(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】高分子フィルムを下地に適用する方法および得られる物品
(51)【国際特許分類】
B32B 37/00 20060101AFI20240208BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240208BHJP
B32B 38/10 20060101ALI20240208BHJP
B29C 63/02 20060101ALI20240208BHJP
B29C 65/40 20060101ALI20240208BHJP
B29C 65/48 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
B32B37/00
B32B27/00 Z
B32B38/10
B29C63/02
B29C65/40
B29C65/48
(21)【出願番号】P 2020523342
(86)(22)【出願日】2018-10-27
(86)【国際出願番号】 US2018057888
(87)【国際公開番号】W WO2019084523
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-09-10
(32)【優先日】2017-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】523227982
【氏名又は名称】ピーピージー・アドバンスト・サーフェス・テクノロジーズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100225026
【氏名又は名称】古後 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】ストレンジ・アンドリュー
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-301242(JP,A)
【文献】特開平05-212350(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0183198(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0059167(US,A1)
【文献】特開昭64-071714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
B29C 43/00- 43/58
B05D 1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品の表面の少なくとも一部に高分子フィルムを適用する方法であって、
前記高分子フィルムまたは前記高分子フィルムを含むラミネートを用意するステップと、
前記高分子フィルムの表面または前記高分子フィルムを含むラミネートの表面に第1の固化中間層を適用して、前記物品の前記表面の前記一部と接触する高分子フィルムアセンブリを形成するステップと、
前記物品の前記表面の少なくとも一部を加熱して加熱表面を形成するステップと、
前記第1の固化中間層を前記物品の前記加熱表面の前記少なくとも一部に接触させることにより、前記物品の前記加熱表面の前記少なくとも一部に前記高分子フィルムアセンブリを適用することで、前記第1の固化中間層の前記少なくとも一部を、前記高分子フィルムと前記物品の前記加熱表面の前記少なくとも一部との間に配置された軟化中間層とするステップと、
前記物品の前記加熱表面の冷却により前記軟化中間層を第2の固化中間層に変化させるステップであって、前記第2の固化中間層は、前記高分子フィルムを前記物品の前記表面の前記少なくとも一部に接着するために最初に設けられた前記第1の固化中間層と異なる形態であっても同一の形態であってもよいステップと、
を含
み、
ブルックフィールド回転粘度計を用いて測定された前記軟化中間層のブルックフィールド粘度は、10,000cP未満である方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記高分子フィルムがポリウレタン系である方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、前記物品の前記表面の前記一部が繊維複合材表面である方法。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか一項に記載の方法において、
ブルックフィールド回転粘度計を用いて測定された前記軟化中間層のブルックフィールド粘度は、5,000cP未満である方法。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法において、
ブルックフィールド回転粘度計を用いて測定された前記軟化中間層のブルックフィールド粘度は、2,000cP未満である方法。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか一項に記載の方法において、
ブルックフィールド回転粘度計を用いて測定された前記軟化中間層のブルックフィールド粘度は、1,500cP未満である方法。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載の方法において、
ブルックフィールド回転粘度計を用いて測定された前記軟化中間層のブルックフィールド粘度は、50cP~1,500cPである方法。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれか一項に記載の方法において、前記高分子フィルムまたは前記高分子フィルムを含むラミネートは、少なくとも部分的に着色され、かつ/または少なくとも部分的に金属化されている方法。
【請求項9】
請求項1から
8のいずれか一項に記載の方法において、前記高分子フィルムアセンブリにおいて、前記第1の固化中間層と、前記高分子フィルムまたは前記高分子フィルムを含む前記ラミネートと、の間に共有結合性架橋が欠如している方法。
【請求項10】
請求項1から
9のいずれか一項に記載の方法において、前記第1の固化中間層のピーク損失係数は、1.0未満である方法。
【請求項11】
請求項1から
10のいずれか一項に記載の方法において、前記第2の固化中間層のピーク損失係数は、1.0未満である方法。
【請求項12】
請求項1から
11のいずれか一項に記載の方法において、前記第2の固化中間層の実質的な部分を下地となる前記物品に残しつつ、下地となる前記物品の前記表面の前記一部から、前記高分子フィルムを、および存在する場合は前記高分子フィルムを一部に含むラミネートを、分離するステップをさらに含む方法。
【請求項13】
請求項
12に記載の方法において、第2の高分子フィルムまたは前記第2の高分子フィルムを含む第2のラミネートを、下地となる前記物品の前記表面の前記少なくとも一部に適用するステップをさらに含む方法。
【請求項14】
請求項1から
13のいずれか一項に記載の方法において、前記物品は、モータ付き乗り物を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2017年10月27日に出願した米国仮特許出願第62/577,960号の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本願の一部をなすものとして引用する。
【0002】
本発明は、高分子フィルムを下地に適用する方法および得られる物品に関する。
【背景技術】
【0003】
高分子材料(本明細書においては、単に「ポリマー」とも呼ばれる)は、通常、フィルムの形態で、多くの用途に使用されている。一般的に、「フィルム」とは、比較的薄く連続的な単体の層(材料層)であるとして理解される。これに対し、従来的に適用される「コーティング」の多くは、その下にある下地上に連続的または均一な材料層を形成しない。したがって、コーティングは、他の用途において単体層としてまたは複数の層のうちの1つとして用いることができる高分子フィルムとは異なり、それらが形成されている支持下地から物理的に分離することができないことが多い。よって、コーティング技術には制限があり、通常、高分子フィルムの技術とは区別される。
【0004】
高分子フィルムは、多くの場合、複数の層をコーティングせずとも、または複数のフィルムを積層せずとも、意図する用途において所望の特性を与えることが可能であり、多くの用途で広く使用されている。高分子フィルムが用途に適しているかどうかは、例えば、その物性(強度、弾性、透明性、色、耐久性など)による。しかし、高分子フィルムの特性が最適化されたとしても、そうしたフィルムを下地となる表面に適用するための従来的な方法により、高分子フィルムと下地表面との間に欠陥として目に見える状態で空気が捕捉されてしまうことが多いことから、これらの効果が十分に実現されないことが多い。この問題およびその解決手段の1つが、米国特許出願公開第2015/0183198号(特許文献1)に記載されている。
