(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】高成形性を有する高強度冷間圧延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240207BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20240207BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/38
C21D9/46 G
C21D9/46 J
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022027650
(22)【出願日】2022-02-25
(62)【分割の表示】P 2019533472の分割
【原出願日】2017-12-19
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2016/057903
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-マルク・ピパール
(72)【発明者】
【氏名】マルク・オリビエ・テノ
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・タールギー
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-224359(JP,A)
【文献】特開2016-098427(JP,A)
【文献】特表2010-526935(JP,A)
【文献】特表2014-514459(JP,A)
【文献】特表2017-527690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/38
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延鋼板であって、
前記鋼板の上に
コーティングを有し、且つ引張強度が1150MPa以上であり、穴広げ率が30%以上であり、前記鋼が、重量百分率で、
0.19%≦炭素≦0.24%、
1.9%≦マンガン≦2.2%、
1.4%≦ケイ素≦1.6%、
0.01%≦アルミニウム≦0.06%、
0.2%≦クロム≦0.5%、
リン≦0.02%、
硫黄≦0.03%、
及び任意選択的に、以下の元素のうちの1つ又は複数
ニオブ≦0.06%、
チタン≦0.08%、
バナジウム≦0.1%、
カルシウム≦0.005
%
並びに残部は鉄及び不可避的不純物
から成る組成を有し、前記鋼板が、5%~15%の焼戻しマルテンサイト、10%~15%の残留オーステナイト、及び任意選択的に5%までのフェライトを、面積分率で含み、残部はベイナイトからなり、ベイナイト含有量は少なくとも70%であるミクロ組織を有
し、前記コーティングが、亜鉛又は亜鉛系合金である、冷間圧延鋼板。
【請求項2】
前記組成が2.0%~2.2%のマンガンを含む、請求項1に記載の冷間圧延鋼板。
【請求項3】
前記組成が、最大0.013%のリンを含む、請求項1又は2に記載の冷間圧延鋼板。
【請求項4】
前記ミクロ組織が、75%を超えるベイナイトを含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の冷間圧延鋼板。
【請求項5】
残留オーステナイトの炭素濃度が、0.9%と1.15%との間である、請求項1~4のいずれか一項に記載の冷間圧延鋼板。
【請求項6】
1150MPa以上の引張強度、30%以上の穴広げ率、及
び13%以上の全伸びを呈する、請求項1~5のいずれか一項に記載の冷間圧延高強度鋼板。
【請求項7】
1200MPaを超える引張強度、及び40%以上の穴広げ率を有する、請求項6に記載の冷間圧延鋼板。
【請求項8】
全伸びが、少なくとも14%である、請求項7に記載の冷間圧延鋼板。
【請求項9】
以下の連続工程を含む、
