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特許7431914アルカリ蓄電池用正極活物質及びアルカリ蓄電池用正極活物質の製造方法
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  • 特許-アルカリ蓄電池用正極活物質及びアルカリ蓄電池用正極活物質の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】アルカリ蓄電池用正極活物質及びアルカリ蓄電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20240207BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240207BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
H01M4/48
C01G53/00 A
H01M4/36 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022151723
(22)【出願日】2022-09-22
(62)【分割の表示】P 2019540971の分割
【原出願日】2018-09-05
(65)【公開番号】P2022180552
(43)【公開日】2022-12-06
【審査請求日】2022-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2017173896
(32)【優先日】2017-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】安田 太樹
(72)【発明者】
【氏名】畑 未来夫
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-320737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/48
C01G 53/00
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともニッケルと固溶したコバルトを含む水酸化物粒子と、該水酸化物粒子を被覆する、コバルトを含む被覆層と、を有し、前記被覆層に含まれるコバルトおよび前記水酸化物粒子に含まれるコバルトが、X線回折測定で得られる回折パターンの2θで表される回折角度65°~66°の間に回折ピークを有し、
前記被覆層に含まれるコバルトおよび前記水酸化物粒子に含まれるコバルトの前記回折ピークが、CoHOで表される3価のコバルト化合物由来であるアルカリ蓄電池用正極活物質。
【請求項2】
[累積体積百分率が90.0体積%の前記アルカリ蓄電池用正極活物質の二次粒子径(D90)-累積体積百分率が10.0体積%の前記アルカリ蓄電池用正極活物質の二次粒子径(D10)]/累積体積百分率が50.0体積%の前記アルカリ蓄電池用正極活物質の二次粒子径(D50)が、0.80以上1.10以下である請求項1に記載のアルカリ蓄電池用正極活物質。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアルカリ蓄電池用正極活物質を有する正極。
【請求項4】
請求項3に記載の正極を備えたアルカリ蓄電池。
【請求項5】
少なくともニッケルと固溶したコバルトを含む水酸化物粒子を含有する懸濁物にコバルト塩溶液とアルカリ溶液とを供給して、前記水酸化物粒子の表面にコバルトを含む被覆を形成して、被覆が形成された水酸化物粒子を得る被覆工程と、
前記被覆が形成された水酸化物粒子を含有する懸濁物に酸化触媒を接触させながら、前記被覆が形成された水酸化物粒子を含有する懸濁物に、マイクロバブル発生装置にて酸素を含む気体を供給して、前記被覆に含まれるコバルトと前記水酸化物粒子に含まれる固溶したコバルトの少なくとも一部を酸化する酸化工程と、
を含むアルカリ蓄電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記酸素を含む気体の平均直径が、1.0μm以上50μm以下である請求項5に記載のアルカリ蓄電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記被覆が形成された水酸化物粒子を含有する懸濁物の体積に対する、前記被覆が形成された水酸化物粒子を含有する懸濁物に供給される前記酸素を含む気体の酸素量(体積)の割合が、1.00以上2.55以下である請求項5または6に記載のアルカリ蓄電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記酸化触媒が、鉄、ニッケル及びクロムからなる群から選択された少なくとも1種の金属及び/または該金属のイオンを含む請求項5乃至7のいずれか1項に記載のアルカリ蓄電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ蓄電池の正極に用いる正極活物質、特に、過放電耐性と高温耐性に優れたアルカリ蓄電池用正極活物質、該正極活物質の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大電流放電や低温特性に優れ、長寿命である等の特徴から、車両等、広汎な分野でアルカリ蓄電池が使用されている。アルカリ蓄電池の正極活物質としては、例えば、水酸化ニッケル粒子が使用されている。
【0003】
一方で、アルカリ蓄電池にも、他の蓄電池と同様に、利用率の向上が要求されており、また、過放電耐性や、長期にわたって高温条件下で保管された後であっても優れた放電容量が得られる特性(以下、「高温耐性」ということがある。)も要求されている。
【0004】
