(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】腫瘍を治療するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 41/00 20200101AFI20240207BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240207BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240207BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20240207BHJP
A61K 49/12 20060101ALI20240207BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240207BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240207BHJP
A61K 33/24 20190101ALI20240207BHJP
【FI】
A61K41/00
A61P35/00
A61K9/14
A61K9/19
A61K49/12
A61P35/04
A61K47/34
A61K33/24
(21)【出願番号】P 2022506199
(86)(22)【出願日】2019-07-29
(86)【国際出願番号】 IB2019000880
(87)【国際公開番号】W WO2021019268
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-06-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 電気通信回線を通じての発表 掲載年月日:2019年1月28日 掲載アドレス:https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03818386?id=NCT03818386&draw=2&rank=1&load=cart
(73)【特許権者】
【識別番号】519433399
【氏名又は名称】エヌアッシュ テラギ
(73)【特許権者】
【識別番号】517019902
【氏名又は名称】セントレ ホスピタリエ ユニベルシテール デ グルノーブル
(73)【特許権者】
【識別番号】516247100
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・グルノーブル・アルプ
【氏名又は名称原語表記】Universite Grenoble Alpes
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ティユモン,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】リュクス,フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】デュフォー,サンドリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェリ,カミーユ
(72)【発明者】
【氏名】ルデュク,ジェラルディーヌ
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/008040(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする被験者において電離放射線によって腫瘍を治療する方法における使用のための
医薬組成物であって、放射線増感剤として高Z元素含有ナノ粒子を含む医薬組成物であり、前記方法は以下を含み、
(i)腫瘍への最初の照射の2~10日
前の期間内に、放射線増感剤として高Z元素含有ナノ粒子の第1の治療有効量を、それを必要とする前記被験者に注入すること、
(ii)腫瘍への最初の照射の1時間~12時間前の期間内に、同じまたは異なる高Z元素含有ナノ粒子の第2の治療有効量を注入すること、および、
(iii)治療上有効な放射線量を前記被験者の腫瘍に照射すること;
前記高Z元素含有ナノ粒子は40より大
きい原子Z数を有する元素を含有するナノ粒子であり、前記ナノ粒子は、10nm未
満の平均流体力学的直径を有
し、
前記ナノ粒子は、
・前記ナノ粒子の全重量の少なくとも8%のシリコン重量比率を有するポリオルガノシロキサン、
・ナノ粒子当たり5~100を含む割合で、前記ポリオルガノシロキサンに共有結合したキレート、および、
・前記キレートと錯体を形成する高Z元素、を含む、使用のための医薬組成物。
【請求項2】
前記方法は、(i)腫瘍への最初の照射の2~7日前の期間内に、放射線増感剤として高Z元素含有ナノ粒子の第1の治療有効量を、それを必要とする前記被験者に注入すること、を含む、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項3】
前記高Z元素は、50より大きい原子Z数を有する、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項4】
前記平均流体力学的直径は、1~8nmに含まれる、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項5】
前記平均流体力学的直径は、2~6nmに含まれる、請求項1記載の使用のための医薬組成物。
【請求項6】
前記ナノ粒子が静脈注射される、請求項1に記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項7】
前記ナノ粒子が、高Z元素として、希土類金属、または希土類金属の混合物を含む、請求項1
~6のいずれか1項に記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項8】
前記ナノ粒子が、高Z元素として、ガドリニウム、ビスマス、またはそれらの混合物を含む、請求項1~
7のいずれか1項に記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項9】
前記ナノ粒子が、以下を含む、請求項1~
8のいずれか1項に記載の使用のための
医薬組成物。
・前記ナノ粒子の全重量の
8%~50%のシリコン重量比率を有するポリオルガノシロキサン、
・ナノ粒子当たり
5~20を含む割合で、前記ポリオルガノシロキサンに共有結合したキレート、および、
・前記キレートと錯体を形成する高Z元素。
【請求項10】
前記ナノ粒子が、前記ナノ粒子上に以下のキレート剤:DOTA、DTPA、EDTA、EGTA、BAPTA、NOTA、DOTAGA、およびDTPABA、またはそれらの混合物のうちの1つ以上をグラフトすることによって得られる、前記高Z元素を錯化するためのキレートを含む、請求項1~
9のいずれか1項に記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項11】
前記ナノ粒子が、下記式のガドリニウムキレート化ポリシロキサンナノ粒子である、請求項1~
10のいずれか1項に記載の使用のための
医薬組成物。
【化1】
式中、PSはポリシロキサンのマトリックスであり、かつ、
nは5
~20であり、かつ流体力学的直径は2~6nmである。
【請求項12】
前記ナノ粒子が、静脈注射用の水溶液中に溶解される予備充填バイアル中に含まれる凍結乾燥粉末である、請求項1~
11のいずれか1項に記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項13】
前記ナノ粒子が、50~150mg/m
Lの濃度で注入用溶液に含まれる、請求項1~
12のいずれか1項に記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項14】
各注入工程で投与される治療有効量が、50mg/kg~150mg/k
gである、請求項1~
13のいずれか1項に記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項15】
前記腫瘍が固形腫瘍であ
る、請求項1~
14のいずれか1項に記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項16】
前記腫瘍が、神経膠芽腫、脳転移、髄膜腫、または子宮頸癌、直腸癌、肺癌、頭頸部癌、前立腺癌、結腸直腸癌、肝臓癌、および膵臓癌の原発腫瘍からなる群より選択される、請求項1~15のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項17】
前記腫瘍が脳転移であ
る、請求項1~
16のいずれか1項に記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項18】
前記腫瘍が、黒色腫、肺原発癌、乳房原発癌、腎臓原発癌由来の脳転移である、請求項1~17のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項19】
前記被験者が、工程(iii)で全脳放射線療法に曝露される、請求項
18に記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項20】
前記全脳放射線療法が、25~35G
yの電離放射線の総線量を前記被験者へ曝露することからなる、請求項
19に記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項21】
前記被験者が1分割当たり約3Gyの電離放射線量に曝露され、総線量
が最大10分割で投与される、請求項
19または
20に記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項22】
前記方法が第2の注入工程の後5~10日以内に
、同じまたは異なる高Z元素含有ナノ粒子の第3の治療有効量を注入する工程を含む、請求項1~
21のいずれか1項に記載の使用のための
医薬組成物。
【請求項23】
前記方法が前記ナノ粒子の第1の注入工程の後に、磁気共鳴画像法(MRI)によって腫瘍をイメージングする工程をさらに含み、前記ナノ粒子が、前記MRIのためのT1造影剤として使用される、請求項1~
22のいずれか1項に記載の使用のための
医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術領域〕
本開示は、腫瘍を治療するための方法に関する。特に、本開示はそれを必要とする被験者において電離放射線によって腫瘍を治療する方法に関する。前記方法は以下の工程を含む:
(i)腫瘍への最初の照射の2~10日前の期間内に、放射線増感剤として高Z元素含有ナノ粒子の第1の治療有効量を、それを必要とする被験者に注入する工程、
(ii)腫瘍への最初の照射の1時間~12時間前の期間内に、同じまたは異なる高Z元素含有ナノ粒子の第2の治療有効量を注入する工程、および、
(iii)治療上有効な放射線量を前記被験者の腫瘍に照射する工程;
前記高Z元素含有ナノ粒子は40より大きい原子Z数を有する元素を含有するナノ粒子であり、前記ナノ粒子は10nm未満の平均流体力学的直径を有する。
【0002】
〔背景技術〕