【0005】
特許文献1に記載されているように、塗装表面は、多くの様々な用途に広く使用されている。塗装表面は美的特性を向上させるだけでなく、付加的または代替的に下地表面の機能的特性を向上させ、この表面の保護を支援することができる。そうした用途の1つは輸送業における用途であり、当該用途においては、通常、外側の塗装表面が様々な環境に曝され、このような環境のいくつかは上記表面に対して極めて厳しい環境となり得る。輸送業におけるそうした塗装表面を有する物品の例としては、陸上、水上および航空輸送用の乗り物が挙げられる。このような乗り物には、航空機および自動車やトラックなどの陸上用モータ付き乗り物 が含まれる。このような表面の塗装は、暴露によるダメージから下地表面を保護するように機能することができる。しかしながら、塗装自体は、そうしたダメージを与える環境に対して繰り返し曝されることに対して耐性を有していなければならない。
【0006】
近年では、通常、液体状で表面に適用される液体ベースの従来的な塗装に替えて、そうした表面に適用するためのフィルム形状の塗装が開発されている。フィルム形状の塗装は少なくとも1つの高分子フィルムからなり、本明細書では「高分子フィルム」または「高分子ペイントフィルム」とも称される。このような高分子ペイントフィルムの一例は、米国特許出願公開第2010/0059167号(タイトル:“Paint Replacement Films, Composites Therefrom, and Related Methods”)(特許文献2)に記載されている。
【0007】
しかし、他の高分子フィルムを表面(特に、複雑な凹凸を有する表面)に適用する際には、接触面において適切な接着性を与え、かつ、高分子フィルムと下地表面との間に捕捉された空気を有効に除去することが困難であることがわかっている。例えば、多くの場合、高分子フィルムに付着している接着剤が下地表面に貼り付けられる(この接着は必ずしも均一な前面 に沿って進めなくてもよい)とき、特に下地表面の凹凸が(顕著な突部や凹部を有するように)複雑になるほど、高分子フィルムと下地表面との間の接着面に空気が捕捉されてしまうことが頻出する。貼り付け面における進行方向の前面 に接着剤が存在することにより、その向こうに捕捉されている空気は、高分子フィルムの接着が進むほど、完全に除去することがますます難しくなる。よって、こうした接着面からのエアの排出(エアブリード)を促進する機構の研究が行われてきた。
【0008】
多くの従来的なエアブリード機構は、接着層構造を用いて捕捉された空気を除去するものである。例えば、米国特許出願公開第2011/0111157号(特許文献3)および米国特許第7,332,205号(特許文献4)を参照のこと。適用後に上記構造と下地表面との間におけるエアブリードを促進するとして知られる他の高分子フィルム系構造としては、米国特許第5,897,930号(特許文献5)に記載されているような微細構造化表面が挙げられる。このような微細構造は、多くの用途において効果的であるが、特定の用途においては光学的透明性を低下させることがわかっている。例えば、接着層からの 構造は、高分子フィルムを下地表面に適用した後にも、依然として(人間の肉眼にも)視認可能であることが多い。その視認性は、高分子フィルムの厚さが薄くなるほど、かつ/または高分子フィルムの透明性が高くなるほど、さらにより顕著となる。容易に理解できるように、このような構造は、捕捉された空気の除去という問題に対する理想的な解決手段ではない。また、このような微細構造化された表面の存在に関連する制約により、物品の表面に効果的に適用することができる高分子フィルムの種類が限定される。
【0009】
高分子材料の光学的透明性は、物品に適用された高分子フィルムの外観について特定の表面の美観が望ましい光学的用途および他の用途に使用する材料を選択する際に考慮すべき重要な事項である。表面の美観は、代替的または付加的に、高分子フィルムが適用される物品の下地表面の特性の維持または向上と関連する。適用された高分子フィルムの下にある表面が複合材料からなる場合、捕捉された空気や下地表面にもともと存在する他の欠陥がより顕著となり、さらに、下地表面の美観の維持または向上を図る場合に、下地表面は損傷に対する感受性が高くなることが多い。
【0010】
複合材料(例えば、繊維強化複合体)の場合、複合材料表面の物性に影響を与えることなく所望の表面の美観を得ることは困難であることが多いものの、軽量の材料が所望される用途や、これと関連した材料の強度または剛性の低下が問題となりやすい用途に複合材料が使用されることが増えている点を鑑みると、その重要性は増している。また、代替的な材料と比較すると、複合材料は優れた耐腐食性を有することが多いので、複合材料の多くは耐腐食性が望まれる用途において有用である。
【0011】
様々な種類の複合材料が知られている。繊維強化複合体の場合、高分子樹脂マトリックスおよび繊維強化材 により、複合体が形成されていることが多い。高分子樹脂マトリックスおよび繊維強化成分のそれぞれについて、様々な材料を用いることが可能である。例えば、繊維強化材に有用な材料としては、炭素繊維、ボロン繊維およびガラス繊維が挙げられる。さらに、高分子樹脂マトリックスに有用な材料の例としては、熱可塑性材料(例えば、ナイロン)および熱硬化性材料(例えば、エポキシおよびフェノール樹脂)が挙げられる。
【0012】
その有利な特性により、複合材料から様々な特殊なスポーツ用品および他の物品が形成されることが増えている。例えば、複合材料は、シャフトを有する スポーツ用品(つまり、概して、長手に伸張する部分を有するスポーツ用品であって、当該部分は、全体を通して中空であってもよく、そうでなくてもよく、または厚さおよび形状が均一であってもく、そうでなくてもよい)や同様の物品に用いられることが増えている。このような物品としては、例えば、ゴルフクラブ、自転車用フレーム、ホッケー用スティック、ラクロス用スティック、スキー板、スキー用ポール、釣り竿、テニスラケット、矢、ポロ用マレット、およびバット等がある。一例を挙げると、複合材料を使用することにより、ゴルフクラブの製造者は、様々な強度、柔軟性およびねじれ剛性を有するシャフトを製造することが可能である。
【0013】
また、輸送業およびエネルギー産業における様々な物品が複合材料から形成されることが増えている。例えば、複合材料は、ヘリコプターおよび特殊な軍用機等における翼部品やブレード部品などの様々な航空宇宙部品を形成するためによく使用される。さらに、複合材料は、車体パネル、ルーフ、ドア、ギアシフトノブ、シート用フレーム、ハンドル等といった、内装材および外装材の様々な自動車用部品を形成するためによく使用される。エネルギー産業において、複合材料は、風車用ブレードを形成するために使用され、例えば、炭素繊維強化複合材を使用することにより、大型の風力タービンのブレードはより効率的なものとなる。実際、複合材料の現在および将来的な用途の数は極めて多い。
【0014】
有利なことに、複合材料は強度、剛性、耐腐食性および軽量化を向上させる。これらの有利な特性は、耐摩耗性および耐衝撃性という競合する比較液短所である特性 に対してバランスがとられていることが多い。また、多くの複合物品は、所望の特性を得るために個別の複合材料層を複数積層することにより形成されることから、このような複合物品は、特に衝撃を受けた際に、層間剥離が生じやすい。これは、特に炭素繊維強化複合体(「CFR複合体」とも呼ばれる)によくあることである。層間剥離が生じた場合、そうした物品の構造的一体性が損なわれ、複合物品を意図したように使用できないこともある。さらに、複合物品が破損してしまう極端な場合には、尖った破断表面が生じ(つまり、強化繊維が当該部分から無計画に延びた状態となり)、物品の有用性だけでなく、そうした物品の使用者およびその周囲の者の安全性に影響を与えるおそれがある。したがって、破損の防止および抑制も重要な設計要素である。
【0015】
複合物品の特定の特性を向上させるために、従来的には、ゲルコートや同様の保護コーティングが用いられてきた。また、ゲルコートは、多くの場合、艶のある外観を与え、物品の他の美的特性を向上させる。また、ゲルコートは、限定的ではあるものの、耐摩耗性をある程度向上させることができる。ゲルコートや同様の保護コーティングは、従来的に、美観向上のみを目的としたものであるとしても、型成形により形成されている複合物品に適用されている。しかしながら、特に、複合材料から物品を成形する場合には表面に欠陥が生じやすいことから、美観を向上させる必要性が生じる。型成形された複合物品における表面の欠陥の数が増大する1つのメカニズムは、そうした複合体のポリマーマトリックスが、成形時に強化材(例えば、繊維)の全体を通して十分に流れない場合に、金型との接触面に微細な気泡が形成されることと関連する。その結果として、金型の表面に接して形成される複合物品の表面は空隙などの欠陥を有し、ガラス状の外観または他の所望する外観を損ない得る。欠陥は、複合物品の表面の仕上げ工程を複雑にすることがある。
