(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】フォトニック集積回路およびフォトニック集積回路を含む光電子システム
(51)【国際特許分類】
G02B 6/12 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
G02B6/12 371
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022040862
(22)【出願日】2022-03-16
【審査請求日】2022-03-16
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520052259
【氏名又は名称】エフェクト フォトニクス ベーハー
【氏名又は名称原語表記】EFFECT Photonics B.V.
【住所又は居所原語表記】Kastanjelaan 400 5616 LZ Eindhoven Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100137903
【氏名又は名称】菅野 亨
(72)【発明者】
【氏名】ホークストラ ツェーリック ハンス
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0117834(US,A1)
【文献】特開平06-313818(JP,A)
【文献】特開平11-352344(JP,A)
【文献】特開2020-101599(JP,A)
【文献】国際公開第2020/175236(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12-6/14
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトニック集積回路(1)であって、
第1のリン化インジウムInPベースの光導波路(3)と、隣接する第2のInPベースの光導波路(4)とを備えるInPベースの基板
(2)と、
少なくとも前記第1の光導波路(3)と前記第2の光導波路(4)との間に配置され、前記第1の光導波路(3)及び前記第2の光導波路(4)の各上面と同じ高さの平坦面を備える誘電体平坦化層(5)とを含み、少なくとも前記第1の光導波路(3)と前記第2の光導波路(4)との間において、前記誘電体平坦化層(5)が、
前記誘電体平坦化層(5)を介して前記第1の光導波路(3)と前記第2の光導波路(4)との間の光学的相互作用を低減または防止するように配置された凹部(6)を備え、
前記凹部(6)の場所において、前記誘電体平坦化層(5)が、
前記第1の光導波路(3)に向かって傾斜させて配置された第1の側壁(7)と、
前記第2の光導波路(4)に向かって傾斜させて配置された第2の側壁(8)とを有し、
前記誘電体平坦化層(5)の前記第1の側壁(7)と前記第2の側壁(8)とを少なくとも被覆するように配置された第1の誘電体保護層(11)をさらに含み、
前記第1のInPベースの光導波路(3)および/または前記第2のInPベースの光導波路(4)と電気接触し、および/または、
前記誘電体平坦化層および/または前記第1の誘電体保護層(11)の少なくとも一部を被覆するように、
配置された金属層(12)をさらに含む、フォトニック集積回路(1)。
【請求項2】
前記凹部(6)の場所において、前記誘電体平坦化層(5)の前記第1の側壁(7)と前記第2の側壁(8)とが、前記InPベースの基板(2)に対して85度未満の傾斜角度αにある、請求項1に記載のフォトニック集積回路(1)。
【請求項3】
前記凹部(6)は、前記InPベースの基板(2)へのアクセスをもたらすように配置されている、請求項1に記載のフォトニック集積回路(1)。
【請求項4】
前記凹部(6)は、前記InPベースの基板(2)へのアクセスをもたらすように配置されている、請求項2に記載のフォトニック集積回路(1)。
【請求項5】
前記凹部(6)は、細長い形状を有し、前記第1のInPベースの光導波路(3)と前記第2のInPベースの光導波路(4)との間に長手方向に延びるように配置されている、請求項1に記載のフォトニック集積回路(1)。
【請求項6】
前記誘電体平坦化層(5)の前記第1の側壁(7)は、前記第1の側壁(7)がそれに従って少なくとも部分的に前記第1のInPベースの光導波路(3)に対して第1の角度βで配置される第1のパターン(9)を少なくとも部分的に備え、および/または、
前記誘電体平坦化層(5)の前記第2の側壁(8)は、前記第2の側壁(8)がそれに従って少なくとも部分的に前記第2のInPベースの光導波路(4)に対して第2の角度γで配置される第2のパターン(10)を少なくとも部分的に備え、
前記第1の角度および前記第2の角度は10度と170度の間である、請求項1に記載のフォトニック集積回路(1)。
【請求項7】
前記第1のパターン(9)および/または前記第2のパターン(10)は、鋸歯状パターンと波状パターンとディザ・パターンとのうちの少なくとも1つを含む、請求項6に記載のフォトニック集積回路(1)。
【請求項8】
前記第1の誘電体保護層(11)は、
酸化シリコンと、窒化シリコンと、酸窒化シリコンと、酸化アルミニウムと、酸化タンタルとのうちの1つ、または
ポリアクリレートと、ポリカーボネートと、ポリイミドと、ポリウレタンと、ポリキシリレンと、ベンゾシクロブテンと、ポリシロキサンとのうちの1つを含むポリマーベースの材料を含む、請求項
1に記載のフォトニック集積回路(1)。
【請求項9】
前記金属層(12)および/または前記第1の誘電体保護層(11)の少なくとも一部を被覆するように配置された第2の誘電体保護層(13)をさらに含む、請求項
8に記載のフォトニック集積回路(1)。
【請求項10】
前記第2の誘電体保護層(13)は、
酸化シリコンと、窒化シリコンと、酸窒化シリコンと、酸化アルミニウムと、酸化タンタルとのうちの1つ、または
ポリアクリレートと、ポリカーボネートと、ポリイミドと、ポリウレタンと、ポリキシリレンと、ベンゾシクロブテンと、ポリシロキサンとのうちの1つを含むポリマーベースの材料を含む、請求項
9に記載のフォトニック集積回路(1)。
【請求項11】
前記誘電体平坦化層(5)は、
酸化シリコンと、窒化シリコンと、酸窒化シリコンと、酸化アルミニウムと、酸化タンタルとのうちの1つ、または
ポリアクリレートと、ポリカーボネートと、ポリイミドと、ポリウレタンと、ポリキシリレンと、ベンゾシクロブテンと、ポリシロキサンとのうちの1つを含むポリマーベースの材料を含む、請求項1に記載のフォトニック集積回路(1)。
