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特許7431943リチウムイオン電池用自己消火性フィルム及びその製造方法、並びに、リチウムイオン電池
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  • 特許-リチウムイオン電池用自己消火性フィルム及びその製造方法、並びに、リチウムイオン電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用自己消火性フィルム及びその製造方法、並びに、リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/483 20210101AFI20240207BHJP
   H01M 50/486 20210101ALI20240207BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240207BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240207BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240207BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20240207BHJP
   H01M 10/647 20140101ALI20240207BHJP
【FI】
H01M50/483
H01M50/486
H01M50/489
H01M10/052
H01M10/058
H01M10/613
H01M10/647
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022509957
(86)(22)【出願日】2021-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2021010443
(87)【国際公開番号】W WO2021193205
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2020059149
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉原 裕理
(72)【発明者】
【氏名】水野 悠
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-007089(JP,A)
【文献】特開2009-218078(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0267685(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0331386(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/40-50/497
H01M10/05-10/0587
H01M10/52-10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶融性結着材と消火剤粒子とを含有する自己消火層を備え
前記自己消火層が、前記熱溶融性結着材からなる粒子である熱溶融性結着材粒子を含有する、
リチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
【請求項2】
前記熱溶融性結着材粒子の個数平均粒径が、0.1μm~6.0μmである、請求項に記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
【請求項3】
前記熱溶融性結着材粒子の個数平均粒径が、0.2μm~2.5μmである、請求項又は請求項に記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
【請求項4】
前記熱溶融性結着材粒子は、下記式(1)で求められる平均円形度が0.80以上である、請求項~請求項のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
平均円形度=(粒子投影面積と同じ面積の円の周囲長/粒子投影像の周囲長) … 式(1)
【請求項5】
前記熱溶融性結着材が樹脂であり、
前記樹脂は、JIS K7210-1995に準拠し、温度190℃、荷重21.18Nの条件で測定されたメルトフローレートが20g/10分~55g/10分である、
請求項1~請求項のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
【請求項6】
前記熱溶融性結着材が、ポリオレフィンを含有する、請求項1~請求項のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
【請求項7】
前記消火剤粒子の個数平均粒径が、0.1μm~5.0μmである、請求項1~請求項のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
【請求項8】
更に、粘着材層を備える、請求項1~請求項のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
【請求項9】
熱溶融性結着材と消火剤粒子とを含有する自己消火層を備え、
更に、粘着材層を備える、
リチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
【請求項10】
更に、
前記自己消火層の一方の面側に配置された粘着材層と、
前記自己消火層の他方の面側に配置された耐燃性層と、
を備える、
請求項1~請求項のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
【請求項11】
熱溶融性結着材と消火剤粒子とを含有する自己消火層を備え、
更に、
前記自己消火層の一方の面側に配置された粘着材層と、