【0016】
ゲルコートまたは同様の外側の保護コーティングを複合物品に適用するために広く用いられる方法が2つ存在する。1つの方法としては、複合物品が(例えば、成形により)形成された後に、当該物品の外側表面にゲルコートをスプレーすることである。この方法では、欠陥により複合物品の表面の仕上げ工程が複雑になることがある。例えば、表面にコーティングがスプレー塗装されたとき、当該表面上の空隙に空気が捕捉されることがある。このような空気が捕捉されている個所には、コーティングが付着する下地がない。これにより、このコーティングは、通常、空隙に流入するか、表面の当該領域においてディウェッティング(de-wet)を引き起こす 。捕捉された空気と関連する問題に加えて、表面を流れる従来的なコーティングは、概して、下地表面の凹凸や欠陥に沿い、その後、硬化したコーティングの外部に露出した表面に下地表面のテクスチャを再現する傾向にある。
【0017】
2つ目の方法は、例えば、金型内部に形成される複合物品の外側表面に転写され得る金型の内側表面に、ゲルコートを予め適用することによって、その後の(例えば、成形後の)処理ステップをなくすものである。例えば、米国特許第4,081,578号(特許文献6);米国特許第4,748,192号(特許文献7);および米国特許第5,849,168号(特許文献8)を参照のこと。この方法は、「インモールド処理」の一変形例であって、用途および使用される材料に応じてインモールド加飾またはインモールドラベリングとも呼ばれることがある。材料を適用するためにインモールド処理を用いる他の変形例は、複雑かつ非効率的ではあるものの、米国特許第5,768,285号(特許文献9)に記載されている。
【0018】
コーティングと比較すると、高分子フィルムが表面に適用される場合には依然として問題がある。例えば、裏面に 感圧性接着剤(PSA)を有する高分子フィルムの従来的な適用方法は、空隙により困難になることがある。従来のコーティングの適用に関連する問題と同様に、表面において空気が捕捉されている個所では、高分子フィルムおよびその裏面の任意の接着剤には接着する下地がない。このことから、また、高分子フィルムは液体コーティングでないことから、高分子フィルムは空隙に流入することも、表面のディウェッティングを引き起こすこともない。その結果、高分子フィルムは、通常、その下に空気を捕捉した状態で空隙を覆う。こうした領域に圧力が加えられ、かつ、高分子フィルムが十分な伸張性 (stretchability)を有する場合には、高分子フィルムは、通常、この空隙の空間内へと伸びて、目に見える欠陥を当該表面に生じさせる。捕捉された空気が除去されなければ、得られた物品の使用時に、捕捉された空気がしばしば拡大または縮小し、これにより高分子フィルムの表面に凹凸が生じることになる。捕捉された空気に関連する問題に加えて、従来の高分子フィルムは厚さが一定であることが多く、この要因により、フィルムが下地表面の凹凸や欠陥に沿うことによって、フィルムにおける外部に露出した表面に下地表面のテクスチャが再現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】米国特許出願公開第2015/0183198号
【文献】米国特許出願公開第2010/0059167号
【文献】米国特許出願公開第2011/0111157号
【文献】米国特許第7,332,205号
【文献】米国特許第5,897,930号
【文献】米国特許第4,081,578号
【文献】米国特許第4,748,192号
【文献】米国特許第5,849,168号
【文献】米国特許第5,768,285号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
すべてを考慮すると、物品の表面に高分子フィルムを適用する代替的な方法が望まれている。このような必要性は、特に、従来的なスプレー塗装クリアコートを使用する場合について記載されており、この方法は、通常、所望の艶感を有する平滑な表面を得るために、多くの場合には各コート間において研磨を行いつつ、幾つかのコーティング層を適用することを要する。特に、下地表面が繊維複合材料である場合、この方法は時間がかかるだけでなく、研磨中に繊維複合材料の表面を損傷させる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明によると、高分子フィルムまたは前記高分子フィルムを含むラミネートは、例えば、所望の表面性状を与えるために、下地となる物品の表面の少なくとも一部に適用される。この適用を補助するために、前記高分子フィルムまたは前記高分子フィルムを含むラミネートの表面に第1の固化中間層が適用されて、前記物品の表面の前記一部と接触する高分子フィルムアセンブリを形成する。この高分子フィルム アセンブリは、前記第1の固化中間層を前記物品の表面に接触させることにより、前記物品の表面の少なくとも一部に適用され、前記第1の固化中間層の少なくとも一部が、前記高分子フィルムと前記物品の表面との間に配置された軟化中間層となる。その後、前記軟化中間層は、第2の固化中間層に変化する 。この第2の固化中間層は、前記高分子フィルムを前記物品の表面の前記少なくとも一部に接着するために最初に設けられた前記第1の固化中間層と異なる形態であっても同じ形態であってもよい。
【0022】
このように適用される高分子フィルムおよび前記高分子フィルムを含むラミネートでは、前記第2の固化中間層の実質的な部分(substantial portion)をその下地である物品に残しつつ、前記高分子フィルムおよび前記第2の固化中間層に隣接する層を、前記物品から効率的かつ効果的に分離できるため、当該高分子フィルムおよび前記高分子フィルムを含むラミネートの除去および/または補修がより容易となる。関連する方法において追加の固化中間層材料を使用せずとも、従来の方法により、他の高分子フィルムまたは高分子フィルムを含むラミネートを、前記物品の表面に効率的かつ効果的に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明によると、高分子フィルムを含む高分子フィルムアセンブリは、下地となる物品表面の少なくとも一部に適用される。ここで、前記物品の下地表面に適用される高分子フィルムは、所望の表面性状(例えば、平滑さ、艶など)を有する。
【0024】
このような高分子フィルムを物品の下地表面に、特に、繊維系複合材料の表面(つまり、繊維複合材表面)に適用することを補助するために、室温固化中間層(本明細書においては「固化中間層」とも呼ばれる)が、前記高分子フィルムが適用される前記物品の表面と接触する前記高分子フィルムアセンブリの表面に存在する。加熱された物品の表面に前記高分子フィルムアセンブリが適用されたとき、前記固化中間層のうちの加熱された部分のみが軟化し、「軟化中間層」を形成する。これにより、下地表面に高分子フィルムアセンブリを適用したとき、前記軟化中間層は、繊維複合材表面によくみられる空隙および欠陥を覆ってかつその内部へと流動できるような粘度を有する。このような流動により、得られる物品の表面がより平滑なものとなり、この表面が有する視認可能な欠陥が少なくなる。有利なことに、この例示的な実施形態によると、前記高分子フィルムアセンブリと高分子フィルムアセンブリが接触する下地との界面から流動する当該軟化中間層の移動は、最小となる。その理由は、固化中間層において加熱された表面と接触している部分のみが軟化されることにある。
【0025】
前記軟化中間層が下地表面と接触した後、前記軟化中間層は、任意で当該層の重合が行われて、固化中間層に戻る。本明細書において、「重合」などの用語には、当業者が用いる「硬化」などの意味が含まれることもある。これらの用語は、本明細書において、また、当業者によって互換可能に用いられることができる。例えば、「硬化」という用語は、よく、エポキシ樹脂の重合(「硬化」としても知られる)について使用される。
【0026】
一実施形態によると、前記表面に適用された後、前記軟化中間層は、冷却されると(組成および材料特性の観点から)本質的に同一の固化中間層に戻る。他の実施形態によると、前記表面に適用された後、重合性組成物の軟化中間層は部分的に重合され、さらに冷却により固化する。冷却されると、これまで軟化していた中間層は、粘弾性流体、粘弾性固体、または弾性固体の特性を発現することができる。例示的な実施形態において、前記高分子フィルムを前記下地表面に適用し室温まで冷却した後、前記固化中間層の室温におけるブルックフィールド粘度は、約20,000cPよりも高い。