【請求項12】
前記ポリマーベースの材料は、有機添加剤と無機添加剤のうちの少なくとも一方を含む、請求項
8に記載のフォトニック集積回路(1)。
【請求項13】
前記ポリマーベースの材料は、有機添加剤と無機添加剤のうちの少なくとも一方を含む、請求項
10に記載のフォトニック集積回路(1)。
【請求項14】
前記ポリマーベースの材料は、有機添加剤と無機添加剤のうちの少なくとも一方を含む、請求項
11に記載のフォトニック集積回路(1)。
【請求項15】
前記フォトニック集積回路(1)は、非気密パッケージと気密パッケージ(14)とのうちの一方を備える、請求項1に記載のフォトニック集積回路(1)。
【請求項16】
請求項1に記載のフォトニック集積回路(1)を含む光電子システム(20)であって、送信器と、受信器と、送受信器と、コヒーレント送信器と、コヒーレント受信器と、コヒーレント送受信器とのうちの1つである、光電子システム(20)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば遠隔通信用途またはセンサ用途に使用可能であるがこれには限定されない、リン化インジウム(InP)ベースのフォトニック集積回路(PIC)に関する。本発明は、さらに、たとえば遠隔通信用途またはセンサ用途に使用可能であるがこれには限らない光電子システムであって、前記InPベースのPICを含む光電子システムに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、これには限定されないが光遠隔通信用途の分野におけるPICは、可能な限り小さいことが好ましい占有面積を有する単一ダイ上に集積される光機能および電気機能の数の増加のためにますます複雑になっている。特に光遠隔通信用途のPICの最も多用途である技術プラットフォームは、InPベースの半導体材料を含むウエハを使用する。InPベースの技術は、たとえば発光および/または光吸収光学デバイスなどの能動コンポーネントと、たとえば導光および/または光スイッチ光学デバイスなどの受動コンポーネントとの両方を単一ダイ上の1つのPICに集積するモノリシック集積を可能にする。
【0003】
コンポーネント密度が高いPICに関する共通の問題は、隣接光導波路間の光学的クロストークまたは導波路間干渉である。光学的クロストークまたは導波路間干渉を低減するための当技術分野で知られている解決策は、たとえば、反射して放射元の導波路に戻る光放射によって生じる導波路内干渉に関係するものなどの欠点を結果としてもたらしている。後者の欠点を回避するための知られている解決策は、その結果として、たとえば、複雑なPICの気密パッケージ化が煩雑で費用がかかる場合には特に、PCIの周囲環境からの保護に関係する他の欠点をもたらしている。
【0004】
上記に基づき、導波路間干渉および導波路内干渉が生じにくく、改良された費用対性能比を可能にするPICを提供する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、たとえば、遠隔通信用途またはセンサ用途に使用可能であるがこれには限らない、当技術分野で知られている複雑なInPベースのPICに付随する上記および/またはその他の欠点のうちの少なくとも1つを回避または少なくとも低減する、InPベースのPICを提供することである。
【0006】
また、本発明の目的は、本発明によるPICを含む、たとえば遠隔通信用途またはセンサ用途に使用可能であるがこれには限らない光電子システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様は、添付の独立請求項および従属請求項に記載されている。従属請求項に記載の特徴は、独立請求項に記載の特徴と適宜組み合わされてもよく、請求項に明示的に記載されていないに過ぎない場合がある。また、すべての特徴は他の技術的に同等な特徴と置き換え可能である。
【0008】
上記の目的のうちの少なくとも1つは、フォトニック集積回路PICによって達成され、PICは、
- 第1のInPベースの光導波路と、隣接する第2のInPベースの光導波路とを備える、リン化インジウムInPベースの基板と、
少なくとも第1の光導波路と第2の光導波路との間に配置された誘電体平坦化層とを含み、少なくとも第1の光導波路と第2の光導波路との間において、誘電体平坦化層は、
・ 誘電体平坦化層を介して第1の光導波路と第2の光導波路との間の光学的相互作用を低減または防止するように配置された凹部を備え、
凹部の場所において、誘電体平坦化層は、
・ 第1の光導波路に向かって傾斜させて配置された第1の側壁と、
・ 第2の光導波路に向かって傾斜させて配置された第2の側壁とを有する。
【0009】
InPベースの光導波路を構成するInPベースのPICのInPベースの層の屈折率の差を大きくすることによって、InPベースの光導波路の寸法を小さくすることが可能である。これは、PICの面積、したがってPIC全体としてのコストの削減を可能にする。InPベースの光導波路の能動光学特性を利用するために、InPベースの光導波路は電気接点を備える必要がある。微小寸法を有する光導波路上面の電気接点の正確で信頼性のある形成を可能にするために、通常、誘電体平坦化層が塗布される。また、誘電体平坦化層は、光導波路のパッシベーションと保護を与え、それによって本発明のPICの周囲環境からの保護を向上させるように構成可能である。
【0010】
誘電体平坦化層は、光導波路から発する光放射を捕捉し、伝播させることができることに留意されたい。誘電体平坦化層を介してPICの第1の光導波路と第2の隣接する光導波路との間の導波路間干渉または光学的クロストークなどの光学的相互作用を少なくとも低減し、最終的に防止するために、少なくとも第1の光導波路と第2の光導波路との間において、誘電体平坦化層が凹部を備える。
【0011】
誘電体平坦化層の第1の側壁と第2の側壁とに傾斜を設けることによって、誘電体平坦化層によって捕捉される光放射の位相面を傾けることができ、それによって、第1の側壁と第2の側壁に入射する光放射が放射元の光導波路、すなわち、それぞれ第1の光導波路および/または第2の光導波路に反射して戻されるのを少なくとも低減し、最終的に防止することができる。その結果、それぞれ第1の光導波路および/または第2の光導波路における導波路内干渉を少なくとも低減し、最終的に防止することができる。したがって、本発明によるPICは、導波路間干渉および導波路内干渉が生じにくい。