放射線療法(radiation therapy)(radiotherapyとしても知られる)は、最も用いられている抗腫瘍計画の1つである。全ての癌患者のうち半数を超える患者が、電離放射線(IR)単独または手術もしくは化学療法との併用で治療している1。医学物理学において実現された近年の進歩(低/高エネルギー放射線の開発、単分割スケジュール、少分割スケジュール、多分割スケジュールの実施、使用線量率の多様化)および革新的な医療技術(3D‐コンホメーション放射線療法(3D‐CRT)、強度変調放射線療法(IMRT)、定位放射線手術(SRS)、機能的イメージングなど)の開発が、放射線療法の最も一般的な副作用である周囲の健康な組織への影響を低減しながら、腫瘍に対する効率的な放射線量のより良い送達に寄与している2。ナノ医療(放射性同位元素標識ナノ粒子または金属ナノ粒子など)のいくつかの用途が腫瘍部位への放射線量をより良く送達するためのイメージング剤または造影剤として、および/または放射線増感剤としてナノ材料を使用することによって、この治療指数を改善し、腫瘍における線量蓄積を増強し、照射に関連する副作用を低減するために開発されてきた3,4,5,6,7。任意の組織によって吸収される放射線量が物質の相対原子番号の二乗(Z2)に関係すること(Zは原子番号)8を考慮して、高Z原子を含むナノ粒子(金またはガドリニウムなど)は、放射線療法を改善する可能性について広く研究されてきた。電離放射線への曝露下で、重金属ベースのナノ粒子は腫瘍への総線量率蓄積を改善し、活性酸素種(ROS)の産生を誘導し、多くの腫瘍(例えば、黒色腫、神経膠芽腫、乳癌および肺癌腫を含む)に細胞損傷を引き起こす光子およびオージェ電子を産生する9,10,11。いくつかの前臨床動物モデルが、重金属ベースのナノ粒子と電離放射線との組み合わせが腫瘍増殖を減少させる能力を明らかにしたという事実にもかかわらず、電離放射線と組み合わせた抗癌治療における放射線増感ナノ粒子の使用を改善する必要性が依然として存在する。
【0003】
特に、放射線増感ナノ粒子を含む治療計画の成功のために重要なルールは、治療される腫瘍における放射線増感ナノ粒子の濃度および分布を最適化しながら、周囲の健康な組織を保存することにある。
【0004】
本開示において、本発明者らは驚くべきことに、腫瘍に最初に標的化されたGdベースのナノ粒子の10%超が、最初の注射の8日後に腫瘍において、依然として可視できることを見出した。ヒト腫瘍におけるナノ粒子のこの予想外に長い持続性は、本発明者がヒト患者における放射線療法と組み合わせた放射線増感剤として使用するためのナノ粒子の新しい投与計画を設計することを可能にする。本開示の方法は、照射前にナノ粒子の少なくとも2回の注射を含み、1回以上の注射が典型的には照射の24時間以内に行われるが、腫瘍への最初の照射の2~10日前の期間内に行われる最初の注射をさらに含む。
【0005】
〔簡単な説明〕
したがって、本開示は、それを必要とする被験者において電離放射線によって腫瘍を治療する方法に関する。前記方法は以下を含む:
(i)腫瘍への最初の照射の2~10日前、好ましくは2~7日前の期間内に、放射線増感剤として高Z元素含有ナノ粒子の第1の治療有効量を、それを必要とする前記被験者に注入すること、
(ii)腫瘍への最初の照射の1時間~12時間前の期間内に、同じまたは異なる高Z元素含有ナノ粒子の第2の治療有効量を注入すること、および、
(iii)治療上有効な放射線量を前記被験者の腫瘍に照射すること;
前記高Z元素含有ナノ粒子は40より大きく、好ましくは50より大きい原子Z数を有する元素を含有するナノ粒子であり、前記ナノ粒子は、10nm未満、好ましくは6nm未満、例えば2~6nmの平均流体力学的直径を有する。
【0006】
本方法の特定の実施形態では、前記ナノ粒子は静脈注射される。
【0007】
特定の実施形態では、前記ナノ粒子は高Z元素として、希土類金属、または希土類金属の混合物を含む。より特定の実施形態では、前記ナノ粒子は高Z元素として、ガドリニウム、ビスマス、またはそれらの混合物を含む。
【0008】
典型的には、前記ナノ粒子は高Z元素のキレート、例えば希土類元素のキレートを含む。
【0009】
特定の実施形態では、上記の方法において使用するナノ粒子は以下を含む
(i)ポリオルガノシロキサン、
(ii)前記ポリオルガノシロキサンに共有結合したキレート、および、
(iii)前記キレートによって錯化された高Z元素。
【0010】
特定の実施形態では、上記の方法で使用する前記ナノ粒子は以下を含む
(i)ナノ粒子の全重量の少なくとも8%、好ましくは8%~50%のシリコン重量比率を有するポリオルガノシロキサン、
(ii)ナノ粒子当たり5~100、好ましくは5~20を含む割合で、前記ポリオルガノシロキサンに共有結合したキレート、および、
(iii)前記キレートと錯体を形成する高Z元素。
【0011】
特定の実施形態では、上記の方法で使用する前記ナノ粒子は、前記ナノ粒子上に以下のキレート剤:DOTA、DTPA、EDTA、EGTA、BAPTA、NOTA、DOTAGA、およびDTPABA、またはそれらの混合物のうちの1つ以上をグラフトすることによって得られる、高Z元素を錯化するためのキレートを含んでもよい。
【0012】
特に好ましい実施形態では、前記ナノ粒子が以下の式のガドリニウムキレート化ポリシロキサンナノ粒子である。
【0013】
【0014】
式中、PSはポリシロキサンのマトリックスであり、かつ、
nは5~50であり、好ましくは5~20であり、かつ流体力学的直径は2~6nmである。
【0015】
特定の実施形態では、前記ナノ粒子はAGuIXナノ粒子である。
【0016】
特定の実施形態では、前記ナノ粒子は静脈注射用の水溶液中に溶解される予備充填バイアル中に含まれる凍結乾燥粉末である。
【0017】
特定の実施形態では、上記の方法で使用するナノ粒子は50~150mg/mL、好ましくは80~120mg/mL、例えば100mg/mLの濃度で注入用溶液に含まれる。
【0018】
典型的には、各注入工程で投与される治療有効量が50mg/kg~150mg/kg、典型的には80~120mg/kg、例えば100mg/kgであり得る。
【0019】
特定の実施形態では、治療する前記腫瘍は固形腫瘍であり、好ましくは、神経膠芽腫、脳転移、髄膜腫、または子宮頸癌、直腸癌、肺癌、頭頸部癌、前立腺癌、結腸直腸癌、肝臓癌、および膵臓癌の原発腫瘍からなる群より選択される。典型的には、前記腫瘍は脳転移であり、典型的には、脳転移は黒色腫、肺原発癌、乳房原発癌、腎臓原発癌、結腸原発癌由来である。
【0020】
特定の実施形態では、前記被験者は工程(iii)で全脳放射線療法に曝露される。例えば、前記全脳放射線療法は、25~35Gy、例えば30Gyの電離放射線の総線量を前記被験者へ照射することからなる。典型的には、前記被験者は1分割当たり約3Gyの電離放射線量を照射され、総線量は好ましくは最大10分割で実施される。
【0021】
特定の実施形態では、本方法が第2の注入工程後5~10日以内、例えば第2の注入工程後7日以内に、同じまたは異なる高Z元素含有ナノ粒子の第3の治療有効量を注入する工程を含む。
【0022】
特定の実施形態では、本方法が前記ナノ粒子の第1の注入工程の後に、磁気共鳴画像法(MRI)によって腫瘍をイメージングする工程をさらに含む。前記ナノ粒子は前記MRIのT1造影剤として使用される。
【0023】
〔図面の説明〕
図1.投与量に対するMRI増強。グラフ上の各点は、1cmを超える最長径を有する転移において測定されたMRI増強値に相当する。MRI増強は、各用量、プールされた15~30mg/kg用量、プールされた50~75mg/kgおよび100mg/kgの間で統計学的に異なっていることがわかった。
【0024】
図2.AGuIX濃度に対するMRI増強。グラフ上の各点は、患者#13の1cmを超える最長径を有する転移において測定されたMRI増強およびAGuIX濃度値に相当する。黒い曲線は、一連の点に適用される線形回帰に相当する。破線の曲線は95%信頼帯に相当する。
【0025】
図3.ナノ粒子投与1週間後のMRI増強。患者#13のシグナル増強マップ(色分け)の一部を、患者への静脈注射の2時間後(左側画像)および1週間後(右側画像)に得られた元の3D T
1強調画像に重ね合わせる。矢印はAGuIX増強転移を指している。
【0026】
図4.フェイズII臨床研究の概要および目的
〔詳細な説明〕
本開示は、本発明者らによって示されている、癌放射線療法において放射線増感剤として使用する特定のナノ粒子が、ヒト腫瘍において長い持続性を有するという驚くべき発見に部分的に従う。
【0027】
本開示の治療方法の有益な効果は、特にナノ粒子の2つの特徴に関連する:
(i)前記ナノ粒子は高Z元素、典型的には放射線増感特性を有する高Zカチオンの錯体を含む;
(ii)前記ナノ粒子は小さい平均流体力学的直径を有する。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「放射線増感」は当業者によって容易に理解される。一般に、放射線増感は放射線療法(例えば、光子放射線、電子放射線、陽子放射線、重イオン放射線など)に対する癌細胞の感受性を増加させる工程をいう。
【0029】
本明細書で使用される前記高Z元素は、40より大きく、例えば50より大きい原子Z数を有する元素である。
【0030】
特定の実施形態では、前記高Z元素が重金属から選択される。前記高Z元素は、より好ましくは、Au、Ag、Pt、Pd、Sn、Ta、Zr、Tb、Tm、Ce、Dy、Er、Eu、La、Nd、Pr、Lu、Yb、Bi、Hf、Ho、Pm、Sm、In、およびGd、ならびにそれらの混合物である。
【0031】
高Z元素は、酸化物および/またはカルコゲニドまたはハロゲン化物として、または有機キレート剤などのキレート剤との錯体として、ナノ粒子中に含まれるカチオン性元素であることが好ましい。
【0032】
ナノ粒子のサイズ分布は、例えば、PCS(光子相関分光法)に基づくMalvern Zetasizer Nano-S粒子径測定器などの市販の粒子径測定器を用いて測定する。
【0033】
本発明の目的のために、用語「平均流体力学的直径」または「平均直径」は、粒子の直径の調和平均を意味することが意図される。このパラメータを測定する方法は、規格ISO13321:1996にも記載されている。
【0034】
例えば、1~10nm、さらにより好ましくは、1~8nm、または例えば、2~6nm、または典型的には約3nmの平均流体力学的直径を有するナノ粒子が本明細書中に開示される方法に好適である。特に、静脈注射後の脳腫瘍を含む腫瘍において、優れた受動的標的化、および迅速な腎排泄(したがって、低い毒性)を提供することが示されている。
【0035】
上述の実施形態と組み合わせることができる別の実施形態では、ナノ粒子は、例えば、画像誘導放射線療法において、イメージング剤または造影剤として有益に使用されることができる。
【0036】
本明細書で使用される場合、用語「造影剤」は、隣接構造または非病理学的構造に対して、特定の解剖学的構造(例えば、特定の組織または器官)または病理学的解剖学的構造(例えば、腫瘍)の視覚化を可能にするコントラストを人工的に増加させる目的で、医療用イメージングにおいて使用される任意の製品または組成物を意味することを意図する。用語「イメージング剤」は隣接構造または非病理学的構造に対して、特定の解剖学的構造(例えば、特定の組織または器官)または病理学的解剖学的構造(例えば、腫瘍)を視覚化することを可能にするシグナルを生じさせる目的で、医療用イメージングで使用される任意の製品または組成物を意味することを意図する。造影剤またはイメージング剤の作用原理は、使用されるイメージング技術に依る。
【0037】
いくつかの実施形態では、イメージングは磁気共鳴画像法(MRI)、コンピュータ断層撮影画像法、陽電子放出断層撮影画像法、またはそれらを任意に組合せて使用し、実行される。
【0038】
有益なことに、本開示の治療方法におけるナノ粒子の使用およびMRIによる腫瘍のインビボ検出を併用することが可能であり、例えば、本開示に記載されるような治療のモニタリングを可能にする。
【0039】
好ましくは、少なくとも50重量%のガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ルテチウム(Lu)、ビスマス(Bi)またはホルミウム(Ho)、またはそれらの混合物(ナノ粒子中の高Z元素の総重量に対して)、例えば少なくとも50重量%のガドリニウムを含むランタニドのみがナノ粒子中の高Z元素として選択される。
