(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】デファレンシャル装置
(51)【国際特許分類】
F16H 48/24 20060101AFI20240207BHJP
F16D 27/112 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
F16H48/24
F16D27/112 Z
(21)【出願番号】P 2022538525
(86)(22)【出願日】2020-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2020028231
(87)【国際公開番号】W WO2022018820
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】517175611
【氏名又は名称】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】相川 政士
(72)【発明者】
【氏名】土野 健
(72)【発明者】
【氏名】朝日 雅彦
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-322240(JP,A)
【文献】特開2004-116730(JP,A)
【文献】特開2018-059606(JP,A)
【文献】特開2011-099460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/24
F16D 27/112
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の周りに回転可能な入力ケースであって、前記軸の方向に向いた端面を有する入力ケースと、
前記軸の周りにそれぞれ回転可能な第1および第2のサイドギアを備え、前記第1のサイドギアに対して前記第2のサイドギアの差動を許容するデファレンシャルギア組と、
前記デファレンシャルギア組を支持する出力ケースまたは前記第2のサイドギアに、前記端面に向けて立てられたドッグ歯と、
前記ドッグ歯と噛合可能なクラッチ構造であって、噛合すると前記出力ケースまたは前記第2のサイドギアを前記入力ケースに結合するクラッチ構造と、
前記軸の方向に可動であり、前記クラッチ構造に連絡した内端と、前記端面を通って前記入力ケースの外に露出した外端とを備えたクラッチ部材と、
前記軸の方向に可動であり、少なくとも部分的に磁性材よりなり前記外端に接したアーマチャと、
前記端面から前記軸の方向に離れて支持され、前記軸の方向に磁束を発生して前記アーマチャを吸引し、前記クラッチ部材を介して前記クラッチ構造を前記ドッグ歯に噛合せしめる、ソレノイドと、
前記クラッチ構造を前記ドッグ歯から脱噛合させる向きに付勢するスプリングと、
を備えたデファレンシャル装置
であって、
前記アーマチャは、前記磁束を受けるべく径方向に展開したラジアル面と、前記ラジアル面から前記外端に向けて軸方向に延びたアクシアル部とを備え、前記アクシアル部は前記外端に接し、
前記アクシアル部は前記ラジアル面とは別体であって非磁性材よりなる、デファレンシャル装置。
【請求項2】
前記アクシアル部は、少なくとも部分的に前記ソレノイドの外周を覆い前記外端に接する円筒を備える、請求項
1のデファレンシャル装置。
【請求項3】
前記アクシアル部は、前記ソレノイドを貫通して前記外端に接するコラムを備える、請求項
1のデファレンシャル装置。
【請求項4】
前記入力ケースは前記端面から前記軸の方向に延びたボス部を備え、前記ソレノイドは、前記磁束を発生するコイルと、前記コイルを囲んで磁束を導くコアとを備え、前記コアが前記ボス部に摺動可能に嵌合することにより前記ソレノイドは前記入力ケースに支持される、請求項1ないし
3の何れか1項のデファレンシャル装置。
【請求項5】
前記コアは、一体または別体に、前記ボス部に摺動可能に嵌合したサポート部を備え、前記ボス部を支持するベアリングに突き当たるべく軸方向に延びる、請求項
4のデファレンシャル装置。
【請求項6】
前記アーマチャは、前記サポート部に嵌合することにより軸方向移動可能に支持されている、請求項
5のデファレンシャル装置。
【請求項7】