そこで、アルカリ蓄電池の利用率を向上させるために、水酸化ニッケル粒子の表面が水酸化コバルト層で被覆され、該水酸化コバルト層のコバルトが主に2価のコバルトからなるアルカリ蓄電池の正極活物質が提案されている(特許文献1)。また、アルカリ蓄電池の自己放電を抑制するために、水酸化ニッケル粒子の表面がオキシ水酸化コバルト層で被覆され、該オキシ水酸化コバルト層のコバルト価数が2.1~3.0価のコバルト化合物からなるアルカリ蓄電池の正極活物質が提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかし、特許文献1や特許文献2の正極活物質にて、良好な利用率と自己放電特性を有するアルカリ蓄電池は得られるものの、過放電耐性や高温耐性において更なる改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-320735号公報
【文献】特開平2014-169201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、過放電耐性と高温耐性に優れたアルカリ蓄電池用正極活物質、及び該正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様は、少なくともニッケルと固溶したコバルトを含む水酸化物粒子(以下、「ニッケルを含む水酸化物粒子」ということがある。)と、該水酸化物粒子を被覆する、コバルトを含む被覆層と、を有し、前記被覆層に含まれるコバルトおよび前記水酸化物粒子に含まれるコバルトが、X線回折測定で得られる回折パターンの2θで表される回折角度65°~66°の間に回折ピークを有するアルカリ蓄電池用正極活物質である。
【0009】
本発明の態様は、前記回折ピークが、CoHOで表される3価のコバルト化合物由来であるアルカリ蓄電池用正極活物質である。
【0010】
本発明の態様は、前記水酸化物粒子に含まれるコバルトのうち、3価のコバルトの含有率が30質量%以上であるアルカリ蓄電池用正極活物質である。
【0011】
本発明の態様は、累積体積百分率が90.0体積%以上の二次粒子径(≧D90)の、水酸化物粒子に含まれる前記3価のコバルトの含有率に対する、累積体積百分率が10.0体積%以下の二次粒子径(≦D10)の、水酸化物粒子に含まれる前記3価のコバルトの含有率の割合が、1.20以上であるアルカリ蓄電池用正極活物質である。
【0012】
本発明の態様は、[累積体積百分率が90.0体積%の前記アルカリ蓄電池用正極活物質の二次粒子径(D90)-累積体積百分率が10.0体積%の前記アルカリ蓄電池用正極活物質の二次粒子径(D10)]/累積体積百分率が50.0体積%の前記アルカリ蓄電池用正極活物質の二次粒子径(D50)が、0.80以上1.10以下であるアルカリ蓄電池用正極活物質である。
【0013】
本発明の態様は、上記したアルカリ蓄電池用正極活物質を有する正極である。
【0014】
本発明の態様は、上記した正極を備えたアルカリ蓄電池である。
【0015】
本発明の態様は、少なくともニッケルと固溶したコバルトを含む水酸化物粒子を含有する懸濁物にコバルト塩溶液とアルカリ溶液とを供給して、前記水酸化物粒子の表面にコバルトを含む被覆を形成して、被覆が形成された水酸化物粒子を得る被覆工程と、前記被覆が形成された水酸化物粒子を含有する懸濁物に酸化触媒を接触させながら、前記被覆が形成された水酸化物粒子を含有する懸濁物に、マイクロバブル発生装置にて酸素を含む気体を供給して、前記被覆に含まれるコバルトと前記水酸化物粒子に含まれる固溶したコバルトの少なくとも一部を酸化する酸化工程と、を含むアルカリ蓄電池用正極活物質の製造方法である。
【0016】
本発明の態様は、前記酸素を含む気体の平均直径が、1.0μm以上50μm以下であるアルカリ蓄電池用正極活物質の製造方法である。
【0017】
本発明の態様は、前記被覆が形成された水酸化物粒子を含有する懸濁物の体積に対する、前記被覆が形成された水酸化物粒子を含有する懸濁物に供給される前記酸素を含む気体の酸素量(体積)の割合が、1.00以上2.55以下であるアルカリ蓄電池用正極活物質の製造方法である。
【0018】
本発明の態様は、前記酸化触媒が、鉄、ニッケル及びクロムからなる群から選択された少なくとも1種の金属及び/または該金属のイオンを含むアルカリ蓄電池用正極活物質の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の態様によれば、ニッケルと固溶したコバルトを含む水酸化物粒子のコバルトと該水酸化物粒子を被覆するコバルトを含む被覆層のコバルトが、X線回折測定で得られる回折パターンの2θで表される回折角度65°~66°の間に回折ピークを有することにより、過放電耐性と高温耐性に優れたアルカリ蓄電池用正極活物質を得ることができる。
【0020】
本発明の態様によれば、ニッケルを含む水酸化物粒子に含まれるコバルトのうち、3価のコバルトの含有率が30質量%以上であることにより、アルカリ蓄電池の過放電耐性と高温耐性がさらに向上する。
【0021】
本発明の態様によれば、累積体積百分率が90.0体積%以上の二次粒子径の、水酸化物粒子に含まれる3価のコバルトの含有率に対する、累積体積百分率が10.0体積%以下の二次粒子径の、水酸化物粒子に含まれる3価のコバルトの含有率の割合が、1.20以上であることにより、さらに優れた過放電耐性と高温耐性を得ることができる。
【0022】
本発明の態様によれば、[累積体積百分率が90.0体積%のアルカリ蓄電池用正極活物質の二次粒子径-累積体積百分率が10.0体積%のアルカリ蓄電池用正極活物質の二次粒子径]/累積体積百分率が50.0体積%のアルカリ蓄電池用正極活物質の二次粒子径が0.80以上1.10以下であることにより、良好な体積容量密度を得つつ、反応抵抗の増加を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実験例1、実験例2及びオキシ水酸化コバルトの、X線回折測定の回折パターンを示すグラフである。
