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特許7431841エポキシ樹脂組成物、樹脂硬化物、繊維強化複合材料、及びこれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、樹脂硬化物、繊維強化複合材料、及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/50 20060101AFI20240207BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
C08G59/50
C08J5/04 CFC
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021545046
(86)(22)【出願日】2019-09-12
(86)【国際出願番号】 JP2019035866
(87)【国際公開番号】W WO2021048969
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163120
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 嘉弘
(72)【発明者】
【氏名】小澤 優
(72)【発明者】
【氏名】金子 徹
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 康平
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-227473(JP,A)
【文献】特開2009-227907(JP,A)
【文献】特開2009-280669(JP,A)
【文献】国際公開第2009/119467(WO,A1)
【文献】特開2013-159618(JP,A)
【文献】特開2012-067190(JP,A)
【文献】国際公開第2012/102201(WO,A1)
【文献】特開2012-041486(JP,A)
【文献】特開2010-163504(JP,A)
【文献】国際公開第2017/056653(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/50
C08J 5/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)
【化1】
(ただし、化(1)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及びハロゲン原子からなる群から選択される1つを表し、Xは-CH-、-O-、-S-、-CO-、-C(=O)O-、-O-C(=O)-、-NHCO-、-CONH-、-SO-から選択される1つを表す。)
で示される化合物であるエポキシ樹脂[A]と、
アミン型グリシジル基を有する2官能のエポキシ樹脂[B]と、
芳香族ポリアミンから成る硬化剤であって、アミノ基に対するオルト位に脂肪族置換基、芳香族置換基、及びハロゲン原子から選択される置換基を少なくとも1つ有する芳香族ポリアミンから成る硬化剤[C]と、
粒子状ゴム成分[D]と、
を含んで成ることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
トリグリシジルアミノフェノール誘導体から成るエポキシ樹脂[E]を含んでなる請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂[B]がジグリシジルアニリンまたはジグリシジル-o-トルイジンである請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記硬化剤[C]が4,4’-ジアミノジフェニルメタン誘導体および/またはフェニレンジアミン誘導体である請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記粒子状ゴム成分[D]の平均粒子径が1.0μm以下である請求項1~4のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂[E]がトリグリシジル-p-アミノフェノールまたはトリグリシジル-m-アミノフェノールである請求項2~5のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
全エポキシ樹脂中のエポキシ樹脂[B]の含有率が5~40質量%である請求項1~6のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂[A]がテトラグリシジル-3,4’-ジアミノジフェニルエーテルである請求項1~7のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化して成る樹脂硬化物。
【請求項10】
請求項9に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化して成る樹脂硬化物と、繊維強化基材と、を含んで構成される繊維強化複合材料。
【請求項11】
前記繊維強化基材が炭素繊維強化基材である請求項10に記載の繊維強化複合材料。
【請求項12】
繊維強化基材と、請求項1~8のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物と、を複合化して硬化させる繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を、型内に配置した繊維強化基材へ含浸させた後、加熱硬化する工程を含む繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、樹脂硬化物、繊維強化複合材料、及びこれらの製造方法に関する。更に詳述すれば、優れた耐熱性や圧縮特性、耐衝撃性を有する繊維強化複合材料を製造することができ、かつ低粘度で可使時間の長いエポキシ樹脂組成物、該エポキシ樹脂組成物を用いて作製する樹脂硬化物、該エポキシ樹脂組成物を用いて作製する繊維強化複合材料、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料(以下、「FRP」ということもある。)は、軽量かつ高強度、高剛性であるため、釣り竿やゴルフシャフト等のスポーツ・レジャー用途、自動車や航空機等の産業用途等の幅広い分野で用いられている。熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とする複合材料の成形方法としては、型内に配置した繊維強化基材に液状の樹脂組成物を含浸、硬化して繊維強化複合材料を得るレジン・トランスファー・モールディング(RTM)法や、予め樹脂を繊維強化基材に含浸させてシート状に形成したプリプレグ(中間基材)を成形する方法、等が知られている。
【0003】
