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  • 特許-ミトコンドリア機能改善用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】ミトコンドリア機能改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20240207BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240207BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240207BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240207BHJP
【FI】
A61K35/74 A
A61K35/74 G
A61P21/00
A61P29/00
A23L33/135
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022529757
(86)(22)【出願日】2021-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2021022576
(87)【国際公開番号】W WO2021251505
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2020102240
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸田 一弥
(72)【発明者】
【氏名】吉本 真
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】Gut Microbes, (2020.06.05), 11, [6], p.1833-1841,<DOI:10.1080/19490976.2020.1767464>
【文献】Nature, (2018), 563, [7731], p.354-359
【文献】基礎老化研究, (2017), 41, [1], p.23-27
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/74
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッカーマンシア(Akkermansia)属細菌、及び/又は前記細菌の培養物を含有する、筋炎症抑制用組成物。
【請求項2】
前記筋炎症抑制用組成物が、炎症性筋疾患の予防、改善、又は治療用である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記炎症性筋疾患が、多発筋炎、皮膚筋炎、抗ミトコンドリア抗体陽性筋炎、封入体筋炎、壊死性自己免疫性筋炎、心筋炎、心膜炎から選択される一種以上の疾患である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記アッカーマンシア属細菌が、アッカーマンシア・ムシニフィラ、アッカーマンシア・グリカンフィラから選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
飲食品である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
医薬品である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミトコンドリア機能改善用組成物、筋炎症抑制用組成物、及び筋萎縮抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアは、ATP産生によるエネルギー産生等の種々の機能を司る細胞小器官である。
ミトコンドリアの機能に異常が生じると、エネルギー代謝の副産物である活性酸素(ROS)が過剰に産生し、個体に対して好ましくない現象を引き起こすことが知られている。
具体的には、活性酸素により細胞が損傷されて筋肉等に炎症を生じさせる。また、筋肉の炎症は筋タンパク質分解促進と筋形成障害を誘発し、筋肉量の低下を促進するため、筋萎縮の原因の一つにもなる(非特許文献1)。筋萎縮は、筋線維数の減少および筋線維の容積の減少により筋量が減少する状態をいい、通常は筋力低下を伴う。
筋肉の炎症やそれに起因する筋萎縮に対しては、医療的なアプローチの他に近年は食品により改善することも種々提案されている(特許文献1等)。
【0003】
また、ミトコンドリアの機能異常は、個体の老化を引き起こすことも知られている。過剰産生したフリーラジカルの活性酸素が、DNAやタンパク質、脂質などを酸化し、細胞障害性を誘導することが原因となることも提唱されている(非特許文献2)。実際に筋肉のミトコンドリア機能障害を誘導したマウスでは全身性の老化症状が促進されている(非特許文献3)。また、加齢に伴い機能不良を起こしたミトコンドリアが増加すると、フリーラジカルの過剰な蓄積を引き起こす要因の一つになると考えられている。さらに、フリーラジカルの過剰な蓄積は細胞老化を引き起こすストレスの一つとしてもよく知られている。
そのため、ミトコンドリア機能を改善することができる成分が、抗老化に有用となり得るとされている。
【0004】
ところでアッカーマンシア(Akkermansia)属は、2004年に提案されたウェルコミクロビウム目の新しい属であり、その代表種であるアッカーマンシア・ムシニフィラはヒトの腸内に存在しムチンを資化する細菌である(非特許文献4)。
近年、腸内細菌叢におけるアッカーマンシア・ムシニフィラの存在量と肥満や糖尿病との関連性が報告されている(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-031120号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Costamagna, D. et. Al., Mediators Inflamm., 805172 (2015)
【文献】R Perez-Campo, M Lopez-Torres, S Cadenas, C Rojas, G Barja. J Comp Physiol B, 168 (3), 149-158 (1998)
【文献】Tezze C, Romanello V, Desbats MA Cell Metab. 25(6):1374-1389. (2017)
【文献】Muriel D. et. al., Int. J. Syst. and Evol. Microbiol., 54:1469-1476. (2004)