【0040】
特に好ましい実施形態では、本開示の方法で使用する前記ナノ粒子がガドリニウムをベースにしたナノ粒子である。
【0041】
特定の実施形態では、前記高Z元素が、例えば、カルボン酸、アミン、チオール、またはホスホネート基を有するキレート剤から選択される、有機キレート剤と錯体を形成するカチオン性元素である。
【0042】
好ましい実施形態では、ナノ粒子が高Z元素、および、任意に、キレート剤に加えて、生体適合性コーティングをさらに含む。このような生体適合性に好適な薬剤は、生体適合性ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、生体ポリマー、多糖類、またはポリシロキサン)を含むが、これらに限定されない。
【0043】
特定の実施形態では、ナノ粒子は、50~5000mM-1・s-1(37℃および1.4Tで)の粒子当たりの緩和率r1、および/または少なくとも5%、例えば5%~30%のGd重量比率を有するように選択される。
【0044】
1つの特定の実施形態では、前記ナノ粒子は非常に小さい流体力学的直径、例えば1~10nm、好ましくは2~6nmを有し、高Z元素のキレート、例えば希土類元素のキレートを含むナノ粒子である。特定の実施形態では、前記ナノ粒子がガドリニウムまたはビスマスのキレートを含む。
【0045】
上述の実施形態のいずれかと組み合わせることができる特定の実施形態では、前記高Z元素含有ナノ粒子は以下を含む
・ポリオルガノシロキサン、
・前記ポリオルガノシロキサンに共有結合したキレート剤、
・前記キレート剤によって錯化された高Z元素。
【0046】
本明細書で使用される場合、用語「キレート剤」は、1つ以上の金属イオンを錯化することが可能な群をいう。
【0047】
例えば、キレート剤には1,4,7,-トリアザシクロノナン三酢酸(NOTA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1-グルタル酸-4,7-二酢酸(NODAGA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、シクロヘキシル-1,2-ジアミン四酢酸(CDTA)、エチレングリコール-0,0’ビス(2-アミノエチル)-N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)、N,N-ビス(ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(HBED)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、ヒドロキシエチルジアミン三酢酸(HEDTA)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-N,N’,N’’,N’’’-四酢酸(TETA)、および1,4,7,10-テトラアザ-1,4,7,10-テトラ-(2-カルバモイルメチル)-シクロドデカン(TCMC)および1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン、1-(グルタル酸)-4,7,10-三酢酸(DOTAGA)が含まれるが、これらに限定されない。
【0048】
いくつかの実施形態では、前記キレート剤が以下の中から選択される:
【0049】
【0050】
式中、波状結合はナノ粒子を形成する生体適合性コーティングの連結基にキレート剤を連結する結合を示す。
【0051】
上述の実施形態と好適に組み合わせることができる特定の実施形態では、希土類元素の前記キレートが、ガドリニウムおよび/またはビスマスのキレート、好ましくはDOTAまたはDOTAGAキレート化Gd3+および/またはBiである。
【0052】
特定の好ましい実施形態では、ナノ粒子当たりの高Z元素の比率、例えばナノ粒子当たりの希土類元素、例えばガドリニウム(任意でDOTAGAでキレート化されている)の比率は、3~100、好ましくは5~20、典型的には約10である。
【0053】
シンチグラフィーによるイメージングについて、ナノ粒子はシンチグラフィーにおいて使用することができる放射性同位体をさらに含んでもよい。前記放射性同位体は、好ましくはIn、Tc、Ga、Cu、Zr、YまたはLu、例えば、111In、99mTc、67Ga、68Ga、64Cu、89Zr、90Yまたは177Luの放射性同位体からなる群から選択される。
【0054】
近赤外範囲の蛍光について、ナノ粒子は、Nd、YbまたはErから選択されるランタニドをさらに含んでもよい。
【0055】
可視範囲の蛍光について、ナノ粒子は、使用され得るEuまたはTbから選択されるランタニドをさらに含んでもよい。
【0056】
近赤外範囲の蛍光について、ナノ粒子は、Cyanine5.5、Cyanine7、Alexa680、Alexa700、Alexa750、Alexa790、Bodipy、ICGから選択される有機蛍光団をさらに含んでもよい。
【0057】
特定の実施形態では、ハイブリッドナノ粒子はコアシェル型である。希土類酸化物および任意に官能化されたポリオルガノシロキサンマトリックスからなるコアをベースにしたコアシェル型のナノ粒子が知られている(特に、WO2005/088314、WO2009/053644参照)。
【0058】
ナノ粒子はさらに、特定の組織へのナノ粒子の標的化を可能にする分子で官能化されてもよい。前記薬剤は共有結合によってナノ粒子に結合されてもよいし、例えば、カプセル化または親水性/疎水性相互作用による、またはキレート剤を使用する、非共有結合によってトラップされてもよい。
【0059】
1つの特定の実施形態では、以下を含むハイブリッドナノ粒子が使用される:
-希土類カチオンMn+を含むポリオルガノシロキサン(POS)マトリックスであって、nは2~4の整数であり、任意に部分的に金属酸化物および/またはオキシ水酸化物の形態であり、任意にドープカチオンDm+と結合し、mは2~6の整数であり、Dは好ましくはM以外の希土類金属、アクチニドおよび/または遷移元素である;
-共有結合-Si-C-を介して前記POSに共有結合したキレート
-前記Mn+カチオンおよび好適なDm+カチオンが前記キレートによって錯化される。
【0060】
コアシェル型構造の場合、POSマトリックスは、金属カチオンベースのコアを取り囲む表面層を形成する。その厚さは、0.5~10nmの範囲となり得、総体積の25%~75%に相当し得る。
【0061】
POSマトリックスは外部媒介物に対するコアの保護(特に、加水分解に対する保護)として作用し、造影剤の特性(例えば、ルミネセンス)を最適化する。それはまた、キレート剤および標的分子のグラフト化を介して、ナノ粒子の官能化を可能にする。
【0062】
超微細ナノ粒子
特定の実施形態では、前記ナノ粒子が以下の式のガドリニウムキレート化ポリシロキサンナノ粒子である
【0063】
【0064】
式中、PSはポリシロキサンのマトリックスであり、かつnは5~50であり、典型的には5~20であり、かつ流体力学的直径は2~6nmである。
【0065】
より具体的には、上記式に記載される前記ガドリニウムキレート化ポリシロキサンナノ粒子が、次のセクションに記載されるAGuIX超微細ナノ粒子である。
【0066】
本開示の方法にしたがって使用し得る上述の超微細ナノ粒子は、以下の工程からなるトップダウン合成経路によって得られてもよく、または得ることができる:
a.金属(M)酸化物コアを得る工程であって、Mが上述の高Z元素であり、好ましくはガドリニウムである工程、
b.例えばゾルゲル法によりM酸化物コアの周りにポリシロキサンシェルを添加する工程、
c.キレート剤をPOSシェルにグラフト化し、前記キレート剤が-Si-C-共有結合によって前記POSシェルに結合され、それによってコアシェル前駆体ナノ粒子を得る工程、および、
d.コアシェル前駆体ナノ粒子を水溶液中で精製および移動させる工程。
グラフト化剤は工程dで金属(M)酸化物コアを溶解し、(M)のカチオン性形態を錯化するのに十分な量である。それによって、得られるハイブリッドナノ粒子の平均流体力学的直径を10nm未満、例えば、1~8nm、典型的には6nm未満、例えば2~6nmに縮小させる。
【0067】
上述の方法にしたがって得られたこれらのナノ粒子は、少なくとも1つのコーティングによってカプセル化された金属酸化物のコアを含まない。これらのナノ粒子の合成に関するさらなる詳細を以下に示す。
【0068】
このトップダウン合成法は、典型的には1~8nm、より具体的には2~6nmの観測サイズを生ずる。したがって、本明細書で使用される用語は、超微細ナノ粒子である。
【0069】
あるいは、10nm未満、例えば1~8nm、典型的には2~6nmの平均直径を有する前記コアフリーナノ粒子を調製するための別の「ワンポット」合成方法を以下に記載する。
【0070】
これらの超微細ナノ粒子またはコアフリーナノ粒子に関するさらなる詳細、それらを合成するための工程および使用は、特許出願WO2011/135101、WO2018/224684、またはWO2019/008040に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる。
【0071】
本開示による使用のためのナノ粒子の好ましい実施形態を得るための方法
一般に、当業者は、本発明にしたがって使用されるナノ粒子を容易に製造することができるであろう。より具体的には、以下の要素に留意されたい:
ランタニド酸化物またはオキシ水酸化物のコアベースのコアシェル型ナノ粒子について、例えば、P. Perriat et al., J. Coll. Int. Sci, 2004, 273, 191; O. Tillement et al., J. Am. Chem. Soc., 2007, 129, 5076およびP. Perriat et al., J. Phys. Chem. C, 2009, 113, 4038に記載されているように、溶媒としてアルコールを使用する製造工程で使用することができる。
【0072】
POSマトリックスについて、Stoeber(Stoeber, W; J. Colloid Interf Sci 1968, 26, 62)によって開始されたこれらに由来するいくつかの技術を使用してもよい。また、Louisら(Louis et al., 2005, Chemistry of Materials, 17, 1673-1682)または国際出願WO2005/088314に記載されているようなコーティングに用いられる工程を使用してもよい。
【0073】
実際には、超微細ナノ粒子の合成が、例えばMignot et al. Chem. Eur. J. 2013, 19, 6122-6136に記載されている:典型的には、コア/シェル型の前駆体ナノ粒子が(修飾ポリオール経路を介して)ランタニド酸化物コアおよび(ゾル/ゲルを介して)ポリシロキサンシェルで形成される;この物体は、例えば、約5~10nmの流体力学的直径を有する。したがって、非常に小さなサイズ(10nm未満に調整可能)のランタニド酸化物コアは、以下の刊行物に記載されている手法の1つによって、アルコール中で製造することができる:P. Perriat et al., J. Coll. Int. Sci, 2004, 273, 191; O. Tillement et al., J. Am. Chem. Soc., 2007, 129, 5076およびP. Perriat et al., J. Phys. Chem. C, 2009, 113, 4038。
【0074】
これらコアは、例えば、以下の刊行物に記載されているプロトコルにしたがって、ポリシロキサンの層でコーティングされることができる:C. Louis et al., Chem. Mat., 2005, 17, 1673およびO. Tillement et al., J. Am. Chem. Soc., 2007, 129, 5076。
