(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】炎症を処置するための化合物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/19 20060101AFI20240207BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20240207BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20240207BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20240207BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240207BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
A61K38/19 ZNA
A61K47/54
A61K47/65
A61K47/60
A61P27/02
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2023029552
(22)【出願日】2023-02-28
(62)【分割の表示】P 2021125537の分割
【原出願日】2017-01-23
【審査請求日】2023-02-28
(32)【優先日】2016-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504311419
【氏名又は名称】タフツ メディカル センター インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】500356887
【氏名又は名称】トラスティーズ オブ タフツ カレッジ
(73)【特許権者】
【識別番号】518258353
【氏名又は名称】オン ターゲット セラピューティクス, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ コーエン
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナ クマール
(72)【発明者】
【氏名】アラン エス. コピン
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン エヌ. ハーウッド
(72)【発明者】
【氏名】ベンカタ エス. ラマン
(72)【発明者】
【氏名】ペドラム ハムラー
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/168721(WO,A2)
【文献】Doyle, J.R. et al.,The Journal of Biological Chemistry,2014年05月09日,Vol.289, No.19,p.13385-13396,doi:10.1074/jbc.M113.522680
【文献】Cash, J.L. et al.,Drug Discovery Today,2014年08月,Vol.19, No.8,p.1186-1192,doi:10.1016/j.drudis.2014.06.023
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/19
A61P 27/02
A61P 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
角膜炎症の処置を必要とする対象において角膜炎症を処置する方法における使用のための組成物であって、前記方法は、治療有効量の前記組成物を前記対象に投与するステップを含み、前記組成物は、
YFPGQFAFS(配列番号2)の配列からなるケメリン断片、またはY
*
FLPS
*
QFA
*
-Tic-S(配列番号3)の配列からなるケメリン類似体であって、
*
は、Dアミノ酸を示し、Ticは、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸を表す、ケメリン類似体;
前記ケメリン断片またはケメリン類似体に連結した脂質実体;および
前記脂質実体を前記ケメリン断片またはケメリン類似体に連結しているリンカー
を含む、組成物。
【請求項2】
前記リンカーが、ポリエチレングリコール、ペプチド、またはそれらの組合せを含む、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
前記リンカーが、
【化1】
からなる群から選択される、請求項1または2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
前記脂質実体が、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、ドコサテトラエン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、パウリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ゴンド酸、エルカ酸、ネルボン酸、ミード酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、GM1ガングリオシド、GM2ガングリオシド、GM3ガングリオシド、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、スフィンゴ糖脂質、スフィンゴ脂質、ホスファチジルイノシトール4,5-ビスホスフェート(PIP
2
)、セラミド、コレステロール、エルゴステロール、植物ステロール、ホパノイド、およびステロイドからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
前記脂質実体が、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、パルミチン酸、バクセン酸、オレイン酸、およびエライジン酸からなる群から選択される、請求項4に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
前記脂質実体が、前記ケメリン断片またはケメリン類似体のN末端に、またはその近傍に連結している、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記脂質実体が、前記ケメリン断片またはケメリン類似体のC末端に、またはその近傍に連結している、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
パルミチン酸-PEG
8
KGGが、前記ケメリン類似体のN末端に、またはその近傍に連結している、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
前記組成物が、1日1回、1日2回、または1日3回投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
前記対象が、ヒトである、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
前記組成物が、点眼薬として製剤化されている、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
約1重量%~10重量%の前記ケメリン断片またはケメリン類似体を含む、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
前記組成物が局所投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項14】
前記組成物が注射を介して投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2016年1月22日に出願された米国仮特許出願番号第62/286,070号に基づく優先権および利益を主張しており、その内容は、その全体が本明細書によって援用される。
【0002】
参照による配列表の組込み
2017年1月23日に作成された、3.53KBのサイズの「ONTG-003-001WO-Sequence Listing.txt」という名のテキストファイルの内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
開示の背景
それらに限定されるものではないが、眼性炎症、ドライアイ疾患(DED)、および眼性神経障害性疼痛を含む、様々な炎症状態がある。
【0004】
眼性炎症は、目の微生物感染症によって引き起こされ得る。このような感染症は、真菌性、ウイルス性、または細菌性であり得る。眼性炎症はまた、外傷、熱傷、自己免疫性疾患、化学的傷害、コンタクトレンズ、または他の外的刺激によっても引き起こされる場合がある。神経障害性疼痛は、母集団の7%もの多くにおいて生じる主要な健康問題である。患者の50%までは、標準治療に応答しない。
【0005】