前記自己消火層の他方の面側に配置された耐燃性層と、
を備える、
リチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
【請求項12】
平面視した場合に、前記消火剤粒子の凝集物であって直径が0.5mm以上である凝集物の個数が、一辺10cmの正方形領域あたりの個数に換算して10個以下である、請求項1~請求項11のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
【請求項13】
熱溶融性結着材と消火剤粒子とを含有する自己消火層を備え、
平面視した場合に、前記消火剤粒子の凝集物であって直径が0.5mm以上である凝集物の個数が、一辺10cmの正方形領域あたりの個数に換算して10個以下である、
リチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
【請求項14】
請求項1~請求項13のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルムを製造する方法であって、
前記熱溶融性結着材と前記消火剤粒子とを含有する水性分散液Aを準備する工程と、
基材上に前記水性分散液Aを塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を前記熱溶融性結着材の融点未満の温度で加熱乾燥する工程と、
を含むリチウムイオン電池用自己消火性フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記水性分散液Aを準備する工程が、前記熱溶融性結着材からなる粒子である熱溶融性結着材粒子の水分散液と、前記消火剤粒子の水分散液と、を混合する工程を含み、
前記熱溶融性結着材粒子の水分散液のpHが、8.0~11.0である、
請求項14に記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルムの製造方法。
【請求項16】
熱溶融性結着材と消火剤粒子とを含有する自己消火層を備えるリチウムイオン電池用自己消火性フィルムを製造する方法であって、
前記熱溶融性結着材と前記消火剤粒子とを含有する水性分散液Aを準備する工程と、
基材上に前記水性分散液Aを塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を前記熱溶融性結着材の融点未満の温度で加熱乾燥する工程と、
を含み、
前記水性分散液Aを準備する工程が、前記熱溶融性結着材からなる粒子である熱溶融性結着材粒子の水分散液と、前記消火剤粒子の水分散液と、を混合する工程を含み、
前記熱溶融性結着材粒子の水分散液のpHが、8.0~11.0である、
リチウムイオン電池用自己消火性フィルムの製造方法。
【請求項17】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に介在するセパレータと、
を含むリチウムイオン電池素子と、
請求項1~請求項13のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルムと、
を備えるリチウムイオン電池。
【請求項18】
前記リチウムイオン電池素子の少なくとも一部分と、
前記リチウムイオン電池用自己消火性フィルムの少なくとも一部分と、
が接着されている、請求項17に記載のリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン電池用自己消火性フィルム及びその製造方法、並びに、リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、例えば、携帯電話、ノートパソコン、電気自動車、電源用大型蓄電池などの種々の用途で利用されている。リチウムイオン電池について、電源供給時間の長時間化や出力増大の必要性の観点から、高容量化、高エネルギー密度化、高電圧化などが要請されている。
近年、リチウムイオン電池に代表される電池の安全性、即ち、上記電池の発火抑制及び消火に関して、種々の検討がなされている。
例えば、特許文献1には、電池の非正常的な作動状態によって電池の内部が高温になっても、電池の発火を防止するか、または発火時において消火が行われるようにする、安全性が向上した二次電池用パウチとして、正極、負極及び正極と負極との間に介されたセパレータを含む電極組立体を含み、上記電極組立体が内部パウチに収納され、電極リードが内部パウチから引き出されており、上記内部パウチが外部パウチに収納され、電極リードが外部パウチから引き出されており、上記内部パウチと外部パウチとの間の空間に、安全部材が含まれている、パウチ型二次電池が開示されている。
また、特許文献2には、蓄電装置全体の小型化及び軽量化を確保しながら、リチウムの発火による火災を初期消火で抑制することができる電気化学デバイスとして、負極、セパレータ及び正極を積層してなる電極積層体と、所定温度に達すると燃焼してエアロゾルを発生させる消火薬剤と、リチウムイオン含有電解質及び有機溶媒を含む電解液であって、上記電極積層体及び上記消火薬剤を浸漬する電解液と、上記電極積層体、上記消火薬剤及び上記電解液を収納する外装体と、を含む電気化学デバイスが開示されている。
【0003】
特許文献1:特表2018-514068号公報
特許文献2:特許第6431147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、リチウムイオン電池素子の燃焼を、より早期に抑制することが求められる場合がある。
本開示の課題は、リチウムイオン電池素子の燃焼を早期に抑制できるリチウムイオン電池用自己消火性フィルム及びその製造方法、並びに、上記リチウムイオン電池用自己消火性フィルムを備えるリチウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 熱溶融性結着材と消火剤粒子とを含有する自己消火層を備える、リチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