【文献】Dao MC. et. al., Gut. 65:426-436 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ミトコンドリアの機能を改善するための組成物、さらには筋炎症及びそれに起因する筋萎縮を抑制するための組成物並びに抗老化用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、アッカーマンシア属細菌やその培養物あるいは処理物が、ミトコンドリアの機能異常を改善する作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一の態様は、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上を含有する、ミトコンドリア機能改善用組成物である。
本発明の他の態様は、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上を含有する、筋炎症抑制用組成物である。
本発明の他の態様は、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上を含有する、筋萎縮抑制用組成物である。
本発明において、前記アッカーマンシア属細菌は、アッカーマンシア・ムシニフィラ、アッカーマンシア・グリカンフィラから選択されることが好ましい。
本発明の組成物は、好ましくは、飲食品である。
本発明の組成物は、好ましくは、医薬品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ミトコンドリア機能を改善することができる。
ミトコンドリア機能を改善することにより、筋炎症を抑制し、また炎症性の筋萎縮を抑制することができる。そのため、筋肉の炎症や萎縮による運動機能低下を抑制したりすることができる。
また、ミトコンドリア機能を改善することにより、抗老化効果を得ることができる。そのため、寿命を延長させたり、加齢に伴う運動機能低下を抑制したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】線虫の生存率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。
【0013】
本発明の組成物は、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上を含有する。
【0014】
アッカーマンシア属細菌としては、特に制限されないが、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)、アッカーマンシア・グリカンフィラ(Akkermansia glycaniphila)が挙げられる。
これらのうち、アッカーマンシア・ムシニフィラがより好ましい。
【0015】
アッカーマンシア・ムシニフィラとしてより具体的には、アッカーマンシア・ムシニフィラ JCM30893株が挙げられる。JCM30893株は、理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室(JCM)から入手可能である。
また、アッカーマンシア・ムシニフィラ ATCC BAA-835株も挙げられる。ATCC BAA-835株は、American Type Culture Collection(ATCC)から入手可能である。
【0016】
アッカーマンシア・グリカンフィラとしてより具体的には、アッカーマンシア・グリカンフィラ DSM 100705T株が挙げられる。DSM 100705T株は、German Collection of Microorganisms and Cell Cultures(DSMZ)から入手可能である。
【0017】
なお、上記例示した細菌名で特定される細菌には、当該細菌名で所定の機関に寄託や登録がなされている株そのもの(以下、説明の便宜上、「寄託株」ともいう)に限られず、それと実質的に同等な株(「派生株」又は「誘導株」ともいう)も包含される。すなわち、上記菌株番号(受託番号)で上記寄託機関に寄託されている株そのものに限られず、それと実質的に同等な株も包含される。各細菌について、「上記寄託株と実質的に同等の株」とは、上記寄託株と同一の種に属し、さらに上記寄託株とのゲノム配列の類似度(Average Nucleotide Identity値)が、好ましくは90.0%以上、より好ましくは95.0%以上、さらに好ましくは99.0%の同一性を有し、かつ、好ましくは上記寄託株と同一の菌学的性質を有する株をいう。各細菌について、上記寄託株と実質的に同等の株は、例えば、当該寄託株を親株とする派生株であってよい。派生株としては、寄託株から育種された株や寄託株から自然に生じた株が挙げられる。育種方法としては、遺伝子工学的手法による改変や、突然変異処理による改変が挙げられる。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン、エチルメタンスルフォネート、及びメチルメタンスルフォネート等の変異剤による処理が挙げられる。寄託株から自然に生じた株としては、寄託株の使用の際に自然に生じた株が挙げられる。そのような株としては、寄託株の培養(例えば継代培養)により自然に生じた変異株が挙げられる。派生株は、一種の改変により構築されてもよく、二種又はそれ以上の改変により構築されてもよい。
【0018】
本発明の組成物に含有させるアッカーマンシア属細菌は、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよいし、前述のアッカーマンシア属細菌を培養することにより取得したものを用いてもよい。
培養方法は、アッカーマンシア属細菌が増殖できる限り、特に制限されない。培養方法としては、例えば、アッカーマンシア属細菌の培養に通常用いられる方法を、そのまま、あるいは適宜修正して、用いることができる。培養温度は、例えば、25~50℃であってよく、35~42℃であることが好ましい。培養は、好ましくは嫌気条件下で実施することができ、例えば、炭酸ガス等の嫌気ガスを通気しながら実施することができる。また、培養は、液体静置培養等の微好気条件下で実施することもできる。培養は、例えば、アッカーマンシア属細菌が所望の程度に増殖するまで実施することができる。
【0019】
