊死組織を除去することによって熱傷を浄化することが可能な薬剤が含まれ得る。そのような薬剤は多く知られている。酵素的創傷清拭では、コラゲナーゼ、または細胞外マトリックスのタンパク質を分解する他のタンパク質分解酵素を用いることで、手術を必要とせずに失活組織を一掃することが可能になり、一方で、好ましくは、健康な組織は実質的にインタクトなまま残る。酵素的創傷清拭は、壊死組織を分解するために創傷表面にタンパク分解酵素及び任意選択で他の外来酵素を適用することを含む。酵素的創傷清拭は、比較的緩徐なプロセスであり、他の局所調製物、浸漬、及び被覆材の反復適用と組み合わせて何週間にもわたって実施され得る。代わりに、複数の酵素製品を使用することで酵素的創傷清拭を迅速に達成することができ、こうした酵素製品は、例えば、パイナップル植物の幹から抽出されるもの(例えば、WO98/053850及びWO2006/0006167に開示もの)ならびに商品名Debrase(登録商標)で市販される製品において提供されるものである。酵素的創傷清拭の手順では、一般に、酵素が利用され、こうした酵素は、ブロメライン系酵素、デブリダーゼ(debridase)、コラゲナーゼ、パパイン系酵素、ストレプトキナーゼ、スティラインズ、フィブリノリジン、デオキシリボヌクレアーゼ、オキアミ系酵素、トリプシン、またはそれらの組み合わせなどである。自己分解性の創傷清拭は、マクロファージ及び内在性タンパク分解活性に起因して創傷に生じる健康な組織由来の壊死組織及び焼痂が選択的に液化、分離、及び消化される自然プロセスを増進することに依存するものである。このことは、密封性、半密封性、または湿潤相互作用性の被覆材を使用することによって達成される。酵素的創傷清拭剤には、ブロメライン高含有酵素製品、他のコラゲナーゼ、または失活組織もしくは創傷壊死組織片を浄化する能力を有する他の酵素製品が含まれる。NexoBrid(商標)(MediWound Ltd.)は、創傷被覆または被覆材製品を必要とする部分層創傷及び全層創傷をもたらす熱変性コラーゲンを特異的に分解標的とするブロメライン高含有製品の1つである。そのような製品及び方法は、米国特許第8,540,983号、同第8,119,124号、同第7,128,719号、同第7,794,709号、同第8,624,077号、及びUS2009/0010910A1に記載されており、これらの文献はそれぞれ、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0218】
いくつかの態様では、創傷床は、慢性創傷もしくは急性創傷を含むか、または慢性創傷もしくは急性創傷であり得る。慢性創傷には、限定されないが、静脈性下腿潰瘍、褥瘡、及び糖尿病性足部潰瘍が含まれる。急性創傷には、限定されないが、熱傷、外傷、切断創傷、皮膚移植片提供部位、咬創、凍傷、皮膚剥離、及び外科的創傷が含まれる。
【0219】
真皮が存在しない場合、本発明に従って製造された生物学的製品が利用される。そのような製品からは表皮が除去され(この除去は、例えば、VERSAJET(商標)Hydrosurgeryシステムを用いてブタの真皮を収集する前に行われる)、その結果、真皮のみが残される。次に、対象生物学的製品が患者の皮下組織の上に配置され、本明細書に記載の培養表皮自家移植片プロセスの基質となる。
【0220】
一態様では、本開示に従って得られる肝臓は、ヒト移植物が患者に移植されるまで、ヒト患者のための応急的フィルターとして体外灌流に利用される。DPF隔離区域内の手術区域において、供給源動物が、全身麻酔(ケタミン、キシラジン、エンフルラン)下に置かれるか、または家畜銃によって安楽死される。次に、指定の病原体を含まない条件の下で供給源動物の肝切除が実施される。供給源動物から得られる肝臓製品は、包装され、ヒトドナー肝臓での現行方式に従う手順が行われる場所に輸送され得る。肝臓ろ過製品を利用するための手順は、例えば、静脈流入用にヒト患者の内頸静脈に動脈カニューレを経皮的に挿入し、静脈流出用に患者の大腿静脈に動脈カニューレを経皮的に挿入することによって実施され得る。これらのカニューレは、バイパス回路に連結され、このバイパス回路には、遠心ポンプ、熱交換器、人工肺、及びローラーポンプが組み込まれている。この回路は、晶質液を用いて開始準備が整えられ、本開示による動物に由来する肝臓が安定流速(例えば、600~1000ml/分)で組み込まれるまでの一定時間(例えば、10~30分)回され、当該肝臓は、晶質液槽において維持され、この晶質液槽には、温かい溶液(例えば、30~40℃)が時折補充される。
【0221】
ブタからヒトへの異種移植との関連では、各ヒトレシピエントは、その個人に特有の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)(クラスI、クラスII、及び/またはクラスIII)を有し、このMHCは、ドナーブタのMHCとは不適合となることが理解されよう。したがって、ドナーブタ移植片がレシピエントに導入されると、ブタMHC分子自体が抗原として働き、レシピエント由来の免疫応答を誘発することで、移植拒絶反応を引き起こすことが理解されよう。
【0222】
ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子がヒト集団において示す配列多様性は途方もないものである。例えば、HLA-B遺伝子だけも4,000を超えるアレルの存在が知られている。HLA遺伝子の遺伝的多様性においては、異なる抗原の提示効率が異なるさまざまなアレルが存在し、この遺伝的多様性は、ヒトが曝露される広範な異なる病原体に対する集団レベルの抵抗性が向上するように進化が生じた結果であると考えられる。この遺伝的多様性は、レシピエントの免疫応答が移植後の生着及び生存の結果を左右する最も重要な因子である異種移植の中においては問題になるものでもある。
【0223】
本発明の一態様によれば、特定の一連の既知ヒトHLA分子を発現するように生物学的に操作されたゲノムを有するドナーブタが提供される。そのようなHLA配列は利用可能であり、例えば、IPD-IMGT/HLAデータベース(ebi.ac.uk/ipd/imgt/hla/にて利用可能)及びinternational ImMunoGeneTics information system(登録商標)(imgt.orgにて利用可能)において利用可能である。例えば、HLA-A1,B8,DR17は、コーカサス人種の中で最も一般に見られるHLAハプロタイプであり、その頻度は5%である。したがって、開示の方法は、本明細書で提供される本開示と組み合わせて既知のMHC/HLA配列情報を使用して実施され得る。
【0224】
いくつかの態様では、レシピエントのヒト白血球抗原(HLA)遺伝子ならびにMHC(クラスI、クラスII、及び/またはクラスIII)が同定され、マッピングされる。ヒトレシピエントのHLA/MHC配列を把握することは、当該技術分野で知られる任意の数の方法を用いることによって可能であることが理解されよう。例えば、HLA/MHC遺伝子は、通常、標的シークエンシング法(ロングリードシークエンシングまたはロングインサートショートリードシークエンシング)によって型が決定される。慣例的には、HLA型は、2桁分解能(例えば、A*01)で決定されており、この分解能は、血清学的抗原分類とほぼ同じである。より最近では、4桁分解能(例えば、A*01:01)でのHLAの型決定に配列特異的オリゴヌクレオチドプローブ(SSOP)法が使用されており、この分解能によれば、アミノ酸差異を区別可能である。現在のところ、HLAの型を決定するための標的DNAシークエンシングは、他の従来法と比較して最も一般的なHLA型決定手法である。配列ベースの手法では、コード領域及び非コード領域の両方が直接的に決定されるため、それぞれ6桁分解能(例えば、A*01:01:01)及び8桁分解能(例えば、A*01:01:01:01)でのHLA型決定が達成され得る。現存するHLAアレルを新たなアレルまたはヌルアレルと区別する上では、臨床的観点から、最高分解能でHLAの型を決定することが望ましい。そのようなシークエンシング手法については、例えば、Elsner HA,Blasczyk R:(2004)Immunogenetics of HLA null alleles:implications for blood stem cell transplantation.Tissue antigens.64(6):687-695、Erlich RL,et al(2011)Next-generation sequencing for HLA typing of class I loci.BMC genomics.12:42-10.1186/1471-2164-12-42、Szolek A,et al.(2014)OptiType:Precision HLA typing from next-generation sequencing data.Bioinformatics 30:3310-3316、Nariai N,et al.(2015)HLA-VBSeq:Accurate HLA typing at full resolution from whole-genome sequencing data.BMC Genomics 16:S7、Dilthey AT,et al.(2016)High-accuracy HLA type inference from whole-genome sequencing data using population reference graphs.PLoS Comput Biol 12:e1005151、Xie C.,et al.(2017)Fast and accurate HLA typing from short-read next-generation sequence data with xHLA 114(30)8059-8064に記載されており、これらの文献はそれぞれ、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0225】
既知のヒトHLA/MHCまたは個々のレシピエントのシークエンシングされたHLA/MHC配列(複数可)をテンプレートとして利用することで、既知のヒトHLA/MHC配列またはヒトレシピエントのHLA/MHC配列と一致するように(例えば、そうした配列との配列相同性が90%、95%、98%、99%、または100%となるように)ブタ白血球抗原(SLA)/MHC配列を改変することができる。使用すべき既知のヒトレシピエントHLA/MHC配列が同定されるか、またはヒトレシピエントの遺伝子シークエンシングを実施してHLA/MHC配列が得られると、所望のHLA/MHC配列に基づいてブタの細胞中のSLA/MHC配列に対して生物学的再プログラム化を実施することができる。例えば、標的を定めるためのガイドRNA(gRNA)配列を、本開示のブタにいくつか投与することで、ブタの細胞中のSLA/MHC配列がヒトレシピエントのテンプレートHLA/MHC配列によって再プログラム化される。
【0226】
CRISPR-Cas9を使用することで、ブタ細胞中の特定の天然遺伝子座に位置するMHCアレル全体の迅速かつ無痕跡の交換が媒介される。2つのgRNAを用いてCas9によるマルチプレックス標的化を行うことで、MHCアレルの隣に一本鎖切断または二本鎖切断が導入され、テンプレートHLA/MHC配列(一本鎖DNAテンプレートまたは二本鎖DNAテンプレートとして提供される)での置き換えが可能になる。ある特定の態様では、養母に移される前に、ブタの卵母細胞、卵子、接合体、または未分化胚芽細胞にCRISPR/Cas9要素が注入される。
【0227】
ある特定の態様では、本開示は、SLAが存在せず、HLAを発現する生物学的に再プログラム化されたブタの胚形成及び生児出生を含む。ある特定の態様では、本開示は、SLAが存在せず、HLAを発現する生物学的に再プログラム化されたブタを交配繁殖させて、SLAが存在せず、HLAを発現する後代を創出することを含む。ある特定の態様では、ブタ接合体への細胞質内マイクロインジェクションによってCRISPR/Cas9要素がブタ接合体に注入される。ある特定の態様では、CRISPR/Cas9要素がブタに注入された後、CRISPR/Cas9で遺伝的に改変された当該ブタの選択的交配繁殖が行われる。ある特定の態様では、CRISPR/Cas9要素がドナーブタに注入された後、当該ブタから細胞、組織、接合体、及び/または臓器が収集される。ある特定の態様では、CRISPR/Cas9要素は、遺伝子編集の制御に必要な要素をすべて含み、こうした要素には、米国特許第9,834,791号(Zhang)に記載の自己不活化に利用される制御性gRNA分子が含まれ、当該文献は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0228】
遺伝的改変は、既知のゲノム編集手法を利用して行うことができ、こうした手法は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、アデノ随伴ウイルス(AAV)介在性の遺伝子編集、及び規則的な間隔でクラスター化した反復回文配列Cas9(CRISPR-Cas9)などである。こうしたプログラム可能なヌクレアーゼは、DNA二本鎖切断(DSB)を標的位置に生成させることが可能であり、このDSBによって細胞の修復機構の上方制御が促進され、これによって非相同末端結合(NHEJ)のエラープローンプロセスまたは相同組換え修復(HDR)のいずれかが生じ、これらのうち、HDRを外来性のドナーDNAテンプレートの組み込みに使用することができる。CRISPR-Cas9を使用することで、細胞中のウイルス感染を除去することもできる。例えば、CRISPR-Cas9を介する遺伝的改変は、Kelton,W.et.al.,“Reprogramming MHC specificity by CRISPR-Cas9-assisted cassette exchange,”Nature,Scientific Reports,7:45775(2017)(「Kelton」)に記載の様式で実施することができ、当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。したがって、本開示は、CRISPR-Cas9を使用することで、アレル全体(例えば、MHC、HLA、SLAなど)の迅速かつ無痕跡の交換を媒介して再プログラム化を行うことを含む。
【0229】
一態様では、レシピエントのHLA/MHC遺伝子がシークエンシングされ、レシピエントのHLA/MHC遺伝子に基づいてテンプレートHLA/MHC配列が調製される。別の態様では、本開示のブタを遺伝的に再プログラム化するために、WHOデータベースから得られる既知のヒトHLA/MHC遺伝子型が使用され得る。CRISPR-Cas9プラスミドは、例えばポリメラーゼ連鎖反応を使用して調製され、レシピエントのHLA/MHC配列が、テンプレートとしてプラスミドにクローニングされる。ブタ細胞中のSLA/MHC遺伝子座のCRISPR切断部位が同定され、切断部位を標的とするgRNA配列が1つ以上のCRISPR-Cas9プラスミドにクローニングされる。次に、CRISPR-Cas9プラスミドがブタ細胞に投与され、ブタ細胞のMHC遺伝子座においてCRIPSR/Cas9による切断が生じる。
【0230】
既知のヒトHLA/MHC配列またはレシピエントのシークエンシングされたHLA/MHC遺伝子と一致する1つ以上のテンプレートHLA/MHC配列を用いてブタ細胞中のSLA/MHC遺伝子座が置き換えられる。SLA/MHC再プログラム化ステップの実施後にブタの細胞がシークエンシングされて、ブタ細胞中のHLA/MHC配列の再プログラム化が成功しているかどうかが決定される。HLA/MHC配列が再プログラム化されたブタから得られる1つ以上の細胞、組織、及び/または臓器がヒトレシピエントに移植される。
【0231】
ある特定の態様では、HLA/MHC配列が再プログラム化されたブタは、少なくとも一世代または少なくとも二世代にわたって、交配繁殖されてから、異種移植において使用される生存組織、生存臓器、及び/または生存細胞の供給源として使用される。ある特定の態様では、CRISPR/Cas9要素は、PERV活性を担う遺伝子(例えば、pol遺伝子)を不活化するためにも利用され、それによってブタドナーからPERVが同時に完全除去され得る。
【0232】
ドナーSLA/MHCを改変してレシピエントHLA/MHCと一致させる目的については、ヒト組織適合遺伝子複合体及びブタ組織適合遺伝子複合体のゲノム構成を比較してマッピングすることが行われている。例えば、そのようなSLAとHLAとの比較マッピングは、Lunney,J.,“Molecular genetics of the swine major histocompatibility complex,the SLA complex,”Developmental and Comparative Immunology 33:362-374(2009)(「Lunney」)において見つけることができ、当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。したがって、当業者なら、本開示を踏まえつつ、Lunney et al.のマッピングを参照ツールとして使用して効果的かつ効率的にブタ細胞を遺伝的に再プログラム化する。
【0233】
ドナーSLA/MHCをレシピエントHLA/MHCと一致するように改変すると、既知のヒト遺伝子型または特定のヒトレシピエントのMHC分子と同一または実質的に同一の特定のMHC分子がブタ細胞から発現するようになる。一態様では、本開示は、ブタのゲノムの特定SLA領域の特定部分のみに限って改変を施すことで、ブタの免疫プロファイルを有効に保つ一方で、ヒトレシピエントへの移植時の生物学的製品の免疫原性を、免疫抑制剤の使用が低減または回避され得るように下げることを含む。本開示の態様とは対照的に、先行技術分野の異種移植研究では、免疫抑制剤を使用して拒絶反応に抵抗する必要があった。一態様では、HLA-A、HLA-B、HLA-C、及びDRに対応するブタ遺伝子がノックアウトされ、HLA-C、HLA-E、HLA-Gがノックインされるようにブタゲノムが再プログラム化される。いくつかの態様では、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-F、DQ、及びDRに対応するブタ遺伝子がノックアウトされ、HLA-C、HLA-E、HLA-Gがノックインされるようにブタゲノムが再プログラム化される。いくつかの態様では、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-F、DQ、及びDRに対応するブタ遺伝子がノックアウトされ、HLA-C、HLA-E、HLA-G、HLA-F、及びDQがノックインされるようにブタゲノムが再プログラム化される。一態様では、SLA-11;SLA-6、SLA-7、SLA-8;SLA-MIC2;及びSLA-DQA;SLA-DQB1;SLA-DQB2がノックアウトされ、HLA-C;HLA-E;HLA-G;及びHLA-DQがノックインされるようにブタゲノムが再プログラム化される。ある特定の態様では、再プログラム化されたブタゲノムではHLA-C発現が低減される。ヒトの免疫系にとって不可視となるようにブタ細胞を再プログラム化することによって、再プログラム化が未実施であればドナーブタ細胞から発現するブタMHC分子に基づいて再プログラム化未実施時には生じたであろう免疫応答が、この再プログラム化によって最少化または除去されさえする。
【0234】
したがって、この態様(すなわち、厳密に選択したヒトMHCアレルを発現するようにSLA/MHCを再プログラム化すること)が、異種移植を目的とするブタの細胞、組織、及び臓器に適用されると、野生型ブタから得られるか、あるいはこの再プログラム化が行われておらず、その他の方法で遺伝的に改変されたブタ(例えば、トランスジェニックブタ、または非特異的な遺伝的改変もしくは異なる遺伝的改変が行われたブタ)から得られる細胞、組織、及び臓器と比較して拒絶反応が低減されることになることが理解されよう。
【0235】
既知のヒトMHC遺伝子型または本明細書に具体的に記載されるレシピエントのMHCをドナーブタの細胞、組織、及び臓器が発現するようにすることを、アルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ、Neu5Gc、及びβ1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(B4GALNT2)をドナーブタ細胞から除去すること(例えば、「シングルノックアウト」、「ダブルノックアウト」、または「トリプルノックアウト」)と組み合わせると、本開示の厳密なSLA/MHC再プログラム化が行われていないトリプルノックアウトブタと比較して免疫学的拒絶反応が低減された細胞を有するブタが得られることがさらに理解されよう。
【0236】
本開示による凍結保存及び保管は、本開示に従って生物学的製品を調製し、容器に入れ、凍結媒体を容器に添加し、密封することを含む。例えば、15%ジメチルスルホキシド(DMSO)凍結保護媒体がブタ胎児血清(FPS)またはドナー血清(FPSが利用不可能な場合)と1:1の比で混合され、ろ過(0.45ミクロン)され、使用するまで4℃に冷却される。その後、容器は、速度段階制御型フリーザー中で、毎分1℃の速度で-40℃に冷却された後、-80℃の温度に急速冷却されることによって凍結される。この凍結プロセスの間に細胞内液がDMSOに置き換わる。凍結保護媒体(例えば、CryoStor)は、凍結保存用バイアルの最大内容量(10ml)から異種移植製品の体積を差し引いた値に基づいて、約40~80%または約50~70%の量で使用される。外科的な使用のために凍結保存された生物学的製品を解凍するには、密封バイアルを約37℃の水槽に約0.5~2分間置いてから容器を空け、滅菌手法を使用して製品を取り出した。その後、周囲の残留DMSOを希釈し、全体的に除去し、細胞生存度が失われないようにするために、(例えば、生理食塩水中で)穏やかに撹拌しながら行う1分間の洗浄を3回実施する段階洗浄によって製品が洗浄される。次に、製品は、外科的に使用され得る。
【0237】
異種移植製品は、無菌性の保持及びそれに対する損傷阻止を確保するための材料、容器、及びプロセスを使用して加工され、保管され、輸送され、及び/またはその他の様式で取り扱われ得ることが理解されよう。いくつかの態様では、異種移植製品を保護するために、滅菌された非接着材料を使用することができ、これによって、例えば、処理操作、保管、または輸送の間に、異種移植製品が支持され、表面への製品の接着が阻止され、及び/または異種移植製品の自己接着が阻止される。異種移植製品が意図せず接着すると、異種移植製品の完全性が破壊され、その治療的生存度が低下する可能性があり得る。滅菌された非接着材料を含めることで、保護及び/または物理的支持が得られ、接着が阻止される。いくつかの態様では、滅菌された非接着材料は、生物学的または化学的に不活性であり、異種移植製品自体の代謝活性または有効性に直接的に影響を与えない。
【0238】
本開示の態様は、下記の非限定的な項リストによってさらに説明される:
1.ヒトレシピエントへの異種移植に適した生物学的製品を生産する方法であって、前記方法が、
非野生型の生物学的に操作されたブタを生産することであって、前記ブタが、自然交配及び自然分娩を介して生産され、前記ブタが、1つ以上の細胞外表面糖鎖エピトープを前記ブタが発現しないように生物学的に操作されたゲノムを有し、前記ブタが、少なくとも下記の病原体:Ascaris属の種、cryptosporidium属の種、Echnococcus、Strongyloids sterocolis、Toxoplasma gondii、Brucella suis、Leptospira属の種、mycoplasma hyopneumoniae、仮性狂犬病、Toxoplasma Gondii、staphylococcus属の種、Microphyton属の種、及びTrichophyton属の種、ブタインフルエンザ、サイトメガロウイルス、アルテリウイルス、ならびにコロナウイルスを含まない、前記生産すること、
前記ブタを飼育し、バイオバーデン低減手順に従って前記ブタを維持することであって、前記手順が、閉鎖群中で前記ブタを維持することを含み、前記閉鎖群中のすべての他の動物が、少なくとも下記の病原体:Ascaris属の種、cryptosporidium属の種、Echnococcus、Strongyloids sterocolis、Toxoplasma gondii、Brucella suis、Leptospira属の種、mycoplasma hyopneumoniae、仮性狂犬病、Toxoplasma Gondii、staphylococcus属の種、Microphyton属の種、及びTrichophyton属の種、ブタインフルエンザ、サイトメガロウイルス、アルテリウイルス、ならびにコロナウイルスを含まないことが確認され、前記ブタが、前記閉鎖群の外部のいずれの非ヒト動物及び動物収容施設とも接触しないように隔離される、前記飼育し、維持すること、
前記ブタから生物学的製品を収集することであって、前記収集することが、前記ブタを安楽死させること、及び前記ブタから前記生物学的製品を無菌的に取り出すことを含む、前記収集すること、
前記生物学的製品を加工することであって、前記加工することが、収集から15時間以内に滅菌を行うこと、及び前記生物学的製品を滅菌容器中に保管することを含む、前記加工すること、
を含み、
前記生物学的製品が、1つ以上の細胞外表面糖鎖を含まず、前記製品が、Ascaris属の種、cryptosporidium属の種、Echnococcus、Strongyloids sterocolis、Toxoplasma gondii、Brucella suis、Leptospira属の種、mycoplasma hyopneumoniae、仮性狂犬病、Toxoplasma Gondii、staphylococcus属の種、Microphyton属の種、及びTrichophyton属の種、ブタインフルエンザ、サイトメガロウイルス、アルテリウイルス、ならびにコロナウイルスを含まず、前記製品が、生物学的に活性であり、異種移植後に血管新生を誘導する能力を有する生存細胞及び生存組織を含み、
前記製品の細胞ミトコンドリア活性が、MTTアッセイによって測定すると50%超であり、
前記製品が、ヒト異種移植レシピエントに移植された場合、従来のGal-Tノックアウトブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、従来のトリプルノックアウトブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、トランスジェニックブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、野生型動物から調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、及び/または同種移植片と比較して免疫原性が低く、
前記製品が、ヒト異種移植レシピエントに移植された場合、従来のGal-Tノックアウトブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、従来のトリプルノックアウトブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、トランスジェニックブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、野生型動物から調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、及び/または同種移植片と比較して抗原性が低く、
前記ヒト異種移植レシピエントに対して免疫抑制剤を投与しない、または他の免疫抑制治療を施さなくても、前記製品が、前記ヒト異種移植レシピエントによる拒絶反応に抵抗性である、前記方法。
【0239】
2.前記加工することが、収集から15時間以内に紫外線(UV)滅菌を行うことを含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0240】
3.前記製品が、滅菌表面上に平らにして置かれ、少なくとも100uW/cm2のUV-C強度を有するUVランプに対して、少なくとも2分間~最大で15分間、12分間、10分間、8分間、6分間、5分間、4分間、3分間、または2.5分間曝露され、その後にひっくり返されてその反対表面が少なくとも2分間~最大で15分間、12分間、10分間、8分間、6分間、5分間、4分間、3分間、または2.5分間、前記UVランプに曝露されるようになると、UV処理製品が得られる、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0241】
4.前記製品が、滅菌表面上に平らにして置かれ、少なくとも100,000uW秒/cm2~最大で800,000uW秒/cm2、700,000uW秒/cm2、600,000uW秒/cm2、500,000uW秒/cm2、400,000uW秒/cm2、300,000uW秒/cm2、または200,000uW秒/cm2のUV-C用量に曝露される、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0242】
5.前記製品が、滅菌表面上に平らにして置かれ、少なくとも200,000uW秒/cm2~最大で800,000uW秒/cm2、700,000W秒/cm2、600,000W秒/cm2、500,000W秒/cm2、400,000W秒/cm2、または300,000uW秒/cm2のUV-C用量に対して曝露される、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0243】
6.前記UV処理製品を事前滅菌容器に入れ、その後、少なくとも100uW/cm2のUV-C強度を有するUVランプに対して前記容器のすべての表面を少なくとも2分間~最大で15分間、12分間、10分間、8分間、6分間、5分間、4分間、3分間、または2.5分間曝露すること、前記UVランプに対して前記滅菌容器の事前滅菌キャップのすべての表面を少なくとも2分間曝露し、その後、前記キャップを前記滅菌容器上に固定すること、をさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0244】
7.前記加工ステップが、抗生物質のうちの1つ以上を含む抗微生物剤溶液に前記生物学的製品を入れること(抗生物質(アンピシリン/セフタジジム/バンコマイシン/アムホテリシン-Bなど)のうちの1つ以上を含む抗微生物剤溶液に前記生物学的製品を入れることなど)、細胞外表面糖鎖エピトープの除去を決定するためにフローサイトメトリーを行うこと、凍結保護媒体包装を使用して凍結保存すること、のうちの少なくとも1つをさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0245】
8.前記保管ステップが、前記製品を凍結保存することをさらに含み、前記凍結保存ステップが、約4℃から始まり、-40℃に至るまで毎分約1℃低下させた後、5分以内に約-80℃に温度が低下するように速度を制御する凍結手法を含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0246】
9.前記異種移植製品が、1つ以上の細胞外表面糖鎖エピトープを含まないことが確認される、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0247】
10.前記生物が、帝王切開によって分娩される、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0248】
11.1つ以上の抗微生物剤及び1つ以上のワクチンを前記生物に投与することをさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0249】
12.前記1つ以上のワクチンが、不活化ワクチンである、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0250】
13.滅菌水または精製水と、動物タンパク質またはウシベースの材料を含まない穀物ベースの飼料とを、前記生物に給餌することをさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0251】
14.前記生物のための寝床、ケージ、及び飼料を照射滅菌することをさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0252】
15.前記バイオバーデン低減手順が、前記閉鎖群を空気ろ過すること、前記生物の収容もしくは輸送に使用されるケージ及び媒体を化学的に滅菌すること、前記生物をクロルヘキシジンに浸漬すること、前記生物を滅菌生理食塩水に浸漬すること、前記生物を抗真菌溶液に浸漬すること、またはそれらの組み合わせをさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
前記飼育ステップの前に、検出可能なレベルのリケッチア、マイコプラズマ、伝染性海綿状脳症(TSE)、及び寄生生物について前記生物をスクリーニングすることをさらに含む、項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【0253】
16.前記生物と同じ様式で複数の追加の生物を飼育すること、ならびに前記追加の生物に対して剖検、組織学的検査、及び病理学的検査を定期的に実施することで、病原体及び寄生生物を含まない状態に前記閉鎖群が保たれていることを確認すること、をさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0254】
17.前記収集ステップ前の少なくとも2週間、前記生物を検疫すること、及び検出可能なレベルの病原体について前記生物をスクリーニングすること、をさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0255】