<2> 前記自己消火層が、前記熱溶融性結着材からなる粒子である熱溶融性結着材粒子を含有する、<1>に記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
<3> 前記熱溶融性結着材粒子の個数平均粒径が、0.1μm~6.0μmである、<2>に記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
<4> 前記熱溶融性結着材粒子の個数平均粒径が、0.2μm~2.5μmである、<2>又は<3>に記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
<5> 前記熱溶融性結着材粒子は、下記式(1)で求められる平均円形度が0.80以上である、<2>~<4>のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
平均円形度=(粒子投影面積と同じ面積の円の周囲長/粒子投影像の周囲長) … 式(1)
<6> 前記熱溶融性結着材が樹脂であり、
前記樹脂は、JIS K7210-1995に準拠し、温度190℃、荷重21.18Nの条件で測定されたメルトフローレートが20g/10分~55g/10分である、
<1>~<5>のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
<7> 前記熱溶融性結着材が、ポリオレフィンを含有する、<1>~<6>のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
<8> 前記消火剤粒子の個数平均粒径が、0.1μm~5.0μmである、<1>~<7>のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
<9> 更に、粘着材層を備える、<1>~<8>のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
<10> 更に、
前記自己消火層の一方の面側に配置された粘着材層と、
前記自己消火層の他方の面側に配置された耐燃性層と、
を備える、
<1>~<8>のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
<11> 平面視した場合に、前記消火剤粒子の凝集物であって直径が0.5mm以上である凝集物の個数が、一辺10cmの正方形領域あたりの個数に換算して10個以下である、<1>~<10>のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム。
【0006】
<12> <1>~<11>のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルムを製造する方法であって、
前記熱溶融性結着材と前記消火剤粒子とを含有する水性分散液Aを準備する工程と、
基材上に前記水性分散液Aを塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を前記熱溶融性結着材の融点未満の温度で加熱乾燥する工程と、
を含むリチウムイオン電池用自己消火性フィルムの製造方法。
<13> 前記水性分散液Aを準備する工程が、前記熱溶融性結着材からなる粒子である熱溶融性結着材粒子の水分散液と、前記消火剤粒子の水分散液と、を混合する工程を含み、
前記熱溶融性結着材粒子の水分散液のpHが、8.0~11.0である、
<12>に記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルムの製造方法。
<14> 正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に介在するセパレータと、
を含むリチウムイオン電池素子と、
<1>~<11>のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池用自己消火性フィルムと、
を備えるリチウムイオン電池。
<15> 前記リチウムイオン電池素子の少なくとも一部分と、
前記リチウムイオン電池用自己消火性フィルムの少なくとも一部分と、
が接着されている、<14>に記載のリチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、リチウムイオン電池素子の燃焼を早期に抑制できるリチウムイオン電池用自己消火性フィルム及びその製造方法、並びに、上記リチウムイオン電池用自己消火性フィルムを備えるリチウムイオン電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示のリチウムイオン電池用自己消火性フィルムの一実施形態を示す概略断面図である。
図2】本開示のリチウムイオン電池の一実施形態を示す部分切欠斜視図である。
図3図2に示したリチウムイオン電池のII-II線に沿った断面図である。
図4】実施例1のリチウムイオン電池の釘刺し試験の結果を示すグラフである。
図5】比較例1のリチウムイオン電池の釘刺し試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0010】
〔リチウムイオン電池用自己消火性フィルム〕
本開示のリチウムイオン電池用自己消火性フィルム(以下、「自己消火性フィルム」ともいう。)は、熱溶融性結着材と消火剤粒子とを含有する自己消火層を備える。
本開示の自己消火性フィルムは、リチウムイオン電池素子とともに用いられる。この際、リチウムイオン電池素子に異常発熱が生じた際に、リチウムイオン電池素子の燃焼を早期に抑制できる。
【0011】
ここで、「リチウムイオン電池素子の燃焼を早期に抑制できる」との概念には、
リチウムイオン電池の燃焼を未然に防止できること、及び、
リチウムイオン電池素子の燃焼が実際に生じた場合であっても早期に消火できること
の両方が包含される。
【0012】