培養に用いる培地は、アッカーマンシア属細菌が増殖できる限り、特に制限されない。培地としては、例えば、アッカーマンシア属細菌の培養に通常用いられる培地を、そのまま、あるいは適宜修正して、用いることができる。すなわち、炭素源としては、例えば、ムチン、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、セロビオース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、デンプン、デンプン加水分解物、廃糖蜜等の糖類を資化性に応じて用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等のアンモニウム塩類や硝酸塩類を用いることができる。また、無機塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マンガン、硫酸第一鉄等を用いることができる。また、ペプトン、大豆粉、脱脂大豆粕、肉エキス、酵母エキス等の有機成分を用いてもよい。また、アッカーマンシア属細菌の培養に通常用いられる培地として、具体的には、ブレインハートインフュージョン(BHI)培地、強化クロストリジア培地(Reinforced Clostridial medium)、MRS培地(de Man, Rogosa, and Sharpe medium)、mMRS培地(modified MRS medium)、TOSP培地(TOS propionate medium)、TOSP Mup培地(TOS propionate mupirocin medium)、GAM(Gifu Anaerobic Medium)培地、YCFA(Yeast Extract-casein Hydrolysate Acid)培地等が挙げられる。
【0020】
本発明の組成物に含有させるアッカーマンシア属細菌の形態は、菌体、細菌の培養物、細菌の処理物のいずれでもよい。
菌体は、通常は生菌体を含有する形態で含有されるのが好ましいが特に限定されない。菌体は、例えば、生菌体であってもよく、死菌体であってもよく、生菌体と死菌体の混合物であってもよい。
細菌の培養物としては、例えば、培養により得られた培養物をそのまま用いてもよく、培養物を希釈又は濃縮して用いてもよく、培養物から回収した菌体を用いてもよい。また、培養物として、培養上清や培養画分を用いてもよい。培養上清を用いる場合は、例えばBHI培地を用いて、嫌気条件下で37℃にて16時間培養した時の培養液の上清を好ましく使用できる。
細菌の処理物としては、菌体又は培養物に対して、破砕、加熱、凍結乾燥、及びそれらの希釈物、乾燥物又は画分を用いることができる。
【0021】
本発明の組成物は、ミトコンドリア機能を改善する作用を発揮することができる。ここで「機能改善」とは、機能の異常又は低下の防止、抑制、又は遅延を含む。
ミトコンドリア機能は、通常活性酸素(ROS)産生量や、エネルギー産生に伴い生じる膜電位差を指標として判断することができる。また、ミトコンドリア機能は、ATP産生に関与する電子伝達系酵素複合体(呼吸鎖複合体)の酵素活性、ミトコンドリア酸素消費速度(Oxygen Consumption Rate;OCR)、ミトコンドリア量を指標としても判断することができる。
【0022】
ミトコンドリアの機能に異常が生じると、活性酸素(ROS)が過剰に産生し、筋肉等の細胞を損傷して炎症を生じさせる。そのため、ミトコンドリア機能を改善することにより、筋炎症抑制作用及び/又は筋萎縮抑制作用がもたらされ得る。
したがって、本発明の組成物は、筋炎症抑制作用を発揮することができる。また、筋萎縮抑制作用を発揮することもでき、かかる筋萎縮は通常は炎症に起因するものである。
本明細書において「抑制」とは、症状を改善又は緩和すること、症状の悪化や発生を遅延させること、症状の発生を予防することを含む。
【0023】
本発明の組成物は、前述のように筋炎症抑制作用を発揮するため、多発筋炎、皮膚筋炎、多発筋炎、皮膚筋炎、抗ミトコンドリア抗体陽性筋炎、封入体筋炎、壊死性自己免疫性筋炎、心筋炎、心膜炎などの炎症性筋疾患の予防、改善、又は治療に好適に用いることができる。
また、本発明の組成物は、前述のように筋萎縮抑制作用を発揮するため、筋萎縮に起因する運動機能低下抑制のために好適に用いることができる。また、サルコペニア、フレイル、筋ジストロフィー、ミオパチーなどの筋委縮症状を呈する疾患の予防、改善、又は治療に好適に用いることができる。
【0024】
ミトコンドリアの機能に異常が生じると、活性酸素(ROS)が過剰に産生し、細胞を損傷して老化を促進する。そのため、ミトコンドリア機能を改善することにより、抗老化作用がもたらされ得る。
したがって、本発明の組成物は、抗老化作用を発揮することができる。「抗老化」とは、加齢に伴う変化、通常は好ましくない変化を、防止したり抑制したり進行を遅延させることをいう。
【0025】
本発明の組成物は、前述のように抗老化作用を発揮するため、寿命延長や運動機能低下抑制のために好適に用いることができる。ここで寿命延長には、単に長生きすることのほか、健康寿命の延伸が含まれてよい。
【0026】
本発明の別の側面は、ミトコンドリア機能改善用組成物の製造における、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上の使用である。
本発明の別の側面は、ミトコンドリア機能改善における、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上の使用である。
本発明の別の側面は、ミトコンドリア機能改善のために用いられる、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上である。
本発明の別の側面は、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上を対象に投与することを含む、ミトコンドリア機能を改善する方法である。
【0027】
本発明の別の側面は、筋炎症抑制用組成物の製造における、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上の使用である。
本発明の別の側面は、筋炎症抑制における、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上の使用である。
本発明の別の側面は、筋炎症抑制のために用いられる、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上である。
本発明の別の側面は、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上を対象に投与することを含む、筋炎症を抑制する方法である。
【0028】
本発明の別の側面は、筋萎縮抑制用組成物の製造における、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上の使用である。
本発明の別の側面は、筋萎縮抑制における、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上の使用である。
