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特許7431872改善された曲げ性および化学強化性を有する薄板ガラス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】改善された曲げ性および化学強化性を有する薄板ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/095 20060101AFI20240207BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20240207BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20240207BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20240207BHJP
   C03C 3/083 20060101ALI20240207BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20240207BHJP
   C03C 3/112 20060101ALI20240207BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20240207BHJP
   C03B 17/06 20060101ALI20240207BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20240207BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240207BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20240207BHJP
   H10K 59/00 20230101ALI20240207BHJP
   H05B 33/04 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
C03C3/095
C03C3/093
C03C3/091
C03C3/085
C03C3/083
C03C3/087
C03C3/112
C03C21/00 101
C03B17/06
G09F9/00 302
H05B33/14 A
H05B33/02
H10K59/00
H05B33/04
【請求項の数】 28
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022023566
(22)【出願日】2022-02-18
(62)【分割の表示】P 2020505163の分割
【原出願日】2017-09-04
(65)【公開番号】P2022081501
(43)【公開日】2022-05-31
【審査請求日】2022-03-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512139847
【氏名又は名称】ショット グラス テクノロジーズ (スゾウ) カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT GLASS TECHNOLOGIES (SUZHOU) CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】79 Huoju Road, Science & Technology Industrial Park, Suzhou New District, Suzhou, Jiangsu 215009, China
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ジュンミン シュエ
(72)【発明者】
【氏名】フオン ホー
(72)【発明者】
【氏名】ホセ ツィマー
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー ホーホライン
(72)【発明者】
【氏名】ニン ダー
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-030995(JP,A)
【文献】特開2012-078570(JP,A)
【文献】特表2016-539067(JP,A)
【文献】国際公開第2016/037787(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/00-35/26
40/00-40/04
C03C 1/00-23/00
G09F 9/00
H10K 50/10
H05B 33/02
H10K 59/10
H05B 33/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学強化前に75μm未満の厚さtを有し、以下の成分:
【表1】
を酸化物ベースの重量%で含む、フレキシブルディスプレイ又は折り畳み可能なディスプレイ用の化学的に強化されたガラスであって、
ここで、化学強化後に、前記ガラスが、BACT=(CSDoL)/(tE)として計算される、0.0010超のBACT(曲げ性および化学強化性)、および/またはNS=CS/Eとして計算される、0.0085超のNS(正規化された剛性)を有し、
ここで、CSが、前記強化されたガラス物品の片側で測定された圧縮応力(MPa)であり、DoL(μm)が、前記ガラス物品の片側におけるすべてのイオン交換層の合計深さであり、tが、前記ガラス物品の厚さ(μm)であり、Eが、弾性率(MPa)であり、前記ガラスが、ガラス厚さ500μm以下である場合に、300nmの波長での透過率10%未満を有する、ガラス。
【請求項2】
以下のもの:
【表2】
を酸化物ベースの重量%でさらに含む、請求項1記載のガラス。
【請求項3】
TiOが、0.1~2重量%である、請求項1または2記載のガラス。
【請求項4】
CeOが、0.01~0.5重量%である、請求項1または2記載のガラス。
【請求項5】
0.00122以上のBACTを有する、請求項1~4のいずれかに記載のガラス。
【請求項6】
0.010超のNSを有する、請求項1から5までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項7】
(ZrO+Al+TiO)の合計が15~30重量%の範囲にあり、かつ/またはNaO/(NaO+KO)が0.4超1以下である、請求項1から6までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項8】
化学強化前のガラス厚さが1μm超50μm未満である、請求項1から7までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項9】
60~120GPaの弾性率を有する、請求項1から8までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項10】
表面圧縮応力(CS)が700MPa以上2000MPa未満である、請求項9に記載のガラス。
【請求項11】
DoLが1μm超0.3t未満(t=μmでの厚さ)である、請求項9または10に記載のガラス。
【請求項12】
50未満の耐酸性(mg/dm)を有する、請求項1から11までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項13】
UV暴露の前後で測定した透過率の差(350nmの波長)が、500μm以下のガラス厚さに対して45%未満であり、かつ/またはUV暴露の前後で測定した透過率の差(400nmの波長)が、500μm以下のガラス厚さに対して10%未満である、請求項1から12までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項14】
300nmの波長での透過率が、200μm未満のガラス厚さに対して5%未満である、請求項1から13までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項15】
酸処理(6mol/lのHCl、6時間の沸騰)後のヘイズ値が90%未満であり、かつ/または気候処理(温度25~85℃、湿度50%以上90%以下、30日間~365日間の貯蔵)後のヘイズ値が5%未満である、請求項1から14までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項16】
