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特許7432053シクロデキストリンにエクオールが包接された包接体を含有するエクオール吸収性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】シクロデキストリンにエクオールが包接された包接体を含有するエクオール吸収性組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20240207BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20240207BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20240207BHJP
   A61P 5/30 20060101ALN20240207BHJP
   C07D 311/58 20060101ALN20240207BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K31/353
A61K47/69
A61P5/30
C07D311/58
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023166660
(22)【出願日】2023-09-28
(62)【分割の表示】P 2022571676の分割
【原出願日】2021-12-24
(65)【公開番号】P2023165927
(43)【公開日】2023-11-17
【審査請求日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2020215247
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 素子
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-092690(JP,A)
【文献】特開2013-188220(JP,A)
【文献】特開2006-111534(JP,A)
【文献】特開2012-135218(JP,A)
【文献】特開2020-058319(JP,A)
【文献】国際公開第2013/058303(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00-33/29
A61K 31/00-31/80
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-シクロデキストリンにエクオールが包接されたエクオール包接体を含有する、エクオールの経口による血中吸収性を向上させるための、食品組成物又は医薬組成物であって、
エクオール1重量部に対して、β-シクロデキストリンを0.5~5000重量部含有する、組成物
【請求項2】
エクオール包接体の水への溶解度がエクオール換算で0.5mg/mL以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
賦形剤を含有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
散剤、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、又はカプセル剤の形態である、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が食品組成物であって、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、及びフレーバー類からなる群から選択される1種以上を含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロデキストリンにエクオールが包接された包接体、該包接体を含有するエクオール吸収性組成物に関する。また、本発明は、該包接体の製造方法、及び該エクオール吸収性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エクオールは、女性ホルモン作用(エストロゲン)や抗酸化作用を有し、乳癌、前立腺癌、骨粗しょう症、高コレステロール血症、心疾患、更年期障害などに対する予防効果が期待されており、それらの疾患等を改善する健康食品としても販売されている。
健康食品として販売されているエクオールは、錠剤として提供されており、その用量は1日あたり3~4粒程度、又は1000~4000mgである。提供元により錠剤の大きさは異なるが、1粒あたりの用量が多い場合には、錠剤が大きくなり、該錠剤を投与の際に飲みにくいと感じる者もいた。また、用量も多くなり、その点においても問題となっている。
【0003】
そのため、エクオールの血中への吸収性又は移行性を良好とし、錠剤などにおける1錠あたりの用量を少なくし、錠剤の大きさを小さくすることができる、エクオールを含有する錠剤等が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-309902
【文献】特開2012-77087
【文献】特開2010-24240
【文献】特開2010-187647
【文献】特許5851686
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のニーズに鑑みてなされたものであり、その目的は、エクオールの血中への吸収性又は移行性を良好とするために、水への溶解性を改善したエクオール包接体、及びエクオール包接体を含有するエクオール吸収性組成物を提供することにある。特に、本発明の目的は、食品などにより経口摂取した場合、エクオール血中濃度をより高めることができるエクオール包接体、及びエクオール包接体を含有するエクオール吸収性組成物を提供することにある。
また、本発明の目的は、上記目的の他に、又は上記目的に加えて、水への溶解性を改善した、エクオール包接体の製造方法、及びエクオール包接体を含有するエクオール吸収性組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明者は、以下の発明を見出した。
<1> シクロデキストリンにエクオールが包接された包接体。
<2> シクロデキストリンにエクオールが包接されたエクオール包接体を含有するエクオール吸収性組成物。
<3> 上記<2>において、組成物が、食品組成物、及び医薬組成物からなる群から選ばれる1種であるのがよい。
<4> 上記<2>又は<3>において、エクオール又はエクオール包接体の水への溶解性が0.5mg/mL以上、好ましくは1.0mg/mL以上、より好ましくは1.5mg/mL以上であるのがよい。
【0007】