【0027】
本発明の方法を用いて、本発明の高分子フィルムは、スプレー塗装等による表面コーティングを用いる従来の手法に対する改良点として所望の表面性状を与える。このように、本発明の方法を用いることにより、改良された表面性状を有する物品 を得ることができる。好適な実施形態において、得られる物品は、従来のようにスプレー塗装されたクリアコーティングや従来の方法を用いて下地表面に接着された高分子フィルムと比較すると、少なくとも同等の(多くの場合、より優れた)表面性状を有する。
【0028】
本発明の他の効果は、改良された方法に従って下地表面に適用された高分子フィルムの除去および/または補修が容易であることに関する。例えば、一実施形態において、高分子フィルムがこれを含むラミネートの一部となっている場合、前記固化中間層は、高分子フィルムおよび/またはこれに隣接する層(例えば、任意の接着層)よりも、下地表面に対してより良好に接着される。固化中間層と高分子フィルムおよび/またはこれに隣接する層との間に共有結合性 架橋が存在しないことは、この特徴的な接着性に寄与する。このような共有結合性架橋がないことにより 、固化中間層の実質的な部分を下地となる物品に残しつつ、前記高分子フィルムおよびこれに隣接する層を、当該下地となる物品から効率的かつ効果的に分離することが可能である。
【0029】
関連する方法において追加の中間層材料を用いずとも、高分子フィルムまたは高分子フィルムを含むラミネートは、従来の方法により、上記物品の表面に効率的かつ効果的に再適用することが可能である。本発明の方法に従って除去された高分子フィルムの適用前に物品の下地表面に存在していた(例えば、繊維複合材表面によく見られるような)表面の空隙および欠陥は、元の高分子フィルムの適用時に付着した固化中間層が当該表面に残っていることにより実質的に排除された状態となる。
【0030】
[高分子フィルムおよび高分子フィルムを含むラミネート]
本発明の「高分子フィルム」は、比較的薄く連続的な高分子材料の単体層(single layer)である。本発明の高分子フィルムは、ポリマー分野の当業者が、通常、接着剤と考えるものではない。
【0031】
さらなる実施形態において、2つ以上の高分子フィルムまたは他の材料の層を、物品の表面に適用する「ラミネート」の形態で提供してもよい。厚さはより大きいものであってもよいが、高分子フィルムラミネートの一態様によると、前記ラミネートは、総厚が約400ミクロン未満である。さらなる実施形態において、前記ラミネートの総厚は約200ミクロン未満である。さらに別の実施形態において、前記ラミネートの総厚は約50ミクロン未満である。さらに別の実施形態において、前記ラミネートの総厚は約10ミクロンである。一般的に、厚いラミネートほど耐摩耗性が高いが、腐食耐性等が最大の懸念事項となる場合には、薄いラミネートを用いてもよい。
【0032】
本発明に有用な高分子フィルムラミネートの性質は、例えば、当該ラミネートが、固化中間層が物品の表面に接した状態で当該表面に最初に適用されたものであるのか、または当該ラミネートが、固化中間層により適用された高分子フィルムを表面から除去した後に同じ表面に適用されたものであるのかに応じて変化してもよい。例えば、一実施形態において、固化中間層を含む高分子フィルムアセンブリが前もって適用されていた物品の表面に適用される高分子フィルムラミネートは、接着(例えば、感圧性接着剤)層を有する。本実施形態の例示的な態様において、このような高分子フィルムラミネートは、固化中間層の反対側において、当該ラミネートが適用される下地表面と接触する前記高分子フィルムの表面に接着層を有する。
【0033】
様々な種類の高分子フィルム(「保護シート」と呼ばれることもある)が知られており、これらは、複合材料を含む様々な下地表面に適用されてきた。例えば、参照により本願の一部をなすものとして引用される米国特許第8,545,959号を参照されたい。しかしながら、上記の背景で述べたように、特に、高分子フィルムと下地表面との間に捕捉された空気の除去に関連する問題を考慮すると、高分子フィルムの適用方法は、複雑なものになり得る。捕捉された空気は、得られる表面において、しばしば視認できるような欠陥を生じさせる要因の一つである。
【0034】
前記高分子フィルムは、任意で、「高分子ペイントフィルム」として少なくとも部分的に着色されていてもよく(つまり、有色であってもよく)、かつ/または、少なくとも部分的に金属化されていてもよい。例示的な実施形態において、本発明の高分子フィルムは、少なくとも部分的に着色されている。本発明の着色高分子フィルムは、数ある条件の中でも、着色剤(pigment)の種類および高分子フィルムの厚さに応じて、実質的に半透明または実質的に不透明であってもよい。
【0035】
他の例示的な実施形態では、本発明の高分子フィルムは金属化されている。通常、本発明の金属化高分子フィルムは実質的に不透明であるが、金属化高分子フィルムは、金属化の程度に応じて少なくとも部分的に透明であってもよい。
【0036】
さらなる例示的な実施形態において、本発明の高分子フィルムは着色および金属化の両方が施されている。しかし、前記高分子フィルムは、本発明の方法に従って適用可能な高分子フィルムとするために、その下にある物品の外観を変える添加剤を含んでいなくてもよい。
【0037】
他の例示的な実施形態において、前記高分子フィルムは、実質的に着色フリーであり、金属化が施されていない。本実施形態の一態様によると、前記高分子フィルムは実質的に透明である。本実施形態の他の態様によると、前記高分子フィルムは実質的に半透明である。本実施形態の他の態様によると、前記高分子フィルムは実質的に不透明である。
【0038】
比較的複雑な凹凸を有する表面に対する前記高分子フィルムの接着性を高めるために、好ましくは、前記高分子フィルムは伸張可能(stretchable)である。「伸張可能」(stretchable)という用語は、材料が延性および伸張され得る(引き延ばされ得る)ことができる能力を意味している。例示的な伸張可能な高分子フィルムは、破断することなく、初期長さの少なくとも約105%以上の長さまで伸張することができる。例えば、長さ100cmの伸張可能な高分子フィルムは、破断することなく、105cm以上の長さまで伸張することができる。一実施形態において、伸張可能な高分子フィルムは、破断することなく、初期長さの少なくとも約125%以上の長さまで伸張することができる。例えば、長さ100cmの伸張可能な高分子フィルムは、破断することなく、125cm以上の長さまで伸張することができる。他の実施形態において、伸張可能な高分子フィルムは、破断することなく、初期長さの少なくとも約150%以上の長さまで伸張することができる。例えば、長さ100cmの伸張可能な高分子フィルムは、破断することなく、150cm以上の長さまで伸張することができる。
【0039】
一実施形態において、前記高分子フィルムは、一旦伸張されると完全に回復しない。このような低減された回復性を有する例示的な高分子フィルムは、破断することなく、初期長さの少なくとも約110%の長さまで伸張可能であるが、この高分子フィルムは、こうした伸張後に元の状態まで回復しない。本実施形態の一態様によると、前記高分子フィルムは、初期長さの少なくとも約110%の長さまで伸張された後、初期長さの約105%程度 、好ましくは約110%程度までしか回復しない。
【0040】
他の実施形態において、前記高分子フィルムは伸張可能であるだけでなく、伸縮可能でもある。「伸縮可能」(extendable)および「伸縮性」(extensibility)という用語は、材料の延性、および伸張され、伸張後に本質的に元の状態に戻る能力を意味している。伸縮可能な高分子フィルムは、初期長さの約125%以上の長さに伸張されたとき、元の状態まで回復することができる。すなわち、伸縮可能な高分子フィルムは、初期長さの約125%以上の長さに伸張されたとき、元の状態まで回復することができる。例えば、初期長さが約100cmの高分子フィルムは、当該フィルムが伸縮可能である場合、125cm以上の長さに伸張された後に約100cmの長さまで回復することができる。好ましくは、伸縮可能な高分子フィルムは、初期長さの約150%以上の長さまで伸張されたとき、元の状態まで回復することができる。
【0041】
他の好適な実施形態において、前記高分子フィルムは、その初期長さの約125%まで伸張されたとき(例えば、高分子フィルムが初期長さ100cmから約125cmの長さまで伸張されたとき)、本質的に塑性変形を示さない。さらなる好適な実施形態において、前記高分子フィルムは、その初期長さの約150%まで伸張されたとき(例えば、高分子フィルムが初期長さ100cmから約150cmの長さまで伸張されたとき)、本質的に塑性変形を示さない。好ましくは、高分子フィルムをその初期長さの150%まで伸張するために要する力は約40N未満である。