【0012】
また、第1の光導波路および第2の光導波路にそれぞれ向かって傾斜させた第1の側壁と第2の側壁とによって境界が定められる凹部を有する誘電体平坦化層を設けることにより、特にメタライゼーション・プロセスと、誘電体平坦化層の上面に配置可能な追加の誘電体層における機械的応力低減および/または機械的応力再分散と、たとえば誘電体平坦化層の傾斜側壁とInPベースの基板との間の隅における残留物の捕捉とに関する追加の利点が与えられる。
【0013】
メタライゼーション・プロセスに関しては、上記のような方向に傾斜させた誘電体平坦化層の第1の側壁と第2の側壁は、誘電体平坦化層のこれらの傾斜側壁に沿うように配置される金属層、および/またはその上面に付着される誘電体平坦化層の傾斜側壁により傾斜させられる追加の誘電体層の側壁に沿うように配置されるさらなる金属層の、良好なステップカバレッジを可能にすることに留意されたい。誘電体平坦化層の傾斜側壁によってもたらされるこの良好なステップカバレッジは、異方性金属付着および金属エッチング技法の使用を可能にする。
【0014】
誘電体平坦化層の傾斜させた第1および第2の側壁によって境界が定められる凹部を備える誘電体平坦化層の上面に付着される追加の誘電体層に関しては、凹部の場所における追加の誘電体層のうちの第1の追加の誘電体層が誘電体平坦化層の下に配置される層の領域と接触することができるようにすることによって、少なくとも凹部を被覆するように配置された追加の誘電体層における機械的応力集中部を低減し、および/または機械的応力を再分散させることが可能であることに留意されたい。誘電体平坦化層の下に配置される層は、任意の適切な誘電体層またはInPベースの層とすることができる。
【0015】
たとえば誘電体平坦化層の傾斜側壁とInPベースの基板との間の隅における残留物の捕捉に関しては、誘電体平坦化層の第1の傾斜側壁と第2の傾斜側壁が、InPベースの基板に対して90度の角度に配置される側壁と比較して捕捉される残留物を少なくすることができることに留意されたい。
【0016】
上記に基づいて、当業者は、本発明によるPICの誘電体平坦化層は、多機能層と見なすことができることがわかるであろう。当業者は、導波路間干渉および導波路内干渉の防止は、電気接点を備えたInPベースの光導波路を設けた後で誘電体平坦化層を完全に除去することによって実現することもできることがわかるであろう。しかし、その場合、本発明によるPICの多機能誘電体平坦化層によってもたらされる上記の追加の利点は得られないことになる。
【0017】
当業者は、InPベースの基板は、任意の適切な数のInPベースの光導波路を備えることができることがわかるであろう。上述のようにして少なくとも1つの凹部を有する隣接光導波路間の誘電体平坦化層を設けることによって、任意の数の隣接光導波路間の導波路間干渉および/または導波路内干渉を、少なくとも低減し、最終的に防止することができる。したがって、PICの特定の要件に応じて、隣接光導波路の一部または全部の光導波路間に、複数の凹部を設けることが可能である。
【0018】
上記に基づいて、当業者は、本発明によるInPベースのPICは、導波路間干渉および導波路内干渉に関連する上記および/またはその他の欠点のうちの少なくとも1つを回避するかまたは少なくとも低減することがわかるであろう。また、本発明によるPICの多機能誘電体平坦化層は、たとえば周囲環境からの保護、メタライゼーション・プロセス、追加の誘電体層における機械的応力の低減および/または機械的応力の再分散、および残留物の捕捉に関する追加の技術的利点をもたらす。その結果、当業者は、本発明によるPICは、改良された費用対性能比とともに全体的性能向上をもたらすことがわかるであろう。
【0019】
本発明によるフォトニック集積回路の一実施形態では、凹部の場所において誘電体平坦化層の第1の側壁と第2の側壁とが、InPベースの基板に対して85度未満の傾斜角度にある。
【0020】
このようにして、誘電体平坦化層の第1の傾斜側壁および第2の傾斜側壁に入射する光放射が放射元の光導波路、すなわち、それぞれ第1の光導波路および/または第2の導波路に反射して戻るのを低減し、最終的に防止することができる。その結果、それぞれ第1の光導波路および/または第2の導波路における導波路内干渉を少なくとも低減し、最終的に防止することができる。
【0021】
誘電体平坦化層に設けられる凹部を少なくとも被覆するように配置される追加の誘電体層における上記の機械的応力集中部の低減および/または機械的応力の再分散は、上記の範囲内で傾斜角度を調整することによって、たとえば傾斜角度を30度と70度の間の範囲になるように選定することによって、最適化することができることに留意されたい。
【0022】
本発明のフォトニック集積回路の一実施形態では、凹部はInPベースの基板へのアクセスをもたらすように配置される。
【0023】
PICのこの実施形態によると、凹部は、それがなければ誘電体平坦化層と少なくとも部分的に接触するInPベースの基板の領域へのアクセスを可能にするスルーホールである。当業者は、この場合、誘電体平坦化層を介してPICの第1の光導波路と第2の隣接する光導波路との間の導波路内干渉が完全に防止されることがわかるであろう。誘電体平坦化層の傾斜した第1の側壁と第2の側壁は、上記の導波路内干渉の低減と最終的な防止を可能にする。
【0024】
誘電体平坦化層の上面に付着させる上記の追加の誘電体層に関連して、追加の誘電体層のうちの第1の追加の誘電体層は、凹部の場所においてInPベースの基板の領域と接触してもよいことに留意されたい。その結果、少なくとも凹部を被覆するように配置される追加の誘電体層における機械的応力集中部を低減し、および/または機械的応力を再分散することが可能である。
【0025】
本発明によるフォトニック集積回路の一実施形態では、凹部は、細長い形状を有し、第1のInPベースの光導波路と第2のInPベースの光導波路との間に長手方向に延びるように配置される。
【0026】
当業者は、凹部は、第1のInPベースの光導波路と第2の隣接するInPベースの光導波路とに関連する導波路間干渉および導波路内干渉の少なくとも低減と最終的には防止とを可能にする限り、任意の適切な形状を有することができることがわかるであろう。凹部は、たとえばトレンチなどの細長い形状を有することができる。
【0027】
