(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】管用ねじ継手
(51)【国際特許分類】
F16L 15/04 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
F16L15/04 A
(21)【出願番号】P 2021571120
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2020047836
(87)【国際公開番号】W WO2021145162
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2020005811
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100107593
【氏名又は名称】村上 太郎
(72)【発明者】
【氏名】丸田 賢
(72)【発明者】
【氏名】奥 洋介
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/211873(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/093163(WO,A1)
【文献】特表2018-536818(JP,A)
【文献】特開2014-105731(JP,A)
【文献】特開2014-101983(JP,A)
【文献】国際公開第2019/093311(WO,A1)
【文献】米国特許第04521042(US,A)
【文献】国際公開第2017/104282(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状のピンと、管状のボックスとから構成され、前記ピンが前記ボックスにねじ込まれて前記ピンと前記ボックスとが締結される、管用ねじ継手において、
前記ピンは、第1雄ねじと、該第1雄ねじよりも先端側に設けられ且つ前記第1雄ねじよりも小径の第2雄ねじと、前記第1雄ねじと前記第2雄ねじとの間に設けられたピン中間ショルダと、前記第2雄ねじよりも先端側に設けられたピン内シール面と、前記第1雄ねじよりも基端側に設けられたピン外シール面とを備え、
前記ボックスは、締結状態で前記第1雄ねじが嵌合する第1雌ねじと、締結状態で前記第2雄ねじが嵌合する第2雌ねじと、前記第1雌ねじと前記第2雌ねじとの間に設けられ且つ締結状態で前記ピン中間ショルダに接触するボックス中間ショルダと、締結状態で前記ピン内シール面に接触するボックス内シール面と、締結状態で前記ピン外シール面に接触するボックス外シール面とを備え、
下記の式(1)及び(2)を満たす、管用ねじ継手。
【数1】
【数2】
ここで、L
Pは前記ピン内シール面の前記ピン中間ショルダ側の端部と前記ピン中間ショルダの径方向外端との間の軸方向距離、L
Bは前記ボックス外シール面の前記ボックス中間ショルダ側の端部と前記ボックス中間ショルダの径方向内端との間の軸方向距離、h
Pは前記ピン内シール面の前記ピン中間ショルダ側の端部と前記ピン中間ショルダの径方向外端との間の径方向距離、h
Bは前記ボックス外シール面の前記ボックス中間ショルダ側の端部と前記ボックス中間ショルダの径方向内端との間の径方向距離、θ
sealは前記ピン内シール面の軸方向両端を結ぶ直線の勾配角である。
【請求項2】
請求項1に記載の管用ねじ継手において、
前記ピン内シール面の前記ピン中間ショルダ側の端部と前記ピン中間ショルダの径方向外端とを結ぶ直線の勾配角θ
Pが、前記ボックス外シール面の前記ボックス中間ショルダ側の端部と前記ボックス中間ショルダの径方向内端とを結ぶ直線の勾配角θ
Bよりも大きい、管用ねじ継手。
【請求項3】
請求項2に記載の管用ねじ継手において、
前記勾配角θ
Pは6°未満である、管用ねじ継手。
【請求項4】
請求項1,2又は3に記載の管用ねじ継手において、L
PがL
Bの94%より大きい、管用ねじ継手。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の管用ねじ継手において、h
Bがh
Pよりも大きい、管用ねじ継手。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の管用ねじ継手において、締結完了時点で前記ピン内シール面のうち前記ボックス内シール面との接触によって最もシール接触力が高くなるシールポイントと、前記ピン内シール面の前記ピン中間ショルダ側の端部との間の軸方向距離L
SPが、L
BとL