18.前記検疫ステップが、前記生物の身体検査を行うこと、ならびに全血球計算、末梢血塗抹標本、及び寄生生物についての糞便検査から選択される1つ以上の検査を行うことをさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0256】
19.前記生物が、前記収集ステップの間に安楽死され、肉眼的評価、組織病理学的評価、及び微生物学的評価を含む剖検を実施することをさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0257】
20.剖検時に前記生物から得られる脾臓、肝臓、骨髄、中枢神経系、及び肺のうちの少なくとも1つから組織試料を採取し、凍結保存することをさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0258】
21.前記収集ステップの間に前記生物から血漿及び/または脳脊髄液を採取することをさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0259】
22.前記生物学的製品の細胞生存度、ならびに前記生物学的製品よって分泌または産生されるサイトカイン、ホルモン、及び神経伝達物質から選択される生物学的に活性な分子、のうちの少なくとも1つを測定することをさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0260】
23.前記製品を所望のサイズに切断すること、前記切断された製品を抗病原体槽に浸漬すること、及び前記切断及び浸漬された製品を、前記切断及び浸漬された製品を保存することになる温度で保管すること、をさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0261】
24.製品と少なくとも同じサイズの足場上に前記製品を適用すること、前記製品及び前記足場を巻くこと、前記巻いた製品及び足場を滅菌容器に入れること、ならびに約10℃~約-80℃の温度で前記容器を保管すること、をさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0262】
25.本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法に従って生産される非野生型の生物学的に操作されたブタから得られる臨床的異種移植のための生物学的製品であって、
前記ブタから得られる細胞が、既知のヒト配列を有する主要組織適合遺伝子複合体または前記生物学的製品のヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体を発現するように遺伝的に改変されている、前記生物学的製品。
【0263】
26.前記ゲノムが、シチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸水酸化酵素(CMAH)遺伝子の破壊をさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の生物学的製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた生物学的製品。
【0264】
27.前記ゲノムが、β1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ遺伝子の破壊をさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の生物学的製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた生物学的製品。
【0265】
28.前記ゲノムが、シチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸水酸化酵素(CMAH)遺伝子の破壊をさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の生物学的製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた生物学的製品。
【0266】
29.前記ブタから得られる前記細胞が、1つ以上の内在性ブタ白血球抗原アレルが1つ以上のヒト白血球抗原アレルによって無痕跡で交換されたゲノムを有する、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の生物学的製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた生物学的製品。
【0267】
30.前記ブタから得られる前記細胞が、1つ以上の内在性ブタ白血球抗原における長さ60~70ヌクレオチドが既知のヒト配列由来の対応ヒト白血球抗原ヌクレオチド領域によって置き換えられたゲノムを有する、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の生物学的製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた生物学的製品。
【0268】
31.前記1つ以上のアイソタイプが、DQ及びDRである、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の生物学的製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた生物学的製品。
【0269】
32.前記ブタから得られる前記細胞が、クラスI HLA、MHCII、B細胞Fc受容体、糖タンパク質ガラクトシルトランスフェラーゼ1,3(GGTA1)、NOD様受容体ファミリーCARDドメイン含有5(NLRC5)、及び免疫グロブリンG(IgG)のうちの1つ以上が遺伝的に再プログラム化されたものである、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の生物学的製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた生物学的製品。
【0270】
33.前記遺伝的に改変されたブタから得られる細胞がヒト末梢血単核球(PBMC)との共培養時に誘導するサイトカインインターロイキン6(IL-6)の産生及びCD8+T細胞免疫応答が、インビトロの混合リンパ球反応アッセイによって測定すると、前記遺伝的な改変が行われていないカウンターパートブタから得られる細胞と比較して、それぞれ少なく、弱い、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の生物学的製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた生物学的製品。
【0271】
34.前記遺伝的に改変されたブタが、さらに、ヒトで発現しない内在性遺伝子のタンパク質発現が低減され、ヒトで発現する遺伝子のタンパク質発現が増加したものである、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の生物学的製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた生物学的製品。
【0272】
35.ヒト対象から得られる表皮自家移植片製品と、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた製品と、を含む組み合わせ製品。
【0273】
36.ヒトへの臨床的異種移植のための生物学的製品を調製する方法であって、前記方法が、既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列を選択すること、またはヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子をシークエンシングすること、ブタの細胞を遺伝的に改変することで、前記ブタの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の一部を、前記既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の対応部分または前記ヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の対応部分で置き換えて、前記ブタの細胞が、前記既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の前記対応部分または前記ヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の前記対応部分を発現するようにすること、前記既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の前記対応部分を発現するか、または前記ヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の前記対応部分を発現する前記ブタから1つ以上の細胞、組織、及び/または臓器を単離することであって、前記単離された細胞、組織、及び/または臓器が前記生物学的製品となる、前記単離すること、を含む、前記方法。
【0274】
37.前記遺伝的改変ステップが、テンプレート主要組織適合遺伝子複合体配列を調製すること、CRISPR-Cas9プラスミドを調製すること、前記テンプレート主要組織適合遺伝子複合体配列を前記プラスミドにクローニングすること、前記ブタ細胞中の前記主要組織適合遺伝子複合体遺伝子座のCRISPR切断部位を決定すること、gRNA配列を1つ以上のCRISPR-Cas9プラスミドにクローニングすること、CRISPR-Cas9プラスミドをブタの細胞に投与すること、前記ブタ細胞の前記主要組織適合遺伝子複合体遺伝子座にCRIPSR/Cas9による切断を生じさせること、前記既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の前記対応部分または前記ヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の前記対応部分と一致する1つ以上のテンプレート主要組織適合遺伝子複合体配列を用いて前記ブタ細胞中の前記主要組織適合遺伝子複合体遺伝子座を置き換えること、を含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0275】
38.前記主要組織適合遺伝子複合体置き換えステップの実施後に前記ブタの細胞をシークエンシングすること、及び前記ブタの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子の前記配列を、前記既知のヒト配列または前記ヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子と比較すること、さらに、前記ブタ細胞中の前記主要組織適合遺伝子複合体配列の置き換えが成功している場合、前記既知のヒト配列または前記ヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体を発現する前記ブタから1つ以上の細胞、組織、及び/または臓器を単離して前記生物学的製品を調製すること、をさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0276】
39.前記主要組織適合遺伝子複合体配列置き換え済ブタから得られる前記生物学的製品を前記ヒトレシピエントに移植することをさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0277】
40.前記主要組織適合遺伝子複合体配列置き換え済ブタを少なくとも一世代にわたって交配繁殖させて後代ブタを得ること、次に、前記既知のヒト配列または前記ヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体を発現する前記後代ブタから1つ以上の細胞、組織、及び/または臓器を単離することであって、前記単離された細胞、組織、及び/または臓器が前記生物学的製品となる、前記単離すること、をさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0278】
41.前記ブタの前記ゲノムが、シチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸水酸化酵素(CMAH)遺伝子の破壊を含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0279】
42.前記ブタの前記ゲノムが、β1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ遺伝子の破壊を含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0280】
43.前記ゲノムが、シチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸水酸化酵素(CMAH)遺伝子の破壊をさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0281】
44.前記ブタから得られる前記細胞が、1つ以上の内在性ブタ白血球抗原アレルが1つ以上のヒト白血球抗原アレルによって無痕跡で交換されたゲノムを有する、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0282】
45.前記ブタから得られる前記細胞が、1つ以上の内在性ブタ白血球抗原における長さ60~70ヌクレオチドが既知のヒト配列由来の対応ヒト白血球抗原ヌクレオチド領域によって置き換えられたゲノムを有する、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0283】
46.前記既知のヒト配列に由来する前記ヒト白血球抗原ヌクレオチド領域が、DQ及びDRのうちの1つ以上であり、好ましくは、DQβ及びDRβのうちの1つ以上である、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0284】
47.前記ブタから得られる前記細胞が、クラスI HLA、MHCII、B細胞Fc受容体、糖タンパク質ガラクトシルトランスフェラーゼ1,3(GGTA1)、NOD様受容体ファミリーCARDドメイン含有5(NLRC5)、及び免疫グロブリンG(IgG)のうちの1つ以上が遺伝的に再プログラム化されたものである、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0285】
48.前記遺伝的に改変されたブタから得られる細胞がヒト末梢血単核球(PBMC)との共培養時に誘導するサイトカインインターロイキン6(IL-6)の産生及びCD8+T細胞免疫応答が、インビトロの混合リンパ球反応アッセイによって測定すると、前記遺伝的な改変が行われていないカウンターパートブタから得られる細胞と比較して、それぞれ少なく、弱い、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0286】
49.前記遺伝的に改変されたブタが、さらに、ヒトで発現しない内在性遺伝子のタンパク質発現が低減され、ヒトで発現する遺伝子のタンパク質発現が増加したものである、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0287】
50.表面糖鎖(複数可)(例えば、アルファ-1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子)が破壊された核ゲノムを含む遺伝的に再プログラム化されたブタであって、前記遺伝的に再プログラム化されたブタが、既知のヒト配列を有する主要組織適合遺伝子複合体の一部、あるいは前記遺伝的に再プログラム化されたブタから単離される細胞、組織、及び/または臓器のヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体の一部を発現するように遺伝的に改変されており、任意選択で、本明細書に開示の項のいずれかの項または本明細書に開示の項の組み合わせに従ってさらに改変される、前記遺伝的に再プログラム化されたブタ。
【0288】
51.前記遺伝的に再プログラム化されたブタのゲノムが、シチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸水酸化酵素(CMAH)遺伝子の破壊をさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の遺伝的に再プログラム化されたブタまたは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた遺伝的に再プログラム化されたブタ。
【0289】
52.前記遺伝的に再プログラム化されたブタのゲノムが、β1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ遺伝子の破壊をさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の遺伝的に再プログラム化されたブタまたは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた遺伝的に再プログラム化されたブタ。
【0290】
53.前記遺伝的に再プログラム化されたブタが、少なくとも2つのSLA遺伝子欠失と、HLA遺伝子の対応部分に由来する少なくとも2つのHLA遺伝子挿入と、を含む核ゲノムを含み、前記HLA遺伝子が、前記既知のヒト配列もしくは前記ヒトレシピエントに由来するか、所与の集団群のコンセンサス配列に由来するか、またはライブラリー配列に由来する、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の遺伝的に再プログラム化されたブタまたは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた遺伝的に再プログラム化されたブタ。
【0291】
54.前記ゲノムが、シチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸水酸化酵素(CMAH)遺伝子の破壊をさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の遺伝的に再プログラム化されたブタまたは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた遺伝的に再プログラム化されたブタ。
【0292】
55.前記ブタから得られる前記細胞が、1つ以上の内在性ブタ白血球抗原アレルが1つ以上のヒト白血球抗原アレルによって無痕跡で交換されたゲノムを有する、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の遺伝的に再プログラム化されたブタまたは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた遺伝的に再プログラム化されたブタ。
【0293】
56.前記ブタから得られる前記細胞が、1つ以上の内在性ブタ白血球抗原における長さ60~70ヌクレオチドが既知のヒト配列由来の対応ヒト白血球抗原ヌクレオチド領域によって置き換えられたゲノムを有する、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の遺伝的に再プログラム化されたブタまたは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた遺伝的に再プログラム化されたブタ。
【0294】
57.前記既知のヒト配列に由来する前記ヒト白血球抗原ヌクレオチド領域が、DQ及びDRのうちの1つ以上であり、好ましくは、DQβ及びDRβのうちの1つ以上である、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の遺伝的に再プログラム化されたブタまたは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた遺伝的に再プログラム化されたブタ。
【0295】
58.前記ブタから得られる前記細胞が、クラスI HLA、MHCII、B細胞Fc受容体、糖タンパク質ガラクトシルトランスフェラーゼ1,3(GGTA1)、NOD様受容体ファミリーCARDドメイン含有5(NLRC5)、及び免疫グロブリンG(IgG)のうちの1つ以上が遺伝的に再プログラム化されたものである、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の遺伝的に再プログラム化されたブタまたは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた遺伝的に再プログラム化されたブタ。
【0296】
59.前記遺伝的に改変されたブタから得られる細胞がヒト末梢血単核球(PBMC)との共培養時に誘導するサイトカインインターロイキン6(IL-6)の産生及びCD8+T細胞免疫応答が、インビトロの混合リンパ球反応アッセイによって測定すると、前記遺伝的な改変が行われていないカウンターパートブタから得られる細胞と比較して、それぞれ少なく、弱い、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の遺伝的に再プログラム化されたブタまたは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた遺伝的に再プログラム化されたブタ。
【0297】
60.前記遺伝的に改変されたブタが、さらに、ヒトで発現しない内在性遺伝子のタンパク質発現が低減され、ヒトで発現する遺伝子のタンパク質発現が増加したものである、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の遺伝的に再プログラム化されたブタまたは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた遺伝的に再プログラム化されたブタ。
【0298】
61.遺伝的に再プログラム化されたブタを調製する方法であって、前記遺伝的に再プログラム化されたブタが、表面糖鎖(複数可)(例えば、アルファ-1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子)が破壊された核ゲノムを含み、既知のヒト配列の主要組織適合遺伝子複合体、あるいは前記遺伝的に再プログラム化されたブタから単離される細胞、組織、及び/または臓器のヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体を発現するように遺伝的に改変されており、前記方法が、既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体配列を選択するか、または前記ヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子をシークエンシングすること、少なくとも1つのブタ表面糖鎖遺伝子が破壊された核ゲノムを含むブタを得ること、前記ブタの細胞を遺伝的に改変することで、前記ブタの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子の一部を、前記既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体遺伝子の対応部分または前記ヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子の対応部分で置き換えて、前記ブタの細胞が、前記ヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体の一部を発現するようにすること、を含む、前記方法。
【0299】
62.前記遺伝的に再プログラム化されたブタのゲノムが、β1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼコード遺伝子の破壊をさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0300】
63.前記遺伝的に再プログラム化されたブタが、少なくとも2つのSLA遺伝子欠失及び少なくとも2つのHLA遺伝子挿入を含む核ゲノムを含み、前記HLA遺伝子が、前記ヒトレシピエントに由来するか、所与の集団群のコンセンサス配列に由来するか、またはライブラリー配列に由来する、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0301】
64.前記ゲノムが、シチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸水酸化酵素(CMAH)遺伝子の破壊をさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0302】
65.前記遺伝的に再プログラム化されたブタから得られる前記細胞が、1つ以上の内在性ブタ白血球抗原アレルが1つ以上のヒト白血球抗原アレルによって無痕跡で交換されたゲノムを有する、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0303】
66.前記遺伝的に再プログラム化されたブタから得られる前記細胞が、1つ以上の内在性ブタ白血球抗原ヌクレオチド領域における長さ60~70ヌクレオチドが既知のヒト配列由来の対応ヒト白血球抗原ヌクレオチド領域によって置き換えられたゲノムを有する、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0304】
67.前記既知のヒト配列に由来する前記ヒト白血球抗原ヌクレオチド領域が、DQ及びDRのうちの1つ以上であり、好ましくは、DQβ及びDRβのうちの1つ以上である、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0305】
68.前記ブタから得られる前記細胞が、クラスI HLA、MHCII、B細胞Fc受容体、糖タンパク質ガラクトシルトランスフェラーゼ1,3(GGTA1)、NOD様受容体ファミリーCARDドメイン含有5(NLRC5)、及び免疫グロブリンG(IgG)のうちの1つ以上が遺伝的に再プログラム化されたものである、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0306】
69.前記遺伝的に改変されたブタから得られる細胞がヒト末梢血単核球(PBMC)との共培養時に誘導するサイトカインインターロイキン6(IL-6)の産生及びCD8+T細胞免疫応答が、インビトロの混合リンパ球反応アッセイによって測定すると、前記遺伝的な改変が行われていないカウンターパートブタから得られる細胞と比較して、それぞれ少なく、弱い、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0307】
70.前記遺伝的に改変されたブタが、さらに、ヒトで発現しない内在性遺伝子のタンパク質発現が低減され、ヒトで発現する遺伝子のタンパク質発現が増加したものである、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0308】
71.ヒトレシピエントに異種移植された組織に対する拒絶反応、分離反応、または有害反応を遅延、低減、または阻止する方法であって、前記方法が、既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列を選択すること、または前記ヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子をシークエンシングすること、アルファ-1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子が破壊された核ゲノムを含むブタを得ること、前記ブタの細胞を遺伝的に改変することで、前記ブタの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子の一部を、前記既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の対応部分または前記ヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の対応部分で置き換えて、前記ブタの細胞が、前記既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の前記対応部分または前記ヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の前記対応部分を発現するようにすること、前記既知のヒト主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の前記対応部分または前記ヒトレシピエントの主要組織適合遺伝子複合体遺伝子配列の前記対応部分を発現する前記遺伝的に再プログラム化されたブタから細胞、組織、及び/または臓器を単離すること、ならびに前記遺伝的に再プログラム化されたブタから得られた前記単離された細胞、組織、及び/または臓器を前記ヒトレシピエントに移植すること、を含む、前記方法。
【0309】
72.前記遺伝的に再プログラム化されたブタのゲノムが、β1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ遺伝子の破壊をさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0310】
73.前記ゲノムが、シチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸水酸化酵素(CMAH)遺伝子の破壊をさらに含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0311】
74.前記ブタから得られる前記細胞が、1つ以上の内在性ブタ白血球抗原アレルが1つ以上のヒト白血球抗原アレルによって無痕跡で交換されたゲノムを有する、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0312】
75.前記ブタから得られる前記細胞が、1つ以上の内在性ブタ白血球抗原における長さ60~70ヌクレオチドが既知のヒト配列由来の対応ヒト白血球抗原ヌクレオチド領域によって置き換えられたゲノムを有する、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0313】
76.前記既知のヒト配列に由来する前記ヒト白血球抗原ヌクレオチド領域が、DQ及びDRのうちの1つ以上であり、好ましくは、DQβ及びDRβのうちの1つ以上である、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0314】
77.前記ブタから得られる前記細胞が、クラスI HLA、MHCII、B細胞Fc受容体、糖タンパク質ガラクトシルトランスフェラーゼ1,3(GGTA1)、NOD様受容体ファミリーCARDドメイン含有5(NLRC5)、及び免疫グロブリンG(IgG)のうちの1つ以上が遺伝的に再プログラム化されたものである、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0315】
78.前記遺伝的に改変されたブタから得られる細胞がヒト末梢血単核球(PBMC)との共培養時に誘導するサイトカインインターロイキン6(IL-6)の産生及びCD8+T細胞免疫応答が、インビトロの混合リンパ球反応アッセイによって測定すると、前記遺伝的な改変が行われていないカウンターパートブタから得られる細胞と比較して、それぞれ少なく、弱い、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0316】
79.前記遺伝的に改変されたブタが、さらに、ヒトで発現しない内在性遺伝子のタンパク質発現が低減され、ヒトで発現する遺伝子のタンパク質発現が増加したものである、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0317】
80.非野生型の生物学的に操作された非ヒト生物から得られる臨床的異種移植のための生物学的製品であって、
前記生物学的製品の由来元である前記生物が、自然交配及び/または生殖補助技術を介して生産され、
前記生物が、1つ以上の細胞外表面糖鎖エピトープを前記生物が発現しないように生物学的に操作されたゲノムを有し、
前記生物が、少なくとも下記の病原体:Ascaris属の種、cryptosporidium属の種、Echnococcus、Strongyloids sterocolis、Toxoplasma gondii、Brucella suis、Leptospira属の種、mycoplasma hyopneumoniae、仮性狂犬病、Toxoplasma Gondii、staphylococcus属の種、Microphyton属の種、及びTrichophyton属の種、ブタインフルエンザ、サイトメガロウイルス、アルテリウイルス、ならびにコロナウイルスを含まず、
前記生物が、トランスジェニックではなく、
前記製品が、1つ以上の細胞外表面糖鎖を含まず、
前記製品が、Ascaris属の種、cryptosporidium属の種、Echnococcus、Strongyloids sterocolis、Toxoplasma gondii、Brucella suis、Leptospira属の種、mycoplasma hyopneumoniae、仮性狂犬病、Toxoplasma Gondii、staphylococcus属の種、Microphyton属の種、及びTrichophyton属の種、ブタインフルエンザ、サイトメガロウイルス、アルテリウイルス、ならびにコロナウイルスを含まず、
前記製品が、最終滅菌されておらず、
前記製品が、従来のGal-Tノックアウトブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、従来のトリプルノックアウトブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、トランスジェニックブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、野生型動物から調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、及び/または同種移植片と比較して免疫原性が低く、