DEDは、その病変形成の一部を担う炎症を伴う、涙および眼の表面の多因子疾患である。ドライアイは、特により高齢の成人に一般的な、しばしば慢性的な問題である。2000年、米国におけるその有病率は、女性で約17%および男性で12%と推定されているが、近年上昇しており、50%を超えると推定される。ドライアイを有する人は、十分な涙を生成しないか、または涙の質が低い。涙は、眼瞼内およびその周りのいくつかの分泌腺によって生成される。涙の生成は、年齢と共に、様々な病状と共に、またはある特定の医薬の副作用として減少する傾向がある。風および乾燥気候などの環境条件も、涙の蒸発を増大することによって涙の量を低減するおそれがある。涙の正常な生成量が減少するか、または目から涙があまりに急速に蒸発すると、ドライアイの症状が発症し得る。涙の質に関して、涙は、油、水および粘液の三層から構成される。各構成成分は、目の前面を保護し、栄養分を与える。滑らかな油層は、水層の蒸発を防止する一助になり、ムチン層は、目の表面上に涙を均一に広げる。涙が、あまりに急速に蒸発するか、または涙の三層のいずれかが欠乏することに起因して角膜上に均一に広がらないと、ドライアイ症状が発症し得る。ドライアイの一般的な形態は、涙の水層が不適切である場合に生じる。この状態は、乾性角結膜炎(KCS)とも呼ばれる。
【0006】
本開示は、それらに限定されるものではないが、眼性炎症、DED、および眼性神経障害性疼痛を含む様々な炎症状態に罹患している患者の必要に対処する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の要旨
本開示は、炎症状態の少なくとも1つの症状を処置または回復させるための組成物および方法を提供する。
【0008】
一態様では、本開示は、(a)ケメリンまたはその断片もしくは類似体、および(b)ケメリンまたはその断片もしくは類似体に連結した脂質実体を含む組成物に関する。
【0009】
一部の実施形態では、脂質実体は、リンカーを介してケメリンまたはその断片もしくは類似体に連結している。リンカーは、ポリエチレングリコール、ペプチド、またはそれらの組合せを含み得る。
【0010】
一部の実施形態では、リンカーは、
【化1】
からなる群から選択され得る。
【0011】
一部の実施形態では、ケメリン断片は、好ましくは配列番号1の、少なくとも5個のアミノ酸、少なくとも10個のアミノ酸、少なくとも20個のアミノ酸、少なくとも30個のアミノ酸、少なくとも40個のアミノ酸、少なくとも50個のアミノ酸、少なくとも60個のアミノ酸、少なくとも70個のアミノ酸、少なくとも80個のアミノ酸、少なくとも90個のアミノ酸、少なくとも100個のアミノ酸、少なくとも110個のアミノ酸、少なくとも120個のアミノ酸、少なくとも130個のアミノ酸、少なくとも140個のアミノ酸、または少なくとも150個のアミノ酸を含む。より好ましくは、ケメリン断片は、CMKLR1活性化活性を保持する。
【0012】
一部の実施形態では、ケメリン断片は、配列番号1の21位~157位のアミノ酸配列を有する。配列番号1は、ケメリンのアミノ酸配列に対応する。
【0013】
一部の実施形態では、ケメリン断片は、YFPGQFAFS(配列番号2)を含む。
【0014】
一部の実施形態では、ケメリン類似体は、タンパク質分解に対して抵抗性である。例えば、ケメリン類似体は、
【化2】
を含み、イタリック体のY、S、およびAは、Dアミノ酸であり、Ticは、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸を表す。
【0015】
一部の実施形態では、脂質実体は、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、ドコサテトラエン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、パウリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ゴンド酸、エルカ酸、ネルボン酸、ミード酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、GM1ガングリオシド、GM2ガングリオシド、GM3ガングリオシド、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、スフィンゴ糖脂質、スフィンゴ脂質、ホスファチジルイノシトール4,5-ビスホスフェート(PIP2)、セラミド、コレステロール、エルゴステロール、植物ステロール、ホパノイド、およびステロイドからなる群から選択される。
【0016】
一部の実施形態では、脂質実体は、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、パルミチン酸、バクセン酸、オレイン酸、およびエライジン酸からなる群から選択される。
【0017】
一部の実施形態では、脂質実体は、ケメリンまたはその断片もしくは類似体のN末端に、またはその近傍に連結し得る。
【0018】
一部の実施形態では、脂質実体は、ケメリンまたはその断片もしくは類似体のC末端に、またはその近傍に連結し得る。
【0019】
別の態様では、本開示は、本開示の組成物および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。
【0020】
さらに別の態様では、本開示は、それを必要とする対象の炎症状態を処置する方法であって、治療有効量の本開示の医薬組成物、あるいはケメリンまたはその断片もしくは類似体を含む組成物を対象に投与するステップを含む方法に関する。
【0021】
一部の実施形態では、炎症状態は、眼性炎症またはドライアイ疾患である。
【0022】
一部の実施形態では、医薬組成物は、局所投与される。
【0023】
一部の実施形態では、医薬組成物は、1日1回、1日2回、または1日3回投与される。
【0024】
一部の実施形態では、対象は、ヒトである。
【0025】
本明細書に記載される任意の態様または実施形態は、本明細書に開示される任意の他の態様または実施形態と組み合わせることができる。本開示は、その詳細な説明と共に記載されているが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の範囲を例示するものであり、限定することを意図しない。他の態様、利点および修飾は、以下の特許請求の範囲に含まれる。
【0026】
本明細書で言及される特許および科学文献は、当業者に利用可能な知識を確立する。本明細書に引用されるあらゆる米国特許および公開または非公開米国特許出願は、参照によって組み込まれる。本明細書に引用される、公開されているあらゆる外国の特許および特許出願は、参照によって本明細書に組み込まれる。本明細書に引用される、公開されているあらゆる他の参考文献、書類、原稿および科学文献は、参照によって本明細書に組み込まれる。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
(a)ケメリンまたはその断片もしくは類似体、および(b)前記ケメリンまたはその断片もしくは類似体に連結した脂質実体を含む、組成物。
(項目2)
前記脂質実体が、リンカーを介してケメリンまたはその断片もしくは類似体に連結している、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記リンカーが、ポリエチレングリコール、ペプチド、またはそれらの組合せを含む、項目1または2に記載の組成物。
(項目4)
前記リンカーが、
【化8】
からなる群から選択される、項目2または3に記載の組成物。
(項目5)
前記ケメリン断片が、少なくとも5個のアミノ酸、少なくとも10個のアミノ酸、少なくとも20個のアミノ酸、少なくとも30個のアミノ酸、少なくとも40個のアミノ酸、少なくとも50個のアミノ酸、少なくとも60個のアミノ酸、少なくとも70個のアミノ酸、少なくとも80個のアミノ酸、少なくとも90個のアミノ酸、少なくとも100個のアミノ酸、少なくとも110個のアミノ酸、少なくとも120個のアミノ酸、少なくとも130個のアミノ酸、少なくとも140個のアミノ酸、または少なくとも150個のアミノ酸を含む、項目1~4のいずれか一項に記載の組成物。
(項目6)
前記ケメリン断片が、配列番号1の21位~157位のアミノ酸配列を有する、項目1~5のいずれか一項に記載の組成物。
(項目7)
前記ケメリン断片が、YFPGQFAFS(配列番号2)を含む、項目1~6のいずれか一項に記載の組成物。
(項目8)
前記ケメリン類似体が、タンパク質分解に対して抵抗性である、項目1~4のいずれか一項に記載の組成物。
(項目9)
前記ケメリン類似体が、YFLPSQFA-Tic-S(配列番号3)を含み、前記Y、S、およびAが、Dアミノ酸である、項目1~4および8のいずれか一項に記載の組成物。
(項目10)