図2図1の回折パターンを示すグラフの部分拡大図である。
図3】実施例、比較例及びオキシ水酸化コバルトの、X線回折測定の回折パターンを示すグラフである。
図4図3の回折パターンを示すグラフの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明のアルカリ蓄電池用正極活物質について、詳細を説明する。
【0025】
本発明のアルカリ蓄電池用正極活物質は、少なくともニッケルと固溶したコバルトを含む水酸化物粒子と、該水酸化物粒子を被覆する、コバルトを含む被覆層と、を有し、前記被覆層に含まれるコバルトと水酸化物粒子に固溶したコバルトが、X線回折測定で得られる回折パターンの2θで表される回折角度65°~66°の間に回折ピークを有する。本発明のアルカリ蓄電池用正極活物質は、コア粒子として、ニッケル(Ni)を含む水酸化物の粒子を有し、前記コア粒子がコバルトを含む被覆層で被覆されている。従って、本発明のアルカリ蓄電池用正極活物質は、コア・シェル構造を有した粒子であり、ニッケルを含む水酸化物粒子のコアとコバルトを含む化合物のシェルを有する、コバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子となっている。
【0026】
前記アルカリ蓄電池用正極活物質の形状は、特に限定されないが、例えば、略球形を挙げることができる。
【0027】
また、本発明のアルカリ蓄電池用正極活物質であるコバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子は、例えば、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子の態様である。コバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子の粒度分布は、特に限定されないが、例えば、累積体積百分率が50体積%の二次粒子径D50(以下、「D50」ということがある。)の下限値は、4.0μmが好ましく、6.0μmがより好ましく、さらに優れた過放電耐性と高温耐性を得る点から、9.0μmがさらに好ましく、10μmが特に好ましい。一方で、コバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子のD50の上限値は、密度の向上と電解液との接触面を確保することのバランスの点から、15.0μmが好ましく、12.5μmが特に好ましい。なお、上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。
【0028】
コバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子のBET比表面積は、特に限定されないが、例えば、密度の向上と電解液との接触面を確保することのバランスの点から、下限値は5.0m/gが好ましく、10.0m/gが特に好ましく、上限値は30.0m/gが好ましく、25.0m/gが特に好ましい。なお、上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。
【0029】
コバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子のタップ密度は、特に限定されないが、例えば、正極活物質として使用した際における充填度の向上の点から、1.5g/cm以上が好ましく、1.7g/cm以上が特に好ましい。
【0030】
コバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子のバルク密度は、特に限定されないが、例えば、正極活物質として使用した際における充填度の向上の点から0.8g/cm以上が好ましく、1.0g/cm以上が特に好ましい。
【0031】
本発明のアルカリ蓄電池用正極活物質は、上記の通り、ニッケルとコバルトを含む水酸化物粒子の表面にコバルトを含む被覆層が形成された、コバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子である。コバルトを含む被覆層は、コバルトを含む化合物を含有している。また、コバルトを含む被覆層は、ニッケルを含む水酸化物粒子の表面全体を被覆してもよく、ニッケルを含む水酸化物粒子の表面の一部領域を被覆していてもよい。
【0032】
コバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子中における、コバルトを含む被覆層のコバルトの質量割合は、特に限定されないが、その下限値は、過放電耐性と高温耐性をより向上させる点から、1.0質量%が好ましく、2.0質量%が特に好ましい。一方で、コバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子中における、コバルトを含む被覆層のコバルトの質量割合の上限値は5.0質量%が好ましく、4.0質量%が特に好ましい。なお、上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。
【0033】
また、コバルトを含む被覆層のコバルトは3価のコバルトである。
【0034】
3価のコバルトの化学構造としては、例えば、オキシ水酸化コバルト(CoHO)(本明細書では、単に、「オキシ水酸化コバルト」または「CoHO」と表記することがある。)を挙げることができる。
【0035】