前記コアは、前記ソレノイドを回り止めするピンであって径方向にまたは軸方向に延びたピンを備え、前記アーマチャは前記ピンに係合することにより共に回り止めされる、請求項
4のデファレンシャル装置。
【請求項8】
前記クラッチ部材の前記外端は、前記軸の周りに連続した輪を成すコンタクトプレートを含み、前記コンタクトプレートは前記ソレノイドと前記端面との間であって前記アーマチャに接するべく配置されている、請求項1ないし
3の何れか1項のデファレンシャル装置。
【請求項9】
前記スプリングは、前記端面と前記コンタクトプレートとの間に介在して前記コンタクトプレートを付勢する、請求項
8のデファレンシャル装置。
【請求項10】
前記コンタクトプレートは径方向に外方に露出しており、以ってセンサによる検出に利用できる、請求項
8のデファレンシャル装置。
【請求項11】
前記クラッチ構造は前記クラッチ部材と共に移動するべく前記クラッチ部材と一体をなし、前記ドッグ歯に噛合する第2のドッグ歯を備える、請求項1ないし
3の何れか1項のデファレンシャル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の開示は、デファレンシャル装置に関し、特に、吸引式ソレノイドによるアクチュエータを備えてクラッチを操作できるデファレンシャル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
四輪車が悪路を走行するには、前輪ないし後輪のみを駆動するよりも四輪の全てに駆動力を伝達するほうが、トラクションを確保するに有利である。一方、整備された舗装路を走行するときには、燃費等の観点から全輪駆動(AWD)方式は不利である。そこで運転者の意図的な操作により二輪駆動と全輪駆動とを切り替えられる、パートタイムAWDとも呼ばれる駆動方式がしばしば採用される。
【0003】
パートタイムAWDを実現するドライブトレインには種々のものがあるが、例えば両車軸の間の差動を許容するデファレンシャルギア組と、入力シャフトを時限的にデファレンシャルギア組に連結するクラッチとの組み合わせが利用できる。かかる組み合わせを一体に備えたフリーランニングデフと呼ばれる装置が提案されている。特許文献1はフリーランニングデフの例を開示する。
【0004】
クラッチを駆動するアクチュエータにはギアードモータ、油圧、ソレノイド等を利用することができ、ソレノイドは特にレスポンスの点で優れる。特許文献1が開示する技術においては、ソレノイドはコアを周回するように磁束を生じ、かかる磁束をプランジャに迂回させることでプランジャに押圧力を発生し、以ってクラッチを駆動している。かかる形式のソレノイドは、比較的に小出力ながら低消費電力で運用することができる。一方、より大きな出力を得るには吸引式ソレノイドのほうが向いている。フリーランニングデフではなく、差動をロックアップする目的に利用した例だが、特許文献2,3に開示する技術においては、ソレノイドは励磁によりアーマチャを吸引し、リターンスプリングはこれを引き離す目的に利用されている。何れの例においても、ソレノイドは車体側に結線することを要するから、デファレンシャルが回転するのに対し、ソレノイドおよびこれに関連する諸部材は非回転部材である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特許出願公開2011-112114号
【文献】日本国特許出願公開平2-286944号
【文献】国際特許出願公開WO2017/100550A1
【発明の概要】
【0006】
デファレンシャルギア組を潤滑するための潤滑油にはクラッチも浸されるので、潤滑油の粘性がクラッチの脱噛合を妨げる抵抗となる。またトルクが印加されているときには噛合したクラッチ歯間の摩擦力は脱噛合に強く抵抗する。そこでクラッチの脱噛合を確実にするには、リターンスプリングは相応の弾発力を発揮せねばならない。そのように強化されたリターンスプリングに抗するためにソレノイドは十分なスラスト力を発揮する必要があり、そこでソレノイドにはアーマチャを吸引する形式のほうが有利である。一方アーマチャは残留磁化によりソレノイドに付着したままであろうとするので、これを引き剥がすにはリターンスプリングはより大きな弾発力を発揮せねばならない。それゆえ吸引式ソレノイドとリターンスプリングとは、相乗的に、何れも強力なものを必要とする。