前記製品が、ヒト異種移植レシピエントに移植された場合、従来のGal-Tノックアウトブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、従来のトリプルノックアウトブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、トランスジェニックブタから調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、野生型動物から調製される異種移植製品から得られる生物学的製品、及び/または同種移植片と比較して抗原性が低く、
前記製品が、生物学的に活性であり、異種移植後に血管新生を誘導する能力を有する生存細胞及び生存組織を含む、前記生物学的製品。
【0318】
81.ヒト異種移植レシピエントに対して免疫抑制剤を投与しない、または他の免疫抑制治療を施さなくても、前記製品が、前記移植レシピエントによる拒絶反応に抵抗性である、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた製品。
【0319】
82.前記製品が、臓器または組織を含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた製品。
【0320】
83.前記臓器が、肝臓、肺、腎臓、または皮膚を含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた製品。
【0321】
84.前記組織が、神経を含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた製品。
【0322】
85.前記臓器が、前記異種移植後に、前記患者の前記移植物の領域において血管新生を誘導する能力を有する、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた製品。
【0323】
86.前記皮膚が、前記異種移植後に、前記患者の前記移植物の領域においてコラーゲン産物を促進する能力を有する、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた製品。
【0324】
87.シチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸水酸化酵素(CMAH)をコードする遺伝子、β1-4N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、ブタ白血球抗原をコードする遺伝子、アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原をコードする遺伝子、腫瘍壊死因子-アルファ関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)をコードする遺伝子、Fasリガンド(FasL)をコードする遺伝子、CD55をコードする遺伝子、CD59をコードする遺伝子、及びCD46をコードする遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の破壊をさらに含むゲノムを前記生物が有する、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた製品。
【0325】
88.ヒト白血球抗原、I型MHC、II型MHC、hCD46(ヒト膜補因子タンパク質(MCP))、hCTLA4-Ig(Ig重鎖と融合したヒト細胞傷害性マウスTリンパ球抗原4)、hCD55(ヒト崩壊促進因子(DAF))、hCD59(ヒトプロテクチン)、H-トランスフェラーゼ、hTM(ヒトトロンボモジュリン)、hA20(腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-アルファ)誘導性遺伝子)、HLA-E/ベータ-ミクログロブリン、ヒトヘムオキシゲナーゼ-1(hHO-1)からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質を発現するようになる少なくとも1つの改変をさらに含むゲノムを前記生物が有する、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた製品。
【0326】
89.-40℃以下の温度で少なくとも1年間凍結保存した後に、前記製品が、生物学的に活性であり、血管新生を誘導する能力を有する生存細胞及び生存組織を含む、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた製品。
【0327】
90.前記製品が、Ascaris属の種、Cryptosporidium、Echinococcus、Strongyloids sterocolis、Toxoplasma gondii、Brucella suis、Leptospira属の種、Mycoplasma Hyopneumoniae、ブタ生殖器呼吸器症候群ウイルス(PRRSV)、仮性狂犬病、Toxoplasma Gondii、ブタA型インフルエンザウイルス、Bordetella bronchiseptica、staphylococci、Microphyton属の種、Trichophyton属の種、アデノウイルス、アルボウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルス、カリシウイルス、カルジオウイルス、サーコウイルス2、サーコウイルス1、脳心筋炎ウイルス、エペリスロゾーン、haemophilus suis、ヘルペスウイルス及びヘルペス関連ウイルス、イリドウイルス、コブウイルス、レプトスピリウム(leptospirillum)、リステリア、マイコバクテリアTB、マイコプラズマ、オルソミクソウイルス、パポウイルス(papovirus)、パラインフルエンザウイルス3、パラミクソウイルス、パルボウイルス、パサウイルス-1、ペスチウイルス、ピコビルナウイルス(PBV)、ピコルナウイルス、ブタサーコウイルス様ウイルス、ブタアストロウイルス、ブタバコウイルス(porcine bacovirus)、ブタボカウイルス-2、ブタボカウイルス-4、ブタエンテロウイルス-9、ブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)、ブタポリオウイルス、ブタリンパ球向性ヘルペスウイルス(PLHV)、ブタ糞便関連環状ウイルス(porcine stool associated circular virus)(PoSCV)、ポサウイルス-1、ポックスウイルス、狂犬病関連ウイルス、レオウイルス、ラブドウイルス、リケッチア、サペロウイルス、サポウイルス、staphylococcus hyicus、スイポックスウイルス、テッシェン(teschen)、トロウイルス、トルクテノサスウイルス-2(TTSuV-2)、伝染性胃腸炎ウイルス、水疱性口内炎ウイルス、ならびにプリオンのうちの少なくとも2つを含まない、本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の製品または本明細書に開示の項を任意に組み合わせた製品。
【0328】
91.第2世代の非野生型の生物学的に操作された子ブタを生産するための方法であって、前記方法が、
非野生型の生物学的に操作された子ブタを妊娠雌ブタから帝王切開を介して分娩させることであって、前記雌ブタが、自然交配及び/または生殖補助技術を介して生産されたものである、前記分娩させること、ならびに
隔離された閉鎖群中で前記分娩された子ブタを保持することであって、前記隔離された閉鎖群中のすべての他のブタが、少なくとも下記の病原体:サイトメガロウイルス、アルテリウイルス、及びコロナウイルスを含まないことが確認され、前記子ブタが、少なくとも下記の病原体:サイトメガロウイルス、アルテリウイルス、及びコロナウイルスを含まない、前記保持すること、
前記隔離された閉鎖群中で前記子ブタを飼育すること、
前記子ブタを、性的に成熟した時点で、前記隔離された閉鎖群中で同じく維持され、前記病原体を含まない別のブタと交配させること、ならびに
前記交配させることから得られる新たな子ブタを分娩させることであって、前記新たな子ブタが、前記病原体を同じく含まない前記第2世代の非野生型の生物学的に操作された子ブタである、前記分娩させること、
を含む、前記方法。
【0329】
92.項91に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法によって生産されるブタ。
【0330】
93.前記新たな子ブタから生物学的製品を収集することをさらに含む、項92に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0331】
94.前記製品が、臓器または組織を含む、項93に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0332】
95.前記臓器が、肝臓、肺、腎臓、または皮膚を含む、項94に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0333】
96.前記組織が、神経を含む、項95に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0334】
97.前記非野生型の生物学的に操作された子ブタが、アルファ-1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子が破壊されたゲノムを有する、項92に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0335】
98.シチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸水酸化酵素(CMAH)をコードする遺伝子、β1-4N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、ブタ白血球抗原をコードする遺伝子、アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原をコードする遺伝子、腫瘍壊死因子-アルファ関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)をコードする遺伝子、Fasリガンド(FasL)をコードする遺伝子、CD55をコードする遺伝子、CD59をコードする遺伝子、及びCD46をコードする遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の破壊をさらに含むゲノムを、前記第2世代の非野生型の生物学的に操作された子ブタが有する、項92及び項94~98のいずれか1項に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0336】
99.ヒト白血球抗原、I型MHC、II型MHC、hCD46(ヒト膜補因子タンパク質(MCP))、hCTLA4-Ig(Ig重鎖と融合したヒト細胞傷害性マウスTリンパ球抗原4)、hCD55(ヒト崩壊促進因子(DAF))、hCD59(ヒトプロテクチン)、H-トランスフェラーゼ、hTM(ヒトトロンボモジュリン)、hA20(腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-アルファ)誘導性遺伝子)、HLA-E/ベータ-ミクログロブリン、ヒトヘムオキシゲナーゼ-1(hHO-1)からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質を発現するようになる少なくとも1つの改変をさらに含むゲノムを、前記第2世代の非野生型の生物学的に操作された子ブタが有する、項92及び項94~99のいずれか1項に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0337】
100.前記分娩ステップのそれぞれの後に、前記非野生型の生物学的に操作された子ブタ及び前記第2世代の非野生型の生物学的に操作された子ブタをそれぞれ、温めた滅菌剤溶液槽に入れることをさらに含む、項92及び項94~100のいずれか1項に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0338】
101.前記非野生型の生物学的に操作された子ブタ、前記第2世代の非野生型の生物学的に操作された子ブタ、及びヒト管理職員が、閉鎖群の外部に存在するいずれのブタ及びブタ収容施設との接触からも隔離されるように、前記非野生型の生物学的に操作された子ブタ及び前記第2世代の非野生型の生物学的に操作された子ブタが前記閉鎖群中で維持される、項92及び項94~101のいずれか1項に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0339】
102.前記非野生型の生物学的に操作された子ブタ及び前記第2世代の非野生型の生物学的に操作された子ブタに対して1つ以上の抗微生物剤及び1つ以上のワクチンを投与することをさらに含む、項92及び項94~102のいずれか1項に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0340】
103.前記非野生型の生物学的に操作された子ブタ及び前記第2世代の非野生型の生物学的に操作された子ブタの寝床及び飼料を照射滅菌することをさらに含む、項92及び項94~103のいずれか1項に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0341】
104.滅菌水または精製水と、動物タンパク質またはウシベースの材料を含まない穀物ベースの飼料とを、前記非野生型の生物学的に操作された子ブタ及び前記第2世代の非野生型の生物学的に操作された子ブタに給餌することをさらに含む、項92及び項94~104のいずれか1項に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0342】
105.皮膚移植片を必要とする損傷を患うヒト対象を治療する方法であって、前記方法が、第2世代の非野生型の生物学的に操作された子ブタから得られる皮膚移植片を前記対象に移植することを含み、前記第2世代の非野生型の生物学的に操作された子ブタが、項92に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法によって生産され、前記皮膚移植片が、少なくとも下記の病原体:サイトメガロウイルス、アルテリウイルス、及びコロナウイルスを含まず、免疫抑制剤または他の免疫抑制治療が、前記対象に施されない、前記方法。
【0343】
106.拒絶の臨床徴候について前記皮膚移植片を監視し、前記皮膚移植片の拒絶反応の1つ以上の臨床徴候が検出された後に、前記皮膚移植片を除去し、同種皮膚移植片または自家皮膚移植片を用いて前記皮膚移植片を置き換えることをさらに含む、項106に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0344】
107.拒絶反応の前記1つ以上の臨床徴候が、血管新生を欠くこと、または血管新生が失われること、脱落が生じること、色が白色であること、正常な皮膚と比較して色が黒色化するか、または蒼白であること、正常な皮膚と比較して温度が低下すること、肉芽形成が生じること、痂皮または瘡蓋が形成されること、分泌物が生じること、及び柔軟性が失われること、または減少すること、からなる群から選択される、項107に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0345】
108.前記損傷が、部分層創傷または全層創傷である、項106~108のいずれか1項に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0346】
109.前記損傷が、熱傷、皮膚の剥離、糖尿病性創傷、及び/または静脈うっ血潰瘍を含む、項106~108のいずれか1項に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0347】
110.機能性の肝臓を必要とする対象を治療する方法であって、前記方法が、項92及び項94~105のいずれか1項に従って生産される子ブタから得られる肝臓、あるいは項37~50のいずれか1項または本明細書に開示の項のいずれかの項もしくは本明細書に開示の項の任意の組み合わせに従って生産されるブタから得られる肝臓を得ること、前記対象から出た血液が前記肝臓を通過して前記対象に戻るように流れることが可能になるように前記対象と前記肝臓との間に体外式回路を創出すること、ならびに前記肝臓を通過して前記対象に戻るという前記体外式回路を介する前記対象からの血液の流れを可能にすること、を含む、前記方法。
【0348】
111.項92及び項94~105のいずれか1項に従って生産される子ブタ、あるいは項37~50のいずれか1項または本明細書に開示の項のいずれかの項もしくは本明細書に開示の項の任意の組み合わせに従って生産されるブタから得られる、臨床的異種移植のための未分化細胞であって、前記細胞が、臓器または生物学的組織を生成させるための再生治療において利用可能なものである、前記細胞。
【0349】
112.製品をヒト患者に異種移植するのための方法であって、前記方法が、
項1に記載の生物学的製品を得ること、及び
前記製品をヒトレシピエントに移植することであって、前記移植時に前記製品が臨床的利点を示す、前記移植すること
を含む、前記方法。
【0350】
113.前記製品が、臓器または組織を含む、項113に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0351】
114.前記臓器が、肝臓、肺、腎臓、または皮膚を含む、項114に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0352】
115.前記組織が、神経を含む、項115に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0353】
116.前記移植ステップが、免疫抑制剤または他の免疫抑制治療を使用することなく実施される、項113~116のいずれか1項に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0354】
117.前記臓器が皮膚であり、前記移植ステップの前に前記移植部位を創傷清拭することをさらに含む、項115に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0355】
118.前記皮膚が、前記異種移植後に、前記患者の前記移植物の領域において血管新生を誘導する、項115もしくは項118に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0356】
119.前記皮膚が、前記異種移植後に、前記患者の前記移植物の領域においてコラーゲンを産生する、項115及び項118~119のいずれか1項に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0357】
120.前記臨床的利点が同種移植片製品を上回っており、前記同種移植片製品と比較した場合の前記臨床的利点が、移植片接着不良が低減されること、移植片接着が増加すること、周囲組織のレベルで肉芽形成が生じること、過剰肉芽形成が20%未満であること、血腫が創傷サイズの20%未満であること、フィブリン沈着が創傷サイズの20%未満であること、同種移植片と比較して細菌感染が低減されること、止血が進むすること、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮増殖因子(EGF)、インスリン様増殖因子(IGF-1)、血小板由来増殖因子(PDGF)、及び血管内皮増殖因子(VEGF)のうちの少なくとも1つの発現が誘導されること、ヒト線維芽細胞、ヒト表皮ケラチノサイト、ヒト内皮細胞、及びヒト多能性幹細胞のうちの少なくとも1つの誘引及び/または増殖が増加すること、MMP-1、MMP-2、MMP-3、MMP-8、及びMMP-9のうちの少なくとも1つが阻害されること、高血糖、神経障害、脈管障害、感染、フィブリンカフ、及び/または静脈性高血圧のうちの少なくとも1つが治療、低減、または抑制されること、蜂巣炎が低減されること、紅斑が低減されること、浮腫が低減されること、知覚過敏が減少されること、硬結が低減されること、圧痛が低減されること、そう痒が減少されること、膿瘍が低減されること、毒素性ショック症候群の発生率が低減されること、毒素1産生S.aureusのコロニー形成が低減されること、敗血症の発生率が低減されること、ならびにE.coli、P.aeruginosa、Klebsiella属の種、Providencia属の種、enterobacteriaceae、及びC.albicansのうちの少なくとも1つによるコロニー形成が低減されること、のうちの1つ以上である、項113~120のいずれか1項に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0358】
121.前記生物学的製品の由来元である前記生物が、自然交配及び/または生殖補助技術を介して生産される、項113~121のいずれか1項に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0359】
122.シチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸水酸化酵素(CMAH)をコードする遺伝子、β1-4N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、ブタ白血球抗原をコードする遺伝子、アルファ-1,2-フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原をコードする遺伝子、腫瘍壊死因子-アルファ関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)をコードする遺伝子、Fasリガンド(FasL)をコードする遺伝子、CD55をコードする遺伝子、CD59をコードする遺伝子、及びCD46をコードする遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の破壊をさらに有するように前記非ヒト生物が遺伝的に改変される、項113~122のいずれか1項に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0360】
123.ヒト白血球抗原、I型MHC、II型MHC、hCD46(ヒト膜補因子タンパク質(MCP))、hCTLA4-Ig(Ig重鎖と融合したヒト細胞傷害性マウスTリンパ球抗原4)、hCD55(ヒト崩壊促進因子(DAF))、hCD59(ヒトプロテクチン)、H-トランスフェラーゼ、hTM(ヒトトロンボモジュリン)、hA20(腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-アルファ)誘導性遺伝子)、HLA-E/ベータ-ミクログロブリン、ヒトヘムオキシゲナーゼ-1(hHO-1)からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質を発現するようになる少なくとも1つの改変をさらに含むゲノムを前記非ヒト生物が有する、項113~123のいずれか1項に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0361】
124.前記臨床的利点が、密封性のフィブリンシールが形成されること、移植部位もしくは治癒部位での感染が低減もしくは阻止されること、移植部位もしくは治癒部位での体液の増加もしくは保持が生じること、移植部位もしくは治癒部位での電解質の増加もしくは保持が生じること、移植部位もしくは治癒部位での温度ホメオスタシスの増加もしくは保持が生じること、移植部位もしくは治癒部位での瘢痕が低減されること、敗血症が低減されるか、もしくは除去されること、タンパク質の喪失が低減されるか、もしくは除去されること、体の機能が回復すること、またはそれらの組み合わせを含む、項113~124のいずれか1項に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0362】
125.前記移植製品が、前記ヒトレシピエントに対して免疫抑制剤を投与しない、または他の免疫抑制治療を施さなくても、前記ヒトレシピエントによる拒絶反応に抵抗性である、項113~125のいずれか1項に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0363】
126.足趾血圧測定、容積脈波記録、経皮的酵素測定、及び皮膚組織灌流圧測定のうちの1つ以上を実施することをさらに含むか、または前記移植ステップの後に、圧迫治療、陰圧閉鎖療法(VAC)、免荷、陰圧、高圧酸素治療、もしくはそれらの組み合わせを用いて前記ヒトレシピエントを治療することをさらに含む、項113~126のいずれか1項に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0364】
127.ヒトレシピエントに異種移植するための生物学的製品を生産する方法であって、前記生物学的製品が、異種移植後に血管新生を誘導する生存細胞及び生存組織を含み、
前記方法が、
A)非野生型の生物学的に操作されたブタを生産することであって、前記ブタが、1つ以上の細胞外表面糖鎖エピトープを前記ブタが発現しないように生物学的に操作されたゲノムを有する、前記生産すること、
B)少なくとも下記の人畜共通感染症病原体を前記ブタが含まないことを確認すること:
(i)糞便物質中のAscaris属の種、cryptosporidium属の種、Echinococcus、Strongyloids sterocolis、及びToxoplasma gondii、
(ii)Leptospira属の種、Mycoplasma hyopneumoniae、ブタ生殖器呼吸器症候群ウイルス(PRRSV)、仮性狂犬病、伝染性胃腸炎ウイルス(TGE)/ブタ呼吸器コロナウイルス、及びToxoplasma Gondii(抗体力価を決定することによって確認される)、
(iii)ブタインフルエンザ、
(iv)細菌培養によって決定される下記の細菌病原体:Bordetella bronchisceptica、コアグラーゼ陽性ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、家畜関連メチシリン耐性Staphylococcus aureus(LA MRSA)、Microphyton、及びTrichophyton属の種、
(v)ブタサイトメガロウイルス、ならびに
(vi)Brucella suis
C)バイオバーデン低減手順に従って前記ブタを維持することであって、前記手順が、隔離された閉鎖群中で前記ブタを維持することを含み、前記隔離された閉鎖群中のすべての他の動物が、前記人畜共通感染症病原体を含まないことが確認され、前記ブタが、前記隔離された閉鎖群の外部のいずれの非ヒト動物及び動物収容施設とも接触しないように隔離される、前記維持すること、
D)前記ブタから生物学的製品を収集することであって、前記収集することが、前記ブタを安楽死させること、及び前記ブタから前記生物学的製品を無菌的に取り出すことを含む、前記収集すること、
E)前記生物学的製品を加工することであって、前記加工することが、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)還元アッセイによって決定される細胞生存度を50%未満に低下させない滅菌プロセスを使用して収集後に滅菌を行うことを含む、前記加工すること、ならびに
F)細胞生存度を保つ保管条件の下で前記生物学的製品を滅菌容器中に保管すること、
を含む、前記方法。
【0365】
128.前記方法が、前記生物学的製品を最終滅菌することを含まず、前記生物学的製品が、Ascaris属の種、cryptosporidium属の種、Echinococcus、Strongyloids sterocolis、Toxoplasma gondii、Brucella suis、Leptospira属の種、mycoplasma hyopneumoniae、ブタ生殖器呼吸器症候群、仮性狂犬病、staphylococcus属の種、Microphyton属の種、Trichophyton属の種、ブタインフルエンザ、ブタサイトメガロウイルス、アルテリウイルス、コロナウイルス、Bordetella bronchiseptica、及び家畜関連メチシリン耐性Staphylococcus aureusを含まない、項127に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0366】
129.前記方法が、
a.無菌性アッセイを実施し、前記無菌性アッセイにおいて好気性細菌及び嫌気性細菌が増殖しないことを確認すること、
b.マイコプラズマアッセイを実施し、前記マイコプラズマアッセイにおいてマイコプラズマコロニーが形成されないことを確認すること、
c.エンドトキシンアッセイを実施し、前記エンドトキシンアッセイにおいて前記生物学的製品がエンドトキシンを含まないことを確認すること、
d.前記MTT還元アッセイを実施し、前記MTT還元アッセイにおいて前記製品の細胞生存度が少なくとも50%であることを確認すること、
e.フローサイトメトリーを実施し、前記フローサイトメトリーによって判定すると前記製品がガラクトシル-a-1,3-ガラクトースエピトープを有さないことを確認すること、
f.18~35種類の病原体に特異的な病原体検出アッセイを実施し、前記製品が、Ascaris属の種、cryptosporidium属の種、Echinococcus、Strongyloids sterocolis、Toxoplasma gondii、Brucella suis、Leptospira属の種、mycoplasma hyopneumoniae、ブタ生殖器呼吸器症候群、仮性狂犬病、staphylococcus属の種、Microphyton属の種、Trichophyton属の種、ブタインフルエンザ、ブタサイトメガロウイルス、アルテリウイルス、コロナウイルス、Bordetella bronchiseptica、及び家畜関連メチシリン耐性Staphylococcus aureusを含まないことを確認すること、
を介して、前記加工された生物学的製品をステップF)の前に検査することをさらに含む、項127もしくは項128に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0367】
130.前記生物学的製品が、フローサイトメトリーによって確認すると、2つ以上の型の細胞外表面糖鎖エピトープを含まない、項127~129のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~129を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0368】
131.前記生物学的製品が、フローサイトメトリーによって確認すると、アルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼエピトープ及びN-グリコリルノイラミン酸エピトープを含まない、項127~130のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~130を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0369】
132.前記生物学的製品が、フローサイトメトリーによって確認すると、アルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼエピトープ、N-グリコリルノイラミン酸エピトープ、及びβ1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼエピトープを含まない、項127~131のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~131を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0370】
133.前記隔離された閉鎖群において同じく維持され、下記の病原体:Ascaris属の種、cryptosporidium属の種、Echinococcus、Strongyloids sterocolis、Toxoplasma gondii、Brucella suis、Leptospira属の種、mycoplasma hyopneumoniae、ブタ生殖器呼吸器症候群、仮性狂犬病、staphylococcus属の種、Microphyton属の種、Trichophyton属の種、ブタインフルエンザ、ブタサイトメガロウイルス、アルテリウイルス、コロナウイルス、Bordetella bronchiseptica、及び家畜関連メチシリン耐性Staphylococcus aureus、を同じく含まない親ブタによる自然交尾によって前記ブタが生産され、前記ブタが、生児経膣分娩を介して分娩される、項127~132のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~132を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0371】
134.前記生児経膣分娩後、前記ブタが、一人以上のヒトの手によって飼育される、項127~133のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~133を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0372】