3価のコバルトを含む被覆層およびニッケルを含む水酸化物粒子に含まれるコバルトは、X線回折測定で得られる回折パターンの2θで表される回折角度65°~66°の間に回折ピークを有する。前記回折ピークは、主に、オキシ水酸化コバルト(CoHO)に由来するものである。
【0036】
ニッケル(Ni)を含む水酸化物粒子としては、ニッケル(Ni)と固溶したコバルト(Co)とを粒子中に含むものであれば、特に限定されないが、例えば、水酸化ニッケルにコバルトが固溶した粒子、ニッケル(Ni)と他の遷移金属元素(例えば、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)及びアルミニウム(Al)からなる群から選択された少なくとも1種の遷移金属元素)とを含む水酸化物にコバルトが固溶した粒子等を挙げることができる。
【0037】
コバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子中における、ニッケルを含む水酸化物粒子中のニッケルの含有量は、特に限定されないが、その下限値は、40質量%が好ましく、45質量%がより好ましく、50質量%が特に好ましい。一方で、コバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子中における、ニッケルを含む水酸化物粒子中のニッケルの含有量の上限値は、60質量%が好ましく、57質量%が特に好ましい。なお、上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。
【0038】
上記したニッケルを含む水酸化物粒子では、過放電耐性と高温耐性をバランスよく向上させる点から、固溶したコバルトを含んでいる。コバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子中における、ニッケルを含む水酸化物粒子に固溶したコバルト量は、特に限定されないが、その下限値は、過放電耐性と高温耐性をより向上させる点から、0.10質量%が好ましく、0.20質量%がより好ましく、0.50質量%が特に好ましい。一方で、コバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子中における、ニッケルを含む水酸化物の粒子に固溶したコバルト量の上限値は、5.0質量%が好ましく、3.0質量%がより好ましく、2.0質量%が特に好ましい。なお、上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。
【0039】
また、ニッケルを含む水酸化物粒子に固溶したコバルトのうち、過放電耐性と高温耐性の点から、少なくとも一部は3価のコバルトであることが好ましい。ニッケルを含む水酸化物粒子に固溶したコバルトのうち、3価のコバルトの含有率は、特に限定されないが、その下限値は、過放電耐性と高温耐性をより向上させる点から、30質量%が好ましく、35質量%がより好ましく、40質量%が特に好ましい。一方で、ニッケルを含む水酸化物粒子に固溶したコバルトのうち、3価のコバルトの含有率の上限値は、酸化に要する工程時間の点から80質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、60質量%が特に好ましい。なお、上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。
【0040】
ニッケルを含む水酸化物粒子に固溶した3価のコバルトの化学構造としては、例えば、オキシ水酸化コバルト(CoHO)を挙げることができる。
【0041】
上記のように、ニッケルを含む水酸化物粒子にオキシ水酸化コバルトが固溶している場合には、ニッケルを含む水酸化物粒子も、オキシ水酸化コバルトを含む被覆層と同様に、X線回折測定で得られる回折パターンの2θで表される回折角度65°~66°の間に回折ピークを有する。
【0042】
ニッケルを含む水酸化物粒子に固溶したコバルトのうち、3価のコバルト以外のコバルトとしては、例えば、2価のコバルトを挙げることができる。2価のコバルトの化学構造としては、例えば、水酸化コバルト(Co(OH))を挙げることができる。
【0043】
ニッケルを含む水酸化物粒子の形状は、特に限定されないが、例えば、略球形を挙げることができる。
【0044】
本発明のアルカリ蓄電池用正極活物質であるコバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子について、累積体積百分率が90.0体積%以上の二次粒子径≧D90(以下、「≧D90」または「D90以上」ということがある。)における、ニッケルを含む水酸化物粒子に固溶した3価のコバルトの含有率に対する、累積体積百分率が10.0体積%以下の二次粒子径≦D10(以下、「≦D10」または「D10以下」ということがある。)における、ニッケルを含む水酸化物粒子に固溶した3価のコバルトの含有率の割合は、特に限定されないが、例えば、優れた過放電耐性と高温耐性を得る点から、1.20以上が好ましく、1.30以上がより好ましく、1.40以上が特に好ましい。なお、上記固溶した3価のコバルトの含有率割合の上限値として、例えば、2.50を挙げることができる。
【0045】
D10以下の粒子における、ニッケルを含む水酸化物粒子に固溶したコバルトのうち、3価のコバルトの含有率は、特に限定されないが、過放電耐性と高温耐性をより向上させる点から、40質量%~100質量%が好ましく、50質量%~100質量%がより好ましく、60質量%~100質量%が特に好ましい。
【0046】
D90以上の粒子における、ニッケルを含む水酸化物粒子に固溶したコバルトのうち、3価のコバルトの含有率の上限値は、特に限定されないが、過放電耐性と高温耐性をより向上させつつ反応の均一性を確保する点から、50質量%が好ましく、45質量%が特に好ましい。一方で、上記固溶したコバルトのうち、3価のコバルトの含有率の下限値は、過放電耐性と高温耐性をより向上させる点から5質量%が好ましく、10質量%が特に好ましい。なお、上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。