本発明によるフォトニック集積回路の一実施形態では、誘電体平坦化層の第1の側壁は、それに従って第1の側壁が少なくとも部分的に第1のInPベースの光導波路に対して第1の角度に配置される第1のパターンを少なくとも部分的に備え、および/または、誘電体平坦化層の第2の側壁はそれに従って第2の側壁が少なくとも部分的に第2のInPベースの光導波路に対して第2の角度に配置される第2のパターンを少なくとも部分的に備え、第1の角度および第2の角度は10度と170度の間である。
【0028】
このようにして、誘電体平坦化層の第1の側壁に入射すると反射して第1のInPベースの光導波路に戻る第1のInPベースの光導波路から発する光放射の結果として、第1のInPベースの光導波路に発生する導波路内干渉をさらに低減することができる。本発明によるPICの第2のInPベースの光導波路に発生する導波路内干渉のさらなる低減についても同様の論法が成り立つ。
【0029】
PICの特定の要件に応じて、第1の角度と第2の角度は同じであっても互いに異なっていてもよいことに留意されたい。同じことは、同じであることも異なっていることも可能な第1のパターンと第2のパターンにも当てはまる。
【0030】
本発明によるフォトニック集積回路の一実施形態では、第1のパターンおよび/または第2のパターンは、鋸歯状パターンと波状パターンとディザ・パターンとのうちの少なくとも1つのパターンを含む。
【0031】
第1のパターンと第2のパターンは両方とも規則的または不規則であることが可能なことに留意されたい。また、第1のパターンが規則的で、第2のパターンが不規則であるか、またはその逆も可能である。上記の規則性または不規則性に加えて、第1のパターンおよび/または第2のパターンがたとえば鋸歯状パターンを含む場合、鋸歯状パターンは、対称、非対称または部分的に対称で部分的に非対称とすることができる。同じ見解は波伏パターンおよびディザ・パターンにも当てはまる。
【0032】
本発明によるフォトニック集積回路の一実施形態では、フォトニック集積回路は、誘電体平坦化層の第1の側壁と第2の側壁とを少なくとも被覆するように配置された第1の誘電体保護層をさらに含む。
【0033】
第1の誘電体層は、PICに、たとえば塵埃粒子および湿気などの環境汚染物に対する周囲環境からの保護を与えることができる。第1の誘電体保護層は、0.5μmと100μmの間、好ましくは0.5μmと10μmの間の厚さを有することができる。このようにして、第1の誘電体保護層の厚さは、環境汚染物の拡散を制限するのに十分であるものとし、それによってPICの周囲環境からの保護を可能にする。
【0034】
誘電体平坦化層に設けられた凹部を介してInPベースの基板の領域がそれによりアクセス可能な本発明によるPICの例示の一実施形態では、第1の誘電体保護層は、誘電体平坦化層と、誘電体平坦化層の第1の傾斜側壁および第2の隣接する傾斜側壁と、凹部を介してアクセス可能なInPベースの基板の領域とを被覆するように配置することができる。上述のように、このようにして、第1の誘電体保護層と、第1の誘電体保護層の上面に付着され得るさらなる誘電体層における機械的応力集中部の低減および/または機械的応力の再分散を実現することができる。
【0035】
本発明によるフォトニック集積回路の一実施形態では、フォトニック集積回路は、第1のInPベースの光導波路および/または第2のInPベースの光導波路と電気接触して配置され、および/または、誘電体平坦化層および/または第1の誘電体保護層の少なくとも一部を被覆するように配置された金属層をさらに含む。
【0036】
第1の光導波路と第2の光導波路のうちの少なくとも一方に金属層を設けることによって、両者のうちの少なくとも一方に少なくとも1つの電気接点を設けることができる。このようにして、光導波路の能動光学特性を十分に利用することができる。当業者には、誘電体層に凹部を設ける前または後に、第1の光導波路と第2の光導波路のうちのいずれか一方と接触する金属層を塗布することができることがわかるであろう。
【0037】
誘電体平坦化層および/または第1の誘電体保護層の少なくとも一部を被覆するように金属層を配置することによって、寄生容量が低減された金属トラックを設けることができる。当業者は、誘電体平坦化層の厚さおよび/または第1の誘電体保護層の厚さを厚くすることによって、金属トラックに関連する寄生容量をさらに低減することができることがわかるであろう。
【0038】
第1の誘電体保護層が、下にある誘電体保護層に設けられた凹部を被覆するように配置される場合に生じる第1の誘電体保護層の傾斜した第1の側壁と傾斜した第2の側壁は、金属トラックに良好なエッジカバレッジを与える。金属トラックのためのエッジカバレッジ向上の結果、本発明によるPICは高低変化部における金属トラックの断絶に起因する障害が生じにくい。したがって、金属トラックの信頼性を向上させることができ、したがってPIC全体としての性能を向上させることができる。
【0039】
本発明によるフォトニック集積回路の一実施形態では、第1の誘電体保護層は、酸化シリコンと、窒化シリコンと、酸窒化シリコンと、酸化アルミニウムと、酸化タンタルとのうちの1つ、または、ポリアクリレートと、ポリカーボネートと、ポリイミドと、ポリウレタンと、ポリキシリレンと、ベンゾシクロブテンと、ポリシロキサンとのうちの1つを含むポリマーベースの材料を含む。
【0040】
上記の種類のポリマーベースの材料のいずれか1つを、スピンコーティング、ディップコーティング、スクリーンプリント、および蒸着のうちの1つによって複数のPICを含むウエハ全体に塗布することができることに留意されたい。あるいは、ポリマーベースの材料は、ディップコーティング、スクリーンプリント、ディスペンシング、および蒸着のうちの1つによって、ウエハ全体のダイシングにより得られる個別化されたPICに塗布することができる。当業者は、ポリマーベースの材料が液相として塗布される場合、その塗布に続いて、ポリマーベースの材料を、真空中または、酸素(O2)、アルゴン(Ar)および窒素(N2)のうちの少なくとも1つを含む特定の空気中で熱処理および/または紫外線(UV)処理に曝すことによって硬化させるかまたは架橋させることがわかるであろう。硬化の結果、たとえば塵埃粒子および湿気などの環境汚染物に対してPICに保護を与えるのに適した強化または堅固にされたポリマーベースの材料が得られる。
【0041】
当業者は、たとえば1300nmから1600nmの範囲の波長を有する光放射の伝播が低減されるように、ポリマーベースの材料の透過窓を調整するために、ポリマーベースの材料のハロゲン化を適用してもよいことがわかるであろう。
【0042】