135.前記ブタと同じ様式で複数の追加のブタを飼育すること、ならびに前記追加のブタに対して剖検、組織学的検査、及び病理学的検査を定期的に実施することで、Ascaris属の種、cryptosporidium属の種、Echinococcus、Strongyloids sterocolis、Toxoplasma gondii、Brucella suis、Leptospira属の種、mycoplasma hyopneumoniae、ブタ生殖器呼吸器症候群、仮性狂犬病、staphylococcus属の種、Microphyton属の種、Trichophyton属の種、ブタインフルエンザ、ブタサイトメガロウイルス、アルテリウイルス、コロナウイルス、Bordetella bronchiseptica、及び家畜関連メチシリン耐性Staphylococcus aureusを含まない状態に前記閉鎖群が保たれていることを確認すること、をさらに含む、項127~134のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~134を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0373】
136.滅菌水または精製水と、動物タンパク質またはウシベースの材料を含まない穀物ベースの飼料とを、前記ブタに給餌すること、ならびに前記ブタのための寝床、ケージ、及び飼料を照射滅菌すること、をさらに含む、項127~135のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~135を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0374】
137.肉眼的評価、組織病理学的評価、及び微生物学的評価を含む剖検を、前記収集ステップの後に実施すること、ならびに剖検時に前記ブタ由来の脾臓、肝臓、骨髄、中枢神経系、及び肺のうちの少なくとも1つから組織試料を採取し、凍結保存すること、をさらに含む、項127~136のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~136を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0375】
138.前記生物学的に操作されたゲノムが、シチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸水酸化酵素(CMAH)遺伝子の破壊をさらに含む、項127~137のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~137を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0376】
139.前記生物学的に操作されたゲノムが、β1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ遺伝子の破壊をさらに含む、項127~138のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~138を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0377】
140.前記生物学的に操作されたゲノムが、1つ以上の内在性ブタ白血球抗原アレルが1つ以上のヒト白血球抗原アレルによって無痕跡でさらに交換されたものである、項127~139のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~139を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0378】
141.前記生物学的に操作されたゲノムが、1つ以上の内在性ブタ白血球抗原における長さ50~70ヌクレオチドが対応ヒト白血球抗原ヌクレオチド領域によってさらに交換されたものである、項127~140のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~140を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0379】
142.前記対応ヒト白血球抗原ヌクレオチド領域が、HLA-E、HLA-G、またはHLA-E及びHLA-Gの両方とDQβを組み合わせた領域である、項127~141のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~141を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0380】
143.前記生物学的に操作されたゲノムが、クラスIヒト白血球抗原(HLA)、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)II、B細胞Fc受容体、糖タンパク質ガラクトシルトランスフェラーゼ1,3(GGTA1)、NOD様受容体ファミリーCARDドメイン含有5(NLRC5)、及び免疫グロブリンG(IgG)のうちの1つ以上が遺伝的に再プログラム化されたものである、項127~142のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~142を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0381】
144.前記生物学的製品がヒト末梢血単核球(PBMC)との共培養時に誘導するサイトカインインターロイキン6(IL-6)の産生及びCD8+T細胞免疫応答が、インビトロの混合リンパ球反応アッセイによって測定すると、前記遺伝的な改変が行われていないカウンターパートブタから得られる細胞と比較して、それぞれ少なく、弱い、項127~143のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~143を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0382】
145.前記生物学的に操作されたゲノムが、ブタ白血球抗原(SLA)欠失及びHLA挿入を有する核ゲノムを含み、前記HLA遺伝子が、前記ヒトレシピエントに由来するか、所与の集団群のコンセンサス配列に由来するか、またはライブラリー配列に由来する、項127~144のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~144を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0383】
146.テンプレート主要組織適合遺伝子複合体配列を調製し、CRISPR-Cas9プラスミドを調製し、前記テンプレート主要組織適合遺伝子複合体配列を前記プラスミドにクローニングし、前記ブタ細胞中の前記主要組織適合遺伝子複合体遺伝子座のCRISPR切断部位を決定し、gRNA配列を1つ以上のCRISPR-Cas9プラスミドにクローニングし、前記CRISPR-Cas9プラスミドを前記ブタの細胞に投与し、前記ブタ細胞の前記主要組織適合遺伝子複合体遺伝子座にCRIPSR/Cas9による切断を生じさせ、ヒトテンプレート主要組織適合遺伝子複合体配列に由来する1つ以上のテンプレート主要組織適合遺伝子複合体配列を用いて前記ブタ細胞中の前記主要組織適合遺伝子複合体遺伝子座を置き換えることによって、前記ブタのゲノムを生物学的に再プログラム化することをさらに含む、項127~145のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~145を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0384】
147.a.健康記録、系統、及び遺伝子検査結果を付随させて、前記閉鎖群の外部に由来する複数のブタから候補ブタ群を取得し、前記閉鎖群の外部に由来する前記複数のブタを検疫入場区域に少なくとも7日間収容することであって、前記候補ブタ群中のブタが、1つ以上の細胞外表面糖鎖エピトープを前記ブタが発現しないように生物学的に操作されたゲノムを有する非野生型の生物学的に操作されたブタである、前記収容すること、
b.前記閉鎖群の外部に由来する前記複数のブタを、感染についてスクリーニングすることで、前記候補ブタ群から除外すべきいずれのブタも同定すること、
c.前記候補ブタ群から同定ブタをいずれも除外することで、スクリーニングされた候補ブタを形成させること、
d.前記スクリーニングされた候補ブタ群を、設けられた保持区域に移すことであって、前記ブタが、前記保持区域の外部のいずれの非ヒト動物及び動物収容施設とも接触しないように隔離される、前記移すこと、
e.前記スクリーニングされた候補ブタを前記保持区域中で交配させること、
f.非野生型の生物学的に操作された子ブタを妊娠雌ブタから帝王切開を介して分娩させることであって、前記雌ブタが、自然交配及び/または生殖補助技術を介して生産されたものである、前記分娩させること、ならびに
g.隔離された閉鎖群中で前記分娩された子ブタを保持することであって、前記隔離された閉鎖群中のすべての他のブタが、少なくとも下記の病原体:サイトメガロウイルス、アルテリウイルス、及びコロナウイルスを含まないことが確認され、前記子ブタが、少なくとも下記の病原体:Ascaris属の種、cryptosporidium属の種、Echinococcus、Strongyloids sterocolis、Toxoplasma gondii、Brucella suis、Leptospira属の種、mycoplasma hyopneumoniae、ブタ生殖器呼吸器症候群、仮性狂犬病、staphylococcus属の種、Microphyton属の種、Trichophyton属の種、ブタインフルエンザ、ブタサイトメガロウイルス、アルテリウイルス、コロナウイルス、Bordetella bronchiseptica、及び家畜関連メチシリン耐性Staphylococcus aureusを含まない、前記保持すること、
を項127のステップA)の前に実施し、その後、項127のステップA)を実施することをさらに含む、項127~146のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~146を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0385】
148.前記子ブタが、(i)アルファ-1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子;(ii)シチジン一リン酸-N-アセチルノイラミン酸水酸化酵素(CMAH)遺伝子;(iii)β1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ遺伝子;(i)及び(ii);(i)及び(iii);または(i)、(ii)、及び(iii)が破壊されたゲノムを有する、項127~147のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~147を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0386】
149.前記滅菌プロセスが、前記生物学的製品を最終滅菌することを含まず、前記滅菌プロセスが、前記収集された生物学的製品をUV-C照射に曝露すること、及び前記収集された生物学的製品を抗病原体槽に浸漬すること、のうちの少なくとも1つを含む、項127~148のいずれか1項に記載の方法もしくは項127~148を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0387】
150.製品を異種移植レシピエントに異種移植するための方法であって、
前記方法が、
いずれかの先行項に記載の方法によって生産される生物学的製品を得ること、
前記生物学的製品を異種移植レシピエントに移植すること、
a.前記生物学的製品の血管新生、
b.前記生物学的製品の拒絶反応、
c.免疫原性バイオマーカーの上昇、
のうちの少なくとも1つについて前記レシピエントを監視すること、
を含み、
前記移植時に、前記生物学的製品が、前記異種移植レシピエントにおいて臨床的利点を示す、前記方法。
【0388】
151.前記移植ステップが、免疫抑制剤を使用せずに実施される、項150に記載の方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0389】
152.前記臨床的利点が同種移植片製品を上回っており、前記同種移植片製品と比較した場合の前記臨床的利点が、移植片接着不良が低減されること、移植片接着が増加すること、周囲組織のレベルで肉芽形成が生じること、過剰肉芽形成が20%未満であること、血腫が創傷サイズの20%未満であること、フィブリン沈着が創傷サイズの20%未満であること、同種移植片と比較して細菌感染が低減されること、止血が進むすること、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮増殖因子(EGF)、インスリン様増殖因子(IGF-1)、血小板由来増殖因子(PDGF)、及び血管内皮増殖因子(VEGF)のうちの少なくとも1つの発現が誘導されること、ヒト線維芽細胞、ヒト表皮ケラチノサイト、ヒト内皮細胞、及びヒト多能性幹細胞のうちの少なくとも1つの誘引及び/または増殖が増加すること、MMP-1、MMP-2、MMP-3、MMP-8、及びMMP-9のうちの少なくとも1つが阻害されること、高血糖、神経障害、脈管障害、感染、フィブリンカフ、及び/または静脈性高血圧のうちの少なくとも1つが治療、低減、または抑制されること、蜂巣炎が低減されること、紅斑が低減されること、浮腫が低減されること、知覚過敏が減少されること、硬結が低減されること、圧痛が低減されること、そう痒が減少されること、膿瘍が低減されること、毒素性ショック症候群の発生率が低減されること、毒素1産生S.aureusのコロニー形成が低減されること、敗血症の発生率が低減されること、ならびにE.coli、P.aeruginosa、Klebsiella属の種、Providencia属の種、enterobacteriaceae、及びC.albicansのうちの少なくとも1つによるコロニー形成が低減されること、のうちの1つ以上である、項150もしくは項151に記載の方法または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0390】
153.前記移植ステップの後に前記異種移植レシピエントが有する血清中のIgMレベル及びIgGレベルが、1,000~20,000μg/mlである、項150~152のいずれか1項に記載の方法もしくは項150~152を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0391】
154.前記移植ステップの後に前記異種移植レシピエントが有する血清中IgMレベルが、1,000~5,000μg/mlである、項150~153のいずれか1項に記載の方法もしくは項150~153を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0392】
155.前記移植ステップの後に前記異種移植レシピエントが有する血清中IgGレベルが、8,000~15,000μg/mlである、項150~154のいずれか1項に記載の方法もしくは項150~154を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0393】
156.前記移植ステップの後に前記異種移植レシピエントが有する血清中のIgMレベル及びIgGレベルが、移植前に測定された血清中のIgMレベル及びIgGレベルを下回るか、または移植前に測定された血清中のIgMレベル及びIgGレベルと比較して10%未満の上昇に留まる、項150~155のいずれか1項に記載の方法もしくは項150~155を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0394】
157.前記移植ステップの後に前記異種移植レシピエントが有する血清中IgMレベルが、移植前に測定された前記異種移植レシピエントの血清中IgMレベルと比較して20%~50%低い、項150~156のいずれか1項に記載の方法もしくは項150~156を任意に組み合わせた方法、または本明細書に開示の項のいずれかの項に記載の方法もしくは本明細書に開示の項を任意に組み合わせた方法。
【0395】
158.前記製品が、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%のミトコンドリア活性を有する、いずれかの先行項に記載の方法または製品。
【0396】
159.前記製品が、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)還元アッセイにおいて、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、または少なくとも85%の細胞生存度を有する、いずれかの先行項に記載の方法または製品。
【0397】
160.前記ドナー動物(例えば、ブタ)が、糖(表面糖鎖)をコードする遺伝子及びMHC Iをコードする遺伝子がノックアウトされるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0398】
161.前記ドナー動物(例えば、ブタ)が、MHCクラスII DPをコードする遺伝子、MHCクラスII DQをコードする遺伝子、及びMHCクラスII DRαをコードする遺伝子がノックアウトされるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0399】
162.前記ドナー動物(例えば、ブタ)が、MHCクラスII DPをコードする遺伝子、MHCクラスII DQをコードする遺伝子、及びMHCクラスII DRαをコードする遺伝子がノックアウトされ、DRβがヒトDRβ遺伝子配列によって置き換えられるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0400】
163.前記ドナー動物(例えば、ブタ)が、MHCクラスII DQをコードする遺伝子、MHCクラスII DRをコードする遺伝子、及びMHCクラスII DPαをコードする遺伝子がノックアウトされるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0401】
164.前記ドナー動物(例えば、ブタ)が、MHCクラスII DQをコードする遺伝子、MHCクラスII DRをコードする遺伝子、及びMHCクラスII DPαをコードする遺伝子がノックアウトされ、DPβがヒトDPβ遺伝子配列によって置き換えられるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0402】
165.前記ドナー動物(例えば、ブタ)が、MHCクラスII DRをコードする遺伝子、MHCクラスII DPをコードする遺伝子、及びMHCクラスII DQαをコードする遺伝子がノックアウトされるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0403】
166.前記ドナー動物(例えば、ブタ)が、MHCクラスII DRをコードする遺伝子、MHCクラスII DPをコードする遺伝子、及びMHCクラスII DQαをコードする遺伝子がノックアウトされ、DQβがヒトDQβ遺伝子配列によって置き換えられるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0404】
167.前記ドナー動物(例えば、ブタ)が、MHCクラスIをコードする遺伝子がノックアウトされ、MHCクラスII DQαをコードする遺伝子及びMHCクラスII DQβをコードする遺伝子がノックアウトされ、DRα及びDRβがヒトDRα遺伝子配列及びヒトDRβ遺伝子配列によって置き換えられるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0405】
168.前記ドナー動物(例えば、ブタ)が、MHCクラスIをコードする遺伝子がノックアウトされ、MHCクラスII DRαをコードする遺伝子及びMHCクラスII DRβをコードする遺伝子がノックアウトされ、DQα及びDQβがヒトDQα遺伝子配列及びヒトDQβ遺伝子配列によって置き換えられるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0406】
169.前記ドナー動物(例えば、ブタ)が、MHCクラスIをコードする遺伝子がノックアウトされ、HLA-Aをコードする遺伝子がノックインされ、MHCクラスII DQαをコードする遺伝子及びMHCクラスII DQβをコードする遺伝子がノックアウトされ、DRα及びDRβがヒトDRα遺伝子配列及びヒトDRβ遺伝子配列によって置き換えられるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0407】
170.前記ドナー動物(例えば、ブタ)が、MHCクラスIをコードする遺伝子がノックアウトされ、HLA-Aをコードする遺伝子がノックインされ、MHCクラスII DRαをコードする遺伝子及びMHCクラスII DRβをコードする遺伝子がノックアウトされ、DQα及びDQβがヒトDQα遺伝子配列及びヒトDQβ遺伝子配列によって置き換えられるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0408】
171.前記ドナー動物(例えば、ブタ)が、MHCクラスIをコードする遺伝子がノックアウトされ、HLA-Bをコードする遺伝子がノックインされ、MHCクラスII DQαをコードする遺伝子及びMHCクラスII DQβをコードする遺伝子がノックアウトされ、DRα及びDRβがヒトDRα遺伝子配列及びヒトDRβ遺伝子配列によって置き換えられるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0409】
172.前記ドナー動物(例えば、ブタ)が、MHCクラスIをコードする遺伝子がノックアウトされ、HLA-Bをコードする遺伝子がノックインされ、MHCクラスII DRαをコードする遺伝子及びMHCクラスII DRβをコードする遺伝子がノックアウトされ、DQα及びDQβがヒトDQα遺伝子配列及びヒトDQβ遺伝子配列によって置き換えられるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0410】
173.前記ドナー動物(例えば、ブタ)が、MHCクラスIをコードする遺伝子がノックアウトされ、HLA-Aをコードする遺伝子及びHLA-Bをコードする遺伝子がノックインされ、MHCクラスII DQαをコードする遺伝子及びMHCクラスII DQβをコードする遺伝子がノックアウトされ、DRα及びDRβがヒトDRα遺伝子配列及びヒトDRβ遺伝子配列によって置き換えられるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0411】
174.前記ドナー動物(例えば、ブタ)が、MHCクラスIをコードする遺伝子がノックアウトされ、HLA-Aをコードする遺伝子及びHLA-Bをコードする遺伝子がノックインされ、MHCクラスII DRαをコードする遺伝子及びMHCクラスII DRβをコードする遺伝子がノックアウトされ、DQα及びDQβがヒトDQα遺伝子配列及びヒトDQβ遺伝子配列によって置き換えられるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0412】
175.前記ドナー動物(例えば、ブタ)が、MHCクラスIをコードする遺伝子がノックアウトされ、HLA-Aをコードする遺伝子がノックインされるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0413】
176.前記ドナー動物(例えば、ブタ)が、MHCクラスIをコードする遺伝子がノックアウトされ、HLA-Bをコードする遺伝子がノックインされるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0414】
177.前記ドナー動物(例えば、ブタ)が、MHCクラスIをコードする遺伝子がノックアウトされ、HLA-Cをコードする遺伝子がノックインされるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0415】
178.前記ドナー動物(例えば、ブタ)が、MHCクラスIをコードする遺伝子がノックアウトされ、HLA-Aをコードする遺伝子、HLA-Bをコードする遺伝子、及びHLA-Cをコードする遺伝子がノックインされ、MHCクラスII DRαをコードする遺伝子及びMHCクラスII DRβをコードする遺伝子がヒトDRα遺伝子配列及びヒトDRβ遺伝子配列によって置き換えられ、MHCクラスII DQα及びMHCクラスII DQβがヒトDQα遺伝子配列及びヒトDQβ遺伝子配列によって置き換えられるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0416】
179.前記ドナーブタが、HLA-Aに対応するブタ遺伝子、HLA-Bに対応するブタ遺伝子、HLA-Cに対応するブタ遺伝子、及びDRに対応するブタ遺伝子がノックアウトされ、HLA-C、HLA-E、及びHLA-Gがノックインされるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0417】
180.前記ドナーブタが、HLA-Aに対応するブタ遺伝子、HLA-Bに対応するブタ遺伝子、HLA-Cに対応するブタ遺伝子、HLA-Fに対応するブタ遺伝子、DQに対応するブタ遺伝子、及びDRに対応するブタ遺伝子がノックアウトされ、HLA-C、HLA-E、HLA-Gがノックインされるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0418】
181.前記ドナーブタが、HLA-Aに対応するブタ遺伝子、HLA-Bに対応するブタ遺伝子、HLA-Cに対応するブタ遺伝子、HLA-Fに対応するブタ遺伝子、DQに対応するブタ遺伝子、及びDRに対応するブタ遺伝子がノックアウトされ、HLA-C、HLA-E、HLA-G、HLA-F、及びDQがノックインされるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0419】
182.前記ドナーブタが、SLA-11;SLA-6、SLA-7、SLA-8;SLA-MIC2;及びSLA-DQA;SLA-DQB1;SLA-DQB2がノックアウトされ、HLA-C;HLA-E;HLA-G;及びHLA-DQがノックインされるように改変されたゲノムを有する、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0420】
183.前記再プログラム化することが、RNAガイド型の規則的な間隔でクラスター化した短鎖反復回文配列(CRISPR)/CRISPR関連(Cas)(CRISPR/Cas)ヌクレアーゼ系、CRISPR/Cas二重ニッカーゼ系、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、メガヌクレアーゼ、ヌクレアーゼドメイン(すなわち、二本鎖DNA切断を生成させる)に連結されたプログラム可能なDNA結合ドメインを含む融合タンパク質、及びそれらの組み合わせを使用して実施される、いずれかの先行項に記載の方法、製品、またはブタ。
【0421】
184.前記生物学的製品が、免疫抑制剤を前記ヒトレシピエントに投与しなくても前記ヒトレシピエントの免疫系による拒絶反応に抵抗性となる抗原性プロファイル及び免疫原性プロファイルを有する、いずれかの先行項に記載の方法または製品。
【実施例】
【0422】
本発明は、下記の実施例においてさらに詳細に説明されるが、こうした実施例は例示のために提供されるものにすぎず、本発明の範囲の限定を意図するものではない。
【0423】
実施例1
DPF閉鎖コロニー皮膚移植片(サル試験)
本発明に従って生産されたDPF閉鎖コロニーのα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから得られる皮膚移植片は、α-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから得られたものであるが、DPF閉鎖コロニーブタから得られたものではない皮膚移植片と比較して、拒絶反応発生までの期間を顕著に長期化させることが発見されている。
【0424】
α-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタ(DPF閉鎖コロニー由来ではないもの)をサルに適用したときの拒絶反応発生までの期間を評価している先行試験は多く、そうした先行試験によって、拒絶反応発生までの期間が11~13日の範囲内であることが示されている。例えば、Albritton et al.,Lack of Cross-Sensitization Between alpha-1,3-Galactosyltransferase Knockout Porcine and Allogeneic Skin Grafts Permits Serial Grafting,Transplantation & Volume 97,Number 12,June 27,2014(レシピエントヒヒ上のGal-T-KO皮膚移植片は、12日または13日が経過するまでに完全に拒絶された)、Barone et al.,“Genetically modified porcine split-thickness skin grafts as an alternative to allograft for provision of temporary wound coverage:preliminary characterization,”Burns 41(2015)565-574(レシピエントヒヒ上のGal-T-KO皮膚移植片は、11日が経過するまでに完全に拒絶された)、及びWeiner et al.,Prolonged survival of Gal-T-KO swine skin on baboons,Xenotransplantation,2010,17(2):147-152(ヒヒ上のGal-T-KO異種分層皮膚移植片は、11日が経過するまでに完全に拒絶された)を参照のこと。
【0425】
本発明は、品質が一貫せず、利用可能性が不確実であり、かつ限定されるという固有の不利益を伴うことなく、その同種移植片比較物と比較して同等か、驚くほど良好な性能を与えるものであることが非臨床試験において示されている。すなわち、驚くべきことに、少なくとも試験番号1によって、本発明に従って生産されたDPF閉鎖コロニーのα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから得られた皮膚移植片が、同種移植片よりも良好な性質を示したことが示されている。
【0426】
出願人が最近行った2つの試験(以下に示される試験番号1及び試験番号2)では、本発明に従って生産されたDPF閉鎖コロニーのα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから得られる皮膚移植片をサルに適用すると、拒絶反応発生までの期間が顕著に長期化すること(試験2では30日を超えた)が実証されている。この実施例の遺伝的に操作された供給源動物には、いずれの外来性DNAもゲノムに導入されておらず、用いた遺伝子改変は、細胞表面抗原を遍在性に発現させる酵素のコードを担う単一の遺伝子のノックアウトのみである。この実施例の異種移植製品には、導入遺伝子技術(CD-46トランスジェニックコンストラクトまたはCD-55トランスジェニックコンストラクトなど)が組み込まれていない。
【0427】
試験番号1
この試験では、全層皮膚損傷の実験モデルであるカニクイザル(Macaca fascicularis)に対して、自家移植片を配置する前にDPF閉鎖コロニーのα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタ異種移植製品材料を応急的な創傷用移植片として配置し、同種移植片と比較してこの材料を評価した。
【0428】
プライマリーエンドポイントには、移植片及びレシピエントにおけるブタ内在性レトロウイルス(PERV)のスクリーニング、ならびに異種移植製品及び同種移植片に対する拒絶反応の評価、及びこれらの移植片が最終的な自家移植片生着に与える潜在的な影響を含めた。セカンダリーエンドポイントには、剖検時に採取する腎臓、脾臓、肝臓、肺、移植片、及び創傷床組織の微生物学的分析及び組織病理学的分析を含めた。
【0429】
この試験では、4匹のカニクイザルを使用した。0日目に、約2~3cm×2~3cmの大きさの全層創傷床を各動物の背部に4つ創出した。
【0430】
最初に、異種皮膚(異種移植製品)、分層Gal-T-トランスジェニックブタ異種移植製品材料、または同種皮膚(同種移植片)(分層同種移植片材料)のいずれかを用いて0日目に創傷を処置した。
【0431】
試験15日目に、異種移植製品及び同種移植片を除去し、分層自家皮膚移植片(自家移植片)によって置き換え、その後、試験22日目まで動物を生存させた(例外として、動物1001及び動物1004は瀕死であったため屠殺した)。
【0432】
異種移植製品または同種移植片で処置し、12日目または15日目に除去したカニクイザルモデルの全層創傷床の顕微鏡評価(
図9A)、及び22日目まで生存させたカニクイザルモデルの全層創傷床の顕微鏡評価(
図9B)では、異種移植製品または同種移植片のいずれにおいても急性組織拒絶反応が生じた証拠は存在せず、同種移植片試験品と比較すると異種移植製品試験品では全体的に同等~若干良好な性能が得られ、異種移植製品試験品または同種移植片試験品のいずれで事前処置しても、その後の自家移植片の性能は平均~良好であることが実証された。異種移植製品の生存期間が顕著なものであったことから、これを受けて後続試験(試験番号2)を実施した。
【0433】
試験番号2
この試験の目的は、カニクイザル(macaca fascicularis)においてDPF閉鎖コロニーのα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタ異種移植製品材料の安全性及び免疫原性を評価することした。