本発明の別の側面は、筋萎縮抑制のために用いられる、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上である。
本発明の別の側面は、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上を対象に投与することを含む、筋萎縮を抑制する方法である。
【0029】
本発明の組成物を投与する対象(被投与者)及び摂取させる対象(摂取者)は、動物であれば特に限定されないが、通常はヒトである。また、成人、小児、乳児、新生児(低体重児を含む)等のいずれであってもよいが、通常は成人である。また、性別は特に限定されない。
【0030】
本発明のアッカーマンシア属細菌は、治療目的で利用されてもよく、非治療目的で利用されてもよい。すなわち、ミトコンドリア機能改善作用、筋炎症抑制作用、筋萎縮抑制作用、又は抗老化作用は、特記しない限り、治療目的で得られてもよく、非治療目的で得られてもよい。
【0031】
「治療目的」とは、例えば、医療行為を含む概念を意味してよく、具体的には、治療による人体への処置行為を含む概念を意味してよい。
【0032】
「非治療目的」とは、例えば、医療行為を含まない概念を意味してよく、具体的には、治療による人体への処置行為を含まない概念を意味してよい。非治療目的としては、健康増進目的や美容目的が挙げられる。
【0033】
「症状または疾病の予防」とは、例えば、症状もしくは疾病の発症の防止および/もしくは遅延、または症状もしくは疾病の発症の可能性の低下を意味してよい。「症状または疾病の改善」または「症状または疾病の治療」とは、例えば、症状もしくは疾病の好転、症状もしくは疾病の悪化の防止もしくは遅延、または症状もしくは疾病の進行の防止もしくは遅延を意味してよい。「症状または疾病の改善」とは、特に、これらの事象であって、且つ非治療目的で得られるものを意味してよい。「症状または疾病の治療」とは、特に、これらの事象であって、且つ治療目的で得られるものを意味してよい。
【0034】
本発明の組成物におけるアッカーマンシア属細菌の含有量は、例えば、本発明の方法において言及する有効成分の投与量が達成されるように設定してもよい。
【0035】
本発明の組成物の形状は、特に制限されない。本発明の組成物の形状としては、本発明の組成物の利用態様に応じて許容可能なものを採用できる。本発明の組成物の形状として、具体的には、後述する飲食品組成物、医薬組成物、または飼料組成物について例示する形状が挙げられる。の含有量は、例えば、本発明の方法において言及する有効成分の投与量が達成されるように設定してもよい。
【0036】
本発明の組成物の形状は、特に制限されない。本発明の組成物の形状としては、本発明の組成物の利用態様に応じて許容可能なものを採用できる。本発明の組成物の形状として、具体的には、後述する飲食品組成物、医薬組成物、または飼料組成物について例示する形状が挙げられる。
【0037】
なお、本明細書において「アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上を動物に投与すること」は、「アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上を動物に摂取させること」と同義であってよい。摂取は、通常は自発的なもの(自由摂取)であるが、強制的なもの(強制摂取)であってもよい。すなわち、投与工程は、具体的には、例えば、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上を飲食品や飼料に配合して対象に供給し、以て対象にそれを自由摂取させる工程であってもよい。
【0038】
本発明の組成物の摂取(投与)時期は、特に限定されず、摂取(投与)対象の状態に応じて適宜選択することが可能である。
【0039】
本発明の組成物の摂取(投与)量は、摂取(投与)対象の年齢、性別、状態、その他の条件等により適宜選択される。
本発明の組成物の摂取(投与)量は、本発明に係るアッカーマンシア属細菌の菌体の摂取(投与)量として、例えば、成人において0.5~5g/日の範囲が好ましく、1~4g/日の範囲がより好ましく、2~3g/日がさらに好ましい。あるいは、アッカーマンシア属細菌の培養上清の摂取(投与)量として、例えば、成人において0.5~5g/日の範囲が好ましく、1~4g/日の範囲がより好ましく、2~3g/日がさらに好ましい。
なお、摂取(投与)の量や期間にかかわらず、本発明の組成物は1日1回又は複数回に分けて摂取(投与)することができる。
【0040】
本発明の組成物におけるアッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物の含有量は、例えば、前記細菌の菌体量として1×10cells/g以上、1×10cells/g以上、1×10cells/g以上、1×10cells/g以上、又は1×10cells/g以上であってもよく、1×1013cells/g以下、1×1012cells/g以下、又は1×1011cells/g以下であってもよく、それらの組み合わせの範囲であってもよい。また、本発明の組成物におけるアッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物の含有量は、例えば、前記細菌の菌体量として1×10cells/mL以上、1×10cells/mL以上、1×10cells/mL以上、1×10cells/mL以上、又は1×10cells/mL以上であってもよく、1×1013cells/mL以下、1×1012cells/mL以下、又は1×1011cells/mL以下であってもよく、それらの組み合わせの範囲であってもよい。本発明の組成物におけるアッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物の含有量は、具体的には前記細菌の菌体量として1×10~1×1013cells/g、1×10~1×1013cells/g、1×10~1×1012cells/g、好ましくは1×10~1×1011cells/g、より好ましくは1×10~1×1010cells/gであってもよい。本発明の組成物におけるアッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物の含有量は、具体的には前記細菌の菌体量として1×10~1×1013cells/mL、1×10~1×1013cells/mL、1×10~1×1012cells/mL、好ましくは1×10~1×1011cells/mL、より好ましくは1×10~1×1010cells/mLであってもよい。