また、当業者は、たとえば、誘電体平坦化層における凹部を介してアクセス可能な誘電体平坦化層の表面またはInPベースの基板の表面を活性化するためと、第1の誘電体保護層と上記の層の活性化された表面との間の接着を向上させるために、プライマーが必要な場合があることがわかるであろう。適切なプライマーは、第1の誘電体保護層の組成、InPベースの基板および/または誘電体平坦化層の組成を考慮して選択することができることは明らかであろう。
【0043】
本発明によるPICの例示の一実施形態では、第1の誘電体保護層は、コンフォーマルコーティングまたは平坦化コーティングとすることができる。このようにして、第1の誘電体保護層によるPICの十分な封止を実現可能である。また、第1の誘電体保護層は、本発明によるPICに改良された周囲環境からの保護を与えることができる。その結果、気密パッケージ化ではなく非気密パッケージ化に依拠することができる。
【0044】
本発明によるフォトニック集積回路の一実施形態では、フォトニック集積回路は、金属層および/または第1の誘電体保護層の少なくとも一部を被覆するように配置された第2の誘電体保護層をさらに含む。
【0045】
第2の誘電体保護層を塗布することによって、塵埃粒子および/または湿気などの環境汚染物に対するPICの周囲環境からの保護をさらに向上させることができる。その結果、気密パッケージ化ではなく非気密パッケージ化にさらに依拠すること可能になり得る。
【0046】
本発明によるフォトニック集積回路の一実施形態では、第2の誘電体保護層は、酸化シリコンと、窒化シリコンと、酸窒化シリコンと、酸化アルミニウムと、酸化タンタルとのうちの1つ、または、ポリアクリレートと、ポリカーボネートと、ポリイミドと、ポリウレタンと、ポリキシリレンと、ベンゾシクロブテンと、ポリシロキサンとのうちの1つを含むポリマーベースの材料を含む。
【0047】
当業者は、第1の誘電体保護層に使用可能な材料に関する上記の見解は、必要な変更を加えて第2の誘電体保護層に使用可能な材料にも適用されることがわかるであろう。
【0048】
本発明によるフォトニック集積回路の一実施形態では、誘電体平坦化層は、酸化シリコンと、窒化シリコンと、酸窒化シリコンと、酸化アルミニウムと、酸化タンタルとのうちの1つ、または、ポリアクリレートと、ポリカーボネートと、ポリイミドと、ポリウレタンと、ポリキシリレンと、ベンゾシクロブテンと、ポリシロキサンとのうちの1つを含むポリマーベースの材料を含む。
【0049】
当業者は、第1の誘電体保護層に使用可能な材料に関する上記の見解は、必要な変更を加えて誘電体平坦化層に使用可能な材料にも適用可能であることがわかるであろう。
【0050】
誘電体平坦化層が標準ポリマーベースの材料を含む場合、当業者は、その標準ポリマーベースの材料が、フォトリソグラフィとエッチングとの組合せを適用することによって、正の傾斜を有する側壁、すなわち側壁が最も近い光導波路の方向に傾斜している側壁によって境界が定められる凹部を備え得ることがわかるであろうということに留意されたい。第1に、凹部を画定するために使用されるフォトレジストの側壁は丸みのあるプロファイルを備えることができる。当業者は、そのような丸みのあるプロファイルは、フォトレジストに露出条件と熱処理との適切な組合せを適用することによって得られることがわかるであろう。丸みのあるプロファイルを有する側壁を備えたフォトレジストを与える別の方法は、グレースケールマスクを使用することを含む。フォトレジストの側壁に適切な丸みのあるプロファイルを設けた後、フォトレジストをたとえば反応性イオンエッチング(RIE)または誘導結合プラズマエッチング(ICP)を使用してドライエッチングすることができる。プロセス条件とエッチ速度とを慎重に選択し、調整することによって、フォトレジストの側壁の丸みのあるプロファイルを、標準ポリマー層の側壁の直線傾斜プロファイルに移し換えることができる。
【0051】
当業者は、酸化シリコンと、窒化シリコンと、酸窒化シリコンと、酸化アルミニウムと、酸化タンタルとのうちの1つを含む誘電体平坦化層に、直線傾斜プロファイルを有する側壁を設けるために、同様の手法を使用することができることがわかるであろう。
【0052】
しかし、誘電体平坦化層がポリマーベースの材料を含む場合は、フォトリソグラフィと湿式現像工程によって直接パターン形成可能な感光性ポリマーを使用することもできることに留意されたい。当業者は、この場合も傾斜側壁は感光性ポリマー材料に露出条件と熱処理との組合せを適用することによって実現可能であることがわかるであろう。
【0053】
本発明によるフォトニック集積回路の一実施形態では、ポリマーベースの材料は、有機添加剤と無機添加剤とのうちの少なくとも一方を含む。
【0054】
たとえば充填剤、ゲッター、または安定剤であってもよい前記添加剤のうちの少なくとも1つを含めることによって、誘電体平坦化層、第1の誘電体保護層、および第2の誘電体保護層のうちの少なくとも1つに使用可能なポリマーベースの材料の周囲環境からの保護、力学的安定性、および化学的安定性のうちの少なくとも1つを向上させることができる。具体的には、提供される周囲環境からの保護は、化学反応を抑止する能力を強化することによって、または湿気に対する疎水性を強化することによって、さらに向上させることができる。後者は、原子層堆積または分子蒸着によってハロゲン化ポリマーまたはポリ(p-キシリレン)の薄い層を塗布することによって実現可能である。その結果、塵埃粒子および/または湿気などの環境汚染物に対するPICの周囲環境保護を、気密パッケージ化ではなく非気密パッケージ化を使用することができるレベルまで向上させることができる。これは、本発明によるPICの全体的コストにとって有利である。
【0055】
本発明によるフォトニック集積回路の一実施形態では、フォトニック集積回路は、非気密パッケージと気密パッケージとのうちの一方を備える。
【0056】
周囲環境からの保護と、ひいてはPICの寿命は、PICを非気密パッケージに収容することによって向上させることができる。当業者は、PICの周囲環境からの保護、したがって寿命は、PICを気密性パッケージに収容することによってさらに向上させることができることがわかるであろう。
【0057】
本発明によるInPベースのPICの例示の一実施形態では、PICはモノリシック・フォトニック集積回路である。
【0058】
本発明の別の態様によると、本発明によるフォトニック集積回路を含む光電子システムが提供される。光電子システムは、これには限らないがたとえば遠隔通信用途に使用可能である。その場合、光電子システムは、送信器と、受信器と、送受信器と、コヒーレント送信器、コヒーレント受信器と、コヒーレント送受信器とのうちの1つとすることができる。上記に基づいて、本発明によるPICの費用対性能比の向上により、本発明による光電子システムのコストは削減可能であることが明らかであろう。