近年では、その中でも特に、繊維強化複合材料を製造するための工程が少なく、オートクレーブのような高価な設備を必要としない、低コストで生産性の優れた製造方法であるRTM成形法が注目されている。RTM成形法に用いるマトリックス樹脂の組成としては、主としてエポキシ樹脂と硬化剤とを含み、場合により他の添加剤を含む。高い力学物性を有する硬化物や繊維強化複合材料を得るために、硬化剤に芳香族ポリアミンを利用することが一般的である。
RTM成形法に利用するエポキシ樹脂組成物においては、強化繊維基材への樹脂組成物含浸時に硬化剤が濾別されることを防ぐため、硬化剤はエポキシ樹脂へ溶解した状態で使用することが多い。この時、エポキシ樹脂へ硬化剤が溶解した状態で存在するため、エポキシ樹脂と硬化剤の反応が比較的起こり易く、樹脂組成物のポットライフが短くなるという問題点があった。
樹脂組成物のポットライフを長くするため、例えば、特許文献1では、反応性の低いヒンダードアミン系の硬化剤を使用することが提案されている。しかしながら、ヒンダードアミン系硬化剤を用いた場合、得られる硬化物や繊維強化複合材料の力学物性が低くなるという問題があった。
また、エポキシ樹脂をマトリックス樹脂とする繊維強化複合材料は、一般的に耐衝撃性が低く、エポキシ樹脂硬化物の靭性向上が求められる。特許文献2には、エポキシ樹脂に熱可塑性樹脂を溶解させることにより、エポキシ樹脂硬化物へ靱性を付与させる方法が記載されている。この方法によれば、エポキシ樹脂硬化物に対してある程度の靱性を付与することができる。しかし、高い靱性を付与するためには、エポキシ樹脂へ多量の熱可塑性樹脂を溶解させなければならない。その結果、多量の熱可塑性樹脂が溶解しているエポキシ樹脂組成物は、粘度が著しく高くなり、強化繊維基材内部に、十分な量の樹脂を含浸させることが困難となる。そのため、この様なエポキシ樹脂組成物を用いて作製される繊維強化複合材料は、ボイド等の多くの欠陥を内在する。その結果、繊維強化複合材料構造体の圧縮性能及び損傷許容性などが低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-148572号
【文献】特開昭60-243113号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、優れた特性の樹脂硬化物を製造することができ、且つ繊維強化基材への含浸性が高く、取扱性に優れるエポキシ樹脂組成物を提供することにある。また、本発明の更なる目的は、このエポキシ樹脂組成物を使用して作製する繊維強化複合材料(以下、「FRP」と略記する場合があり、特に繊維強化基材が炭素繊維である場合は「CFRP」と略記する場合がある)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、所定のエポキシ樹脂と硬化剤および粒子状ゴム成分との組み合わせから成るエポキシ樹脂組成物を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
〔1〕 下記化学式(1)
【0008】
【化1】
【0009】
(ただし、化(1)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、ハロゲン原子からなる群から選択される1つを表し、Xは-CH-、-O-、-S-、-CO-、-C(=O)O-、-O-C(=O)-、-NHCO-、-CONH-、-SO-から選択される1つを表す。)
で示される化合物であるエポキシ樹脂[A]と、
アミン型グリシジル基を有する2官能のエポキシ樹脂[B]と、
芳香族ポリアミンから成る硬化剤であって、アミノ基に対するオルト位に脂肪族置換基、芳香族置換基、及びハロゲン原子から選択されるいずれかの置換基を少なくとも1つ有する芳香族ポリアミンから成る硬化剤[C]と、
粒子状ゴム成分[D]と、
を含んで成ることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【0010】
〔2〕 トリグリシジルアミノフェノール誘導体から成るエポキシ樹脂[E]を含んでなる〔1〕に記載のエポキシ樹脂組成物。
【0011】
〔3〕 前記エポキシ樹脂[B]がジグリシジルアニリンまたはジグリシジル-o-トルイジンである〔1〕または〔2〕に記載のエポキシ樹脂組成物。
【0012】
〔4〕 前記硬化剤[C]が4,4’-ジアミノジフェニルメタン誘導体および/またはフェニレンジアミン誘導体である〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【0013】
〔5〕 前記粒子状ゴム成分[D]の平均粒子径が1.0μm以下である〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【0014】
〔6〕 前記エポキシ樹脂[E]がトリグリシジル-p-アミノフェノールまたはトリグリシジル-m-アミノフェノールである〔2〕~〔5〕のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【0015】
〔7〕 全エポキシ樹脂中のエポキシ樹脂[B]の含有率が5~40質量%である〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【0016】
〔8〕 前記エポキシ樹脂[A]がテトラグリシジル-3,4’-ジアミノジフェニルエーテルである〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【0017】
〔9〕 〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を硬化して成る樹脂硬化物。
【0018】
〔10〕 〔9〕に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化して成る樹脂硬化物と、繊維強化基材と、を含んで構成される繊維強化複合材料。
【0019】
〔11〕 前記繊維強化基材が炭素繊維強化基材である、〔10〕に記載の繊維強化複合材料。
【0020】
〔12〕 繊維強化基材と、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を複合化して硬化させる繊維強化複合材料の製造方法。
【0021】
〔13〕 〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を、型内に配置した繊維強化基材へ含浸させた後、加熱硬化する工程を含む繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、優れた特性を有する樹脂硬化物を製造することができる。また、本発明のエポキシ樹脂組成物は低粘度でありかつ可使時間が長く取扱性が高いため、優れた特性を有するFRPを作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のエポキシ樹脂組成物、繊維強化複合材料、及びそれらの製造方法の詳細について説明する。
【0024】
1. エポキシ樹脂組成物