上記効果が奏される理由は、本開示の自己消火性フィルムにおける自己消火層が、消火剤粒子とともに熱溶融性結着材を含有するためと考えられる。詳細には、リチウムイオン電池素子の異常発熱が生じ、この熱の作用により、自己消火層がある程度の温度に達した場合、自己消火層における熱溶融性結着材が溶融し、これにより、自己消火層から消火剤粒子が放出されると考えられる。放出された消火剤粒子により、リチウムイオン電池素子の燃焼を早期に抑制できる効果が発現すると考えられる。
【0013】
図1は、本開示のリチウムイオン電池用自己消火性フィルムの一実施形態を示す概略断面図である。
図1に示されるように、自己消火性フィルム1は、自己消火層2と、自己消火層2の一方の面側に配置された粘着材層5と、自己消火層2の他方の面側に配置された耐燃性層6と、を備える。粘着材層及び耐燃性層については後述する。
【0014】
自己消火層2は、熱溶融性結着材からなる粒子である熱溶融性結着材粒子3と、消火剤粒子4と、を含有する。
自己消火性フィルム1は、例えば、リチウムイオン電池素子の少なくとも一部を被覆する態様(例えば、リチウムイオン電池素子の少なくとも一部を包む態様)で用いられる。
【0015】
自己消火性フィルム1は、熱溶融性結着材粒子3と消火剤粒子4とを含有する自己消火層2を有するため、リチウムイオン電池素子の異常発熱によって所定温度に達すると熱溶融性結着材粒子3が溶融して消火剤粒子4を放出する。
従って、電池外装体の破損前にリチウムイオン電池素子の燃焼を抑制することできる。
この実施形態は、自己消火層に含有される熱溶融性結着材が、熱溶融性結着材粒子である態様の実施形態であるため、後述する理由により、リチウムイオン電池素子の燃焼を早期に抑制できる効果がより効果的に発揮される。
【0016】
以下、本開示の自己消火性フィルムに含まれ得る各要素について説明する。
【0017】
<自己消火層>
本開示の自己消火性フィルムは、自己消火層を備える。
本開示の自己消火性フィルムは、自己消火層を1層のみ備えてもよいし、2層以上備えてもよい。
【0018】
(熱溶融性結着材)
自己消火層は、熱溶融性結着材を少なくとも1種含有する。
【0019】
自己消火層に含有される熱溶融性結着材は、熱溶融性結着材からなる粒子(以下、熱溶融性結着材粒子ともいう)であることが好ましい。即ち、自己消火層は、熱溶融性結着材からなる粒子である熱溶融性結着材粒子を含有することが好ましい。
自己消火層が熱溶融性結着材粒子を含有する場合には、リチウムイオン電池素子の燃焼を早期に抑制できる効果がより効果的に奏される。
この理由は、自己消火層が熱溶融性結着材粒子を含有する場合には、隣り合う熱溶融性結着材粒子同士の接着面積が小さいことにより、リチウムイオン電池素子の異常発熱時、隣り合う熱溶融性結着材粒子同士の接着が解けやすく、これにより、自己消火層から消火剤粒子がより放出されやすいためと考えられる。
【0020】
熱溶融性結着材粒子の個数平均粒径は、好ましくは0.1μm~6.0μmである。
熱溶融性結着材粒子の個数平均粒径が0.1μm以上である場合には、熱溶融性結着材粒子同士の接着点が多過ぎずに自己消火層が崩壊性を有するため、消火剤粒子をより放出し易い。熱溶融性結着材粒子の個数平均粒径は、より好ましくは0.2μm以上である。
熱溶融性結着材粒子の個数平均粒径が6.0μm以下である場合には、充分な熱溶融性結着材粒子同士の接着点を有し、これにより自己消火層が割れにくく、自己消火層の可撓性がより向上するという利点がある。このため、例えば、リチウムイオン電池素子をその形状に沿ってより被覆しやすい。
【0021】
熱溶融性結着材粒子の個数平均粒径は、より好ましくは0.2μm~2.5μmであり、更に好ましくは0.2μm~1.0μmである。
熱溶融性結着材粒子の個数平均粒径が0.2μm~2.5μmである場合には、リチウムイオン電池素子の燃焼を早期に抑制できる効果がより効果的に奏される。
この理由は、熱溶融性結着材粒子の個数平均粒径が2.5μm以下である場合には、熱溶融性結着材粒子がより移動しやすいため、熱溶融性結着材粒子によって消火剤粒子の放出が妨げられる現象が抑制され、消火剤粒子がより放出され易いためと考えられる。
かかる効果は、後述する消火剤粒子の分散性(凝集抑制性)を確認することによっても確認できる。
【0022】
熱溶融性結着材粒子は、個数基準の粒度分布の最大ピークの半値幅が、0.6μm以下であることが好ましい。
熱溶融性結着材粒子の個数基準の粒度分布がブロードである場合に比べ、個数基準の粒度分布の最大ピークの半値幅が、0.6μm以下である場合は、大きな熱溶融性結着材粒子同士の間隙に小さな熱溶融性結着材粒子が入り込むことが抑制されるため、熱溶融性結着材粒子が疎に充填され、熱溶融性結着材粒子同士の接着点が少なくなって、自己消火層の崩壊性の低下を抑えることができる、と考えられる。
【0023】
熱溶融性結着材粒子は、下記式(1)で求められる平均円形度が0.80以上であることが好ましい。上記平均円形度は、0.90以上であることがより好ましい。
平均円形度=(粒子投影面積と同じ面積の円の周囲長/粒子投影像の周囲長) … 式(1)
【0024】
熱溶融性結着材粒子の形状が真球に近いほど、隣り合う熱溶融性結着材粒子同士が1点で接着されるようになり、自己消火層の崩壊性が向上して消火剤粒子が一気に放出される傾向がある。平均円形度の上限は特に制限はなく、1であってもよいが、製造上の理由から見た好ましい上限は0.99である。
【0025】
熱溶融性結着材粒子の個数平均粒径、粒度分布及び平均円形度は、消火性フィルムを走査電子顕微鏡(SEM)観察し、画像処理により熱溶融性結着材粒子を抽出して、5000個の熱溶融性結着材粒子について解析することで測定できる。
【0026】
真球状の熱溶融性結着材粒子は、例えば、特許第2851880号公報に記載の方法で作製でき、具体的には、カルボキシ基を導入したポリオレフィンと水酸化カリウムなどの塩基性物質とを含む水性分散液を耐圧容器に入れ、加熱して上記ポリオレフィンを溶融させ、高速攪拌することで作製できる。
【0027】
上記の作製方法では、上記塩基性物質がカルボキシ基を導入したポリオレフィン粒子を取り囲み、ポリオレフィン粒子同士の会合が防止されることで、真球状の熱溶融性結着材粒子が得られる。