【0007】
これらの力の反力をどのように負担するかは技術的な課題であるし、またクラッチにどのように力を伝えるかは設計的な熟慮を必要とする。また、より大きな磁力を生ずることとなれば、周囲に漏れる磁束による影響も考慮せねばならない。例えばコアの磁路断面積を増やすことで磁束の漏れを低減しようとすれば、装置は必然的に大型化してしまう。すなわち吸引式のソレノイドにおいて、関連部材をどのように配置して支持するかには、多くの技術的な課題が潜在している。以下に開示する装置は、これらの課題に鑑みて創造された。
【0008】
一局面によれば、デファレンシャル装置は、軸の周りに回転可能な入力ケースであって、前記軸の方向に向いた端面を有する入力ケースと、前記軸の周りにそれぞれ回転可能な第1および第2のサイドギアを備え、前記第1のサイドギアに対して前記第2のサイドギアの差動を許容するデファレンシャルギア組と、前記デファレンシャルギア組を支持する出力ケースまたは前記第2のサイドギアに、前記端面に向けて立てられたドッグ歯と、前記ドッグ歯と噛合可能なクラッチ構造であって、噛合すると前記出力ケースまたは前記第2のサイドギアを前記入力ケースに結合するクラッチ構造と、前記軸の方向に可動であり、前記クラッチ構造に連絡した内端と、前記端面を通って前記入力ケースの外に露出した外端とを備えたクラッチ部材と、前記軸の方向に可動であり、少なくとも部分的に磁性材よりなり前記外端に接したアーマチャと、前記端面から前記軸の方向に離れて支持され、前記軸の方向に磁束を発生して前記アーマチャを吸引し、前記クラッチ部材を介して前記クラッチ構造を前記ドッグ歯に噛合せしめる、ソレノイドと、前記クラッチ構造を前記ドッグ歯から脱噛合させる向きに付勢するスプリングと、を備え、前記アーマチャは、前記磁束を受けるべく径方向に展開したラジアル面と、前記ラジアル面から前記外端に向けて軸方向に延びたアクシアル部とを備え、前記アクシアル部は前記外端に接し、前記アクシアル部は前記ラジアル面とは別体であって非磁性材よりなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態によるデファレンシャル装置の軸に沿う断面図である。
【
図2A】
図2Aは、
図1より取られたアクチュエータおよびその近傍の拡大断面図である。
【
図3A】
図3Aは、一例によるアクチュエータを回り止めする構造の部分立面図である。
【
図3B】
図3Bは、他の例によるアクチュエータを回り止めする構造の部分断面図である。
【
図4】
図4は、アクチュエータがプランジャを介してクラッチ部材を押圧する例を表す部分断面図である。
【
図5A】
図5Aは、センサとアクチュエータとの関係の他の例を表す部分断面図である。
【
図6】
図6は、サイドギアとの組み合わせがクラッチを構成する例を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付の図面を参照して以下に幾つかの例示的な実施形態を説明する。以下の説明および請求の範囲を通じて、特段の説明がなければ、軸はデファレンシャル装置の回転軸の意味であり、また軸方向はこれに平行な方向であり径方向はこれに直交する方向を意味する。また以下の説明を通じて、右と左を区別することがあるが、これは説明の便宜に過ぎず、左右を逆転した実施形態が可能である。
【0011】
主に
図1を参照するに、デファレンシャル装置は、軸Cの周りに回転する両車軸の間の差動を許容しつつ、入力シャフトから車軸へトルクを時限的に伝達する目的に利用することができる(フリーランニングデフ等と呼称することができる)。かかるデファレンシャル装置により例えばパートタイムAWD車両が実現できるが、もちろん用途はこれに限られない。
【0012】
デファレンシャル装置は、概して、入力シャフトからトルクを受容する入力ケース1と、デファレンシャルギア組7を操作するためのクラッチ11と、クラッチ11を駆動するアクチュエータ21と、よりなる。デファレンシャル装置は、デファレンシャルギア組7を支持する出力ケース5を備えることができ、かかる出力ケース5は入力ケース1に対して相対的に回転可能である。入力ケース1と出力ケース5とは同軸であって入れ子になっており、通常は前者が後者を収容するが、収容は必須ではない。