本発明のエポキシ樹脂組成物は、少なくとも化学式(1)で示される化合物であるエポキシ樹脂[A]と、アミン型グリシジル基を有する2官能のエポキシ樹脂[B]と、芳香族ポリアミンから成る硬化剤であって、アミノ基に対するオルト位に脂肪族置換基、芳香族置換基、及びハロゲン原子から選択される置換基を少なくとも1つ有する芳香族ポリアミンから成る硬化剤[C]と、粒子状ゴム成分[D]と、を含んで成る。本発明のエポキシ樹脂組成物は、これらの他に、その他のエポキシ樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、硬化剤、その他の添加剤を含んでいても良い。
【0025】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、100℃における粘度が、300mPa・s以下であることが好ましく、0.1~200mPa・sであることがより好ましく、0.5~100mPa・sであることが更に好ましい。100℃における粘度が、300mPa・sを超える場合、エポキシ樹脂組成物の強化繊維基材への含浸が困難になる。その結果、得られる繊維強化複合材料においてボイド等が形成され易くなり、物性の低下を引き起こす。なお、粘度と含浸性の関係は強化繊維基材構成にも左右されるものであり、上記の粘度範囲外でも、強化繊維基材への含浸が良好になる場合もある。
【0026】
また、エポキシ樹脂組成物の可使時間は、複合材料の成形条件によって異なるが、例えば、大型の複合材料を、レジントランスファー成形法(RTM法)を用いて、比較的低い含侵圧力で繊維基材に含侵させる場合、可使時間として、100℃で保持した際の粘度が150mPa・sを超えるまでの時間が60分以上であることが好ましく、180分以上であることがより好ましく、300分以上であることが更に好ましい。
【0027】
本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物は、吸水時におけるガラス転移温度が120℃以上であることが好ましく、150~200℃であることがより好ましい。また、本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物は、ガラス転移温度が150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが更に好ましい。
【0028】
本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物は、JIS K7171法で測定する曲げ弾性率が3.0GPa以上であることが好ましく、3.5~30GPaであることがより好ましく、4.0~20GPaであることが更に好ましい。3.0GPa未満である場合、本発明のエポキシ樹脂組成物を使用して得られる繊維強化複合材料の特性が低下し易い。
【0029】
1-1.エポキシ樹脂[A]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、下記化学式(1)で示されるエポキシ樹脂[A]を含む。
【0030】
【化2】
【0031】
(ただし、化(1)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、ハロゲン原子からなる群から選ばれる1つを表し、Xは-CH-、-O-、-S-、-CO-、-C(=O)O-、-O-C(=O)-、-NHCO-、-CONH-、-SO-から選ばれる1つを表す。)
【0032】
~Rが、脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基である場合、その炭素数は1~4であることが好ましい。
【0033】
エポキシ樹脂[A]としては、テトラグリシジル-3,4’-ジアミノジフェニルエーテルであることが好ましい。R~Rが水素原子である場合、樹脂硬化物の特殊な立体構造形成が阻害され難いため好ましい。また、当該化合物の合成が容易になるため、Xが-O-であることが好ましい。
【0034】
エポキシ樹脂[A]は、どのような方法で合成しても良いが、例えば、原料である芳香族ジアミンとエピクロロヒドリンなどのエピハロヒドリンとを反応させてテトラハロヒドリン体を得た後、次いでアルカリ性化合物を用いて環化反応することにより得られる。より具体的には、後述の実施例の方法で合成することができる。
【0035】
エピハロヒドリンとしては、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピフルオロヒドリンなどが挙げられる。これらの中でも、反応性や取扱性の観点から、エピクロロヒドリンおよびエピブロモヒドリンが特に好ましい。
【0036】
原料である芳香族ジアミンとエピハロヒドリンとの質量比は1:1~1:20が好ましく、1:3~1:10がより好ましい。反応時に用いる溶媒としては、エタノールやn-ブタノールなどのアルコール系溶媒、メチルイソブチルケトンやメチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、アセトニトリルやN,N-ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶媒、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒が例示される。特に、エタノールやn-ブタノールなどのアルコール系溶媒、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒が好ましい。溶媒の使用量は芳香族ジアミンに対して1~10質量倍であることが好ましい。酸触媒としてはブレンステッド酸とルイス酸のいずれも好適に用いることができる。ブレンステッド酸としてはエタノールや水、酢酸が好ましく、ルイス酸としては四塩化チタンや硝酸ランタン六水和物、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体が好ましい。
【0037】
反応時間は、0.1~180時間であることが好ましく、0.5~24時間がより好ましい。反応温度は、20~100℃であることが好ましく、40~80℃がより好ましい。
【0038】
環化反応時に用いるアルカリ性化合物としては水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが例示される。アルカリ性化合物は固体として添加しても水溶液として添加してもよい。
環化反応時には相間移動触媒を用いてもよい。相間移動触媒としては塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、硫酸水素テトラブチルアンモニウムなどの第四級アンモニウム塩、臭化トリブチルヘキサデシルホスホニウム、臭化トリブチルドデシルホスホニウムなどのホスホニウム化合物、18-クラウン-6-エーテルなどのクラウンエーテル類が例示される。
【0039】
本発明において用いるエポキシ樹脂[A]は、50℃における粘度が50Pa・s未満であることが好ましく、10Pa・s未満であることがより好ましく、5.0Pa・s未満であることが更に好ましく、2.0Pa・s未満であることが特に好ましい。