【0075】
意図した金属カチオンに特異的なキレート剤(例えば、Gd3+用のDOTAGA)をポリシロキサンの表面にグラフトする;その一部を層の内側に挿入することもできるが、ポリシロキサンの形成の制御は複雑であり、簡単な外部グラフトはこれら非常に小さなサイズで、グラフトに充分な割合を与える。
【0076】
ナノ粒子は透析法または接線濾過法といった手段によって、例えば、好適な大きさの細孔を含む膜上で、合成残渣から分離することができる。
【0077】
コアは溶解によって(例えば、pHを変更することによって、または溶液中に錯化分子を導入することによって)破壊される。したがって、コアのこの破壊は、ポリシロキサン層を散乱させ(緩慢な腐食または崩壊のメカニズムによる)、最終的に複雑な形態を有するポリシロキサン物を得ることを可能にする。その特徴的な大きさは、ポリシロキサン層の厚さの規模である。すなわち、これまでに製造された物よりもはるかに小さい。
【0078】
したがって、コアを除去することにより、直径が約5~10nmから8nm未満の粒子の大きさ、例えば2~6nmの粒子の大きさに縮小することが可能になる。さらに、この作業により、同じ大きさではあるがM(例えば、ガドリニウム)を表層のみに含む理論的なポリシロキサンナノ粒子に比べて、1nm3当たりのM(例えば、ガドリニウム)の数を増加させることができる。ナノ粒子の大きさに対するMの数は、EDXで測定したM/Si原子比によって評価できる。典型的には、超微細ナノ粒子当たりのこのMの数が5~50であり得る。
【0079】
1つの特定の実施形態では、本開示によるナノ粒子が酸官能基を有するキレート剤、例えばDOTAまたはDOTAGAを含む。ナノ粒子の前記酸官能基は、例えば、EDC/NHS(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド/N-ヒドロスクシンイミド)を用いて、適正量の標的化分子の存在下で活性化される。次いで、このようにグラフトされたナノ粒子は、例えば接線濾過によって精製される。
【0080】
あるいは、本開示によるナノ粒子が、生理学的pHで負に帯電している少なくとも1つのヒドロキシシランまたはアルコキシシラン、および、ポリアミノポリカルボン酸から選択される少なくとも1つのキレート剤を以下と混合することを含む合成方法(「ワンポット合成方法」)によって得られてもよく、または得ることができる。
【0081】
-生理学的pHで中性である少なくとも1つのヒドロキシシランまたはアルコキシシラン、および/または、
-生理学的pHで正に帯電し、アミノ官能基を含む少なくとも1つのヒドロキシシランまたはアルコキシシラン、
ここで:
-中性のシラン対負に帯電したシランのモル比Aは、以下のように定義される:0≦A≦6、好ましくは0.5≦A≦2;
-正に帯電したシラン対負に帯電したシランのモル比Bは、以下のように定義される:0≦B≦5、好ましくは0.25≦B≦3;
-中性および正に帯電したシラン対負に帯電したシランのモル比Cは、以下のように定義される:0<C≦8、好ましくは1≦C≦4。
【0082】
このようなワンポット合成方法のうちより特定の実施形態では、この方法は、生理学的pHで負に帯電している少なくとも1つのアルコキシシラン(APTES-DOTAGA、TANED、CEST、およびこれらの混合物の中から選択される前記アルコキシシラン)を、以下と混合することを含む
-少なくとも生理学的pHで中性であるアルコキシシランであって、前記アルコキシシランは、TMOS、TEOSおよびそれらの混合物の中から選択される、アルコキシラン、および/または
-生理学的pHで正に帯電したAPTES、
ここで:
-中性シラン対負に帯電したシランのモル比Aは、以下のように定義される:0≦A≦6、好ましくは0.5≦A≦2;
-正に帯電したシラン対負に帯電したシランのモル比Bは、以下のように定義される:0≦B≦5、好ましくは0.25≦B≦3;
-中性および正に帯電したシラン対負に帯電したシランのモル比Cは、以下のように定義される:0<C≦8、好ましくは1≦C≦4。
【0083】
特定の実施形態によれば、ワンポット合成方法は、生理学的pHで負に帯電したAPTES-DOTAGAを以下と混合することを含む
-生理学的pHで中性である少なくとも1つのアルコキシシランであって、前記アルコキシシランは、TMOS、TEOS、およびそれらの混合物の中から選択される、アルコキシシラン、および/または
-生理学的pHで正に帯電したAPTES、
ここで:
-中性シラン対負に帯電したシランのモル比Aは、以下のように定義される:0≦A≦6、好ましくは0.5≦A≦2;
-正に帯電したシラン対負に帯電したシランのモル比Bは、以下のように定義される:0≦B≦5、好ましくは0.25≦B≦3;
-中性および正に帯電したシラン対負に帯電したシランのモル比Cは、以下のように定義される:0<C≦8、好ましくは1≦C≦4。
【0084】
AGuIXナノ粒子
より具体的な実施形態では、前記ガドリニウムキレート化ポリシロキサンベースのナノ粒子が下記式のコアフリー超微細AGuIXナノ粒子である
【0085】
【0086】
式中、PSはポリシロキサンであり、かつnは平均して約10であり、かつ4±2nmの流体力学的直径であり、かつ約10±1kDaの質量を有する。
【0087】
前記AGuIXナノ粒子は平均化学式によって記載することもできる:
(GdSi4-7C24-30N5-8O15-25H40-60、5-10H2O)x
本開示の方法による使用のためのナノ粒子の医薬製剤
医薬として使用される場合、本明細書中で提供される使用のための前記高Zナノ粒子を含有する組成物は、ナノ粒子の懸濁液の医薬製剤の形態で投与することができる。これらの製剤は、本明細書中または他に記載されるように調製することができる。これらの製剤は、局所的または全身的治療が所望されるかどうか、および治療部位によって、種々の経路から投与されることができる。
【0088】
特に、本明細書に記載されるような使用のための前記医薬製剤は、活性成分として、本明細書で提供される高Z含有ナノ粒子の懸濁液を、1つ以上の薬学的に許容可能な担体(賦形剤)と組み合わせて含有する。本明細書で提供される医薬製剤を製造する際に、ナノ粒子組成物は、例えば賦形剤と混合され得るか、または賦形剤によって希釈され得る。賦形剤が希釈剤として機能する場合、賦形剤は、ナノ粒子組成物のためのビヒクル、担体、または媒体として作用する固体、半固体、または液体材料であってもよい。
【0089】
したがって、医薬製剤は、粉末、錠剤、エリキシル、懸濁液、エマルジョン、溶液、シロップ、エアゾール(固体として、または液体媒体中で)、滅菌注入溶液、滅菌包装粉末などの形態であってもよい。
【0090】
特定の実施形態では、本明細書に記載されるような使用のための前記医薬製剤は、例えば静脈注射用の水溶液中に溶解される予備充填バイアル中に含有される滅菌凍結乾燥粉末である。特定の実施形態では、前記凍結乾燥粉末が活性成分として、有効量の前記高Z含有ナノ粒子、典型的にはガドリニウムキレート化ポリシロキサンベースのナノ粒子、およびより具体的には本明細書に記載されるようなAGuIXナノ粒子を含む。ある特定の実施形態では、前記凍結乾燥粉末がバイアル当たり約200mg~15g、例えば、バイアル当たり280~320mgのAGuIX、典型的にはバイアル当たり300mgのAGuIX、または約800mg~1200mg、例えば、バイアル当たり1gのAGuIXのいずれかを含有する。
【0091】
前記粉末はさらに、1つ以上の追加賦形剤、特にCaCl2、例えば、0.5~0.80mgのCaCl2、典型的には0.66mgのCaCl2を含み得る。
【0092】
前記凍結乾燥粉末は、水溶液中、典型的には注射用の水の中で溶解することができる。したがって、特定の実施形態では、本開示による使用のための前記医薬溶液が活性成分として、本明細書に記載されるような有効量の前記高Z含有ナノ粒子、典型的にはガドリニウムキレート化ポリシロキサンベースのナノ粒子、およびより具体的にはAGuIXナノ粒子を含む注入用溶液である。
【0093】
例えば、本明細書に開示される方法で使用するための前記注入用溶液は、ガドリニウムキレート化ポリシロキサンベースのナノ粒子の溶液であり、典型的にはAGuIXナノ粒子溶液である。前記注入用溶液は、50~150mg/mL、例えば80~120mg/mL、典型的には100mg/mLの溶液であり、1つまたは複数の追加の薬学的に許容される賦形剤、例えば0.1~0.3mg/mLのCaCl2、典型的には0.22mg/mLのCaCl2を任意で含む。
【0094】
本開示の使用方法
本発明は、それを必要とする被験者における腫瘍の治療方法に関する。前記方法は以下を含む
(i)腫瘍への最初の照射の2~10日前、好ましくは2~7日前の期間内に、放射線増感剤として高Z元素含有ナノ粒子の第1の治療有効量を、それを必要とする前記被験者に注入すること、
(ii)腫瘍の最初の照射の1時間~12時間前の期間内に、同じまたは異なる高Z元素含有ナノ粒子の第2の治療有効量を注入すること、および、
(iii)治療上有効な放射線量を前記被験者の腫瘍に照射すること;
前記高Z元素含有ナノ粒子は40より大きく、好ましくは50より大きい原子Z数を有する元素を含有するナノ粒子であり、前記ナノ粒子は、10nm未満、好ましくは6nm未満、例えば2~6nmの平均流体力学的直径を有する。
【0095】
本開示はまた、それを必要とする被験者における腫瘍の治療方法において使用するための高Z元素含有ナノ粒子に関する。前記方法は以下を含む
(i)腫瘍への最初の照射の2~10日前、好ましくは2~7日前の期間内に、放射線増感剤としての高Z元素含有ナノ粒子の第1の治療有効量を、それを必要とする前記被験者に注入すること、
(ii)腫瘍への最初の照射の1時間~12時間前の期間内に、同じまたは異なる高Z元素含有ナノ粒子の第2の治療有効量を注入すること、および、
(iii)治療上有効な放射線量を前記被験者の腫瘍に照射すること;
前記高Z元素含有ナノ粒子は40より大きく、好ましくは50より大きい原子Z数を有する元素を含有するナノ粒子であり、前記ナノ粒子は、10nm未満、好ましくは6nm未満、例えば2~6nmの平均流体力学的直径を有する。
【0096】
本開示はさらに、それを必要とする被験者における腫瘍治療のための薬剤の製造に使用するための高Z元素含有ナノ粒子に関する。前記方法は以下を含む
(i)腫瘍への最初の照射の2~10日前、好ましくは2~7日前の期間内に、放射線増感剤としての高Z元素含有ナノ粒子の第1の治療有効量を、それを必要とする前記被験者に注入すること、
(ii)腫瘍への最初の照射の1時間~12時間前の期間内に、同じまたは異なる高Z元素含有ナノ粒子の第2の治療有効量を注入すること、および、
(iii)治療上有効な放射線量を前記被験者の腫瘍に照射すること;
前記高Z元素含有ナノ粒子は40より大きく、好ましくは50より大きい原子Z数を有する元素を含有するナノ粒子であり、前記ナノ粒子は、10nm未満、好ましくは6nm未満、例えば2~6nmの平均流体力学的直径を有する。
【0097】
本明細書で使用される場合、用語「治療すること」または「治療」は(1)疾患を阻害すること;例えば、疾患、状態または障害の病理または症状に見舞われているまたは呈している個体における疾患、状態または障害を阻害すること(すなわち、病理および/または症状のさらなる進行を阻止すること);および(2)疾患を改善すること;例えば、疾患、状態または障害の病理または症状に見舞われているまたは呈している個体における疾患、状態または障害を改善すること(すなわち、病理および/または症状を一変させること)、例えば、疾患の重症度を低減させること、または1つ以上の疾患の症状を軽減すること、または緩和することのうち、1つ以上を指す。特に、腫瘍の治療に関して、用語「治療」は、腫瘍の増殖の阻害、または腫瘍のサイズの縮小を指すことができる。