<5> 上記<1>~<4>のいずれかにおいて、シクロデキストリンは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、及びそれらの誘導体から選択される1種以上であるのがよく、好ましくは、シクロデキストリンは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、グリコシル-β-シクロデキストリン、マルトシル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、及びメチル-β-シクロデキストリンからなる群から選択される1種以上であるのがよく、より好ましくはシクロデキストリンは、β-シクロデキストリン、グリコシル-β-シクロデキストリン、マルトシル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、及びメチル-β-シクロデキストリンからなる群から選択される1種以上であるのがよく、最も好ましくはシクロデキストリンはβ-シクロデキストリンであるのがよい。
<6> エクオール1重量部に対して、シクロデキストリンが0.5~5000重量部、好ましくは1~100重量部、より好ましくは3~10重量部含有するのがよい。
【0008】
<7> ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のエクオール原料からエクオールに資化する微生物を用いて前記原料からエクオールを発酵生産する際に、発酵する培地にシクロデキストリンを添加する工程を有することにより、シクロデキストリンにエクオールが包接された包接体を得る、包接体の製造方法。
【0009】
<8> ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のエクオール原料からエクオールに資化する微生物を用いて前記原料からエクオールを発酵生産する際に、発酵する培地にシクロデキストリンを添加する工程を有することにより、シクロデキストリンにエクオールが包接された包接体を含有するエクオール吸収性組成物を得る、エクオール吸収性組成物の製造方法。
<9> 上記<8>において、経口摂取許容物質を添加する工程をさらに有することにより、シクロデキストリンにエクオールが包接されたエクオール包接体を含有するエクオール吸収性組成物を得るのがよい。
【0010】
<10> 上記<7>~<9>のいずれかにおいて、発酵生産の工程後に、シクロデキストリンを添加する工程をさらに有してもよい。
<11> 上記<8>~<10>のいずれかにおいて、組成物が、食品組成物、及び医薬組成物からなる群から選ばれる1種であるのがよい。
<12> 上記<7>~<11>のいずれかにおいて、エクオール原料からエクオールに資化する微生物が、嫌気性微生物であるのがよい。
【0011】
<13> 上記<7>~<12>のいずれかにおいて、嫌気性微生物が、アドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物からなる群から選ばれる少なくとも1種である
のがよい。
<14> 上記<7>~<13>のいずれかにおいて、エクオール又はエクオール包接体の水への溶解性が0.5mg/mL以上、好ましくは1.0mg/mL以上、より好ましくは1.5mg/mL以上であるのがよい。
【0012】
<15> 上記<7>~<14>のいずれかにおいて、シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、及びそれらの誘導体から選択される1種以上であるのがよく、好ましくは、シクロデキストリンは、α-
シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、グリコシル-β-シクロデキストリン、マルトシル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、及びメチル-β-シクロデキストリンからなる群から選択される1種以上であるのがよく、より好ましくはシクロデキストリンは、β-シクロデキストリン、グリコシル-β-シクロデキストリン、マルトシル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、及びメチル-β-シクロデキストリンからなる群から選択される1種以上であるのがよく、最も好ましくはシクロデキストリンはβ-シクロデキストリンであるのがよい。
<16> 上記<7>~<15>のいずれかにおいて、エクオール1重量部に対して、シクロデキストリンを0.5~5000重量部、好ましくは1~100重量部、より好ましくは3~10重量部添加するのがよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、エクオールの血中への吸収性又は移行性を良好とするために、水への溶解性を改善したエクオール包接体、及びエクオール包接体を含有するエクオール吸収性組成物を提供することができる。特に、本発明により、食品などにより経口摂取した場合、エクオール血中濃度をより高めることができるエクオール包接体、及びエクオール包接体を含有するエクオール吸収性組成物を提供することができる。
また、本発明により、上記効果の他に、又は上記効果に加えて、水への溶解性を改善した、エクオール包接体の製造方法、及びエクオール包接体を含有するエクオール吸収性組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願は、エクオール包接体及びエクオール包接体を含有するエクオール吸収性組成物、並びに該エクオール包接体の製造方法及びエクオール吸収性組成物の製造方法を提供する。以下、説明する。
<エクオール包接体>
本願は、エクオール包接体、すなわち、シクロデキストリンにエクオールが包接された包接体を提供する。
【0015】
ここで、シクロデキストリンは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、及びそれらの誘導体から選択される1種以上であるのがよい。
好ましくは、シクロデキストリンは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、グリコシル-β-シクロデキストリン、マルトシル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、及びメチル-β-シクロデキストリンからなる群から選択される1種以上であるのがよい。
より好ましくはシクロデキストリンは、β-シクロデキストリン、グリコシル-β-シクロデキストリン、マルトシル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、及びメチル-β-シクロデキストリンからなる群から選択される1種以上であるのがよい。
最も好ましくはシクロデキストリンはβ-シクロデキストリンであるのがよい。
【0016】