前記脂質実体が、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、ドコサテトラエン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、パウリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ゴンド酸、エルカ酸、ネルボン酸、ミード酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、GM1ガングリオシド、GM2ガングリオシド、GM3ガングリオシド、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、スフィンゴ糖脂質、スフィンゴ脂質、ホスファチジルイノシトール4,5-ビスホスフェート(PIP
2)、セラミド、コレステロール、エルゴステロール、植物ステロール、ホパノイド、およびステロイドからなる群から選択される、項目1~9のいずれか一項に記載の組成物。
(項目11)
前記脂質実体が、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、パルミチン酸、バクセン酸、オレイン酸、およびエライジン酸からなる群から選択される、項目1~10のいずれか一項に記載の組成物。
(項目12)
前記脂質実体が、前記ケメリンまたはその断片もしくは類似体のN末端に、またはその近傍に連結している、項目1~11のいずれか一項に記載の組成物。
(項目13)
前記脂質実体が、前記ケメリンまたはその断片もしくは類似体のC末端に、またはその近傍に連結している、項目1~11のいずれか一項に記載の組成物。
(項目14)
項目1~13のいずれか一項に記載の組成物および薬学的に許容される担体を含む、局所投与に適した医薬組成物。
(項目15)
それを必要とする対象の炎症状態を処置する方法であって、治療有効量の項目14に記載の医薬組成物、あるいはケメリンまたはその断片もしくは類似体を含む組成物を前記対象に投与するステップを含む、方法。
(項目16)
前記炎症状態が、眼性炎症である、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記炎症状態が、ドライアイ疾患である、項目15に記載の方法。
(項目18)
前記医薬組成物が、局所投与される、項目15~17のいずれか一項に記載の方法。
(項目19)
前記医薬組成物が、1日1回、1日2回、または1日3回投与される、項目15~18のいずれか一項に記載の方法。
(項目20)
前記対象が、ヒトである、項目15~19のいずれか一項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、ルシフェラーゼアッセイを示す模式図である。HEK293細胞に、a)GPCR、b)膜繋留型リガンド(適用できる場合)、c)ルシフェラーゼレポーター遺伝子、およびd)β-ガラクトシダーゼ(トランスフェクション対照)をコードするcDNAを24時間トランスフェクトした。ルシフェラーゼ活性を、Steadylite試薬を使用して測定した。ルシフェラーゼデータを、β-ガラクトシダーゼ値に対して正規化した。
【0028】
【
図2】
図2は、膜繋留型リガンド(MTL)および合成膜アンカーリガンド(SMAL)を示す一組の模式図である。(左)MTLは、ペプチドリガンド、エピトープタグ、リンカー配列、および膜貫通ドメインを含む組換え発現タンパク質である。(右)SMALは、カスタム合成される。ペプチドリガンドは、PEGリンカーおよび脂質にコンジュゲートして、合成MTL類似体を作成する。SMALは、それらの親油特性に起因して、細胞に適用されると膜にアンカーする。
【0029】
【
図3】
図3は、ケメリンペプチドプロセシングを示す模式図である。ケメリン(1~163)は、内因性プロセシング中にN末端およびC末端の両方において切断されて、GPCR CMKLR1の公知のアゴニストである成熟ペプチド(21~157)を産生する。ケメリンの9個のアミノ酸C末端断片(149~157)(配列番号2)も、CMKLR1の活性化因子として報告されている。一連のケメリンペプチドを、膜繋留型リガンド構築物に組み込んだ。
【0030】
【
図4A】
図4A~4Bは、膜繋留型ケメリンがCMKLR1を活性化することを示すグラフである。成熟ケメリン(tChem21~157)または切断されたケメリン(tChem149~157)のいずれかをコードする膜繋留型ケメリン構築物は、(
図4A)ヒトCMKLR1および(
図4B)マウスCMKLR1の両方を活性化する。
【
図4B】
図4A~4Bは、膜繋留型ケメリンがCMKLR1を活性化することを示すグラフである。成熟ケメリン(tChem21~157)または切断されたケメリン(tChem149~157)のいずれかをコードする膜繋留型ケメリン構築物は、(
図4A)ヒトCMKLR1および(
図4B)マウスCMKLR1の両方を活性化する。
【0031】
【
図5A】
図5A~5Dは、l-Chem149~157およびs-Chem149~157のルシフェラーゼ活性を示すグラフである。脂質付加ケメリンペプチド(l-Chem149~157)は、その可溶性対応物と比較して、ヒトおよびマウスCMKLR1の両方に対して増強された効力を有する(
図5A、5C)。膜中のL-Chem149~157アンカーは、その可溶性対応物(s-Chem149~157)と比較して、洗浄抵抗性を付与する(
図5B、5D)。
【
図5B】
図5A~5Dは、l-Chem149~157およびs-Chem149~157のルシフェラーゼ活性を示すグラフである。脂質付加ケメリンペプチド(l-Chem149~157)は、その可溶性対応物と比較して、ヒトおよびマウスCMKLR1の両方に対して増強された効力を有する(
図5A、5C)。膜中のL-Chem149~157アンカーは、その可溶性対応物(s-Chem149~157)と比較して、洗浄抵抗性を付与する(
図5B、5D)。
【
図5C】
図5A~5Dは、l-Chem149~157およびs-Chem149~157のルシフェラーゼ活性を示すグラフである。脂質付加ケメリンペプチド(l-Chem149~157)は、その可溶性対応物と比較して、ヒトおよびマウスCMKLR1の両方に対して増強された効力を有する(
図5A、5C)。膜中のL-Chem149~157アンカーは、その可溶性対応物(s-Chem149~157)と比較して、洗浄抵抗性を付与する(
図5B、5D)。
【
図5D】
図5A~5Dは、l-Chem149~157およびs-Chem149~157のルシフェラーゼ活性を示すグラフである。脂質付加ケメリンペプチド(l-Chem149~157)は、その可溶性対応物と比較して、ヒトおよびマウスCMKLR1の両方に対して増強された効力を有する(
図5A、5C)。膜中のL-Chem149~157アンカーは、その可溶性対応物(s-Chem149~157)と比較して、洗浄抵抗性を付与する(
図5B、5D)。
【0032】
【
図6A】
図6A~6Bは、CMKLR1アゴニストであるC16-安定Chem9およびレゾルビンE1が、慢性絞扼傷害(CCI)マウスモデルの神経障害性疼痛を抑止することを示すグラフである。化合物の髄腔内投与後、l-安定Chem(C16-安定Chem9)は、化合物投与後24時間を超えて、機械的過敏症をブロックした(
図6A)。それとは対照的に、レゾルビンE1は、注射後3時間までには有効性を喪失した(
図6B)。
【
図6B】
図6A~6Bは、CMKLR1アゴニストであるC16-安定Chem9およびレゾルビンE1が、慢性絞扼傷害(CCI)マウスモデルの神経障害性疼痛を抑止することを示すグラフである。化合物の髄腔内投与後、l-安定Chem(C16-安定Chem9)は、化合物投与後24時間を超えて、機械的過敏症をブロックした(
図6A)。それとは対照的に、レゾルビンE1は、注射後3時間までには有効性を喪失した(
図6B)。
【0033】
【
図7】
図7は、脂質付加ペプチド平衡を示す。脂質付加ペプチドは、その同族受容体であるCMKLR1に対するペプチド親和性に加えて、全身投与の状況では原形質膜および血清アルブミンの両方に結合することもできる。したがって、脂質尾部を変更すると、これらの様々な結合状態の間の平衡を変えることができる。
【0034】
【
図8A】
図8A~8Dは、ウシ血清アルブミン(BSA)が、脂質付加された安定ケメリン9類似体の薬理学的特性を差次的に変えることを示すグラフである。パルミチン酸安定Chem9の洗浄抵抗性(膜接着指数)は、BSAの存在下で低下する(
図8A~8B)。リノレン酸(18C:3)安定Chem9類似体では、BSAの存在下で洗浄した後、活性がさらに低下する(
図8C~8D)。
【
図8B】
図8A~8Dは、ウシ血清アルブミン(BSA)が、脂質付加された安定ケメリン9類似体の薬理学的特性を差次的に変えることを示すグラフである。パルミチン酸安定Chem9の洗浄抵抗性(膜接着指数)は、BSAの存在下で低下する(
図8A~8B)。リノレン酸(18C:3)安定Chem9類似体では、BSAの存在下で洗浄した後、活性がさらに低下する(
図8C~8D)。
【
図8C】
図8A~8Dは、ウシ血清アルブミン(BSA)が、脂質付加された安定ケメリン9類似体の薬理学的特性を差次的に変えることを示すグラフである。パルミチン酸安定Chem9の洗浄抵抗性(膜接着指数)は、BSAの存在下で低下する(
図8A~8B)。リノレン酸(18C:3)安定Chem9類似体では、BSAの存在下で洗浄した後、活性がさらに低下する(