また、菌体が生菌体である場合、個細胞(cells)はCFUと置き換えることができる。なお、cfuはコロニー形成単位(Colony forming unit)を指す。本明細書においては、例えば、還元脱脂粉乳10質量%を含む固体培地にて38℃で培養したときの値とすることができる。
また、前記細菌の培養物として培養上清を用いる場合は、その固形分として、組成物全体の0.1~100質量%とすることが好ましく、より好ましくは1~90質量%、さらに好ましくは10~80質量%とすることができる。
これらは、通常、経口組成物として流通するときの含有量の範囲であってよい。
【0041】
本発明の組成物の摂取(投与)期間は、特に限定されない。また、摂取(投与)期間の上限は特に設けられず、継続的な、長期の摂取(投与)が可能である。
【0042】
本発明の組成物の摂取(投与)経路は、経口又は非経口のいずれでもよいが経口が好ましい。また、非経口摂取(投与)としては、経皮、静注、直腸投与、吸入等が挙げられる。
【0043】
本発明の組成物を経口摂取(投与)される組成物とする場合は、飲食品の態様とすることが好ましい。
【0044】
飲食品としては、本発明の効果を損なわず、経口摂取(投与)できるものであれば形態や性状は特に制限されず、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上を含有させること以外は、通常飲食品に用いられる原料を用いて通常の方法によって製造することができる。
【0045】
飲食品としては、液状、ペースト状、ゲル状固体、粉末等の形態を問わず、例えば、栄養補助食品(サプリメント)、錠菓;流動食(経管摂取用栄養食);パン、マカロニ、スパゲッティ、めん類、ケーキミックス、から揚げ粉、パン粉等の小麦粉製品;即席めん、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰め、電子レンジ食品、即席スープ・シチュー、即席みそ汁・吸い物、スープ缶詰め、フリーズ・ドライ食品、その他の即席食品等の即席食品類;農産缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物、煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)等の農産加工品;水産缶詰め、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、つくだ煮類等の水産加工品;畜産缶詰め・ペースト類、畜肉ハム・ソーセージ等の畜産加工品;加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料類、チーズ、アイスクリーム類、調製粉乳類、クリーム、その他の乳製品等の乳・乳製品;バター、マーガリン類、植物油等の油脂類;しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類等の基礎調味料;調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類、その他の複合調味料等の複合調味料・食品類;素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済冷凍食品等の冷凍食品;キャラメル、キャンディー、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、デザート菓子、ゼリー、その他の菓子などの菓子類;炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果肉飲料、果粒入り果実飲料、野菜系飲料、豆乳、豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料、その他の嗜好飲料等の嗜好飲料類、ベビーフード、ふりかけ、お茶漬けのり等のその他の市販食品等;育児用調製粉乳;経腸栄養食;保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、栄養補助食品等が挙げられる。
【0046】
また、飲食品の一態様として飼料とすることもできる。飼料としては、ペットフード、家畜飼料、養魚飼料等が挙げられる。
飼料の形態としては特に制限されず、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上の他に例えば、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦、マイロ等の穀類;大豆油粕、ナタネ油粕、ヤシ油粕、アマニ油粕等の植物性油粕類;フスマ、麦糠、米糠、脱脂米糠等の糠類;コーングルテンミール、コーンジャムミール等の製造粕類;魚粉、脱脂粉乳、カゼイン、イエローグリース、タロー等の動物性飼料類;トルラ酵母、ビール酵母等の酵母類;第三リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の鉱物質飼料;油脂類;単体アミノ酸;糖類等を含有するものであってよい。
【0047】
本発明の組成物が飲食品(飼料を含む)の態様である場合、ミトコンドリア機能改善、筋炎症抑制、筋萎縮抑制、及び・又は抗老化に関する用途が表示された飲食品として提供・販売されることが可能である。
【0048】
かかる「表示」行為には、需要者に対して前記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、前記用途を想起・類推させうるような表現であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て本発明における「表示」行為に該当する。
また、「表示」は、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、飲食品に係る商品又は商品の包装に前記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。
【0049】
一方、表示内容としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示等)であることが好ましい。また、そのような表示内容を、包装、容器、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等へ付することが好ましい。
【0050】