【0059】
本発明のその他の特徴および利点は、本発明によるInPベースのPICとそのようなPICを含む光電子システムの、例示の非限定的実施形態の説明から明らかになるであろう。
【0060】
当業者は、PICおよび光電子システムの記載の実施形態は、本質的に例示に過ぎず、いかなる点でも保護の範囲を限定するものと解釈されるべきではないことがわかるであろう。当業者は、PICおよび光電子システムの代替物および同等の実施形態が想到可能であり、本発明の保護の範囲から逸脱することなく実施可能であることがわかるであろう。
【0061】
以下では添付図面の図を参照する。図は、本質的に概略的であり、したがって必ずしも一律の縮尺で描かれていない。また、同一の参照番号は同一または類似の部分を示す。添付図面の図は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1A】誘電体平坦化層が傾斜側壁によって境界が定められた凹部を備え、凹部はInPベースの基板の一領域へのアクセスを可能にする、本発明によるInPベースのPICの第1の例示の非限定的実施形態の一部の概略断面を示す図である。
【
図1B】
図1Aに示すInPベースのPICの第1の例示の非限定的実施形態の一部の概略上面図を示す図である。
【
図2】誘電体平坦化層に設けられた凹部の場所においてInPベースの基板と接触する第1の誘電体保護層を含む、本発明によるInPベースのPICの第2の例示の非限定的実施形態の概略断面を示す図である。
【
図3A】光導波路に対して設けられた電気接点に接触して配置され、誘電体平坦化層の上面に付着させた第1の誘電体保護層の傾斜側壁に沿うように配置された金属トラックを含む、本発明によるInPベースのPICの第3の例示の非限定的実施形態の一部の概略断面を示す図である。
【
図3B】複数の光導波路に対して設けられた複数の電気接点と接触して配置され、誘電体平坦化層の上面に付着させた第1の誘電体保護層の傾斜側壁に沿うように配置された金属トラックを含む、本発明によるInPベースのPICの第3の例示の非限定的実施形態の一部の概略断面を示す図である。
【
図3C】複数の光導波路に対して設けられた複数の電気接点と接触して配置され、誘電体平坦化層の上面に付着させた第1の誘電体保護層の傾斜側壁に沿うように配置された金属トラックの上面に付着させた第2の誘電体保護層を含む、本発明によるInPベースのPICの第5の例示の非限定的実施形態の一部の概略断面を示す図である。
【
図4A】誘電体平坦化層が、鋸歯状パターンを備えた傾斜側壁によって境界が定められた凹部を備え、凹部がInPベースの基板の一領域へのアクセスを可能にする、本発明によるInPベースのPICの第6の例示の非限定的実施形態の一部の概略断面を示す図である。
【
図4B】
図4Aに示すInPベースのPICの第6の例示の非限定的実施形態の一部の概略上面図を示す図である。
【
図4C】誘電体平坦化層が、波伏パターンを備える傾斜側壁によって境界が定められた凹部を備え、凹部がInPベースの基板の一領域へのアクセスを可能にする、本発明によるInPベースのPICの第7の例示の非限定的実施形態の一部の概略上面図を示す図である。
【
図5】PICが気密パッケージを備える、本発明によるInPベースのPICの第8の例示の非限定的実施形態の概略断面を示す図である。
【
図6】たとえば遠隔通信用途またはセンサ用途に使用可能であるがこれには限定されない、本発明によるInPベースのPICを含む、本発明による光電子システムの第1の例示の非限定的実施形態の概略図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
本発明による周囲環境から保護されたPIC1の提示される例示の非限定的実施形態は、1つの誘電体平坦化層5と、第1の誘電体保護層11と、1つの金属層12と、第2の誘電体保護層13とを含むが、当業者は、酸化シリコンと、窒化シリコンと、酸窒化シリコンと、酸化アルミニウムと、酸化タンタルとのうちの1つ、または、ポリアクリレートと、ポリカーボネートと、ポリイミドと、ポリウレタンと、ポリキシリレンと、ベンゾシクロブテンと、ポリシロキサンとのうちの1つを含むポリマーベースの材料を含む上記の層のうちの複数の層を含む、本発明の範囲に含まれるPIC1の実施形態を、過度の負担なく構想することができるであろうということに留意されたい。
【0064】
図1Aに、本発明によるInPベースのPICの第1の例示の非限定的実施形態の一部の概略断面を示す。PIC1は、第1のInPベースの光導波路3と、隣接する第2のInPベースの光導波路4とを備えるInPベースの基板2を含む。第1の光導波路3と第2の光導波路4との間に配置された誘電体平坦化層5が設けられる。誘電体平坦化層5は、第1の光導波路3と第2の光導波路4のそれぞれの上面の金属層12の正確で信頼性のある形成を可能にするために塗布される。電気接点は、第1の光導波路3と第2の光導波路4の能動光学特性の十分な利用を可能にする。誘電平坦化層5は、光導波路3、4のパッシベーションと保護とを与えるように構成することも可能であり、それによって本発明によるPIC1の周囲環境からの保護を向上させる。
【0065】
誘電体平坦化層5は、光導波路3、4のいずれか一方から発する光放射を捕捉し、伝播させることができる。誘電体平坦化層5を介して第1の光導波路3と隣接する第2の光導波路4との間の導波路間干渉または光学的クロストークを少なくとも低減し、最終的に防止するために、第1の光導波路3と第2の光導波路4との間において誘電体平坦化層5が凹部6を備える。
【0066】
凹部6の場所において、誘電体平坦化層5は、第1の光導波路3に向かって傾斜させて配置された第1の側壁7と、第2の光導波路4に向かって傾斜させて配置された第2の側壁8とを有する。凹部6は、第1の側壁7と第2の側壁8とによって境界が定められたInPベースの基板2の一領域へのアクセスをもたらす。
【0067】
誘電体平坦化層5の第1の側壁7と第2の側壁8とに傾斜を設けることによって、誘電体平坦化層5によって捕捉された光放射の位相面を傾けることができ、それによって第1の側壁7および第2の側壁8に入射する光放射が放射元の導波路、すなわちそれぞれ第1の光導波路3および/または第2の導波路4に反射して戻るのを少なくとも低減し、最終的に防止することができる。その結果、第1の光導波路3および/または第2の光導波路4における導波路内干渉をそれぞれ少なくとも低減し、最終的に防止することができる。したがって、本発明によるPIC1は、導波路間干渉および導波路内干渉が生じにくい。