【0013】
入力ケース1は入力シャフトに常時駆動的に連結しており、入力シャフトからトルクを受容して軸C周りに回転する。出力ケース5はドッグ歯13を備えてクラッチ11を構成し、クラッチ11が脱噛合しているときには出力ケース5へトルクは伝達されず、出力ケース5は軸C周りに自由に回転できる。アクチュエータ21がクラッチ11を噛合せしめると、入力ケース1が出力ケース5に駆動的に連結してトルクが伝達され、共に回転する。
【0014】
あるいは
図6に示すごとく、デファレンシャルギア組7の一方のサイドギア77は、ギア歯に対して背面にドッグ歯13を備え、以ってクラッチ11を構成してもよい。この例では、デファレンシャルギア組7は、出力ケース5なしに入力ケース1に直接に支持される。クラッチ11が噛合するとサイドギア77が入力ケース1に結合する。一方のサイドギア77が固定されると他方のサイドギア75も差動ができなくなるので、この例ではクラッチ11はデファレンシャルギア組7による差動をロック/アンロックする目的で利用される。この例によるデファレンシャル装置は、ロックアップデフ等と呼称することができる。
【0015】
図1に戻って参照するに、入力ケース1は、概して軸Cの周りの円筒形であり、その両端を閉じる端面によって内部と外部とが半ば隔離される。入力ケース1と入力シャフトとの連結は例えばリングギアによることができ、円筒から径方向に突出したフランジがリングギアの結合に利用しうるが、もちろん他の形態であってもよい。
【0016】
入力ケース1の両端面からさらに軸方向に外方にそれぞれボス部が延び、ボス部によって入力ケース1はキャリア81に支持される。入力ケース1とキャリア81との間には、ローラベアリングのごときベアリング83が介在することができるが、ローラベアリングに代えてボールベアリングやその他の軸受け装置であってもよい。一方の端面3の近傍にアクチュエータ21が配置される。
【0017】
出力ケース5は、デファレンシャルギア組7を備え、差動を許容しつつ両車軸へトルクを出力することができる。
図1に示した例によればデファレンシャルギア組7はベベルギア式であり、ピニオンシャフト73にそれぞれ回転可能に支持されたピニオンギア71と、これに噛合したサイドギア75,77と、よりなる。もちろんフェースギア式、プラネタリギア式等、他の適宜の形式を利用することができる。サイドギア75,77は、それぞれ車軸と結合するため、その内面にスプラインを備えることができるが、結合は他の形式によってもよい。
【0018】
出力ケース5は、その一端9にドッグ歯13を備え、ドッグ歯13は軸方向に、また入力ケース1の端面3に向いて、立てられている。ドッグ歯13はクラッチ11を構成し、クラッチ11は既に述べた通り、噛合したときには出力ケース5を入力ケース1に駆動的に連結する。出力ケース5を入力ケース1に駆動的に連結するクラッチ構造は、
図1に示した例の通り、クラッチ部材15を介するものであってもよく、あるいは入力ケース1が対応するドッグ歯を備え、ドッグ歯13とクラッチ11を構成するものであってもよい。
【0019】
図1に組み合わせて例えば
図2Aを参照するに、クラッチ部材15は、入力ケース1の内面に緩く嵌合した概ねリング状の部材であり、軸Cの方向に可動である。その内端17は入力ケース1の内部にあってクラッチ構造に連絡している。内端17の反対面からは複数の脚が軸方向に外方に突出し、各々の外端19は端面3を通って入力ケース1の外に露出する。端面3に開いた孔とクラッチ部材15の脚とが係合することにより、クラッチ部材15は入力ケース1から出力ケース5へのトルクを伝達することができる。
【0020】
内端17は第2のドッグ歯14を備えることができ、ドッグ歯13と第2のドッグ歯14とは互いに噛合するように構成されており、組み合わせてクラッチ11を構成する。この場合には既に述べた通り、クラッチ構造はクラッチ部材15と一体である。
【0021】
外端19は、また、アクチュエータ21との連絡のために、コンタクトプレート27を備えることができる。コンタクトプレート27は概して周方向に連続した輪を成す板状であって、外端19との締結のために適宜に曲げ起こされた部分を備えてもよく、またアクチュエータ21と接するために適宜の突起を備えてもよい。コンタクトプレート27に適用する素材は、特に限られるものではないが、入力ケース1やクラッチ部材15、あるいは後述のアーマチャ23やコア53とは異なる素材を利用することができる。