また、「表示」には、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、医薬用部外品等としての表示も挙げられる。この中でも特に、消費者庁によって認可される表示、例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、若しくは機能性表示食品に係る制度、又はこれらに類似する制度にて認可される表示等が挙げられる。具体的には、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク減少表示、科学的根拠に基づいた機能性の表示等を挙げることができ、より具体的には、健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令(平成二十一年八月三十一日内閣府令第五十七号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)及びこれに類する表示が典型的な例である。
【0051】
かかる表示としては、例えば、「エネルギー代謝を改善するために」、「筋肉・筋力の維持のために」、「筋肉量が気になる方に」「筋力が気になる方に」「筋肉の炎症を抑えるために」、「筋肉が萎縮した方に」、「運動機能の改善のために」、「老化を防ぎたい方に」、「加齢によって衰える筋肉が気になる方に」、「歩く力が気になる方に」、「健康寿命を延ばしたい方に」、「加齢による歩行機能の衰えが気になる方に」、「身体の衰えが気になる方に」等が挙げられる。
【0052】
本発明の組成物は、医薬品の態様とすることもできる。
すなわち、本発明の組成物は、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上を含有する、ミトコンドリア機能の異常又は低下に関連する症状又は疾患の予防、改善、および/または治療のための組成物とすることができる。
また、本発明の組成物は、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上を含有する、筋炎症に関連する症状又は疾患の予防、改善、および/または治療のための組成物とすることができる。ここで筋炎症に関する症状又は疾患としては、多発筋炎、皮膚筋炎、抗ミトコンドリア抗体陽性筋炎、封入体筋炎、壊死性自己免疫性筋炎、心筋炎、心膜炎等が挙げられる。
また、本発明の組成物は、アッカーマンシア属細菌、前記細菌の培養物、前記細菌の処理物から選択される一種又は二種以上を含有する、筋萎縮に関連する症状又は疾患の予防、改善、および/または治療のための組成物とすることができる。ここで筋萎縮に関連する疾患としては、サルコペニア、フレイル、筋ジストロフィー、ミオパチー等が挙げられる。
【0053】
医薬品の形態としては、摂取(投与)方法に応じて、適宜所望の剤形に製剤化することができる。例えば、経口摂取(投与)の場合、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固形製剤;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等に製剤化することができる。また、非経口摂取(投与)の場合、座剤、軟膏剤、注射剤等に製剤化することができる。
製剤化に際しては、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤等の成分を用いることができる。また、他の薬効成分や、公知の又は将来的に見出されるミトコンドリア機能改善作用、筋炎症抑制作用、筋萎縮抑制作用、又は抗老化作用を有する成分等の他の医薬を併用することも可能である。
加えて、製剤化は剤形に応じて適宜公知の方法により実施できる。製剤化に際しては、適宜、通常製剤化に用いる担体を配合して製剤化してもよい。かかる担体としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤等が挙げられる。
【0054】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α-デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸塩誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩誘導体;炭酸カルシウム等の炭酸塩誘導体;硫酸カルシウム等の硫酸塩誘導体等が挙げられる。
【0055】
結合剤としては、例えば、上記賦形剤の他、ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マクロゴール等が挙げられる。
【0056】
崩壊剤としては、例えば、上記賦形剤の他、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾されたデンプン又はセルロース誘導体等が挙げられる。
【0057】
滑沢剤としては、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ピーガム、ゲイロウ等のワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸等のカルボン酸類;安息香酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウム等の硫酸塩類;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物等の珪酸類;デンプン誘導体等が挙げられる。
【0058】
安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;無水酢酸;ソルビン酸等が挙げられる。
【0059】
矯味矯臭剤としては、例えば、甘味料、酸味料、香料等が挙げられる。
なお、経口摂取(投与)用の液剤の場合に使用する担体としては、水等の溶剤等が挙げられる。
【0060】
本発明の医薬品を摂取(投与)するタイミングは、例えば食前、食後、食間、就寝前など特に限定されない。
【実施例
【0061】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]アッカーマンシア・ムシニフィラの菌体及び培養上清の調製
理化学研究所 微生物材料開発室より入手したアッカーマンシア・ムシニフィラJCM30893を、BHI培地(ベクトン・ディッキンソン社製)を用いて、嫌気条件下で37℃にて培養した。培養16時間後、遠心分離により培養上清液と菌体をそれぞれ回収した。以降、これらを「JCM上清」、「JCM菌体」とそれぞれ称する。
ATCCより入手したアッカーマンシア・ムシニフィラATCC BAA-835を、L-システイン含有BHI培地を用いて、嫌気条件下で37℃にて培養した。培養16時間後、遠心分離により培養上清と菌体をそれぞれ回収した。以降、これらを「ATCC上清」、「ATCC菌体」とそれぞれ称する。
【0062】
[試験例1]細胞における筋炎症抑制作用の検討1
(1)細胞培養
実施例1で調製したJCM上清、又は培養前培地を、水酸化ナトリウム水溶液にてpH7.0±0.1に調整し、フィルター滅菌した。