Pとの差よりも小さい、管用ねじ継手。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の管用ねじ継手において、h
P
とh
B
とは等しい、管用ねじ継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼管等の連結に用いられる管用ねじ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
油井、天然ガス井等(以下、総称して「油井」ともいう。)においては、地下資源を採掘するため、複数段の井戸壁を構築するケーシングや、該ケーシング内に配置されてオイルやガスを生産するチュービングが用いられる。これらケーシングやチュービングは、多数の鋼管が順次連結されて成り、その連結に管用ねじ継手が用いられる。油井に用いられる鋼管は油井管とも称される。
【0003】
管用ねじ継手の形式は、インテグラル型とカップリング型とに大別される。インテグラル型の管用ねじ継手は、例えば下記の特許文献1及び2に開示されており、カップリング型の管用ねじ継手は、例えば下記の特許文献3に開示されている。
【0004】
インテグラル型では、油井管同士が直接連結される。具体的には、油井管の一端には雌ねじ部が、他端には雄ねじ部が設けられ、一の油井管の雌ねじ部に他の油井管の雄ねじ部がねじ込まれることにより、油井管同士が連結される。
【0005】
カップリング型では、管状のカップリングを介して油井管同士が連結される。具体的には、カップリングの両端に雌ねじ部が設けられ、油井管の両端には雄ねじ部が設けられる。そして、カップリングの一方の雌ねじ部に一の油井管の一方の雄ねじ部がねじ込まれるとともに、カップリングの他方の雌ねじ部に他の油井管の一方の雄ねじ部がねじ込まれることにより、カップリングを介して油井管同士が連結される。すなわち、カップリング型では、直接連結される一対の管材の一方が油井管であり、他方がカップリングである。
【0006】
一般に、雄ねじ部が形成された油井管の端部は、油井管又はカップリングに形成された雌ねじ部に挿入される要素を含むことから、ピンと称される。雌ねじ部が形成された油井管又はカップリングの端部は、油井管の端部に形成された雄ねじ部を受け入れる要素を含むことから、ボックスと称される。
【0007】
近年、さらなる高温高圧深井戸の開発が進んでいる。深井戸では、地層圧の深さ分布の複雑さによりケーシングの段数も増やす必要があることなどから、継手の最大外径、すなわちボックスの外径が油井管の管本体の外径とほぼ同程度のねじ継手が用いられることがある。ボックス外径が油井管の管本体の外径にほぼ等しいねじ継手はフラッシュ型ねじ継手とも称される。また、ボックス外径が油井管の管本体の外径の概ね108%未満であるねじ継手はセミフラッシュ型ねじ継手とも称される。これらフラッシュ型及びセミフラッシュ型のねじ継手には、高い強度及びシール性能が要求されるだけでなく、限られた管肉厚内にねじ構造及びシール構造を配置するために、各部位には厳しい寸法制約が課されている。
【0008】
寸法制約が大きいフラッシュ型及びセミフラッシュ型のねじ継手は、継手部の軸方向中間に中間ショルダを設け、その前後にそれぞれねじ部を配置した2段ねじにより雄ねじ及び雌ねじを構成した継手デザインが採用されることが多い。このような2段ねじ構造のねじ継手では、特許文献1及び2に開示されているように、厳しい寸法制約下で内圧に対するシール性能と外圧に対するシール性能とを確保するため、ピン先端部近傍に内圧用シールを設けるとともに、ボックス開口端部近傍に外圧用シールを設けている。
【0009】
なお、特許文献1及び2はいずれも本願出願人らによる出願であり、これら出願に添付されている図面は、それぞれの発明の特徴を分かりやすく説明するための模式図であって、特徴に関係しない各部の寸法は正確なものではない。したがって、これら出願の明細書に説明されていない部位の図面上の寸法から、明細書に明示的に開示されていない技術上の特徴を抽出すべきではないことを付言しておく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特表2018-536818号公報
【文献】国際公開第2018/211873号
【文献】特開2012-149760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
2段ねじ構造のねじ継手の場合、ボックスの軸方向中央付近にボックス中間ショルダが存在しており、ピンをボックス内に挿入していくときや、雌ねじに対する雄ねじのねじ込み開始直前(すなわち、ねじ干渉が開始する前)の芯合わせ時などに、ピン先端部近傍に設けたピン内シール面(内圧用ピンシール面)がボックス中間ショルダの角部に衝当して傷付くおそれがある。