【0022】
アクチュエータ21は、概して、アーマチャ23と、ソレノイド25と、リターンスプリング31と、よりなる。アーマチャ23は少なくとも部分的には磁性材よりなり、ソレノイド25が励磁されたときに生ずる磁束に吸引される。アーマチャ23は、また外端19に接するように配置されており、クラッチ部材15を軸Cの方向に駆動することができる。リターンスプリング31はそれと反対方向にクラッチ部材15を付勢する。
【0023】
ソレノイド25の全体は軸C周りに環状であって、軸方向に磁束を発生するコイル51と、コイル51を囲んで磁束を導くコア53と、を備える。コイル51は銅のごとき良導体よりなる電動線が巻かれたものであり、巻き方向は好ましくは軸Cの方向に最も強い磁束を生じる向きである。コア53はフェライトのごとき高透磁率の素材よりなっていてもよく、磁束を効率よく導いてエネルギ効率を高めるとともに、周囲に磁束を漏洩することによる悪影響を低減する。コア53はコイル51の大半を囲むが、アーマチャ23に向けた面のみ軸方向に開放しており、すなわちこれに磁束を効率よく向けるようになっている。
【0024】
アーマチャ23は、少なくとも上述の磁束を受けて吸引されるべきラジアル面41を備え、これは径方向に展開した円盤状の面にすることができる。磁束を受ける面積を広げるべく、
図2Bに示すごとく、コア53に向けて傾いた斜面45をさらに備えてもよく、斜面45は径方向に内側のみならず、外側にあってもよい。かかる斜面に応じて、コア53はこれに相補的な形状であってもよい。
【0025】
アーマチャ23は、さらに、外端19ないしコンタクトプレート27に接して駆動力を伝えるためのアクシアル部43を備える。アクシアル部43は、例えば
図2A,2Bに組み合わせて
図3Aに例示するごとく、ラジアル面41の外周から軸方向に立ち上がった円筒状の縁であってもよい。かかる縁は、コア53を少なくとも部分的に覆うようにその外側を通り外端19ないしコンタクトプレート27に達する。このような形状は平坦な板をプレスないし絞り加工により一体に形成することができ、製作が容易である。もちろん鋳造や鍛造等により製作してもよいし、別体のアクシアル部43を平坦なラジアル面41に接合してもよい。かかる形状は比較的に薄くてもクラッチ部材15を駆動するに十分であり、従ってコア53の断面積を減じなくてもよい点で有利である。
【0026】
あるいはアーマチャ23は、円筒状の縁に代えて、または加えて、
図4に例示するごとく、コラム49を備えてもよい。コラム49は、ソレノイド25を、特にコア53を、貫通して軸方向に延び、外端19ないしコンタクトプレート27に接する。コラム49は図示の通りコイル51より径方向に内側を通過してもよいし、あるいは外側を通過してもよい。これらのような形態ではコラム49がアーマチャ23を回り止めするので、後述の切欠きを不要にすることができる。さらにあるいはコラム49はコア53の外周を迂回するように延びていてもよい。この場合にはコラム49は後述のピン85に係合することにより回り止めされていてもよく、あるいは個別の回り止めの処置がされていてもよい。
【0027】
アクシアル部43ないしコラム49は、何れもラジアル面41と同一の素材であって一体でもよいが、例えば非磁性材よりなり別体であってもよい。非磁性材よりなる場合には、磁束の漏れを低減することができ、その悪影響を低減することができる。
【0028】
さらにアクシアル部43ないしコラム49と外端19ないしコンタクトプレート27との間には、これらとは別体のブッシュが介在してもよい。かかるブッシュは環状であって入力ケース1が回転しても両者への接触を保つ。かかるブッシュも非磁性材よりなることができ、また例えば低摩擦係数の樹脂よりなり摩擦を低減することができる。
【0029】
コア53の内周がボス部57に嵌合することにより、アクチュエータ21の全体が支持される。内周を除き、コア53は入力ケース1からは離されており、特にコア53の背面と入力ケース1の端面3との間には相当のギャップが保持される。これはコア53から端面3に向けて漏れる磁束を低減するのに役立つ。コア53を位置決めするべく、ボス部57は僅かに径方向に外方に張り出したショルダ59を備えてもよい。ショルダ59は少なくともコイル51の背面に届かない程度であり、すなわち少なくともコイル51の内周よりも径方向に外側にはギャップが保持される。