マウス筋芽細胞株C2C12細胞(以下、マウス筋芽細胞という)を1.5×10cells/cmになるように12ウェルプレートに播種し、10%Fetal Bovine Serum及び1%Penicillin Streptomycin含有DMEM培地(増殖用培地)にて、37℃、5%CO下で24時間培養した。その後、2%Horse Serum及び1%Penicillin Streptomycin含有DMEM培地(分化誘導用培地)に、前記滅菌したJCM上清又は培養前培地を1%(v/v)添加した。培養前培地を添加したものをコントロール群、培養後の上清をJCM上清処理群とした。さらに37℃、5%CO下で7日間培養した後に、筋炎症を誘導するためリポポリサッカライド(LPS)(終濃度10μg/mL)を添加した。炎症誘導なしの比較のため、LPSに代えてPBSを添加した群も設けた。その後さらに24時間培養した。
【0063】
(2)炎症性メディエーター遺伝子の発現定量
24時間培養後の細胞から、TRIZOL Reagent(インビトロジェン社)を用いてTotal RNAを回収し、リアルタイムPCR法を用いて炎症性メディエーターであるIL-6と内因性コントロール遺伝子としてGAPDHの発現量を定量解析した。IL-6の発現量はGAPDHの発現量にて補正した。
【0064】
(3)結果
マウス筋芽細胞におけるIL-6発現量を、表1に示す。LPS添加による炎症誘導によってIL-6発現量は増加し、JCM上清によりLPS誘導性IL-6発現促進が抑制された。具体的には、LPS処理によりコントロールに比して10.6倍増加するところ、JCM上清処理投与群では6.5倍まで抑制されることが確認された。この結果から、JCM上清処理により筋炎症が抑制されることが示唆された。
【0065】
【表1】
【0066】
[試験例2]細胞における筋炎症抑制作用の検討2
(1)細胞培養
試験例1(1)と同様に行った。
【0067】
(2)活性酸素(ROS)産生量の測定
24時間培養後の培地にH2DCFDA(Cayman Chemical社製)を終濃度500μMになるように添加して2時間培養した。培養後、RIPAバッファー(CST社製)にて細胞を可溶化し、ライセートを得た。得られたライセートはプレートリーダーを用いて蛍光強度(Ex:480nm/Em:530nm)を測定した。また、BCA法によりライセートのタンパク質濃度を測定し、蛍光強度をタンパク質濃度で補正し、ROS産生量とした。
【0068】
(3)結果
マウス筋芽細胞におけるROS産生量を表2に示す。LPS添加による炎症誘導によってROS産生量は増加し、JCM上清によりROS産生が抑制された。具体的には、LPS処理をしない平常時の筋芽細胞でもROSは産生されるところ、JCM上清処理によりコントロールに比して0.73倍に抑制された。また、LPS処理により炎症誘導された筋芽細胞では、コントロールに比して1.35倍ROS産生量が増加するところ、JCM上清処理群では0.84倍まで抑制された。
ROSは筋肉の炎症を誘導することが知られており、ROS産生の抑制により筋炎症が抑制されることが推測される。通常、ミトコンドリアの機能に異常が生じると、ROSが過剰に産生することが知られていることから、上記の結果はアッカーマンシア・ムシニフィラの培養上清が、ミトコンドリア機能異常を改善することを介して、ROS産生を抑制し、その結果筋炎症を抑制することを示唆すると考えられる。
【0069】
【表2】
【0070】
[試験例3]細胞における筋炎症抑制作用の検討3
(1)細胞培養
実施例1で調製したJCM上清、ATCC上清、又は培養前培地を、水酸化ナトリウム水溶液にてpH7.0±0.1に調整し、フィルター滅菌した。
ラット筋芽細胞株L6細胞(以下、ラット筋芽細胞という)を1.5×10cells/cmになるように12ウェルプレートに播種し、10%Fetal Bovine Serum及び1%Penicillin Streptomycin含有DMEM培地(増殖用培地)にて、37℃、5%CO下で24時間培養した。その後、2%Horse Serum及び1%Penicillin Streptomycin含有DMEM培地(分化誘導用培地)に前記滅菌したJCM上清、ATCC上清、又は培養前培地を1%(v/v)添加した。培養前培地を添加したものをコントロール群、培養上清を添加したものを上清処理群とした。さらに37℃、5%CO下で7日間培養した後に、筋萎縮誘導剤であるデキサメタゾン(終濃度100μM)を添加した。筋萎縮誘導なしの比較のため、デキサメタゾンに代えてPBSを添加した群も設けた。その後さらに24時間培養した。
【0071】
(2)筋萎縮関連遺伝子の発現定量
24時間培養後の細胞から、TRIZOL Reagent(インビトロジェン社)を用いてTotal RNAを回収し、リアルタイムPCR法を用いて筋萎縮関連遺伝子であるAtrogin-1及びMuRF-1と、内因性コントロール遺伝子としてGAPDHの発現量を定量解析した。各遺伝子の発現量はGAPDHの発現量にて補正した。
【0072】
(3)結果
ラット筋芽細胞におけるAtrogin-1及びMuRF-1発現量を、表3に示す。デキサメタゾン添加による筋萎縮誘導によりAtrogin-1及びMuRF-1発現量は増加するところ、培養上清添加によりデキサメタゾン誘導性Atrogin-1及びMuRF-1発現促進が抑制された。
【0073】
【表3】
【0074】
[試験例4]老齢期の線虫における運動機能改善作用の検討
(1)線虫の飼育
線虫(Caenorhabditis elegans N2株)および、その餌となるEscherichia coli OP50(以下、OP50)はCAENORHABDITIS GENETICS CENTERより入手した。
OP50はLB培地(ベクトン・ディッキンソン社製)を用いて、好気条件下で37℃にて培養した。培養16時間後、遠心分離によりOP50の菌体を回収した。得られたOP50の菌体はNGMプレートに塗抹し(OP50の菌体300mg/プレート)、線虫の飼育に用いた。その他、試薬および線虫の飼育、同期化処理は、以下の参考資料に従い実施した。
参考資料
S. Brenner, Genetics, 77 (1), 71-94, 1974, The Genetics of Caenorhabditis Elegans
F. Amrit, et. Al., Methods,68 (3), 465-475, 2014, The C. elegans lifespan assay toolkit
【0075】
(2)試験プレートの調製