【0042】
本発明の好適な実施形態によると、高分子フィルムは、破断するまでに、200%を越えて引き延ばすことが可能である。他の好適な実施形態において、前記高分子フィルムは、ASTM D638-95に準じて試験した場合、破断時に約210%を超える伸張を示す。より好適な実施形態において、前記高分子フィルムは、ASTM D638-95に準じて試験した場合、破断時に約260%を超える伸張を示す。さらに好適な実施形態において、前記高分子フィルムは、ASTM D638-95に準じて試験した場合、破断時に約300%を超える伸張を示す。さらに別の好適な実施形態において、前記高分子フィルムは、ASTM D638-95に準じて試験した場合、破断時に約350%を超える伸張を示す。
【0043】
有用な高分子フィルムは、任意の適切な組成を有する。本発明の高分子フィルムにおいて2種類以上の高分子材料を用いてもよく、ラミネートに含まれる他の層において2種類以上の高分子材料を用いてもよいが、以下においては、単に簡潔性のために、そうした層に含まれる上記高分子材料の種類を1種類として一般的に説明している。
【0044】
前記高分子フィルムは、任意の適切な高分子材料を含む。例えば、前記高分子フィルムは、ポリウレタン系、ポリアクリレート系、ポリエポキシド系、またはポリエステルエラストマー系であってもよい。比較的低い伸縮性により特定の実施形態においては通常好まれないものの、前記高分子フィルムは、伸張後に前記高分子フィルムが完全に回復する必要がない又はこれを所望しない実施形態において、ポリビニル系[ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルアセテート(PVA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、汎用ポリフッ化ビニル(PVF)(例えば、DuPont社から商品名TEDLARで販売されるポリフッ化ビニル)など]、またはα-オレフィン系とすることも可能である。
【0045】
前記高分子フィルムは、好ましくはポリウレタン系であり、任意の適切なポリウレタン材料を含む。簡潔性のために、「ポリウレタン」という用語は、本明細書において、ウレタン(カルバメートとしても知られる)結合を、尿素結合との組み合わせで[すなわち、ポリ(ウレタン-尿素)の場合]有する高分子材料を指すために用いられる場合がある。よって、本発明のポリウレタンは、少なくともウレタン結合および任意で尿素結合を有する。多くの市販のポリウレタンが入手可能であり、本発明にかかるポリウレタン系高分子フィルムとしての使用に適している。例えば、entrotech, inc.社(コロンバス,OH)から適当なポリウレタン(商品名:HT1331,HT2312,HT2313)が入手可能である。
【0046】
例示的な実施形態において含まれる、物品の外観を変える添加剤に加えて、前記高分子フィルムには、任意の適切な添加剤が選択的に含まれていてもよい。例えば、安定剤(抗酸化剤、熱安定剤およびUV安定剤等)、架橋剤(アルミニウムまたはメラミン架橋剤等)、バインダー、腐蝕防止剤、可塑剤、光架橋剤、充填剤、および当業者に知られている他の従来的な添加剤を前記高分子フィルムに加えてもよい。所望する場合、前記高分子フィルムに接着促進剤が含まれていてもよい。しかしながら、好適な実施形態において、前記高分子フィルムに含まれる材料は、前記高分子フィルムをその一部に有するラミネートにおいて隣接する任意の層と化学的に適合するように選択される。したがって、本発明の好適な実施形態によると、接着促進剤は必要ではない。
【0047】
前記高分子フィルムは、着色かつ/または金属化されており、用途に応じて実質的に透明、実質的に半透明、または実質的に不透明であってもよい。前記高分子フィルムが、実質的に透明または実質的に半透明でありつつも、着色かつ/または金属化された美観が所望される場合、当該高分子フィルムを含むラミネート内(例えば、高分子フィルムと任意の接着層との間または高分子フィルムと固化中間層との間)に、少なくとも1つの着色および/または金属化された層を設けてもよい。代替的に、他の実施形態において、着色および/または金属化された層を、前記高分子フィルムの向かい側(opposite side)に設けてもよい。または上記ラミネートにおいて、前記高分子フィルムと前記接着層との間に挟まれた少なくとも1つの着色および/または金属化された層との組み合わせとして、着色および/または金属化された層を、前記高分子フィルムの向かい側(opposite side)に設けてもよい。このような実施形態において、前記高分子フィルムが実質的に不透明である場合、通常、前記高分子フィルムが表面に適用されたときに外側から視認できる側にある、前記高分子フィルムの外側表面に対して、着色および/または金属化が施される。本実施形態において、前記高分子フィルムは、当該高分子フィルムを反射性背景として機能させる材料(例えば、二酸化チタン)に含浸させることで、その上に重ねられた色素の色を向上させてもよい。また、前記高分子フィルムが実質的に透明または実質的に透明 である場合、前記高分子フィルムの外側表面に着色および/または金属化を施してもよく、前記着色および/または金属化は、高分子フィルム単体に施してもよいし、前記高分子フィルムを含むラミネートにおける着色および/または金属化された層との組み合わせで行ってもよい。
【0048】
当業者であれば、着色層および金属化層を形成するための材料および方法を熟知 している。前記高分子フィルムが着色かつ/または金属化されている本発明の実施形態において、そうした任意の適切な材料および方法を用いることができる。本発明の高分子フィルムを含むラミネートにおいて2つ以上の着色および/または金属化された層を用いることもできるが、以下においては、単に簡潔性のために、上記のような層を1つとして説明している。なお、着色および/または金属化された層が複数用いられる場合、そうしたラミネートにおける着色および/または金属化された層のそれぞれは同一であっても異なっていてもよい。
【0049】
金属化層が設けられている場合、前記金属化層は任意の適切な材料を含み、この高分子フィルムを含むラミネートが表面に接着されたとき、所望の美観を与える。前記金属化層は、連続層であっても非連続層であってもよい。なお、前記金属化層は本質的にグラフィックスやパターン等からなり、当該層が非連続層および/または非平面層となっていてもよい。
【0050】
一実施形態において、金属化層は、アルミニウムまたは所望の金属もしくはその合金の薄層の化学蒸着または物理蒸着により形成される。前記金属化層の厚さは、任意の適切な厚さである。例示的な実施形態において、前記金属化層の最大厚さは約1,000Åであり、好ましくは約500Å未満である。さらなる実施形態において、前記金属化層の最小厚さは少なくとも約70Åである。
【0051】
着色層が設けられている場合、前記着色層は任意の適切な材料を含み、この高分子フィルムを含むラミネートが表面に接着されたとき、所望の美観を与える。前記着色層は連続層であっても非連続層であってもよい。なお、前記着色層は本質的にグラフィックスやパターン等からなり、当該層が非連続層および/または非平面層となっていてもよい。
【0052】
前記着色層は、通常、この高分子フィルムを含むラミネートまたはその一部に所望の色を与える少なくとも1種類の材料を含む。一実施形態において、前記着色層は染料を含む。他の実施形態において、前記着色層はインクを含む。任意の適切な市販のインクを使用することができる。適切なインクの非限定的な例としては、着色アクリルインク(速乾性の着色アクリルインクを含む)、着色ウレタンインク、エポキシインク、およびウレタンエナメルコーティング[例えば、PRC-Desoto International, Inc.社(PPG Aerospace社の一部門)(グレンデール,CA)製のウレタンエナメルコーティング:商品名DESOTHANE HS]等が挙げられる。
【0053】
前記着色層において、任意の適切な添加剤を選択的に用いてもよい。例えば、安定剤(抗酸化剤、熱安定剤およびUV安定剤等)、架橋剤(アルミニウムまたはメラミン架橋剤等)、腐蝕防止剤、可塑剤、光架橋剤、付加的な着色剤、充填剤、および当業者に知られている他の従来的な添加剤を前記着色層に加えてもよい。所望する場合、前記着色層に接着促進剤が含まれていてもよい。しかしながら、好適な実施形態において、前記着色層に含まれる材料は、前記高分子フィルムを含むラミネートの隣接する任意の層と化学的に適合するように選択される。したがって、本発明の好適な実施形態によると、接着促進剤は必要ではない。
【0054】