本発明の包接体は、総量で1重量部のエクオールに対して、シクロデキストリンが総量で0.5~5000重量部、好ましくは1~100重量部、より好ましくは3~10重量部であるのがよい。
【0017】
<エクオール包接体を含有するエクオール吸収性組成物>
また、本願は、エクオール包接体を含有するエクオール吸収性組成物、すなわち、シクロデキストリンにエクオールが包接されたエクオール包接体を含有するエクオール吸収性組成物を提供する。
シクロデキストリン、及びエクオール包接体は、上記と同じ定義を有する。
エクオール吸収性組成物は、エクオール包接体以外に、未包接のシクロデキストリン、未包接のエクオール、それ以外の成分を含んでもよい。
それ以外の成分として、後述する製造方法で用いる培地成分及びその代謝物、後述する発酵により得られた発酵物又はその一部、ダイゼイン配糖体から外れた糖、配糖体を処理するのに使用した酵素、ダイゼイン類以外のイソフラボン(配糖体、イソフラボン代謝物を含む)、後述する経口摂取許容物質などを挙げることができるが、これらに限定されない。また、発酵終了後に添加する、シクロデキストリン、及びその他賦形剤等を含んでもよい。
【0018】
本願のエクオール吸収性組成物は、エクオール又はエクオール包接体の水への溶解性が0.5mg/mL以上、好ましくは1.0mg/mL以上、より好ましくは1.5mg/mL以上であるのがよい。なお、溶解性の上限値は、11mg/mLであるのがよい。
【0019】
本願のエクオール吸収性組成物は、例えば健康食品組成物などの食品組成物、及び医薬組成物からなる群から選ばれる1種であるのがよいが、これらに限定されない。
本願のエクオール吸収性組成物の形態は特に限定されないが、経口摂取を考慮すると、例えば散剤、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、カプセル剤などの経口剤の形態を挙げることができる。
【0020】
本願のエクオール包接体又は該包接体を含有するエクオール吸収性組成物は、エクオールの水への吸収性、水への溶解度が高い。そのため、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤などの経口剤の形態にした場合、一錠あたりのエクオールの量を低くしたとしても、摂取した場合に所望の濃度で吸収されることができる。したがって、一錠あたりのエクオールの量を低くして、該錠剤などの大きさを小さくすることができる。
【0021】
本願のエクオール包接体又は該包接体を含有するエクオール吸収性組成物を食品組成物として提供する場合、飲食物(サプリメントを含む)等の素材として提供することができる。
また、本願のエクオール包接体又は該包接体を含有するエクオール吸収性組成物を食品組成物として提供する場合、一般の食品の他、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品、病者用食品、食品添加物等として使用できる。食品の形態として、本発明のエクオール含有食品組成物を含む清涼飲料、ミルク、プリン、ゼリー、飴、ガム、グミ、ヨーグルト、チョコレート、スープ、クッキー、スナック菓子、アイスクリーム、アイスキャンデー、パン、ケーキ、シュークリーム、ハム、ミートソース、カレー、シチュー、チーズ、バター、ドレッシング、サプリメント、トクホ飲料、栄養ドリンク等などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0022】
上記食品組成物は、経口摂取許容物質を含有することができる。該経口摂取許容物質として、例えば、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等を挙げることができるがこれらに限定されない。
タンパク質として、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、及びこれら加水分解物、バター等を挙げることができるがこれらに限定されない。
糖質として、例えば、糖類、加工澱粉(デキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維等が挙げることができるがこれらに限定されない。
【0023】
脂質として、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂、パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別
油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂等が挙げることができるがこれらに限定されない。
ビタミン類として、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸等を挙げることができるがこれらに限定されない。
ミネラル類として、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレン、乳清ミネラル等が挙げることができるがこれらに限定されない。
これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することができ、合成品及び/又はこれらを多く含む食品を用いてもよい。
【0024】
これらの食品中のエクオール吸収性組成物の配合割合は、食品の種類、エクオールの含量、摂取対象者の年齢や性別、期待される効果等に応じて、適宜設定することができる。一例として、エクオール又はエクオール包接体が、食品100gに対して0.01~100g、好ましくは0.1~10g、更に好ましくは0.5~5gとなる割合を挙げることができるがこれらに限定されない。エクオールを含む食品組成物を含む食品の一日当たりの摂取量については、組成物中のエクオールの含量、摂取者の年齢や体重、摂取回数等によって異なるが、例えば成人1日当たり、0.01~10gに相当する組成物の量を挙げることができる。
【0025】
<エクオール包接体の製造方法>及び<エクオール包接体を含有するエクオール吸収性組成物の製造方法>
本願は、上述のエクオール包接体の製造方法を提供する。また、本願は、エクオール包接体を含有するエクオール吸収性組成物の製造方法を提供する。
例えば、上述のエクオール包接体は、次の方法により得ることができる。
すなわち、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のエクオール原料からエクオールに資化する微生物を用いて該エクオール原料からエクオールを発酵生産する際に、発酵する培地にシクロデキストリンを添加する工程、を有することにより、エクオール包接体を得ることができる。
【0026】
また、例えば、エクオール包接体を含有するエクオール吸収性組成物は、次の方法により得ることができる。