【0098】
本明細書で互換的に使用される用語「患者」および「被験者」は、哺乳動物および無脊椎動物を含む動物界の任意のメンバーをいう。例えば、マウス、ラット、他の齧歯類、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、霊長類、魚類、およびヒトが挙げられる。好ましくは、前記被験者は哺乳動物、または例えば腫瘍を有する被験者を含むヒトである。
【0099】
特定の実施形態では、前記腫瘍が固形腫瘍であり、好ましくは神経膠芽腫、脳転移、髄膜腫、または子宮頸癌、直腸癌、肺癌、頭頸部癌、前立腺癌、結腸直腸癌、肝臓癌、および膵臓癌の原発腫瘍からなる群より選択される。特に、前記腫瘍は脳転移であり、典型的には、黒色腫、肺原発癌、乳房原発癌、腎臓原発癌由来の脳転移である。
【0100】
特定の実施形態では、前記被験者は多発性脳転移を有するヒト患者から選択される。他の特定の実施形態では、前記被験者は手術または定位放射線による局所治療に適さない多発性脳転移を有するヒト患者から選択される。
【0101】
癌治療の本開示の方法は、有効量の前記ナノ粒子を被験者の腫瘍に投与する少なくとも2つの工程を含む。
【0102】
前記ナノ粒子は、局所経路(腫瘍内経路(IT)、動脈内経路(IA))、皮下経路、静脈内経路(IV)、皮内経路、気道経路(吸入)、腹腔内経路、筋肉内経路、鞘内経路、眼内経路、または経口経路などの種々の投与可能な経路を用いて被験者に投与することができる。
【0103】
特定の実施形態では、ナノ粒子は静脈内に投与される。実際に、本明細書に開示されるナノ粒子は受動的標的化によって、例えば、透過性および保持効果を高めることによって、ヒト腫瘍を有利に標的とする。
【0104】
ナノ粒子のさらなる注入または投与は、好適な場合において実施することができる。典型的には、分割放射線療法を行う場合、放射線療法の間にナノ粒子を週に1回さらに注入してもよい。例えば、特定の実施形態では、本明細書に開示される方法は、第2の注入工程後5~10日以内に、例えば第2の注入工程後7日以内に、同じまたは異なる高Z元素含有ナノ粒子の第3の治療有効量を注入する工程をさらに含む。
【0105】
特定の実施形態では、前記ナノ粒子がガドリニウムキレート化ポリシロキサンベースのナノ粒子であり、各注入工程で静脈内投与される治療有効量は、50mg/kg~150mg/kgであり、典型的には80~120mg/kgであり、例えば100mg/kgである。
【0106】
有利なことに、同じナノ粒子は放射線増感剤として使用する前に、MRIによる腫瘍検出のためのセラノスティクスとして使用することができる。したがって、本方法は前記ナノ粒子の第1の注入工程の後に、磁気共鳴画像法(MRI)によって腫瘍をイメージングする工程をさらに含み、前記ナノ粒子は、前記MRIのためのT1造影剤として使用される。実施例の結果は、前記高Z含有ナノ粒子の注入後に、MRIによる腫瘍、例えば脳転移を検出するためのヒト患者における優れたシグナル増強のエビデンスを提供する。
【0107】
腫瘍に照射する工程
ナノ粒子の使用方法は、対応する癌の放射線療法に対して、それを必要とする被験者の腫瘍を照射する工程を含み、前記ナノ粒子は放射線療法の投与効力を有利に増強する。
【0108】
本明細書で使用される場合、放射線療法(radiation therapy)または放射線療法(radiotherapy)は、悪性細胞を制御するための癌治療の一部としての照射(すなわち、電離放射線)の医学的使用である。放射線療法は、緩和的処置として、または治療的処置として用いられる。放射線療法は、様々な種類の癌を治療するための重要な標準療法として認められている。
【0109】
本明細書で使用される場合、用語「放射線療法」は、電離放射線に相当する照射を用いた腫瘍学的性質の疾患治療のために使用される。電離放射線は、治療部位(標的組織)内の細胞の遺伝物質を損傷することによって、前記細胞を損傷または破壊するエネルギーを蓄積し、前記細胞が増殖し続けることを不可能にする。
【0110】
特定の実施形態では、本開示の方法は治療する腫瘍を効率的な線量の電離放射線に曝露することからなり、前記電離放射線は光子、例えばX線である。電離放射線が有するエネルギーの量に依存して、光線は、身体の表面上の、またはより深い癌細胞を破壊するために使用することができる。X線ビームのエネルギーが高いほど、X線はより深く標的組織に入ることができる。線形加速器とベータトロンは、ますます大きなX線エネルギーを発生させる。放射線(X線など)を癌部位に集束させるための機械の使用は、外部ビーム放射線療法と呼ばれる。
【0111】
本開示による治療方法の代替の実施形態では、ガンマ線が使用される。ガンマ線は、特定の元素(例えば、ラジウム、ウラン、およびコバルト60)が分解または崩壊して放射線を放出する際に、自然に発生する。
【0112】
電離放射線は、典型的には2keV~25000keVであり、特に2keV~6000keV(すなわち、6MeV)であり、または2keV~1500keV(例えば、コバルト60源)である。
【0113】
放射線療法の分野の当業者であれば、疾患の性質および患者の体質による適切な投与および適用のスケジュールを決定する方法を知っているであろう。特に、用量制限毒性(DLT)の評価方法や、それに応じた最大耐量(MTD)の決定方法を知っているであろう。
【0114】
放射線療法で使用される放射線の量はグレイ(Gy)で測定され、治療対象となる癌の種類や病期によって異なる。治癒例では、固形腫瘍に対する典型的な総線量は20~120Gyである。放射線腫瘍医が線量を選択する際には、患者が化学療法を受けているかどうか、患者の併存疾患、放射線療法が手術の前後に実施されているかどうか、および手術の成功度合いなど、他の多くの因子が考慮される。
【0115】
総線量は、一般的には分割する(時間を分散する)。量およびスケジュール(電離放射線の計画および送達、分割線量、分割送達計画、総投与単独、または他の抗癌剤との組み合わせなど)は、任意の疾患/解剖学的部位/疾患段階の患者設定/年齢について定義され、任意の特定の状況についてのケアの基準を構成する。
【0116】
本開示の方法に関して成人の典型的な従来の分割スケジュールは、1週間に5日、1日当たり2.5~3.5Gyであってもよく、例えば2~8週間連続であってもよい。特定の実施形態では、前記放射線療法は総線量25~35Gyの電離放射線、例えば総線量30Gyの電離放射線に被験者を曝露することからなる。
【0117】
他の特定の実施形態では、1分割当たり約2~8Gyの電離放射線量に被験者を曝露し、好ましくは最大10分割で総線量を照射する。
【0118】
被験者が脳癌、例えば多発性脳転移を患っている特定の実施形態では、本明細書に開示される方法の工程(iii)で適用される放射線療法は全脳放射線療法(WBRT)である。WBRTで使用される最も一般的な線量/分割スケジュールは、例えば実施例2で使用されるように、2週間にわたって10分割で送達される30Gyである。
【0119】
本開示の方法との併用療法
本明細書に開示される使用のためのナノ粒子は、例えば、上述の癌障害の治療または予防のために、唯一の活性成分として、または、例えば、他の薬物(例えば、細胞毒性剤、抗増殖剤、または他の抗腫瘍剤)に対する補助薬として、またはそれらと組み合わせて投与してもよい。
【0120】
好適な細胞毒性剤、抗増殖剤または抗腫瘍剤は、シスプラチン、ドキソルビシン、タキソール、エトポシド、イリノテカン、トポテカン、パクリタキセル、ドセタキセル、エポチロン、タモキシフェン、5-フルオロウラシル、メトトレキサート、テモゾロミド、シクロホスファミド、チピファルニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、イマチニブ、ゲムシタビン、ウラシルマスタード、クロルメチン、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ピポブロマン、トリエチレンメラミン、ブスルファン、カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン、ダカルバジン、フロクスウリジン、シタラビン、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、リン酸フルダラビン、オキサリプラチン、ホリニン酸、ペントスタチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトラマイシン、デオキシコホルマイシン、マイトマイシンC、L-アスパラギナーゼ、テニポシドを含むが、これらに限定されない。
【0121】
いくつかの実施形態では、追加の治療剤は本明細書で提供される組成物と同時に投与される。いくつかの実施形態では、追加の治療剤は本明細書で提供される組成物の投与後に投与される。いくつかの実施形態では、追加の治療剤は本明細書で提供される組成物の投与前に投与される。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される組成物は外科手術中に投与される。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される組成物は外科手術中に追加の治療剤と組み合わせて投与される。
【0122】
本明細書で提供される追加の治療剤は、広い用量範囲にわたって有効であり得、一般に有効量で投与される。しかし、実際に投与される治療剤の量は、通常、治療状況、選択された投与経路、投与される実際の化合物、個々の被験者の年齢、体重、および反応、被験者の症状の重篤度などを含む関連する状況にしたがって、医師によって決定されることが理解される。
【0123】
本開示の方法の他の態様および利点は、実例のみを目的として示した以下の実施例において明らかになる。
【0124】
〔実施例〕
実施例1:Gdベースのセラノスティックナノ粒子のヒト初回試験:4種類の脳転移を有する患者への取り込みおよび生体内分布
1.1材料および方法
研究設計
本研究は、脳転移治療のための全脳放射線療法と併用した放射線増感AGuIXナノ粒子の静脈内投与の耐性を評価するための前向き用量漸増フェイズI-b臨床試験の一部である。Nano-Rad試験(AGuIXガドリニウムベースナノ粒子を使用した多発性脳転移の放射線増感)は、NCT02820454として登録された。本明細書では、募集患者15人に適用したMRIプロトコルの所見を報告する。このMRI補助研究に与えられた目標は、i)脳転移および周囲の健康な組織におけるAGuIXナノ粒子の分布を評価すること、およびii)AGuIXナノ粒子の静脈内投与後の脳転移および周囲の健康な組織におけるT1強調コントラスト増強およびナノ粒子濃度を測定することであった(Verry C, et al. BMJ Open. 9:e023591 (2019))。
【0125】
患者の選択
手術または定位放射線照射による局所治療に不適格な多発性脳転移患者を募集した。選択基準は以下を含む:i)最低年齢18歳、ii)組織学的に確認された固形腫瘍由来の続発性脳転移、iii)脳照射歴なし、iv)腎不全なし(糸球体濾過量>60mL/min/1.73m2)、v)肝機能正常(ビリルビン<30μmol/L;アルカリホスファターゼ<400UI/L;アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)<75UI/L;アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)<175UI/L)。
【0126】
試験設計
試験プロトコルの主な工程は以下の通りであった。患者は0日目に、0.2mL/kg体重(0.1mmol/kg体重)の用量のDotarem(ガドテル酸メグルミン)を静脈内ボーラス注入する工程を含む、第1のイメージングセッション(次の項のMRIプロトコル参照)を受けた。第1のイメージングセッションの1~21日後(患者の都合および放射線療法の計画に応じて)、患者は15、30、50、75または100mg/kg体重の用量のAGuIXナノ粒子の溶液を静脈内投与された。AGuIXナノ粒子の投与日を1日目とする。