【0047】
本発明のアルカリ蓄電池用正極活物質の粒度分布の広がりを示す指標である〔(累積体積百分率が90体積%の二次粒子径D90(以下、「D90」ということがある。)-累積体積百分率が10体積%の二次粒子径D10(以下、「D10」ということがある。))/D50〕は、特に限定されないが、例えば、その下限値は、アルカリ蓄電池として、良好な体積容量密度を得る点から0.80が好ましく、0.85が特に好ましい。一方で、〔(D90-D10)/D50〕の上限値は、アルカリ蓄電池用正極活物質の局所的な反応に起因する微粒子の選択的な劣化や電解液とアルカリ蓄電池用正極活物質との反応面積が十分に取れずに反応抵抗が増加するのを防ぐ点から1.10が好ましく、1.05が特に好ましい。なお、上記した下限値、上限値は、任意で組み合わせることができる。
【0048】
次に、本発明のアルカリ蓄電池用正極活物質の製造方法例について説明する。
【0049】
上記製造方法としては、例えば、少なくともニッケルと固溶したコバルトを含む水酸化物粒子を含有する懸濁物(例えば、水懸濁物)にコバルト塩溶液とアルカリ溶液とを供給して、ニッケルを含む水酸化物粒子の表面にコバルトを含む被覆を形成して、被覆が形成されたニッケルを含む水酸化物粒子を得る被覆工程と、被覆が形成されたニッケルを含む水酸化物粒子を含有する懸濁物(例えば、水懸濁物)に、酸化触媒を接触させながら、被覆が形成されたニッケルを含む水酸化物粒子を含有する懸濁物に、マイクロバブル発生装置にて酸素を含む気体を供給して、前記被覆に含まれるコバルトと水酸化物粒子に含まれるコバルトを酸化する酸化工程と、を含む。
【0050】
以下に、上記した製造方法例の詳細を説明する。先ず、共沈法により、ニッケルとコバルトの塩溶液(例えば、硫酸塩溶液)またはニッケルとコバルトと他の遷移金属元素(例えば、マグネシウム、マンガン、亜鉛及び/またはアルミニウム)の塩溶液(例えば、硫酸塩溶液)と錯化剤を反応させて、ニッケルを含む水酸化物粒子(例えば、水酸化ニッケルに2価のコバルトが固溶した粒子、ニッケルと他の遷移金属元素(例えば、マグネシウム、マンガン、亜鉛及び/またはアルミニウム)とを含む水酸化物に2価のコバルトが固溶した粒子)を製造して、ニッケルを含む水酸化物粒子を含むスラリー状の懸濁物を得る。上記の通り、懸濁物の溶媒としては、例えば、水が使用される。
【0051】
錯化剤としては、水溶液中で、ニッケル、コバルト及び上記他の遷移金属元素のイオンと錯体を形成可能なものであれば、特に限定されず、例えば、アンモニウムイオン供給体(硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。なお、沈殿に際しては、水溶液のpH値を調整するため、必要に応じて、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)を添加してもよい。
【0052】
上記塩溶液に加えて、錯化剤を反応槽に連続して供給すると、ニッケル、コバルト及び上記他の遷移金属元素が反応し、ニッケルを含む水酸化物粒子が製造される。反応に際しては、反応槽の温度を、例えば、10℃~80℃、好ましくは20~70℃の範囲内で制御し、反応槽内のpH値を液温25℃基準で、例えば、pH9~pH13、好ましくはpH11~13の範囲内で制御しつつ、反応槽内の物質を、適宜、撹拌する。反応槽としては、例えば、形成されたニッケルを含む水酸化物粒子を分離するためにオーバーフローさせる、連続式を挙げることができる。
【0053】
次に、ニッケルを含む水酸化物粒子を含む懸濁物に、コバルト塩溶液(例えば、硫酸コバルトの水溶液等)と、必要に応じて他の遷移金属元素(例えば、マグネシウム、マンガン、亜鉛及び/またはアルミニウム)の塩溶液(例えば、硫酸塩溶液)と、アルカリ溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液等)と、を撹拌機で撹拌しながら添加して、中和晶析により、ニッケルを含む水酸化物粒子の表面に、水酸化コバルト等、コバルトの価数が2価であるコバルト化合物を主成分とする被覆層を形成する。上記被覆層を形成させる工程のpHを液温25℃基準で、9~13の範囲に維持することが好ましい。上記被覆工程により、コバルトを含む被覆層が形成されたニッケルを含む水酸化物粒子を得ることができる。コバルトを含む被覆層が形成されたニッケルを含む水酸化物粒子は、スラリー状の懸濁物として得ることができる。
【0054】
次に、被覆層が形成されたニッケルを含む水酸化物粒子を含有する懸濁物を撹拌機で撹拌しながら、酸化触媒の存在下で、マイクロバブル発生装置にて酸素を含む気体を供給して、被覆層が形成されたニッケルを含む水酸化物粒子中の2価のコバルトを酸化し、3価のコバルトとする。
【0055】
酸化触媒としては、例えば、鉄、ニッケル及びクロムからなる群から選択された少なくとも1種の金属及び/または該金属のイオンを含む化合物を挙げることができ、具体例としては、ステンレス鋼を挙げることができる。
【0056】
マイクロバブル発生装置にて供給される酸素を含む気体(気泡)の平均直径は、特に限定されないが、例えば、1.0μm以上50μm以下が好ましく、2.0μm以上30μm以下が特に好ましい。酸化触媒との接触と気泡の平均直径を上記範囲に制御することにより、被覆層に含まれる2価のコバルトを3価のコバルトに酸化することができるだけではなく、ニッケルを含む水酸化物粒子に固溶した2価のコバルトも、より確実に3価のコバルトに酸化することができる。酸素を含む気体としては、酸素からなる気体、空気等の酸素と他の元素とを含む気体を挙げることができる。