【0434】
プライマリーエンドポイントには、移植片の配置前及び配置後のブタ内在性レトロウイルス(PERV)のスクリーニング、ならびに異種移植製品に対する拒絶反応の評価を含めた。
【0435】
この試験では、4匹のカニクイザルを使用した。0日目に、9cm2の全層創傷床を各動物の背部に2つ創出した。
【0436】
真皮組織層及び表皮組織層からなる分層Gal-T-ノックアウトブタ異種移植片材料を用いて創傷を処置した。
【0437】
いくつかの態様では、本開示に従ってトランスジェニック動物が使用され得る。
図8は、非ヒト霊長類レシピエントにおける全層欠損創傷の処置において応急的創傷閉鎖物として使用したブタ分層皮膚移植片の長期的な進行を示す。左:POD-0時点での創傷部位2の異種移植片。右:POD-30時点での創傷部位2の同じ異種移植片。
図10は、POD-30時点での組織画像を示す。上中央:上皮被覆が完全なものであることが創傷部位の低倍率H&E画像によって示される。点線は、残存異種移植片組織を囲むものである。左下:大きな挿入ボックスの高倍率H&E画像。点線の右下側は、異種移植片の真皮成分であり、白抜きの矢印によって異種移植片真皮マトリックスが示される。点線の左側は、宿主真皮(黒色の矢印)及び宿主真皮マトリックスである。軽度の炎症が存在しており、この炎症は、異種移植片試験品に反応したものあると解釈される。右下:小さな挿入ボックスの高倍率H&E画像。点線は、異種移植片試験品(点線の下側)及び新たなコラーゲン組織(点線の上側)との間の接合境界を大まかに示し、この画像の上部にはインタクトな被覆組織が存在する。異種移植片に反応した軽度の炎症(白抜きの矢印)が観察される。
【0438】
図11Aは、試験過程での4匹すべての対象(2001、2002、2101、2102)の血清中総IgM ELISA(μg/mL)を示すグラフである。
図11Bは、試験過程での4匹すべての対象(2001、2002、2101、2102)の血清中総IgG ELISA(μg/mL)を示すグラフである。いくつかの態様では、本開示の製品が移植された対象が有する血清中のIgMレベル及びIgGレベルは、各20,000μg/ml未満になる。いくつかの態様では、本開示の製品が移植された対象が有する血清中のIgMレベル及び/またはIgGレベルは、移植前に測定された血清中のIgMレベル及びIgGレベルと比較して、低いか、または10%未満、5%未満、3%未満、もしくは1%未満の上昇に留まる。いくつかの態様では、特許請求される方法では、本開示の製品が移植された対象での免疫反応性の発生率は5%未満、3%未満、または1%未満となり得る。
【0439】
図12Aは、POD-0、POD-7、POD-14、POD-21、及びPOD-30の時点でLuminex23-plexによって測定した可溶性CD40Lの全身濃度を示すグラフである。
図12Bは、POD-0、POD-7、POD-14、POD-21、及びPOD-30の時点でLuminex23-plexによって測定したTGF-アルファの全身濃度を示すグラフである。
図12Cは、POD-0、POD-7、POD-14、POD-21、及びPOD-30の時点でLuminex23-plexによって測定したIL-12/23(p40)の全身濃度を示すグラフである。
【0440】
30日または31日が経過した時点で動物を屠殺し、創傷部位を採取し、10%中性緩衝ホルマリン(NBF)または改変ダビッドソン溶液(精巣及び精巣上体用)中で固定化した。30日または31日が経過した時点で動物を屠殺したが、これは試験設計が理由であり、比較目的のためであり、本開示の異種移植製品は、この実施例で使用した試験期間よりも長く拒絶反応に抵抗する能力を有することに留意されたい。
【0441】
異種移植片を用いて処置し、30日目または31日目に屠殺したカニクイザルモデルにおける全層創傷床の顕微鏡評価では、宿主組織及び異種移植片組織によって欠損創傷が良好に埋まることが実証された。
【0442】
特別な(ブタ特異的)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及び逆転写酵素PCR(RT-PCR)を用いて試料を検査することによって、特定の術後間隔でブタ内在性レトロウイルス(PERV)及びブタサイトメガロウイルス(PCMV)のスクリーニングを別々に実施した。ブタ異種移植片、レシピエントの溶解PBMC、レシピエント創傷床、及び高度灌流臓器(剖検時にレシピエントから得たもの)を、遊走ブタ細胞の存在について評価した。検査はすべて、DNA及びRNAならびにアッセイ性能についての内部標準を用いて3連で実施した。剖検時に採取した腎臓、脾臓、肝臓、肺、異種移植片、同種移植片、創傷床組織の微生物学的(細菌、真菌、ウイルス)アッセイ及び組織病理学的分析、ならびに末梢血の分析を実施することで、異種移植片関連免疫原性バイオマーカーについて検査した。本開示の製品を用いて処置したカニクイザルモデルから得たPBMCにおけるブタ細胞遊走についてDNA PCRを実施して検査した。この検査は下記の試料に対して実施した:(A.)3つの全層(異種移植片)創傷床、(B)3つの全層(同種移植片)創傷床、(C)2つの脾臓試料、及び(D)2つの腎臓試料。宿主に対して細胞遊走または人畜共通感染症伝染が全身性に生じた証拠は存在しなかった。PERVの存在は、創傷床に残留するブタ細胞に起因するものであり、このことは、ブタMHC対照を用いて検証した。本発明者らの結果は、移植片から移植片レシピエントの循環へとブタのDNA及び細胞が遊走したということはなく、同様に、PERVまたはPERV感染ブタ細胞が創傷床を超えて遊走することもなかったことを示唆している。
【0443】
以下の表5は、ブタ細胞の遊走及び伝染の分析を示す:
【表5-1】
【表5-2】
表5の説明:
Neg(-)=陰性
Pos(+)=陽性
*=試験非実施または許容不可能な試料(無関係な試験設計関連の物流的問題または保存的問題による)
Pos(+)
A NHP1004の創傷床(PERV陽性)については、移植片とレシピエント(宿主)の間の界面に存在する検出ウイルスが許容ヒト細胞に感染し得るかどうかを確かめるために共培養試験を実施した。
異種移植片及びレシピエント創傷床細胞を、PERVの感染及び複製を許容するヒト細胞と共培養したところ、23日の培養後に当該標的細胞(HEK293)に増殖性の感染は認められなかった。
【0444】
実施例2
下記の実施例は、本発明に従って生産される指定の病原体を含まないα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから皮膚を収集及び加工するプロセスを説明するものであり、この皮膚はヒト移植のための異種皮膚製品として使用される。こうした態様のいくつかでは、異種移植製品は、特別な遺伝的に操作された指定の病原体を含まない(DPF)供給源動物(アルファ1,3ガラクトシルトランスフェラーゼノックアウト[Gal-T-KO]ミニチュアブタ)から得られる最終滅菌されていない活力あるブタ細胞を含む真皮組織層及び表皮組織層からなる分層移植片からなる。
【0445】
この実施例の遺伝的に操作された供給源動物は、いずれの外来性DNAもゲノムに導入されておらず、用いた遺伝子改変は、細胞表面抗原を遍在性に発現させる酵素のコードを担う単一の遺伝子のノックアウトのみである。この実施例の異種移植製品には、導入遺伝子技術(CD-46トランスジェニックコンストラクトまたはCD-55トランスジェニックコンストラクトなど)が組み込まれていない。
【0446】
本明細書に開示のプロセス及び手法は例にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。この実施例は異種移植皮膚製品を対象とするものであるが、手法全体のうちの下記のプロセス及び態様におけるステップのいくつかは、他の臓器または組織(限定されないが、腎臓、肺、肝臓、膵臓、神経、心臓、腸、及び他の臓器または組織を含む)にも適用可能であることが完全に理解されよう。皮膚以外の他の臓器または組織の収集及び加工と関連付けて、この実施例に開示のプロセス及び方法に対する改変(1つ以上のプロセスステップまたは方法ステップの追加または除外を含む)を実施できることがさらに理解されよう。この理解は、他の臓器及び組織が有する物理的特徴が異なることになるため、そのような他の臓器または組織の収集ステップ及び加工ステップが、ある特定の実際的な方法ではこの実施例とは異なることになるという事実に部分的には基づくものである(例えば、腎臓、心臓、肝臓、肺、または他の全臓器は、細断され、ナイロンメッシュによって補強された凍結保存用バイアル内に包装されることはない)。一方で、当該技術分野で知られる手法を利用するこの実施例のプロセスステップまたは方法ステップの1つ以上を、そのような臓器または組織のそれぞれに適するように追加または除外することが可能であることがさらに理解されよう(例えば、収集された腎臓、心臓、肝臓、肺、または他の全臓器は、いくつかの態様では、収集後に病原体を除去するために、本明細書に記載のように抗病原体槽に入れられるか、またはUV光に曝露され、1つ以上の閉鎖系に入れられることになる。例えば、そのような1つ以上の閉鎖系には、限定されないが、第1の閉鎖系(例えば、臓器を包むための最初の閉鎖物として不活性物質を利用することで、臓器の近くに存在する他の物質と臓器が接触または接着しないようにするもの)及び/または第2の閉鎖系(例えば、臓器及び第1の閉鎖系(第1の閉鎖系が利用される場合)を含む安全な滅菌外部容器)が含まれ得る。そのような閉鎖系(複数可)内のそのような臓器は、全臓器として臨床現場に輸送されるように構成され、臨床現場での本明細書に記載の移植のための無菌性及び細胞生存度を維持するための温度、無菌性、及び他の条件で保管、保護、及び輸送される。
【0447】
動物の準備
皮膚製品加工は、供給源動物の屠殺に始まり、最終製品の生産が完了するまでの連続的かつ自己完結型の分離された単一製造事象として行われる。
【0448】
DPF閉鎖コロニーから得られる異種皮膚移植片が受け入れられ、その際の由来元のブタは、DPF隔離区域とは別のセクションで家畜銃による安楽死を行って安楽死させてから間もないものである。供給源動物は、プラスチック容器内に入った非通気性滅菌バッグに入れられ、このプラスチック容器が、DPF隔離区域に運び込まれ、供給源動物から皮膚を収集するための手順が行われることになる手術部屋に置かれる。手術チームのすべてのメンバーが、供給源動物を受け入れる前に完全滅菌手術着を着用(滅菌着を着用)して、指定の病原体を含まない条件を維持し、場合によっては、手袋を二重に着用して汚染を最小限にとどめるべきである。
【0449】
除染前(例えば、二酸化塩素ガス処理の24時間前)及び手順を行う前に、供給源動物からの皮膚の収集に必要な材料を揃えて手術区域の準備が行われる。手術前に、採皮機器(電気的な皮膚収集デバイス(例えば、ExsurcoによるAmalgatome))の電源及び延長コードが滅菌され、手術区域に設置される。二酸化塩素ガス処理の間に部屋に存在しない材料(したがって未滅菌の材料)はいずれも、部屋に持ち込む前に70%のエタノールまたはイソプロパノールがスプレーされることになる。
【0450】
供給源動物は、無菌様式でバッグ及び容器から取り出される。例えば、バッグ及び容器から供給源動物を取り出すヒトは、滅菌手袋及び/または滅菌デバイスを使用して取り出しに役立て、汚染が最少化するようにする。クロルヘキシジンブラシを用いて手術スタッフによって供給源動物が少なくとも2分間徹底洗浄され、この洗浄では、手術対象となる全動物領域が、そうした領域に定期的にクロルヘキシジンをかけながらくまなく徹底洗浄されることで、確実に洗浄が行きわたるようにされる。
【0451】
供給源動物は、右の横腹及び背が手術台側になり、左の横腹及び背が露出するように置かれる。露出表面が徹底洗浄されて外科処理境界がはっきりと視認可能なようにされ、タオル鉗子で固定された滅菌覆布によって限定される。その後、開封したBetadineブラシ及び滅菌水すすぎ液を用いて供給源動物が約2分間徹底洗浄され、この洗浄によって、手術対象となる全動物領域がくまなく徹底洗浄される。
【0452】
このクロルヘキシジン及びBetadineの混合物が約2分間供給源動物に付着することになり、その後、スタッフ(指定の病原体を含まない条件を維持するために滅菌着を着用したスタッフ)が滅菌水及び滅菌ガーゼを用いて供給源動物をすすぎ、乾燥させることになる。膜に影響を与えたり、細胞を分解することが想定される別の要素を持ち込んだりしないように供給源動物の毛が除去される。除毛は、屠殺直後に、指定の病原体を含まない環境中で滅菌クリッパー及び/または滅菌西洋剃刀を使用して実施され、クロルヘキシジンの泡を利用して清潔な刃で行われる。スタッフは、クリッパー及び/または西洋剃刀(滅菌槽に入れて滑るようにしたもの)を使用して、皮膚を傷つけないように気を配りながら手術部位に残存する毛をすべて除去することになる。この手順は、右側が露出するように供給源動物をひっくり返して左の横腹を下にすることによって繰り返されることになる(徹底洗浄から除毛まで)。供給源動物は、滅菌水ですすがれ、滅菌タオルで乾燥され、70%のエタノールがスプレーされることになる。供給源動物は、執刀者によって目視検証されることで、徹底洗浄範囲が適切であることが確かめられることになる。滅菌徹底洗浄及び最終除毛が終わると、供給源動物は、皮膚収集の準備が出来た状態となる。
【0453】
皮膚の収集
手術者は、プログラム及び他の基準に従って滅菌着を着用して指定の病原体を含まない条件を維持することになる。異種移植に使用されることになる供給源動物から得られる組織はすべて、動物の屠殺から15時間以内に収集される。
【0454】
一態様では、供給源動物は、その側面を下にして手術台に寝かされる。この態様では、収集は、採皮用円形刃(例えば、Amalgatome(登録商標)SD)を利用して実施される。スタッフが動物を適所に固定しながら、執刀者が、最も適切な幅(例えば、1インチ、2インチ、3インチ、または4インチ)を決定し、そうした円形採皮機器を使用して、選択した厚み(例えば、0.50mm、0.55mm、0.62mm)で分層皮膚移植片のストリップを切り取る。
【0455】
別の例として、皮膚移植片の厚みは、問題の治療ニーズに応じて0.01mm~4mmの範囲であり得る。いくつかの態様では、当該技術分野で知られる代替の収集手順及び移植手順を用いて全層移植片を収集利用することも可能であることも理解されよう。移植片サイズは、1cm2~1000cm2の範囲(または約1ft2)であり得る。利用される用途及び収集手法ならびに供給源動物のサイズに応じて移植片サイズを大きくすることも可能であることが理解されよう。すべての態様について、治療目的及び/または他の目的のための目下の作業の用途及びニーズに応じて他の深度も利用可能であることが理解されよう。
【0456】
別の態様では、皮膚の収集は、最初に動物から皮弁を外科的に切り取り、その後、この皮弁を、手術台上に設置した収集板(例えば、金属、プラスチック、または他の適切な材料で出来た頑丈な板)に真皮側を下にして置くことを含む。この態様では、皮弁と収集板との間に滅菌詰め物材料が加えられることで、採皮デバイスが適切に機能する上で適した弾力性を得ることができる。次に、皮弁は、スチール鉗子を用いて収集板にしっかりと固定される。皮膚がしっかりと突っ張るまで、これらの鉗子とは反対側の皮弁位置に湾曲タオル鉗子が利用される。執刀者は、採皮機器での最も適した厚みを選択し、収集条件に従って調整することになる。執刀者は、固定された皮弁に対して採皮機器を使用し、その間、採皮機器の進行に沿って助手が張りを維持することになる。第2助手が皮弁の張りを支援することもあり得、さらに、鼠歯型鉗子を使用して、採皮機器から出る移植片製品を引っ張ることも行い得る。
【0457】
移植片は所望のサイズに整えられる。例として、サイズは、全表面積が25cm2であり、約0.55mmの均一な厚みを有する5cm×5cmであるか、全表面積が75cm2であり、約0.55mmの均一な厚みを有する5cm×15cmであるか、全表面積が60cm2であり、約0.55mmの均一な厚みを有する8cm×7.5cmであるか、全表面積が120cm2であり、約0.55mmの均一な厚みを有する8cm×15cmであり得る。カスタマイズ可能なサイズ(すなわち、幅、厚み、及び長さ)が患者ニーズに応じて創出され得る(異種移植手順において使用するために、より大きな皮膚シートが収集され得ることを含む)ことがさらに理解されよう。
【0458】
異種移植製品は、好気性細菌及び嫌気性細菌、真菌、ならびにマイコプラズマを含まないようにさらに加工される。異種移植製品は、収集直後、収集から1秒以内、2秒以内、3秒以内、4秒以内、5秒以内、6秒以内、7秒以内、8秒以内、9秒以内、10秒以内、10秒~1分以内、1分~1時間以内、1時間~15時間以内、または15時間~24時間以内に、適用可能な無菌手法を使用して医薬品加工特別室の層流フード内の滅菌条件の下で、抗微生物/抗真菌槽(「抗病原体槽」)に入れられる。皮膚製品に関して、これは、皮膚製品が適切な用量サイズ及び形に整えられた後(例えば、所望のサイズ(複数可)の正方形、長方形、または他の形に整えられた後)に行われ得る。
【0459】
抗病原体槽は、異種移植製品及びアンピシリン、セフタジジム、バンコマイシン、アムホテリシン-Bを含み、これらの薬物は、滅菌容器に入ったものが以下の表6に概略されるように希釈され、以下の表7に概略されるようにRPMI-1640培地に添加されたものである。一態様では、当該ボトルから培地が約10mL除去された後に上記の物品が添加される。
【表6】
【表7】
【0460】
この実施例は、異種移植皮膚製品を対象とするものであるが、他の臓器(限定されないが、腎臓、肺、心臓、肝臓、膵臓、及び他の臓器を含む)も本発明に従って抗病原体槽に浸漬され得ることが理解されよう。薬物及び他の化学物質の組み合わせの量、ならびにそのような抗病原体槽に曝露される時間は、本発明に従って、そのような曝露が細胞生存度及びミトコンドリア活性に与える影響が最小化して所望の抗病原体効果と、異種移植製品の処理操作の最小化との両方が達成されるように決定される。
【0461】
抗病原体槽を介して病原体を除去することの代替として、または抗病原体槽を介して病原体を除去することに加えて、紫外線を利用するプロセス及び系によって製品が指定の病原体を含まないようにされる。この態様では、手術者は、施設の基準に従って滅菌着を着用して指定の病原体を含まない条件を維持する。手術者は、紫外線及び紫外線レーザーから目を保護するための保護眼鏡を着用する。
【0462】
紫外線レーザーランプが層流フード内に設置される。互いに上に積み重なった2つの容器蓋の上にランプの四隅のそれぞれが配置され、すなわち、四組の蓋がランプの支持に使用されるか、またはフードの機能面上の一時位置もしくは固定位置にランプを配置することが可能な他の支持物品がランプの支持に使用される。ランプ球(全部でチューブ型電球2つ)からフードの床までの距離は約1.5インチである。フードの内部全体がアルコール(例えば、エタノールまたはイソプロパノール)でスプレーされる。ランプがつけられ、手術者は、ランプの仕様、電球の数、ならびに電球と異種移植製品との間の距離に基づいて、所望の曝露量が得られる時間の計算を実施する。
【0463】
手術者は、2つの槽中溶液(一方はクロルヘキシジンであり、もう一方はアルコールである)を2つの別々のボウルに注ぎ入れ、これら2つのボウルをフード下に置く。
【0464】
新たに滅菌された凍結保存用バイアルのパッケージがフード下に置かれる。凍結保存用バイアルキャップが開けられ、クロルヘキシジン槽に入れられる。次に、各凍結保存用バイアル(キャップなし)が上下逆に反転され、クロルヘキシジン槽に開放状態で各1分間沈められ、その後、立てて置かれて風乾される。その後、滅菌ガーゼを利用してクロルヘキシジン及びアルコールで各凍結保存用バイアルの外側が拭かれる。凍結保存用バイアルキャップがクロルヘキシジン槽から取り出され、滅菌ガーゼ上に置かれる。各バイアルの開口端をアルコール槽に各1分間沈めた後、傍らにおいて風乾させた。
【0465】
外科処理部屋において収集/獲得段階から得られて間もない異種移植製品が、一方通行の入り口を介して製品加工部屋に移され、層流フードに入れられる。滅菌領域に入れるものはすべて、手術者の手に渡る前に70%のエタノールでしっかりと拭かれる。手術者は、層流フード内のすべての必要材料を利用できることになる:異種移植製品(滅菌容器中)、凍結保存用バイアル、10mLシリンジ及び針、段階制御型フリーザー用保持ラック、ならびに切断済ナイロンメッシュ。一度に加工する製品を1サイズのもののみにすることで、最終的なバイアルに対する適切な管理が確保される。手術者は、層流フードに座って作業する際には滅菌・無菌手法を遵守する。
【0466】
UV光滅菌を使用する場合、所望の時間(例えば、2分以上)製品がUVランプの下に置かれた後、もう一方の側にひっくり返され、反対側が曝露されるようにして同じ時間(例えば、2分以上)UVランプの下に置かれる。所与の試料がUVに曝露される時間は、滅菌対象となる特定の生物学的病因物質または生物学的病因物質の型によって変わり、例えば、以下の表8に示される通りである:
【表8】
【0467】
他の全臓器に関して、製品収量は、典型的には、所与の供給源動物が、それぞれのそのような全臓器をいくつ有し得るかに依存することになる(例えば、肝臓1つ、肺2つ、腎臓2つ、心臓1つ、膵臓1つなど)。
【0468】
この実施例は異種移植皮膚製品を対象とするものであるが、本発明に従って他の臓器(限定されないが、腎臓、心臓、肺、肝臓、膵臓、及び他の臓器を含む)を紫外線に曝露し、指定の病原体を含まないようできることも理解されよう。UVの曝露用量、強度、及びそのような紫外線への曝露時間は、本発明に従って、そのような曝露が細胞生存度及びミトコンドリア活性に与える影響が最小化して所望の抗病原体効果と、異種移植製品の処理操作の最小化との両方が達成されるように決定される。
【0469】
製造プロセス
一般的なもの
供給源動物は、連続的な製造事象を介して無菌異種移植製品に加工される。供給源動物と関連する製品の製造にはいくつかの項目が伴い、こうした項目には、限定されないが、下記のものが含まれる:
a.供給源動物の管理及び飼育(本明細書に記載のように、ある特定のワクチン接種を行うこと、系統記録を注意深く維持及び解析すること、適切な動物飼育を実施すること、ならびに隔離障壁条件の下で動物を維持することを含む)、
b.製品の製造(本明細書に記載のように、供給源動物を安楽死させてから対象製品に加工して収集することを含む)、
c.供給源動物の分析検査(本明細書に記載のように、外来性病因物質のスクリーニング(寄生虫アッセイ、細菌アッセイ、及びウイルスアッセイを含む)を行うことを含む)、
d.供給源動物の分析検査(本明細書に記載のように、供給源動物がアルファ-1,3-ガラクトトランスフェラーゼノックアウト体であるか、または所与の用途に望ましい他の特徴を有することを確認することを含む)、ならびに
e.供給源動物の分析検査(本明細書に記載のように、内在性ウイルス(PERV)のウイルスアッセイを行うことを含む)。
【0470】
得られる製品の製造及び出荷検査にもいくつかの項目が伴い、こうした項目には、限定されないが、下記のものが含まれる:
a.製品の製造(本明細書に記載のように、医薬品を加工すること、医薬品を保管すること、及び医薬品を出荷することを含む)、
b.医薬品の分析検査(本明細書に記載のように、生存度検査(例えば、MTTアッセイによるもの)を行うことを含む)、
c.無菌性検査(本明細書に記載のように、好気性細菌培養、嫌気性細菌培養、真菌培養、マイコプラズマアッセイ、エンドトキシン検査、USP<71>を行うことを含む)、
d.外来性病因物質検査(本明細書に記載のように、PCRアッセイ(例えば、内在性ウイルス(PERV)を対象とするもの)を行うことを含む)、ならびに
e.医薬品の分析検査(本明細書に記載のように、組織学的検査を行うことを含む)。
【0471】
皮膚については、各動物からの製品収量は、各動物のサイズによって変わり得る。例として、動物によっては、3,000~6,000cm
2の製品収量を与え得る。一態様では、単一の供給源動物から連続プロセスで収集されるものが、1回のバッチで得られる皮膚製品となる。異種移植製品のバッチに関する説明は表9に示され、異種移植製品のバッチ組成は、表10に示される。
【表9】
【表10】
【0472】
優良試験所規範(「GLP」)条件の下で事前ロット検査が実施されることで、プロセス無菌性が一貫して確実に維持される。最終製品の無菌性の保証は、材料の出荷及び臨床使用の前に判定される。ヒトでの臨床使用のための検証に先立って、異種移植製品はすべて、本明細書に記載のものを含めて、ある特定の合否判定基準を満たすことになる。最終医薬品の管理方針及び分析検査が製造プロセスの終局時に実施された後で、臨床使用に向けての出荷が行われる。必要な分析検査の結果は、異種移植製品の各ロットに関するマスターバッチ記録と共に維持される医薬品分析証明書(COA)を介して文書化されることになる。
【0473】
肺、肝臓、脾臓、脊髄、脳、腎臓、及び皮膚の組織試料を確保することによって供給源動物の試料収集保管物が得られ、維持される。こうした組織は、検査用収集保管物としての供給源動物組織を得るために採取され、潜在的な将来の検査に向けて保管される。供給源動物組織及び体液の収集保管試料は、試料の保存に適するようにマイナス(-)70℃以下で保管されることになる。他の態様では、固定化試料が室温で維持され得る。ホルマリン固定化及びパラフィン包埋用、ならびに凍結保存用として、生存細胞、生存組織、または生存臓器の獲得時に適切な組織試料が供給源動物から採取されることになる。0.5cc分量のクエン酸抗凝固処理血漿またはEDTA抗凝固処理血漿が少なくとも10個、一定分量の生存白血球(1×107個/一定分量)(核酸及びタンパク質を後に単離するためのもの、または共培養もしくは他の組織培養アッセイのための生存細胞の供給源として使用するためのもの)が5個、凍結保存されることになる。
【0474】
収集後の製品の加工
既に収集され、処理操作が最小限に留められた異種移植皮膚製品(この時点で皮膚完全性を有しており、真皮組織層及び表皮組織層に施された処理操作が最小限に留まり、それらの組織層に標準的な細胞形態及び細胞秩序が伴うもの)が、クラス10,000(IS0-7)製品加工部屋として設計された、外科処理特別室のものを上回る陽圧を有する別の隣接部屋に運びこまれる。
【0475】
この手術部屋は、手術作業手順に従ってセットアップされることになり、手術職員は、ヒュームフード作業用のTyvexスーツを着用することになる。必要な場合、助手もTyvexスーツを着用することになる。更衣及び着衣は無菌手法を用いて行われる。手袋及び袖は、必要に応じてアルコールがスプレーされることになる。ABSL-2層流フードは、二酸化塩素ガスによる滅菌プロセスを経て事前に滅菌されており、アルコール(例えば、70%のエタノール)がスプレーされることになり、層流排出が開始されることになる。無菌手法を利用するにあたって、外科用器具、凍結保存用バイアル、cryotray、フラスコ、シリンジ、針、追加の容器、及びすべての加工機器は、事前にオートクレーブで滅菌されてから、層流フード内に置かれることになる。外部包装は、手術者に渡る前にアルコールでスプレーされる。
【0476】
本明細書に記載のように、手術に先立って、ナイロンメッシュ移植片用基材が、用量レベルに適したサイズの正方形に切断され、オートクレーブ可能な袋に入れて密封され、蒸気によって滅菌されることになる。次に、袋の外部が70%のエタノールで滅菌され、ヒュームフード内に置かれることになる。10mLの凍結保存用バイアルの外部パッケージが70%のエタノールで除染され、ヒュームフード内に置かれることになる。滅菌されたオートクレーブ済外科用器具パッケージが、70%のエタノールでスプレーされ、手術者に渡されることになる。
【0477】
滅菌されたシリンジ及び針が、70%のエタノールでスプレーされてから、手術者に渡されることになる。ブタドナーから収集されて間もない移植組織がフードに移されることになる。滅菌領域に入れるものはすべて、手術者の手に渡る前に70%のエタノールでしっかりと拭かれる。手術者は、ヒュームフード内のすべての必要材料を利用できることになる:移植片(滅菌容器中)、凍結保存用バイアル、10mLシリンジ及び針、段階制御型フリーザー用保持ラック、ならびに切断済ナイロンメッシュ。手術者は、ヒュームフードに座って作業する際には滅菌・無菌手法を遵守することになる。
【0478】
図2に関して、各凍結保存用バイアルの滅菌及びラベル付けを事前に行うことで、加工時間が低減されると共に、凍結保存前に材料がDMSOに不必要に曝露されることが低減されることになる。各異種移植製品を入れたパン、及び抗生物質を含む室温のRPMI 1640組織培養培地(例えば、抗病原体槽)が層流フード下に置かれる。製品を30分以上抗病原体槽に浸漬することで、異種移植製品を滅菌した。
【0479】
一態様では、UV光滅菌を使用する場合、上記のようにUVランプを使用して凍結保存用バイアルが滅菌される。製品が各バイアルに入れられた後、各新たなバイアルに各新たなキャップが被せられ、しっかりとねじ込まれる。各バイアルがランプの下に置かれ、バイアルの外側が望ましくまんべんなく光に曝露されるように定期的に転がされる。内部が事前に滅菌されており、ねじ山部及びキャップを含めて、アルコール及びクロルヘキシジンで外部が手術者によって滅菌されたガラス瓶の内部にバイアルが入れられる。バイアルは、アルコールでしっかりと拭かれ、ガラス瓶に入れらる。ガラス瓶の外側には、フードの外部からアルコールがたっぷりとかけられる。フード下で、手術者は、ガラス瓶の蓋を浸漬させ、瓶の開口端をアルコールに沈め、瓶のねじ山部を含めて瓶の外部をアルコール(及び任意選択のクロルヘキシジン)で拭く。バイアルは、ガーゼを利用してアルコールで拭かれ、器具を用いて各ガラス瓶の内部に入れられる。次に、ガラス瓶の蓋がしっかりと締められ、瓶が助手に手渡される。こうしたプロセスを通じて、助手は、頻繁かつ定期的に手術者の手袋及び腕をアルコールでスプレーする。
【0480】
この実施例では、異種移植皮膚製品は、滅菌ハサミを用いて外科処理特別室中で切断成形され、外科用メス10番で整えられたものであり、滅菌ステンレス鋼定規で再測定されて技術的な仕様及び寸法が適合しているかどうか検証されることになる。異種移植皮膚製品の目視検証が行われて、亀裂、裂け目、目に見える異常、または厚みの過剰さもしくは不十分さがないことが確かめられる。
【0481】
層流フード下で、手術者は、鉗子を使用して抗病原体槽から単一の異種移植皮膚製品を取り出し、凍結保存用バイアルに合うように事前に切断されたナイロンメッシュ片の上に、真皮側がメッシュと接触するようにして(例えば、真皮側を下にして)ナイロンメッシュの中央にくるように置き、これには製品ごとに1分を要することになる(各製品に要する時間は前後し得、最大で5分を要することが理解されよう)。滅菌ナイロンメッシュ包装コンポーネントは、とりわけ、異種移植製品を支持し、巻く時に異種移植製品が自己接着することを阻止するために利用されることが理解されよう。
【0482】
滅菌ナイロンメッシュ包装コンポーネントは、滅菌ナイロンメッシュ包装コンポーネント上に異種移植製品を配置し、滅菌ナイロンメッシュ包装コンポーネントの二次元表面領域(すなわち、厚みを含めない長さ及び幅)の中に異種移植製品を合わせることを可能にすると想定される任意の寸法のものであり得る(例えば、異種移植製品の二次元領域寸法は、滅菌ナイロンメッシュ包装コンポーネントの二次元領域寸法未満であると想定される)ことがさらに理解されよう。
【0483】
滅菌ナイロンメッシュ包装コンポーネントの寸法は、異種移植製品のサイズ及び用量に見合うサイズにされると想定されることがさらに理解されよう。例えば、凍結保護媒体を7ml利用して凍結保存用バイアルに5cm×5cmの異種移植皮膚製品(25cm2)(7.5グラム)を入れる場合、当該異種移植皮膚製品に合うように滅菌ナイロンメッシュ包装コンポーネントは8cm×7.5cm(60cm2)とされる。凍結保護媒体を5ml利用して凍結保存用バイアルに5cm×15cmの異種移植皮膚製品(75cm2)(22.5グラム)を入れる場合、当該異種移植皮膚製品に合うように滅菌ナイロンメッシュ包装コンポーネントの寸法は8cm×22.5cm(180cm2)とされることがさらに理解されよう。
【0484】
包装の間に異種移植皮膚製品の表皮領域または真皮領域が意図せず接着すると、異種移植皮膚製品の完全性が破壊され、その治療的生存度が潜在的に低下し得る。滅菌ナイロンメッシュ包装コンポーネントを含めることは、内部での物理的支持を与えて自己接着を阻止することを意図するものである。滅菌ナイロンメッシュ包装コンポーネントは、生物学的または化学的に不活性であり、異種移植皮膚製品自体の代謝活性または有効性に直接的に影響を与えない。
【0485】
本明細書の実施例1に記載のサル試験を含めて、多くの実験の過程で、この滅菌ナイロンメッシュ包装コンポーネントを使用することで、異種移植製品との望ましくない有害反応が生じるか、または最終異種移植製品が分解及び汚染されてレシピエントに有害な反応もしくは転帰が生じるということが観察されたことはない。滅菌ナイロンメッシュ包装コンポーネントは、移植手順では使用されない。凍結保存及び解凍の後、ならびに異種移植製品の使用前には、滅菌ナイロンメッシュ包装コンポーネントは廃棄される。このように、所与の用途について、特定の材料及び関連仕様の選択を注意深く行った。Medifab 100ミクロンナイロンメッシュ(パーツ番号03-100/32-Medifab)は、cGMP基準に準拠して製造されるものであり、その物理的特徴及びヒト臨床使用認証済の認容性から、このナイロンメッシュを選択した。
【0486】