【0068】
また、誘電体平坦化層5に、正の傾斜、すなわちそれぞれ第1の光導波路3および第2の光導波路4に向かって傾斜する傾斜を有する第1の側壁7と第2の側壁8によって境界が定められた凹部6を設けることによって、具体的にはメタライゼーション・プロセス、誘電体平坦化層5の上面に配置可能な追加の誘電体層における機械的応力の低減および/または機械的応力の再分散、および、たとえば誘電体平坦化層5の傾斜側壁7、8とInPベースの基板2との間の隅における残留物の捕捉に関する上記の追加の利点をもたらす。したがって、当業者は、本発明によるPIC1の誘電体平坦化層5は多機能層と見なすことができることがわかるであろう。
【0069】
上記に基づいて、当業者は、
図1Aに示すInPベースのPIC1の例示の実施形態が、導波路間干渉および導波路内干渉に関連する上記および/またはその他の欠点のうちの少なくとも1つを回避または少なくとも低減することがわかるであろう。また、本発明によるPIC1の多機能誘電体平坦化層5は、上記の追加の技術的利点をもたらす。その結果、当業者は、
図1Aに示すPICの例示の実施形態が、改良された費用対性能比とともに改良された全体的性能をもたらすことがわかるであろう。
【0070】
凹部6の場所で、誘電体平坦化層5の第1の側壁7と第2の側壁8が、InPベースの基板2に対して85度未満の傾斜角度αにある。このようにして、誘電体平坦化層5の第1の傾斜側壁7および第2の傾斜側壁8に入射した光放射が放射元の光導波路、すなわち、それぞれ第1の光導波路3および/または第2の光導波路4に反射して戻るのを低減し、最終的に防止することができる。その結果、それぞれ第1の光導波路3および/または第2の光導波路4における導波路内干渉を少なくとも低減し、最終的に防止することができる。
【0071】
図1Aに示すPIC1の例示の実施形態では、凹部はスルーホールであり、したがって、光導波路3、4の間で、誘電体平坦化層5に接触しているInPベースの基板2へのアクセスをもたらす。当業者には、この場合、誘電体平坦化層5を介してPIC1の第1の光導波路3と第2の隣接光導波路4との間の導波路間干渉が完全に防止されることがわかるであろう。誘電体平坦化層5の傾斜した第1の側壁7および第2の側壁8は、上記の導波路内干渉の低減と、最終的には防止を可能にする。
【0072】
図1Bに、
図1Aに示すInPベースのPIC1の第1の例示の非限定的実施形態の一部の上面図を示す。
図1Aおよび
図1Bに示すPICの例示の実施形態によると、凹部6は細長い形状を有し、第1のInPベースの光導波路3と第2のInPベースの光導波路4との間に長手方向に延びるように配置されている。当業者は、凹部6は、第1のInPベースの光導波路3と第2の隣接するInPベースの光導波路4とに関連する導波路間干渉および導波路内干渉の少なくとも低減と、最終的には防止を可能にする限り、任意の適切な形状を有することができることがわかるであろう。
図1Bに示す凹部6はトレンチである。
【0073】
図2に、誘電体平坦化層5と、誘電体平坦化層5の第1の傾斜側壁7および第2の隣接傾斜側壁8と、凹部6を介してアクセス可能なInPベースの基板2の領域とを被覆するように配置された第1の誘電体保護層11を含む、本発明によるInPベースのPICの第2の例示の非限定的実施形態の一部の概略断面を示す。上述のように、このようにして、第1の誘電体保護層11および第1の誘電体保護層11の上面に付着される可能なさらなる誘電体層における機械的応力集中部の低減および/または機械的応力の再分散を実現することが可能である。
【0074】
第1の誘電体層11cは、たとえば塵埃粒子および湿気などの周囲環境汚染に対する周囲環境からの保護をPIC1に与えることができる。第1の誘電体保護層11は、0.5μmと100μmの間、好ましくは0.5μmと10μmの間の厚さを有することができる。このように、第1の誘電体保護層11の厚さは、環境汚染物の拡散を制限し、それによってPIC1の周囲環境からの保護を可能にするのに十分な厚さである必要がある。
【0075】
図3Aに、第2の光導波路4に対して設けられた電気接点と接触するように配置され、誘電体保護層5の上面に付着させた第1の誘電体保護層11の傾斜側壁に沿うように配置された金属トラック12を含む、本発明によるInPベースのPIC1の第3の例示の非限定的実施形態の一部の概略断面を示す。
【0076】
図3Aに示すPIC1の例示の実施形態では、金属層12は第1の誘電体保護層11の一部を覆っている。このようにして、寄生容量が低減された金属トラック12を設けることができる。当業者は、誘電体平坦化層5の厚さおよび/または第1の誘電体保護層11の厚さを厚くすることによって金属トラック12に関連する寄生容量をさらに低減することが可能であることがわかるであろう。
【0077】
図3Bに、光導波路3、4に対して設けられた電気接点と接触して配置され、誘電体平坦化層5の上に付着させた第1の誘電体保護層11の傾斜側壁に沿うように配置された金属トラック12を含む、本発明によるInPベースのPIC1の第4の例示の非限定的実施形態の一部の概略断面を示す。
【0078】
第1の誘電体保護層11が、下にある誘電体平坦化層5に設けられた凹部6を被覆する結果として生じた第1の誘電体保護層11の傾斜した第1の側壁と傾斜した第2の側壁とは、金属トラック12に良好なエッジカバレッジを与える。金属トラック12のこの改良されたエッジカバレッジの結果、本発明によるPIC1は、下にある層、この場合は誘電体平坦化層5と第1の誘電体保護層11の高低差の変化部における金属トラック12の断絶による障害が生じにくい。したがって、金属トラック12の信頼性を向上させることができ、したがってPIC1の全体としての性能を向上させることができる。
【0079】
図3Cに、光導波路3、4に対して設けられた電気接点と接触して配置され、凹部6を備える誘電体平坦化層5の上面に付着させた第1の誘電体保護層11の傾斜側壁に沿うように配置された金属トラック12の上面に付着させた、第2の誘電体保護層13を含む、本発明によるInPベースのPIC1の第5の例示の非限定的実施形態の一部の概略断面を示す。
【0080】