【0127】
AGuIXナノ粒子の合成
AGuIXナノ粒子は、6工程の合成によって得られた。最初の工程は、ジエチレングリコール中の三塩化ガドリニウム上にソーダを添加することによる酸化ガドリニウムコアの形成である。2番目の工程は、TEOSおよびAPTESを添加することによるポリシロキサンシェルの発達である。熟成後、無機マトリックスの表面に存在する遊離アミノ官能基との反応のためにDOTAGA無水物を添加する。水に移した後、酸化ガドリニウムコアの溶解が観察され、ガドリニウムはマトリックスの表面でDOTAGAによってキレート化される。次に、超小型AGuIXナノ粒子中のポリシロキサンマトリックスの断片化を観察した。最後の工程は、ナノ粒子の凍結乾燥である。
【0128】
セラノスティック剤は、ポリシロキサンマトリックスに共有グラフトされた、ガドリニウム環状配位子、DOTAの誘導体(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン酸-1,4,7,10-四酢酸)に囲まれたポリシロキサンネットワークから構成される。セラノスティック剤の流体力学的直径は4±2nmであり、質量は約10kDaであり、平均化学式(GdSi4-7C24-30N5-8O15-25H40-60,5-10H2O)xによって記述される。平均して、各ナノ粒子はその表面上に、コアガドリニウムイオンをキレート化する10個のDOTAリガンドを提示する。3テスラでの縦方向の緩和率r1は、Gd3+イオン当たり8.9mM-1.s-1と等しく、AGuIXナノ粒子当たり89mM-1.s-1の総r1をもたらす。同じMRIセッションを、ガドテル酸メグルミンの注入なしで、ナノ粒子の投与の2時間後に行った。次いで、患者は全脳放射線療法(30Gyを3Gyの10セッションで照射)を受けた。AGuIXナノ粒子を投与した7日後(8日目)および4週間後(28日目)に、同様のMRIセッションを各患者について行った。
【0129】
MRIプロトコル
MRI取得は、3テスラPhilipsスキャナーで行った。32チャンネルのPhilipsヘッドコイルを使用した。患者は、以下のMRIシーケンスを含む同一のイメージングプロトコルを受けた:i)3D T1強調グラディエントエコーシーケンス、ii)複数のフリップ角を有する3D FLASHシーケンス、iii)磁化率強調画像(SWI)シーケンス、iv)流体減衰反転回復(FLAIR)シーケンス、v)拡散強調画像(DWI)シーケンス。これらの画像シーケンスのいくつかは、放射線療法後の脳転移奏効を評価するRECIST(固形腫瘍における奏効評価基準)およびRANO(神経腫瘍学における奏効評価)基準(24、25)に従う場合に推奨される。3DT1強調イメージングシーケンスは、MRI造影剤投与後の健康な組織および脳転移の高解像度コントラスト増強画像を提供する。3D FLASHシーケンスは、T1緩和時間および造影剤濃度を計算するために、異なったフリップ角で数回繰り返される。SWIシーケンスは、出血の存在を検出するために使用される。FLAIRシーケンスは、炎症または浮腫の存在をモニタリングするために適用される。最後に、DWIシーケンスは、組織または脳転移における異常な水の拡散を検出するために適用され得る。総取得時間は、患者調整画像パラメータに応じて30分~40分の範囲であった。前記イメージングシーケンスの鍵となる特徴および主要な取得パラメータは、補足材料のセクションに詳述する。
【0130】
画像処理および定量化パイプライン
MRI分析は、GIN研究所(グルノーブル、フランス)が開発したMP3(https://github.com/nifm-GIN/MP3)と呼ばれる社内コンピュータプログラムを用いて行い、Matlab(登録商標)ソフトウェアで実行した。画像分析は、転移の計数および測定、コントラスト増強の定量化、緩和時間およびナノ粒子の濃度を含む。RECISTおよびRANO基準に従い、最長径が1cmを超える転移のみが測定可能とみなされ、その後の分析で保持された。パーセンテージで表されるMRI増強は、造影剤投与前のMRIシグナル振幅に対する造影剤投与後のMRIシグナル振幅の比率として定義され、MRIシグナル振幅は3D T1強調イメージデータセットで測定された。T1緩和時間は、4つの異なったフリップ角度で得られた3D FLASH画像から導出された。脳転移におけるナノ粒子の濃度は、造影剤投与前後のT1緩和時間の変動およびナノ粒子の既知の緩和性に由来した。
【0131】
NeuroSpin(CEA、サクレー、フランス)で開発されたBrainVISA/Anatomistソフトウェア(http://brainvisa.info)を用いて、3D画像レンダリングを行った。異なる転移の位置をよりよく可視化するために、BrainVISAのMorphologistパイプラインを使用して、各患者の脳と頭部の両方のメッシュを作製した。
【0132】
統計解析
全ての分析は、GraphPad Prism(GraphPad Software Inc.)を用いて行った。特記しない限り、有意性は5%確率水準で固定した。特記しない限り、全てのデータは、平均値±SDとして示される。
【0133】
1.2結果
投与されたAGuIX Gdベースのナノ粒子は全4種類の脳転移においてMRIコントラスト増強を誘導する
患者募集の結果、4種類の脳転移、すなわちNSCLC(非小細胞肺癌)N=6、乳房N=2、黒色腫N=6および結腸癌N=1が含まれた。全ての患者に、投与量(15、30、50、75および100mg/kg体重についてN=3)の各漸増工程でセラノスティックナノ粒子AGuIX(材料および方法に記載されるように)を首尾よく注入した。
【0134】
1日目、AGuIX注入の2時間後に、MRIシグナル増強が全ての種類の脳転移、全ての患者および全ての投与量に対して観察された。各転移の周囲に描かれた関心領域内で、MRIシグナル増強は、AGuIXナノ粒子の投与量と共に増加することが見出された(
図1)。測定可能な転移全体(1cmを超える最長径)を平均したシグナル増強は、15、30、50、75および100mg/kg体重の各々のAGuIX用量について、26.3±15.2%、24.8±16.3%、56.7±23.8%、64.4±26.7%および120.5±68%に等しかった。前記MRI増強は、注入量と線形的に相関することが見出された(傾き1.08、R
2=0.90)(図示せず)。
【0135】
Gdベースのナノ粒子は、臨床使用されている造影剤と同等の脳転移のMRI増強を示す
0日目、臨床的に承認されたGdベースの造影剤(Dotarem(登録商標),Guerbet、ヴィルパント、フランス)を各患者に注入した15分後においても、MRI増強を測定した。最長径が1cmを超える測定可能な転移全体を平均したMRI増強は182.9±116.2%に等しかった。注入の15分後に観察されたこのMRI増強は、最高用量のAGuIXナノ粒子の投与の2時間後に観察されたものと同程度の大きさである。
【0136】
測定可能な脳転移におけるMRIシグナル増強能力として定義されるAGuIXナノ粒子の検出感度を全ての投与量について評価し、臨床的に使用される造影剤Dotarem(登録商標)の感度と比較した。Dotaremの感度をパーセンテージとして表すと、AGuIXナノ粒子の感度は、15、30、50、75および100mg/kg体重の注入量についてそれぞれ12.1、19.5、34.2、31.8および61.6%に等しかった。
【0137】
AGuIXナノ粒子の濃度は、脳転移において定量化することができる
マルチフリップ角3D FLASH取得は、T1値(図示せず)の画素ごとのマップを計算し、関心領域にわたる縦緩和時間の定量化を可能にするために首尾よく使用された。AGuIXナノ粒子の取り込みによって誘導された、脳転移におけるT1緩和時間の低下は、これらT1マップに明確に示されている。予想されるように、T1値の低下は、コントラスト増強脳転移と共局在する。
【0138】
コントラスト増強転移におけるAGuIXナノ粒子の濃度を、それらの投与後のT1値の変化に基づいて計算した。AGuIX濃度の測定は、100mg/kg体重の用量で投与された患者において、1cmを超える最長径を有する転移について行われた。脳転移における平均AGuIX濃度は、患者#13、#14および#15について、それぞれ57.5±14.3、20.3±6.8、29.5±12.5mg/Lと測定された。
【0139】
MRI増強およびナノ粒子濃度の相関を、最大用量(100mg/kg)の患者について評価した。NSCLC転移を有する患者#13からのMRIデータとの相関を
図2に例示する。2つのMRIパラメータ間の強い正の相関が、測定値の範囲における線形性に近い関係で観察された。
【0140】
それぞれの患者について、MRI増強およびT1値を、目に見える転移のない関心脳領域(患者当たり3つの代表的な関心領域、全ての患者について同様の大きさ)において評価した。前記健康な脳領域のいずれにおいても、有意なMRI増強は観察されず、T1変動も観察されなかった。
【0141】
ナノ粒子投与の1週間後にMRI増強が観察される
最大用量(100mg/kg体重)を投与された患者では、8日目の測定可能な転移(1cmを超える最長径)においてMRI増強の持続が認められた。すなわち、
図3に示すようにAGuIXナノ粒子の投与後1週間までMRI増強の持続が認められた。転移におけるMRI増強の平均値は、患者#13、#14および#15で、それぞれ32.4±10.8%、14±5.8%および26.3±9.7%と測定された。比較点として、1日目の平均MRI増強は、患者#13、#14および#15について、それぞれ175.8±45.2%、58.3±18.4%および154.1±61.9%に等しかった。低いT
1変動のために、AGuIXナノ粒子濃度は計算できなかった。MRI増強およびナノ粒子濃度の間に観察された相関に基づいて、脳転移における8日目のAGuIX濃度について10Mの上限値を推定することができる。AGuIXナノ粒子の投与から4週間後の28日目において、いずれの患者においても顕著なMRI増強は観察されなかった。
【0142】
考察
脳転移の発生は癌の既往歴でよくみられる事象であり、患者の余命に負の影響を及ぼす。多発性脳転移患者に対しては、全脳放射線療法(WBRT)が依然として標準治療である。しかし、全生存期間の中央値は6カ月未満であり、これらの患者の治療効果を改善するために新たな手法を開発する必要がある。したがって、放射線増感剤の使用は非常に興味深い。AGuIXナノ粒子のインビボセラノスティック特性(放射線増感およびマルチモーダルイメージングによる診断)はげっ歯類(F. Lux, et al. Br J Radiol. 18:20180365 (2018))および特に脳腫瘍(G. Le Duc, et al. ACS Nano. 5, 9566-9574 (2011), C. Verry C, et al. Nanomedicine 11, 2405-2417 (2016))における8つの腫瘍モデルで実施された前臨床研究において先に実証された。脳転移に対するAGuIXナノ粒子の診断値の臨床評価は、臨床試験Nano-Radの副次目的のうちの1つであった。患者におけるAGuIXナノ粒子の放射線療法の適用に関する標的用量は100mg/kgである。この理由のために、本研究の結論および見地は本質的にこの用量に焦点を当てている。
【0143】
患者に投与されるAGuIXナノ粒子の最大用量(100mg/kg体重または100μmol/kg体重のGd3+)は、Dotarem(登録商標)(100mol/kg体重のGd3+)などの臨床的に使用されるMRI造影剤の1用量でGd3+注入されるキレート化ガドリニウムイオンの量に相当する。したがって、転移で観察されたMRI増強を、臨床業務で使用されるGdベースの造影剤用量に対するAGuIXの最大用量と比較することは適切である。