【0012】
実際の掘削現場作業時には、スタビングガイドをボックスの開口端部に装着した上でピンをスタビングしていくため、ボックス開口端部近傍に設けたボックス外シール面(外圧用ボックスシール面)はスタビングガイドによって保護され、ピン中間ショルダが衝当することによってダメージを受けるおそれは少ない。一方、スタビングガイドを使用していても、ピン内シール面がボックス中間ショルダに接触するリスクがある。
【0013】
一般的に、油井管使用環境は外圧よりも内圧の方が高いため、外圧を外シールで密封する一方、内圧を内シールで密封する2段ねじ構造のねじ継手においては、内シールのダメージを避けることが重要となる。
【0014】
本開示の目的は、2段ねじ構造の管用ねじ継手において、スタビング時にピン内シール面にボックス中間ショルダが衝当することを回避し、ピン内シールが傷付きにくくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示による管用ねじ継手は、管状のピンと、管状のボックスとから構成され、前記ピンが前記ボックスにねじ込まれて前記ピンと前記ボックスとが締結される。
【0016】
前記ピンは、第1雄ねじと、該第1雄ねじよりも先端側に設けられ且つ前記第1雄ねじよりも小径の第2雄ねじと、前記第1雄ねじと前記第2雄ねじとの間に設けられたピン中間ショルダと、前記第2雄ねじよりも先端側に設けられたピン内シール面と、前記第1雄ねじよりも基端側に設けられたピン外シール面とを備える。
【0017】
前記ボックスは、締結状態で前記第1雄ねじが嵌合する第1雌ねじと、締結状態で前記第2雄ねじが嵌合する第2雌ねじと、前記第1雌ねじと前記第2雌ねじとの間に設けられ且つ締結状態で前記ピン中間ショルダに接触するボックス中間ショルダと、締結状態で前記ピン内シール面に接触するボックス内シール面と、締結状態で前記ピン外シール面に接触するボックス外シール面とを備える。
【0018】
本開示による管用ねじ継手は、下記の式(1)及び(2)を満たす。
【0019】
【0020】
【0021】
ここで、LPは前記ピン内シール面の前記ピン中間ショルダ側の端部と前記ピン中間ショルダの径方向外端との間の軸方向距離、LBは前記ボックス外シール面の前記ボックス中間ショルダ側の端部と前記ボックス中間ショルダの径方向内端との間の軸方向距離、hPは前記ピン内シール面の前記ピン中間ショルダ側の端部と前記ピン中間ショルダの径方向外端との間の径方向距離、hBは前記ボックス外シール面の前記ボックス中間ショルダ側の端部と前記ボックス中間ショルダの径方向内端との間の径方向距離、θsealは前記ピン内シール面の軸方向両端を結ぶ直線の勾配角である。
【0022】
好ましくは、前記ピン内シール面の前記ピン中間ショルダ側の端部と前記ピン中間ショルダの径方向外端とを結ぶ直線の勾配角θPが、前記ボックス外シール面の前記ボックス中間ショルダ側の端部と前記ボックス中間ショルダの径方向内端とを結ぶ直線の勾配角θBよりも大きい。さらに好ましくは、前記勾配角θPは6°未満である。
【0023】
また、LPがLBの94%より大きい場合に、本開示は特に有用である。
【0024】
また、本開示によれば、hBがhPよりも大きい場合であっても、少なくともピン内シール面のうち最もシール接触圧が大きくなるシールポイントSPへのダメージを回避でき、hBの径方向範囲内に設けられる第1雌ねじ31や、対応する第1雄ねじ21の設計上の余裕が生じるため、この余裕を種々の性能に振り分けることができる。
【0025】
より確実なシールポイントSPの保護のためには、締結完了時点でピン内シール面のうちボックス内シール面との接触によって最もシール接触力が高くなるシールポイントSPと、ピン内シール面のピン中間ショルダ側の端部P1との間の軸方向距離LSPが、LBとLPとの差よりも小さいことが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本開示によれば、スタビング時にピン内シール面がボックス中間ショルダに衝当してダメージを受けることを回避でき、締結後の内圧シール性能が低下することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、実施形態に係る管用ねじ継手の縦断面図である。
【
図2】
図2は、ピン及びボックスの特徴部分の寸法説明図である。
【
図4】
図4は、スタビング時の状態を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1~