粗さRaが5nm未満の少なくとも1つの表面を有する、請求項1から15までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項17】
加工温度Tと最大結晶化温度TOEGとの間の温度差ΔTが50Kより高い、請求項1から16までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項18】
CTEが、20℃~300℃の温度範囲で5ppm/K超12ppm/K未満である、請求項1から17までのいずれか1項記載のガラス。
【請求項19】
a) 組成物を用意する工程、
b) 組成物を溶融する工程、
c) ガラスを板ガラスプロセスで製造する工程
を含む、請求項1から18までのいずれか1項記載のガラスを製造する方法。
【請求項20】
前記ガラスを引抜加工で製造する、請求項19記載の方法。
【請求項21】
工程c)で、1010dPas~1015dPasのガラス粘度に相応する温度領域での平均冷却速度が、5℃/秒超200℃/秒未満である、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
工程c)で、アニール点と室温との間の温度領域でのアニーリング速度が、50℃/分未満である、請求項19~21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記ガラスを化学的に強化する工程d)をさらに含む、請求項19~22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
化学強化が、KNOを含む強化剤で強化することを含む少なくとも1回の強化工程を含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
化学強化が、CsNOを含む強化剤で強化することを含む少なくとも1回の強化工程を含む、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
化学強化を320℃超500℃未満の温度で行う、請求項23~25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
化学強化の総時間が0.01~20時間である、請求項23~26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
折り畳み可能なディスプレイ又はフレキシブルディスプレイの分野における用途での、請求項1から18までのいずれか1項記載のガラスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された曲げ性、化学強化特性および放射線安定性を有する、化学的に強化可能または強化された薄板アルミノケイ酸塩ガラスに関する。本発明は、本発明のガラスを製造する方法、およびこのガラスの使用にも関する。ガラスは、工業用および消費者用のディスプレイ、OLED、太陽光発電カバーおよび有機相補型金属酸化物半導体(CMOS)、ならびにその他の電子装置の分野における用途に使用されることが好ましい。
【背景技術】
【0002】
アクティブマトリックス式有機発光ダイオード(AMOLED)は、フレキシブルディスプレイの実現の鍵であり、フレキシブルディスプレイには、ディスプレイカバーとして、および/または基板として使用される可撓性材料が必要とされる。そのような用途の場合、ガラスは、耐衝撃性、3点曲げ(3PB)、球体落下、耐スクラッチ等のような様々な試験方法により求めて、高い機械的強度を達成するために、化学的に強化されることが一般的である。薄板アルミノケイ酸塩(AS)ガラスは、そのような柔軟性のための用途にとって理想的な材料のうちの1つである。
【0003】
現在では、製品の新たな機能性およびより広範な用途に対する継続的な需要から、高い強度と、曲げ性とも呼ばれる柔軟性とを有する、さらに薄く軽いガラスが求められている。薄板ガラスが用いられることが一般的な分野は、ファインエレクトロニクス(fine electronics)の保護カバーである。現在では、製品の新たな機能性に対する継続的な需要の増加および新たな幅広い用途の開拓から、柔軟性のような新たな特性を有する、より薄く軽いガラスが求められている。薄板ガラスの柔軟性を理由に、そのようなガラスは、例えば、スマートフォン、タブレット、腕時計およびその他の着衣物のような装置のカバーガラスおよびディスプレイとして、調査および開発されてきた。また、そのようなガラスは、指紋センサモジュールのカバーガラスとして、およびカメラレンズカバーとしても使用され得る。
【0004】
しかしながら、ガラスシートが0.5mmより薄くなると、取り扱いが、破壊をもたらす欠陥、例えばガラス縁端におけるクラックおよびチッピングを主な原因として、ますます難しくなる。さらに、全体的な機械的強度、すなわち曲げまたは衝撃強度に反映される強度が、著しく低下するだろう。通常、より厚いガラスの縁端をCNC(コンピュータ数値制御)で研削して、欠陥を除去することができるが、機械的研削は、0.3mm未満の厚さを有する超薄板ガラスにはほとんど用いられない。縁端におけるエッチングは、超薄板ガラスについて欠陥を除去する1つの解決策であり得るが、薄板ガラスシートの柔軟性は、ガラス自体の曲げ強度が低いことによりなおも制限されている。結果として、ガラスの補強は、薄板ガラスにとって極めて重要である。しかしながら、薄板ガラスの場合、補強には、ガラスの高い中央引張応力を原因とする自己破壊のリスクが常に伴う。
【0005】
一般的に、0.5mm以下の厚さの平型薄板ガラスは、直接の熱間成形法、例えば、ダウンドロー、オーバーフローフュージョンまたは専用のフロート手順により製造可能である。リドロー法も可能である。化学的または物理的な方法により後処理された薄板ガラス(例えば、研削および研磨および/またはエッチングにより製造)に比べて、直接熱間成形された薄板ガラスは、表面が高温の溶融状態から室温に冷却されるため、はるかにより良好な表面均一性および表面粗さを有する。ダウンドロー法を使用して、高い表面品質を有する薄板アルミノケイ酸塩ガラスを製造することができ、ここで、厚さを、5μm~500μmの範囲で正確に制御してもよい。
【0006】
これまでに、化学強化に適した新たな材料を開発することを目的として、甚大な労力が注がれてきた。例えば、米国特許出願公開第2012156464号明細書には、良好な表面品質を有する化学強化可能なガラスが開示されている。
【0007】
しかしながら、先に言及した用途からの要件を十分に満たすためには、改善された特性を有する薄板ガラスを得るためのASガラスについて、解決すべき問題が依然として幾つかある。
【0008】
曲げ性:脆性材料としてのガラスは、特定の曲げ限界を有し、これにより、フレキシブルディスプレイの設計が制限される。理論的には、曲率半径は、特定の応力において、弾性率(ヤング率とも呼ばれる)および試料厚さに比例する。よって、弾性率を材料側から下げ、試料厚さを薄くすることにより、曲率にとって有益になり得る。
【0009】
化学強化性:より厚いガラス、例示的には、例えば0.55mmの厚さを有するカバーガラスの場合、CS(圧縮応力)を850MPa、DoL(層深さ)を30μmにすることが適切である。しかしながら、フレキシブルディスプレイの場合、より小さな厚さを有する薄板ガラス(例えば100μm)を使用すると、そのような高いDoLは不利になる。そのような強化されたガラスは、硬質の物体、例えば、砂、金属縁端等により衝撃または引っかきを受けると容易に破壊されることがあり、自己破壊する傾向を示すことさえある。米国特許出願公開第20110201490号明細書には、耐直接衝撃性(direct impact resistance)を高くするために使用されるBを有するガラスが特許請求されている。
【0010】
化学強化に伴う別の重要な問題は、縁端強度である。(超)薄板ガラスの縁端強度は、主にCSおよび縁端処理により定められる。CSおよび縁端処理を高くして縁端欠陥寸法を低減することで、高い曲げ強度および小さな曲げ半径をもたらすことができる。縁端欠陥寸法は、機械的研削、研磨、化学エッチングおよび機械的処理と化学的処理との組み合わせにより低減または除去することができる。
【0011】
耐薬品性:ガラス洗浄の間に、酸性または塩基性洗浄剤を使用して、ガラス表面の汚れを除去する。良好な耐酸性を有するガラスは、酸洗浄液により生じる損傷を回避するのに非常に重要である。しかしながら、使用される公知のガラスの耐酸性は特に、満足のゆくものではない。
【0012】