層流フード下で、手術者は、次に、異種移植製品及びナイロンメッシュ包装コンポーネントから構成されるこの複合物をきつく巻き、凍結保存用バイアル(例えば、10mlバイアル)内にこの複合物を入れ、これには製品ごとに1分を要することになる(各製品に要する時間は前後し得、最大で5分を要することが理解されよう)。この態様では、メッシュ材料が巻き付けられることで、得られる円柱の鉛直高が8cmとなり、10ml凍結保存用バイアル(例えば、長さ10cm及び直径17mm)内に一様に確実に合うようになり、完了時には、ねじ込み密封キャップでメッシュ材料がしっかりと固定され得る。メッシュ材料は、この保護性メッシュ材料が異種移植製品の外側になり、巻き付けが完了すると異種移植材料の露出がないか、または異種移植材料が視認不可能となり、異種移植材料が完全に当該保護挿入物の中に完全に巻き込まれるように配向される。滅菌ナイロンメッシュ包装コンポーネントの固有の引張特性及び材料特性は均一であり、この材料の非弾力性または剛性によってそれが広がって凍結保存用バイアルの容量が満たされる。したがって、最初の「巻物密度」にかかわらず、この材料は均一に緩まり、それ故に標準化されることになる。
【0487】
層流フード下で、手術者は、次に、滅菌シリンジを使用して十分な滅菌凍結保護媒体(例えば、5~7mlのジメチルスルホキシド(DMSO)5%含有媒体(Cryostor CS5、BioLife Solutions)を吸い上げて皮膚製品巻物が完全に浸るまで凍結保存用バイアルを満たすことで、異種移植皮膚材料、メッシュ基材、及び凍結保護媒体の複合物が10mlの充填線と確実にぴったりと重なるようにし、これには製品ごとに1分を要することになる(各製品に要する時間は前後し得、最大で5分を要することが理解されよう)。
【0488】
層流フード下で、手術者は、ねじ込みキャップを用いて凍結保存用バイアルを密封することになる。中身及びラベル情報の同一性が手術者によって確認される。ラベルは予め用意され、製品を含める凍結保存用バイアルの外部に製品加工前に適用される。
【0489】
本明細書に記載の異種移植製品及び包装コンポーネントの調製物は、治療用量の形態であり得ることが理解されよう。例えば、異種移植医薬品は、下記のものからなる:
a.異種移植分層皮膚原体
b.i.一次包装コンポーネント:ねじ込み密封キャップを備えた滅菌された透明な凍結保存用10mlポリプロピレンバイアル
ii.滅菌ナイロンメッシュ包装コンポーネント
iii.凍結保護媒体包装コンポーネント
を含む一次容器閉鎖系
異種移植製品の指定用量は、cm2当たり活力ある代謝的に活性なブタ異種移植原体300mgであり、このブタ異種移植原体は、0.55mmという一定の厚みを有する。製剤の例としては、下記のものが挙げられる:
c.用量強度1:0.55mmの均一な厚みを有し、重量が約7.5グラムの25cm2の分層皮膚移植片。
d.用量強度2:0.55mmの均一な厚みを有し、重量が約22.5グラムの75cm2の分層皮膚移植片。
【0490】
異種移植医薬品一次包装コンポーネントの一例は、ねじ込み密封キャップを備えた滅菌された透明な凍結保存用10mlポリプロピレンバイアルである。例えば、Simport Scientificによって製造されるSimport Cryovial,T310(10-ml)が挙げられる。この製品は、BPA非含有、重金属非含有、かつラテックス非含有の医療グレード樹脂から構成され、USPクラスVIリミットを満たす。
【0491】
異種移植医薬品製造プロセスの間にはナイロンメッシュ包装コンポーネントが利用される。調製される異種移植医薬品は、下記の寸法に予め整えられた滅菌ナイロンメッシュ包装コンポーネント(例えば、Medifab 100ミクロンナイロンメッシュ)上に配置される:
a.用量強度1:幅7.5cm×高さ8cm;総面積60cm2
b.用量強度2:幅22.5cm×高さ8cm;総面積180cm2
【0492】
薬物製造プロセスの間には凍結保護媒体包装コンポーネントも利用される。異種移植 医薬品は、凍結保存前に下記の体積の凍結保護媒体包装コンポーネントに浸される:
a.用量強度1:7mlのCryostor CS5(DMSO5%含有)。
b.用量強度2:5mlのCryostor CS5(DMSO5%含有)。
【0493】
凍結保護媒体の飽和状態の保証に関して、指定量のCryoStor CS5媒体(用量強度に従う)が、層流フード(ISO-5、FED STD 209E クラス100条件)の下で10mlシリンジを介して垂直位置の凍結保存用バイアル(
図30に示される型の凍結保存用バイアルなど)に適用される。凍結保護媒体によって空間(複数可)が満たされ、垂直配向の凍結保存用バイアルの底部から始まって最高位の充填ラインに向かう充填プロセスが重力によって確保される。製造者によって境界設定された10ml充填線に到達するまで体積量の添加が行われる。この様式でのバイアル充填によって気泡の除去も促進される。完了時点でねじ込みキャップによる密封が行われる。飽和状態及び充填状態の目視検証及び物理的検証が達成され、中身の異種移植製品が内部でずれようがないことが確かめられる。
【0494】
凍結保存
製品材料は、上記のように製品を含む凍結保存用バイアルを含む適切なフリーザーラックに配置された後、認証済Q-A管理速度段階制御型フリーザーに入れられることになる。認証済Q-A管理速度段階制御型フリーザーを使用することで、以下の1つの標準化された速度制御凍結プロセスを介して製品全体が凍結保存される:
a.4℃から始まり、-40℃の温度が達成されるまで、内部チャンバー及び試料温度プローブによって毎分1℃の速度で温度が下がることになる。
b.速度制御下で温度が-40℃に到達した時点で、速度制御型フリーザー試料温度プローブによって-40℃から-80℃に温度が急速に低下することになる。
c.次に、GLP認証済-80℃フリーザーに材料が移され、使用されるまで保管される。
室温から-80℃に至るにはバッチ回あたり40分を要する(この時間は前後し得、最大で2時間を要することが理解されよう)。いくつかの態様では、浸透性の凍結保護物質(DMSOなど)を使用することで、形態及び組織構造が保護され、新鮮な皮膚のものと同等の代謝活性レベルが保持され得る。いくつかの態様では、凍結保存は、グリセロール、ゲンタマイシン、ナイスタチン、L-グルタミン、及び他の処理溶液のうちの1つ以上を代替的または付加的に含み得る。いくつかの態様では、β-ラクタム系抗生物質は使用されない。
【0495】
凍結保護媒体包装コンポーネントを含めることは、異種移植製品に必要な凍結解凍サイクルの間の細胞生存を支援することを意図するものである。包装の間に異種移植製品の凍結保護媒体包装コンポーネントを含めることを行わないと、異種移植製品の完全性が破壊されるか、または凍結保存プロセスが妨害される可能性があり、異種移植製品生存度が低下して合否判定基準を下回る可能性があり得る。凍結保護媒体を含めずに異種移植製品を凍結保存すると、異種移植製品に含まれる生物学的に活性な細胞が破壊される。この凍結プロセスの間には、氷の結晶が急速に形成され、細胞膜及びミトコンドリアオルガネラ障壁が破壊されることが起こる。ジメチル-スルホキシド成分を使用すれば、当該成分が細胞内液を置き換えるように働く。したがって、凍結保護媒体を使用することで、そのような氷晶が形成されることが低減され、さらには、細胞生存度に負の影響を与え、ひいては医薬品の有効性にも負の影響が及ぶと想定される総細胞体積の急速かつ破壊的な膨張が生じることも低減される。
【0496】
本明細書の実施例1に記載のサル試験を含めて、多くの実験の過程で、この凍結保護媒体包装コンポーネントを使用することで、異種移植製品との望ましくない有害反応が生じるか、または最終異種移植製品が分解及び汚染されてレシピエントに有害な反応もしくは転帰が生じるということが観察されたことはない。このように、特定の材料及び関連仕様の選択は、ヒトでの臨床使用が意図される異種移植製品に必要な適切な基準を満たすように行った。これには、DMSOレベルが最小かつ無影響のものである凍結保護媒体、すなわち、追加の異種移植材料(ブタ血清)を製剤に含める必要なく良好に性能を発揮すると想定されるものを同定することが含まれる。凍結保護媒体包装コンポーネントは、移植手順では使用されない。解凍時、及び治療的使用のための異種移植の使用(医薬品としての使用を含む)の前には、凍結保護媒体包装コンポーネントは廃棄される。CryoStor CS5は、cGMP基準に準拠して製造されるものであり、CryoStor CS5を選択した理由は、それがヒト臨床使用認証済の認容性を有するためである。
【0497】
臨床現場への搬送
臨床現場への製品の搬送は、-80℃保管条件で異種移植皮膚製品材料が維持されるように実施されることになる。搬送容器の一例は、EXP-6 Standard Dry Vapor Shipperであり、この搬送容器は、下記の詳細な規格を有する:
・動的保持期間 10日
・保持温度 -150℃以下
・コア技術 乾燥蒸気液体窒素
・検体チャンバー 直径2.8”(71mm)
・深さ 11.5”(292mm)
・空重量 9.7lb/4.4kg
・充填時重量 18.3lb/8.3kg
・国内容積重量 21.07lb/9.56kg
・国際容積重量 24.87lb/11.28kg
・外装箱 12”×12”×22”
・(305×305×559mm)
搬送プロセスの態様は、
図29にも示されており、こうした態様には、限定されないが、(1)凍結保存での保管を行うこと、(2)凍結保存での保管の間、異種移植製品を、本明細書に記載の凍結保存用バイアル及び媒体に入れておくこと、(3)凍結保存用バイアルを乾燥蒸気搬送容器(または二次閉鎖系)に入れること、(4)搬送業者を介して容器及びバイアルを搬送すること、(5)搬送先で異種移植製品を管理及び監視すること(マイナス(-)150℃以下で少なくとも10日間継続され得る)、(6)異種移植製品が入った本明細書に記載の凍結保存用バイアル及び媒体を容器/二次閉鎖系から取り出すこと、(7)異種移植製品が入った本明細書に記載の凍結保存用バイアル及び媒体を、-80℃での保管を行う現場にあるフリーザーに入れること、が含まれる。
【0498】
臨床現場での準備
一態様では、医薬品は、凍結保存された異種移植製品として臨床現場に到着する。異種移植製品は、使用前に、37℃の水槽中で解凍し、バイアルから取り出し、3つで1組の室温の滅菌0.9%生理食塩水槽中で洗浄しなくてはならない。
【0499】
解凍プロセスにつては、滅菌装置及び無菌手法が使用される:
a.3つの滅菌された外科用500mLボウルのそれぞれに生理食塩水200mLを調製する。
b.皮膚製品を含む未開封の凍結保存用バイアルを、温度が約25℃の水槽中に入れる。いくつかの実施形態では、温度は約37℃である。
c.解凍されたDMSO中に異種移植皮膚製品組織が懸濁される不要な曝露時間が可能な限り最少化するように注意を払いながら、約5分間または凍結保存用バイアル内で組織が動くようになるまで、槽中で穏やかに旋回させる。
d.凍結保存用バイアルを開け、滅菌鉗子を使用して組織及びメッシュを手早く取り出して生理食塩水のボウルに移す。
e.滅菌鉗子を使用して組織が確実に生理食塩水中に15秒間完全に沈むようにし、この間、生理食塩水に触れる範囲が最大化するように穏やかに旋回させることによって撹拌する。皮膚異種移植皮膚製品材料から基礎支持メッシュ材料を分離することになる。必要に応じて第2の滅菌鉗子対を分離に使用する。メッシュはボウル中に残すか、または廃棄してよい。
f.滅菌鉗子を使用して第2のボウル洗浄液に皮膚を移す。完全に沈め、15秒間穏やかに旋回させる。これは、段階希釈または「すすぎ」である。
g.滅菌鉗子を使用して第3の生理食塩水洗浄液に皮膚を移して前のステップを繰り返す。皮膚を完全に沈め、約15秒間穏やかに旋回させる。
h.すすぎプロセスの全時間を60秒以内に収まるようにして、解凍されたDMSO中に製品が懸濁される不要な曝露時間を最少化することで、製品の有効性を最大化することになる。
i.この時点で、組織は解凍され、すすがれており、適用の準備が整う。生理食塩水中に入れて使用するまで約25℃で保ち、この保持の時間が2時間を超えないようにする。
【0500】
完了後、解凍及びすすぎのプロセスが完了し、異種移植製品を創傷部位に配置する準備が整う。生理食塩水中での連続洗浄によって、解凍時に十分な希釈溶媒が与えられることで、残留凍結保護物質(5%DMSO溶液、CryoStor CS5)が除去され、細胞内液レベルが正常なホメオスタシス条件に置き換わる。無影響レベルのDMSOを含む凍結保護媒体をそのように希釈及び使用することで、解凍後に異種移植皮膚製品材料上に残る残留DMSOは最小限となり、そのいずれも目に見える影響を及ぼさず、臨床的に意味を持つ可能性は極めて低いという想定が確実なものとなる。このプロセスによって、代謝的に活性な細胞の量が最大限に保持され、それによって異種移植製品の有効性が最大化されることも確実となる。
【0501】
解凍の例.下記のものは、異種移植製品の解凍手順の一例である。解凍は、滅菌手袋を着用した手術者によってBiosafety Cabinet内で下記のように実施され得る:(i)3つの外科用500mLボウルのそれぞれに生理食塩水200mLを調製する。(ii)クロルヘキシジンで水槽を拭いて清潔にしてから70%のエタノールを水槽にスプレーすることによって水槽の準備を整える。(iii)エタノールの乾燥後に滅菌水溶液を水槽に加え、37℃+/-2℃に温める。(iv)異種移植医薬品は二重バッグに入っており、これを未開封のまま37℃の水槽に入れる。(v)約5分間または凍結保存用バイアル内で組織が動くようになるまで穏やかに旋回させる。(vi)解凍されたDMSO中に組織が浸かる時間を可能な限り最少化する。(vii)バッグの外側をエタノールでスプレーし、外側のバッグからバイアルを取り出し、70%のエタノールで異種移植医薬品凍結保存用バイアルをスプレーしてから、Biosafety Cabinet内に入れる。(viii)凍結保存用バイアルの蓋を外し、鉗子を使用して組織及びメッシュを手早く取り出して生理食塩水のボウルに移す。(ix)鉗子を使用して確実に組織が生理食塩水中に60秒間完全に沈むようにし、この間、生理食塩水に触れる範囲が最大化するように穏やかに旋回させることによって撹拌する。(x)皮膚からメッシュを分離し、必要に応じて第2の鉗子対を分離に使用することになる。(xi)メッシュはボウル中に残すか、または廃棄してよい。(xii)鉗子を使用して皮膚を第2のボウル洗浄液に移す。(xiii)完全に沈め、60秒間穏やかに旋回させる。(xiv)鉗子を使用して皮膚を第3のボウル洗浄液に移し、完全に沈め、60秒間穏やかに旋回させる。この時点で組織は解凍され、適用の準備が整う。滅菌された受け皿中で滅菌生理食塩水を用いて組織の湿潤に保つ。
【0502】
不活性なナイロンメッシュ基材及び異種移植皮膚製品を巻くプロセスを行うことで、異種移植製品の「巻物密度」が均一となる。メッシュ材料はすべて、所与の用途のための所定の寸法に沿って均一な寸法に切断され、同じ材料ロットから得られるため、特定ロット内で製造される皮膚製品の単位のすべてについて均一な材料特性が得られる。
【0503】
ナイロンメッシュ挿入物の固有の引張特性及び材料特性は均一であり、この材料の非弾力性または剛性によってそれが広がって一次容器閉鎖系(凍結保存用バイアル)の容量が満たされる。したがって、最初の「巻物密度」にかかわらず、この材料は均一に緩まり、それ故に標準化されることになる。
【0504】
ABSL-2層流フード内のクラス100,ISO5条件の下で、指定量のCryoStor CS5媒体(用量強度に従う)が、10mlシリンジを用いて垂直位置の凍結保存用バイアルに適用される。
【0505】
凍結保護媒体によって空間(複数可)が満たされ、垂直配向の凍結保存用バイアルの底部から始まって最高位の充填ラインに向かう充填プロセスが重力によって確保される。製造者によって境界設定された10ml充填線に到達するまで体積量の添加が行われる。この様式でのバイアル充填によって気泡の除去も促進される。
【0506】
完了時点でねじ込みキャップによる密封が行われる。飽和状態及び充填状態の視覚的保証及び物理的保証は、皮膚製品を振ってみて中身が内部でずれようがないことを確かめることによって達成される。凍結保存用バイアルの態様は
図30にも示され、示される態様には、とりわけ、容量10ml、サイズ17mm×84mm、キャップの取り外しが容易な垂直の切り込み、シリコーンワッシャー、すべての温度で密封を確保する同じ膨張係数を有する同じポリプロピレン材料からできたキャップ及びチューブ、1と1/4回転のねじ設計、厚い壁、大きな白色の書き込み領域、及び中身を使い切ることが容易に可能な丸底が含まれ得る。
【0507】
二次閉鎖系の態様は
図31に示され、示される態様には、とりわけ、Tyvek-1073B医療グレード構成、幅5インチ×高さ12”、ケーン15本または凍結保存用バイアル箱2個を保管する容量、保持温度-150℃以下、乾燥蒸気液体窒素の利用、通常の搬送条件の下でのIATA評価による動的保持期間10日、検体チャンバーの直径2.8インチ(71mm)、検体チャンバーの深さ11.5インチ(292mm)、空重量9.7lb/4.4kg、充填時重量18.3lb/8.3kg、国内容積重量21.07lb/9.56kg、国際容積重量24.87lb/11.28kg、外装箱寸法12”×12”×22”が含まれる。
【0508】
加工に伴う製品の機械的処理操作は最小限のものにすぎないため、製品中に不純物が追加混入または外部から混入して存在することはないと見込まれ、この閉鎖プロセスの間に他の化学的または生物学的な病因物質が持ち込まれることはない。製品製造プロセスに供給源動物を使用する上で必要な合否判定基準検査は本明細書に記載のように実施され、医薬品COAを介して文書化される。最終製品は、本明細書に記載のようにウイルス性の外来性病因物質について評価される。
【0509】
有効期間に関して、異種移植製品(一実施形態では、有効期間は6ヶ月である)が記載のように連続保管されると、-80℃で連続保管された場合、最大で少なくとも7年という有効期間の長期安定性(細胞生存度)が支援される。異種移植製品が連続的に凍結保存された場合、少なくとも7年という有効期間が得られる。表11は、異種移植製品が検査されることになる時点の安定性を示す。
【表11】
【0510】
一態様によれば、以下の表12にある項目は、分析及び出荷の証明書において利用可能な項目である。
【表12】
【0511】
実施例3
真皮表皮組み合わせ製品
下記の実施例は、本発明に従って生産されるヒト移植において使用するための指定の病原体を含まないα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから得られる皮膚製品の説明を提供する。本明細書に開示の製品、プロセス、及び手法は例にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0512】
熱傷及び他の病気を治療するための皮膚移植製品によっては、培養された表皮自家移植片(例えば、Epicel(登録商標)というブランド名でVericel Corporationによって生産される製品を参照のこと)が利用される。そのような表皮自家移植片が熱傷(重度熱傷を含む)患者に利用されると、移植される表皮材料に対する拒絶反応が低減されるか、または生じ得ない。これは、この材料が患者自身の皮膚から得られるものであるためである。
【0513】
しかしながら、そのような製品は、表皮のみに限られており、皮膚の真皮部分を含まない。
図3に関して、真皮(典型的には、皮膚の厚みの95%を占める)は、表皮(典型的には皮膚の厚みの5%を占める皮膚の外側部分である)とは大きく異なる機能を発揮するものであることが理解されよう。
【0514】
表皮自家移植片単独では、真皮の非常に重要な機能を発揮する能力を欠くため、そのような製品は、生存真皮と組み合わせて使用される。損傷によっては、創傷床は、患者自身の真皮の残存部分を含み、この真皮残存部分は、培養された表皮自家移植片を患者に移植する手順において利用する上で理想的な真皮である。しかしながら、熱傷がより重篤な症例によっては、患者自身の真皮がもはや存在しないか、またはもはや生存していない。そうした症例では、表皮自家移植片単独では十分でなくなるため、異なる真皮が必要となる。
【0515】
一態様では、本発明に従って指定の病原体を含まないα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから得られる真皮組織からなる全層皮膚移植片創傷被覆材が、培養された表皮自家移植片と併せて使用されるか、または組み合わせて使用される。この組み合わせを利用する治療プロセスの1つは下記の通りである。
【0516】
重度熱傷を有する患者は、損傷から48~72時間以内に手術部屋に運ばれる。患者がケアを受けた後に可能な限り早く生検検体が採取され、培養表皮自家移植片(例えば、Epicel(登録商標)というブランド名でVericel Corporationによって生産される製品を参照のこと)を創出するための既知の手順に従って表皮皮膚細胞が単離され、別に増殖される。
【0517】
患者の体がどの程度損傷を受けているかに応じて、健康な領域から表皮自家移植片が採取されることで、熱傷領域が治療され、及び/または移植プロセスにおいて使用される表皮自家移植片メッシュが後に創出される。
【0518】
重度熱傷領域は、本明細書に記載の皮膚製品(例えば、本発明に従って生産される指定の病原体を含まないα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから得られる皮膚製品)で治療される。そのような治療は、十分な自家移植片が患者の長期的な治療に利用されるようになるまでの応急的創傷被覆を行うことを含む。
【0519】
適切な基質を確保するには、表皮自家移植片の適用に先立って、創傷床をしっかりと清拭することが必要である。創傷床が表皮自家移植片を受け入れる準備が整ったかを確認するために、本明細書に記載の皮膚製品(例えば、本発明に従って生産される指定の病原体を含まないα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから得られる皮膚製品)が適用されて接着が確認される。接着が確認されると、この応急的創傷被覆製品が除去され、いくつかの態様では、メッシュ状自家移植を用いて創傷床が被覆され、この自家移植片メッシュ中のギャップを埋めるために1つ以上の培養表皮自家移植片製品が上に被せられる。
【0520】
創傷清拭は、機械的創傷清拭、化学的創傷清拭、酵素的創傷清拭、またはそれらの組み合わせを含み得る。機械的創傷清拭は、外科的切除(例えば、健康な組織が見えるまで真皮の薄層を除去するための接線切除、または基礎をなす筋膜に到達するまで真皮の全層を除去するための筋膜上切除)を含み得る。接線切除は、壊死組織と共に除去される生存組織を少なく済ますことができるが、典型的には失血が多くなるものであり、筋膜上切除と比較して生理学的ストレス要因が大きくなり、創傷清拭が「不完全」になる可能性が高くなり、失活組織がそのままいくらか残るものである。筋膜上切除では、失血及び手術時間は最少化されるが、熱傷組織と共に除去される健康な組織の量が多くなることが多い。創傷清拭剤には、外来物質及び壊死組織を除去することによって熱傷を浄化することが可能な薬剤が含まれ得る。そのような薬剤は多く知られている。酵素的創傷清拭では、コラゲナーゼ、または細胞外マトリックスのタンパク質を分解する他のタンパク質分解酵素を用いることで、手術を必要とせずに失活組織を一掃することが可能になり、一方で、好ましくは、健康な組織は実質的にインタクトなまま残る。酵素的創傷清拭は、壊死組織を分解するために創傷表面にタンパク分解酵素及び任意選択で他の外来酵素を適用することを含む。酵素的創傷清拭は、比較的緩徐なプロセスであり、他の局所調製物、浸漬、及び被覆材の反復適用と組み合わせて何週間にもわたって実施され得る。代わりに、複数の酵素製品を使用することで酵素的創傷清拭を迅速に達成することができ、こうした酵素製品は、例えば、パイナップル植物の幹から抽出されるもの(例えば、WO98/053850及びWO2006/0006167に開示もの)ならびに商品名Debrase(登録商標)で市販される製品において提供されるものである。酵素的創傷清拭の手順では、一般に、酵素が利用され、こうした酵素は、ブロメライン系酵素、デブリダーゼ(debridase)、コラゲナーゼ、パパイン系酵素、ストレプトキナーゼ、スティラインズ、フィブリノリジン、デオキシリボヌクレアーゼ、オキアミ系酵素、トリプシン、またはそれらの組み合わせなどである。自己分解性の創傷清拭は、マクロファージ及び内在性タンパク分解活性に起因して創傷に生じる健康な組織由来の壊死組織及び焼痂が選択的に液化、分離、及び消化される自然プロセスを増進することに依存するものである。このことは、密封性、半密封性、または湿潤相互作用性の被覆材を使用することによって達成される。酵素的創傷清拭剤には、ブロメライン高含有酵素製品、他のコラゲナーゼ、または失活組織もしくは創傷壊死組織片を浄化する能力を有する他の酵素製品が含まれる。NexoBrid(商標)(MediWound Ltd.)は、創傷被覆または被覆材製品を必要とする部分層創傷及び全層創傷をもたらす熱変性コラーゲンを特異的に分解標的とするブロメライン高含有製品の1つである。そのような製品及び方法は、米国特許第8,540,983号、同第8,119,124号、同第7,128,719号、同第7,794,709号、同第8,624,077号、及びUS2009/0010910A1に記載されており、これらの文献はそれぞれ、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0521】
いくつかの態様では、創傷床は、慢性創傷もしくは急性創傷を含むか、または慢性創傷もしくは急性創傷であり得る。慢性創傷には、限定されないが、静脈性下腿潰瘍、褥瘡、及び糖尿病性足部潰瘍が含まれる。急性創傷には、限定されないが、熱傷、外傷、切断創傷、皮膚移植片提供部位、咬創、凍傷、皮膚剥離、及び外科的創傷が含まれる。
【0522】
真皮が存在しない場合、本発明に従って生産される指定の病原体を含まないα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから得られる皮膚製品が利用される。そのような製品からは表皮が除去され(この除去は、例えば、VERSAJET(商標)Hydrosurgeryシステムを用いてブタの真皮を収集する前に行われる)、その結果、真皮のみが残される。次に、対象ブタ真皮が患者の皮下組織の上に配置され、上記の培養表皮自家移植片プロセスの基質となる。
【0523】
実施例4
DPF異種肝臓フィルター
トランスジェニックブタ肝臓を使用して、ヒトにおける体外式フィルターとして役立てることは、Levy,et al.,“Liver allotransplantation after extracorporeal hepatic support with transgenic(hCD55/hCD59)porcine livers:Clinical results and lack of pig-to-human transmission of the porcine endogenous retrovirus,” Transplantation,69(2):272-280(2000)(「Levy」)に開示されており、当該文献の内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0524】
その研究では、劇症肝不全のためのヒト肝臓移植を待つ患者を維持するために、遺伝子的に改変されたトランスジェニックブタ肝臓による全臓器体外灌流が提唱された。使用されたブタ肝臓は、ヒトCD55(崩壊促進因子)及びヒトCD59についてのトランスジェニックであると報告されたが、その肝臓では、[アルファ]-gal抗体が著しく増加することを抑制することができなかった。
【0525】
本発明によれば、一態様では、本発明に従ってDPF閉鎖コロニーのα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから得られる肝臓が、ヒト移植物が患者に移植されるまで、ヒト患者のための応急的フィルターとして体外灌流に利用される。追加の遺伝的改変を有するブタも利用され得ることが理解されよう。こうした追加の遺伝的改変を有するブタには、表1及び本明細書の他の箇所に記載の任意の数の形質について遺伝的に再プログラム化されたブタが含まれる。
【0526】
一態様では、
図4に示されるように、体外式回路では、人工肺(例えば、Minimax Plus(登録商標)中空糸人工肺)、ポンプ(例えば、BP50 Pediatric Bio Pump(登録商標)遠心ポンプを備えたBio-Medicus モデル540 Bio-Console(登録商標))、及び加温器(Bio-Medicus モデル370 BioCal(商標)温度制御器)が利用される。この回路では、ローラーポンプ(例えば、Sarnsモデル7000、Sarns,Ann Arbor,MI)も利用されて患者への重力流入の欠如が補われる。灌流される肝臓と患者との切り離しにはブリッジ及びクランプが利用される。
【0527】
DPF隔離区域内の手術区域において、供給源動物が、全身麻酔(ケタミン、キシラジン、エンフルラン)下に置かれるか、または家畜銃によって安楽死される。次に、指定の病原体を含まない条件の下で供給源動物の肝切除が実施される。
【0528】
肝臓は、当該技術分野で知られる任意の数の方法で保存された後、体外式フィルターとして使用され得る。こうした方法には、限定されないが、Levyに開示のもの(例えば、「4℃乳酸リンゲル/アルブミン溶液ならびに門脈へのカニューレ挿入(28F Research Medical,モデルSPC-641-28)及び下大静脈へのカニューレ挿入(36F Research Medical,モデルSPC-641-36)」を利用するもの)が含まれる。
【0529】
総胆管は、任意の数の方法で挿管され得る。こうした方法には、限定されないが、Levyに示されるもの(例えば、「静脈内拡張チューブ(Extension Set 30、Abbott Hospitals,Inc.,Chicago,IL)を用いて、その後の胆汁生成の定量化を可能にするもの」)が含まれる。
【0530】
供給源動物から得られる肝臓製品は、包装され、ヒトドナー肝臓での現行方式に従う手順が行われる場所に輸送され得る。
【0531】
肝臓ろ過製品を利用するための手順は、例えば、静脈流入用に患者の内頸静脈に12F小児用動脈カニューレ(例えば、Medtronic DLP,Grand Rapids,MI)を経皮的に挿入し、静脈流出用に患者の大腿静脈に19F大腿動脈カニューレ(例えば、Medtronic Bio-Medicus,Eden Prairie,MN)を経皮的に挿入することによって実施され得る。これらのカニューレは、バイパス回路に連結され、このバイパス回路には、遠心ポンプ(例えば、Bio-Medicus)、熱交換器(Medtronic Bio-Medicus)、人工肺(例えば、Medtronic Cardiopulmonary,Anaheim,CA)、及びローラーポンプ(例えば、Sarns)が組み込まれている。
【0532】
この回路は、晶質液を用いて開始準備が整えられ、DPF閉鎖コロニーのα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタ肝臓が、800ml/分の安定流速で組み込まれるまでの一定時間(例えば、20分)回され、当該肝臓は、晶質液槽において維持され、この晶質液槽には、温かい溶液が時折補充される。
【0533】
上記の本発明の態様は、単に例示を意図するものであり、多数の変形及び改変が当業者には明らかであろう。そのような変形及び改変はすべて、添付の特許請求の範囲に定義されるように本発明の範囲に入るものとする。
【0534】
実施例5
この実施例では、本発明に従って、本明細書に示され、記載されるように、DPF閉鎖コロニーのα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから早産ブタ胎児及び新生子ブタが子孫として得られる。
【0535】
そのような早産ブタ胎児及び新生子ブタは、異種移植治療のための細胞、組織、及び臓器の供給源として利用され、こうした異種移植治療には、限定されないが、再生治療または直接移植治療が含まれる。そのような細胞、組織、及び臓器は、本発明に従って新鮮なものとして利用されるか、または凍結保存(例えば、-80℃の範囲の凍結保存)後に利用され得ることが理解されよう。
【0536】
一態様では、間葉系細胞、多能性細胞、幹細胞、及び/または分化していない他の細胞がそのような早産ブタ胎児から収集され、本明細書に記載のように再生治療及び他の治療に利用され、一方で、そのような未分化細胞は、ブタ胎児ならびに新生子ブタにおいても高い割合でみられ得る。こうした細胞は、妊娠期間のより早期に胎児から得られるため、再生治療の潜在力を高める分化度の低さ及び柔軟性の高さを有する。さらに、こうした細胞は、本明細書に記載に示され、記載されるように、DPF閉鎖コロニーのα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから得ることができるものであり、憎悪性の免疫原性因子、病原性因子、及び/またはヒト免疫系による拒絶反応を引き起こす他の憎悪性因子を有さず、こうした細胞は、ヒトレシピエント内で存続及び分化して、こうした遺伝的ビルディングブロック及び細胞ビルディングブロックを使用するモデル組織の増殖機能を回復させることになる。
【0537】
例として、そのような細胞を利用することで、異種移植のための当該技術分野で知られる再生細胞治療法によって(例えば、生物学的足場を利用することによって)多くの臓器及び/または組織を生成させることができ、こうして生成させることができる臓器及び/または組織には、限定されないが、皮膚、腎臓、肝臓、脳、副腎、肛門、膀胱、血液、血管、骨、脳、脳、軟骨、耳、食道、眼、腺、歯ぐき、毛、心臓、視床下部、腸、大腸、靱帯、唇、肺、リンパ、リンパ節及びリンパ管、乳腺、口、爪、鼻、卵巣、卵管、膵臓、陰茎、咽頭、下垂体、幽門、直腸、唾液腺、精嚢、骨格筋、皮膚、小腸、平滑筋、脊髄、脾臓、胃、腎上体、歯、腱、精巣、胸腺、甲状腺、舌、扁桃腺、気管、尿管、尿道、子宮、子宮、及び腟、乳輪組織、血液、咽頭扁桃組織、骨組織、褐色脂肪組織、網状組織、軟骨組織、軟骨、海綿組織、軟骨様組織、クロム親和性組織、結合組織、肉様膜様組織、弾性組織、上皮組織、表面被覆組織、脂肪組織、線維硝子組織、線維組織、ギャンジー包帯、ゼラチン様組織、肉芽組織、腸管関連リンパ系組織、ハラー脈管組織、硬性の造血組織、未分化組織、間質組織、被覆組織、島組織、リンパ組織、リンパ系組織、間葉組織、中腎組織、膠様組織、多房性脂肪、筋組織、骨髄組織、軟組織鼻点、腎発生組織、神経組織、結節組織、骨組織、造骨組織、類骨組織、根尖周囲組織、細網組織、網状組織、ゴム状組織、骨格筋組織、平滑筋組織、ならびに皮下組織が含まれる。