図8C~8D)。
【
図8D】
図8A~8Dは、ウシ血清アルブミン(BSA)が、脂質付加された安定ケメリン9類似体の薬理学的特性を差次的に変えることを示すグラフである。パルミチン酸安定Chem9の洗浄抵抗性(膜接着指数)は、BSAの存在下で低下する(
図8A~8B)。リノレン酸(18C:3)安定Chem9類似体では、BSAの存在下で洗浄した後、活性がさらに低下する(
図8C~8D)。
【0035】
【
図9A】
図9A~9Dは、脂質付加された安定なケメリン9類似体による刺激後のβ-アレスチンの動員を示すグラフである。効力および最大有効性は、脂質尾部の置換によって変わる。β-アレスチン動員を測定するLink-Light(商標)CMKLR1に安定な細胞株を使用して、活性を評価した。
【
図9B】
図9A~9Dは、脂質付加された安定なケメリン9類似体による刺激後のβ-アレスチンの動員を示すグラフである。効力および最大有効性は、脂質尾部の置換によって変わる。β-アレスチン動員を測定するLink-Light(商標)CMKLR1に安定な細胞株を使用して、活性を評価した。
【
図9C】
図9A~9Dは、脂質付加された安定なケメリン9類似体による刺激後のβ-アレスチンの動員を示すグラフである。効力および最大有効性は、脂質尾部の置換によって変わる。β-アレスチン動員を測定するLink-Light(商標)CMKLR1に安定な細胞株を使用して、活性を評価した。
【
図9D】
図9A~9Dは、脂質付加された安定なケメリン9類似体による刺激後のβ-アレスチンの動員を示すグラフである。効力および最大有効性は、脂質尾部の置換によって変わる。β-アレスチン動員を測定するLink-Light(商標)CMKLR1に安定な細胞株を使用して、活性を評価した。
【0036】
【
図10】
図10A~10Bは、乾燥後10日目の臨床細隙灯検査の写真である(ドライアイ疾患(DED)マウス)。ビヒクルは、
図10Aに使用されている。oTTx-010は、
図10Bに使用されている。oTTx-010は、パルミチン酸-PEG
8KGG-H
2N-Y
*-F-L-P-S
*-Q-F-A
*-Tic-S-COOH(配列番号3)を表し、
*は、Dアミノ酸を示し、Ticは、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸を表す。
【0037】
【
図11】
図11は、角膜フルオレセイン染色点数が、oTTx-010で処置したDEDマウスにおいてより低かったことを示すグラフである。NEI採点系:0~15。
【0038】
【
図12】
図12は、眼性刺激の徴候としての瞬目反射が、ビヒクルで処置したDEDマウス群と比較して、oTTx-010で処置した群において著しく低かったことを示すグラフである。
【0039】
【
図13】
図13は、oTTx-010で処置したマウスの流入領域リンパ節の活性化免疫細胞(MHCII+)の百分率が、ビヒクル対照と比較して低下したことを示す一組のフローサイトメトリーグラフである。
【0040】
【
図14】
図14は、T制御性細胞が、ビヒクルと比較してoTTx-010で処置したマウスの流入領域リンパ節において増大したことを示す(より耐性が高いことを示す)一組のフローサイトメトリーグラフである。流入領域リンパ節のフローサイトメトリーは、CD45+CD3+およびCD4+でゲーティングした(T細胞)。
【0041】
【
図15】
図15は、細胞浸潤が、ビヒクルと比較してoTTx-010の局所適用後に低減することを示す一組のフローサイトメトリーグラフである。引き出した角膜のフローサイトメトリーを、灼熱法の3日後に実施した。マウスを、10μLのoTTx-010またはビヒクルで3日間、1日3回局所処置した。1×PBS溶液中210ナノモルのoTTx-010 10μL=4.2マイクログラムのoTTx-010/用量。
【発明を実施するための形態】
【0042】
CMKLR1は、侵害受容を調節することが示されているGタンパク質結合受容体である。この受容体は、グリア、後根神経節ニューロン、および免疫細胞に発現する。CMKLR1の内因性リガンド(アゴニスト)は、163のアミノ酸タンパク質であるケメリンである。ケメリンは、レチノイン酸受容体レスポンダータンパク質2(RARRES2)、タザロテン誘導性遺伝子2タンパク質(TIG2)、またはRAR応答性タンパク質TIG2としても公知であり、ヒトにおいてRARRES2遺伝子によってコードされるタンパク質である。ケメリンのアミノ酸配列(ホモサピエンス)は、以下の配列番号1に示される。
【0043】
NCBI参照配列:NP_002880.1
【化3】
【0044】
ケメリンは、プレプロケメリン(配列番号1を有する)として不活性であり、C末端およびN末端の切断によって活性化されると(
図3)、配列番号1の21位~157位のアミノ酸配列を有するケメリン断片を形成し、これはCMKLR1のアゴニストとして機能し得る。このケメリン断片は、以下のアミノ酸配列を有する。
【化4】
【0045】
一態様では、本開示は、(a)ケメリンまたはその断片もしくは類似体、および(b)ケメリンまたはその断片もしくは類似体に連結した脂質実体を含む組成物を提供する。いかなる理論にも拘泥するものではないが、ケメリンまたはその断片もしくは類似体の薬理学的特性は、脂質実体の選択によって調節され得る。一部の実施形態では、本開示の組成物は、CMKLR1のアゴニストとして機能し得る。
【0046】
ケメリン断片は、配列番号1のアミノ酸配列の断片である。ケメリン断片は、例えばCMKLR1のアゴニストとして機能する配列番号4のアミノ酸配列の生物学的機能のいくつかまたはすべてを保持し得る。一部の実施形態では、ケメリン断片は、少なくとも5個のアミノ酸、少なくとも10個のアミノ酸、少なくとも20個のアミノ酸、少なくとも30個のアミノ酸、少なくとも40個のアミノ酸、少なくとも50個のアミノ酸、少なくとも60個のアミノ酸、少なくとも70個のアミノ酸、少なくとも80個のアミノ酸、少なくとも90個のアミノ酸、少なくとも100個のアミノ酸、少なくとも110個のアミノ酸、少なくとも120個のアミノ酸、少なくとも130個のアミノ酸、少なくとも140個のアミノ酸、または少なくとも150個のアミノ酸を含む。一部の実施形態では、ケメリン断片は、約5~150個のアミノ酸、約5~120個のアミノ酸、約5~100個のアミノ酸、約5~80個のアミノ酸、約5~50個のアミノ酸、または約5~30個のアミノ酸を含む。一部の実施形態では、ケメリン断片は、配列番号1の21位~157位のアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、ケメリン断片は、YFPGQFAFS(配列番号2)を含む。
【0047】
ケメリン類似体は、ケメリンの全長または断片のいずれかの類似体であり得る。ケメリン類似体は、例えばCMKLR1のアゴニストとして機能する配列番号4のアミノ酸配列の生物学的機能のいくつかまたはすべてを保持し得る。ケメリン類似体は、少なくとも1個のアミノ酸修飾、少なくとも2個のアミノ酸修飾、少なくとも5個のアミノ酸修飾、または少なくとも10個のアミノ酸修飾を含み得る。一部の実施形態では、アミノ酸修飾は、アミノ酸の置換である。ケメリン類似体は、非修飾ポリペプチドと比較して、タンパク質分解に対してより抵抗性であり得る。一部の実施形態では、ケメリン類似体は、
【化5】
を含み、イタリック体のY、S、およびAは、Dアミノ酸であり、Ticは、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸を表す。配列番号3のケメリン類似体は、タンパク質分解に対して抵抗性であることが見出されている。参照によってその内容が組み込まれる、Shimamuraら、「Identification of a stable chemerin analog with potent activity toward ChemR23」、Peptides 30巻、2009年、152
9~1538頁を参照されたい。
【0048】
様々な脂質実体のいずれも、本開示に従って利用することができる。様々な実施形態によれば、脂質実体は、脂質二重層(例えば、細胞膜)に挿入することができる実体を含み得る。一部の実施形態では、脂質実体は、脂質二重層の脂質ラフト(例えば、細胞膜)に組み込むことができる。
【0049】
一部の実施形態では、脂質実体は、飽和または不飽和の脂肪酸を含み得る。脂質名における数字は、脂質上の脂肪酸鎖を説明するために使用される。数字は、一般に、(脂肪酸鎖における炭素数):(脂肪酸鎖における二重結合の数)の形式で表され、例えば16:0は、脂肪酸鎖に16個の炭素が存在し、二重結合は存在しないものであり得る。飽和または不飽和の脂肪酸は、脂肪酸鎖に、少なくとも4個の炭素、少なくとも5個の炭素、少なくとも6個の炭素、少なくとも7個の炭素、少なくとも8個の炭素、少なくとも9個の炭素、少なくとも10個の炭素、または少なくとも15個の炭素を含み得る。一部の実施形態では、飽和または不飽和の脂肪酸は、脂肪酸鎖に、約4~24個の炭素を含み得る。脂肪酸鎖における二重結合の数は、0~10、例えば0~8、0~6、1~8、1~6の範囲であり得る。例えば、脂質実体は、C22:0、C22:1、C22:2、C22:3、C22:4、C22:5、C22:6、C20:0、C20:1、C20:2、C20:3、C20:4、C20:5、C20:6、C18:0、C18:1、C18:2、C18:3、C18:4、C18:5、C18:6、C10:0、C10:1、C10:2、C10:3、C10:4等であり得る。