【0028】
一方、熱溶融性結着材粒子におけるカルボキシ基が少ない場合には、電池反応に及ぼす影響を小さくすることができるので好ましい。
【0029】
したがって、本開示においては、温水洗浄により表面のカルボキシ基を除去した熱溶融性結着材粒子を用いることが好ましい。
かかる観点から、自己消火層を形成するための原料として、熱溶融性結着材粒子の水分散液を用いる場合、熱溶融性結着材粒子の水分散液のpHは、8.0~11.0であることが好ましい。
熱溶融性結着材粒子の水分散液のpHが上記範囲内であることで、電池反応へ影響をより軽減できる。
【0030】
熱溶融性結着材は、樹脂であることが好ましい。
熱溶融性結着材を構成する樹脂は、JIS K7210-1995に準拠し、温度190℃、荷重21.18Nの条件で測定されたメルトフローレート(以下、「MFR」ともいう)が20g/10分~55g/10分であることが好ましい。
熱溶融性結着材を構成する樹脂のMFRが20g/10分以上である場合には、溶融した熱溶融性結着材の流動性により優れるので、異常発熱により自己消火層の崩壊がより促進され、自己消火層から消火剤粒子がより放出されやすくなり、その結果、リチウムイオン電池素子の燃焼を早期に抑制できる効果がより効果的に奏される。
【0031】
熱溶融性結着材を構成する樹脂のMFRは、JIS K7210-1995に準拠し、温度190℃、荷重21.18Nの条件で測定された値を意味する。
MFRは、より具体的には、JIS K7210-1995におけるA法(質量測定法)により、固定式ダイ(内径2.095mm、長さ8mm)を用い、温度190℃、荷重21.18Nの条件にて測定する。
【0032】
熱溶融性結着材を構成する樹脂の融点は、好ましくは100℃~140℃であり、より好ましくは110℃~140℃である。
熱溶融性結着材を構成する樹脂の融点が上記範囲である場合には、自己消火層から消火剤粒子がより放出されやすくなり、その結果、リチウムイオン電池素子の燃焼を早期に抑制できる効果がより効果的に奏される。
【0033】
熱溶融性結着材は、ポリオレフィンを少なくとも1種含有することが好ましい。
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1-ブテン共重合体、プロピレン/1-ヘキセン共重合体などが挙げられる。
ポリオレフィンは、末端にカルボキシ基(例えばマレイン酸構造)を有することが好ましい。
【0034】
自己消火層における熱溶融性結着材の含有量は、消火剤粒子の種類などにもよるが、自己消火層の全量に対し、10質量%~50質量%であることが好ましく、20質量%~40質量%であることがより好ましい。
【0035】
(消火剤粒子)
自己消火層は、消火剤粒子を少なくとも1種含有する。
消火剤粒子の個数平均粒径は、熱溶融性結着材粒子の粒径にもよるが、0.1μm~5.0μmであることが好ましく、0.2μm~2.5μmであることがより好ましい。
【0036】
特に、消火剤粒子の個数平均粒径が熱溶融性結着材粒子の個数平均粒径の0.8倍~4倍の大きさであると、消火剤粒子の凝集による粗大化が抑止されて、消火剤粒子が熱溶融性結着材粒子間に均一に分散され、接着が解かれた熱溶融性結着材粒子間の隙間を通り易いため、消火作用が早期に発現する傾向がある。
【0037】
消火剤粒子としては、消火剤自体が粒子状であるものや、消火剤を含有する粒子を使用することができる。
消火剤としては、例えば、
リン酸グアニジン、
ポリリン酸メラミン、
Phosphoric trichloride,reaction products with 4,4’-isopropylidenediphenol and phenol、
リン酸エステル有機リン酸化合物、
Phosphoric trichloride,polymer with 1,3-benzenediol,phenyl ester、
三酸化アンチモン、
エチレンビスペンタブロモベンゼン、
2,3-ジブロモプロピルエーテル、
トリアリルイソシアネート6臭化物、
ビス[3,5‐ジブロモ-4-(2,3-ジブロモプロポキシ)フェニル]スルホン、
エチレンビスペンタブロモベンゼン/三酸化アンチモン、
パーフロロブタンスルホン酸カリウム塩類、
炭化ケイ素、
球状アルミナ、
特殊炭素繊維、
ホウ酸化チタン、
等を挙げることができる。
【0038】
消火剤粒子は、自己消火層中に分散されていることが好ましい。これにより、自己消火層から消火剤粒子がより放出されやすくなり、その結果、リチウムイオン電池素子の燃焼を早期に抑制できる効果がより効果的に奏される。
ここで、消火剤粒子が自己消火層中に分散されているとは、自己消火層中における消火剤粒子の凝集が抑制されていることを意味する。
好ましい態様として自己消火性フィルムを平面視した場合に、消火剤粒子の凝集物であって直径が0.5mm以上である凝集物の個数が、一辺10cmの正方形領域あたりの個数に換算して10個以下(より好ましくは1個以下、更に好ましくは0個)である態様が挙げられる。
【0039】
熱溶融性結着材粒子の個数平均粒径が0.2μm~2.5μmである場合には、消火剤粒子が自己消火層中に分散され易く(即ち、消火剤粒子の凝集がより抑制され)、その結果、自己消火層から消火剤粒子がより放出されやすくなり、ひいては上記効果がより効果的に奏される。
【0040】
自己消火層における熱溶融性結着材の含有量は、消火剤粒子の種類などにもよるが、自己消火層の全量に対し、20質量%~70質量%であることが好ましく、30質量%~60質量%であることがより好ましく、40質量%~50質量%であることが更に好ましい。
【0041】
<粘着材層>
本開示の自己消火性フィルムは、更に、粘着材層を少なくとも1層備えることが好ましい。
これにより、自己消火性フィルムとリチウムイオン電池素子とを固定しやすくなり、その結果、リチウムイオン電池素子の位置ずれや巻きずれがより効果的に抑制される。
【0042】
例えば、図1に示す自己消火性フィルム1は、自己消火層2の一方の面側に粘着材層5を備える。