引張強度が1150MPa以上であり、穴広げ率が30%以上であり、ミクロ組織が請求項1、4及び5のいずれか一項に規定するものである、コーティングを有する冷間圧延鋼板の製造方法:
- 請求項1から3のいずれか一項に記載の
鋼組成
を有する鋼を提供し、半製品を得る工程、
- 前記半製品を1000℃と1280℃との間の温度まで再加熱する工程、
- 前記
再加熱した半製品を、完全にオーステナイト範囲において圧延し、熱間圧延鋼板を得る工程であって、ここで、熱間圧延仕上げ温度は、850℃以上である、工程、
- 前記
熱間圧延鋼板を、30℃/秒を超える冷却速度で600℃以下の巻取り温度まで冷却し、及び前記熱間圧延鋼板を巻取
り、熱間圧延巻取り鋼板を得る工程、
- 前記熱間圧延巻取り鋼板を冷却
し、冷却鋼板を得る工程、
- 任意選択的に、前記
冷却鋼板に、スケール除去処理を施
し、スケール除去冷却鋼板を得る工程、
- 前
記冷却鋼板
、又は該当する場合にはスケール除去冷却鋼板を400℃と750℃との間の温度で1時間~96時間焼鈍に供
し、焼鈍鋼板を得る工程
、
- 任意選択的に、前記焼鈍鋼板に、スケール除去処理を施し、スケール除去焼鈍鋼板を得る工程、
- 前記
焼鈍鋼板
、又は該当する場合にはスケール除去焼鈍鋼板を、35%と90%との間の圧下率で冷間圧延し、冷間圧延鋼板を得る工程、
- 次いで、前記冷間圧延鋼板を
連続的に焼鈍する工程であって、
- 1℃/秒と20℃/秒との間の速度で、Ac3とAc3+50℃との間の均熱温度まで、少なくとも100秒の間
前記冷間圧延鋼板を加熱し、前記温度及
び時間が、100%オーステナイトの百分率を得るように選択される、工程、
- 次いで、20℃/秒を超える速度で前記
加熱した冷間圧延鋼板をMs
-10℃とMs+10℃との間の温度まで冷却
し、冷間圧延鋼板を得る工程であって、ここで、Msは
マルテンサイト変態開始温度である工程、次いで、
- 前記冷間圧延鋼板を350℃と450℃との間に250秒と1000秒との時間保持
し、前記冷間圧延鋼板を過時効させる工程、次いで
- 200℃/秒以下の冷却速度で前記
過時効させた冷間圧延鋼板を室温まで冷却
し、次いで、
- 前記冷却された過時効冷間圧延鋼板を亜鉛又は亜鉛系合金でコーティングする工程。
【請求項10】
前記熱間圧延鋼板の巻取り温度が、350℃と600℃との間に設定される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記冷間圧延鋼板が、840℃と900℃との間で100秒と1000秒との間、
前記冷間圧延鋼板を加熱することにより連続的に焼鈍される、請求項9又は10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
車両の構造部品又は安全部品の製造
方法であって、請求項1~8のいずれか一項に記載の鋼板又は請求項9~11
のいずれか一項に記載の方法に従って製造された鋼板
を使用
し、前記構造部品又は安全部品を製造することを含む、方法。
【請求項13】
請求項
12に記載の方法
に従って製造された構造部品又は安全部品を
使用することを含む、車両
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は引張強度が1150MPa以上であり、穴広げ率が30%を超える高強度・高成形性の冷間圧延鋼板であって、車両用鋼板として好適な鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品は、2つの矛盾するニーズ、すなわち、成形の容易さ及び高い強度を満たすことが要求されているが、近年では地球環境問題の観点から、燃費向上という第3のニーズが自動車にも課せられている。このように、今日、自動車部品は複雑な自動車組立体への適合の容易さの基準に適合するために、高い成形性を有する材料で作られなければならず、同時に、燃料効率を改善するために、車両の重量を軽減しながら、車両の耐衝突性及び耐久性のための強度を改善しなければならない。
【0003】