放射線安定性(特にソラリゼーション耐性およびUV遮断性):ソラリゼーション(高エネルギーの電磁放射線、例えば紫外光またはX線に暴露されることにより生じる材料の透過率の低下)は、ガラスにとって問題である。消費者ディスプレイ、OLED、太陽光発電カバーおよび有機相補型金属酸化物半導体(CMOS)のような用途において、薄板ガラスは、有機系材料用の基板および/または保護カバーガラス、例えばOLEDにおける有機機能性フィルム層である。しかしながら、そのような有機構造体は、電磁放射線、特に300nm未満のUV範囲の電磁放射線に対して敏感であり、この電磁放射線は、OLEDの機能を劣化させ、寿命を縮めることがある。しかしながら、公知の薄板ガラスはしばしば、そのような用途のために十分なUV遮断特性を有しない。さらに、公知のASガラスは、電磁照射、特にUV暴露を原因として、顕著な色ずれを有することがある。したがって、製品の品質は、その寿命の間に、不十分なソラリゼーション安定性および不十分なUV遮断性を原因として低下する。
【0013】
まとめると、例えば、薄板ガラスを例えばカバーとして必要とするフレキシブルディスプレイ用途で使用するのに適した薄板ガラスの場合、以下の現行の問題を解決することは、非常に困難である:1)高い曲げ性および化学強化性、2)UV遮断性および高いソラリゼーション安定性、3)高い耐酸性。
【0014】
結果として、従来技術の問題を克服することが、本発明の課題である。特に、化学的に強化可能または強化されており、かつ改善された曲げ性、化学強化性および放射線安定性を達成することが可能な薄板ガラスを提供することが本発明の課題である。電子的用途での信頼できる特性を有する薄板ガラスに対する評価基準を設定することが、さらなる本発明の課題である。
【0015】
技術用語の説明
ガラス物品:ガラス物品は、任意のサイズであってよい。例えば、ガラス物品は、巻かれた長く薄いガラスリボン(ガラスロール)、大きなガラスシート、ガラスロールから切り取られた、もしくはガラスシートから切り取られたより小さなガラス部分、または単一の小さなガラス物品(例えば、FPSまたはディスプレイカバーガラス)等であってもよい。
【0016】
厚さ(t):ガラス物品の厚さは、測定すべき試料の厚さの算術平均である。
【0017】
圧縮応力(CS):ガラスの表面層におけるイオン交換後にガラス網目構造の間で生じる圧縮。そのような圧縮は、ガラスの変形による放出が起こり得ず、応力として保持することが可能である。CSは、ガラス物品の表面の最大値(表面CS)から、ガラス物品の内部に向かって低下する。市販で入手可能な試験機、例えばOrihara製のFSM6000表面応力計は、導波機構によりCSを測定することができるだろう。
【0018】
層深さ(DoL):CSがガラス表面に存在する際のイオン交換層の厚さ。市販で入手可能な試験機は、導波機構によりDoLを測定することができるだろう。深さは、表面応力計により、特にOrihara製のFSM6000表面応力計により測定されることが好ましい。
【0019】
中央張力(CT):CSを単一のガラスシートの片側または両側に生じさせる場合、ニュートンの法則の第三の原理により応力のバランスを取るために、引張応力をガラスの中央領域に生じさせる必要があり、これは、中央張力と呼ばれる。CTは、測定されるCSおよびDoLから計算可能である。
【0020】
弾性率(E):弾性率は、特定の力が材料にかかっている場合、材料の膨張率を反映している。これは、薄板ガラスの弾性の尺度である。弾性率が大きいほど、形状が変形しにくくなるだろう。よって、ガラスは、形状の変化に耐えるために、かつ化学強化後の膨張率を低く保つために、適度に高い弾性率を有するべきである。しかしながら、弾性率は、特定の弾性度合いが維持されるように、並外れて高くなるべきでもない。弾性率は、当技術分野において公知の標準的な方法により測定することができる。弾性率は、DIN13316:1980-09に準拠して測定されることが好ましい。
【0021】
平均粗さ(Ra):原子間力顕微鏡法(例えば「Bruker Dimension Icon」)により測定可能な表面テクスチャの測定。これは、その理想的な形態からの実際の表面の垂直偏差により定量化される。一般的に、振幅パラメーターは、中心線からの粗さプロファイルの垂直偏差に対する表面を特性化する。Raは、これらの垂直偏差の絶対値の算術平均である。
【0022】
ソラリゼーション安定性:UV暴露の前後で測定された透過率Tr(%)の差から計算される。100mmの試料-ランプの距離で500時間にわたり、Philips HOK2000Wランプを使用してガラス試料にUV放射する。所定の波長(例えば、350nm、400nm)での透過率を放射の前後で測定し、それぞれの差を計算する。同じ試料厚さでは、透過率の差が小さいほど、ソラリゼーション安定性が高い。
【0023】
UV遮断性:この特性を求めるために、透過率を300nmの波長で測定する。異なる厚さ、例えば70~500μmの範囲にある厚さを有する試料を試験し、UV遮断効果を検証した。
【0024】
耐酸性(S):耐酸性について、DIN12116に準拠して、沸騰した塩酸溶液による攻撃に対するガラス試料の耐性を試験することで測定する。
【0025】
ヘイズ:ヘイズは、材料の散乱特性を記載するために使用される光学パラメーターである。ヘイズは、試料を透過した光の合計に対する拡散/散乱した光の比を計算することにより測定される。ヘイズ=拡散透過率/光透過率の合計。ガラス表面における欠陥が多いほど、より多くの光が散乱し、ヘイズの値がより高くなることは、明らかである。試験を、ISO13468-1規格に準拠し、市販のヘイズメーター、例えばNippon Denshoku製のNDH7000を使用して実施する。測定を、室温で、50mm×50mmのサイズを有する試料を使用することにより実施する。
【0026】
本発明の説明
本課題は、本発明の独立請求項により解決される。特に、本課題は、化学強化前に最大500μmの厚さtを有し、以下の成分:
【表1】
を酸化物ベースの重量%で含む、化学的に強化可能または強化されたガラスであって、
ここで、化学強化後に、ガラスが、BACT=(CSDoL)/(tE)として計算される、0.00050超のBACT(曲げ性および化学強化性)、および/またはNS=CS/Eとして計算される、0.0085超のNS(正規化された剛性)を有し、
ここで、CSが、強化されたガラス物品の片側で測定された圧縮応力(MPa)であり、DoL(μm)が、ガラス物品の片側におけるすべてのイオン交換層の合計深さであり、tが、ガラス物品の厚さ(μm)であり、Eが、弾性率(MPa)である、
ガラスにより解決される。
【0027】
驚くべきことに、発明者等は以下のことを発見した:ガラスまたはガラス物品(以下の詳細において、「ガラス」という用語は「ガラス物品」も指す)が、特許請求されるBACTおよび/またはNSを有する場合、これは、曲げ性および化学強化性の合わさった特性が改善されている。CS、DoLおよび弾性率は、改善されたガラス組成により直接影響を受ける。
【0028】
BACTは、ガラスの品質の基準である。この基準を用いて、所定の組成のガラス、内部ガラス構造および薄い厚みが、所望の用途(特に柔軟性のための用途)のための強化後に、最適な応力プロファイルに達することが可能かどうか決めることができる。驚くべきことに、発明者等は、記載のBACT値を有するガラスが、a)フレキシブルな物品(例えばディスプレイ)をガラス材料で実に柔軟かつ折り畳み可能にする高い曲げ性(好ましくは延伸ガラスの適度に低い弾性率および薄い厚みにより寄与)、およびb)フレキシブルなガラス物品を、引っ掻き、摩耗、落下等の外部の衝撃に耐えるのに十分丈夫にする高い機械的強度(高いCS値により可能)、という工業上の要件を満たすことを発見した。そのような合わさった性能を達成することにより、ガラス材料を柔軟性のための用途に確実に使用することができる。BACTを計算するために、積(CSにDOLを乗じたもの)を積(試料厚さに弾性率を乗じたもの)で除す。
【0029】
NSは、ガラスの品質のさらなる基準である。NSは、厚さの要因なしで、材料自体と、この材料の強化処理との相互作用性とを考慮するだけで、ガラスの性能を明確に説明することができる。これは、厚さの要因なしで、どの程度、材料自体から曲げ性に寄与しているのか(弾性率により表される)、およびこの材料において、どの程度高いCS値が生じ得るのかを示す(どの程度材料を強化することができるのか、したがって、どの程度これが丈夫になるのかを示す)。柔軟性のための用途(例えばフレキシブルディスプレイの用途)の場合、高いNSを有するガラスが、高い品質/性能のガラスを意味し、これらの用途により適していることは明らかである。驚くべきことに、発明者等は、記載のNS値を有するガラスが、先に言及した工業要件を満たすことを発見した。NSを計算するためには、CSを弾性率で除す。