すなわち、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種のエクオール原料からエクオールに資化する微生物を用いて該エクオール原料からエクオールを発酵生産する際に、発酵する培地にシクロデキストリンを添加する工程、を有することにより、シクロデキストリンにエクオールが包接されたエクオール包接体を含有するエクオール吸収性組成物を得ることができる。
なお、シクロデキストリンは、「発酵する培地」に添加する工程に加えて、発酵生産の工程後に追加添加してもよい。
【0027】
<<エクオール原料>>
本発明の製造方法において用いるエクオール原料は、文字通り、エクオールの原料として用いられるものであれば、その形態は問わない。
エクオール原料は、ダイゼイン配糖体、ダイゼイン及びジヒドロダイゼインからなる群から選ばれる少なくとも1種であればよく、その形態は問わない。例えば、ダイゼイン配糖体そのもの、ダイゼインそのもの、又はジヒドロダイゼインそのものであっても、それらを含有するもの、例えば大豆、大豆加工物、大豆胚軸、大豆胚軸加工物、例えば大豆胚軸抽出物、具体的には市販イソフラボンであってもよい。
【0028】
<<エクオール資化する微生物>>
本発明の製造方法において用いるエクオール資化する微生物は、上記エクオール原料からエクオールを産生するものであれば、特に限定されない。
エクオール資化する微生物として、嫌気性微生物又は乳酸菌を挙げることができる。
なお、エクオール資化能は、培養物中のダイゼイン、ジヒドロダイゼイン、エクオール等を定量することにより確認することができる。これらの定量は、当業者であれば、例えばWO2012/033150、特開2012-135217、特開2012-135218、特開2012-135219等の記載に基づき行うことができる。これらの定量方法の一例を以下に示す。
【0029】
例えば、培養液に酢酸エチルを加えて、激しく攪拌した後遠心し、酢酸エチル層を取り出す。必要に応じて同培養液に同様の操作を数回行い、それら酢酸エチル層を合わせてエクオール抽出液を得ることができる。この抽出液をエバポレーターで減圧下に濃縮、乾固し、メタノールに溶解させる。これをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜等の膜を使用して濾過し、不溶物を除去したものを高速液体クロマトグラフィー測定サンプルとすることができる。高速液体クロマトグラフィーの条件は例えば以下のものを例示することができるがこれに限定されない。
【0030】
[高速液体クロマトグラフィー条件]
カラム:Phenomenox Luna 5uC18、2.0mm×150mm(島津ジーエルシー)
移動相:水/メタノール[55:45,v/v]
流速:0.2mL/min
カラム温度:40℃
検出:UV280nm
保持時間:ジヒドロダイゼインが13.8分、ダイゼインが19.6分、グリシテインが22.5分、エクオールが25.6分、ゲニステインが35.0分
【0031】
エクオール資化する微生物として、以下の属に分類される微生物を挙げることができるがこれらに限定されない。
アドレクラウチア(Adlercreutzia)属
バクテロイデス(Bacteroides)属
ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属
クロストリジウム(Clostridium)属
エガセラ(Eggerthella)属
エンテロコッカス(Enterococcus)属
エンテロハブダス(Enterorhabdus)属
ユーバクテリウム(Eubacterium)属
フィネゴルディア(Finegoldia)属
ラクトバチルス(Lactobacillus)属
ラクトコッカス(Lactococcus)属
パラエガセラ(Paraeggerthella)属
ペディオコッカス(Pediococcus)属
プロテウス(Proteus)属
シャーペア(Sharpea)属
スラキア(Slackia)属
ストレプトコッカス(Streptococcus)属
ベイロネラ(Veillonella)属
【0032】
エクオール資化する微生物として、具体的には、以下の微生物を挙げることができるがこれらに限定されない。
アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・セラツス(Adlercreutzia
equolifaciens subsp. celatus)
アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. equolifaciens)
バクテロイデス・オバツス(Bacteroides ovatus)
ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)
ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)
クロストリジウム・エスピー(Clostridium sp.)
エガセラ・エスピー(Eggerthella sp. )
エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)
エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)
エンテロハブダス・ムコシコラ(Enterorhabdus mucosicola)
ユーバクテリウム・エスピー(Eubacterium sp.)
フィネゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)
ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)
ラクトバチルス・ムコサエ(Lactobacillus mucosae)
ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)
ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)
ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)
ラクトバチルス・エスピー(Lactobacillus sp.)
ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)
パラエガセラ・エスピー(Paraeggerthella sp.)
ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)
プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)
シャーペア・アザブエンシス(Sharpea azabuensis)
スラキア・エクオリファシエンス(Slackia equolifaciens)
スラキア・イソフラボニコンバーテンス(Slackia isoflavoniconvertens)
スラキア・エスピー(Slackia sp.)