【0030】
コア53の内周部は、
図2A,4に示すごとく、ショルダ59とは反対方向に軸方向に延長されていてもよい。かかる延長部は略円筒形をなしてもよく、通常にはコア53と一体だが、別体であってコア53に固定されていてもよい。またその端はベアリング83に突き当たって抜け止めされていてもよい。あるいはコア53の抜け止めのためにボス部57は脱落防止部材を備えてもよい。かかる部材は例えばボス部57に係合するリングであり、磁束の漏れを低減するべく、これは非磁性材料よりなっていてもよい。一方、コア53の内周部はボス部57に、その全面が接していなくてもよい。接触面積を減ずるべく、コア53の内周面には溝ないし凹部があってもよい。これも磁束の漏れを低減するのに役立ち、またコア53とボス部57との摺動抵抗を減ずるのに役立つ。
【0031】
アーマチャ23は、ボス部57に直接に嵌合してもよいが、コア53のかかる延長部に嵌合していてもよい。いずれにせよ摺動可能な嵌合であって、アーマチャ23は軸方向に可動である。アーマチャ23が同じ非回転部材であるコア53に嵌合することは、軸方向の移動を滑らかにするに有利である。アーマチャ23の脱落を防止するべく、コア53またはボス部57に係合したリング33を利用することができる。かかるリングも、磁束の漏れを低減するべく、非磁性材料よりなっていてもよい。
【0032】
あるいは
図2Bに示すごとく、コア53およびアーマチャ23を支持するためのサポート部材35を利用することができる。サポート部材35は例えば略円筒形であり、その一端はベアリング83に突き当たって抜け止めされていてもよい。かかるサポート部材35はコア53に突き当たって共に非回転部材であり、またこれを抜け止めすることができる。あるいはサポート部材35はボス部57に締まり嵌合していてもよく、あるいはボス部57に係合する構造を備えてもよい。またアーマチャ23はサポート部材35上に摺動可能に嵌合することができ、これはアーマチャ23からボス部57への磁束の漏れを抑制するのに役立つ。アーマチャ23の脱落を防止するべく、サポート部材35は抜け止め構造を備えてもよく、その一例は図示のごとくその端が外側に曲げられてできた短いフランジである。サポート部材35も、磁束の漏れを低減するべく、非磁性材料よりなっていてもよい。
【0033】
リターンスプリング31は、コア53の背面と入力ケース1の端面3との間に保持されたギャップに配置することができる。特に、コンタクトプレート27と端面3との間に介在することができる。リターンスプリング31は予め僅かに圧縮しておくことができ、クラッチ11の脱噛合を促す向きにクラッチ部材15を付勢する。
【0034】
リターンスプリング31はコンタクトプレート27等と共に回転する部材だが、アーマチャ23およびソレノイド25は非回転部材であって、回り止めされることが望ましい。例えば
図3Aに示すごとく、コア53は径方向に外方に突出したピン85を備え、ピン85がキャリア81に係合することによりソレノイド25の回り止めが実現していてもよい。アーマチャ23は、ソレノイド25に係合する構造を備えてもよく、例えばそのアクシアル部43はピン85と係合する切欠きを備えてもよい。あるいは
図3Bに示すごとく、コア53から軸方向に延びてアーマチャ23を貫通するピン87を利用してもよい。何れにせよアーマチャ23とソレノイド25とは共にピン85,87により回り止めすることができる。ピン85,87はコア53と一体でもよいが、別体であって非磁性材よりなっていてもよい。非磁性材よりなる場合には、磁束の漏れを低減することができ、その悪影響を低減することができる。
【0035】
図1に戻って参照するに、デファレンシャル装置は、必須ではないが、クラッチ11が噛合したか否かを検出する手段を備えることができ、その一例は非接触センサ91である。非接触センサ91としては、高周波発振を利用して金属の近接を検出するもの、静電容量、電場または磁場の変化を検出するもの、光学的手段による検出装置を例示できるが、これらに限られない。これらの非接触センサによれば、回転体との接触によるエネルギ損失を避けることができる。