この一例では、粘着材層5を、図2に示すリチウムイオン電池素子50の周囲に接着させ、リチウムイオン電池素子50の少なくとも一部を自己消火性フィルム1で直接被覆することで、リチウムイオン電池素子50がしっかりと固定され、リチウムイオン電池素子50の位置ずれや巻きずれの防止がより効果的に実現される。
【0043】
粘着材層5は、自己消火層2の全面に形成してもよいが、水玉模様(ドット状)、縞模様(ストライプ状)、市松模様など、自己消火層2の一部に設ける(すなわち、非形成部が存在するように設ける。)ことがより好ましい。
粘着材の非塗布部を形成することで、消火剤粒子が非形成部を通ってリチウムイオン電池素子に移動し易くなる傾向がある。
【0044】
粘着材としては、非水電解液に膨潤又は溶解しないものを使用することが好ましく、例えば、ウレタン系接着剤、イミド系接着剤、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤などの非シリコーン系接着剤を挙げることができる。
【0045】
<耐燃性層>
本開示の自己消火性フィルムは、リチウムイオン電池の延焼をより抑制する観点から、更に、耐燃性層を少なくとも1層備えることが好ましい。
【0046】
例えば、図1に示す自己消火性フィルム1は、粘着材層を備えた面側とは反対側の面に耐燃性層6を備える。
耐燃性層6を有することで、リチウムイオン電池素子が発火しても自己消火性フィルム外への延焼をより効果的に抑制することができる。
【0047】
耐燃性層を構成する樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などを挙げることができる。
耐燃性層を構成するこれらの樹脂は、耐燃性層としての機能をもつフィルムを形成してもよい。耐燃性層を構成するこれらの樹脂は、消火剤粒子を含んでいてもよい。また、耐燃性層は、PP(ポリプロピレン)難燃剤(ハロゲン系,リン酸系)を導入したフィルムを用いて形成されていてもよい。
【0048】
本開示の自己消火性フィルムの好ましい態様は、自己消火層の一方の面側に粘着材層を備え、他方の面側に耐燃性層を備える態様である。
自己消火層の一方の面側に粘着材層を備え、他方の面側に耐燃性層を備えることによって、リチウムイオン電池がしっかり固定され、リチウムイオン電池素子の位置ずれや巻きずれを防止するとともに、リチウムイオン電池の延焼の抑制が、より効果的に実現されるためである。
【0049】
〔リチウムイオン電池用自己消火性フィルムの製造方法〕
本開示のリチウムイオン電池用自己消火性フィルムの製造方法の一例は、
熱溶融性結着材と消火剤粒子とを含有する水性分散液Aを準備する工程と、
基材上に水性分散液Aを塗布して塗膜を形成する工程と、
塗膜を熱溶融性結着材の融点未満の温度で加熱乾燥する工程と、
を含む。
【0050】
上記一例に係る製法では、基材上に、熱溶融性結着材と消火剤粒子とを含有する水性分散液Aを塗布し、加熱乾燥させて自己消火層を形成する。
上記一例に係る製法では、基材と、基材上に設けられた自己消火層と、を備える態様の自己消火性フィルムが製造される。
また、上記一例において、基材から自己消火層を剥離した場合には、自己消火層(自立膜)のみからなる自己消火性フィルムを製造することもできる。
また、上記一例において、基材から自己消火層を剥離した後、基材と自己消火層とを接着剤等で貼り合わせて、基材と、基材上に設けられた自己消火層と、を備える態様の自己消火性フィルムを製造してもよい。
【0051】
基材としては、金属、上述した耐燃性層(例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)、等が挙げられる。
【0052】
上記一例に係る製法では、加熱乾燥する工程において、塗膜を熱溶融性結着材の融点未満の温度で加熱乾燥する。
これにより、塗膜を熱溶融性結着材の融点(mp)以上で加熱した場合に比べて、形成された自己消火層において、熱溶融性結着材の形状(例えば、熱溶融性結着材粒子の形状)を維持しやすい。このため、消火剤粒子の放出性に優れた自己消火層を形成できる。
【0053】
上記一例に係る製法では、加熱乾燥の温度の下限には特に制限はないが、形成される自己消火層の強度(即ち、割れ抑制)の観点から、加熱乾燥の温度の下限として、好ましくは、「mp-50」(℃)~「mp-30」(℃)である。
【0054】
<水性分散液Aを準備する工程>
水性分散液Aを準備する工程は、熱溶融性結着材と消火剤粒子とを含有する水性分散液A(以下、「自己消火層塗工液」ともいう)を準備する工程である。
水性分散液Aを準備する工程は、
熱溶融性結着材からなる粒子(即ち、熱溶融性結着材粒子)の水分散液と、
消火剤粒子の水分散液と、
を混合する工程を含むことが好ましい。
これにより、消火剤粒子の分散性をより向上させることができる。
【0055】
水性分散液Aは、必要に応じて、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの粘着材や、スチレンブタジエンゴム(SBR)等の接着助剤を含んでいてもよい。
【0056】
また、前述したとおり、熱溶融性結着材粒子の水分散液のpHは、8.0~11.0であることが好ましい。
この場合には、熱溶融性結着材粒子の表面のカルボキシ基の量が低減されるので、リチウムイオン電池素子に対する自己消火性フィルムの影響をより軽減できる。
【0057】
一例に係る製法は、上述した工程以外のその他の工程を含んでいてもよい。
その他の工程としては、前述した粘着材層を形成する工程等が挙げられる。
【0058】
〔リチウムイオン電池〕
本開示のリチウムイオン電池は、
正極と、負極と、正極及び負極の間に介在するセパレータと、を含むリチウムイオン電池素子と、
前述した本開示の自己消火性フィルムと、
を備える。
【0059】
本開示のリチウムイオン電池は、本開示の自己消火性フィルムを備えるので、前述した本開示の自己消火性フィルムによる効果と同様の効果(即ち、リチウムイオン電池素子の燃焼を早期に抑制する効果)が奏される。
【0060】