【0030】
ガラスの曲げ性および化学強化性の特性をさらに改善するためには、BACTを、0.00070以上、好ましくは0.00080超、より好ましくは0.00090超、好ましくは0.0010超、より好ましくは0.0015超で選択すること、および/または、好ましくは、NSを、0.009超、好ましくは0.010超、好ましくは超0.012、好ましくは0.014超、より好ましくは0.016超、同様に好ましくは0.017超、好ましくは0.018超、より好ましくは0.019超、さらに好ましくは0.020超で選択することが有利であり得る。BACTの有利な上限は、0.01未満、好ましくは0.008未満、好ましくは0.006未満、好ましくは0.005未満であり得る。NSの有利な上限は、0.040未満、好ましくは0.035未満であり得る。
【0031】
弾性率は、60~120GPaであり得ることが有利である。本ガラス組成物の設計により、弾性率は、好ましくは100GPa未満、好ましくは90GPa未満、好ましくは78GPa未満、好ましくは76GPa未満、より好ましくは73GPa未満、また好ましくは71GPa未満に低下する。幾つかの変形例では、弾性率が70GPa未満でさえあってもよい。幾つかの変形例では、弾性率が67GPa未満であり得る。Alおよび/またはBを導入してSiOの網目構造内にAlOおよびBO四面体を形成することにより、ガラス網目構造の強度を緩めることができ、よって、構造が緩むことで弾性率を低下させることができる。この発明では、柔軟かつ折り畳み可能な製品用のガラスを提供するために、適度な比較的低い弾性率が想定される。しかしながら、幾つかの有利な変形例は、弾性率が比較的高くてもよい。ここで、弾性率は、82GPa未満、75GPa未満であり得る。
【0032】
本発明によるガラスの望ましい強化性を達成するためには、Al+NaO+MgO+ZrOの合計含量が、少なくとも16重量%、好ましくは少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも25重量%、好ましくは少なくとも30重量%、特に好ましくは少なくとも31重量%である。この合計の好ましい上限は、45重量%、好ましくは40重量%、または35重量%でさえあってもよい。幾つかの変形例について、Al+NaO+MgO+ZrOの合計含量が30~45重量%の範囲にあると有利であり得る。その他の変形例について、Al+NaO+MgO+ZrOの合計含量が16~45重量%の範囲、好ましくは16~35重量%の範囲にあると有利であり得る。各成分が有利な範囲で選択される場合、以下で詳細に説明される高いCSおよび低いDoLを、強化手順の間に達成することができる。驚くべきことに、本発明によるガラス組成により、700MPa以上、好ましくは800MPa超、より好ましくは900MPa超、また好ましくは1000MPa超、さらに好ましくは1050MPa超の有利な高いCS値へと化学的に強化して、機械的強度を維持することができる。さらに、DoLは、もはやそれほど高くないはずである。この場合、30μm未満、好ましくは20μm未満、より好ましくは15μm未満のDoLが望ましいであろう。
【0033】
ガラスのソラリゼーション耐性(ソラリゼーション安定性とも呼ばれる)は、CeOおよびSnO(CeO+SnO)の組み合わせを使用することにより改善される。合計の下限は、0.01重量%、好ましくは0.05重量%、好ましくは0.1重量%、より好ましくは0.2重量%であり得る。合計含量の上限は、1.5重量%、好ましくは1.25重量%であり得る。Ceは、Ce3+およびCe4+のように、ガラスにおいて価数が異なる。ガラスがUVに暴露されると、Ce3+は励起してCe4+になることができ、これは、UV光の範囲内のスペクトルの変化にのみ影響を及ぼすが、可視光の範囲には影響を及ぼさない、または少ししか影響を及ぼさない。このCe3+/Ce4+の変化の機能は、ソラリゼーション安定性を劇的に増加させ、ガラスの色ずれが生じないことを確実にする。さらに、SnOをCeOと一緒に使用すると、ソラリゼーション安定性をさらにより改善することができる。CeOを含まないガラス変形例もあり得る。CeOがガラス組成物中に存在する場合、これは、少なくとも0.01重量%、好ましくは少なくとも0.1重量%、より好ましくは少なくとも0.2重量%、かつ/または好ましくは最大0.5重量%、より好ましくは最大0.4重量%、さらに好ましくは最大0.3重量%である。代替的な変形例において、ソラリゼーション安定性を向上させるCeOを単独で使用することが有利であり得る。
【0034】
本発明の有利な実施形態において、ガラスは、透過率の差(350nmの波長)が、UV暴露の前後で測定したところ、45%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは35%未満、さらに好ましくは30%未満、好ましくは20%未満、さらに好ましくは10%未満である。あるいは、またはさらに、ガラスは、透過率の差(400nmの波長)が、UV暴露の前後で測定したところ、10%未満、好ましくは7%未満、より好ましくは5%未満、さらに好ましくは3%未満、好ましくは2%未満、さらに好ましくは1%未満である。したがって、ガラスは、改善されたソラリゼーション安定性を有する。いずれの場合にも、上記の結果は、500μm以下、好ましくは200μm未満、また好ましくは150μm未満、さらに好ましくは100μm未満、さらに好ましくは90μm未満、さらに好ましくは80μm未満、さらに好ましくは70μm未満、さらに好ましくは50μm未満、さらに好ましくは30μm未満、さらに好ましくは20μm未満、さらに好ましくは10μm未満の厚さを有するガラスにより達成することができる。
【0035】
改善されたUV遮断性を達成するためには、本発明によるガラスが、TiOを含むことが有利である。TiOをガラス中で使用すると、UV光が遮断され、例えば有機フィルムまたはその下の成分が保護され、それにより製品の寿命が延びる。TiOが存在する場合、その含量は0.1重量%であり得る。上限は、2重量%、好ましくは1重量%であり得る。TiOの含量が高過ぎる場合、失透のリスクが増加する。UV遮断性にあまり焦点を当てていないガラスの変形例は、TiOを含んでいなくてもよい。
【0036】
本発明の有利な実施形態において、300nmの波長でのUV遮断性(例えば透過率(%))は、ガラス厚さが、500μm以下、好ましくは200μm未満、また好ましくは150μm未満、さらに好ましくは100μm未満、さらに好ましくは90μm未満、さらに好ましくは80μm未満、さらに好ましくは70μm未満、さらに好ましくは50μm未満、さらに好ましくは30μm未満、さらに好ましくは20μm未満、さらに好ましくは10μm未満である場合に、10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは2%未満、最も好ましくは1%未満である。
【0037】
驚くべきことに、発明者等は、ガラスについて、ZrO+Al+TiOの合計が有利には、少なくとも15重量%、好ましくは少なくとも16重量%、より好ましくは16重量%超である場合、ガラスの耐酸性を改善することができると発見した。しかしながら、ZrO+Al+TiOの合計含量は、高過ぎてもいけない。上限は、最大30重量%、好ましくは最大27重量%、好ましくは最大24重量%であり得ることが好ましい。
【0038】
さらに、耐酸性および強化性を改善または得るためには、本発明のガラスが、KOより多くのNaOを含むことが有利である。したがって、NaO/(NaO+KO)の比(重量%)は、0.4超、より好ましくは0.5超、より好ましくは0.6超、また好ましくは0.7超であることが好ましい。NaO/(NaO+KO)の有利な上限は、1.0である。
【0039】
本発明の有利な実施形態において、耐酸性(mg/dmで記載)は、150未満、好ましくは100未満、好ましくは80未満、好ましくは60未満、好ましくは50未満、好ましくは40未満、さらに好ましくは30未満、より好ましくは20未満、より好ましくは10未満である。幾つかの有利な変形例は、耐酸性(mg/dm)が、5未満、好ましくは1.5未満、より好ましくは1未満、最も好ましくは0.7未満であり得る。
【0040】