【0538】
したがって、早産ブタ胎児及び新生子ブタは、成体ブタとの比較時のその特徴に基づいて本発明に従って組織、細胞、及び臓器の供給源として利用され得る。
【0539】
実施例6
ブタ皮膚は、ヒト皮膚と基本特性を共有しており、重度熱傷の応急的に被覆するためのヒト死体皮膚移植片の潜在的代替物となる。ブタ移植片での凍結保存を延長した場合の移植片生存度、移植片生着、及び障壁機能に対する影響を、MHC適合性の皮膚移植モデル及びMHCクラスII不適合性の皮膚移植モデルを使用する試験において調べた。
【0540】
細胞生存度の評価はホルマザン-MTTを使用して行い、移植片の生物学的特性は、ブタレシピエントに対する移植によって評価した。インビボでの臨床的評価、組織学的分析、及び形態学的分析を補完するために、一連のMTT還元アッセイを実施して、凍結保存及び長期保管後のブタ移植片の残存生存度を評価した。MTTはミトコンドリアによってホルマザン代謝物に還元され、このホルマザン代謝物は、紫色として観察することができる。この現象を利用すると、分光光度計によって測定される光学濃度値の変化を解析するか、または標準曲線に対して生成ホルマザンの量を当てはめることで、実験試料ならびに陽性対象及び陰性対照との間の細胞生存度の差次的な評価を得ることができる。MHC適合性に基づいて各2匹の動物を含むコホートを2つ(全部でN=4)を創出し、各ブタに4つ移植片を移植した。1つは自家移植片であり、3つはMHCプロファイルが同一の同種移植片である。移植片生着、接着、及び移植片拒絶までの時間について移植片を臨床的に評価した。拒絶反応については、Banffグレード分類尺度による組織学的な評価も行った。
【0541】
保管期間のみに基づいて、その他の点では同等の材料の間での直接的な比較を行うことで、他のすべての因子を一定に保ちながら有意義な生存期間差異が得られる。並行して、同一の様式で保存され、保管期間が15分または7年である同等の移植片の間でインビボでの比較評価が実施される。臨床的な肉眼的評価及び写真を、独立した組織学的評価と併用することで、凍結状態にある期間の長さと関連して移植片の生存にいずれかの認識可能な差異が存在するかどうかが決定される。並行して、MTT還元アッセイによって移植片生存度を定量化してインビトロで別に評価することで、凍結保存後及びさまざまな保管期間の細胞の代謝活性が特徴付けられる。さらに、標準的な組織学的(H&E)染色を使用して組織形態学的分析を独立して行うことで、こうしたプロセスが構造レベルで移植材料に観察可能な変化を生じさせるかどうかに関する証拠が得られる。この試験では、そのような期間を通じて連続保管された材料を、関連する外科的記録及び標準化された施設プロトコールと併せて有利に使用した。さらに、凍結保存プロトコール及び解凍プロトコール、試薬、ならびに用いる方法に関して、比較群の間での処理方法及びプロトコールを標準化し、等しく適用した。まとめると、これによって、保管期間をその他の影響を排除して並行評価することが可能になり、知見をモデル化もしくは推定するか、または規範的な予測方法をその他の様式で使用する必要性が軽減された。さらに、この同種皮膚移植モデルでは、MHC適合性のドナー-レシピエントペア及びMHCクラスII不適合性のドナー-レシピエントペアを使用して内部標準として役立てることで、7年前に得た組織が同一性を有することに加えて、外科的記録及び文書化が正確であることも確認された。さらに、同種移植片が同等の挙動を示したことは、保管期間の結果として移植片の抗原性が変化しなかったことも実証している。
【0542】
技術的な不備はなく、すべての移植片がそのそれぞれの創傷床に接着し、血管新生を再誘導した。コホート1(MHC適合性のドナー-レシピエントペア)では、すべての移植片が接着を保ち、手術後経過日数(POD)12時点では一様に健康な見た目を有していたが(
図5A)、POD-14時点では、壊死の徴候、紅斑の進行、及び接着の減少の徴候が観察された(
図5B)。コホート1での6つの移植片の臨床的評価から、POD-14~18時点で拒絶反応が生じることが示された。コホート2(MHCクラスII不適合性)では、同種移植片は、POD-4を過ぎても自家移植片と同等の見た目を有していた。しかしながら、POD-8までには、すべての同種移植片が軽度の紅斑を示し、拒絶反応に沿っており、POD-10までには完全に拒絶されたものと見なされた。新鮮な皮膚移植片、保存して間もない皮膚移植片、及び長期的に保存された皮膚移植片の間で、存続期間、接着の質、または細胞生存度の間に統計的に有意な差は観察されなかった。これらの凍結保存された材料は、統計的に述べれば、生存していたも同然であり、この知見は、7年を経たすべての移植片が創傷床に接着し、生存性を持続させたことから、インビボで実験的に証明されたものである。そのような生存性は、同種移植片の活力がなければ示されようもないものである。本発明を限定するものではないが、本発明のための凍結保存期間には、例えば、約7年までの任意の長さの期間が含まれ得ることが理解されよう。
【0543】
材料及び方法:
【0544】
この試験は、Center for Transplantation SciencesにおいてIACUCが認可したプロトコール(2005N000279,改正69)に従い、U.S.Department of Agriculture’s(USDA)Animal Welfare Act(9 CFRのパート1、パート2、及びパート3)、Guide for the Care and Use of Laboratory Animals、ならびにすべての州の現地の法律及び規制を遵守して実施した。試験プロトコール、外科的手順、及び動物管理指針は、常任IACUC委員会による審査及び監視を独立して受けたものである。
【0545】
この実験では、全部で8匹のブタを使用し、これらのブタはすべて、Sachs-NIHの近交系ミニチュアブタコロニーのメンバーである。手術時点で、すべてのブタが総体重10~20kg、月齢2~4ヶ月であった。この実験の間のいずれの時点においても免疫抑制レジメン(複数可)は使用しなかった。コホート1には動物24074及び動物24075を割り付け、MHC適合性ドナー-レシピエントペアとした。コホート2には動物24043及び動物24070を割り付け、MHCクラスII不適合性のドナー-レシピエントペアとした。これとは別に、インビトロの一連のMTT分析用として、野生型Gottingenミニチュアブタを5匹追加し、これらのミニチュアブタから陽性対照及び陰性対照としての組織を得た。
【0546】
telazol(チレタミンHCl及びゾラゼパムHCl、Zoetis Inc.,Kalamazoo,MI)を2mg/kgで筋肉内注射してブタドナーに麻酔をかけ、経口気管内挿管を行うために、これらの麻酔ブタドナーを手術部屋に運び入れた。2%のイソフルラン及び酸素を使用して麻酔を維持した。酢酸クロルヘキシジン(NolvasanR Surgical Scrub,Fort Dodge Animal Health,Fort Dodge,IA)及びポビドン-ヨウ素,10%(Betadine Solution,Purdue Products,L.P.,Stamford,CT)を用いて手術前に皮膚表面を消毒した。次に、これらの動物を横たわらせ、背の右側が露出するようにした。深度を0.056cm(0.022インチ)に設定して空気駆動式Zimmer採皮機器(Medfix Solution,Inc.,Tucson,AZ)を使用して、各動物の肩甲骨と最下位肋骨の下縁との間から約25cm2(表面積)の分層皮膚移植片を収集した。
【0547】
皮膚移植片の収集後、凍結保存し、限定期間での保管を意図する移植片については、標準化された施設プロトコールを移植片に適用し、これらの移植片を-80℃で15分維持してから解凍した。長期的に凍結保存する移植片は、7年超の期間、-80℃で連続保管しておいたものである。移植片はすべて、事前に約25cm2のサイズにしたものであり、これらの移植片を、層流フード下で、構造支持を得るための滅菌ナイロンメッシュ基材の上に置き、巻いて、ねじ込み密封凍結保存用バイアルに入れた。すべての移植片を調製した時点で、約5mLの凍結媒体をバイアルに添加し、密封した。凍結媒体の調製は、プロトコールに従って、15%のジメチルスルホキシド(DMSO)凍結保護媒体(Lonza BioWhittaker)をブタ胎児血清(FPS)またはドナー血清(FPSが利用不可能な場合)と1:1の比で混合し、ろ過(0.45ミクロン)し、使用するまで4℃に冷却することによって行った。次に、速度段階制御型フリーザー中で、毎分1℃の速度で-40℃に冷却した後、-80℃の温度に急速冷却することによってバイアルを凍結し、その後、これらのバイアルを、期間を限定して保管する対照群の試験品については15分間保持し、長期期間の凍結保存を受ける試験群の実験移植片の場合は7年超の期間保持した。この凍結プロセスの間に細胞内液がDMSOに置き換わる。凍結保護媒体(例えば、CryoStor)は、凍結保存用バイアルの最大内容量(10ml)から異種移植製品の体積を差し引いた値に基づいて、約40~80%または約50~70%の量で使用される。
【0548】
外科的使用のための移植片を解凍するために、密封されたバイアルを37℃の水槽中に約1分間置き、その後にバイアルを開け、滅菌手法使用して凍結移植片を取り出した。次に、生理食塩水中で穏やかに撹拌しながら行う1分間の洗浄を3回実施する段階洗浄に移植片を供して、周囲の残留DMSOを希釈し、全体的に除去し、細胞生存度が失われないようにした。次に、移植片を外科用領域に運び、生着に向けて25℃の生理食塩水中に入れた状態とした。
【0549】
別々ではあるが、同一の2つの外科的事象を連続して実施した。全外科的計画には、全部で4匹(n=4)のドナー-レシピエントブタを含め、2つの実験コホート(コホート1及びコホート2)のそれぞれにつき2匹の動物を用いた。これらのドナー-レシピエントブタは、既に記載したようにSLA構成に基づいて意図的にペアにしたものである。全部で、4つの技術的対照及び12個(n=12)の実験移植片を移植した後、観察した。
【0550】
直線(尾側から頭側)の向きで、動物の右側背部に沿って深達性の部分欠損を各動物に4つ創出し、この向きでこれらの部分欠損を、それぞれ1~4とした。深達性の部分欠損創傷は、最初に分層移植片収集を行った後、採皮機器を追加で通過させることによって外科的に導入した。得られた創傷床は、視認可能な壊死組織片が存在せず、一様なものあり、独立した点状の出血を示した。これらの欠損は繋がったものではなく、採皮機器を1回で連続して通過させて創出したものではない。代わりに、4つの創傷が、隔絶されてはいるが、全サイズ、深度、及び解剖学的位置に関して等しいものとして創出されるように注意を払った。
【0551】
解凍後から移植まで、15(サイズ)刃を使用してすべての分層皮膚移植片に穴を開けることで、血清腫または血腫が形成されないようにした。調製した創傷床上に移植片試験品を独立して配置し、移植片対創傷床の様式で3-0ナイロン縫合糸での単純な結節縫合を行って適切な位置で移植片試験品を一様に縫合した。移植片を囲んで間隔が均等になるよう移植片当たり約16箇所の固定を施し、得られる結び目が創傷境界に位置するようにし、移植片物品には位置しないようにした。この手法によって、最小限ではあるが、適切な張りが残存し、均一なものとなるようにした。このことは、移植片対創傷接着が最適なものとなり、血腫が最小化し、移植片生存性が最適なものとなる上で必要なことである。
【0552】
創傷部位1(最も尾側)には、分層自家移植片を配置し、技術的対照とした。この自家移植片試験品は、創傷床創出の間に収集した後、すべての実験移植片と同時に同じ凍結解凍プロセスに供し、限定期間(-80℃で15分)で識別される対照移植片と同じ期間、同一の凍結保存状態で保持した。創傷部位2には、そのそれぞれのコホートペアメイトから得られた分層同種移植片を縫合配置した。この移植片は、限定期間(-80℃で15分)の凍結保存に供した試験品を代表するものとした。創傷部位3には、野生型ドナーから得られた分層同種移植片を配置した。この分層同種移植片は、創傷部位2の移植片と一致する同一のSLAを有し、凍結保存状態での「延長」保管(-80℃で7年超)に供したものであり、これを、この条件に供した分層移植片を代表するものとした。創傷部位4(最も頭側)には、遺伝的に操作されたノックアウトドナーから得られた分層同種移植片を配置した。この分層同種移植片は、遺伝的に操作されたドナー動物から得たものであり、創傷部位2の移植片と一致する同一のSLAを有し、凍結保存状態(-80℃)での7年超の「延長」曝露に同じく供したものであり、これを、この条件に供した分層移植片を代表するものとした。
【0553】
Xeroformワセリンガーゼ(Medtronic)、Telfa(商標)非接着被覆材(Covidien,Minneapolis,MN)、及び滅菌ガーゼからなる圧迫被覆材の覆いを、Tegaderm(商標)(3M,St.Paul,MN)のシートを複数枚重ねて使用して適所かつ乾燥状態に維持した。次に、レシピエントにコットンのジャケットを着せ、移植片が妨げを受けることを減らした。POD-2時点で移植片被覆材を除去し、その後は毎日交換した。手術後フォローアップ期間は全部で20日とした。発声、頻呼吸、食欲喪失、ならびに振る舞い、行動、及び運動性の変化を含めて、疼痛の徴候について動物を監視した。手術後の痛みを抑えるために経皮フェンタニルパッチを適用した。縫合糸はすべて、POD-7までに抜糸した。
【0554】
アッセイ方法を検証し、分層皮膚ブタ皮膚の試験品に特異的な境界条件を確立するために、新鮮な試料(n=5、5)及び熱変性試料(n=5、5)に対して2つの独立したアッセイシリーズを実施した。新鮮な試料での(幾何)平均生成ホルマザン量は、それぞれ0.221±0.022mg/mL及び0.300±0.035mg/mLであった。対照的に、熱変性試料による(幾何)平均生成ホルマザン量は、それぞれ0.094±0.020mg/mL及び0.105±0.009mg/mLであった。これらの差は、両方の場合で統計的に有意であった(p<0.05)。
【0555】
4匹すべてのブタレシピエントが外科的手順を許容し、インシデントを伴うことなく完全に回復した。16個(n=16)すべての移植片が、技術的合併症が生じた証拠を伴わずに血管新生を再誘導し、根底の創傷床に一様に接着した(すなわち、「良好な生着」)。手術後観察期間を通じて、機械的妨害が原因で移植片が失われることも、移植片が創傷感染の臨床徴候のいずれかを示すこともなかった。創傷部位1の自家移植片は4つ(n=4)すべてが永続的に治癒し、試験終了時には周囲組織と見分けがつかなくなり、皮膚移植、凍結保存、及び解凍手法についての技術的対照として働いた。
【0556】
コホート1では、6つ(n=6)すべての同種移植片が根底の創傷床に同等に接着し、手術後経過日数(POD)2及びPOD4の時点で血管新生及び灌流と合致する臨床徴候を一様に示した。一方で、期間を延長して凍結保存した同種移植片が示した色のコントラスト(減少)は目立つものであった。これらの移植片の4つすべてが、自家移植片及び創傷部位2の同種移植片と比較して淡い見た目を有していた。この見た目は、POD-6時点までには両方の動物の移植片のすべてで完全に解消された。6つ(n=6)すべての同種移植片において、POD-8時点までに表在表皮の軽度の脱落が生じたが、POD-12時点での検証では、移植片は、生存状態を保ち、接着し、その他の点でも健康な見た目を有していた。動物24074では、創傷部位2及び創傷部位3の移植片が、POD-14時点までに壊死の初期徴候、紅斑の進行、及び接着の喪失を示し、POD-18時点で最終的に拒絶されるまで、免疫介在性の拒絶反応の徴候を増加性に示した。一方で、創傷部位4(最も頭側)の同種移植片は同様に存続することはなく、代わりに、POD-14時点でこの移植片はかなり濃くなり、完全な壊死の徴候を示し、この時点で完全に拒絶されたものと臨床的に評価された。POD-12時点での生存度からPOD-14までに完全剥離に至った移植片4のこの急速な損失は、創傷部位2及び創傷部位3とは似ておらず、異なるものであり、顕著なものであった。動物24075上の移植片については、すべての移植片がPOD-14時点で拒絶された。
【0557】
コホート2では、動物は、コホート1のものと同様の状態でPOD-4を通過し、互いに等価であった。全体的に見て、臨床徴候は、コホート1の軽度不適合性移植片と同等に進行したが、ペースは加速的であった。延長凍結保存に供した移植片は、凍結保存しなかった移植片と比較してPOD-2及びPOD-4の時点で淡い見た目を有し、すべての移植片がPOD-6までに灌流及び血管新生の証拠を増加性に示した。POD-8までには、動物24043の同種移植片の3つすべてが、明らかな拒絶徴候を示し、完全に拒絶されたものと見なされた。動物24070では、3つすべての同種移植片が、明らかな拒絶徴候を示し、POD-10までに完全に拒絶されたものと見なされた。一方で、同種移植片はすべて、遺伝子的特徴及び保管の長さとは無関係に、同じ割合で生存した。
【0558】
限定期間または延長期間の凍結保存に供した移植片に関して、創傷部位2及び創傷部位3の同種移植片比較物の100%(n=4中4)が、移植片生存期間の臨床的評価に関して同一であった。創傷部位2と創傷部位4との比較は一致的であったが(n=3)、例外として、動物24074の創傷部位4の同種移植片は、POD-14(n=1)まで生存し、そのカウンターパートよりも臨床的に4日早く拒絶されたことが決定された。
【0559】
全体的に見て、組織学的評価は、臨床的評価を密接に反映していた。手術後、自家移植片を含めて、すべての移植片が、POD-2及びPOD-4の時点での初期観察の間に急性炎症の初期徴候を示し、この徴候は、時間と共に後に解消された。コホート2の同種移植片はすべて、コホート1のものと比較して、免疫介在性の拒絶反応に向かう加速的な進行を一様に示した。
【0560】
最終的に、コホート1の6つ(n=6)の同種移植片のすべて、及びコホート2の動物24043の3つ(n=3)の同種移植片が、独立した肉眼的な臨床的評価と一致して組織学的及び顕微鏡的な拒絶徴候を独立して示した。唯一の例外は、動物24070に移植した3つの同種移植片であり、POD-10時点で各移植片に付いたBanffスコアは(4中の)4であったが、これら3つの同種移植片は、POD-12に至るまでは正式に拒絶されたと見なされず、POD-12時点でのこの拒絶は、POD-10で割り当てられた対応臨床指定と比較して1評価期間(2日)遅いものであった。
【0561】
限定期間または延長期間の凍結保存に供した移植片に関して、創傷部位2及び創傷部位3の同種移植片比較物の100%(n=4中4)が、移植片生存期間の組織学的評価に関して同一であった。創傷部位2と創傷部位4との比較は一致的であったが(n=3)、例外として、動物24074の創傷部位4の同種移植片は、手術後14日間生存し(n=1)、そのカウンターパートよりも組織学的に4日早く拒絶されたことが決定された。
【0562】
MTT及びニュートラルレッド染色手法を、いずれの検査時にも適用したが、これらの手法はいずれも、組織学的評価及び顕微鏡評価には有効とは見なされなかった。一方で、標準的なヘマトキシリン・エオシン染色では、熱変性検体の組織破壊が観察可能であることが実証された。
【0563】
全体的に見て、ランダム切片を用いる線形混合効果モデルを使用すると、創傷部位3の移植片の平均生存期間は、創傷部位2の同種移植片を0.00下回るもの(95% CI:-1.10、1.10日)であった。創傷部位4の移植片の平均生存期間は、創傷部位2の同種移植片を2.00下回るもの(95% CI:1.10、3.10日)であった。組織学的評価からは、肉眼的に移植片を評価した場合と比較して生存期間が平均で0.5日長いことが見出されるが、これは統計的に区別不可能なものである(p=0.28)。8つの実験移植片のうちの7つは、それらの比較物と同等の様態の経過をたどった。インビボ実験では、短期保管を行った移植片と長期保管を行った移植片との間に統計的な差異は示されなかった。動物24074上の創傷部位4の移植片は、その比較物と比較して4日早く完全に拒絶されたと評価され、この移植片は例外であったが、移植片の性能及び生存性を、2群の間で区別することは不可能であった。
【0564】
以前の刊行物に記載されるように、凍結保存した移植片の見た目は、初期の吸水期及び血管新生期には著しく淡かった。このコントラストは、すべての動物の創傷部位3及び創傷部位4の移植片で際立って明白であった。最終的に、移植片は完全に回復し、根底の創傷床に同程度に接着した。
【0565】
実証された生存度は、3つの独立した評価方法にわたって一様に証拠付けられた。MTTアッセイの統計解析は、凍結保存した検体と新鮮な検体との間に有意差は存在しなかったことを示すが(
図6A)、新鮮な検体及び凍結保存した検体と熱変性検体との間では有意差が観察された(
図6B)。このことは、凍結保存した材料が、統計的に述べれば、生存していたも同然であることを広く示唆している。この結果は、7年を経たすべての移植片が創傷床に接着し、生存性を持続させたというインビボの結果において実証され、このようなことは、移植片の活力がなければ示されようもないことである。
【0566】
MTT還元アッセイに関して、そのようなアッセイから得られる絶対値の間には、検体間及びコホート間で実質的な変動が存在した。実際、ホルマザン生成の絶対値は、凍結保存しなかった試料から得られたものよりも実際に高いことがあったが、凍結によって細胞活性が増進した可能性は低い。
【0567】
ブタ皮膚を数年間(例えば、1年間、3年間、5年間、7年間、またはそれを超える年数)凍結保存することが可能であり、こうしたブタ皮膚は、細胞生存度を保持し、同じ手順を使用して加工及び保管した野生型ブタ皮膚と比較すると、遺伝的改変(Gal-T-KO)が代謝安定性に影響を及ぼすことはなかった。
【0568】
さらに、この同種皮膚移植モデルにおいてMHC適合性ドナー-レシピエントペア及びMHCクラスII不適合性ドナー-レシピエントペアを使用することは、同種皮膚移植片の生存に対する長期凍結保存(7年)の影響を比較するための内部標準として役立った。長期凍結保存後の細胞生存度データは、インビボでの皮膚の生存によって裏付けられる。このことから、移植片の遺伝的差異(野生型とGal-T-KOとの対比)が移植片の生存に影響を及ぼさなかったことも実証された。
【0569】
移植片生着及び全生存は、保管期間の長さに逆比例するであろうということが仮説であった。換言すれば、移植片の凍結期間が長くなれば、そうした移植片が生存し、保存期間が短い比較移植片を再現する可能性は低くなるであろうと予想された。驚くべきことに、こうした試験によって、相当の期間(本開示の場合は7年)ブタ組織を凍結保存することが可能であり、こうしたブタ組織は、十分な細胞生存度を保持することが明らかとなった。さらに、同一に加工した野生型皮膚と比較すると、遺伝的改変(Gal-T-KO)が代謝活性に影響を及ぼすことはなかった。最後に、こうした結果は、MTT還元アッセイが正確かつ有用な診断方法を確実に提供し得るものであり、ブタ皮膚移植片生存度の評価に適用可能なものであることを裏付けるものである。
【0570】
この試験の有望な結果は、ブタ皮膚を、物流的に適した期間、凍結保存及び保管することが実現可能であり得ることを示すものであり、本発明者らの発見は、現在の業界慣行、及びヒト死体組織についてAmerican Association for Tissue Banksが確立した複数年「有効期間」指針と合致するものである。
【0571】
さらに、こうしたデータは、十分な生存度を有するブタ異種移植製品を保存及び保管する拡張可能かつ臨床的に有用な方法が開示され、活力のあるブタ異種移植製品を有効に保管及び分配することが可能であることを示している。
【0572】
実施例7
ブタからヒトへの異種移植との関連では、各ヒトレシピエントは、その個人に特有の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)(クラスI、クラスII、及び/またはクラスIII)を有し、このMHCは、ドナーブタのMHCとは不適合となることが理解されよう。したがって、ドナーブタ移植片がレシピエントに導入されると、ブタMHC分子自体が抗原として働き、レシピエント由来の免疫応答を誘発することで、移植拒絶反応を引き起こすことが理解されよう。
【0573】
ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子がヒト集団において示す配列多様性は途方もないものである。例えば、HLA-B遺伝子だけも4,000を超えるアレルの存在が知られている。HLA遺伝子の遺伝的多様性においては、異なる抗原の提示効率が異なるさまざまなアレルが存在し、この遺伝的多様性は、ヒトが曝露される広範な異なる病原体に対する集団レベルの抵抗性が向上するように進化が生じた結果であると考えられる。この遺伝的多様性は、レシピエントの免疫応答が移植後の生着及び生存の結果を左右する最も重要な因子である異種移植の中においては問題になるものでもある。
【0574】
本発明の一態様によれば、特定の一連の既知ヒトHLA分子を発現するように生物学的に操作されたゲノムを有するドナーブタが提供される。そのようなHLA配列は利用可能であり、例えば、IPD-IMGT/HLAデータベース(ebi.ac.uk/ipd/imgt/hla/にて利用可能)及びinternational ImMunoGeneTics information system(登録商標)(imgt.orgにて利用可能)において利用可能である。例えば、HLA-A1,B8,DR17は、コーカサス人種の中で最も一般に見られるHLAハプロタイプであり、その頻度は5%である。したがって、開示の方法は、本明細書で提供される本開示と組み合わせて既知のMHC/HLA配列情報を使用して実施され得る。
【0575】
いくつかの態様では、レシピエントのヒト白血球抗原(HLA)遺伝子ならびにMHC(クラスI、クラスII、及び/またはクラスIII)が同定され、マッピングされる。ヒトレシピエントのHLA/MHC配列を把握することは、当該技術分野で知られる任意の数の方法を用いることによって可能であることが理解されよう。例えば、HLA/MHC遺伝子は、通常、標的シークエンシング法(ロングリードシークエンシングまたはロングインサートショートリードシークエンシング)によって型が決定される。慣例的には、HLA型は、2桁分解能(例えば、A*01)で決定されており、この分解能は、血清学的抗原分類とほぼ同じである。より最近では、4桁分解能(例えば、A*01:01)でのHLAの型決定に配列特異的オリゴヌクレオチドプローブ(SSOP)法が使用されており、この分解能によれば、アミノ酸差異を区別可能である。現在のところ、HLAの型を決定するための標的DNAシークエンシングは、他の従来法と比較して最も一般的なHLA型決定手法である。配列ベースの手法では、コード領域及び非コード領域の両方が直接的に決定されるため、それぞれ6桁分解能(例えば、A*01:01:01)及び8桁分解能(例えば、A*01:01:01:01)でのHLA型決定が達成され得る。現存するHLAアレルを新たなアレルまたはヌルアレルと区別する上では、臨床的観点から、最高分解能でHLAの型を決定することが望ましい。そのようなシークエンシング手法については、例えば、Elsner HA,Blasczyk R:(2004)Immunogenetics of HLA null alleles:implications for blood stem cell transplantation.Tissue antigens.64(6):687-695、Erlich RL,et al(2011)Next-generation sequencing for HLA typing of class I loci.BMC genomics.12:42-10.1186/1471-2164-12-42、Szolek A,et al.(2014)OptiType:Precision HLA typing from next-generation sequencing data.Bioinformatics 30:3310-3316、Nariai N,et al.(2015)HLA-VBSeq:Accurate HLA typing at full resolution from whole-genome sequencing data.BMC Genomics 16:S7、Dilthey AT,et al.(2016)High-accuracy HLA type inference from whole-genome sequencing data using population reference graphs.PLoS Comput Biol 12:e1005151、Xie C.,et al.(2017)Fast and accurate HLA typing from short-read next-generation sequence data with xHLA 114(30)8059-8064に記載されており、これらの文献はそれぞれ、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0576】
既知のヒトHLA/MHCまたは個々のレシピエントのシークエンシングされたHLA/MHC配列(複数可)をテンプレートとして利用することで、既知のヒトHLA/MHC配列またはヒトレシピエントのHLA/MHC配列と一致するように(例えば、そうした配列との配列相同性が90%、95%、98%、99%、または100%となるように)ブタ白血球抗原(SLA)/MHC配列を改変することができる。使用すべき既知のヒトレシピエントHLA/MHC配列が同定されるか、またはヒトレシピエントの遺伝子シークエンシングを実施してHLA/MHC配列が得られると、所望のHLA/MHC配列に基づいてブタの細胞中のSLA/MHC配列に対して生物学的再プログラム化を実施することができる。例えば、標的を定めるためのガイドRNA(gRNA)配列を、本開示のブタにいくつか投与することで、ブタの細胞中のSLA/MHC配列がヒトレシピエントのテンプレートHLA/MHC配列によって再プログラム化される。
【0577】
CRISPR-Cas9を使用することで、ブタ細胞中の特定の天然遺伝子座に位置するMHCアレル全体の迅速かつ無痕跡の交換が媒介される。2つのgRNAを用いてCas9によるマルチプレックス標的化を行うことで、MHCアレルの隣に一本鎖切断または二本鎖切断が導入され、テンプレートHLA/MHC配列(一本鎖DNAテンプレートまたは二本鎖DNAテンプレートとして提供される)での置き換えが可能になる。ある特定の態様では、養母に移される前に、ブタの卵母細胞、卵子、接合体、または未分化胚芽細胞にCRISPR/Cas9要素が注入される。
【0578】
ある特定の態様では、本開示は、SLAが存在せず、HLAを発現する生物学的に再プログラム化されたブタの胚形成及び生児出生を含む。ある特定の態様では、本開示は、SLAが存在せず、HLAを発現する生物学的に再プログラム化されたブタを交配繁殖させて、SLAが存在せず、HLAを発現する後代を創出することを含む。ある特定の態様では、ブタ接合体への細胞質内マイクロインジェクションによってCRISPR/Cas9要素がブタ接合体に注入される。ある特定の態様では、CRISPR/Cas9要素がブタに注入された後、CRISPR/Cas9で遺伝的に改変された当該ブタの選択的交配繁殖が行われる。ある特定の態様では、CRISPR/Cas9要素がドナーブタに注入された後、当該ブタから細胞、組織、接合体、及び/または臓器が収集される。ある特定の態様では、CRISPR/Cas9要素は、遺伝子編集の制御に必要な要素をすべて含み、こうした要素には、米国特許第9,834,791号(Zhang)に記載の自己不活化に利用される制御性gRNA分子が含まれ、当該文献は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0579】
遺伝的改変は、既知のゲノム編集手法を利用して行うことができ、こうした手法は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、アデノ随伴ウイルス(AAV)介在性の遺伝子編集、及び規則的な間隔でクラスター化した反復回文配列Cas9(CRISPR-Cas9)などである。こうしたプログラム可能なヌクレアーゼは、DNA二本鎖切断(DSB)を標的位置に生成させることが可能であり、このDSBによって細胞の修復機構の上方制御が促進され、これによって非相同末端結合(NHEJ)のエラープローンプロセスまたは相同組換え修復(HDR)のいずれかが生じ、これらのうち、HDRを外来性のドナーDNAテンプレートの組み込みに使用することができる。CRISPR-Cas9を使用することで、細胞中のウイルス感染を除去することもできる。例えば、CRISPR-Cas9を介する遺伝的改変は、Kelton,W.et.al.,“Reprogramming MHC specificity by CRISPR-Cas9-assisted cassette exchange,”Nature,Scientific Reports,7:45775(2017)(「Kelton」)に記載の様式で実施することができ、当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。したがって、本開示は、CRISPR-Cas9を使用することで、アレル全体(例えば、MHC、HLA、SLAなど)の迅速かつ無痕跡の交換を媒介して再プログラム化を行うことを含む。
【0580】
一態様では、レシピエントのHLA/MHC遺伝子がシークエンシングされ、レシピエントのHLA/MHC遺伝子に基づいてテンプレートHLA/MHC配列が調製される。別の態様では、本開示のブタを遺伝的に再プログラム化するために、WHOデータベースから得られる既知のヒトHLA/MHC遺伝子型が使用され得る。CRISPR-Cas9プラスミドは、例えばポリメラーゼ連鎖反応を使用して調製され、レシピエントのHLA/MHC配列が、テンプレートとしてプラスミドにクローニングされる。ブタ細胞中のSLA/MHC遺伝子座のCRISPR切断部位が同定され、切断部位を標的とするgRNA配列が1つ以上のCRISPR-Cas9プラスミドにクローニングされる。次に、CRISPR-Cas9プラスミドがブタ細胞に投与され、ブタ細胞のMHC遺伝子座においてCRIPSR/Cas9による切断が生じる。