【0040】
本発明のエポキシ樹脂組成物における、エポキシ樹脂の総量に対する、エポキシ樹脂[A]が占める割合は、10~100質量%であることが好ましく、20~90質量%であることがより好ましく、30~80質量%であることが更に好ましい。10質量%未満の場合、得られる樹脂硬化物の耐熱性及び弾性率が低下する場合がある。その結果、得られる繊維強化複合材料の各種物性が低下する場合がある。
【0041】
1-2. エポキシ樹脂[B]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、アミン型グリシジル基を有する2官能のエポキシ樹脂[B]を含む。
エポキシ樹脂[B]は、エポキシ樹脂組成物の粘度を低下させて、強化繊維基材への樹脂含浸性を向上させる。また、エポキシ樹脂[B]は可使時間を長くするため、RTM成形法に使用する金型の設計自由度を高める。
【0042】
エポキシ樹脂[B]としては、アミン型グリシジル基を有する2官能のエポキシ樹脂であれば特に限定されないが、ジグリシジルアニリンやその誘導体であるジグリシジル-o-トルイジン、ジグリシジル-m-トルイジン、ジグリシジル-p-トルイジン、ジグリシジル-キシリジン、ジグリシジル-メシジン、ジグリシジル-アニシジン、ジグリシジル-フェノキシアニリン、あるいはジグリシジル-ナフチルアミンおよびその誘導体を用いることが好ましく、特にジグリシジル-アニリン、ジグリシジル-o-トルイジン、ジグリシジル-m-トルイジン、ジグリシジル-p-トルイジン、ジグリシジル-フェノキシアニリンを用いることがより好ましく、ジグリシジル-アニリンまたはジグリシジル-o-トルイジンを用いることが更に好ましい。
【0043】
本発明のエポキシ樹脂組成物における、全エポキシ樹脂中のエポキシ樹脂[B]の含有率は、3~50質量%であることが好ましく、3~40質量%であることがより好ましく、5~40質量%であることが特に好ましい。全エポキシ樹脂中のエポキシ樹脂[B]の含有率をこの範囲とすることにより、RTM成形法に適した粘度や可使時間を有するエポキシ樹脂組成物を作製できる。
【0044】
1-3. 硬化剤[C]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、芳香族ポリアミンから成る硬化剤であって、アミノ基に対するオルト位に少なくとも1つの脂肪族置換基、芳香族置換基、ハロゲン原子のいずれかの置換基を有する芳香族ポリアミンから成る硬化剤[C]を含む。即ち、硬化剤[C]は、例えば下記化学式(2)や(3)で表される化合物である。
【0045】
【化3】
【0046】
但し、化学式(2)中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の脂肪族置換基、芳香族置換基、ハロゲン原子のいずれかであり、かつ少なくとも1つの置換基は炭素数1~6の脂肪族置換基、芳香族置換基、ハロゲン原子のいずれかである。Xは-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-S-、-O-、-SO-、-CO-、-CONH-、-NHCO-、-C(=O)-、-O-C(=O)-のいずれかである。
【0047】
【化4】
【0048】
但し、化学式(3)中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族置換基、芳香族置換基、ハロゲン原子のいずれかであり、かつ少なくとも1つの置換基は炭素数1~6の脂肪族置換基、芳香族置換基、ハロゲン原子のいずれかである。当該1つの置換基は、炭素数1~6の脂肪族置換基であることが好ましい。
【0049】
なお、化学式(2)、(3)において、脂肪族置換基の炭素数は1~6が好ましい。
脂肪族置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基などが例示される。
芳香族置換基としては、フェニル基、ナフチル基などが例示される。
【0050】
硬化剤[C]としては、上述の構造を有するポリアミンであれば良いが、具体的には4,4’-ジアミノジフェニルメタンや下記化学式(4)~(7)で示されるその誘導体;下記化学式(8)および(9)で示されるフェニレンジアミン及びその誘導体が例示される。
【0051】
【化5】
【0052】
【化6】
【0053】
【化7】
【0054】
【化8】
【0055】
【化9】
【0056】
【化10】
【0057】
本発明のエポキシ樹脂組成物における硬化剤[C]の含有量は、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂100質量部に対して20~100質量部であることが好ましく、30~80質量部であることがより好ましい。20質量部未満または100質量部を超える場合、エポキシ樹脂組成物の硬化が不十分となり、樹脂硬化物の物性を低下させ易い。
【0058】
1-4. 粒子状ゴム成分[D]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、粒子状ゴム成分[D]を含む。本発明において、粒子状とは、エポキシ樹脂組成物に溶解せずに分散していることを意味し、且つ当該エポキシ樹脂組成物が硬化した後の樹脂硬化物においても、分散して島成分を構成する。
粒子状ゴム成分[D]は、樹脂硬化物や繊維複合材料の破壊靭性や耐衝撃性を向上させる。
粒子状ゴム成分[D]としては、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレンゴムが挙げられる。
粒子状ゴム成分[D]の平均粒子径は、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.3μm以下であることが更に好ましい。平均粒子径の下限は特に限定されないが、0.03μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.08μm以上であることが更に好ましい。平均粒子径が1μmを超える場合、強化繊維基材へのエポキシ樹脂組成物含浸工程において、粒子状ゴム成分が強化繊維基材表面で濾されてしまい、強化繊維束内部へ含浸しにくくなる。これにより、樹脂の含浸不良が起こることがあり、また得られる繊維強化複合材料の物性が低下してしまう。
【0059】
本発明のエポキシ樹脂組成物における粒子状ゴム成分[D]の含有量は、エポキシ樹脂組成物全量のうち0.1~50質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることがより好ましく、1~15質量%であることが更に好ましい。0.1質量%未満の場合、樹脂硬化物や繊維複合材料の破壊靭性や耐衝撃性が十分に向上しない。
【0060】
粒子状ゴム成分[D]は、エポキシ樹脂へ高濃度で分散したマスターバッチとして用いることもできる。この場合、ゴム状成分をエポキシ樹脂組成物へ高度に分散させることが容易になる。
【0061】