第2の誘電体保護層13を塗布することによって、塵埃粒子および/または湿気などの環境汚染物に対するPIC1の周囲環境保護をさらに向上させることができる。その結果、気密パッケージ化ではなく非気密パッケージ化にさらに依拠することが可能となり得る。
【0081】
図4Aに、誘電体平坦化層5が、鋸歯状パターン9、10を備える傾斜側壁7、8によって境界が定められた凹部6を備える、本発明によるInPベースのPIC1の第6の例示の非限定的実施形態の一部の概略断面を示す。凹部6は、InPベースの基板2の一領域へのアクセスをもたらす。
【0082】
図4Bに、
図4Aに示すInPベースのPIC1の第6の例示の非限定的実施形態の一部の概略上面図を示す。誘電体平坦化層5の第1の側壁7は、第1の側壁7がそれに従って少なくとも部分的に第1のInPベースの光導波路3に対して第1の角度βで配置されている規則的な鋸歯状パターン9を備える。誘電体平坦化層5の第2の側壁8も、第2の側壁8がそれに従って少なくとも部分的に第2のInPベースの光導波路4に対して第2の角度γで配置されている規則的な鋸歯状パターン10を備える。第1の角度βと第2の角度γは、10度と170度の間とすることができる。PIC1の特定の要件に応じて、第1の角度βと第2の角度γは、同じである場合も互いに異なる場合もあり得ることに留意されたい。
図4Bに示すPIC1の例示の実施形態では、第1の角度βと第2の角度γは同じである。同様の見解は、同じである場合も異なる場合もあり得る第1のパターン9と第2のパターン10についても成り立つ。
図4Bに示すPCI1の例示の実施形態では、第1のパターン9と第2のパターン10は同じである。
【0083】
上記のように、第1のパターン9と第2のパターン10は、誘電体平坦化層5の第1の側壁7に入射すると反射して第1のInPベースの光導波路3に戻される第1のInPベースの光導波路3から発する光放射の結果として第1のInPベースの光導波路3に発生する導波路内干渉をさらに低減することを可能にする。本発明によるPIC1の第2のInPベースの光導波路4に発生する導波路内干渉のさらなる低減についても同様の論法が成り立つ。
【0084】
図4Cに、誘電体平坦化層5が、波状パターン9、10を備える傾斜側壁7、8によって境界が定められた凹部6を備える、本発明によるInPベースのPIC1の第7の例示の非限定的実施形態の一部の概略上面図を示す。凹部6はInPベースの基板2の一領域へのアクセスをもたらす。
図4Bに示すPIC1の例示の実施形態に関して上述したのと同様の見解が、
図4に示すPIC1の例示の実施形態についても成り立つ。
【0085】
図5に、PIC1が気密パッケージ14を備える、本発明によるInPベースのPIC1の第8の例示の非限定的実施形態の概略断面を示す。上述のように、気密パッケージ14は、周囲環境からの保護、したがってPIC1の寿命を向上させることができる。当業者は、PIC1は非気密パッケージ(図示せず)を備えることも可能であることがわかるであろう。後者の場合もPIC1の周囲環境からの保護、したがって寿命を向上させることができるが、その程度はより小さくなる可能性がある。
【0086】
図6に、たとえば遠隔通信用途またはセンサ用途に使用可能であるがこれには限らない光電子システム20であって、本発明によるPIC1を含む光電子システム20の第1の例示の非限定的実施形態の概略図を示す。光電子システム20は、たとえば、送信器、受信器、送受信器、コヒーレント送信器、コヒーレント受信器、およびコヒーレント送受信器のうちの1つとすることができる。
【0087】
本発明は、第1のInPベースの光導波路3および隣接する第2のInPベースの光導波路4を備えるInPベースの基板2と、少なくとも第1の光導波路3と第2の光導波路4との間に配置された誘電体平坦化層5とを含む、フォトニック集積回路1に関するものとして要約することができる。少なくとも第1の光導波路3と第2の光導波路4との間において、誘電体平坦化層5が、誘電体平坦化層5を介して第1の光導波路3と第2の光導波路4との間の光学的相互作用を低減または防止するように配置された凹部6を備える。凹部6の場所において、誘電体平坦化層5は、第1の光導波路3に向かって傾斜させて配置された第1の側壁7と、第2の光導波路4に向かって傾斜させて配置された第2の側壁8とを有する。本発明は、前記PIC1を含む光電子システム20にも関する。
【0088】
当業者には、本発明の範囲は前述の実施例には限定されず、添付の特許請求の範囲によって定義されている本発明の範囲から逸脱することなくそのいくつかの修正および変更が可能であることは明らかであろう。具体的には、本発明の様々な態様の特定の特徴の組合せも可能である。本発明の一態様は、本発明の別の態様に関連して記載された特徴を加えることによってさらに有利に強化することも可能である。本発明について図面および明細書において図示し、詳細に説明したが、そのような図示および説明は、例示的であるかまたは例示に過ぎないものと見なされるべきであり、限定的であるものと見なされるべきではない。
【0089】
本発明は本開示の実施形態には限定されない。図面、明細書および添付の特許請求の範囲を検討すれば、特許請求される本発明の実施において、当業者は本開示の実施形態の変形を理解することができ、実施することができる。特許請求の範囲において、「含む」という用語は、他のステップまたは要素を排除せず、不定冠詞「a」または「an」は複数を排除しない。特定の手段が互いに異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組合せを有利に使用することができないことを示していない。特許請求の範囲における参照番号は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【符号の説明】
【0090】
1 フォトニック集積回路(PIC)
2 InPベースの基板
3 第1のInPベースの光導波路
4 第2のInPベースの光導波路
5 誘電体平坦化層
6 誘電体平坦化層に設けられた凹部
7 誘電体平坦化層の第1の側壁
8 誘電体平坦化層の第2の側壁
9 誘電体平坦化層の第1の側壁に対して設けられた第1のパターン
10 誘電体平坦化層の第2の側壁に対して設けられた第2のパターン
11 第1の誘電体保護層
12 金属層
13 第2の誘電体保護層
14 気密パッケージ
20 光電子システム
α InPベースの基板に対する第1の側壁および第2の側壁の傾斜角度
β 第1のInPベースの光導波路に対する第1の側壁の第1の角度
γ 第2のInPベースの光導波路に対する第2の側壁の第2の角度