好ましくは、前記着色層は、前記高分子フィルムの外側表面、前記高分子フィルムを含むラミネート、またはその内部の界面に移行する傾向があり得る成分を実質的に含んでいない。このような成分は層間剥離を促進させるか、そうでなくとも、隣接する表面または層に対する前記高分子フィルムの接着性に悪影響を与えるおそれがある。また、前記着色層は、前記高分子フィルムの使用時に曝される可能性のある化学物質に対して耐性を有することが好ましい。
【0055】
前記着色層の厚さは、任意の適切な厚さである。例示的な実施形態において、前記着色層の最大厚さは約50ミクロンであり、より好ましくは約25ミクロン未満であり、好ましくは約5ミクロン~約8ミクロンである。
【0056】
好ましくは、前記高分子フィルムは、前記高分子フィルムの外側表面または前記高分子フィルムを含むラミネートにおける界面に移行する傾向があり得る成分を実質的に含んでいない。このような成分は層間剥離を促進させるか、そうでなくとも、隣接する表面または層に対する前記高分子フィルムの接着性に悪影響を与えるおそれがある。また、前記高分子フィルムは、前記高分子フィルムの使用時に曝される可能性のある化学物質に対して耐性を有することが好ましい。例えば、前記高分子フィルムは、水または作動油による劣化に対して耐性を有することが好ましい。さらに、前記高分子フィルムは、当該高分子フィルムの使用時に曝される可能性のある温度に対して耐熱性を有することが好ましい。
【0057】
高分子フィルムの厚さは、任意の適切な厚さである。一実施形態において、前記高分子フィルムの厚さは約10ミクロン~約400ミクロンである。他の実施形態において、前記高分子フィルムの厚さは約10ミクロン~約200ミクロンである。さらに別の実施形態において、前記高分子フィルムの厚さは約10ミクロン~約50ミクロンである。例示的な実施形態において、前記高分子フィルムの厚さは約25ミクロン以下である。比較的薄い高分子フィルムを使用した場合、高分子フィルムの伸張性がより優れたものとなることがわかっている。そうした伸張性により、本発明の高分子フィルムは、曲面または他の非平面を有する物品を被覆するにあたり効果的に使用することができる。
【0058】
前記高分子フィルムを含むラミネートに接着層が設けられている場合、前記接着層は任意の適切な材料を含む。一実施形態によると、前記接着層は、通常、1種類以上の添加剤を含むベースポリマーを含む。前記接着層のベースポリマーは任意の適切な組成とすることができるが、(メタ)アクリレート(つまり、アクリレートおよびメタクリレート)系の組成が好適である。特に、前記ベースポリマーとしては、2-エチルヘキシルアクリレート、ビニルアセテート、およびアクリル酸単量体を当業者に知られている方法で重合したポリマーをベースとする接着剤を使用することができる。しかしながら、当業者には他の適当な化学物質も知られており、例えば、合成および天然ゴム、ポリブタジエンおよびそのコポリマー、ポリイソプレンおよびそのコポリマー、またはシリコーン(ポリジメチルシロキサンおよびポリメチルフェニルシロキサンなど)をベースとするものが挙げられる。好適な実施形態において、前記接着層は感圧性接着剤(PSA)を含む。
【0059】
前記接着層のベースポリマーと組み合わせて、任意の適切な添加剤を選択的に用いてもよい。例えば、安定剤(抗酸化剤、熱安定剤およびUV安定剤等)、架橋剤(アルミニウムまたはメラミン架橋剤等)、腐蝕防止剤、粘着剤、可塑剤、光架橋剤、充填剤、および当業者に知られている他の従来的な接着性添加剤を前記接着層に加えてもよい。所望する場合、前記接着層に接着促進剤が含まれていてもよい。但し、好適な実施形態において、前記接着層に含まれる材料は、前記高分子フィルムと化学的に適合するように選択される。したがって、本発明の好適な実施形態によると、接着促進剤は必要ではない。
【0060】
前記高分子フィルムと同様に、前記接着層は着色かつ/または金属化されており、用途に応じて、また、前記高分子フィルムおよび前記高分子フィルムを含むラミネートにおける着色および/または金属化された任意の層の特性に応じて、実質的に透明、実質的に半透明、または実質的に不透明であってもよい。一実施形態において、前記高分子フィルムが実質的に透明または実質的に半透明である場合、前記高分子フィルムとの界面において前記接着層に対して、着色および/または金属化が施される。本実施形態では、前記接着層は、当該接着層を反射性背景として機能させる材料(例えば、二酸化チタン)に含浸させることで、その上に重ねられた色素の色を引き出してもよい。
【0061】
好ましくは、前記接着層は、前記高分子フィルムの外側表面または前記高分子フィルムを含むラミネートにおける界面に移行する成分を実質的に含んでいない。このような成分は層間剥離を促進させるか、そうでなくとも、隣接する表面または層に対する前記高分子フィルムの接着性に悪影響を与えるおそれがある。また、前記接着層は、前記高分子フィルムの使用時に曝される可能性のある化学物質に対して耐性を有することが好ましい。例えば、前記接着層は、水または作動油による劣化に対して耐性を有することが好ましい。
【0062】
前記接着層の厚さは、任意の適切な厚さである。一実施形態において、前記接着層の厚さは約5ミクロン~約150ミクロンである。さらなる実施形態において、前記接着層の厚さは約30ミクロン~約100ミクロンである。例示的な実施形態において、前記接着層の厚さは約25ミクロン以下である。しかしながら、前記接着層の厚さは、本発明の要旨および範囲から逸脱することなく、実質的に変更可能である。
【0063】
例示的な実施形態において、前記高分子フィルムを含むラミネートは、その全体が参照により本願の一部をなすものとして引用される米国特許出願公開第2008/0286576号(タイトル:“Protective Sheets, Articles, and Methods”)に記載されるような伸縮性を有する多層保護シートである。このようなラミネートの他の例は、その全体が参照により本願の一部をなすものとして引用される米国特許出願公開第2010/0059167号(タイトル:“Paint Replacement Films, Composites Therefrom, and Related Methods”)に記載されている。
【0064】
前記高分子フィルムは、表面に張り付けられるまでの間、任意の剥離ライナーが設けられている場合には、この剥離ライナーが前記接着層に接した状態で保管することができる。このようなライナーの選択および使用は、当業者の知識の範囲内である。有利なことに、本発明にかかる改良された適用方法を採用した場合、前記接着層が接する剥離ライナーのテクスチャは、前記接着層にエア抜きチャネルを与えるようなものでなくてもよい。好適な実施形態において、物品に適用される前記接着層の表面に何らかのランダム配向のテクスチャが存在していてもよいが、前記接着層は、高分子フィルムを含むラミネートが表面に張り付けられるとき、エア抜きチャネルなどの規則的なテクスチャ[例えば、Loparex LLC社(ケーリー,NC)製の構造化剥離ライナー(商品名「POLY SLIKエア剥離ライナー」)にみられるようなテクスチャ]を本質的に有していない。よって、このような好適な実施形態によると、前記ラミネートを適用する前に前記接着層に付着している任意の剥離ライナーは、本質的に平滑である。
【0065】
好ましくは、本質的に平滑な剥離ライナーは、例えば、DIN 4768に準じて測定したプロフィール粗さパラメータ(Ra)の値が約50nm未満である。より好ましくは、本質的に平滑な剥離ライナーは、例えば、DIN 4768に準じて測定したプロフィール粗さパラメータ(Ra)の値が約30nm未満である。さらに好ましくは、本質的に平滑な剥離ライナーは、例えば、DIN 4768に準じて測定したプロフィール粗さパラメータ(Ra)の値が約10nm未満である。
【0066】
当業者であれば、様々な種類の適当な平滑な剥離ライナーを熟知しており、これらのうちの多くは、「光学的に透明な」剥離ライナーとして市販されている。本質的に平滑な例示的な剥離ライナーとしては、Saint-Gobain Performance Plastics Corp社(オーロラ,OH)のNORTON films groupにより販売される剥離ライナー(商品名:OPTILINERおよびSUPRALINER)が挙げられる。
【0067】
高分子フィルムは、本発明の方法に従って様々な物品に適用して、アセンブリを形成することができる。物品に適用されたとき、前記高分子フィルムおよび前記物品の少なくとも1つの外側表面は、その間に重合性組成物を介在させた状態で接触し、アセンブリを形成している。
【0068】
[中間層]