本発明によるガラスは、以下のさらなる成分を含み得ることが有利である(酸化物を基準とした重量%):
【表2】
【0041】
以下で、ガラス組成物のさらなる詳細について記載する。
【0042】
本発明のガラスは薄板ガラスである。本発明のガラスは、化学強化前に、厚さが、500μm以下、より好ましくは400μm以下、より好ましくは350μm以下、より好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下、より好ましくは75μm以下、より好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下、より好ましくは15μm以下であることが好ましい。しかしながら、ガラスが容易に破壊される可能性があるため、ガラス厚さを極度に小さくしてはならない。さらに、極度に小さな厚さのガラスは、加工性が制限されることがあり、取り扱いが難しい場合がある。化学強化前のガラス厚さは、1μmより大きく、より好ましくは2μmより大きいことが好ましい。
【0043】
本発明のガラスは、化学的に強化可能であるか、または化学的に強化されている。圧縮応力(CS)および層深さ(DoL)は、ガラスの化学強化性を記載するために使用されることが一般的なパラメーターである。最も高いCSおよびDoLを達成する可能性が最も高いガラスが、様々な適用分野において、多少なりとも期待されている。しかしながら、特定の厚さを有する試料の場合、CSおよびDoLは、適度な水準で制御される必要がある。そうでなければ、ガラスは、ガラスにおけるCT(中央引張応力)が高過ぎることを原因として破壊される可能性があるかまたは破壊され、あるいは、ガラスは、CSまたはDoLが低過ぎると、機械的な性能の利点がなくなる。
【0044】
化学強化により達成されるCSおよび/またはDoLの特定の値は、材料自体や、塩浴組成、強化工程、強化温度および時間を含む化学強化プロセス条件を反映したものまたは記録したものである。使用可能なCSおよびDoLが、様々な可能性の設定温度および時間により達成可能である場合、より低い温度およびより短い時間が好ましく、このことは、ガラスシートの形状のバリエーションのみならず、製造原価にも利益があり得る。驚くべきことに、本発明のガラス材料の幾つかの好ましい変形例との関連において、達成されるべきガラス組成、厚さおよびDoLに応じて、強化時間を、120分以下、好ましくは90分以下になるように選択してもよいことが分かった。当然のことながら、240分まで、500分まで、さらには1000分までのより長い強化時間のその他の有利な実施形態があってもよい。
【0045】
薄板ガラスの十分な機械的強度を達成するためには、上記のガラスの一方の側におけるイオン交換層の深さの合計を示す層深さ(DoL)が、好ましくは1μm超、より好ましくは3μm超、より好ましくは5μm超である。当然のことながら、本発明による組成を有するガラス物品のDoLは、15μm超であってもよい。特にガラス物品の厚さがより高い場合、DoLは、好ましくは50μm超、より好ましくは70μm超、より好ましくは75μm超、より好ましくは100μm超であり得る。しかしながら、DoLは、ガラス厚さ(t、μm)に比べて高過ぎてもいけない。DoLは、0.5t未満、より好ましくは0.3t未満、より好ましくは0.2t未満、より好ましくは0.1t未満であることが好ましく、ここで、tはガラスの厚さである。
【0046】
表面圧縮応力(CS)は、好ましくは0MPaより高く、より好ましくは50MPaより高く、より好ましくは100MPaより高く、より好ましくは200MPaより高く、より好ましくは300MPaより高く、より好ましくは400MPaより高く、より好ましくは500MPaより高く、より好ましくは600MPaより高くてもよい。本発明の好ましい実施形態によると、CSは、700MPaであるか、より好ましくはこれより高く、より好ましくは800MPaより高く、より好ましくは900MPaより高く、さらに好ましくは1000MPaより高い。しかしながら、CSは高過ぎてもいけない。なぜなら、そうでないとガラスが自己破壊し易くなり得るからである。CSは、2000MPa以下、好ましくは1600MPa以下、有利には1500MPa以下、より好ましくは1400MPa以下であることが好ましい。幾つかの有利な変形例は、CSが、1300MPa以下、または1200MPa以下でさえある。
【0047】
本発明の化学的に強化されたガラスは、本発明による化学的に強化可能なガラスを化学的に強化することにより得られる。補強とも呼ばれる強化プロセスは、ガラスを一価イオン(例えばカリウムイオンおよび/またはその他のアルカリ金属イオン)を有する溶融塩浴に浸漬することにより、またはガラスを一価イオンを含有するペーストで覆い、ガラスを高温で一定時間にわたり加熱することにより行うことが可能である。塩浴またはペースト中のイオン半径がより大きなアルカリ金属イオンを、ガラス中の半径がより小さなアルカリ金属イオンと交換すると、イオン交換により表面圧縮応力が生じる。イオン交換後に、薄板ガラスの強度および柔軟性が著しく改善される。さらに、化学強化により生じるCSにより、強化されたガラス物品の曲げ特性が改善され、ガラスの耐引っかき性を向上させることができた。
【0048】
化学強化に最も使用される塩は、Na+含有またはK+含有溶融塩またはこれらの混合物である。一般的に使用される塩は、NaNO、KNO、NaCl、KCl、KSO、NaSO、NaCO、およびKCOである。イオン交換の速度をより良好に制御するために、添加剤、例えば、NaOH、KOH、およびその他のナトリウム塩またはカリウム塩を使用することもできた。本発明の文脈において、驚くべきことに、化学的な強化のためにKNOおよび/またはCsNOを単独または組み合わせで使用することにより、非常に良好な強化の結果を達成することができると分かった。CsNOを使用して強化することは、Cs+のイオン半径がK+のイオン半径より大きいため、有利であり得る。ガラスにおいてより高いCSを得ることができる。
【0049】
化学強化は、単一の工程に限定されてはいない。化学強化は、より良好な強化性能を達成するために、様々な種類のアルカリ金属イオンおよび/または様々な濃度を有する塩浴中での複数の工程を含んでいてもよい。したがって、本発明による化学的に強化されたガラス物品を、1回の工程において、または幾つかの工程、例えば2回の工程の過程において強化してもよい。本発明によると、1回の工程での強化が好ましいと思われる。
【0050】
強化条件に加えて、冷却履歴(後に論じる)およびアニーリング履歴も、ガラス網目構造の密度に影響を与えるため、ガラスの強化性に影響を与える。本発明の好ましい実施形態において、化学的に強化可能または強化されたガラスは、ファインアニーリングされている。本発明の文脈において、ガラス製造の間にファインアニーリングすることは、一般的にガラス網目構造をさらに稠密化することができるため、ガラスについて、より良好な強化性能(特により高いCS)を達成するのにも役立つことがある。ファインアニーリングされたガラスを使用する場合、ファインアニーリングされていない試料に比べて、CS値を、30MPa超、好ましくは50MPa超、好ましくは100MPa超まで改善することができる。ファインアニーリングとは、アニーリング速度/率(アニール点から室温への温度低下)が、50℃/分未満、好ましくは40℃/分未満、より好ましくは30℃/分未満、さらに好ましくは10℃/分未満、また好ましくは5℃/分未満であることを意味する。
【0051】
引抜加工により容易に製造されるガラスの場合、加工温度T(ガラスの粘度が10dPasである温度)と最大結晶化温度TOEGとの間の温度差ΔTが、20Kより高く、好ましくは30Kより高いことが好ましい。好ましい実施形態において、温度差ΔTは、50Kより高く、より好ましくは100Kより高く、より好ましくは150Kより高く、より好ましくは200Kより高く、より好ましくは250Kより高い。TOEGを勾配炉により容易に測定することができる。勾配炉とは、管状炉の一方の端部からもう一方の端部まで、距離との線形関係において、温度を低温(例えば900℃)から高温(例えば1000℃)に設定することができることを意味する。試験を行う際に、ガラス粒子(特に、およそ3mmのサイズの小さなカレット)を、炉に沿って入れて低温から高温に送り、その後、炉の温度を16時間にわたり維持する。その後、特定の温度範囲で、ガラスを結晶化させる(例えば981℃~1098℃の範囲)。ここでこの例において、1098℃は、OEG温度(最大結晶化/失透温度)である。ダウンドロー法の場合、OEGはTより低いと予測され、TとTOEGとの差が大きいほど、ガラスのダウンドロー性が高い。