【0581】
既知のヒトHLA/MHC配列またはレシピエントのシークエンシングされたHLA/MHC遺伝子と一致する1つ以上のテンプレートHLA/MHC配列を用いてブタ細胞中のSLA/MHC遺伝子座が置き換えられる。SLA/MHC再プログラム化ステップの実施後にブタの細胞がシークエンシングされて、ブタ細胞中のHLA/MHC配列の再プログラム化が成功しているかどうかが決定される。HLA/MHC配列が再プログラム化されたブタから得られる1つ以上の細胞、組織、及び/または臓器がヒトレシピエントに移植される。
【0582】
ある特定の態様では、HLA/MHC配列が再プログラム化されたブタは、少なくとも一世代または少なくとも二世代にわたって、交配繁殖されてから、異種移植において使用される生存組織、生存臓器、及び/または生存細胞の供給源として使用される。ある特定の態様では、CRISPR/Cas9要素は、PERV活性を担う遺伝子(例えば、pol遺伝子)を不活化するためにも利用され、それによってブタドナーからPERVが同時に完全除去され得る。
【0583】
ドナーSLA/MHCを改変してレシピエントHLA/MHCと一致させる目的については、ヒト組織適合遺伝子複合体及びブタ組織適合遺伝子複合体のゲノム構成を比較してマッピングすることが行われている。例えば、そのようなSLAとHLAとの比較マッピングは、Lunney,J.,“Molecular genetics of the swine major histocompatibility complex,the SLA complex,”Developmental and Comparative Immunology 33:362-374(2009)(「Lunney」)において見つけることができ、当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。したがって、当業者なら、本開示を踏まえつつ、Lunney et al.のマッピングを参照ツールとして使用して効果的かつ効率的にブタ細胞を遺伝的に再プログラム化する。
【0584】
ドナーSLA/MHCをレシピエントHLA/MHCと一致するように改変すると、既知のヒト遺伝子型または特定のヒトレシピエントのMHC分子と同一または実質的に同一の特定のMHC分子がブタ細胞から発現するようになる。一態様では、本開示は、ブタのゲノムの特定SLA領域の特定部分のみに限って改変を施すことで、ブタの免疫プロファイルを有効に保つ一方で、ヒトレシピエントへの移植時の生物学的製品の免疫原性を、免疫抑制剤の使用が低減または回避され得るように下げることを含む。本開示の態様とは対照的に、先行技術分野の異種移植研究では、免疫抑制剤を使用して拒絶反応に抵抗する必要があった。一態様では、HLA-A、HLA-B、HLA-C、及びDRに対応するブタ遺伝子がノックアウトされ、HLA-C、HLA-E、HLA-Gがノックインされるようにブタゲノムが再プログラム化される。いくつかの態様では、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-F、DQ、及びDRに対応するブタ遺伝子がノックアウトされ、HLA-C、HLA-E、HLA-Gがノックインされるようにブタゲノムが再プログラム化される。いくつかの態様では、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-F、DQ、及びDRに対応するブタ遺伝子がノックアウトされ、HLA-C、HLA-E、HLA-G、HLA-F、及びDQがノックインされるようにブタゲノムが再プログラム化される。一態様では、SLA-11;SLA-6、SLA-7、SLA-8;SLA-MIC2;及びSLA-DQA;SLA-DQB1;SLA-DQB2がノックアウトされ、HLA-C;HLA-E;HLA-G;及びHLA-DQがノックインされるようにブタゲノムが再プログラム化される。ある特定の態様では、再プログラム化されたブタゲノムではHLA-C発現が低減される。ヒトの免疫系にとって不可視となるようにブタ細胞を再プログラム化することによって、再プログラム化が未実施であればドナーブタ細胞から発現するブタMHC分子に基づいて再プログラム化未実施時には生じたであろう免疫応答が、この再プログラム化によって最少化または除去されさえする。
【0585】
したがって、この態様(すなわち、厳密に選択したヒトMHCアレルを発現するようにSLA/MHCを再プログラム化すること)が、異種移植を目的とするブタの細胞、組織、及び臓器に適用されると、野生型ブタから得られるか、あるいはこの再プログラム化が行われておらず、その他の方法で遺伝的に改変されたブタ(例えば、トランスジェニックブタ、または非特異的な遺伝的改変もしくは異なる遺伝的改変が行われたブタ)から得られる細胞、組織、及び臓器と比較して拒絶反応が低減されることになることが理解されよう。
【0586】
既知のヒトMHC遺伝子型または本明細書に具体的に記載されるレシピエントのMHCをドナーブタの細胞、組織、及び臓器が発現するようにすることを、アルファ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ、Neu5Gc、及びβ1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(B4GALNT2)をドナーブタ細胞から除去すること(例えば、「シングルノックアウト」、「ダブルノックアウト」、または「トリプルノックアウト」)と組み合わせると、本開示の厳密なSLA/MHC再プログラム化が行われていないトリプルノックアウトブタと比較して免疫学的拒絶反応が低減された細胞を有するブタが得られることがさらに理解されよう。
【0587】
実施例8
ブタ細胞において細胞マーカーのさまざまな組み合わせを創出及び試験することで、さまざまな使用を目的とするヒト患者の体によって許容させるための生物学的に再プログラム化されたブタ細胞が調製される。こうした試験については、ATCC(登録商標)(3D4/21)から利用可能なブタ大動脈内皮細胞(PAEC)及び/または形質転換ブタマクロファージ細胞株が使用される。試験対象の細胞試料には、下記のものが含まれる:
1.PAEC野生型、
2.PAECクラスII SLA DQノックアウト(KO)、
3.PAECクラスII SLA DQ KO+HLA DQノックイン(KI)、
4.PAECクラスII SL DRノックアウト(KO)、
5.PAECクラスII SLA DR KO+HLA Drノックイン(KI)、
6.PAECクラスII SLA DPノックアウト(KO)、及び
7.PAECクラスII SLA DP KO+HLA DPノックイン(KI)
または3D4/21細胞について:
1)表面糖鎖(GGTA1、CMAH、及びB4GALNT2)をノックアウトする
2)すべてのMHCIをノックアウトする
3)試験1
a.DP、DQ、及びDRαをノックアウトする
b.DRβをそのヒト同等物で置き換える
4)試験2
a.DQ、DR、及びDPαをノックアウトする
b.DPβをそのヒト同等物で置き換える
5)試験1
a.DR、DP、及びDQαをノックアウトする
b.DQβをそのヒト同等物で置き換える
【0588】
標的遺伝子に対するガイドRNAを設計及び合成することによって、ノックアウトのみを行った細胞プール及びノックアウト+ノックインを行った細胞プールが生成される。各ガイドRNAは、CRISPR RNA(crRNA)及びトランス活性化RNA(tracrRNA)という2つの要素から構成される。これらの要素は、連結されてシングルガイドRNA(sgRNA)と呼ばれる連続分子を形成するか、またはアニーリングしてツーピースガイド(cr:tracrRNA)を形成し得る。
【0589】
CRISPR要素(gRNA及びCas9)は、DNA形式、RNA形式、またはリボ核タンパク質(RNP)複合体形式で細胞に送達され得る。DNA形式は、gRNA配列及びCas9配列をプラスミドにクローニングすることを伴い、その後、このプラスミドが細胞に導入される。gRNA及び/またはCas9の永続的な発現が望まれる場合、レンチウイルスを使用して宿主細胞のゲノムにDNAが挿入され得る。ガイドRNAは、酵素的(インビトロ転写を介して)または合成的に生成され得る。合成RNAは、典型的には、IVT由来のRNAと比較して純度が高く、化学的に改変して分解抵抗性にすることができる。Cas9もRNAとして送達され得る。リボ核タンパク質(RNP)形式は、gRNA及びCas9タンパク質からなる。RNPは、事前に一緒に複合体化され、その後に細胞に導入される。この形式は、使用が容易であり、多くの細胞型において高度に有効であることが示されている。
【0590】
ガイドRNAの設計及び生成後、いくつかの可能なトランスフェクション方法(リポフェクション、電気穿孔、nucleofection、またはマイクロインジェクションなど)のうちの1つによってCRISPR要素が細胞に導入される。細胞培養物へのガイドRNA及びCas9の導入後、これらのガイドRNA及びCas9によって細胞のいくつかの内部の標的部位にDSBが生成される。次に、この切断がNHEJ経路によって修復され、その際、当該プロセス中にヌクレオチドが挿入または欠失(インデル)される可能性がある。NHEJによる各染色体上の標的部位の修復は異なり得るため、各細胞は、異なるインデルセットまたはインデル組み合わせ及び非編集配列を有し得る。
【0591】
細胞のノックインについては、ゲノム物質を挿入することで所望の配列が細胞ゲノムにノックインされ、この挿入は、例えば、相同組換え修復(HDR)を使用して行われる。クラスII分子の発現を最適化するために、細胞がブタインターフェロンガンマ(IFN-γ)中で72時間インキュベートされ、このIFN-γによって発現が刺激される。次に、標的特異的抗体を使用してフローサイトメトリーによって発現が測定される。フローサイトメトリーでは、抗HLA-C抗体、抗HLA-E抗体、抗HLA-G抗体、もしくは他の抗HLA抗体、またはパン抗HLAクラスI抗体もしくはパン抗HLAクラスII抗体が使用され得る。本開示によれば、ノックイン後に細胞表面HLA発現が確認される。
【0592】
本開示の生物学的製品から得られる細胞を抗HLA抗体が認識するかどうかを決定するためには、補体依存性細胞傷害(CDC)アッセイが実施され得る。事前に特徴付けられた抗HLAを含む特異的ヒト血清(または対照血清)を添加することによって調製されたアッセイプレートが使用され得る。IFN-γで処理されたドナー細胞が再浮遊され、アッセイプレートに添加され、補体の供給源(例えば、ウサギ血清)と共にインキュベートされる。室温でのインキュベートを少なくとも1時間行った後、アクリジンオレンジ/エチジウムブロマイド溶液が添加される。蛍光顕微鏡で視覚化された死細胞及び生存細胞の数を数え、抗HLA抗体の非存在下で得られる自発性溶解値を差し引き、尺度を用いてスコア付けすることによって細胞傷害性パーセントが決定される。
【0593】
3D4/21細胞について:
【0594】
表面糖鎖をノックアウトすると、糖部分を発現しない細胞株が得られるため、ヒト血清中に見られる天然の事前生成抗体による結合が生じない。このことは、フローサイトメトリー、ならびにヒト血清及び標識型のヤギ抗ヒトIgG抗体もしくはヤギ抗ヒトIgM抗体、または糖に対して特異的な抗体を使用して検出される。こうした抗体が最終的な細胞株に結合しないという結果が得られる。遺伝的改変を含まない元の細胞株(WT)が陽性対照とされる。さらに、分子解析によって、そうした遺伝子の変化が実証される。
【0595】
CRISPR技術を使用するSLAクラスI分子の発現のノックアウトでは、得られる細胞株は、上記の糖部分ならびにSLAクラスIの発現を欠く。フローサイトメトリー及び分子遺伝子の分析が実施されることで、表面発現が存在せず、遺伝子レベルで変化が生じたことが実証される。ヒトPBMC及び照射細胞株を用いる混合リンパ球反応(MLR)を使用して細胞反応性が評価され、WT株との比較において、CD8+T細胞が優勢となるT細胞増殖に減少が見られる。
【0596】
SLAクラスII分子(DR及びDQ)の発現については、当該ヘテロ二量体のアルファ遺伝子のみのノックアウトが実施される。ブタにはDPが存在しないため、得られる細胞株は、MHC分子のいずれの発現も欠くものである。分子レベル、細胞表面発現、及びヒトPBMCとのインビトロでの反応性について分析が実施される。得られる細胞株に対する反応性には顕著な下方調節が見られる。
【0597】
ヒトクラスII DR-ベータ遺伝子がノックインされる。同様の分析が実施されるが、同じDRベータを有すると想定されるヒトドナーも使用され得る。ブタDRアルファは、アルファ分子と高い相同性を有するため、ヒトDRベータに結合し、細胞表面上に発現すると予想されるが、同じDRを有するドナーは反応しないと予想される。いくつかの態様では、ヒトDRアルファ遺伝子及びヒトDRベータ遺伝子の両方がノックインされる。DP-ベータ遺伝子ノックイン及びDQ-ベータ遺伝子ノックインに関して類似の試験が実施される。
【0598】
PAECについて:
【0599】
細胞反応性を試験するには、ブタIFN-γと共にPAECが72時間インキュベートされた後、ヒトCD4+T細胞がこのPAECに添加され、7日間培養される。利用可能なリソースに応じて活性化/増殖の形態が判読される。
考えられ得る観察は以下のものである:
1.WT PAECの刺激なし:応答なし
2.PAECの刺激あり:陽性応答
3.クラスII SLA DQ KOの刺激あり:応答なし
4.クラスII SLA DQ KO+HLA DQ KIの刺激あり:応答なし、または2番と比較して応答減少
【0600】
DQに特異的な応答を観察するには、細胞応答が、ヒト抗原提示細胞(APC)によって提示されるブタ抗原の結果とならないように、APCが培養物に存在しないようにされる。
【0601】
試験結果が確認されると、遺伝的に再プログラム化されたブタの交配繁殖が行われ、その結果、上記のアッセイから決定される望ましいヒト細胞改変のうちの1つを各集団が有するいくつかのブタ集団の交配繁殖が行われる。完全に発育後にブタの細胞活性が試験されることで、異種移植後にブタの細胞及び組織の拒絶反応を回避するように所望の形質をブタが発現するかどうかが決定される。その後、望ましいヒト細胞改変のうちの複数を有するようにさらに遺伝的に再プログラム化されたブタの交配繁殖が行われることで、異種移植後にヒト患者の体によって拒絶されることのない細胞及び組織を発現するブタが得られる。
【0602】
上記のプロトコールまたはその同様のバリアントはいずれも、医薬製品と関連するさまざまな文書に記載され得る。こうした文書には、限定されないが、プロトコール、統計解析計画書、治験薬概要書、臨床指針、メディケーションガイド、リスク評価及びメディケーションプログラム、処方情報、ならびに医薬製品と関連し得る他の文書が含まれ得る。そのような文書は、有益となり得るか、または規制当局によって示されるように、細胞、組織、試薬、デバイス、及び/または遺伝物質と共にキットとして物理的に包装され得ることが明確に企図される。
【0603】
実施例9
製品加工
一般
本開示の異種移植製品を、下記の手順に従って加工した。
【0604】
職員
手術者は、施設の基準に従って滅菌着を着用して指定の病原体を含まない条件を維持した。手術者は、紫外線及び紫外線レーザーから目を保護するための保護眼鏡を着用した。
【0605】
層流フードの準備及び製品加工
紫外線レーザーランプ(モデル番号)を層流フード内に設置した。互いに上に積み重なった2つの容器蓋の上にランプの四隅のそれぞれを配置した。すなわち、四組の蓋を使用してランプを支えた。ランプ球(全部でチューブ型電球2つ)からフードの床までの距離を約1.5インチとした。フードの内部全体をアルコール(例えば、エタノールまたはイソプロパノール)でスプレーした。ランプをつけ、手術者は、ランプの仕様、電球の数、ならびに電球と異種移植製品との間の距離に基づいて、所望の曝露量が得られる時間の計算を実施した。
【0606】
手術者は、2つの槽中溶液(一方はクロルヘキシジンであり、もう一方はアルコールである)を2つの別々のボウルに注ぎ入れ、これら2つのボウルをフード下に置いた。
【0607】
新たに滅菌したバイアルのパッケージをフード下に置いた。バイアルキャップを開け、クロルヘキシジン槽に入れた。次に、各バイアル(キャップなし)を上下逆に反転し、クロルヘキシジン槽に開放状態で各1分間沈め、その後、立てて置いて風乾させた。その後、滅菌ガーゼを利用してクロルヘキシジン及びアルコールで各バイアルの外側を拭いた。バイアルキャップをクロルヘキシジン槽から取り出し、滅菌ガーゼ上に置いた。各バイアルの開口端をアルコール槽に各1分間沈めた後、傍らにおいて風乾させた。
【0608】
実施例2に従って調製したメッシュ基材を有する異種移植製品「46番製品」(5×15cm)を、その元のバイアルから取り出し、手術者は、元のバイアルを空のボウルに入れた。手術者は、開封した滅菌済器具パッケージの紙側に46番製品を置いた。手術者は、46番製品を広げ、ランプの下に46番製品を2分間置き、その後、46番製品をもう一方の側にひっくり返し、メッシュ基材を除去し、46番製品をランプの下に置いて反対側を2分間曝露させた。この作業は同じ紙の上で行った。所与の試料がUV光に曝露される時間は、滅菌対象となる特定の生物学的病因物質または生物学的病因物質の型によって変わり得、例えば、以下の表13に示される通りである:
【表13】
【0609】
次に、「46番製品」を取り出し、半分に切断した。各半分を手で巻き、上で説明したように滅菌した新たなバイアルに入れた。各新たなバイアルに各新たなキャップを被せ、しっかりとねじ込んだ。各バイアルをランプの下に置き、バイアルの外側が望ましくまんべんなく光に曝露されるように定期的に転がした。内側が事前に滅菌されており、ねじ山部及びキャップを含めて、アルコール及びクロルヘキシジンで手術者が外部を滅菌したガラス瓶の中にバイアルを入れた。
【0610】
下記の異種移植製品についても同様のプロセスを実施したが、例外として、異種移植製品をランプの下に入れる前に滅菌紙の上に置く代わりに、製品からメッシュは除去せず、皮膚側を上にして製品をランプの下に2分間置いた後、各製品の下部の最初の半分をランプと相対するように折り返して製品を2分間保持し、その後、各製品の下部の残り半分をランプと相対するように折り返して各製品の残り半分を2分間保持した。製品のいくつかは、より小さな切片に切断し、光に曝露し、この曝露時間は、製品によっては2分超としたが、決して2分未満にはならないようにした。
【0611】
製品40番(5×15cm)、製品63番(10×15cm)、製品69番(10×15cm)、及び製品25番については上記のプロセスを適用し、製品69番及び製品25番については、もっぱら器具を使用して転がし、手術者はそれらの製品を直接的には取り扱わなかった。46番と同様に、手術者は、各バイアルにキャップをしっかりとねじ込んだ後、各バイアルをランプの下に置き、ランプから発せられる光への曝露がまんべんなく生じるように転がした。その後、ランプの下からバイアルを取り出し、アルコールでしっかりと拭いてからガラス瓶に入れた。
【0612】
4つのガラス瓶をバイアルセットのそれぞれの保管に利用した。手術者に手渡す前には、助手がスプレーボトルを介してガラス瓶の外部にアルコールをたっぷりとかけるようにした。助手から手術者へのガラス瓶の手渡しは、助手が各瓶の下部を持ち、フードの外側でガラス瓶を手術者に手渡すことによって行った。手術者は、助手からガラス瓶を受け取った後、フード下でガラス瓶の蓋をアルコールに浸漬し、ビンの開口端をアルコールに沈め、瓶のねじ山部を含めてビンの外部をアルコールで拭いた。
【0613】
ガーゼを利用してアルコールでバイアルを拭き、器具を用いて各ガラス瓶の内部に入れた。次に、ガラス瓶の蓋をしっかりと締め、助手に瓶を手渡した。こうしたプロセスを通じて、助手が、頻繁かつ定期的に手術者の手袋及び腕をアルコールでスプレーするようにした。
【0614】
その後、手順の終了時に製品を段階制御型フリーザーに入れた。
【0615】
実施例10
重度かつ広範な深達性の部分層熱傷及び全層熱傷を被覆するための異種移植皮膚の安全性及び忍容性を評価するための臨床試験が実施される。
【0616】
プライマリーエンドポイントには、自家移植片を配置する前に、重度かつ広範な深達性の部分層熱傷または全層熱傷を応急的に被覆するものとして本開示の異種移植皮膚製品を適用した場合の28日後の当該製品の安全性及び忍容性を評価することが含まれる。安全性エンドポイントには、有害事象の発生率及び重症度、身体検査における変化、バイタルサインの変化、心電図の変化、血液学的変化、血清化学、尿検査、レシピエントの末梢血中にブタ内在性レトロウイルス(PERV)RNAが存在することの発生率(RT-PCRアッセイによって示されるもの)、ならびに局所感染の発生率及び重症度が含まれる。PERV検査には、PERV DNA配列に対する対象PBMCのPCR、PERV RNAに対する対象PBMCのRT-PCR、及びPERV特異的抗体の血清学的分析が含まれる。
【0617】
セカンダリーエンドポイントには、1)自家移植片を配置する前に、重度かつ広範な深達性の部分層熱傷または全層熱傷を応急的に被覆するものとして本開示の異種移植皮膚製品を適用した場合の当該製品の長期的な安全性及び忍容性を評価すること、2)本開示の異種移植皮膚製品によって得られる応急的障壁機能の期間を評価すること、3)本開示の異種移植皮膚製品を用いて治療される部位における局所的な創傷感染の発生率を特徴付けること、4)本開示の異種移植皮膚製品の除去容易性及び除去方法を評価すること、5)本開示の異種移植皮膚製品が生着することによって対象に与えられる応急的障壁機能の進行及び質を、創傷清拭後に最初に移植片を配置した時点から有効な障壁機能が失われる時点まで、特徴付けし、記録すること(上記の障壁機能が失われることは、移植片-宿主免疫応答を介して移植片が拒絶される時点(臨床的創傷評価尺度によって決定される)、機械的な妨害もしくは破壊(せん断力もしくは血腫)が生じること、または対象の全臨床過程と整合するように医師の指示に従って意図的に除去されること、に起因して生じる)が含まれる。
【0618】
さらなる目的には、本開示の異種移植皮膚製品で治療される部位に自家移植片を配置した後、最終的な創傷閉鎖の発生率及び質の特徴付けを、ヒト死体同種移植片で治療される同様の創傷部位と比較して調査すること、本開示の異種移植皮膚製品で治療される部位での肥厚性瘢痕の発生率及び質を、ヒト死体同種移植片で治療される同様の創傷部位と比較して調査すること、ならびに本開示の異種移植皮膚製品で治療される部位での瘢痕形成の重症度を、ヒト死体同種移植片で治療される同様の創傷部位と比較して調査すること、が含まれる。瘢痕の発生率及び重症度は、改良版バンクーバー瘢痕尺度(modified Vancouver Scar Scale)(mVSS)を使用して評価される。mVSSは、以下の表14に示される:
【表14】
【0619】
本開示の異種移植皮膚製品は、透明なプラスチックの外部ねじ山付きポリプロピレンバイアルの中に、ねじ込み密封キャップを付けて包装され、加工及び輸送の間に製品を支持及び保護するように働く滅菌ナイロンメッシュ基材が製品の真皮側に接するように巻き付けられた状態で保管される。各製品は、ジメチルスルホキシド(DMSO)を5%含む滅菌凍結保護媒体中に個別に浸漬される。供給源動物血清は含められないか、またはこのプロセスでは使用されない。内容物は、速度段階制御型フリーザーを介して凍結保存され、使用するまで約-80℃で保管される。
【0620】
製品は、熱傷上に配置され、縫合またはホチキス止めで適所に固定される。製品は、創傷床に有効な障壁機能を付与しなくなるまで適所に留められ、この障壁機能付与の消失は、移植片-宿主免疫応答を介して製品が拒絶される時点(臨床的創傷評価尺度によって決定される)、機械的な妨害もしくは破壊(せん断力もしくは血腫)が生じること、または対象の全臨床過程と整合するように意図的に除去されること、に起因して生じる。対象は、免疫原性検査を含めて、試験期間を通じていくつかの時点で採取される血液試料を使用して受動的及び能動的なスクリーニングプログラムによって監視される。免疫原性の監視には、血清中の総IgGレベル及び総IgMレベルのアッセイ、ヒト抗ブタ抗体のアッセイ、ならびに細胞介在性の免疫反応が生じているかどうかを決定するためのアッセイが含まれる。
【0621】
臨床的創傷評価尺度は、
図32に示される。血液学検査には、赤血球(RBC)、白血球(WBC)(差(%及び絶対値)付き)、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板、プロトロンビン時間(PT)/国際標準化比(INR)が含まれる。血清化学検査には、ALT、アルブミン、アルカリホスファターゼ、アミラーゼ、リパーゼ、AST、総ビリルビン、直接ビリルビン、総タンパク質、クレアチニン、血中尿素窒素クレアチンキナーゼ、γ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)、カリウム、ナトリウム、グルコース、クロール、重炭酸イオン、カルシウムが含まれる。尿検査には、pH、比重タンパク質、グルコース、血液、亜硝酸塩が含まれる。
【0622】
非ヒト霊長類の結果に基づくと、グレード0、グレード1、またはグレード2の移植片接着不良が観察されることになると予想される。非ヒト霊長類の結果に基づくと、グレード3、グレード4、またはグレード5の移植片接着が観察されることになると予想される。非ヒト霊長類の結果に基づくと、グレード3またはグレード4を有する肉芽組織が観察されることになると予想される。非ヒト霊長類の結果に基づくと、グレード0、グレード1、またはグレード2の過剰肉芽形成が観察されることになると予想される。非ヒト霊長類の結果に基づくと、グレード0、グレード1、またはグレード2の血腫が観察されることになると予想される。非ヒト霊長類の結果に基づくと、グレード0、グレード1、またはグレード2のフィブリン沈着が観察されることになると予想される。非ヒト霊長類の結果に基づくと、正常またはピンク色の血管状態が観察されることになると予想される。非ヒト霊長類の結果に基づくと、正常な色素沈着、混合性の色素沈着、または低色素沈着が観察されることになると予想される。非ヒト霊長類の結果に基づくと、正常な柔軟性またはやや堅い柔軟性が観察されることになると予想される。非ヒト霊長類の結果に基づくと、平坦な瘢痕高または2mm未満の瘢痕高が観察されることになると予想される。
【0623】
実施例11
本発明に従って生産されるDPF閉鎖コロニーのα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから得られる異種腎臓は、非ヒト霊長類及びヒトに移植される。非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも14ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも24ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも36ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも48ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも60ヶ月の生存が観察されると予想される。
【0624】
実施例12
本発明に従って生産されるDPF閉鎖コロニーのα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから得られる異種肺は、非ヒト霊長類及びヒトに移植される。非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも30日の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも3ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも6ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも12ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも24ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも36ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも48ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも60ヶ月の生存が観察されると予想される。
【0625】
実施例13
本発明に従って生産されるDPF閉鎖コロニーのα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから得られる異種肝臓は、非ヒト霊長類及びヒトに移植される。非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも60日の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも3ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも6ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも12ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも24ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも36ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも48ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも60ヶ月の生存が観察されると予想される。
【0626】
実施例14
本発明に従って生産されるDPF閉鎖コロニーのα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから得られる異種心臓は、非ヒト霊長類及びヒトに移植される。非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも20ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも24ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも36ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも48ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも60ヶ月の生存が観察されると予想される。
【0627】
実施例15
本発明に従って生産されるDPF閉鎖コロニーのα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから得られる異種神経組織は、非ヒト霊長類及びヒトに移植される。非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも75日の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも3ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも6ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも12ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも24ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも36ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも48ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも60ヶ月の生存が観察されると予想される。
【0628】
実施例16
本発明に従って生産されるDPF閉鎖コロニーのα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ[Gal-T]ノックアウトブタから得られる異種膵臓は、非ヒト霊長類及びヒトに移植される。非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも20ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも24ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも36ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも48ヶ月の生存が観察されると予想される。いくつかの態様では、非ヒト霊長類及びヒトのそれぞれにおいて少なくとも60ヶ月の生存が観察されると予想される。
【0629】
本開示の主題は、特徴のさまざまな組み合わせ及び部分的組み合わせを含めて、ある特定の例示の態様を参照してかなり詳細に記載及び提示されているが、当業者なら他の態様ならびにその変形及び改変を容易に理解するであろうし、そうしたものは本開示の範囲に含まれる。さらに、そのような態様、組み合わせ、及び部分的組み合わせの説明は、特許請求の範囲に明示的に記載されるもの以外にも特徴または特徴の組み合わせが請求主題に必要となると伝えることを意図するものではない。したがって、本開示の範囲は、下記の添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲に含まれるすべての改変及び変形を含むものとする。