粒子状ゴム成分[D]の市販品としては、MX-153(ビスフェノールA型エポキシ樹脂に、33質量%のブタジエンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-257(ビスフェノールA型エポキシ樹脂に、37質量%のブタジエンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-154(ビスフェノールA型エポキシ樹脂に、40質量%のブタジエンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-960(ビスフェノールA型エポキシ樹脂に、25質量%のシリコーンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-136(ビスフェノールF型エポキシ樹脂に、25質量%のブタジエンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-965(ビスフェノールF型エポキシ樹脂に、25質量%のシリコーンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-217(フェノールノボラック型エポキシ樹脂に、25質量%のブタジエンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-227M75(ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂に、25質量%のスチレンブタジエンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-334M75(臭素化エポキシ樹脂に、25質量%のスチレンブタジエンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-416(4官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂に、25質量%のブタジエンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、MX-451(3官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂に、25質量%のスチレンブタジエンゴムを単一分散させたもの、株式会社カネカ社製)、が挙げられる。
【0062】
1-5. エポキシ樹脂[E]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂[A]、[B]以外のエポキシ樹脂を含んでいてもよく、特に制限されるものではないが、トリグリシジルアミノフェノール誘導体である、エポキシ樹脂[E]を含んでいることが好ましい。
【0063】
エポキシ樹脂[E]は、エポキシ樹脂組成物の粘度を低下させ、また硬化樹脂の耐熱性を向上させる。そのため、エポキシ樹脂[A]とエポキシ樹脂[E]とを組み合わせて用いることにより、強化繊維基材への樹脂含浸性を向上させるとともに、耐熱性及び高弾性率を維持した樹脂硬化物および繊維強化複合材料を与える。
【0064】
エポキシ樹脂[E]としては、トリグリシジル-m-アミノフェノール、トリグリシジル-p-アミノフェノールが挙げられる。
【0065】
本発明のエポキシ樹脂組成物における、全エポキシ樹脂中のエポキシ樹脂[E]の含有率は、1~30質量%であることが好ましく、3~20質量%であることがより好ましい。全エポキシ樹脂中のエポキシ樹脂[E]の含有率をこの範囲とすることにより、RTM成形法に適した粘度を有するエポキシ樹脂組成物を作製でき、また耐熱性の高い樹脂硬化物を得ることができる。
【0066】
1-6. その他の任意成分
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記のエポキシ樹脂[A]、エポキシ樹脂[B]、硬化剤[C]及び粒子状ゴム成分[D]を必須とするが、その他のエポキシ樹脂を含んでいても良い。
その他のエポキシ樹脂としては、従来公知のエポキシ樹脂を用いることができる。具体的には、以下に例示されるものを用いることができる。これらの中でも芳香族基を含有するエポキシ樹脂が好ましく、グリシジルアミン構造、グリシジルエーテル構造のいずれかを含有するエポキシ樹脂が好ましい。また、脂環族エポキシ樹脂も好適に用いることができる。
【0067】
グリシジルアミン構造を含有するエポキシ樹脂としては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの各種異性体などが例示される。
【0068】
グリシジルエーテル構造を含有するエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が例示される。
【0069】
また、これらのエポキシ樹脂は、必要に応じて、芳香族環構造などに、非反応性置換基を有していても良い。非反応性置換基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基などのアルキル基、フェニル基などの芳香族基、アルコキシル基、アラルキル基、塩素や臭素などのハロゲン基が例示される。
【0070】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、その他の硬化剤を含んでいても良い。
その他の硬化剤としては、脂肪族ポリアミン類、芳香族アミン系硬化剤の各種異性体(上記の硬化剤[C]を除く)、アミノ安息香酸エステル類、酸無水物類が挙げられる。
【0071】
脂肪族ポリアミン類としては4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン、m-キシリレンジアミン等が例示される。
芳香族ポリアミンは耐熱性や各種力学特性に優れるため好ましい。芳香族ポリアミン類としてはジアミノジフェニルスルホン類、ジアミノジフェニルメタン類、ジアミノジフェニルエーテル類、トルエンジアミン類が例示される。4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ジアミン化合物及びこれらの非反応性置換基を有する誘導体は、耐熱性が高い硬化物を得ることができるため、特に好ましい。さらに、3,3’-ジアミノジフェニルスルホンは、得られる樹脂硬化物の耐熱性や弾性率が高いため更に好ましい。非反応性置換基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基などのアルキル基、フェニル基などの芳香族基、アルコキシル基、アラルキル基、塩素や臭素などのようなハロゲン基が例示される。
【0072】
アミノ安息香酸エステル類としては、トリメチレングリコールジ-p-アミノベンゾエートやネオペンチルグリコールジ-p-アミノベンゾエートが好ましく用いられる。これら硬化剤を用いて硬化させた複合材料は、引張伸度が高い。