ストレプトコッカス・コンステラタス(Streptococcus constellatus)
ストレプトコッカス・インターメディウス(Streptococcus intermedius)
ベイロネア・エスピー(Veillonella sp.)
【0033】
上記記載の微生物のうち、例えばエガセラ(Eggerthellaceae)科に分類される微生物、
ビフィドバクテリアセアエ(Bifidobacteriaceae)科に分類される微生物、クロストリジアセアエ(Clostridiaceae)科に分類される微生物、コーリオバクテリアセアエ(Coriobacteriaceae)科に分類される微生物、エンテロコッカセアエ(Enterococcaceae)科に分類される微生物、ユーバクテリアセアエ(Eubacteriaceae)科に分類される微生物、モルガネラセアエ(Morganellaceae)科に分類される微生物、ペプトニフィラセアエ(Peptoniphilaceae)科に分類される微生物、ラクトバチラセアエ(Lactobacillaceae)科に分類される微生物、ストレプトコッカセアエ(Streptococcaceae)科に分類される微生物、ベイロネラセアエ(Veillonellaceae)科に分類される微生物、又はこれらの類縁微生物が
挙げられる。好ましくは、アドレクラウチア(Adlercreutzia)属、バクテロイデス属、
ビフィドバクテリウム属、クロストリジウム属、コリオバクテリウム属、エガセラ属、エンテロコッカス属、ユーバクテリウム属、フィネゴルディア属、ラクトバチルス属、パラエガセラ属、ペディオコッカス属、プロテウス属、シャーペア属、スラキア属、ストレプトコッカス属、ベイロネア属、又はこれらの類縁微生物に分類される微生物であるのがよい。さらに好ましくは、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・セラツス、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・エクオリファシエンス、バクテロイデス・オバツス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ロングム、クロストリジウム・エスピー、エガセラ・エスピー、エンテロコッカス
・フェカーリス、エンテロコッカス・フェシウム、エンテロハブダス・ムコシコラ、ユーバクテリウム・エスピー、フィネゴルディア・マグナ、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・インテスティナリス、ラクトバチルス・ムコサエ、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ラムノサス、ラクトバチルス・エスピー、ラクトコッカス・ガルビエ、パラエガセラ・エスピー、ペディオコッカス・ペントサセウス、プロテウス・ミラビリス、シャーペア・アザブエンシス、スラキア・エクオリファシエンス、スラキア・イソフラボニコンバーテンス、スラキア・エスピー、ストレプトコッカス・コンステラタス、ストレプトコッカス・インターメディウス、ベイロネア・エスピーであるのがよい。
【0034】
上記記載の微生物のうち、特に以下に記載する微生物のいずれか又はこれらの菌と同様の種としての性質を有する類縁の菌をより好ましい嫌気性微生物として挙げることができる。
・アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・セラツス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. celatus)DSM 18785株
・アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. equolifaciens)DSM 19450株
・バクテロイデス・オバツス(Bacteroides ovatus)E-23-15株
・ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidibacterium breve)ATCC 15700株
・ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)BB536株
・クロストリジウム・エスピー(Clostridium sp.)HGH136株
・エガセラ・エスピー(Eggerthella sp.)Julong 732株
・エガセラ・エスピー(Eggerthella sp.)YY7918株
・エガセラ・エスピー(Eggerthella sp.)D1株
・エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)INIA P333株
・エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)EPI1株
・エンテロハブダス・ムコシコラ(Enterohabdus mucosicola)Mt1B8株
・ユーバクテリウム・エスピー(Eubacterium sp.)D2株
・フィネゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)EPI3株
・ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)DPPMA114株
・ラクトバチルス・インテスティナリス(Lactobacillus intestinalis)KTCT13676BP