【0144】
この研究では、注入への患者の反応を観測する間、ナノ粒子投与とMRI取得との間に2時間の遅延があった。約1時間の平均ナノ粒子血漿半減期では、この遅延が血漿中のナノ粒子濃度の86%の低下をもたらす。対照的に、Dotarem(登録商標)注入とMRI取得との間には15分の遅延しかなかった。ナノ粒子のこの有意なクリアランスおよび患者の血中濃度の低下にもかかわらず、最大ナノ粒子用量でのMRI増強は、臨床造影剤で観察されるものに近い。
【0145】
脳転移におけるMRIシグナルを増強するAGuIXナノ粒子のこの顕著な診断性能は、2つの独立した因子に起因し得る。第1の因子はナノ粒子の固有の磁気特性に関係している。臨床的なGdベースの造影剤と比較して、それらのより大きな直径および分子量はより高い縦緩和係数r1をもたらす。したがって、MRIシグナルの強度を改変する能力を増加させる。具体的には、AGuIXナノ粒子とDotarem(登録商標)のr1値が、3テスラの磁界で、Gd3+イオン当たり8.9および3.5mM-1.S-1にそれぞれ等しい(B.R. Smith, S.S. Gambhir. Chem Rev. 117, 901-986 (2017))。
【0146】
第2の因子は、AGuIXナノ粒子が脳転移において受動的に蓄積する能力に関連し得る。この受動的標的化現象は腫瘍におけるナノ物体の蓄積が欠陥のある腫瘍血管および漏出性の腫瘍血管の両方に起因し、かつ有効なリンパ排液がないことに起因すると仮定する、いわゆる血管透過性・滞留性亢進(EPR)効果を利用する(A. Bianchi, et al. MAGMA. 27, 303-316 (2014))。AGuIXナノ粒子による腫瘍の受動的標的化は、癌の動物モデルの先の研究において一貫して観察されている。多発性脳黒色腫転移のマウスモデルにおいて、腫瘍細胞におけるAGuIXナノ粒子の内在化が報告され、脳転移におけるナノ粒子の存在は動物への静脈注射の24時間後になお観察された(Kotb, A. et al. Theranostics 6(3):418-427 (2016))。最大用量100mg/kgでは、1cmを超える直径を有する全ての転移が、ナノ粒子が投与された7日後までコントラスト増強された。
【0147】
投与1週間後の転移におけるMRIシグナル増強の持続は、この蓄積および転移からのナノ粒子のクリアランスの遅延を強調する。発明者の知る限りでは、臨床的に使用されるGdベースの造影剤の投与後に、転移においてこのような後期MRI増強に関する文献報告はない。
【0148】
このヒト初回臨床試験の設計には用量漸増が含まれていた。したがって、患者はAGuIXナノ粒子の用量を5段階増量して投与された。転移におけるシグナル増強および投与されたナノ粒子濃度の間で観察された線形相関から、調査された線量範囲内のナノ粒子の用量は、転移の受動的標的化のための制限因子ではないと結論付けることができる。重要なことに、この最初の臨床研究に参加した患者の数が限られているにもかかわらず、これらの最初の結果は、ナノ粒子の取り込みおよびシグナル増強がナノ粒子の注入用量にかかわらず、調査した4つの種類の転移(NSCLC、黒色腫、乳房および結腸)に存在することを示している。
【0149】
AGuIXナノ粒子の放射線増感特性を考慮すると、転移に蓄積したナノ粒子の局所濃度を評価し、おそらく定量化することが重要である。そのために、MRIプロトコルは、ナノ粒子濃度が導出されたT1マッピングイメージングシーケンスを含んでいた。本臨床研究で得られた濃度値は、腫瘍の動物モデルを用いた前臨床研究で得られた濃度値とともに広い視野で考えることができる。最大用量を注入された3人の患者のNSCLCおよび乳癌転移におけるAGuIXナノ粒子の計算濃度は8~63mg/Lの間で変化した。これは、脳転移における8~63MのGd3+イオンの濃度範囲に相当する。上述の3人の患者において、%ID/gは8~63%の範囲である。上記MRI前臨床研究2件では、%ID/gについて同程度であり、それぞれ28%ID/gおよび45%ID/gであった。興味深いことに、これらの濃度は放射線療法セッションの設定と適合する注入後の遅延(数時間)で得られる。
【0150】
本研究では、ナノ粒子濃度と、強固なT1強調3D MRIシークエンスを用いて得られたMRIシグナル増強SEとの関連性も評価した。転移での測定可能なナノ粒子濃度の範囲において、MRI増強とナノ粒子濃度との線形関係が、本研究で使用される取得プロトコルで観察される。したがって、本研究で使用される特定のプロトコルを用いて、MRI増強は、AGuIXナノ粒子の濃度を評価するための強固で簡単な指標として使用することができる。
【0151】
転移標的化は診断および放射線増感の両方の目的に有益であるが、健康な周囲組織ではナノ粒子を低濃度に維持することが望ましい。この点に関して、AGuIXナノ粒子の最大用量を投与した2時間後に、転移のない脳組織におけるMRI増強は観察されなかった。この増強の欠如は患者の血漿中で測定されたナノ粒子の迅速なクリアランスと一致し、健康な脳に対するナノ粒子の無害性を肯定的に示している。
【0152】
要約すると、本明細書で報告される臨床試験の予備結果は、Gdベースのナノ粒子の静脈注射が患者における異なる種類の脳転移を増強するために有効であることを実証する。これらの最初の臨床所見-薬物動態学的、受動的標的化、転移における濃度-は、脳腫瘍の動物モデルにおける先の前臨床研究で得られた観察結果と一致し、このセラノスティック剤の前臨床レベルから臨床レベルへの首尾よい移行を支持するものである。
【0153】
これに加えて、Nano-Radフェイズ1臨床試験の予備結果は、本研究のために選択された100mg/kg用量までのAGuIXナノ粒子の静脈注射の良好な耐性を実証する。
【0154】
最後に、8日目の腫瘍中のナノ粒子の持続性は周囲の健康な組織中のナノ粒子の存在を最小限にしながら、腫瘍内の腫瘍の濃度および分布を最適化するために、最初の照射の2~7日前の期間内の第1の注入を含むプロトコルを支持する。
【0155】
これらの結果および観察は、全て以下の実施例2に開示されるフェイズ2臨床試験(NANORAD2、NCT03818386)に対する強力かつ信頼できる支持を与える。
【0156】
実施例2:AGuIXガドリニウムキレート化ポリシロキサンベースのナノ粒子を用いた多発性脳転移の放射線療法:前向き無作為化フェイズII臨床試験
2.1研究仮説および期待される結果
フェイズIb試験Nanoradの予備結果から、癌患者、特に脳転移患者の治療のためのAGuIXナノ粒子および放射線療法の併用への関心が認められている。
【0157】
この無作為化フェイズII研究の目的は、WBRT単独と比較して頭蓋内奏効率の増加を実証するために、AGuIXおよびWBRTの組み合わせの有効性を評価することである。また、頭蓋内無増悪生存期間の増加、患者の生活の質の改善が期待される。さらに、MRIではガドリニウムは陽性造影剤T1であることから、脳転移およびその周囲の健康な組織における本製品の分布を評価するため、MRI検査を実施する。
【0158】
選択された対象集団は原発癌に関係なく全脳放射線療法による治療に適格な脳転移を有する患者である。
【0159】
以下に基づいて対象集団を選択した:
-脳転移の多病巣性に対する放射線増感剤の静脈内投与との関連性;
-前臨床インビボ研究、およびフェイズI試験Nanorad(EudraCT 2015-004259-30;NCT02820454)の対象患者における腫瘍病変および健常脳の組織増強の差異;
-標準的な放射線療法による余命が約4.5ヵ月である患者に対する治療法の選択肢がないこと。
【0160】
他の腫瘍部位もまた、ナノ粒子の放射線増感効果に関連する用量効力の増加から利益を得ることができる。
【0161】
2.2研究の設計/方法論
本研究は、脳転移の治療のためのAGuIXおよび全脳放射線療法の併用の有効性を、全脳放射線療法単独と比較評価する前向き無作為オープン結果遮蔽フェイズII臨床試験である(Blood Press. 1992 Aug;1(2):113-9. Prospective randomized open blinded end-point (PROBE) study. A novel design for intervention trials. Prospective Randomized Open Blinded End-Point. Hansson L)(Hansson et al., 1992)。
【0162】
患者は、潜在的な予後因子を治療群間で均衡させるため、集中的に実施する最小化手順に従い、2群の治療のいずれか1群に割り当てる。最小化アルゴリズムでは、以下の因子を考慮する:施設、年齢(連続変数として)、原発癌の組織型(肺対乳房対黒色腫対その他)、DS-GPAスコア(≦1対>1)、頭蓋内局所治療歴(あり対なし)、免疫療法治療歴(あり対なし)、組入れ時のコルチコイドによる治療(あり対なし)、海馬保護の実施の意思(あり対なし)。
【0163】
本研究は適応的である:事前に確認された小群を脱落させるため、群間差がないように各治療群(WBRTおよびAGuIX+WBRT)に20人の患者を登録した後、中間解析を計画する。選択のために中間解析で確認された2群は、(i)黒色腫脳転移患者および(ii)他の全ての原発癌(肺、乳房、腎臓・・・)由来の脳転移患者である。
【0164】
2つの各小群において、分割表に奏効率を記述する。奏効が認められない、または悪化した群(すなわち、最良客観的頭蓋内奏効率が参照群と同等または悪化した群)は、いずれも脱落する可能性がある。
【0165】
2.3適格性基準/被験者特性
選択基準
-WBRTに適格な、組織学的に確認された固形腫瘍由来の脳転移を有する患者
-18歳以上
-インフォームド・コンセントに署名済み
-ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group)パフォーマンスステータス0-2
-頭蓋外疾患:
・全身治療下で完全にまたは部分的な奏効または安定
・頭蓋外疾患なし
・または治療の第一選択肢
-平均余命6週間を超える
-妊娠する可能性のある全ての患者に効果的な避妊法
-社会保障制度に関連するまたはその受益者
非選択基準
-軟膜転移
-ごく新しい大量出血を伴う転移のエビデンス
-全身治療下において進行性で脅威となる頭蓋外疾患
-先の全頭蓋照射(定位照射を除く)
-ガドリニウムに対する既知の禁忌、感受性またはアレルギー
-磁気共鳴画像法に対する既知の禁忌
-腎不全(糸球体濾過量≦50mL/分/1.73m2)
-別の臨床試験プロトコルへの参加
-妊娠または授乳中
-別の研究の除外期間中の被験者
-行政的または司法的制御下にある被験者
2.4許容された治療/手順
脳照射前の全身癌治療の維持または中止は各研究者の裁量に任されており、現行の推奨事項を遵守しなければならない。
【0166】
放射線療法の間、以下の治療が禁忌である:GEMZAR(登録商標)、AVASTIN(登録商標)、VEMURAFENIB(登録商標)ならびにチロシンキナーゼ阻害剤。それらは、現在の推奨にしたがって、放射線照射の前に停止されなければならない。
【0167】
これらの制限とは別に、患者の通常の治療は許容されており、各患者のCRFに記載する。
【0168】
用心のため、AGuIX投与後2時間未満のうちに放射線療法を実施してはならない。粒子の血漿半減期は、ヒトにおいて1.08時間(0.75~2時間)である。動物モデルにおいて、健康な脳組織中のナノ粒子の量が少ないままであっても、早すぎる放射線療法は、健康な脳組織における放射線療法の効果を増加させ得る(Verry, C., et al. (2016). MRI-guided clinical 6-MV radiosensitization of glioma using a unique gadolinium-based nanoparticles injection. Nanomedicine (Lond))。