そのため、材料の強度を高めることにより、自動車に使用される材料の量を減らすために、精力的な研究開発努力がなされている。逆に、鋼板の強度の増加は成形性を低下させるため、高強度と高成形性の両方を有する材料の開発が必要となる。
【0004】
高強度及び高成形性鋼板の分野における初期の研究及び開発は高強度及び高成形性鋼板を製造するためのいくつかの方法をもたらし、そのいくつかは、本発明の最終的な理解のために本明細書に列挙される:
米国特許第9074272号は、化学組成:0.1~0.28%のC、1.0~2.0%のSi、1.0~3.0%のMn、並びに鉄及び不可避的不純物からなる残部を有する鋼を記載している。ミクロ組織は、5%と20%との間の残留オーステナイト、40~65%のベイナイトフェライト、30~50%のポリゴナルフェライト、及び5%未満のマルテンサイトを含む。米国特許第9074272号は優れた伸びを有する冷間圧延鋼板に言及しているが、それに記載されている発明は複雑な自動車部品をロバストに保ちながら重量を低減させるための要件である900MPaの強度を達成することができない。
【0005】
高強度及び高成形性鋼板の製造に関連する公知の先行技術は、一方又は他方の欠陥を負い、したがって、高強度及び高成形性を有する冷間圧延鋼板及びその製造方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、以下を同時に有する冷間圧延鋼板を利用可能にすることによって、これらの問題を解決することである:
- 1150MPa以上、好ましくは1180MPa以上、又は1220MPa以上の極限引張強度
- 13%以上、好ましくは14%以上の全伸び
- 30%以上、好ましくは40%以上の穴広げ率。
【0007】
好ましい実施形態では、本発明による鋼板が850MPaよりも大きい、またはそれを超える降伏強度値を有することができる。
【0008】
好ましくは、このような鋼が成形、特に良好な溶接性及び被覆性を伴い、圧延にも良好な適合性を有することができる。
【0009】
本発明の別の目的はまた、製造パラメーターのシフトに対してロバストでありながら、従来の工業的用途にも適合する、これらの板の製造方法を利用可能にすることである。
【0010】
この目的は、請求項1に記載の鋼板を提供することによって達成される。鋼板はまた、請求項2~8の特徴を含むことができる。別の目的は、請求項9~12に記載の方法を提供することによって達成される。別の態様は、請求項13~15に記載の部品又は車両を提供することによって達成される。
【0011】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な説明から明らかになるのであろう。
【0012】
炭素は、0.19%と0.24%との間で鋼中に存在する。炭素は、マルテンサイト等の低温変態相を生成することにより鋼板の強度を高めるために必要な元素である。さらなる炭素もまた、オーステナイト安定化において極めて重要な役割を果たす。0.19%未満では、オーステナイトの安定化やマルテンサイトの5%以上の確保ができず、強度や延性が低下する。一方、炭素含有量が0.24%を超えると、溶接部及び熱影響部が著しく硬化し、溶接部の機械的特性が損なわれる。
【0013】
本発明の鋼のマンガン含有量は、1.9%と2.2%との間である。マンガンは強度を付与するとともに、オーステナイトを安定化させて残留オーステナイトを得る元素である。少なくとも約1.9重量%の量のマンガンが、鋼板の強度及び焼入れ性を提供するため、並びにオーステナイトを安定化するために見出された。したがって、2.0~2.2%のようなより高い割合のマンガンが好ましい。しかし、マンガンが2.2%を超えると、ベイナイト変態のための等温保持中にオーステナイトのベイナイトへの変態を遅らせ、延性が低下するなどの悪影響が生じる。さらに、マンガン含有量が2.2%を超えると、本発明の鋼の溶接性も低下する。
【0014】