本開示のリチウムイオン電池において、上記効果がより効果的に奏される観点から、リチウムイオン電池素子の少なくとも一部が、自己消火性フィルムによって包まれている態様が好ましい。
【0061】
図2は、本開示のリチウムイオン電池の一実施形態を示す部分切欠斜視図である。
図2に示すように、リチウムイオン電池100は、自己消火性フィルム1で周囲を包まれたリチウムイオン電池素子50を電池外装体10に収容して形成されている。リチウムイオン電池素子50は、正極20と負極30とセパレータ40を積層又は巻回させて形成されており、電池外装体10の縁部から正極端子21と負極端子31が引き出された状態で封止されることにより、収容部10aに収容されている。
【0062】
また、本開示のリチウムイオン電池において、リチウムイオン電池素子の位置ずれをより抑制する観点から、リチウムイオン電池素子の少なくとも一部分と、自己消火性フィルムの少なくとも一部分と、が接着されている態様が好ましい。
【0063】
図3は、図2に示したリチウムイオン電池のII―II線に沿った断面図である。
図3に示すように、この一実施形態では、リチウムイオン電池素子50に、その周囲を包む自己消火性フィルム1が接着されているため、リチウムイオン電池素子50の位置ずれが防止される。
【0064】
図3において、自己消火性フィルム1で周囲を包まれたリチウムイオン電池素子50は、電池外装体10の収容部10a内に配置されており、収容部10aには電解液60が充填され、電池外装体10の縁部をヒートシールして形成された封止部10bによって、電池外装体10内に封止・収容されている。
【0065】
正極は、通常、正極活物質および正極集電体により構成されており、必要に応じて、導電助剤、バインダー、固体電解質等を含んでいてもよい。正極活物質は、特に限定されず、一般的に公知のものを用いることができる。
正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル型リチウム複合酸化物、チタン酸リチウム等のリチウム含有複合酸化物を挙げることができる。
【0066】
負極は、通常、負極活物質および負極集電体により構成されており、必要に応じて、導電助剤、バインダー、固体電解質等を含んでいてもよい。負極活物質は、特に限定されず、一般的に公知のものを用いることができる。
例えば、グラファイト、ハードカーボン等の炭素材料、Si及びSi合金等を挙げることができる。
【0067】
電解質は、リチウムイオン伝導性を有するものであれば特に限定されず、一般的に公知のものを用いることができ、非水電解液や無機固体電解質を使用できる。
【0068】
非水電解液としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどのカーボネート類の混合溶媒に、LiPF、LiBF、LiN(SOCF、LiN(SOCFCF等のLi電解質を溶解した非水電解液を挙げることができる。
【0069】
また、無機固体電解質としては、例えば、(Li,La)TiO等のペロブスカイト型酸化物固体電解質や、Li(Al,Ti)(PO等のナシコン型酸化物固体電解質などの酸化物固体電解質や、LiS-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-SiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P等の硫化物固体電解質を挙げることができる。
【0070】
セパレータは、正極と負極との間に介在するように設けられて正極と負極とを絶縁するものである。
上記セパレータとしては、非水電解液に対して安定であり、保液性に優れた材料を用いることが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等を含むポリオレフィン多孔質膜;ポリオレフィン繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等)、ガラス繊維、セルロース繊維、ポリイミド繊維等を含む不織布;などを用いることができる。
【実施例
【0071】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は下記実施例に限定されるものではない。
【0072】
〔実施例1〕
<自己消火性フィルムの作製>
自己消火層中の含有率が15質量%になるようにカルボキシメチルセルロースを1質量%~5質量%含む水溶液に、消火剤粒子(Phosphoric trichloride,polymer with 1,3-benzenediol,phenyl ester、個数平均粒径0.8μm)を自己消火層中の含有率が45質量%になるように加え、プラネタリーミキサーを用いて均一に分散させ、スチレンブタジエンゴム(個数平均粒径:1.2μm、日本ゼオン社製:2001)を自己消火層中の含有率が10質量%になるように加えて消火剤粒子水分散液を作製した。
作製された消火剤粒子水分散液に、熱溶融性結着材粒子1の水分散液(個数平均粒径:1.0μm、平均円形度:0.91、pH:9、融点110℃、MFR:25g/10min;三井化学社製:ケミパールW401)を自己消火層中の熱溶融性結着材粒子1の含有率が30質量%になるように加えて均一分散させて、自己消火層塗工液(前述した水性分散液Aに対応)を作製した。
【0073】
自己消火層塗工液を耐燃性層としてのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム上に塗布し、120℃で加熱乾燥させて厚さ50μmの自己消火層を形成した。
【0074】
自己消火層上に、メチルメタクリレート系接着剤をドット状に付与し粘着材層を形成して自己消火性フィルムを得た。
【0075】
<リチウムイオン電池の作製>
負極活物質としてのグラファイト95質量部、バインダーとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)1質量部、増粘材としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部、溶媒としての水100質量部を混合し、負極用スラリーを調製した。