酸無水物類としては、1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。これら硬化剤を用いた場合、未硬化樹脂組成物のポットライフが長く、電気的特性、化学的特性、機械的特性などに比較的バランスがとれた硬化物が得られる。そのため、複合材料の用途に応じて硬化剤は適宜選択される。
【0073】
エポキシ樹脂組成物に含まれる硬化剤の総量は、エポキシ樹脂組成物中に配合されている全てのエポキシ樹脂を硬化させるのに適した量であり、用いるエポキシ樹脂や硬化剤の種類に応じて適宜調節される。例えば、芳香族ジアミン化合物を硬化剤として用いる場合、全エポキシ樹脂量100質量部に対して25~65質量部であることが好ましく、35~55質量部であることがより好ましい。
【0074】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含んでいても良い。熱可塑性樹脂は、得られる繊維強化複合材料の破壊靭性や耐衝撃性を向上させる。
【0075】
熱可塑性樹脂の具体的例としては、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート等が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用しても良い。エポキシ樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量(Mw)が8000~100000の範囲のポリエーテルスルホン、ポリスルホンが特に好ましい。重量平均分子量(Mw)が8000よりも小さいと、得られるFRPの耐衝撃性が不十分となり、また100000よりも大きいと粘度が著しく高くなり取扱性が著しく悪化する場合がある。エポキシ樹脂可溶性熱可塑性樹脂の分子量分布は均一であることが好ましい。特に、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比である多分散度(Mw/Mn)が1~10の範囲であることが好ましく、1.1~5の範囲であることがより好ましい。
【0076】
熱可塑性樹脂は、エポキシ樹脂と反応性を有する反応基又は水素結合を形成する官能基を有していることが好ましい。このような熱可塑性樹脂は、エポキシ樹脂の硬化過程中における溶解安定性を向上させることができる。また、硬化後に得られる繊維強化複合材料に破壊靭性、耐薬品性、耐熱性及び耐湿熱性を付与することができる。
【0077】
エポキシ樹脂との反応性を有する反応基としては、水酸基、カルボン酸基、イミノ基、アミノ基などが好ましい。水酸基末端のポリエーテルスルホンを用いると、得られる繊維強化複合材料の耐衝撃性、破壊靭性及び耐溶剤性が特に優れるためより好ましい。
【0078】
エポキシ樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の含有量は、粘度に応じて適宜調整される。繊維強化基材への含浸の観点から、エポキシ樹脂組成物に含有されるエポキシ樹脂100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましい。0.1質量部未満の場合は、得られる繊維強化複合材料の破壊靭性や耐衝撃性が不十分となる場合がある。熱可塑性樹脂の含有量が高くなると、粘度が著しく高くなり、繊維強化基材への含浸が不十分となり、得られる繊維強化複合材料の特性が低下する場合がある。
【0079】
熱可塑性樹脂には、アミン末端基を有する反応性芳香族オリゴマー(以下、単に「芳香族オリゴマー」ともいう)を含むことが好ましい。
【0080】
エポキシ樹脂組成物は、加熱硬化時にエポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応により高分子量化する。高分子量化により二相域が拡大することによって、エポキシ樹脂組成物に溶解していた芳香族オリゴマーは、反応誘起型の相分離を引き起こす。この相分離により、硬化後のエポキシ樹脂と、芳香族オリゴマーと、が共連続となる樹脂の二相構造をマトリックス樹脂内に形成する。また、芳香族オリゴマーはアミン末端基を有していることから、エポキシ樹脂との反応も生じる。この共連続の二相構造における各相は互いに強固に結合しているため、耐溶剤性も向上している。
【0081】
この共連続の構造は、繊維強化複合材料に対する外部からの衝撃を吸収してクラック伝播を抑制する。その結果、アミン末端基を有する反応性芳香族オリゴマーを含むエポキシ樹脂組成物を用いて作製される繊維強化複合材料は、高い耐衝撃性及び破壊靭性を有する。
【0082】
この芳香族オリゴマーとしては、公知のアミン末端基を有するポリスルホン、アミン末端基を有するポリエーテルスルホンを用いることができる。アミン末端基は第一級アミン(-NH)末端基であることが好ましい。
【0083】
エポキシ樹脂組成物に配合される芳香族オリゴマーは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量が8000~40000であることが好ましい。重量平均分子量が8000未満である場合、マトリクス樹脂の靱性向上効果が低い。また、重量平均分子量が40000を超える場合、樹脂組成物の粘度が高くなり過ぎて、強化繊維基材へ樹脂組成物が含浸しにくくなる等の加工上の問題点が発生しやすくなる。
【0084】
芳香族オリゴマーとしては、「Virantage DAMS VW-30500 RP(登録商標)」(Solvay Specialty Polymers社製)のような市販品を好ましく用いることができる。
【0085】
熱可塑性樹脂の形態は、特に限定されないが、粒子状であることが好ましい。粒子状の熱可塑性樹脂は、樹脂組成物中に均一に配合することができる。
【0086】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、導電性粒子や難燃剤、無機系充填剤、内部離型剤が配合されてもよい。
【0087】
1-7. エポキシ樹脂組成物の製造方法
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂[A]、エポキシ樹脂[B]と硬化剤[C]、粒子状ゴム成分[D]と、必要に応じてエポキシ樹脂[E]、その他のエポキシ樹脂、熱可塑性樹脂、その他の硬化剤、その他の成分と、を混合することにより製造できる。これらの混合の順序は問わない。
また、エポキシ樹脂組成物の状態としては、各成分が均一に混和した一液の状態でもよく、一部の成分が固体として分散したスラリーの状態でもよい。
【0088】
エポキシ樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの方法を用いてもよい。混合温度としては、40~120℃の範囲が例示できる。120℃を超える場合、部分的に硬化反応が進行して強化繊維基材への含浸性が低下したり、得られるエポキシ樹脂組成物の保存安定性が低下したりする場合がある。40℃未満である場合、エポキシ樹脂組成物の粘度が高く、実質的に混合が困難となる場合がある。好ましくは50~100℃であり、さらに好ましくは50~90℃の範囲である。
【0089】