図4に例示するように、本実施の形態に係る管用ねじ継手1は、管状のピン2と、管状のボックス3とから構成される。ピン2とボックス3とは、ピン2がボックス3にねじ込まれることにより締結される。ピン2は、第1の管P1の管端部に設けられ、ボックス3は、第2の管P2の管端部に設けられる。第1の管P1は、油井管等の長尺パイプであってよい。第2の管は、長尺パイプ同士を接続するためのカップリングであってもよいが、好ましくは油井管等の長尺パイプである。すなわち、本実施の形態に係る管用ねじ継手1は、好ましくはインテグラル型の管用ねじ継手である。油井管やカップリングは、典型的には鋼製であるが、ステンレス鋼やニッケル基合金等の金属製であってよい。
【0029】
ピン2は、第1の油井管P1の縮径加工された一端部に形成されていてよい。ボックス3は、第2の油井管P2の拡径加工された一端部に形成されていてよい。好ましくは、各油井管P1,P2の一端部にピン2を形成し、他端部にボックス3を形成することができる。より詳細には、第1の油井管P1は、長尺管からなる素管の一端部を縮径加工した後、縮径加工された一端部の外周をピン2の構成要素を形成するように切削加工することにより製造できる。また、第2の油井管P2は、長尺管からなる素管の一端部を拡径加工した後、拡径加工された一端部の内周をボックス3の構成要素を形成するように切削加工することにより製造できる。これにより、セミフラッシュタイプのインテグラル型ねじ継手において、ピン2及びボックス3の肉厚を確保できる。
【0030】
本明細書において、油井管P1,P2のピン2及びボックス3以外の部分であって縮径加工も拡径加工もされていない部分を「管本体」という。ピン2の管端側とは、ピン2の管本体からピン2の管端に向く方向を意味し、「先端側」ということもある。ピン2の管本体側とは、ピン2の管端からピン2の管本体に向く方向を意味し、「基端側」ということもある。ボックス3の開口端側とは、ボックス3の管本体からボックス3の開口端に向く方向を意味する。
【0031】
ピン2は、第1雄ねじ21と、第1雄ねじ21よりもピン2の管端側に設けられ且つ第1雄ねじ21よりも小径の第2雄ねじ22と、第1雄ねじ21と第2雄ねじ22との間に設けられたピン中間ショルダ23と、ピン2の管端部に設けられたピン端部ショルダ24と、第2雄ねじ22とピン端部ショルダ24との間に設けられたピン内シール面25と、第1雄ねじ21とピン2の管本体との間に設けられたピン外シール面26とを備えることができる。第1雄ねじ21と第2雄ねじ22とは軸方向に離間しており、これらの間にピン中間ショルダ23が設けられていてよい。
【0032】
好ましくは、第1及び第2の雄ねじ21,22は、それぞれテーパーねじからなる。好ましくは、第1及び第2の雄ねじ21,22は、同じねじテーパー角及び同じねじピッチを有する。好ましくは、第2雄ねじ22を構成するテーパーねじのテーパー母線は、第1雄ねじ21を構成するテーパーねじのテーパー母線よりも径方向内方に位置する。ピン中間ショルダ23は、第1雄ねじ21と第2雄ねじ22との間でピンの外周に形成された段部の側面により構成できる。ピン中間ショルダ23は、ピン2の管端側に向けられたピン中間ショルダ面を有している。第1及び第2雄ねじ21,22はそれぞれ、台形ねじ、APIラウンドねじ、APIバットレスねじ、若しくは、楔型ねじなどであってよい。
【0033】
ボックス3は、締結完了時点で第1雄ねじ21が嵌合する第1雌ねじ31と、締結完了時点で第2雄ねじ22が嵌合する第2雌ねじ32と、締結完了時点でピン中間ショルダ23に接触するボックス中間ショルダ33と、ピン端部ショルダ24に対応して設けられたボックス端部ショルダ34と、第2雌ねじ32とボックス端部ショルダ34との間に設けられて締結完了時点でピン内シール面25に全周にわたって接触するボックス内シール面35と、第1雌ねじ31とボックス開口端との間に設けられて締結完了時点でピン外シール面26に全周にわたって接触するボックス外シール面36とを備えることができる。ピン内シール面25及びボックス内シール面35は、主として内圧に対する密封性能を発揮するための内圧用シールとして機能させることができる。ピン外シール面26及びボックス外シール面36は、主として外圧に対する密封性能を発揮するための外圧用シールとして機能させることができる。
【0034】