【0057】
マイクロバブル発生装置としては、例えば、エンバイロ・ビジョン社のYJノズルを挙げることができる。
【0058】
被覆層が形成されたニッケルを含む水酸化物粒子を含有する懸濁物の体積に対する、被覆層が形成されたニッケルを含む水酸化物粒子を含有する懸濁物に供給される酸素を含む気体の酸素量(体積)割合は、特に限定されないが、例えば、1.00以上2.55以下に調整する。上記範囲とすることにより、ニッケルを含む水酸化物粒子に固溶した2価のコバルトを、効率よく且つ確実に3価のコバルトに酸化することができる。
【0059】
また、必要に応じて、上記酸化工程後に、酸化処理された、被覆層が形成されたニッケルを含む水酸化物粒子を含有する懸濁物を、固相と液相に分離して、液相から分離された固相を乾燥する工程を、さらに含んでもよい。また、固相を乾燥する前に、必要に応じて、固相を弱アルカリ水で洗浄してもよい。また、所望の効果(高温特性や導電性向上、導電ネットワークの維持)を得るため、必要に応じて、他の金属元素(例えば、イッテルビウム、イットリウム、ジルコニウム、タングステン、モリブデン、ニオブ、チタン、マグネシウム、マンガン、亜鉛及び/またはアルミニウム)の化合物(例えば、酸化物)を公知の方法で加えてもよい。
【0060】
次に、本発明のアルカリ蓄電池用正極活物質を用いた正極、該正極を用いたアルカリ蓄電池について説明する。アルカリ蓄電池は、上記した本発明のアルカリ蓄電池用正極活物質を用いた正極と、負極と、アルカリ性の電解液と、セパレータとを備える。
【0061】
正極は、正極集電体と、正極集電体表面に形成された正極活物質層を備える。正極活物質層は、アルカリ蓄電池用正極活物質とバインダー(結着剤)、必要に応じて導電助剤とを有する。導電助剤としては、例えば、アルカリ畜電池のために使用できるものであれば特に限定されないが、金属コバルトや酸化コバルト等を用いることができる。バインダーとしては、特に限定されないが、ポリマー樹脂、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ブタジエンゴム(BR)、ポリビニルアルコール(PVA)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等、並びにこれらの組み合わせを挙げることができる。正極集電体としては、特に限定されないが、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金網、発泡金属、例えば発泡ニッケル、網状金属繊維焼結体、金属メッキ樹脂板などを挙げることが出来る。
【0062】
正極の製造方法としては、例えば、先ず、アルカリ蓄電池用正極活物質と導電助剤と結着剤と水とを混合して正極活物質スラリーを調製する。次いで、上記正極活物質スラリーを正極集電体に、公知の充填方法で充填して乾燥後、プレス等にて圧延・固着する。
【0063】
負極は、負極集電体と負極集電体表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層を備える。負極活物質としては、通常使用されるものであれば特に限定されないが、例えば、水素吸蔵合金粒子、酸化カドミウム粒子、水酸化カドミウム粒子等を使用することができる。負極集電体としては、正極集電体と同じ材料である、ニッケル、アルミニウム、ステンレス等の導電性の金属材料を使用することができる。
【0064】
また、負極活物質層には、必要に応じて、導電助剤、バインダー等がさらに添加されてもよい。導電助剤、バインダーとしては、上記正極活物質層に使用されるものと同様のものが挙げられる。
【0065】
負極の製造方法としては、例えば、先ず、負極活物質と、必要に応じて導電助剤と結着剤と、水とを混合して負極活物質スラリーを調製する。次いで、上記負極活物質スラリーを負極集電体に、公知の充填方法で充填し、乾燥後、プレス等にて圧延・固着する。
【0066】
アルカリ性の電解液としては、例えば、溶媒としては水を挙げることができ、溶媒に溶解させる溶質としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムを挙げることができる。上記溶質は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
セパレータとしては、特に限定されないが、ポリオレフィン不織布、例えばポリエチレン不織布及びポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布、並びにそれらを親水性処理したものを挙げることができる。
【実施例
【0068】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0069】
先ず、被覆層を有さない水酸化コバルト粒子の懸濁液、水酸化コバルトの被覆層を有する水酸化ニッケル粒子の懸濁液を、それぞれ、撹拌しながら、酸化触媒であるステンレス鋼に接触させ、さらに空気を供給して、酸化処理を行い、水酸化コバルトをオキシ水酸化コバルトとした。なお、上記懸濁液を固液分離・乾燥して得られる粒子にアルカリを添加して加熱する酸化処理では、γ-オキシ水酸化コバルトとなるところ、上記酸化処理を行うことにより、化学式CoHOで表されるオキシ水酸化コバルトとすることができる。酸化処理された、被覆層を有さない水酸化コバルト粒子(実験例1)、酸化処理された、水酸化コバルトの被覆層を有する水酸化ニッケル粒子(実験例2)の物性を、下記表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
実験例1、実験例2のサンプルとオキシ水酸化コバルトについて、X線回折測定を行って回折ピークを分析した。