本発明の鋼のケイ素含有量は、1.4%と1.6%との間である。成分としてのケイ素は、オーステナイトからの炭素の析出を遅らせる。したがって、1.4%のケイ素の存在により、炭素に富むオーステナイトは室温で安定化される。しかし、1.6%を超えると、上記効果が向上せず、熱間圧延脆化等の問題が生じる。したがって、濃度は1.6%の上限内に制御される。
【0015】
本発明の鋼のアルミニウム含有量は、0.01%と0.06%との間である。このような範囲内で、アルミニウムは鋼中の窒素と結合して窒化アルミニウムを形成し、粒子のサイズを減少させる。しかし、本発明においてアルミニウムの含有量が0.06%を超えると、Ac3点が上昇し、生産性が低下する。
【0016】
本発明の鋼のクロム含有量は、0.2%と0.5%との間である。クロムは鋼に強度及び硬化を与える必須元素であるが、0.5%を超えて使用すると、鋼の表面仕上げを損なう。
【0017】
本発明の鋼のリン含有量は、0.02%に制限される。リンは固溶体中で硬化し、また炭化物の形成を妨げる元素である。したがって、少なくとも0.002%の少量のリンが有利であり得るが、リンは特に粒界での偏析又はマンガンとの共偏析の傾向のために、スポット溶接性及び熱延性の低下などの悪影響も有する。これらの理由から、その含有量は、好ましくは最大0.013%に制限される。
【0018】
硫黄は必須元素ではなく、鋼中に不純物として含まれていてもよい。硫黄含有量はできるだけ少ないことが好ましいが、製造コストの観点から、0.03%以下、好ましくは0.003%以下である。さらに、より高い含有量の硫黄が鋼中に存在する場合、それは、特にMn及びTiと結合して硫化物を形成し、本発明に対するそれらの有益な影響を減少させる。
【0019】
ニオブは、0.06%まで、好ましくは0.0010%と0.06%との間で鋼に添加することができる任意の元素である。析出硬化によって本発明の鋼に強度を付与することは、炭窒化物を形成するのに適している。ニオブは加熱中の再結晶を遅らせるので、保持温度の終わり、且つその結果として、完全な焼鈍の後に形成されたミクロ組織は、より微細になり、これは製品の硬化につながる。しかし、ニオブ含有量が0.06%を超えると、多量の炭窒化物が鋼の延性を低下させる傾向があるので、炭窒化物の量は本発明にとって好ましくない。
【0020】
チタンは、0.08%まで、好ましくは0.001%と0.08%との間で本発明の鋼に添加することができる任意の元素である。ニオブとしては、炭窒化物に関与するため、硬化に役割を果たす。しかし、鋳造製品の凝固中に現れるTiNを形成することにも関与している。穴広げに有害な粗いTiNを回避するため、Tiの量は、0.08%に制限される。チタン含有量が0.001%未満である場合、本発明の鋼に何ら影響を与えない。
【0021】
バナジウムは、0.1%まで、好ましくは0.001%と0.01%との間で本発明の鋼に添加することができる任意の元素である。ニオブとしては、炭窒化物に関与するため、硬化に役割を果たす。しかし、鋳造製品の凝固中に現れるVNを形成することにも関与している。穴広げに有害な粗いVNを回避するため、Vの量は0.1%に制限される。バナジウム含有量が0.001%未満である場合、それは本発明の鋼にいかなる効果も与えない。
【0022】
カルシウムは、0.005%まで、好ましくは0.001%と0.005%との間で本発明の鋼に添加することができる任意の元素である。カルシウムは、特に介在物処理の間、任意の元素として本発明の鋼に添加される。カルシウムは、それを球状化する際に有害な硫黄内容物を阻止することによって、鋼の精製に寄与する。
【0023】
セリウム、ホウ素、マグネシウム、又はジルコニウムなどの他の元素は個別に、又は以下の割合で組み合わせて添加することができる:Ce≦0.1%、B≦0.01%、Mg≦0.05%、及びZr≦0.05%。示された最大含有量レベルまで、これらの元素は、凝固中に粒子を微細化することを可能にする。
【0024】
鋼の残りの組成は、鉄と、加工から生じる不可避的不純物とからなる。
【0025】
本発明による鋼板のミクロ組織は、面積分率で5%~15%の焼戻しマルテンサイト、10%~15%の残留オーステナイト、及び任意選択で5%までのフェライトを含み、残りはベイナイトからなり、ベイナイト含有量は少なくとも70%である。