「中間層」という用語を用いることにより、このような層は、前記高分子フィルムまたは高分子フィルムを含むラミネートと、得られる物品の下地表面と、の間に配置され、前記前記高分子フィルムは、本発明の方法に従って適用された後の状態であるとして理解されたい。した後、ただし、前記高分子フィルムまたは高分子フィルムを含むラミネートを下地表面に適用する前においては、「中間層」という用語 は、周囲の構造がない状態の材料層を指す際にも用いられる。この場合、中間層は外部に露出しており、前記高分子フィルムと、前記高分子フィルムアセンブリが接触する物品の下地表面との間に挟まれていない。本発明によると、中間層には任意の適切な材料を用いることができる。
【0069】
下地表面に適用する前においては、固化中間層は完全に重合されていても、部分的に重合されていても、または実質的に未重合であってもよいと理解されたい。好ましくは、加熱後、得られる軟化中間層は、この軟化中間層が繊維複合材表面によくみられる空隙および欠陥を覆ってかつその内部へと流動できるように、比較的低い粘度を有する。このような流動により、得られる物品の表面はより平滑なものとなり、この表面が有する視認可能な欠陥が少なくなる。前記軟化中間層は、室温または加熱時に測定されたとき、所望の粘度を発現してもよい。本明細書に記載される粘度測定は、粘度を低下させる溶媒を用いずに、非運動性形態(neat form)(すなわち、100%不揮発性 )の前記中間層に対して行われる。粘度は、当業者にとっての周知の手法で測定可能であり、例えば、Cole-Parmer社(ヴァーノンヒルズ,IL)製のブルックフィールド回転粘度計を用いて測定してもよい。
【0070】
本発明によると、前記中間層は、軟化中間層となるまで加熱された後にのみ、所望の粘度を示す。本実施形態の例示的な態様によると、前記中間層のブルックフィールド粘度は、軟化中間層となるまで加熱された後、約10,000cP未満である。他の実施形態において、前記中間層のブルックフィールド粘度は、軟化中間層となるまで加熱された後、約5,000cP未満である。さらに別の実施形態において、前記中間層のブルックフィールド粘度は、軟化中間層となるまで加熱された後、約2,000cP未満である。さらに別の実施形態において、前記中間層のブルックフィールド粘度は、軟化中間層となるまで加熱された後、約1,500cP未満である。例示的な実施形態において、前記中間層のブルックフィールド粘度は、軟化中間層となるまで加熱された後、約50cP~約1,500cPである。他の例示的な実施形態において、前記中間層のブルックフィールド粘度は、軟化中間層となるまで加熱された後、約400cP~約1,500cPである。
【0071】
本発明の方法によると、前記中間層には任意の適切な組成物およびこの組成物を固化する方法を用いることができる。前記中間層は、熱可塑性または熱硬化性ポリマーを含んでいてもよい。熱可塑性樹脂として、以下の樹脂が例示される:ポリアミド樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、AS樹脂、メタクリレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、およびフッ素樹脂。組成は変更可能であるが、エポキシ系、(メタ)アクリレート系およびウレタン系組成物が特に適しており、多くの用途に好適である。
【0072】
一実施形態において、前記軟化中間層は、フリーラジカル重合法または同様の重合方法を用いて重合可能である。本実施形態によると、前記軟化中間層および(当該軟化中間層を得るに当たり)前もって固化された前記中間層は、少なくとも1種類の単量体(例えば、ビニルまたは(メタ)アクリレート)を含む。前記少なくとも1種類の単量体は、それ自体と反応可能であり、幾つかのさらなる実施形態においては存在する他の単量体と反応可能である。用いる放射線の種類によって、前記軟化中間層および(当該軟化中間層を得るに当たり)前もって固化された前記中間層に、少なくとも1種類の単量体と共に少なくとも1種類の開始剤が含まれていてもよい。
【0073】
さらに別の実施形態において、前記軟化中間層は、カチオン重合法または同様の重合方法を用いて重合可能である。本実施形態によると、前記軟化中間層および(当該軟化中間層を得るに当たり)前もって固化された前記中間層は、少なくとも1種類の単量体と、少なくとも1種類のカチオン開始剤とを含む。
【0074】
紫外線重合、電子線重合、または熱重合に基づく重合性の系を用いることができる。このような系としては、例えば、一液型および二液型エポキシ樹脂である。原料 エポキシ樹脂として、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂を単独または組み合わせとして用いることができる。最も一般的なエポキシ樹脂の種類は、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルおよびエポキシノボラック (クレゾールノボラック、フェノールノボラック、またはビスフェノールAノボラックのグリシジルエーテル)をベースとするものである。一実施形態において、本発明は、ビスフェノールFのジグリシジルエーテルをベースとするエポキシ樹脂などの低粘度エポキシ樹脂を使用するものである。ビスフェノールAのジグリシジルエーテルをベースとする典型的なエポキシ樹脂[Resolution Performance Products社(ヒューストン,TX)製のEPON 826]と比較すると、本発明の例示的な低粘度エポキシ樹脂(Resolution Performance Products社製のEPON 862およびEPON 863)は、ビスフェノールFのジグリシジルエーテルをベースとするものであって、25℃で試験されたときの粘度が、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルをベースとする典型的なエポキシ樹脂では 6.5~9.6Pa・s(65~96P)であるのに対し、ビスフェノールFのジグリシジルエーテルをベースとするエポキシ樹脂の粘度は2.5~4.5Pa・s(25~45P)であると報告されている。ビスフェノールF由来のエポキシ樹脂の他の例としては、CVC Specialty Chemicals, Inc.社(ムーアズタウン,NJ)製のEPALLOY 8230である。報告されているEPALLOY 8230エポキシ樹脂の粘度は、2.5~4.7Pa・s(2,500~4,700cP)である。
【0075】
一般的に、熱硬化性樹脂が使用される場合、当該樹脂を最終的に硬化させるために硬化剤が必要であるが、これについては、任意の適切な硬化剤を用いることができる。当業者に知られているように、異なる硬化剤は、使用されたときに様々な効果を与える。例えば、エポキシ系において、脂肪族アミン硬化剤は室温での硬化を可能とし、芳香族アミン硬化剤は最適な耐薬品性を与え、最終的な部品により高い剛性を与える。他の例として、酸無水物硬化剤は、より優れた電気的特性を与えることができる。ただし、前記硬化剤は、周知の要素のうち、所望する硬化条件および用途に応じて選択されると理解されたい。例示的な実施形態において、約120℃(250°F)に加熱されたときに、約45~約60分間で樹脂組成物の硬化を促進する少なくとも1種類の硬化剤が使用される。
【0076】
エポキシ樹脂の硬化に有用な硬化剤の例示的な種類としては、変性脂肪族アミン硬化剤であり、例えば、Air Products and Chemicals, Inc.社(アレンタウン,PA)から商品名ANCAMINEとして入手可能である。この種類の中でも、ANCAMINE 2441硬化剤は、本発明にかかる例示的な樹脂に特に有用である。
【0077】
他の硬化剤の種類としてはジシアンジアミド類が挙げられ、任意で、一般的な促進剤と共に使用してもよい。1つの有用な組み合わせとしては、例えば、OMICURE DDA 5と、ウルトラミクロ化等級のジシアンジアミドと、OMICURE U-52と、エポキシのジシアンジアミド硬化用の促進剤として使用される芳香族置換尿素との組み合わせ[どちらも CVC Specialty Chemicals, Inc.社(ムーアズタウン,NJ)製]が挙げられる。他の有用な組み合わせとしては、AMICURE CG-1400と、ミクロ化等級のジシアンジアミドと、AMICURE URと、ジシアンジアミド硬化エポキシ樹脂用の置換尿素系促進剤(1-フェニル-3,3-ジメチル尿素)との組み合わせ[どちらもAir Products and Chemicals, Inc.社(アレンタウン,PA)製]が挙げられる。
【0078】
本発明の樹脂組成物に使用される前記硬化剤の量は、任意の適切な量である。一般的に、特定の種類の硬化剤を選択した後に使用量の計算を行うことは、当業者にとって周知である。
【0079】