【0036】
例えば非接触センサ91は、コンタクトプレート27が近接したか否かを検出しうる位置に配置することができる。これまでの説明から理解できる通り、コンタクトプレート27はデファレンシャル装置において外周に露出しており、またコア53と入力ケース1との間のギャップ中を軸方向に移動するので、非接触センサ91は周囲の部材による撹乱を受けることなく正確な検出をすることができる。コンタクトプレート27は回転部材だが既に述べた通り円環状であるので、回転の間、常に非接触センサ91に面しており、軸方向の位置の検出に利用することができる。また既に述べた通り、コンタクトプレート27には任意の素材を適用することができ、従って非接触センサ91による検出に適した素材を選択することができる。もちろんコンタクトプレート27に代えて、クラッチ部材15の他の部分を検出対象とすることができるし、あるいは
図5Aに例示するごとく、アーマチャ23の何れかの部分を対象としてもよい。アーマチャ23は非回転部材であるので、同じく非回転の非接触センサ91と常に相対し、位置の検出に利用することができる。またこれらには、検出に都合のよい適宜の部材を付加してもよい。
【0037】
上述の説明では、軸方向に移動する部材に対して、非接触センサ91は直交する方向にアプローチするが、
図5Bに示す例のごとく、非接触センサ91は軸方向に向けられていてもよい。検出の対象はアーマチャ23でもよいし、図示の例のごとく、コンタクトプレート27であってもよい。後者の場合にアーマチャ23やコア53による干渉を避けるべく、これらを部分的に切り欠いてもよい。アーマチャ23およびコア53は非回転部材であるので、全周を切り欠くことなく、問題の箇所のみを切り欠くだけで足りる。もちろん切り欠くのに代えて、アーマチャ23およびコア53の外周よりも径方向に外方に張り出すよう、コンタクトプレート27の径を拡大してもよい。
【0038】
あるいは非接触センサに代えて、
図5Cに示す例のごとく、接触センサ93を利用してもよい。接触センサ93としては、例えばメカニカルなプッシュスイッチないしプルスイッチを利用することができる。もちろん電気的、磁気的あるいは光学的手段を利用するセンサであってもよい。検出の対象としては、上述と同様にアーマチャ23ないしコンタクトプレート27を対象とすることができ、あるいはクラッチ部材15の何れかの他の部分を対象としてもよい。
【0039】
さらに、上述の何れかのセンサに代えて、あるいは加えて、速度センサ等の他の検出器をデファレンシャル装置は備えることができる。これに応じて、コンタクトプレート27はその周縁上に形成されたノッチや歯のごとく、速度に応じたパルスをセンサに生ぜしめる構造を備えてもよい。コンタクトプレート27は入力ケース1に同期して回転する回転部材であるから、クラッチ11が噛合したか否かだけでなく、回転速度の情報を得ることにも利用できる。
【0040】
ここに説明されたデファレンシャル装置においては、ソレノイドから入力ケースへの磁束の漏れが、特にコアの背面から入力ケースの端面への磁束の漏れが低減されている。吸引式ソレノイドにおいてはかかる方向の磁束が最も大きく、入力ケースを強く引き付けるので、コアの背面と入力ケースの端面とが接していれば摩擦によるエネルギ損失が著しい。また入力ケースは磁束に直交する向きに回転するので、誘導電力の発生によるエネルギ損失も磁力を増そうとするほどに大きくなってしまう。ここに説明されたデファレンシャル装置は、これらのエネルギ損失をいずれも抑制する。また磁束の漏れに対策するためにコアの断面積を大きくする必要がないので、装置をコンパクトにすることができる。一方、コアの背面と入力ケースの端面との間の比較的に広いギャップをリターンスプリングのために利用できるので、リターンスプリングの設計に大きな自由度があり、十分な弾発力と伸縮長さを確保するのに有利である。さらにはかかるギャップにおいてコンタクトプレートが径方向に露出しているので、センサ等を用いてクラッチの状態を検出することが容易である。
【0041】
幾つかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正ないし変形をすることが可能である。