・ラクトバチルス・ムコサエ(Lactobacillus mucosae)EPI2株
・ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)JS1株
・ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)DPPMA24W株
・ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)DPPMASL33株
・ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)DPPMAAZ1株
・ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)INIA P540株
・ラクトバチルス・エスピー(Lactobacillus sp.)Niu-O16株
・ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)20-92株
・パラエガセラ・エスピー(Paraeggerthella sp.)SNR40-432株
・ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)CS1株
・プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)LH-52株
・シャーペア・アザブエンシス(Sharpea azabuensis)ST18株
・スラキア・エクオリファシエンス(Slackia equolifaciens)DSM 24851株
・スラキア・イソフラボニコンバーテンス(Slackia isoflavoniconvertens)DSM 22006株
・スラキア・エスピー(Slackia sp.)FJK1株
・スラキア・エスピー(Slackia sp.)NATTS株
・スラキア・エスピー(Slackia sp.)YIT11861株
・スラキア・エスピー(Slackia sp.)TM-30株
・ストレプトコッカス・コンステラタス(Streptococcus constellatus)E-23-17株
・ストレプトコッカス・インターメディウス(Streptococcus intermedius)A6G-225株
・ベイロネア・エスピー(Veillonella sp.)EP株。
【0035】
なお、上記嫌気性微生物は、その寄託番号に示された寄託機関から入手することができる。各受託番号は、当該嫌気性微生物が、それぞれ次の寄託機関に寄託されていることを示す。
FERM 特許生物寄託センター;International Patent Organism Depositary (IPOD)
http://unit.aist.go.jp/pod/ci/index.html
DSM German Collection of Microorganisms and Cell Cultures (DSMZ)
http://www.dsmz.de/
KCCM Korean Culture Center of Microorganisms
【0036】
本発明においては、エクオールの産生能を有する嫌気性微生物は、エクオールの生産に適した条件で培養される。本発明におけるエクオールの生産に適した条件とは、エクオールの生成活性を持つ嫌気性微生物の生存と活動が維持される条件をいう。より具体的には、嫌気性微生物の生存が可能な気相条件(嫌気性条件)が維持され、当該嫌気性微生物の活性と増殖を支持するための栄養素が与えられることを言う。嫌気性微生物の生存に適した種々の培地組成が公知である。したがって、先に示したエクオールの産生能を有する嫌気性微生物について、当業者は、適切な培地組成を選択することができる。たとえば、Difco社製のBHI培地や、実施例において用いた培地等を使用することができるがこれら
に限定されない。
【0037】
本発明で用いられる培地には、水溶性の有機物を炭素源として加えることができる。水溶性の有機物として、以下の化合物を挙げることができるが、これらに限定されない。
ソルボース、フラクトース、グルコース等の糖類;
メタノール等のアルコール類;
吉草酸、酪酸、プロピオン酸、酢酸、ギ酸等有機酸類、またはこれらの塩。
【0038】
炭素源としての培地に加える有機物の濃度は、効率的に培地中の嫌気性微生物を発育させるために適宜調節することができる。
また、培地には、窒素源を加えることができる。本発明において、窒素源としては通常の発酵に用いうる各種の窒素化合物を用いることができる。好ましい無機窒素源は、アンモニウム塩、及び硝酸塩である。より好ましい無機窒素源は、硫安、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、硝酸カリウム及び硝酸ソーダである。
一方、好ましい有機窒素源はアミノ酸類、酵母エキス、ペプトン類、肉エキス、肝臓エキス、消化血清末等である。より好ましい有機窒素源はアルギニン、システイン、シスチン、シトルリン、リジン、酵母エキス、ペプトン類である。
【0039】
さらに、炭素源や窒素源に加えて、エクオールの製造に適した他の有機物あるいは無機物を培地に加えることもできる。たとえば、ビタミン等の補因子や各種の塩類等の無機化合物を培地に加えることによって、嫌気性微生物の増殖や活性を増強できる場合もある。たとえば無機化合物、ビタミン類、動植物由来の微生物増殖補助因子として以下のものを挙げることができる。