一液型の系の他の実施形態において、前記高分子フィルムが下地の繊維複合材表面と接触した後、熱放射を用いて前記軟化中間層の重合が開始される。本発明の一態様によると、熱放射は、下地の繊維複合材表面を加熱することにより加えられる。本発明の他の態様によると、熱放射は、前記高分子フィルムアセンブリおよび下地の繊維複合材表面の両方を加熱することにより加えられる。本実施形態の例示的な態様によると、熱放射を用いて重合が 開始されると、潜在硬化剤が活性化し、またはブロックされていた 反応性成分(例えば、ブロック化イソシアネート)のブロックが解除される。
【0080】
中間層の種類および量は、適用手段および得られる物品に所望される特性に応じて選択される。前記高分子フィルムを含むラミネートにおける、下地表面と接触する面に接着層が存在するラミネート形状において、適用される中間層の量は、下地表面に存在する欠陥を補整 し空隙を埋めるために十分な程度まで抑えることができる。主な関心が捕捉された気泡を除去することである(例えば、自動車産業において用いられる)クラスA型の表面の場合、少量の中間層しか要しない。特定の実施形態では、1~5g/m2(gsm)の中間層で十分である。
【0081】
接着層が存在しない代替的な実施形態において、多くの場合、前記高分子フィルムまたは前記高分子フィルムを含むラミネートと、その下にある下地との間における中間層(および得られる固化中間層)の最小厚さを維持することが好ましい。当該実施形態の一態様によると、前記中間層は、得られる固化中間層の厚さが約5~約100ミクロン、好ましくは約25~約50ミクロンとなるように選択される。所望する場合、この最小厚さの維持を補助するために、任意の充填剤材料を用いてもよい。例示的な充填剤としては、積水化成品工業株式会社製の25~50ミクロンのポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子(商品名:TECHPOLYMER)である。
【0082】
前記軟化中間層を適切に固化するために要する時間の長さは様々である。好ましくは、前記軟化中間層が下地表面と接触してから約10分以内、より好ましくは約5分以内、さらに好ましくは約1分以内に、前記中間層は(所望する場合、組成物全体が完全に重合されていなかったとしても、十分に高い粘度を有することにより、下地表面に対する適切な接着性が得られる ように)固化中間層に戻る。前記中間層は、適用および処理の段階に応じて、粘弾性流体、粘弾性固体、または弾性固体と関連する特性を発現することができる。例示的な実施形態において、前記固化中間層の室温におけるブルックフィールド粘度は、約20,000cPよりも高い。
【0083】
例示的な実施形態の他の態様によると、下記の損失係数試験法に従って単体フィルムとして検査した場合、固化中間層は、そのピーク損失係数が約1.0未満である。損失係数は、多くの場合、「タンデルタ」という用語と互換可能に用いられ、この用語は、 本明細書に記載される「損失係数」についても本質的に同じであると理解されたい。
【0084】
損失係数試験法に準じて、TA Instruments社(ニューカッスル,DE)製の動的機械分析装置(商品名:TA Instruments DMA Q800)を用いて、当該試験を引張モードで行った。公称試料サイズとして、長さ5~12mm、幅4~8mm、厚さ0.02~0.2mmを使用した。周波数1Hz、歪0.3%、および傾斜率3℃/分を使用して、試料の損失係数を決定するための値を測定した。この損失係数は、当該組成物の損失弾性率よりも大きい貯蔵弾性率に相当する。貯蔵弾性率は、上記の損失係数試験法で述べた動的機械分析装置を用いて試験することができる。
【0085】
当業者にとって、添付の請求の範囲に定められる本発明の要旨および範囲から逸脱することなく、本発明の様々な変更や調整を行うことが明らかであろう。なお、下記の方法の請求項に記載されたステップは、必ずしも記載されている順番で行われなくてもよい。当業者であれば、それらのステップを実施するにあたり、記載されている順番とは異なる変形例を認識できるであろう。また、構成、ステップ、または要素についての言及または記載がされていないことは、条件や請求項における同様の文言により、当該記載のない構成または要素が除外された請求項の基礎を提供する。さらに、全体を通して、範囲は、その範囲内の全ての値を表す省略表現として用いることができる。その範囲内の任意の値を、当該範囲の境界値として選択することが可能である。同様に、その範囲内の任意の個別の値は、本発明の構成を説明し本発明の範囲を定めるにあたり記載されている最小または最大値として選択することが可能である。また、本明細書で検討したように、本明細書に記載の重合性組成物は、1つまたは複数の部分に全ての成分を含んでいてもよいという点に留意されたい。当業者であれば、他の変形例にも想到することができる。
なお、本発明は実施の態様として以下の内容を含む。
[態様1]
物品の表面の少なくとも一部に高分子フィルムを適用する方法であって、
前記高分子フィルムまたは前記高分子フィルムを含むラミネートを用意するステップと、
前記高分子フィルムの表面または前記高分子フィルムを含むラミネートの表面に第1の固化中間層を適用して、前記物品の前記表面の前記一部と接触する高分子フィルムアセンブリを形成するステップと、
前記第1の固化中間層を前記物品の前記表面に接触させることにより、前記物品の前記表面の少なくとも一部に前記高分子フィルムアセンブリを適用することで、前記第1の固化中間層の少なくとも一部を、前記高分子フィルムと前記物品の前記表面との間に配置された軟化中間層とするステップと、
前記軟化中間層を第2の固化中間層に変化させるステップであって、前記第2の固化中間層は、前記高分子フィルムを前記物品の前記表面の前記少なくとも一部に接着するために最初に設けられた前記第1の固化中間層と異なる形態または同一の形態である、ステップと、
を含む方法。
[態様2]
態様1に記載の方法において、前記高分子フィルムがポリウレタン系である方法。
[態様3]
態様1に記載の方法において、前記物品の前記表面の前記一部が繊維複合材表面である方法。
[態様4]
態様1に記載の方法において、前記軟化中間層のブルックフィールド粘度は、約10,000cP未満である方法。
[態様5]
態様1に記載の方法において、前記軟化中間層のブルックフィールド粘度は、約5,000cP未満である方法。
[態様6]
態様1に記載の方法において、前記軟化中間層のブルックフィールド粘度は、約2,000cP未満である方法。
[態様7]
態様1に記載の方法において、前記軟化中間層のブルックフィールド粘度は、約1,500cP未満である方法。
[態様8]
態様1に記載の方法において、前記軟化中間層のブルックフィールド粘度は、約50cP~約1,500cPである方法。
[態様9]
態様1に記載の方法において、前記第1の固化中間層のブルックフィールド粘度は、約20,000cPよりも高い方法。
[態様10]
態様1に記載の方法において、前記第2の固化中間層のブルックフィールド粘度は、約20,000cPよりも高い方法。
[態様11]
態様1に記載の方法において、前記高分子フィルムまたは前記高分子フィルムを含むラミネートは、少なくとも部分的に着色され、かつ/または少なくとも部分的に金属化されている方法。
[態様12]
態様1に記載の方法において、前記第2の固化中間層の実質的な部分を下地となる前記物品に残しつつ、下地となる前記物品の前記表面の前記一部から、前記高分子フィルムを、および存在する場合は前記高分子フィルムを一部に含むラミネートを、分離するステップをさらに含む方法。
[態様13]
態様12に記載の方法において、第2の高分子フィルムまたは前記第2の高分子フィルムを含む第2のラミネートを、下地となる前記物品の前記表面の前記少なくとも一部に適用するステップをさらに含む方法。
[態様14]
態様1に記載の方法において、前記物品は、モータ付き乗り物を含む方法。
[態様15]
態様1に記載の方法により調製された物品であって、
前記物品において外側に露出した前記高分子フィルムまたは前記高分子フィルムを含むラミネートと、
前記第2の固化中間層と、
下地となる前記物品の前記表面と、
がこの順に配設される物品。
[態様16]
態様15に記載の物品において、前記第2の固化中間層の室温におけるブルックフィールド粘度は、約20,000cPよりも高い物品。
[態様17]
態様15に記載の物品において、前記高分子フィルムは、前記物品において外側に露出している物品。
[態様18]
態様15に記載の物品において、前記第2の固化中間層のピーク損失係数は、約1.0未満である物品。
[態様19]
態様15に記載の物品において、前記物品は、モータ付き乗り物を含む物品。
[態様20]
態様13に記載の方法により調製された物品であって、
前記物品において外側に露出した前記第2の高分子フィルムまたは前記第2の高分子フィルムを含む第2のラミネートと、
前記第2の固化中間層と、
下地となる前記物品の前記表面と、
がこの順に配設される物品。