第1雌ねじ31と第2雌ねじ32とは軸方向に離間しており、これらの間にボックス中間ショルダ33が設けられていてよい。好ましくは、第1及び第2の雌ねじ31,32は、第1及び第2の雄ねじ21,22にそれぞれ適合するテーパーねじからなる。ボックス中間ショルダ33は、第1雌ねじ31と第2雌ねじ32との間でボックス3の内周に形成された段部により構成できる。ボックス中間ショルダ33は、ボックス3の開口端側に向けられたボックス中間ショルダ面を有し、ピン中間ショルダ23のピン中間ショルダ面に対向する。ボックス中間ショルダ33は、少なくとも締結完了時点でピン中間ショルダ23に接触し、これら中間ショルダ23,33は、トルク性能を発揮するためのトルクショルダとして機能する。第1及び第2の雌ねじ31,32は、第1及び第2の雄ねじ21,22にそれぞれ適合する台形ねじ、APIラウンドねじ、APIバットレスねじ、若しくは、楔型ねじなどであってよい。
【0035】
ピン端部ショルダ24は、締結完了時点で
図1に示すようにボックス端部ショルダ34に対して離間していてもよいし、ボックス端部ショルダ34に接触してもよい。締結完了時点でこれら端部ショルダ24,34が離間している場合、ねじ継手の降伏圧縮荷重よりも小さな所定の軸方向圧縮荷重が負荷された場合に、ピン2及びボックス3の弾性変形によって端部ショルダ24,34同士が接触して、軸方向圧縮荷重の一部を負担するよう構成することもできる。
【0036】
ピン2及びボックス3の中間ショルダ23,33は、管軸に直交する平坦面によって構成しているが、径方向内端よりも径方向外端がピン2の管端側に傾倒するテーパー面により構成されていてもよい。
【0037】
また、各シール面25,35,26,36の縦断面形状は適宜のものであってよく、
図1~
図4に示すねじ継手1では各シール面は縦断面において直線状に傾斜するテーパー面により構成されている。これに代えて、互いに接触するシール面の一方を凸曲面により構成することもできるし、双方のシール面を凸曲面により構成することもできる。また、凸曲面と直線状の母線を有するテーパー面との組合せによって各シール面を構成することもできる。いずれにしても、ピン2がボックス3の奥側に押し込まれる程、シール干渉量が大きくなるように、各シール面が構成されている。すなわち、ピン内シール面25及びボックス外シール面26はいずれもピン先端側に至るに従って徐々に小径となるテーパー状に形成され、ボックス内シール面35はピン内シール面25に適合するテーパー状に形成され、ボックス外シール面36はピン外シール面26に適合するテーパー状に形成されている。
【0038】
各シール面の軸方向両端部を結ぶ直線の勾配は、5%(テーパー比としては10%)以上であることが好ましく、より好ましくは10%(テーパー比としては20%)である。また、各シール面の軸方向両端部を結ぶ直線の勾配は、25%(テーパー比としては50%)以下であることが好ましく、より好ましくは17%(テーパー比としては34%)以下である。ピン内シール面25の軸方向両端を結ぶ直線の勾配角θsealは、5%勾配の場合は約2.9°、10%勾配の場合は約5.7°、17%勾配の場合は約9.7°、25%勾配の場合は約14.0°である。
【0039】
ピン内シール面25のピン中間ショルダ23側の端部P1とピン中間ショルダ23の径方向外端P2との間の軸方向距離LPは、管径サイズ等にも拠るが、例えば65~95mmであってよい。ピン中間ショルダ23の径方向外端の直径に対するLPの比は、20~45%であってよい。
【0040】
ボックス外シール面36のボックス中間ショルダ33側の端部P2とボックス中間ショルダ33の径方向内端P4との間の軸方向距離LBは、管径サイズ等にも拠るが、例えば70~100mmであってよい。ボックス中間ショルダ33の径方向内端の直径に対するLBの比は、20~45%であってよい。LBに対するLPの比は、94%~98%であってよい。
【0041】
ピン内シール面25のピン中間ショルダ23側の端部P1とピン中間ショルダ23の径方向外端P2との間の径方向距離hPは、管径サイズ等にも拠るが、例えば5.0~8.5mmであってよい。
【0042】
ボックス外シール面36のボックス中間ショルダ33側の端部P3とボックス中間ショルダ33の径方向内端P4との間の径方向距離hBは、管径サイズ等にも拠るが、例えば5.0~8.5mmであってよい。好ましくはhPとhBとは等しい。
【0043】
ピン内シール面25のピン中間ショルダ33側の端部P1とピン中間ショルダ33の径方向外端P2とを結ぶ直線の勾配角θPは、好ましくは6°未満であり、より好ましくは5.5°未満である。ボックス外シール面36のボックス中間ショルダ33側の端部P3とボックス中間ショルダ33の径方向内端P4とを結ぶ直線の勾配角θBは、好ましくは5.5°未満であり、より好ましくは5.3°未満である。