【0052】
驚くべきことに、発明者等は、MgOを減らすことおよび/またはB(網目構造形成成分)をガラス組成物に添加することにより失透の傾向を最小限に抑えることが、TとTOEGとの間の差を広げるのに役立ち得ることを発見した。
【0053】
本発明によるガラスは、最大結晶化温度TOEGが、1400℃未満、好ましくは1300℃未満、より好ましくは1200℃未満であることが好ましい。有利な下限は、700℃、好ましくは800℃であり得る。
【0054】
本発明によるガラスは、加工温度Tが、900℃~1500℃、より好ましくは1000℃~1400℃、より好ましくは、特別な変形例の場合、1000℃~1300℃、または1000℃~1250℃であることが好ましい。
【0055】
本発明によるガラスは、T7.6が、700℃~1000℃、より好ましくは800℃~1000℃の範囲にあることが好ましい。
【0056】
本発明によるガラスは、T13が、500℃~750℃の範囲にあることが好ましい。
【0057】
温度範囲(20℃;300℃)における線形熱膨張係数(CTE)は、特定の温度変化が生じる際のガラスの膨張挙動の特徴を表す尺度である。よって、20℃~300℃の温度範囲において、本発明のガラスは、CTEが、12ppm/K未満、より好ましくは11.0ppm/K未満、より好ましくは10.0ppm/K未満であることが好ましいが、CTEは、低過ぎてもいけない。20℃~300℃の温度範囲において、本発明のガラスのCTEは、5ppm/K超、より好ましくは6ppm/K超、より好ましくは7ppm/K超であることが好ましい。
【0058】
本発明のガラスは、5nm未満、より好ましくは2nm未満、より好ましくは1nm未満、より好ましくは0.5nm未満の粗さRaの少なくとも1つの表面を有することが好ましい。
【0059】
本発明の有利な実施形態は、ガラス組成が改善されているため、耐薬品性が改善されている。耐薬品性を求めるために、研磨したガラス試料を、酸または臨界気候条件に暴露し、意図的に表面品質を低下させた。酸処理後のガラス試料について測定したヘイズ値(試料を、沸騰した6mol/lのHCl中に6時間にわたり置き、表面を洗浄し、試料を乾燥させ、その後ヘイズを測定)は、好ましくは90%未満、好ましくは80%未満、好ましくは70%未満、好ましくは60%未満、より好ましくは50%未満、より好ましくは45%未満である。気候処理(湿度(湿度範囲:50%以上90%以下、70~90%)および温度(25~85℃)を一定時間(30~365日間)にわたりを制御することにより試料を気候試験室内に置くこと)後にガラス試料について測定したヘイズ値は、10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは3%未満、より好ましくは1%未満であり得る。
【0060】
本発明において、上記の目的を実現するために、以下のガラス組成を選択する。
【0061】
ガラス中で[SiO]四面体を形成するSiOは、本発明のガラス中の最も重要な網目構造形成成分である。ガラス中にSiOがないと、本発明のガラスの高い機械的強度および化学的安定性を達成することができない。よって、本発明によるガラスは、SiOを少なくとも52重量%の量で含む。ガラスは、SiOを、少なくとも54重量%の量で含むことがより好ましい。しかしながら、ガラス中のSiOの含量は、極度に高過ぎてもいけない。なぜなら、そうでなければ、溶融性が損なわれる可能性があるからである。ガラス中のSiOの量は、最大66重量%、好ましくは最大65重量%、より好ましくは最大63重量%である。本発明の特に好ましい実施形態において、ガラス中のSiOの含量は、52~66重量%、好ましくは54~63重量%である。
【0062】
[AlO]四面体は、ガラス網目構造中の空間が拡大しているため、化学強化の間にイオン交換プロセスを劇的に促進することもできる。さらに、Alを使用することは、耐酸性に対しても多いに利益をもたらし得る。よって、Alは、本発明のガラス中に、少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも16重量%の量で含有されていることが好ましい。しかしながら、Alの量は、多過ぎてもいけない。なぜなら、そうでなければ、粘度が高くなり過ぎ、溶融性が減少する可能性があるからである。よって、本発明のガラス中のAlの含量は、好ましくは最大25重量%、好ましくは最大23重量%、より好ましくは最大22重量%である。本発明の特に好ましい実施形態において、ガラス中のAlの含量は、15~25重量%、好ましくは15~22重量%である。
【0063】
幾つかの好ましい実施形態は、Bを含む。この成分を使用すると、[BO]四面体の形態でガラス中のブリッジオキシド(bridge-oxide)を増加させることにより、網目構造を向上させることができる。これは、ガラスの耐酸性の改善にも役立つ。さらに、Bを添加することにより、弾性率を著しく減少させることができる。BをAlと一緒に導入して[AlO]および[BO]四面体をSiOの網目構造中に形成することにより、ガラス網目構造の強度を緩めることができ、それに応じて構造が緩むことを理由に、弾性率を減少させることができる。しかしながら、イオン交換性能が低下することがあるため、化学的に強化可能なガラス中でBを多量に使用すべきではない。本発明のガラスは、Bを、0~8重量%の量で含む。本発明の幾つかの実施形態(Bの少ない変形例)において、ガラスは、少なくとも0.1重量%、より好ましくは少なくとも0.5重量%のB、かつ/または好ましくは3重量%未満、好ましくは最大2重量%のBを含むことが好ましい。本発明の代替的な有利な実施形態は、Bを、3~8重量%の含量範囲で含む(Bがより高い変形例)。その他の有利な変形例は、Bを含まない。
【0064】
本発明の幾つかの有利な実施形態において、Pを本発明のケイ酸塩ガラス中で使用すると、結晶化防止の特徴を犠牲とすることなく融点を著しく低下させることが可能な[PO]四面体を形成することにより、溶融粘度の低下を補助することができる。Pの量を制限しても形状の変動はそれほど増えないが、ガラスの溶融および形成の性能と強化速度とを著しく改善することができる。しかしながら、多量のPが使用されると、ガラスの化学的安定性が著しく減少することがある。よって、本発明のガラスは、Pを、0~5重量%、好ましくは1~4.5重量%の量で含む。本発明の幾つかの実施形態において、ガラスは、少なくとも0.5重量%、より好ましくは少なくとも1重量%を含むことが好ましい。Pの有利な上限は、5重量%、好ましくは4.5重量%、より好ましくは4重量%であり得る。あるいは、Pを含まない本発明の有利な実施形態がある。
【0065】
TiOは[TiO]も形成することができ、したがって、ガラスの網目構造の構築を補助することができ、また、ガラスの耐酸性を改善するのに有益であり得る。しかしながら、ガラス中のTiOの量は、高過ぎてもいけない。高濃度で存在するTiOは、核形成剤として機能することができ、したがって、製造の間に結晶化をもたらすことができる。TiOをUV遮断剤として、特に、300nm以下のスペクトルのUV吸収のために使用することもできる。本発明のガラス中のTiOの含量は、0~2重量%、好ましくは0~1重量%であることが好ましい。TiOが存在する場合、その含量は0.1重量%であり得る。上限は、2重量%、好ましくは1重量%であり得る。ガラスの変形例は、例えば、UV遮断特性を有する別の成分がガラス組成物中に存在する場合、TiOを含んでいなくてもよい。
【0066】
ZrOは、ガラスのCSおよび耐酸性を改善する機能を有する。本発明のガラス中のZrOの含量は、0~2.5重量%であることが好ましい。本発明の幾つかの実施形態において、ガラスは、少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも0.2重量%、好ましくは0.3重量%、好ましくは0.4重量%、より好ましくは少なくとも0.5重量%を含むことが好ましい。上限は、2.5重量%、好ましくは2重量%、好ましくは1.5重量%であり得る。幾つかの有利な変形例は、ZrOを含まない。
【0067】