混合機械装置としては、従来公知のものを用いることができる。具体的な例としては、ロールミル、プラネタリーミキサー、ニーダー、エクストルーダー、バンバリーミキサー、攪拌翼を備えた混合容器、横型混合槽などが挙げられる。各成分の混合は、大気中又は不活性ガス雰囲気下で行うことができる。大気中で混合が行われる場合は、温度、湿度が管理された雰囲気が好ましい。特に限定されるものではないが、例えば、30℃以下の一定温度に管理された温度や、相対湿度50%RH以下の低湿度雰囲気で混合することが好ましい。
【0090】
2. 繊維強化複合材料
繊維強化基材と、本発明のエポキシ樹脂組成物に各種成分を配合して成る樹脂組成物と、を複合化して硬化させることにより、繊維強化複合材料を得ることができる。繊維強化基材と複合化する方法としては、特に制限はなく、繊維強化基材と樹脂組成物を予め複合化してもよく、例えば、レジントランスファー成形法(RTM法)、ハンドレイアップ法、フィラメントワインディング法、プルトルージョン法などのように成形時に複合化してもよい。
繊維強化基材と、本発明のエポキシ樹脂組成物とを複合化した後、特定の条件で加熱して硬化させることにより、繊維強化複合材料を得ることができる。本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて繊維強化複合材料を製造する方法としては、RTM法やオートクレーブ成形法、プレス成形法等の公知の成形法が挙げられる。本発明の樹脂組成物は、特にRTM法に適している。
【0091】
複雑形状の繊維強化複合材料を効率よく得られるという観点から、RTM法は好ましい成型方法である。ここで、RTM法とは型内に配置した繊維強化基材へ液状のエポキシ樹脂組成物を含浸、硬化して繊維強化複合材料を得る方法を意味する。
【0092】
本発明において、RTM法に用いる型は、剛性材料からなるクローズドモールドを用いてもよく、剛性材料のオープンモールドと可撓性のフィルム(バッグ)を用いることも可能である。後者の場合、繊維強化基材は、剛性材料のオープンモールドと可撓性フィルムの間に設置することができる。剛性材料としては、スチールやアルミニウムなどの金属、繊維強化プラスチック(FRP)、木材、石膏など既存の各種のものが用いられる。可撓性のフィルムの材料には、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などが用いられる。
【0093】
RTM法において、剛性材料のクローズドモールドを用いる場合は、加圧して型締めし、エポキシ樹脂組成物を加圧して注入することが通常行われる。このとき、注入口とは別に吸引口を設け、真空ポンプに接続して吸引することも可能である。吸引を行い、特別な加圧手段を用いることなく大気圧のみでエポキシ樹脂組成物を注入することも可能である。この方法は、複数の吸引口を設けることにより大型の部材を製造することができるため、好適に用いることができる。
【0094】
RTM法において、剛性材料のオープンモールドと可撓性フィルムを用いる場合は、吸引を行い、特別な加圧手段を用いることなく大気圧のみでエポキシ樹脂を注入してもよい。大気圧のみでの注入で良好な含浸を実現するためには、樹脂拡散媒体を用いることが有効である。さらに、繊維強化基材の設置に先立って、剛性材料の表面にゲルコートを塗布することが好ましく行われる。
【0095】
RTM法において、繊維強化基材にエポキシ樹脂組成物を含浸した後、加熱硬化が行われる。加熱硬化時の型温は、通常、エポキシ樹脂組成物の注入時における型温より高い温度が選ばれる。加熱硬化時の型温は80~200℃であることが好ましい。加熱硬化の時間は1分~20時間が好ましい。加熱硬化が完了した後、脱型して繊維強化複合材料を取り出す。その後、得られた繊維強化複合材料をより高い温度で加熱して後硬化を行ってもよい。後硬化の温度は150~200℃が好ましく、時間は1分~4時間が好ましい。
【0096】
エポキシ樹脂組成物をRTM法で繊維強化基材に含浸させる際の含浸圧力は、その樹脂組成物の粘度・樹脂フローなどを勘案し、適宜決定する。
具体的な含浸圧力は、0.001~10(MPa)であり、0.01~1(MPa)であることが好ましい。RTM法を用いて繊維強化複合材料を得る場合、エポキシ樹脂組成物の粘度は、100℃における粘度が、5000mPa・s未満であることが好ましく、0.5~1000mPa・sであることがより好ましく、1~200mPa・sであることが更に好ましい。
【実施例
【0097】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本実施例、比較例において使用する成分や試験方法を以下に記載する。
【0098】
〔成分〕
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂[A]
・テトラグリシジル-3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(合成例1の方法で合成、以下「3,4’-TGDDE」と略記する)
【0099】
エポキシ樹脂[B]
・N,N-ジグリシジル-o-トルイジン(日本化薬社製 GOT(製品名)、以下「GOT」と略記する)
・N,N-ジグリシジルアニリン(日本化薬社製 GAN(製品名)、以下「GAN」と略記する)
【0100】
エポキシ樹脂[E]
・トリグリシジル-p-アミノフェノール(ハンツマン社製 Araldite MY0510(製品名)、以下「TG-pAP」と略記する)
【0101】
その他のエポキシ樹脂
・テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(ハンツマン社製 Araldite MY721(製品名)、以下「TGDDM」と略記する)
・ビスフェノールA-ジグリシジルエーテル(三菱化学社製 jER825(製品名)、以下「DGEBA」と略記する)
【0102】
(硬化剤)
硬化剤[C]
・4,4’-ジアミノ-3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジメチルジフェニルメタン(ロンザ社製 Lonzacure M-MIPA(製品名)、以下「M-MIPA」と略記する)
・4,4’-メチレンビス(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)(ロンザ社製 Lonzacure M-CDEA(製品名)、以下「M-CDEA」と略記する)
・ジエチルトルエンジアミン(ハンツマン社製 Aradure5200(製品名)、以下「DETDA」と略記する)
(その他の硬化剤)
・3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(小西化学工業株式会社製、以下「3,3’-DDS」と略記する)
【0103】
(粒子状ゴム成分)
・MX-416(株式会社カネカ製 MX-416(製品名)、グリシジルアミン型4官能エポキシ樹脂へ粒子状ゴム成分を25質量%の濃度となる様に分散させたマスターバッチ)
【0104】