【0050】
例えば、脂質実体は、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、ドコサテトラエン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、パウリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ゴンド酸、エルカ酸、ネルボン酸、ミード酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、GM1ガングリオシド、GM2ガングリオシド、GM3ガングリオシド、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(DOPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、スフィンゴ糖脂質、スフィンゴ脂質、ホスファチジルイノシトール4,5-ビスホスフェート(PIP2)、セラミド、コレステロール、エルゴステロール、植物ステロール、ホパノイド、ステロイド、フッ素化-GM1、フッ素化-GM2、およびフッ素化-GM3からなる群から選択され得る。一部の実施形態では、脂質実体は、α-リノレン酸であり得る。一部の実施形態では、脂質実体は、γ-リノレン酸であり得る。一部の実施形態では、脂質実体は、パルミチン酸であり得る。一部の実施形態では、脂質実体は、バクセン酸であり得る。一部の実施形態では、脂質実体は、オレイン酸であり得る。一部の実施形態では、脂質実体は、エライジン酸であり得る。
【0051】
ポリペプチドとの脂質実体の付着は、脂質付加と呼ばれる。一部の実施形態では、脂質付加は、N-ミリストイル化を含み得る。本明細書で使用される「N-ミリストイル化」は、N末端グリシンへのミリスチン酸の付着を指す。
【0052】
一部の実施形態では、脂質付加は、パルミトイル化を含み得る。本明細書で使用される「パルミトイル化」は、ペプチドまたはタンパク質中に存在する1個または複数のシステイン残基上に、長鎖脂肪酸のチオエステル連結を作成することを指す。
【0053】
一部の実施形態では、脂質付加は、GPIアンカーの付加を含む。本明細書で使用される「GPIアンカーの付加」は、タンパク質のC末端とのグリコシル-ホスファチジルイノシトール(GPI)の連結を指す。
【0054】
一部の実施形態では、脂質付加は、プレニル化を含む。本明細書で使用される「プレニル化」は、ペプチドまたはタンパク質に存在するシステインとのイソプレノイド脂質(例えば、ファルネシル(C-15)またはゲラニルゲラニル(C-20))のチオエーテル連結を作成することを指す。一部の実施形態では、脂質付加は、ゲラニル化を含む。一部の実施形態では、脂質付加は、ゲラニルゲラニル化を含む。一部の実施形態では、脂質付加は、細胞膜における可溶性の任意の化合物とのリガンド実体の会合を含む(例えば、平衡定数Kassoc≧10で10:1)。
【0055】
一部の実施形態では、脂質付加は、以下:硫黄原子を介する、ペプチドまたはタンパク質のN末端システインの側鎖へのジアシルグリセロールの付着;ペプチドまたはタンパク質のセリンまたはトレオニンへのO-オクタノイルの付着;およびペプチドまたはタンパク質のシステインへのS-アーキオールの付着の1つまたは複数を含み得る。一部の実施形態では、脂質付加は、例えば、任意のリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、セリン、トレオニン、システイン、および/またはチロシンにおいて生じ得る。ケメリン類似体が1つまたは複数のオルニチンを含む一部の実施形態では、脂質付加は、任意のオルニチンにおいて生じ得る。
【0056】
一部の実施形態では、脂質実体は、ケメリンまたはその断片もしくは類似体のN末端に、またはその近傍に連結され得る。一部の実施形態では、脂質実体は、ケメリンまたはその断片もしくは類似体のC末端に、またはその近傍に連結され得る。
【0057】
一部の実施形態では、脂質付加は、フッ素化を含み得る。フッ素化は、1つまたは複数のC6F13鎖の付加を含み得る。いかなる理論にも拘泥するものではないが、1つまたは複数のC6F13鎖の存在により、脂質実体を炭化水素脂質膜の構成成分から隔離させることができると考えられる(J. Am. Chem. Soc. 2007年、129巻、9037~9043頁;J. Phsy. Chem. B、2008年、112巻、8250~8256頁;J. Am. Chem. Soc.、2009年、131巻、12091~12093頁を参照された
い)。
【0058】
一部の実施形態では、脂質実体の構造内に少なくとも1つのアルケンが存在することにより、少なくとも1つのアルケンを欠く類似の脂質実体と比較して、膜中の流動性が増大する(すなわち、膜内の移動能がより高くなる)。一部の実施形態では、より高い流動性を有する脂質実体は、膜内の低密度の標的(例えば、受容体、イオンチャネル、または酵素)に対して活性の増強を提供することができる。いかなる理論にも拘泥するものではないが、膜内の移動能が高い脂質実体は、膜内の移動性が低い脂質実体よりも急速に、低密度の標的に遭遇できることが可能である。
【0059】
本開示の組成物は、任意選択で、脂質実体をケメリンまたはその断片もしくは類似体に連結するリンカーを含み得る。例えば、リンカーは、両端を含み約2Å~175Åの間の長さを有することができる。一部の実施形態では、リンカーは、両端を含み30Å~150Åの間である。
【0060】
一部の実施形態では、リンカーは、ペプチドを含み得る。一部の実施形態では、ペプチドリンカーは、約2~20の間のアミノ酸残基の長さである。一部の実施形態では、ペプチドリンカーは、約5~10の間のアミノ酸残基の長さである。様々な実施形態によれば、ペプチドリンカーは、1つまたは複数のα-ヘリックスが、ケメリンまたはその断片もしくは類似体と脂質実体の間で形成されるように設計され得る。一部の実施形態では、ペプチドリンカーは、複数のα-ヘリックスを含み得る。一部の実施形態では、複数のα-ヘリックスは、連続している。一部の実施形態では、複数のα-ヘリックスは、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個、20個、またはそれを超えるα-ヘリックスである。
【0061】
一部の実施形態では、ペプチドリンカーは、繰り返し単位、例えば複数の繰り返しグリシン-アスパラギン(GN)単位を含み得る。一部の実施形態では、ペプチドリンカーは、エピトープタグ(例えば、c-Mycタグ)、またはin vitroおよび/もしくはin vivoでもたらされた作用物質およびそれらの運命の識別および/もしくは特徴付けを可能にする他のマーカーを含み得る。
【0062】
一部の実施形態では、リンカーは、非ペプチド実体を含み得る。一部の実施形態では、非ペプチドリンカーは、合成ポリマーであり得る。様々な実施形態によれば、合成ポリマーは、様々な長さのいずれかであり得る。一部の実施形態では、合成ポリマーを含むリンカーは、ポリマーのモノマー単位を含む。一部の実施形態では、合成ポリマーを含むリンカーは、合成ポリマーの2個またはそれを超えるモノマー単位(例えば、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、20個、30個、40個、50個、100個またはそれを超えるモノマー単位)を含む。
【0063】
一部の実施形態では、リンカーは、ポリエチレングリコール(PEG)の少なくとも1つの分子を含み得る。適切なポリマーリンカーの具体的な非限定的な例として、次式の1つによる1個または複数のモノマー単位を有するリンカーが挙げられる。
【化6】
式中、nは、1に等しいか、または1を超える整数を表す。一部の実施形態では、nは、両端を含み2~50、4~24、および/または8~24の間の整数である。
【0064】
一部の実施形態では、リンカーは、以下の構造のいずれか1つを有することができる。
【化7】
【0065】
一部の実施形態では、リンカーは、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDAC)、ベンゾフェノン-4-イソチオシアネート、ビス-((N-ヨードアセチル)ピペラジニル)スルホローダミン(Bis-((N-Iodoacetyl)Piperazinyl)Sulfonerhodamine)、スクシンイミジル2-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(
SPDP)、4-アジド-2,3,5,6-テトラフルオロ安息香酸(ATFB)、(N-((2-ピリジルジチオ)エチル)-4-アジドサリチルアミド)((N-((2-Pyridyldthio)ethyl)-4-Azidosalicylamide))、スクシンイミジルトランス-4-(マレイミジル
メチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、および/またはN-(t-BOC)-アミノオキシ酢酸を含み得る。当業者は、公知の方法に従って、追加の候補リンカーを識別することができる。
【0066】
一部の実施形態では、リンカーは、ペプチドおよび非ペプチド実体の両方を含み得る。
【0067】
一部の実施形態では、リンカーは、少なくとも部分的に、以下にさらに記載される通りクリック反応の結果として形成される。一部の実施形態では、クリック反応は、アジド-アルキンヒュスゲン環化付加反応である。
【0068】
脂質実体、リンカーおよび脂質付加の方法のさらなる例は、その内容が参照によって本明細書に組み込まれるUS20160052982に見出すことができる。
【0069】
本開示の組成物は、医薬組成物に製剤化することができ、医薬組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含み得る。開示される組成物を製剤化するための技術は、Remington:
the Science and Practice of Pharmacy、第19版、Mack Publishing Co.、Easton、PA(1995年)に見出すことができる。医薬組成物は、様々な投与経路用に製剤化され得る。
【0070】
一部の実施形態では、医薬組成物は、局所投与用に製剤化され得る。局所投与に適した製剤には、液体および/または半液体調製物、例えばリニメント剤、ローション剤、水中油および/もしくは油中水エマルション剤、例えばクリーム剤、軟膏剤および/もしくはペースト剤、ならびに/または溶液剤および/もしくは懸濁液剤が含まれるが、それらに限定されない。局所投与可能な製剤は、例えば、約1%~約10%(wt/wt)の活性成分を含み得るが、活性成分の濃度は、溶媒への活性成分の溶解限度まで増大してもよい。局所投与のための製剤は、追加の成分の1種または複数をさらに含み得る。
【0071】
一部の実施形態では、医薬組成物は、経口投与用に製剤化され得る。本明細書に記載される医薬組成物を含有する経口製剤は、錠剤、カプセル剤、丸剤、トローチ剤、ロゼンジ剤、パステル剤、カシェ剤、ペレット剤、薬用チューインガム、顆粒剤、原薬粉末、発泡性または非発泡性の散剤または顆粒剤、溶液剤、エマルション剤、懸濁液剤、溶液剤、ウェーハ剤、ふりかけ(sprinkle)剤、エリキシル剤、シロップ剤、バッカル錠の形態、および経口液剤を含む、従来使用されている任意の経口形態に製剤化され得る。カプセル剤は、活性化合物(単数または複数)と、不活性な充填剤および/または賦形剤、例えば薬学的に許容されるデンプン(例えば、コーン、バレイショまたはタピオカデンプン)、糖、人工甘味剤、粉末化セルロース、例えば結晶性および微結晶性セルロース、小麦粉、ゼラチン、ガム等の混合物を含有し得る。有用な錠剤製剤は、従来の圧縮、湿式造粒または乾燥造粒方法によって作製することができ、それらに限定されるものではないが、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、アルギン酸、アカシアガム、キサンタンガム、クエン酸ナトリウム、複合シリケート、炭酸カルシウム、グリシン、デキストリン、スクロース、ソルビトール、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、ラクトース、カオリン、マンニトール、塩化ナトリウム、タルク、乾燥デンプンおよび粉糖を含む、薬学的に許容される賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、表面修飾剤(界面活性剤を含む)、懸濁化剤または安定化剤を利用する。一部の実施形態では、表面修飾剤には、非イオン性およびアニオン性表面修飾剤が含まれる。例えば、表面修飾剤には、ポロキサマー188、塩化ベンザルコニウム、ステアリン酸カルシウム、セトステアリルアルコール、セトマクロゴール乳化蝋、ソルビタンエステル、コロイド状二酸化ケイ素、ホスフェート、ドデシル硫酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、およびトリエタノールアミンが含まれるが、それらに限定されない。本明細書の経口製剤は、標準の遅延放出または持続放出製剤を利用して、活性化合物(単数または複数)の吸収を変えることができる。また経口製剤は、必要な場合には適切な可溶化剤または乳化剤を含有する、水または果汁に入れた活性成分を投与することからなり得る。
処置方法
【0072】
本明細書に記載される組成物は、それらに限定されるものではないが、眼性炎症、ドライアイ疾患(DED)、および眼性神経障害性疼痛を含む、様々な炎症状態を処置するために使用され得る。
【0073】
一態様では、本開示は、それを必要とする対象の炎症状態を処置する方法であって、治療有効量の本開示の医薬組成物、あるいはケメリンまたはその断片もしくは類似体を含む組成物を対象に投与するステップを含む方法を提供する。
【0074】
一部の実施形態では、炎症状態は、眼性炎症である。一部の実施形態では、眼性炎症は、ぶどう膜炎である。ぶどう膜炎は、目、具体的にはぶどう膜の広範な炎症疾患である。目には、外側の強膜および角膜、内側の網膜、ならびに中間のぶどう膜の、3つの基本的な層が存在する。ぶどう膜は、大部分が、色素細胞を含む血管および結合組織から構成される。ぶどう膜の異なる部分は、正面の虹彩、中間の毛様体、およびこれらの後に位置する脈絡膜であり、これらは目のほぼ大部分に位置する。時として、ぶどう膜炎は、網膜、硝子体、または視神経などのぶどう膜以外の目の部分に影響を及ぼし得る。ぶどう膜炎のタイプは、目のどの部分が影響を受けているかに基づいて決まる。例えば、前部ぶどう膜炎は、目の前部の炎症であり、虹彩炎または虹彩毛様体炎と呼ばれ、中間部ぶどう膜炎は、目の中間部の炎症、または毛様体扁平部炎もしくは硝子体炎であり、後部ぶどう膜炎は、眼の後部の炎症、例えば脈絡膜炎、網膜血管炎、網膜炎、視神経網膜炎、脈絡網膜炎、または脈絡網膜炎である。
【0075】
ぶどう膜炎の症状には、一般に、発赤、霧視、疼痛、光感受性、ならびに飛蚊症および光視症(flash)が含まれる。
【0076】
眼性炎症は、病歴調査、細隙灯検査、血液検査、またはそれらの任意の組合せによって診断され得る。
【0077】
眼性炎症を処置するための現在の治療には、局所投与される抗サイトカインまたは抗炎症剤が含まれる。一部の実施形態では、本開示の医薬組成物、あるいはケメリンまたはその断片もしくは類似体を含む組成物は、眼性炎症を処置するための抗サイトカインまたは抗炎症剤と組み合わせて投与され得る。
【0078】
抗サイトカインまたは抗炎症剤には、NFカッパB阻害剤、例えばコルチコステロイド、グルココルチコイド、例えばフルオシノロン(flucinolonone);非ステロイド系抗炎
症薬(NSAID)、例えばスリンダクおよびテポキサリン;抗酸化剤、例えばジチオカルバメート;ならびにスルファサラジン[2-ヒドロキシ-5-[-4-[C2-ピリジニルアミノ)スルホニル]アゾ]安息香酸]、クロニジン、および自家血由来の生成物、例えばOrthokineなどの他の化合物が含まれるが、それらに限定されない。
【0079】
一部の実施形態では、炎症状態は、DEDである。DEDは、曝露された外表面の脱水をもたらす、眼球前方の涙膜の破綻によって主に引き起こされる。DEDを有する人は、目の刺激、ざらつき感、チクチク感またはひりひり感、目に異物が入った感覚、過剰の流涙、およびかすみ目を経験し得る。DEDの定義および分類は、その内容が参照によって本明細書に組み込まれる「The Definition and Classification of Dry Eye Disease: Report of the Definition and Classification Subcommittee of the International Dry Eye Workshop(2007)」、the Ocular Surface 2007年、5巻、75~92頁に見出すことができる。
【0080】
DEDは、包括的な目の試験によって診断され得る。目によって生成される涙の量および質の評価に重点を置いた試験には、(a)患者の症状を決定し、ドライアイ問題に寄与し得る任意の全体的な健康問題、医薬品または環境因子に留意するための患者の病歴、(b)眼瞼構造およびまばたき動態を含む目の外部試験、(c)明るい光および拡大を使用する眼瞼および角膜の評価、ならびに(d)任意の異常に関する涙の量および質の測定が含まれ得る。涙流をより良好に観測するために、さらに、不十分な涙によって引き起こされた目の外表面の任意の変化を際立たせるために、特別な染料を目に入れることができる。
【0081】