【0040】
無機化合物 ビタミン類
リン酸二水素カリウム ビオチン
硫酸マグネシウム 葉酸
硫酸マンガン ピリドキシン
塩化ナトリウム チアミン
塩化コバルト リボフラビン
塩化カルシウム ニコチン酸
硫酸亜鉛 パントテン酸
硫酸銅 ビタミンB12
明ばん チオオクト酸
モリブデン酸ソーダ p-アミノ安息香酸
塩化カリウム
ホウ酸等
塩化ニッケル
タングステン酸ナトリウム
セレン酸ナトリウム
硫酸第一鉄アンモニウム
【0041】
これらの無機化合物やビタミン類、あるいは増殖補助因子を添加して培養液を製造する方法として、従来公知の手法を用いることができる。培地は、液体、半固体、あるいは固体とすることができる。本発明において、好ましい培地の形態は、液体培地である。
本発明の培地は、デキストリン類を含むことができる。デキストリン類を含む培地で嫌気性微生物を培養すれば、培養後に改めて培養物にデキストリン類を接触させることなく、エクオールおよびデキストリン類を含む液を調製することができる。
デキストリン類の培地への添加は、微生物の培養前および培養中に行うことができる。
【0042】
本願の方法において、嫌気性微生物は、公知の微生物の培養方法にしたがって培養することができる。工業的な製造には、培地や基質ガスを連続的に供給することができ、かつ培養物を回収するための機構を備えた連続培養システム (continuous fermentation system)を使用することもできる。
【0043】
エクオール包接体を含有する食品組成物の製造において、嫌気性微生物を用いる場合には、培養器内への酸素の混入を防ぐのがよい。培養器は通常用いられる発酵槽がそのまま利用できる。発酵槽内に混入する酸素を、窒素等の不活性気体で置換することにより、嫌気的な雰囲気を作ることができる。
【0044】
発酵槽の形状によっては、培地を十分に撹はんするため、撹はん機等を利用することもできる。発酵槽内の培養物を攪拌することによって、培地成分や基質ガスを嫌気性微生物に接触させる機会を増やして、エクオールの生成効率を最適化することができる。また基質ガスをナノバブルとして供給することもできる。
【0045】
本願の方法においては、エクオールの製造を、通気せずゴム栓で密栓したビンや試験管内等の密閉系で行うこともある。また、水素を含む1種類以上の気体からなる混合気相下で行うこともできる。混合気相下で行う場合、水素濃度は特に限定されない。
【0046】
本願の方法を混合気相下で行う場合、気相を構成する気体の組み合わせは特に制限されるものではなく、水素の他に二酸化炭素、窒素等から選択される1種類以上の気体を構成成分として用いることが可能である。また、効率よくエクオールを生成するために通気を行う場合は、気相を構成する混合気体の発酵槽への通気量は0.01~2.0V/V/M(ガス量/液量/分)であることが好ましい。
【0047】
本願の方法において、微生物を培養する際は常圧で行うこともできるが、加圧する場合、加圧条件は、当該微生物が生育できる条件であれば特に限定されるものではない。好ましい加圧条件としては、0.02~0.2MPaの範囲を挙げることができるがこれに限
定されない。
【0048】
エクオールの生成量を増加させるため、発酵槽の温度は特に制限されるものではないが、好ましくは30℃~40℃をさらに好ましくは33℃~38℃の温度を挙げることができる。
発酵時間は、エクオールの生成量に応じて、イソフラボン類の残存量等に応じても適宜設定できる。例えば8~120時間、好ましくは12~72時間、特に好ましくは16~60時間を例示することができるがこれらに限定されない。
【0049】
本発明の培養方法により得られた発酵培養物は、必要に応じて加熱乾燥処理あるいは噴霧乾燥処理、凍結乾燥処理により固形状にして使用することができる。加熱乾燥処理あるいは噴霧乾燥処理は、例えばスプレードライ装置を使用して行うことができる。凍結乾燥処理は凍結乾燥装置を使用して行うことができる。加熱乾燥処理もしくは噴霧乾燥処理もしくは凍結乾燥処理された発酵培養物は、必要に応じて粉末化処理に供してもよい。
【実施例
【0050】
本発明を以下、実施例に基づいて説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
<<前培養>>
表1に示した組成で、pH6.9に調整した培地を、10mLずつ嫌気性微生物培養用18mm試験管(三紳工業製)に分注し、気相を窒素に置換しながらブチルゴム栓とプラスチックキャップをはめて115℃、15分間滅菌した。この培地に、アドレクラウチア・エクオリファシエンス・サブスピーシズ・セラツス(Adlercreutzia equolifaciens subsp. celatus)DSM 18785株を植菌し、無菌フィルターを通した水素ガスで気相を2分間以上置換した後、37℃、200spmで18時間振盪培養を行い、前培養液を調製した。
【0051】
【表1】
【0052】
<<エクオールの調製>>
表1に示した組成にダイゼイン3.3g/L、β-シクロデキストリン15g/L、及びL-アルギニン10g/Lを添加し、pH6.9に調整した培地を20mLずつ100mL容バイアル(マルエム製)に分注し、ブチルゴム栓(マルエム製)をはめ、気相を窒素に置換して115℃、15分間滅菌した。この培地に、実施例1で調製した前培養液0.4mLを接種し、無菌フィルターを通した水素ガスで気相を2分以上置換した後、37
℃、200spmで48時間振盪培養を行った。48時間後、培養液中にエクオール2.8g/Lが生成した。