(炭素繊維ストランド)
・炭素繊維1:“テナックス(登録商標)”IMS65 E23 830tex(炭素繊維ストランド、引張強度 5.8GPa、引張弾性率 290GPa、サイジング剤付着量 1.2質量%、帝人(株)製)
(熱可塑性樹脂不織布)
・不織布1:ポリアミド12樹脂を使用し、スパンボンド法で作製した繊維目付が5g/mの不織布
(炭素繊維多層織物)
・炭素繊維多軸織物1:一方向に引き揃えた炭素繊維1を1層あたり190g/mのシート状にして、不織布1を片面に配置し、(+45/V/90/V/-45/V/0/V)の角度で4枚積層しステッチしたもの(織物基材の炭素繊維総目付760g/m)。
・炭素繊維多軸織物2:炭素繊維1を(-45/V/90/V/+45/V/0/V)の角度で4枚積層しステッチしたもの(織物基材の炭素繊維総目付760g/m)。
ここでは、Vは不織布1を示す。
【0105】
(エポキシ樹脂の合成例)
〔合成例1〕 3,4’-TGDDEの合成
温度計、滴下漏斗、冷却管および攪拌機を取り付けた四つ口フラスコに、エピクロロヒドリン1110.2g(12.0mol)を仕込み、窒素パージを行いながら温度を70℃まで上げて、これにエタノール1000gに溶解させた3,4’-ジアミノジフェニルエーテル200.2g(1.0mol)を4時間かけて滴下した。さらに6時間撹拌し、付加反応を完結させ、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシ-3-クロロプロピル)-3,4’-ジアミノジフェニルエーテルを得た。続いて、フラスコ内温度を25℃に下げてから、これに48%NaOH水溶液500.0g(6.0mol)を2時間で滴下してさらに1時間撹拌した。環化反応が終わってからエタノールを留去して、400gのトルエンで抽出を行い5%食塩水で2回洗浄を行った。有機層からトルエンとエピクロロヒドリンを減圧下で除くと、褐色の粘性液体が361.7g(収率85.2%)得られた。主生成物である3,4’-TGDDEの純度は、84%(HPLC面積%)であった。
【0106】
[評価方法]
(1) 樹脂組成物の特性
(1-1) エポキシ樹脂組成物の調製
表1に記載する割合でエポキシ樹脂、硬化剤、粒子状ゴム成分を計量し、撹拌機を用いて80℃で60分間混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。この時、硬化剤はエポキシ樹脂へ溶解する。なお、表1に記載の組成においては、エポキシ樹脂のグリシジル基と硬化剤のアミノ基は当量となる。
(1-2) 初期粘度および可使時間
粘度測定は、東機産業株式会社製B型粘度計TVB-15Mを用い、100℃の条件にて行った。測定開始直後の最小測定値を初期粘度とし、粘度が150mPa・sに到達した時間を可使時間とした。
【0107】
(2) 樹脂硬化物の特性
(2-1) 樹脂硬化物の作成
(1-1)で調製したエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、4mm厚のシリコン樹脂製スペーサーにより厚み4mmになるように設定したステンレス製モールド中に注入した。180℃の温度で2時間硬化させ、厚さ4mmの樹脂硬化物を得た。
【0108】
(2-2) 樹脂曲げ弾性率
JIS K7171法に準じて、試験を実施した。その際の、樹脂試験片の寸法は80mm×10mm×h4mmで準備した。支点間距離Lは、16×h(厚み)、試験速度2m/minで曲げ試験を行い、曲げ強度と曲げ弾性率を測定した。
【0109】
(3) CFRPの特性
(3-1) CFRPの作成
炭素繊維多軸織物1および炭素繊維多軸織物2を300×300mmにカットし、500×500mmの離型処理したアルミ板の上に、炭素繊維多軸織物1を3枚、炭素繊維多軸織物2を3枚、合計6枚重ねて積層体とした。
更に積層体の上に、離型性機能を付与した基材であるピールクロスのRelease Ply C(AIRTECH社製)と樹脂拡散基材のResin Flow 90HT(AIRTECH社製)を積層した。 その後、樹脂注入口と樹脂排出口形成のためのホースを配置し、全体をナイロンバッグフィルムで覆い、シーラントテープで密閉し、内部を真空にした。続いてアルミ板を120℃に加温し、バック内を5torr以下に減圧した後、(1-1)で調整したエポキシ樹脂組成物を100℃に加熱し、樹脂注入口を通して真空系内へ注入した。
注入したエポキシ樹脂組成物がバック内に充満し、積層体に含浸した状態で180℃に昇温し、180℃で2時間保持して、炭素繊維複合材料を得た。
【0110】
(3-2) OHC
(3-1)で得られたCFRPを、幅38.1mm × 長さ304.8mmの寸法に切断し、試験片中心に直径6.35mmの穴あけ加工を施し、有孔圧縮強度(OHC)試験の試験片を得た。
試験は、SACMA SRM3に則って実施し、最大点荷重から有孔圧縮強度を算出した。
【0111】
(3-3) 衝撃後圧縮強度(CAI)
(3-1)で得られたCFRPを、幅101.6mm × 長さ152.4mmの寸法に切断し、衝撃後圧縮強度(CAI)試験の試験片を得た。供試体(サンプル)は各試験片の寸法測定後、衝撃試験は落錘型衝撃試験機(インストロン社製 Dynatup)を用いて、30.5Jの衝撃エネルギーを与えた。衝撃後、供試体の損傷面積は、超音波探傷試験機(クラウトクレーマー社製 SDS3600、HIS3/HF)にて測定した。衝撃後、供試体の強度試験は、供試体の上から25.4mmでサイドから25.4mmの位置に、歪みゲージを左右各1本ずつ貼付し、同様に表裏に合計4本/体の歪みゲージを貼付けた後、試験機(島津製作所製オートグラフ)のクロスヘッド速度を1.27mm/minとし、供試体の破断まで荷重を負荷した。
【0112】
(樹脂組成物)
〔実施例1~11、比較例3〕
エポキシ樹脂組成物の特性を表1に示した。実施例1~11は、100℃において100mPa・s以下の低い初期粘度と、180分以上の長い可使時間を示した。比較例3は硬化剤[C]を用いずに3,3’-DDSを用いたが、初期粘度が115mPa・sと高くなり、可使時間が111分と短くなった。
【0113】
(樹脂硬化物)
〔実施例1~11、比較例1~2〕
樹脂硬化物の特性を表1に示した。実施例1~11は、3.6GPa以上の高い曲げ弾性率を示した。比較例1はエポキシ樹脂[A]を用いずにTGDDMを用いたが、曲げ弾性率が3.4GPaと低くなった。比較例2はエポキシ樹脂[B]を用いずにDGEBAを用いたが、曲げ弾性率が3.2GPaと低くなった。
【0114】
(CFRP)
〔実施例1~11、比較例1~2、4〕
CFRPの特性を表1に示した。実施例1~11は、300MPa以上の高いOHCと、230MPa以上の高いCAIを示した。比較例1はエポキシ樹脂[A]を用いずにTGDDMを用いたが、293MPaとOHCが低くなった。比較例2はエポキシ樹脂[B]を用いずにDGEBAを用いたが、281MPaとOHCが低くなった。比較例4は粒子状ゴム粒子[D]を用いなかったが、214MPaとCAIが低くなった。
【0115】
【表1】