次に、負極集電体として厚み10μmの銅箔(多孔箔)を用い、乾燥後のグラファイトの質量が4mg/cmとなるように負極用スラリーを負極集電体に塗工し、乾燥させて負極を作製した。
【0076】
正極活物質として粉体の活性炭90質量部、バインダーとしてポリアクリル酸(ポリアクリル酸のナトリウム中和塩)6質量部、導電助剤としてアセチレンブラック15質量部、溶媒として水345質量部を混合し、正極用スラリーを調製した。
次に、正極集電体として厚み15μmのアルミニウム箔(多孔箔)を用い、正極用スラリーを乾燥後の活性炭の質量が4mg/cmとなるように正極集電体に塗工し、乾燥させて正極を作製した。
【0077】
上記のようにして作製した正極及び負極をそれぞれ打ち抜き、60mm×40mmのサイズの長方形とし、40mm×40mmのスラリー塗膜を残して長辺の一端側の20mm×40mmの領域のスラリー塗膜を剥ぎ落として電極端子を取り付けた。
【0078】
厚さ20μmのセルロース製セパレータを正極と負極との間に介在した状態で正極と負極の塗膜部分を対向させてリチウムイオン電池素子を作製した。
【0079】
リチウムイオン電池素子の電極端子を取り付けた一端と、前記一端と対向する他端とを除くリチウムイオン電池素子の全体を自己消火性フィルムで包み、正極、セパレータ、及び負極を固定した。
【0080】
溶媒として、エチレンカーボネート(EC)35体積%、ジメチルカーボネート(DMC)35体積%及びエチルメチルカーボネート(EMC)30体積%の混合溶媒を用い、混合溶媒にLiPFを1mol/L添加して非水電解液を調製した。
【0081】
厚さ40μmのアルミニウム箔の両面に化成処理を施し、一方の化成処理面に、ドライラミネート法により、2液硬化型ポリウレタン系接着剤を用いて、厚さ25μmの延伸ナイロンフィルムを貼り合せ、このナイロンフィルム上に、さらに厚さが50μmのポリプロピレンフィルム(分子量:500万)を同様にして貼り合せて電池外装体用フィルムを得た。
【0082】
自己消火性フィルムで包んだリチウムイオン電池素子とリチウムプレドープ用の金属リチウム箔とを、電池外装体用フィルムの三辺を熱溶着した電池外装体の中に収容し、上記非水電解液を注入し、電池外装体の開口部を150℃で熱接着して封止して、リチウムイオン電池を作製した。
【0083】
〔比較例1〕
リチウムイオン電池素子を自己消火性フィルムで包まない以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池を作製した。
【0084】
<自己消火層中における消火剤粒子の分散性の確認>
各実施例における自己消火性フィルムについて、以下のようにして、自己消火層中における消火剤粒子の分散性の確認を行った。
自己消火性フィルムを平面視にて観察し、消火剤粒子の凝集物であって直径が0.5mm以上である凝集物の個数を確認した。個数は、自己消火性フィルムのうち、一辺10cmの正方形領域あたりの個数に換算して求めた。
得られた結果に基づき、下記評価基準により、自己消火層中における消火剤粒子の分散性を評価した。
結果を表1の「消火剤分散性」欄に示す。
下記評価基準において、自己消火層中における消火剤粒子の分散性に最も優れるランクは、Aである。
【0085】
-自己消火層中における消火剤粒子の分散性の評価基準-
A: 消火剤粒子の凝集物であって直径が0.5mm以上である凝集物の個数が、一辺10cmの正方形領域あたりの個数に換算した場合に、0個であった。
B: 消火剤粒子の凝集物であって直径が0.5mm以上である凝集物の個数が、一辺10cmの正方形領域あたりの個数に換算した場合に、1個~10個であった。
C: 消火剤粒子の凝集物であって直径が0.5mm以上である凝集物の個数が、一辺10cmの正方形領域あたりの個数に換算した場合に、10個超であった。
【0086】
<安全性評価>
作製したリチウムイオン電池に対し、先端を四角錘に加工した外径が5mmの釘を使用して強制内部短絡試験(釘刺し試験)を行い、リチウムイオン電池表面および内部(釘の先端から5mmの位置)の温度と電圧を測定した。
評価結果を図4及び図5に示す。
「電池表中心(タブ)」はリチウムイオン電池表面の温度、「釘内部(5mm)」は、リチウムイオン電池内部の温度を示す。
【0087】
図4及び図5のグラフから、リチウムイオン電池素子を自己消火性フィルムで包んだ実施例1のリチウムイオン電池は、比較例1のリチウムイオン電池よりもリチウムイオン電池内部の温度上昇が抑制され、発火を防止できることが確認された。
【0088】
また、熱溶融性結着材粒子1を下記表1に示す熱溶融性結着材粒子に変える以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン電池を作製し、強制内部短絡試験を行った。
自己消火層中の消火剤粒子の分散性と強制内部短絡試験によるリチウムイオン電池内部の最高到達温度とを合わせて表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1より、本開示の自己消火性フィルムを用いることで、リチウムイオン電池内部の温度が、比較例1の390℃よりも低くなり、発火を防止できることがわかる。
また、熱溶融性結着材粒子の個数平均粒径が0.2μm~2.5μmであると、リチウムイオン電池内部の温度が、電解液の分解温度(およそ180℃)よりも低くなっていることがわかる。これは消火剤粒子の放出性が高く、早期に消火作用を発現したためであると考えられる。
特に、熱溶融性結着材粒子の個数平均粒径が1.0μm以下であり、消火剤粒子と熱溶融性結着材粒子との個数平均粒径が同程度(0.8倍~4倍)であると、セル中温度と融点との差が小さくなっていることから、早期に消火剤粒子が放出されて消火作用を発現していることが確認された。
【0091】
2021年3月27日に出願された日本国特許出願2020-059149号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5