アルカリ酸化物RO(NaO+KO+CsO(+LiO))を網目構造修飾剤として使用して、十分な酸素アニオンを供給し、ガラス網目構造を形成し、それにより、ガラスのCTEの増加と、その後の弾性率の低下を補助する。LiOを含まないことが好ましいと思われる本発明の有利な実施形態において、本発明のガラス中のROの含量は、少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも12重量%であり得る。しかしながら、本発明のガラス中のROの含量は、高過ぎてもいけない。なぜなら、そうでなければ、化学的安定性が損なわれる可能性があるからである。本発明のガラスは、ROを、最大30重量%、好ましくは最大26重量%、好ましくは最大23重量%、好ましくは最大21重量%の量で含むことが好ましい。これらの実施形態は、10~30重量%、好ましくは10~26重量%、より好ましくは10~23重量%の範囲にあるROを有することが有利である。
【0068】
本発明のその他の有利な実施形態は、LiOを含んでいてもよい。Li+のサイズは、K+のサイズよりもはるかに小さいため、ガラス中のLi+は、CS値の増加を補助することができる。ここで、RO(NaO+KO+CsO+LiO)の含量は、好ましくは少なくとも4重量%、より好ましくは少なくとも5重量%である。これらの変形例におけるROの上限は、30重量%未満、好ましくは29重量%未満であり得る。したがって、有利なRO合計範囲は、4~30重量%、好ましくは4~29重量%、また好ましくは4~25重量%、さらに好ましくは4~20重量%であり得る。
【0069】
LiOは、ガラス組成中に0~6重量%、好ましくは0.5~5重量%の範囲で含まれていてもよい。これが存在する場合、下限は、0.1重量%、好ましくは0.5重量%、より好ましくは1重量%であり得る。有利な上限は、5重量%または4重量%であり得る。LiOは、弾性率の改善およびガラスのCTEの低下を補助することができる。LiOは、イオン交換にも大きな影響を与える。
【0070】
NaOを網目構造修飾剤として使用してもよい。しかしながら、NaOの含量は、高過ぎてもいけない。なぜなら、そうでなければ、化学的安定性および化学強化性が損なわれる可能性があるからである。本発明のガラス中のNaOの含量は、0~20重量%、好ましくは0~17重量%であることが好ましい。さらなる有利な下限は、1重量%、好ましくは2重量%、好ましくは4重量%、好ましくは7重量%、好ましくは10重量%、好ましくは11重量%であり得る。好ましい上限は、20重量%、好ましくは17重量%、また好ましくは15重量%であり得る。幾つかの有利な実施形態において、NaOの含量は10~20重量%である。その他の有利な実施形態(好ましくはROの合計がより少ない)において、NaOの含量は0~15重量%である。この成分の有利な上限は、13重量%、好ましくは10重量%、好ましくは6重量%であり得る。有利な下限は、0.5重量%、好ましくは1重量%であり得る。NaOを含まない変形例も可能である。
【0071】
Oを網目構造修飾剤として使用してもよい。しかしながら、KOの含量は、高過ぎてもいけない。なぜなら、そうでなければ、化学的安定性および化学強化性が損なわれる可能性があるからである。本発明のガラス中のKOの含量は、0~5重量%であることが好ましい。好ましい上限は、4重量%、好ましくは3重量%、より好ましくは2重量%であり得る。KOの下限は、0.1重量%または0.3重量%であり得る。KOを含まない変形例も可能である。
【0072】
OおよびNaOの双方を一緒に使用すると、「アルカリ混合物」効果を与えることができ、これにより、耐酸性の向上が補助される。耐酸性は、ガラス中の(酸からの)H+とアルカリ金属イオンとの間のイオン交換に応じる。K+およびNa+の双方を一緒に使用すると、Na+またはK+のイオン交換速度が互いに抑制され、ガラス重量の損失が少なくなる。したがって、ガラスの耐酸性が改善される。
【0073】
また、本発明のガラスは、ZnOと同様に、アルカリ土類金属酸化物を含んでいてもよく、アルカリ土類金属酸化物とZnOとは、本明細書で「RO」と総称される。アルカリ土類金属およびZnは、網目構造修飾剤として作用することができる。本発明のガラスは、ROを、0~16重量%の量で含むことが好ましい。本発明の幾つかの実施形態において、ガラスは、少なくとも0.5重量%、より好ましくは少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも2重量%のROを含むことが好ましい。ROの有利な上限は、15重量%未満、好ましくは14重量%未満であり得る。
【0074】
好ましいアルカリ土類金属酸化物は、MgO、CaO、SrOおよびBaOから成る群より選択される。アルカリ土類金属は、MgOおよびCaOから成る群より選択されることがより好ましい。本発明の有利な実施形態において、アルカリ土類金属は、好ましくはMgOであることがより好ましい。
【0075】
本発明のガラスは、MgOを、0~6重量%、好ましくは0~4重量%の量で含むことが好ましい。本発明の幾つかの実施形態において、ガラスは、少なくとも0.5重量%、より好ましくは少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも1.5重量%のMgOを含むことが好ましい。MgOの有利な上限は、6重量%、好ましくは4重量%、さらに好ましくは3重量%であり得る。MgOは、高いCSを達成するのに有益であるが、失透に関する限りは有害である。MgOを含まない変形例も可能である。
【0076】
本発明のガラスは、ZnOを、0~4重量%、好ましくは0~2重量%の量で含むことが好ましい。本発明の幾つかの実施形態において、ガラスは、少なくとも0.1重量%、より好ましくは少なくとも0.5重量%のZnOを含むことが好ましい。ZnOの有利な上限は、4重量%、好ましくは3重量%、より好ましくは2重量%であり得る。ZnOを含まない変形例も可能である。
【0077】
本発明の幾つかの有利な変形例は、CaOを含んでいてもよい。これが存在する場合、CaO含量は、少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも0.5重量%である。CaOの有利な上限は、5重量%、好ましくは4重量%であり得る。しかしながら、幾つかの用途には、CaOを含まない実施形態が好ましいことがある。
【0078】
本発明の幾つかの有利な変形例は、SrOを含んでいてもよい。これが存在する場合、SrO含量は、少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも0.5重量%である。SrOの有利な上限は、1重量%であり得る。
【0079】
本発明のガラス中のSnOの含量は、0.01~1重量%であることが好ましい。この成分は、ソラリゼーション安定性の改善を補助し、精製剤として作用する。しかしながら、1重量%、好ましくは0.7重量%、より好ましくは0.5重量%の上限を上回るべきではない。なぜなら、精製剤により生じた残留気泡が溶融ガラス中に残っていることがあり、これは精製効果にとって有害であるからである。この成分の有利な下限は、0.05重量%、好ましくは0.1重量%、好ましくは0.2重量%であり得る。
【0080】
本発明のガラス中のCeOの含量は、0~0.5重量%であることが好ましい。この成分の利点および好ましい範囲については、すでに上記で説明した。
【0081】
ガラス中でSnOおよびCeOを使用してもよく、これにより、ガラスのソラリゼーション安定性の改善が補助される。Ce3+およびCe4+の光子反応は、可視光範囲に影響を与えない約280~320nmの波長で起こり、カラー化(colorization)なしでソラリゼーション安定性を補助する。(SnO+CeO)の合計のさらなる利点および好ましい範囲については、すでに上記で説明した。
【0082】
CeOと組み合わさったTiOが、ガラスのUV遮断特性にとって有利である。(TiO+CeO)の合計含量は、0~2.5重量%であることが好ましい。この合計の有利な下限は、0.1重量%、好ましくは0.2重量%、好ましくは0.5%であり得る。この合計の有利な上限は、2.5重量%、好ましくは2重量%、好ましくは1.6重量%、好ましくは1.1重量%であり得る。
【0083】
本発明のガラスは、Fを、0~1重量%の量で含むことが好ましい。本発明の幾つかの実施形態において、ガラスは、少なくとも0.1重量%を含むことが好ましい。Fは、ガラスの網目構造を破壊することができ、これにより、融解温度が低下し、弾性率が減少する。Fの有利な上限は、0.5重量%、好ましくは0.3重量%であり得る。しかしながら、Fの量は、多過ぎてもいけない。そうでなければ、ガラス網目構造が壊れ過ぎて、ガラスが容易に失透するからであり、これは、製造プロセス(好ましくは引抜加工、好ましくはダウンドロープロセス)にとって有害である。本発明の幾つかの変形例は、Fを含まないことが好ましい。