いかなる理論にも拘泥するものではないが、炎症促進性サイトカインおよび増殖因子の結果としての眼性炎症は、DEDの根本的な原因において大きな役割を果たすという理論的根拠がある。したがって、局所投与される抗サイトカインまたは抗炎症剤は、しばしばDEDの処置に使用される。一部の実施形態では、本開示の医薬組成物、あるいはケメリンまたはその断片もしくは類似体を含む組成物は、DEDを処置するための抗サイトカインまたは抗炎症剤と組み合わせて投与することができる。
【0082】
一部の実施形態では、炎症状態は、眼性神経障害性疼痛である。眼性神経障害性疼痛は、炎症によって引き起こされ得る。したがって、眼性神経障害性疼痛は、任意選択で抗サイトカインまたは抗炎症剤と組み合わされた本開示の医薬組成物によって処置され得る。神経障害性疼痛は、感覚異常(自発性または誘発性の灼熱痛であり、しばしばそれに加えて刺すような感覚を伴う)のような典型的な症状を有するが、疼痛は、深部痛およびうずく痛みの場合もある。知覚過敏、痛覚過敏、アロディニア(標準以下の(normoxious)刺激に起因する疼痛)、およびヒペルパチー(特に、不快な過剰疼痛応答)のような他の感覚も生じ得る。
【0083】
目の炎症を診断する方法は、その内容が参照によって本明細書に組み込まれる、TeohおよびDick、「Diagnostic techniques for inflammatory eye disease: past, present and future: a review」、BMC Ophthalmology 2013年、13巻:41頁
に見出すことができる。
【0084】
第1の治療剤(例えば、本開示の医薬組成物、あるいはケメリンまたはその断片もしくは類似体を含む組成物)および第2の治療剤(例えば、抗サイトカインまたは抗炎症剤)を含む組合せ治療に関して、第1の治療剤は、第2の治療剤と同時に投与することができ、第1の治療剤は、第2の治療剤の前に投与することができ、または第1の治療剤は、第2の治療剤の後に投与することができる。第1の治療剤と第2の治療剤の投与は、数分間または数時間、例えば、約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、または6時間隔てることができる。
【0085】
本開示による組成物の治療有効量は、幅広い限度内で変わることができ、当技術分野で公知の方式で決定され得る。例えば、組成物は、体重に従って投薬され得る。このような投薬量は、投与される具体的な化合物(単数または複数)、投与経路、処置を受ける状態、ならびに処置を受ける患者を含む、各特定の場合における個々の要件に対して調整される。別の実施形態では、薬物は、固定用量で、例えば体重に従って調整されない用量で投与され得る。一般に、約0.5mg~約1000mgの1日投薬量が適切であるが、適応があれば上限を超えることができる。投薬量は、1日当たり約5mg~約500mg、例えば、約5mg~約400mg、約5mg~約300mg、約5mg~約200mgであり得る。1日投薬量は、単回用量としてもしくは分割用量で投与することができ、または非経口投与では、持続注入として与えることができる。ケメリンまたはその断片もしくは類似体を含む医薬組成物または組成物は、1日1回、または1日数回、例えば1日2回もしくは1日3回投与することができる。
【0086】
組成物の治療有効量は、臨床医または資格を有する他の観測者によって留意される通り、客観的に識別可能な改善をもたらす量である。
【0087】
一部の実施形態では、眼性炎症を処置するための治療有効量は、対象の炎症の程度を、プラセボと比較して少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%低減する量である。
【0088】
一部の実施形態では、DEDを処置するための治療有効量は、対象の涙の生成を、プラセボと比較して少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、または少なくとも150%増大する量である。
【0089】
医薬組成物は、投与のための指示書と一緒に、容器、パックまたはディスペンサーに含まれ得る。本明細書に記載される組成物は、経口、経鼻、経皮、肺、吸入、口腔内頬側、舌下、腹腔内(intraperintoneally)、皮下、筋肉内、静脈内、直腸内、胸膜内、髄腔内、局所、または非経口投与され得る。一実施形態では、組成物は、局所投与される。例えば、組成物は、点眼薬の形態で投与される。当業者は、ある特定の投与経路の利点を認識し得る。
【0090】
本明細書に記載される組成物を利用する投薬レジメンは、患者の人種、民族性、年齢、体重、性別および病状;処置される状態の重症度;投与経路;患者の腎臓および肝臓の機能;ならびに用いられる特定の組成物を含む様々な因子に従って選択される。通常の技術を有する医師または獣医は、状態を防止し、状態に対抗し、または状態の進行を停止させるのに必要な薬物の有効量を容易に決定し、処方することができる。
定義
【0091】
別段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が関与する分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本発明の実施において、本明細書に記載されるものに類似のまたは等価な他の方法および材料が使用され得るが、本明細書では好ましい材料および方法が記載される。本明細書で使用される専門用語は、単に特定の実施形態を説明するためのものであり、制限することを意図しないことを理解されたい。
【0092】
「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、典型的には、2つまたはそれを超えるアミノ酸(例えば、最も典型的にはL-アミノ酸であるが、例えば、D-アミノ酸、修飾アミノ酸、アミノ酸類似体、およびアミノ酸模倣物も含む)の鎖を含む分子を指す。ペプチドは、天然に存在するもの、合成によって生成されたもの、または組換えで発現されたものであり得る。またペプチドは、アミノ酸鎖を修飾する追加の基、例えば翻訳後修飾によって付加された官能基を含み得る。翻訳後修飾の例として、アセチル化、アルキル化(メチル化を含む)、ビオチン化、グルタミル化、グリシル化、グリコシル化、イソプレニル化、リポイル化、ホスホパンテテイン化(phosphopantetheinylation)、リン酸化、セレン化、およびC末端アミド化が挙げられるが、それらに限定されない。また、ペプチドという用語は、アミノ末端および/またはカルボキシル末端の修飾を含むペプチドを含む。末端アミノ基の修飾には、des-アミノ、N-低級アルキル、N-ジ-低級アルキル、およびN-アシル修飾が含まれるが、それらに限定されない。末端カルボキシ基の修飾には、アミド、低級アルキルアミド、ジアルキルアミド、および低級アルキルエステル修飾(例えば、低級アルキルがC1~C4アルキルである場合)が含まれるが、それらに限定されない。また、ペプチドという用語は、アミノ末端とカルボキシ末端の間にあるアミノ酸の、それらに限定されるものではないが前述のものなどの修飾を含む。また、ペプチドという用語は、1つまたは複数の検出可能な標識を含むように修飾されたペプチドを含み得る。
【0093】
本明細書で使用される「アミノ酸残基」という語句は、アミド結合またはアミド結合模倣物によってペプチドに組み込まれるアミノ酸を指す。
【0094】
ペプチド鎖の一端にある末端アミノ酸は、典型的に遊離アミノ基(すなわち、アミノ末端またはN末端)を有する。鎖の多端にある末端アミノ酸は、典型的に遊離カルボキシル基(すなわち、カルボキシ末端またはC末端)を有する。典型的に、ペプチドを構成するアミノ酸は、順に番号が付され、ペプチドのアミノ酸末端で開始して、カルボキシ末端の方向に増大する。
【0095】
本明細書で使用される「類似体」という用語は、野生型と比較して、1つまたは複数のアミノ酸修飾を有するバリアントまたは変異ポリペプチドを指す。
【0096】
本明細書で使用される「アミノ酸修飾」は、所定のアミノ酸配列のアミノ酸配列の変化を指す。例示的な修飾として、アミノ酸の置換、挿入および/または欠失が挙げられる。例えばケメリンまたはその断片の特定の位置「におけるアミノ酸修飾」は、特定の残基の置換もしくは欠失、または特定の残基に隣接する少なくとも1個のアミノ酸残基の挿入を指す。特定の残基に「隣接する」挿入とは、1~2個以内の残基の挿入を意味する。挿入は、特定の残基に対してN末端またはC末端であり得る。
【0097】
「アミノ酸置換」は、所定のアミノ酸配列の少なくとも1個の既存のアミノ酸残基を、別の異なる「置換」アミノ酸残基で置き換えることを指す。置換残基(単数または複数)は、「天然に存在するアミノ酸残基」(すなわち遺伝暗号によってコードされる)であってよく、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(lie)、ロイシン(Leu)、リシン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、およびバリン(Val)からなる群から選択され得る。天然に存在しない1個または複数のアミノ酸残基を用いる置換も、本明細書のアミノ酸置換の定義に包含される。「天然に存在しないアミノ酸残基」は、ポリペプチド鎖において隣接するアミノ酸残基(単数または複数)に共有結合により結合することができる、先に列挙されている天然に存在するアミノ酸残基以外の残基を指す。天然に存在しないアミノ酸残基の例として、ノルロイシン、オルニチン、ノルバリン、ホモセリンおよび他のアミノ酸残基類似体、例えばEllmanら、Meth. Enzym. 202巻:301~336頁(199