上記OP50塗抹NGMプレートに2’-デオキシ-5-フルオロウリジン(東京化成工業社製)を加えてコントロールプレートとした(コントロール群)。なお、2’-デオキシ-5-フルオロウリジンの添加は、新たな個体が孵化しないためである。コントロールプレートに対して、通常餌OP50の半量を実施例1で調製したアッカーマンシア・ムシニフィラのJCM菌体に置換して、被験品プレートとした(JCM菌体投与群)。
【0076】
(3)運動機能の評価
コントロールプレート又は被験品プレートにて、同期化した線虫(L4/adult期)に通常餌もしくはJCM菌体を与えて飼育した。7日間(若齢期)又は14日間(老齢期)飼育した線虫を白金耳でピックアップし、M9バッファー中に移動させ、顕微鏡にて30秒間の首振運動回数を測定した。上記測定は1匹ずつ行った。
【0077】
(4)結果
若齢期と老齢期の線虫における30秒間の首振運動回数を、表4に示す。若齢期が36.7回だったのに対して、コントロール群の老齢期では24.5回まで減少していた。コントロールに比して被験品処理群では36.2回であった。通常、老齢期の線虫では筋肉が萎縮しており、若齢期よりも運動機能が低下しているところ、JCM菌体投与により該機能低下が改善されたころから、JCM菌体がミトコンドリア機能改善を介して筋萎縮抑制作用を発揮したためと推測された。
【0078】
【表4】
【0079】
[試験例5]老齢期の線虫におけるミトコンドリア機能異常に対する改善作用の検討1
(1)線虫の飼育及び試験プレートの調製
試験例4(1)と同様に線虫の飼育及び試験プレートの調製を行った。
【0080】
(2)ROS産生量の測定
コントロールプレートもしくは被験品プレートにて、14日間飼育した老齢期の線虫をM9バッファーにて懸濁して96ウェルプレートに播種し、H2DCFDA(終濃度500μM)を加えて3時間飼育した。その後、プレートリーダーを用いて蛍光強度(Ex:480nm/Em:530nm)を測定することにより活性酸素(ROS)産生量を定量し、各ウェル中の線虫数を顕微鏡にて測定して補正した。
【0081】
(3)結果
老齢期の線虫におけるROS産生量を表5に示す。JCM菌体の投与によりROS産生が抑制された。具体的には、JCM菌体投与群ではコントロールに比して0.30倍まで抑制されることが確認された。通常、老齢期の線虫ではミトコンドリア機能が異常又は低下を生じているところ、JCM菌体投与により該機能が改善することが認められた。
【0082】
【表5】
【0083】
[試験例6]老齢期の線虫におけるミトコンドリア機能異常に対する改善作用の検討2
(1)線虫の飼育及び試験プレートの調製
試験例4(1)と同様に線虫の飼育及び試験プレートの調製を行った。
【0084】
(2)膜電位の測定
コントロールプレートもしくは被験品プレートにて、14日間飼育した老齢期の線虫をM9バッファーにて懸濁して96ウェルプレートに播種し、同仁化学研究所社製JC-1(終濃度10μM)を加えて30分間飼育した。その後、プレートリーダーを用いて蛍光強度(Red: Ex550 nm, Em600 nm, Green: Ex485 nm, Em535 nm)を測定することにより膜電位を定量した。
ミトコンドリアが正常に機能し、膜電位差が保たれた状態では、JC-1が凝集し赤色の蛍光を発する。一方、膜電位が低下すると、JC-1が単量体として存在し緑色の蛍光を発する。この赤色と緑色の蛍光強度の変化は、ミトコンドリアにおけるエネルギー産生に伴い生じる膜電位の変化に相当するため、この手法によりミトコンドリア機能の1つであるエネルギー産生機能を評価することができる(WaKo Bio Window SEP. 2019 / No.161, p.27参照)。
【0085】
(3)結果
老齢期の線虫におけるJC-1による蛍光強度比(赤色/緑色)を表6に示す。JCM菌体投与により蛍光強度比が増加した。具体的には、JCM菌体投与群ではコントロールに比して1.78倍まで増加することが確認された。これは、JCM菌体投与によりミトコンドリア機能(エネルギー産生)が向上したことを示唆している。
【0086】
【表6】
【0087】
[試験例7]ミトコンドリア機能異常に対する改善作用の検討
(1)線虫の飼育及び試験プレートの調製
試験例4(1)と同様に線虫の飼育及び試験プレートの調製を行った。ただし、被験品プレートに塗抹する菌体は、ATCC菌体又はJCM菌体とした。
また、試験例4(1)と同様に培養・回収したOP50の菌体を、S-complete培地に添加した(菌体6mg/mL)。
【0088】
(2)ミトコンドリア機能異常誘導及びROS産生量の測定
コントロールプレートもしくは被験品プレートにて、3日間飼育した線虫を、前記調製した菌体含有S-complete培地に懸濁して、ミトコンドリア機能異常を誘導するためパラコート(終濃度:1mM)とH2DCFDA(終濃度500μM)を加えて6時間飼育した。その後、プレートリーダーを用いて蛍光強度(Ex:480nm/Em:530nm)を測定することにより活性酸素(ROS)産生量を定量し、各ウェル中の線虫数を顕微鏡にて測定して補正した。
【0089】
(3)結果
パラコート処理によりミトコンドリア機能異常を誘導した線虫におけるROS産生量を表7に示す。ATCC菌体又はJCM菌体の投与によりROS産生が抑制された。具体的には、パラコート処理をしない平常時の線虫でもROSは産生されるところ、ATCC菌体投与によりコントロールに比して0.014倍に、JCM菌体投与により0.034倍にそれぞれ抑制された。また、パラコート処理によりミトコンドリア機能異常が誘導された線虫では、ATCC菌体投与によりコントロールに比して0.008倍に、JCM菌体投与により0.024倍にそれぞれ抑制された。
【0090】
【表7】
【0091】
[試験例8]線虫における寿命延長作用の検討
(1)線虫の飼育
試験例4(1)と同様に線虫の飼育と、線虫の餌となるOP50の培養・回収を行った。
【0092】
(3)寿命の評価方法
生育同調した線虫(L4/adult期)を2’-デオキシ-5-フルオロウリジン含有のS-complete培地にて飼育した。なお、2’-デオキシ-5-フルオロウリジンの添加は、新たな個体が孵化しないためである。コントロール群には通常餌OP50を与え(菌体6mg/mL)、ATCC菌体投与群には通常餌OP50の半量をATCC菌体に、JCM菌体投与群には通常餌OP50の半量をJCM菌体に、それぞれ置換して与えた。2~3日置きに顕微鏡を用いて生存個体数を測定した。得られたデータに対してカプラン・マイヤー法を用いて生存曲線を算出した。
【0093】
(3)結果
孵化後3日目(L4/adult期)を0日とする生存曲線(寿命)を図1に示す。ATCC菌体投与群及びJCM菌体投与群において顕著な寿命延長作用が認められた。具体的には平均寿命(日)はコントロール群が15.5±1.38に対して、JCM菌体投与群が23.2±0.62、ATCC菌体投与群が23.8±0.86であった。
図1