【0084】
好ましい実施形態において、ガラスは、少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、最も好ましくは少なくとも99%の程度の本明細書に述べた成分から成る。最も好ましい実施形態において、ガラスは、本明細書に述べた成分から実質的に成る。
【0085】
「X不含」および「成分Xを含まない」という用語はそれぞれ、本明細書で使用されているように、上記の成分Xを実質的に含まないガラスを指すこと、すなわち、そのような成分が、ガラス中で多くて不純物または汚染物として存在していてもよいが、個別成分としてはガラス組成物に添加されないことを指すことが好ましい。これは、成分Xが決定的な量で添加されないことを意味する。本発明による決定的ではない量とは、100ppm未満、好ましくは50ppm未満、より好ましくは10ppm未満の量である。本明細書に記載のガラスは、この説明に述べられていない成分を実質的に含有しないことが好ましい。
【0086】
本発明によると、
a) 組成物を用意する工程、
b) 組成物を溶融する工程、
c) ガラスを板ガラスプロセスで製造する工程
を含む、本発明のガラスを製造する方法もある。
【0087】
工程a)により用意されるガラス組成物は、本発明のガラスを得るのに適した組成物である。
【0088】
板ガラスプロセスは、当業者によく知られている。本発明によると、板ガラスプロセスは、プレス、ダウンドロー、リドロー、オーバーフローフュージョン、フローティンおよび圧延から成る群より選択されることが好ましい。直接熱間成形製造、例えば、ダウンドローまたはオーバーフローフュージョン法が、本発明の文脈における好ましい板ガラスプロセスである。リドロー法も有利であり得る。これらの述べられた方法は経済的であり、ガラスの表面品質が高く、厚さ5μm(またはそれ未満でさえある)~500μmの薄板ガラスを製造することができた。例えば、ダウンドロー/オーバーフローフュージョン法により、5nm未満、好ましくは2nm未満、さらに好ましくは1nm未満の粗さRaを有する初期状態またはファイヤーポリッシュされた表面を作製することができた。厚さも、5μm~500μmの範囲で正確に制御することができた。
【0089】
ガラス網目構造の密度に影響するため、引抜加工の間に、ガラスのアニール点付近の温度領域、特に1010dPas~1015dPasのガラス粘度に相応する温度領域での冷却速度を制御すべきである。1010dPas~1015dPasのガラス粘度に相応する温度領域での平均冷却速度は、5℃/秒より高く、より好ましくは10℃/秒より高く、より好ましくは30℃/秒より高く、より好ましくは50℃/秒より高く、より好ましくは100℃/秒より高いことが好ましい。1010dPas~1015dPasのガラス粘度に相応する温度領域での平均冷却速度は、200℃/秒より低いことが好ましい。本明細書において、「dPas」および「dPa・s」という用語は、相互交換的に使用される。
【0090】
本発明の文脈において、ガラス製造の間のファインアニーリングは、一般的にガラス網目構造をさらに稠密化することが可能であるため、ガラスがより良好な強化性能(特により高いCS)を達成するのに役立つ有利な手段である。ファインアニーリングを使用することで、ファインアニーリングされていない試料に比べて、(ガラスにおいて達成可能な)CS値を、30MPa超、好ましくは50MPa超、好ましくは100MPa超まで改善することができる。ファインアニーリングとは、アニーリング速度(アニール点から室温への温度低下)が、有利には50℃/分未満、好ましくは40℃/分未満、より好ましくは30℃/分未満、さらに好ましくは10℃/分未満、また好ましくは5℃/分未満であることを意味する。
【0091】
良好に選択される冷却速度およびファインアニーリング速度のどちらも、ガラスの網目構造に影響を与え、薄板ガラスの強化性を改善する。
【0092】
この製造方法は、任意でさらなる工程を含んでいてもよい。さらなる工程は、例えばガラスを化学的に強化する工程であってもよい。化学強化は、塩浴、特に溶融塩浴中で行われることが好ましい。本発明のガラスは、Na、KもしくはCsの硝酸塩、硫酸塩もしくは塩化物塩、またはこれら1種以上の混合物を強化剤として用いることで強化されることが好ましい。本発明のガラスは、NaNOもしくはKNOまたはKNOおよびNaNOの双方を強化剤として用いて強化されることがより好ましい。化学強化は、KNOを含む強化剤で強化する工程を含む少なくとも1回の強化工程を含むことがより好ましい。本発明のガラスは、KNOのみ、またはCsNOのみを強化剤として用いて強化されることがより好ましい。当然のことながら、KNOおよびCsNOの双方を強化剤として用いて強化することも可能である。化学強化がKNOのみ、またはCsNOのみを用いて行われる実施形態において、化学強化は、単一の工程で行われることが好ましい。同じことが、化学強化がNaNOのみを用いて行われる変形例についても当てはまる。
【0093】
強化温度が非常に低い場合、強化速度は低くなる。よって、化学強化は、320℃超、より好ましくは350℃超、より好ましくは380℃超の温度、より好ましくは少なくとも400℃の温度で行われることが好ましい。しかしながら、強化温度は、高過ぎてもいけない。なぜなら、温度が高過ぎると、CSが強く緩和し、CSが低くなることがあるからである。化学強化は、500℃未満、より好ましくは450℃未満の温度で行われることが好ましい。
【0094】
先に記載のように、化学強化は、単一の工程または複数の工程で、特に2回の工程で行われることが好ましい。強化時間が非常に短いと、得られるDoLが非常に低くなることがある。強化時間が非常に長いと、CSが非常に強く緩和されることがある。各強化工程の時間は、0.01~20時間、より好ましくは0.05~16時間、より好ましくは0.1~10時間、より好ましくは0.2~6時間、より好ましくは0.5~4時間であることが好ましい。化学強化の総時間、特に2回の個別強化工程の合計時間は、0.01~20時間、より好ましくは0.2~20時間であることが好ましい。
【0095】
有利な化学強化の結果(CS、DoL等)については、すでに上記で説明した。
【0096】
本発明によるガラスは、工業用および消費者用ディスプレイ、OLED、太陽光発電カバー、ならびに有機相補型金属酸化物半導体(CMOS)の分野、特に柔軟な特性が必要とされる用途(例えばフレキシブルディスプレイカバー)に使用することができる。本発明によるガラスは、あらゆる種類の懐中電灯および照明、特にモバイルデバイスに使用することができる。このガラスは、OLEDのカバーガラスおよび/または封止用ガラスとして、またディスプレイ上のデバイスカバーとして、非ディスプレイ用カバー、特に指紋センサ用のカバーガラスとして使用することもできる。このガラスは、保護カバーフィルム、カメラモジュール、折り畳み可能なディスプレイ、フレキシブルディスプレイとして、またその他の電子装置のために使用することができる。
【0097】
実施例
例示的ガラスを作製し、幾つかの特性を測定した。試験したガラス組成物は、以下の表1~3に見ることができる。
【0098】
例示的な組成
以下の表1~3は、本発明の代表的な例である例示的なガラス組成を重量%で示す。
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
【表5】
【0102】
先の表1~3に記載の組成は、ガラスにおいて測定された最終的な組成である。当業者であれば、どのように必要な原材料を溶融することでこれらのガラスを得るかを熟知している。
【0103】
ガラスの製造および化学強化
適切な原材料を使用してガラスをダウンドローにより製造して、表1~3に記載の最終的な組成を得た。1010dPas~1015dPasのガラス粘度に相応する温度領域での平均冷却速度は、50℃/秒であった。これらのガラスは、以下の表に示される特性を有していた。
【0104】
【表6】
【0105】
【表7】
【0106】
【表8】
【0107】
【表9】
【0108】
【表10】
【0109】
【表11】
【0110】
これらの結果から、示される組成を有する薄板ガラスは、曲げ性および化学強化性の合わさった特性が改善されていることが確認される(DoLの水準が低い一方で、CSはより高くなり、弾性率は低い)。さらに、ガラスは、耐放射線性(ソラリゼーション安定性、UV遮断性)および耐酸性が改善されている。