【0026】
ベイナイトは鋼のマトリックスであり、最低70%、好ましくは75%含まれる。本発明の枠組みにおいて、ベイナイトは、ラスベイナイト及び粒状ベイナイトからなる。粒状ベイナイトは非常に低密度の炭化物を有するベイナイトであり、これは、鋼が100μm2の単位面積当たり100未満の炭化物を含むことを意味する。ラスベイナイトは薄いフェライトラスの形態であり、ラス間に炭化物が形成される。ラスの間に存在する炭化物のサイズは、0.1ミクロンより大きい炭化物の数が50,000/mm2未満であるようなものである。ラスベイナイトは鋼の穴広げを適切なものにし、一方、粒状ベイナイトは、伸びを改善する。
【0027】
焼戻しマルテンサイトの含有量は5~15%である。焼戻しマルテンサイトの含有量が5%未満であると、1150MPaの強度レベルを達成することが困難であり、マルテンサイト量が15%を超えると、鋼の溶接性にとって有害であり、延性に悪影響を及ぼす。
【0028】
残留オーステナイトは、10~15%の量で含まれる。ベイナイトよりも炭素の溶解度が高いため、効果的な炭素トラップとして作用し、したがってベイナイト中の炭化物の形成を遅らせることが知られている。本発明の残留オーステナイトは好ましくは0.9と1.15%と間の炭素を含み、オーステナイト中の炭素の平均含有量は1.00%である。したがって、ベイナイトとオーステナイトとの間の炭素のバランスはベイナイト粒子が成形性及び伸びなどの機械的特性を付与することを可能にしながら、オーステナイト範囲での熱間圧延を容易にする。さらに、オーステナイトはまた、本発明の鋼に延性を付与する。
【0029】
焼戻しマルテンサイト及び残留オーステナイトは分離相として、又はマルテンサイト-オーステナイトアイランドの形態で、本発明による鋼中に存在することができ、これは好ましい。
【0030】
フェライトは例えば、低い冷却速度に起因する偶発的なミクロ組織として、本発明による鋼のミクロ組織中に存在し得る。このようなフェライトは、ポリゴナルフェライト、ラスフェライト、針状フェライト、プレートフェライト、又はエピタキシャルフェライトを含むことができる。本発明におけるフェライトの存在は鋼に成形性及び伸びを付与し、また、ある程度の耐疲労破壊性を付与することができる。しかし、フェライトは、マルテンサイト及びベイナイトなどの硬質相との硬度の差を増大させて、局所延性を低下させるため、結果的に穴広げ率の低下をもたらすという事実に起因して、悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、その存在は最大5%に制限される。
【0031】
本発明の鋼板は、任意の適切な方法で得ることができる。しかしながら、以下の連続工程を含む本発明の方法を使用することが好ましい:
- 本発明による鋼組成を提供し、半製品を得る工程、
- 前記半製品を1000℃と1280℃との間の温度まで再加熱する工程、
- 前記半製品を、完全にオーステナイト系範囲で圧延し、熱間圧延鋼板を得る工程であって、ここで、熱間圧延仕上げ温度は、850℃以上である、工程、
- 前記板を、30℃/秒を超える冷却速度で600℃以下の巻取り温度にまで冷却し、及び前記熱間圧延板を巻取る工程、
- 前記熱間圧延板を冷却する工程、
- 任意選択的に、前記熱間圧延鋼板に、スケール除去処理を施す工程、
- 前記熱間圧延鋼板を400℃と750℃との間の温度で1時間~96時間焼鈍に供する工程
- 任意選択的に、前記熱間圧延焼鈍鋼板に、スケール除去処理を施施す工程
- 前記熱間圧延鋼板を、35%と90%との間の圧下率で冷間圧延し、冷間圧延鋼板を得る工程、
- 次いで、前記冷間圧延鋼板を、1℃/秒と20℃/秒との間の速度で、Ac3とAc3+50℃との間の均熱温度まで、少なくとも100秒の間、連続的に焼鈍し、前記温度及び時間が、100%オーステナイトの百分率を得るように選択される、工程、