【0053】
<<エクオール包接体の調製>>
上記<<エクオールの調製>>で調製した培養液を80℃、10分間加熱した。その後、6000rpm、10分間遠心分離し、上清を0.2μmの膜でろ過することで除菌した。得られた除菌液を凍結乾燥し、エクオールのβ-シクロデキストリン包接体を含む乾燥物A-1を得た。
【0054】
<<溶解性試験>>
上記<<エクオール包接体の調製>>で得られたエクオール包接体を含む乾燥物A-1について、溶解性試験を行った。また、コントロールとして、エクオール(LC Laboratories製)のみについて溶解性試験を行った。
具体的には、次の条件で溶解性試験を行った。
エクオール包接体を含む乾燥物A-1を300mg秤量し、水10mLを加えて室温で2時間撹拌した。この液を0.2μmのフィルターでろ過し、エクオール包接体を含む乾燥物A-1の溶液B-1を得た。この溶液B-1のエクオール濃度を分析した。
また、エクオール10mg(LC Laboratories製)を秤量し、同様の操作を行ってエク
オールのみの溶液C-1を得た。この溶液C-1に溶解しているエクオールの濃度を分析した。
その結果、溶液B-1のエクオールの濃度は1.9mg/mLであったのに対し、溶液C-1のエクオール濃度は0.1mg/mLであり、エクオール包接体A-1は、エクオール単独よりも溶解性が高まっていることがわかる。
【0055】
<<ファーマコキネティクス(PK)>>
<<エクオール包接体の調製>>で得られたエクオール包接体A-1について、6週齢Crl:CD(SD)ラットを用いたファーマコキネティクス(PK)を経口投与にて実施した。また、コントロールとして、エクオール(LC Laboratories製)のみについても
ファーマコキネティクス(PK)を行った。
具体的には、投与用量は、エクオール包接体A-1:100 mg/kg、とし、エク
オール(LC Laboratories製)の用量は、エクオール包接体A-1:100mg/kgに
相当すると思われる6.3mg/kgとした。
投与用量を各3匹/群に対し、単回経口投与を実施した。投与試料に用いる被験物質は0.5% CMC水溶液で懸濁し、投与容量は10mL/kgとした。
【0056】
PKは血漿を用いて測定し、採血時点を0分、30分、1時間、2時間、6時間、12時間、24時間とした。また、24時間の採血後は安楽致死させた。
本試験において死亡および毒性症状は見られなかった。また、投与後24時間後の剖検においても、頭蓋腔、胸腔、腹腔内の各臓器およびリンパ節の肉眼的観察に異常はみられなかった。
得られたPKの結果を表2に示す。なお、表2において、Cmax:最高血中濃度;Tmax:Cmaxに到達するまでの時間;及びAUC0-24:面積;をそれぞれ示す。
表2から、エクオール包接体A-1のCmax(最高血中濃度)が、エクオールのみのCmax(最高血中濃度)よりも2倍以上高いことがわかる。また、エクオール包接体A-1のAUC0-24:面積が、エクオールのみのAUC0-24:面積よりも高いことがわかる。これらの結果から、本発明のエクオール包接体は、エクオール吸収性が良好であることがわかる。
【0057】
【表2】
【0058】
<実施例2>
<<エクオールの調製2>>
大豆胚軸(不二製油製)をワーリングブレンダーにより、1分間×5回粉砕した。この粉砕物27gに、ペクチナーゼGアマノ(アマノエンザイム製)0.27gおよび脱イオン水118gを加え、pHを4~7に維持し、50℃で攪拌しながら酵素処理を行った。ここに、表1に示す組成となるよう各栄養源、並びL-アルギニンを10g/Lとなるよう添加し、pH6.8~7.0に調整後、この調製液を20mLずつ100mL容バイアル(マルエム製)に分注し、ブチルゴム栓(マルエム製)をはめ、気相を窒素に置換して115℃、15分間滅菌した。この培地に、実施例1と同様に調製した前培養液0.4mLを接種し、無菌フィルターを通した水素ガスで気相を2分以上置換した後、37℃、200spmで48時間振盪培養を行った。
48時間後、HPLC分析により、エクオールが生成していることを確認した。
この培養液を80℃、10分間加熱後、凍結乾燥に供し、エクオールを含む大豆胚軸発酵粉末を得た。
【0059】
<<エクオール包接体の調製2>>
上記<<エクオールの調製2>>で調製した大豆胚軸発酵粉末1gに、β-シクロデキストリン15g/L水溶液10mLを加え、よく混合した。その後、6000rpm、10分間遠心分離し、上清を0.2μmの膜でろ過した。本ろ液を凍結乾燥により粉末化し、エクオール包接体を含む乾燥物A-2を得た。
また、上記<<エクオールの調製2>>で調製した大豆胚軸発酵粉末2gに、ミリQ水を加え、同様の操作を行い、乾燥物D-1を得た。
【0060】
<<溶解性試験2>>
上記<<エクオール包接体の調製2>>で得られたエクオール包接体を含む乾燥物A-2について、ミリQ水に溶解し、溶液B-2を得た。
また、コントロールとして、乾燥物D-1についても、ミリQ水に溶解し、溶液C-2を得た。添加するミリQ水量は、<<エクオール包接体の調製2>>で得られた乾燥物を、元の液量に戻すに等しい量とした。
この溶液B-2、C-2のエクオールの濃度をHPLCにより測定した。
その結果、溶液B-2のエクオールの濃度は0.28mg/mLであったのに対し、溶液C-2のエクオール濃度は0.02mg/mLであった。エクオール包接体A-2は、非包接体D-1よりも溶解性が高まっていることがわかる。