X線回折測定は、X線回折装置(リガク社製、UltimaIV)を用い、下記条件にて測定を行った。
X線:CuKα/40kV/40mA
スリット:発散=1/2°,受光=開放 , 散乱=8.0mm
サンプリング幅:0.03スキャンスピード:20°/min
【0072】
実験例1、実験例2のサンプルとオキシ水酸化コバルトについて、X線回折測定の結果を図1図2に示す。
【0073】
図1図2に示すように、実験例1、実験例2のサンプル及びオキシ水酸化コバルトでは、いずれも、回折パターンの2θで表される回折角度65°~66°の間に回折ピークが認められた。従って、2θで表される回折角度65°~66°の間における回折ピークは、オキシ水酸化コバルト(すなわち、化学式CoHOで表される3価のコバルト)特有のピークであることが確認できた。
【0074】
実施例1
コバルトの固溶したニッケルを含む水酸化物粒子の合成
硫酸マグネシウムと硫酸コバルトと硫酸ニッケルとを所定割合にて溶解した水溶液に、硫酸アンモニウム水溶液(錯化剤)と水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、反応槽内のpHを液温25℃基準で12.0に維持しながら、撹拌機により連続的に撹拌した。生成した水酸化物は反応槽のオーバーフロー管からオーバーフローさせて取り出した。取り出した上記水酸化物に、水洗、脱水、乾燥の各処理を施して、コバルトの固溶したニッケルを含む水酸化物粒子を得た。
【0075】
コバルトを含む被覆層の形成
上記のようにして得られたコバルトの固溶したニッケルを含む水酸化物粒子を、水酸化ナトリウムでpHを液温25℃基準で9~13の範囲に維持した反応浴中のアルカリ水溶液に投入した。投入後、該溶液を撹拌しながら、濃度90g/Lの硫酸コバルト水溶液を滴下した。この間、水酸化ナトリウム水溶液を適宜滴下して、反応浴のpHを液温25℃基準で9~13の範囲に維持して、前記水酸化物粒子の表面に水酸化コバルトの被覆層を形成させて、水酸化コバルトで被覆された、コバルトの固溶したニッケルを含む水酸化物粒子の懸濁液を得た。
【0076】
水酸化コバルトで被覆された、コバルトの固溶したニッケルを含む水酸化物粒子の酸化処理
上記のようにして得られた、水酸化コバルトで被覆された、コバルトの固溶したニッケルを含む水酸化物粒子の懸濁液を撹拌しながら、酸化触媒であるステンレス鋼と接触させ、マイクロバブル発生装置(エンバイロ・ビジョン社、「YJノズル」)にて直径50μm以下の空気をさらに懸濁液に供給して、酸化処理を行った。また、水酸化コバルトで被覆された、コバルトの固溶したニッケルを含む水酸化物粒子の懸濁液の体積に対する、空気中に含まれる酸素の体積の割合が、1.28となるように、空気を上記懸濁液に供給した。上記酸化処理にて、ニッケルを含む水酸化物粒子に固溶したコバルトと被覆層の水酸化コバルトを酸化して、それぞれ、3価のコバルトであるオキシ水酸化コバルトとした。
【0077】
固液分離及び乾燥処理
次に、酸化処理された懸濁液に、水洗、脱水、乾燥の各処理を施して、実施例1のコバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子を得た。実施例1のコバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子の物性について、下記表2に示す。なお、表2の各実施例及び比較例においては、被覆層のコバルトが全て3価のコバルトに酸化された後に、ニッケルを含む水酸化物粒子に固溶したコバルトが酸化されるものとして「水酸化物粒子中に固溶した酸化されたコバルト(Co(III))」の量を特定した。実施例1のコバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子の物性について、下記表2に示す。
【0078】
実施例2
実施例1にて反応槽内のpHを液温25℃基準で12.0に維持したことに代えて、反応槽内のpHを液温25℃基準で12.2に維持したことで、実施例1の粒度分布とは異なる粒度分布を有する実施例2のコバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子を得た。実施例2のコバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子の物性について、下記表2に示す。
【0079】
比較例1
酸化処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1のサンプルを作製した。比較例1のサンプルの物性について、下記表2に示す。
【0080】
比較例2
実施例1の上記酸化処理に代えて、水酸化コバルトで被覆された、コバルトの固溶したニッケルを含む水酸化物粒子の懸濁液を固液分離し、乾燥した粒子100gに、48質量%水酸化ナトリウム水溶液を10g添加して混合し、100℃で加熱する酸化処理を行った以外は、実施例1と同様にして、比較例2のサンプルを作製した。比較例2のサンプルの物性について、下記表2に示す。
【0081】
比較例3
酸化処理において、実施例1にて酸化触媒であるステンレス鋼と接触させ、マイクロバブル発生装置(エンバイロ・ビジョン社、「YJノズル」)にて直径50μm以下の空気を懸濁液に供給したことに代えて、酸化触媒、マイクロバブル発生装置を使用せずに空気を供給して酸化処理したことで、ニッケルを含む水酸化物粒子に固溶したコバルトは酸化させずに、被覆層の水酸化コバルトのみを酸化した、比較例3のコバルト含有化合物で被覆された水酸化物粒子を得た。比較例3のコバルト含有化合物で被覆された水酸化物粒子の物性について、下記表2に示す。
【0082】
表2中、