【0044】
図3には、締結状態においてピン内シール面25に生じるシール接触圧分布と、シール接触圧のピークとなるシールポイントSPとが表されている。なお、ピン2は、締結前の形状が仮想線で示されており、シール面25,35の干渉によって径方向内方に僅かに縮径変形された締結状態が実線で表されている。
【0045】
内圧シール性能は主としてシールポイントSPで発揮されるため、特にシールポイントSP近傍におけるピン内シール面25表面へのダメージを回避することが内圧シール性能の維持に重要である。一方、シールポイントSPから離れた位置、すなわちピン内シール面のピン中間ショルダ23側の端部P1に近くなる程、シール接触圧もさほど向上しないことから、多少の表面的なダメージは許容できる。したがって、端部P1よりも径方向内方に位置するシールポイントSPへのダメージを回避し得るように設計することによって、内圧シール性能を維持できると考えられる。
【0046】
ピン2をボックス3内に挿入していく際に、
図4に示すように、ピン2の管軸CL
PINがボックス3の管軸CL
BOXに対して芯ずれし、ピン中間ショルダ23の径方向外端P
2がボックス外シール面36の端部P
3に合致した状態で、ピン内シール面25がボックス中間ショルダ33に干渉する可能性が高くなる。この状態で少なくともピン内シール面25のシールポイントSPへのダメージを回避するには、まず、ピン内シール面25の端部P
1がボックス中間ショルダ33の径方向内端よりもボックス開口端側に位置させる必要がある。これにより、上記の式(1)が導かれる。なお、
図4においてはスタビングガイドを図示省略しているが、必要に応じてスタビングガイドを用いることができる。
【0047】
ピン内シール面25は、その端部P
1から先端側に向けて徐々に小径となるから、
図4に示す状況においてピン内シール面25の端部P
1とボックス中間ショルダ33の径方向内端P
4との間の軸方向距離、すなわち(LB-LP)と、ピン内シール面25の勾配角θ
sealを用いると、上記の式(2)を満たせば、ピン内シール面25にボックス中間ショルダ33が衝当し難くなることが導かれる。
【0048】
より確実にシールポイントSPへのダメージを回避するには、
図4に示す状況において、シールポイントSPがボックス中間ショルダ33よりもボックス開口端側に位置していればよい。このことから、締結完了時点でピン内シール面25のうちボックス内シール面35との接触によって最もシール接触力が高くなるシールポイントSPと、ピン内シール面25の端部P
1との間の軸方向距離L
SPが、L
BとL
Pとの差よりも小さいという条件が導かれる。
【0049】
以上の条件を満たしていれば、hBがhPよりも大きい場合であっても、スタビング時にピン内シール面25のシールポイントSPにボックス中間ショルダ33が接触することを回避できる。
【0050】
また、ピン内シール面25の端部P
1とピン中間ショルダ23の径方向外端P
2とを結ぶ直線の勾配角θ
Pは、ボックス外シール面36の端部P
3とボックス中間ショルダ33の径方向内端P
4とを結ぶ直線の勾配角θ
Bよりも大きいことがより好ましい。これにより、
図4に示す状況において、ピン内シール面25の端部P
1を、ボックス外シール面36の端部P
3とボックス中間ショルダ33の径方向内端P
4とを結ぶ直線よりも径方向内方に位置させることができ、ピン内シール面25へのボックス中間ショルダ33の接触可能性を一層低減できる。
【0051】
さらに、上記勾配角θPは6°未満であることが好ましい。これによれば、第2雄ねじ22及びピン中間ショルダ23が設けられる肉厚範囲を制限しつつも、ピン内シール面25へのダメージを回避できる。
【0052】
なお、LPはLBの90%以上であってよく、より好ましくは92%以上であってよく、さらに好ましくは94%以上であってよい。これにより、2段ねじ構造のそれぞれのねじ嵌合状態及び強度を均一化して、全体としてバランスの良いねじ継手1を提供できる。
【0053】
本開示は、インテグラル型だけでなく、カップリング型のねじ継手に適用してもよい。その他、本開示は上記の実施の形態に限定されず、特許請求の範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1:管用ねじ継手
2:ピン、21:第1雄ねじ、22:第2雄ねじ、23:ピン中間ショルダ、25:ピン内シール面、26:ピン外シール面
3:ボックス、31:第1雌ねじ、32:第2雌ねじ、33:ボックス中間ショルダ、35:ボックス内シール面、36:ボックス外シール面