【0169】
2.5研究に用いた治療
薬剤名/治療名および商品名:AGuIX
化学名(DCI):ガドリニウムキレート化ポリシロキサンベースのナノ粒子
医薬形態:300mgのAGuIXを活性成分として含有する滅菌凍結乾燥されたオフホワイトの粉末(300mgのAGuIX/バイアル)。それぞれのバイアルには、不活性成分として0.66mgのCaCl2が含まれている。製剤は、ブロモブチルゴムストッパー付きの1回使用10mL透明ガラスバイアルに入れて供給する。
【0170】
調製手順:注入用水3mLを含む溶液で溶解し、100mg/mLのAGuIX溶液を得る。この時、溶液のpHは7.2±0.2である。
【0171】
注入用水で溶解した1時間後に溶解液をシリンジにとり、シリンジポンプを用いて注入する。
【0172】
溶解後、最低1時間、最長24時間以内に投与する。
【0173】
AGuIX溶液は溶解後半日以内に投与されるが、ナノ粒子は[+2℃;+8℃]で保存され、溶解後最長24時間以内に投与されなければならない。
【0174】
シリンジポンプを用いた緩徐注入(2mL/分)による静脈内投与
1投与あたりの用量:100mg/kg、1mL/kg
2.6治療および関連手順
放射線療法:全脳放射線療法:
-線量測定スキャナーおよび個々のコンテンションマスク
-許容照射技術:
・立体的な、等大の、6MV光子の2つの横方向ビーム
・またはIMRT(トモセラピーまたはVMAT)
-線量
・処方線量:30Gy
・1分割当たりの線量:3Gy
・分割数:10
・1日当たりの分割:1
・総治療期間は3週間を超えないこと
標的体積:
臨床標的体積(CTV)=脳+脳幹+小脳
計画標的体積(PTV)=CTV+3mm
リスクのある臓器:
眼、水晶体、網膜、海馬、内耳および蝸牛
線量拘束値:
PTV:V95%>95、D max<107%
海馬の温存:
可能であれば海馬の温存が推奨されるが、必須ではない。海馬の温存のために強度を調整して照射する場合、線量測定スキャナーおよび参照MRIの融合が必要である。両側海馬の外形は、融合MRI-CT画像セット上で手動で生成し、海馬回避領域を生成するために5mm拡張した。計画標的体積(PTV)は、海馬回避領域を除外した臨床標的体積と定義した。海馬を回避しながらPTVをカバーするため、IMRTを10分割、30Gyの線量で照射した。海馬の100%線量は9Gyを超えることはできず、海馬の最大線量は16Gyを超えることはできなかった。
【0175】
2.7治療中の来診
・実験治療群:AGuIX+WBRT
0日目(WBRT開始前2~7日間):
-外来ユニットに入院した患者
-ECOG OMSパフォーマンスステータス、疼痛、体重および定数(心拍数、血圧、体温)の測定を伴う臨床検査
-神経学的検査
-AGuIX(登録商標)注入用末梢静脈カテーテルの留置
-生物学的検査:全血球算定、血清電解質、腎機能、肝機能(詳細は表§7.3および§8.3を参照)
-WBRT開始前2~7日間のAGuIX(H0)初回投与
-注入後1時間以内に実施した脳MRI*
-安全性評価
放射線治療第1週目:
セッション1:
-外来ユニットに入院した患者
-ECOG OMSパフォーマンスステータス、疼痛、体重および定数(心拍数、血圧、体温)の測定を伴う臨床検査
-神経学的検査
-AGuIX(登録商標)注入用末梢静脈カテーテルの留置
-生物学的検査:全血球算定、血清電解質、腎機能、肝機能(詳細は表§7.3および§8.3を参照)。医師はAGuIX(登録商標)注入を実施する前に、患者の腎機能に変化がないことを確認しなければならない。
【0176】
-AGuIX(H0)の2回目の投与
-放射線治療セッションn°1、AGuIX注入の2回目の投与後3~5時間の間に実施
-(用心のため、AGuIX投与後2時間未満のうちに放射線療法を実施するべきではない)
-安全性評価
セッション2/セッション3/セッション4/セッション5:
外来放射線療法セッションn°2、n°3、n°4およびn°5
放射線治療第2週目:
セッション6(放射線療法セッションn°6前):
-外来ユニットに入院した患者
-ECOG OMSパフォーマンスステータス、疼痛、体重および定数(心拍数、血圧、体温)の測定を伴う臨床検査
-神経学的検査
-AGuIX(登録商標)注入用末梢静脈カテーテルの留置
-生物学的検査:全血球算定、血清電解質、腎機能、肝機能(詳細は表§7.3および§8.3を参照)。医師はAGuIX注入を実施する前に、患者の腎機能に変化がないことを確認しなければならない。
【0177】
-AGuIX(H0)の3回目の投与
-放射線療法セッションn°6、AGuIX注入後3~5時間の間に実施。
【0178】
-(用心のため、AGuIX投与後2時間未満のうちに放射線療法を実施すべきではない)
-安全性評価
セッション7/セッション8/セッション9/セッション10:
-外来放射線療法セッションn°7、n°8、n°9およびn°10
・対照治療群:WBRT
放射線治療第1週目
セッション1:
-ECOG OMSパフォーマンスステータス、疼痛、体重および定数(心拍数、血圧、体温)の測定を伴う臨床検査
-神経学的検査
-生物学的検査:全血球算定、血清電解質、腎機能、肝機能(詳細は表§7.3および§8.3を参照)。
【0179】
-放射線療法セッションn°1
-安全性評価
セッション2/セッション3/セッション4/セッション5:
外来放射線療法セッションn°2、n°3、n°4およびn°5
放射線治療第2週目:
セッション6(放射線療法セッションn°6前):
-ECOG OMSパフォーマンスステータス、疼痛、体重および定数(心拍数、血圧、体温)の測定を伴う臨床検査;
-神経学的検査;
-生物学的検査:全血球算定、血清電解質、腎機能、肝機能(詳細は表§7.3および§8.3を参照);
-放射線療法セッションn°6;
-安全性評価。
【0180】
セッション7/セッション8/セッション9/セッション10:
-外来放射線療法セッションn°7、n°8、n°9およびn°10
追跡調査来診
追跡調査来診のスケジュールは治療群(すなわち、実験治療群AGuIX+WBRTおよび対照治療群WBRT)を問わず同じとする。
【0181】
追跡調査来診は放射線療法開始から6週目、その後3、6、9および12ヵ月目(+/-1週)に実施する。
【0182】
研究終了来診
研究の終了は放射線療法開始から12ヵ月後に2つの治療群(すなわち、実験治療群AGuIX+WBRTおよび対照治療群WBRT)に対して実施する。
【0183】
【0184】
〔参照〕
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2. Beasley M, Driver D, Dobbs HJ. Complications of radiotherapy: improving the therapeutic index. Cancer Imaging 2005, 5: 78-84.
3. Hainfeld JF, O'Connor MJ, Dilmanian FA, Slatkin DN, Adams DJ, Smilowitz HM. Micro-CT enables microlocalisation and quantification of Her2-targeted gold nanoparticles within tumour regions. Br J Radiol 2011, 84(1002): 526-533.
4. Dorsey JF, Sun L, Joh DY, Witztum A, Kao GD, Alonso-Basanta M, et al. Gold nanoparticles in radiation research: potential applications for imaging and radiosensitization. Transl Cancer Res 2013, 2(4): 280-291.
5. Taupin F, Flaender M, Delorme R, Brochard T, Mayol JF, Arnaud J, et al. Gadolinium nanoparticles and contrast agent as radiation sensitizers. Phys Med Biol 2015, 60(11): 4449-4464.
6. McQuaid HN, Muir MF, Taggart LE, McMahon SJ, Coulter JA, Hyland WB, et al. Imaging and radiation effects of gold nanoparticles in tumour cells. Sci Rep 2016, 6: 19442.
7. Zhu J, Zhao L, Cheng Y, Xiong Z, Tang Y, Shen M, et al. Radionuclide (131)I-labeled multifunctional dendrimers for targeted SPECT imaging and radiotherapy of tumors. Nanoscale 2015, 7(43): 18169-18178.
8. Mi Y, Shao Z, Vang J, Kaidar-Person O, Wang AZ. Application of nanotechnology to cancer radiotherapy. Cancer Nanotechnol 2016, 7(1): 11.
9. Le Duc G, Miladi I, Alric C, Mowat P, Brauer-Krisch E, Bouchet A, et al. Toward an image-guided microbeam radiation therapy using gadolinium-based nanoparticles. ACS Nano 2011, 5(12): 9566-9574.
10. Dufort S, Bianchi A, Henry M, Lux F, Le Duc G, Josserand V, et al. Nebulized gadolinium-based nanoparticles: a theranostic approach for lung tumor imaging and radiosensitization. Small 2015, 11(2): 215-221.
11. Hainfeld JF, Slatkin DN, Smilowitz HM. The use of gold nanoparticles to enhance radiotherapy in mice. Phys Med Biol 2004, 49(18): N309-315.
【図面の簡単な説明】
【0185】
【
図1】投与量に対するMRI増強。グラフ上の各点は、1cmを超える最長径を有する転移において測定されたMRI増強値に相当する。MRI増強は、各用量、プールされた15~30mg/kg用量、プールされた50~75mg/kgおよび100mg/kgの間で統計学的に異なっていることがわかった。
【
図2】AGuIX濃度に対するMRI増強。グラフ上の各点は、患者#13の1cmを超える最長径を有する転移において測定されたMRI増強およびAGuIX濃度値に相当する。黒い曲線は、一連の点に適用される線形回帰に相当する。破線の曲線は95%信頼帯に相当する。
【
図3】ナノ粒子投与1週間後のMRI増強。患者#13のシグナル増強マップ(色分け)の一部を、患者への静脈注射の2時間後(左側画像)および1週間後(右側画像)に得られた元の3D T
1強調画像に重ね合わせる。矢印はAGuIX増強転移を指している。