- 次いで、20℃/秒を超える速度で前記板をMs―10℃とMs+10℃との間の温度にまで冷却する工程であって、ここで、Msは冷却前の当初オーステナイトのMs温度である工程、次いで、
- 前記冷間圧延鋼板を350℃と450℃との間に250秒と1000秒との時間保持する工程、次いで、
- 200℃/秒以下の冷却速度で前記板を室温まで冷却する工程。
【0032】
このような方法は、本発明による化学組成を有する鋼の半製品を提供することを含む。半製品はインゴットに、又は薄いスラブ又は薄いストリップの形態で連続的に、すなわち、例えば、スラブについては約220mmから薄いストリップについては数十mmまでの範囲の厚さで鋳造することができる。
【0033】
本発明を簡略化するために、スラブを半製品とみなす。上述の化学組成を有するスラブは連続鋳造によって製造され、好ましくは、スラブは鋳造中に直接軽圧下で製造され、多孔性の減少及び中心偏析の排除を確実にする。連続鋳造プロセスによって提供されるスラブは連続鋳造後に高温で直接使用することができ、又は最初に室温にまで冷却し、次いで熱間圧延のために再加熱することができる。
【0034】
熱間圧延を受けるスラブの温度は、好ましくは少なくとも1000℃、好ましくは1200℃より高く、1280℃未満でなければならない。スラブの温度が1000℃未満であると、圧延機に過大な荷重がかかり、さらに、仕上げ圧延時に鋼の温度がフェライト変態温度まで低下し、組織中に変態したフェライトが含まれた状態で圧延されるおそれがある。さらに、粗いフェライト粒子が形成されて粗いフェライト粒子となり、熱間圧延中に再結晶するこれらの粒子の能力を低下させる危険性があるので、温度は1280℃を超えてはならない。最初のフェライト粒径が大きいほど再結晶が容易でなく、工業的に費用がかかってしまい、フェライトの再結晶の観点から好ましくないため、1280℃を超える再加熱温度を回避しなければならない。
【0035】
スラブの温度は、熱間圧延が完全にオーステナイト範囲で完了することができるように十分に高いことが好ましく、仕上げ熱間圧延温度は850℃より高いままであり、好ましくは900℃より高いままである。この温度を下回ると、鋼板は圧延性の著しい低下を示すため、最終圧延は850℃を超えて行われることが必要である。900℃と950℃との間の最終圧延温度が再結晶及び圧延に好都合な組織を有するために好ましい。
【0036】
次いで、このようにして得られた板を、30℃/秒を超える冷却速度で、600℃未満のコイル巻き温度まで冷却する。好ましくは、冷却速度が65℃/秒以下であり、35℃/秒を超える。巻取り温度はオーステナイトのフェライト及びパーライトへの変態を回避し、均質なベイナイト及びマルテンサイトミクロ組織の形成に寄与するために、好ましくは350℃を超える。
【0037】
コイル状熱間圧延鋼板は熱間圧延板焼鈍を施す前に室温まで冷却してもよいし、熱間圧延板焼鈍に直接送ってもよい。
【0038】
熱間圧延鋼板は必要に応じて、熱間圧延中に形成されたスケールを除去するために、任意の酸洗いに供されてもよい。次いで、熱間圧延板を400℃と750℃との間の温度で1~96時間焼鈍する。このような熱間圧延板焼鈍の温度は、ベイナイト、特に粒状ベイナイトの割合が高いほど温度が高くなるので、目標とするベイナイトの割合に従って定義される。これは、従来のオーステナイト粒子の微細化によって引き起こされる。その後、必要に応じて、この熱間圧延焼鈍鋼板を酸洗してスケールを除去してもよい。
【0039】
熱間圧延され、次いで、焼鈍された板は、35%と90%との間の厚さ圧下率で冷間圧延される。次いで、冷間圧延鋼板を焼鈍して、本発明の鋼に目標とするミクロ組織及び機械的特性を付与する。
【0040】
冷間圧延鋼板を連続的に焼鈍するために、最初に、1℃/秒と20℃/秒の間、好ましくは3℃/秒を超える加熱速度で、Ac3とAc3+50℃との間の均熱温度まで、少なくとも100秒間、好ましくは1000秒以下の間で加熱する。温度及び時間は完全な再結晶を確実にするように、すなわち100%オーステナイトの割合を得るように選択される。本発明による鋼のAc3は、通常、840℃と900℃との間である。