1年)に記載されているものが挙げられる。このような天然に存在しないアミノ酸残基を産生するために、Norenら、Science 244巻:182頁(1989年)および上記のEllmanらの手順を使用することができる。簡潔には、これらの手順は、天然に存在しないアミノ酸残基でサプレッサーtRNAを化学的に活性化した後、RNAをin vitroで転写および翻訳することを含む。一部の実施形態では、Lアミノ酸は、Dアミノ酸によっても置換され得る。
【0098】
「アミノ酸挿入」は、少なくとも1個のアミノ酸を、所定のアミノ酸配列に組み込むことを指す。挿入は、通常、1個または2個のアミノ酸残基の挿入からなるが、本出願は、より大きい「ペプチド挿入」、例えば約3個~約5個またはさらには約10個までのアミノ酸残基の挿入を企図する。挿入された残基(単数または複数)は、先に開示される通り、自然に生じていても、自然に生じていなくてもよい。
【0099】
「アミノ酸欠失」は、所定のアミノ酸配列からの少なくとも1個のアミノ酸残基の除去を指す。
【0100】
「医薬組成物」という用語は、本明細書に開示される化合物と、賦形剤または担体などの他の化学的構成成分との混合物を指す。医薬組成物は、生物への化合物の投与を容易にする。医薬組成物は、化合物を、無機酸または有機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸等と反応させることによって得ることもできる。
【0101】
本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」という用語は、標準医薬担体、例えばリン酸緩衝生理食塩水溶液、水、エマルション(例えば、油/水または水/油エマルションなど)、および様々なタイプの湿潤剤のいずれかを指す。組成物は、安定剤、保存剤、およびアジュバントも含み得る。
【0102】
本明細書で使用される「処置する」、「処置すること」、「処置」等の用語は、障害および/またはその障害と関連する症状の低減または回復を指す。障害または状態を処置することは、障害またはその障害と関連する症状が完全に排除されることを必要としないが、完全な排除が除外されないことが理解され得る。「処置する」、「処置すること」または「処置」という用語は、防止を含まない。
【0103】
「治療有効量」という用語は、投与されると、処置を受ける障害、疾患、または状態の症状の1つまたは複数の発生を防止するか、またはある程度回復させるのに十分な化合物の量を指す。また、「治療有効量」という用語は、研究者、獣医、医師、または臨床医によって求められている、細胞、組織、系、動物、またはヒトの生物学的または医学的応答を誘発するのに十分な化合物の量を指す。
【0104】
本明細書で使用される「対象」は、任意の哺乳動物、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダであり得る。好ましい実施形態では、対象は、ヒトである。
【0105】
本明細書で使用される「それを必要とする対象」は、炎症状態を有する対象である。
【0106】
本明細書で使用される単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、状況によって別段明示されない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば「1種の溶媒」への言及は、2種またはそれを超えるこのような溶媒の組合せを含み、「1つのペプチド」への言及は、1つもしくは複数のペプチド、またはペプチドの混合物を含み、「1種の薬物」への言及は、1種または複数の薬物を含み、「1つのデバイス」への言及は、1つまたは複数のデバイス等を含む。具体的に記載されていないか、または文脈から明らかでない限り、本明細書で使用される「または」という用語は、包括的であると理解され、「または」と「および」の両方を網羅する。
【0107】
本明細書を通して、「含んでいる」という語、または「含む」もしくは「含んでいる」などの変化形は、記載される要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群を含むことを暗に意味するが、任意の他の要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群を排除しないことを理解されよう。
【0108】
具体的に記載されていないか、または文脈から明らかでない限り、本明細書で使用される「約」という用語は、数値および/または範囲と併用される場合、一般に、記載される数値および/または範囲に近い数値および/または範囲を指す。ある場合には、「約」という用語は、記載される値の±10%以内を意味し得る。例えば、ある場合には、「約100[単位]」は、100の±10%以内(例えば、90~110)を意味し得る。
【実施例】
【0109】
(実施例1)
略語:s-Chem21~157(アミノ酸21~157に対応する可溶性組換えヒトケメリン)、s-Chem149~157(ヒトケメリンの可溶性C末端9アミノ酸);l-Chem149~157(ヒトケメリンの脂質付加C末端9アミノ酸)、s-安定Chem(可溶性の安定なケメリンペプチド、l-安定Chem(脂質付加された安定なケメリンペプチド)。
【0110】
神経障害性疼痛を処置するために浮上している1つの処置戦略は、神経障害性疼痛に寄与する神経炎症プロセスの調節因子を標的とすることである。本発明者らは、ケメリンの9アミノ酸断片由来のパルミトイル化された安定な類似体(「C16-安定Chem9」)を、既に識別している。この類似体が細胞膜にアンカーすると、高い効力および長期間の活性が得られる。パルミチン酸sC9は、in vivoで評価すると、慢性絞扼傷害のマウスモデルの神経障害性疼痛を軽減した。本発明者らは、これらの所見を拡張して、本発明のペプチドの薬理学的特性が、脂質アンカーを修飾することによってさらに最適化され得ると仮定した。本発明者らは、様々な脂質尾部(例えば、コレステロール、オレイン酸、リノレン酸)を有する一連のChem9類似体を、化学的に合成した。各ペプチドのin vitro薬理学的特徴付けを、組換えCMKLR1を過渡的に発現するHEK293細胞を使用して行った。本発明者らは、リガンドの脂質尾部を変えることによって、ケメリン9類似体のアゴニスト効力が著しく変わる(30倍の範囲内)ことを見出した。さらに、選択された脂質尾部は、アルブミン(したがって全身送達を増強する)または細胞膜(局所的に制限された機能を支持する)のいずれかに偏って結合する。脂質付加CMKLR1リガンドは、神経障害性疼痛の調節因子として有望である。さらに、本発明者らの知見は、脂質アンカーの連続的な付加/置換を適用して、多くのペプチドリガンドの薬理学的特性ならびに薬物動態特性を最適化し得る手法を示す。
【0111】
CMKLR1のβ-アレスチン動員を、安定Chem9類似体で1時間処置した後に評価した(
図9A~9D)。
【0112】
136アミノ酸タンパク質であるケメリンは、膜繋留型リガンド(MTL)または脂質付加ペプチドのいずれかとして活性な9アミノ酸ペプチドに切断され得る。
【0113】
脂質付加ケメリン9の安定化形態は、神経障害性疼痛のマウスモデルにおいて長期間作用する(
図6A~6B)。
【0114】
安定化ケメリン9の脂質尾部を変えると、原形質膜への接着および/または血清アルブミン結合を修飾することによって、in vitro薬理学的特性が部分的に変わる。
【0115】
脂質付加ケメリン9誘導体は、神経障害性疼痛のCCIモデルにおいてさらに特徴付けることができる。脂質付加ケメリン9類似体は、炎症の他のマウスモデル、例えば喘息のイエダニモデルにおいて評価することができる。脂質付加ケメリン9類似体の薬物動態プロファイルは、in vivoで比較することができる。脂質付加ペプチドは、炎症を調節する他の標的用に開発することができる。
【0116】
【0117】
【0118】
(実施例2)
安定脂質付加ケメリンを、DEDおよび角膜炎症のマウスモデルにおいて評価した。
【0119】
DEDマウスモデルでは、スコポラミンを3回/日注射して、マウスの涙の生成を減少させる。有窓ケージおよびケージ周辺において24時間/日で動作する4つの送風機を使用して、乾燥ストレスおよびドライアイを誘導する。oTTx-010をマウスに投与して、処置有効性を評価する。ビヒクルを対照として投与する。結果は、局所oTTx-010が、臨床症状および徴候を低減し、免疫寛容を改善する、DEDのための潜在的に可能な処置となり得ることを示している(
図11~14)。
【0120】
熱灼熱法は、角膜炎症のマウスモデルである(Arch Ophthalmol. 2003年、Hamrahらを参照されたい)。結果は、局所oTTx-010が、目の炎症を低減するための新
しい処置として適用できることを示している(
図15)。
【配列表】