成分組成は、ICP発光分析装置(パーキンエルマ―社、Optima(登録商標)8300)を用いて分析した。コバルト含有化合物被覆ニッケル含有水酸化物粒子のCo含量からコバルトの固溶したニッケルを含む水酸化物粒子のCo含量を差し引いた値を被覆層のCo含量とした。
BET比表面積は、比表面積測定装置(マウンテック社、Macsorb(登録商標))を用い、1点BET法によって測定した。
分級機として、分級装置(日鉄鉱業社、エルボージェット分級装置EJ-L-3)を用い、分級エッジ距離Mを41.0mm、分級エッジ距離Fを30.0mm、エアー圧力を0.5Mpaで設定し、測定粒子をフィードエアで送り、分級した。
D5、D10、D50、D90、D95は、粒度分布測定装置(堀場製作所社、LA-950)で測定した(原理はレーザ回折・散乱法)。また、粒度分布幅(D90-D10)/D50の値は、D10、D50、D90の前記測定値から算出した。
Co(III)量は、ヨウ化カリウムとチオ硫酸ナトリウムを用いたヨウ素滴定によって分析した。
【0083】
【表2】
【0084】
実施例1~2、比較例1、2、3及びオキシ水酸化コバルトについて、X線回折測定を行って回折ピークを分析した。X線回折測定は、上記実験例1、実験例2と同様に行った。
【0085】
実施例1、2、比較例1、2、3及びオキシ水酸化コバルトについて、X線回折測定の結果を図3図4に示す。
【0086】
図3図4に示すように、実施例1、2、比較例3では、いずれも、回折パターンの2θで表される回折角度65°~66°の間に回折ピークが認められた。従って、実施例1~2では、ニッケルを含む水酸化物粒子に固溶したコバルトの少なくとも一部は、3価のコバルトであるオキシ水酸化コバルトとして固溶し、また、実施例1、2、比較例3では、被覆層がオキシ水酸化コバルトを有することが確認できた。一方で、比較例1、2では、2θで表される回折角度65°~66°の間に回折ピークが認められなかった。
【0087】
実施例1、2のうち、D10以下、D50、D90以上のサンプルの物性について、下記表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
正極の作製
固形分質量比で、正極活物質である各実施例または比較例の粒子:バインダーとしてのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン):水=80:10:10となる量にて、正極活物質とPTFEと水とを混合することにより、スラリー状の組成物を作製した。こうして作製したスラリー状の組成物を、発泡ニッケル(集電体)に充填して乾燥後に圧延することにより、各正極を作製した。
【0090】
評価セルの作製
上記各実施例または各比較例のサンプルを添加した正極を用い、負極に水素吸蔵合金を、セパレータにポリエチレン及びポリプロピレンから構成されているポリオレフィン不織布を、それぞれ用いた。さらに、電解液として6mol/LのKOHを含む電解液を用い、評価セルを組み上げ、下記項目を評価した。
【0091】
(1)過放電耐性試験
上記評価セルを25℃にて12時間保管の後、0.2Cにて6時間充電し、その後、0.2Cで1.0Vまで放電した。この操作を10回繰り返して活性化した。活性化後のセルに10Ωの抵抗を接続し、40℃にて5日間保管した。保管後のセルを25℃まで放冷し、0.2Cにて6時間充電の後、0.2Cで1.0Vまで放電した時の放電容量を測定した。抵抗接続後の放電容量と活性化完了時の放電容量比を容量維持率とし、実施例1の容量維持率を100.0%としたときの実施例2、比較例1~3の容量維持率を相対容量維持率とした。
【0092】
(2)高温耐性試験
上記評価セルを25℃にて12時間保管の後、0.2Cにて6時間充電し、その後、0.2Cで1.0Vまで放電した。この操作を10回繰り返して活性化した。活性化後のセルを60℃にて1週間保管した。保管後のセルを25℃まで放冷し、0.2Cにて6時間充電の後、0.2Cで1.0Vまで放電した時の放電容量を測定した。60℃保管後の放電容量と活性化完了時の放電容量比を容量維持率とし、実施例1の容量維持率を100.0%としたときの実施例2、比較例1~3の容量維持率を相対容量維持率とした。
【0093】
実施例1~2、比較例1~3のサンプルを正極に使用したアルカリ蓄電池の評価結果を下記表4に示す。
【0094】
【表4】
【0095】
上記表4に示すように、回折パターンの2θで表される回折角度65°~66°の間に回折ピークが認められた実施例1~2では、該回折ピークが認められなかった比較例1、2と比較して、過放電耐性試験と高温耐性試験において、優れた容量維持率と相対容量維持率を得ることができた。従って、実施例1~2では、過放電耐性と高温耐性に優れたアルカリ蓄電池用正極活物質を得ることができた。
【0096】
また、表2、4に示すように、実施例1、2と比較例3の対比から、ニッケルを含む水酸化物粒子に固溶したコバルトが、3価のコバルトに酸化されていると、より過放電耐性と高温耐性が向上したアルカリ蓄電池用正極活物質を得ることができた。また、表3、4に示すように、実施例1と実施例2の対比から、D90以上の粒子に固溶した3価のコバルトの含有率に対する、D10以下の粒子に固溶した3価のコバルトの含有率の割合が、1.40以上(実施例1では、1.47)であることにより、上記含有率の割合が1.0未満の場合と比較して、さらに優れた過放電耐性と高温耐性を得ることができた。また、表2に示すように、実施例1、2では、粒度分布幅(D90-D10)/D50の値は、それぞれ、0.99、0.91であった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のアルカリ蓄電池用正極活物質は、過放電耐性と高温耐性に優れているので、例えば、車両等、過酷な環境で使用されるアルカリ蓄電池の正極活物質の分野で利用価値が高い。
図1
図2
図3
図4