【0041】
次いで、板はMs±10℃に達するまで、20℃/秒を超える冷却速度で冷却され、ここで、Msは冷却前の当初のオーステナイトのMs温度である。冷却停止温度はMsにできる限り近似させるべきである。好ましい実施形態では、冷却速度は30℃/秒よりも大きい。
【0042】
次いで、冷間圧延鋼板の温度を350℃~450℃まで上昇させ、Ms±10℃から、350℃と450℃との間の温度への温度上昇は、再輝現象によるものである。次いで、鋼板を350~450℃で、少なくとも250秒間、最長で1000秒の時間保持する。この等温過時効は炭素に富むオーステナイトを安定化し、低密度炭化物ベイナイトの形成及び安定化に寄与し、本発明の鋼に目標とする機械的特性を付与する。
【0043】
次いで、冷間圧延鋼板を200℃/秒以下の冷却速度で室温まで冷却する。この冷却の間、不安定な残留オーステナイトは、島状マルテンサイトの形態のフレッシュマルテンサイトに変態し得る。
【0044】
その段階で、0.6%未満の圧下率を有する任意選択のスキンパス処理を実行することができる。
【0045】
次いで、熱処理された冷間圧延板は、電着又は真空コーティング又は任意の他の適切なプロセスによって、任意選択でコーティングされてもよい。
【0046】
好ましくは170~210℃で12時間~30時間行われるポストバッチ焼鈍は相間の硬度勾配を低減し、コーティングされた製品の脱ガスを確実にするために、コーティングされていない製品上で焼鈍した後、又はコーティングされた製品上でコーティングした後に任意に行うことができる。
【実施例】
【0047】
本明細書に提示される以下の試験及び例は本質的に限定されるものではなく、例示のみを目的として考慮されなければならず、本発明の有利な特徴を示し、広範な実験の後に発明者によって選択されたパラメーターの重要性を説明し、本発明による鋼によって達成され得る特性をさらに詳細に説明する。
【0048】
表1にまとめた組成及び表2にまとめた加工パラメーターを用いて、本発明による鋼板及びいくつかの比較グレードの試料を調製した。これらの鋼板の対応するミクロ組織を表3に、特性を表4にまとめた。
【0049】
表1は、組成を重量%で表した鋼を示す。
【0050】
【0051】
表2は、表1の鋼に実施された焼鈍プロセスパラメーターをまとめたものである。
【0052】
表2はまた、本発明の鋼及び参照鋼のバイナイト変態Bs及びマルテンサイト変態Msの温度も示している。Bs及びMsの計算は、MaterialsScienceandTechnology(2012)vol28、n°4、pp487-495に公開されているVanBohemen式を使用することによって行われ:
【0053】
【数1】
さらに、本発明の鋼及び参照鋼の焼鈍処理を行う前に、試料を1000℃と1280℃との間の温度まで加熱し、次いで、850℃を超える仕上げ温度で熱間圧延に供し、その後、600℃未満の温度で巻き取った。次いで、熱間圧延されたコイルは、請求項に記載されるように処理され、その後、35から90%の間の厚さの圧下率で冷間圧延された後に処理される。
【0054】
【0055】
表3は、本発明の鋼及び参照試験の両方のミクロ組織組成を決定するために、走査型電子顕微鏡などの様々な顕微鏡で基準に従って行われた試験の結果をまとめたものである。
【0056】
【0057】
表4は、本発明の鋼及び参照鋼の両方の機械的特性をまとめたものである。引張強度、降伏強度、及び全伸び試験はJISZ2241規格に従って行われ、一方、穴広げを推定するために、穴広げと呼ばれる試験が、規格ISO16630:2009に従って適用される。本試験では、10mm(=Di)の穴を開けるように試料を打ち抜き、変形させた。変形後、穴径Dfを測定し、下記式を用いて穴広げ率(HER)を算出した:
【0058】
【0059】
【0060】
これらの例は、本発明による鋼板がそれらの特定の組成及びミクロ組織のおかげで、全ての目標とする特性を示す唯一のものであることを示している。